JP5234532B2 - 紫外線照射により表面微構造を制御した金属酸化物薄膜の製造方法及びその金属酸化物薄膜 - Google Patents

紫外線照射により表面微構造を制御した金属酸化物薄膜の製造方法及びその金属酸化物薄膜 Download PDF

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本発明は、表面微構造を制御した金属酸化物膜に関するものであり、更に詳しくは、フォトクロミックな金属酸化物前駆体溶液と紫外線照射を用いた新規な金属酸化物膜の製造方法とその表面微構造を紫外線照射により制御する方法に関するものである。本発明は、高機能セラミック製造のための、例えば、強誘電体メモリ用バッファー層や酸素センサー等に適した表面微構造を有する金属酸化物セラミック膜の製造方法に係るものであり、光化学反応を積極的に取り入れて調製したフォトクロミックな金属酸化物前駆体溶液と、紫外線照射を用いた新規な金属酸化物膜の製造方法、並びに膜作製プロセス中において紫外線照射の効果を利用した、新規な金属酸化物膜の表面微構造制御技術を提供するものである。本明細書において、薄膜とは、基板を金属酸化物前駆体溶液に浸漬し、ディップコーティングを行い、その後、基板の引き上げと乾燥処理を行う過程で製膜した膜のことを意味するものであり、本明細書では、上記過程で製膜した膜を、「膜」又は「薄膜」と記載することがある。
セラミック膜(以下、この種の膜を、薄膜と記載することがある。)の中でも、例えば、ジルコニア(ZrO)薄膜は、強誘電体メモリ用のバッファー層や酸素センサー等として広く利用されている応用範囲の広い材料である。該ジルコニア(ZrO)薄膜を、バッファー層として用いる場合には、上部層に積層する機能性薄膜に対して最適な配向性を有し、結晶性が良く、より平滑、均質で薄い膜が望まれており、一方、これに対し、センサーとして用いる場合には、多孔質で、より比表面積の大きな膜が望まれている。
そこで、当技術分野では、より効率良く、簡便に、金属酸化物薄膜の結晶性及び表面微構造を制御する方法を開発することが要請されていた。これまでに、本発明者らは、強誘電体メモリ用のビスマス系層状ペロブスカイトSrBiTa(SBT)薄膜において、SBTトリプルアルコキシドからこの薄膜を作製するプロセス中に紫外線照射の過程を導入することによって、より効率良く、簡便に、結晶化後の薄膜の結晶性、結晶配向性、及び表面の平滑性を制御できることを見出してきた(特許文献1参照)。
また、ZrO薄膜の製造に関して、本発明者らは、光感応性有機物を前駆体溶液中に添加し、ZrO薄膜の製造プロセス中で光化学反応を行わせることにより、より効率良く、簡便に、更に、より低エネルギーかつ低温で、ZrO薄膜の結晶性及び表面微構造を制御できることを見出してきた(特許文献2参照)。
更に、本発明者らは、金属−酸素−金属のネットワークからなる金属−酸素系無機ゲル前駆体と相互作用することのできる有機フォトクロミック化合物を無機ゲル前駆体溶液中に添加し、適切な波長の光を照射することによって、より効率良く、簡便に、金属−酸素系無機ゲル前駆体溶液の構造を可逆的に変化させることができる方法を見出した(特許文献3参照)。
しかるに、本発明に関連する先行技術として、例えば、フォトクロミック性を有する酸化チタン油性分散体及び親油性酸化チタン粉体、並びにフォトクロミック性を有する皮膜形成性組成物の製造方法に係る報告例がある(特許文献4)。また、フォトクロミズムを示す有機低分子ゲルと金属酸化物からなる有機無機複合体の製造方法に係る報告例がある(特許文献5)。しかし、これまで、金属酸化物前駆体のフォトクロミック性と紫外線照射の効果を利用した金属酸化物薄膜の製造方法、並びに、紫外線照射の効果を利用して、その表面微構造を制御する方法に関する報告例は見当たらない。
特開2002−231918号公報(特許第3845718号) 特開2004−224603号公報 特開2005−206390号公報 特開2001−200195号公報 特開2001−139580号公報
このような状況の中で、本発明者らは、上記従来技術に鑑みて、表面微構造を制御した金属酸化物薄膜及びその製造方法を開発することを目標として鋭意研究を重ねた結果、上記した金属酸化物の前駆体となり得るフォトクロミックな金属−酸素−金属のネットワークからなる金属−酸素系無機ゲル前駆体溶液と、紫外線照射を用いた新規な金属酸化物薄膜の製造方法と、その薄膜の表面微構造を紫外線照射の効果を利用することによって、効率良く、簡便に制御できる方法の開発に成功し、本発明を完成するに至った。
本発明は、光化学反応を積極的に取り入れて調製したフォトクロミックな金属酸化物前駆体溶液と、紫外線照射を用いた新規な表面微構造を制御した金属酸化物薄膜の製造方法、並びに薄膜作製プロセス中において、紫外線照射の効果を利用した、新規な金属酸化物薄膜の表面微構造制御方法及び表面微構造を制御した金属酸化物薄膜を提供することを目的とするものである。
上記課題を解決するための本発明は、以下の技術的手段から構成される。
(1)フォトクロミックな金属酸化物前駆体溶液を用いて基板に金属酸化物膜を作製する過程でその表面微構造を制御する方法であって、該金属酸化物前駆体溶液を用いて、ディップコーティング、乾燥、仮焼、そして100℃/秒以上の昇温速度で急速加熱処理して製膜することを特徴とする、金属酸化物膜の表面微構造制御方法。
(2)フォトクロミックな金属酸化物前駆体溶液へ紫外線を照射する、前記(1)に記載の金属酸化物膜の表面微構造制御方法。
(3)金属酸化物が、ZrO、Al、MgO、SiO、TiO、SnO、HfO、CeO、Yから選択される1種である、前記(1)又は(2)に記載の金属酸化物膜の表面微構造制御方法。
(4)紫外線を照射したフォトクロミックな金属酸化物前駆体溶液に基板を浸漬して、紫外線を照射しながらディップコーティング、乾燥、仮焼し、その後、紫外線を照射せずに100℃/秒以上の昇温速度で急速加熱処理を行って製膜する、前記(2)に記載の金属酸化物膜の表面微構造制御方法。
(5)フォトクロミックな金属酸化物前駆体溶液を用いて基板に表面微構造が制御された金属酸化物膜を製造する方法であって、フォトクロミックな金属酸化物前駆体溶液へ紫外線を照射しながら、フォトクロミックな金属酸化物前駆体溶液に基板を浸漬して、ディップコーティング、乾燥、仮焼、そして100℃/秒以上の昇温速度で急速加熱処理して製膜することを特徴とする、金属酸化物膜の製造方法。
(6)紫外線を照射したフォトクロミックな金属酸化物前駆体溶液に基板を浸漬して、紫外線を照射しながらディップコーティング、乾燥、仮焼し、その後、紫外線を照射せずに100℃/秒以上の昇温速度で急速加熱処理を行って製膜する、前記(5)に記載の金属酸化物膜の製造方法。
(7)光照射によって可逆的にシスートランス光異性化反応を起こすフォトクロミックな金属酸化物前駆体分子を用いて製膜する、前記(5)に記載の金属酸化物膜の製造方法。
(8)フォトクロミックな金属酸化物前駆体溶液に320〜390nmの紫外光を照射して製膜する、前記(5)に記載の金属酸化物膜の製造方法。
(9)フォトクロミックな金属酸化物前駆体溶液を用いて作製された、表面微構造が制御された金属酸化物膜であって、表面の微構造について、表面粒子径及び表面粗度(RMS)がナノサイズ範囲で均質に制御されている、表面が平滑又はラフな膜であることを特徴とする金属酸化物膜
(10)金属酸化物が、ZrO、Al、MgO、SiO、TiO、SnO、HfO、CeO、Yから選択される1種である、前記(9)に記載の金属酸化物膜
(11)前記(9)又は(10)に記載の金属酸化物膜からなることを特徴とする金属酸化物膜部材。
次に、本発明について更に詳細に説明する。
本発明は、フォトクロミックな金属酸化物前駆体溶液を用いて基板に金属酸化物薄膜を作製する過程でその表面微構造を制御する方法であって、該薄膜作製過程において基板へ紫外線照射し、ディップコーティング、乾燥、仮焼、そして急速加熱処理して製膜することを特徴とするものである。
また、本発明は、フォトクロミックな金属酸化物前駆体溶液を用いて基板に表面微構造を制御した金属酸化物薄膜を製造する方法であって、紫外線を照射しながら、フォトクロミックな金属酸化物前駆体溶液に基板を浸漬して、ディップコーティング、乾燥、仮焼、そして急速加熱処理して製膜することを特徴とするものである。
更に、本発明は、フォトクロミックな金属酸化物前駆体溶液を用いて作製した表面微構造を制御した金属酸化物薄膜であって、表面粒子径及び表面粗度(RMS)の表面微構造がナノサイズ範囲で高精度に均質に制御された構造を有し、例えば、表面粗度(RMS)が0.51〜0.89nmの平滑な膜であることを特徴とするものである。
本発明は、光化学反応を積極的に取り入れて調製したフォトクロミックな金属酸化物前駆体溶液と紫外線照射を用いた、新規な金属酸化物薄膜の製造方法、並びに薄膜作製プロセス中において紫外線照射の効果を利用した、新規な金属酸化物薄膜の表面微構造制御方法の点に特徴を有するものである。
本発明において、先ず、金属酸化物前駆体溶液を調製するために用いる金属アルコキシドとしては、例えば、ジルコニウムテトラブトキシド、ジルコニウムテトラプロポキシド、ジルコニウムテトラエトキシド等が挙げられるが、特に、光照射効果が著しく、反応速度が遅いジルコニウムテトラ−n−ブトキシドが好適なものとして例示される[文献:1)K.Nishizawa, T.Miki, K.Suzuki and K.Kato, Key Eng. Mater., 147,228 (2002)、2)Y. Masuda, T. Sugiyama, H. Lin, W.S. Seo, K. Koumoto, Thin Solid Films, 382,153 (2001)参照]。更に、本発明では、テトラエトキシシラン、アルミニウムイソプロポキシド等、他の同様の金属アルコキシドを用いることができる。
次に、上記金属アルコキシドに添加する有機フォトクロミック化合物としては、光照射によって可逆的に分子構造変化を起こすものが良く、例えば、光照射によって、可逆的にシスートランス異性化反応を起こす化合物であるスチルベンやチオインジゴ等が挙げられるが、特に、その一つであるアゾベンゼン系化合物の4−フェニルアゾ安息香酸、分子末端にカルボキシル基が置換したスチルベン系化合物等が好適なものとして例示される。しかし、これらに制限されるものではなく、光照射によって可逆的に分子構造変化を起こすものであれば同様に使用することができる。
更に、これに加えて、有機フォトクロミック化合物は、上記アルコキシドと相互作用するために官能基を有することが必要である。例えば、アゾベンゼンのフェニル基にカルボキシル基を有する4−フェニルアゾ安息香酸が好適なものとして例示されるが、これに制限されるものではなく、上記アルコキシドと相互作用する官能基を有するものであれば同様に使用することができる。
また、フォトクロミック化合物の添加量は、アルコキシドとの相互作用に影響を与え、添加量が多いほど無機ゲルの構造変化を大きく誘起できる傾向にある。しかし、フォトクロミック化合物の種類によっては、添加量が多くなると沈殿を生じたり、結晶化や凝集を起こすために相分離をもたらすものがあるため、注意が必要である。また、添加量が多すぎると、溶液の液性が変化する可能性があるため、注意が必要である。
用いる有機溶媒としては、上記アルコキシド、及びフォトクロミック化合物を溶解することができ、かつ、反応生成物である前駆体分子が沈殿することなく安定に存在し得るものであれば良く、例えば、2−メトキシエタノールが好適なものとして例示される。しかし、これに制限されるものではなく、これと同効のものであれば同様に使用することができ、1−ブタノール、メタノール等のアルコール系溶媒が例示される。ただし、用いる溶媒によって溶解度が異なるため、取り扱いには注意が必要である。
上述したアルコキシド、フォトクロミック化合物の原料、有機溶媒を用いて、これらを所定の温度で反応させてフォトクロミックな金属酸化物前駆体溶液を調製するが、この場合、反応が進みすぎると、目的とする分子を合成することができなくなるため、反応温度、時間には注意が必要である。
例えば、固体原料であるジルコニウム−n−ブトキシドと4−フェニルアゾ安息香酸を2−メトキシエタノール中で反応させる場合においては、80℃程度の温度で反応させ、両固体が完全に溶解したタイミングで反応終了とすることが必要である。
次に、上記のように調製した前駆体溶液を用いて薄膜を作製する。この場合、基板へのコーティング方法としては、例えば、ディップコーティング、スピンコーティング、印刷法等の方法があるが、本発明においては、前駆体溶液に紫外線を照射し続ける必要があることから、それに好適なディップコーティング法が使用される。
用いる基板としては、焼成時の高温に耐え得る材質であることが必要であり、例えば、シリコン、金属、金属酸化物単結晶等が好適なものとして例示される。しかし、これらに制限されるものではなく、耐熱性を有する材質の基板であれば同様に使用することができる。基板の大きさに関しては、例えば、10×40mm以上の大きさが好適である。
次に、薄膜作製プロセスについて説明する。基板を、前述のように調製した金属酸化物前駆体溶液に浸漬し、ディップコーティングを行う。その後、基板の引き上げと乾燥処理を行うが、例えば、2−メトキシエタノールを用いた場合において、数分間、例えば、5分間の風乾時間は必要である。続いて、乾燥を行うが、その場合、例えば、150℃の温度で2分程度の乾燥を行うことが好ましい。
続いて、仮焼処理を行うが、この時の温度としては、前駆体中のアルコキシドが分解、縮重合し、金属−酸素−金属のユニットが効率良く形成できる温度が必要であり、例えば、金属アルコキシドとして、ジルコニウム−n−ブトキシドを用いた場合には、350℃程度が好適である。仮焼処理の温度条件は、原料の種類に応じて適宜設定することができる。
更に、薄膜作製の過程で紫外線照射を行う場合において、アゾベンゼン系のフォトクロミック化合物を用いた場合には、使用する光源としては、波長領域が250nmから400nm付近の紫外光を放出する光源であれば良く、例えば、超高圧水銀灯を用い、適切なガラスフィルターで分光する方法が好適なものとして例示される。しかし、これに制限されるものではなく、本発明では、紫外線照射可能な光源であれば同様に使用することができる。
また、他のフォトクロミック化合物を使う場合には、その化合物に好適な波長の光を照射することが望まれる。用いるフォトクロミック化合物に好適な波長の光を照射できる光源を適宜選択して使用する。
また、紫外線照射の際には、ディップコーティング前の前駆体溶液にあらかじめ紫外線照射を行うが、前駆体分子の構造変化を効果的に発現させるために、例えば、アゾベンゼン系のフォトクロミック化合物を用いた場合には、15分間以上の照射時間が望ましい。紫外線照射の照射条件は、フォトクロミック化合物の種類に応じて適宜設定することができる。
更に、紫外線照射中の前駆体溶液への基板の浸漬後、前駆体分子の戻り反応を抑制するために、基板の引き上げ過程、乾燥過程、及び仮焼過程においても、好適には、紫外線を照射し続けることが必要である。
続いて、仮焼処理後、酸素気流中で本焼成を行うが、この過程においては、副反応を抑えるために、急速昇温、例えば、100℃/秒程度の急速昇温が必要であり、結晶化温度としては、例えば、アゾベンゼン系の化合物を用いた場合には、分子内の有機物を完全に分解するために、650℃以上の焼成温度が必要である。これらの条件は、原料の種類に応じて好適な条件に適宜設定する。
本発明の方法は、一例として、例えば、ZrO薄膜の場合に好適に用いられるが、これに制限されるものではなく、ZrO薄膜の場合と同様にして、好適には、例えば、Al、MgO、SiO、TiO、SnO、HfO、CeO、Y等に代表される金属酸化物薄膜の場合に、広く適用することが可能である。
このように、本発明は、フォトクロミズムを示す金属酸化物前駆体溶液を原料として用いて、薄膜作製プロセスにおいて、紫外線照射の過程を加えるだけで、焼成後の金属酸化物薄膜の表面微構造を簡便に制御することが可能であり、表面微構造の制御方法としては、手段の簡便性と効果の顕著性に鑑みて、これまでにない画期的な方法であると云える。
従来、フォトクロミック化合物を無機ゲル前駆体溶液中に添加し、金属−酸素系無機ゲル前駆体溶液の構造を可逆的に変化させる方法や、フォトクロミック性を有する酸化チタン油性分散体及び親油性酸化チタン粉体並びにフォトクロミック性を有する皮膜形成性組成物の製造方法や、フォトクロミズムを示す有機低分子ゲルと金属酸化物からなる有機無機複合体の製造方法等が提案されているが、これらは、金属酸化物薄膜の表面微構造を制御する技術を示すものではない。
これに対し、本発明は、フォトクロミズムを示す金属酸化物前駆体溶液を原料として用いて、薄膜作製プロセスにおいて、紫外線照射を行うことで、焼成後の金属酸化物薄膜の表面微構造を簡便に制御することを可能とする新規な表面微構造を制御した金属酸化物薄膜の製造方法、並びに新規な金属酸化物の表面微構造の制御方法を提供するものである。
本発明では、薄膜作製の過程で、紫外線照射をした場合には、粒子が小さく、表面が平滑な膜が形成される。一方、紫外線を照射しないで、粒子を成長させて表面がラフな膜を作製することが可能であり、紫外線照射の条件を種々変更することで所望の粒子径及び表面粗度をナノサイズ範囲で制御した均質の表面微構造を持つ金属酸化物薄膜及びその部材を製造し、提供することが可能となる。
本発明では、例えば、上記方法により紫外線照射の有無、程度を調節し、表面微構造を制御して、表面粒子径及び表面粗度(RMS)をナノサイズ範囲で均質に制御した表面が平滑な金属酸化物薄膜を製造することができる。しかし、表面粒子径及び表面粗度は、これらに制限されるものではなく、その使用目的及び用途に応じて、表面粒子径及び表面粗度を任意のナノサイズ範囲に高精度に制御した表面が平滑又はラフな金属酸化物薄膜を作製し、提供することができる。
本発明により、次のような効果が奏される。
(1)本発明は、光化学反応を積極的に取り入れて調製したフォトクロミックな金属酸化物前駆体溶液と紫外線照射を用いることを特徴とする、新規な表面微構造を制御した金属酸化物薄膜の製造方法を提供することができる。
(2)薄膜作製プロセス中において、紫外線照射の効果を利用することを特徴とする、新規な金属酸化物薄膜の表面微構造制御方法を提供することができる。
(3)金属酸化物薄膜作製用前駆体分子の構造を精密に制御することを特徴とする新規な金属酸化物薄膜の表面微構造制御方法を提供することができる。
(4)本発明により、表面微構造を高精度に制御した金属酸化物薄膜からなる高機能性セラミックの作製プロセスの効率化を図ることが可能であり、それにより、機能性集積材料等の開発に大きく貢献することが期待できる。
次に、実施例に基づいて本発明を具体的に説明するが、本発明は、以下の実施例によって何ら限定されるものではなく、実施例に具体的に示した方法及び条件に準じて他の金属酸化物薄膜についても同様にして表面微構造を制御することが可能である。
(1)方法
ジルコニウムテトラ−n−ブトキシド(Zr(O−n−C又はZr(O−n−Bu))と4−フェニルアゾ安息香酸(CN=NCCOOH)のモル比が1:1になるように原料調製を行い、これを、N雰囲気下のグローブボックス中で、2−メトキシエタノールと混合撹拌し、80℃のオイルバス中で反応させ、原料が完全に溶解した時点で反応終了とした。室温まで冷却し、そのまま一晩静置後、これを薄膜作製用の前駆体溶液とした。
この溶液に、Si(100)基板を浸漬し、ディップコーティングを行った。基板を引き上げ後、そのまま5分風乾し、150℃で2分乾燥した。その後、350℃で10分間仮焼し、650℃で10分間急速加熱処理を行った。このコーティングから焼成までの過程をこのまま5回繰り返し、原子間力顕微鏡(AFM,SPI3800N,Seiko Instruments,Inc.,Tokyo,Japan)により、得られた薄膜の表面の観察評価を行った。
(2)結果
図1に、合成したフォトクロミックなジルコニア前駆体溶液を用いて、紫外線照射なしで650℃で作製した薄膜の表面観察図を示した。表面粒子径は13nmで、表面粗度(RMS)が0.89nmの平滑な膜であることが確認された。
(1)方法
ジルコニウムテトラ−n−ブトキシド(Zr(O−n−C又はZr(O−n−Bu))と4−フェニルアゾ安息香酸(CN=NCCOOH)のモル比が1:1になるように原料調製を行い、これを、N雰囲気下のグローブボックス中で、2−メトキシエタノールと混合撹拌し、80℃のオイルバス中で反応させ、原料が完全に溶解した時点で反応終了とした。室温まで冷却し、そのまま一晩静置後、これを薄膜作製用の前駆体溶液とした。
この溶液を撹拌しながら、N雰囲気下で、超高圧水銀灯(multilight UIV−270,Ushio Co.Ltd.,Tokyo,Japan)とガラスフィルター(Corning Glass Works,Corning,New York, U.S.A.,C.S.No.737)を用いて、分光した320〜390nmの紫外線を15分間照射した。引き続いて、この溶液に紫外線を照射しながらSi(100)基板を浸漬し、ディップコーティングを行った。
紫外線を照射し続けながら、基板を引き上げ、そのまま5分風乾し、150℃で2分乾燥し、350℃で10分間仮焼した。その後、紫外線照射をせずに、650℃で10分間急速加熱処理を行った。このコーティングから焼成までの過程をこのまま5回繰り返し、原子間力顕微鏡(AFM,SPI3800N,Seiko Instruments,Inc.,Tokyo,Japan)により、得られた薄膜の表面の観察評価を行った。
(2)結果
図2に、合成したフォトクロミックなジルコニア前駆体溶液を用いて、紫外線を照射しながら作製した650℃で焼成後の薄膜の表面観察図を示した。表面粒子径は23nmで表面粗度(RMS)が0.51nmの膜であり、紫外線を照射せずに作製した膜の表面微構造と違っていることが確認された。この結果は、紫外線照射の有無によって前駆体分子の構造が変化することに起因するものであると考えられた。
図3に、密度汎関数法によって求めた、合成したフォトクロミックなジルコニア前駆体分子の最適化構造を示した。ここでは、計算を簡略化するために、ジルコニウム−n−ブトキシドではなく、ジルコニウムメトキシドを原料として用いた場合の結果を示した。最適化された分子の構造は、アルコキシドが2分子と4−フェニルアゾ安息香酸2分子からなるものであり、アゾベンゼンユニットはトランス体の状態のまま、2個の金属ジルコニウムと2つのカルボキシル基が反応してできた、対照性の良い構造をしていることが確認された(以下、トランス体と記載)。また、中心部分の金属−酸素−金属の無機のネットワークの部分に関し、各原子の電荷、結合角度、結合長ともに、対照性の良い点対称の構造をしていることが計算の結果から明らかとなった。
図4に、原料である4−フェニルアゾ安息香酸と合成したフォトクロミックなジルコニア前駆体の赤外線吸収スペクトルを示した。1680、1425、1290cm−1に現れていた原料分子中のカルボキシル基由来の特徴的な3つの吸収ピークが消滅し、新たに、カルボキシラートに由来する1550、1420cm−1の2つの特徴的な吸収ピークが観測された。この結果は、密度汎関数法による前駆体分子の構造最適化の計算結果を支持するものであった。
図5に、フォトクロミックなジルコニア前駆体分子のアゾベンゼンユニットが、紫外線照射によって、シス体に構造変化した場合の最適化構造を密度汎関数法によって求めた結果を示した。アゾベンゼンユニットがシス体に構造変化することによって、前駆体分子全体が大きくひずんだ構造となり、中心部分の金属−酸素−金属の無機のネットワークの部分に関しても、各原子の電荷、結合角度、結合長ともに、面対称の構造となるような、ひずんだ構造となることが計算の結果から明らかとなった(以下、シス体と記載)。
このように、紫外線照射の有無によって、前駆体分子の構造がトランス体、シス体と大きく変化することが計算の結果から導き出されたが、この現象を実験的に実証した。図6と図7に、この前駆体分子の光照射によるFT−IRのスペクトルの変化を示した。図6の結果から、カルボキシラートに由来する1420cm−1の特徴的な吸収ピークが、紫外線照射により吸収強度が増大し、可視光照射によって元に戻るという現象を示すことが明らかとなった。
更に、図7により、450cm−1付近のZr−O結合由来の吸収ピークが、紫外線照射によって低波数側にシフトし、可視光照射によって元に戻るという現象を示していることを確認した。これらの結果は、紫外線照射の有無により、前駆体分子の構造がトランス体、シス体と違う、という密度汎関数法による前駆体分子の構造最適化の計算結果を支持するものであった。
更に、これらFT−IRの実験結果を実証するために、紫外線照射の有無により構造の異なる2種類の前駆体分子、トランス体とシス体、のIRスペクトルの吸収ピークを計算によって求め、その結果を、図8に示した。計算で求めたIRの吸収ピークの結果は、実験結果と良い一致を示し、1400cm−1付近のカルボキシラート由来の吸収ピーク強度がシス体で強く、トランス体で弱くなることが分かった。また、分子の中心部分である無機の金属−酸素−金属に由来する吸収ピークに関しても、トランス体よりもシス体のピークの方がいずれも低波数側で吸収することが計算から導き出され、これらの結果は、実験結果と良い一致を示していた。
以上の結果から、紫外線照射の有無により、前駆体分子の構造が変化することが明らかとなった。このように、紫外線照射の有無によって、構造変化させた前駆体分子からなる前駆体溶液を用いて薄膜を作製すると、その前駆体分子の構造の違いに応じて、焼成後の薄膜の表面微構造を制御できることが分かった。
以上詳述したように、本発明は、表面微構造を制御した金属酸化物薄膜の製造方法及びその金属酸化物薄膜に係るものであり、本発明は、光化学反応を積極的に取り入れて調製したフォトクロミックな金属酸化物前駆体溶液と紫外線照射を用いることを特徴とする、新規な金属酸化物薄膜の製造方法を提供することを可能とするものである。また、本発明により、薄膜作製プロセス中において、紫外線照射の効果を利用することを特徴とする、新規な金属酸化物薄膜の表面微構造制御方法を提供することができる。本発明は、表面微構造を制御した金属酸化物薄膜からなる高機能性セラミック製造のための基盤技術に関するものであり、作製された表面微構造を制御した金属酸化物薄膜は、金属酸化物薄膜部材、例えば、高誘電率絶縁部材、強誘電体メモリ、集積化圧電デバイス、集積型センサー等としての用途への適用が可能である。
合成したフォトクロミックなジルコニア前駆体溶液を用いて、紫外線を照射せずに650℃で作製した薄膜の表面観察図を示す。 合成したフォトクロミックなジルコニア前駆体溶液を用いて、紫外線を照射しながら作製した650℃で焼成後の薄膜の表面観察図を示す。 密度汎関数法によって求めた、合成したフォトクロミックなジルコニア前駆体分子の最適化構造を示す(明細書中、トランス体と記載)。 4−フェニルアゾ安息香酸と合成したフォトクロミックなジルコニア前駆体とZr(O−n−Bu)のみから合成した、ジルコニア前駆体の赤外線吸収スペクトルを示す。細線は4−フェニルアゾ安息香酸のスペクトル、太線は合成したフォトクロミックなジルコニア前駆体のスペクトル、点線はZr(O−n−Bu)のみから合成したジルコニア前駆体のスペクトルを示す。 密度汎関数法によって求めた、フォトクロミックなジルコニア前駆体分子のアゾベンゼンユニットが、紫外線照射によって、シス体に構造変化した場合の最適化構造を示す(明細書中、シス体と記載)。 合成した前駆体分子の光照射によるFT−IRのスペクトルの変化を示す。測定範囲は2000〜400cm−1、点線は合成後の吸収スペクトル、太線は紫外線照射後の吸収スペクトル、細線は可視光照射後の吸収スペクトルを示す。 合成した前駆体分子の光照射によるFT−IRのスペクトルの変化を示す。測定範囲は500〜400cm−1、細い点線はZr(O−n−Bu)のみから合成したジルコニア前駆体のスペクトル、太い点線は合成後の吸収スペクトル、太線は紫外線照射後の吸収スペクトル、細線は可視光照射後の吸収スペクトルを示す。 紫外線照射の有無により構造の異なる2種類の前駆体分子、トランス体とシス体、の密度汎関数法によるIRスペクトルの予測を示す。(a)は1700〜1300cm−1における吸収ピークの予測、(b)は1000〜100cm−1における吸収ピークの予測、(c)はZr−O−C由来のスペクトルの予測である。青線はトランス体のピーク、赤線はシス体のピークを示す。

Claims (11)

  1. フォトクロミックな金属酸化物前駆体溶液を用いて基板に金属酸化物膜を作製する過程でその表面微構造を制御する方法であって、該金属酸化物前駆体溶液を用いて、ディップコーティング、乾燥、仮焼、そして100℃/秒以上の昇温速度で急速加熱処理して製膜することを特徴とする、金属酸化物膜の表面微構造制御方法。
  2. フォトクロミックな金属酸化物前駆体溶液へ紫外線を照射する、請求項1に記載の金属酸化物膜の表面微構造制御方法。
  3. 金属酸化物が、ZrO、Al、MgO、SiO、TiO、SnO、HfO、CeO、Yから選択される1種である、請求項1又は2に記載の金属酸化物膜の表面微構造制御方法。
  4. 紫外線を照射したフォトクロミックな金属酸化物前駆体溶液に基板を浸漬して、紫外線を照射しながらディップコーティング、乾燥、仮焼し、その後、紫外線を照射せずに100℃/秒以上の昇温速度で急速加熱処理を行って製膜する、請求項2に記載の金属酸化物膜の表面微構造制御方法。
  5. フォトクロミックな金属酸化物前駆体溶液を用いて基板に表面微構造が制御された金属酸化物膜を製造する方法であって、フォトクロミックな金属酸化物前駆体溶液へ紫外線を照射しながら、フォトクロミックな金属酸化物前駆体溶液に基板を浸漬して、ディップコーティング、乾燥、仮焼、そして100℃/秒以上の昇温速度で急速加熱処理して製膜することを特徴とする、金属酸化物膜の製造方法。
  6. 紫外線を照射したフォトクロミックな金属酸化物前駆体溶液に基板を浸漬して、紫外線を照射しながらディップコーティング、乾燥、仮焼し、その後、紫外線を照射せずに100℃/秒以上の昇温速度で急速加熱処理を行って製膜する、請求項5に記載の金属酸化物膜の製造方法。
  7. 光照射によって可逆的にシスートランス光異性化反応を起こすフォトクロミックな金属酸化物前駆体分子を用いて製膜する、請求項5に記載の金属酸化物膜の製造方法。
  8. フォトクロミックな金属酸化物前駆体溶液に320〜390nmの紫外光を照射して製膜する、請求項5に記載の金属酸化物膜の製造方法。
  9. フォトクロミックな金属酸化物前駆体溶液を用いて作製された、表面微構造が制御された金属酸化物膜であって、表面の微構造について、表面粒子径及び表面粗度(RMS)がナノサイズ範囲で均質に制御されている、表面が平滑又はラフな膜であることを特徴とする金属酸化物膜
  10. 金属酸化物が、ZrO、Al、MgO、SiO、TiO、SnO、HfO、CeO、Yから選択される1種である、請求項9に記載の金属酸化物膜
  11. 請求項9又は10に記載の金属酸化物膜からなることを特徴とする金属酸化物膜部材。
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