以下、この発明の音声出力装置の実施形態の幾つかを、図を参照しながら説明する。なお、以下に説明する実施形態は、いずれも、この発明を、ノイズ低減機能を備えたヘッドホン装置に適用した場合である。ここで、この発明の実施形態に適用された新規のノイズ低減方法についてまず説明する。
携帯型のオーディオプレーヤの普及に伴い、当該携帯型のオーディオプレーヤ用のヘッドホンやイヤホンを対象として、外部環境のノイズ(騒音)を低減して、リスナに対して、外部ノイズを低減した良好な再生音場空間を提供するようにしたノイズ低減システムが普及し始めている。
この種のノイズ低減システムの一例は、アクティブなノイズ低減を行なうアクティブ方式のノイズ低減システムで、基本的には、次のような構成を備える。すなわち、音響−電気変換手段としてのマイクロホンで外部ノイズ(騒音)を収音し、その収音したノイズの音声信号から、前記ノイズとは音響的に逆相のノイズ低減音声信号を生成し、当該生成したノイズ低減音声信号を、電気−音響変換手段としてのスピーカやヘッドホンドライバーで音響再生して、前記ノイズと音響的に合成することで、前記ノイズを低減するようにする。
このアクティブ方式のノイズ低減システムにおいては、従来は、前記ノイズ低減音声信号を生成する部分は、アナログ回路(アナログフィルタ)で構成されており、どのようなノイズ環境でも、それなりのノイズ低減ができるようなフィルタ回路に固定されている。
ところで、一般的に、ノイズ環境特性は、周波数特性で観察したとしても、飛行場、駅のプラットホーム、工場などの場所の環境によって大きく異なっている。したがって、ノイズ低減のためのフィルタ特性は、本来は、各ノイズ環境特性に合わせた最適なものを用いることが望まれる。
しかしながら、上述したように、従来のアクティブ方式のノイズ低減システムでは、どのようなノイズ環境においても、それなりのノイズ低減ができるような単一フィルタ特性のフィルタ回路に固定されている。このため、従来のアクティブ方式のノイズ低減システムでは、ノイズ低減しようとしている場所のノイズ環境特性に適合するノイズ低減は行うことはできないという問題があった。
そこで、この実施形態におけるヘッドホン装置に採用するノイズ低減装置部においては、単一のフィルタ特性のフィルタ回路とせずに、種々のフィルタ特性の複数個のフィルタ回路を設けて、場所のノイズ環境特性に適合するフィルタ回路を切換選択するように構成する。
このとき、リスナは、切換選択したフィルタ回路のいずれが、最適なノイズ低減(ノイズキャンセル)効果を発揮したかを、音の聴取により確認することになるが、ノイズ低減フィルタ効果がかかっている状態で、フィルタ特性を切り換えた場合には、それぞれのフィルタ特性の場合のノイズ低減効果を確認し辛いという問題もあるので、以下の実施形態では、その問題点も改善するようにしている。
以下に説明する音声出力装置の実施形態としてのヘッドホン装置においては、ノイズ低減装置部は、デジタル処理回路の構成としてデジタルフィルタを用いる構成とし、そのフィルタ係数を切換変更することにより、複数の異なるノイズ環境に応じて、ノイズ低減特性を切り換えるようにするものである。そして、以下の実施形態においては、そのノイズ低減特性の切り換えを、ヘッドホン筐体に対する叩打により行なえるように構成する。
なお、ノイズ低減装置部は、アナログ処理回路の構成とすることもできるが、その場合には、複数のノイズ環境に応じたフィルタ回路は、それぞれハードウエア回路として設けて、それを切り換える必要がある。しかしながら、このように複数個のフィルタ回路を設けて、その一つを切換選択するように構成した場合には、ハードウエア構成が大規模になり、コスト高ともなってしまうという問題があり、携帯機器に使用するノイズ低減システムとしては、実用的ではない。そこで、この実施形態では、デジタル処理回路の構成とするものである。
[第1の実施形態(フィードバック方式のノイズ低減装置)]
以下に説明するこの発明による音声出力装置の第1の実施形態のヘッドホン装置におけるノイズ低減装置部は、アクティブなノイズ低減を行なうシステムの構成であるが、アクティブなノイズ低減システムとしては、フィードバック方式(フィードバック型)と、フィードフォワード方式(フィードフォワード型)とがある。この発明は、いずれの方式のノイズ低減システムにも適用可能である。
まず、フィードバック方式のノイズ低減システムを、この発明による音声出力装置の第1の実施形態としてのヘッドホン装置のノイズ低減装置部に適用した場合について説明する。図1は、この発明の実施形態のヘッドホン装置の構成例を示すブロック図である。また、図2は、図1のフィルタ回路23の詳細構成例を示すためのブロック図である。
図1においては、説明の簡単のため、ヘッドホン装置のリスナ(聴取者)1の右耳側の部分のみについての構成を示している。これは、後述する他の実施形態の場合も同様である。なお、左耳側の部分も同様に構成されるのは言うまでもない。
図1では、リスナ1が実施形態のヘッドホン装置を装着したことにより、リスナ1の右耳が右耳用ヘッドホン筐体(ハウジング部)2により覆われている状態を示している。ヘッドホン筐体2の内側には、電気信号である音声信号を音響再生する電気−音響変換手段としてのヘッドホンドライバーユニット(以下、単にドライバーという)11が設けられている。
音声信号入力端12は、聴取対象の音声信号Sが入力される端子部であるが、これは、携帯型音楽再生装置のヘッドホンジャックに差し込まれるヘッドホンプラグから構成されるものである。この音声信号入力端12と、左右の耳用のドライバー11との間の音声信号伝送路中には、パワーアンプ13の他、後述する、収音手段(音響−電気変換手段)としてのマイクロホン21、マイクロホンアンプ(以下、単にマイクアンプという)22、ノイズ低減用のフィルタ回路23、メモリ24などを備えるノイズ低減装置部20が設けられる構成とされている。
図示は省略するが、このノイズ低減装置部20とドライバー11、マイクロホン21、また、音声信号入力端12を構成するヘッドホンプラグとの間は、接続ケーブルで接続されている。20a,20b,20cは、ノイズ低減装置部20に対して接続ケーブルが接続される接続端子部である。
この図1の第1の実施形態では、リスナ1の音楽聴取環境において、ヘッドホン筐体2の外のノイズ源3から、ヘッドホン筐体2内のリスナ1の音楽聴取位置に入り込むノイズをフィードバック方式で低減して、音楽を良好な環境で聴取することができるようにする。
フィードバック方式のノイズ低減システムにおいては、リスナ1の音楽聴取位置であるところの、ノイズとノイズ低減音声信号の音響再生音とを合成する音響合成位置(ノイズキャンセルポイントPc)でのノイズをマイクロホンで収音するものである。
したがって、この第1の実施形態においては、ノイズ収音用のマイクロホン21は、図1に示すように、ヘッドホン筐体(ハウジング部)2の内側となるノイズキャンセルポイントPcに設けられる。このマイクロホン21の位置の音が制御点となるため、ノイズ減衰効果を考慮し、ノイズキャンセルポイントPcは、通常、耳に近い位置、つまりドライバー11の振動板前面とされ、この位置に、マイクロホン21が設けられる。
そして、そのマイクロホン21で収音したノイズの逆相成分を、ノイズ低減音声信号生成部で、ノイズ低減音声信号として生成し、その生成したノイズ低減音声信号をドライバー11に供給して音響再生することで、外部からヘッドホン筐体2内に入ってきたノイズを低減させるものである。
ここで、ノイズ源3におけるノイズと、ヘッドホン筐体2内に入り込んだノイズ3´とは同じ特性を有するものではない。しかし、フィードバック方式のノイズ低減システムにおいては、ヘッドホン筐体2内に入り込んだノイズ3´、すなわち、低減対象のノイズ3´を、マイクロホン21で収音することになる。
したがって、フィードバック方式では、ノイズ低減音声信号生成部は、マイクロホン21によりノイズキャンセルポイントPcで収音したノイズ3´をキャンセルするように、前記ノイズ3´の逆相成分を生成すればよい。
この実施形態では、フィードバック方式のノイズ低減音声信号生成部として、デジタルフィルタ回路23を用いる。この実施形態では、フィードバック方式でノイズ低減音声信号を生成するので、デジタルフィルタ回路23は、以下、FBフィルタ回路23と称することとする。
FBフィルタ回路23は、DSP(Digital Signal Processor)232と、その前段に設けられるA/D変換回路231と、その後段に設けられるD/A変換回路233とで構成される。
図2に示すように、この実施形態では、DSP232には、デジタルフィルタ回路301と、ゲイン可変回路302と、加算回路303と、制御回路304と、デジタルイコライザ回路305と、伝達関数Hfb乗算回路306と、除去回路の例を構成する減算回路307と、叩打判定回路308が構成されている。
マイクロホン21で収音されて得られたアナログ音声信号は、マイクアンプ22を通じてFBフィルタ回路23に供給され、A/D変換回路231によりデジタル音声信号に変換される。そして、そのデジタル音声信号がDSP232のデジタルフィルタ回路301に供給される。
DSP232のデジタルフィルタ回路301は、フィードバック方式のデジタルノイズ低減音声信号を生成するためのデジタルフィルタである。このデジタルフィルタ回路301は、これに入力されるデジタル音声信号から、これに設定されるパラメータとしてのフィルタ係数に応じた特性の前記デジタルノイズ低減音声信号を生成する。デジタルフィルタ回路301に設定されるフィルタ係数は、この実施形態では、制御回路304により、メモリ24から読み出されて供給される。
この実施形態では、メモリ24には、種々の異なる複数のノイズ環境におけるノイズを、DSP232のデジタルフィルタ回路301で生成するフィードバック方式によるノイズ低減音声信号により低減することができるようにするために、後述するような複数個(複数セット)のパラメータとしてのフィルタ係数が記憶されている。
制御回路304は、このメモリ24から、前記複数個のフィルタ係数のうちから選定した特定の1個(1セット)のフィルタ係数を読み出して、デジタルフィルタ回路301に設定するようにする。
そして、この実施形態では、制御回路304に対しては、叩打判定回路308からの叩打判定信号が供給されており、制御回路304は、この叩打判定回路308からの叩打判定信号が、ユーザにより筐体2が叩打されたと判断したときに、メモリ24から読み出す特定の1個(1セット)のフィルタ係数を変更して、デジタルフィルタ回路301に設定するようにする。
なお、この実施形態では、ノイズ環境に応じた各フィルタ係数セットがデジタルフィルタ回路301に設定されることにより、各フィルタ係数に応じたノイズキャンセル用フィルタ(以下、NCフィルタ)が構成されて、対応するノイズ低減音声信号が生成される。そこで、以下の説明においては、ノイズ環境に応じたNCフィルタがデジタルフィルタ回路301にそれぞれ構成される各状態を、ノイズモードと称し、後述するように、各ノイズ環境に応じた名称を各ノイズモードに付与することとする。したがって、フィルタ係数の切り換え変更は、ノイズモード(以下、単にモードという場合もある)の変更に相当するものである。
この実施形態では、叩打判定回路308でユーザによる筐体2の叩打が判定される毎に、制御回路304は、メモリ24から読み出すフィルタ係数を変更して、ノイズモードを切り換えるようにする。したがって、この実施形態では、ユーザが、ヘッドホン筐体2を叩打する毎に、ノイズモードが、後述するように、メモリ24に記憶されているフィルタ係数に応じたノイズモードにサイクリックに変更される。
そして、DSP232のデジタルフィルタ301では、以上のようにして、制御回路304を介してメモリ24から選択的に読み出されて設定されたフィルタ係数に応じたデジタルノイズ低減音声信号を生成する。
そして、デジタルフィルタ回路301で生成されたデジタルノイズ低減音声信号は、図2に示すように、ゲイン可変回路302を通じて加算回路303に供給される。この実施形態では、ゲイン可変回路302は、後述するように、制御回路304の制御を受けて、ノイズモードの切換変更時に、ゲイン制御される。
一方、音声信号入力端12を通じた聴取対象の音声信号S(例えば音楽信号)が、A/D変換回路25でデジタル音声信号に変換された後、DSP232のデジタルイコライザ回路305に供給されて、音声信号Sについての振幅−周波数特性補正や位相−周波数特性補正、あるいはその両方などの音質補正がなされる。
フィードバック方式のノイズ低減装置の場合には、デジタルフィルタ301のフィルタ係数を変更してノイズ低減カーブ(ノイズ低減特性)を変更したときには、外部入力される聴取対象の音声信号Sは、ノイズ低減効果の周波数カーブ(周波数特性)に対応した影響を受けるため、デジタルフィルタ301のフィルタ係数の変更に応じて、イコライザ特性の変更が必要になる。
そこで、この第1の実施形態では、メモリ24に、デジタルフィルタ301に設定する複数個のフィルタ係数のそれぞれに対応させて、デジタルイコライザ回路305のイコライザ特性を変更するためのパラメータを記憶させておき、制御回路304が、フィルタ係数の変更に応じたパラメータをデジタルイコライザ回路305に供給するようにして、そのイコライザ特性を変更するように構成している。
また、後述するように、この実施形態では、ユーザによりデジタルイコライザ回路305のイコライザ特性を変更指示することができるように構成されている。このため、この実施形態では、ヘッドホン筐体2が1回叩打されたときには、その1回叩打は、ノイズモードの変更入力コマンドであると判断し、ヘッドホン筐体2が2回叩打されたときには、イコライザ特性の変更指示コマンドであると判断するようにする。
デジタルイコライザ回路305の出力音声信号は、加算回路303に供給されて、ゲイン可変回路302からのノイズ低減音声信号と加算される。そして、その加算信号が、DSP232の出力としてD/A変換回路233に供給され、このD/A変換回路233においてアナログ音声信号に変換される。そして、このアナログ音声信号が、FBフィルタ回路23の出力信号としてパワーアンプ13に供給される。そして、このパワーアンプ13からの音声信号がドライバー11に供給されて、音響再生され、リスナ1の両耳(図1および図2では右耳のみが示されている)に対して、その再生音が放音されるようにされる。
この音響再生されてドライバー11により放音される音声には、FBフィルタ23において生成されたノイズ低減音声信号による音響再生成分が含まれる。このドライバー11で音響再生された放音された音声のうちの、ノイズ低減音声信号による音響再生成分とノイズ3´とが、音響合成されることにより、ノイズキャンセルポイントPcでは、ノイズ3´が低減(キャンセル)される。
以上説明したフィードバック方式のノイズ低減装置部20のノイズ低減動作について、伝達関数を用いて、図3を参照しながら説明する。
すなわち、図1に示したブロック図におけるノイズ低減装置部20に対応して、各部をその伝達関数を用いて表したブロック図を図3に示す。この図3において、Aはパワーアンプ13の伝達関数、Dはドライバー11の伝達関数、Mはマイクロホン21およびマイクアンプ22の部分に対応する伝達関数、−βはフィードバックのために設計されたフィルタ(デジタルフィルタ301)の伝達関数である。また、Hfbはドライバー11からマイクロホン21までの空間の伝達関数、Eは聴取目的の音声信号Sにかけられるイコライザ回路305の伝達関数である。なお、上記の各伝達関数は複素表現されているものとする。
また、図3において、Nは外部のノイズ源からヘッドホン筐体2内のマイクロホン21位置近辺に侵入してきたノイズであり、Pはリスナ1の耳に届く音圧である。なお、外部ノイズがヘッドホン筐体2内に伝わってくる原因としては、例えばイヤーパッド部の隙間から音圧として漏れてくる場合や、ヘッドホン筐体2が音圧を受けて振動した結果としてヘッドホン筐体2内部に音が伝わる場合などが考えられる。
この図3のように表したとき、図3のブロックは、図4の(式1)で表現することができる。そして、この(式1)において、ノイズNに着目すると、ノイズNは、1/(1+ADHfbMβ)に減衰していることが分かる。ただし、(式1)の系がノイズ低減対象周波数帯域にて、ノイズキャンセリング機構として安定して動作するためには、図4の(式2)が成立している必要がある。
一般的には、フィードバック方式のノイズ低減システムにおける各伝達関数の積の絶対値が1以上(1≪|ADHfbMβ|)であること、また古典制御理論におけるナイキスト(Nyquist)の安定性判別と合わせて、図4の(式2)に関する系の安定性は、以下のように解釈できる。
図3において、ノイズNに関わるループ部分(マイクロホン21からドライバー11までのループ部分)中の1箇所を切断して、伝達関数(−ADHfbMβ)の「オープンループ」を考える。これは、図5に示すようなボード線図で表現される特性を持つ。
このオープンループを対象にした場合、ナイキストの安定性判別から、上記(式2)が成立する条件は、図5において、
・位相0deg.の点を通過するとき、ゲインは0dBより小さくなくてはならない
・ゲインが0dB以上であるとき、位相0deg.の点を含んではいけない
の2つの条件を満たす必要があることを意味している。
上記2条件を満たさない場合、ループは正帰還がかかり、発振(ハウリング)を起こすことになる。図5において、Pa,Pbは位相余裕、Ga,Gbはゲイン余裕を表しており、これらの余裕が小さいと、個人差やヘッドホン装着のばらつきにより、発振の危険性が増すことになる。
次に、上記ノイズ低減機能に加え、必要な音をヘッドホンのドライバーから再生する場合について説明する。
図3における、聴取対象の音声信号Sは、実際には音楽信号以外にも、筐体外部のマイクの音(補聴機能として使う)や、通信を介した音声信号(ヘッドセットとして使う)など、本来、ヘッドホン装置のドライバー11で再生すべきものの信号総称である。
前述した(式1)のうち、信号Sに着目すると、図4に示す(式3)のように、イコライザEを設定すれば、音圧Pは、図4の(式4)のように表現される。
したがって、マイクロホン21の位置が耳位置に非常に近いとすると、Hfbがドライバー11からマイクロホン21(耳)までの伝達関数、AやDがそれぞれパワーアンプ13、ドライバー11の特性の伝達関数であるので、通常のノイズ低減機能を持たないヘッドホンと同様の特性が得られることがわかる。なお、このとき、イコライザ回路13の伝達特性Eは、周波数軸でみたオープンループ特性とほぼ同等の特性になっている。
以上のようにして、図1の構成のヘッドホン装置では、ノイズを低減しながら、聴取対象の音声信号を、何等支障なく聴取することができる。ただし、この場合に、十分なノイズ低減効果を得るためには、DSP232で構成されるデジタルフィルタには、外部ノイズ源3からヘッドホン筐体2内に伝達されたノイズの特性に応じたフィルタ係数が設定される必要がある。
前述したように、ノイズが発生しているノイズ環境には、種々存在し、そのノイズの周波数特性や位相特性は、それぞれのノイズ環境に応じたものとなっている。このため、単一のフィルタ係数では、すべてのノイズ環境において、十分なノイズ低減効果を得ることができることは期待できない。
そこで、この実施形態では、前述したように、メモリ24に、種々のノイズ環境に応じた複数個(複数セット)のフィルタ係数を、予め記憶して用意しておき、その複数個のフィルタ係数から、適切と考えられるものを、選択して読み出し、FBフィルタ回路23のDSP232に構成されているデジタルフィルタ回路301に設定するようにする。
デジタルフィルタ301に設定するフィルタ係数は、種々様々なノイズ環境のそれぞれにおいてノイズを収音して、そのノイズを低減(キャンセル)することができる、適切なものを、予め、算出して、メモリ24に記憶しておくようにすることが望ましい。例えば、駅のプラットホーム、飛行場、地上を走る電車の中、地下鉄の電車の中、町の雑踏、大型店舗内、など、種々のノイズ環境におけるノイズを、収音して、そのノイズを低減(キャンセル)することができる、適切なものを、予め、算出して、メモリ24に記憶しておくようにする。
すなわち、複数のノイズ環境のそれぞれ、つまり、複数のノイズモードのそれぞれに応じたフィルタ係数のセットを、予め算出して、メモリ24に記憶しておくようにする。
そして、この第1の実施形態では、メモリ24に記憶されている複数個(複数セット)のフィルタ係数からの、適切なフィルタ係数の選択は、ユーザが手動操作で行なうようにする。
このユーザの手動操作は、この実施形態では、ヘッドホン筐体2の叩打とするようにしている。そして、この実施形態では、上述したように、ヘッドホン筐体2の1回の叩打がフィルタ係数の変更指示(ノイズモードの変更指示)とし、ヘッドホン筐体2の連続的な2回の叩打がイコライザ特性の変更指示としている。
ヘッドホン筐体2の連続的な2回の叩打によるイコライザ特性の変更指示に基づくイコライザ特性の変更は、前述したフィードバック方式のノイズ低減システムにおけるノイズモードの変更に応じたイコライザ特性の変更とは異なる。すなわち、この場合のイコライザ特性の変更指示は、例えば、クラシック、ジャズ、ポップス、ロック、演歌など、ユーザが聴取している楽曲のジャンルに合わせて好適なイコライザ特性(振幅−周波数特性や位相−周波数特性またはその両方)を選択するようにするためのものである。
これらの複数のジャンルに合わせたイコライザ特性を現出するためにデジタルイコライザ回路305に供給する複数のパラメータは、メモリ24に予め記憶されている。そして、ユーザによりヘッドホン筐体2が2回叩打される毎に、制御回路304は、前記の複数個のジャンルのそれぞれに応じたパラメータを、順次にサイクリックにメモリ24から読み出して、デジタルイコライザ回路305に供給するようにする。つまり、ユーザがヘッドホン筐体2を、2回叩打する毎に、クラシック用のパラメータ→ジャズ用パラメータ→ポップス用パラメータ→ロック用パラメータ→演歌用パラメータなどのように、制御回路304は、イコライザ特性変更用のパラメータを順次にメモリ24から読み出して、デジタルイコライザ回路305に供給するようにする。
この際に、図示は省略するが、いずれのジャンルのパラメータがデジタルイコライザ回路305に設定されるかの音声メッセージ、例えば「クラシック」などの音声メッセージを、ヘッドホン筐体2の2回叩打判定に基づくイコライザ特性の変更のたびに、ドライバー11に供給する音声信号に加算するようにするとよい。
このヘッドホン筐体2の叩打の判定は、この実施形態では、マイクロホン21からの収音音声信号から行なうようにする。この場合に、マイクロホン21からの収音音声信号には、外部からの音声信号(聴取を目的とした再生音楽や通信音声などの成分)の影響を受けると共に、ノイズ低減効果の影響を受ける。ユーザがヘッドホン筐体2を叩打したとき、叩打された筐体2において発生する音は、当然マイクロホン21により収音されるものの、ノイズ低減効果によりその音量は小さくなり、また、同時に再生音声がドライバー11から放音されているため、この再生音声の中に、筐体2の叩打音が埋もれてしまう可能性もあり、筐体2の叩打をマイクロホン21からの収音音声信号から検知するのは、そのままでは困難である。
そこで、この実施形態では、音声信号Sの音響再生音声の成分を除去して、確実に叩打操作の判定ができるようにしている。
まず、ドライバー11からマイクロホン21(耳)までの伝達関数Hfbとしたとき、この伝達関数Hfbの要素およびそのときに選択されているノイズモードにおけるノイズ低減効果による外部音声信号の周波数特性影響を乗算したフィルタHfb_ncを予め計算しておく。そして、実際の運用時には、再生対象の音声信号は、デジタルイコライザ回路305を通した後、上記のフィルタHfb_ncを掛けた上で、マイクロホン21の出力信号から減算し、その減算出力信号を基に、叩打判定を行なうようにする。
つまり、これは、マイクロホン21の位置でのドライバー11から発せられた音声信号をなるべく正確にシミュレートし、マイクロホン21位置での音から減算することで、マイクロホン21の収音音声信号から再生音声信号Sの成分を除去するようにしている。
すなわち、この実施形態では、図2に示すように、マイクロホン21からの収音音声信号は、A/D変換回路231でデジタル音声信号に変換された後、減算回路307に供給される。
一方、デジタルイコライザ回路305からの音声信号Sは、前記フィルタHfb_nc乗算回路306に供給されて、音声信号Sに対して伝達関数Hfbを考慮した前記フィルタHfb_ncが乗算される。そして、その乗算結果が減算回路307に供給されて、マイクロホン21からの収音音声信号から減算されて、当該収音音声信号中に含まれる音声信号Sの成分が除去される。
そして、この減算回路307からの音声信号Sの成分が除去されたマイクロホン21の収音音声信号が、叩打判定回路308に供給される。叩打判定回路308では、マイクロホン21からの収音音声信号に、ヘッドホン筐体2が叩打されたときの音声信号成分または振動成分が含まれているかどうかを判定すると共に、所定時間内に当該成分が何個含まれているかにより、叩打の回数も判定するようにする。そして、叩打判定回路308は、その判定結果を制御回路304に供給する。
減算回路307から得られる減算結果には、環境ノイズが多く含まれるが、ユーザが筐体2を叩打したときに筐体2を伝わる音は、一般にこれより大きく、また、環境ノイズ中には、叩打時のようなパルス的な音は通常は入らないので、誤認識されることは少ない。
この叩打判定回路308の具体構成例については、後で詳述するが、ハードウエア構成のみではなく、減算回路307の出力信号についてのソフトウエア処理の構成とすることもできる。また、ソフトウエア処理の構成とする場合には、伝達関数Hfb乗算回路306および減算回路307の部分も含めて、ソフトウエア処理の構成とすることもできる。
この実施形態では、制御回路304は、叩打判定回路308からの判定結果として、ノイズモードの切換指示操作である1回の叩打の判定結果を受ける毎に、メモリ24から読み出すフィルタ係数のセットを変更して、デジタルフィルタ回路301に供給するようにする。
すなわち、図6に示すように、制御回路304は、ヘッドホン筐体2の1回の叩打によるノイズモード切換指示操作を検知する毎に、メモリ24から読み出すデジタルフィルタ301に供給するフィルタ係数を変更して、デジタルフィルタ301により構成されるNCフィルタのフィルタ特性を切換変更する。
ここで、制御回路304では、メモリ24に記憶されている、複数のノイズモードに応じた複数個(複数セット)のフィルタ係数の読み出しに際しては、予め、ノイズモードの順番に読み出し順序を決めておき、ノイズモードの切換変更操作指示があったと判別したときには、その読み出し順序に従って、複数個のフィルタ係数を順番に、かつ、サイクリックに読み出し変更するようにする。
例えば、図6の例の場合には、1番目のノイズモードは飛行機モード(飛行機内のノイズ環境モード)、2番目のノイズモードは電車モード(電車内のノイズ環境モード)、3番目のノイズモードは地下鉄モード(地下鉄の電車内のノイズ環境モード)、4番目のノイズモードは屋外店舗モード(店舗の屋外のノイズ環境モード)、5番目のノイズモードは屋内店舗モード(店舗の屋内のノイズ環境モード)、・・・というように、定められており、各ノイズモードに応じたNCフィルタ1、NCフィルタ2、NCフィルタ3、NCフィルタ4、NCフィルタ5、・・・が、それぞれのノイズモードにおいて、デジタルフィルタ回路301により構成される。
例えば、簡単な例として、メモリ24に、図7に示す「ノイズ減衰カーブ(ノイズ減衰特性)」で表されるような4種のノイズ低減効果を得ることができるパラメータのセット、つまり、フィルタ係数のセットが、書き込まれているとする。この図7の例では、ノイズが、低域、中低域、中域、広帯域のそれぞれに主として分布する場合の4種類のノイズモードのノイズ特性に対して、それぞれのノイズモードの場合におけるノイズを低減するカーブ特性を得るようにするフィルタ係数のセットが、メモリ24に記憶されている場合である。
この場合に、図7に示すように、ノイズが低域に主として分布する場合をノイズ低減する低域重視カーブのノイズ低減特性を得るフィルタ係数を1番目、ノイズが中低域に主として分布する場合をノイズ低減する中低域重視カーブのノイズ低減特性を得るフィルタ係数を2番目、ノイズが中域に主として分布する場合をノイズ低減する中域重視カーブのノイズ低減特性を得るフィルタ係数を3番目、ノイズが広帯域に分布する場合をノイズ低減する広帯域カーブのノイズ低減特性を得るフィルタ係数を4番目、としたとき、プッシュスイッチが押下されて、フィルタ係数の変更操作指示がなされる毎に、1番目→2番目→3番目→4番目→1番目→・・・というように、メモリ24から読み出すフィルタ係数を変更するようにする。
リスナ1は、このようにノイズモードを切換変更することで、各ノイズモードでのノイズ低減効果を、自分の耳で確認して、十分なノイズ低減効果が得られたと感じられたフィルタ係数が読み出されているノイズモードとなったら、それ以降は、モード切換ボタンの押下をやめるようにする。すると、メモリコントローラ25は、そのときに読み出しているフィルタ係数を、その後も継続して読み出す状態になり、ユーザが選択したノイズモードのフィルタ係数の読み出し状態に制御されることになる。
なお、上述の図7の例は、前述のように、実際的に各ノイズ環境におけるノイズを測定して、それに対応するフィルタ係数を設定するのではなく、ノイズが、低域、中低域、中域、広帯域の4種類に分布する状態を想定し、それぞれの場合におけるノイズを低減するカーブ特性を得るように、フィルタ係数を設定して、メモリ24に記憶した場合に相当している。
このような簡易的なノイズモードに応じて設定したフィルタ係数であっても、この実施形態のノイズ低減装置によれば、それぞれのノイズ環境に適したフィルタ係数を選定することができるので、従来のアナログフィルタ方式のような固定的にフィルタ係数を定める場合に比べて、より有効なノイズ低減効果が得られる。
なお、前述したように、制御回路304による、ヘッドホン筐体2の2回叩打判定に基づくイコライザ特性の変更も、上述のノイズモードの変更の場合と同様に行うことができる。
次に、この実施形態では、ノイズモードの切換変更時における各ノイズモードでのノイズ低減効果を、より確実にリスナが確かめられるようにするため、この実施形態では、制御回路304では、ノイズモード切換変更時には、次のように制御する。
[第1の例]
図8は、この実施形態における制御回路304のノイズモード切換変更時の制御の第1の例を説明するための図である。
この例においては、制御回路304は、ヘッドホン筐体2の1回の叩打によるノイズモード切換指示操作がなされたと判別したときに、単に、フィルタ係数を変更して、デジタルフィルタ301に構成されるNCフィルタを切り換えるだけでなく、図8に示すように、モード切換ボタンの押下操作がなされた直後には、デジタルフィルタ301によるノイズ低減効果をゼロにして、実質上、ノイズ低減効果をオフにするノイズ低減効果オフ区間Aを所定時間分だけ設けるようにする。
そして、制御回路304は、このノイズ低減効果オフ区間Aが終了したら、切換後のノイズモードのNCフィルタによるノイズ低減効果を、その最大値まで漸増させるようにするノイズ低減効果漸増区間Bを所定時間分だけ設ける。
そして、制御回路304は、このノイズ低減漸増区間Bが終了したら、切換後のノイズモードのNCフィルタによるノイズ低減効果を、その最大値で固定するようにする。図8では、ノイズ低減効果を最大値で固定する区間を区間Cとして示している。
ノイズ低減効果オフ区間Aと、ノイズ低減漸増区間Bの区間長(時間長)は、それぞれ適切な長さに設定される。例えば区間Aは3秒間、区間Bは4秒間に設定される。区間Cは、次にモード切換ボタンが押下操作される時点が終点となる区間であって、一定ではない。
なお、この実施形態では、ノイズ低減効果漸増区間Bは、一定時間とされるが、各ノイズモードにおけるNCフィルタのノイズ低減量の最大値は同じではないので、ノイズ低減効果の漸増の傾きは、各ノイズモードにおけるNCフィルタのノイズ低減量の最大値に応じて異なるものとなる。
この第1の例の場合における制御回路304における制御のフローチャートを図9に示す。すなわち、制御回路304は、叩打判定回路308からの判定結果情報を監視して、ヘッドホン筐体2が1回叩打されることによるノイズモードの切換操作指示があったか否か判別する(ステップS11)。
ステップS11で、ノイズモードの切換操作指示がなされていないと判別したときには、制御回路304は、このステップS11を繰り返し、ノイズモードの切換操作指示を待つ。
ステップS11で、ノイズモードの切換操作指示があったと判別したときには、制御回路304は、メモリ24から読み出すフィルタ係数のセットを、それまでとは異なる次順のNCフィルタのフィルタ係数に変更して、デジタルフィルタ回路301に供給するようにする(ステップS12)。
このとき、前述したように、この実施形態のフィードバック方式のノイズ低減処理の場合、音声信号Sについてのイコライザ特性も、ノイズ低減効果の変化に応じて制御する必要があり、制御回路304は、デジタルイコライザ回路305におけるイコライザ特性を、ノイズ低減効果オフ区間A、ノイズ低減効果漸増区間Bのそれぞれにおいて、ノイズ低減効果のゲイン制御に応じて制御するようにする。
次に、制御回路304は、ノイズ低減効果オフ区間Aを時間タイマーにて設定し(ステップS13)、ゲイン可変回路302のゲインGをゼロに制御する(ステップS14)。そして、制御回路304は、時間タイマーを監視して、ノイズ低減効果オフ区間Aが終了したか否か判別し(ステップS15)、ノイズ低減効果オフ区間Aが終了していなければ、ステップS14に戻ってゲイン可変回路302のゲインG=0の状態を維持する。
ステップS15で、ノイズ低減効果オフ区間Aが終了したと判別したときには、制御回路304は、ノイズ低減効果漸増区間Bを時間タイマーにて設定し(ステップS16)、ゲイン可変回路302のゲインGを、当該ノイズ低減効果漸増区間Bで、そのノイズモードでのNCフィルタの最大ノイズ低減量となるように、dB軸上でリニアに漸増させる(ステップS17)。
そして、制御回路304は、時間タイマーを監視して、ノイズ低減効果漸増区間Bが終了したか否か判別し(ステップS18)、ノイズ低減効果漸増区間Bが終了していなければ、ステップS16に戻ってゲイン可変回路302のゲインGの漸増を継続する。
ステップS18で、ノイズ低減効果漸増区間Bが終了したと判別したときには、制御回路304は、ゲイン可変回路302のゲインGを、当該ノイズモードにおけるNCフィルタの最大低減量の状態に固定する(ステップS19)。そして、その後、ステップS11に戻り、モード切換ボタンの押下操作がある毎に、以上の動作を繰り返す。
図10に、ノイズ低減効果オフ区間A、ノイズ低減効果漸増区間Bおよび区間Cにおけるノイズ低減効果、デジタルフィルタ回路301でのNCフィルタ特性およびデジタルイコライザ回路305のイコライザ特性の変化の例を示す。
[第2の例]
この第2の例においては、制御回路304は、第1の例のようなヘッドホン筐体2の1回の叩打によるノイズモード切換指示操作に基づくノイズモードの切換変更時の制御を行なうと同時に、ヘッドホン筐体2の1回の叩打によるノイズモード切換指示操作がなされたと判別したときに、モード切換変更後のノイズモードが何であるかをユーザに告知するようにする。これにより、ユーザは、自分がそのときに置かれているノイズ環境に近いノイズモードを予め認識し、そのノイズ低減効果を確認することができるようになる。
この場合に、この第2の例では、ノイズモードの告知は、例えば各ノイズモードの告知音声メッセージを、ドライバー11に供給する音声信号に加算する方法を用いる。例えば、ノイズモード切換変更による次ノイズモードが、飛行機モードであれば「エアープレーン」、電車モードであれば「トレイン」、地下鉄モードであれば「サブウエイ」、などのような告知音声メッセージを用いるようにする。
そして、この第2の例では、図示は省略するが、各ノイズモードの告知音声メッセージは、例えばメモリ24に記憶しておき、制御回路304が、ヘッドホン筐体2の1回の叩打によるノイズモード切換指示操作に基づく適宜のタイミングで読み出して、加算回路303に供給するように構成する。
そして、この第2の例においては、各ノイズモードの告知音声メッセージ信号の加算回路303への加算タイミングは、ノイズ低減効果が最大となっている状態、つまり、ノイズが低減されて音声が聞きやすい状態となっている状態のときとなるように、選定されている。
図11は、この実施形態における制御回路304のモード切換変更時の制御の第2の例を説明するための図である。
すなわち、図11に示すように、この第2の例においては、ヘッドホン筐体2の1回の叩打によるノイズモード切換操作指示がなされたと判別したら即座にノイズ低減効果オフ区間Aとするのではなく、ノイズモード切換操作指示前のノイズモードのNCフィルタによるノイズ低減効果が最大となっている区間Cを、ノイズモード切換操作指示判別後も所定時間だけ延長する区間Dを設け、この区間Dを次モードの告知区間とする。
そして、この告知区間Dにおいて、制御回路304は、次モードの告知メッセージをメモリ24から読み出して、加算回路303で音声信号に加算するようにする。そして、この告知区間Dが終了した後、上述したノイズ低減効果オフ区間Aに移行するようにする。
この第2の例の場合における制御回路304における制御のフローチャートを図12およびその続きである図13に示す。すなわち、制御回路304は、叩打判定回路308からの判定結果情報を監視して、ヘッドホン筐体2が1回叩打されることによるノイズモードの切換操作指示があったか否か判別する(ステップS21)。
ステップS21で、ノイズモードの切換操作指示が無かったと判別したときには、制御回路304は、このステップS21を繰り返し、ノイズモードの切換操作指示を待つ。
ステップS21で、ノイズモードの切換操作指示があったと判別したときには、制御回路304は、告知区間Dを時間タイマーにて設定する(ステップS22)。そして、制御回路304は、メモリ24から、次順のノイズモードの告知音声メッセージのデータを読み出し、加算回路303に供給して、次順のノイズモードをユーザに告知するようにする(ステップS23)。
そして、制御回路304は、時間タイマーを監視して、告知区間Dが終了したか否か判別し(ステップS24)、告知区間Dが終了していなければ、ステップS24に戻って告知区間Dの終了を待つ。
ステップS24で告知区間Dが終了したと判別したときには、制御回路304は、メモリ24から読み出すフィルタ係数のセットを、それまでとは異なる次順のNCフィルタのフィルタ係数に変更して、デジタルフィルタ回路301に供給するようにする(ステップS25)。
次に、制御回路304は、ノイズ低減効果オフ区間Aを時間タイマーにて設定し(ステップS26)、ゲイン可変回路302のゲインGをゼロに制御する(ステップS27)。そして、時間タイマーを監視して、ノイズ低減効果オフ区間Aが終了したか否か判別し(ステップS28)、ノイズ低減効果オフ区間Aが終了していなければ、ステップS27に戻ってゲイン可変回路302のゲインG=0の状態を維持する。
次に、ステップS28で、ノイズ低減効果オフ区間Aが終了したと判別したときには、制御回路304は、ノイズ低減効果漸増区間Bを時間タイマーにて設定し(図13のステップS31)、ゲイン可変回路302のゲインGを、当該ノイズ低減効果漸増区間Bで、そのノイズモードでのNCフィルタの最大ノイズ低減量となるように、dB軸上でリニアに漸増させる(ステップS32)。
そして、時間タイマーを監視して、ノイズ低減効果漸増区間Bが終了したか否か判別し(ステップS33)、ノイズ低減効果漸増区間Bが終了していなければ、ステップS32に戻ってゲイン可変回路302のゲインGの漸増を継続する。
ステップS33で、ノイズ低減効果漸増区間Bが終了したと判別したときには、制御回路304は、ゲイン可変回路302のゲインGを、当該ノイズモードにおけるNCフィルタの最大低減量の状態に固定する(ステップS34)。そして、その後、ステップS21に戻り、モード切換ボタンの押下操作がある毎に、以上の動作を繰り返す。
[第3の例]
上述の第1および第2の例では、ノイズモードの切換変更時には、切換変更前のノイズモードのNCフィルタのノイズ低減効果は、最大ノイズ低減量から即座にノイズ低減量ゼロの状態に移行させるようにしたが、この第3の例においては、切換変更前のノイズモードのNCフィルタのノイズ低減効果を、最大ノイズ低減量から徐々に漸減させるようにして、ノイズ低減量ゼロの状態に移行させるようにする。これは、ノイズ低減効果が急に無くなって、リスナにとって耳障りになるのを防止するためである。
図14は、第1の例の場合に、この第3の例を適用した場合であり、区間Cの後に、ノイズ低減効果漸減区間Eを設ける。そして、このノイズ低減効果漸減区間Eが終了したら、ノイズ低減効果オフ区間Aに移行するものである。
なお、第2の例の場合に第3の例を適用する場合には、区間Dの後に、ノイズ低減効果漸減区間Eを設ける。そして、このノイズ低減効果漸減区間Eが終了したら、ノイズ低減効果オフ区間Aに移行するものである。
なお、上述の第1〜第3の例の説明では、ノイズ低減効果漸増区間Bは一定時間としたが、ノイズ低減効果の漸増の傾きは、常に同じとして、モード切換変更後のNCフィルタのノイズ低減量の最大値まで漸増するように、区間Bを可変区間とするようにしてもよい。
また、第2の例においては、告知区間Dも所定時間に設定するようにしたが、告知音声メッセージの加算を終了したら、当該告知区間Dを終了して、ノイズ低減効果オフ区間Aに即座に移行するようにしてもよい。
また、上述の例では、ノイズ低減効果漸増区間Bにおけるノイズ低減効果の漸増は、ゲイン可変回路302のゲインGを制御することにより行なうようにしたが、メモリ24に、各ノイズモードのNCフィルタ用のフィルタ係数として、当該ノイズ低減効果漸増区間Bにおけるノイズ低減効果の漸増を実現するように変化するフィルタ係数のセットを記憶しておき、ノイズ低減効果漸増区間Bに、そのフィルタ係数のセットを順次に読み出すことにより、ノイズ低減効果の漸増を実現するようにすることもできる。
なお、上述の例では、告知は、次順のノイズモードを明確にユーザに通知するものとしたが、単に、ノイズモードの切換変更がなされることを告知するものであっても良い。その場合には、音声メッセージではなく、特定の音、例えば[ピー]という音を告知用として用いるようにしても良い。
また、次順のノイズモードの告知も、告知音声メッセージではなく、各ノイズモードに応じた音、例えば飛行場の案内アナウンスや、駅のプラットホームの案内アナウンスなど関連した音を用いるようにしても良い。
なお、ノイズ低減効果を、より確実にリスナが確かめるようにするためには、音声信号Sによる再生音をドライバー11から放音しない環境において行なう方が良い場合がある。そのような場合に対処するためには、音声信号Sを入力しない環境で、リスナが操作部25を操作して、ノイズ低減効果を確かめるようにする方法の他、音声信号Sを入力して再生中である場合には、操作部25のモード切換ボタンが押下操作されたときから、ノイズ低減効果を確かめることができる程度の所定時間は、DSP232へ供給する音声信号Sをミューティングするようにする方法が採用できる。これは、後述の実施形態においても同様である。
[叩打判定回路308における叩打判定方法]
[叩打判定の第1の例]
前述したように、ヘッドホン筐体2を叩打したときの音は、パルス的な音となる。図15に、再生音声信号Sが存在しないときに、ヘッドホン筐体2を叩打したときにマイクロホン21で収音される音声波形データ(叩打波形データ)の例を示すものである。この図15の例において、横軸は、収音音声信号をデジタル信号に変換したときのサンプリング周波数Fsが48kHzのときの時間軸サンプル数である。
この第1の例においては、ヘッドホン筐体2を叩打したときにマイクロホン21から得られる図15のような代表的な叩打波形データを、例えばメモリ24の波形データエリアに記憶しておき、この記憶してある叩打波形データを用いて、減算回路307からの音声信号波形との一致評価を行なうことにより、ユーザがヘッドホン筐体2を叩打したかどうか、また、叩打回数を検出するようにする。
叩打判定回路308では、所定期間分の波形データの取り込み区間PDを設定し、減算回路307で再生音声信号Sの成分が除去されたマイクロホン21の収音音声信号の波形データを、当該波形データ取り込み区間PD分ずつ、取り込むようにする。このため、叩打判定回路308は、この波形データの取り込み用バッファメモリを備え、取り込んだ波形データを、そのバッファメモリに書き込むようにする。
そして、この取り込んだ波形データと、メモリ24に記憶されている叩打波形データとの相関関数を演算し、両者の一致評価により、ヘッドホン筐体2の叩打がなされたか否か判定するようにする。なお、この場合に、この叩打判定処理は、多少遅延があっても実用上問題が無い。
ここで、波形データの取り込み区間PDの長さは、この第1の例においては、ユーザがヘッドホン筐体2をイコライザ特性の変更指示のために、2回連続して叩打したとき、その2回の連続的な叩打タイミングを含む区間長とされ、例えば0.5〜1秒間に設定される。この取り込み区間PD内において、3回以上連続の叩打が検出(判定)されたときには、この例では、それは、イコライザ特性の変更指示とはみなさないようにしている。
ただし、ユーザがヘッドホン筐体2に対して前記取り込み区間PD分の時間の間に2回連続的叩打したとしても、その叩打時点の取り込み区間PD内の位置によっては、図21および図22に示すように、一つの取り込み区間PD内では、1回叩打しか検出できない場合がある。
また、一つの取り込み区間PD内では、2回叩打を判定しても、例えば図23に示すように、実際には、ヘッドホン筐体2に対して3回以上の叩打がなされた場合もある。
その場合を考慮して、この第1の例においては、図19〜図23に示すように、取り込み区間PDは、区間PD1,PD2,PD3・・・というように、前後の取り込み区間PDでは重複区間を有するように設定する。図19〜図23の例では、重複区間は、取り込み区間PDの丁度1/2の時間分とされている。なお、重複区間の長さは、これに限られるものではないことは言うまでもない。
そして、この第1の例では、1回の取り込み区間PDでの判定のみにより、1回叩打や2回叩打の判定を行なうのではなく、前後の取り込み区間PDにおける判定結果を参照しながら、1回叩打や2回叩打の判定を行なうようにする。
この第1の例の叩打判定方法を、図16およびその続きの図17、図18のフローチャートおよび図19〜図23の説明図を参照しながら説明する。なお、図16〜図18のフローチャートは、叩打判定回路308と制御回路304とが実行する処理ステップを示したものである。
以上のことを踏まえて、叩打判定回路308は、まず、設定された波形データの取り込み区間PDにおいて、減算回路307で再生音声信号Sの成分が除去されたマイクロホン21の収音音声信号の波形データを取り込み、取り込んだ波形データを、バッファメモリに一時保持するようにする(ステップS101)。
次に、叩打判定回路308は、減算回路307からのデータについて、バッファメモリに波形データ取込区間PD分の波形データの取り込みが完了すると、取り込んだ波形データと、制御回路304を介して取得したメモリ24に記憶されている叩打波形データとの相互相関値CORを計算する(ステップS102)。
この場合、相互相関値CORの計算は、例えば、前記バッファメモリに取り込んだ波形データのうち、メモリ24から読み出した叩打波形データと同じサンプル数ずつを、1サンプルずつずらしながら、メモリ24から読み出した叩打波形データと乗算することによりなすことができる。また、前記乗算は、時系列波形データではなく、高速フーリエ変換をして、周波数領域で行なうようにしてもよい。
次に、叩打判定回路308は、取り込み区間PDで計算した相互相関値CORと、予め定めた閾値θthとを比較して、閾値θthを超えた相関値の存在を探し、相互相関値CORが閾値θthを超えた回数が1回であるか否か判別する(ステップS103)。ここで、閾値θthは、相互相関値CORが、叩打波形データと取り込み波形データとの間に相関があるとされる値、あるいは、その値よりも若干大きい値とされる。
ステップS103で、取り込み区間PD内で相互相関値CORが閾値θthを超えた回数が1回ではない(0回または2回以上)と判別したときには、叩打判定回路308は、取り込み区間PD内で相互相関値CORが閾値θthを超えた回数が2回であるか否か判別する(ステップS104)。
このステップS104で、叩打判定回路308が、取り込み区間PD内で相互相関値CORが閾値θthを超えた回数が2回ではなく、0回または3回以上であると判別したときには、叩打判定回路308は、叩打によるノイズモードの切換操作指示やイコライザ特性の変更操作指示などのコマンド入力操作はなかったと判定し、制御回路304には何も通知しない(ステップS105)。このため、制御回路304は、ノイズモードの切換変更やイコライザ特性の変更などをしない(ステップS106)。
そして、叩打判定回路308は、次の取り込み区間PDを設定し(ステップS107)、その後、ステップS101に戻って、このステップS101以降の処理を繰り返す。
また、ステップS103で、叩打判定回路308が、取り込み区間PD内で相互相関値CORが閾値θthを超えた回数が1回であると判別したときには、叩打判定回路308は、前の取り込み区間PDで、相関値CORが閾値θthを1回も超えなかったかどうか判別する(図17のステップS111)。
ステップS111で、前の取り込み区間PDで、相関値CORが閾値θthを1回も超えなかったと判別したときには、それまでヘッドホン筐体2の叩打を行なっていない状態から、ユーザが叩打を開始したので、次の取り込み区間PDの状態をも監視する必要があるので、叩打判定回路308は、図16のステップS107に飛んで、次の取り込み区間PDを設定し、その後、ステップS101に戻って、このステップS101以降の処理を繰り返す。
また、ステップS111で、前の取り込み区間PDで、相関値CORが閾値θthを1回以上超えたと判別したときには、叩打判定回路308は、前の取り込み区間PDで閾値θthを超えた相関値CORのうち、今回、閾値θthを超えた相関値CORと異なる時点のものがあるか否か判別する(ステップS112)。
このステップS112で、前の取り込み区間PDで閾値θthを超えた相関値CORのうち、今回、閾値θthを超えた相関値CORと異なる時点のものがあると判別されたときには、前回の取り込み区間で、閾値θthを超えた相関値CORが3個以上あるということを意味する。すなわち、図16に示したように、この例では、閾値θthを超えた相関値CORが無い状態から、1回以上、計算結果の相関値CORが閾値θthを超えた状態のうち、ステップS103では、1回超えた状態を判別し、ステップS104では、2回超えた状態を判別する。そして、1回超えた状態を判別したときには、図17の処理ルーチンに進み、2回超えた状態のときには、図18の処理ルーチンに進む。そして、ステップS111では、前の取り込み区間の状態が、閾値θthを超えた相関値CORが無い状態のときには、次の取り込み区間を見に行くようにしている。
そこで、ステップS112における現在の取り込み区間の前の区間として、存在できるのは、相関値CORが閾値θthを1回超えた状態と、相関値CORが閾値θthを3回以上超えた状態のみである。
したがって、前回の取り込み区間において、今回の取り込み区間で閾値θthを超えた相関値CORの時点と異なるものがあるということは、相関値CORが閾値θthを3回以上超えた状態のみである。
そのため、ステップS112で、前の取り込み区間PDで閾値θthを超えた相関値CORのうち、今回、閾値θthを超えた相関値CORと異なる時点のものがあると判別されたときには、叩打判定回路308は、図16のステップS105に進み、ノイズモード切換操作指示やイコライザ変更操作指示などのコマンド入力操作はなかったと判定し、制御回路304には何も通知しない。このため、制御回路304は、ノイズモードの切換変更やイコライザ特性の変更などをしない(ステップS106)。
そして、叩打判定回路308は、次の取り込み区間PDを設定し(ステップS107)、その後、ステップS101に戻って、このステップS101以降の処理を繰り返す。
ところで、ステップS112で、前の取り込み区間PDで閾値θthを超えた相関値CORのうち、今回、閾値θthを超えた相関値CORと異なる時点のものがない、つまり、前回と今回の取り込み区間で、閾値θthを超えた相関値CORは、一致する時点であると判別される状態は、図19、図20および図21に示すような状態が考えられ、さらに次の取り込み区間PDにおける取り込み波形の状態を把握する必要がある。すなわち、図19、図20および図21では、ステップS113における現在の取り込み区間は区間PD3であって、次の取り込み区間PD4の状態を見ることになる。そして、図20および図21の場合には、更に次の区間PD5の状態を見る必要がある。
また、図21では、現在の取り込み区間は、区間PD2であって、次の取り込み区間PD3の状態および更に次の取り込み区間PD4の状態を見る必要がある。
そこで、この例においては、ステップS112で、前の取り込み区間PDで閾値θthを超えた相関値CORのうち、今回、閾値θthを超えた相関値CORと異なる時点のものがないと判別したときには、叩打判定回路308は、次の取り込み区間PDを設定し、取り込み波形データと記憶している叩打波形データとの相互相関値CORを計算する(ステップS113)。そして、叩打判定回路308は、計算の結果得られた相互相関値CORの中に、閾値θthを超えるものが1個も無いかどうか判別する(ステップS114)。
そして、このステップS114で、計算の結果得られた相互相関値CORの中に、閾値θthを超えるものが1個も無いと判別したときには(この状態は、図19に示すように、次の取り込み区間PD4で閾値θthを超える相関値CORが1個も無い状態である)、叩打判定回路308は、ヘッドホン筐体2が1回叩打されたと判定し、その旨の通知を制御回路304に送る(ステップS115)。
この1回叩打の判定結果の通知を受け取った制御回路304は、当該通知をノイズモード切換操作指示と認識し、前述したノイズモードの切換変更処理を実行する(ステップS116)。
そして、叩打判定回路308は、図16のステップS107に飛んで、次の取り込み区間PDを設定し、その後、ステップS101に戻って、このステップS101以降の処理を繰り返す。
ステップS114で、計算の結果得られた相互相関値CORの中に、閾値θthを超えるものがあると判別したときには(この状態は、図20および図21に示すように、次の取り込み区間PD4で閾値θthを超える相関値CORがある状態である)、叩打判定回路308は、更に次の取り込み区間PD5を設定し、取り込み波形データと記憶している叩打波形データとの相互相関値CORを計算する(ステップS117)。
そして、叩打判定回路308は、更に次の取り込み区間PD5において、計算の結果得られた相互相関値CORの中に閾値θthを超えるものがあって、かつ、当該閾値θthを超えた時点として、前回と異なるものがあるか否か判別する(ステップS118)。
このステップS118で、閾値θthを超える相互相関値CORのうち、前回と異なるものが無いと判別される状態は、図20および図21の状態であり、このときには、叩打判定回路308は、ヘッドホン筐体2が2回連続的に叩打されたと判定し(図18のステップS125)、その旨を制御回路304に伝える。
すると、制御回路304は、ヘッドホン筐体2が2回叩打されたことをイコライザ特性の変更指示として認識して、前述したように、メモリ24から次にデジタルイコライザ回路305に設定するイコライザ特性のパラメータを読み出して、デジタルイコライザ回路305に供給して、イコライザ特性を変更する(ステップS126)。
次に、叩打判定回路308は、図16のステップS107に飛んで、次の取り込み区間を設定し、その後、ステップS101に戻って、このステップS101以降の処理を繰り返す。
また、ステップS119で、閾値θthを超える相互相関値CORのうち、前回と異なるものがあると判別される状態は、図示は省略するが、図20および図21において、区間PD5で、閾値θthを超える相関値CORが2個以上存在する状態であるので、それは、連続的な3個以上の叩打であるとして、叩打判定回路308は、ノイズモード切換操作指示やイコライザ変更操作指示などのコマンド入力操作はなかったと判定し、制御回路304には何も通知しない(図16のステップS105)。このため、制御回路304は、ノイズモードの切換変更やイコライザ特性の変更などをしない(ステップS106)。
そして、叩打判定回路308は、次の取り込み区間PDを設定し(ステップS107)、その後、ステップS101に戻って、このステップS101以降の処理を繰り返す。
次に、ステップS104で、叩打判定回路308が、取り込み区間PD内で相互相関値CORが閾値θthを超えた回数が2回であると判別したときには、叩打判定回路308は、前の取り込み区間PDで、相関値CORが閾値θthを1回以上超えたか否か判別する(図18のステップS121)。
このステップS121で、前の取り込み区間PDで、相関値CORが閾値θthを1回以上超えたと判別したときには、叩打判定回路308は、前の取り込み区間PDで、閾値θthを超える相関値CORのうちで、今回、閾値θthを超える相関値CORと異なる時点のものがあるか否か判別する(ステップS122)。
このステップS122で、前の取り込み区間PDで、閾値θthを超える相関値CORのうちで、今回、閾値θthを超える相関値CORと異なる時点のものがあると判別される状態は、例えば図24に示すような状態であって、連続して3回、ヘッドホン筐体2が叩打された場合などである。
そのため、このステップS122で、前の取り込み区間PDで、閾値θthを超える相関値CORのうちで、今回、閾値θthを超える相関値CORと異なる時点のものがあると判別されたときには、叩打判定回路308は、図16のステップS105に進み、ノイズモード切換操作指示やイコライザ変更操作指示などのコマンド入力操作はなかったと判定し、制御回路304には何も通知しない。そして、このステップS105以降の処理を繰り返す。
次に、ステップS122で、前の取り込み区間PDで、閾値θthを超える相関値CORのうちで、今回、閾値θthを超える相関値CORと異なる時点のものがないと判定される状態は、例えば図22および図23に示すような状態が考えられ、さらに次の取り込み区間PDにおける取り込み波形の状態を把握する必要がある。すなわち、図22および図23では、ステップS122における現在の取り込み区間は区間PD3であって、次の取り込み区間PD4の状態を見る必要がある。
そのため、このステップS122で、前の取り込み区間PDで、閾値θthを超える相関値CORのうちで、今回、閾値θthを超える相関値CORと異なる時点のものがないと判別されたときには、叩打判定回路308は、次の取り込み区間PD(図22および図23では取り込み区間PD4)を設定し、取り込み波形データと記憶している叩打波形データとの相互相関値CORを計算する(ステップS123)。
そして、叩打判定回路308は、計算の結果得られた相互相関値CORの中の閾値θthを超えるもののうち、当該閾値θthを超えた時点として、前回(図22および図23では取り込み区間PD3)と異なるものがあるか否か判別する(ステップS124)。
この場合において、閾値θthを超えた時点として、前回(図22および図23では取り込み区間PD3)と今回(図22および図23では取り込み区間PD4)とで異なる時点のものが無い状態は、例えば図22の状態である。また、閾値θthを超えた時点として、前回(図22および図23では取り込み区間PD3)と今回(図22および図23では取り込み区間PD4)とで異なる時点のものが存在する状態は、例えば図23の状態である。
このため、ステップS124で、閾値θthを超えた時点として、前回(図22および図23では取り込み区間PD3)と今回(図22および図23では取り込み区間PD4)とで異なる時点のものが無いと判別したときには、叩打判定回路308は、ヘッドホン筐体2が2回連続的に叩打されたと判定し(図18のステップS125)、その旨を制御回路304に伝える。
すると、制御回路304は、ヘッドホン筐体2が2回叩打されたことをイコライザ特性の変更指示として認識して、前述したように、メモリ24から次にデジタルイコライザ回路305に設定するイコライザ特性のパラメータを読み出して、デジタルイコライザ回路305に供給して、イコライザ特性を変更する(ステップS126)。
次に、叩打判定回路308は、図16のステップS107に飛んで、次の取り込み区間を設定し、その後、ステップS101に戻って、このステップS101以降の処理を繰り返す。
また、ステップS124で、閾値θthを超えた時点として、前回(図22および図23では取り込み区間PD3)と今回(図22および図23では取り込み区間PD4)とで異なる時点のものが無いと判別したときには、叩打判定回路308は、連続的な3個以上の叩打であるとして、叩打判定回路308は、ノイズモード切換操作指示やイコライザ変更操作指示などのコマンド入力操作はなかったと判定し、制御回路304には何も通知しない(図16のステップS105)。このため、制御回路304は、ノイズモードの切換変更やイコライザ特性の変更などをしない(ステップS106)。
そして、叩打判定回路308は、次の取り込み区間PDを設定し(ステップS107)、その後、ステップS101に戻って、このステップS101以降の処理を繰り返す。
次に、ステップS121で、前の取り込み区間PDで、相関値CORが閾値θthを1回も超えないと判別される状態は、例えば図25および図26に示すような状態である。したがって、このときにも、さらに次の取り込み区間PDにおける取り込み波形の状態を把握する必要がある。すなわち、図25および図26では、ステップS121における現在の取り込み区間は区間PD2であって、次の取り込み区間PD3の状態を見る必要がある。
そのため、このステップS121で、前の取り込み区間PDでは、相関値CORが閾値θthを1回も超えないと判別されたときには、叩打判定回路308は、次の取り込み区間PD(図25および図26では取り込み区間PD3)を設定し、取り込み波形データと記憶している叩打波形データとの相互相関値CORを計算する(ステップS123)。
そして、叩打判定回路308は、計算の結果得られた相互相関値CORの中の閾値θthを超えるもののうち、当該閾値θthを超えた時点として、前回(図25および図26では取り込み区間PD3)と異なるものがあるか否か判別する(ステップS124)。
この場合において、閾値θthを超えた時点として、前回(図25および図26では取り込み区間PD2)と今回(図25および図26では取り込み区間PD3)とで異なる時点のものが無い状態は、例えば図25の状態である。また、閾値θthを超えた時点として、前回(図25および図26では取り込み区間PD2)と今回(図25および図26では取り込み区間PD3)とで異なる時点のものが存在する状態は、例えば図26の状態である。
このため、ステップS124で、閾値θthを超えた時点として、前回(図25および図26では取り込み区間PD2)と今回(図25および図26では取り込み区間PD3)とで異なる時点のものが無いと判別したときには、叩打判定回路308は、ヘッドホン筐体2が2回連続的に叩打されたと判定し(図18のステップS125)、その旨を制御回路304に伝える。
すると、制御回路304は、ヘッドホン筐体2が2回叩打されたことをイコライザ特性の変更指示として認識して、前述したように、メモリ24から次にデジタルイコライザ回路305に設定するイコライザ特性のパラメータを読み出して、デジタルイコライザ回路305に供給して、イコライザ特性を変更する(ステップS126)。
次に、叩打判定回路308は、図16のステップS107に飛んで、次の取り込み区間を設定し、その後、ステップS101に戻って、このステップS101以降の処理を繰り返す。
また、ステップS124で、閾値θthを超えた時点として、前回(図25および図26では取り込み区間PD2)と今回(図25および図26では取り込み区間PD3)とで異なる時点のものがあると判別したときには、叩打判定回路308は、連続的な3個以上の叩打であるとして、叩打判定回路308は、ノイズモード切換操作指示やイコライザ変更操作指示などのコマンド入力操作はなかったと判定し、制御回路304には何も通知しない(図16のステップS105)。このため、制御回路304は、ノイズモードの切換変更やイコライザ特性の変更などをしない(ステップS106)。
そして、叩打判定回路308は、次の取り込み区間PDを設定し(ステップS107)、その後、ステップS101に戻って、このステップS101以降の処理を繰り返す。
以上のようにして、この第1の例では、マイクロホン21の収音音声信号から再生音声信号Sの成分を除去した信号から取り込んだ波形データと、メモリ24に記憶している叩打波形データとの相互相関値に基づいて、ヘッドホン筐体2の1回叩打および2回叩打を判定して、それらをノイズモード切換操作指示およびイコライザ特性変更操作指示とすることができる。
[第1の例の変形例]
上述の説明では、メモリ24には、叩打波形データの代表的波形データを保持するようにしたが、予め、叩打の仕方やヘッドホン筐体2の叩打位置によって、何種類か叩打波形データについて波形に異なる傾向がある場合には、それらの異なる種類の叩打波形データをすべてメモリ24に記憶させておき、すべての叩打波形データについて、上述の相互相関処理を行なって、ヘッドホン筐体2の1回叩打および2回叩打を判定するようにしてもよい。
また、上述の実施形態の説明では、メモリ24には、予め、叩打波形データを記憶しておくようにしたが、ユーザが実際にヘッドホン筐体2を叩打したときのマイクロホン21の収音音声信号から得た叩打波形データを、メモリ24に記憶する学習機能を、DSP232に設けるようにすることもできる。
その場合には、例えばDSP232の制御回路305に対して学習機能起動用の特定の操作手段を設けておき、当該操作手段が操作されたら、制御回路305は、電子音や音声メッセージなどで、ユーザに叩打波形データの登録準備完了を通知する。そして、制御回路304は、その後のユーザのヘッドホン筐体2の叩打を、登録する叩打波形データの取り込み指示であると認識し、マイクロホン21の収音音声信号から得た叩打波形データを取り込んで、メモリ24に記憶するようにする。
この場合に、メモリ24に既に叩打波形データが書き込まれている場合には、新たな叩打波形データに置き換えるようにしても良いし、新たな叩打波形データとメモリ24に既に書き込まれていた叩打波形データとを平均化し、その平均化した叩打波形データをメモリ24に書き直すようにしても良い。
また、上述の実施形態では、ヘッドホン筐体2の叩打について、1回叩打と、2回叩打とを検出する場合について説明したが、さらに3回叩打、4回叩打、などを検出することができるようにして、多種の処理に対する操作指示とすることができる。
例えば、DSP232の制御回路305に対して学習機能起動用の特定の操作手段を設ける代わりに、ヘッドホン筐体2の叩打、例えば、3回連続的なヘッドホン筐体2の叩打を、学習機能起動用の指示操作とするようにしてもよい。
[叩打判定の第2の例]
この第2の例の叩打判定方法は、第1の例のようにメモリ24に叩打波形データを予め記憶することはしない、簡易的な叩打判定の方法であって、図15に示した叩打波形の形状に着目した方法である。
すなわち、図15に示すように、叩打波形は、その最大振幅値を示すサンプルの前後のサンプル部分では、比較的決まった減衰率で減衰していることが分かっている。
そこで、この第2の例においては、ほぼ一つの叩打波形(叩打応答波形)が収まる時間長を、前述した波形データの取り込み区間PDとして、この取り込み区間PDの中で、最大振幅値サンプルを調べる。そして、最大値サンプルを検出することができたら、その前後のサンプルの振幅値を調べ、最大値からの減衰比率として、上記の決まった減衰率に等しいあるいは類似するものとなっているどうかにより、取り込み区間PD内に叩打波形が含まれているか否かを判定する。つまり、ヘッドホン筐体2のユーザによる叩打を判定する。
この第2の例の場合には、取り込み区間PDは重複させない、あるいは、重複させる場合には、ごく短時間分とする。そして、上述したように、第2の例においては、取り込み区間PDの時間長は、ほぼ一つの叩打波形(叩打応答波形)が収まる時間長であるので、図27(A)および(B)に示すように、ユーザによるヘッドホン筐体2の1回叩打および2回叩打は、1回叩打を検出した取り込み区間PDaと、その直後の取り込み区間PDbにおける叩打判定結果を用いて判定するようにする。
この第2の例においては、叩打判定回路308は、叩打回数カウンタを備え、連続する2個の取り込み区間における叩打回数をカウントするようにするようにする。
ただし、ユーザのヘッドホン筐体2の叩打タイミングが、取り込み区間PDの境目近傍(取り込み区間PDの端)のときには、図27(C)に示すように、2つの取り込み区間PDaおよびPDbを結合して、叩打判定を行なうようにする。
この第2の例の叩打判定方法の場合における処理の流れの例を、図28およびその続きである図29を参照しながら説明する。なお、図28および図29のフローチャートは、叩打判定回路308と制御回路304とが実行する処理ステップを示したものである。
まず、叩打判定回路308は、設定された波形データの取り込み区間PDにおいて、減算回路307で再生音声信号Sの成分が除去されたマイクロホン21の収音音声信号の波形データを取り込み、取り込んだ波形データを、バッファメモリに一時保持するようにする(ステップS201)。
次に、叩打判定回路308は、減算回路307からのデータについて、バッファメモリに波形データ取込区間PD分の波形データの取り込みが完了すると、取り込んだ波形データのうちで、最大振幅値を示すサンプルを検出する(ステップS202)。
最大振幅値を示すサンプルが検出したら、叩打判定回路308は、当該最大振幅値を示すサンプルが、取り込み区間PDの端にあって、当該最大振幅値を示すサンプルの前後のサンプルの観測が可能であるか否か判別する(ステップS203)。
そして、最大振幅値を示すサンプルの前後のサンプルの観測が可能であると判別したときには、叩打判定回路308は、そのままステップS205に進む。また、最大振幅値を示すサンプルの前後のサンプルの観測が可能ではないと判別したときには、叩打判定回路308は、最大振幅値を示すサンプルの前後のサンプルの観測ができる2個の取り込み区間PDを結合して、観測区間を2区間とし(ステップS204)、その後、ステップS205に進む。
ステップS205では、最大振幅値を示すサンプルの前後のサンプルデータに関して、最大振幅値を基準にした規定比率で減衰したものとなっているかどうか調査する。そして、叩打判定回路308は、取り込んだ波形データが、最大振幅値を基準にした規定比率で減衰したものとなっているか否か判別する(ステップS206)。
このステップS206で、取り込んだ波形データが、最大振幅値を基準にした規定比率で減衰したものとなっていると判別したときには、叩打判定回路308は、叩打回数カウンタを1だけインクリメントする(図29のステップS221)。
そして、叩打判定回路308は、叩打回数カウンタのカウント値から、直前の取り込み区間PDで叩打回数カウンタがインクリメントされたか否か判別し(ステップS222)、インクリメントされていると判別したときには、ヘッドホン筐体2が2回叩打されたと判定し、その旨を制御回路304に通知する(ステップS223)。
制御回路304は、この2回叩打の通知を受けて、その通知をイコライザ特性の変更指示として認識し、前述したように、メモリ24から次にデジタルイコライザ回路305に設定するイコライザ特性のパラメータを読み出して、デジタルイコライザ回路305に供給して、イコライザ特性を変更する(ステップS224)。
次に、叩打判定回路308は、次の取り込み区間を設定し(ステップS225)、その後、ステップS201に戻って、このステップS201以降の処理を繰り返す。
ステップS222で、直前の取り込み区間で、インクリメントされていないと判別したときには、叩打判定回路308は、そのままステップS201に戻って、このステップS201以降の処理を繰り返す。
また、ステップS206で、取り込んだ波形データが、最大振幅値を基準にした規定比率で減衰したものとなっていないと判別したときには、叩打判定回路308は、叩打回数カウンタのカウント値から、直前の取り込み区間PDで叩打回数カウンタがインクリメントされたか否か判別する(ステップS207)。
このステップS207で、直前の取り込み区間PDで叩打回数カウンタがインクリメントされていないと判別したときには、叩打判定回路308は、叩打回数カウンタをリセットし(ステップS208)、次の取り込み区間を設定する(ステップS211)。そして、ステップS201に戻り、このステップS201以降の処理を繰り返す。
また、ステップS207で、直前の取り込み区間PDで叩打回数カウンタがインクリメントされていると判別したときには、叩打判定回路308は、叩打判定回路308は、ヘッドホン筐体2が1回叩打されたと判定し、その旨を制御回路304に通知する(ステップS209)。
この1回叩打の判定結果の通知を受け取った制御回路304は、当該通知をノイズモード切換操作指示と認識し、前述したノイズモードの切換変更処理を実行する(ステップS210)。
そして、叩打判定回路308は、次の取り込み区間PDを設定し(ステップS211)、その後、ステップS201に戻って、このステップS201以降の処理を繰り返す。
なお、ステップS211における「次の取り込み区間PD」は、ステップS204で2個の取り込み区間を結合したときには、その結合された2個の取り込み区間の後の取り込み区間であることはいうまでもない。
[叩打判定の第3の例]
この第3の例の叩打判定方法は、ヘッドホン筐体2の構造を工夫して、ユーザがヘッドホン筐体2を叩打したときの応答波形が、他のノイズや音声信号と区別がつきやすい特長を有するようにする方法である。
この第3の例においては、例えば、図30に示すように、ヘッドホン筐体2内に、音響的な機械構成部分として、容積Vの小部屋4と、この小部屋4と連通するポート5とを設ける。この場合、小部屋4とポート5とは、ヘッドホン筐体2を叩打したときに、共振点が形成されるように形成される。
図31は、この小部屋4とポート5とからなる部分の等価構成図である。ポート5の長さをL、断面積をSとし、また、小部屋4の容積をVとしたとき、共振点の周波数foは、
fo=c/(2π)・(S/(LV))1/2 ・・・(式8)
となる。ここで、cは音波の速度である。(式8)から、小部屋4の容積Vと、ポート5の断面積Sおよび長さLを適当に選定することにより、共振周波数foを、ヘッドホン筐体2を叩打したときの共振周波数に設定するように構成することができる。
ヘッドホン筐体2内に、小部屋4およびポート5からなる音響的な機械構成部分を設け、その音響的な機械構成部分の共振周波数foが、ヘッドホン筐体2を叩打したときの共振周波数と等しくなるように構成することにより、ヘッドホン筐体2をユーザが叩打したときには、その応答波形は、音響的な機械構成部分の共振点の影響を大きく受け、共振周波数foを中心とした大きなエネルギーを有するものとなる。
このことを踏まえて、この第3の例においては、図30に示すように、減算回路307の出力信号に対して、共振周波数foを通過中心周波数とする急峻な通過帯域特性を有するバンドパスフィルタ309を設ける。そして、このバンドパスフィルタ309の出力信号を、叩打判定回路310に供給するようにする。
叩打判定回路310は、バンドパスフィルタ309からの信号振幅が、叩打されたと判別することができるような閾値レベルRthを超えたときに、ヘッドホン筐体2に対する叩打があったと判定するようにする(図32(A)参照)。
そして、叩打判定回路310は、2回叩打は、次のようにして判定する。すなわち、この第3の例においては、叩打判定回路310は、図32(A)のように、バンドパスフィルタ309からの信号振幅が閾値レベルRthを超えた先頭の時点で、図32(B)に示すような所定のウィンドウ幅WのウィンドウパルスPwを立ち上げるようにする。
そして、このウィンドウパルスPwのウィンドウ幅W内において、バンドパスフィルタ309からの信号振幅が閾値レベルRthを超えるパルス状成分があるか否か判別する。そして、叩打判定回路310は、ウィンドウパルスPwのウィンドウ幅W内に、閾値レベルRthを超えるパルス状成分が無いと判別したときには、ヘッドホン筐体2は、1回叩打されたと判定し、その判定結果を制御回路304に通知する。また、ウィンドウパルスPwのウィンドウ幅W内に、閾値レベルRthを超えるパルス状成分があり、それが1個であると判別したときには、叩打判定回路310は、ヘッドホン筐体2は、2回叩打された判定し、その判定結果を制御回路304に通知する。
なお、叩打判定回路310は、ウィンドウパルスPwのウィンドウ幅W内に、閾値レベルRthを超えるパルス状成分があっても、それが2個以上であると判別したときには、叩打が3回以上であるので、この例においては、制御回路304には何も通知しない。
制御回路304は、叩打判定回路310からの通知を、ノイズモード切換操作指示あるいはイコライザ変更操作指示として認識し、上述したのと同様にして、ノイズモードの切換変更処理あるいはイコライザ特性の変更処理を実行する。
以上のように、この第3の例によれば、叩打判定回路310は比較的簡単な構成とすることができる。
[第3の例の変形例]
上述の第3の例では、ヘッドホン筐体2内に、小部屋4およびポート5からなる音響的な機械構成部分を設けて、共振点を作るようにしたが、このような音響的な機械構成部分をヘッドホン筐体2内に設けずに、例えばヘッドホン筐体2自身が共振点を持つような構造とするようにしても良い。
その場合には、音声信号Sの再生に対しては、音響的には共振の影響は少ないが、実際にヘッドホン筐体2を叩打したときには、大きく共振が影響することにより、叩打判定を容易にすることができる。
また、減算回路307の出力信号は、音声信号Sの成分が除去されたものであって、しかも、図15に示したように、ヘッドホン筐体2が叩打されたときの叩打波形は、比較的大振幅を有するものであるので、上述のような共振点を作らなくても、減算回路307の出力信号において、所定の閾値レベルよりも大きな振幅成分をヘッドホン筐体2の叩打による成分として検出するようにしてもよい。
[第2の実施形態(フィードフォワード方式のノイズ低減装置)]
図33は、この発明による音声出力装置の第2の実施形態としてヘッドホン装置のノイズ低減装置部に、図1のフィードバック方式に代えて、フィードフォワード方式のノイズ低減装置を適用した場合を示すブロック図である。この図33において、図1における場合と同様の部分については、同一番号を付してある。
この第2の実施形態におけるノイズ低減装置部30は、音響−電気変換手段としてのマイクロホン31、マイクアンプ32、ノイズ低減用のフィルタ回路33、メモリ34などを備える構成とされている。
ノイズ低減装置部30は、前述したフィードバック方式のノイズ低減装置部20と同様に、ドライバー11、マイクロホン31、また、音声信号入力端12を構成するヘッドホンプラグと接続ケーブルで接続されている。30a,30b,30cは、ノイズ低減装置部30に対して接続ケーブルが接続される接続端子部である。
この第2の実施形態では、リスナ1の音楽聴取環境において、ヘッドホン筐体2の外のノイズ源3から、ヘッドホン筐体2内のリスナ1の音楽聴取位置に入り込むノイズをフィードフォワード方式で低減して、音楽を良好な環境で聴取することができるようにする。
フィードフォワード方式のノイズ低減システムは、基本的には、図33に示すように、ヘッドホン筐体2の外部にマイクロホン31が設置されており、このマイクロホン31で、収音したノイズ3に対して適切なフィルタリング処理をしてノイズ低減音声信号を生成し、この生成したノイズ低減音声信号を、ヘッドホン筐体2の内部のドライバー11にて音響再生し、リスナ1の耳に近いところで、ノイズ(ノイズ3´)をキャンセルするようにする。
マイクロホン31で収音されるノイズ3と、ヘッドホン筐体2内のノイズ3´とは、両者の空間的位置の違い(ヘッドホン筐体2の外と内の違いを含む)に応じた異なる特性となる。したがって、フィードフォワード方式では、マイクロホン31で収音したノイズ源3からのノイズと、ノイズキャンセルポイントPcにおけるノイズ3´との空間伝達関数の違いを見込んで、ノイズ低減音声信号を生成するようにする。
この実施形態では、フィードフォワード方式のノイズ低減音声信号生成部として、デジタルフィルタ回路33を用いる。この実施形態では、フィードフォワード方式でノイズ低減音声信号を生成するので、デジタルフィルタ回路33は、以下、FFフィルタ回路33と称することとする。
FFフィルタ回路33は、FBフィルタ回路23と全く同様に、DSP(Digital Signal Processor)332と、その前段に設けられるA/D変換回路331と、その後段に設けられるD/A変換回路333とで構成される。
この実施形態では、図34に示すように、DSP332には、デジタルフィルタ回路401と、ゲイン可変回路402と、加算回路403と、制御回路404と、デジタルイコライザ回路405と、伝達関数Hff乗算回路406と、除去回路の例を構成する減算回路407と、叩打判定回路408が構成されている。
そして、図34に示すように、マイクロホン31で収音された得られたアナログ音声信号は、マイクアンプ32を通じてFFフィルタ回路33に供給され、A/D変換回路331によりデジタル音声信号に変換される。そして、そのデジタル音声信号がDSP332のデジタルフィルタ回路401に供給される。
DSP332のデジタルフィルタ回路401は、フィードフォワード方式のデジタルノイズ低減音声信号を生成するためのデジタルフィルタである。このデジタルフィルタ回路401は、これに入力されるデジタル音声信号から、これに設定されるパラメータとしてのフィルタ係数に応じた特性の前記デジタルノイズ低減音声信号を生成する。デジタルフィルタ回路401に設定されるフィルタ係数は、この実施形態では、制御回路404により、メモリ34から読み出されて供給される。
この実施形態では、メモリ34には、種々の異なる複数のノイズ環境におけるノイズを、DSP332のデジタルフィルタで回路401で生成するフィードフォワード方式によるノイズ低減音声信号により低減することができるようにするために、後述するような複数個(複数セット)のパラメータとしてのフィルタ係数が記憶されている。
制御回路404は、上述の第1の実施形態と同様に、メモリ34から、特定の1個(1セット)のフィルタ係数を読み出して、DSP332のデジタルフィルタ回路401に設定するようにする。
そして、この実施形態では、制御回路404に対しては、叩打判定回路408からの叩打判定信号が供給されており、制御回路404は、この叩打判定回路408からの叩打判定信号が、ユーザにより筐体2が1回叩打されたと判断したときに、メモリ24から読み出す特定の1個(1セット)のフィルタ係数を変更して、デジタルフィルタ回路401に設定するようにする。
そして、デジタルフィルタ回路401では、制御回路404を介してメモリ34から選択的に読み出されて設定されたフィルタ係数に応じたデジタルノイズ低減音声信号を生成する。
そして、デジタルフィルタ回路401で生成されたデジタルノイズ低減音声信号は、図34に示すように、ゲイン可変回路402を通じて加算回路403に供給される。この実施形態では、ゲイン可変回路402は、制御回路404の制御を受けて、ノイズモードの切換変更時に、ゲイン制御される。
一方、音声信号入力端12を通じた聴取対象の音声信号S(例えば音楽信号)が、A/D変換回路25でデジタル音声信号に変換された後、DSP332のデジタルイコライザ回路405に供給されて、音声信号Sについての振幅−周波数特性補正や位相−周波数特性補正、あるいはその両方などの音質補正がなされる。
フィードフォワード方式のノイズ低減システムの場合には、デジタルフィルタ401のフィルタ係数を変更してノイズ低減カーブ(ノイズ低減特性)を変更しても、外部入力される聴取対象の音声信号Sは、ノイズ低減効果の周波数カーブ(周波数特性)に対応した影響を受けない。このため、この第2の実施形態では、ノイズモードを切換変更処理をする際には、制御回路404は、デジタルイコライザ回路405のイコライザ特性の変更処理は行なわない。
ただし、第1の実施形態と同様に、この第2の実施形態においても、ユーザによりデジタルイコライザ回路305のイコライザ特性を変更指示することができるように構成されている。このため、この第2の実施形態でも、ヘッドホン筐体2が1回叩打されたときには、その1回叩打は、ノイズモードの変更入力コマンドであると判断し、ヘッドホン筐体2が2回叩打されたときには、イコライザ特性の変更指示コマンドであると判断するようにする。
デジタルイコライザ回路405の出力音声信号は、加算回路403に供給されて、ゲイン可変回路402からのノイズ低減音声信号と加算される。そして、その加算信号が、DSP332の出力としてD/A変換回路333に供給され、このD/A変換回路333においてアナログ音声信号に変換される。そして、このアナログ音声信号が、FFフィルタ回路33の出力信号としてパワーアンプ13に供給される。そして、このパワーアンプ13からの音声信号がドライバー11に供給されて、音響再生され、リスナ1の両耳(図33および図34では右耳のみが示されている)に対して、その再生音が放音されるようにされる。
この音響再生されてドライバー11により放音される音声には、FFフィルタ33において生成されたノイズ低減音声信号による音響再生成分が含まれる。このドライバー11で音響再生された放音された音声のうちの、ノイズ低減音声信号による音響再生成分とノイズ3´とが、音響合成されることにより、ノイズキャンセルポイントPcでは、ノイズ3´が低減(キャンセル)される。
次に、フィードフォワード方式のノイズ低減装置のノイズ低減動作について、伝達関数を用いて、図35を参照しながら説明する。図35は、図33に示したブロック図に対応して、各部をその伝達関数を用いて表したブロック図である。
この図35において、Aはパワーアンプ13の伝達関数、Dはドライバー11の伝達関数、Mはマイクロホン31およびマイクアンプ32の部分に対応する伝達関数、−αはフィードフォワードのために設計されたデジタルフィルタ回路401の伝達関数である。また、Hはドライバー11からキャンセルポイントPcまでの空間の伝達関数、Eは聴取目的の音声信号Sにかけられるイコライザ15の伝達関数である。そして、Fは、外部のノイズ源3のノイズNの位置からリスナの耳のキャンセルポイントPcの位置に至るまでの伝達関数である。
この図35のように表したとき、図35のブロックは、図4の(式5)で表現することができる。なお、F´は、ノイズ源からマイク位置までの伝達関数を表す。上記の各伝達関数は複素表現されているものとする。
ここで、理想的な状態を考えると、伝達関数Fが図4の(式6)のように表せるとすると、図4の(式5)は、図4の(式7)で表すことができ、ノイズはキャンセルされ、音楽信号(または聴取する目的とする音楽信号等)Sだけが残り、通常のヘッドホン動作と同様の音を聴取することができることが分かる。このときの音圧Pは、図4の(式7)のように表される。
ただし実際は、図4の(式6)が完全に成立するような伝達関数を持つ完全なフィルタの構成は困難である。特に中高域に関して、人により装着や耳形状により個人差が大きいことと、ノイズの位置やマイク位置などにより特性が変化する、などの理由のため通常は中高域に関しては、このアクティブなノイズ低減処理を行わず、ヘッドホン筐体2でパッシブな遮音をすることが多い。
なお、図4の(式6)は、数式を見れば自明であるが、ノイズ源から耳位置までの伝達関数を、デジタルフィルタの伝達関数αを含めた電気回路にて模倣することを意味している。
なお、この第2の実施形態のフィードフォワード型でのキャンセルポイントは、図33に示した通り、図1に示した第1の実施形態のフィードバック型と異なり、聴取者の任意の耳位置において設定することができる。
しかしながら、通常の場合、デジタルフィルタ回路401の伝達関数αは固定的であり、設計段階においては、なんらかのターゲット特性を対象として決定するようにすることになり、人によっては、耳の形状が違うため、十分なノイズキャンセル効果が得られないことや、ノイズ成分を非逆相で加算してしまうことにより、異音がするなどの現象が起こりえる。
一般的に、図36に示すように、第2の実施形態のフィードフォワード方式は、発振する可能性が低く安定度が高いが、十分な減衰量を得るのは困難であり、一方、第1の実施形態のフィードバック方式は、大きな減衰量が期待できる代わりに、系の安定性に注意が必要となる。
ヘッドホン筐体2の叩打の判定は、この第2の実施形態では、マイクロホン31からの収音音声信号から行なうようにする。この場合に、マイクロホン31からの収音音声信号には、再生音声信号(聴取を目的とした再生音楽や通信音声などの成分)の影響を受けると共に、ノイズ低減効果の影響を受ける。ユーザがヘッドホン筐体2を叩打したとき、叩打された筐体2において発生する音は、当然マイクロホン31により収音されるものの、同時に再生音声がドライバー11から放音されているため、この再生音声の中に、筐体2の叩打音が埋もれてしまう可能性もあり、筐体2の叩打をマイクロホン31からの収音音声信号から検知するのは、そのままでは困難である。
そこで、この第2の実施形態では、音声信号Sの音響再生音声の成分を除去して、確実に叩打操作の判定ができるようにしている。
まず、ドライバー11からマイクロホン31までの伝達関数Hffとしたとき、この伝達関数Hffの要素およびそのときに選択されているノイズモードにおけるノイズ低減効果による外部音声信号の周波数特性影響を乗算したフィルタHff_ncを予め計算しておく。そして、実際の運用時には、再生対象の音声信号は、デジタルイコライザ回路405を通した後、上記のフィルタHff_ncを掛けた上で、マイクロホン31の出力信号から減算し、その減算出力信号を基に、叩打判定を行なうようにする。
つまり、これは、マイクロホン31の位置でのドライバー11から発せられた音声信号をなるべく正確にシミュレートし、マイクロホン31位置での音から減算することで、マイクロホン31の収音音声信号から再生音声信号Sの成分を除去するようにしている。
すなわち、この第2の実施形態では、図34に示すように、マイクロホン31からの収音音声信号は、A/D変換回路331でデジタル音声信号に変換された後、減算回路407に供給される。
一方、デジタルイコライザ回路405からの音声信号Sは、前記フィルタHff_nc乗算回路306に供給されて、音声信号Sに対して伝達関数Hffを考慮した前記フィルタHff_ncが乗算される。そして、その乗算結果が減算回路407に供給されて、マイクロホン31からの収音音声信号から減算されて、当該収音音声信号中に含まれる音声信号Sの成分が除去される。
そして、この減算回路407からの音声信号Sの成分が除去されたマイクロホン31の収音音声信号が、叩打判定回路408に供給される。叩打判定回路408では、マイクロホン31からの収音音声信号に、ヘッドホン筐体2が叩打されたときの音声信号成分または振動成分が含まれているかどうかを判定すると共に、所定時間内に当該成分が何個含まれているかにより、叩打の回数も判定するようにする。そして、叩打判定回路408は、その判定結果を制御回路404に供給する。
減算回路407から得られる減算結果には、環境ノイズが多く含まれるが、ユーザがヘッドホン筐体2を叩打したときに、このヘッドホン筐体2を伝わる音は、一般にこれより大きく、また、環境ノイズ中には、叩打時のようなパルス的な音は通常は入らないので、誤認識されることは少ない。
この叩打判定回路408の具体構成例は、前述した第1の実施形態と全く同様とすることができる。ただし、この第2の実施形態において、ヘッドホン筐体2を叩打したときにマイクロホン31から得られる代表的な叩打波形データは、図37に示すようなものとなる。したがって、叩打判定の第1の例において、メモリ34に記憶する叩打波形データは、この図37に示すような叩打波形データとされる。
また、叩打判定の第2の例においては、図37に示すような波形データに基づいて、最大値の検出およびその最大値の前後の区間のサンプルについての減衰率判定により、叩打波形形状の判定を行なうことになる。
そして、この第2の実施形態においても、第1の実施形態と全く同様にして、制御回路404の制御にしたがって、叩打判定に基づいてノイズモードの切換変更処理およびイコライザ特性変更処理がなされる。
そして、制御回路404は、上述のノイズモードの切換変更時においては、第1の実施形態で説明したような第1の例〜第3の例で説明したような制御動作を行なうものである。
[第3の実施形態および第4の実施形態]
ところで、上述した第1および第2の実施形態におけるノイズ低減装置部では、フィルタ回路をデジタル化すると共に、そのフィルタ係数を複数種、メモリに用意しておき、適宜、その複数種のフィルタ係数の中から適切なフィルタ係数を選択してデジタルフィルタに設定することができるように構成した。
しかし、デジタル化したFBフィルタ回路23およびFFフィルタ回路33では、A/D変換回路231および331やD/A変換回路233および333における遅延の問題がある。この遅延の問題について、フィードバック方式のノイズ低減システムに関し、以下に説明する。
例えば、一般的な例として、サンプリング周波数Fsが48kHzのA/D変換回路およびD/A変換回路を用いる場合において、これらA/D変換回路およびD/A変換回路内部でかかる遅延量が、A/D変換回路およびD/A変換回路で各20サンプルとすると、合計40サンプルの遅延が、DSPでの演算遅延に加えて、FBフィルタ回路23のブロックに内包され、その結果、その遅延がオープンループの遅延として系全体に掛かることになる。
具体的に、サンプリング周波数48kHzで40サンプルの遅延分に相当するゲイン・位相を、図38(A)に示すが、数10Hzから位相回転が始まり、Fs/2の周波数(24kHz)に到るまで大きく回転している。これは、図39に示したように、サンプリング周波数48kHzにて1サンプルの遅れは、Fs/2の周波数で180deg.(π)分の遅れに相当し、同じく、2サンプル、3サンプルの遅れは、2π、3π分の遅れに相当ことがわかれば容易に理解できる。
一方、フィードバック構成を前提とした実際のノイズ低減システムを持つヘッドホン構成において、ドライバー11の位置からマイクロホン21までの伝達関数を測定したのが、図40である。この場合、マイクロホン21の配置位置は、ドライバー11の振動板前面近傍に設置されており、両者の距離が近いために位相回転が比較的少ないことがわかる。
図40に示す伝達関数は、図4に示した(式1)、(式2)におけるADHfbMに相当しており、これと、伝達関数−βの特性を持つフィルタを周波数軸上で掛け合わせたものが、そのままオープンループとなる。このオープンループの形状が、図4の(式2)および図5を用いて示した前述の条件を満たす必要がある。
ここで、もう一度、図38(A)の位相特性を見ると、0deg.から始まって1kHz付近で1周(2π)回転していることがわかる。これに加え、図40のADHfbM特性においても、ドライバー11からマイクロホン21までの距離により位相遅れは存在している。
FBフィルタ回路23では、A/D変換回路231およびD/A変換回路233における遅延成分と直列に、自由設計できるDSP232に構成されるデジタルフィルタ部が接続されている。しかし、このデジタルフィルタ部においては、基本的に位相進みのフィルタは、因果律から見て設計することは困難である。ただし、フィルタ形状の構成によっては、特定帯域だけの「部分的な」位相進みはありえるが、この遅延による位相回転を補償するような広い帯域の位相進み回路を作るのは不可能である。
このことを考えると、DSP232により、伝達関数−βの好適なデジタルフィルタを設計しても、この場合、フィードバック構成にてノイズ低減効果を得ることができる帯域は、位相が1周回転する1kHz近辺以下に限られ、ADHM特性をも組み込んだオープンループを想定し、位相余裕・ゲイン余裕を見込むと、その減衰量や減衰帯域は、さらに狭められてしまうことがわかる。
その意味で、図40に示すような特性に対して望ましいβ特性(伝達関数−βのブロック内の位相反転系)というのは、図41に示すように、ゲイン形状がノイズ低減効果を狙う帯域においてほぼ山型の形状を持ちながら、位相回転はあまり起こらない(図41では低域から高域まで位相特性は1回転していない)形状であることがわかる。そこで、系全体として、位相が一回転しないように設計することが、当面の目標となる。
なお、本質的には、ノイズ低減の対象帯域(主として低域)において位相回転が小さければ、帯域外についての位相変化は、ゲインさえ落ちていれば関係ない。しかし、一般に、高域での位相回転が多いと、これは低域にも少なからず影響があるため、広い帯域を対象として位相回転を少なく設計するのが、この実施形態の目的である。
また、アナログ回路においては、図41のような特性は設計可能であり、その意味において、前述したデジタルフィルタで構成するメリットと引き換えに、アナログ回路でシステム設計した場合に比べてノイズ低減効果を大きく損なうことは好ましくない。
ところで、サンプリング周波数を高くすれば、A/D変換回路およびD/A変換回路での遅延を小さくすることできる。しかし、サンプリング周波数を高くしたものは、製品として非常に高価になり、軍事用や産業用としては実現可能である。しかし、音楽聴取用のヘッドホン装置など、一般消費者向けの製品としては、価格が高価になりすぎて、実用度が低い。
そこで、この第3の実施形態および第4の実施形態では、第1の実施形態および第2の実施形態におけるデジタル化のメリットを活かしながら、ノイズ低減効果を、より大きくすることができる手法を提供する。
図42は、第3の実施形態のヘッドホン装置の構成を示すブロック図である。この第3の実施形態は、第1の実施形態のフィードバック方式を用いたノイズ低減装置部20の構成を改善したものである。
この第3の実施形態では、図42に示すように、FBフィルタ回路23の構成を、A/D変換回路231、DSP232、D/A変換回路233からなるデジタル処理系に、アナログフィルタ回路234からなるアナログ処理系を並列に設けたものとする。
そして、アナログフィルタ回路234で生成されたアナログノイズ低減音声信号を、加算回路16に供給するようにする。そして、FBフィルタ回路234のD/A変換回路233からのアナログ信号をこの加算回路16に供給して、アナログフィルタ回路234からの信号と加算する。そして、この加算回路16の出力信号をパワーアンプ13に供給するようにする。その他は、図1に示した構成と全く同一とする。
なお、図42におけるアナログフィルタ回路234は、実際には、入力音声信号に対して、フィルタ処理を行なわずに、入力音声信号をそのままスルーさせて、加算回路16に供給するようにする場合を含む。その場合には、アナログ素子がアナログ処理系に存在しないので、ばらつきや安定性の面で信頼性の高いシステムとなる。
この第3の実施形態のFBフィルタ回路23では、デジタル処理系とアナログ処理系とで、並列に処理した後に両者を加算した結果が、伝達関数βの特性として、図42に示したようなゲイン特性および位相特性を有するように、前述したメモリ24に記憶されるフィルタ係数が設計される。
この第3の実施形態によれば、デジタル処理系のパスに並列にアナログ処理系のパスを加えることにより、上述した問題を軽減して、種々のノイズ環境に応じた良好なノイズ低減を行なうことができる。
デジタル処理系のパスに並列にアナログ処理系のパス(スルーとした場合)を加えたときの特性を、図43に示す。図43(A)は、この例の場合における伝達関数のインパルス応答の先頭部(128サンプルまで)を示し、また、図43(B)は位相特性、図43(C)はゲイン特性をそれぞれ示している。
図43(B)から、この第3の実施形態によれば、アナログパスを加えることで、位相回転が抑えられており、低域から高域に至るまで1回転も位相が回っていないことが分かる。
各特性を別の面から見れば、ノイズ低減の中心となる低域特性は、デジタルフィルタによる処理系の影響が大きくなり、一方、A/D変換回路、D/A変換回路での遅延により、位相回転が大きくなりがちな中高域に関しては、応答の速いアナログパスの特性が効果的に使用されていることになる。
こうして、この第3の実施形態によれば、構成規模を大きくすること無く、種々のノイズ環境に適合させたノイズ低減が可能なノイズ低減装置およびヘッドホン装置を提供することができる。
第3の実施形態は、フィードバック方式のノイズ低減を行なう場合であるが、第2の実施形態のフィードフォワード方式のノイズ低減を行なう場合にも同様に適用することができる。
この第3の実施形態においても、DSP232の制御回路301の制御にしたがって、上述の第1の実施形態で説明したような制御動作がなされるものである。
次に、第4の実施形態は、フィードフォワード方式のノイズ低減を行なう第2の実施形態において、上述したデジタルフィルタのみを用いる場合の問題点を改善したもので、その構成例を図44に示す。
すなわち、この第4の実施形態では、FFフィルタ回路33の構成を、A/D変換回路331、DSP332、D/A変換回路333からなるデジタル処理系に、アナログフィルタ回路334からなるアナログ処理系を並列に設けたものとする。
そして、アナログフィルタ回路334で生成されたアナログノイズ低減音声信号と、D/A変換回路333からのアナログ信号とを、加算回路17で加算し、その加算出力信号をパワーアンプ13に供給するようにする。その他は、図33に示した構成と全く同一とする。
なお、図44におけるアナログフィルタ回路334は、入力音声信号に対して、フィルタ処理を行なわずに、入力音声信号をそのままスルーさせて、加算回路17に供給するようにする場合を含む。その場合には、アナログ素子がアナログ処理系に存在しないので、ばらつきや安定性の面で信頼性の高いシステムとなる。
この第4の実施形態のFFフィルタ回路33では、デジタル処理系とアナログ処理系とで、並列に処理した後に両者を加算した結果が、伝達関数αの特性として、図41に示したようなゲイン特性および位相特性を有するように、前述したメモリ34に記憶されるフィルタ係数が設計される。
なお、上述の実施形態におけるメモリコントローラ25、35は、DSP232、332内に構成することもできる。また、イコライザ回路13も、DSP232、332内に構成し、音声信号Sをデジタル信号に変換して、DSP232、332内のイコライザ回路に供給するようにすることもできる。
この第4の実施形態においても、DSP332の制御回路401の制御にしたがって、上述の第2の実施形態で説明したような制御動作がなされるものである。
[第5の実施形態]
前述したように、第2の実施形態のフィードフォワード方式は、発振する可能性が低く安定度が高いが、十分な減衰量を得るのは困難であり、一方、第1の実施形態のフィードバック方式は、大きな減衰量が期待できる代わりに、系の安定性に注意が必要となる。
そこで、この第5の実施形態では、両方式の利点を持つノイズ低減方式を提供する。すなわち、この第5の実施形態では、図45に示すように、フィードバック方式のノイズ低減装置部20と、フィードフォワード方式のノイズ低減装置部30との両方を備える構成とする。
なお、図45では、伝達関数を用いてブロック構成を示しており、フィードバック方式のノイズ低減装置部20では、マイクロホン21およびマイクアンプ22の部分に対応する伝達関数をM1、FBフィルタ回路23で生成されたノイズ低減音声信号を出力増幅するパワーアンプの伝達関数をA1、そのノイズ低減音声信号を音響再生するドライバーの伝達関数をD1とする。そして、そのドライバーからキャンセルポイントPcまでの空間伝達関数をH1としている。
また、フィードフォワード方式のノイズ低減装置部30では、マイクロホン31およびマイクアンプ32の部分に対応する伝達関数をM2、FBフィルタ回路33で生成されたノイズ低減音声信号を出力増幅するパワーアンプの伝達関数をA2、そのノイズ低減音声信号を音響再生するドライバーの伝達関数をD2とする。そして、そのドライバーからキャンセルポイントPcまでの空間伝達関数をH2としている。
そして、この図45の実施形態では、メモリ34には、FBフィルタ回路23およびFFフィルタ回路33のそれぞれに供給すべき、それぞれ複数セットのフィルタ係数を記憶しており、DSP23および33が備える制御回路301および401が、それぞれ用の複数セットのフィルタ係数の中から、前述したような、ユーザのヘッドホン筐体2の叩打に応じて、適切なフィルタ係数をそれぞれ選択して、それぞれのフィルタ回路23,33に設定するように構成されている。ユーザのヘッドホン筐体2の叩打に基づくイコライザ特性の変更制御についても、同様である。
そして、図45の例では、フィードバック方式のノイズ低減装置部で生成したノイズ低減音声信号を音響再生する系と、フィードフォワード方式のノイズ低減装置部で生成したノイズ低減音声信号を音響再生する系とは、それぞれ別々に設けられる。
そして、図45の例では、フィードバック方式のノイズ低減装置部で生成したノイズ低減音声信号を音響再生する系のパワーアンプおよびドライバーは、ノイズ低減用としてのみ用いられ、フィードバック方式のノイズ低減装置部で生成したノイズ低減音声信号を音響再生する系のパワーアンプおよびドライバーは、ノイズ低減用のみならず、聴取対象の音声信号Sの音響再生用としても用いられる。このため、音声信号Sは、入力端12を通じてA/D変換回路25でデジタル信号に変換され、DSP332内に構成されているデジタルイコライザ回路に供給されるように構成されている。
さらに、この図45の例では、聴取対象の音声信号Sは、A/D変換回路37でデジタル音声信号に変換された後、FFフィルタ回路33のDSP332に供給される。図示は省略したが、この例のDSP332には、フィードフォワード方式のノイズ低減音声信号を生成するためのデジタルフィルタだけでなく、聴取対象の音声信号Sの音声特性を調整するためのイコライザ回路と、加算回路とが構成されており、イコライザ回路の出力音声信号と、デジタルフィルタで生成されたノイズ低減音声信号とが加算回路で加算されて、DSP332から出力されるように構成されている。
この第5の実施形態においては、フィードバック方式のノイズ低減装置部20と、フィードフォワード方式のノイズ低減装置部30とが、それぞれ独立して上述したノイズ低減処理動作を行なう。ただし、ノイズキャンセルポイントPcは、両方式において同一位置となるようにされている。
したがって、この第5の実施形態によれば、フィードバック方式とフィードフォワード方式のノイズ低減処理が相補的に動作して、両方式の利点が得ることができるノイズ低減システムを実現することができる。
なお、図45では、フィードバック方式とフィードフォワード方式の両方で、デジタルフィルタのフィルタ係数の変更を行なうようにしたが、一方の方式のデジタルフィルタのみ、例えばフィードフォワード方式のデジタルフィルタのみについてフィルタ係数を選択変更することができるように構成しても良い。
また、図45の例では、FBフィルタ回路23と、FFフィルタ回路33とは、それぞれ別々のDSPに構成するようにしたが、一つのDSPに構成することで、全体の回路構成を簡略化することができる。また、図45の例では、パワーアンプおよびドライバーも、フィードバック方式のノイズ低減装置部20と、フィードフォワード方式のノイズ低減装置部30とで、別々に設けるようにしたが、前述の実施形態と同様に、一つのパワーアンプ15と、ドライバー11で構成することもできる。そのようにした構成した場合の例を、図46に示す。
すなわち、この図46の例においては、A/D変換回路41と、DSP42と、A/D変換回路43とからなるフィルタ回路40を設ける。また、マイクアンプ21からのアナログ音声信号は、A/D変換回路44によりデジタル音声信号に変換されて、DSP42に供給される。さらに、入力端12を通じて入力された聴取対象の音声信号Sは、A/D変換回路25によりデジタル音声信号に変換されて、DSP42に供給される。
この例においては、DSP42には、図47に示すように、フィードバック方式のノイズ低減音声信号を得るためのデジタルフィルタ回路421と、フィードフォワード方式のノイズ低減音声信号を得るためのデジタルフィルタ回路422と、デジタルイコライザ回路423と、ゲイン可変回路424と、ゲイン可変回路425と、加算回路426と、Hfb_nc乗算回路427と、減算回路428と、叩打判定回路429と、制御回路420とが構成される。
そして、A/D変換回路44からのデジタル音声信号(マイクロホン21で収音された音声のデジタル信号)がデジタルフィルタ回路421に供給され、A/D変換回路41からのデジタル音声信号(マイクロホン31で収音された音声のデジタル信号)がデジタルフィルタ回路422に供給され、A/D変換回路25からのデジタル音声信号(聴取対象音声のデジタル信号)がイコライザ回路423に供給される。
また、前述したように、この例においては、メモリ34には、デジタルフィルタ421用の複数個(複数セット)のフィルタ係数と、デジタルフィルタ422用の複数個(複数セット)のフィルタ係数と、デジタルイコライザ回路423のイコライザ特性変更用のパラメータと、叩打判定方法の第1の例のために用いる叩打波形データとが記憶されている。
そして、制御回路420は、叩打判定回路429からの1回叩打の判定結果に応じて、メモリ34から、デジタルフィルタ回路421用およびデジタルフィルタ回路422用のフィルタ係数を選択して、これらデジタルフィルタ回路421およびデジタルフィルタ回路422に供給するようにする。
また、メモリ34には、デジタルイコライザ回路423のイコライザ特性を、デジタルフィルタ422用の複数個(複数セット)のフィルタ係数に応じたものとするパラメータも記憶されており、制御回路420は、叩打判定回路429からの1回叩打の判定結果操作部36を通じたユーザ操作に応じて、メモリ34から、デジタルフィルタ回路422用のフィルタ係数の選択に応じて、イコライザ特性用のパラメータを選択的に読み出して、デジタルイコライザ回路423に供給するようにする。
そして、デジタルフィルタ回路421およびデジタルフィルタ回路422の出力側には、前述の実施形態と同様に、ゲイン可変回路424および425が設けられており、制御回路420の制御を受けて、上述したようなノイズモードの変更時のノイズ低減効果の制御がなされる。
そして、ゲイン可変回路424および425を通じて得られるデジタルフィルタ回路421およびデジタルフィルタ回路422で生成されたノイズ低減音声信号と、イコライザ回路423からのデジタル音声信号とが加算回路426に供給されて加算され、その加算結果がD/A変換回路43に供給されてアナログ音声信号に変換される。このD/A変換回路43からのアナログ音声信号がパワーアンプ13を通じてドライバー11に供給される。これにより、ノイズキャンセルポイントPcで、ノイズ3´が低減(キャンセル)されるようにされる。
また、制御回路420は、叩打判定回路429からの2回叩打の判定結果に応じて、メモリ34から、イコライザ特性の変更用のパラメータを選択的に読み出して、デジタルイコライザ回路423に供給するようにする。
そして、この例における叩打判定方法は、前述した第1の実施形態の第1の例を用いるものとしており、マイクロホン21からの収音音声信号から叩打判定を行なう。すなわち、Hfb_nc乗算回路427でデジタルイコライザ回路423からの音声信号に、伝達関数Hfb_ncを乗算し、その乗算結果を減算回路428において、A/D変換回路44からのマイクロホン21の収音音声信号から減算する。
そして、この減算回路428の出力信号が叩打判定回路429に供給されて、前述した第1の実施形態における叩打判定の第1の例が実行され、その叩打判定結果が制御回路420に供給される。制御回路420は、前述したように、叩打判定結果に基づいて、ノイズモードの切換変更制御およびイコライザ特性変更制御を行なう。
なお、図47において、40a,40b,40c,40dは、ノイズ低減装置部と、ドライバー11、マイクロホン21、マイクロホン31、入力端12(ヘッドホンプラグ)などとの間で、接続ケーブルが接続される接続端子部である。
この第5の実施形態においても、ノイズモードの切換変更時においては、第1および第2の実施形態と全く同様にして、制御回路420の制御にしたがって、上述の例で説明したような制御動作がなされるものである。
[第6の実施形態]
この第6の実施形態は、前述した第3および第4の実施形態と同様に、第5の実施形態がデジタル処理のみであって、A/D変換回路およびD/A変換回路での遅延の問題があることにかんがみ、当該問題を改善した場合の実施形態である。
すなわち、この第6の実施形態においては、図42および図44に示した第3の実施形態および第4の実施形態と同様に、デジタルフィルタの系と並列にアナログフィルタの系を設ける。図48に、この第6の実施形態の場合のノイズ低減装置部50の例のブロック図を示す。
この第6の実施形態のノイズ低減装置部50においては、図48に示すように、フィードバック方式のアナログノイズ低減音声信号を生成するためのアナログフィルタ回路51と、フィードフォワード方式のアナログノイズ低減音声信号を生成するためのアナログフィルタ回路52と、加算回路53とを、図47の構成に追加する。
そして、マイクアンプ22からのアナログ音声信号は、A/D変換回路44に供給されると共に、フィードバック方式のアナログノイズ低減音声信号を生成するためのアナログフィルタ回路51に供給される。そして、このアナログフィルタ回路51からのアナログノイズ低減音声信号が加算回路53に供給される。
また、マイクアンプ32からのアナログ音声信号は、A/D変換回路41に供給されると共に、フィードフォワード方式のアナログノイズ低減音声信号を生成するためのアナログフィルタ回路52に供給される。そして、このアナログフィルタ回路52からのアナログノイズ低減音声信号が加算回路53に供給される。
そして、加算回路53においては、さらに、D/A変換回路43からのノイズ低減音声信号と聴取対象音声信号との加算信号が供給される。そして、加算回路53からの音声信号がパワーアンプ15を通じてドライバー11に供給される。これにより、この実施形態においては、フィードバック方式のノイズ低減処理と、フィードフォワード方式のノイズ低減処理とを併用すると共に、デジタルフィルタのみでノイズ低減音声信号を生成する場合の問題を解決して、一般消費者用として実現可能なノイズ低減装置およびヘッドホン装置を提供することができる。
この第6の実施形態においても、ノイズモードの切換変更時においては、第5の実施形態と全く同様にして、制御回路420の制御にしたがって、上述の実施形態で説明したような制御動作がなされるものである。
[叩打判定方法の他の実施形態]
ヘッドホン筐体2が叩打されたことを判定ないし検出する方法としては、マイクロホン21または31を、次のような構成とすることにより、より簡単に検出することができる。
すなわち、図49は、この実施形態を、マイクロホン21に適用した場合の例である。この例においては、マイクロホン21として、2個のマイクロホン素子21aと21bとを、その互いの振動板を対向させた状態で設ける。そして、収音すべき音声(音声入力)は、図49に示すように、これら2個のマイクロホン素子21aおよび21bの対向する振動板の間に入力するような構造とする。
このようにすると、マイクロホン素子21aと、マイクロホン素子21bとで、収音音声に対するそれぞれの振動板の凹方向振動と、凸方向振動とが、同相になる。このため、図50(A)に示すように、マイクロホン素子21aの出力信号maと、マイクロホン素子21bの出力信号mbとは同相となる。したがって、それぞれマイクロホン素子21a,21bからの収音音声信号ma,mbをマイクアンプ22a,22bを通じて加算回路61で加算することで、収音音声信号の出力信号を得ることができる。
一方、ヘッドホン筐体2がたたかれたことによる振動は、マイクロホン21全体として加わるので、マイクロホン素子21aと、マイクロホン素子21bとでは、それぞれの振動板の凹方向振動と、凸方向振動とが、逆相になる。このため、図50(B)に示すように、マイクロホン素子21aの出力信号maと、マイクロホン素子21bの出力信号mbとは同相となる。したがって、加算回路61では、ヘッドホン筐体2が叩打されたことによる振動の成分は除去される。
一方、マイクアンプ22aの出力信号と、マイクアンプ22bの出力信号とを減算回路62で減算すると、同相である収音音声信号成分は相殺されてしまうが、逆相である、ヘッドホン筐体2が叩打されたことによる振動成分が得られる。
そして、この振動成分について、所定の閾値を超えるものとして叩打成分を検出することで、ユーザによりヘッドホン筐体2が叩打されたことを検出することができる。
[その他の実施形態および変形例]
以上の第1〜第6の実施形態では、ヘッドホン筐体2が1回叩打される毎に、デジタルフィルタ回路に構成されるNCフィルタを、したがって、ノイズモードを変更するようにする場合について説明したが、この発明は、同じノイズモードのNCフィルタをどの程度のノイズ低減量で使用するのが好適であるかを検出する場合にも適用できる。
すなわち、その場合には、ヘッドホン筐体2の1回叩打が検出される毎に、ノイズ低減効果漸増区間Bにおける最大低減量を、図51に示すように、同じNCフィルタにおける第1最大低減量、第2最大低減量、第3最大低減量というように、変更する。ユーザは、いずれの最大低減量が、当該NCフィルタの最大低減量として有効であるかを判断することができる。
また、以上の第1〜第6の実施形態では、ヘッドホン筐体2が1回叩打される毎に、異なるノイズ環境に対応したノイズモードに変更する場合の告知は、音声により行うようにしたが、音声に限られるものではない。例えば、装置に表示部を設け、各ノイズ環境(ノイズモード)の名称(「駅のプラットホーム」、「飛行場」、「電車の中」など)を表示部に表示してユーザに告知するようにしても良い。
また、上述の実施形態では、ヘッドホン筐体2が1回叩打される毎に、ノイズモードを変更するようにしたが、一つのユーザ操作があったら、DSPの制御回路は、メモリ24または34から、複数個のノイズモードのNCフィルタを、順次に予め定めた一定期間ずつ、デジタルフィルタ回路に設定し、リスナに前記一定時間ずつ、そのノイズ低減効果を体験させるようにしても良い。この場合においては、前記一定時間について、ノイズ低減効果オフ区間、ノイズ低減効果漸増区間B、ノイズ低減効果最大区間Cや、告知区間D、さらには、ノイズ低減効果漸減区間Eを設けて、各NCフィルタについてのノイズ低減効果の体験区間の区切りを明確にすることができる。
なお、このように連続的に、複数のノイズモードをユーザに提示するようにする場合には、すべてのノイズモードのNCフィルタについてのノイズ低減効果の聴取を終了した後、リスナからの何番目のノイズモードが最適化の入力を受けるようにするか、あるいは、最適なノイズモードであるとユーザが判断したノイズモードの選択中時点に、ユーザが所定のユーザ操作をするようにして、ノイズモードをユーザが決定するようにする。後者の場合には、複数個のノイズモードを順次に選択してリスナに一定時間ずつ聴取させる動作を、前記複数個のフィルタ係数について何回か繰り返すようにすると良い。
なお、ユーザが、最適なノイズモードであるかどうかを判断する際に、聴取対象の音声信号Sが再生されていて、前記判断が困難であるときには、フィルタ係数変更のユーザ操作(ヘッドホン筐体2の叩打など)があったとき、音声信号Sを、ユーザがノイズ低減効果を判断できるような所定時間の間、強制的にミューティングするようにすると良い。
上述の各実施形態の説明では、FBフィルタ回路およびFFフィルタ回路において、デジタルフィルタ回路は、DSPを用いて構成したが、このDSPの代わりにマイクロコンピュータ(あるいはマイクロプロセッサ)を用いて、ソフトウエアプログラムによりデジタルフィルタ回路の処理を行うようにすることができる。
そして、DSPの代わりにマイクロコンピュータ(あるいはマイクロプロセッサ)を用いる場合には、メモリコントローラの部分も、そのソフトウエアプログラムにより構成することができる。また、逆に、DSPにメモリコントローラの部分を構成するようにすることも可能である。
また、以上の実施形態は、この発明の実施形態の音声出力装置が、ヘッドホン装置である場合について説明したが、マイクロホンを備えるイヤホン装置やヘッドセット装置、さらには携帯電話端末などの通信端末にも適用できる。
また、この発明の実施形態の音声出力装置は、ヘッドホン、イヤホン、ヘッドセットと組み合わせた携帯型音楽再生装置にも適用可能である。
その場合、電気−音響変換手段は、ヘッドホンドライバーに限らず、イヤホンドライバーとなる。また、音響−電気変換手段は、音波による振動を電気信号に変換することができるものであれば、どのような構造のものであってもよい。
また、叩打判定回路やデジタルフィルタ回路を含むDSPなどを包含するノイズ低減装置部は、上述の実施形態では、ヘッドホン装置側に設けるようにしたが、ヘッドホン装置が装着される携帯型音楽再生装置や、マイクロホンを備えるイヤホンやヘッドセットに対応した携帯型音楽再生装置側に設けるようにすることもできる。
また、上述の実施形態では、デジタルフィルタのフィルタ係数を変更する場合であるが、この発明は、アナログフィルタのハードウエアを切り換えるようにして、ノイズ環境に応じたノイズ低減特性を切り換える場合にも、この発明は適用することができる。
また、この発明は、ヘッドホン装置やイヤホン装置を用いるものに限定されるわけではなく、携帯型音楽再生装置などの筐体に対して、ユーザが叩打を行なう場合にも適用することができる。
また、叩打判定の結果の利用対象は、上述したようなノイズ低減装置部におけるノイズモードの切換変更やイコライザ特性の変更制御に限らず、例えば携帯型音楽再生装置における再生速度の切り換え、早送りや巻き戻しの切り換え、など、種々の用途に用いることができるのは言うまでもない。また、音声信号について、音響効果処理や、その他の処理を、複数種について切り換えて用いることができるような音声出力装置において、それらの音響効果処理やその他の処理を順次に切り換えて、その効果を確認するようにする場合にも適用することが可能である。
なお、以上の説明おいては、判定対象となる筐体に対するユーザの操作は叩打のみについて説明したが、ヘッドホン筐体をこすったりしたときのユーザ操作を判定検出するためにも用いることができる。
1…リスナ、2…ヘッドホン筐体、3…ノイズ源、11…ヘッドホンのドライバー、12…音声信号入力端、13…パワーアンプ、15…イコライザ回路、21、31…マイクロホン、23…FBフィルタ回路、33…FFフィルタ回路、24,34…メモリ、231,331…A/D変換回路、232,332…DSP、233,333…D/A変換回路、304、404…制御回路、306…伝達関数Hfb_nc乗算回路、406…伝達関数Hff_nc乗算回路、307,407…減算回路、308,310,408…叩打判定回路