つぎにこの発明を具体例に基づいて説明する。先ず、この発明で対象とする変速機について説明すると、図1に示す例は、伝達するべき動力(エネルギ)の形態を変更せずに設定できるいわゆる固定変速比として四つの前進段および一つの後進段を設定するように構成した例であり、特にエンジンなどの動力源1を車両の前後方向に向けて搭載するFR車(フロントエンジン・リヤドライブ車)に適するように構成した例である。すなわち、動力源1に連結されている入力部材2と同一の軸線上と、これに平行な軸線上とのそれぞれに、動力を分配し、また伝達および遮断する機構が配置されている。ここで、動力源1は、内燃機関や電気モータあるいはこれらを組み合わせた構成など、車両に使用されている一般的な動力源であってよい。なお、以下の説明では、動力源1を仮にエンジン1と記す。また、入力部材2はエンジン(E/G)1の出力した動力を伝達できる部材であればよく、ドライブプレートや入力軸であってもよい。以下の説明では、入力部材2を入力軸2と記す。これらエンジン1と入力軸2との間に、ダンパーやクラッチ、トルクコンバータなどの適宜の伝動手段を介在させることができる。
前記各軸線上に配置されている機構は、入力された動力をそのまま出力し、あるいはその一部をそのまま出力するとともに、他の動力を、エネルギ形態を変換して出力し、さらには空転して動力の伝達を行わないように構成された伝動手段の一種である。図1に示す例では、差動機構とこれに反力を与えかつその反力の可変な反力機構とによって構成されている。差動機構は、要は、三つの回転要素によって差動作用を行うものであればよく、歯車やローラを回転要素とした機構であり、そのうちの歯車式差動機構としてはシングルピニオン型遊星歯車機構やダブルピニオン型遊星歯車機構を使用することができる。また、反力機構は、選択的にトルクを出力できる機構であればよく、油圧などの流体式のポンプモータや電気的に動作するモータ・ジェネレータなどを用いることができる。
図1に示す例では、差動機構としてシングルピニオン型遊星歯車機構が用いられ、また反力を生じさせるための反力機構(この発明の油圧モータもしくは油圧ポンプに相当する)として可変容量型油圧ポンプモータが用いられている。以下の説明では、エンジン1と同軸上の遊星歯車機構を仮に第2遊星歯車機構5と記し、その第2遊星歯車機構5に対して反力機構として作用する油圧ポンプモータを仮に第2ポンプモータ6と記す。さらに、これと平行に配置されている遊星歯車機構を仮に第1遊星歯車機構7と記し、また油圧ポンプモータを第1ポンプモータ9と記す。なお、第1ポンプモータ9を図にはPM1と記し、第2ポンプモータ6を図にはPM2と記すことがある。
第2遊星歯車機構5は、外歯歯車であるサンギヤS2と、これと同心円上に配置された内歯歯車であるリングギヤR2と、これらのサンギヤS2とリングギヤR2とに噛み合っているピニオンギヤを自転かつ公転自在に保持しているキャリヤC2とを回転要素するシングルピニオン型のものである。そのリングギヤR2に入力軸2が連結されており、したがってリングギヤR2が入力要素となっている。またそのサンギヤS2に反力機構としての第2ポンプモータ6が接続されている。すなわち、サンギヤS2が反力要素となっている。
この第2ポンプモータ6は、押出容積を変更できる可変容量型であり、特に押出容積をゼロから正負の両方向に変化させることのできるいわゆる両振り型のものであり、第2遊星歯車機構5を挟んで前記入力軸2とは反対側に、これら遊星歯車機構5および入力軸2と同一軸線上に配置されている。この種の第2ポンプモータ6としては、各種の形式のものを採用することができ、例えば斜板ポンプや斜軸ポンプ、あるいはラジアルピストンポンプなどを用いることができる。
一方、第1遊星歯車機構7は、上記の第2遊星歯車機構5と同様の構成であって、サンギヤS1とリングギヤR1とこれらに噛み合っているピニオンギヤを自転および公転自在に保持しているキャリヤC1とを回転要素とし、これら三つの回転要素によって差動作用を行うシングルピニオン型の遊星歯車機構である。そのリングギヤR1が入力要素となり、またサンギヤS1が反力要素となり、さらにキャリヤC1が出力要素となっている。すなわち、前記入力軸2にカウンタドライブギヤ8Aが取り付けられており、これに噛み合っているカウンタドリブンギヤ8Bが第1遊星歯車機構7のリングギヤR1に連結されている。なお、この第1遊星歯車機構7と前述した第2遊星歯車機構5とは、軸線方向に互いにずれて配置され、半径方向で重ならないようになっている。これらのカウンタドライブギヤ8Aとカウンタドリブンギヤ8Bとからなるカウンタギヤ対(以下、仮に第1カウンタギヤ対と記す)8は、いわゆる入力用伝動機構を構成しており、これは、摩擦車を利用した伝動機構やチェーンもしくはベルトなどを使用した巻き掛け伝動機構に置き換えることができる。
さらに、第1遊星歯車機構7のサンギヤS1に反力機構としての第1ポンプモータ9が連結されている。この第1ポンプモータ9は、押出容積を変更できる可変容量型であり、図1に示す例では、押出容積をゼロから正負のいずれか一方向に変化させることのできるいわゆる片振り型のものであり、前記第1遊星歯車機構7に対してエンジン1側(図1の左側)に、第1遊星歯車機構7と同一軸線上に配置されている。また、この第1ポンプモータ9としては、上述した第2ポンプモータ6と同様に、斜板ポンプや斜軸ポンプ、あるいはラジアルピストンポンプなどを用いることができる。
上記の第1遊星歯車機構7および第1ポンプモータ9と同一の軸線上に第1ドライブ軸10と第2ドライブ軸11との二本のドライブ軸が配置されている。これらのうち一方のドライブ軸、例えば第2ドライブ軸11は中空構造であって、第1ドライブ軸10の外周側に相互に回転自在に嵌合している。そして、これらのドライブ軸10,11は第1遊星歯車機構7を挟んで第1ポンプモータ9とは軸線方向で反対側に配置されている。
第1ドライブ軸10は第1遊星歯車機構7のサンギヤS1に連結され、したがってサンギヤS1が出力要素となっている。また第2ドライブ軸11は第2遊星歯車機構5のキャリヤC2にトルク伝達可能に連結され、このキャリヤC2が出力要素となっている。すなわち、このキャリヤC2にカウンタドライブギヤ12Aが連結され、そのカウンタドライブギヤ12Aに噛み合っているカウンタドリブンギヤ12Bが第2ドライブ軸11に回転自在に嵌合して支持されている。これらのカウンタドライブギヤ12Aおよびカウンタドリブンギヤ12Bからなるカウンタギヤ対(以下、仮に第2カウンタギヤ対と記す)12は、いわゆる出力用伝動機構を構成しており、これは、摩擦車を利用した伝動機構やチェーンもしくはベルトなどを使用した巻き掛け伝動機構に置き換えることができる。
各ドライブ軸10,11から動力が伝達されるドリブン軸13は、各ドライブ軸10,11と平行になるように、前記入力軸2や第2遊星歯車機構5と同一軸線上に配置されている。これら各ドライブ軸10,11とドリブン軸13との間には、異なる変速比を設定するための複数の伝動機構が設けられている。これらの各伝動機構は、トルクの伝達に関与した場合にそれぞれの回転数比に応じて、入力軸2とドリブン軸13との間の変速比を設定するためのものであり、歯車機構や巻き掛け伝動機構、摩擦車を使用した機構などを採用することができる。図1に示す例では、前進走行のための四つのギヤ対14,15,16,17と後進走行のためのギヤ対18とが設けられている。
前記の第1ドライブ軸10は、中空構造の第2ドライブ軸11の端部から突出しており、その突出した部分に第1速駆動ギヤ14Aと第3速駆動ギヤ16Aとリバース駆動ギヤ18Aとが取り付けられている。その配列順序は、第1ドライブ軸10の先端(図1の右端)側から、第1速駆動ギヤ14A、第3速駆動ギヤ16A、リバース駆動ギヤ18Aの順である。また、第2ドライブ軸11には、その先端側(図1の右側)から順に、第4速駆動ギヤ17Aおよび第2速駆動ギヤ15Aが取り付けられている。したがって、第1および第2のドライブ軸10,11の一方には、奇数段の駆動ギヤが取り付けられ、他方には偶数段の駆動ギヤが取り付けられている。言い換えれば、第1ドライブ軸10に第2速および第4速の駆動ギヤを取り付け、第2ドライブ軸11に第1速および第3速の駆動ギヤを取り付けてもよい。
上記の各ギヤ対14,15,16,17,18における従動ギヤ14B,15B,16B,17B,18Bが、ドリブン軸13に回転自在に嵌合して支持されている。すなわち、第1速従動ギヤ14Bは上記の第1速駆動ギヤ14Aに噛み合った状態でドリブン軸13に回転自在に嵌合している。また、第3速従動ギヤ16Bは、第3速駆動ギヤ16Aに噛み合った状態でドリブン軸13に回転自在に嵌合し、かつ第1速従動ギヤ14Bに隣接して配置されている。さらに、第2速従動ギヤ15Bは、第2速駆動ギヤ15Aに噛み合った状態でドリブン軸13に回転自在に嵌合している。そして、第4速従動ギヤ17Bは、第4速駆動ギヤ17Aに噛み合った状態でドリブン軸13に回転自在に嵌合している。一方、リバース従動ギヤ18Bはドライブ軸11に回転自在に嵌合し、かつ第4速従動ギヤ17Bに隣接して配置されており、このリバース従動ギヤ18Bとリバース駆動ギヤ18Aとの間にはアイドルギヤ18Cが配置され、リバース駆動ギヤ18Aの回転方向とリバース駆動ギヤ18の回転方向とが同じになるように構成されている。したがって、第1速ないし第4速のギヤ対14,15,16,17が前進速伝動機構に相当し、リバースギヤ対18が後進速伝動機構に相当する。
これらのギヤ対14,15,16,17,18を選択的に動力伝達可能な状態にするための切換機構が設けられている。この切換機構は、各ギヤ対14,15,16,17,18をいずれかのドライブ軸10,11とドリブン軸13とに選択的に連結する機構であり、したがって従来の手動変速機などにおける同期連結機構(シンクロナイザー)を使用することができ、あるいは噛み合いクラッチ(ドグクラッチ)や摩擦式クラッチなどを使用することができる。また、上記の従動ギヤをドリブン軸13に一体的に取り付けた場合には、駆動ギヤをドライブ軸に対して回転自在とし、その駆動ギヤをドライブ軸に対して選択的に連結するようにドライブ軸側に切換機構を設けることができる。
図1に示す例では、切換機構として同期連結機構が使用されており、上記の第1速従動ギヤ14Bと第3速従動ギヤ16Bとの間に第1シンクロ19が配置され、またリバース従動ギヤ18Bと第4速従動ギヤ17Bとの間に第2シンクロ20が配置され、さらに第2速従動ギヤ15Bに隣接してスタート(S)シンクロ22が設けられている。なお、第2遊星歯車機構5におけるサンギヤS2に連結されているサンギヤ軸5Aがドリブン軸13の端部に接近する位置まで延びており、スタートシンクロ22は、第2速従動ギヤ15Bをドリブン軸13に選択的に連結することに加えて、サンギヤ軸5Aをドリブン軸13に選択的に連結するように構成されている。これらのシンクロ19,20,22は、従来の手動変速機で用いられているものと同様であって、ドリブン軸13に一体のハブにスリーブがスプライン嵌合され、そのスリーブを軸線方向に移動することにより次第にスプライン嵌合するチャンファーもしくはスプラインが各従動ギヤに一体に設けられ、さらにスリーブの移動に伴って、従動ギヤ側の所定の部材に次第に摩擦接触して回転を同期させるリングが設けられている。
したがって第1シンクロ19は、そのスリーブ19Sを図1の右側に移動させることにより、第1速従動ギヤ17Bをドリブン軸13に連結し、またスリーブ19Sを図1の左側に移動させることにより、第3速従動ギヤ16Bをドリブン軸13に連結し、さらにスリーブ19Sを中央に位置させることにより、いずれの従動ギヤ14B,16Bとも係合せずにニュートラル状態となるように構成されている。また、第2シンクロ20は、そのスリーブ20Sを図1の右側に移動させることにより、リバース従動ギヤ18Bをドリブン軸13に連結し、またスリーブ20Sを図1の左側に移動させることにより、第4速従動ギヤ17Bをドリブン軸13に連結し、さらにスリーブ20Sを中央に位置させることにより、いずれの従動ギヤ18B,17Bとも係合せずにニュートラル状態となるように構成されている。さらに、スタートシンクロ22は、そのスリーブ22Sを図1の右側に移動させることにより、第2速従動ギヤ17Bをドリブン軸13に連結し、またスリーブ22Sを図1の左側に移動させることによりサンギヤ軸5Aをドリブン軸13に連結し、さらにスリーブ22Sを中央に位置させることによりいずれにも係合しないニュートラルとなるように構成されている。
前述した第2ポンプモータ6は、第1ポンプモータ9の外周側に第1ポンプモータ9に隣接して配置されており、そのロータ軸6Aは、第2遊星歯車機構5の外周側を通ってドリブン軸13側に延びている。このロータ軸6Aに、カウンタドライブギヤ21Aが取り付けられており、このカウンタドライブギヤ21Aに噛み合っているカウンタドリブンギヤ21Bが第2遊星歯車機構5のサンギヤ軸5Aに一体となって回転するように取り付けられている。これらのカウンタドライブギヤ21Aとカウンタドリブンギヤ21Bとからなるカウンタギヤ対(以下、仮に第3カウンタギヤ対と記す)21は、前述した第2カウンタギヤ対12と軸線方向で隣接して配置されており、したがってそのドライブギヤ12Aとドリブンギヤ30Bとが、第2ドライブ軸11上で互いに隣接している。
つぎに、上記の各ポンプモータ9,6を制御するための流体圧回路(油圧回路)について説明する。各ポンプモータ9,6の吸入口9S,6S同士が油路40によって連通されており、また吐出口9D,6D同士が油路41によって連通されている。ここで、吸入口9S,6Sは、押出容積を正の方向に設定した状態で正回転することにより圧油を吸入するポートであり、またその圧油を吐出するポートが吐出口9D,6Dである。したがって、各ポンプモータ9,6は両者の間で圧油を循環させる閉回路によって連通されている。
この閉回路には圧油を補給するためのチャージポンプ(ブーストポンプと称されることもある)32が設けられている。このチャージポンプ32は、上記の閉回路からの漏れなどによるオイルの不足を補うためのものであってこの発明の補給ポンプに相当し、前述した動力源1や図示しないモータなどによって駆動されて、オイルパン33からオイルを汲み上げて閉回路に供給するようになっている。
したがって、チャージポンプ32の吐出口は、前記閉回路における油路40と油路41とにそれぞれチェック弁34,35を介して連通されている。なお、これらのチェック弁34,35は、チャージポンプ32からの吐出方向に開き、これとは反対方向に閉じるように構成されている。さらに、チャージポンプ32の吐出圧を調整するためのリリーフ弁(チャージ圧制御弁)36が、チャージポンプ32の吐出口に連通されている。このリリーフ弁36は、スプリングによる弾性力とパイロット圧もしくはソレノイドによる押圧力との和より高い圧力が作用した場合に開いてオイルを排出するように構成されており、したがってチャージポンプ32の吐出圧をパイロット圧に応じた圧力に設定するように構成されている。
さらに、第1ポンプモータ9の吸入口9Sと油路41との間に、電磁リリーフ弁37が設けられている。言い換えれば、第1ポンプモータ9と並列に、各油路40,41を連通させるように電磁リリーフ弁37が設けられている。この電磁リリーフ弁37は、第1ポンプモータ9の吸入口9S、または第2ポンプモータ6の吸入口6Sから圧油を吐出する場合に、その吐出圧を予め設定した圧力に維持するように構成されている。また、第2ポンプモータ6の吐出口6Dと油路40との間に、電磁リリーフ弁38が設けられている。言い換えれば、第2ポンプモータ6と並列に、各油路40,41を連通させるように電磁リリーフ弁38が設けられている。この電磁リリーフ弁38は、第1ポンプモータ9の吐出口9D、または第2ポンプモータ6の吐出口6Dから圧油を吐出する場合に、その吐出圧を予め設定した圧力に維持するように構成されている。
さらに、リリーフ弁(チャージ圧制御弁)36から排出される圧油を、冷却用流体として各ポンプモータ9,6に供給する油路が設けられている。すなわち、この油路は、リリーフ弁36の排出口と各ポンプモータ9,6のケーシングにおける油路とを連通させるものであって、リリーフ弁36の排出口から出た圧油を分岐させて各ポンプモータ9,6に供給するように構成されている。すなわち一方の供給油路42は第1ポンプモータ9のケーシングに形成されている冷却用の油路(それぞれ図示せず)に接続されている。また、この供給油路42には、電気的に制御可能な流量制御弁43が設けられている。さらに、第1ポンプモータ9における冷却用の油路にはリターン油路44が連通され、第1ポンプモータ9から排出された冷却用の圧油を油溜め45に導くように構成されている。
これと同様に、前記一方の供給油路42から分岐した他方の供給油路46は第2ポンプモータ6のケーシングに形成されている冷却用の油路(それぞれ図示せず)に接続されている。また、この供給油路46には、電気的に制御可能な流量制御弁47が設けられている。さらに、第2ポンプモータ6における冷却用の油路にはリターン油路48が連通され、第2ポンプモータ6から排出された冷却用の圧油を油溜め45に導くように構成されている。
この油溜め45に前記各電磁リリーフ弁37,38からの排圧を導くようになっており、さらにこの油溜め45から前記オイルパン33に圧油を戻すように構成されている。そして、この油溜め45とオイルパン33との間の管路には、オイルクーラー49が設けられている。
上記の各ポンプモータ9,6の押出容積や各シンクロ19,20,22ならびに各リリーフ弁36,37,38のリリーフ圧を電気的に制御できるように構成されており、そのための電子制御装置(ECU)39が設けられている。この電子制御装置39は、マイクロコンピュータを主体にして構成されたものであって、所定の回転部材の回転数や他の検出信号が入力され、それらの入力された信号および予め記憶している情報ならびにプログラムに基づいて演算を行い、その演算結果に応じて指令信号を出力するように構成されている。
つぎに、上述した変速機の作用について説明する。図2は、いずれかのギヤ対14,15,16,17,18のギヤ比で決まる各変速段を設定する際の第1および第2のポンプモータ(PM1,PM2)6,9、および各シンクロ19,20,22の動作状態をまとめて示す図表であって、この図2における各ポンプモータ6,9についての「0」は、ポンプ容量(押出容積)を実質的にゼロとし、そのロータ軸が回転させられても圧油を発生することがなく、また油圧が供給されても出力軸が回転しない状態(フリー)を示し、「LOCK」はそのロータの回転を止めている状態を示している。さらに「PUMP」は、ポンプ容量を実質的なゼロより大きくするとともに圧油を吐出している状態を示し、したがって該当する第1あるいは第2のポンプモータ6,9はポンプとして機能している。また、「MOTOR」は、一方のポンプモータ6(もしくは9)が吐出した圧油が供給されてモータとして機能している状態を示し、したがって該当する油圧ポンプモータ9(もしくは6)は軸トルクを発生している。
そして、各シンクロ19,20,22についての「右」、「左」は、それぞれのスリーブ19S,20S,22Sの図1での位置を示すとともに、丸括弧はダウンシフトするための待機状態、カギ括弧はアップシフトするための待機状態を示し、そして「N」は該当するシンクロ19,20,22をOFF状態(中立位置)に設定している状態を示し、斜体の「N」は引き摺りを低減するためOFF状態(中立位置)に設定していることを示す。
ニュートラルポジションが選択されてニュートラル状態を設定する際には、各ポンプモータ6,9の押出容積がゼロとされ、また各シンクロ19,20,22が「OFF」状態とされる。すなわちそれぞれのスリーブ19S,20S,22Sが中央位置に設定される。したがって、いずれのギヤ対14,15,16,17,18もドリブン軸13に連結されていないニュートラル状態となる。その結果、各ポンプモータ6,9がいわゆる空回り状態となる。したがって、各遊星歯車機構5,7のリングギヤR2,R1にエンジン1からトルクが伝達されても、サンギヤS1およびリングギヤR2に反力が作用しないため、出力要素であるキャリヤC2,C1に連結されている各ドライブ軸10,11にはトルクが伝達されない。
シフトポジションがドライブポジションなどの走行ポジションに切り替えられると、第1シンクロ19のスリーブ19Sが図1の右側に移動させられて、第1速従動ギヤ14Bがドリブン軸13に連結され、またSシンクロ22のスリーブ22Sが図1の左側に移動させられて、サンギヤ軸5Aとドリブン軸13、すなわち第2ポンプモータ6をドリブン軸13とが連結される。この状態では、車両が未だ停止しているので、各遊星歯車機構7,5では、キャリヤC1,C2が停止している状態で第1遊星歯車機構7のリングギヤR1と第2遊星歯車機構5のリングギヤR2とにエンジン1から動力が入力される。したがって第1遊星歯車機構7ではサンギヤS1およびこれに連結されている第1ポンプモータ9がリングギヤR1とは反対方向に回転し、また第2遊星歯車機構7ではキャリヤC2がリングギヤR2と同方向に低速で回転する。この状態で、各ポンプモータ9,6の押出容積を次第に大きくすると、先ず、第1ポンプモータ9の回転数が第2ポンプモータ6の回転数より高回転数であることにより第1ポンプモータ9がポンプとして機能し、油圧を発生する。それに伴う反力が第1遊星歯車機構7におけるサンギヤS1に作用するので、キャリヤC1にこれをリングギヤR1と同方向に回転させるトルクが現れる。その結果、第1速ギヤ対14を介してドリブン軸13に動力が伝達される。
上記の第1ポンプモータ9はいわゆる逆回転してポンプとして機能しているから、その吸入口9Sから圧油を吐出し、これが第2ポンプモータ6の吸入口6Sに供給される。その結果、第2ポンプモータ6がモータとして機能し、そのロータ軸6Aからいわゆる正回転方向のトルクが出力され、そのトルクが第3カウンタギヤ対21およびSシンクロ22を介してドリブン軸13に伝達される。すなわち、エンジン1から入力された動力の一部が第1遊星歯車機構7および第1速ギヤ対14を介してドリブン軸13に伝達され、また他の動力が圧油の流動の形にエネルギ変換され、これが第2ポンプモータ6に伝達され、さらにこの第2ポンプモータ6からドリブン軸13に伝達される。このように発進時には、いわゆる機械的な動力伝達と流体を介した動力伝達が行われ、ドリブン軸13にはこれらの動力を合算した動力が出力される。したがってドリブン軸13が出力部材もしくは出力軸となっている。
このような動力の伝達状態では、ドリブン軸13に現れるトルクは、第1速ギヤ対14を介した機械的伝達のみの場合のトルクより大きくなり、したがって変速機の全体としての変速比は、第1速ギヤ対14によって決まるいわゆる固定変速比より大きくなる。また、その変速比は、流体を介した動力の伝達割合に応じて変化する。そのため、第1遊星歯車機構7におけるサンギヤS1およびこれに連結されている第1ポンプモータ9の回転数が次第にゼロに近づくのに従って流体を介した動力伝達の割合が低下し、変速機の全体としての変速比は第1速の固定変速比に近づく。そして、第1ポンプモータ9の押出容積が最大まで増大するとともに第2ポンプモータ6の押出容積が最小もしくはゼロになって閉回路を閉じることにより、第1ポンプモータ9が停止し、固定変速比である第1速となる。
この状態では第2ポンプモータ6が空転するとともに、第1ポンプモータ9がロックされてその回転が止められる。そのため、第1遊星歯車機構7ではサンギヤS1を固定した状態でリングギヤR1に動力が入力されるので、出力要素であるキャリヤC1にはこれをリングギヤR1と同方向に回転させるトルクが生じ、これが第1ドライブ軸10および第1速ギヤ対14を介して、出力軸としてのドリブン軸13に伝達される。こうして固定変速比である第1速が設定される。
この第1速の状態でSシンクロ22をOFF状態に設定すれば、すなわちそのスリーブ22Sを中立位置に設定すれば、第2ポンプモータ6を連れ回すことがないので、いわゆる引き摺りによる動力の損失を回避することができる。また、Sシンクロ22のスリーブ22Sを図1の左側に移動させた状態を維持すれば、第1速より大きい変速比を設定するダウンシフト待機状態となる。これとは反対にSシンクロ22のスリーブ22Sを図1の右側に移動させれば、第2速従動ギヤ15Bがドリブン軸13に連結されるので、固定変速比である第2速へのアップシフト待機状態となる。
第1速から第2速へのアップシフト待機状態では第2ポンプモータ6およびこれに連結されているサンギヤS2がリングギヤR2とは反対の方向に回転している。したがって第2ポンプモータ6の押出容積を正の方向に増大させると、第2ポンプモータ6がポンプとして機能し、それに伴う反力がサンギヤS2に作用する。その結果、リングギヤR2に入力されたトルクとサンギヤS2に作用する反力とを合成したトルクがキャリヤC2に作用し、これが正回転し、かつその回転数が次第に増大する。言い換えれば、エンジン1の回転数が次第に引き下げられる。そのキャリヤC2から第2カウンタギヤ対12および第2ドライブ軸11ならびに第2速ギヤ対15を介してドリブン軸13にトルクが伝達される。
第2ポンプモータ6がポンプとして機能することにより発生した圧油はその吸入口6Sから第1ポンプモータ9の吸入口9Sに供給される。そのため、第1ポンプモータ9がモータとして機能して正回転方向にトルクを出力し、これが第1遊星歯車機構7のサンギヤS1に作用する。第1遊星歯車機構7のリングギヤR1にはエンジン1から動力が入力されているので、そのトルクとサンギヤS1に作用するトルクとが合成されてキャリヤC1から第1ドライブ軸10に出力される。すなわち、油圧を介した動力伝達が、機械的な動力伝達と並行して生じ、ドリブン軸13にはこれらの動力を合算した動力が伝達される。そして、第2ポンプモータ6の回転数が次第に低下することにより、第2遊星歯車機構5および第2速ギヤ対15を介した機械的動力伝達の割合が次第に増大し、変速機の全体としての変速比は、第1速ギヤ対14で決まる変速比から第2速ギヤ対15で決まる変速比に次第に低下する。その変化は、上述した発進後に固定変速比である第1速に変化する場合と同様に、連続的な変化となる。すなわち、無段変速となる。そして、第2ポンプモータ6の押出容積が最大まで増大してその回転が停止することにより、固定変速比である第2速となる。
この状態で第1ポンプモータ9の押出容積がゼロに設定されるので、第1ポンプモータ9が空転するとともに、第2ポンプモータ6がロックされてその回転が止められる。すなわち、各ポンプモータ6,9を連通させている閉回路が第1ポンプモータ9によって閉じられることになるので、押出容積が最大になっている第2ポンプモータ6は圧油を供給および吐出できなくなり、その回転が止められる。その結果、第2遊星歯車機構5のサンギヤS2にはこれを固定するトルクが作用することになる。そのため、第2遊星歯車機構5ではサンギヤS2を固定した状態でリングギヤR2に動力が入力されるので、出力要素であるキャリヤC2にはこれをリングギヤR2と同方向に回転させるトルクが生じ、これが第2カウンタギヤ対12および第2ドライブ軸11ならびに第2速ギヤ対15を介して、出力軸としてのドリブン軸13に伝達される。こうして固定変速比である第2速が設定される。
この第2速の状態で第1シンクロ19をOFF状態に設定すれば、すなわちそのスリーブ19Sを中立位置に設定すれば、第1ポンプモータ9を連れ回すことがないので、いわゆる引き摺りによる動力の損失を回避することができる。また、第1シンクロ19のスリーブ19Sを図1の左側に移動させて第3速従動ギヤ16Bをドリブン軸13に連結すれば、固定変速比である第3速へのアップシフト待機状態となる。一方、第1シンクロ19のスリーブ19Sを図1の右側に移動させて第1速従動ギヤ14Bをドリブン軸13に連結しておけば、第1速へのダウンシフト待機状態となる。
第2速から第3速へのアップシフト待機状態では第1ポンプモータ9およびこれに連結されているサンギヤS1がリングギヤR1とは反対の方向に回転している。したがって第1ポンプモータ9の押出容積を正の方向に増大させると、第1ポンプモータ9がポンプとして機能し、それに伴う反力がサンギヤS1に作用する。その結果、リングギヤR1に入力されたトルクとサンギヤS1に作用する反力とを合成したトルクがキャリヤC1に作用してこれが正回転し、そのトルクが第1ドライブ軸10および第3速ギヤ対16を介して出力軸であるドリブン軸13に伝達される。また、変速比の低下に伴ってエンジン1の回転数が次第に引き下げられる。
第1ポンプモータ9がポンプとして機能することにより発生した圧油はその吸入口9Sから第2ポンプモータ6の吸入口6Sに供給される。そのため、第2ポンプモータ6がモータとして機能して正回転方向にトルクを出力し、これが第2遊星歯車機構5のサンギヤS2に作用する。第2遊星歯車機構5のリングギヤR2にはエンジン1から動力が入力されているので、そのトルクとサンギヤS2に作用するトルクとが合成されてキャリヤC2から第2カウンタギヤ対12を介して第2ドライブ軸11に出力される。すなわち、油圧を介した動力伝達が、機械的な動力伝達と並行して生じ、ドリブン軸13にはこれらの動力を合算した動力が伝達される。そして、第1ポンプモータ9の回転数が次第に低下することにより、第1遊星歯車機構7および第3速ギヤ対16を介した機械的動力伝達の割合が次第に増大し、変速機の全体としての変速比は、第2速ギヤ対15で決まる変速比から第3速ギヤ対16で決まる変速比に次第に低下する。その変化は、上述した発進後に固定変速比である第1速に変化する場合や第1速から第2速にアップシフトする場合と同様に、連続的な変化となる。すなわち、無段変速となる。そして、第2ポンプモータ6の押出容積が最小もしくはゼロになるとともに第1ポンプモータ9の押出容積が最大まで増大してその回転が停止することにより、固定変速比である第3速となる。
この状態で第2ポンプモータ6の押出容積がゼロに設定されるので、第2ポンプモータ6が空転するとともに、第1ポンプモータ9がロックされてその回転が止められる。すなわち、第1遊星歯車機構7ではサンギヤS1を固定した状態でリングギヤR1に動力が入力されるので、出力要素であるキャリヤC1にはこれをリングギヤR1と同方向に回転させるトルクが生じ、これが第1ドライブ軸10および第3速ギヤ対16を介して、出力軸としてのドリブン軸13に伝達される。こうして固定変速比である第3速が設定される。
この第3速の状態で第2シンクロ20をOFF状態に設定すれば、すなわちそのスリーブ20Sを中立位置に設定すれば、第2ポンプモータ6を連れ回すことがないので、いわゆる引き摺りによる動力の損失を回避することができる。またこれは、第2速へのダウンシフト待機状態である。さらに、第2シンクロ20のスリーブ20Sを図1の左側に移動させて第4速従動ギヤ17Bをドリブン軸13に連結すれば、固定変速比である第4速へのアップシフト待機状態となる。
第3速から第4速へのアップシフト待機状態では、第2ポンプモータ6およびこれに連結されているサンギヤS2がリングギヤR2とは反対の方向に回転している。したがって第2ポンプモータ6の押出容積を正の方向に増大させると、第2ポンプモータ6がポンプとして機能し、それに伴う反力がサンギヤS2に作用する。その結果、リングギヤR2に入力されたトルクとサンギヤS2に作用する反力とを合成したトルクがキャリヤC2に作用してこれが正回転し、そのトルクが第2カウンタギヤ対12を介して第2ドライブ軸11に伝達され、さらに第4速ギヤ対17を介して出力軸であるドリブン軸13に伝達される。また、変速比の低下に伴ってエンジン1の回転数が次第に引き下げられる。
第2ポンプモータ6がポンプとして機能することにより発生した圧油はその吸入口6Sから第1ポンプモータ9の吸入口9Sに供給される。そのため、第1ポンプモータ9がモータとして機能して正回転方向にトルクを出力し、これが第1遊星歯車機構7のサンギヤS1に作用する。第1遊星歯車機構7のリングギヤR1にはエンジン1から動力が入力されているので、そのトルクとサンギヤS1に作用するトルクとが合成されてキャリヤC1から第1ドライブ軸10に出力される。すなわち、油圧を介した動力伝達が、機械的な動力伝達と並行して生じ、ドリブン軸13にはこれらの動力を合算した動力が伝達される。そして、第2ポンプモータ6の回転数が次第に低下することにより、第2遊星歯車機構5および第4速ギヤ対17を介した機械的動力伝達の割合が次第に増大し、変速機の全体としての変速比は、第3速ギヤ対16で決まる変速比から第4速ギヤ対17で決まる変速比に次第に低下する。その変化は、上述した各固定変速比の間での変速と同様に、連続的な変化となる。すなわち、無段変速となる。そして、第2ポンプモータ6の押出容積が最大まで増大してその回転が停止することにより、固定変速比である第4速となる。
この状態で第1ポンプモータ9の押出容積がゼロに設定されるので、第1ポンプモータ9が空転するとともに、第2ポンプモータ6がロックされてその回転が止められる。すなわち、各ポンプモータ6,9を連通させている閉回路が第1ポンプモータ9によって閉じられることになるので、押出容積が最大になっている第2ポンプモータ6は圧油を供給および吐出できなくなり、その回転が止められる。その結果、第2遊星歯車機構5のサンギヤS2にはこれを固定するトルクが作用することになる。そのため、第2遊星歯車機構5ではサンギヤS2を固定した状態でリングギヤR2に動力が入力されるので、出力要素であるキャリヤC2にはこれをリングギヤR2と同方向に回転させるトルクが生じ、これが第2カウンタギヤ対12を介して第2ドライブ軸11に伝達され、さらに第4速ギヤ対17を介して、出力軸としてのドリブン軸13に伝達される。こうして固定変速比である第4速が設定される。
この第4速の状態で第1シンクロ19をOFF状態に設定すれば、すなわちそのスリーブ19Sを中立位置に設定すれば、第1ポンプモータ9を連れ回すことがないので、いわゆる引き摺りによる動力の損失を回避することができる。また、第1シンクロ19のスリーブ19Sを図1の左側に移動させて第3速従動ギヤ16Bをドリブン軸13に連結しておけば、第3速へのダウンシフト待機状態となる。
つぎに後進段について説明する。シフトポジションがニュートラルポジションからリバースポジションに切り替えられるなどのことによって後進段を設定する指示が行われると、Sシンクロ22のスリーブ22Sが図1の左側に移動させられて、サンギヤ軸5Aとドリブン軸13、すなわち第2ポンプモータ6のロータ軸6Aとドリブン軸13とが、第3カウンタギヤ対21を介して連結される。すなわち、第2ポンプモータ6のロータ軸6Aから第2ドライブ軸11を経由してドリブン軸13に到る動力伝達経路が形成される。またこれと併せて、第2シンクロ20のスリーブ20Sが図1の右側に移動させられてリバース従動ギヤ18Bがドリブン軸13に連結される。
この状態で第1ポンプモータ9の押出容積を次第に増大させる。また、第2ポンプモータ6の押出容積を、上述した前進段(前進走行)の場合とは反対の負の方向に次第に増大させる。車両が停止している状態ではドリブン軸13は回転していないから、これに連結された第2ポンプモータ6は停止している。これに対して、第1遊星歯車機構7では第1ドライブ軸10に連結されているキャリヤC1が固定されている状態でリングギヤR1にエンジン1の動力が入力されるから、サンギヤS1およびこれに連結されている第1ポンプモータ9がリングギヤR1とは反対方向に回転している。
したがって、第1ポンプモータ9のトルク容量を次第に増大させると、第1ポンプモータ9がポンプとして機能し、油圧を発生する。それに伴う反力がサンギヤS1に作用するので、出力要素であるキャリヤC1にはこれを前進走行時と同方向に回転させるトルクが生じ、これが第1ドライブ軸10に伝達される。この第1ドライブ軸10とドリブン軸13との間に配置されているリバースギヤ対18は、アイドルギヤ18Cを備えているので、第1ドライブ軸10が前進走行時と同方向に回転すると、ドリブン軸13はこれとは反対に方向に回転し、したがって後進走行することになる。
また、第1ポンプモータ9がポンプとして機能して発生した圧油が、その吸入口9Sから第2ポンプモータ6の吸入口6Sに供給される。その第2ポンプモータ6の押出容積は上述したように負側に設定されるから、第2ポンプモータ6は、圧油が吸入口6Sに供給されることにより、前進走行時とは反対方向に回転し、そのトルクが第3カウンタギヤ対21およびSシンクロ22を介してドリブン軸13に伝達される。すなわち、ドリブン軸13には、第1遊星歯車機構7およびリバースギヤ対18を介した機械的な動力伝達と、各ポンプモータ6,9の間のいわゆる流体を介した動力伝達とによって動力が伝達される。
そして、第1ポンプモータ6の押出容積を次第に大きくすることによりその回転数が次第に低下し、それに伴って流体を介した動力伝達の割合が次第に低下するので、変速比はリバースギヤ対18のギヤ比によって決まる変速比に次第に低下する。すなわち、変速比が連続的に変化する。そして、各ポンプモータ6,9の押出容積を最大にすることにより、固定変速比としての後進段が設定される。
この発明に係る上記の変速機では、エンジン1が駆動している状態で少なくともいずれか一方のポンプモータ9,6が回転している。そのため、圧油が加圧され、あるいは剪断作用を受け、また摩擦が生じ、さらには漏洩などの圧力損失が生じるなどのことによって、少なくともいずれか一方のポンプモータ9,6で発熱する。これらのポンプモータ9,6には、リリーフ弁36から排出される圧油が各供給油路42,46を介して供給されるので、その圧油によって熱が奪われてポンプモータ9,6が冷却される。したがって、この発明によれば、リリーフ弁36から排出される圧油を利用して各ポンプモータ9,6を冷却でき、しかもリリーフ弁36の排出口を各ポンプモータ9,6に連通させる程度の構成を追加するだけで既存の機器を利用できるので、全体としての構成を大型化することなくポンプモータ9,6を効率良く冷却できる。
また、各ポンプモータ9,6の発熱量が、変速機の運転状態もしくは設定している変速比によって異なるので、この発明の油圧制御装置は、以下に説明する制御を行うようになっている。すなわち、前述した固定変速比を設定している状態では、一方のポンプモータ9,6がロックされて回転を停止しており、かつ他方のポンプモータ6,9が空転して圧油を撹拌し、また少なからず摩擦が生じている。また、各固定変速比の間のいわゆる中間変速比を設定している場合には、一方のポンプモータ9,6がポンプとして機能して、その押出容積に応じた回転数で回転するとともに油圧を発生し、かつ他方のポンプモータ6,9はその油圧を受けてモータとして機能し、その押出容積に応じた回転数で回転するとともにトルクを出力している。
この状況を固定変速比である第1速と第2速との間の状態で示すと図3のとおりである。第1速では、第2ポンプモータ6の押出容積q2はゼロに設定されており、これに対して第1ポンプモータ9は押出容積q1が最大に設定されている。そして、第2ポンプモータ6は所定の回転数NPM2で空転しており、これに対して第1ポンプモータ9は停止している。すなわち、その回転数NPM1はゼロになっている。
この状態から固定変速比である第2速に向けてアップシフトする場合、前述したように第2ポンプモータ6の押出容積q2を次第に増大させてこれをポンプとして機能させる。その場合、第2ポンプモータ6の押出容積q2が最大になるまで、第1ポンプモータ9の押出容積q1は最大に維持される。なお、第1ポンプモータ9の押出容積q1を、第2ポンプモータ6の押出容積q2と同時に変化させてもよい。第2ポンプモータ6は押出容積q2が増大することに伴ってその回転数NPM2が次第に低下し、これに対して第1ポンプモータ9は第2ポンプモータ6から圧油が供給されてモータとして機能することにより、その回転数NPM1が次第に増大する。このようないわゆる中間変速比での各ポンプモータ9,6の回転数NPM1,NPM2は、下記の式で表される。
なお、ρは各遊星歯車機構7,5のギヤ比(サンギヤの歯数とリングギヤの歯数との比)、κ1は第1速ギヤ対14のギヤ比、κ2は第2速ギヤ対15のギヤ比、γは変速比、Ninは入力部材2の回転数(入力回転数)である。この入力回転数Ninは図示しない入力回転数センサによって検出でき、また変速比γは入力回転数Ninと図示しない出力回転数センサで検出した出力回転数との比として求めることができる。
第2ポンプモータ6の押出容積q2が最大まで増大すると、第1ポンプモータ9の押出容積q1が次第に低下させられ、ついにはゼロまで低下させられる。その過程においても、第2ポンプモータ6の回転数NPM2は低下し続け、また第1ポンプモータ9の回転数NPM1は増大し続ける。そして、それらの回転数NPM1,NPM2は上記の式で表される回転数となる。
このような状況は、第2速と第3速との間、および第3速と第4速との間など、他の変速状態でも同様である。したがって、各ポンプモータ9,6の押出容積q1,q2が等しい場合以外では、それぞれの回転数NPM1,NPM2が異なり、発熱量が異なっている。すなわち、相対的に高回転数のポンプモータ9,6の発熱量が多くなっている。発熱量に応じて冷却量を設定することが好ましいから、必要冷却油量VPM1,VPM2は、上記の回転数NPM1,NPM2と同様の関係になる。
このような回転数NPM1,NPM2と発熱量すなわち必要冷却油量VPM1,VPM2との関係を考慮して、この発明の油圧制御装置は図4に示す制御を行うように構成されている。先ず、シフト位置および各押出容積q1,q2の指令値に基づいて各ポンプモータ9,6の回転数NPM1,NPM2が算出される(ステップS01)。ここで、シフト位置とは、各シンクロ19,20,22の動作状態であって、トルク伝達可能な状態になっているギヤ対14,15,16,17,18を示すものである。また、各押出容積q1,q2と変速比γとは図3に示すように対応しているので、押出容積q1,q2の指令値から変速比を求めることができる。したがって、ステップS01では前述した式に基づいて各回転数NPM1,NPM2が算出される。
ついで、算出された各回転数NPM1,NPM2の大小が比較される(ステップS02)。第1ポンプモータ9の回転数NPM1が第2ポンプモータ6の回転数NPM2より大きいことによりステップS02で肯定的に判断された場合には、第2ポンプモータ6側の流量制御弁47が絞られる(ステップS03)。すなわち、その開度が、第1ポンプモータ9側の流量制御弁43の開度より小さくさせられる。その結果、リリーフ弁36から排出された圧油は第1ポンプモータ9に対して相対的に多量に流され、第2ポンプモータ6に対しては相対的に少量、流される。
一方、ステップS02で否定的に判断された場合には、各回転数NPM1,NPM2が等しいか否かが判断される(ステップS04)。このステップS04で肯定的に判断された場合には、各流量制御弁43,47が共に開放させられる(ステップS05)。言い換えれば、共に等しい開度まで開かれる。その結果、各ポンプモータ9,6には、リリーフ弁36から等しい量の冷却用の圧油が供給される。また、ステップS04で否定的に判断された場合、すなわち第2ポンプモータ6の回転数NPM2が第1ポンプモータ9の回転数NPM1より大きい場合には、第1ポンプモータ9側の流量制御弁43の開度が絞られ(ステップS06)、第1ポンプモータ9に対する冷却油量が相対的に少量に設定される。
このように、この発明の油圧制御装置によれば、回転数として求められた発熱量の多寡に応じて、冷却油量が設定される。そのため、各ポンプモータ9,6を過不足なく冷却することができる。また、必要とする総冷却油量は、各ポンプモータ9,6で必要とする冷却油量VPM1,VPM2の和であり、これを図に示すと図5のとおりである。図5において、一点鎖線で示す各冷却油量VPM1,VPM2の和は実線で示すようになり、これは、常時、最大発熱量を想定して供給するとした場合の冷却油量VMAXに比較して大幅に少量になる。その結果、チャージポンプ32で吐出させるべき油量を少なくできるので、チャージポンプ32を小型化でき、また消費する動力を少なくして効率のよい冷却を行うことができる。
なお、この発明で対象とする無段変速機は、図1に示す構成のものに限定されないのであり、図6に示すように構成した変速機であってもよい。この図6に示す例は、車両に対してその幅方向に向けて搭載するいわゆるFF車(フロントエンジン・フロントドライブ車)に適するように構成した例であり、図1に示す構成とは歯車機構が異なるので、歯車機構について説明し、図1と同様の部分には図1と同様の符号を付してその説明を省略する。
図6において、動力源(E/G)51に入力部材52が連結されており、この入力部材52からこの発明における差動機構に相当する第1遊星歯車機構53および第2遊星歯車機構54にトルクを伝達するように構成されている。
その動力源51は、内燃機関や電気モータあるいはこれらを組み合わせた構成など、車両に使用されている一般的な動力源であってもよい。また、この動力源51と入力部材52との間にダンパーやクラッチ、トルクコンバータなどの適宜の伝動手段を介在させてもよい。
第1遊星歯車機構53が入力部材52と同一軸線上に配置され、第2遊星歯車機構54が第1遊星歯車機構53の半径方向で外側に離隔し、それぞれの中心軸線を平行にした状態で並列に配置されている。これらの遊星歯車機構53,54としては、シングルピニオン型やダブルピニオン型などの適宜の形式の遊星歯車機構を採用することができる。図6に示す例はシングルピニオン型遊星歯車機構によって構成した例であり、外歯歯車であるサンギヤ53S,54Sと、そのサンギヤ53S,54Sと同心円状に配置された、内歯歯車であるリングギヤ53R,54Rと、これらサンギヤ53S,54Sとリングギヤ53R,54Rとに噛み合っているピニオンギヤを自転自在かつ公転自在に保持したキャリヤ53C,54Cとを備えている。そして、第1遊星歯車機構53におけるリングギヤ53Rに前記入力部材52が連結され、このリングギヤ53Rが入力要素となっている。
また、入力部材52にはカウンタドライブギヤ55が取り付けられており、このカウンタドライブギヤ55にアイドルギヤ56が噛み合っているとともに、そのアイドルギヤ56にカウンタドリブンギヤ57が噛み合っている。このカウンタドリブンギヤ57は、前記第2遊星歯車機構54と同一軸線上に配置され、かつ第2遊星歯車機構54のリングギヤ54Rに、一体となって回転するように連結されている。したがって、第2遊星歯車機構54においては、そのリングギヤ54Rが入力要素となっている。各遊星歯車機構53,54の入力要素であるリングギヤ53R,54Rは、カウンタギヤ対がアイドルギヤ56を備えた構成であるから、同方向に回転するようになっている。
第1遊星歯車機構53におけるキャリヤ53Cは出力要素となっており、そのキャリヤ53Cに第1中間軸58が、一体になって回転するように連結されている。この第1中間軸58は中空軸であって、その内部をモータ軸59が回転自在に挿入されており、このモータ軸59の一端部が、第1遊星歯車機構53における反力要素であるサンギヤ53Sに、一体となって回転するように連結されている。
第2遊星歯車機構54も同様な構成であって、そのキャリヤ54Cが出力要素となっており、そのキャリヤ54Cに第2中間軸60が、一体になって回転するように連結されている。この第2中間軸60は中空軸であって、その内部をモータ軸61が回転自在に挿入されており、このモータ軸61の一端部が、第2遊星歯車機構54における反力要素であるサンギヤ54Sに、一体となって回転するように連結されている。
上記のモータ軸59の他方の端部が可変容量型ポンプモータ62の出力軸に連結されている。この可変容量型ポンプモータ62は、斜軸ポンプや斜板ポンプあるいはラジアルピストンポンプなどの吐出容量を変更可能な流体圧(油圧)ポンプであって、その出力軸にトルクを与えて回転させることによりポンプとして機能して圧力流体(圧油)を吐出し、また吐出口もしくは吸入口から圧力流体を供給することにより、モータとして機能するようになっている。なお、この可変容量型ポンプモータ62を以下の説明では、第1ポンプモータ62と記し、図にはPM1と表示する。
また一方、モータ軸61の他方の端部が、可変容量型ポンプモータ63の出力軸に連結されている。この可変容量型ポンプモータ63は、前記モータ軸59側の第1ポンプモータ62と同様の構成のものである。なお、この可変容量型ポンプモータ63を以下の説明では、第2ポンプモータ63と記し、図にはPM2と表示する。
各ポンプモータ62,63は、圧力流体である圧油を相互に受け渡すことができるように、油路64,65によって連通されている。すなわち、それぞれの吸入口62S,63S同士が油路64によって連通され、また低圧ポート62D,63D同士が油路65によって連通されている。したがって各油路64,65によって閉回路が形成されている。
上記の各中間軸58,60と平行に、この発明の出力部材に相当する出力軸66が配置されている。そして、この出力軸66と各中間軸58,60との間のそれぞれに、所定の変速比を設定する伝動機構が設けられている。この発明における伝動機構としては、固定された変速比で動力を伝達する機構に限らず、変速比が可変な機構を採用することができ、図1に示す例では、固定された変速比で動力を伝達する複数のギヤ対67,68,69,70が採用されている。
具体的に説明すると、前記第1中間軸58には、第1遊星歯車機構53側から順に、第4速駆動ギヤ67Aと第2速駆動ギヤ68Aとが配置されており、第4速駆動ギヤ67Aと第2速駆動ギヤ68Aとは第1中間軸58に対して回転自在に嵌合している。その第4速駆動ギヤ67Aに噛み合っている第4速従動ギヤ67Bと、第2速駆動ギヤ68Aに噛み合っている第2速従動ギヤ68Bとが、出力軸66に一体回転するように取り付けられている。
さらに、上記の第4速従動ギヤ67Bに噛み合っている第3速駆動ギヤ69Aと、第2速従動ギヤ68Bに噛み合っている第1速駆動ギヤ70Aとが、第2中間軸60に回転自在に嵌合させられている。したがって、第4速従動ギヤ67Bが第3速従動ギヤを兼ねており、また第2速従動ギヤ68Bが第1速従動ギヤを兼ねている。ここで、各ギヤ対67,68,69,70の変速比(それぞれの駆動ギヤの歯数に対する従動ギヤの歯数の比)について説明すると、その変速比は、第1速用ギヤ対70、第2速用ギヤ対68、第3速用ギヤ対69、第4速用ギヤ対67の順に小さくなるように構成されている。
さらに、発進用ギヤ対71が設けられている。この発進用ギヤ対71は、第1速用ギヤ対70と併せて出力軸66に動力を伝達することにより、発進時の駆動力を必要十分に大きくするためのものであって、前記第1ポンプモータ62側のモータ軸59に取り付けられた発進駆動ギヤ71Aと、出力軸66に回転自在に取り付けられた発進従動ギヤ71Bとを備えている。
上述した各ギヤ対67,68,69,70,71を、いずれかの中間軸58,60と出力軸66との間でトルク伝達可能な状態とするためのクラッチ機構が設けられている。このクラッチ機構は、要は、選択的にトルクを伝達する機構であって、従来知られているドグクラッチ機構や同期連結機構(シンクロナイザー)などの機構を採用することができ、図6にはシンクロナイザーを採用した例を示してある。
シンクロナイザーは、基本的には、回転軸と共に回転するスリーブを軸線方向に移動させて、その回転軸に対して相対回転するように取り付けられた回転部材のスプラインに係合させ、その過程でシンクロナイザーリングが回転部材に次第に摩擦接触することにより回転軸と回転部材とを同期させることにより、回転軸と回転部材とを連結するように構成されている。前記出力軸66上で、発進従動ギヤ71Bに隣接する位置に第1のシンクロナイザー(以下、第1シンクロと記す)72が設けられている。この第1シンクロ72は、そのスリーブを図1の左側に移動させることにより、発進従動ギヤ71Bを出力軸66に連結し、発進用ギヤ対71がモータ軸59と出力軸66との間でトルクを伝達するように構成されている。
また、前記第2中間軸60上で、第3速駆動ギヤ69Aと第1速駆動ギヤ70Aとの間に第2のシンクロナイザー(以下、第2シンクロと記す)73が設けられている。この第2シンクロ73は、そのスリーブを図1の左側に移動させることにより、第1速駆動ギヤ70Aを第2中間軸60に連結し、第1速用ギヤ対70が第2中間軸60と出力軸66との間でトルクを伝達するように構成されている。また、反対にそのスリーブを図6の右側に移動させることにより、第3速駆動ギヤ69Aを第2中間軸60に連結し、第3速用ギヤ対69が第2中間軸60と出力軸66との間でトルクを伝達するように構成されている。
さらに、前記第1中間軸58上で、第2速駆動ギヤ68Aと第4速駆動ギヤ67Aとの間に第3のシンクロナイザー(以下、第3シンクロと記す)74が設けられている。この第3シンクロ74は、そのスリーブを図1の左側に移動させることにより、第2速駆動ギヤ68Aを第1中間軸58に連結し、第2速用ギヤ対68が第1中間軸58と出力軸66との間でトルクを伝達するように構成されている。また、反対にそのスリーブを図1の右側に移動させることにより、第4速駆動ギヤ67Aを第1中間軸58に連結し、第4速用ギヤ対67が第1中間軸58と出力軸66との間でトルクを伝達するように構成されている。
またさらに、第2ポンプモータ63側のモータ軸61上で、第2中間軸60の軸端に隣接する位置に後進用のシンクロナイザー(以下、Rシンクロと記す)75が設けられている。このRシンクロ75は、そのスリーブを図1の右側に移動させることにより、モータ軸61と第2中間軸60、すなわち第2遊星歯車機構54におけるサンギヤ54Sとキャリヤ54Cとを連結して、第2遊星歯車機構54の全体を一体回転させるように構成されている。
上記の各シンクロ72,73,74,75は、手動操作によって切り替え動作するように構成することができるが、これに替えていわゆる自動制御するように構成することもできる。その場合は、例えば前述したスリーブを軸線方向に移動させる適宜のアクチュエータ(図示せず)を設け、そのアクチュエータを電気的に制御するように構成すればよい。
上述したように、図6に示す変速機は、動力源51が出力したトルクが、いずれかの中間軸58,60もしくはモータ軸59,61を介して出力軸66に伝達されるように構成されている。そして、その出力軸66には、歯車機構あるいはチェーンなどの巻き掛け伝動機構などの伝動手段79を介してデファレンシャル80が連結され、ここから左右の車軸81に動力を出力するようになっている。そして、各ポンプモータ62,63についての油圧回路は、前述した図1に示す例と同様に構成されている。
図6に示す構成であっても、各ポンプモータ62,63の間での油圧を介した動力伝達を併用することにより、固定変速比として前進4段・後進1段の変速比を無段階に設定することができる。なお、その場合の各シンクロ72,73,74,75および各ポンプモータ62,63の押出容積の設定は、前述した図1に示す例とほぼ同様であるから、その詳細な説明は省略する。そして、各ポンプモータ62,63の冷却は、図4を参照して説明したように、発熱量を回転数に基づいて推定し、その推定された発熱量に応じて冷却油量が制御されて実行される。
上述した例では、冷却油量を二つの流量制御弁43,47で制御するように構成したが、この発明では、一つの流量制御弁で冷却油量を制御するように構成することができる。その例を図7に示してあり、図6に示す流量制御弁43,47のうちの一方、例えば第2ポンプモータ63側の流量制御弁47が、固定オリフィス82に置き換えられている。したがって、第1ポンプモータ62側の流量制御弁43によって第1ポンプモータ62側の冷却油量を増減することにより、それに合わせて第2ポンプモータ62側の冷却油量が減少し、あるいは増大するようになっている。
この図7に示す変速機を対象とした冷却油量の制御の一例を図8に示してある。この図8に示す制御例は、流量制御弁43の開度を固定オリフィス82の開度を基準に大小に制御する点で図4に示す制御例とは異なり、他の制御内容は図4に示す制御例と同様である。すなわち、読み込んだシフト位置および各押出容積q1,q2に基づいて各ポンプモータ62,63の回転数NPM1,NPM2が算出され(ステップS11)、その大小が比較される(ステップS12)。第1ポンプモータ62の回転数NPM1が第2ポンプモータ6の回転数NPM2より大きい場合には、第1ポンプモータ62における発熱量が多いことが推定されるので、流量制御弁43の開度が固定オリフィス82の開度より大きくなるように開放される(ステップS13)。すなわち、第1ポンプモータ62側の冷却油量が増大させられる。
これに対してステップS12で否定的に判断された場合には、各回転数NPM1,NPM2が等しいか否かが判断される(ステップS14)。このステップS14で肯定的に判断された場合には、流量制御弁43の開度が固定オリフィス82の開度とほぼ等しい開度に設定される(ステップS15)。すなわち、各ポンプモータ62,63に対する冷却油量が等しくなる。さらに、第2ポンプモータ63の回転数NPM2が相対的に総回転数であることによりステップS14で否定的に判断された場合には、流量制御弁43の開度が固定オリフィス82の開度より小さくなるように絞られる(ステップS16)。すなわち、第2ポンプモータ63側への冷却油量が相対的に多くなるように制御される。
このように制御した場合であっても、回転数として求められた発熱量の多寡に応じて、冷却油量が設定される。そのため、各ポンプモータ62,63を過不足なく冷却することができる。また、必要とする総冷却油量を相対的に少量にして、チャージポンプ32で吐出させるべき油量を少なくできるので、チャージポンプ32を小型化でき、また消費する動力を少なくして効率のよい冷却を行うことができる。
上述した各具体例では、冷却用流体としての圧油を優先的に供給する態様として、流量を多くする例を示したが、この発明では、各ポンプモータ62,63における冷却用の油路を直列に連通させ、冷却用の圧油を流す順序もしくは方向を制御して優先的な供給もしくは冷却を行うように構成することができる。その例を図9に示してある。ここに示す例は、上記の図6に示す構成における流量制御弁43,47を方向切換弁83に置き換え、かつ各ポンプモータ62,63におけるリターン油路44,48同士を連通させた例である。なお、その方向切換弁83は、第1ポンプモータ62側の供給油路42をリリーフ弁36に連通させ、かつ第2ポンプモータ63側の供給油路46を油溜め45に連通させた状態と、これとは反対に第1ポンプモータ62側の供給油路42を油溜め45に連通させ、かつ第2ポンプモータ63側の供給油路46をリリーフ弁36に連通させた状態とに切り換えるようになっている。すなわち、リリーフ弁36から排出された圧油が、第1ポンプモータ62を経て第2ポンプモータ63に流れ、その後に油溜め45に戻る状態と、第2ポンプモータ63を経て第1ポンプモータ62に流れ、その後に油溜め45に戻る状態とを切り換えて設定できるように構成されている。他の構成は、図6もしくは図7に示す構成と同様であるから、図9に図6もしくは図7と同様の符号を付してその説明を省略する。
図9に示す変速機を対象とした各ポンプモータ62,63の冷却のための制御例を図10に示してある。先ず、読み込んだシフト位置および各ポンプモータ62,63の押出容積q1,q2の指令値に基づいて各ポンプモータ62,63の回転数NPM1,NPM2が算出され(ステップS21)、ついでこれらの回転数NPM1,NPM2の大小が比較される(ステップS22)。これらステップS21およびステップS22の制御は、前述した図4に示すステップS01およびステップS02、ならびに図8に示すステップS11およびステップS12と同様の制御である。
第1ポンプモータ62の回転数NPM1が第2ポンプモータ63の回転数NPM2以上であることによりステップS22で肯定的に判断された場合には、チャージポンプ32から排出された冷却用の圧油が、第1ポンプモータ62に送られ、その後に第2ポンプモータ63に向けて流れるように方向切換弁83が操作される(ステップS23)。したがって、未だ熱を吸収していないことにより温度の低い圧油が第1ポンプモータ62に先に供給され、ここで温度の上昇した圧油が第2ポンプモータ63に送られるので、回転数NPM1の高いことにより発熱量が多いと推定される第1ポンプモータ62が優先的に冷却される。これとは反対にステップS22で否定的に判断された場合には、第2ポンプモータ63の回転数NPM2が相対的に高回転数であって発熱量が多いと推定されるので、チャージポンプ32から排出された冷却用の圧油が、第2ポンプモータ63に送られ、その後に第1ポンプモータ62に向けて流れるように方向切換弁83が操作される(ステップS24)。したがって、未だ熱を吸収していないことにより温度の低い圧油が第2ポンプモータ63に先に供給され、ここで温度の上昇した圧油が第1ポンプモータ62に送られるので、回転数NPM2の高いことにより発熱量が多いと推定される第2ポンプモータ63が優先的に冷却される。
したがって、図10に示す制御によれば、冷却油量を多くしなくても、発熱量が多いことが推定されるポンプモータ62,63に対しては、温度の低い圧油が優先的に供給されるので、ポンプモータ62,63を確実に冷却することができ、また冷却油量を過剰に多くすることがないので、冷却のために消費するエネルギを抑制して冷却効率を向上させることができ、また冷却のための機器を小型化することができる。
前述したように、この発明では発熱量の多いことが推定されるポンプモータ62,63を優先的に冷却するように構成されている。その発熱量の多寡は、上述した各具体例では回転数NPM1,NPM2に基づいて推定しているが、発熱量はポンプモータ62,63に入力された動力の損失に応じて多くなるので、この発明では、ポンプモータ62,63の効率に基づいて発熱量の多寡を推定することとしてもよい。その例を図11に示してある。
先ず、ポンプモータ62,63の押出容積q1,q2の指令値、エンジントルク、入力回転数、シフト位置、油温などのデータが読み込まれ、これらのデータに基づいて、効率ηを算出するための各押出容積q1,q2、負荷油圧P、回転数NPM1,NPM2、油温Tが求められる(ステップS31)。ついで、ポンプモータ効率ηが算出される(ステップS32)。ポンプモータ62,63がポンプとして動作した場合の効率ηpおよびモータとして動作した場合の効率ηmは、押出容積q、油温T、回転数N、ならびに負荷油圧Pに応じて変化するので、これらのパラメータと効率との関係を予めマップとして用意しておくことができる。そのマップの例を図12に模式的に示してあり、図12の左側のマップがポンプ効率を示し、右側のマップがモータ効率を示している。したがって、ステップS32ではこのようにマップを利用して効率ηを求めることができる。
ステップS32で求められた各ポンプモータ62,63の効率が比較される(ステップS33)。第1ポンプモータ(PM1)62の効率が第2ポンプモータ(PM2)63の効率以上であることによりステップS33で肯定的に判断された場合には、効率の低い第2ポンプモータ63の発熱量が多いことが推定されるので、チャージポンプ32から排出された冷却用の圧油が、第2ポンプモータ63に送られ、その後に第1ポンプモータ62に向けて流れるように方向切換弁83が操作される(ステップS34)。したがって、未だ熱を吸収していないことにより温度の低い圧油が第2ポンプモータ63に先に供給され、ここで温度の上昇した圧油が第1ポンプモータ62に送られるので、効率が低いことにより発熱量が多いと推定される第2ポンプモータ63が優先的に冷却される。
これとは反対に第1ポンプモータ62の効率が第2ポンプモータ63の効率より低いことによりステップS33で否定的に判断された場合には、第1ポンプモータ62の発熱量が多いことが推定されるので、チャージポンプ32から排出された冷却用の圧油が、第1ポンプモータ62に送られ、その後に第2ポンプモータ63に向けて流れるように方向切換弁83が操作される(ステップS35)。したがって、未だ熱を吸収していないことにより温度の低い圧油が第2ポンプモータ63に先に供給され、ここで温度の上昇した圧油が第1ポンプモータ62に送られるので、効率が低いことにより発熱量が多いと推定される第2ポンプモータ63が優先的に冷却される。
したがって、図11に示すように制御した場合であっても、前述した図10に示す制御例と同様に、冷却油量を多くしなくても、発熱量が多いことが推定されるポンプモータ62,63に対しては、温度の低い圧油が優先的に供給されるので、ポンプモータ62,63を確実に冷却することができる。また、冷却油量を過剰に多くすることがないので、冷却のために消費するエネルギを抑制して冷却効率を向上させることができ、また冷却のための機器を小型化することができる。
ここで、上記の各具体例とこの発明との関係を簡単に説明すると、上述した各ポンプモータ9,6,62,63がこの発明の油圧ポンプもしくは油圧モータに相当し、また供給油路42およびリターン油路48ならびに流量制御弁43,47や固定オリフィス82あるいは方向切換弁83が、この発明の冷却流体回路に相当する。一方、図4に示すステップS02およびステップS04、図8に示すステップS12およびステップS14、図10に示すステップS22、ならびに図11に示すステップS33の各制御を実行する機能的手段が、この発明の発熱推定手段に相当する。さらに、流量制御弁43,47や方向切換弁83あるいはこれらを制御する電子制御装置39が、この発明の回路切換手段に相当する。
なお、この発明は上述した各具体例に限定されないのであって、対象とする無段変速機は、要は、流体を介した動力伝達を行い、その伝達されるトルクを無段階に変化させることのできる変速機であればよい。したがって、可変容量型の流体圧ポンプもしくはモータを、差動機構に対する反力機構として使用する構成に替えて、動力源をこれらの可変容量型流体圧ポンプもしくはモータに直接連結し、かつその出力を伝動機構もしくは出力部材に直接伝達するように構成したいわゆるHST(ハイドロスタティックトランスミッション)を対象とする油圧制御装置にもこの発明を適用できる。また、この発明における発熱量の推定は、上述した回転数に基づく推定および効率に基づく推定に限られないのであって、必要に応じて適宜のデータに基づいて推定することができる。さらに、この発明における優先的な冷却は、冷却用流体の流量を多くすることや供給順序を先にすることに限られないのであって、要は、単位時間あたりの熱交換量が多くなるように冷却するものであればよい。そして、この発明で無段変速機により固定変速比を設定する場合、その段数は前進4段・後進1段に限られないのであり、それより多くてもよく、あるいは反対に少なくてもよい。
1,51…動力源(E/G)、 2,52…入力部材、 7,53…第1遊星歯車機構、 5,54…第2遊星歯車機構、 9,62…可変容量型ポンプモータ(第1ポンプモータ)、 6,63…可変容量型ポンプモータ(第2ポンプモータ)、 13…ドリブン軸、 14,15,16,17,18,67,68,69,70,71…ギヤ対、 19,72…第1のシンクロナイザー(第1シンクロ)、 20,73…第2のシンクロナイザー(第2シンクロ)、 22…スタートシンクロナイザー(Sシンクロ)、 32…チャージポンプ、 36…リリーフ弁(チャージ圧制御弁)、 39…電子制御装置(ECU)、 42,46…供給油路、 43,47…流量制御弁、 44,48…リターン油路、 66…出力軸、 74…第3のシンクロナイザー(第3シンクロ)、 75…リバースシンクロナイザー(Rシンクロ)、 82…固定オリフィス、 83…方向切換弁。