つぎにこの発明を具体例に基づいて説明する。図1に示す例は、車両用の変速機として構成した例であり、流体を介さずにトルクを伝達して設定できるいわゆる固定変速比として四つの前進段および一つの後進段を設定するように構成した例である。すなわち、動力源(E/G)1に入力部材2が連結されており、この入力部材2からこの発明における差動機構に相当する第1遊星歯車機構3および第2遊星歯車機構4にトルクを伝達するように構成されている。
その動力源1は、内燃機関や電気モータあるいはこれらを組み合わせた構成など、車両に使用されている一般的な動力源であってよい。また、この動力源1と入力部材2との間にダンパーやクラッチ、トルクコンバータなどの適宜の伝動手段を介在させてもよい。
第1遊星歯車機構3が入力部材2と同一軸線上に配置され、第2遊星歯車機構4が第1遊星歯車機構3の半径方向で外側に離隔し、それぞれの中心軸線を平行にした状態で並列に配置されている。これらの遊星歯車機構3,4はこの発明の差動機構に相当し、シングルピニオン型やダブルピニオン型などの適宜の形式の遊星歯車機構を用いることができる。図1に示す例はシングルピニオン型遊星歯車機構によって構成した例であり、外歯歯車であるサンギヤ3S,4Sと、そのサンギヤ3S,4Sと同心円状に配置された、内歯歯車であるリングギヤ3R,4Rと、これらサンギヤ3S,4Sとリングギヤ3R,4Rとに噛み合っているピニオンギヤを自転自在かつ公転自在に保持したキャリヤ3C,4Cとを備えている。そして、第1遊星歯車機構3におけるリングギヤ3Rに前記入力部材2が連結され、このリングギヤ3Rが入力要素となっている。
また、入力部材2にはカウンタドライブギヤ5が取り付けられており、このカウンタドライブギヤ5にアイドルギヤ6が噛み合っているとともに、そのアイドルギヤ6にカウンタドリブンギヤ7が噛み合っている。このカウンタドリブンギヤ7は、前記第2遊星歯車機構4と同一軸線上に配置され、かつ第2遊星歯車機構4のリングギヤ4Rに、一体となって回転するように連結されている。したがって、第2遊星歯車機構4においては、そのリングギヤ4Rが入力要素となっている。各遊星歯車機構3,4の入力要素であるリングギヤ3R,4Rは、カウンタギヤ対がアイドルギヤ6を備えた構成であるから、同方向に回転するようになっている。
第1遊星歯車機構3におけるキャリヤ3Cは出力要素となっており、そのキャリヤ3Cにこの発明における回転軸に相当する第1中間軸8が、一体になって回転するように連結されている。この第1中間軸8は中空軸であって、その内部をモータ軸9が回転自在に挿入されており、このモータ軸9の一端部が、第1遊星歯車機構3における反力要素であるサンギヤ3Sに、一体となって回転するように連結されている。
第2遊星歯車機構4も同様な構成であって、そのキャリヤ4Cが出力要素となっており、そのキャリヤ4Cにこの発明の回転軸に相当する第2中間軸10が、一体になって回転するように連結されている。この第2中間軸10は中空軸であって、その内部をモータ軸11が回転自在に挿入されており、このモータ軸11の一端部が、第2遊星歯車機構4における反力要素であるサンギヤ4Sに、一体となって回転するように連結されている。
上記のモータ軸9の他方の端部が可変容量型ポンプモータ12の出力軸に連結されている。この可変容量型ポンプモータ12は、斜軸ポンプや斜板ポンプあるいはラジアルピストンポンプなどの吐出容量を変更可能な流体圧(油圧)ポンプであって、その出力軸にトルクを与えて回転させることによりポンプとして機能して圧力流体(圧油)を吐出し、また吐出口もしくは吸入口から圧力流体を供給することにより、モータとして機能するようになっている。なお、この可変容量型ポンプモータ12を以下の説明では、第1ポンプモータ12と記し、図にはPM1と表示する。
また、モータ軸11の他方の端部が、可変容量型ポンプモータ13の出力軸に連結されている。この可変容量型ポンプモータ13は、前記モータ軸9側の第1ポンプモータ12と同様の構成のものであり、したがって斜軸ポンプや斜板ポンプあるいはラジアルピストンポンプなどの吐出容量を変更可能な流体圧(油圧)ポンプを採用することができる。なお、この可変容量型ポンプモータ13を以下の説明では、第2ポンプモータ13と記し、図にはPM2と表示する。
各ポンプモータ12,13は、圧力流体である圧油を相互に受け渡すことができるように、油路14,15によって連通されている。すなわち、それぞれの吸入ポート12S,13S同士が油路14によって連通され、また吐出ポート12D,13D同士が油路15によって連通されている。したがって各油路14,15によって閉回路が形成されている。この閉回路での油圧制御のための機構については後述する。
上記の各中間軸8,10と平行に、この発明の出力部材に相当する出力軸16が配置されている。そして、この出力軸16と各中間軸8,10との間のそれぞれに、所定の変速比を設定する伝動機構が設けられている。この発明における伝動機構としては、固定された回転数比(変速比)で動力を伝達する機構に限らず、変速比が可変な機構を採用することができ、図1に示す例では、固定された変速比で動力を伝達する複数のギヤ対17,18,19,20が採用されている。
具体的に説明すると、前記第1中間軸8には、第1遊星歯車機構3側から順に、第4速駆動ギヤ17Aと第2速駆動ギヤ18Aとが配置されており、第4速駆動ギヤ17Aと第2速駆動ギヤ18Aとは第1中間軸8に対して回転自在に嵌合している。その第4速駆動ギヤ17Aに噛み合っている第4速従動ギヤ17Bと、第2速駆動ギヤ18Aに噛み合っている第2速従動ギヤ18Bとが、出力軸16に一体回転するように取り付けられている。
さらに、上記の第4速従動ギヤ17Bに噛み合っている第3速駆動ギヤ19Aと、第2速従動ギヤ18Bに噛み合っている第1速駆動ギヤ20Aとが、第2中間軸10に回転自在に嵌合させられている。したがって、第4速従動ギヤ17Bが第3速従動ギヤを兼ねており、また第2速従動ギヤ18Bが第1速従動ギヤを兼ねている。ここで、各ギヤ対17,18,19,20の回転数比もしくは変速比(それぞれの駆動ギヤの歯数に対する従動ギヤの歯数の比)について説明すると、その回転数比は、第1速用ギヤ対20、第2速用ギヤ対18、第3速用ギヤ対19、第4速用ギヤ対17の順に小さくなるように構成されている。
さらに、発進用ギヤ対21が設けられている。この発進用ギヤ対21は、第1速用ギヤ対20と併せて出力軸16に動力を伝達することにより、発進時の駆動力を必要十分に大きくするためのものであって、前記第1ポンプモータ12側のモータ軸9に取り付けられた発進駆動ギヤ21Aと、出力軸16に回転自在に取り付けられた発進従動ギヤ21Bとを備えている。
上述した各ギヤ対17,18,19,20,21を、いずれかの中間軸8,10と出力軸16との間でトルク伝達可能な状態とするためのクラッチ機構が設けられている。このクラッチ機構は、要は、選択的にトルクを伝達する機構であって、従来知られているドグクラッチ機構や同期連結機構(シンクロナイザー)などの機構を採用することができ、図1にはシンクロナイザーを採用した例を示してある。
シンクロナイザーは、基本的には、回転軸と共に回転するスリーブと、その回転軸に対して相対回転する他の回転部材に設けられたスプラインと、前記スリーブに押されて他の回転部材側に移動するシンクロナイザーリングとを有している。そして、スリーブを他の回転部材のスプライン側に移動させる過程でシンクロナイザーリングが回転部材に次第に摩擦接触することにより回転軸と回転部材とを同期させ、その状態でスリーブがスプラインに係合することにより、回転軸と回転部材とを連結するように構成されている。前記出力軸16上で、発進従動ギヤ21Bに隣接する位置に第1のシンクロナイザー(以下、第1シンクロと記す)22が設けられている。この第1シンクロ22は、そのスリーブを図1の左側に移動させることにより、発進従動ギヤ21Bを出力軸16に連結し、発進用ギヤ対21がモータ軸9と出力軸16との間でトルクを伝達するように構成されている。
また、前記第2中間軸10上で、第3速駆動ギヤ19Aと第1速駆動ギヤ20Aとの間に第2のシンクロナイザー(以下、第2シンクロと記す)23が設けられている。この第2シンクロ23は、そのスリーブを図1の左側に移動させることにより、第1速駆動ギヤ20Aを第2中間軸10に連結し、第1速用ギヤ対20が第2中間軸10と出力軸16との間でトルクを伝達するように構成されている。また、反対にそのスリーブを図1の右側に移動させることにより、第3速駆動ギヤ19Aを第2中間軸10に連結し、第3速用ギヤ対19が第2中間軸10と出力軸16との間でトルクを伝達するように構成されている。
さらに、前記第1中間軸8上で、第2速駆動ギヤ18Aと第4速駆動ギヤ17Aとの間に第3のシンクロナイザー(以下、第3シンクロと記す)24が設けられている。この第3シンクロ24は、そのスリーブを図1の左側に移動させることにより、第2速駆動ギヤ18Aを第1中間軸8に連結し、第2速用ギヤ対18が第1中間軸8と出力軸16との間でトルクを伝達するように構成されている。また、反対にそのスリーブを図1の右側に移動させることにより、第4速駆動ギヤ17Aを第1中間軸8に連結し、第4速用ギヤ対17が第1中間軸8と出力軸16との間でトルクを伝達するように構成されている。
またさらに、第2ポンプモータ13側のモータ軸11上で、第2中間軸10の軸端に隣接する位置に後進用のシンクロナイザー(以下、Rシンクロと記す)25が設けられている。このRシンクロ25は、そのスリーブを図1の右側に移動させることにより、モータ軸11と第2中間軸10、すなわち第2遊星歯車機構4におけるサンギヤ4Sとキャリヤ4Cとを連結して、第2遊星歯車機構4の全体を一体回転させるように構成されている。
上記の各シンクロ22,23,24,25は、手動操作によって切り替え動作するように構成することができるが、これに替えていわゆる自動制御するように構成することもできる。その場合は、例えば前述したスリーブを軸線方向に移動させる適宜のアクチュエータ(図示せず)を設け、そのアクチュエータを電気的に制御するように構成すればよい。
上述したように、図1に示す変速機は、動力源1が出力したトルクが、各いずれかの中間軸8,10もしくはモータ軸9,11を介して出力軸16に伝達されるように構成されている。そして、その出力軸16には、歯車機構あるいはチェーンなどの巻き掛け伝動機構などの伝動手段29を介してデファレンシャル30が連結され、ここから左右の車軸31に動力を出力するようになっている。
さらに、変速機の動作状態を検出するためのセンサが設けられている。具体的には、前述した入力部材2もしくはこれと一体のカウンタドライブギヤ5の回転数Ninを検出する入力回転数センサ32、前記車軸31の回転数Noutを検出する出力回転数センサ33、第1ポンプモータ12の回転数NPM1を検出する回転数センサ34、第2ポンプモータ13の回転数NPM2を検出する回転数センサ35などが設けられている。
つぎに、上記の各ポンプモータ12,13を制御するための流体圧回路(油圧回路)について説明する。各ポンプモータ12,13を連通させている前記閉回路14,15には流体(具体的にはオイル)を補給するためのチャージポンプ(ブーストポンプと称されることもある)36が設けられている。このチャージポンプ36は、上記の閉回路からの漏れなどによるオイルの不足を補うためのものであって、前述した動力源1や図示しないモータなどによって駆動されて、オイルパン37からオイルを汲み上げて閉回路に供給するようになっている。
そのチャージポンプ36の吐出口は、前記閉回路における油路14と油路15とにそれぞれチェック弁38,39を介して連通されている。なお、これらのチェック弁38,39は、チャージポンプ36からの吐出方向に開き、これとは反対方向に閉じるように構成されている。さらに、チャージポンプ36の吐出圧を調整するためのリリーフ弁40が、チャージポンプ36の吐出口に連通されている。このリリーフ弁40は、スプリングによる弾性力とパイロット圧もしくはソレノイドによる押圧力との和より高い圧力が作用した場合に開いてオイルをオイルパン37に排出するように構成されており、したがってチャージポンプ36の吐出圧をパイロット圧に応じた圧力に設定するように構成されている。
さらに、第1ポンプモータ12の吸入ポート12Sと油路15との間に、リリーフ弁41が設けられている。言い換えれば、第1ポンプモータ12と並列に、各油路14,15を連通させるようにリリーフ弁41が設けられている。このリリーフ弁41は、第1ポンプモータ12の吸入ポート12S、または第2ポンプモータ13の吸入ポート13Sから圧油を吐出する場合に、その吐出圧を予め設定した圧力に維持するように構成されている。また、第2ポンプモータ13の吐出ポート13Dと油路14との間に、リリーフ弁42が設けられている。言い換えれば、第2ポンプモータ13と並列に、各油路14,15を連通させるようにリリーフ弁42が設けられている。このリリーフ弁42は、第2ポンプモータ13の吐出ポート13D、または第1ポンプモータ12の吐出ポート12Dから圧油を吐出する場合に、その吐出圧を予め設定した圧力に維持するように構成されている。
上記の各ポンプモータ12,13の押出容積や各シンクロ22,23,24,25を電気的に制御できるように構成されており、そのための電子制御装置(ECU)43が設けられている。この電子制御装置43は、マイクロコンピュータを主体にして構成されたものであって、所定の回転部材の回転数や他の検出信号が入力され、それらの入力された信号および予め記憶している情報ならびにプログラムに基づいて演算を行い、その演算結果に応じて指令信号を出力するように構成されている。
さらに、シフト装置44が設けられている。このシフト装置44は、停止(P:パーキング)、後退(R:リバース)、ニュートラル(N)、前進(D:ドライブ)、手動(M:マニュアル)などのポジションと、アップシフトおよびダウンシフトの選択、もしくは第1速から第7速などの個別の変速比の選択を手動操作によって行うように構成されている。例えば、シフトレバー45を図示しないガイド溝に沿って移動させることにより各ポジションを選択し、また手動ポジションからここを中心にした左右もしくは前後のいずれかにシフトレバー45を移動させることにより、1段アップシフトさせるアップシフト信号と1段ダウンシフトさせるダウンシフト信号とを出力するように構成されている。あるいは、第1速ないし第7速の各ポジションが設けられ、それらのいわゆる変速段ポジションにシフトレバー45を移動させることにより、それぞれの変速段(変速比)を指示する信号を出力するように構成されている。したがって、シフト装置44は前記電子制御装置43に電気的に接続されている。そして、このシフト装置44がこの発明の変速指示手段に相当し、アップシフトおよびダウンシフトを選択的に指示し、あるいは隣接する高速側の所定の変速比あるいは隣接する低速側の所定の変速比を直接指示するようになっている。
つぎに、上述した動力伝達装置の作用について説明する。図2は、各変速段を設定する際の各ポンプモータ(PM1,PM2)12,13、および各シンクロ22,23,24,25の動作状態をまとめて示す図表であって、この図2における各ポンプモータ12,13についての「OFF」は、ポンプ容量を実質的にゼロとし、その出力軸が回転させられても圧油を発生することがなく、また油圧が供給されても出力軸が回転しない状態(フリー)を示し、「LOCK」はそのロータの回転を止めている状態を示している。さらに「油圧発生」は、ポンプ容量を実質的なゼロより大きくするとともに圧油を吐出している状態を示し、したがって該当するポンプモータ12,13はポンプとして機能している。また、「油圧回収」は、一方のポンプモータ13(もしくは12)が吐出した圧油が供給されてモータとして機能している状態を示し、したがって該当するポンプモータ12(もしくは13)は軸トルクを発生し、対応するモータ軸9,11および中間軸8,10に駆動トルクを伝達している。
そして、各シンクロ22,23,24,25についての「右」、「左」は、それぞれのシンクロ22,23,24,25におけるスリーブの図1での位置を示すとともに、丸括弧はダウンシフトするための待機状態、カギ括弧はアップシフトするための待機状態を示し、そして「○」は該当するシンクロ22,23,24,25をOFF状態(中立位置)に設定することにより引き摺りを低減している状態、「●」は該当するシンクロ22,23,24,25をOFF状態(中立位置)に設定して中立状態となっていることを示す。
シフト装置44でニュートラルポジションが選択されてニュートラル(N)状態を設定する際には、各ポンプモータ12,13が「OFF」状態とされ、また各シンクロ22,23,24,25のスリーブが中央位置に設定される。したがって、いずれのギヤ対17,18,19,20,21も出力軸16に連結されていないニュートラル状態となる。すなわち、各ポンプモータ12,13が、押出容積(ポンプ容量)が実質的にゼロとなるように制御される。その結果、いわゆる空回り状態となるので、各遊星歯車機構3,4のリングギヤ3R,4Rに動力源1からトルクが伝達されても、サンギヤ3S,4Sに反力が作用しない。そのため、出力要素であるキャリヤ3C,4Cに連結されている各中間軸8,10にはトルクが伝達されない。
シフトポジションがドライブポジションなどの走行ポジションに切り替えられると、第1シンクロ22のスリーブが図1の左側に移動させられるとともに第2シンクロ23のスリーブが、図1の左側に移動させられる。したがって、発進駆動ギヤ21Aがモータ軸9に連結されて第1ポンプモータ12と出力軸16とが連結され、また第1速駆動ギヤ20Aが第2中間軸10に連結されて第2遊星歯車機構4の出力要素であるキャリヤ4Cと出力軸16とが連結される。すなわち、固定変速比である第1速を設定する状態となる。また、これと併せて各ポンプモータ12,13の押出容積がゼロより大きい容積に制御される。
したがって、第2ポンプモータ13は前記第2遊星歯車機構4によって分配された動力源1の動力によって駆動されてポンプとして機能する。したがって、第2ポンプモータ13は、油圧を発生させることに伴う反力トルクをモータ軸11およびサンギヤ4Sに与える。これを図2には「油圧発生」と記載してある。そのため、第2遊星歯車機構4の差動作用によってキャリヤ4Cにトルクが伝達され、そのトルクが第1速用ギヤ対20を介して出力軸16に伝達される。
一方、第2ポンプモータ13で発生した油圧がその吸入ポート13Sから吐出されて第1ポンプモータ12の吸入ポート12Sに供給される。その結果、第1ポンプモータ12がモータとして機能する。これを図2には「油圧回収」と記載してある。このようにして第1ポンプモータ12に伝達される動力が発進用ギヤ対21を介して出力軸16に伝達される。したがって発進から第1速までの駆動状態では、第2遊星歯車機構4を介したいわゆる機械的な動力の伝達と、油圧を介した動力の伝達との両方が生じ、これらの動力を合成した動力が出力軸16に現れる。また、この過程での変速比は、固定変速比である第1速より大きい値となり、その変速比は連続的に、あるいは無段階に変化する。
こうして動力源1の回転数や車速が変化して第1速の変速比になると、第1ポンプモータ12の押出容積がゼロに設定され、また第2ポンプモータ13の押出容積q2が最大に設定され、その結果、実質上、第2ポンプモータ13の回転がロックされる。すなわちモータ軸11およびこれに連結されている第2ポンプモータ13が固定される。また、併せて第1シンクロ22がOFF状態に設定される。その結果、第2遊星歯車機構4のサンギヤ4Sが固定され、また第1遊星歯車機構3は出力軸16に対する動力の伝達に関与しなくなるので、動力源1が出力した動力は、第2遊星歯車機構4および第1速用ギヤ対20を介して出力軸16に伝達される。すなわち、第1速用ギヤ対20のギヤ比で決まる固定変速比が設定される。なお、この場合、第1ポンプモータ12およびこれに連結されているモータ軸9が空転するので、第1中間軸8にトルクは現れない。
固定変速比である第1速からアップシフトする場合、第3シンクロ24のスリーブを図1の左側に移動させて第2速駆動ギヤ18Aを第1中間軸8に連結しておく。なお、Rシンクロ25は中立状態にしておく。また、第3シンクロ24のスリーブを第2速駆動ギヤ18Aに係合させる場合、第3シンクロ24のスリーブの回転数と第2速駆動ギヤ18Aとの回転数を一致させる同期制御を行う。その同期制御は、前記シンクロ22,23,24,25のスリーブを相手部材に係合させる場合にも同様に行われる。
この状態で、第1ポンプモータ12の押出容積を最大に向けて次第に増大させる。第2速へのアップシフト待機状態では、第1ポンプモータ12は逆回転しているから、その押出容積を次第に増大させることによりポンプとして機能する。すなわち、油圧を発生し(図2に「油圧発生」と記してある)、同時にそれに伴う反力トルクがモータ軸9に現れる。その結果、第1遊星歯車機構3および第2速用ギヤ対18を介した動力の伝達が次第に行われる。また、第1ポンプモータ12で発生した油圧が第2ポンプモータ13に供給されてこれがモータとして機能する(図2に「油圧回収」と記してある)ので、第2ポンプモータ13および第2遊星歯車機構4ならびに第1速用ギヤ対20を介した動力の伝達が生じる。そのため、第1速から第2速への変速の過程での変速比は、第1速の変速比と第2速の変速比との間の値となり、かつ連続的に変化する変速比となる。すなわち、変速比が連続的に変化する無段変速状態となる。これは、上述した発進から第1速の変速比に到るまでの間、および各固定変速比の間でも同様であり、したがって上述した変速機は、無段変速機として機能させることができる。
上述した第1速から第2速に向けたアップシフトの過程における各ポンプモータ12,13の押出容積の変化を図3に模式的に示してある。固定変速比である第1速(1st)を設定している状態では、第1ポンプモータ12の押出容積q1はゼロ(もしくは最小に近い所定値以下)に設定され、また第2ポンプモータ13の押出容積q2は最大(max)もしくはこれに近い所定値以上になっている。したがって、第1ポンプモータ12およびこれに連結されているモータ軸9が空転し、また第2ポンプモータ13から第1ポンプモータ12に対して圧油が流動することができないので、第2ポンプモータ13はロックされた状態になる。この状態から先ず第1ポンプモータ12の押出容積q1が次第に増大させられる。その結果、第1ポンプモータ12で油圧が発生し、これが第2ポンプモータ13に供給されるので、第2ポンプモータ13がモータとして作用する。すなわち、各ポンプモータ12,13の間で圧油を介した動力の伝達が生じる。
こうして第1ポンプモータ12の押出容積q1が最大(max)になると、第1および第2のポンプモータ12,13の押出容積q1,q2が共に最大もしくはこれに近い所定値以上となる。その後、第1ポンプモータ12の押出容積q1を最大もしくはこれに近い所定値以上に維持したまま、第2ポンプモータ13の押出容積q2が次第に低下させられる。そして、第2ポンプモータ13の押出容積q2がゼロ(もしくは最小に近い所定値以下)になることにより、固定変速比である第2速が設定される。すなわち、各ギヤ対のうち第2速用ギヤ対18のみを介して動力の伝達が行われ、第2速用ギヤ対18の回転数比に応じた変速比が設定される。
上述した押出容積q1,q2の変化に伴う前記油路14,15内の圧力は、図4に示すように変化する。図4は本発明者等が測定した油圧の実測値を示しており、油路14,15内の油圧は、各ポンプモータ12,13の押出容積q1,q2が共に最大になっている状態で最も低くなっている。一方、各ポンプモータ12,13の容積効率は圧力が高くなるのに従って低下する。これは、本発明者等が計測した結果と一致する。すなわち、図5は本発明者等が計測したポンプモータの容積効率を示しており、圧力が高くなるほどポンプモータの容積効率が低下している。
結局、固定変速比(固定段)である第1速と第2速との間の変速比では、各ポンプモータ12,13の押出容積q1,q2を最大にして設定する変速比で最も動力伝達効率が高くなる。本発明者等が計測した伝達効率の結果を図6に示してあり、各ポンプモータ12,13の押出容積q1,q2を最大にした場合に伝達効率の極大値が現れる。
この発明に係る変速比制御装置は、前述したシフト装置44によって第1速からの1段のアップシフト指示を行った場合、あるいは第2速から1段のダウンシフト指示を行った場合に、上記の伝達効率が極大値もしくはこれに近い値を示す変速比を設定するように構成されている。具体的には、各ポンプモータ12,13の押出容積q1,q2を最大に制御し、もしくは最大値に近い所定値以上の押出容積に制御するように構成されている。
なお、図6における「×」印は、実測値を示しており、それらのうち符号P0で示す実測値は、ポンプモータ12,13の押出容積q1,q2を非調圧ソレノイドバルブによって設定するように構成した場合の実測値を示している。非調圧ソレノイドバルブによって押出容積q1,q2を最大値に設定した場合、その非調圧ソレノイドバルブからの油圧の流出が殆ど生じないので、その分、動力損失が抑制され、全体としての動力伝達効率が高くなる。
上述のようにして第1ポンプモータ12の押出容積をほぼ最大にしてその回転が停止し、もしくは停止に近い状態になることにより、モータ軸9が実質的に固定される。また、併せて第2ポンプモータ13がOFF状態に設定される。したがって、第1遊星歯車機構3では、そのサンギヤ3Sが固定されるので、リングギヤ3Rに入力された動力がキャリヤ3Cから中間軸8を経て第2速駆動ギヤ18Aに出力される。一方、第2ポンプモータ13はOFF状態となっており、これと同軸上に配置されているRシンクロ25および第2シンクロ23はOFF状態であってそのスリーブが中立位置にあるので、第2ポンプモータ13や第2遊星歯車機構4は動力の伝達に関与しない。したがって、第2速用ギヤ対18のギヤ比で決まる固定変速比である第2速が設定される。
以下、同様にして、第3速は第2シンクロ23のスリーブを図1の右側に移動させて第3速駆動ギヤ19Aを第2中間軸10に連結し、また第2ポンプモータ13の押出容積を最大にすることにより、第1速の場合と同様に、モータ軸11および第2ポンプモータ13を固定し、さらに他のシンクロ22,24はOFF状態にする。したがって、第3速用ギヤ対19を介して出力軸16に動力が伝達され、固定変速比である第3速が設定される。また、第4速は第3シンクロ24のスリーブを図1の右側に移動させて第4速駆動ギヤ17Aを第1中間軸8に連結し、また第1ポンプモータ12の押出容積を最大にすることにより、第2速の場合と同様に、モータ軸9および第1ポンプモータ12を固定し、さらに他のシンクロ23,25はOFF状態にする。したがって、第4速用ギヤ対17を介して出力軸16に動力が伝達され、固定変速比である第4速が設定される。
これら、第2速ないし第4速のそれぞれの固定変速比の間の状態でも、各ポンプモータ12,13の押出容積q1,q2を最大もしくは最大に近い所定値以上に設定することが可能であり、その場合も伝達効率が極大値を示し、かつ各固定変速比の中間の値の変速比を設定することができる。図7は、各固定変速比およびその中間の変速比での伝達効率と流体による動力の伝達割合を示している。この図7に「★」を付してある点での伝達効率が固定変速比の中間の変速比における伝達効率である。この発明に係る変速比制御装置は、これを利用して、固定変速比からの1段のアップシフトもしくはダウンシフトの変速操作によって、固定変速比同士の間の変速比を設定するようになっている。具体的には、アップシフト側もしくはダウンシフト側にシンクロ22,23,24を動作させておき、その状態が各ポンプモータ12,13の押出容積をそれぞれ最大もしくは最大に近い所定値以上に制御する。
さらに、後進段について説明すると、シフト装置44によってリバースポジションが選択された場合には、第1シンクロ22のスリーブ22が図1の左側に移動させられ、またRシンクロ25のスリーブが図1の右側に移動させられ、さらに他のシンクロ23,24がOFF状態に設定される。したがって、Rシンクロ25によって第2中間軸10とモータ軸11とが連結されることにより、第2遊星歯車機構4のサンギヤ4Sとキャリヤ4Cとが連結されて第2遊星歯車機構4の全体が実質的に一体化される。また、発進駆動ギヤ21Aがモータ軸9すなわち第1ポンプモータ12のロータに連結される。
したがって、動力源1から第2遊星歯車機構4に伝達された動力がそのまま第2ポンプモータ13に伝達されてこれが駆動され、第2ポンプモータ13によって油圧が発生する。なお、第2シンクロ23がOFF状態であるから、第2遊星歯車機構4あるいは第2中間軸10から出力軸16に動力が伝達されることはない。一方、第1ポンプモータ12の押出容積がゼロより大きい容積、例えば最大容積に制御される。その結果、第2ポンプモータ13から供給された油圧によって第1ポンプモータ12がモータとして機能し、モータ軸9にトルクを出力する。その場合、第1ポンプモータ12にはその吐出ポート12Dから油圧が供給されるので、第1ポンプモータ12が逆回転する。そして、そのトルクが発進用ギヤ対21を介して出力軸16に伝達されるので、後進状態となる。すなわち、後進段では、油圧を介した動力の伝達が生じ、これを図2では、第1ポンプモータ12について「油圧回収」と記し、第2ポンプモータ13について「油圧発生」と記してある。
上記のように、図1に示す変速機を対象とするこの発明に係る変速比制御装置では、ギヤ対で決まる固定変速比の中間の変速比のうち、動力伝達効率が極大値もしくはこれに近い値を示す変速比を、手動操作に基づいて指示する変速比(もしくは変速段)として設定する。したがって、上記の具体例では、各ギヤ対17,18,19,20に応じて決まるいわゆる固定変速比である第1速ないし第4速と、それぞれの中間の三つの変速比との合計7段の変速比を、手動操作によって選択し、設定することができる。そのため、設定可能な変速段の数に対して、必要とするギヤ対の数を少なくすることができるので、変速機の全体として構成をコンパクトなものとし、車載性や燃費を向上させることができる。また、固定変速比を設定しておくために特に動力を消費しないうえ、固定変速比の中間の値の変速比は、各ポンプモータ12,13の容積効率が最大もしくは最大に近い状態で設定するので、エネルギ効率を向上させ、ひいては車両の燃費を向上させることができる。
なお、上記の例は、各ポンプモータ12,13の押出容積q1,q2を共に最大もしくは最大に近い所定値以上に設定することにより、固定変速比の中間の変速比を設定する例であるが、図1に示す構成の変速機では、固定変速比からの変速を、各ポンプモータ12,13の押出容積q1,q2を共に変化させて実行することも可能である。その場合には、各押出容積q1,q2が共に最大もしくは最大に近い所定値以上になることはないので、固定変速比の中間の変速比は、以下のようにして設定する。
すなわち、動力の伝達効率は、油路14,15における油圧や各ポンプモータ12,13の容積効率などに影響されるから、固定変速比同士の間での変速の過程で伝達効率が高低に変化する。その場合であっても、前述した図6もしくは図7に示す場合と同様に、その伝達効率が極大値を示す変速比が存在する。この変速比は、各ポンプモータ12,13の押出容積q1,q2のいずれかが最大になって設定されるものではないが、各押出容積q1,q2をそれぞれゼロもしくは最小より大きい容積に設定して得られる変速比である。したがって、その変速比は各ポンプモータ12,13の押出容積q1,q2から一義的に決められない場合があるから、伝達効率が極大値を示す変速比および各ポンプモータ12,13の制御状態を実験的に求めて、これを固定変速比の中間の変速比として決めればよい。その場合、固定変速比の中間の状態における伝達効率の平均値より高い伝達効率を示す変速比としてもよい。こうした場合には、手動操作に基づく変速指示によって設定される変速比が、伝達効率が極大値を示す変速比から幾分ずれることがあるが、伝達効率の極大値に対する差は僅かであり、実用上問題となるものではない。
手動操作に基づく変速指示で設定される変速比を上記のように構成した場合であっても、各ポンプモータ12,13の押出容積q1,q2を最大もしくは最大に近い所定値以上に制御して変速比を設定する場合と同様に、エネルギ効率を向上させることができ、また必要とするギヤ対もしくは伝動機構の数を相対的に少なくすることができるので、全体としてコンパクトな変速機とすることができる。ひいては、車両の燃費を向上させることができる。
なお、この発明は上記の具体例に限定されないのであって、固定変速比は4速より多くてもよく、あるいは反対に少なくてもよい。その場合であっても、各固定変速比の中間の変速比を手動操作に基づいて選択し、設定するように構成することができる。原理的には、固定変速比の数をnとした場合、(2n−1)の数の変速比を、エネルギ効率を特に損なうことなく、手動操作に基づいて設定するように構成することができる。また、各固定変速比の間の全てに、その中間の変速比(変速段)を設ける必要はなく、変速比同士のステップ幅などを考慮して適宜に変速比(変速段)を設けてもよい。
また、この発明で対象とする変速機は、流体圧ポンプモータのケーシングとロータとのそれぞれを入力側と出力側との回転部材に連結して、流体圧ポンプモータ自体に差動機能を行わせるように構成してもよく、その場合には前述した差動機構としての遊星歯車機構を省くことができる。さらに、上記の具体例では、この発明の回転軸に相当する中間軸を二本設けた構成を示したが、この発明では回転軸を三本以上設け、それに併せて流体圧ポンプモータの数を増やしてもよい。
またさらに、この発明では、ギヤ対に替えてベルトやチェーンなどの機構を用いてもよい。そして、この発明で差動作用のある歯車機構を用いる場合、シングルピニオン型遊星歯車機構に替えて例えばダブルピニオン型遊星歯車機構を用いることができ、あるいは更に他の構成の差動歯車機構によって構成することもできる。そしてまた、動力源は一方の差動機構に直接連結する替わりに、前述したカウンタギヤ対のアイドルギヤに連結してもよい。なおまた、この発明における変速指示手段は、前述したいわゆるレバータイプのものに限らず、スイッチによって構成されていてもよい。
一方、流体圧ポンプモータの押出容積を最大もしくは最大に近い所定値以上に設定するためのソレノイドバルブなどのアクチュエータとして、電流を遮断してその押出容積を維持するタイプのものを使用することができる。このようにすれば、固定変速比の中間の変速比を維持する場合にもエネルギの消費がなくなり、もしくは少なくなるので、燃費の向上に有利になる。
1…動力源(E/G)、 2…入力部材、 3…第1遊星歯車機構、 4…第2遊星歯車機構、 8…第1中間軸、 9…モータ軸、 10…第2中間軸、 11…モータ軸、 12…可変容量型ポンプモータ(第1ポンプモータ)、 13…可変容量型ポンプモータ(第2ポンプモータ)、 14,15…油路、 16…出力軸、 17,18,19,20…ギヤ対、 22…第1のシンクロナイザー(第1シンクロ)、 23…第2のシンクロナイザー(第2シンクロ)、 24…第3のシンクロナイザー(第3シンクロ)、 43…電子制御装置(ECU)、 44…シフト装置。