ところで、このような転削工具に着脱可能に取り付けられるインサートは、上述のようにアルミニウムのような材料を加工するときには工具本体が高速で回転させられることから、通常はクランプネジが挿通されてネジ止めされることにより工具本体に取り付けられる。そして、上記特許文献1に記載のインサートでも、インサート本体には、このクランプネジを挿通するために、該インサート本体をその厚さ方向に貫通する断面円形の取付孔が上記多角形面の中央に開口するように形成されている。
ところが、この特許文献1に記載のインサートは、具体的には横長の概略平行四辺形の平板状をなしていて、この平行四辺形をなす面にすくい面が形成されるとともに、その長手方向に延びる辺稜部に主切刃が形成されており、従って上記取付孔に近接するこの辺稜部の中央部では、この取付孔と主切刃の逃げ面との間でインサート本体の肉厚が削がれて切刃強度やインサート自体の強度が損なわれることが避けられない。このため、かかるインサートを例えば鋼等の切削に用いると、この辺稜部の中央部で主切刃に欠損が生じたり、取付孔との間でインサート本体が割損するおそれがあった。
従って、このような場合には、主切刃に連なる逃げ面の逃げ量をできるだけ小さくして肉厚を確保し、切刃やインサート本体の強度を維持することが望ましいが、その一方でこうして逃げ量が小さくなると、主切刃により形成された加工面と逃げ面との間のスペースが小さくなるため、特にアルミニウムのような延性の高い金属材料を切削した場合には、切屑の噛み込みを生じて上述のような高い加工精度や加工品位を損なうおそれがある。ちなみに、上記特許文献1に記載のインサートでは、この主切刃側の逃げ面を、主切刃に連なり着座面側に向かうに従い漸次後退するように傾斜する第1逃げ面と、これよりも大きな傾斜角で傾斜する第2逃げ面と、着座面に垂直な平面状の第3逃げ面とにより段差状に形成して逃げ量を確保するようにしている。
本発明は、このような背景の下になされたもので、上述のようにクランプネジを挿通するための取付孔が形成されている場合でも、特にこの取付孔に近接する辺稜部の中央部においては主切刃の逃げ面との肉厚を確保することができて、鋼等の切削でも損傷を生じるのを防ぐことができる一方、アルミニウムのような金属材料を切削加工しても切屑の噛み込みは防ぐことが可能なインサート、およびかかるインサートを着脱可能に装着した転削工具を提供することを目的としている。
上記課題を解決して、このような目的を達成するために、本発明のインサートは、多角形平板状をなすインサート本体の一方の多角形面にすくい面が形成されるとともに、この一方の多角形面の辺稜部には上記インサート本体の側面を逃げ面として該辺稜部の一端部から他端部に向けて延びる主切刃が形成されており、上記逃げ面には、上記辺稜部に直交する断面において上記インサート本体の他方の多角形面側に向かうに従い凸曲線状をなして漸次後退する凸曲面部が形成されていて、この凸曲面部の上記断面における曲率半径が、上記辺稜部の一端部側および他端部側よりも中央部で小さくされていることを特徴とする。
また、本発明の転削工具は、このようなインサートが、軸線回りに回転される工具本体の先端部外周に、上記すくい面を工具回転方向に向けるとともに、上記一端部を上記工具本体の先端外周側に位置させ、かつこの一端部から延びる上記主切刃が該工具本体の外周において後端側に向かうに従い上記工具回転方向の後方側に向かうようにして着脱可能に取り付けられていることを特徴とする。
このように構成されたインサートでは、まず主切刃に連なる逃げ面に、この主切刃が形成された上記辺稜部に直交する断面において凸曲線状をなす凸曲面部が形成されているので、特許文献1に記載のように逃げ面が段差状に形成されて逃げ量が確保されている場合に比べ、特に主切刃側においてインサート本体の肉厚を確保することができる。そして、この凸曲面部の上記断面における曲率半径が、上記辺稜部の一端部側および他端部側よりも中央部で小さくされているため、すくい面が形成された上記一方の多角形面の中央にクランプネジを挿通する取付孔が開口していても、この取付孔に近接する上記辺稜部の中央部では、逃げ面のこの凸曲面部までのインサート本体の肉厚を一端部側や他端部側よりも一層大きく確保することができるので、この辺稜部の中央部に形成された主切刃の切刃強度や取付孔と逃げ面との間のインサート本体の強度の向上を図ることができる。
その一方で、逆に上記辺稜部の一端部側および他端部側では、上記凸曲面部の曲率半径が中央部よりも小さくなって、この凸曲面部をより大きく湾曲させて後退させることができるので、主切刃により形成された加工面と逃げ面との間に大きなスペースを確保することができ、切屑の噛み込みを防止することが可能となる。特に、上記転削工具を上述のように軸線方向に段階的に移動させて深い垂直加工面を形成する場合には、工具本体の先端側と後端側とに位置してインサート本体の周囲が開放されることになる上記辺稜部の一端部側と他端部側において噛み込みを生じ易いが、このような部分において大きなスペースが確保されることにより、たとえアルミニウムのような延性の高い金属材料の切削でも、切屑の噛み込みが生じるのを一層確実に防ぐことができる。
ここで、特許文献1に記載のインサートと同様に、上記一方の多角形面が、この一方の多角形面に対向する平面視において平行四辺形状をなしている場合には、主切刃が形成されたその辺稜部の中央部の位置として、該一方の多角形面を上記主切刃が延びる方向に二等分する位置における上記凸曲面部の曲率半径が、該辺稜部の一端部側および他端部側の位置として、上記二等分する位置と上記一方の多角形面の上記主切刃が延びる方向の両端とをさらにそれぞれ二等分する位置における上記凸曲面部の曲率半径の20%〜90%の範囲とされているのが望ましい。
すなわち、これよりも中央部の凸曲面部の曲率半径が小さいと、この凸曲面部が他方の多角形面側に向けて急に湾曲しつつ後退することになって、取付孔が形成された場合に中央部でのインサート本体の肉厚を確実に確保することが困難となるおそれがある。その一方で、この範囲よりも中央部の凸曲面部の曲率半径が大きく、一端部側および他端部側の曲率半径に近くなった場合にも、この一端部側と他端部側とで逃げのスペースを確保した場合に、中央部における逃げのスペースも大きくなり、やはりこの中央部における主切刃やインサート本体の強度を確実に確保することができなくなるおそれがある。
また、上記主切刃を、上記一方の多角形面に対向する平面視において外側に凸となる凸曲線状とすることにより、この主切刃に連なる逃げ面も同じくすくい面の外側に向けて凸となるように形成されるので、取付孔が形成されていても逃げ面までの肉厚を一層大きく確保することができる。さらに、こうして主切刃を凸曲線状としておいて、本発明の転削工具のようにこの主切刃が工具本体の後端側に向かうに従い工具回転方向の後方側に延びるようにして取り付けることにより、特許文献1に記載のインサートと同様に主切刃の上記軸線回りの回転軌跡の投影線を、その中間部において該軸線を中心とする円筒面に滑らかに接するとともに両端に向かうに従いこの円筒面の内側に向かう凸円弧状として、上述のように垂直加工面を形成する場合に高い精度や面品位を得ることができる。
一方、インサート本体の他方の多角形面を着座面として、上記主切刃を、上記インサート本体の側面に対向する側面視において上記辺稜部の一端部から他端部に向かうに従い凸曲しつつ上記着座面側に向かう凸曲線状とすることにより、すくい面もこの凸曲線に沿って凸曲面状とされるとともに、転削工具において工具本体後端側に位置することになる主切刃の上記他端部側でのアキシャルレーキ角を大きくすることができるので、やはり特許文献1に記載のインサートと同様に切屑離れを良好にすることができる。
そして、このとき、逃げ面を、主切刃から着座面側に向けて順に、上記辺稜部の一端部から他端部に向かうに従い逃げ角が漸次大きくなるように形成された捩れ面部と、上記凸曲面部と、着座面に垂直な方向の該着座面からの幅が一定とされた平面部とから構成して、この平面部の上記幅よりも、上記辺稜部の一端部側における上記捩れ面部と凸曲面部との着座面に垂直な方向の幅の和を大きくすることにより、上記平面部を拘束面として工具本体のインサート取付座に取り付けた際に、主切刃に与えられるアキシャルレーキ角をより大きくすることができ、一層の切屑離れの向上を図って切屑の噛み込みをより効果的に防止することが可能となる。
以上説明したように、本発明のインサートおよび転削工具によれば、インサート本体のすくい面とされる一方の多角形面に取付孔が形成される場合でも、この取付孔に近接する主切刃が形成された辺稜部の中央における逃げ面までの肉厚を確保することができ、これにより切刃強度の向上を図ることができて、たとえ鋼等の切削に用いても切刃やインサート本体に損傷を生じることなく安定した切削を行うことができる。その一方で、この辺稜部の一端側と他端側では加工面との間に大きなスペースを確保することができるので、アルミニウムのような延性の高い材料を切削する場合でも切屑の噛み込みを防止することができ、加工面が噛み込まれた切屑によって傷つけられたりするのを防いで高精度で高品位の切削加工を図ることができる。
図1ないし図7は本発明のインサートの一実施形態を示すものであり、図8ないし図11はこの実施形態のインサートを取り付けた本発明の転削工具の一実施形態を示すものである。本実施形態のインサートは、そのインサート本体1が超硬合金等の硬質材料により概略四角形、より具体的には横長の概略平行四辺形の多角形平板状をなし、その一方の平行四辺形面の外周側にすくい面2が形成されるとともに、他方の平行四辺形面は上記転削工具の後述する工具本体11への着座面3とされている。
さらに、このインサート本体1の4つの側面には逃げ面4が形成されていて、上記すくい面2とこれら逃げ面4との交差稜線部に切刃が形成され、本実施形態のインサートはこの切刃に対して逃げ面4に逃げ角が付されたポジティブインサートとされている。また、双方の平行四辺形面の中央には、インサート本体1をその厚さ方向(図3ないし図7における上下方向)に貫通する断面円形の取付孔5が開口させられており、着座面3はこの取付孔5の中心線Cに垂直な方向に延びる面一な平坦面とされるとともに、インサート本体1自体はこの中心線C回りに180°回転対称形状とされている。
上記一方の平行四辺形面外周の4つの角部のうち、この平行四辺形面の鋭角端部分に位置する角部には、上記中心線Cに沿ってこの一方の平行四辺形面に対向する平面視において、図2に示すように約1/4の略凸円弧状をなすコーナ刃6が形成されている。そして、このコーナ刃6が形成された角部から上記一方の平行四辺形面の長手方向(図2における直線L方向)に延びる辺稜部、すなわちこの平行四辺形の長辺部分には、このコーナ刃6を一端部としてその一端6Aから該辺稜部の他端部に向けて延びる主切刃7が形成されている。
また、コーナ刃6の他端6Bに連なる上記一方の平行四辺形面の短辺部分には副切刃8が形成されており、これらコーナ刃6および主、副切刃7,8が上記切刃とされて互いに滑らかに連なるようにされている。一方、上記一方の平行四辺形面の鈍角端部分に位置する角部9は、主切刃7が形成された上記辺稜部の他端部とされ、この角部9も上記平面視には約1/4の略凸円弧状とされており、ただしその半径はコーナ刃6がなす凸円弧の半径よりも小さくされていて、コーナ刃6の上記一端6Aに連なる側とは反対側で主切刃7に連なっている。
ここで、上記副切刃8は、上記平面視においてインサート本体1の上記長手方向に垂直な方向(図2における直線M方向)に延びる直線状とされるとともに、コーナ刃6ともども中心線Cに垂直な一の平面上に延びるようにされている。また、この副切刃8が形成された短辺部分において副切刃8とは反対側の、副切刃8の他端から上記角部9に向かう部分は、この角部9側に向かうに従い上記平面視においてインサート本体1の内側に凹曲するように凹んだ後、やはりインサート本体1の長手方向に垂直に延びて該角部9に達する凹部8Aとされており、これによりインサート本体1は上述のように概略平行四辺形の平板状を呈することになる。
なお、この凹部8Aは、図4に示すように副切刃8に連なる逃げ面4が形成されたインサート本体1の側面に対向する側面視には、上記角部9に向けて、コーナ刃6および副切刃8が延びる上記一の平面に滑らかに接する凸曲線を描きつつ着座面3側に向かうように後退した後、該鈍角端角部9ともどもこの一の平面よりも着座面3側に位置する中心線Cに垂直な他の一の平面上に延びるようにされている。また、少なくとも切刃とされる上記コーナ刃6および主、副切刃7,8には、それぞれの切刃に直交する断面において中心線Cに垂直となる幅の極小さいランドが形成されており、本実施形態ではこのランドが上記一方の平行四辺形面の全周に亙って形成されている。
さらに、上記主切刃7は、上記平面視においてインサート本体1の外側に僅かに凸となる緩やかな凸曲線状に形成されるとともに、該主切刃7に連なる逃げ面4が形成されたインサート本体1の側面に対向する側面視においても、図3に示すように上記一端部となるコーナ刃6から他端部となる上記鈍角端角部9側に向かうに従い緩やかに凸曲しつつ漸次着座面3側に向かう凸曲線状とされている。なお、この主切刃7の任意の1点において該主切刃7が上記平面視になす凸曲線の曲率半径は、主切刃7が上記側面視になす凸曲線のこの1点における曲率半径よりも大きくされ、すなわち主切刃7はいずれの部分でも平面視の凸曲線が側面視の凸曲線よりも緩やかとされ、さらにこれらの曲率半径は上記コーナ刃6が平面視になす凸円弧の半径や凹部8Aの半径よりも十分に大きくされている。
また、これらコーナ刃6および主、副切刃7,8に連なる上記すくい面2は、上記平面視にすくい面2の内側に向かうに従い着座面3側に向かう傾斜面とされており、この内側に向かう方向でのすくい面2の着座面3に対する傾斜角は略一定とされ、従って該内側に向かう方向に沿って切刃(コーナ刃6,主切刃7、副切刃8)に交差する断面では、すくい面2は着座面3側に傾斜した略直線状を呈することとなる。ただし、このうち主切刃7に連なるすくい面2は、その着座面3に対する傾斜角が、図5ないし図7に示すように上記一端部から他端部に向かうに従い漸次小さくなるようにされており、しかもその減少率は、一端部から他端部に向かうに従い漸次小さくなった後に途中から漸次大きくなるようにされている。なお、インサート本体1の表面のうち、少なくともこのすくい面2、望ましくは上記一方の平行四辺形面の全体には、ラップ仕上げが施されている。
また、このように傾斜面とされたすくい面2のさらに内側には、断面が上述のように略直線状とされたこの傾斜面から、図5〜図7に示すようにこの傾斜面がなす直線に鈍角に交差して該傾斜面に対し上記着座面3側に凹む断面凹円弧状の凹面10Aが形成されている。この凹面10Aは、平面視には、すくい面2が形成されるインサート本体1の上記一方の平行四辺形面の平面視の外周形状を概ね一回り小さくしたような形状寸法で、すくい面2の内側に全周に渡って形成されたものであり、上記断面におけるすくい面2との交点からの深さが略一定となるように、切刃の中心線C方向における凹凸やすくい面2の起伏に合わせて周回りに該中心線C方向に起伏しつつ連続するように形成されている。
このような凹面10Aのうち主切刃7に沿う部分は、該主切刃7と略等間隔に延びるように形成され、従ってこの凹面10Aとの間の主切刃7に連なるすくい面2の幅(中心線Cに垂直な平面に沿った幅)は略一定とされる。また、この主切刃7に沿う部分では凹面10Aの幅も略一定とされている。これに対して、コーナ刃6およびこれに連なる部分の副切刃8内側のすくい面2および凹面10Aの幅は、主切刃7の内側部分よりも大きくされている。また、この凹面10Aよりもさらに内側の部分は、内側に向けて一旦隆起した後に、中心線C方向における高さが主切刃7の両端の間に位置する該中心線Cに垂直な平面状のボス面10Bとされており、取付孔5はその上記一方の平行四辺形面側の開口部がこのボス面10B内に形成されている。
一方、逃げ面4が形成されるインサート本体1の側面は、インサート本体1の全周に渡って、コーナ刃6や主切刃7、副切刃8、および凹部8Aや鈍角端角部9から上記厚さ方向に着座面3に至る間にインサート本体1の外側に向けて傾斜したり凸となったりすることのない形状、すなわちアンダーカットのない形状とされている。このうち、上記コーナ刃6、副切刃8、凹部8A、および鈍角端角部9が形成された辺稜部に連なる側面部分は、インサート本体1の周回り方向には上記平面視に上述のように凹凸曲する上記一方の平行四辺形面の辺稜部に合わせて凹凸曲するように形成されており、さらにこのうちコーナ刃6および副切刃8に連なる逃げ面4は、これらコーナ刃6および副切刃8側で逃げ角が小さく、着座面3側で逃げ角が大きくされた折れ曲がり面とされている。
これに対して、上記主切刃7に連なる逃げ面4は、主切刃7から着座面3側に向けて順に、この主切刃7が形成された上記辺稜部の一端部すなわちコーナ刃6から他端部すなわち角部9に向かうに従い逃げ角が漸次大きくなるように形成された捩れ面部4Aと、この捩れ面部4Aに鈍角に交差して、上記辺稜部に直交する断面において着座面3側に向かうに従い凸曲線状をなして漸次後退する凸曲面部4Bと、この着座面3に垂直な方向すなわち上記厚さ方向の該着座面3からの幅HCが一定とされた平面部4Cとから構成されている。なお、この平面部4Cは、着座面3に対して一定の傾斜角で着座面3側に向かうに従い漸次後退する傾斜平面状とされている。
また、上記捩れ面部4Aは、上述のように側面視に凸曲線をなす主切刃7に沿って該主切刃7に直交する方向の幅が略一定となるように延びており、従ってこの捩れ面部4Aと平面部4Cとの間の凸曲面部4Bの着座面3に垂直な上記厚さ方向の幅HBは、主切刃7に沿ってコーナ刃6側から角部9側に向かうに従い漸次小さくなる。ただし、本実施形態では、上記辺稜部の一端部となるこのコーナ部6側、すなわち上記辺稜部の一端部側、具体的には主切刃7がコーナ刃6に連なる該コーナ刃6の一端6Aにおいて、この凸曲面部4Bの上記幅HBと捩れ面部4Aの着座面3に垂直な上記厚さ方向の幅HAとの和HA+HBが、上記平面部4Cの幅HCよりも大きくなるようにされている。
そして、この凸曲面部4Bは、主切刃7が延びる上記一方の平行四辺形面の辺稜部に直交する断面において該凸曲面部4Bがなす凸曲線の曲率半径が、図5ないし図7に示すようにこの辺稜部の中央部における曲率半径RBが、該辺稜部の一端部側における曲率半径RAおよび他端部側における曲率半径RCのいずれよりも小さくなるようにされている。さらに、本実施形態では、上記一方の平行四辺形面を上記主切刃7が延びる直線L方向に二等分する位置(図2における直線M、図3における中心線Cの位置)における凸曲面部4Bの曲率半径RBが、この二等分する位置と、上記一方の平行四辺形面の主切刃7が延びる方向の両端すなわち副切刃8の位置とをさらにそれぞれ二等分する位置(図3における直線A,Bの位置)における上記凸曲面部4Bの曲率半径RA,RCのいずれに対しても20%〜90%の範囲とされている。
より具体的に、本実施形態では、上記平面視において中心線Cを中心として切刃(主切刃7)に内接する円の直径、すなわちすくい面2が形成される上記一方の平行四辺形面の直線M方向の幅が6.6mmであり、また直線L方向の長さ(一対の副切刃8間の直線L方向の長さ)が12mmであるのに対し、上記曲率半径RAは28mm、曲率半径RBは24mm、曲率半径RCは30mmとされている。なお、これら一端部側の曲率半径RAと他端部側における曲率半径RCとは、互いに等しくてもよく、本実施形態のようにRA<RCでもよく、逆にRA>RCでもよい。また、ちなみに、本実施形態では上記幅HAは1.86mm、幅HBは6.45mm、幅HCは6.80mmとされている。
また、コーナ刃6および角部9に連なる逃げ面4部分では、上記捩れ面部4A、凸曲面部4B、および平面部4Cに連なる部分が上記厚さ方向の幅を一定とし、しかもコーナ刃6または角部9が上記平面視になす1/4円弧に沿った円錐面または円筒面とされている。さらにまた、副切刃8に連なる逃げ面4は、該副切刃8に沿って延びる2段の傾斜平面部によって構成され、また凹部8Aに連なるインサート本体1の側面部分は、すくい面2側がこの凹部8Aに沿って湾曲する凹曲面状とされる一方、着座面3側の部分は該着座面3に対して一定の傾斜角で着座面3側に向かうに従い後退する傾斜平面部8Bとされている。
このように構成された本実施形態のインサートは、図8ないし図11に示すように工具本体11に着脱可能に取り付けられて本実施形態の転削工具を構成する。この工具本体11は鋼材等によって軸線Oを中心とする概略円柱状に形成され、その後端側(図9および図10において右側)のシャンク部11Aが工作機械の主軸等に把持されて軸線O回りに工具回転方向Tに回転させられつつ、該軸線Oに交差する方向に送り出されて切削に使用される。ここで、この工具本体11の先端部外周には、その先端面に開口して後端側に延びる一対のチップポケット12が軸線Oに対称に形成されており、さらにこのチップポケット12の回転方向T側を向く壁面の先端側にはインサート取付座13がそれぞれ形成されていて、これらのインサート取付座13に上記実施形態のインサートのインサート本体1が取り付けられている。なお、このチップポケット12は、図10に示すように工具本体11の後端側に向かうに従い回転方向Tの後方側に延びるように形成されている。
上記インサート取付座13は、チップポケット12の上記壁面から回転方向Tの後方側に一段凹むように形成された凹所であって、着座面3と略同形同大の平行四辺形をなす平面状の工具回転方向Tを向く取付座底面13Aと、この取付座底面13Aの工具後端側に屹立して上記壁面に連なるように工具先端側を向く平面状の取付座壁面13B、および取付座底面13Aの工具内周側に屹立して工具外周側を向くやはり平面状の取付座壁面13Cとから構成されている。従って、取付座底面13Aは、チップポケット12と同様に工具本体11の後端側に向かうに従い回転方向T後方側に向かうように傾斜させられることになり、この取付座底面13Aには、インサート本体1の上記取付孔5に対して偏心させてクランプネジ14がねじ込まれるネジ孔15が形成されている。
また、この取付座底面13Aに対して取付座壁面13B,13Cは、チップポケット12の上記壁面側に向かうに従い漸次後退するように傾斜させられており、その傾斜角はそれぞれ、インサート本体1の着座面3に対する上記傾斜面部8Bの傾斜角および上記平面部4Cの傾斜角と等しくされている。さらに、取付座壁面13Bの取付座底面13Aに垂直な方向の幅は上記傾斜平面部8Bの着座面3に垂直な方向の幅よりも僅かに小さく、また取付座壁面13Cの幅も主切刃7に連なる平面部4Cの上記幅HCより僅かに小さくされている。さらにまた、これら取付座壁面13B,13Cが交差する取付座底面13Aの工具本体11後端内周側の角隅部には、インサート本体1のコーナ刃8周辺との干渉を避ける逃げ部(図示略)が形成されている。
このようなインサート取付座13に、上記インサート本体1は、上記すくい面2が形成された一方の平行四辺形面を工具回転方向Tに向けて着座面3を取付座底面13Aに着座させるとともに、1の凹部8Aに連なる上記傾斜平面部8Bを取付座壁面13Bに、またこの1の凹部8Aに副切刃8およびコーナ刃6を介して連なる1の主切刃7の逃げ面4の上記平面部4Cを取付座壁面13Cにそれぞれ当接させた上で、取付孔5に挿通された上記クランプネジ14を上記ネジ孔15にねじ込むことによって、これら傾斜平面部8Bおよび平面部4Cが取付座壁面13B,13Cに押圧されて固定される。従って、これら取付座壁面13B,13Cに当接する傾斜平面部8Bおよび平面部4Cは、インサート本体1の中心線C回りの回転や取付座底面13Aに沿った方向のずれ動きを拘束する拘束面とされる。
従って、こうして取り付けられたインサート本体1においては、上記1の凹部8Aに副切刃8を介して連なるコーナ刃6とは反対のコーナ刃6が工具本体11の先端外周側に位置させられ、かつ上記1の主切刃7とは反対の主切刃7が、工具本体11の先端部外周において後端側に向かうに従い回転方向Tの後方側に延びるようされる。また、このコーナ刃6の他端6Bに連なる副切刃8は、工具本体11の軸線Oに垂直な平面上に位置させられるとともに、この副切刃8に連なる凹部8Aはこの平面に対して後退するように配置される。なお、こうして工具本体11に取り付けられた本実施形態のインサートの上記先端部外周に延びる主切刃7は、その上記軸線O回りの回転軌跡の該軸線Oを含む平面への投影線が、その上記中央部において該軸線Oを中心とする円筒面に滑らかに接するとともに、この中央部から上記一端部(コーナ刃6)側と他端部(角部9)側とにそれぞれ向かうに従いこの円筒面の内側に向かう凸円弧状とされている。
しかして、上記構成のインサートにおいては、主切刃7に連なる逃げ面4に、この主切刃7が形成された上記辺稜部に直交する断面において図5ないし図7に示したように凸曲線状をなす凸曲面部4Bが捩れ面部4Aと平面部4Cとの間に形成されているので、例えばこの捩れ面部4Aから急傾斜で内側に後退した後に緩い傾斜で後退しつつ上記平面部4Cに連なるような段差部を形成した場合に比べ、断面が凸曲線状であるために上記辺稜部に沿った方向の逃げ面4全体に亙ってこの凸曲面部4Bにおけるインサート本体1の肉厚を大きくすることができる。このため、当該インサートを工具本体11に取り付けた状態で、この主切刃7に切削負荷が作用するすくい面2から着座面3に向かう方向、すなわち工具回転方向Tの後方側においても、主切刃7の後方側に大きな肉厚を確保することができ、これにより該主切刃7の切刃強度の向上を図ることができる。
そして、さらに上記インサートでは、すくい面2が形成された一方の平行四辺形面の中央に開口する取付孔5に挿通されたクランプネジ14によってインサート本体1が工具本体11に取り付けられるのに対し、上記凸曲面部4Bの断面がなす凸曲線の曲率半径が、この取付孔5に近接する上記辺稜部の中央部で一端部側および他端部側よりも大きくされているので、この中央部では凸曲面部4Bによる逃げ面4の肉厚をさらに大きく確保することができる。
従って、こうして取付孔5が形成されていても、該取付孔5に近接する上記中央部における主切刃7の切刃強度が低下するのを防ぐことができ、たとえ鋼等を切削する場合でも、この中央部で主切刃7に欠損が生じたり、取付孔5との間でインサート本体1に割損が生じたりするような事態を防止することができる。しかも、本実施形態のインサートでは、主切刃7が上記一方の平行四辺形面に対向する平面視に外側に凸となる凸曲線状とされており、これによってもこの中央部における逃げ面4の肉厚を大きくすることができるので、さらに切刃強度の向上を図ることができる。
その一方で、逆に上記辺稜部の一端部(コーナ刃6)側と他端部(角部9)側とでは、中央部に比べて凸曲面部4Bの断面がなす凸曲線の曲率半径が小さくなり、すなわち凸曲面部4Bが急勾配で後退するように湾曲形成されることになる。このため、上記転削工具における工具本体11への取付状態において主切刃7の先端側と後端側とに位置するこれらの部分では、当該主切刃7によって形成される加工面との間に大きなスペースを確保することができる。
しかるに、このような転削工具によって、例えば工具本体11を軸線O方向に段階的に移動させて垂直加工面を形成する場合には、この主切刃7の先端側と後端側の部分の少なくとも一方は、前段階で切削された加工面に開放された状態となって切屑が侵入しやすいが、上記構成のインサートではこれらの部分で特に大きなスペースが確保されるので、たとえ切屑が入り込んでもインサート本体1と加工面との間に噛み込まれるのを防ぐことができる。これは、特にアルミニウムやアルミニウム合金のような延性の高い金属材料の切削のように、切屑が延び気味に生成されて逃げ面4と加工面との間に侵入しやすい場合に効果的であり、従ってこのような切屑の噛み込みによって加工面が傷つけられてその精度が劣化したり、加工面の品位が損なわれたりするのを防ぐことができる。
また、本実施形態のインサートでは上述のように主切刃7が上記平面視に凸曲線状に形成されていて、工具本体11への取付状態においてその上記中央部が軸線Oを中心とする円筒面に滑らかに接するとともに両端部側がこの円筒面の内側に向かう凸円弧状とされており、従って工具本体11を軸線O方向に段階的に移動して深い垂直加工面を形成する場合でも、各段の加工面同士の継ぎ目を目立たなくして一層高い加工面品位を得ることができる。
ここで、この凸曲面部4Bにおける上記曲率半径は、本実施形態のように上記一方の平行四辺形面を主切刃7が延びる方向に上記辺稜部に沿って二等分する中央部の位置における曲率半径RBが、この二等分する位置と上記一方の平行四辺形面の主切刃7が延びる辺稜部方向の両端とをさらにそれぞれ二等分する一端部側および他端部側の位置における曲率半径RA、RCの20%〜90%の範囲で小さくされているのが望ましく、この範囲よりも中央部の曲率半径RBが小さいと、中央部における凸曲面部4Bは着座面3側に向かうに従い急激に湾曲させられつつインサート本体1の内側に後退することになるため、主切刃7の切刃強度やインサート本体1の強度を確実に確保することができなくなるおそれが生じる。
その一方で、上記範囲よりも中央部の凸曲面部4Bの曲率半径RBが大きく、一端部側および他端部側の曲率半径RA、RCに近くなると、この一端部側と他端部側とで凸曲面部4Bの逃げのスペースを確保した場合には、中央部における逃げのスペースも大きくなって逆に切刃強度等は小さくなり、また中央部で切刃強度を確保しようとすると、一端部と他端部とで逃げのスペースが小さくなって切屑の噛み込みを生じるおそれがある。
また、本実施形態では、インサート本体1が上述のように概略平行四辺形の平板状とされて、その一方の平行四辺形面にすくい面2が形成され、この平行四辺形面の長手方向(上記直線L方向)の長さを二等分した位置を上記中央部として上記曲率半径RBを設定し、またこの位置と上記平行四辺形面の長手方向両端(両副切刃8の位置)の長さをさらに二等分した位置を一端部側および他端部側の位置として上記曲率半径RA、RCを設定しているが、インサート本体1が長方形や正方形の平板状であって、その一方の長方形面や正方形面にすくい面2が形成される場合には、この長方形面や正方形面の主切刃7が形成される辺稜部に沿った方向の長さを二等分した位置を中央部とし、この位置と該辺稜部の両端とを二等分した位置を一端部側および他端部側の位置とすればよい。さらに、本実施形態のように主切刃7が上記平面視や側面視に湾曲していても、上記辺稜部を直線状と見なしてこれに直交する断面、すなわち直線Lに直交する断面で曲率半径RA〜RCを設定すればよい。
一方、本実施形態では、主切刃7が、その逃げ面4が形成されたインサート本体1の側面視においても凸曲線状とされており、これに伴いすくい面2も主切刃7に沿って凸曲する凸曲面状となることから、主切刃7によって生成されて該すくい面2を擦過するうちにカールさせられる切屑は、上記辺稜部の両端部側ですくい面2から浮き上がり、しかもこのすくい面2にラップ仕上げが施されていることも相俟って、切屑を速やかにすくい面2から離れさせることができる。さらに、この主切刃7が上記辺稜部の一端部側から他端部側に向けて着座面3側に向かうように傾斜しており、主切刃7が凸曲線状とされていることとも相俟って、特に工具回転方向T後方側に位置する上記他端部側での主切刃7のアキシャルレーキ角を大きくすることができるので、1刃当たりの切込みの最後での切れ味を良くして切屑の離れをより良好とすることができる。
そして、さらに本実施形態のインサートでは、この他端部とは反対の上記辺稜部の一端部側において、主切刃7に連なる逃げ面4の捩れ面部4Aと凸曲面部4Bとの着座面3に垂直な方向の幅HAおよび幅HBとの和HA+HBが、上述のように拘束面とされる平面部4Cの着座面3に垂直な方向の幅HCよりも大きくされているので、インサート本体1を拘束するためのこの平面部4Cの幅HCが同じなら、主切刃7の上記一端部側すなわち工具本体11の先端側に向けられるコーナ刃6側を工具回転方向Tに大きく突き出させて、上記取付状態における主切刃7の傾斜、すなわちアキシャルレーキ角を一層大きくすることができる。従って、これにより、主切刃7の他端部側でのアキシャルレーキ角はさらに大きくなるので切屑離れはさらに一層良好となり、切屑が主切刃7やすくい面2の周囲に密着したまま流れ出て加工面との間に噛み込まれたりするような事態も未然に防ぐことが可能となる。