JP4978868B2 - スピンフィルタ効果素子及びそれを用いた磁気デバイス - Google Patents
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Description
この強磁性層/絶縁体層/強磁性層からなるMTJ素子は、外部磁界によって2つの強磁性層の磁化を互いに平行あるいは反平行に制御することにより、膜面垂直方向のトンネル電流の大きさが互いに異なる、いわゆるトンネル磁気抵抗(TMR)効果が、室温で得られる。
TMRは、使用する強磁性層と絶縁体との界面におけるスピン分極率Pに依存し、二つの強磁性体のスピン分極率をそれぞれP1,P2 とすると、一般に、下記(1)式で与えられることが知られている。
TMR =2P1P2 /(1−P1 P2 ) (1)
ここで、強磁性層のスピン分極率Pは0<P≦1の値をとる。
現在、スピン分極率が約0.5のCoFe合金を用いたMTJ素子により得られているTMRは、室温において約50%である。
これまで、NiMnSb、Fe3O4 、CrO2 、(La−Sr)MnO4 、Th2 MnO7、Sr2 FeMoO6 など種々のハーフメタルを用いてTMR素子が製作されたが、いずれも室温のTMRは期待に反して小さく、せいぜい十数%程度であった。
現在、MTJ素子は、ハードデイスク用磁気ヘッド及び不揮発性磁気メモリ(MRAM)への応用が期待されている。MRAMは、MTJ素子をマトリックス状に配置し、別に設けた配線に電流を流して磁界を印加する構造を有している。この印加磁界により、各MTJ素子を構成する二つの磁性層を互いに平行、反平行に制御することにより、1、0を記録させている。また、読み出しは、TMR効果を利用して行う。
これまでの報告(例えば、非特許文献3参照)によれば、Al/EuS/Gdからなるスピンフィルタ素子において、2Kで100%を超えるTMRが得られている。
この構成によれば、本発明のスピンフィルタ効果素子は、マグネタイト(Fe3O4 )を除く高抵抗の強磁性スピネルフェライトをトンネル障壁に用いることにより、室温かつ低外部磁界で、非常に大きなTMRを得ることができる。
また、高抵抗の強磁性スピネルフェライト膜が、MxFe3−x O4 (Mは、Mn,Co,Ni,Cu,Mg,Liの何れか1つ)であることを特徴とする。
高抵抗の強磁性スピネルフェライト膜が、CoFe2O4からなることを特徴とする。
このような高抵抗強磁性スピネルフェライトは、エネルギーバンドのスピン分裂が1eV以上と大きいため、大きなTMRが得られる。また、比抵抗を1Ω・cm以上とすることにより、トンネル障壁が効率良く形成できる。
この構成によれば、スピンバルブ効果により強磁性電極の磁化は、反強磁性層との交換相互作用により、スピンが1方向に固定されるので、本発明のスピンフィルタ効果素子のTMRは更に大きくなる。
また、本発明のスピンフィルタ効果素子は、構造が簡便で室温で非常に大きなトンネル磁気抵抗が得られるので、従来の磁気抵抗効果素子よりもはるかに微細化が可能である。
図1は本発明のスピンフィルタ効果素子の構成を示す断面図である。本発明のスピンフィルタ効果素子1は、高抵抗のスピネルフェライト12の薄膜が第1の電極である非磁性電極11と第2の電極である強磁性電極13との間に挿入された構造を有している。直流電源14は、第1の電極11と第2の電極13に印加され、外部磁界15が膜面内に平行に印加されている。
また、高抵抗のスピネルフェライト12は、強磁性体であるため、↑(上向き矢印)スピンバンドのエネルギー準位は、Φ↓と異なるΦ↑(上向き矢印)で示す。図2に示すように、Φ↑がΦ↓よりも小さいので、スピン電子e↑のみが、Φ↑のトンネル障壁を介して強磁性電極13側にトンネルすることができる。
従って、本発明のスピンフィルタ素子1では、高抵抗のスピネルフェライト12のエネルギー準位のスピン分裂が大きいほど、より大きなスピンフィルタ効果が得られる。また、本発明のスピンフィルタ素子1では外部磁界15を印加し、このスピンフィルタ効果を利用すると共に、外部磁界により第2電極の強磁性層のスピンを反転させることによって、大きなトンネル磁気抵抗効果が得られる。
また、本発明のスピンフィルタ効果素子の第2の電極13の強磁性電極、または、反強磁性層の上には、さらに保護膜となる非磁性の電極層を堆積させることが好ましい。
本発明のスピンフィルタ効果素子1は、スパッタ法、蒸着法、レーザアブレーション法、MBE法などの通常の薄膜成膜法を用いて成膜することができる。
スピネルフェライトは、MFe2O4 なる化学式で表される。ここで、Mは、Zn、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Mg、Liなどの2価のイオンであり、Feは3価の鉄イオンである。
スピネル構造の単位胞は分子式MFe2O4 の8個分のイオンから構成され、金属イオンの入る位置は結晶学的に異なるA、B二つのサイトがある。Aサイトは、4個の酸素で4面体的に囲まれ、Bサイトは、6個の酸素で8面体的に囲まれている。
ここで、M=Feであるマグネタイト(Fe3O4 )は、金属的な伝導性を有し、トンネル障壁の機能を有しないから、本発明のスピンフィルタ効果素子のトンネル障壁とならない。
従って、正スピネルフェライトは、(M2+)[Fe3+]O4、逆スピネルフェライトは、(Fe3+)[Fe3+M2+]O4 となる。
ここで( )は、Aサイトを、[ ]は、Bサイトを表す。
正スピネルフェライトは、M=Zn,Cd,Mnの場合のみであり、それ以外は逆スピネルであることが知られている。
この結果、MxFe3−x O4 のMが非磁性元素でも(1+x)個のFe3+に相当する磁化が生じて強磁性体になり、本発明のスピンフィルタ効果素子のトンネル障壁に用いる強磁性層として好適である。
このような、強磁性スピネルフェライト12としては、Feの一部を、M=Zn、Mn、Co、Ni、Cu、Mg、Li及びそれらの混合物で置換した材料が好適である。
また、高抵抗の強磁性スピネルフェライト12が、MxFe3−x O4 (Mは、Zn,Mn,Co,Ni,Cu,Mg,Liの何れか1つ)であればよい。
このような、本発明に用いる高抵抗のスピネルフェライト12のキュリー点は、おおよそ300℃以上あるので、室温で十分に動作する。
図3は本発明のスピンフィルタ効果素子に外部磁界を印加したときの抵抗を模式的に説明する図である。図の横軸は、スピンフィルタ効果素子に印加される外部磁界で、縦軸が抵抗である。ここで、本発明のスピンフィルタ効果素子には、トンネル電流が流れるために必要な電圧が十分に印加されている。
図示するように、本発明のスピンフィルタ効果素子の抵抗は、外部磁界により大きな変化を示す。外部磁界を領域(I)より印加し、外部磁界を減少させ、零として、さらに外部磁界を反転して増大させると、領域(II)から領域(III )において最小の抵抗から最大の抵抗に変化する。ここで、領域(II)の外部磁界をH1 とする。
磁気抵抗変化率=(最大の抵抗−最小の抵抗)/最小の抵抗(%)
で表され、この値が大きいほど、磁気抵抗変化率としては、望ましい。
これにより、本発明のスピンフィルタ効果素子1は、図3に示すように、磁界が零から±H1より極く僅かに大きい磁界、即ち低い磁界を加えることで、大きな磁気抵抗変化率が得られる。
また、本発明のスピンフィルタ効果素子の第2の電極をスピンバルブ電極とすれば、より大きい磁気抵抗変化率を得ることができる。
図3に示すように、領域(I)から領域(III )の間で大きな抵抗変化、即ち大きな磁気抵抗変化率が得られる。
本発明のスピンフィルタ効果素子1は、室温で、かつ、低磁界において大きな磁気抵抗変化率を有しているので、磁気抵抗センサとして用いれば、感度の高い磁気デバイスを得ることができる。
また、本発明のスピンフィルタ効果素子1は、室温で、かつ、低磁界において大きな磁気抵抗変化率を有しているので、感度の高い読み出し用の磁気デバイス所謂磁気ヘッドを構成することができる。
また、本発明のスピンフィルタ効果素子をマトリックス状に配置し、別に設けた配線に電流を流して外部磁界を印加することで、スピンフィルタ効果素子を構成する第2の強磁性電極の磁性層を互いに平行、反平行に制御することにより、抵抗が高い状態と抵抗が低い状態となり保持、即ち記録ができる。
これを1、0として記録させることで、MRAMなどの磁気デバイスを構成することができる。
図4は、本発明に係る実施の形態によるスピンフィルタ効果素子の実施例1の構成を示す断面図である。図に示すように、本発明のスピンフィルタ効果素子1は、例えばMgO(100)基板20上に非磁性の第1の電極11が配置され、第1の電極11上に高抵抗のスピネルフェライト12の薄膜が配置され、さらに高抵抗のスピネルフェライト12の薄膜上に第2の電極13となる強磁性層13Aが配置されている。ここで、上記構造は、高周波スパッタ法によってMgO(100)基板20上に、非磁性の第1の電極11としてTiNを10nm、強磁性トンネル絶縁層となるスピネルフェライト12としてCoFe2O4 を3nm、第2の電極13となる強磁性層13Aを5nm、それぞれ堆積して成膜した多層膜である。
なお、成膜時に100Oe(Oe:エルステッド)の磁界を印加して膜面内に一軸異方性を導入した。また、CoFe2O4 膜12を成膜するときには基板20を400℃の温度に加熱した。
ここで、上記構造は、MBE法によってMgO(100)基板20上に、非磁性の第1の電極11としてTiNを10nm、強磁性トンネル絶縁層となるスピネルフェライト膜12としてMn0.25Fe2.75O4を3nm、第2の電極13となる強磁性層13Aを5nm、反強磁性体層13BとしてIrMnを5nm、順次堆積して成膜した多層膜である。IrMn層13Bは、反強磁性体であり、強磁性層13Aのスピンを固定する役割をしている。なお、Mn0.25Fe2.75O4 膜12を成膜するときには、基板20を400℃の温度に加熱した。
実施例3におけるスピネルフェライト膜12は、実施例2によるMn0.25Fe2.75膜12を、MnFe2 O4 膜12に変えたものである。他の各層の構成は、実施例2と同一である。
ここで、上記構造は、高周波スパッタ法によってMgO(100)基板20上に、非磁性の第1の電極11としてTiNを10nm、強磁性トンネル絶縁層となるスピネルフェライト12としてMnFe2 O4 を3nm、第2の電極13となる強磁性層13Aを5nm、反強磁性体層13BとしてIrMnを5nm、順次堆積して成膜した多層膜である。IrMn膜13Bは反強磁性体でありMnFe2 O4 膜12のスピンを固定する役割をしている。また、成膜時に100Oeの磁界を印加して膜面内に一軸異導入した。MnFe2 O4 膜12を成膜するときには、基板20を400℃の温度に加熱した。
ここで、上記構造は、高周波スパッタ法によって熱酸化Si基板21上に、非磁性の第1の電極11としてAlを10nm、強磁性トンネル絶縁層となるスピネルフェライト12としてZn0.35Fe2.65O4を5nm、第2の電極13となる強磁性層13Aを10nm、反強磁性体層13BとしてIrMnを5nm、保護層13Cとなる非磁性層のAlを5nm、順次堆積して成膜した多層膜である。IrMn膜13Bは、反強磁性体であり、強磁性層13Aのスピンを固定する役割をしている。なお、成膜時に100Oeの磁界を印加して膜面内に一軸異方性を導入した。また、Zn0.35Fe2.65O4膜12を成膜するときには、基板21を400℃の温度に加熱した。
また、本発明のスピンフィルタ効果素子1は、構造が簡便で、室温において磁気抵抗変化率が非常に大きいので、MRAMなどの不揮発性磁気メモリの記憶素子として、素子寸法の縮小をしても、十分に大きな電流が得られる。
図に示すように、本発明のスピンフィルタ効果素子は、熱酸化Si基板21上にスピンフィルタ効果素子1を形成している。Si基板21の表面を熱酸化し、酸化膜21Bを形成した。この基板20上に、非磁性の第1の電極11が配置され、第1の電極11上に高抵抗のスピネルフェライト12の薄膜が配置され、さらに高抵抗のスピネルフェライト12の薄膜上に絶縁膜16が堆積され、第2の電極13となる強磁性層13Aと、反強磁性体層13Bと、さらに保護膜となる電極層13Cが配置されている。
11 第1の電極である非磁性電極
12 高抵抗のスピネルフェライト
13 第2の電極
13A 強磁性層
13B 反強磁性層
13 保護膜
14 直流電源
15 外部磁界
16 絶縁膜
20 MgO基板
21 熱酸化Si基板
21A Si基板
21B Si酸化膜
Claims (8)
- 非磁性層からなる第1の電極と、
該第1の電極上のマグネタイトを除く高抵抗の強磁性スピネルフェライト膜と、
該強磁性スピネルフェライト膜上の絶縁膜と、
該絶縁膜上の強磁性層からなる第2の電極と、が順に配置され、
上記高抵抗の強磁性スピネルフェライト膜が、電子に対してスピンに依存したトンネル障壁として作用し、
上記絶縁膜が電子に対してスピンに依存しないトンネル障壁として作用し、かつ、上記強磁性スピネルフェライト膜と上記第2の電極となる強磁性層との磁気的結合を弱める作用をすることを特徴とする、スピンフィルタ効果素子。 - 前記高抵抗の強磁性スピネルフェライト膜において、Feの一部が、Mn,Co,Ni,Cu,Mg,Liおよびそれらの混合物で置換されており、かつ比抵抗が1Ω・cm以上であることを特徴とする、請求項1に記載のスピンフィルタ効果素子。
- 前記高抵抗の強磁性スピネルフェライト膜が、
組成式MxFe3−x O4 (Mは、Mn,Co,Ni,Cu,Mg,Liの何れか1つ、かつ、0<x<3)で記述されることを特徴とする、請求項2に記載のスピンフィルタ効果素子。 - 前記高抵抗の強磁性スピネルフェライト膜が、CoFe2O4からなることを特徴とする、請求項1〜3の何れか記載のスピンフィルタ効果素子。
- 前記第2の電極の強磁性層上に反強磁性層が配置されており、該強磁性層と該反強磁性層とがスピンバルブ構造からなることを特徴とする、請求項1〜4の何れかに記載のスピンフィルタ効果素子。
- 前記第2の電極が、保護膜となる非磁性金属で覆われていることを特徴とする、請求項1〜5の何れかに記載のスピンフィルタ効果素子。
- 前記スピンフィルタ効果素子が、基板上に形成されていることを特徴とする、請求項1〜6の何れかに記載のスピンフィルタ効果素子。
- 請求項1〜7の何れかに記載のスピンフィルタ効果素子を有することを特徴とする、磁気デバイス。
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