JP4951300B2 - ワイパー及びその製造方法 - Google Patents

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Description

本発明は、塵埃等を拭き取るためのワイパー、特に微小な塵、埃、繊維状の屑などが忌避される大規模集積回路、電子機器、電子部品、液晶、光学系等に代表される精密機械部品や、電子部品等の製造工程、医薬品、医療用具等の製造工程、無菌室、食品関連の製造工程等で、環境が管理されたクリーンルームや工程で好適に使用されるワイパー及びその製造方法に関するものである。
クリーンルームなどや環境の管理された空間や室内で用いられるパイワー用品には、その環境の維持に必要な特別な性能が要求される。特に、微小な塵、埃、繊維状の屑、素材の欠片など(以下総称してリントという)の発生が少ないことが要求される。良く知られているように、クリーンルーム内の汚染や持ち込まれるリントは、作業者自身及び作業者が使用する用品からの発生によるものが多いことから、作業衣やワイパーなどの用品に対して特別な注意が払われているとともに改良が続けられている。
クリーンルーム内の微粒子汚染の潜在的な発生源の一つは、クリーンルーム内で通常に行われる清拭作業に用いられるワイパーである。例えば、半導体や集積回路などの製造、組立ての際には、その作業工程の汚れを拭き取るためばかりでなく、種々の設備、備品の表面の清掃、壁や部屋の内面を清掃するためにも広くワイパーが用いられている。これらの作業において、ワイパーから周辺環境へのリントの放出と発散を防止するために、クリーンルーム等の環境が制御された室内で用いられるワイパーには各種の工夫がなされている。
現在、クリーンルーム用ワイパーとしては、再生セルロース連続長繊維不織布であるキュプラアンモニウム法レーヨン連続長繊維不織布によるクリーンルーム用ワイパーが多く用いられている。このワイパーは、不織布表面が連続長繊維で構成されており、単繊維が脱落することが極めて少ないためリントが少なく、セルロースの特長である吸水性、制電性、耐薬品性に優れている。
しかしながら、水により膨潤して低応力で伸長するため、湿潤時の取り扱い性が不充分であり、セルロース繊維が磨耗応力によってフィブリル化しやすく、リントを生じてしまうという傾向があった。さらに、熱可塑性がないため、ワイパーの切断面からの繊維脱落を熱接着によって防止することができないという問題もあった。
一方、熱可塑性繊維としてはポリエステル繊維を用いたニットワイパーや、キンバリークラーク社製「Crew」(商標)のようなポリオレフィン繊維のメルトブロー不織布を用いたクリーンルーム用ワイパーが知られているが、ポリエステル繊維やポリオレフィン繊維等の合成繊維は吸水性が低いことから、界面活性剤等による親水加工処理が必要となる。合成繊維の親水加工処理の例としては、合成繊維を親水性物質で表面被覆する方法、アルキルフォスフェート金属塩を付着させる方法、繊維の表面あるいは断面形状を変化させる方法、繊維に多孔性を付与する方法、ポリアルキレンオキシド変性物またはこの変生物とポリアミドまたはポリエステルとの混合物を鞘成分とする芯鞘型混合繊維を用いる方法等を挙げることができる。しかしながら、合繊繊維を親水性物質で表面被覆する方法や、アルキルフォスフェート金属塩を付着させる方法は、吸水性は改善されるものの、有機溶剤等での拭取りの際に処理した界面活性剤が溶出する等の問題があった。また繊維の表面、あるいは断面形状を変化させる方法や、多孔性を付与する方法は、後加工や特殊な製法を必要としコスト面で不利である等の問題がある。さらに、ポリアルキレンオキシド変性物を用いる方法は吸水性には優れるものの、寸法安定性が悪く、ポリアルキレンオキシド変性物は曳糸性に乏しく、芯鞘型の繊維構造や他の熱可塑性樹脂との混合繊維でなければ繊維化が困難である等の問題があった。
本発明の課題は、特にリントフリー性に優れ、かつ吸水性、親水性、水膨潤性など、水に対して強い親和性を示すワイパー及びその製造方法を提供することにある。
本発明者らは、上記の課題を解決すべく鋭意検討した結果、ポリアルキレングリコールを共重合した吸水性繊維から構成される吸水性不織布層と、熱可塑性長繊維不織布を積層させることで、吸水性繊維が積層不織布の表面に露出することを見出し、さらにこの露出範囲を特定することにより、吸水性が飛躍的に向上し、高強力を維持しながら、リントフリー性と吸水性を兼ね備えたワイパーが得られることを見出し、本発明に到達した。
すなわち、本発明は、以下の通りである。
(1)熱可塑性疎水性繊維からなる不織布層(A)と、熱可塑性吸水性繊維からなる不織布層(B)とが積層一体化された積層不織布からなるワイパーであって、該熱可塑性疎水性繊維がスパンボンド法によって製造された長繊維であり、該熱可塑性吸水性繊維がポリアルキレングリコールを共重合させて得られた熱可塑性吸水性樹脂からなる繊維であり、該積層不織布表面への下記(1)式:
吸水繊維表面露出度={[第二層目付/(第一層目付+第二層目付)]×100}/(第一層目付)×100 (1)式
{式中、第一層目付は、第一層疎水性繊維層(A)の目付(g/m2)であり、そして第二層目付は、第二層吸水性繊維層(B)の目付(g/m2)である。}で表される該吸水繊維表面露出度が35〜300の範囲であり、そして該積層不織布の濡れ戻り量が1.0以上3.0g以下であることを特徴とする前記ワイパー。
(2)前記熱可塑性吸水性繊維が、ポリテトラメチレンテレフタレートを主成分とするポリエステルとポリアルキレングリコールとの共重合体からなり、かつ、ポリアルキレングリコールの共重合量が5〜90重量%である、(1)に記載のワイパー。
(3)前記不織布層(A)と(B)とが積層一体化された積層不織布に、前記不織布層(A)がさらに積層されている、(1)又は(2)に記載のワイパー。
(4)前記不織布層(B)が、メルトブロー法で形成されたものである、(1)〜(3)のいずれかに記載のワイパー。
(5)前記積層不織布の吸液速度が10秒/5ml以下である、(1)〜(4)のいずれかに記載のワイパー。
(6)以下のステップ:
積層不織布表面への下記(1)式:
吸水繊維表面露出度={[第二層目付/(第一層目付+第二層目付)]×100}/(第一層目付)×100 (1)式
{式中、第一層目付は、第一層疎水性繊維層(A)の目付(g/m2)であり、そして第二層目付は、第二層吸水性繊維層(B)の目付(g/m2)である。}で表される吸水繊表面露出度が35〜300の範囲になるように、不織布層(A)及び(B)の目付をそれぞれ調整して、熱可塑性疎水性繊維からなる不織布層(A)上に、熱可塑性吸水性繊維からなる不織布層(B)を積層一体化する、
を含む、(1)〜(5)のいずれかに記載のワイパーの製造方法。
(7)熱可塑性疎水性繊維からなる不織布層(A)上に、熱可塑性吸水性繊維からなる不織布層(B)を積層一体化するステップにおいて、該不織布層(B)を、メルトブロー法で形成し、そして得られた積層不織布を、熱エンボス処理により、部分熱圧着して一体化する、(6)に記載のワイパーの製造方法。
(8)以下のステップ:
不織布層(A)と(B)とが積層一体化された積層不織布に、前記不織布層(A)をさらに積層する、
をさらに含む、(6)又は(7)に記載のワイパーの製造方法。
本発明によれば、熱可塑性疎水性長繊維からなる不織布を表面層に持ち、特定の吸水性繊維からなる不織布と積層一体化した裏面層の不織布表面に、適切な露出範囲で吸水性繊維が露出しており、このため、界面活性剤等を付与することなく、清拭時のリントフリー性と保水性を両立し、かつワイピング時に使用される溶剤による溶出物が無く、また湿潤時の強度低下が小さく、かつ取り扱い性に優れたワイパーを提供することができる。
また本発明に用いる、熱可塑性吸水性繊維は、従来使用されているセルロース系繊維と較べて、例えば溶融法により、移動するウェブ捕集面上に繊維を捕集し、その上に、例えばメルトブロー法により吸水性繊維を高速でオンライン積層し、さらに熱エンボスによる積層一体化することが可能であり、これらの積層化は融着接合による複合化であるため、スパンレース法などの繊維交絡によるセルロース系繊維との複合化と比較して、リントフリー性及び生産性を共に向上させることができる利点がある。
本発明に用いる吸水性不織布層は、吸水性繊維から構成され、吸水性繊維は、吸水特性を有する吸水性樹脂から構成される。この吸水性樹脂の吸水特性は、40℃、相対湿度80%下での吸湿率が7%以上、保水率が15%以上であり、好ましくは40℃、相対湿度80%下で吸湿率が9%以上、保水率が20%以上の吸水特性を有する。
本発明の吸湿率とは、JIS L1096一般織物試験方法の8.9水分率測定方法に準じ、温度40℃相対湿度80%での平衡水分率を吸湿率とした。
また保水率は下記式(1)で示す保水率で不織布の保水性を評価した。まず、試料を温度20℃、相対湿度65%の雰囲気中で24時間調湿して重量W1(g)を測定し、次に温度20℃の水道水中に24時間浸漬した後取り出し、遠心脱水機にて3500rpmで5分間脱水後、重量W2(g)を測定し、下記式(1)で保水率T0 (%)を求めた。
保水率T0(%)=〔(W2 −W1)/W1〕×100 (1)
吸水性樹脂は、ポリテトラメチレンテレフタレート主成分とするポリエステルとポリエチレングリコールとの共重合体からなる樹脂であり、ポリエチレングリコールの共重合量としては5〜90重量%、好ましくは10%〜80%であり、特に好ましくは30〜60wt%の範囲が適当である。
この共重合体の溶融粘度は特に制限はないが、常用のスパンボンド法やメルトブロー法にて繊維を得るためには、生産性の観点から、せん断速度1000秒−1での溶融粘度が100〜10000poiseの範囲のものを使用するのが好ましい。吸水性樹脂の粘度がこの範囲であると、特にメルトブロー法による極細繊維化が容易であり、吸水性を有する極細繊維不織布が得ることができる。この場合、極細繊維の繊径は0.5〜5μmの範囲が好ましく、不織布の目付は1.0〜100g/mの範囲が可能であるが、低目付けの範囲(2〜10g/m)でも、安定した不織布が得られる。
吸水性不織布層に使用される繊維の繊度はその製造法によっても異なるが、0.01〜25dtexが好ましく、0.05〜15dtexの範囲がより好ましい。
熱可塑性疎水性不織布層(以下、 熱可塑性不織布層と略称することがある)を構成する樹脂としては、ポリエステル系ポリマー、ポリアミド系ポリマー、またはポリオレフィン系ポリマー、およびこれらのブレンド等を挙げることができる。
ポリオレフィン系ポリマーとしては、例えば、ポリプロピレン、低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン等を挙げる事ができる。ポリプロピレンに関しては、一般的なチーグラーナッタ触媒により合成されるものでもよいし、メタロセンに代表されるシングルサイト活性触媒により合成されたものであってもよい。ポリエチレンに関しては直鎖状低密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン等を挙げる事ができる。更には、ポリプロピレンとポリエチレンとの共重合体やポリプロピレン中にポリエチレンやその他の添加剤を添加したポリマーであってもよい。
ポリアミド系ポリマーとしては、例えば、ナイロン4、ナイロン6、ナイロン46、ナイロン66、ナイロン11、ナイロン12、ナイロンMXD6(ポリメタキシレンアジパミド)等を挙げる事ができる。更には、これらのナイロンを主体とする共重合体あるいはこれらの混合物であってもよい。
ポリエステル系ポリマーとしては、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、生分解性ポリエステル等を挙げることができる。更にはこれらのポリエステルを主体とする共重合体、これらの混合物であってもよい。
また、熱可塑不織布層には、本発明の目的を損なわない範囲で前記の吸水性樹脂を混合した混合繊維、または吸水性樹脂との芯鞘、接合型の複合繊維を用いてもよい。不織布に用いる熱可塑性樹脂の溶融粘度は特に制限はないが、常用のスパンボンド法やメルトブロー法にて繊維を得るためには、生産性の観点から、せん断速度1000秒−1での溶融粘度が100〜10000poiseの範囲のものを使用するのが好ましい。
熱可塑性不織布層の繊維の繊度は0.05〜20dtex、好ましくは0.5〜15dtexの範囲が適当である。繊度が0.5dtex未満では十分な布の強度が得られないことがある。
また、本発明の吸水性繊維および熱可塑性不織布層の繊維には、本発明の目的を損なわない範囲で、他の常用の各種添加成分、例えば、各種エラストマー類などの衝撃性改良材、結晶核剤、着色防止剤、ヒンダードフェノール、ヒンダードアミンなどの酸化防止剤、エチレンビスステアリルアミドや高級脂肪酸エステルなどの離型剤、ハロゲン化銅に代表される銅化合物などの耐熱剤、エポキシ化合物、可塑剤、滑剤、耐候剤、難燃剤、着色剤などの添加剤を添加することができる。
本発明において、吸水性繊維および熱可塑性不織布層の繊維の断面は、円形や楕円形、三角や四角等の多角形、扁平や中空等の異型断面形状でもよく、必要特性に応じて任意に設定することができる。
本発明において、拭取り性に関わる性能である濡れ戻り量が3.0g以下であるためには、疎水性長繊維であるポリエステル系又はポリオレフィン系が望ましい。速やかな吸水性を確保し、かつ濡れ戻り量を少なくするためには、ポリエステル系であることが更に好ましい。
本発明において吸水性繊維の積層体への含有率は吸水性繊維表面露出度で特定され、この露出度は下記(1)式:
吸水繊維表面露出度={[第二層目付/(第一層目付+第二層目付)]×100}/(第一層目付)×100 (1)式
{式中、第一層目付は、第一層疎水性繊維層(A)の目付(g/m2)であり、そして第二層目付は、第二層吸水性繊維層(B)の目付(g/m2)である。}で表される。
本発明において、片側の熱可塑性不織布表面(第1層表面)への吸水繊維表面露出度は35〜300、より好ましくは50〜200である。この値が35未満では、液体がワイパーに吸液される速度が遅く、ワイパーとして充分な吸液性能を得ることができない。また、300を越えると、吸液速度は充分速いが、濡れ戻り量が多くなり、ワイパーとして使用した際に、液体が再び拭取り面に戻り、拭取り面に液体が再付着し、面の拭取り性が不充分となる。
この吸水繊維表面露出度は、ワイパーの吸水速度と拭取り面への液残り防止性(拭取り性)に関わる値である。これらの吸水性に関わる性能は、吸水性繊維と拭取り面の熱可塑性繊維不織布層との重量比及び吸水性繊維が表面に露出する程度によって影響される。吸水性繊維に対して、表面熱可塑繊維不織布層の目付が大きいと、吸水繊維表面露出度が過小となり、吸水速度が遅く、速やかな吸液性が得られない。逆に表面不織布層の目付が少ないと、吸水繊維表面露出度が過大となり、吸液性は早いが拭取り面に対しての濡れ戻り量が大きくなり、拭取り面に液が残り拭取り性が低下する。
本発明者らは、前述の吸水繊維表面露出度を適度に制御することが、二律背反する性能である吸液性、即ち速やかな吸液速度と、拭取り性の良さ、即ち濡れ戻り量が少なく、拭取り面に液残りが少ないことを両立させるために重要であることを見出し、(A)層と(B)層の不織布の目付を、上記露出度が35〜500になるように調整することにより、本発明の課題を解決するに到ったものである。
本発明における積層体の吸液速度は、10秒/5ml以下が好ましく、より好ましくは4秒/5ml以下である。また積層体の濡れ戻り量は3.0g以下が好ましく、より好ましくは2.0g以下である。この両者の特性は、相反するものであるが、両者の特性をこの範囲にすることが重要である。すなわち、濡れ戻り量が3.0g以下でかつ、吸液速度が10秒/5ml以下であることが特に好ましく、さらに好ましくは、濡れ戻り量が2.0g以下でかつ、吸液速度が4秒/5ml以下である。
図1は、種々の目付を有する疎水性繊維不織布(A)と吸水性繊維不織布(B)の積層体(実施例)について、吸水繊維含有率と上記濡れ戻り量及び吸液速度を測定した結果(実施例)をプロットしたものであるが、吸液速度は、吸水繊維含有率が10%以下では急激に減少するが、15%以上ではほぼ一定となる。一方、濡れ戻り量は、吸水繊維含有率が増加するにつれて、増加傾向にあるが、明確な相関関係がない(相関係数60%)ことが判った。また、クリーンルームワイパー用途で有能の指標となる、濡れ戻り量3.0g以下の範囲については、相関が全く無く、吸水繊維の含有率は、有効なパラメーターではないことが判明した。
本発明者らは、吸水繊維含有率と濡れ戻り量との相関について、さらに検討したところ、拭取り性、即ち面への液残りの少なさを示す指標である濡れ戻り量は、吸水性繊維の含有率に加えて、表面第一層の目付、即ち、吸水性繊維の含有率と第一層の不織布の目付の割合(吸水繊維表面露出度)が重要な因子であることを見出した。すなわち、図1のデータについて、この吸水性繊維含有率に加えて第一層の目付を考慮した「吸水繊維表面露出度」というパラメーターを用いてプロットすると、図2に示すように、濡れ戻り量については、明確な相関性(相関係数95%)を示すことが判明した。したがってこのパラメーターの数値が特定範囲になるように疎水性不織布と吸水性不織布の目付を選定することにより、吸水速度と濡れ戻り量のバランスのとれた不織布積層体の製造が可能となった。
図2において、吸水繊維表面露出度に対して、吸液速度と濡れ戻り量は明らかに相反する関係であり、吸水繊維表面露出度が35未満の場合には、吸液速度が急激に上昇し、吸水性能が劣化することが伺える。また吸水繊維表面露出度が大きくなると、ほぼ直線的に濡れ戻り量が増加し、濡れ戻り性能を低下させるが伺える。したがって、吸液速度と濡れ戻り量が適切な範囲となるように吸水繊維表面露出度を設定することが重要であり、本発明では、その範囲を35〜300と規定すると、吸液速度と濡れ戻り量との間のバランスのとれたワイパーが得られることが判明した。
本発明に用いる吸水性不織布は、特異な吸水性繊維を用いて得られるものであり、その製造方法は、上述のように吸水繊維表面露出度が上記特定範囲になるように積層させる各不織布の目付を選定する以外は、従来公知の方法が任意に採用でき、特に制限はない。
吸水性不織布層、および熱可塑性樹脂からなる疎水性不織布層の積層方法としては、スパンボンド法とメルトブロー法に代表される紡糸直結法や、カーディングやエアレイなどの乾式法、抄紙法などの湿式法などのいずれの方法を用いても良い。
さらに、吸湿性繊維からなるウェブを熱可塑性樹脂からなる不織布層と接着あるいは絡み合わせる方法としても、カレンダー法、スルーエアヒーティング法などの熱的接着法、接着剤を用いて吸水性不織布層と熱可塑性樹脂からなる不織布層とを接着させる化学的接着法、ニードルパンチ法、水流交絡法、ステッチボンド法などの機械的接着法などのいずれの方法を用いても良い。
スパンボンド法、メルトブロー法およびこれらの積層により得られる不織布は、短繊維を経ることなく、直接長繊維をウェブ化することにより作られるので、ボンディング部の破損による短繊維の脱落がないので、クリーンルーム用ワイパーとして最も好適である。
本発明における不織布積層体の構造として、吸水性繊維からなる不織布層と熱可塑性樹脂からなる疎水性不織布層が少なくとも各1層づつ積層されていればよく、積層するする層の数は特に限定されるものではないが、設備の制約や生産性を考慮した場合、3〜5層であることが好ましい。
さらには、両外層を熱可塑性樹脂からなる疎水性不織布(好ましくは長繊維不織布)で構成し、かつ中間層として吸水繊維からなる不織布層を配置した、3層以上の不織布がオンラインで積層してなる不織布積層体であることが好ましい。
このような構造を採用することにより、中間層に含まれる吸水繊維が優れた吸水性を示すと同時に、吸水性繊維の脱落と、湿潤時の布強度の低下を低減した積層体とすることができる。さらには、表面層が疎水性長繊維不織布層とすると、特にクリーンルーム用ワイパーとして好適であり、拭取った液が表面の疎水性長繊維不織布層から中間層の吸水繊維層に移行し、表面に液が残らないため、拭取り面の液残り、拭き筋の残らない拭取り性に優れたクリーンルーム用ワイパーとすることができる。
オンライン上で、上記のような3層積層構造を形成すると、積層による、吸水繊維の外層への突き出し効果が発生しやすくなり、露出度が向上し、より吸水速度を更に向上させることが可能となる。その際、吸水繊維の積層体全重量に占める割合が5〜70%である事が、湿潤時の強度低下を防ぐ上で好ましい。
本発明の好ましい態様として、吸水性不織布が、熱可塑性樹脂からなるスパンボンド不織布を移動するウェブ捕集面上堆積させ(S層)、その上にメルトブローン法によって形成される吸水性繊維を直接堆積させ(M層)、さらにその上に熱可塑性樹脂からなるスパンボンド不織布を直接堆積させて(S層)、熱エンボス処理により、積層体が圧着さてれなる吸水性不織布積層体が挙げられる。このようなSMS構造の不織布のM層に、吸水性不織布を用いると、M層での吸水性の確保、S層による強度保持、耐磨耗性の向上、毛羽たちの防止、柔軟風合い等、M層とS層の相乗効果が発揮され、好ましい積層不織布が得られる。用途に合わせて、適宜、層の数を調整できる。
熱可塑性吸水性不織布および熱可塑性樹脂からなる疎水性不織布層の繊維形成には、通常使用される紡糸口金を用いて溶融紡糸をすればよい。紡糸した糸条は、冷却した後に延伸しウェブをコンベア上で捕集し任意の方法により布帛とする。
さらに、本発明の吸水性不織布積層体には、本発明の目的を損なわない範囲で、他の常用の後加工、例えば帯電防止剤などの付与をしてもよいし、染色、撥水加工などを施してもよい。
また、本発明の吸水性不織布積層体の形状、形態、目付等についても、必要特性に応じて任意に設定することが出来る。 吸水性不織布積層体に印刷、染色、コーティング加工などを施すことも可能であるし、種類の異なる素材、製法、製品を複合化しても何ら差し支えない。
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらにより何ら限定されるものではない。
なお、測定方法、評価方法等は下記の通りである。
<リントフリー性>
20cm角の大きさの試料を測定容器内に吊るし、回転棒で叩きながら、試料から発生したリントの数を光散乱式粒子測定器(パーティカルカウンター、リオン(株)製KC-03)で測定し、カウンターに表示された0.3〜5ミクロンの粒子の合計数で試料からの粉塵発生を評価した。
不織布には、その製造方法によって、界面活性剤などの水に溶出しやすい成分が含まれている場合がある。下記の泡立ち試験により、定性的に不織布の不純物含有を比較評価した。
<泡立ち試験評価方法>
準備:サンプルを一晩恒温室で調湿する。(20℃、65%RH)
イ)純水150ccをビーカーに入れる。
ロ)調湿後のサンプル5gを、純水150ccの中に入れて5分間漬け込む。
ハ)5分後、ビーカーを1分間振りながら攪拌する。
ニ)上記ビーカーより60ccの液を、100ccシリンダーに採取する。
ホ)シリンダーを手にて蓋をし、上下に20回振る。
ヘ)シリンダーを立てて1分間放置し、泡立ちの状態を見て泡立ち性を判定する。
判定は、下記の基準で行った。
○:泡が無い状態か、ほとんど泡が目立たず液面に薄い筋状の泡が残る程度で壁面には泡は付着しない。
×:液面上に明らかに泡と分かる層が形成されており、シリンダーの壁面にも泡が付着
している。
<吸水倍率>
下記式(1)で示す吸水倍率で不織布の吸水性を評価した。まず、20cm角の大きさの試料を温度20℃、相対湿度65%の雰囲気中で24時間調湿して重量W1(g)を測定し、次に温度20℃の水道水中に30分間浸漬した後取り出し、一箇所で1分間吊り下げた後の重量W2(g)を測定し、下記式(1)で吸水倍率T0 を求めた。
吸水倍率T0(倍)=〔(W2−W1 )/W1 〕 (1)
<吸水速度>
12.5mm×12.5mmの大きさの試料を用いて、試料が水5mlを吸水する速度を求めた。測定はEDANA法に準拠して実施。
<拭取り性>
ワイパーにて液体を拭取る際の拭取り性は、液が試料に吸収された後に荷重によって排出される濡れ戻りが少ない物が良好である。濡れ戻り性はエダナ法に準じて、以下の方法で測定を行った。
濡れ戻り性:自重の3.4倍の水を含んだ濾紙の上に12.5mm×12.5mmの試料を設置し、
その上に乾燥した濾紙を乗せ、さらにその上部に3.5kgの錘を2分間乗せて上部の濾紙への濡れ戻り量を測定。
<ポリエステルの固有粘度>オルトクロロフェノールを溶媒とし、試料濃度1g/100cc、温度35℃の条件で定法により測定した。
<メルトフローレート>JIS K 7210に記載の方法に準じてメルトフローレート(MFR)を測定した。
[実施例1]
固有粘度が0.70のポリエチレンテレフタレート樹脂(PET)を常用の溶融紡糸装置に供給し290℃にて均一に溶融混合し、円形断面の紡糸孔を有する紡糸口金から溶融紡出して速度4500m/分にて引き取り、2.0dtexのポリエチレンテレフタレート繊維を得た。得られたポリエチレンテレフタレート繊維を開繊分散して目付が30g/mの表面第一層ウェブを形成した。
次に固有粘度が0.92でポリエチレングリコールの共重合率が45重量%であるポリテトラメチレンテレフタレートとポリエチレングリコールとの共重合ポリエステル樹脂を常用のメルトブロー溶融紡糸装置に供給し、270℃にて均一に溶融混合し、円形断面の紡糸孔を有する紡糸口金から溶融紡出して2.5μmの吸水性繊維からなる目付が4g/mの中間層の吸水繊維層ウェブを得た。この吸水繊維層ウェブの40℃相対湿度80%における吸湿率は11%、保水率は85%であった。
得られた吸水性ウェブを目付が30g/mのポリエチレンテレフタレート繊維からなる表面第三層ウェブで挟み、165℃に加熱した長方形柄エンボス(圧着面積率11.4%)ロールとフラットロール間でとフラットロール間で線圧180N/cmにて部分熱圧着して、64g/mの不織布を作成した。得られた不織布の各物性を表1に示す。
吸水性繊維の表面露出度は39であり、後述の比較例1及び比較例2に対して、吸水倍率、濡れ戻り量はほぼ同一であるが、吸水速度は3.5秒/5mlとなり、比較例1及び比較例2に対して大幅に性能が向上した。本実施例では、表面への吸水性繊維の露出が少なくても、充分な吸水速度を得られた。更に、比較例5に比べるとリント発生量と泡立ち度合いが少なく、クリーンルーム用ワイパーとして良好なものであった。
[実施例2〜8]
積層不織布の構成を表1に示す条件に変えた他は、実施例1と同様にして、実施例2〜8の積層不織布を作成した。得られた不織布の各物性を表1に示す。
吸水性繊維の表面露出度は50〜200の範囲であり、実施例1と比較しても、吸水速度が3秒/5ml以下となり、更に性能が向上し、濡れ戻り量は2g以下であり、吸水速度と濡れ戻り量の両方の性能をより満足するクリーンルーム用ワイパーであった。
[実施例9]
積層不織布の構成を表1に示す様に変えた他は、実施例1と同様にして実施例9の積層不織布を作成した。得られた不織布の各物性を表1に示す。得られた不織布の各物性を表1に示す。
吸水性繊維の表面露出度は267であり、吸水速度が2.6秒/5ml以下と向上するが、濡れ戻り量は3.0gとなった。比較例3〜4に比べて吸水速度は同程度であるが、濡れ戻り量が少なく、拭取り面への液の残りの少ない拭取り性に優れたクリーンルーム用ワイパーであった。
[比較例1〜2]
積層不織布の構成を表1に示す様に変えた他は、実施例1と同様にして比較例1〜2の表面露出度は30以下の積層不織布を作成した。得られた不織布の各物性を表1に示す。濡れ戻り量は0.8gと少ないものの、吸水速度が12〜22秒/5mlであり、液体の吸水速度が遅く、クリーンルーム用ワイパーとして不十分なものであった。
[比較例3〜4]
積層不織布の構成を表1に示す様に変えた他は、実施例1と同様にして比較例1〜2の表面露出度が333の比較例3と500の比較例4を作成した。得られた不織布の各物性を表1に示す。吸水速度は1.8秒/5ml及び2.5秒/5mlと良好であるが、ぬれ戻り量が3.6g(比較例3)と4.7g(比較例4)と多く、液体の拭き残り量が多く、クリーンルーム用ワイパーとして不十分なものであった。
[比較例5]
クリーンルーム用ワイパーとして市販されている、キンバリークラーク社製「Crew」(商標)の性能を表1に示す。吸水速度が実施例に比較して遅く、濡れ戻り量も多く、ワイパーとしての吸水性に劣るものであった。また、極細繊維のみで作成され、表面に弱い極細繊維が露出しているためにリント発生量が多く、更に吸水加工剤によって吸水性を付与しているため、泡立ちせいが悪くクリーンルーム用ワイパーとして不十分なものであった。
[比較例6]
積層不織布の代わりにコットン100%スパンレース(日清紡社製「コットエース」(商標)、目付60g/m)を用いてワイパーを作成した。その性能を表1に示す。
Figure 0004951300
本発明の熱可塑性吸水性繊維を用いたワイパーは、吸水性付与のための後加工の必要がなく、特にクリーンルーム用として必要なリントフリー性と界面活性剤脱落に起因する泡立ちが無く、更にコスト面で有利であり、吸水性繊維の表面露出度によって吸水速度と濡れ戻り量の両方を制御でき、かつ、湿潤時の強度低下が小さく、取り扱い性に優れたワイパーである。そのため、大規模集積回路、電子機器、電子部品、液晶、光学系等に代表される精密機械部品や、電子部品等の製造工程、医薬品、医療用具等の製造工程、無菌室、食品関連の製造工程等で有効に使用されるクリーンルーム用ワイパーといえる。
吸水性・拭取り性と吸水繊維含有率の関係を示す図。 吸水性・拭取り性と吸水繊維表面露出度の関係を示す図。

Claims (8)

  1. 熱可塑性疎水性繊維からなる不織布層(A)と、熱可塑性吸水性繊維からなる不織布層(B)とが積層一体化された積層不織布からなるワイパーであって、該熱可塑性疎水性繊維がスパンボンド法によって製造された長繊維であり、該熱可塑性吸水性繊維がポリアルキレングリコールを共重合させて得られた熱可塑性吸水性樹脂からなる繊維であり、該積層不織布表面への下記(1)式:
    吸水繊維表面露出度={[第二層目付/(第一層目付+第二層目付)]×100}/(第一層目付)×100 (1)式
    {式中、第一層目付は、第一層疎水性繊維層(A)の目付(g/m2)であり、そして第二層目付は、第二層吸水性繊維層(B)の目付(g/m2)である。}で表される該吸水繊維表面露出度が35〜300の範囲であり、そして該積層不織布の濡れ戻り量が1.0以上3.0g以下であることを特徴とする前記ワイパー。
  2. 前記熱可塑性吸水性繊維が、ポリテトラメチレンテレフタレートを主成分とするポリエステルとポリアルキレングリコールとの共重合体からなり、かつ、ポリアルキレングリコールの共重合量が5〜90重量%である、請求項1に記載のワイパー。
  3. 前記不織布層(A)と(B)とが積層一体化された積層不織布に、前記不織布層(A)がさらに積層されている、請求項1又は2に記載のワイパー。
  4. 前記不織布層(B)が、メルトブロー法で形成されたものである、請求項1〜3のいずれか1項に記載のワイパー。
  5. 前記積層不織布の吸液速度が10秒/5ml以下である、請求項1〜4のいずれか1項に記載のワイパー。
  6. 以下のステップ:
    積層不織布表面への下記(1)式:
    吸水繊維表面露出度={[第二層目付/(第一層目付+第二層目付)]×100}/(第一層目付)×100 (1)式
    {式中、第一層目付は、第一層疎水性繊維層(A)の目付(g/m2)であり、そして第二層目付は、第二層吸水性繊維層(B)の目付(g/m2)である。}で表される吸水繊表面露出度が35〜300の範囲になるように、不織布層(A)及び(B)の目付をそれぞれ調整して、熱可塑性疎水性繊維からなる不織布層(A)上に、熱可塑性吸水性繊維からなる不織布層(B)を積層一体化する、
    を含む、請求項1〜5のいずれか1項に記載のワイパーの製造方法。
  7. 熱可塑性疎水性繊維からなる不織布層(A)上に、熱可塑性吸水性繊維からなる不織布層(B)を積層一体化するステップにおいて、該不織布層(B)を、メルトブロー法で形成し、そして得られた積層不織布を、熱エンボス処理により、部分熱圧着して一体化する、請求項6に記載のワイパーの製造方法。
  8. 以下のステップ:
    不織布層(A)と(B)とが積層一体化された積層不織布に、前記不織布層(A)をさらに積層する、
    をさらに含む、請求項6又は7に記載のワイパーの製造方法。
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