近年、PDPの分野では、液晶ディスプレイ等に代表される他のフラットパネルディスプレイとの競争から、画質の向上、或いは製造効率の向上を図り、製品コストを低下させることが重要な技術的課題となっており、この課題を解決すべく、従来、数十時間を要していた真空排気工程を改良する試みが検討されている。
PDPの真空排気工程において、排気温度を上昇させると、排気効率を向上できることが知られており、具体的には、排気温度を上昇させると、排気に要する時間を10時間程度に短縮できるとともに、PDPの装置内部を高真空にすることができる。PDPの装置内部を高真空にすれば、装置内部の付着不純物の含有量を低減することができる。その結果、後に装置内部に封入される希ガス成分の純度を高めることができ、PDPの発光特性を向上させることができる。
このような事情から、真空排気工程で排気温度を上昇させるために、ガラス基板と排気管の封着に結晶性ガラスタブレットが用いられつつある。通常、結晶性ガラスタブレットは、封着工程でガラスが軟化流動した後にガラスに結晶が析出し、後の真空排気工程でガラスが軟化流動する事態を防止することができる。結晶性ガラスタブレットの結晶性が低い場合、封着工程でガラスが十分に結晶化せず、真空排気工程で排気温度を上昇させることができない。一方、結晶性ガラスタブレットの結晶性が高い場合、ガラス基板等に封着する際、ガラスが失透しやすく、封着工程でガラスが十分に軟化流動し難くなり、このような場合、所望の封着強度を得られないばかりか、最悪の場合、結晶性ガラスタブレットとガラス基板等が剥離し、PDP等に気密リークが生じやすくなる。
しかしながら、従来まで、封着工程で結晶性ガラスタブレットの結晶性を制御するとともに、封着工程で結晶性ガラスタブレットとガラス基板(或いは結晶性ガラスタブレットと排気管)の反応性を制御する有効な対策が講じられていなかったのが実情であり、安全策として、PDPの製造においては、真空排気工程の排気温度を低下させ、PDPの製造効率を低下せざるを得なかったのが実情である。この理由は、PDPの真空排気工程は、PDPの製造工程の中で、最終段階に位置付けられる工程であり、ここでの不良率はPDPの製品コストの高騰に直結することから、数%の不良率も許容されないからである。
上記事情を勘案すると、結晶性ガラスタブレットとガラス基板の反応を適切に進行させることができれば、ガラス基板と排気管の封着強度を担保した上で、ガラスに結晶を析出させることができ、平面表示装置の長期信頼性を損なうことなく、真空排気工程で排気温度を上昇させることができる。つまり、PDPの製造効率および特性向上を図る前提として、結晶性ガラスタブレットとガラス基板の反応を適正化することは極めて重要である。
そこで、本発明は、ガラス基板と排気管の封着に際し、結晶性ガラスタブレットを使用するとともに、ガラス基板と排気管の封着強度を担保した上で、真空排気工程で排気温度を上昇させるべく、結晶性ガラスタブレットの結晶性および結晶性ガラスタブレットとガラス基板(或いは結晶性ガラスタブレットと排気管)の反応を適正化することにより、真空排気工程の排気効率を高め、結果として、平面表示装置の製造効率等の向上を図ることを技術的課題とする。
本発明者等は、鋭意努力の結果、平面表示装置のガラス基板と排気管を結晶性ガラスタブレットにより封着するとともに、結晶性ガラスタブレットで封着した封着部位におけるガラス基板の平均反応深さ(反応痕の深さ)を0.05〜2.5μmに規制することで上記技術的課題が解決できることを見出し、本発明として、提案するものである。すなわち、本発明の平面表示装置は、ガラス基板と排気管が結晶性ガラスタブレットにより封着されている平面表示装置であって、封着部位におけるガラス基板の平均反応深さが0.05〜2.5μmであることを特徴とする。ここで、「封着部位におけるガラス基板」は、結晶性ガラスタブレットを封着に供した後、得られた封着部位下方のガラス基板(つまり、結晶性ガラスによる封着部位とガラス基板の界面におけるガラス基板側の部位)を指す。また、「ガラス基板の平均反応深さ」は、ガラス基板と排気管を封着している封着部位を取り除いた後、ガラス基板に残った反応痕を触針式表面粗さ計で測定した値を指す。なお、平面表示装置には、PDP、各種電子放出素子を有する各種形式のフィールドエミッションディスプレイ、蛍光表示管等が含まれる。また、本発明では、平面表示装置において、結晶性ガラスタブレットにより形成される封着部位に結晶が析出していれば、結晶性ガラスが使用されたものとして取り扱う。
本発明の平面表示装置は、結晶性ガラスタブレットを用いているので、封着工程でガラスに結晶が析出し、後の真空排気工程で排気温度を上昇させることができ、結果として、平面表示装置の製造効率や画質の向上を図ることができる。
また、本発明の平面表示装置は、結晶性ガラスタブレットで封着した封着部位におけるガラス基板の平均反応深さを0.05〜2.5μmに規制していることから、ガラス基板と排気管の封着強度を十分に確保することができ、平面表示装置の長期信頼性を維持することができる。すなわち、封着部位におけるガラス基板の平均反応深さを0.05〜2.5μmに規制すれば、平面表示装置に気密リークが生じ難くなるとともに、ガラス基板から排気管が剥離し難くなり、平面表示装置の長期信頼性を維持することができる。
封着部位におけるガラス基板の平均反応深さを0.05〜2.5μmに規制するためには、結晶性ガラスタブレットの結晶析出状態に留意しつつ、封着工程における熱処理条件を調節すればよい。具体的には、封着工程における熱処理温度を高くしたり、或いは熱処理時間を長くすれば、結晶性ガラスタブレットとガラス基板の平均反応深さを大きくすることができる。但し、このような場合であっても、一旦、結晶性ガラスタブレットに結晶が析出すれば、結晶性ガラスタブレットとガラス基板の反応が阻害されるため、結晶性ガラスタブレットの結晶析出状態に留意しつつ、封着工程における熱処理条件を設定しなければならない。一方、ガラス基板の平均反応深さを2.5μmより大きくしても、ガラス基板と排気管の封着強度に有意な上昇が認められないため、封着工程の効率化を図る観点から、ガラス基板の平均反応深さは2.5μm以下に規制すべきである。
図1は、本発明の平面表示装置を説明するための断面概念図である。図1において、排気管1とガラス基板4が封着部位2を介して封着されている。封着部位におけるガラス基板4には、封着工程で結晶性ガラスタブレットと反応し、反応層(説明の便宜上、誇張して図示している)が形成されている。ガラス基板に反応層が形成されると、ガラス基板と排気管の封着強度が向上し、平面表示装置の長期信頼性が確保される。図2は、封着部位におけるガラス基板の平均反応深さを説明するための模式図であり、図2は、ガラス基板を侵食しない酸により封着部位を取り除いた後のガラス基板が図示されている。図2から分かるように、封着部位を取り除いたガラス基板の表面部分は、微視的に荒れており、封着部位におけるガラス基板の平均反応深さは、それらを考慮して算出される。
第二に、本発明の平面表示装置は、ガラス基板と排気管が結晶性ガラスタブレットにより封着されている平面表示装置であって、結晶性ガラスタブレットが、鉛ホウ酸系ガラス70〜100質量%と耐火性フィラー0〜30質量%を含有し、且つ鉛ホウ酸系ガラスが、ガラス組成として、質量%で、PbO 60〜85%、B2O3 3〜15%、ZnO 7〜18%、SiO2 0〜7%、BaO 0〜5%含有し、耐火性フィラーが、ウイレマイト、チタン酸鉛、チタン酸鉛固溶体、ジルコン、コーディエライト、アルミナ、酸化チタンから選ばれる一種または二種以上含有するとともに、封着部位におけるガラス基板の平均反応深さが0.5〜2.5μmであることに特徴付けられる。この場合、「封着部位におけるガラス基板の平均反応深さ」は、ガラス基板と排気管を分離すべく、封着部位を5%硝酸水溶液等で溶解し、ガラス基板上に存在する反応痕を測定することで得られる。なお、結晶性ガラスタブレットは、耐火性フィラーを含有せず、鉛ホウ酸系ガラスのみで構成されていてもよい。
上記のようにガラス組成範囲を規制すれば、平面表示装置の製造工程に適合するように、ガラスの結晶性を調節しやすくなるとともに、ガラスが低融点になることから、500℃以下の温度で良好に流動させることができる。その結果、ガラス基板と排気管の封着強度が高まり、平面表示装置の長期信頼性を高めることができる。
また、上記の耐火性フィラーを添加すれば、被封着物の熱膨張係数に容易に整合させることができ、封着部位に不当な応力が残留する事態を防止することができる。その結果、平面表示装置の長期信頼性が向上する。なお、耐火性フィラーの含有量が30質量%より多いと、鉛ホウ酸系ガラスの含有量が相対的に少なくなって、所望の流動性を確保することが困難になる。
第三に、本発明の平面表示装置は、上記の封着部位の外表面に、2PbO・ZnO・B2O3結晶、PbO・2ZnO・B2O3結晶、4PbO・B2O3結晶のいずれかが析出していることに特徴付けられる。ここで、封着部位の外表面に析出した結晶の同定は、X線回折装置で行えばよい。例えば、株式会社島津製作所製RINT2000を用いて、スキャンスピード4°/分、スキャン幅0.01°、電圧40kV、電流40mA、測定角度5〜60°で測定すれば、上記結晶を同定することができる。
上記結晶は、結晶析出時期を調節しやすいことに加えて、熱膨張係数を不当に上昇させず、しかも融点が高いことから、封着工程でガラスが軟化流動した後にガラスに結晶が析出し、結晶の析出前後でガラス基板が破損し難いとともに、真空排気工程で封着部位が軟化変形し難い。特に、ガラス基板と排気管の封着強度を高めることができるため、4PbO・B2O3結晶が析出していることが好ましい。なお、封着工程で上記結晶を析出させるためには、上記のようにガラス組成範囲を規制すればよい。また、封着部位の外表面だけでなく、封着部位の内部に上記結晶を析出させれば、上記効果を確実に享受することができる。
第四に、本発明の平面表示装置は、ガラス基板と排気管が結晶性ガラスタブレットにより封着されている平面表示装置であって、結晶性ガラスタブレットが、ビスマス系ガラス65〜100質量%と耐火性フィラー0〜35質量%を含有し、且つ封着部位におけるガラス基板の平均反応深さが0.05〜1μmであることに特徴付けられる。なお、結晶性ガラスタブレットは、耐火性フィラーを含有せず、ビスマス系ガラスのみで構成されていてもよい。この場合、「封着部位におけるガラス基板の平均反応深さ」は、ガラス基板と排気管を分離すべく、封着部位を10%塩酸水溶液等で溶解し、ガラス基板上に存在する反応痕を測定することで得られる。
ビスマス系ガラスは、低融点であることから、500℃以下の温度で良好に流動し、ガラス基板と排気管の封着強度を高めることができる。また、実質的にPbOを含有しないガラス組成にすれば、近年の環境的要請を的確に満たすことができる。
また、上記の耐火性フィラーを添加すれば、被封着物の熱膨張係数に容易に整合させることができ、封着部位に不当な応力が残留する事態を防止することができる。その結果、平面表示装置の長期信頼性が向上する。なお、耐火性フィラーの含有量が35質量%より多いと、ビスマス系ガラスの含有量が相対的に少なくなって、所望の流動性を確保することが困難になる。
第五に、本発明の平面表示装置は、ビスマス系ガラスが、ガラス組成として、質量%で、Bi2O3 60〜88%、B2O3 2〜20%、ZnO 4〜27%、SiO2 0〜5%、MgO+CaO+BaO+SrO 0〜15%、CuO 0〜9%、Fe2O3 0〜4%、Sb2O3 0〜3%含有し、且つ耐火性フィラーが、ウイレマイト、酸化亜鉛、ガーナイト、ジルコン、コーディエライト、アルミナ、酸化錫、リン酸ジルコニウムから選ばれる一種または二種以上含有することに特徴付けられる。
上記のようにガラス組成範囲を規制すれば、平面表示装置の製造工程に適合するように、ガラスの結晶性を調節しやすくなるとともに、ガラスが低融点になることから、500℃以下の温度で良好に流動させることができる。その結果、ガラス基板と排気管の封着強度が高まり、平面表示装置の長期信頼性が向上する。
第六に、本発明の平面表示装置は、上記のビスマス系ガラスが、ガラス組成として、質量%で、Bi2O3 60〜88%、B2O3 2〜20%、ZnO 4〜27%、SiO2 0〜5%、MgO+CaO+BaO+SrO 0〜15%、CuO 0〜5%、Fe2O3 0〜4%、Sb2O3 0〜3%、CeO2 0〜3%、MoO3+WO3 0〜5%、In2O3+Ga2O3 0〜5%含有し、上記の耐火性フィラーが、ウイレマイト、酸化亜鉛、ガーナイト、ジルコン、コーディエライト、アルミナ、酸化錫から選ばれる一種または二種以上含有することに特徴付けられる。
第七に、本発明の平面表示装置は、上記の封着部位の外表面に、Bi2O3結晶、Bi2O3・B2O3・ZnO系結晶(つまり、Bi2O3、B2O3、ZnOの三種の酸化物を構成成分とする結晶、例えばBi2O3・B2O3・2ZnO)、Bi2O3・CuO系結晶(つまり、Bi2O3、CuOの二種の酸化物を構成成分とする結晶、例えばBi2O3・CuO)のいずれかが析出していることに特徴付けられる。ここで、封着部位の外表面に析出した結晶の同定は、X線回折装置で行えばよい。例えば、株式会社島津製作所製RINT2000を用いて、スキャンスピード4°/分、スキャン幅0.01°、電圧40kV、電流40mA、測定角度5〜60°で測定すれば、上記結晶を同定することができる。
上記結晶は、結晶析出時期を調節しやすいことに加えて、熱膨張係数が不当に上昇し難く、しかも融点が高いので、封着工程でガラスが軟化流動した後に結晶が析出し、結晶の析出前後でガラス基板が破損し難いとともに、真空排気工程で封着部位が軟化変形し難い。特に、封着部位の低膨張化を図ることができるため、Bi2O3・B2O3・ZnO系結晶、例えばBi2O3・B2O3・2ZnO結晶が析出していることが好ましい。なお、封着工程で上記結晶を析出させるためには、上記のようにガラス組成範囲を規制すればよい。また、封着部位の外表面だけでなく、封着部位の内部に上記結晶を析出させれば、上記効果を確実に享受することができる。
第八に、本発明の平面表示装置は、封着部位におけるガラス基板の反応深さが30nm未満の部分を有しないことに特徴付けられる。「封着部位におけるガラス基板の反応深さが30nm未満の部分を有さない」とは、封着部位におけるガラス基板の板幅方向で100μmの任意の測定幅において、ガラス基板の平均反応深さが30nm未満でない部位を有さない場合を指す。
このようにすれば、封着部位に結晶性ガラスタブレットとガラス基板の未反応部位がなくなり、ガラス基板と排気管の封着強度を確実に高めることができるとともに、平面表示装置に気密リーク等が生じ難くなり、しかも機械的衝撃で封着部位が破損し難くなる。
封着部位におけるガラス基板の反応深さが30nm未満の部分を有さない態様とするためには、結晶性ガラスタブレットに焼結する際、熱処理条件を調節し、結晶性ガラスタブレットの外表面の熱履歴を均一化するとともに、結晶性ガラスタブレットの外表面に結晶が析出しないようにすればよい。また、結晶性ガラスタブレットの外表面は、その内部に比べて、結晶が析出しやすい状態になっている。よって、結晶性ガラスタブレットの封着に供すべき面(ガラス基板側の面)を研磨処理または薬液処理すれば、封着に供すべき面の結晶性を均一化することができる。
第九に、本発明の平面表示装置は、排気管の先端部が拡径されていることに特徴付けられる。ここで、「排気管の先端部」とは、一端が拡径化された排気管の表面部位を指し、拡径化された部分においてガラス基板等と接する側の排気管底面および排気管外周側面を指す。
第十に、本発明の平面表示装置は、結晶性ガラスタブレットが、拡径された排気管の先端部に予め取り付けられているタブレット一体型排気管の形態で封着に供されていることに特徴付けられる。なお、結晶性ガラスタブレットは、排気管の先端部のみに取り付けられている態様だけでなく、排気管の先端部の一部に取り付けられている態様を含む。
このようにすれば、排気管の開口部とガラス基板の排気孔の位置合わせが容易になるとともに、排気管をガラス基板上に取り付けやすくなり、平面表示装置の製造効率が向上する。
第十一に、本発明の平面表示装置は、平面表示装置がPDPであることに特徴付けられる。
本発明に係る結晶性ガラスタブレットの軟化点は、470℃以下が好ましく、460℃以下がより好ましい。結晶性ガラスタブレットの軟化点が470℃より高いと、封着工程でガラスが流動し難くなり、平面表示装置の気密性が損なわれやすくなる。なお、「軟化点」は、結晶性ガラスタブレットを結晶化させる前に測定した値を指し、結晶性ガラスタブレットをめのう乳鉢等で平均粒子径10μmに粉砕し、得られた粉末状の試料を示差熱分析(DTA)装置で測定した値を指す。
本発明の平面表示装置において、結晶性ガラスタブレットの熱膨張係数は、被封着物(ガラス基板および/または排気管)の熱膨張係数に対して3〜30×10-7/℃低いことが好ましい。この理由は、結晶性ガラスタブレットから形成される封着部位は、被封着物より機械的強度が乏しいため、結晶性ガラスタブレットの熱膨張係数を上記範囲内とすることで、封着部位に残留する応力をコンプレッション(圧縮)側とし、封着部位を破壊し難くする必要性が高いからである。なお、封着工程でガラス基板のクラックを防止する観点から、結晶性ガラスタブレットの熱膨張係数は、結晶性ガラスタブレットを結晶化させる前だけでなく、結晶化させた後も上記範囲内であることが好ましい。
本発明に係る結晶性ガラスタブレットは、種々のガラス系を構成材料とすることができる。例えば、鉛ホウ酸系ガラス、ビスマス系ガラス、リン酸錫系ガラス、バナジウム系ガラス等を使用することができる。特に、鉛ホウ酸系ガラスとビスマス系ガラスは、低融点であり、化学的耐久性が良好であるため、好適である。
本発明に係る結晶性ガラスタブレットは、鉛ホウ酸系ガラス70〜100質量%と耐火性フィラー0〜30質量%を含有することが好ましく、鉛ホウ酸系ガラス85〜100質量%と耐火性フィラー0〜15質量%を含有することがより好ましく、鉛ホウ酸系ガラス90〜99.9質量%と耐火性フィラー0.1〜10質量%を含有することがさらに好ましい。鉛ホウ酸系ガラスは、低融点であることから、500℃以下の温度で良好に流動するとともに、耐火性フィラーを添加すれば、熱膨張係数を容易に調整できることから、被封着物の熱膨張係数に容易に整合させることができ、封着後の封着部位に不当な応力が残留する事態を防止することができる。耐火性フィラーの含有量が30質量%より多いと、鉛ホウ酸系ガラスの含有量が相対的に少なくなって、所望の流動性を確保することが困難になる。
本発明に係る鉛ホウ酸系ガラスは、ガラス組成として、質量%で、PbO 60〜85%、B2O3 3〜15%、ZnO 7〜18%、SiO2 0〜5%、BaO 0〜5%含有することが好ましい。上記のようにガラス組成範囲を限定した理由を下記に示す。
PbOは、ガラスの低融点化に寄与する成分であるとともに、析出結晶の構成成分になる成分であり、その含有量は60〜85%、好ましくは70〜80%、より好ましくは72〜78%である。PbOの含有量が60%より少ないと、ガラスの融点が十分に下がらず、500℃以下の温度で封着し難くなる。一方、PbOの含有量が85%より多いと、ガラスが熱的に不安定になり、結晶性ガラスタブレットまたはタブレット一体型排気管の作製工程でガラスが失透しやすくなり、所望の封着強度や流動性を確保し難くなる。
B2O3は、ガラスネットワークを形成する成分であるとともに、析出結晶の構成成分となる成分であり、その含有量は3〜15%、好ましくは5〜15%、より好ましくは7〜13%である。B2O3の含有量が3%より少ないと、ガラス化が困難になる。一方、B2O3の含有量が15%より多いと、ガラスの融点が高くなり、500℃以下の温度で封着し難くなるとともに、ガラスが熱的に安定になり過ぎ、封着時にガラスに結晶が析出し難くなる。
ZnOは、ガラスを熱的に安定化させる成分であるとともに、ガラスの熱膨張係数を低下させる効果がある成分であり、その含有量は5〜20%、好ましくは7〜18%、より好ましくは9〜15%である。ZnOの含有量が5%より少ないと、ガラスの熱膨張係数が高くなり過ぎることに加えて、ガラスが熱的に不安定になり、結晶性ガラスタブレットまたはタブレット一体型排気管の作製工程でガラスが失透しやすくなり、所望の封着強度や流動性を確保し難くなる。一方、ZnOの含有量が20%より多いと、ガラスの粘性が高くなり、500℃以下の温度で封着し難くなる。
SiO2は、ガラスネットワークを形成する成分であるとともに、ガラスの化学的耐久性や耐水性を向上させる成分であり、その含有量は0〜7%、好ましくは0〜5%、より好ましくは0.1〜3%である。SiO2の含有量が7%より多いと、ガラスの融点が高くなり、500℃以下の温度で封着し難くなるとともに、ガラスが熱的に安定になり過ぎ、封着時にガラスに結晶が析出し難くなる。
BaOは、結晶析出のタイミングを制御しやすくする成分であり、その含有量は0〜5%、好ましくは0〜3%、より好ましくは0〜2%である。BaOの含有量が5%より多いと、ガラスの熱膨張係数が高くなり過ぎるとともに、ガラスが熱的に安定になり過ぎ、封着時にガラスに結晶が析出し難くなる。
上記以外の成分であっても本発明の効果を妨げない範囲で他の成分を15%以下、好ましくは10%以下含有させることができる。例えば、他の成分として、Al2O3、Bi2O3、CuO、Fe2O3、V2O5、Ag2O、SrO、P2O5、Co2O3、MoO3、WO3、Nb2O5、Ta2O5、CeO2、Ga2O3、Sb2O3、SnO2、TeO2、F2および希土類酸化物等を合量で15%以下、好ましくは10%以下含有させることができる。
上記鉛ホウ酸系ガラス粉末に添加する耐火性フィラー粉末は、ウイレマイト、チタン酸鉛、チタン酸鉛系固溶体、ジルコン、コーディエライト、アルミナから選ばれる一種または二種以上含有することが好ましい。これらの耐火性フィラーを用いると、結晶性ガラスタブレットの熱膨張係数を調整しやすくなるとともに、結晶性ガラスタブレットの機械的強度を向上させることができる。
結晶性ガラスタブレットの結晶析出を早める目的で結晶核を1%以下添加することができる。結晶核として、アルミナ、酸化チタン、ジルコン等が挙げられる。結晶核の含有量が1%より多いと、結晶析出のタイミングが早くなり過ぎ、封着工程でガラスの流動性が阻害される。結晶核の粒度は、結晶化度を向上させるために、0.05〜2μmとするのが好ましい。
また、結晶性ガラスタブレットを着色する目的で着色剤を2%以下添加することができる。着色剤として、Co2O3、MnO2、Cr2O3、スピネル系結晶の着色剤等が挙げられる。着色剤の添加量を低減するために、着色剤の粒度は0.01〜3μmとするのが好ましい。
本発明の平面表示装置において、結晶性ガラスタブレットに鉛ホウ酸系ガラスを用いた場合、封着部位におけるガラス基板の平均反応深さは0.5〜2.5μmが好ましく、0.7〜2.4μmがより好ましい。平均反応深さが0.5μmより小さいと、ガラス基板と排気管の封着強度を十分に確保することが困難になり、平面表示装置の長期信頼性が損なわれやすくなる。ガラス基板の平均反応深さが2μmより大きいと、ガラス基板と排気管の封着強度に有意な上昇が認められないことに加えて、封着工程の熱処理時間が不当に長くなるため、平面表示装置の製造効率が低下する。
本発明に係る結晶性ガラスタブレットは、ビスマス系ガラス60〜100質量%と耐火性フィラー0〜40質量%を含有することが好ましく、ビスマス系ガラス65〜100質量%と耐火性フィラー0〜35質量%を含有することがより好ましく、ビスマス系ガラス70〜99質量%と耐火性フィラー1〜30質量%を含有することがさらに好ましい。ビスマス系ガラスは、低融点であることから、500℃以下の温度で良好に流動するとともに、耐火性フィラーを添加すれば、熱膨張係数を容易に調整できることから、被封着物の熱膨張係数に容易に整合させることができ、封着部位に不当な応力が残留する事態を防止することができる。ただし、耐火性フィラーの含有量が40質量%より多いと、ガラスの含有量が相対的に少なくなって、所望の流動性を確保することが困難になる。
本発明に係る結晶性ガラスタブレットは、実質的にPbOを含有しないことがより好ましい。このようにすれば、近年の環境的要請を満たすことができる。ここで、「実質的にPbOを含有しない」とは、PbOの含有量が1000ppm(質量)以下の場合を指す。
本発明に係るビスマス系ガラスは、ガラス組成として、質量%で、Bi2O3 60〜88%、B2O3 2〜20%、ZnO 4〜27%、SiO2 0〜5%、MgO+CaO+BaO+SrO 0〜15%、CuO 0〜9%、Fe2O3 0〜4%、Sb2O3 0〜3%含有することが好ましい。
Bi2O3は、ガラスの軟化点を下げるための主要成分であり、また析出結晶の結晶構成成分になる成分であり、その含有量は60〜88%、好ましくは65〜87%、より好ましくは72〜85%、更に好ましくは75〜83%である。Bi2O3の含有量が60%より少ないと、ガラスの軟化点が上昇し、500℃以下の温度で流動し難くなる。一方、Bi2O3の含有量が88%より多いと、ガラスが熱的に不安定になり過ぎ、結晶性ガラスタブレットまたはタブレット一体型排気管の作製工程でガラスが失透しやすくなり、所望の封着強度や流動性を確保し難くなる。
B2O3は、ガラスネットワークを構成するために必須の成分であり、その含有量は2〜20%、好ましくは5〜15%、より好ましくは5.5〜11%、さらに好ましくは5.5〜8%である。B2O3の含有量が2%より少ないと、ガラスの耐失透性が悪化し過ぎて、封着工程でガラスが流動する前に、ガラスが結晶化して、封着材料としての機能を発揮し難くなる。一方、B2O3の含有量が20%より多いと、ガラスの軟化点が上昇し、500℃以下の温度で流動し難くなる。
ZnOは、溶融時にガラスの失透を抑制する効果があり、また低膨張の結晶を析出させるために必須の成分であり、その含有量は4〜27%、好ましくは6〜24%、より好ましくは9〜24%、更に好ましくは11〜13%である。ZnOの含有量が4%より少ないと、封着工程でガラスに低膨張の結晶が析出し難くなる。一方、ZnOの含有量が27%より多いと、ガラス組成の成分バランスが損なわれて、逆に溶融時にガラスが失透しやすくなる。
SiO2は、ガラスの耐候性を高める効果があり、その含有量は0〜5%、好ましくは0〜3%、より好ましくは0〜1%未満である。SiO2の含有量が5%より多いと、ガラスの軟化点が高くなり、500℃以下の温度で流動し難くなる。
MgO、CaO、BaOおよびSrOは、ガラスの溶融時の失透を抑制する効果があり、その含有量は、合量(MgO+CaO+BaO+SrO)で15%以内、好ましくは10%以内、より好ましくは7%以内、さらに好ましくは5%以内である。これらの成分の合量が15%より多いと、ガラスの軟化点が上昇し、500℃以下の温度で流動し難くなる。
CuOは、溶融時にガラスの失透を抑制する成分であり、その含有量は0〜9%、好ましくは0〜7%、より好ましくは0.1〜7%、更に好ましくは1〜7%である。CuOの含有量が9%より多いと、ガラス組成の成分バランスが損なわれて、逆に溶融時にガラスが失透しやすくなる。
Fe2O3は、溶融時にガラスの失透を抑制する成分であり、その含有量は0〜4%、好ましくは0〜3%、より好ましくは0.1〜3%である。Fe2O3の含有量が4%より多いと、ガラス組成の成分バランスが損なわれて、逆に溶融時にガラスが失透しやすくなる。
Sb2O3は、結晶の析出時期をコントロールしやすくする成分であり、その含有量は0〜3%、好ましくは0〜1%である。Sb2O3の含有量が3%より多いと、ガラス組成の成分バランスが損なわれて、溶融時にガラスが失透しやすくなり、逆に結晶の析出時期をコントロールし難くなる。
上記以外の成分であっても特性を妨げない範囲で他の成分を15%以下、好ましくは10%以下含有させることができる。
CeO2は、結晶の析出時期をコントロールしやすくする成分であり、その含有量は0〜3%、好ましくは0〜1%、より好ましくは0.1〜1%である。CeO2の含有量が3%より多いと、ガラス組成の成分バランスが損なわれて、溶融時にガラスが失透しやすくなり、逆に結晶の析出時期をコントロールし難くなる。
MoO3およびWO3は、結晶の析出時期をコントロールしやすくする成分であり、その含有量は合量(MoO3+WO3)で0〜5%、好ましくは0〜3%、より好ましくは0〜1%である。これらの成分の合量が5%より多いと、ガラス組成の成分バランスが損なわれて、ガラスの熱的安定性を悪化させる傾向にあり、逆に結晶の析出時期をコントロールし難くなる。
In2O3およびGa2O3は、結晶の析出時期をコントロールしやすくする成分であり、その含有量は合量(In2O3+Ga2O3)で0〜5%、好ましくは0〜3%、より好ましくは0〜1%である。これらの成分の合量が5%より多いと、ガラス組成の成分バランスが損なわれて、ガラスが失透しやすくなり、逆に結晶の析出時期をコントロールし難くなる。
Al2O3は、ガラスの耐候性を高める効果があり、その含有量は0〜5%、好ましくは0〜3%、より好ましくは0〜1%未満である。Al2O3の含有量が5%より多いと、ガラスの軟化点が高くなり、500℃以下の温度で流動し難くなる。
さらに、任意成分として、以下の成分を添加することができる。例えば、Li2O、Na2O、K2O、Cs2O、MoO3、La2O3、Gd2O3、Y2O3等を10%まで添加することができる。Li2O、Na2O、K2OおよびCs2O等のアルカリ金属酸化物は、ガラスの軟化点を低くする成分である。ただし、アルカリ金属酸化物は、ガラスの失透を過度に促進する作用を有するため、その添加量は合量で2%以下に制限するのが好ましい。La2O3、Gd2O3、Y2O3およびCeO2等の希土類酸化物は、ガラスを熱的に安定化する成分であるが、これらの成分の合量が5%より多いと、ガラスの軟化点が高くなり、500℃以下の温度で流動し難くなる。
上記ビスマス系ガラス粉末に添加する耐火性フィラー粉末は、目的に応じて、種々の耐火性フィラーを使用することができるが、特に、ウイレマイト、酸化亜鉛、ガーナイト、ジルコン、コーディエライト、アルミナ、酸化錫、リン酸ジルコニウムから選ばれる一種または二種以上含有することが好ましい。これらの耐火性フィラー粉末を用いると、結晶性ガラスタブレットの熱膨張係数を低下させやすくなるとともに、結晶性ガラスタブレットの機械的強度を向上させることができる。
結晶性ガラスタブレットの結晶析出時期を調整する目的で結晶核を1%以下添加することができる。結晶核として、アルミナ、酸化チタン、ジルコン等が挙げられる。結晶核の含有量が1%より多いと、結晶析出のタイミングが早くなり過ぎ、封着工程でガラスの流動性が阻害される。結晶核の粒度は、結晶化度を向上させるために、0.05〜2μmとするのが好ましい。
また、結晶性ガラスタブレットを着色する目的で着色剤を2%以下添加することができる。着色剤として、Co2O3、MnO2、Cr2O3、スピネル系結晶の着色剤等が挙げられる。着色剤の添加量を低減するために、着色剤の粒度は0.01〜3μmとするのが好ましい。
本発明の平面表示装置において、結晶性ガラスタブレットにビスマス系ガラスを用いた場合、封着部位におけるガラス基板の平均反応深さは0.05〜1.0μmが好ましく、0.1〜1.0μmがより好ましい。平均反応深さが0.05μmより小さいと、ガラス基板と排気管の封着強度を十分に確保することが困難になり、平面表示装置の長期信頼性が損なわれやすくなる。ガラス基板の平均反応深さが1μmより大きいと、ガラス基板と排気管の封着強度に有意な上昇が認められないことに加えて、封着工程の熱処理時間が不当に長くなるため、平面表示装置の製造効率が低下する。
本発明の平面表示装置において、封着部位の外表面を光学顕微鏡(200倍)で観察し、外表面全体に結晶が析出していることが好ましい。このようにすれば、真空排気工程で排気温度を上昇させても、ガラスが軟化変形する事態を確実に防止することができるため、平面表示装置の製造効率を向上させることができる。
本発明に係る結晶性ガラスタブレットは、以下のように複数回の焼成工程を別途独立に経て、製造される。まず、粉末状に加工されたガラス材料等にバインダーや溶剤を添加し、スラリーを形成する。次に、このスラリーをスプレードライヤー等の造粒装置に投入し、顆粒を作製する。その際、顆粒は、溶剤が揮発する程度の温度(100〜200℃程度)で熱処理される。さらに、作製された顆粒は、所定寸法の金型に投入され、リング状等に乾式プレス成形され、プレス体が作製される。さらに、ベルト炉等の焼成炉にて、このプレス体に残存するバインダーを分解揮発させた後、ガラスの軟化点近傍の温度で焼成することにより、結晶性ガラスタブレットが作製される。また、焼成炉での焼成は、複数回行われる場合がある。焼成を複数回行うと、結晶性ガラスタブレットの強度が向上し、結晶性ガラスタブレットの欠損、破壊等を効果的に防止することができる。
排気管としては、アルカリ金属酸化物を所定量含有させたSiO2−Al2O3−B2O3系ガラスが好適であるが、特に日本電気硝子株式会社製の商品名「FE−2」が好適である。この排気管は、熱膨張係数が85×10-7/℃、耐熱温度が550℃であり、寸法が、例えば外径5mm、内径3.5mmである。なお、ガラス基板等との熱膨張係数の整合を考慮すると、排気管の熱膨張係数は75〜90×10-7/℃が好ましく、81〜87×10-7/℃がより好ましい。
本発明に係る排気管は、その先端部が拡径されていることが好ましい。特に、排気管の先端部をフレア型またはフランジ型とするのが好ましい。このようにすれば、排気管をガラス基板等に自立させやすくなるため、排気管の位置ズレに伴う不良率が低下し、平面表示装置の製造効率が向上する。さらに、このようにすれば、ガラス基板に接触する排気管の先端部の面積が大きくなるため、排気管とガラス基板を結晶性ガラスタブレットで封着しやすくなる。排気管の先端部を拡径化する方法として、種々の方法を採用することができる。その中でも、排気管の先端部を回転させながらガスバーナーを用いて加熱し、数種類の治具を用いて所定の形状に加工する方法が量産性に優れるため好ましい。
本発明の平面表示装置は、結晶性ガラスタブレットが、拡径された排気管の先端部に取り付けられているタブレット一体型排気管の形態で封着に供されていることが好ましい。このようにすれば、排気管の取り付けの際、排気管が傾き難いとともに、ガラス基板、結晶性ガラスタブレットおよび排気管の3つの部品について、排気孔を起点にした中心位置合わせを行う必要がなくなり、排気管の取り付け作業を簡略化することができる。その結果、平面表装置の製造効率を高めることができるとともに、平面表示装置の不良率を低減することができる。
タブレット一体型排気管は、排気管の一端に結晶性ガラスタブレットを接触させた状態で焼成し、結晶性ガラスタブレットを排気管の先端部に接着させることで作製される。一般的に、結晶性ガラスタブレットを焼成治具上に載置し、加圧冶具を用いて、この結晶性ガラスタブレット上に排気管の底面を固定しながら焼成し、結晶性ガラスタブレットと排気管を接着させる。また、排気管と結晶性ガラスタブレットの接着に際し、焼成温度は、ガラスの軟化点近傍の温度にする必要がある。なお、焼成治具として、結晶性タブレットが融着しない材質、例えばカーボン治具やシリコンカーバイド等が使用される。
上記から明らかなように、タブレット一体型排気管の作製にあたって、軟化点以上の熱履歴が結晶性ガラスタブレットに少なくとも2回かかる。それ故、結晶性ガラスタブレットの結晶性が高い場合、プレス体の焼結工程でガラスが失透し、後のタブレット一体型排気管の作製工程で結晶性タブレットと排気管が接着しなくなり、タブレット一体型排気管から結晶性ガラスタブレットが脱離するといった問題が生じ得る。また、結晶性ガラスタブレットの結晶性が高い場合、ガラス基板等に封着する際、ガラスが失透しやすく、封着工程でガラスが十分に軟化流動し難くなり、このような場合、所望の封着強度が得られないばかりか、最悪の場合、結晶性ガラスタブレットとガラス基板等が剥離し、PDP等に気密リークが生じやすくなる。このような事態を防止するため、タブレット一体型排気管の形態でガラス基板と排気管を封着する場合、結晶性タブレットの封着に供すべき面(つまり、ガラス基板側の面)の全部または一部を研磨、或いは薬液処理することが好ましい。このようにすれば、タブレット一体型排気管の形態であっても、結晶析出時期を遅らせることができるとともに、結晶性ガラスタブレットの封着に供すべき面の結晶性を均一化することができる。その結果、封着工程で結晶性ガラスタブレットとガラス基板の反応性が高まり、封着部位において未反応部位をなくすことができる。
図3にタブレット一体型排気管の一例を示す。図3は、タブレット一体型排気管の断面概念図であり、排気管1の先端部が拡径化されており、排気管1のガラス基板に臨む先端部に結晶性ガラスタブレット5が接着されている。
さらに、タブレット一体型排気管は、拡径された排気管の先端部に、結晶性ガラスタブレットが取り付けられているタブレット一体型排気管であって、さらに、拡径された排気管の先端部に、高融点タブレットが取り付けられており、且つ結晶性ガラスタブレットが拡径された排気管の先端部側に取り付けられ、高融点タブレットが結晶性ガラスタブレットよりも後端部側に取り付けられていることが好ましい。このような構成にすれば、結晶性ガラスタブレットが排気管の先端部側に取り付けられているので、ガラス基板に排気管を取り付ける際にガラス基板と接触する面積は、排気管だけの場合よりも広くなり、ガラス基板等の上に排気管を安定して自立、つまりガラス基板等に対して傾くことなく垂直に取り付けやすくなる。その結果、平面表示装置の製造効率が向上するとともに、排気管の取り付けに伴う不良率が低下する。また、このような構成にすれば、タブレット一体型排気管の作製工程において、結晶性ガラスタブレットを排気管に固着させる際、焼成治具と結晶性ガラスタブレットの間に高融点タブレットを配置させることができるため、特殊な治具を使用する必要がなくなり、タブレット一体型排気管の作製工程を簡略化することができ、結果として、平面表示装置の製造コストが低下する。ここで、「高融点タブレット」は、520℃以下で軟化変形しないタブレット(例えば、ガラスの場合、ガラスの軟化点が520℃より高いタブレット)を指す。
上記構成のタブレット一体型排気管において、結晶性ガラスタブレットは、好ましくは排気管の先端部の外周側面に固着され、さらに好ましくは排気管の先端部の外周側面のみに固着され、排気管先端部のガラス基板等と封着を行うべき面には固着されない。このようにすれば、ガラス基板等に形成された排気孔へガラスが流れ込む事態を防止することができる。また、高融点タブレットを排気管に直接接着させずに、結晶性ガラスタブレットを介して排気管に接着すれば、封着工程で高融点タブレットをクリップ等の加圧具で固定した状態で排気管を加圧封着できるため、所望の封着強度や封着形状が得られやすくなり、平面表示装置の長期信頼性を高めることができる。高融点タブレットとしては、日本電気硝子株式会社製の商品名「ST−4」、「FN−13」を用いるのが好ましい。なお、高融点タブレットは、既述の結晶性ガラスタブレットと同様の方法で作製することができる。
図4にタブレット一体型排気管の一例を示す。図4は、タブレット一体型排気管の断面概念図であり、排気管1の先端部が拡径化されており、排気管1の拡径部1a外周面側の先端部に結晶性ガラスタブレット5が接着しているとともに、高融点タブレット6が排気管1の外周面側に接着していない。また、結晶性ガラスタブレット5は、拡径部分1aの先端部側に取り付けられて、高融点タブレット6が結晶性ガラスタブレット5よりも拡径部1aの後端部側に取り付けられている。
本発明の平面表示装置は、例えば、以下のようにして作製される。まず、前面ガラス基板と背面ガラス基板をクリップ等の加圧具で仮固定するとともに、排気孔が開いた背面ガラス基板上に、排気孔を起点にして、排気管と結晶性ガラスタブレットの中心位置合わせを行った後、排気管をクリップ等の加圧具でガラス基板に仮固定する。次に、排気管の一端に真空ヘッドを取り付けた上で、これをベルト炉等の電気炉に投入し、ガラス基板と排気管を封着させた後、続けて真空排気工程に移行させる。真空排気工程では、電気炉内を400℃程度、近年では500℃程度に維持しながら、平面表示装置内を十分に真空にした後に希ガスを充填する。このようにして、平面表示装置が作製される。
封着工程における熱処理温度は、435〜529℃が好ましく、450〜515℃がより好ましく、460〜500℃が更に好ましい。封着工程における熱処理温度が435℃より低いと、結晶性ガラスタブレットが十分に軟化流動せず、ガラス基板と排気管の封着強度が低下しやすくなるとともに、封着工程でガラスに結晶が析出し難くなり、後の真空排気工程で排気温度を上昇させ難くなる。一方、封着工程における熱処理温度が529℃より高いと、蛍光体の蛍光特性等が損なわれて、平面表示装置の表示性能が損なわれやすくなる。
実施例に基づき、本発明の平面表示装置を詳細に説明する。
表1〜3は、本発明の実施例(試料No.1〜22)を示している。一方、表4、5は、本発明の比較例(試料No.23〜26)を示している。
次のようにして排気管を作製した。まず、日本電気硝子株式会社製の排気管(材質名:FE−2)を用意した。この排気管は、熱膨張係数が85×10-7/℃、耐熱温度が550℃であり、外径6mm、内径3.5mm、長さ70mmの大きさを有するものを使用した。次にこの排気管を回転させながら、その一端をガスバーナーで加熱し、数種類の冶具を用いて、図1に示すようなフランジ部(拡径部分:外径12mm、内径3.5mm、高さ3mm)に加工した。
次のようにして結晶性ガラス粉末を作製した。まず、表中のガラス組成となるように、各種酸化物、炭酸塩等の原料を調合したガラスバッチを準備し、これを白金坩堝に入れて900〜1000℃で1〜2時間溶融した。次に、溶融ガラスを水冷ローラーにより薄片状に成形した。次に、薄片状のガラスをボールミルにて粉砕後、目開き75μmの篩いを通過させて、平均粒径約10μmの各結晶性ガラス粉末を得た。得られた各結晶性ガラス粉末は、必要に応じて、表中に示す割合で耐火性フィラー粉末と混合し、複合体粉末とした。この試料を用いて、DTA装置にて昇温速度10℃/分で軟化点を測定した。
次のようにして結晶性ガラスタブレットを作製した。上記により、得られた結晶性ガラス粉末、或いは複合体粉末にバインダーを添加し、造粒器にて造粒した後、この造粒物を所定の金型に充填し、プレス成形した。その後、バインダーを除去し、ガラスの軟化点で流気式電気炉により10分間加熱して、リング状の結晶性ガラスタブレット(外径12mm、内径5mm、高さ0.5mm)を得た。なお、結晶性ガラスタブレットは、各10個作製した。
熱膨張係数は、押棒式熱膨張測定装置により30〜480℃の温度範囲で求めた。なお、測定試料は、結晶化後のものを使用した。また、測定試料は、室温から10℃/分の速度で昇温して表中の温度で30分間保持した上で室温まで10℃/分で降温することで作製した。
流動径は、各結晶性ガラスの密度(複合体粉末の場合は合成密度)に相当する質量の粉末を外径20mmのボタン状に乾式プレスし、これを40mm×40mm×2.8mm厚の高歪点ガラス基板上に載置し、室温から10℃/分の速度で昇温して表中の温度で30分間保持した上で室温まで10℃/分で降温し、得られたボタンの直径を測定することで評価した。なお、合成密度とは、ガラス粉末の密度と耐火物フィラー粉末の密度を、所定の体積比で混合させて算出される理論上の密度である。また、流動径が18mm以上であれば、封着工程でガラス基板と排気管を良好に封着することができる。
このようにして作製された排気管と結晶性ガラスタブレットを40mm×40mm×2.8mm厚の高歪点ガラス基板(日本電気硝子株式会社製PP−8C)の中央部分に載置し、上記の方法で作製された排気管と結晶性ガラスタブレットの中心位置合わせを行った。なお、結晶性ガラスタブレットは、排気管の拡径部の下方の面(排気管の拡径部において、高歪点ガラス基板に平行な面)に配置した。その後、焼成炉で10℃/分の速度で昇温して表中の温度で1時間保持した上で室温まで10℃/分で降温することで焼成し、排気管と高歪点ガラス基板を封着させた。なお、高歪点ガラス基板と排気管の封着は、クリップを用いた加圧下で行った。次に、平均反応深さ、未反応部位の存在、表面結晶の析出状態および封着強度を評価した。なお、封着強度は、各10回測定した平均値で評価した。
比較例No.27は、タブレット一体型排気管の形態で排気管と高歪点ガラス基板を封着した。比較例No.27は、まず結晶性ガラスのガラス組成が質量%でBi2O3 76%、B2O3 7%、ZnO 16.5%、CuO 0.5%であり、結晶性ガラスとウイレマイトの混合割合を74:26に調整し、結晶性ガラスタブレットに加工された。次に、結晶性ガラスタブレットをカーボン製の焼成冶具に固定した状態で、加圧冶具を用いて排気管の拡径部分を加圧しながら、流気式電気炉で結晶性ガラスの軟化点で10分間焼成することにより、タブレット一体型排気管を作製した。また、結晶性ガラスタブレットは、排気管の拡径された部分において、被封着物と接する側の面に接着させた。焼成の際、排気管の管軸とタブレットの孔の中心が一致するように調整した。なお、以降の操作は、結晶性ガラスタブレットを用いた上記実験と同様とした。
平均反応深さは、ガラス基板と排気管を封着している封着部位を酸(鉛ホウ酸系ガラスを用いた場合は、5%硝酸水溶液を用い、ビスマス系ガラスを用いた場合は10%塩酸水溶液を用いた)により取り除いた後、ガラス基板に残った反応痕を触針式表面粗さ計で測定した値を指す。
未反応部位の存在は、封着部位におけるガラス基板の板幅方向で100μmの任意の測定幅において、ガラス基板の平均反応深さが30nm未満でない部分を有さない場合を「○」とし、ガラス基板の平均反応深さが30nm未満の部分を有する場合を「×」とした。
表面結晶の析出状態は、封着部位の外表面を光学顕微鏡(200倍)で観察し、外表面全体に結晶が析出していたものを「○」、部分的に結晶が析出していたもの、或いは結晶の析出が認められなかったものを「×」として評価した。
封着強度は、排気管が水平になるように高歪点ガラス基板を直立させて保持した後、高歪点ガラス基板から60mm離れた排気管部分に、オートグラフにて2mm/分の速度で荷重をかけ、破壊に要した荷重を求め、測定値が3kg以上であれば「○」、それ以外の場合を「×」とした。
表1〜3から明らかなように、試料No.1〜22は、平均反応深さ、未反応部位の存在、表面結晶の析出状態および封着強度の評価が良好であった。したがって、試料No.1〜22に対応する平面表示装置は、製造効率が良好であるとともに、画質および長期信頼性が良好であると考えられる。
一方、表4、5から明らかなように、試料No.23は、焼成温度が420℃と低かったため、ガラス基板と結晶性ガラスタブレットの反応が十分に進行せず、平均反応深さが小さくなり、未反応部位の存在が認められるとともに、表面結晶の析出状態および封着強度の評価が不良であった。試料No.24は、ガラスタブレットが非結晶性であることから、真空排気工程でガラスが再軟化してしまい、封着層に多数の発泡が生じ、表面結晶の析出状態および封着強度の評価が不良であった。試料No.25は、焼成温度が440℃と低かったため、ガラス基板と結晶性ガラスタブレットの反応痕がなく、表面結晶の析出状態および封着強度の評価が不良であった。試料No.26は、ガラスタブレットが非結晶性であることから、真空排気工程でガラスが再軟化してしまい、封着層に多数の発泡が生じ、表面結晶の析出状態および封着強度の評価が不良であった。したがって、試料No.23〜26に対応する平面表示装置は、製造効率および/または長期信頼性が乏しいと考えられる。
図5は、試料No.2に係る反応深さの測定データを示している。図5から明らかなように、測定領域において、ガラス基板の反応深さが適正であり、未反応部位がないことが分かる。
試料No.27は、タブレット一体型排気管の形態で封着に供されている。タブレット一体型排気管の作製工程後において、試料No.27は、結晶性ガラスタブレットに軟化点近傍の熱履歴が2回かかっているとともに、封着に供すべき面がカーボン冶具に接触した状態で一体化されているため、封着に供すべき面の結晶性が不均一になり、未反応部位の存在が認められたことに加えて、封着強度の評価が不良となった。なお、タブレット一体型排気管の形態で封着に供した場合であっても、例えば封着に供すべき面を研磨処理、或いは結晶性ガラスタブレットと排気管の取り付け方法等を改良、例えば熱処理温度の均一化等すれば、未反応部位をなくし、封着強度を高めることができると考えられる。