ところで、これら特許文献1、2に記載の切削インサートでは、1つの切削インサートで使用可能な切刃(主切刃およびコーナ刃)の数をできるだけ多くするため、上述のように表裏面を選択的にすくい面として使用できる切刃の逃げ角が0°のネガティブタイプの切削インサートとしている。すなわち、上述のような略正三角形板状のインサート本体を有するネガティブタイプの切削インサートでは、表裏面合わせて合計6回の切刃の使用が可能である。
ところが、このようなネガティブタイプの切削インサートにおいて、さらに使用可能な切刃の数を増やそうとしてインサート本体を例えば正方形等の四角形板状に形成した場合には、エンドミル本体先端側に向けられた主切刃に負のラジアルレーキ角が与えられているのに伴い、この主切刃のエンドミル本体内周側の一端部に連なるコーナ刃に十分な逃げ量を確保することができなくなり、このコーナ刃の逃げ面が被削材と干渉してしまうおそれが生じる。
ここで、特許文献1に記載の切削インサートでは、エンドミル本体先端側に向けられる主切刃とエンドミル本体内周側に位置させられるコーナ刃との間に、主切刃の延長線に対して後退する副切刃を形成し、上記コーナ刃が被削材と干渉しないようにしている。ところが、正方形等の四角形板状の切削インサートでそのような副切刃を形成すると、エンドミル本体外周側に向けられる副切刃が被削材に形成された縦壁と干渉するおそれが生じる。従って、特にこのような高送り用の切削インサートにおいて使用可能な切刃の数を多くするためにネガティブタイプを採用する場合には、特許文献1、2に記載されているように略正三角形板状のインサート本体を備えたものに限られていた。
その一方で、切削インサートを、主切刃やコーナ刃に0°以上の正角の逃げ角が付されたポジティブタイプのインサートとすれば、正方形等の四角形板状のインサート本体であっても、エンドミル本体先端側に向けられた主切刃のエンドミル本体内周側の一端部に連なるコーナ刃に逃げ量を確保することができる。ところが、この場合には表裏面を選択的にすくい面として使用することができないので、1つの切削インサートで4回しか切刃を使用することができない。
しかも、近年では、このような刃先交換式エンドミルによって、上述のようにエンドミル本体をその軸線に直交する方向に高送りするほかに、エンドミル本体を軸線方向に僅かに送り出して被削材を掘り下げるように加工するランピング加工を行うことが多くなってきている。そして、この場合にはエンドミル本体先端側に向けられた主切刃のエンドミル本体内周側の一端部に連なる上記コーナ刃の、特に上記主切刃に連なる一端部側も切削に使用されることになる。
しかしながら、そのような場合に主切刃やコーナ刃に正角の逃げ角が付された上記ポジティブタイプの切削インサートでは、これら主切刃やコーナ刃の刃物角が小さくなるため、エンドミル本体を軸線方向に送り出した際の負荷によってこれらの切刃にチッピングや欠損が生じるおそれがある。また、逆にネガティブタイプの切削インサートによってこのようなランピング加工を行うと、やはりエンドミル本体先端側に向けられた主切刃のエンドミル本体内周側の一端部に連なるコーナ刃の逃げ面が被削材に干渉してしまうおそれが生じる。
本発明は、このような背景の下になされたもので、四角形板状のインサート本体を有する切削インサートにおいて、エンドミル本体に取り付けられて高送り加工に使用される場合は勿論、ランピング加工を行う場合でも、エンドミル本体の先端内周側に位置するコーナ刃の逃げ面が被削材と干渉するのを避けることができ、1つのインサート本体で使用可能な切刃の数を増やすことが可能な切削インサート、および該切削インサートを着脱可能に取り付けた刃先交換式エンドミルを提供することを目的としている。
上記課題を解決して、このような目的を達成するために、本発明の切削インサートは、四角形板状をなすインサート本体の四角形面にすくい面が形成されるとともに上記四角形面の周囲に配置される側面には逃げ面が形成され、これらすくい面と逃げ面との交差稜線部には、上記四角形面の辺稜部に主切刃が形成されるとともに、該四角形面の角部には、上記主切刃の一端部に連なり上記すくい面に対向する方向から見て凸曲線状をなすコーナ刃が形成され、このコーナ刃の逃げ角は、上記主切刃の一端部に連なる該コーナ刃の一端部から該コーナ刃の他端部に向かうに従い正角側に向けて大きくされていることを特徴とする。
また、本発明の刃先交換式エンドミルは、軸線回りにエンドミル回転方向に回転させられるエンドミル本体の先端部に形成されたインサート取付座に、このような切削インサートが着脱可能に取り付けられた刃先交換式エンドミルであって、上記切削インサートは、上記すくい面を上記エンドミル回転方向に向けるとともに上記主切刃を上記エンドミル本体の先端側に向け、この主切刃の一端部を上記エンドミル本体の内周側に位置させるとともに該主切刃の他端部を上記エンドミル本体の外周側に位置させて、この主切刃が該主切刃の一端部から該主切刃の他端部に向かうに従い漸次上記エンドミル本体の後端側に延び、かつ該主切刃の一端部に連なる上記コーナ刃が該主切刃の一端部から離間するに従い上記エンドミル本体の後端内周側に向けて延びるように取り付けられていることを特徴とする。
このようにエンドミル本体に取り付けられる上記構成の切削インサートでは、エンドミル本体先端側に向けられた主切刃のエンドミル本体内周側に位置する一端部に連なるコーナ刃が、この主切刃に連なる該コーナ刃の一端部から、これとは反対のエンドミル本体後端内周側に位置する該コーナ刃の他端部に向かうに従い、逃げ角が正角側に向けて大きくされているため、高送り加工やランピング加工においてコーナ刃の他端部側で逃げ面が被削材と干渉するのを避けることができる。その一方で、エンドミル本体先端側に向けられる主切刃の一端部に連なるコーナ刃の一端部では刃物角を大きく確保することができるので、ランピング加工の際の負荷によるチッピングや欠損を防止することができる。
従って、上記インサート本体を正方形板状として、正方形状をなす表裏の上記四角形面の各辺稜部に上記主切刃を形成するとともに、該四角形面の各角部には上記主切刃の一端部に連なる上記コーナ刃を形成し、表裏の上記四角形面を該四角形面の中心を通るインサート中心線回りに捩られた配置とするとともに、これら表裏の上記四角形面に関して上記インサート本体を表裏反転対称形状とすることにより、エンドミル回転方向に向けられてすくい面とされる表裏の四角形面の一方に対して、他方が被削材と干渉するのを避けることができ、1つのインサート本体に形成された合計8つずつの主切刃およびコーナ刃を確実に使用可能とすることができる。
ここで、上記コーナ刃の逃げ角は、上記コーナ刃の一端部において0°とされ、また、上記コーナ刃の他端部においては20°以下とされるのが、切刃強度を確保する上で望ましい。さらに、上記主切刃の逃げ角は、上記主切刃の一端部よりも該主切刃の他端部において正角側に向けて大きくすることにより、一端部ではコーナ刃と同様に刃物角を確保してチッピングや欠損を防止できるとともに他端部では切削抵抗の低減を図ることができ、さらに上述のように1つの四角形面の各辺稜部と各角部に主切刃とコーナ刃を形成した場合に、隣接する主切刃とコーナ刃の各一端部と各他端部における逃げ面を滑らかに連続させることができる。
一方、上記すくい面に対向する方向から見て、上記主切刃は、上記コーナ刃に連なる該主切刃の一端部を、該コーナ刃がなす凸曲線よりも曲率半径の大きな凸曲線状とするとともに、該主切刃の他端部は凹曲線状とすることにより、上述のように主切刃の一端部をエンドミル本体の内周側に位置させるとともに他端部を外周側に位置させたときには、エンドミル本体外周側で主切刃の切り込み角をより小さくすることができる。
このため、例えば特許文献1、2に記載の切削インサートを取り付けた刃先交換式エンドミルのように主切刃の切り込み角がエンドミル本体外周側に向けて大きくなるのに比べ、高送り加工の際にこの主切刃によって生成される切屑の厚さをより薄くすることができるので、主切刃への負担を少なくして1刃当たりの送りをさらに大きくすることができ、一層効率的な切削加工を促すことが可能となる。
ここで、このように主切刃を凹凸曲線状に形成したときには、上記主切刃の一端部がなす凸曲線の曲率半径よりも、上記切刃の他端部がなす凹曲線の曲率半径を大きくすることにより、切屑の厚さが最も厚くなる位置を主切刃の中央部により近い位置とすることができるため、切刃強度を十分に確保することができる。また、上記主切刃の一端部がなす凸曲線と、上記主切刃の他端部がなす凹曲線とが、互いに接していて、主切刃が滑らかに連続した凹凸曲線とされていれば、切屑の厚さの変動量も滑らかとなり、主切刃の負担を一層軽減することができる。
さらに、こうして主切刃を凹凸曲線状に形成したときの主切刃のすくい角は、上記主切刃の他端部において上記主切刃の一端部に向かうに従い正角側に向けて大きくなるようにすることにより、特に上述のように四角形面の各辺稜部と各角部に主切刃とコーナ刃を形成して、主切刃の逃げ角を一端部よりも他端部において正角側に向けて大きくした場合において、この主切刃の他端部に隣接する他のコーナ刃の他端部で刃物角が小さくなりすぎるのを防いで、逃げ角が正角側に向けて大きくされたこのコーナ刃の他端部における切刃強度を確保することができる。
なお、このように主切刃のすくい角を主切刃の他端部において主切刃の一端部に向かうに従い正角側に向けて大きくなるようにしたときには、主切刃の一端部におけるすくい角は一定とすることにより、正角側に向けて大きくされたすくい角によって主切刃の一端部における切れ味の向上を図ることができる。
以上説明したように、本発明によれば、四角形板状の切削インサートにおいてインサート本体に形成される切刃の数を増やしても、高送り加工やランピング加工の際にエンドミル本体内周側に位置するコーナ刃の逃げ面が被削材と干渉するのを防ぐとともに、主切刃の一端部に連なるコーナ刃の一端部では刃物角を大きく確保してチッピングや欠損を防止することができ、効率的かつ経済的な切削加工を促すことが可能となる。
図1ないし図5は本発明の切削インサートの一実施形態を示すものであり、図6ないし図9はこの実施形態の切削インサートを取り付けた本発明の刃先交換式エンドミルの一実施形態を示すものである。本実施形態の切削インサートにおいて、そのインサート本体1は、超硬合金等の硬質材料により四角形板状、詳しくは略正方形板状に形成され、この略正方形状をなすインサート本体1の表裏一対の四角形面の中央には、インサート本体1の厚さ方向(図3における上下方向)に貫通して該インサート本体1を刃先交換式エンドミルのエンドミル本体11に取り付けるための取付孔2が開口している。
ここで、本実施形態において、インサート本体1の表裏の四角形面は、図2に示すように上記取付孔2の中心(表裏の正方形面の中心)を通ってインサート本体1の上記厚さ方向に延びるインサート中心線C回りに僅かに捩られるように配置されている。また、インサート本体1は、インサート中心線C回りに90°ずつの回転対称形状とされるとともに、このインサート中心線Cに直交してインサート本体1の厚さ方向の中心を通り、インサート中心線C方向視において捩られた表裏の四角形面の対角線同士の二等分線と、これら表裏の四角形面の周囲に配置されるインサート本体1の側面の中心を通る直線とに関して表裏反転対称形状とされている。
このようなインサート本体1の表裏の四角形面にはすくい面3が形成されるとともに、これらの四角形面の周囲に配置されるインサート本体1の上記側面には逃げ面4が形成されている。さらに、これらすくい面3と逃げ面4との交差稜線部には、両四角形面の各辺稜部に主切刃5が形成されるとともに、該四角形面の各角部にはコーナ刃6が形成されており、このコーナ刃6はインサート中心線C方向にすくい面3に対向する方向から見て1/4円弧等の凸曲線状をなしている。なお、これら主切刃5とコーナ刃6とは、本実施形態では表裏の四角形面それぞれにおいてインサート中心線Cに垂直な1つの平面上に位置するようにされている。
表裏の四角形面に形成されるすくい面3は、主切刃5およびコーナ刃6に沿った外周部分が、これら主切刃5およびコーナ刃6から離間して四角形面の内側に向かうに従い反対の四角形面側に向けて上記厚さ方向に後退するように傾斜するポジすくい面3aとされるとともに、該四角形面中央の取付孔2開口部周辺は上記インサート中心線Cに垂直な拘束面3bとされている。なお、主切刃5およびコーナ刃6にはランドや丸ホーニングが形成されていてもよい。
さらに、インサート本体1の表裏の四角形面の周囲に配置される4つの側面は、図3に示すようにインサート本体1の厚さ方向の中央部が凹むように形成されており、4つの側面のこの凹んだ部分はインサート中心線Cに直交する断面において表裏の四角形面の対角線同士の二等分線を対角線とする正方形状をなし、それぞれはインサート中心線Cに平行に延びる平面状とされている。主切刃5およびコーナ刃6の逃げ面4は、各側面の上記厚さ方向の両外側の、凹んだ部分に対して凸となる部分にそれぞれ形成されている。
ここで、本実施形態の切削インサートは、切削加工時に使用される主切刃5およびコーナ刃6が、図9に示すように刃先交換式エンドミルを正面側から見て反時計回り方向に回転させられる右刃をなすようにされた右勝手の切削インサートであり、この主切刃5およびコーナ刃6のすくい面3が形成された四角形面に対向する方向から見て、該四角形面の周回りのうち時計回り方向側に位置する主切刃5の一端部5aに、この主切刃5の一端部5aに連なるコーナ刃6の一端部6aが位置し、反時計回り方向側に位置する主切刃5の他端部5bに他のコーナ刃6の他端部6bが連なるようにされている。
そして、このコーナ刃6の逃げ角β6、すなわちコーナ刃6に連なる逃げ面4がインサート中心線Cに沿った断面において該インサート中心線Cに平行な直線に対してなす角度は、図5(a)〜(c)に示すように主切刃5の一端部5aに連なる該コーナ刃6の一端部6aから該コーナ刃6の他端部6bに向かうに従い正角側に向けて大きくなるようにされている。つまり、一端部6aから他端部6bに向けて逃げ面4が、上記断面においてコーナ刃6から上記厚さ方向に離間するに従いインサート本体1の内側により大きく凹んで後退するようにされている。なお、本実施形態におけるコーナ刃6の逃げ角β6は、コーナ刃6の一端部6aにおいて0°とされており、従ってコーナ刃6の他端部6bにおいては正角で、ただし20°以下となるように正角側に漸次大きくされている。
さらに、主切刃5の逃げ角β5も、図4(a)〜(e)に示すように上記主切刃5の一端部5aよりも該主切刃5の他端部5bにおいて正角側に向けて大きくされている。ここで、この主切刃5の逃げ角β5は、本実施形態では図2に示すように、インサート中心線Cとインサート本体1の側面の中心を通る直線とを含んだ平面による断面(インサート本体1の側面中央部の凹んだ平面に直交する断面。図2におけるDD断面)とこれに平行な断面において、主切刃5に連なる逃げ面4がインサート中心線Cに平行な直線に対してなす角度とされている。
なお、この主切刃5の逃げ角β5は、該主切刃5の一端部5aにおいては、この一端部5aに連なるコーナ刃6との接点(主切刃5とコーナ刃6の一端)でコーナ刃6の一端部6aにおける逃げ角β6と等しく0°とされ、主切刃5の他端部5bにおいては正角側に漸次大きくなるようにされている。また、この主切刃5の他端部5bに連なる他のコーナ刃6との接点において主切刃5の逃げ角β5は、該接点における他のコーナ刃6の他端部6bの逃げ角β6と等しくされ、主切刃5とコーナ刃6の逃げ面4が滑らかに連続するようにされている。
さらにまた、この主切刃5は、インサート中心線C方向視にすくい面3に対向する方向から見て図2に示すように、コーナ刃6に連なる該主切刃5の上記一端部5aが、コーナ刃6がなす凸曲線よりも曲率半径の大きな凸曲線状とされるとともに、該主切刃5の他端部5bは凹曲線状とされている。ここで、これら主切刃5がなす凹凸曲線は、主切刃5の一端部5aがなす凸曲線の曲率半径よりも、主切刃5の他端部5bがなす凹曲線の曲率半径の方が大きくなるようにされている。
また、本実施形態では、主切刃5の一端部5aがなす凸曲線と他端部5bがなす凹曲線とが互いに接している。主切刃5の一端部5aとこれに連なるコーナ刃6の一端部6a、および主切刃5の他端部5bとこれに連なる他のコーナ刃6の他端部6bも、それぞれ上記接点において互いに接しており、従ってすくい面3とされる表裏の四角形面それぞれの辺稜部と角部に形成された主切刃5とコーナ刃6は、本実施形態では滑らかに連続する凹凸曲線を描いて周回することになる。
一方、主切刃5のすくい角α5は、本実施形態では主切刃5の他端部5bにおいて、主切刃5の一端部5aに向かうに従い正角側に向けて漸次大きくされている。ここで、この主切刃5のすくい角α5は、上述したインサート中心線Cとインサート本体1の側面の中心を通る直線とを含んだ平面による断面とこれに平行な断面において、主切刃5に連なる上記ポジすくい面3aがインサート中心線Cに垂直な平面に対してなす角度とされ、このポジすくい面3aのように主切刃5から離間して四角形面の内側に向かうに従い反対の四角形面側に向けて上記インサート中心線Cに垂直な平面に対し厚さ方向に後退するように傾斜する側が正角側となる。
また、この主切刃5のすくい角α5は、主切刃5の一端部5aにおいては、他端部5bの一端部5a側で正角側に大きなすくい角α5とされたまま、一定の角度とされている。さらに、コーナ刃6のすくい角α6は、主切刃5の一端部5aに連なるコーナ刃6の一端部6aで他端部6bよりも正角側に大きくされ、これら主切刃5の一端部5aとコーナ刃6の一端部6a、および主切刃5の他端部5bとこれに連なる他のコーナ刃6の他端部6bとのそれぞれの上記接点において、主切刃5のすくい角α5とコーナ刃6のすくい角α6は互いに等しくされている。従って、すくい面3のポジすくい面3aもすくい角α5、α6が正角の範囲で滑らかに連続するようにされている。
このように構成された切削インサートが着脱可能に取り付けられる本実施形態の刃先交換式エンドミルは、そのエンドミル本体11が軸線Oを中心とした概略円柱状をなし、このエンドミル本体11の後端側(図6において右上側。図7および図8においては上側)は円柱状のままのシャンク部12とされるとともに、このシャンク部12よりも先端側(図6において左下側。図7および図8においては下側)には首部13を介して上記切削インサートが取り付けられる刃部14が形成されている。このような刃先交換式エンドミルは、上記シャンク部12が工作機械の主軸に把持されて軸線O回りにエンドミル回転方向Tに回転されつつ、通常は軸線Oに垂直な方向に送り出され、刃部14に取り付けられた切削インサートにより被削材に切削加工を行う。
この刃部14には、エンドミル本体11の先端部外周に開口するように複数(本実施形態では2つ)のチップポケット15が形成されるとともに、これらのチップポケット15のエンドミル回転方向T側を向く壁面の先端部には切削インサートが取り付けられるインサート取付座16がそれぞれ形成されている。なお、エンドミル本体11には、シャンク部12の後端面から先端側に向けてクーラント孔17が軸線Oに沿って穿設されており、このクーラント孔17は刃部14において複数に分岐して、各チップポケット15のエンドミル回転方向Tの後方側を向く壁面に、インサート取付座16に向けて開口させられている。
インサート取付座16は、エンドミル回転方向Tを向く平坦な底面16aと、この底面16aからエンドミル回転方向Tに向けて延びてエンドミル本体11の先端側を向く壁面16bおよび外周側を向く壁面16cとを備えて、刃部14におけるエンドミル本体11の先端面と外周面に開口する凹部とされている。底面16aにはネジ孔16dが形成されるとともに、壁面16b、16cには、底面16aに垂直な方向から見て互いに直交するとともに底面16aに対しても直交する方向に延びる平坦な突端面を有する突条部が形成されている。
このようなインサート取付座16に、上記切削インサートは、インサート本体1の表裏の四角形面のうち切削に使用する主切刃5およびコーナ刃6が形成された一方の四角形面をすくい面3としてエンドミル回転方向Tに向け、これとは反対の他方の四角形面中央の拘束面3bを底面16aに密着させるとともに、インサート本体1の隣接する2つの側面の凹んだ平面状の中央部を壁面16b、16cの上記突条部の突端面に当接させて着座させられる。そして、インサート本体1の取付孔2に挿通したクランプネジ18を上記ネジ孔16dにねじ込むことにより、切削インサートは、底面16aに押し付けられるとともに上記2つの側面の中央部が上記突条部の突端面にも押し付けられるようにされ、インサート取付座16に固定されて取り付けられる。
こうして取り付けられた切削インサートは、上記切削に使用する主切刃5がエンドミル本体11先端側に向けられて突出させられ、その一端部5aをエンドミル本体11内周側に位置させるとともに他端部5bを外周側に位置させて、この一端部5aから他端部5bに向かうに従い漸次エンドミル本体11の後端側に延びるように配置され、比較的小さな切り込み角がこの主切刃5に与えられるようにされる。
また、エンドミル本体11内周側に位置してこの主切刃5の一端部5aに連なるコーナ刃6は、該主切刃5の一端部5aから離間するに従いエンドミル本体11の後端内周側に向けて延びるように配置され、これら主切刃5の一端部5aとコーナ刃6の一端部6aとの接点周辺がエンドミル本体11の先端側に最も突出するようにされる。なお、この切削に使用される主切刃5の他端部5bのエンドミル本体11外周側に連なる他のコーナ刃6は、刃部14においてエンドミル本体11の外周側に突出させられて、図9に示すようにその軸線O回りの回転軌跡の内周側にインサート本体1の他方の四角形面が位置させられる。
さらに、この切削インサートは、図8に示すようにインサート中心線Cがすくい面とされる一方の四角形面から他方の四角形面に向かうに従いエンドミル本体11の軸線O方向後端側に向かうように僅かに傾けられて取り付けられており、切削に使用される主切刃5には負のアキシャルレーキ角が設定される。ただし、この主切刃5に連なるすくい面3は上述のようなポジすくい面3aとされているため、実際の主切刃5のアキシャルレーキ角は負角側に大きくなりすぎることはない。
また、この切削に使用される主切刃5は、エンドミル本体11の軸線O方向先端側から見て図9に示すように、該主切刃5に平行で軸線Oに交差する直線よりもエンドミル回転方向T側に位置するように配置されていて、いわゆる芯上がりとされており、これによってこの主切刃5には負のラジアルレーキ角が与えられる。そして、これに伴い、該主切刃5の一端部5aとの接点でこの接点における主切刃5の逃げ角β5と等しい0°の逃げ角β6で連なるようにされたエンドミル本体11内周側のコーナ刃6は、そのまま0°の逃げ角で他端部6bに延びていると、この他端部6bにおけるコーナ刃6の軸線O回りの回転軌跡が他端部6bに連なる逃げ面4の外周側に位置してしまうため、逃げ面4が被削材と干渉してしまうおそれが生じる。
ところが、これに対して上記構成の切削インサートでは、上記切削に使用する主切刃5のエンドミル本体11内周側に位置する一端部5aに連なるコーナ刃6が、この主切刃5に連なるコーナ刃6の一端部6aから他端部6bに向かうに従い逃げ角β6が正角側に向けて大きくなるようにされているので、この他端部6bにおいてコーナ刃6の回転軌跡を逃げ面4の内周側に位置させることができ、被削材との干渉を避けることができる。従って、未使用のコーナ刃6が被削材との干渉によって摩耗したりして使用不可能となるのを防ぐことができ、1つのインサート本体1に形成されたすべての主切刃5およびコーナ刃6を満遍なく使い切って効率的かつ経済的な切削加工を促すことができる。
その一方で、コーナ刃6の一端部6aでは、他端部6bに対して逃げ角β6が負角側に大きくされていて、本実施形態では0°とされているので、この他端部6bにおけるコーナ刃6の刃物角を大きく確保することができ、切刃強度の向上を図ることができる。従って、エンドミル本体11を軸線Oに垂直な方向に送り出す際の送り量を高めた高送り加工を行う場合や、このコーナ刃6の一端部6aが使用される、エンドミル本体11を軸線O方向先端側に僅かに送り出して被削材を掘り下げるようなランピング加工を行うような場合でも、コーナ刃6にチッピングや欠損が生じるのを防いで、上述のような効率的かつ経済的な切削加工を確実に促すことが可能となる。
なお、本実施形態では、このようにコーナ刃6の一端部6aにおける逃げ角β6が0°とされていて、逃げ面4がインサート中心線Cに垂直な平面に対して直交するようにされているので、すくい面3のコーナ刃6側が上述のようなポジすくい面3aとされていてもコーナ刃6の刃物角を大きくして、切刃強度を確実に確保することができる。一方、この一端部6aよりも逃げ角β6が正角側に大きくなるコーナ刃6の他端部6bでも、本実施形態では逃げ角β6が20°以下とされているので、この他端部6bにおいても被削材との干渉は防ぎつつ、切刃強度が小さくなりすぎるのは防ぐことができる。
また、主切刃5の逃げ角β5も、本実施形態ではエンドミル本体11内周側のコーナ刃6に連なる主切刃5の一端部5aより、エンドミル本体11外周側の主切刃5の他端部5bにおいて正角側に向けて大きくされている。従って、ランピング加工の際に最初に被削材に切り込まれる主切刃5の一端部5aでは、コーナ刃6の一端部6aと同様に刃物角を確保してチッピングや欠損が生じるのを防ぐことができるとともに、他端部5bでは切削抵抗を小さくして主切刃5の切れ味向上を図ることができる。
さらに、本実施形態では、こうして主切刃5の逃げ角β5も一端部5aより他端部5bで正角側に大きくすることにより、この主切刃5とその両端部5a、5bに連なるコーナ刃6とを、上記接点においてそれぞれ互いに等しい逃げ角β5、β6とすることができる。このため、主切刃5とコーナ刃6の逃げ面4同士を滑らかに連続させることができ、逃げ面4に段差などが形成されることによって欠損等が発生し易くなったりするのも避けることができる。
一方、本実施形態におけるこの主切刃5は、すくい面3に対向する方向から見たときには、エンドミル本体11内周側に配置される一端部5aがコーナ刃6よりも曲率半径の大きい凸曲線状をなすとともに、エンドミル本体11外周側に配置される他端部5bは凹曲線状をなしており、このような主切刃5を一端部5aから他端部5bに向かうに従いエンドミル本体11後端側に延びるようにインサート本体1を取り付けることにより、主切刃5の切り込み角は、エンドミル本体11外周側に向けて一端部5aでは漸次大きくなるのに対して他端部5bでは漸次小さくなる。
ここで、図10(a)にハッチングで示すのは、このような主切刃5によって生成される切屑の断面であり、図10(b)にハッチングで示すのは、例えば特許文献1、2に記載の切削インサートを取り付けた刃先交換式エンドミルのように主切刃の切り込み角が全体的にエンドミル本体外周側に向けて大きくなる場合の切屑の断面であり、1刃当たりの送り量fzと切り込み深さapは互いに等しくされている。そして、このうち図10(b)に示すように主切刃5の切り込み角が外周側に向けて漸次大きくなる場合には、切屑の厚さも外周側に向けて厚くなって最外周の切り込み境界部分で最大の厚さtとなるため、この切り込み境界部で切削インサートが異常摩耗を起こすおそれがあり、例えば1刃当たりの送り量を小さくしたりせざるを得ない。
ところが、これに対して、本実施形態のように主切刃5の切り込み角がエンドミル本体11外周側で小さくなる場合は、図10(a)に示すように切屑の厚さは外周側に向けて一旦厚くなった後に薄くなり、最大の厚さtも薄くなる。このため、高送り加工の際に主切刃5に作用する切削負荷の低減を図ることができるので、本実施形態の切削インサートおよび刃先交換式エンドミルによれば、切削インサートの異常摩耗を確実に防止することができるとともに、1刃当たりの送り量をさらに大きくして一層効率的な高送り加工を図ることが可能となる。
また、本実施形態では、こうして凹凸曲線状をなす主切刃5のうち、凸曲線状をなす一端部5aの曲率半径よりも凹曲線状をなす他端部5bの曲率半径が大きくされており、これによって図10(a)に示すように切屑が最大の厚さtとなる位置を、これら一端部5aと他端部5bとが接する主切刃5の中央部に近い位置とすることができる。このため、主切刃5の一端部5aや他端部5bの隣接するコーナ刃6に連なる部分に近い位置で切屑が最大の厚さとなるのに比べ、最大の厚さtとなる切屑に対する主切刃5の強度を確保し易く、これによってもチッピングや欠損の防止を図ることができる。
さらに、本実施形態においては、これら主切刃5の一端部5aがなす凸曲線と他端部5bがなす凹曲線とが互いに接するようにされており、すなわち主切刃5が直線部などを有することのない連続した凹凸曲線とされている。従って、エンドミル本体11内外周での切屑の厚さの変動量も連続した滑らかなものとなり、主切刃5の特定の部分に切削負荷が集中するのを避けて主切刃5の負担を一層軽減することができる。
一方、この主切刃5のすくい角α5は、本実施形態では他端部5bにおいて一端部5aに向かうに従い正角側に向けて大きくなるようにされており、逆にこの他端部5bに連なる他のコーナ刃6に向けては主切刃のすくい角α5が小さくなる。従って、本実施形態のように主切刃5の他端部5bにおける逃げ角β5が他のコーナ刃6に向けて正角側に大きくされている場合でも、主切刃5の刃物角が他端部5bで小さくなりすぎるのは防ぐことができ、主切刃5全体で十分な切刃強度を確保することができる。
また、この主切刃5の他端部5bに連なる他のコーナ刃6においては、その他端部6bに向かうに従い逃げ角β6は上述のように正角側に大きくなるが、本実施形態のようにすくい角α6は主切刃5と同様に他端部6bに向かうに従い小さくしてコーナ刃6と主切刃5のすくい面3とを滑らかに連続させることにより、このコーナ刃6の他端部6bにおいても刃物角が小さくなりすぎるのを防ぐことができる。このため、コーナ刃6についても切刃強度を十分に確保してチッピングや欠損が生じるのを防止することができる。
さらに、本実施形態では、主切刃5の一端部5aにおけるすくい角α5は、他端部5bで一端部5aに向かうに従い正角側に向けて大きくされたままの一定のすくい角α5とされており、このように正角側に大きくされたすくい角α5によって主切刃5の一端部5aには鋭い切れ味を与えることができ、切削抵抗の低減を図ることができる。その一方で、この主切刃5の一端部5aにおける逃げ角β5は、本実施形態では0°となるようにされているので、すくい角α5が正角側に大きくても切刃強度が損なわれることはない。
また、本実施形態の切削インサートでは、インサート本体1が正方形板状とされ、この正方形状をなす表裏の四角形面の各辺稜部と各角部に主切刃5とコーナ刃6が形成されており、ただし表裏の四角形面はその中心を通るインサート中心線C回りに僅かに捩られた配置とされて、インサート本体1が表裏反転対称形状とされている。そして、このような切削インサートが、エンドミル本体11のインサート取付座16に、その1つの主切刃5に比較的小さな切り込み角が与えられるように、またインサート中心線Cがすくい面とされる一方の四角形面から他方の四角形面に向けてエンドミル本体11の軸線O方向後端側に延びるように取り付けられることにより、この他方の四角形面は、一方の四角形面の切削に使用される主切刃5に対してエンドミル本体11の軸線O方向後端側に、またこの主切刃5のエンドミル本体11外周側に連なる他のコーナ刃6の回転軌跡よりも内周側に位置させることが可能となる。
従って、エンドミル回転方向Tに向けられた一方の四角形面の辺稜部に形成された主切刃5を切削に使用するときには、他方の四角形面の主切刃5やコーナ刃6は被削材と干渉することが無く、インサート本体1をインサート中心線C回りに90°ずつ回転してインサート取付座16に取り付け直し、この一方の四角形面のそれぞれ4つの辺稜部および角部に形成された主切刃5およびコーナ刃6を切削に使用した後は、インサート本体1を表裏反転してインサート取付座16に取り付け直すことにより、他方の四角形面とされていたすくい面3をエンドミル回転方向Tに向けてその主切刃5およびコーナ刃6を切削に使用することができる。このため、本実施形態によれば、1つのインサート本体1に形成された合計8つの主切刃5およびコーナ刃6を確実に使い切ることができて、一層効率的かつ経済的である。
なお、本実施形態では上述のように、刃先交換式エンドミルを正面側から見て反時計回り方向に回転させられる右刃をなすようにされた右勝手の切削インサートに本発明を適用した場合について説明したが、正面側から見て時計回り方向に回転させられる左刃となる左勝手の切削インサートに適用した場合には、インサート本体の形状は上記実施形態のインサート本体1と鏡面対称形状となる。ただし、いずれの場合も、エンドミル本体11先端の内周側に主切刃5の一端部5aが配置されるとともに外周側に他端部5bが配置されて、この主切刃5の一端部5aに連なってエンドミル本体11先端内周側に配置されるコーナ刃6の逃げ角β6が、主切刃5の一端部5aに連なる該コーナ刃6の一端部6aから該コーナ刃6の他端部6bに向かうに従い正角側に向けて大きくされる。