上述の通り排気ガスを低減するという観点からすると、シリンダ内で良好な状態で燃料を燃焼させることが好ましく、そのためシリンダ間の空燃比のバラツキ及び所定の空燃比からのズレを補正することが望まれている。空燃比のバラツキ及びズレの要因としては、製造及び組み付けする際に生じる、各燃焼室、各シリンダ、各バルブ、各インジェクション及びスロットルボディ等の形状、機能及び配置位置等のバラツキ(以下、単に「形状等のバラツキ」という)のほか、長年使用することによって生じる汚れ及び磨耗に伴うエンジンの性能劣化、いわゆる経年劣化が考えられる。
第2特許文献に開示される内燃機関の制御装置は、シリンダ間の発生トルクが均一になるように各シリンダの空燃比を制御している。シリンダ間に形状等のバラツキがあるため、シリンダ毎にシリンダ内の空燃比に対する発生トルクが異なる。そのためシリンダ間の発生トルクを均一にすると、シリンダ間の空燃比にバラツキが生じ、その結果、シリンダ内の燃焼状態にもバラツキが生じる。そのため前記内燃機関の制御装置では、上述のような要望を満足するような制御を行うことが難しい。
上述のような要望を満足するためには、空燃比センサを追加するなどして各シリンダの空燃比を検出し、検出された空燃比に基づいてシリンダ内の空燃比を決定し制御する必要がある。しかしながら上述したように空燃比センサ等を追加すると部品点数及び製造コストが増加してしまうとともに、このような制御を行うと、発生トルクを均一化することができない。
また本発明の目的は、シリンダ内の空燃比を検出する空燃比センサ及びシリンダ内の圧力を検出する圧力センサを追加することなく、シリンダ内の燃焼が良好な状態になるようにシリンダ内の空燃比を補正する空燃比制御装置及びそれを備える車両を提供することである。
本発明の空燃比制御装置は、シリンダを備える内燃機関の前記シリンダ内の空燃比を補正するための空燃比制御装置であって、前記シリンダ内の燃焼行程における内燃機関の回転角速度を検出する角速度検出手段と、前記角速度検出手段が検出した回転角速度に基づいて、内燃機関の発生出力を推定する出力推定手段と、前記シリンダ内の空燃比を制御して燃焼条件を変更可能に構成され、前記シリンダ内の空燃比が互いに異なる少なくとも2つの燃焼条件で前記内燃機関の回転角速度を前記角速度検出手段に検出させ、さらにこの検出させた回転角速度に基づいて各燃焼条件における内燃機関の発生出力を前記出力推定手段に推定させ、そしてこの推定させた前記各燃焼条件における内燃機関の発生出力に基づいて、より高い発生出力を生ずる空燃比を推定し、推定された空燃比を前記シリンダ内の目標空燃比とする目標空燃比決定手段と、前記シリンダ内の空燃比を前記目標空燃比決定手段が決定した目標空燃比に補正する空燃比補正手段を備えることを特徴とするものである。
本発明に従えば、内燃機関の発生出力に基づいて目標空燃比を決定し、この目標空燃比にシリンダ内の空燃比を補正することができる。目標空燃比を決定する際、目標空燃比決定手段は、少なくとも2つの燃焼条件における内燃機関の発生出力を出力推定手段に推定させ、この推定させた内燃機関の発生出力に基づいて、より高い発生出力を生ずる空燃比を推定し、推定された空燃比を目標空燃比とする。内燃機関の発生出力は、シリンダ内での燃焼状態と関連しており、内燃機関の発生出力を高くすると、シリンダ内の燃焼状態が良好になる。従って、内燃機関の発生出力がより高い発生出力を生じるような空燃比を目標空燃比とし、シリンダ内の空燃比をこの目標空燃比に補正することによって、内燃機関の発生出力を向上させると共に、シリンダ内の燃焼状態を良好な方向へと向上させることができる。
このように本発明は、検出された回転角速度から推定した内燃機関の発生出力に基づいて目標空燃比を決定し、そしてシリンダ内の空燃比を前記目標空燃比に補正するものであるので、シリンダ内の空燃比を検出する空燃比センサ及びシリンダ内の圧力を検出する圧力センサを追加することなく、シリンダ内の燃焼が良好な状態になるようにシリンダ内の空燃比を補正することができ、部品点数及び製造コストを低減することができる。
上記発明において、前記目標空燃比決定手段は、前記シリンダ内の空燃比が予め定められた基準空燃比であること条件とする第1燃焼条件、前記シリンダ内の空燃比が前記基準空燃比よりリーン側の空燃比であることを条件とする第2燃焼条件、及び前記シリンダ内の空燃比が前記基準空燃比よりリッチ側の空燃比であることを条件とする第3燃焼条件の少なくとも3つの燃焼条件における内燃機関の発生出力を前記出力推定手段に推定させ、前記この推定させた各燃焼条件おける内燃機関の発生出力に基づいて内燃機関の発生出力がピークとなる前記シリンダ内の空燃比を推定し、推定された空燃比を目標空燃比とするような構成であることが好ましい。
本発明に従えば、目標空燃比を決定する際、目標空燃比決定手段は、出力推定手段に少なくとも3つの燃焼条件における内燃機関の発生出力を推定させ、この演算した内燃機関の発生出力に基づいて内燃機関の発生出力がピークとなるシリンダ内の空燃比を推定し、このピークとなる空燃比を目標空燃比とする。このとき前記シリンダ内の空燃比を制御する前の基準空燃比を条件とする第1燃焼条件、前記基準空燃比よりリーン側の空燃比を条件とする第2燃焼条件及び前記基準空燃比よりリッチ側の空燃比を条件とする第3燃焼条件の少なくとも3つの燃焼条件を内燃機関の発生出力を推定させる燃焼条件に含めることによって、各燃焼条件における空燃比と発生出力との相関関係を示す相関関数を表現する曲線が凸状になり、内燃機関の発生出力がピークとなるシリンダ内の空燃比の推定が可能となる。内燃機関の発生出力がピークになったときがシリンダ内の燃焼状態が最も良好な状態となり、これは、シリンダの形状を問わない。したがって内燃機関の発生出力がピークとなる空燃比を推定し、この推定された空燃比を目標空燃比とし、この目標空燃比にシリンダ内の空燃比を補正することによって、内燃機関の発生出力を向上させると共に、シリンダ内を適正な燃焼状態にすることができる。
上記発明において、前記目標空燃比決定手段は、推定された各燃焼条件の内燃機関の発生出力に基づいて、空燃比と内燃機関の発生出力との相関関数を演算し、この相関関数に基づいて内燃機関の発生出力がピークとなる空燃比を推定するような構成であることが好ましい。
本発明に従えば、ピークの推定が容易になる。例えば、前記相関関数の演算に最小二乗法を用いることによって、内燃機関の発生出力がピークとなる空燃比を他の演算方法で推定した場合より正確に推定することができる。
上記発明において、前記角速度検出手段は、前記燃焼行程において2点の回転角速度を検出し、前記出力推定手段は、前記角速度検出手段が検出した前記燃焼行程の2点の各々の回転角速度の2乗値の差である回転変動を前記内燃機関の発生出力とみなしているような構成であることが好ましい。
本発明に従えば、回転変動が内燃機関の発生出力に比例しているので、回転変動に基づいて内燃機関の発生出力の大小を推定することができる。
上記発明において、前記角速度検出手段は、前記シリンダの燃焼行程の上死点近傍の回転角速度と下死点近傍の回転角速度とを検出するような構成であることが好ましい。
本発明に従えば、シリンダ内の燃焼行程の上死点近傍及び下死点近傍の回転角速度を検出する。これによって出力推定手段は、上記2点の回転角速度に基づいて内燃機関の発生出力を演算することとなり、内燃機関の発生出力をより正確に推定することができる。
上記発明において、空燃比補正手段及び目標空燃比決定手段は、前記シリンダに連なる吸気ポートに燃料を噴射する燃料噴射装置の燃料噴射量を制御することによって前記シリンダ内の空燃比を補正及び制御するような構成であることが好ましい。
本発明に従えば、空燃比補正手段及び目標空燃比決定手段は、燃料噴射装置から吸気ポートに噴射させる燃料噴射量を制御することによって、シリンダ内の空燃比を補正及び制御する。燃料噴射量を制御して空燃比を補正及び制御すると、空気の流量によって空燃比を制御する場合に比べて、シリンダ内の空燃比のばらつきを抑制することができる。これによってシリンダ内の空燃比を正確に推定することができるとともに、内燃機関の発生出力がピークとなるシリンダ内の空燃比をより正確に推定することができる。またシリンダ内の空燃比を目標空燃比に正確に補正することができ、所望の内燃機関の発生出力が得られる。
上記発明において、前記シリンダに連通する排気ポートに二次空気を供給する二次空気制御手段を更に備え、二次空気制御手段は、前記目標空燃比決定手段が空燃比を制御している間、二次空気の供給を止めるような構成であることが好ましい。
本発明に従えば、目標空燃比決定手段が空燃比を制御している間、二次空気の供給を停止する。これによって内燃機関の回転角速度を計測する際、二次空気の逆流等に起因するシリンダ内の空燃比のばらつきを防ぐことができ、シリンダ内の空燃比を正確に推定することができる。これに伴って内燃機関の発生出力がピークとなるシリンダ内の空燃比をより正確に推定することができる。
上記発明において、前記内燃機関は、複数のシリンダを備え、前記目標空燃比決定手段は、シリンダ毎に各燃焼条件における内燃機関の発生出力を前記出力推定手段に推定させ、この推定させた各燃焼条件おける内燃機関の発生出力に基づいて内燃機関の発生出力がピークとなる前記シリンダ内の空燃比をシリンダ毎に推定して、シリンダ毎の目標空燃比を決定し、前記空燃比補正手段は、前記各シリンダ内の空燃比を対応する前記目標空燃比に補正するような構成であることが好ましい。
本発明に従えば、各シリンダ内の空燃比は内燃機関の発生出力がピークとなるように補正される。内燃機関の発生出力がピークとなる空燃比は、シリンダの形状を問わず略一致している。それ故、前記補正を行うことによって、各シリンダ内の空燃比を略一致させることができ、排ガスの低減を図ることができる。
本発明の車両は、シリンダを有する内燃機関と、上記いずれか1つの前記空燃比制御装置とを備えるものである。
本発明に従えば、エンジンのシリンダ内の空燃比は、エンジン出力がより高く、かつシリンダ内の燃焼が良好な状態で行われる空燃比に補正される。これによって排気ガスのCO、THC及びNOxの排出量のレベルのバランスをとることができる。
本発明の空燃比制御方法は、シリンダを備える内燃機関の前記シリンダ内の目標空燃比を補正するための空燃比制御方法であって、少なくとも3つの燃焼条件において、前記シリンダの燃焼行程における少なくとも2点の内燃機関の回転角速度を検出する角速度検出工程と、前記角速度検出工程で検出された前記内燃機関の回転角速度に基づいて各燃焼条件における内燃機関の発生出力を推定する出力推定工程と、前記出力推定工程で推定された各燃焼条件おける内燃機関の発生出力に基づいて内燃機関の発生出力がピークとなる前記シリンダ内の空燃比を推定し、この空燃比を目標空燃比とする目標空燃比決定工程と、目標空燃比決定工程で決定された目標空燃比にシリンダ内の空燃比を補正する空燃比補正工程とを有し、前記少なくとも3つの燃焼条件は、前記シリンダ内の空燃比が予め定められた基準空燃比であることを条件とする第1燃焼条件、前記基準空燃比よりリーン側の空燃比であることを条件とする第2燃焼条件、及び前記基準空燃比よりリッチ側の空燃比であることを条件とする第3燃焼条件の3つの燃焼条件をすくなくとも含むことを特徴とする方法である。
本発明に従えば、少なくとも3つの燃焼条件における内燃機関の発生出力が推定され、この推定された内燃機関の発生出力に基づいて内燃機関の発生出力がピークとなるシリンダ内の空燃比をさらに推定し、目標空燃比を決定する。このとき少なくとも3つの燃焼条件に、前記シリンダ内の空燃比を制御する前の基準空燃比を条件とする第1燃焼条件、前記基準空燃比よりリーン側の空燃比を条件とする第2燃焼条件及び前記基準空燃比よりリッチ側の空燃比を条件とする第3燃焼条件が含まれているので、各燃焼条件における空燃比と発生出力との相関関係を示す相関関数を表現する曲線が凸状になり、内燃機関の発生出力がピークとなるシリンダ内の空燃比の推定が可能となる。内燃機関の発生出力がピークになったときがシリンダ内の燃焼状態が最も良好な状態となり、これは、シリンダの形状を問わない。したがって内燃機関の発生出力がピークとなる空燃比を推定し、この推定された空燃比を目標空燃比とし、この目標空燃比にシリンダ内の空燃比を補正することによって、発生する出力が高く、かつシリンダ内の燃焼が良好な状態な内燃機関を実現することができる。
このように本発明では、検出された回転角速度から推定した内燃機関の発生出力に基づいて目標空燃比を決定し、シリンダ内の空燃比をこの目標空燃比に補正するものであるので、シリンダ内の空燃比を検出する空燃比センサ及びシリンダ内の圧力を検出する圧力センサを追加することなく、シリンダ内の燃焼が良好な状態になるようにシリンダ内の空燃比を補正することができ、部品点数及び製造コストを低減することができる。
本発明の空燃比制御装置、それを備える車両及び空燃比制御方法によれば、シリンダ内の空燃比を検出する空燃比センサ及びシリンダ内の圧力を検出する圧力センサを追加することなく、シリンダ内の燃焼が良好な状態になるように空燃比に補正することができる。
図1は、本発明の実施形態に係る空燃比制御装置20を備える自動二輪車1を示す側面図である。図1に示す自動二輪車1は、運転者が上体を前傾させて搭乗するロードスポーツタイプのものを示している。以下の説明で用いる方向の概念は、図1に示す自動二輪車1に搭乗したライダー(図示せず)が、自動二輪車1の進行方向を前方として見たときの方向の概念と一致するものとする。具体的には、図1の紙面左方が前方Fであり、紙面右方が後方であり、紙面奥行き方向が左右方向である。以下に、自動二輪車1についてさらに詳細に説明する。
自動二輪車1は、前輪2及び後輪3を備えている。前輪2は、略上下方向に延びるフロントフォーク5の下端部にて回転可能に支持されている。フロントフォーク5は、その上端部に設けられているアッパーブラケット(図示せず)とアッパーブラケットの下方に設けられているアンダーブラケット(図示せず)を介してステアリングシャフト(図示せず)に支持されている。ステアリングシャフトは、ヘッドパイプ6によって回動可能に支持されている。アッパーブラケットには、左右へ延びるバー型のステアリングハンドル4が取り付けられている。運転者は、ステアリングシャフトを回動軸として、このステアリングハンドル4を時計回り又は反時計回りに回動することによって、前輪2を所望の方向へ転向させることができる。
ヘッドパイプ6からは、左右一対のメインフレーム7が若干下方に傾斜しながら後方へ延びており、このメインフレーム7の後部に左右一対のピボットフレーム8が接続されている。このピボットフレーム8には、略前後方向に延びるスイングアーム9の前端部が枢着されている。スイングアーム9の後端部には、駆動輪である後輪3が回転可能に支持されている。ステアリングハンドル4の後方には、燃料タンク10がメインフレーム7に支持されて設けられている。この燃料タンク10の後方には、運転者騎乗用のシート11がメインフレーム7やリヤフレーム17等に支持されて設けられている。
前輪2と後輪3との間には、並列四気筒のエンジン12がメインフレーム7及びピボットフレーム8等に支持されている。このエンジン12の吸気ポート40(図2)には、メインフレーム7の内側に配設されている四連のスロットル装置13が接続され、エンジン12の排気ポート41には、排気管44(図2)やマフラー45(図2)が接続されている。このスロットル装置13は、エンジン12の吸気ポート40に接続される吸気管42(図2)と、この吸気管42(図2)の通路を開閉するスロットルバルブ22(図2)とを備えている。スロットル装置13の吸気管42(図2)の上流側には、燃料タンク10の下方に配設されているエアクリーナボックス43が接続され、前方からの走行風圧(ラム圧)を利用して外気を取り込む構成となっている。
エンジン12(クランク室)は、並列四気筒エンジンであり、出力軸であるクランクシャフト32(図2)が変速機18及びチェーン19等を介して後輪3に接続されている。ただしエンジン12は、並列四気筒エンジンに限られず、V型4気筒エンジンであってもよく、また単気筒、2気筒及び6気筒のエンジンであってもよい。さらに自動二輪車1には、その車体前部から車体両側にかけてエンジン12等を覆うようにカウリング16が設けられている。自動二輪車1には、自動二輪車1の各構成を電子制御するECU23(図2)が設けられている。
図2は、エンジン12及び空燃比制御装置20の構成を示すブロック図である。エンジン12について更に詳細に説明すると、エンジン12は、基本的には、シリンダブロック30と、ピストン31と、クランクシャフト32と、点火プラグ33等を備えている。シリンダブロック30は、4つのシリンダ34を有する。各シリンダ34内には、ピストン31が往復運動可能に挿入され、このピストン31の上端とシリンダ34の内壁及びシリンダヘッド29とによって燃焼室35が形成される。またシリンダブロック30には、シリンダ34の下方にクランク室36が形成され、このクランク室36にクランクシャフト32が回転可能に収納されている。
ピストン31は、コンロッド37を介してクランクシャフト32に連結されている。クランクシャフト32は、ピストン31が往復運動することによって回転するように構成されており、その一端部から出力が取り出され、他端部にロータ38が設けられている。ロータ38は、円板状に形成され、その外周に周方向全周にわたって15°CA(クランク角度)間隔で外歯が形成されている。このロータ38の外周に対向するようにクランク角センサ39が設けられている。クランク角センサ39は、ECU23に電気的に接続され、ロータ38の外歯を検出する度にECU23にパルス信号を出力する。
各シリンダヘッド29には、燃焼室35に表出するように点火プラグ33が設けられている。点火プラグ33は、ECU23や図示しない電源(バッテリ)に電気的に接続され、燃焼室35内にある燃料や空気から成る混合気体を燃焼させるため、点火時期をECU23によって制御可能に構成されている。また各シリンダヘッド29には、燃焼室35に開口する吸気ポート40と排気ポート41が形成されている。吸気ポート40は、吸気管42を介してエアクリーナボックス43に接続され、排気ポート41は、排気管44を介してマフラー45に接続されている。吸気ポート40及び排気ポート41には、各々のポート40,41を開閉するための吸気バルブ46及び排気バルブ47がそれぞれ設けられている。吸気バルブ46及び排気バルブ47は、クランクシャフト32の回転に連動して各々のポート40,41を開閉可能に構成されている。
吸気管42には、上述の通りスロットルバルブ22が設けられている。本実施の形態では、スロットル装置13は、いわゆる電子制御スロットル装置であり、ECU23がスロットルグリップ(図示せず)の開度に応じて前記スロットルバルブ22の開度を制御するように構成されている。ただしスロットル装置13は、電子制御スロットル装置に限定されず、スロットルグリップとスロットルバルブ22とがスロットルワイヤによって連結されて連動する機械式のスロットル装置であってもよい。また吸気管42には、スロットルバルブ22よりも下流側にインジェクタ48が設けられている。インジェクタ48は、シリンダ34毎に対応させて設けられ、各インジェクタ48は、燃料配管に接続されている。インジェクタ48は、ECU23に電気的に接続され、その燃料を噴射するタイミング及び燃料の噴射量(噴射時間)をECU23によって制御可能に構成されている。
更にエンジン12には、二次空気制御装置49が設けられている。二次空気制御装置49は、排気ポート41に二次空気を導入し、排気ガスを再燃焼させるための装置であり、導入管50と、開閉バルブ51とを備えている。導入管50は、その一端が排気ポート41の上流側端部付近に接続され、他端がエアクリーナボックス43のクリーンサイドに接続され、その途中には、開閉バルブ51が介在している。開閉バルブ51は、導入管50内の通路を開閉可能に構成され、例えば電磁開閉弁によって構成される。開閉バルブ51は、ECU23に電気的に接続され、その開閉をECU23によって制御可能に構成されている。
このようにして構成されるエンジン12は、まずインジェクタ48によって吸気管42内に燃料を噴射して混合気体を生成する。この混合気体が燃焼室35へ導かれると、エンジン12は、吸気バルブ46で吸気ポート40を閉じるとともに、排気バルブ47で排気ポート41を閉じる。そしてECU23が点火プラグ33を点火し、混合気体を爆発(燃焼)させる。これによってピストン31を下方に押圧され、これに伴ってクランクシャフト32が回転し出力が得られる。爆発(燃焼)後、排気バルブ47が開けられ、燃焼後の排気ガスがピストン31によって排気ポート41に押し出される。このとき二次空気制御装置49から排気ポート41に二次空気が供給され、排気ポート41内の排気ガスを再燃焼させてその酸化を促進する。排気ガスは、排気管44及びマフラー45を通って、大気に放出される。
空燃比制御装置20は、ECU23、前述のクランク角センサ39及び二次空気制御装置49によって構成される。ECU23は、CPU52及びメモリ53等を有する。CPU52は、メモリ53に記憶されているプログラムを実行可能して後述する種々の演算が可能に構成されている。またCPU52は、スロットルバルブ22、インジェクタ48及び開閉バルブ51の駆動を制御可能に構成されている。メモリ53は、たとえばROMであり、CPU52で演算された結果を記憶するように構成されている。このような構成を有するECU23は、出力推定手段、目標空燃比決定手段、空燃比補正手段、二次空気制御手段の役割を果たす。
このようにして構成される空燃比制御装置20は、シリンダ34内の燃焼が良好な状態になり、それによって排ガスのバラツキが低減されるようなシリンダ34内の空燃比(以下、「目標空燃比」という)を決定し、この目標空燃比に基づいてシリンダ34の空燃比の補正する空燃比制御方法を実施可能な装置である。空燃比制御方法の手順について以下で説明する。
図3は、空燃比制御方法の手順を示すフローチャートである。空燃比制御方法による空燃比の補正は、例えば自動二輪車1の出荷前及び出荷後の定期点検(車検等)の際に行われる。出荷前に行うことによって、製造時のエンジン12の個体差による排ガス中のガスの成分量のバラツキを低減することができ、また出荷後に行うことによって、経年劣化に伴うエンジン12の排ガス中のガスの成分量のバラツキを再調整することができる。前記空燃比の補正は、前記エンジン12の回転数が略一定の値で安定している状態が好ましく、エンジン12を暖機した後のアイドリング状態において行われる。ただし実施時期をアイドリング状態に限定するものではなく、走行中等、エンジン12が中、高速で回転している際又は暖機前であってもよい。本実施の形態では、水冷式のエンジン(空冷式であってもよい)を用い、暖機(水温90℃)後でアイドル回転数が約1100rpmの状態において空燃比の制御を行う。このときECU23は、開閉バルブ51を閉じて二次空気制御装置49から排気ポート41への二次空気の供給を止める。二次空気の供給を止めることによって、空燃比の補正をより正確に行うことができる
ECU23は、まず目標空燃比を決定すべきシリンダ(以下、「対象シリンダ」という)34を指定する(ステップS1)。次に対象シリンダ34内の空燃比だけを変え、種々の空燃比におけるエンジン出力(具体的には、クランクシャフト32の回転変動Δω2)を推定し、演算する(ステップS2〜S18)。空燃比を変える際、まず空燃比をリーン方向に推移させていき(第1リーン方向探索)、演算した点数(以下、単に「探索点数」という)が予め定められた探索点数以上になる、もしくはエンジン12の出力(回転変動Δω2)が予め定められた値以下になると、リッチ方向に推移させていく(リッチ方向探索)。リッチ方向探索においても、探索点数が予め定められた探索点数以上になる、もしくはエンジン12の出力(回転変動Δω2)が予め定められた値以下になると、再度リーン方向に推移させる(第2リーン方向探索)。第2リーン方向探索は、第1リーン方向探索開始前と略同じ空燃比になった時点で終了する。このように空燃比を変動させることによって、失火させることなく各空燃比に対する出力特性を推定することができる。
では各探索工程における手順について具体的に説明する。第1リーン方向探索が始まると、ECU23は、対象シリンダ34内だけの空燃比を変更すべく、対象シリンダ34に対応するインジェクタ(以下、「対象インジェクタ」という)48からの燃料の噴射量を減少させる(ステップS2)。本実施の形態において、燃料の噴射量の減少は、対象インジェクタ48の燃料噴射時間Tを探索時間t0短縮させることによって行われる。探索時間t0は、インジェクタ48の噴射特性(例えば流量−時間特性)、空燃比補正の目標精度、目標所要時間にもよるが、例えば100μsec程度に設定する。ただしこのような値に限定されないが、50μsec以上100μsec以下が好ましい。なお、第1リーン方向探索では、初期設定されている燃料噴射時間T0(以下、「初期噴射時間T0」という)から探索点数毎に探索時間t0ずつ短縮していく。
燃焼噴射時間Tを短縮させると、ECU23は探索点数nに1を加算してメモリ53に記憶する(ステップS3)。探索点数nに1を加算すると、ECU23は、前記燃料噴射時間Tを短縮させた状態を維持時間Ta(sec)維持し、CPU52によってクランク角センサ39から得られたパルス信号に基づいて発生トルクTω(本実施の形態では回転変動Δω2)を演算し推定する(ステップS4)。なお、Taは、噴射量変更後の安定時間を考慮して、例えば5秒に設定する。発生トルクTωの推定方法は、周知の演算方法であるが、以下で説明する。
図4は、クランク角速度の経時変化を示すグラフである。図5は、回転変動Δω2と平均有効圧との相関関係を示すグラフである。図4においてクランク角速度曲線54に示すように、エンジン12のクランク角速度ωが各行程おいて脈動しているため、エンジン回転数(図4のエンジン回転数曲線55)からでは発生トルクTωを正確に推定することができない。そこで、図5に示すようにある2点におけるエンジン12のクランク角速度ωの2乗値の差である回転変動Δω2と平均有効圧(IMEP)とが比例関係にあること、前記平均有効圧とエンジン12の発生トルクTωとが略同一とみなせることから、回転変動Δω2を求め、エンジン12の発生トルクTωを推定する方法を用いる。
まずクランク角センサ39からのパルス信号に基づいて、対象シリンダ34の燃焼行程におけるa°CA及びb°CAのクランク角速度ωa,ωb(rad/sec)を演算する。本実施の形態ではa及びbは上死点近傍及び下死点近傍の値であり、エンジン特性によっても異なるが、具体的には0≦a≦30及び120≦b≦150である。ただしこの値に限定するものでない。この2つのクランク角速度ωa,ωbの2乗値の差を求め、回転変動Δω2を得る。前述の通り、回転変動Δω2とエンジン12の発生トルクTωとは比例関係にあり、具体的には、式(1)に示すように、回転変動Δω2の1/2倍がエンジン12の発生トルクTωをシリンダ34、クランクシャフト32及びクランク軸(図示しない)の慣性モーメントIcで除したものに比例する。したがって慣性モーメントIcが一定であるとすると、回転変動Δω2は、発生トルクTωに比例する。
空燃比制御方法においては、後述するように発生トルクTωがピークとなる空燃比を検出することが目的である。発生トルクTωと回転変動Δω
2とが比例関係であるため、回転変動Δω
2がピークとなる空燃比と発生トルクTωがピークとなる空燃比とが一致する。それ故、CPU52における演算の負担を軽減するため、以下の演算では回転変動Δω
2を発生トルクTωとして演算を行っている。
図3に戻ると、回転変動Δω2を演算した後、ECU23はこの回転変動Δω2をそのときの補正された時間である燃料噴射補正時間t(t=t0(探索時間)×n(探索点数))に対応付けてメモリ53に記憶する(ステップS5)。そしてECU23は、得られた回転変動Δω2がΩ(本実施の形態では、Ω=0)以下である(条件1)か否か、及び探索点数nがNL(本実施の形態では、NL=3)以上である(条件2)か否かを判断する(ステップS6)。条件1及び2の両方の条件を充足していないと判断すると、燃料噴射時間Tを維持したままステップS2へ戻る。ステップS2では、燃料噴射時間Tをさらに探索時間t0短縮させて、回転変動Δω2を推定する。条件1及び2のうち少なくとも一方の条件を充足していると判断すると、第1リーン方向探索を終え、メモリ53に記憶されている探索点数nをリセットし(ステップS7)、リッチ方向探索へと移る。このとき燃料噴射時間Tは、そのままの状態、つまり短縮された状態で維持されている。
リッチ方向探索が始まると、ECU23は、対象インジェクタ48からの燃料の噴射量を増加させる(ステップS8)。本実施の形態において、燃料の噴射量の増加は、対象インジェクタ48の燃料噴射時間Tを探索時間t0延長させることによって行われる。燃焼噴射時間Tを増加させると、ECU23は探索点数nに1を加算してメモリ53に記憶する(ステップS9)。探索点数nが加算されると、ECU23は、前記燃料の噴射量を増加させた状態を維持時間Ta(msec)維持し、CPU52によってクランク角センサ39から得られたパルス信号に基づいて回転変動Δω2を演算し推定する(ステップS10)。推定方法については、第1リーン方向探索を行った場合と同様の手順である。次にECU23は、この推定した回転変動Δω2をそのときの燃料噴射補正時間tに対応付けてメモリ53に記憶する(ステップS11)。
そしてECU23は、得られた回転変動Δω2がΩ以下である(条件3)か否か、及びΔ探索点数ΔnがNR(本実施の形態では、NR=3)以上である(条件4)か否かを判断する(ステップS12)。またΔ探索点数Δnとは、リッチ方向への探索点数nからNLを減じたものである。本実施の形態において、Δ探索点数Δnは、アイドリング状態よりもリッチ側の空燃比で回転変動Δω2を推定した回数と一致する。条件3及び4の両方の条件を充足していないと判断すると、燃料噴射時間Tを維持したままステップS8へ戻る。ステップS8では、燃料噴射時間Tをさらに探索時間t0延長して、回転変動Δω2を推定する。条件3及び4のうち少なくとも一方の条件を充足していると判断すると、リッチ方向探索を終え、メモリ53に記憶されている探索点数nをリセットし(ステップS13)、第2リーン方向探索へと移る。このとき燃料噴射時間Tは、そのままの状態、つまり燃料噴射時間Tが延長されたままの状態で維持されている。
第2リーン方向探索は、第1リーン方向探索と同様の手順で行われ、第2リーン方向探索のステップS14〜ステップS17は、第1リーン方向探索のステップS2〜ステップS5の手順と同様である。ステップS17でメモリ53に回転変動Δω2を記憶した後、ECU23は、探索点数nがΔ探索点数Δnと一致する(具体的には燃料噴射補正時間tが0)(条件5)か否かを判断する(ステップS18)。条件5を充足していないと判断すると、ステップS13へ戻る。ステップS13では、燃料噴射時間Tをさらに探索時間t0短縮して、回転変動Δω2を推定する。条件5を充足していると判断すると、演算を終える。
演算を終えると、CPU52は、回転変動Δω2と燃料噴射補正時間tとの相関関係を求め、さらにこの相関関係に基づいて回転変動Δω2がピークとなる燃料噴射補正時間t、つまり発生出力Tωが最大となる燃料噴射補正時間tを演算する。
図6は、回転変動Δω2と燃料噴射補正時間tとの相関関係を示すグラフである。図6を参照しつつ、回転変動Δω2がピークとなる燃料噴射補正時間tの算出(図3のステップS19〜ステップS22)について説明する。まずメモリ53に記憶されている複数の回転変動Δω2に基づいて、最小二乗法を用い回転変動Δω2と燃料噴射補正時間tとの相関関係を示す相関関数F1(図6参照)を演算する。本実施の形態において、相関関数F1は、2次関数である。しかし後述するように相関関数F1は、2次関数に限定されず、相関関数F1によって表現される曲線が凸状になればよい。この相関関数F1からピークとなる燃料補正時間tである第1ピーク補正時間t1を求める(ステップS19)。
さらにこの第1ピーク補正時間t1に対し前後時間tnの範囲(t1−tn≦t≦t1+tn)にある回転変動Δω2を抽出する(ステップS20)。この抽出されたΔω2だけで、再度最小二乗法を用い回転変動Δω2と燃料噴射補正時間tとの相関関係を示す相関関数F2(図6参照)を演算する。この相関関数F2のピークとなる燃料補正時間tである第2ピーク補正時間t2を求め、この第2ピーク補正時間t2を噴射時間の補正量とする(ステップS21)。このように回転変動Δω2が最大となるような初期噴射時間T0に対し加算すべき補正量を決定することによって目標空燃比が決定される。そして初期噴射時間T0に前記補正量t2を加算した時間だけインジェクタ48から燃料を噴射することによって、シリンダ34内の空燃比を目標空燃比に補正する(ステップS22)。
最後に前記初期噴射量T0の補正が全てのシリンダ34で実施された否かを判定する。実施されている場合、空燃比制御方法の処理が終了し、実施されていない場合、ステップS1へ戻り、演算すべき(補正すべき)シリンダ34の指定を行う。4つのシリンダ34を指定する順序は、図2に示す4つのシリンダ34を左から順に行われる。ただし指定する順序は、この順序に限らない。
図7は、空燃比制御方法を実施したときの燃料補正時間、回転変動Δω2、IMEP及び空燃比の経時変化を示すグラフである。図7(a)は燃料補正時間の経時変化、図7(b)は回転変動Δω2の経時変化、図7(c)はIMEPの経時変化、図7(d)は空燃比(A/F)の経時変化をそれぞれ示すグラフである。前述のような条件で空燃比制御を実施したとき、各シリンダ34の燃料噴射補正時間tが図7(a)に示すように変化し、それに伴って各シリンダ34の回転変動Δω2、IMEP及びA/Fが図7(b)〜(d)のように変化した。図7に示す第1、第2、第3及び第4シリンダ34とは、4つのシリンダ34を右から順に第1、第2、第3及び第4シリンダ34と称したものである。また各シリンダ34における探索の間に休止時間が設けられているが、この休止時間は必ずしも必要ではなく、連続で探索を行ってもよい。前記休止時間を設けることによって、次のシリンダ34の探索時に、前に探索したシリンダ34により出力変動の影響を低減し、より正確に補正量を演算することができる。
図8は、空燃比制御方法を実施したときの回転変動数Δω2と燃料噴射補正時間tとの相対関係を示すグラフである。図7に示す燃料噴射補正時間t及び回転変動Δω2から、図8に示すような回転変動数Δω2と燃料噴射補正時間tとの相対関係が得られる。この相対関係から図8に示すような相関関数F1が演算される。本実施の形態においては、ステップS20及びステップS21の工程を省き、相関関数F1から補正量を求めた。つまり第1ピーク補正時間t1を補正量とした。このように2回目の最小二乗法を省いても、発生トルクピークTωが最大となる燃料補正時間tを推定することができるが、前述のように第2ピーク補正時間t2を求めて前記燃料補正時間tを推定する方がより正確に推定することができる。このようにして得られた補正量t1,t2に基づいて初期噴射時間T0を補正し、全てのシリンダ34の発生トルクTωが略最大となるように燃料噴射量を補正する。
図9は、空燃比制御方法による補正前後の4つのシリンダ34の空燃比を示すグラフである。図9の縦軸が空燃比を示し、図9の横軸に各状態のシリンダ34を並べて示している。図9には、燃料の噴射量が多い(リッチシフト)状態において空燃比制御方法による補正を実施した場合、及び燃料の噴射量が少ない(リーンシフト)状態において空燃比制御方法による補正を実施した場合の補正前後の空燃比が示されている。図9に示すように、リッチシフト及びリーンシフト状態ともに空燃比制御方法によって空燃比の補正を行うと、全てのシリンダ34内の空燃比が約12.3になり、4つのシリンダ34間の空燃比の均一化が達成される。
図10は、排気ガスに含まれる各種気体の排気量を示すグラフである。図10(a)はCO排出量であり、図10(b)はTHC排出量であり、図10(c)はNOx排出量である。図10(a)〜(c)の縦軸が排出量を示し、横軸に状態を示している。これらの排出量は、EuroIIIモード排ガス規制の計測方法に基づいて計測している。図9に示すように4つのシリンダ34間の空燃比の均一化を達成することによって、シリンダ34内で空気と燃料を良好な状態で燃焼させることができる。これによってCO、THC及びNOxのいずれかの排気量が突出することを防ぐことができ、CO、THC及びNOxの排気量をバランスよく低減することができる。特にリッチシフト状態において多かったCO及びTHCの排出量を大きく低減することができ、またリーンシフト状態において多かったNOxの排出量を大きく低減することができる。
このようにエンジン12の発生トルクTωをより高くすることができると共に、CO、THC及びNOxの排気量をバランスよく低減することができる。またこのような作用効果を達成する上で、シリンダ内に空燃比センサ及び圧力センサを配置する必要がなく、部品点数及び製造コストの低減を図ることができる。特に汎用的に使用されている空燃比センサは、その作動可能な範囲が自動二輪車のエンジンが失火してしまう範囲にあり、自動二輪車での使用が好ましくない。そのため高価なリニア空燃比センサを用いる必要があるが、本実施の形態の空燃比制御装置20及び空燃比制御方法を用いれば、前記高価な部品を用いる必要がない。
本実施の形態において、空燃比制御を燃料の噴射量によって行っているけれども、ECU23によってスロットルバルブ22の開度を調整してエンジン12の吸気量を変化させることによって、空燃比を制御してもよい。ただし燃料噴射量を制御することによって空燃比を制御する方が、スロットルバルブ22の開度を調整して空燃比を制御する場合に比べて、より正確に空燃比を制御することができ、好ましい。
本実施の形態では、回転変動Δω2と発生トルクTωとが比例関係にあるため、回転変動Δω2のピークを推定することによって、間接的に発生トルクTωのピークを推定しているが、発生トルクTωのピークを直接的に推定してもよい。この場合、回転変動Δω2から発生トルクTωを求めるので、回転変動Δω2がピークとなる補正量と発生トルクTωのピークとなる補正量が一致する。したがって回転変動Δω2のピークを推定する方が演算回数を少なくすることができ、CPU52の負担が少ない。
さらに本実施の形態では、最小二乗法を用いて2次関数を求め、回転変動Δω2のピークを推定しているけれども、必ずしも2次関数を求める必要はない。たとえば図11に示すように初期噴射量T0に対しリッチ側及びリーン側の各々で演算された回転変動Δω2に対し最小二乗法を用いて一次関数F3,F4をそれぞれ求め、リッチ側及びリーン側の一次関数の交点C1の燃料補正時間tを回転変動Δω2のピークとなるピーク補正時間t3としてもよい。
さらに本実施の形態では、探索をリーン側から開始しているけれども、リッチ側から開始してもよい。またステップS19で第1ピーク補正時間t1を演算した後、再度燃料補正時間t1前後、例えばt=t1±20,t1±40の発生出力を演算して探索点数を増やし、その後に第2ピーク補正時間t2を演算してもよい。
本実施の形態では、初期噴射量T0に対し燃料噴射量をリッチ側及びリーン側に推移させることによって3つ以上の燃焼条件における回転変動Δω2を演算しているけれども、回転変動Δω2を演算する燃焼条件が2つであってもよい。この場合の目標空燃比の決定方法について、図12を参照しながら説明する。図12に示すように、初期噴射時間T0における回転変動Δω2を演算し、その後、初期噴射時間T0から探索時間t0増加(又は減少)させた燃料噴射時間Tにおける回転変動Δω2を演算する。演算された2つの燃焼条件における回転変動Δω2を比較して、より高い回転変動Δω2が生じる燃料噴射補正時間tを求める。本実施の形態では補正時間t4であり、初期噴射時間T0をこの補正時間t4で補正した空燃比を目標空燃比とし、シリンダ34内の空燃比を算出された目標空燃比に補正する。このように演算される燃焼条件が2つの場合でも、より高い回転変動Δω2が生じる燃料噴射補正時間t、つまりより高い回転変動Δω2が生じる空燃比を求めることによって、シリンダ34内の燃焼状態をより良好な状態にすることができる。従って、シリンダ34内の燃焼状態をより良好な状態にするためにシリンダ内の空燃比を検出する空燃比センサ及びシリンダ内の圧力を検出する圧力センサを用いる必要がない。
また回転変動Δω2がピークとなる燃料補正時間の演算方法は、前述したような第1演算方法と異なる以下のような第2乃至第4演算方法でもあってもよい。図13を参照しつつ、第2演算方法について説明する。図13は、回転変動Δω2がピークとなる燃料補正時間を第2演算方法で演算したときに得た回転変動Δω2と燃料補正時間との相関関係を示すグラフである。まず初期噴射時間T0及び初期噴射時間T0を探索時間t0延長(又は短縮)した燃料噴射時間Tにおける回転変動Δω2を前述した方法で演算する。そして初期噴射時間T0を燃料補正時間t=0として、演算した2つの回転変動Δω2とそれに対応する燃料補正時間tとの相関関係を示す直線(1次関数)F5を求める。具体的には、演算された2つの回転変動Δω2とこれに対応する燃焼補正時間tとによって表される2点(以下、それぞれ「第1計測点」、「第2計測点」という)p1、p2を通る直線F5を求める。
次に直線F5上にあって、かつ第1及び第2計測点p1,p2のうち回転変動数Δω2が大きい方の点(本実施の形態では、第2計測点とする)より回転変動数Δω2がΔY大きい点(以下、「第1予測点」という)p11における燃料補正時間t5を算出する。そしてこの燃料補正時間t5における回転変動Δω2、つまり初期噴射時間T0を燃料補正時間t5延長した燃料噴射時間Tにおける回転変動Δω2を前述した方法で演算する。さらにこの演算された回転変動Δω2と燃料補正時間t5とによって表される点(以下、「第3計測点」という)p3と前記第2計測点p2とを通る直線F6を求める。
第3計測点p3の場合と同様の方法で、直線F6に基づいて、第2予測点p12における燃焼補正時間t6を算出し、この燃焼補正時間T6に対応する第4計測点p4を求める。そして第3計測点p3と第4計測点p4とを通る直線L7を求める。この作業を、得られた計測点の回動変数Δω2がその前に得た計測点の回動変数Δω2よりも小さくなるまで繰り返す。本実施の形態では、第5計測点p5まで演算すると,その回動変数Δω2が第4計測点の回動変数Δω2より小さくなり、そこで演算を終了する。
このようにして求められた第1乃至第5計測点p1,p2,p3,p4,p5から最小二乗法を用いて、回転変動Δω2と燃料補正時間tとの相関関係を示す2次関数F8を求める。そしてこの2次関数F8の頂点となる燃料補正時間t7を求め、この燃料補正時間t7を回転変動Δω2がピークとなる燃料補正時間とする。
このような方法で燃料補正時間t7を演算すると、燃料補正時間を一定間隔で変化させる場合に比べて回転変動Δω2の演算回数を減らすことができる。またΔYの値を一定にせず、燃料補正時間を増加させるにつれて小さくすることで、回転変動Δω2のピーク値近傍において、より多くの計測点が得られる。これによって回転変動Δω2がピークとなる燃料補正時間をより正確に求めることができる。
次に図14を参照して、第3演算方法について説明する。図14は、回転変動Δω2がピークとなる燃料補正時間を第3演算方法で演算したときに得た回転変動Δω2と燃料補正時間との相関関係を示すグラフである。第3の演算方法は、回転変動Δω2のピーク値Δω2 maxが予め把握されている場合に用いられる演算方法である。第3の演算方法では、まず第2の演算方法と同様に第1計測点p1及び第2計測点p2、さらに直線F5を求める。そしてこの直線F5と回転変動Δω2のピーク値Δω2 maxとの交点を求め、この交点における燃料補正時間t8を回転変動Δω2のピークとなる燃料補正時間とする。
最後に図15を参照して、第4演算方法について説明する。図15は、回転変動Δω2がピークとなる燃料補正時間を第4演算方法で演算したときに得た回転変動Δω2と燃料補正時間との相関関係を示すグラフである。第3の演算方法は、回転変動Δω2と燃料補正時間との相関関係を示す曲線F9の形(本実施の形態では、2次関数形であり、いわゆるトルク曲線である)が予め把握されている場合、つまり2次関数における2乗の項の係数が決まっている場合に用いられる演算方法である。第4の演算方法では、まず第2の演算方法と同様に第1計測点p1及び第2計測点p2を求める。そして第1計測点p1及び第2計測点p2を通るように曲線F9を決定する。決定された曲線F9の頂点となる燃料補正時間t9を求め、この燃料補正時間t9を回転変動Δω2がピークとなる燃料補正時間とする。