JP4963223B2 - 表面微構造を制御した金属酸化物薄膜の製造方法及びその金属酸化物薄膜 - Google Patents

表面微構造を制御した金属酸化物薄膜の製造方法及びその金属酸化物薄膜 Download PDF

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Description

本発明は、表面微構造を制御した金属酸化物薄膜に関するものであり、更に詳しくは、フォトクロミックな金属酸化物前駆体溶液と紫外線照射及び電場印加を用いた新規な金属酸化物薄膜の製造方法とその表面微構造を紫外線照射と電場印加により制御する方法に関するものである。本発明は、高機能セラミック製造のための、例えば、強誘電体メモリ用バッファー層や酸素センサー等に適した表面微構造を有する金属酸化物セラミック薄膜の製造方法に係るものであり、光化学反応を積極的に取り入れて調製したフォトクロミックな金属酸化物前駆体溶液と、紫外線照射及び電場印加を用いた新規な金属酸化物薄膜の製造方法、並びに薄膜作製プロセス中において紫外線照射と電場印加の効果を利用した、新規な金属酸化物薄膜の表面微構造制御技術を提供するものである。
セラミック薄膜の中でも、例えば、ジルコニア(ZrO)薄膜は、強誘電体メモリ用のバッファー層や酸素センサー等として広く利用されている応用範囲の広い材料である。該ジルコニア(ZrO)薄膜を、バッファー層として用いる場合には、上部層に積層する機能性薄膜に対して最適な配向性を有し、結晶性が良く、より平滑、均質で薄い膜が望まれており、一方、これに対し、センサーとして用いる場合には、多孔質で、より比表面積の大きな膜が望まれている。
そこで、当技術分野では、より効率良く、簡便に、金属酸化物薄膜の結晶性及び表面微構造を制御する方法を開発することが要請されていた。これまでに、本発明者らは、強誘電体メモリ用のビスマス系層状ペロブスカイトSrBiTa(SBT)薄膜において、SBTトリプルアルコキシドからこの薄膜を作製するプロセス中に紫外線照射の過程を導入することによって、より効率良く、簡便に、結晶化後の薄膜の結晶性、結晶配向性、及び表面の平滑性を制御できることを見出してきた(特許文献1参照)。
また、ZrO薄膜の製造に関して、本発明者らは、光感応性有機物を前駆体溶液中に添加し、ZrO薄膜の製造プロセス中で光化学反応を行わせることにより、より効率良く、簡便に、更に、より低エネルギーかつ低温で、ZrO薄膜の結晶性及び表面微構造を制御できることを見出してきた(特許文献2参照)。
更に、本発明者らは、金属−酸素−金属のネットワークからなる金属−酸素系無機ゲル前駆体と相互作用することのできる有機フォトクロミック化合物を無機ゲル前駆体溶液中に添加し、適切な波長の光を照射することによって、より効率良く、簡便に、金属−酸素系無機ゲル前駆体溶液の構造を可逆的に変化させることができる方法を見出した(特許文献3参照)。
しかるに、本発明に関連する先行技術として、例えば、フォトクロミック性を有する酸化チタン油性分散体及び親油性酸化チタン粉体、並びにフォトクロミック性を有する皮膜形成性組成物の製造方法に係る報告例がある(特許文献4)。また、フォトクロミズムを示す有機低分子ゲルと金属酸化物からなる有機無機複合体の製造方法に係る報告例がある(特許文献5)。しかし、これまで、金属酸化物前駆体のフォトクロミック性と電場印加の効果を利用した金属酸化物薄膜の製造方法、並びに、紫外線照射と電場印加の効果を利用して、その表面微構造を制御する方法に関する報告例は見当たらない。
特開2002−231918号公報(特許第3845718号) 特開2004−224603号公報 特開2005−206390号公報 特開2001−200195号公報 特開2001−139580号公報
このような状況の中で、本発明者らは、上記従来技術に鑑みて、表面微構造を制御した金属酸化物薄膜及びその製造方法を開発することを目標として鋭意研究を重ねた結果、上記した金属酸化物の前駆体となり得るフォトクロミックな金属−酸素−金属のネットワークからなる金属−酸素系無機ゲル前駆体溶液と、紫外線照射及び電場印加を用いた新規な金属酸化物薄膜の製造方法と、その薄膜の表面微構造を紫外線照射と電場印加の効果を利用することによって、効率良く、簡便に制御できる方法の開発に成功し、本発明を完成するに至った。
本発明は、光化学反応を積極的に取り入れて調製したフォトクロミックな金属酸化物前駆体溶液と、紫外線照射及び電場印加を用いた新規な表面微構造を制御した金属酸化物薄膜の製造方法、並びに薄膜作製プロセス中において、紫外線照射と電場印加の効果を利用した、新規な金属酸化物薄膜の表面微構造制御方法及び表面微構造を制御した金属酸化物薄膜を提供することを目的とするものである。
上記課題を解決するための本発明は、以下の技術的手段から構成される。
(1)フォトクロミックな金属酸化物前駆体溶液を用いて基板に金属酸化物薄膜を作製する過程でその表面微構造を制御する方法であって、該薄膜作製過程において導電性基板へ電場印加し、フォトクロミックな金属酸化物前駆体溶液へ紫外線を照射しながらディップコーティング、乾燥、仮焼、そして急速加熱処理して製膜することを特徴とする、金属酸化物薄膜の表面微構造制御方法。
)金属酸化物が、ZrO、Al、MgO、SiO、TiO、SnO、HfO、CeO、Yから選択される1種である、前記(1)に記載の金属酸化物薄膜の表面微構造制御方法。
)2枚の導電性基板を電極として電場を印加しながら、フォトクロミックな金属酸化物前駆体溶液に基板を浸漬する、前記(1)に記載の金属酸化物薄膜の表面微構造制御方法。
)紫外線を照射したフォトクロミックな金属酸化物前駆体溶液に基板を浸漬して、紫外線を照射しながらディップコーティングし、その後、紫外線を照射せずに急速加熱処理を行って製膜する、前記()に記載の金属酸化物薄膜の表面微構造制御方法。
)電場印加中、電流が流れない非電解質溶液からなる前駆体溶液を使って製膜する、前記(1)から()のいずれかに記載の金属酸化物薄膜の表面微構造制御方法。
)フォトクロミックな金属酸化物前駆体溶液を用いて基板に表面微構造が制御された金属酸化物薄膜を製造する方法であって、導電性基板を電極として電場を印加しながら、該電場印加と併せて、紫外線を照射したフォトクロミックな金属酸化物前駆体溶液に基板を浸漬して、紫外線を照射しながらディップコーティング、乾燥、仮焼、そして急速加熱処理して製膜することを特徴とする、金属酸化物薄膜の製造方法。
)光照射によって可逆的にシスートランス光異性化反応を起こすフォトクロミックな金属酸化物前駆体分子を用いて製膜する、前記()に記載の金属酸化物薄膜の製造方法。
)フォトクロミックな金属酸化物前駆体溶液に320〜390nmの紫外光を照射して製膜する、前記()に記載の金属酸化物薄膜の製造方法。
)電場印加中、電流が流れない非電解質溶液からなる前駆体溶液を使って製膜する、前記()から()のいずれかに記載の金属酸化物薄膜の製造方法。
次に、本発明について更に詳細に説明する。
本発明は、フォトクロミックな金属酸化物前駆体溶液を用いて基板に金属酸化物薄膜を作製する過程でその表面微構造を制御する方法であって、該薄膜作製過程において導電性基板へ電場印加し、フォトクロミックな金属酸化物前駆体溶液へ紫外線を照射しながらディップコーティング、乾燥、仮焼、そして急速加熱処理して製膜することを特徴とするものである。
また、本発明は、フォトクロミックな金属酸化物前駆体溶液を用いて基板に表面微構造を制御した金属酸化物薄膜を製造する方法であって、2枚の導電性基板を電極として電場を印加しながら、該電場印加と併せて、紫外線を照射したフォトクロミックな金属酸化物前駆体溶液に基板を浸漬して、紫外線を照射しながらディップコーティング、乾燥、仮焼、そして急速加熱処理して製膜することを特徴とするものである。
更に、本発明は、電場印加中、電流が流れない非電解質溶液からなる前駆体溶液を使って製膜することを特徴とするものである。
本発明は、光化学反応を積極的に取り入れて調製したフォトクロミックな金属酸化物前駆体溶液と電場印加ないし紫外線照射及び電場印加を用いた、新規な金属酸化物薄膜の製造方法、並びに薄膜作製プロセス中において電場印加ないし紫外線照射及び電場印加の効果を利用した、新規な金属酸化物薄膜の表面微構造制御方法の点に特徴を有するものである。
本発明において、先ず、金属酸化物前駆体溶液を調製するために用いる金属アルコキシドとしては、例えば、ジルコニウムテトラブトキシド、ジルコニウムテトラプロポキシド、ジルコニウムテトラエトキシド等が挙げられるが、特に、光照射効果が著しく、反応速度が遅いジルコニウムテトラ−n−ブトキシドが好適なものとして例示される[文献:1)K.Nishizawa, T.Miki, K.Suzuki and K.Kato, Key Eng. Mater., 147,228 (2002)、2)Y. Masuda, T. Sugiyama, H. Lin, W.S. Seo, K. Koumoto, Thin Solid Films, 382,153 (2001)参照]。更に、本発明では、テトラエトキシシラン、アルミニウムイソプロポキシド等、他の同様の金属アルコキシドを用いることができる。
次に、上記金属アルコキシドに添加する有機フォトクロミック化合物としては、光照射によって可逆的に分子構造変化を起こすものが良く、例えば、光照射によって、可逆的にシスートランス異性化反応を起こす化合物であるスチルベンやチオインジゴ等が挙げられるが、特に、その一つであるアゾベンゼン系化合物の4−フェニルアゾ安息香酸、分子末端にカルボキシル基が置換したスチルベン系化合物等が好適なものとして例示される。しかし、これらに制限されるものではなく、光照射によって可逆的に分子構造変化を起こすものであれば同様に使用することができる。
更に、これに加えて、有機フォトクロミック化合物は、上記アルコキシドと相互作用するために官能基を有することが必要である。例えば、アゾベンゼンのフェニル基にカルボキシル基を有する4−フェニルアゾ安息香酸が好適なものとして例示されるが、これに制限されるものではなく、上記アルコキシドと相互作用する官能基を有するものであれば同様に使用することができる。
また、フォトクロミック化合物の添加量は、アルコキシドとの相互作用に影響を与え、添加量が多いほど無機ゲルの構造変化を大きく誘起できる傾向にある。しかし、フォトクロミック化合物の種類によっては、添加量が多くなると沈殿を生じたり、結晶化や凝集を起こすために相分離をもたらすものがあるため、注意が必要である。また、添加量が多すぎると、溶液の液性が変化する可能性があるため、注意が必要である。
用いる有機溶媒としては、上記アルコキシド、及びフォトクロミック化合物を溶解することができ、かつ、反応生成物である前駆体分子が沈殿することなく安定に存在し得るものであれば良く、例えば、2−メトキシエタノールが好適なものとして例示される。しかし、これに制限されるものではなく、これと同効のものであれば同様に使用することができ、1−ブタノール、メタノール等のアルコール系溶媒が例示される。ただし、用いる溶媒によって溶解度が異なるため、取り扱いには注意が必要である。
上述したアルコキシド、フォトクロミック化合物の原料、有機溶媒を用いて、これらを所定の温度で反応させてフォトクロミックな金属酸化物前駆体溶液を調製するが、この場合、反応が進みすぎると、目的とする分子を合成することができなくなるため、反応温度、時間には注意が必要である。
例えば、固体原料であるジルコニウム−n−ブトキシドと4−フェニルアゾ安息香酸を2−メトキシエタノール中で反応させる場合においては、80℃程度の温度で反応させ、両固体が完全に溶解したタイミングで反応終了とすることが必要である。更に、電場を印加する際の基板上での電極反応を抑制するために、本発明方法で用いる前駆体溶液は、電場印加中、電流が流れない非電解質溶液であることが必要である。
次に、上記のように調製した前駆体溶液を用いて薄膜を作製する。この場合、基板へのコーティング方法としては、例えば、ディップコーティング、スピンコーティング、印刷法等の方法があるが、本発明においては、前駆体溶液に紫外線を照射し続ける必要があること、更に、基板に対して電場の印加が必要であることから、それに好適なディップコーティング法が使用される。
用いる基板としては、2枚の基板間に電圧を印加するために、導電性のある材質であることが必要であり、例えば、シリコン、金属、ITOガラス等が好適なものとして例示される。しかし、これらに制限されるものではなく、導電性を有する材質の基板であれば同様に使用することができる。基板の大きさに関しては、例えば、10×40mm以上の大きさが好適である。
次に、薄膜作製プロセスについて説明する。先ず、2枚の導電性の基板を平行にセットし、この間に電場を印加する。電極間の距離は、任意にセット可能であるが、電場印加の効果を効果的に発現させるために、間隔は狭い方が望ましい。しかし、間隔が狭すぎると、基板間に液だまりが生じる、スムースな取り外しが難しくなる等と云った問題が生じる恐れがあるため、数mm程度、例えば、1mm程度の間隔に調整することが好ましい。
このようにして、電場を印加した2枚の基板を、前述のように調製した金属酸化物前駆体溶液に浸漬し、ディップコーティングを行う。電場印加の効果を十分に発現させるために、数分程度、例えば、2〜5分程度の浸漬時間が望ましい。その後、基板の引き上げと乾燥処理を行うが、用いた有機溶媒が気化するまで電場印加を続ける必要があることから、例えば、2−メトキシエタノールを用いた場合において、数分間、例えば、5分間の風乾時間は必要である。続いて、電場を印加せずに乾燥を行うが、その場合、例えば、150℃の温度で2分程度の乾燥を行うことが好ましい。
続いて、仮焼処理を行うが、この時の温度としては、前駆体中のアルコキシドが分解、縮重合し、金属−酸素−金属のユニットが効率良く形成できる温度が必要であり、例えば、金属アルコキシドとして、ジルコニウム−n−ブトキシドを用いた場合には、350℃程度が好適である。仮焼処理の温度条件は、原料の種類に応じて適宜設定することができる。
更に、薄膜作製の過程で紫外線照射を行う場合において、アゾベンゼン系のフォトクロミック化合物を用いた場合には、使用する光源としては、波長領域が250nmから400nm付近の紫外光を放出する光源であれば良く、例えば、超高圧水銀灯を用い、適切なガラスフィルターで分光する方法が好適なものとして例示される。しかし、これに制限されるものではなく、本発明では、紫外線照射可能な光源であれば同様に使用することができる。
また、他のフォトクロミック化合物を使う場合には、その化合物に好適な波長の光を照射することが望まれる。用いるフォトクロミック化合物に好適な波長の光を照射できる光源を適宜選択して使用する。また、電場を印加しながら紫外線を照射する場合においては、平行に置かれた2枚の基板に対して紫外光が平行に当たるようにランプ位置を適宜調整する。
また、紫外線照射の際には、ディップコーティング前の前駆体溶液にあらかじめ紫外線照射を行うが、前駆体分子の構造変化を効果的に発現させるために、例えば、アゾベンゼン系のフォトクロミック化合物を用いた場合には、15分間以上の照射時間が望ましい。紫外線照射の照射条件は、フォトクロミック化合物の種類に応じて適宜設定することができる。
更に、紫外線照射中の前駆体溶液への基板の浸漬後、前駆体分子の戻り反応を抑制するために、基板の引き上げ過程、乾燥過程、及び仮焼過程においても、好適には、紫外線を照射し続けることが必要である。
続いて、仮焼処理後、酸素気流中で本焼成を行うが、この過程においては、副反応を抑えるために、急速昇温、例えば、100℃/秒程度の急速昇温が必要であり、結晶化温度としては、例えば、アゾベンゼン系の化合物を用いた場合には、分子内の有機物を完全に分解するために、650℃以上の焼成温度が必要である。これらの条件は、原料の種類に応じて好適な条件に適宜設定する。
本発明の方法は、一例として、例えば、ZrO薄膜の場合に好適に用いられるが、これに制限されるものではなく、ZrO薄膜の場合と同様にして、好適には、例えば、Al、MgO、SiO、TiO、SnO、HfO、CeO、Y等に代表される金属酸化物薄膜の場合に、広く適用することが可能である。
このように、本発明は、フォトクロミズムを示す金属酸化物前駆体溶液を原料として用いて、薄膜作製プロセスにおいて、電場印加ないし紫外線照射及び電場印加の過程を加えるだけで、焼成後の金属酸化物薄膜の表面微構造を簡便に制御することが可能であり、表面微構造の制御方法としては、手段の簡便性と効果の顕著性に鑑みて、これまでにない画期的な方法であると云える。
従来、フォトクロミック化合物を無機ゲル前駆体溶液中に添加し、金属−酸素系無機ゲル前駆体溶液の構造を可逆的に変化させる方法や、フォトクロミック性を有する酸化チタン油性分散体及び親油性酸化チタン粉体並びにフォトクロミック性を有する皮膜形成性組成物の製造方法や、フォトクロミズムを示す有機低分子ゲルと金属酸化物からなる有機無機複合体の製造方法等が提案されているが、これらは、金属酸化物薄膜の表面微構造を制御する技術を示すものではない。
これに対し、本発明は、フォトクロミズムを示す金属酸化物前駆体溶液を原料として用いて、薄膜作製プロセスにおいて、電場印加ないし紫外線照射及び電場印加を行うことで、焼成後の金属酸化物薄膜の表面微構造を簡便に制御することを可能とする新規な表面微構造を制御した金属酸化物薄膜の製造方法、並びに新規な金属酸化物の表面微構造の制御方法を提供するものである。
本発明では、薄膜作製の過程で、高い電場を印加するほど、粒子が大きく成長し、表面がラフな膜が形成される。また、薄膜作製の過程で、電場の印加と紫外線照射を併用した場合には、粒子が小さく、表面が平滑な膜が形成される。電場印加により、粒子を成長させて表面がラフな膜を作製することが可能であり、また、電場印加と紫外線照射を併用することにより、粒子が小さい表面が平滑な膜を作製することが可能であり、電場印加及び紫外線照射の条件を種々変更することで所望の粒子径及び表面粗度をナノサイズ範囲で制御した均質の表面微構造を持つ金属酸化物薄膜及びその部材を製造し、提供することができる。
本発明では、上記方法により紫外線照射及び電場印加の有無、程度を調節し、表面微構造を制御して、例えば、実施例に示したように、表面粒子径が13〜445nm、表面粗度(RMS)が0.69〜8.66nm等のナノサイズ範囲で表面粒子径及び表面粗度(RMS)を制御した金属酸化物薄膜を製造することができる。しかし、表面粒子径及び表面粗度は、これらに制限されるものではなく、その使用目的及び用途に応じて、表面粒子径及び表面粗度を任意のナノサイズ範囲に高精度に制御した金属酸化物薄膜を作製し、提供することができる。
本発明により、次のような効果が奏される。
(1)本発明は、光化学反応を積極的に取り入れて調製したフォトクロミックな金属酸化物前駆体溶液と電場印加ないし紫外線照射及び電場印加を用いることを特徴とする、新規な表面微構造を制御した金属酸化物薄膜の製造方法を提供することができる。
(2)薄膜作製プロセス中において、電場印加ないし紫外線照射及び電場印加の効果を利用することを特徴とする、新規な金属酸化物薄膜の表面微構造制御方法を提供することができる。
(3)金属酸化物薄膜作製用前駆体分子の構造と分極の方向性を光により制御し、電場印加により基板への分子堆積の方向性を制御することを特徴とする新規な金属酸化物薄膜の表面微構造制御方法を提供することができる。
(4)本発明により、表面微構造を高精度に制御した金属酸化物薄膜からなる高機能性セラミックの作製プロセスの効率化を図ることが可能であり、それにより、機能性集積材料等の開発に大きく貢献することが期待できる。
次に、実施例に基づいて本発明を具体的に説明するが、本発明は、以下の実施例によって何ら限定されるものではなく、実施例に具体的に示した方法及び条件に準じて他の金属酸化物薄膜についても同様にして表面微構造を制御することが可能である。尚、紫外線照と電場印加を併せて行う方法以外の実施例は、参考実施例(参考例)として示すものである。
(1)方法
ジルコニウムテトラ−n−ブトキシド(Zr(O−n−C又はZr(O−n−Bu))と4−フェニルアゾ安息香酸(CN=NCCOOH)のモル比が1:1になるように原料調製を行い、これを、N雰囲気下のグローブボックス中で、2−メトキシエタノールと混合撹拌し、80℃のオイルバス中で反応させ、原料が完全に溶解した時点で反応終了とした。室温まで冷却し、そのまま一晩静置後、これを薄膜作製用の前駆体溶液とした。
この溶液に、Si(100)基板を浸漬し、ディップコーティングを行った。基板を引き上げ後、そのまま5分風乾し、150℃で2分乾燥した。その後、350℃で10分間仮焼し、650℃で10分間急速加熱処理を行った。このコーティングから焼成までの過程をこのまま5回繰り返し、原子間力顕微鏡(AFM,SPI3800N,Seiko Instruments,Inc.,Tokyo,Japan)により、得られた薄膜の表面の観察評価を行った。
(2)結果
図1に、合成したフォトクロミックなジルコニア前駆体溶液を用いて、電場印加0v/mm、紫外線照射なしで650℃で作製した薄膜の表面の観察図を示した。表面粒子径は13nmで、表面粗度(RMS)が0.98nmの平滑な膜であることが確認された。
(1)方法
ジルコニウムテトラ−n−ブトキシド(Zr(O−n−C又はZr(O−n−Bu))と4−フェニルアゾ安息香酸(CN=NCCOOH)のモル比が1:1になるように原料調製を行い、これを、N雰囲気下のグローブボックス中で、2−メトキシエタノールと混合撹拌し、80℃のオイルバス中で反応させ、原料が完全に溶解した時点で反応終了とした。室温まで冷却し、そのまま一晩静置後、これを薄膜作製用の前駆体溶液とした。
この溶液を撹拌しながら、N雰囲気下で、超高圧水銀灯(multilight UIV−270,Ushio Co.Ltd.,Tokyo,Japan)とガラスフィルター(Corning Glass Works,Corning,New York, U.S.A.,C.S.No.737)を用いて、分光した320〜390nmの紫外線を15分間照射した。引き続いて、この溶液に紫外線を照射しながらSi(100)基板を浸漬し、ディップコーティングを行った。
紫外線を照射し続けながら、基板を引き上げ、そのまま5分風乾し、150℃で2分乾燥し、350℃で10分間仮焼した。その後、紫外線照射をせずに、650℃で10分間急速加熱処理を行った。このコーティングから焼成までの過程をこのまま5回繰り返し、原子間力顕微鏡(AFM,SPI3800N,Seiko Instruments,Inc.,Tokyo,Japan)により、得られた薄膜の表面の観察評価を行った。
(2)結果
図2に、合成したフォトクロミックなジルコニア前駆体溶液を用いて、電場印加0v/mm、紫外線を照射しながら作製した、650℃で焼成後の薄膜の表面の観察図を示した。表面粒子径は23nmで、表面粗度(RMS)が0.77nmの膜であり、紫外線を照射せずに作製した膜と同様に、表面平滑な膜であることが分かった。
(1)方法
ジルコニウムテトラ−n−ブトキシド(Zr(O−n−C又はZr(O−n−Bu))と4−フェニルアゾ安息香酸(CN=NCCOOH)のモル比が1:1になるように原料調製を行い、これを、N雰囲気下のグローブボックス中で、2−メトキシエタノールと混合撹拌し、80℃のオイルバス中で反応させ、原料が完全に溶解した時点で反応終了とした。室温まで冷却し、そのまま一晩静置後、これを薄膜作製用の前駆体溶液とした。
1mmの間隔で平行にセットした2枚のSi(100)基板に、10v/mmの電圧を印加し、これを前述の前駆体溶液に5分間浸漬した。電圧を印加しながら、基板を引き上げ後、そのまま5分間風乾した。その後、電場印加を止めて150℃で2分乾燥し、350℃で10分間仮焼し、650℃で10分間急速加熱処理を行った。このコーティングから焼成までの過程をこのまま5回繰り返し、原子間力顕微鏡(AFM,SPI3800N,Seiko Instruments,Inc.,Tokyo,Japan)により、得られた薄膜の表面の観察評価を行った。
(2)結果
図3に、合成したフォトクロミックなジルコニア前駆体溶液を用いて、10v/mmの電場印加、紫外線照射なしで、650℃で作製した薄膜の表面の観察図を示した。図3(a)は、+側の基板の表面観察図である。表面粒子径は260nmで、表面粗度(RMS)は3.91nmで、粒子が大きく成長したラフな膜であることが確認された。
また、図3(b)は、−側の基板の表面観察図であるが、+側の基板よりも表面粒子が140nmと小さく、RMSも1.66nmと+側よりも粗度は小さかった。しかし、+極、−極ともに、電場を印加することにより、電場を印加しない場合よりも、粒子が大きく成長し、表面がラフな膜になることが明らかとなった。
(1)方法
ジルコニウムテトラ−n−ブトキシド(Zr(O−n−C又はZr(O−n−Bu))と4−フェニルアゾ安息香酸(CN=NCCOOH)のモル比が1:1になるように原料調製を行い、これを、N雰囲気下のグローブボックス中で、2−メトキシエタノールと混合撹拌し、80℃のオイルバス中で反応させ、原料が完全に溶解した時点で反応終了とした。室温まで冷却し、そのまま一晩静置後、これを薄膜作製用の前駆体溶液とした。
この溶液を撹拌しながら、N雰囲気下で、超高圧水銀灯(multilight UIV−270,Ushio Co.Ltd.,Tokyo,Japan)とガラスフィルター(Corning Glass Works,Corning,New York, U.S.A.,C.S.No.737)を用いて、分光した320〜390nmの紫外線を15分間照射した。引き続いて、1mmの間隔で平行にセットした2枚のSi(100)基板に、10v/mmの電圧を印加し、これを前述の前駆体溶液に、紫外線を照射しながら5分間浸漬した。
紫外線を照射し続けながら、そして電場を印加しながら、基板を引き上げ後、そのまま5分間風乾した。その後、紫外線は照射し続けたまま、電場印加のみを止めて、150℃で2分乾燥し、350℃で10分間仮焼を行った。その後、紫外線照射も止めて、650℃で10分間急速加熱処理を行った。このコーティングから焼成までの過程をこのまま5回繰り返し、原子間力顕微鏡(AFM,SPI3800N,Seiko Instruments,Inc.,Tokyo,Japan)により、得られた薄膜の表面の観察評価を行った。
(2)結果
図4に、合成したフォトクロミックなジルコニア前駆体溶液を用いて、10v/mmの電場印加、紫外線照射を照射しながら、650℃で作製した薄膜の表面観察図を示した。図4(a)は、+側の基板の表面観察図である。表面粒子径は17nmで、表面粗度(RMS)が1.12nmの表面平滑な膜であることが確認された。
また、図(b)は、−側の基板の表面観察図であるが、表面粒子径は25nm、RMSも0.69nmと+側基板と同様の表面平滑な膜であることが分かった。このように、10v/mmの電場をかけた場合、+極、−極ともに、紫外線を照射することにより、照射しない場合とは違い、粒子が小さく、表面が平滑な膜になることが明らかとなった。
(1)方法
ジルコニウムテトラ−n−ブトキシド(Zr(O−n−C又はZr(O−n−Bu))と4−フェニルアゾ安息香酸(CN=NCCOOH)のモル比が1:1になるように原料調製を行い、これを、N雰囲気下のグローブボックス中で、2−メトキシエタノールと混合撹拌し、80℃のオイルバス中で反応させ、原料が完全に溶解した時点で反応終了とした。室温まで冷却し、そのまま一晩静置後、これを薄膜作製用の前駆体溶液とした。
1mmの間隔で平行にセットした2枚のSi(100)基板に、35v/mmの電圧を印加し、これを前述の前駆体溶液に5分間浸漬した。電圧を印加しながら、基板を引き上げ後、そのまま5分間風乾した。その後、電場印加を止めて、150℃で2分乾燥し、350℃で10分間仮焼し、650℃で10分間急速加熱処理を行った。このコーティングから焼成までの過程をこのまま5回繰り返し、原子間力顕微鏡(AFM,SPI3800N,Seiko Instruments,Inc.,Tokyo,Japan)により、得られた薄膜の表面の観察評価を行った。
(2)結果
図5に、合成したフォトクロミックなジルコニア前駆体溶液を用いて、35v/mmの電場印加、紫外線照射なしで650℃で、作製した薄膜の表面観察図を示した。図5(a)は、+側の基板の表面観察図である。表面粒子径は445nmで、表面粗度(RMS)は8.66nmで、粒子が大きく成長したラフな膜であることが確認された。
また、図5(b)は、−側の基板の表面観察図であるが、+側の基板と同様、粒子が340nmと大きく、RMSも6.19nmと表面がラフな膜であることが分かった。紫外線を照射しない場合、+極、−極ともに、高い電場を印加するほど、粒子が大きく成長し、表面がラフな膜になることが明らかとなった。
(1)方法
ジルコニウムテトラ−n−ブトキシド(Zr(O−n−C又はZr(O−n−Bu))と4−フェニルアゾ安息香酸(CN=NCCOOH)のモル比が1:1になるように原料調製を行い、これを、N雰囲気下のグローブボックス中で、2−メトキシエタノールと混合撹拌し、80℃のオイルバス中で反応させ、原料が完全に溶解した時点で反応終了とした。室温まで冷却し、そのまま一晩静置後、これを薄膜作製用の前駆体溶液とした。
この溶液を撹拌しながら、N雰囲気下で、超高圧水銀灯(multilight UIV−270,Ushio Co.Ltd.,Tokyo,Japan)とガラスフィルター(Corning Glass Works,Corning,New York,U.S.A.,C.S.No.737)を用いて、分光した320nm〜390nmの紫外線を15分間照射した。引き続いて、1mmの間隔で平行にセットした2枚のSi(100)基板に35v/mmの電圧を印加し、これを前述の前駆体溶液に、紫外線を照射しながら、5分間浸漬した。
紫外線を照射し続けながら、そして電圧を印加しながら、基板を引き上げ後、そのまま5分間風乾した。その後、紫外線は照射し続けたまま、電場印加のみを止めて、150℃で2分乾燥し、350℃で10分間仮焼を行った。その後、紫外線照射も止めて、650℃で10分間急速加熱処理を行った。このコーティングから焼成までの過程をこのまま5回繰り返し、原子間力顕微鏡(AFM,SPI3800N,Seiko Instruments,Inc.,Tokyo,Japan)により、得られた薄膜の表面観察評価を行った。
(2)結果
図6に、合成したフォトクロミックなジルコニア前駆体溶液を用いて、35v/mmの電場印加、紫外線照射を照射しながら、650℃で作製した薄膜の表面観察図を示した。図6(a)は、+側の基板の表面観察図である。表面粒子径は23nmで表面粗度(RMS)が1.15nmの表面平滑な膜であることが確認された。
また、図6(b)は、−側の基板の表面観察図であるが、表面粒子径は26nm、RMSも1.15nmと+側基板と同様の表面平滑な膜であることが分かった。このように、紫外線を照射した場合には、35v/mmの高い電場をかけた場合でも、+極、−極ともに、粒子が小さい、表面が平滑な膜のままであることが明らかとなった。
以上の結果から、フォトクロミックな金属酸化物前駆体溶液を用いて薄膜を作製する場合、薄膜作製プロセス中における紫外線照射の有無、電場印加の有無及び程度により、焼成後の薄膜の表面微構造を制御できることが分かった。これは、紫外線照射の有無によって前駆体分子の構造が制御でき、電場印加の有無及び程度によって基板への前駆体分子吸着の方向性、吸着量が制御でき、結果として、前駆体分子の加水分解、縮重合反応の方向性を制御できたためによると考えられる(図7参照)。
以上詳述したように、本発明は、表面微構造を制御した金属酸化物薄膜の製造方法及びその金属酸化物薄膜に係るものであり、本発明は、光化学反応を積極的に取り入れて調製したフォトクロミックな金属酸化物前駆体溶液と電場印加ないし紫外線照射及び電場印加を用いることを特徴とする、新規な金属酸化物薄膜の製造方法を提供することを可能とする。また、本発明により、薄膜作製プロセス中において、電場印加ないし紫外線照射と電場印加の効果を利用することを特徴とする、新規な金属酸化物薄膜の表面微構造制御方法を提供することができる。本発明は、表面微構造を制御した金属酸化物薄膜からなる高機能性セラミック製造のための基盤技術に関するものであり、作製された表面微構造を制御した金属酸化物薄膜は、金属酸化物薄膜部材、例えば、高誘電率絶縁部材、強誘電体メモリ、集積化圧電デバイス、集積型センサー等としての用途への適用が可能である。
合成したフォトクロミックなジルコニア前駆体溶液を用いて、電場印加0v/mm、紫外線照射なしで、650℃で作製した薄膜の表面観察図を示す。 合成したフォトクロミックなジルコニア前駆体溶液を用いて、電場印加0v/mm、紫外線を照射しながら作製した、650℃で焼成後の薄膜の表面観察図を示す。 合成したフォトクロミックなジルコニア前駆体溶液を用いて、10v/mmの電場印加、紫外線照射はなしで、650℃で作製した薄膜の表面観察図を示す。(a)は、+側の基板の表面観察図、(b)は、−側の基板の表面観察図である。 合成したフォトクロミックなジルコニア前駆体溶液を用いて、10v/mmの電場印加、紫外線照射を照射しながら、650℃で作製した薄膜の表面観察図を示す。(a)は、+側の基板の表面観察図、(b)は、−側の基板の表面観察図である。 合成したフォトクロミックなジルコニア前駆体溶液を用いて、35v/mmの電場印加、紫外線照射はなしで、650℃で作製した薄膜の表面観察図を示す。(a)は、+側の基板の表面観察図、(b)は、−側の基板の表面観察図である。 合成したフォトクロミックなジルコニア前駆体溶液を用いて、35v/mmの電場印加、紫外線照射を照射しながら、650℃で作製した薄膜の表面観察図を示す。(a)は、+側の基板の表面観察図、(b)は、−側の基板の表面観察図である。 +に電場印加した基板上へのフォトクロミックなジルコニア前駆体分子の吸着の予想図を示す。

Claims (9)

  1. フォトクロミックな金属酸化物前駆体溶液を用いて基板に金属酸化物薄膜を作製する過程でその表面微構造を制御する方法であって、該薄膜作製過程において導電性基板へ電場印加し、フォトクロミックな金属酸化物前駆体溶液へ紫外線を照射しながらディップコーティング、乾燥、仮焼、そして急速加熱処理して製膜することを特徴とする、金属酸化物薄膜の表面微構造制御方法。
  2. 金属酸化物が、ZrO、Al、MgO、SiO、TiO、SnO、HfO、CeO、Yから選択される1種である、請求項1に記載の金属酸化物薄膜の表面微構造制御方法。
  3. 2枚の導電性基板を電極として電場を印加しながら、フォトクロミックな金属酸化物前駆体溶液に基板を浸漬する、請求項1に記載の金属酸化物薄膜の表面微構造制御方法。
  4. 紫外線を照射したフォトクロミックな金属酸化物前駆体溶液に基板を浸漬して、紫外線を照射しながらディップコーティングし、その後、紫外線を照射せずに急速加熱処理を行って製膜する、請求項に記載の金属酸化物薄膜の表面微構造制御方法。
  5. 電場印加中、電流が流れない非電解質溶液からなる前駆体溶液を使って製膜する、請求項1からのいずれかに記載の金属酸化物薄膜の表面微構造制御方法。
  6. フォトクロミックな金属酸化物前駆体溶液を用いて基板に表面微構造が制御された金属酸化物薄膜を製造する方法であって、導電性基板を電極として電場を印加しながら、該電場印加と併せて、紫外線を照射したフォトクロミックな金属酸化物前駆体溶液に基板を浸漬して、紫外線を照射しながらディップコーティング、乾燥、仮焼、そして急速加熱処理して製膜することを特徴とする、金属酸化物薄膜の製造方法。
  7. 光照射によって可逆的にシスートランス光異性化反応を起こすフォトクロミックな金属酸化物前駆体分子を用いて製膜する、請求項に記載の金属酸化物薄膜の製造方法。
  8. フォトクロミックな金属酸化物前駆体溶液に320〜390nmの紫外光を照射して製膜する、請求項に記載の金属酸化物薄膜の製造方法。
  9. 電場印加中、電流が流れない非電解質溶液からなる前駆体溶液を使って製膜する、請求項からのいずれかに記載の金属酸化物薄膜の製造方法。
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