JP4998658B2 - 合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法 - Google Patents

合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法 Download PDF

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Description

本発明は、高強度合金化溶融亜鉛めっき鋼板などの成形荷重が高く型かじりを生じやすい材料においても優れたプレス成形性を有する合金化溶融亜鉛めっき鋼板を安定的に製造する製造方法に関するものである。
合金化溶融亜鉛めっき鋼板は亜鉛めっき鋼板と比較して溶接性および塗装性に優れることから、自動車車体用途を中心に広範な分野で広く利用されている。そのような用途での合金化溶融亜鉛めっき鋼板は、プレス成形を施されて使用に供される。しかし、合金化溶融亜鉛めっき鋼板は、冷延鋼板に比べてプレス成形性が劣るという欠点を有する。これはプレス金型での合金化溶融めっき鋼板の摺動抵抗が冷延鋼板に比べて大きいことが原因である。すなわち、金型とビードでの摺動抵抗が大きい部分で合金化溶融亜鉛めっき鋼板がプレス金型に流入しにくくなり、鋼板の破断が起こりやすい。
合金化溶融亜鉛めっき鋼板は、鋼板に亜鉛めっきを施した後、加熱処理を行い、鋼板中のFeとめっき層中のZnが拡散する合金化反応が生じることにより、Fe−Zn合金相を形成させたものである。このFe−Zn合金相は、通常、Γ相、δ1相、ζ相からなる皮膜であり、Fe濃度が低くなるに従い、すなわち、Γ相→δ1相→ζ相の順で、硬度ならびに融点が低下する傾向がある。このため、摺動性の観点からは、高硬度で、融点が高く凝着の起こりにくい高Fe濃度の皮膜が有効であり、プレス成形性を重視する合金化溶融亜鉛めっき鋼板は、皮膜中の平均Fe濃度を高めに製造されている。
しかしながら、高Fe濃度の皮膜では、めっき−鋼板界面に硬くて脆いΓ相が形成されやすく、加工時に、界面から剥離する現象、いわゆるパウダリングが生じ易い問題を有している。このため、特許文献1に示されているように、摺動性と耐パウダリング性を両立するために、上層に第二層として硬質のFe系合金を電気めっきなどの手法により付与する方法がとられている。
亜鉛系めっき鋼板使用時のプレス成形性を向上させる方法としては、この他に、高粘度の潤滑油を塗布する方法が広く用いられている。しかし、この方法では、潤滑油の高粘性のために塗装工程で脱脂不良による塗装欠陥が発生したり、また、プレス時の油切れにより、プレス性能が不安定になる等の問題がある。従って、合金化溶融亜鉛めっき鋼板自身のプレス成形性が改善されることが強く要請されている。
上記の問題を解決する方法として、特許文献2および特許文献3には、亜鉛系めっき鋼板の表面に電解処理、浸漬処理、塗布酸化処理、または加熱処理を施すことにより、ZnOを主体とする酸化膜を形成させて溶接性、または加工性を向上させる技術を開示している。
特許文献4は、亜鉛系めっき鋼板の表面に、リン酸ナトリウム5〜60 g/lを含みpH2〜6の水溶液にめっき鋼板を浸漬するか、電解処理を行う、または、上記水溶液を塗布することにより、P酸化物を主体とした酸化膜を形成して、プレス成形性及び化成処理性を向上させる技術を開示している。
特許文献5は、亜鉛系めっき鋼板の表面に電解処理、浸漬処理、塗布処理、塗布酸化処理、または加熱処理により、Ni酸化物を生成させることにより、プレス成形性および化成処理性を向上させる技術を開示している。
しかしながら、上記の先行技術を合金化溶融亜鉛めっき鋼板に適用した場合、プレス成形性の改善効果を安定して得ることはできない。本発明者らは、その原因について詳細な検討を行った結果、合金化溶融亜鉛めっき鋼板はAl酸化物が存在することにより、表面の反応性が劣ること、及び表面の凹凸が大きいことがプレス成形性の改善効果を安定して得ることができない原因であることを見出した。即ち、先行技術を合金化溶融めっき鋼板に適用した場合、表面の反応性が低いため、電解処理、浸漬処理、塗布酸化処理及び加熱処理等を行っても、所定の皮膜を表面に形成することは困難であり、反応性の低い部分、すなわち、Al酸化物量が多い部分では膜厚が薄くなってしまう。また、表面の凹凸が大きいため、プレス成型時にプレス金型と直接接触するのは表面の凸部となるが、凸部のうち膜厚の薄い部分と金型との接触部での摺動抵抗が大きくなり、プレス成形性の改善効果が十分には得られない。
そこで、本発明者らが上記の問題点を改善すべく、研究した結果、下記の知見を得、特許出願した(特許文献6)。
すなわち、合金化溶融亜鉛めっき鋼板表面の平坦部は、周囲と比較すると凸部として存在する。プレス成形時に実際にプレス金型と接触するのは、この平坦部が主体となるため、この平坦部における摺動抵抗を小さくすれば、プレス成形性を安定して改善することができる。この平坦部における摺動抵抗を小さくするには、めっき層と金型との凝着を防ぐのが有効であり、そのためには、めっき層の表面に、硬質かつ高融点の皮膜を形成することが有効である。この観点から検討を進めた結果、平坦部表層の酸化物層厚さを制御することが有効であり、こうして平坦部表層の酸化物層厚さを制御すると、めっき層と金型の凝着が生じず、良好な摺動性を示すことを見出した。また、このような酸化物層厚さの形成には、酸性溶液と接触させてめっき表層に酸化物層を形成する方法が有効なことが明らかになった。
そして、以上の知見を基に、特許文献6に係る発明は、鋼板に溶融亜鉛めっき後、加熱処理により合金化し、さらに調質圧延を施し、鉄−亜鉛合金めっき表面に平坦部を形成した後に、酸性溶液と接触させ、1〜30秒保持し、水洗することで、めっき表層に酸化物層を形成することを特徴とする合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法である。
特開平1−319661号公報 特開昭53−60332号公報 特開平2−190483号公報 特開平4−88196号公報 特開平3−191093号公報 特願2002−116026公報
上記特許文献6において、より詳細な検討を進めるうちに、自動車外板に多く使用される比較的強度の低い合金化溶融亜鉛めっき鋼板に対しては有効であるが、プレス成形時の荷重が高いがゆえに金型との接触面圧が上昇する高強度合金化溶融亜鉛めっき鋼板の場合には、必ずしも良好なプレス成形性が得られないことが分かった。
そこで、本発明は上記の問題点を改善し、高強度合金化溶融亜鉛めっき鋼板などの成形荷重が高く型かじりを生じやすい材料においても優れたプレス成形性を有する合金化溶融亜鉛めっき鋼板を安定的に製造する製造方法を提供することを目的とする。
本発明者らは、上記の課題を解決すべく、さらに鋭意研究を重ねた。その結果、特許文献6の方法により製造される合金化溶融亜鉛めっき鋼板表面には、Znを主体とする酸化物層が形成されており、特許文献6において、接触面圧が低い場合には酸化物層の破壊が生じず金型とめっき層表面の直接接触を抑制するのに対して、接触面圧が上昇するにつれて酸化物層が破壊され、金型とめっき層表面の直接接触が生じ始めることがわかった。そして、このような酸化物層の破壊を抑制するためには、より高硬度の酸化物を酸化物層に含有させることが有効であり、Alイオンを含有した処理液を用いて処理を行い、Al系酸化物を酸化物層に含有させることが効果的であることを知見した。
本発明は、以上の知見に基づいてなされたものであり、その要旨は以下の通りである。
[1]鋼板に溶融亜鉛めっきを施し、さらに加熱処理により合金化し、調質圧延を施した
後、酸性溶液に接触させ、保持し、水洗・乾燥を行うことによりめっき表面に酸化物層を
形成する合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法において、前記酸性溶液中にAlイオンを含有し、酸性溶液として、pH緩衝作用を有し、かつ、1リットルの酸性溶液のpHを2.0から5.0まで上昇させるのに必要な1.0mol/l水酸化ナトリウム溶液の量(l)で定義するpH上昇度が0.05〜0.5の範囲にある酸性溶液を用いることを特徴とする合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
[2]前記[1]において、前記酸性溶液中に、Alの硫酸塩、硝酸塩、塩化物のうち、少な
くとも1種類以上を、Alイオン濃度として0.1〜50g/lの範囲で含有することを特徴とする
合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
[3]前記[1]または[2]において、前記酸性溶液として、酢酸塩、フタル酸塩、クエ
ン酸塩、コハク酸塩、乳酸塩、酒石酸塩、ホウ酸塩、リン酸塩のうち、少なくとも1種類
以上を、前記各成分含有量5〜50g/lの範囲で含有し、pHが0.5〜2.0、液温が20〜70℃の範囲にある酸性溶液を用いることを特徴とする合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
[4]前記[1]〜[3]のいずれかにおいて、前記酸性溶液に接触させた後、鋼板表面に
形成する酸性溶液膜が3g/m2以下であり、かつ液膜が形成された状態での保持時間が1〜30秒の範囲であることを特徴とする合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
本発明によれば、成形荷重が高く型かじりを生じやすい高強度合金化溶融亜鉛めっき鋼板においても、プレス成形時の摺動抵抗が小さく優れたプレス成形性を有する合金化溶融亜鉛めっき鋼板を安定して製造できる。
合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造の際には、鋼板に溶融亜鉛めっきを施した後に、さらに加熱し合金化処理が施されるが、この合金化処理時の鋼板−めっき界面の反応性の差により、合金化溶融亜鉛めっき鋼板表面には凹凸が存在する。しかしながら、合金化処理後には、通常、材質確保のために調質圧延が施され、この調質圧延時のロールとの接触により、めっき表面は平滑化され凹凸が緩和される。従って、プレス成型時には、金型がめっき表面の凸部を押しつぶすのに必要な力が低下し、摺動特性を向上させることができる。
合金化溶融亜鉛めっき鋼板表面の平坦部は、プレス成形時に金型が直接接触する部分であるため、金型との凝着を防止する硬質かつ高融点の物質が存在することが、摺動性の向上には重要である。この点では、表層に酸化物層を存在させることは、酸化物層が金型との凝着を防止するため、摺動特性の向上に有効である。
実際のプレス成形時には、表層の酸化物は摩耗し、削り取られるため、金型と被加工材の接触面積が大きい場合には、十分に厚い酸化物層の存在が必要である。また、めっき表面には合金化処理時の加熱により酸化物層が形成されているものの、調質圧延時のロールとの接触により大部分が破壊され、新生面が露出しているため、良好な摺動性を得るためには調質圧延以前に厚い酸化物層を形成しなければならない。しかし、これらを考慮に入れて、調質圧延前に厚い酸化物層を形成させたとしても、調質圧延時に生じる酸化物層の破壊を避けることはできないため、めっき表面の平坦部の酸化物層が不均一に存在し、良好な摺動性を安定して得ることはできない。
以上より、調質圧延が施された合金化溶融亜鉛めっき鋼板、特にめっき表面平坦部に、均一に酸化物層を形成する処理を施すと良好な摺動性を安定的に得ることになる。
そして、調質圧延後の合金化溶融亜鉛めっき鋼板を酸性溶液と接触させ、その後、鋼板表面に酸性溶液の液膜が形成された状態で所定時間保持した後、水洗、乾燥することによってめっき表層に酸化物層を形成することができるが、この際形成される酸化物はZnを主体とする酸化物であることから、プレス成形時の金型との接触面圧が高い場合には、酸化膜厚を厚くしても金型との接触時に容易に破壊され、良好な摺動特性が得られない。これに対し、Alを含有する酸性溶液を使用すると、ZnとAlを含有する酸化物層を形成でき、このようにして形成された酸化物層は金型との接触面圧が高い場合においても容易に破壊されず金型とめっき表面の直接接触を抑制する。その結果、成形荷重が高く型かじりを生じやすい高強度合金化溶融亜鉛めっき鋼板においても、良好なプレス成形性を示すことになる。
この酸化物層形成メカニズムについては明確ではないが、次のように考えることができる。合金化溶融亜鉛めっき鋼板を酸性溶液に接触させると、鋼板側からは亜鉛の溶解が生じる。この亜鉛の溶解は、同時に水素発生反応を生じるため、亜鉛の溶解が進行すると、酸性溶液中の水素イオン濃度が減少し、その結果酸性溶液のpHが上昇し、酸化物(水酸化物)が安定となるpH領域に到達すると、合金化溶融亜鉛めっき鋼板表面に酸化物層を形成すると考えられる。この際に、Alを含有する酸性溶液を使用すると、Al系酸化物の形成反応がZnよりも低いpH領域において生じ、その後さらにpHが上昇するとZn系酸化物の形成反応が生じるため、ZnとAlの酸化物を同時に形成することができると考えられる。
また、このような酸化物の形成方法は、めっき表面をわずかに溶解させながら進行するものであるため、酸化物を分散させた溶媒を用いた塗布処理などにより得られる層と比較して密着性も良好であり、水酸化物の沈殿反応を利用したものであるため、加熱処理などにより表面を完全被覆することで得られる皮膜と比較すると、厚い皮膜を形成できる。
酸性溶液中にAlイオンを含有させるためには、Alの硫酸塩、硝酸塩、塩化物のうち、少なくとも1種類以上を含有し、かつ、Alイオン濃度の範囲が0.1〜50g/lであることが好ましい。Alイオン濃度が0.1g/l未満であると、形成されるAl系酸化物が少量でありZnが中心となる酸化物層となるため、面圧上昇時のプレス成形性改善効果が十分でない。一方、50g/lを超えると、形成されるAl系酸化物の割合が多く、摺動特性の改善には有効であるが、これらAl系酸化物は合金化溶融亜鉛めっき鋼板を対象に設計された接着剤との適合性を劣化させる傾向がある。
使用する酸性溶液は、pH2.0〜5.0の領域においてpH緩衝作用を有するものが好ましい。これは、前記pH範囲でpH緩衝作用を有する酸性溶液を使用すると、酸性溶液に接触後、所定時間保持することで、酸性溶液とめっき層の反応によりZnの溶解とZn系酸化物の形成が十分に生じ、平坦部表面に10nm以上の酸化物層を安定して得ることができるためである。また、このようなpH緩衝作用の指標として、1リットルの酸性溶液のpHを2.0から5.0まで上昇させるのに要する1.0mol/l水酸化ナトリウム水溶液の量(l)で定義するpH上昇度で評価でき、この値が0.05〜0.5の範囲にあるとよい。pH上昇度が、0.05未満であると、pHの上昇が速やかに起こって酸化物層の形成に十分な亜鉛の溶解が得られないため、十分な酸化物層の形成が生じず、一方、0.5を超えると、亜鉛の溶解が促進され、酸化物層の形成に長時間を有するだけでなく、めっき層の損傷も激しく、本来の防錆鋼板としての役割も失うことが考えられるためである。ここで、pHが2.0を超える酸性溶液のpH上昇度は、酸性溶液に硫酸等のpH2.0〜5.0の範囲でほとんどpH緩衝性を有しない無機酸を添加してpHを一旦2.0に低下させて評価することとする。
このようなpH緩衝作用を有する酸性溶液としては、酢酸ナトリウム(CH3COONa)などの酢酸塩、フタル酸水素カリウム((KOOC)2C6H4)などのフタル酸塩、クエン酸ナトリウム(Na3C6H5O7)やクエン酸二水素カリウム(KH2C6H5O7)などのクエン酸塩、コハク酸ナトリウム(Na2C4H4O4)などのコハク酸塩、乳酸ナトリウム(NaCH3CHOHCO2)などの乳酸塩、酒石酸ナトリウム(Na2C4H4O6)などの酒石酸塩、ホウ酸塩、リン酸塩のうち少なくとも1種類以上を、前記各成分含有量を5〜50g/lの範囲で含有する水溶液を使用することができる。前記濃度が5g/l未満であると、亜鉛の溶解とともに溶液のpH上昇が比較的すばやく生じるため、摺動性の向上に十分な酸化物層を形成することができず、また50g/lを超えると、亜鉛の溶解が促進され、酸化物層の形成に長時間を有するだけでなく、めっき層の損傷も激しく、本来の防錆鋼板としての役割も失うことが考えられるためである。
これら使用する酸性溶液のpHは0.5〜2.0の範囲にあることが好ましい。これは、pHが2.0を超えると、溶液中でAlイオンの沈殿(水酸化物の形成)が生じ、酸化皮膜中にAl系酸化物が取り込まれなくなるためである。一方、pHが低すぎると、亜鉛の溶解が促進され、めっき付着量の減少だけでなく、めっき皮膜に亀裂が生じ加工時に剥離が生じやすくなるため、pH0.5以上であることが望ましい。なお、酸性溶液のpHが0.5〜2.0の範囲より高い場合は硫酸等のpH緩衝性のない無機酸や、使用する塩の酸溶液、たとえば酢酸やフタル酸、クエン酸等でpHを調整することができる。
酸性溶液の温度については、20〜70℃の範囲にあることが好ましい。そして、前述したように、酸化物層の形成反応は、酸性溶液への接触後、所定時間保持する際に生じるため、保持時の板温を20〜70℃の範囲に制御することも有効である。これは、20℃未満であると、酸化物層の生成反応に長時間を有し、生産性の低下を招くためである。一方、温度が高い場合には、反応は比較的すばやく進行するが、逆に鋼板表面に処理ムラを発生しやすくなるため、70℃以下の温度に制御することが望ましい。なお、前述したpH上昇度は、溶液の温度によりわずかに変化するが、処理を行う温度でのpH上昇度が、前述した範囲内にあれば本発明の効果は十分に得られるものである。
なお、本発明では、使用する酸性溶液中にAlイオンを含有していれば、摺動性に優れた酸化物層を安定して形成できるため、酸性溶液中にその他の金属イオンや無機化合物などを不純物として、あるいは故意に含有していても本発明の効果が損なわれるものではない。特に、Znイオンは、鋼板と酸性溶液が接触した際に溶出するイオンであるため、操業中に酸性溶液中でZn濃度の増加が認められるが、このZnイオン濃度の大小は本発明の効果には特に影響を及ぼさない。
合金化溶融亜鉛めっき鋼板を酸性溶液に接触させる方法には特に制限はなく、めっき鋼板を酸性溶液に浸漬する方法、めっき鋼板に酸性溶液をスプレーする方法、塗布ロールを介して酸性溶液をめっき鋼板に塗布する方法等があるが、最終的に薄い液膜状で鋼板表面に存在することが望ましい。これは、鋼板表面に存在する酸性溶液の量が多いと、亜鉛の溶解が生じても溶液のpHが上昇せず、次々と亜鉛の溶解が生じるのみであり、酸化物層を形成するまでに長時間を有するだけでなく、めっき層の損傷も激しく、本来の防錆鋼板としての役割も失うことが考えられるためである。この観点から、鋼板表面に形成する溶液膜の量は、3g/m2以下に調整することが好ましく有効であり、溶液膜量の調整は、絞りロール、エアワイピング等で行うことができる。
また、酸性溶液に接触後、水洗までの時間(水洗までの保持時間)は、1〜30秒間必要である。これは、水洗までの時間が1秒未満であると、溶液のpHが上昇しAlを含有する酸化物層が形成される前に、酸性溶液が洗い流されるため、摺動性の向上効果が得られず、また30秒を超えても、酸化物層の量に変化が見られないためである。また、保持する際の板温は上述した通りである。
上記のように酸性溶液に接触させて酸化物層を形成する前に、アルカリ性溶液に接触させ活性化処理を行うとより効果的である。これは、調質圧延時のロールとの接触により表層酸化物は破壊されているものの一部残存しており、表面の反応性が不均一なためである。この観点から、表層に残存した酸化物層をできるかぎり除去することは重要である。その手法としてアルカリ性溶液に接触させることは比較的容易に処理が可能であり、アルカリ性溶液に接触させる方法には特に制限はなく、浸漬あるいはスプレーなどで処理することで効果が得られる。アルカリ性溶液であれば表層に残存した酸化物層をできるかぎり除去し、表面の活性化ができるが、pHが低いと反応が遅く処理に長時間を有するため、アルカリ性溶液のpHは10以上であることが望ましい。上記範囲内のpHであれば溶液の種類に制限はなく、水酸化ナトリウムなどを用いることができる。
また、酸性溶液が水洗、乾燥後の鋼板表面に残存すると、鋼板コイルが長期保管されたときに錆が発生しやすくなる。係る錆発生を防止する観点から、酸性溶液接触後に、アルカリ性溶液に浸漬あるいはアルカリ性溶液をスプレーするなどの方法でアルカリ性溶液と接触させて、鋼板表面に残存している酸性溶液を中和する処理を施してもよい。アルカリ性溶液は、表面に形成されたZn系酸化物の溶解を防止するためpH12以下であることが望ましい。前記pHの範囲内であれば、使用する溶液に制限はなく、水酸化ナトリウム、リン酸ナトリウムなど使用することができる。
なお、本発明における酸化物層とは、ZnとAlを必須として含んだ酸化物及び/又は水酸化物などからなる層のことである。
また、本発明に係る合金化溶融亜鉛めっき鋼板を製造するに関しては、めっき浴中にAlが添加されていることが必要であるが、Al以外の添加元素成分は特に限定されない。すなわち、Alの他に、Pb、Sb、Si、Sn、Mg、Mn、Ni、Ti、Li、Cuなどが含有または添加されていても、本発明の効果が損なわれるものではない。
さらに、酸化処理などに使用する処理液中に不純物が含まれることによりS、N、P、B、Cl、Na、Mn、Ca、Mg、Ba、Sr、Siなどが酸化物層中に取り込まれても、本発明の効果が損なわれるものではない。
次に、本発明を実施例により更に詳細に説明する。
板厚1.0mmの590MPa級の強度を有する冷延鋼板上に、常法の合金化溶融亜鉛めっき皮膜を形成し、更に調質圧延を行った。引き続き、図1に示す構成の処理設備を用いて酸化物層を形成した。
まず、酸性溶液槽2で、pH1.0の酸性溶液に、処理液温度を変化させて合金化溶融亜鉛めっき皮膜を浸漬した後、絞りロール3で鋼板表面に液膜を形成した。この際、絞りロールの圧力を変化させることで液膜量の調整を行った。次いで、洗浄槽5で50℃の温水を鋼板にスプレーし、中和槽6を空通しし、洗浄槽7で50℃の温水を鋼板にスプレーして洗浄し、ドライヤ8で乾燥し、めっき表面に酸化物層を形成した。
酸性溶液槽2で浸漬処理を行う溶液は、pH緩衝剤として酢酸ナトリウム40g/lを含有し、Alイオンを添加する目的で硫酸アルミニウム(無水塩)を所定量添加した溶液を使用し、pHは硫酸を添加することで調整した。 なお、比較のために、上記において、Alイオンを含有しない溶液も使用した。また、上記浸漬処理(酸洗処理)を行わないものも準備した。
なお、前記水洗までの保持時間とは、絞りロール3で液膜量の調整を行い、洗浄槽5で洗浄開始するまでの時間であり、ラインスピードを変化させることで調整するとともに、一部、絞りロール3出側のシャワー水洗装置4を用いて絞り直後に鋼板を洗浄するものも作製した。
上記の他に、中和槽6で前記処理中、pH10のアルカリ性溶液(水酸化ナトリウム水溶液)をスプレーして鋼板表面に残存している酸性溶液を中和処理するものや、酸性溶液に浸漬する前に、活性化槽1でpH12の水酸化ナトリウム水溶液に浸漬し、活性化処理を行うものも作製した。
次に、以上の様に作製した鋼板について、めっき層平坦部の酸化膜厚を測定するとともに、プレス成形性を簡易的に評価する手法として摩擦係数の測定、実際の成形性をより詳細にシミュレートする目的で球頭張出試験を実施した。また、鋼板に防錆油を塗布した後、ほこりなど外部の要因の影響がないように屋外に放置し約6ヵ月後の点錆の発生の有無を調査し、点錆なしを「○」、点錆ありを「×」とした。摩擦係数の測定、球頭張出試験、ならびに酸化膜厚の測定は次のようにして行った。
(1)プレス成形性評価試験(摩擦係数測定試験)
プレス成形性を評価するために、各供試材の摩擦係数を以下のようにして測定した。
図2は、摩擦係数測定装置を示す概略正面図である。同図に示すように、供試材から採取した摩擦係数測定用試料11が試料台12に固定され、試料台12は、水平移動可能なスライドテーブル13の上面に固定されている。スライドテーブル13の下面には、これに接したローラ14を有する上下動可能なスライドテーブル支持台15が設けられ、これを押上げることにより、ビード16による摩擦係数測定用試料11への押付荷重Nを測定するための第1ロードセル17が、スライドテーブル支持台15に取付けられている。上記押付力を作用させた状態でスライドテーブル13を水平方向へ移動させるための摺動抵抗力Fを測定するための第2ロードセル18が、スライドテーブル13の一方の端部に取付けられている。なお、潤滑油として、スギムラ化学社製のプレス用洗浄油プレトンR352Lを摩擦係数測定用試料11の表面に塗布して試験を行った。
図3は使用したビードの形状・寸法を示す概略斜視図である。ビード16の下面が摩擦係数測定用試料11の表面に押し付けられた状態で摺動する。図3に示すビード16の形状は幅10mm、試料の摺動方向長さ12mm、摺動方向両端の下部は曲率4.5mmRの曲面で構成され、試料が押し付けられるビード下面は幅10mm、摺動方向長さ3mmの平面を有する。
摩擦係数の測定に対しては、面圧の上昇による型かじりの影響を調査する目的で、押し付け荷重Nを400kgf(条件1)と2000kgf(条件2)に変化させて行った。なお、試料の引き抜き速度(スライドテーブル13の水平移動速度)は100cm/minとした。これらの条件で、押し付け荷重Nと引き抜き荷重Fを測定し、供試材とビードとの間の摩擦係数μは、式:μ=F/Nで算出した。
(2)球頭張出試験
200×200mmサイズの供試材に対して、150mmφのポンチを使用して、液圧バルジ試験機により張出成形を行い、破断が生じた際の最大成形高さを測定した。この際、材料の流入を阻止する目的で100Tonのしわ押さえ力をかけ、ポンチが接触する面にのみ潤滑油を塗布した。使用した潤滑油は、前述した摩擦係数測定試験と同様のものである。
(3)酸化膜厚の測定
オージェ電子分光(AES)により平坦部の各元素の含有率(at%)を測定し、引き続いて所定の深さまでArスパッタリングした後、AESによりめっき皮膜中の各元素の含有率の測定を行い、これを繰り返すことにより、深さ方向の各元素の組成分布を測定した。酸化物、水酸化物に起因するOの含有率はある深さで最大となった後、減少し一定となる。Oの含有率が、最大値より深い位置で、最大値と一定値との和の1/2となる深さを、酸化物の厚さとした。なお、予備処理として30秒のArスパッタリングを行って、供試材表面のコンタミネーションレイヤーを除去した。
以上より得られた試験結果を表1に示す。
Figure 0004998658
表1に示す試験結果から下記事項が明らかとなった。
(1)No.1は酸性溶液による処理を行っていないため、平坦部に摺動性を向上させるのに十分な酸化膜が形成されず、面圧の低い条件1においても摩擦係数が高い。また、面圧の高い条件2では、さらに摩擦係数が上昇しており、型かじりを生じていた。
(2)No.2〜4は、酸性溶液での処理を行っているもののAlイオンを含まない浴を用いた比較例である。面圧の低い条件1の摩擦係数の改善効果は見られるものの、面圧の高い条件では高い摩擦係数を示している。
(3) No.5〜7は、Alイオンを含有した酸性溶液での処理を行った本発明例であり、条件1に加えて条件2の摩擦係数も低下し、最大成形高さも増加している。また、No.8〜10、14〜16、38〜40は、No.5〜7と同一の処理条件で液中のAlイオン濃度を増加させた本発明例であるが、面圧の高い条件2の摩擦係数が低位安定化し、最大成形高さもさらに増加している。
(4)No.11〜16は、鋼板表面に酸性溶液膜を形成し、水洗を施すまでの時間を変化させた本発明例である。保持なく水洗を行った比較例No.11では、平坦部に摺動性を向上させるのに十分な酸化膜が形成されず、面圧の低い条件1においても摩擦係数が高い。また、面圧の高い条件2では、さらに摩擦係数が上昇している。1秒以上の保持時間となるNo.12〜16は、いずれの条件の摩擦係数ならびに張出性も安定向上している。
(5)No.17〜28は、処理液温度を変化させた例であるが、処理液温度の低いNo.17〜19は、それ以外の例と比較して、摩擦係数および最大成形高さの向上効果がやや劣る。一方、No.26〜28は、処理液温度の高い例であり、摩擦係数や最大成形高さの向上効果は十分であるが、製造時にはより耐熱性の高い設備仕様とする必要性が生じ、また製造時に液の蒸発量が多くなるために液膜量の制御がやや困難となる。
(6)No.29〜34は、No.14〜16に対して、液膜形成量を変化させた例であるが、水洗までの保持時間が同一のもので比較すると、液膜量が多い場合には、やや摩擦係数が高く、最大成形高さも低くなっている。
(5)No.35〜37は、No.14〜16と同じ条件で酸性溶液による処理を行う前に、活性化槽でアルカリ処理を行った本発明例であり、水洗までの保持時間が同一のもので比較すると、さらに摩擦係数が低くなるという効果が得られた。また、中和槽を使用した結果、点錆の発生もなく、酸化物層を形成した鋼板コイルが使用前に長期間保管されることがあっても錆発生を防止する能力に優れている。
プレス成形性に優れることから、自動車車体用途を中心に広範な分野で適用できる。
実施例で使用した酸化物層形成処理設備の要部を示す図。 摩擦係数測定装置を示す概略正面図。 図2中のビード形状・寸法を示す概略斜視図。
符号の説明
1 活性化槽
2 酸性溶液槽
3 絞りロール
4 シャワー水洗装置
5 洗浄槽
6 中和槽
7 洗浄槽
8 ドライヤ
S 鋼板
11 摩擦係数測定用試料
12 試料台
13 スライドテーブル
14 ローラ
15 スライドテーブル支持台
16 ビード
17 第1ロードセル
18 第2ロードセル
N 押付荷重
F 摺動抵抗力

Claims (4)

  1. 鋼板に溶融亜鉛めっきを施し、さらに加熱処理により合金化し、調質圧延を施した後、酸性溶液に接触させ、保持し、水洗・乾燥を行うことによりめっき表面に酸化物層を形成する合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法において、
    前記酸性溶液中にAlイオンを含有し、酸性溶液として、pH緩衝作用を有し、かつ、1リットルの酸性溶液のpHを2.0から5.0まで上昇させるのに必要な1.0mol/l水酸化ナトリウム溶液の量(l)で定義するpH上昇度が0.05〜0.5の範囲にある酸性溶液を用いることを特徴とする合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
  2. 前記酸性溶液中に、Alの硫酸塩、硝酸塩、塩化物のうち、少なくとも1種類以上を、Alイオン濃度として0.1〜50g/lの範囲で含有することを特徴とする請求項1に記載の合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
  3. 前記酸性溶液として、酢酸塩、フタル酸塩、クエン酸塩、コハク酸塩、乳酸塩、酒石酸塩、ホウ酸塩、リン酸塩のうち、少なくとも1種類以上を、前記各成分含有量5〜50g/lの範囲で含有し、pHが0.5〜2.0、液温が20〜70℃の範囲にある酸性溶液を用いることを特徴とする請求項1または2に記載の合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
  4. 前記酸性溶液に接触させた後、鋼板表面に形成する酸性溶液膜が3g/m2以下であり、かつ液膜が形成された状態での保持時間が1〜30秒の範囲であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法.
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