JP4954351B2 - 粒子線照射システムおよび粒子線照射方法 - Google Patents

粒子線照射システムおよび粒子線照射方法 Download PDF

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Description

本発明は、粒子線を腫瘍など患部に照射して治療を行う粒子線治療装置における、粒子線を患部3次元形状に合わせて照射するための粒子線照射システムに関する。
粒子線による治療法では、光速の約70%まで加速された陽子や炭素線など、高エネルギーの粒子線が用いられる。これらの高エネルギーの粒子線は体内に照射された際に、以下の特徴を有する。第一に、照射された粒子線の殆どが粒子線エネルギーの約1.7乗に比例した深さ位置に停止する。第二に、照射された粒子線が体内で停止するまでに通過する経路に与えるエネルギー密度(線量と呼ばれる)は粒子線の停止位置で最大値を有する。通過した経路に沿って形成した特有の深部線量分布曲線はブラッグカーブと呼ばれる。線量値が最大の位置はブラッグピークと呼ばれる。
3次元の粒子線照射システムは、このブラッグピークの位置を腫瘍の3次元形状に合わせて走査し、各走査位置におけるピーク線量を調整しながら、予め画像診断で決めた標的である腫瘍領域において、所定の3次元線量分布を形成するように工夫されている。粒子線の停止位置の走査は粒子線の照射方向にほぼ垂直な横方向(X、Y方向)と、粒子線の照射方向である深さ方向(Z方向)における走査がある。横方向における走査は患者を粒子線に対して移動させる方法と、電磁石などを使って粒子線の位置を移動させる方法があり、一般的には電磁石を用いる方法が用いられている。深さ方向の走査は粒子線エネルギーを変えるのが唯一の方法である。エネルギーを変える方法には、加速器で粒子線エネルギーを変える方法と、粒子線が通過する経路にエネルギー減衰体を挿入して、減衰体の減衰量を変化させる方法がある。電磁石を用いてビーム位置を移動させる(スキャニングとも呼ぶ)方法は、例えば特許文献1に記載されている。特許文献1の図2示されたように、従来の粒子線治療装置の粒子線照射システムでは、ビームスポットの位置移動を行う手段として、粒子線をビーム進行方向(Z軸方向)に垂直な方向であるX−Y方向に偏向させるスキャニングマグネット(走査電磁石、偏向電磁石とも称する)を用いている。
特開2008-154627公報(段落「0024」および図2)
特許文献1の図2に記載された粒子線照射システムでは、粒子線の走査速度を高速にする場合、走査電磁石Xと走査電磁石Yのインダクタンスと走査速度に比例して、大容量の走査電源が必要であった。そのため、粒子線照射システムの電源容量が、要求される照射野サイズ(照射標的サイズに比例)および要求される走査速度と共に増加してしまう。本発明の目的は、必要な照射野サイズが大きい場合でも、大容量の走査電源を用いることなく、高速に粒子線を走査でき、全体の照射時間が短い粒子線照射システムを提供することである。
本発明に係る粒子線照射システムは、入射される粒子線を一方向に移動と停留とを繰り返して走査して標的に上記粒子線を照射する粒子線照射システムにおいて、粒子線を一方向に標的の最大幅まで移動可能とする最大偏向量を有する第一偏向装置と、粒子線を上記一方向に偏向する最大偏向量が第一偏向装置の最大偏向量よりも少ない第二偏向装置と、第一偏向装置と第二偏向装置を制御する走査制御装置とを備え、この走査制御装置は、第二偏向装置の偏向量を増加させて粒子線を移動させる制御を行い、粒子線の停留時には、第二偏向装置の偏向量を減少させるとともに、第一偏向装置の偏向量を変化させて、標的における粒子線の位置が停留するように、第二偏向装置の偏向を第一偏向装置の偏向に置換してゆく偏向置換制御を行うようにしたものである。
本発明の粒子線照射システムにあっては、必要な照射野サイズが大きい場合でも、大容量の走査電源を用いることなく、高速に粒子線を走査でき、全体の照射時間を短縮できる。
本発明の実施の形態1による粒子線照射システムの構成を示すブロック図である。 本発明の粒子線照射システムが適用される粒子線治療装置全体の概要を示すブロック図である。 本発明の実施の形態1によるX方向第一偏向装置およびX方向第二偏向装置の動作シーケンスと、対応する粒子線の位置の時間変化の関係を示す概略図である。 本発明のスポットスキャン照射のスポット位置の一例を示す配置図である。 本発明の実施の形態2による粒子線照射システムの構成を示すブロック図である。 本発明の実施の形態3による粒子線照射システムの構成を示すブロック図である。 本発明の実施の形態4による粒子線照射システムの構成を示すブロック図である。 本発明の実施の形態5による粒子線照射システムの構成を示すブロック図である。 本発明の実施の形態6による粒子線照射システムの構成を示すブロック図である。 本発明の実施の形態7による粒子線照射システムの構成を示すブロック図である。
実施の形態1.
図1は本発明の実施の形態1による粒子線照射システムの構成を示すブロック図である。また、図2は本発明の粒子線照射システムが適用される粒子線治療装置のシステム全体の概要を示すブロック図である。図2において、6は粒子線の発生と加速を行う粒子線加速器、7は粒子線を輸送する粒子線輸送装置である。100は、粒子線輸送装置7から入力される粒子線1を走査して、標的5に走査された粒子線4として照射させる粒子線照射システムである。粒子線照射システム100が本発明の対象部分である。2は粒子線進行方向と垂直な方向の一方向であるX方向において、粒子線を走査し、X方向位置をステップごとに変化させるX方向走査装置である。同様に、3は粒子線進行方向およびX方向両方に垂直な方向であるY方向においてビーム位置を走査するY方向走査装置である。8は走査制御装置、9は治療計画装置である。治療計画装置9は走査制御装置8が必要とする走査制御のためのデータを演算により求めて走査制御装置8へデータを送る。
また、図2において、5は粒子線4の照射を受ける被照射体である標的を模式的な斜視図で示している。粒子線輸送装置7は、例えば、電磁石群から構成される。粒子線加速器6は、例えば、シンクロトロン加速器や、サイクロトロン加速器または他のDWA(Dielectric Wall Accelerator)、レーザ加速器などである。
図1は本発明の主要部の構成を説明するブロック図であり、図2のX方向走査装置2および走査制御装置8の概要を示す図である。図1において、X方向走査装置2は以下のように構成されている。21はX方向に粒子線を偏向するX方向第一偏向装置で、X方向第一偏向電磁石24とこのX方向第一偏向電磁石24を駆動する、すなわちX方向第一偏向電磁石24の励磁コイルに電流を供給するためのX方向第一電源23を備えている。22は粒子線をX方向第一偏向装置21と同じX方向に偏向するX方向第二偏向装置で、X方向第二偏向電磁石26とこのX方向第二偏向電磁石26を駆動するX方向第二電源25とを備えている。X方向第一偏向装置21およびX方向第二偏向装置22により粒子線を偏向させて標的5上での粒子線の位置を移動させながら患部に粒子線を照射するが、一方向に、ある距離移動(ステップと呼ぶ)させた後移動を止め、すなわち粒子線を停留させて粒子線を照射する。停留する位置をスポット位置と呼び、この照射方式をスポットスキャン照射と呼ぶ。図1においてx1、x2、・・・、x7は、スポットスキャン照射において標的5における粒子線4のX方向スポット位置を示す。
このようなスポットスキャン照射を実現するため、走査制御装置8は以下のように構成されている。81は治療計画装置9からのデータを受けて粒子線を走査するために必要な演算を行う走査制御演算部、82は粒子線の位置を移動させるためにX方向第一偏向装置21およびX方向第二偏向装置22が必要とする情報の演算を行うビーム位置移動制御演算部、83は粒子線を停留させるためにX方向第一偏向装置21およびX方向第二偏向装置22が必要とする情報の演算を行うビーム位置停留制御演算部、84はビーム位置移動制御演算部82およびビーム位置停留制御演算部83からのデータを受けてX方向第一偏向装置21を制御するための信号を出力するX方向第一偏向装置制御部、85はビーム位置移動制御演算部82およびビーム位置停留制御演算部83からのデータを受けてX方向第二偏向装置22を制御するための信号を出力するX方向第二偏向装置制御部である。
X方向第二偏向装置22は、スポットスキャン照射において、各スポットの隣り合うX位置間で粒子線4の位置を移動させるために入射される粒子線1を偏向させるものである。したがって、X方向第二偏向装置22で標的5において粒子線を移動できる最大範囲をΔX1とし、標的のX方向における最大幅をXFとした場合、ΔX1はXFに比べ小さい。ステップの数にもよるが、例えば、ΔX1はXFの0.1〜0.5倍である。一方、X方向第一偏向装置21は粒子線1を偏向させ、標的5における粒子線4の位置Xを少なくとも標的5の幅であるXFの範囲で走査できなければならない。つまり、X方向第二偏向装置22に要求される最大偏向量(粒子線を移動できる最大移動範囲)はX方向第一偏向装置21に要求される最大偏向量に比べ、ずっと小さい。そのため、X方向第一偏向装置21のX方向第一偏向電磁石24は大きい電磁石で構成する必要があるが、X方向第二偏向装置22のX方向第二偏向電磁石26は小さい電磁石で構成することができる。一般に、偏向能力を大きくするには、電磁石の鉄心長、コイル巻き数、励磁電流などを増やす必要がある。従って、X方向第一偏向装置21の電磁石24のインダクタンスL1は大きいインダクタンスを有する。
一方、X方向第二偏向装置22は相対的に小さい電磁石で構成できるので、X方向第二偏向電磁石26のインダクタンスL2はX方向第一偏向電磁石24のインダクタンスL1より小さくできる。ここで、X方向第一偏向電磁石24とX方向第二偏向電磁石26を同じ鉄心構成の電磁石で構成するとし、X方向第一偏向電磁石24のコイルとX方向第二偏向電磁石26のコイルの巻き数をそれぞれN1、N2とする。粒子線4の照射位置XをΔXだけ動かそうとした際、対応するX方向第一偏向電磁石24の励磁電流変化量をΔIX1とし、対応するX方向第二偏向電磁石26の励磁電流の変化量をΔIX2とした場合、ΔIX1とΔIX2の関係は、
ΔIX2=N1/N2×ΔIX1
となる。そして、位置変化ΔXを同じ時間Δt1で実現しょうとする場合、X方向第一電源23に要求される電圧は、
V1=L1×ΔIX1/Δt1
となり、X方向第二電源25に要求される電圧は、
V2=L2×ΔIX2/Δt1
となる。電磁石のインダクタンスLは巻き数の自乗に比例するので、
V2/V1 = L2/L1 * ΔIX2/ΔIX1 = (N2/N1)*(N2/N1)*N1/N2=N2/N1
となる。鉄心が同じ場合、X方向第二偏向電磁石26のコイルに要する巻き数N2はずっと小さくてよいので、粒子線を同じ時間Δt1で同じ位置変化量ΔX移動させるのに、X方向第二偏向装置22を用いる場合、X方向第一偏向装置21を用いる場合に比べ、電源の電圧はずっと小さい電圧で良いことになる。逆に、X方向第一電源23とX方向第二電源25を同じ電圧とした場合、X方向第二偏向装置22によって粒子線を偏向させて移動させる方が、X方向第一偏向装置21によるよりも移動速度を速くできる。すなわち、短時間で走査できることになる。
また、例えば、必要最大照射範囲XFが40cmの場合、X方向第一偏向電磁石24は積層鋼板を用いた電磁石で構成する必要があるが、X方向第二偏向電磁石26は偏向量が小さくてよいので、必要磁場が弱く、空芯コイルで構成できる可能性があり、X方向第二偏向電磁石26の構成が簡単になる。この場合も、勿論X方向第二偏向電磁石26のインダクタンスはX方向第一偏向電磁石24のインダクタンスよりずっと小さくなる。
図3は本発明の実施の形態1によるX方向第一偏向装置21およびX方向第二偏向装置22の動作シーケンスと、対応する粒子線4の位置の時間変化の関係を示す概略図である。図3において、横軸は時間tであり、IX1(t)はX方向第一偏向電磁石24の電流、IX2(t)はX方向第二偏向電磁石26の電流、X(t)は標的5における粒子線のX方向位置を示す。図3におけるx1、x2、・・・、x7は、図1におけるx1、x2、・・・、x7に対応しており、粒子線のX方向のスポット位置を示す。粒子線4は各スポット位置で停留している間、計画された粒子数が照射される。粒子数の管理は照射される粒子線の量をモニタできる線量モニタ(図示せず)によって行われる。また、t1、t2、・・・、t17はX方向第一偏向装置21およびX方向第二偏向装置22の偏向量(例えば磁石の励磁電流)と粒子線のX方向位置の変化タイミングを示す。
次に、本発明の実施の形態1による粒子線照射システムの動作を説明する。まず、治療計画装置9にて、標的5に対する照射計画を立案する。具体的には、標的5の3次元体積領域を、粒子線4が形成するブラッグピークの位置を標的5の3次元形状に合わせて走査して、標的形状に合わせた線量領域を形成するために、標的5におけるスポット位置(Xi,Yi,Zi)および、各スポット位置(Xi,Yi,Zi)における照射線量(照射粒子数に比例)niを決める。同時に、これらのスポット位置群において、同じ粒子線エネルギーに対応するスポット位置の集合を1層または1スライス内にあるスライス内スポット位置とする。
図4に1スライス内スポット位置(○印で示す位置)の配置の様子を示す。このようなスポットの配置をスライス毎に決定し、各スライスにおいて各スポット位置での照射線量niを決めることにより、全Kslice個の層を照射して、すべてのスポット位置に対して計画した線量を照射する。実際の照射では、1スライスにおいては同一の粒子線エネルギーで照射し、別のスライスに対しては粒子線加速器6などで粒子線エネルギーを変更して照射を行う。つまり、層、すなわちスライス毎にスポットスキャン照射を行う。
粒子線エネルギー変更は、粒子線加速器で行っても良く、また、レンジシフタ、ESS(Energy Selection System)、など他のビームエネルギー変更手段を用いても良いのは言うまでもない。
本発明による粒子線照射システムの照射動作の一例を以下に述べる。まず、治療計画装置9で作成したj番目のスライスにおけるi番目のスポット位置の照射データ情報(Xi,Yi,ni,jslice,Ebj)等を含むデータが走査制御装置8に送られる。ここでEbjはj番目のスライスに対応した粒子線エネルギーである。そして、走査制御装置8において、照射位置情報(Xi,Yi)に対応するX方向走査装置2およびY方向走査装置3の設定パラメータ(Ix1_i,Iy1_i)に換算される。ここで、Ix1_iは図1に示したX方向走査装置2のX方向第一偏向電磁石24の駆動電源であるX方向第一電源23からX方向第一偏向電磁石24に供給される励磁電流を示す。図1ではX方向走査装置2の構成のみを示したが、Y方向走査装置3もX方向走査装置2と同様、Y方向第一偏向装置とY方向第二偏向装置を備えており、Iy1_iはY方向走査装置3のY方向第一偏向装置の相応パラメータに対応する。更に、i番目のスポットからi+1番目のスポットにスポット位置を変更する際に、X方向の移動量はΔXi= (Xi+1 − Xi)となるが、X方向第一偏向装置21の設定パラメータの変化量はΔIx1_i = ( Ix1_i+1 − Ix1_i )となる。ここで、X方向第一偏向装置21の代わりに、X方向第二偏向装置22を用いて同じ移動量ΔXiを実現するためにX方向第二電源25による必要な電流変化量ΔIx2_iを走査制御演算部81などで予め計算しておいて、照射設定パラメータ(Ix1_i)と共に、走査制御演算部81に格納する。同様に、Y方向についても、同じようにΔIy2_iを格納する。
同時に、線量校正結果を反映したパラメータに基づき、各スポット位置に照射する線量niに対応する線量モニタ(図示せず;通常、粒子線照射システムに備える)の計数値であるモニタの単位MUiに換算される。このようにして、走査制御演算部81では、照射を実施するのに必要なデータが用意される。このデータの内容には、照射するスライスごとの、スライス内スポット位置に対応した励磁電流パラメータ(Ix1_i,ΔIx2_i,Iy1_i,ΔIy2_i)、照射量MUi、スライス内の照射順、スライスに対応した粒子線エネルギーEbj, j=1,2,3..Ksliceなどが含まれる。
以下の説明では、図1に示したように、X方向に粒子線を走査する場合について行う。Y方向における走査、およびXとY両方の位置を同時に走査する場合についても、X方向走査と同様である。
図1〜図3を参照してj番目スライスの照射について説明する。まず、走査制御装置8から、スライス番号jを粒子線加速器6、粒子線輸送装置7など関連機器に送り、粒子線のエネルギーがスライス番号jに対応したエネルギーになるよう各関連機器が設定される。次に、走査制御演算部81はスライス内最初のスポット位置X1に対応した励磁電流パラメータ(Ix1_i,ΔIx2_i),i=1をビーム位置移動制御演算部82とビーム位置停留制御演算部83に渡し、X方向第一偏向装置制御部84がX方向第一電源23に対し指令を出し励磁電流Ix1_1を設定させる。そして、走査制御演算部81へ設定完了信号を返す。設定完了信号を受け取った走査制御演算部81は粒子線照射開始指令を出す。これを受けて、粒子線加速器6などは粒子線を出射させ、粒子線輸送装置7を経て(粒子線輸送装置7は必ずしも必要ではない。)、粒子線1を粒子線照射システム100のX方向走査装置2に入射させる。粒子線1はX方向第二偏向装置22とX方向第一偏向装置21を通過し、粒子線照射量を計測する線量モニタ等(図示せず)を通過し、粒子線4として、照射位置X1に照射される。時間が経過するに連れて、線量モニタはX1位置に対する照射量MU_i, i=1を計上し、スポット線量が計画値に達する、すなわち満了すると線量満了の情報とビーム移動指令を走査制御装置8に出す(時刻t1)。同時に、線量モニタがカウンタリセットを行う。
これを受けて、走査制御演算部81はビーム位置移動制御演算部82に2番目のスポット位置X2に粒子線4を移動させる指令を出す。これを受けて、X方向第二偏向装置制御部85はX方向第二電源25に対しX方向第二偏向電磁石26の励磁電流を現在値からΔIx2_i, i=1だけ変化させる指令を出す。図3の場合、現在値は0であるから、X方向第二偏向電磁石26の励磁電流を0からIx2_1へ変化させる。そして、粒子線1は既にIx1_1に励磁されているX方向第一偏向電磁石24の偏向を受けるのに加えて、X方向第二偏向電磁石26の偏向も受けて、スポット位置がX1からX2へ時間Δta2で高速に移動する。そして、ビーム位置移動制御演算部82はX方向第二電源25から電流変化完了指令を受け取る(時刻t2)。これを受けて、粒子線4は位置X2に照射され、線量モニタは計数を再開する。線量モニタがX2位置に対応した計画線量MUi,i=2を計上するまでには、Δtbi,i=2の時間が掛かる。この時間Δtb2までの間において、X方向第一偏向電磁石24の励磁電流を所定速度で変化させるとともに、X方向第二偏向電磁石26の励磁電流を所定速度で減少させて粒子線のX位置が変化しないように制御する。この制御に必要な演算はビーム位置停留制御演算部83で行われ、X方向第一偏向装置制御部84およびX方向第二偏向装置制御部85がそれぞれの電源に指令を出す。
このように、X方向第二偏向電磁石26によって偏向していた偏向分をX方向第一偏向電磁石24の偏向に徐々に置換してゆく制御、すなわち偏向置換制御を行って粒子線を停留させることができる。この偏向置換制御をX方向第一偏向電磁石24の励磁電流がIx1_1からIx1_2になるまで続ける。更に、偏向置換制御動作の最中は、粒子線4の照射位置はX2に対してのずれが、予め設けた誤差値を越えないようにX方向第二電源25から供給される励磁電流とX方向第一電源23から供給される励磁電流の制御が行われるように、ビーム位置停留制御演算部83が演算を行う。
なお、偏向置換制御において、X方向第一偏向電磁石24による偏向量(励磁電流の絶対値)は、図3のt7〜t8やt9〜t10におけるように増加させることもあり、t2〜t3、t5〜t6やt15〜t16におけるように減少させることもある。要するに、偏向置換制御において、X方向第一偏向電磁石24による偏向量は、増加あるいは減少させる、すなわち変化させるのである。一方、X方向第二偏向電磁石26では、偏向置換制御において、図3のt2〜t3、t5〜t6、t7〜t8、t9〜t10やt15〜t16におけるように、偏向量(励磁電流の絶対値)は常に減少させることになる。
例えば、予め、X方向位置ごとに同じ位置変化をもたらすためにX方向第一偏向電磁石24とX方向第二偏向電磁石26に要する励磁電流変化量を計算または測定し、ビーム位置停留制御演算部83のパラメータとして用いることができる。そして、Δtc2の時間が経つと(時刻t3)、X方向第一偏向電磁石24の励磁電流が現在の照射位置X2に対応した値Ix1_2になる。ここで、Δtc2<Δtb2である。そして、線量モニタが照射位置X2に対応した照射量MUi,i=2を計上し、線量満了の情報とスポット位置移動指令を走査制御演算部81に出す(時刻t4)。粒子線照射システムでは、誤差線量と照射時間を短縮するために、スポット位置をなるべく高速に移動させる必要があるので、X方向における実効走査速度は例えば10cm/msecなどの高速にする。標的に与える線量によるが、上記述べた各種時間の目安として、例えば、照射時間Δtbは1msecから20ms、移動量5mmでは、移動時間Δtaは40μsである。つまり、1スポット位置における照射時間Δtbは移動時間Δtaに比べ約25倍以上長い。よって、X方向第一電源23における電流変化は、走査速度よりずっと遅くすることが可能となる。
以上を、j番目のスライス内にあるすべての走査位置スポットに対して、繰返し行う。そして、スライス内のすべてのスポット位置に対して照射が完了すると、走査制御装置8は粒子線加速器6などに対して粒子線1の停止を命じる。そして、走査制御装置8はj+1番目のスライスに対して、j番目のスライスの照射方法と同様にして照射する。このようにして、全Ksliceを照射し終わるまで、上記動作を繰り返す。
このように、予め治療計画装置9で決めた標的5の所定照射位置に粒子線を照射することができ、腫瘍などの3次元標的形状に合わせた線量分布を形成できるのである。
尚、上記ではX方向走査装置2およびY方向走査装置3共に2つの偏向装置で構成した場合を説明したが、Y方向走査装置3は一つの偏向装置のみを備え、Y方向は置換制御を行わない走査を行う構成であっても良い。
ここで、X方向第一偏向装置のみで高速偏向を実現する場合と、X方向第二偏向装置で高速偏向を行い、偏向置換制御を行う本発明の場合とで必要な電源容量を比較する。今、X方向第一偏向電磁石とX方向第二偏向電磁石の巻き数比N1/N2を10とすると、同じ変化時間Δt1で同じ偏向量を変化させるためには、X方向第一電源に必要な電圧V1とX方向第二電源に必要な電圧V2の関係は、前述のように、
V1= N1/N2 * V2=10 * V2
である。X方向第一偏向電磁石とX方向第二偏向電磁石で、同一の偏向変化量を得るには、磁束の変化量、すなわち巻き数に電流変化量を乗じたものが同じになれば良いので、
ΔIX2=10 *ΔIX1
である。
ΔIX1が10AでV1が100Vとすると、V2は10VでΔIX2は100Aとなる。X方向第一偏向装置はすでに電流が流れている状態から電流を増加させる必要がある。例えば、上記したXFがΔX1の10倍程度とすれば、最大に偏向されている付近では、例えばX方向第一偏向電磁石の励磁電流はすでに100A程度流れている。従って、最大に偏向されている付近で電流を10A増加するには、例えば90Aから100Aに増加させる必要がある。一方、X方向第二偏向電磁石の励磁電流は変化させる当初は電流が流れていない、すなわち0Aから10Aに増加させれば良い。時間Δt1で偏向量を変化させようとした場合、X方向第一偏向装置のみで変化させるためには、X方向第一電源は100V*100A=10KVAの電源が必要となる。一方、X方向第二偏向装置を用いる場合、X方向第二電源は10V*100A=1KVAの電源で良い。X方向第二偏向装置を用いる場合でもX方向第一偏向装置が必要であるが、最大でも時間Δt1の例えば10倍程度の時間で偏向量を変化させれば良いので、X方向第一電源に必要な電圧は上記の10分の1、すなわち10Vで良く、X方向第一電源としては10V*100A=1KVAの電源で良い。よってX方向第二偏向装置を用いて高速偏向を実現する場合、X方向第一電源として1KVA、X方向第二電源として1KVA、合計2KVAの電源容量で良い。このように、X方向第一偏向装置のみで高速な偏向量変化を実現しようとすれば、X方向第二偏向装置を併用する場合の5倍の容量の電源が必要となる。
以上説明したように、大照射野(X、Y方向における走査最大幅が大きい)の場合でも、偏向量が小さいが、高速動作可能な第二偏向装置と、走査速度は遅いが大偏向が可能な第一偏向装置の二つの偏向装置を設けることによって、偏向電磁石の電源の電圧が低くても、スポット位置の高速移動を可能とし、小容量の走査電源で全照射時間の短縮を実現できる効果がある。大きい腫瘍を対象とした大照射対応の粒子線治療装置では、高速走査と大照射野の照射を小容量の電源でできる効果が特に大きい。尚、第一偏向装置の走査速度を遅くできることは、交流電磁石に発生する渦電流による発熱および磁場遅れを低減できるという効果もある。その結果、粒子線照射システムの信頼性向上、小型化や照射精度向上が可能となる。
図3には、スポット位置X1からX7までのX方向第一偏向電磁石24の励磁電流IX1(t)とX方向第二偏向電磁石26の励磁電流IX2(t)および、対応するスポット位置X(t)の時間変化の様子を示している。スポット位置X2、X3では偏向置換制御において、X方向第二偏向電磁石26の励磁電流IX2をゼロに戻せたケースを示している。X4ではIx2が0に戻る前にスポット位置移動指令を受け取ったため、Ix2が0ではない状態から再びIx2を所定値Ix2_4まで増加させて、次のX5の照射の間にIx2が0に戻っている。このように、一回の偏向置換制御でIx2を0に戻せなくてもよく、2回、3回など複数回後に0に戻せればよい。ただし、IX2がX方向第二電源25の定格電流値を越えないようにする必要がある。
また、スポット位置X5からX6へのビーム位置の移動は時間がかかっても良いため、偏向置換制御を行わずに、X方向第一偏向装置21のみでビーム位置の移動を行っている。このように、実際のスキャニング照射では、照射を開始するまでに、加速器のビーム電流の平均値と時間変動を考慮して各スポット位置の照射に必要な最大時間を計算し、その結果、照射時間が所定値より短い場合は、そのスポットにおける偏向置換制御をスキップできる。すなわち、X方向第一電源23に要求する電流変化速度が所定値以下であれば、次のスポット位置までX方向第一偏向電磁石24の偏向量の変化のみで粒子線を移動させることができる場合もある。このような場合、偏向置換制御を実施することなく、X方向第一偏向装置21のみでビーム位置移動を行うことができる。その場合、高速偏向装置であるX方向第二偏向電磁石26の励磁電流はゼロに戻っていないこともあるが、X方向第二偏向電磁石26の最大励磁可能値と現在残った励磁電流量の差が次の照射位置に移動するために必要なΔIx2_iに比べ大きければ問題がない。つまり、X方向第二電源25の最大励磁電流定格値は数スポット分の移動に十分な値を確保できるように設計しておけばよい。このように粒子線照射システムを構成した場合、同じスライス内における各照射位置に対する計画照射線量が大きい範囲でばらついている場合でも、照射中に実施する偏向置換制御を確実にでき、信頼性の高い粒子線照射システムを提供できる効果がある。
なお、時刻t1からt2や、t3からt4などにおいて、図3ではX方向第一偏向電磁石の励磁電流IX1は変化させていないが、この間もIX1を変化させても良い。その場合は、X方向第二偏向電磁石の励磁電流IX2の変化量は図3で説明したよりも少なくなる。あるいは、X方向第二偏向電磁石の励磁電流IX2の変化量を図3で説明したのと同じにすると、より高速でビーム位置の移動を行うことができる。
また、図3の時刻t8における動作のように、偏向置換制御の最中に、線量モニタが線量満了を計上し、照射位置移動指令がビーム位置移動制御演算部82から発生された場合、ビーム位置停留制御演算部83は直ちに偏向置換制御指令を中断し、ビーム位置移動制御演算部82によって、照射位置の移動制御を開始しても良い。その場合、高速偏向装置であるX方向第二偏向装置22の励磁電流はゼロに戻っていないが、X方向第二電源25の最大励磁可能値と現在残った励磁電流量の差が次の照射位置に移動するために必要なΔIx2_iに比べ大きければ問題がない。つまり、X方向第二電源25の最大励磁電流定格値は数スポット分の移動に十分な値を確保できるように設計しておけばよいのである。このように粒子線照射システムを構成した場合、粒子線1のビーム電流の時間変動が大きい場合でも、精度よく粒子線を標的に照射することが可能であり、信頼性の高い粒子線照射システムを提供できる効果がある。
図1では、X方向第二偏向電磁石26とX方向第一偏向電磁石24を粒子線1の進行方向順に沿って、順番に配置するようにしたが、配置順を逆としても、本発明の効果は同じである。また、X方向第一偏向電磁石24とX方向第二偏向電磁石26の間はお互いの磁場が影響し合わないように、十分離して配置した方が、X方向第二電源25から見たインダクタンスを小さくできるだけでなく、X方向第二偏向電磁石26の高速変化磁場がX方向第一偏向装置21の導電性構成物に渦電流をもたらすことを低減できる効果がある。
尚、X方向第二偏向電磁石26は、鉄心(Ferriteコア、積層鋼板など)付の電磁石から構成されてもよいが、鉄心を持たない空芯コイルで構成した場合でも、本発明による効果を奏する。また、X方向第二偏向装置は電磁石を用いた磁界による偏向ではなく、電界を発生させる偏向電極を用いた、電界による偏向を利用した構成にしても良い。
実施の形態2.
図5は、本発明の実施の形態2による粒子線照射システムの構成を示すブロック図である。図5において、12はビーム位置モニタを示す。本実施の形態2の構成と動作は、ビーム位置モニタ12の位置情報を走査制御装置8にフィードバックし、粒子線4の照射位置がずれないようにした以外は、前述した実施の形態1と同じである。
図5では、ビーム位置停留制御演算部83は、偏向置換制御を行う際、X方向第二電源25が供給する励磁電流とX方向第一電源23が供給する励磁電流を同時にまたは、交互に制御し、偏向を置換するようにするが、その際、X方向第二偏向電磁石26およびX方向第一偏向電磁石24の両方の偏向を受けた粒子線4の位置をモニタしているビーム位置モニタ12による位置情報をビーム位置停留制御演算部83に入力し、ビーム位置停留制御演算部83は偏向置換制御において、X方向第二偏向装置22およびX方向第一偏向装置21の両方または一方を、ビーム位置モニタ12による位置情報によってフィードバック制御するように指令を出し、粒子線4の照射位置が計画値からずれないようにする。
特に、高速動作可能なX方向第二偏向装置22を、ビーム位置モニタ12からの位置情報を用いて、フィードバック制御するようにすれば、照射中に粒子線を照射位置に精度よく維持することが可能であり、粒子線をより高精度に照射できる。このように、ビーム位置モニタ12からの位置情報を用いたフィードバック制御を第一偏向装置ではなく、より高速動作可能な第二偏向装置に対して行えば、時間変動の速い位置誤差に対しても、高精度なフィーバック制御が可能である。よって、標的領域により高い精度で計画した線量分布を形成できる。
実施の形態3.
図6は本発明の実施の形態3による粒子線照射システムの構成を示すブロック図である。本発明の実施の形態3による粒子線照射システムの構成と動作を、図6を用いて説明する。図6において、図1と同じ符号は同じまたは相当する部分、部品を示す。24は粒子線進行の主方向を偏向して標的に誘導するための偏向電磁石(例えば、複数ある各治療室へ粒子線を誘導する偏向電磁石、または粒子線を患者に向けて誘導するBending-Magnetなど)であり、同時に、X方向第一偏向電磁石でもある。26はX方向第二偏向電磁石である。34はY方向第一偏向電磁石、36はY方向第二偏向電磁石である。なお、図6には、走査制御装置を図示していないが、本実施の形態3においても実施の形態1や実施の形態2で説明した走査制御装置を備えている。
本実施の形態3の構成と動作は以下の説明を除いて、基本的に前述した実施の形態1と同じである。図6では、偏向電磁石24はX方向第一偏向電磁石も兼ねる。実施の形態1に比べ、X方向第一偏向電磁石24は粒子線を大きい偏向角度で偏向できる大きい電磁石である。そのため、X方向第一偏向電磁石24だけを用いて、高速に粒子線4のX方向位置を変更することは困難である。そこで、X方向第二偏向電磁石26とX方向第一偏向電磁石24の両方を用いて、実施の形態1で説明したのと同じようにビーム位置の高速移動はX方向第二偏向電磁石26を利用し、粒子線4の位置が所定位置において粒子線が照射されている間に、X方向第二偏向電磁石26の偏向量を除々に減らし、X方向第一偏向電磁石24の偏向量を徐々に変化させて、照射中は粒子線4の照射位置がほぼ変わらないように、偏向置換制御を行う。Y方向に関しては、X方向と同様に、Y方向第二偏向電磁石36は粒子線4がY方向におけるスポット位置の高速移動を担い、所定のY位置において、粒子線を照射している際は、Y方向第二偏向電磁石36の偏向量を除々に減らし、Y方向第一偏向電磁石34の偏向量を徐々に変化させて、照射中は粒子線4のY位置がほぼ変わらないように、偏向置換制御を行う。このようにして、標的5に対して、高速に粒子線を走査して照射できる。
本実施の形態3では、粒子線を各治療室へ運ぶ偏向電磁石をX方向第一偏向電磁石24として用いたため、粒子線照射システムに必要な電磁石数を大きく増加させずに本発明を実現できる。なお、X方向第一偏向電磁石24を兼ねる偏向電磁石と標的5の間にはX方向走査装置を設ける必要がなく、照射ノズルの小型化(長さを小さくする)ができる。そのため、粒子線照射システムの小型化をはかれる効果がある。尚、本実施の形態3において図4に示すX方向とY方向を入れ替えた走査順で照射する場合、平均的には粒子線4の位置がX方向に一定である時間がより長くなるため、X方向における偏向置換制御にはより長い時間を費やすことができる。このため、X方向第一偏向電磁石24が大きい電磁石(一般的に、インダクタンスも大きい)である場合でも、X方向第一偏向電磁石24の電源の必要最大電圧は小さくて済むので、小さい電源容量の電源で本発明を実現できる。
尚、X方向第一偏向電磁石24が偏向磁石である場合、磁極端部形状に所定角度を持たせて構成すれば、X方向第二偏向電磁石26とX方向第一偏向電磁石24によって走査された粒子線4はいつも被照射体である標的5に対して垂直に照射されるようにできる。
実施の形態4.
図7は本発明の実施の形態4による粒子線照射システムの構成を示すブロック図である。図7において、図1および図6と同じ符号は同じまたは相当する部分、部品を示す。本実施の形態4による構成が実施の形態3、すなわち図6の構成と異なるところは、Y方向第二偏向電磁石36が、X方向第一偏向電磁石を兼ねる、粒子線進行の主方向を偏向して標的に誘導するための偏向磁石24より上流に設置されていることである。なお、図7には、走査制御装置を図示していないが、本実施の形態4においても実施の形態1や実施の形態2で説明した走査制御装置を備えている。
図7で示すように、Y方向第二偏向電磁石36をX方向第一偏向磁石24の上流に設置したため、X方向第一偏向電磁石24と標的5の間の距離を伸ばす必要がない。そのため、照射ノズルの長さを実施の形態3である図6の構成よりも短くできる。その結果、粒子線照射システムの小型化が図れる効果がある。また、Y方向第二偏向電磁石36の設置位置を標的5から離すことができる。位置変化量は偏向角と偏向磁石と照射位置間の距離に比例するから、本実施の形態4によれば、所定Y方向位置変化ΔYiをもたらすY方向第二偏向電磁石36の電源に必要な電流変化量が小さくて済む。そのため、Y方向第二偏向電磁石36の電源の小型化が図れる効果がある。
実施の形態5.
図8は本発明の実施の形態5による粒子線照射システムの構成を示すブロック図である。図8において、図1および図7と同じ符号は同じまたは相当する部分、部品を示す。本実施の形態5による粒子線照射システムの構成が実施の形態4、すなわち図7の構成と異なるところは、粒子線照射システムが回転ガントリーとして構成されていることである。42は第二の回転ガントリー偏向電磁石で、粒子線1を所定偏向平面において、入射する粒子線の進行方向から一旦曲げて、第一の回転ガントリー偏向電磁石43に入射させ、第一の回転ガントリー偏向電磁石43は同じ偏向平面内おいて第二の回転ガントリー偏向電磁石42に入射する粒子線の進行方向と平行な方向に曲げる。その後、粒子線は、Y方向第二偏向電磁石36とX方向第二偏向電磁石26に入射され、回転ガントリーの最後の偏向電磁石24によって患者に向けて粒子線4を照射する。尚、偏向電磁石24はX方向第一偏向電磁石も兼ねる。34はY方向第一偏向電磁石を示す。そして、図8で示したすべての構成要素がガントリー回転軸41(ほぼ水平方向にある)の周りを回転できる同じ構造体に取り付けられている。この構造体と図8に示す構成要素を含む粒子線照射システムが回転ガントリーと称される。
本実施の形態5では、粒子線1を標的に向けて走査して3次元照射を行うためのY方向とX方向の偏向電磁石はこの回転ガントリーの中に納まっている。本実施の形態5では、回転ガントリーの最後の偏向電磁石24がX方向における粒子線の走査装置の構成要素であるX方向第一偏向電磁石を兼ねる。また、回転ガントリーの最後の偏向電磁石24の下流側にはY方向第一偏向装置の電磁石34を設けた。高速走査を行うために必要なX方向第二偏向電磁石26とY方向第二偏向電磁石36は回転ガントリーの最後の偏向電磁石24より上流側、すなわち粒子線の入射側に設置した。
本実施の形態5による粒子線照射システムを用いて、粒子線1を標的5に向けてスポットスキャン照射を行う際、まず、治療計画に従って決まった照射角度に合わせて、回転ガントリーの回転角度を設定し、回転ガントリー角度と治療台(図示せず)の位置と角度を設定する。そして、実施の形態1で述べたように、標的5をスライスごとに照射する。その過程において、X方向の第一、第二偏向装置、Y方向の第一、第二偏向装置、および走査制御装置の動作などは実施の形態1と基本的に同じである。
本実施の形態5では、回転ガントリーの最後の偏向電磁石24をX方向第一偏向電磁石として用いること、およびX方向とY方向の第二偏向電磁石を回転ガントリーの最後の偏向電磁石24より上流側に設置したことにより、回転ガントリーの照射ノズルを伸ばす必要はない。よって、前述した実施の形態の効果に加えて、図8に示すように、回転ガントリーの回転半径(高さ)を増加させることなく本発明を実現できるため、粒子線照射システムの大型化が抑制できる効果がある。その結果、粒子線照射システムを搭載する粒子線治療装置の普及に貢献できる効果がある。
なお、本実施の形態5では、X方向第二偏向電磁石26とY方向第二偏向電磁石36を回転ガントリーの最後の偏向電磁石24より上流側に配置した場合を説明したが、X方向第二偏向電磁石26およびY方向第二偏向電磁石36の片方または両方を回転ガントリーの最後の偏向電磁石24より下流側に配置しても、本発明の高速スキャンできる効果を奏するのは言うまでもない。
実施の形態6.
図9は、本発明の実施の形態6による粒子線照射システムの構成を示すブロック図である。図9において、図1と同一符号は同一または相当する部分、または部品を示す。本実施の形態6では、粒子線1をX方向に偏向する偏向電磁石はX方向偏向電磁石240一つのみ設けている。X方向偏向電磁石240の励磁コイルは一つのみであるが、この一つの励磁コイルをX方向第一電源230とX方向第二電源250の2つの電源により駆動するようにしている。また、X方向偏向電磁石240は実施の形態1や2におけるX方向第一偏向電磁石24と同様、粒子線1を標的の最大幅まで偏向できる能力を有している。X方向第一電源230は大電流を出力することができるが、低電圧であり、X方向偏向電磁石240の励磁コイルのインダクタンスの値が大きいため電流を高速に変化させることができない電源、すなわち低電圧大電流電源である。また、X方向第二電源250は出力できる電流値は小さいが、高電圧が出力でき、X方向偏向電磁石240の励磁コイルのインダクタンスの値が大きくても電流を高速に変化できる高電圧小電流電源である。X方向偏向電磁石240の励磁コイルには、X方向第一電源230およびX方向第二電源250の両方の電源からの電流が重畳して流れるように構成されている。
本実施の形態6による粒子線照射システムでは、X方向第一電源230とX方向偏向電磁石240とで、実施の形態1や2で説明したX方向第一偏向装置21に相当する動作を行い、X方向第二電源250とX方向偏向電磁石240とで、実施の形態1や2で説明したX方向第二偏向装置22に相当する動作を行う。すなわち、図9に示すように、X方向第一電源230とX方向偏向電磁石240とでX方向第一偏向装置210を構成し、X方向第二電源250とX方向偏向電磁石240とでX方向第二偏向装置220を構成する。X方向偏向電磁石240は、X方向第一偏向装置210の偏向電磁石とX方向第二偏向装置220の偏向電磁石を兼ねることになる。スポットスキャン照射における隣り合うスポット位置間で粒子線1を移動させるときは、X方向第二電源250によりX方向偏向電磁石240の励磁コイルの励磁電流を高速に変化させて粒子線1の偏向を変化させる。その後、X方向第二電源250によるX方向偏向電磁石240の励磁電流をX方向第一電源230による励磁電流に徐々に置換し、X方向第一電源230とX方向第二電源250とで重畳されている励磁電流が一定となる制御を行って粒子線を停留させて、粒子線を標的に照射する。このように、実施の形態6においても、実施の形態1や2で説明したのと同様、粒子線の移動時にはX方向第二偏向装置220の偏向量を増加させて粒子線を移動させ、粒子線の停留時にはX方向第二偏向装置220により偏向していた偏向量を、X方向第一偏向装置210による偏向に置換する置換制御を行う構成となっている。
尚、上記ではX方向走査装置2のみを説明したが、Y方向走査装置3も図9のX方向走査装置2と同様、一つの偏向電磁石と2つの電源で構成できることは言うまでもない。ただし、Y方向走査装置3は一つの偏向装置のみを備え、Y方向は置換制御を行わない走査を行う構成であっても良い。
以上のように、本実施の形態6では、粒子線を偏向する偏向電磁石を一つだけ設け、当該偏向電磁石の励磁コイルを2個の電源で駆動するようにして、スポットスキャン照射において実施の形態1や2で説明した置換制御を行うようにした。このため、大照射野(X、Y方向における走査最大幅が大きい)の場合でも、一つの偏向電磁石を、高速動作可能な電源と、励磁電流の変化速度は遅いが大電流駆動が可能な電源との2つの電源により駆動することによって、スポット位置の高速移動を可能とし、全体として小容量の電源で全照射時間の短縮を実現できる効果がある。
実施の形態7.
図10は、本発明の実施の形態7による粒子線照射システムの構成を示すブロック図である。図10において、図1と同一符号は同一または相当する部分、部品を示す。本実施の形態7では、X方向走査装置2において、粒子線1をX方向に偏向させる電磁石はX方向偏向電磁石241一つのみ設けている。ただし、X方向偏向電磁石241は、同一の鉄心に第一励磁コイル242および第二励磁コイル243の2つの励磁コイルが巻かれたものとなっている。ここで、第一励磁コイル242は第二励磁コイル243よりもコイルの巻数が多く、大きなインダクタンスを有し、第二励磁コイル243のインダクタンスは小さい。第一励磁コイル242はX方向第一電源231により駆動され、第二励磁コイル243はX方向第二電源251により駆動される。
第一励磁コイル242がX方向第一電源231により駆動されてX方向偏向電磁石241を励磁して粒子線1を偏向させて走査できる範囲は、実施の形態1や2におけるX方向第一偏向電磁石で偏向できる範囲と同様である。また、第二励磁コイル243がX方向第二電源251により駆動されてX方向偏向電磁石241を励磁して粒子線1を偏向させて走査できる範囲は、実施の形態1や2におけるX方向第二偏向電磁石で偏向できる範囲と同様である。すなわち、X方向第一電源231で駆動する第一励磁コイル242では粒子線1を大きく偏向できるが、高速には走査できない。X方向第二電源251で駆動する第二励磁コイル243では粒子線1を高速に走査できるが、大きく偏向できない。
本実施の形態7による粒子線照射システムでは、第一励磁コイル242とX方向第一電源231とで、実施の形態1や2で説明したX方向第一偏向装置21に相当する動作を行い、第二励磁コイル243とX方向第二電源251とで、実施の形態1や2で説明したX方向第二偏向装置22に相当する動作を行う。すなわち、図10に示すように、第一励磁コイル242とX方向第一電源231とによりX方向第一偏向装置211を構成し、第二励磁コイル243とX方向第二電源251とによりX方向第二偏向装置221を構成する。スポットスキャン照射における隣り合うスポット位置間で粒子線1を移動させるときは、第二励磁コイル243をX方向第二電源251により駆動して粒子線1を偏向させる。その後、第二励磁コイル243による励磁によって偏向していた偏向分を第一励磁コイル242の励磁による偏向に徐々に置換してゆく制御、すなわち偏向置換制御を行って粒子線を停留させて、粒子線を標的に照射する。
尚、上記ではX方向走査装置2のみを説明したが、Y方向走査装置3も図10のX方向走査装置2と同様、2つの励磁コイルを有する偏向電磁石と2つの電源で構成できることは言うまでもない。ただし、Y方向走査装置3は一つの偏向装置のみを備え、Y方向は置換制御を行わない走査を行う構成であっても良い。
以上のように、本実施の形態7では、粒子線を偏向する偏向電磁石の鉄心に巻数の異なる2つの励磁コイルを設け、それぞれの励磁コイルを別の電源で駆動するようにして、スポットスキャン照射において実施の形態1や2で説明した置換制御を行うようにした。このため、大照射野(X、Y方向における走査最大幅が大きい)の場合でも、一つの偏向電磁石に、偏向量が小さいが、高速動作可能な駆動電源で駆動するインダクタンスの小さな第二励磁コイルと、走査速度は遅いが大偏向が可能な第一励磁コイルを設けることによって、スポット位置の高速移動を可能とし、全体として小容量の電源で全照射時間の短縮を実現できる効果がある。
1:粒子線 2:X方向走査装置
3:Y方向走査装置 4:走査された粒子線
5:標的 6:加速器
7:粒子線輸送装置 8:走査制御装置
9:治療計画装置 12:ビーム位置モニタ
21、210、211:X方向第一偏向装置
22、220、221:X方向第二偏向装置
23、230、231:X方向第一電源
24:X方向第一偏向電磁石 240、241:X方向偏向電磁石
242:第一励磁コイル 243:第二励磁コイル
25、250、251:X方向第二電源
26:X方向第二偏向電磁石 31:Y方向第二偏向装置
32:Y方向第一偏向装置 41:回転ガントリー回転軸
42:第二の回転ガントリー偏向電磁石
43:第一の回転ガントリー偏向電磁石2 81:走査制御演算部
82:ビーム位置移動制御演算部 83:ビーム位置停留制御演算部
84:X方向第一偏向装置制御部 85:X方向第二偏向装置制御部
100:粒子線照射システム

Claims (12)

  1. 入射される粒子線を少なくとも一方向に移動と停留とを繰り返して走査して標的に上記粒子線を照射する粒子線照射システムにおいて、上記粒子線を上記一方向に上記標的の最大幅まで移動可能とする最大偏向量を有する第一偏向装置と、上記粒子線を上記一方向に偏向する最大偏向量が上記第一偏向装置の最大偏向量よりも少ない第二偏向装置と、上記第一偏向装置と上記第二偏向装置を制御する走査制御装置とを備え、
    この走査制御装置は、上記粒子線の移動時には少なくとも上記第二偏向装置の偏向量を増加させて上記粒子線を移動させる制御を行い、
    上記粒子線の停留時には、上記第二偏向装置の偏向量を減少させるとともに、上記第一偏向装置の偏向量を変化させて、上記標的における上記粒子線の位置が停留するように、上記第二偏向装置の偏向を上記第一偏向装置の偏向に置換してゆく偏向置換制御を行うことを特徴とする粒子線照射システム。
  2. 走査制御装置は、粒子線の移動時に偏向量を増加させる第二偏向装置の偏向量変化速度が、上記粒子線の停留時に偏向量を変化させる第一偏向装置の偏向量変化速度よりも速くなるように制御することを特徴とする請求項1に記載の粒子線照射システム。
  3. 第一偏向装置は電磁石によって粒子線を偏向させることを特徴とする請求項1または2に記載の粒子線照射システム。
  4. 第二偏向装置は電磁石によって粒子線を偏向させることを特徴とする請求項3に記載の粒子線照射システム。
  5. 第二偏向装置は、電界によって粒子線を偏向させることを特徴とする請求項2に記載の粒子線照射システム。
  6. 走査された粒子線の位置情報を得るビーム位置モニタを備え、粒子線の停留時に、上記ビーム位置モニタからの情報により、第二偏向装置の偏向量を減少させる制御にフィードバック制御を付加することを特徴とする請求項1に記載の粒子線照射システム。
  7. 電磁石の励磁コイルとこの励磁コイルに電流を供給する第一電源とにより第一偏向装置を構成し、上記励磁コイルと上記励磁コイルに電流を供給する第二電源とにより第二偏向装置を構成したことを特徴とする請求項4に記載の粒子線照射システム。
  8. 電磁石が同一の鉄心に第一励磁コイルと第二励磁コイルとを備え、上記第一励磁コイルと上記第一励磁コイルに電流を供給する第一電源とにより第一偏向装置を構成し、上記第二励磁コイルと上記第二励磁コイルに電流を供給する第二電源とにより第二偏向装置を構成したことを特徴とする請求項4に記載の粒子線照射システム。
  9. 第二偏向装置は、粒子線進行の主方向を偏向して粒子線を標的に誘導するための偏向電磁石より上記粒子線の入射側に設置されたことを特徴とする請求項3に記載の粒子線照射システム。
  10. 粒子線照射システムは回転ガントリーの構成を有し、第二偏向装置は、上記回転ガントリーの粒子線進行主方向の最も下流側に位置する偏向電磁石より上記粒子線の入射側に設置されたことを特徴とする請求項3に記載の粒子線照射システム。
  11. 入射される粒子線を一方向に標的の最大幅まで移動可能となる最大偏向量を有する第一偏向装置と、上記粒子線を上記一方向に上記第一偏向装置の最大偏向量よりも最大偏向量が少ない第二偏向装置とにより、上記粒子線を上記一方向に移動と停留を繰り返して走査して標的に照射する粒子線照射方法であって、
    上記粒子線の移動時には少なくとも上記第二偏向装置の偏向量を増加させて上記標的における上記粒子線を移動させ、
    上記粒子線の停留時には、上記第二偏向装置の偏向量を減少させるとともに、上記第一偏向装置の偏向量を変化させて、上記第二偏向装置の偏向を上記第一偏向装置の偏向に徐々に置換することにより標的上での上記粒子線の位置を停留させることを特徴とする粒子線照射方法。
  12. 粒子線の移動時に偏向量を増加させる第二偏向装置の偏向量変化速度が、上記粒子線の停留時に偏向量を変化させる第一偏向装置の偏向量変化速度よりも速いことを特徴とする請求項11に記載の粒子線照射方法。
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