JP4992339B2 - 炭素繊維織物および繊維強化プラスチックの製造方法 - Google Patents
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Description
(1)たて糸またはよこ糸の少なくとも一方が炭素繊維糸条からなり、織組織の形態を保持する目どめ処理が施された炭素繊維織物の製造方法であって、次の(A)〜(E)の工程を経ることを特徴とする炭素繊維織物の製造方法。
(A)たて糸を、織機に導く引出工程
(B)よこ糸を、溶媒または分散媒が水である樹脂溶液、乳濁液または懸濁液で少なくとも部分的に濡らす付着工程
(C)少なくとも部分的に濡れたよこ糸を、たて糸と交錯させて織物を織成する織成工程
(D)織成した織物を加熱して乾燥させることにより、よこ糸に含まれる樹脂溶液、乳濁液または懸濁液を乾燥し、樹脂溶液、乳濁液または懸濁液の溶質または分散質である目どめ樹脂でたて糸とよこ糸とを目止めする乾燥工程
(E)織物を巻き取って巻物にする巻取工程
(2)前記(D)の乾燥工程と(E)の巻取工程との間において、次の(F)の工程を経る、前記(1)に記載の炭素繊維織物の製造方法。
(F)加熱乾燥した織物を、樹脂溶液、乳濁液または懸濁液の溶質または分散質である目どめ樹脂の融点未満に冷却する冷却工程
(3)前記(A)の引出工程と(C)の織成工程との間において、次の(G)の工程を経る、前記(1)または(2)に記載の炭素繊維織物の製造方法。
(G)たて糸を、溶媒または分散媒が水である樹脂溶液、乳濁液または懸濁液で少なくとも部分的に濡らす第二付着工程
(4)前記(C)の織成工程において、よこ糸を横取りして解舒撚を混入させずに杼口に打ち込む、前記(1)〜(3)のいずれかに記載の炭素繊維織物の製造方法。
本工程は、たて糸を織機に導く工程である。たて糸に炭素繊維糸条を用いる場合は、炭素繊維糸条を各ボビンから解舒して引き揃えて、直接織機に導いて製織することが好ましい。一旦、各ボビンの炭素繊維糸条を整経または部分整経してから(ビーミングしてから)シート状のたて糸群を引き揃えて織機に導くと、特に、繊度が350〜3,500texである太繊度の炭素繊維糸条を用いた場合、各炭素繊維糸条での厚みムラが発生し易いため糸条間に糸長の差が生じる場合が多い。上記問題は、整経または部分整経を行わずに、各ボビンから炭素繊維糸条をそれぞれ引き揃えて直接織機に導き製織することによって解消される。
本工程は、よこ糸を、溶媒または分散媒が水である樹脂溶液(ソリューション:溶媒中に溶質が溶けあっている液体)、乳濁液(エマルジョン:液体である分散質が分散媒中に分散している液体)または懸濁液(サスペンジョン:固体である分散質が分散媒中に分散している液体)で少なくとも部分的に濡らす工程である。本工程により、かかる樹脂溶液、乳濁液または懸濁液の溶質または分散質である目どめ樹脂を付与し、後述の(C)の織成工程にてよこ糸が濡れた状態でたて糸と交錯して、後述の(D)の乾燥工程にて目どめすることができる。本工程により、目どめに必要な箇所に必要最小限の量の目どめ樹脂を付着できため、目隙を抑えた織組織の形態保持することができるのである。また、かかる炭素繊維織物は、マトリックス樹脂と相溶性のある目どめ樹脂を、その形態の制限を受けずに選択できるので、優れた外観品位を有するFRPを安価に得ることができる。
本工程は、たて糸を、溶媒または分散媒が水である樹脂溶液、乳濁液または懸濁液で少なくとも部分的に濡らす工程である。本工程により、後述の(C)織成工程にてよこ糸およびたて糸がいずれも濡れた状態で交錯して、後述の(D)の乾燥工程にて目どめすることにより、より一層目どめ効果を高く発現することができる。また、前記(B)の付着工程と同様に本工程でも、目どめに必要な箇所に必要最小限の量の目どめ樹脂を付着できため、目隙を抑えた織組織の形態保持することができる。
本工程は、少なくとも部分的に濡れたよこ糸を、たて糸と交錯させて織物を織成する工程である。好ましくは、たて糸も少なくとも部分的に濡れているものを用いる。よこ糸とたて糸との交錯には織機(例えば、シャトル織機、レピア織機、ニードル織機、ウォータージェット織機、エアジェット織機など)を用いる。
本工程は、織成した織物を加熱して乾燥させる。本工程によりたて糸とよこ糸とが目どめされる工程である。織成した織物を、樹脂溶液、乳濁液または懸濁液の溶質または分散質である目どめ樹脂の融点以上に加熱するのが好ましい。目どめ樹脂が融点を有さないものである場合は融点に替えて軟化点以上に加熱するのが好ましい。加熱する温度の上限としては、目どめ樹脂の分解温度未満であるのが一般的である。なお、本発明における軟化点とは、JIS K7234(1986)「エポキシ樹脂の軟化点試験方法」に従って測定される値を指す。また、分解温度とはTG(熱重量分析)法で窒素雰囲気中で昇温速度10℃/分で測定した熱減量が30%を越える温度を指す。
本工程は、加熱した織物を、樹脂溶液、乳濁液または懸濁液の溶質または分散質である目どめ樹脂の融点未満に冷却する工程である。なお、目どめ樹脂が融点を有さないものである場合は融点に替えて軟化点未満に冷却する。目どめ樹脂の融点以上の温度で巻き取られると、巻物において織物同士が接着されて織物を巻物からスムーズに巻出できない問題が発生する場合がある。本工程を経ることにより、下記(E)の巻取工程で、織物同士が接着するという問題を解決することができるのである。
本工程は、織物を巻き取って巻物にする工程である。
たて糸に、炭素繊維糸条(JIS R7601に沿って測定された引張強度4,900MPa、引張弾性率234GPa、繊度800tex、撚数0ターン/m、扁平率70の扁平状炭素繊維糸条)を用い、よこ糸に、ポリエステル繊維(融点260℃、繊度55dtex)を用いて、たて糸密度が2.5本/cm、よこ糸密度が3本/cmである一方向性織物(炭素繊維目付200g/m2)を製織した。以下に詳細な工程を記載する。
たて糸およびよこ糸に、繊度が800texの炭素繊維糸条(JIS R7601に沿って測定された引張強度4,900MPa、引張弾性率234GPa、撚数0ターン/m、扁平率70の扁平状炭素繊維糸条)を用いて、たて糸密度およびよこ糸密度が3.1本/cmである二方向性織物(炭素繊維目付200g/m2)を、レピア織機にて製織した。製織にあたり、
(B)の付着工程で、エポキシ樹脂を水に乳化剤で乳化させた乳濁液1(エマルジョン型エポキシ樹脂、濃度は12重量%、大日本インキ化学工業(株)製エピクロンEM−82−75Wを水で希釈したもの)で、横取り解舒したよこ糸を、扁平率70の扁平状炭素繊維糸条の片面のみを濡らし、よこ糸を濡らす手段としてロールに接触させるコンタクトロール手段を用いたこと、
(D)の乾燥工程で、接触加熱手段(織機の引取ロールを通過した後の巻取ロールまでの間に配置した、3つの加熱ロールと織物とを直接接触させながら、それぞれ接触する順に100℃、110℃、130℃に加熱)にて加熱・乾燥したこと、
(F)加熱した織物を、送風装置(扇風機)にて35℃未満(エポキシ樹脂である目どめ樹脂の融点および軟化点未満)に冷却する冷却工程を追加したこと、
以外は、実施例1と同様にして炭素繊維織物を得た。
実施例2と同じ織構造を有する二方向性織物を、レピア織機にて製織するにあたり、
(B)の付着工程で、エポキシ樹脂を水に乳化剤で乳化させた乳濁液2(エマルジョン型エポキシ樹脂、濃度は12重量%、ジャパンエポキシレジン(株)製エピレッツ3540WY55を水で希釈したもの)で、横取り解舒したよこ糸を、扁平率70の扁平状炭素繊維糸条の片面のみを濡らし、よこ糸を濡らす手段として、スプレー手段を用いたこと、
(G)横取り解舒したたて糸全てを、乳濁液2で扁平率70の扁平状炭素繊維糸条の片面のみを濡らし、たて糸を濡らす手段としてロールに接触させるコンタクトロール手段を用いた第二付着工程を追加したこと、
(D)の乾燥工程で、織成した織物を、非接触加熱手段(織前の遠赤外線ヒーターで150℃に加熱)と、接触加熱手段(織機の引取ロールを通過した後の巻取ロールまでの間に配置した、3つの加熱ロールと織物とを直接接触させながら、それぞれ接触する順に100℃、110℃、130℃に加熱)とで加熱・乾燥したこと、
以外は、実施例2と同様にして炭素繊維織物を得た。
実施例1、2、3で得られた一方向性織物1、二方向性織物2、3をそれぞれ30cm×30cmの正方形に裁断した。裁断時にたて糸やよこ糸がバラバラに成らず、得られたそれぞれの炭素繊維織物は十分に目どめされていた。裁断した炭素繊維織物を同じ方向に合計8枚積層してアイロン(160℃)で加熱・加圧してプリフォームを得た。得られたプリフォームは、二方向性織物がバラバラにならず、目どめ樹脂により接着されていた。このプリフォームを、雄型と雌型とでの両面型(金型)で形成されたキャビティ内に配置し、マトリックス樹脂としてエポキシ樹脂(ジャパンエポキシレジン(株)製エピコート630(主剤)、エピキュアW(硬化剤)を混合比0.464で混ぜたもの)を含浸させ、1.5℃/分で180℃まで昇温し、180℃に到達後120分間保持して硬化させ、2.5℃/分で25℃まで降温してFRPを得た。
(B)の付着工程で、乳濁液を1を用いずに、低融点ポリアミド繊維(東レ(株)製“エルダー”(登録商標)110dtex)を縦取り解舒したよこ糸と引き揃えたこと、
(C)の織成工程で、縦取り解除したよこ糸と低融点ポリアミド繊維とを引き揃えたものを一緒に打ち込み織成したこと、以外は、実施例2と同様にして二方向性織物1を得た。
よこ糸に、ガラス繊維(ECE225 1/2、扁平率20未満のガラス繊維糸条)と低融点ポリアミド繊維(東レ(株)製“エルダー”(登録商標)330dtex)とを合糸した撚糸を用いたこと、
(B)の付着工程で、樹脂溶液1を用いなかったこと、
(D)の乾燥工程で、非接触加熱手段(巻取前の遠赤外線ヒーターで170℃)加熱したこと、以外は、実施例1と同様にして一方向性織物2を得た。
比較例1、2で得られた二方向性織物1、一方向性織物2を実施例4と同様にしてFRPを成形した。
Claims (12)
- たて糸またはよこ糸の少なくとも一方が炭素繊維糸条からなり、織組織の形態を保持する目どめ処理が施された炭素繊維織物の製造方法であって、次の(A)〜(E)の工程を経ることを特徴とする炭素繊維織物の製造方法。
(A)たて糸を、織機に導く引出工程
(B)よこ糸を、溶媒または分散媒が水である樹脂溶液、乳濁液または懸濁液で少なくとも部分的に濡らす付着工程
(C)少なくとも部分的に濡れたよこ糸を、たて糸と交錯させて織物を織成する織成工程
(D)織成した織物を加熱して乾燥させることにより、よこ糸に含まれる樹脂溶液、乳濁液または懸濁液を乾燥し、樹脂溶液、乳濁液または懸濁液の溶質または分散質である目どめ樹脂でたて糸とよこ糸とを目止めする乾燥工程
(E)織物を巻き取って巻物にする巻取工程 - 前記(D)の乾燥工程と(E)の巻取工程との間において、次の(F)の工程を経る、請求項1に記載の炭素繊維織物の製造方法。
(F)加熱乾燥した織物を、樹脂溶液、乳濁液または懸濁液の溶質または分散質である目どめ樹脂の融点未満に冷却する冷却工程 - 前記(A)の引出工程と(C)の織成工程との間において、次の(G)の工程を経る、請求項1または2に記載の炭素繊維織物の製造方法。
(G)たて糸を、溶媒または分散媒が水である樹脂溶液、乳濁液または懸濁液で少なくとも部分的に濡らす第二付着工程 - 前記(C)の織成工程において、よこ糸を横取りして解舒撚を混入させずに杼口に打ち込む、請求項1〜3のいずれかに記載の炭素繊維織物の製造方法。
- 前記(C)の織成工程において、少なくとも部分的に濡らされた後のよこ糸の糸幅保持率が70%以上である、請求項1〜4のいずれかに記載の炭素繊維織物の製造方法。
- 樹脂溶液、乳濁液または懸濁液の溶質または分散質である目どめ樹脂が、後述(D)の乾燥工程後の炭素繊維織物において常温固体のものである、請求項1〜5のいずれかに記載の炭素繊維織物の製造方法。
- 樹脂溶液、乳濁液または懸濁液の溶質または分散質である目どめ樹脂が、エポキシ、不飽和ポリエステル、ビニルエステルから選ばれる少なくとも1種である、請求項1〜6のいずれかに記載の炭素繊維織物の製造方法。
- 樹脂溶液、乳濁液または懸濁液の溶質または分散質である目どめ樹脂が、ポリアミド、ポリエステル、ポリオレフィン、ポリビニルホルマール、ポリエーテルスルフォンから選ばれる少なくとも1種である、請求項1〜6のいずれかに記載の炭素繊維織物の製造方法。
- 炭素繊維織物が、扁平率20〜200の範囲内の扁平状炭素繊維糸条をたて糸とし、該炭素繊維糸条よりも細繊度である補助繊維糸条をよこ糸とする一方向性織物である、請求項1〜8のいずれかに記載の炭素繊維織物の製造方法。
- 前記一方向性織物のよこ糸である補助繊維糸条の融点が300℃以下である、請求項9に記載の炭素繊維織物の製造方法。
- 炭素繊維織物が、扁平率20〜200の範囲内の扁平状炭素繊維糸条をたて糸およびよこ糸とする二方向性織物である、請求項1〜8のいずれかに記載の炭素繊維織物の製造方法。
- 請求項1〜11のいずれかに記載の製造方法により得られる炭素繊維織物と、マトリックス樹脂とで構成される繊維強化プラスチックの製造方法であって、繊維強化プラスチックにおいて、炭素繊維織物に含まれる樹脂溶液、乳濁液または懸濁液の溶質または分散質である目どめ樹脂をマトリックス樹脂に相溶させることを特徴とする繊維強化プラスチックの製造方法。
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