以下、本発明に係る実施の形態につき図面を参照して説明する。図1に示す如く、インダイレクトマトリクスコンバータ100は、商用電源ACに接続されたフィルター回路110と、商用電源ACの電圧値を検出する入力電圧検出部SEN1と、コンバータ回路120と、アクティブスナバ回路130と、当該アクティブスナバ回路に設けられた電圧検出手段180と、インバータ回路140と、インバータ回路140から負荷Mへ供給される電流の検出を行なう電流検出部SEN2と、コンバータ制御回路150と、スナバ制御回路160と、インバータ制御回路170とから構成されている。
図2は、これらの構成がより具体的に示されている。但し、図2に示されるインダイレクトマトリクスコンバータ100は、特許請求の範囲の一実施形態に過ぎず、特許請求の範囲は、同図によって限定的に解釈されてはならない。
商用電源ACは、発電所等から供給される3相交流電力であって、R相及びS相及びT相に対応して各々端子が設けられている。また、かかる3相の電圧及び電流は、互いに、所定の位相差が与えられている。
フィルター回路110は、各入力電源ラインにLC回路が構成されている。また、電圧検出部SEN1は、信号ラインが各々設けられ、コンバータ制御回路150では、当該信号ラインの他端が接続され、各相の電源ラインの相間電圧が検出される。
コンバータ回路120は、3つの並列接続されたパワートランジスタ122〜124と、当該パワートランジスタ122〜124に適宜に接続されたダイオードとから構成される。当該パワートランジスタ及びダイオードは、3つのアーム部を構成し、ハイサイドラインとローサイドラインとの間に並列接続される。当該アーム部は、各々が、通過電流がローサイドラインからハイサイドラインへ流れるようにパワートランジスタが配置され、周囲の4つのダイオードによって、電源ラインを介してハイサイドラインへ電流を供給させ、且つ、ローサイドラインに流れる電流を他の電源ラインへと還流させる。そして、パワートランジスタ122〜124が適宜にスイッチングされることにより、交流電力を変換し後段の直流リンク部へ直流電力を出力させる。かかる直流リンク部では、インバータ回路の動作に応じて電圧値が略一定に制御される。尚、直流リンク部には、必要に応じて、フリーホイーリングダイオード121が並列接続される。
アクティブスナバ回路130は、図示の如く、コンバータ回路の後段の直流リンク部に並列接続されている。具体的に説明すると、アクティブスナバ回路130は、スナバコンデンサ133と、ハイサイドラインからスナバコンデンサ133に向かって順方向に接続されるスナバダイオード132と、スナバダイオードに並列接続されスナバコンデンサ133に蓄積された電荷を断続的にハイサイドラインへ放電させるスナバトランジスタ131とから構成される。
アクティブスナバ回路130では、負荷で回生電力が発生すると、これによって生じた電流がスナバダイオード131を経由してスナバコンデンサ133へと導かれ、スナバコンデンサ133では、回生電流に伴って電荷が蓄積される。但し、本実施の形態では、同期モータが負荷として用いられるため、当該回生電流が一時的に生じるものである。その後、スナバ制御回路160から駆動信号Snbが出力されると、スナバトランジスタ131が信号の波形に応じて導通状態とされ、スナバコンデンサ133の電荷の放電が許可される状態となる。尚、スナバ制御回路160から出力される駆動信号のタイミングについては、追って詳述することとする。
インバータ回路140は、アクティブスナバ回路130を有する直流リンク部の後段に接続され、且つ、出力側に電流検出部SEN2を具備している。インバータ回路140は、図示の如く、複数のパワートランジスタ141〜146が電圧型3相インバータを成すように配線され、各々のアームの接点部が配線Lu〜Lwを介して負荷Mに接続される。また、各パワートランジスタ141〜146には、通電時に流れる電流の逆向きにダイオードが並列接続されている。周知の如く、インバータ回路140は、インバータ制御回路170から出力されたPWM信号Siによって、パワートランジスタ141〜146が適宜に駆動制御され、直流リンク部の直流電力をPWM制御によって3相交流電力へと変換させる。
負荷Mは、本実施の形態では永久磁石同期モータが使用される。永久磁石同期モータとは、回転子に永久磁石が使用されたPM(Permanent Magnet Synchronous Motor)を指し、この中には、SPM(Surface Permanent Magnet Motor)、IPM(Interior
Permanent Magnet Motor)等を含み、制御された回転磁界によって同期運転されるモータを指す。但し、負荷Mは、これに限定されるものではなく、力率の低い誘導モータを用いることも可能である。
また、本実施の形態では、コンバータ制御回路150とアクティブスナバ回路160とインバータ回路とが同一の半導体に集積されたワンチップ半導体から成る制御回路CNTが用いられる。但し、特許請求の範囲に係るインダイレクトマトリクスコンバータは、コンバータ制御回路150及びアクティブスナバ回路160及びインバータ回路170が同図の形態に限定されるものでなく、互いに独立した半導体回路を用いても良い。即ち、制御回路CNTは、モノシリックICであるのとハイブリッドICであるのとを問うものではない。かかる制御回路CNTは、CPU,メモリ回路,クロック回路等を構成させ、所定の演算処理が制御プログラムに応じて実施される。
コンバータ制御回路150は、入力電圧検出部SEN1から受信した電圧値に基づいて、駆動信号Srを生成出力させ、パワートランジスタ122〜124を駆動制御させる。また、当該コンバータ制御回路150で用いられるコンバータ用搬送波は、インバータ制御回路170で生成されるインバータ用搬送波に基づいて生成されている。
スナバ制御回路160は、スナバコンデンサ133の電圧値に基づいて、駆動信号Snbを生成出力させ、スナバトランジスタ131を駆動制御させる。これにより、スナバ制御回路160は、アクティブスナバ回路130の内部素子(スナバコンデンサ)に蓄積された電荷の放電を制御させる。尚、スナバトランジスタ131の駆動信号の生成については、追って詳述することとする。
インバータ制御回路170は、出力電流検出部SEN2から受信した電流値に基づいて、駆動信号Siを生成出力させ、パワートランジスタ141〜146を駆動制御させる。
電圧検出手段180は、スナバコンデンサ133とスナバ制御回路160とを結ぶ配線に介挿され、スナバコンデンサ133に生じる電圧を検出し、当該電圧に関する情報をスナバ制御回路160へと出力させる。図3には、電圧検出手段180の一例が具体的に示されている。同図に示される電圧検出手段180は、レギュレータ等によって所定電位に安定された基準電源Vthと、スナバコンデンサ133の電位Vcが印加され当該電位Vcに応じた電圧値信号を出力させる分圧抵抗R1,R2と、コンパレータCompとから構成される。当該コンパレータCompは、非反転端子に分圧抵抗の出力端が接続され、基準電位Vthが反転端子に接続され、双方の比較結果をスナバ制御回路160へ出力させる。即ち、コンパレータCompは、入力されたスナバコンデンサ133の電圧値を閾値判定し、これによって得られた判定信号をスナバ制御回路160へ出力させる。ここで、基準電圧Vthの電圧値は、スナバコンデンサ133の耐圧に応じて設定される。
尚、電圧検出手段180は、上述した構成に限定されるものでなく、図4に示されるような制御回路CNTに内蔵された態様であっても良い。即ち、その具体例について説明すると、スナバ制御回路160は、所定の比較処理機能が構築され、スナバコンデンサの耐圧値に関する基準値が与えられている。また、スナバ制御回路160には、入力ポートPin(デジタルポート又はADポート)が設けられ、スナバコンデンサ133の電圧検出端子に直接配線される。そして、内蔵された比較処理機能によって、図3の作用と同等の作用が実現される。即ち、電圧検出手段180は、制御回路CNTに内蔵される態様であっても良く、制御回路CNTから物理的に独立した態様であっても良い。
上述の如く、本実施の形態に係るインダイレクトマトリクスコンバータ100は、制御回路CNTによってコンバータ回路120及びインバータ回路140が制御されると、コンバータ回路120では交流電力から変換した直流電力を直流リンク部へ出力させ、インバータ回路140では当該直流電力を交流電力へ再変換して永久磁石同期モータMを駆動制御させる。本実施の形態に係るインダイレクトマトリクスコンバータ100は、同期モータを制御させることを前提として設計されているため、エネルギーバッファとしての電解コンデンサは直流リンク部には設けられていない。しかし、同期モータの力率が低下した場合、永久磁石モータMからの運転状態によっては、回生電力を発生させてしまう場合がある。このため、アクティブスナバ回路は、偶発的に生じてしまった回生電力を吸収し、所定のタイミングに応じて、スナバコンデンサに蓄積された電荷を放電させ、この放電によって生じる電力を同期モータMの電力として充当させている。かかるスナバコンデンサは、臨時的に生じる回生電力のバッファー機能として用いられるため、通常のバッファー用コンデンサと比較して低容量の素子で十分とされる。
図5を参照して、制御回路CNTに内蔵される機能について説明する。尚、機能ブロックとして表現される各々は、CPU等の演算処理によって実現されるものである。
図示の如く、コンバータ制御回路150は、相電圧換算部151と指令値演算部152とPWM信号成形部153とから構成される。また、スナバ制御回路160は、放電周期選定部161と駆動信号成形部162とから構成される。また、インバータ制御回路170は、入力値換算部171と角速度推定部172と位相情報演算部173と指令角度出力部174と指令電流生成部175とd軸指令値演算部176とq軸指令値演算部177と指令値換算部178とPWM信号成形部179とから構成される。
先ず、インバータ制御回路170から説明する。インバータ制御回路170は、永久磁石同期モータMで検出されたU相電流,V相電流,W相電流(以下、相電流Ii$と呼ぶ)と、後述する位相情報θ#との各々が入力されると、入力値換算部171によって、3相の相電流Ii$をd軸検出電流Id$とq軸検出電流Iq$との2軸の成分に換算させる。但し、d軸とは回転子の磁力方向を指し、q軸とはd軸に垂直な方向を指し、d軸検出電流Id$とは相電流Ii$をd軸成分に換算した電流を指し、q軸検出電流Iq$とは相電流Ii$をq軸成分に換算した電流を指す。
角速度推定部172は、d軸検出電流Id$と、q軸検出電流Iq$と、後述するd軸指令電圧Vd*及びq軸指令電圧Vq*が入力され、所定のモデル式を用いて演算することにより、推定角速度ω#を算出させる。
位相情報演算処理173は、推定角速度ω#を時間積分させ、これにより、位相情報θ#を算出させる。
指令角速度出力部174は、外部からの指令に基づいて指令角速度ω*を出力させる。
指令電流生成部175は、指令角速度ω*と推定角速度ω#との差分値が入力され、これに基づいてd軸指令電流Id*及びq軸指令電流Iq*を算出させる。具体的に説明すると、指令電流生成部175ではd軸電流演算部175aとq軸電流演算部175bとを備え、各々の演算部では、制御軸に対して回転子の磁力方向が所定角を成して制御されるV/F制御と、回転子の磁力方向と制御軸とが略一致するように制御される同期運転制御と、V/F制御から同期運転制御に移り変わる電流切換制御とを、所定のモデル式に応じて算出させる。そして、これらの制御を切換えることにより、運転開始からV/F制御へと切換え、最終的に同期運転制御へと切換える。
d軸指令値演算部176は、d軸指令電流Id*とd軸検出電流Id$との差分値が入力され、PI制御させることにより、d軸指令電圧Vd*を生成させる。また、q軸指令値演算部177は、q軸指令電流Iq*とq軸検出電流Iq$との差分値が入力され、PI制御させることにより、q軸指令電圧Vq*を生成させる。尚、これらの指令電圧Vd*及びVq*は、d軸及びq軸によって換算された電圧値である。
指令値換算部178は、前段で算出された指令電圧Vd*,Vq*が入力され、これに基づいて正弦波状の指令電圧(Vu*,Vv*,Vw*)が生成される。かかる指令電圧は、インバータ回路のU相、V相、W相に対応して3相分生成される。
PWM信号成形部179では、インバータ回路140で用いられる搬送波(インバータ用搬送波)を生成し、当該インバータ用搬送波と指令電圧(Vu*,Vv*,Vw*)とを比較処理させ、これにより、インバータ側のPWM信号を生成する。当該インバータ側搬送波は、単なる三角波であって、其の生成処理は最小限に抑えられる。従って、インバータ制御回路170では、PWM信号成形部179で搬送波を生成させる際、制御処理の負担が最小限に抑えられる。
図6のA部及びB部には、インバータ制御回路170で生成される各種波形が示されている。インバータ回路のPWM信号成形回路179では、A部に示す如く、インバータ側搬送波WAV1が三角状に形成され、その要素周期はTinv(sec)とされる。このとき、PWM信号成形部179では、指令電圧(Vu*,Vv*,Vw*)が入力され、当該指令電圧とインバータ用搬送波WAV1とが比較処理され、B部に示す如く、インバータ側のPWM信号Sau〜Sbwが形成される。尚、同図では、PWM信号のHigh値側がパワートランジスタのON状態を現し、Low値がパワートランジスタのOFF状態を示す。また、同図では、指令電圧(Vu*,Vv*,Vw*)が直線的に描かれているが、巨視的に観察すると正弦波とされるものである。
図5に戻り、コンバータ制御回路150の動作について説明する。先ず、コンバータ制御回路150では、入力電圧検出部SEN1から受信した複数の信号に基づいて相間電圧(Vrs,Vst,Vtr)を換算させる。ここで、相間電圧Vrsは、入力側のR相とS相との電位差をいい、相間電圧Vstは、入力側のS相とT相との電位差をいい、相間電圧Vtrは、入力側のT相とR相との電位差をいう。その後、相電圧換算部151では、検出した相間電圧(Vrs,Vst,Vtr)を交流電源に相当する相電圧(Vr,Vs,Vt)に変換させる。その後、指令値演算部152では、相電圧(Vr,Vs,Vt)に基づいてフィードフォワード制御させ、コンバータ回路における指令電圧(Vr*,Vs*,Vt*)を生成する。かかる指令電圧(Vr*,Vs*,Vt*)についても、位相の異なる正弦波とされる。指令値演算部152では、フィードフォワード制御によって指令電圧(Vr*,Vs*,Vt*)を生成させるので、制御処理が図示の如く簡素化され、これにより、コンバータ制御回路では、制御処理の構成が最小限に抑えられ、ハードウェアリソースが有効に活用されることとなる。
PWM信号成形部153では、インバータ用搬送波WAV1に基づいてコンバータ用搬送波WAV2を造り換える機能と、コンバータ用のPWM信号を生成する機能とを備えており、この処理の結果、コンバータ回路のパワートランジスタ122〜124が適宜に駆動される。
インバータ用搬送波WAV1に基づいてコンバータ用搬送波WAV2を造り換える機能とは、図6のC部に示す如く、PWM信号成形部153にインバータ用搬送波WAV1が入力されると、インバータ用搬送波の周波数を2倍にし、谷側頂点の位置を調整してモータの相電流が歪まないようにする。また、コンバータ用搬送波の山側頂点は、インバータのトランジスタが零ベクトルの期間、直流リンク部から同期モータMへ電流が流れないので、フラット状に変形させておく。尚、アクティブトランジスタの駆動信号Snbがオン状態の場合に限り、コンバータ側の搬送波WAV2の波形を、常にフラット状にさせておく(図6参照)。かかる処理は、インバータ制御回路における搬送波WAV1を生成する処理と比較して、複雑な処理とされてしまう。しかし、コンバータ制御回路150では、制御処理が簡素化なものとされているので、当該制御回路に割り当てることの可能な制御処理の領域に余裕がある。このため、コンバータ制御回路150では、コンバータ側搬送波WAV1の成形処理を多少複雑にしても良い。
コンバータ回路のPWM信号を生成する機能では、図6のDに示す如く、指令電圧(Vr*,Vs*,Vt*)とコンバータ用搬送波WAV2との波形の比較処理によってコンバータ側のPWM信号Sr〜Stが得られる。ここで、本実施の形態に係るコンバータ回路150では、コンバータ側のパワートランジスタが少なくとも2箇所のアームでON状態となれば、交流電力が直流リンク部へ通電可能とされる。但し、インバータ回路140のパワートランジスタが零ベクトルでなく、且つ、同期モータMの電力消費が零でないことを条件として、コンバータ回路から直流リンク部を介してインバータ回路へと電流が流れることとなる。即ち、永久磁石同期モータMで電力が消費されるならば、図6のDに示す如く、「K」の範囲でのみコンバータ回路から直流リンク部を介してインバータ回路へと電流が流れることとなる。尚、本実施の形態に係る制御回路CNTでは、スナバ制御回路160の信号がオン状態とされるとき、コンバータ側のPWM信号を全てオフにさせ、コンバータ側からの供給電流を遮断させている。具体的に説明すると、コンバータ制御回路150では、スナバ制御回路160の信号がオン状態のとき、コンバータ側搬送波WAV2を最大値にさせ、これにより、コンバータ側の2相のPWM信号をオフ状態にさせる。
上述の如く、本実施の形態に係るインダイレクトマトリクスコンバータによると、インバータ側搬送波WAV1を基準としてコンバータ側搬送波WAV2を生成させることにより、インバータ制御回路170では、インバータ側搬送波WAV1を生成させる処理が最低限に抑えられ、インバータ回路140を制御させるための他の制御処理が当該インバータ制御回路170で有効に割り当てられる。また、コンバータ制御回路120では、コンバータ側搬送波WAV2の生成処理が複雑になるが、インバータ制御回路170と比べてハードウェアリソースに余裕があるため、当該コンバータ回路120で必要とされる制御処理を割り当てることができる。
また、プログラマブルロジックデバイス等の高価な電子デバイスを用いる必要もないので、装置の高コスト化を抑制させることが可能となる。
図5に再び戻り、スナバ制御回路160の動作について説明する。放電周期選定部161(特許請求の範囲における周期選定手段)では、d軸検出電流Id$と、q軸検出電流Iq$と、スナバコンデンサ133の検出電圧値Vc$と、インバータの運転モードMdとが入力され、これらの情報に基づいてスナバコンデンサ133の放電周期を選定する。
d軸検出電流Id$とq軸検出電流Iq$は、インバータ制御回路170の入力値換算部171から当該電流値に係る情報が供給される。スナバコンデンサ133の検出電圧値Vc$は、スナバコンデンサ133に接続させた検出ラインによって当該情報の検出が可能となる。インバータの運転モードMdは、現在駆動されている同期モータがV/F制御で駆動されているのか、切換モードで駆動されているのか、同期運転モードで駆動されているのかを示す情報とされる。
そして、メモリ回路には、d軸検出電流Id$とq軸検出電流Iq$とスナバコンデンサ133の検出電圧値Vc$との或る具体的な数値と、運転モードが何れの状態であるかの条件とに対応させて、スナバトランジスタのオンオフパターンが複数パターン記録されている。かかるパターンは、実験的に決められたものであっても良く、回生電流の値等から算出された結果であっても良い。また、スナバトランジスタのオンオフパターンは、d軸検出電流Id$、q軸検出電流Iq$、検出電圧値Vc$、運転モードの全ての条件が備わっていなければ決定できないという意味で無く、これらのうちの何れかの条件によってオンオフパターンを決定するようにしても良い。また、d軸検出電流Id$の代わりにd軸指令電流Id*を置換えても良く、q軸検出電流Iq$の代わりにq軸指令電流Iq*を置換えても良い。以下、d軸検出電流Id$、q軸検出電流Iq$、検出電圧値Vc$、運転モードの何れかの組合せによって構成される条件を選定条件と呼ぶ。
放電周期選定部161では、制御回路CNTの処理動作を簡素化させるため、スナバトランジスタのオンオフパターンを或る一定の規則に基づいて決定させている。即ち、放電周期選定部161では、周期型ピッチ決定機能と周期型デューティ決定機能とを有する。周期型ピッチ決定機能は、スナバトランジスタのオンオフパターンをインバータ用搬送波WAV2の何周期分で構成させるかを決定する。図6のEには、当該オンオフパターンの一例が示されており、同図の例では、オンオフパターンがインバータ用搬送波WAV2の4周期分で構成されている。以下、搬送波WAV2によって構成される一単位を合成周期Tsumと呼ぶ。周期型デューティ決定機能は、合成周期Tsumの中から信号SnbをOFF(Low)にする要素周期TinvとON(High)にする要素周期Tinvとを選定する。但し、ここでは、スナバトランジスタの駆動信号Snbの波形形成はまだ実施されているのではなく、合成周期Tsumの中から要素周期に対応させてオンオフパターンが決定されているだけである。
駆動信号成形部162(特許請求の範囲における放電許可手段)では、インバータ用搬送波WAV2の形状を受け、放電周期選定部161で得られた合成周期Tsumとオンオフパターンの情報を取得し、これに基づいて、スナバトランジスタの駆動信号Snbを矩形波状に成形する。そして、駆動信号成形部162では、この矩形波に応じて、スナバトランジスタ131を通電状態とさせる。図6のEでは、先にも述べたように合成周期がTsumとされ、オンオフパターンが前段オン3周期,後段オフ1周期とされたものが示されている。同図の場合、駆動信号成形部162では、インバータ用搬送波WAV2の要素周期Tinvに対応させて、前段から「Low−Low−Low−High」の指令を行い、要素周期Tinvに同期したパルス信号を形成させている。即ち、スナバ制御回路160で決定されるDUTYは、要素周期Tinvの整数倍によって規定される。尚、図6に示す如く、スナバトランジスタがONされる期間であっても、そのON期間の全てでスナバコンデンサ133の電荷が放電されるというわけではない。何故なら、図6のEにて説明したように、永久磁石同期モータMに電流が流れるタイミングは、「K」の期間に限られており、この期間に当該同期モータMで電力が消費される場合に限り、スナバコンデンサ133からの放電が行なわれることとなる。即ち、駆動信号Snbのオンタイミングでは、スナバコンデンサにスナバトランジスタが通電状態に切換えられ、蓄積された電荷の放電が許可されるのであって、この期間内に放電される条件が整った場合に放電電流が同期モータ側へと流れることとなる。
上述の如く、複数の要素周期で合成された期間でスナバトランジスタの切換動作が行なわれるので、要素周期毎にスイッチングする制御から免れ、制御回路CNTの処理動作の簡素化が図られる。このため、FPGAといった特殊な回路素子を用いることなく、汎用の制御回路を適用することが可能となる。
次に、図7を参照し、スナバ制御回路160に伴うインダイレクトマトリクスコンバータ100の動作について説明する。制御回路CNTがアクティブ(電源ON)になると、図示の如く、スナバ制御回路に関するプログラムが起動し、駆動信号Snbの形成に必要な選定条件が全て取得されているか否かの判定が行なわれる(S01)。ここで、選定条件とは、検出電流Id$,Iq$、検出電圧Vc$、運転モードMdをいう。
S01で必要な情報の取得が確認されると、スナバコンデンサ133の電圧値Vc$が基準電圧Vthより大きいか否かの判定が実施される。ここで、電圧値Vc$が基準電圧Vthより小さい場合、前ステップS01へ戻り、電圧値Vc$が基準電圧Vthより大きくなるまで、このループが繰り返えされる。そして、電圧値Vc$が基準電圧Vthより大きくなると、次のステップS03へ移り、次の処理を開始させる。即ち、本ステップでは、スナバコンデンサ133に耐圧値以上の電圧値が印加されない制御が実現される。
電圧値Vc$が基準電圧Vthより大きくなった事実を確認すると、制御回路CNTは、現在の選定条件に合致する合成周期Tsumとオンオフタイミングとを選択する(S03)。合成周期Tsumとオンオフタイミングとは、選定条件毎にマップ化されており、当該選定条件によって規定される。即ち、本ステップでは、マップ化された情報に基づいて波形の形状が規定できるので、PI制御などのフィードバック制御が組み込まれることなく、制御回路CNTの処理の簡素化が図られる。
その後、インバータ制御回路170からインバータ用搬送波WAV1の取得を行い(S04)、インバータ用搬送波WAV1に合成周期Tsumとオンオフタイミングとを適用させて、スナバトランジスタ131の駆動信号Snbを生成し、当該スナバトランジスタSnbを駆動させる(S05)。かかる後、S01からのループ処理を実施させ、制御回路CNTに電源が投入されている間、アクティブスナバ回路130の制御を継続する。
以下、図8乃至図13を参照して、スナバ制御回路によって制御された相電流について、具体例に基づき説明する。尚、図8乃至図13では、電流検出部SEN2で検出された相電流のうち、U相電流のみが便宜的に説明されている。但し、他の相電流にあっても、位相は異なるものの、その波形の状態は略同様に制御されている。また、V/F制御または同期制御では、回転子の回転速度を上昇させるために相電流の周波数を上げていく。但し、図8及び図10及び図12にあっては、何れの図を参照しても相電流の周波数が一致しているように便宜的に示されているが、実際には、その周波数が回転子の回転速度に応じて変動するものである。
図8は、同期モータMの運転を開始させた直後のU相電流が模式的に示されている。即ち、V/F制御の初期段階の状態が示されている。この場合、V/F制御であるため、回転子の磁束方向と制御軸方向とが一致していなく、力率が極めて低い状態とされる。この段階では、スナバ制御回路160は、運転モードMdの情報から同期モータMの回生電流が増えることを予測し、スナバトランジスタ131における駆動信号Snbのデューティ比を大きく設定できるマップを選定する。ここでは、合成周期Tsumが5×Tinv、第1周期〜第2周期がOFF、第3周期〜第5周期がON、とされるマップが選択される。
かかる場面のスナバ制御回路160では、図9に示す如く、インバータ用搬送波WAV1に基づいてスナバトランジスタの駆動信号Snbを生成し、当該スナバトランジスタ131を要素周期に対応させて駆動させていく。このとき、図示の如く、スナバコンデンサでは、トランジスタの通電期間に応じて電荷を放電させ、当該電荷によって生じていた電圧値Vcを適宜に低下させていく。尚、同図では、スナバコンデンサの電圧Vcの減少曲線が連続する波形として示されているが、実際には、スナバトランジスタの通電時間内において放電可能なタイミングが限られるので、その波形が断続的に現われるものと考えられる。
図8のX拡大図に示す如く、スナバトランジスタの駆動信号Snbがオフ状態(1〜2)とされる場合、コンバータ回路120からの供給電流によって、相電流Iuが賄われる。一方、スナバトランジスタの駆動信号Snbがオン状態(3〜5)とされる場合、アクティブスナバ回路130からの放電電流によって、相電流Iuが賄われる。
アクティブスナバ回路130が駆動される場合、合成周期Tsumの期間に流れる相電流Iuは、拡大部Xに示す如く、オフ時の要素周期Tinvに対応する電流値と、オン時の要素周期Tinvに対応する電流値との総和によって定まる値である。即ち、スナバ制御回路160は、検出電流Ii$によって必要な相電流Iuが規定されるので、合成周期Tsumで必要とされる平均電流となるように、スナバトランジスタ131のオンオフパターンを選定することとなる。そして、駆動信号成形部162におけるマップの選定処理は、合成周期Tsumに必要とされる平均電流と合致するように、パターン化された複数のマップの中から最適のマップ情報を取得することにある。
そして、図8に示す如く、正しく設定された平均電流を要素毎に集合させることにより、正弦波状の正しい相電流Iuが制御され、これにより、同期モータMが所望の状態で制御されることとなる。
図10は、V/F制御が進行した際のU相電流が模式的に示されている。即ち、同期モータMがV/F制御によって安定的に駆動されている状態が示されている。この場合にあっても、回転子の磁束方向と制御軸方向とは一致していない。但し、先の場合と比較して力率が幾分向上することとなる。この段階では、スナバ制御回路160は、運転モードMdの情報から同期モータMの回生電流が減少することを予測し、スナバトランジスタ131における駆動信号Snbのデューティ比を小さく設定できるマップを選定する。ここでは、合成周期Tsumが8×Tinv、第1周期〜第7周期がOFF、第8周期がON、とされるマップが選択される。
かかる場面のスナバ制御回路160では、図11に示す如く、力率の向上に伴いコンデンサの電圧値Vcの上昇する割合が鈍化する。従って、駆動信号のオフ期間が長期化され、オン期間が短期化される。
図10のY拡大図に示す如く、スナバトランジスタの駆動信号Snbがオフ状態(1〜7)とされる場合、コンバータ回路120からの供給電流によって、相電流Iuが賄われる。一方、スナバトランジスタの駆動信号Snbがオン状態(8)とされる場合、アクティブスナバ回路130からの放電電流によって、相電流Iuが賄われる。そして、正しく設定された平均電流を要素毎に集合させることにより、正弦波状の正しい相電流Iuが制御され、これにより、同期モータMが所望の状態で制御されることとなる。尚、切換モードにおけるスナバ制御回路の動作は、図10に示される制御と略同等であるので、その説明を省略する。
図12は、同期モードへ移行した際のU相電流が模式的に示されている。即ち、同期モータMの力率が(√3)/2以上で制御されるため、インダイレクトマトリクスコンバータ100に回生電力が生じることはない。このため、図13に示す如く、スナバ制御回路160が駆動されることは無い。そして、図12に示す如く、全ての相電流は、コンバータ回路120からの供給電流によって賄われることとなる。
スナバ制御回路は、同期モードで運転されている間、原則としてd軸成分の電流を略零として回生電流を発生させないので、図7の処理ルーチンを省略させることが可能である。この場合、制御回路CNTの処理動作にかかる負担が抑制される。特に、エアコン室外機のコンプレッサ用モータでは、モータの負荷トルクが安定しているので、本実施の形態を適用させる技術として好適である。一方、同期制御であっても、電流検出部SEN2に流れる電流が低くなる場合、d軸成分の電流を増加させ、検出信号の出力値を上げる場合がある。かかる場合、制御上必要なq軸電流に変更は無く、不要なd軸電流のみが加えられるため、V/F制御時と同様に回生電流が流れてしまう事がある。このような場合には、かかる特殊な制御に対応させて、上述したアクティブスナバ回路130を駆動させるようにすれば良い。また、検出信号の出力低下に関する問題は、V/F制御においても起こり得るため、このよう場合にも、アクティブスナバ回路130を適宜に駆動させることで、回生電流を吸収することが可能となる。
本実施の形態に係るインダイレクトマトリクスコンバータ100によると、インバータ回路の制御処理を簡素化させると供に、以下の効果を奏する。即ち、同装置によって、複数の要素周期Tinvで合成された期間Tsum毎でスナバトランジスタの切換動作が行なわれるので、要素周期毎にスイッチングする制御から免れ、制御回路CNTの処理動作の簡素化が図られる。このため、FPGAといった特殊な回路素子を用いることなく、汎用の制御回路を適用することが可能となる。
尚、本実施の形態に係るインダイレクトマトリクスコンバータは、本発明の一例が代表的に示されたものであって、種々の改変が可能である。例えば、本実施の形態では、上述の如く、アクティブスナバ回路130とスナバ制御回路160と電圧検出手段180とが構成要件とされているが、本発明では、これらの構成(アクティブスナバ回路130,スナバ制御回路160,電圧検出手段180)を省略させても良い(請求項1)。かかる実施形態にあっても、インバータ側搬送波を基準としてコンバータ側搬送波を生成させることにより、インバータ制御回路では、インバータ側搬送波を生成させる処理が最低限に抑えられ、インバータ回路を制御させるための他の制御処理が当該インバータ制御回路で有効に割り当てられる。また、コンバータ制御回路では、コンバータ側搬送波の生成処理が複雑になるが、インバータ制御回路と比べてハードウェアリソースに余裕があるため、当該コンバータ回路で必要とされる制御処理を割り当てることができる。
また、インダイレクトマトリクスコンバータは、図14に示す如く、他の構成によるコンバータ回路190に置換えても良い。当該コンバータ回路190は、逆圧保護機能を備えたIGBTによってスイッチング素子のアームを構成させ、かかるアームを3相設けることにより、図2と同様の電力変換機能が実現される。
更に、図15に示す如く、アクティブスナバ回路130は、スナバコンデンサ133に放電抵抗134を設けるのが好ましい。かかる構成では、アクティブスナバ回路の動作が長期間止まると、スナバコンデンサ133に蓄積された電荷は、放電抵抗134を介してローサイドラインへと放電される。これにより、アクティブスナバ回路130は、長期間に亘るスナバトランジスタ131の逆電圧から保護される。従って、インダイレクトマトリクスコンバータの使用を止めて電源をオフにする場合、又は、モータの同期運転が長時間続く場合(例えば、室外機のコンプレッサ用モータ等)に好適である。
加えて、本発明に係るインダイレクトマトリクスコンバータは、誘導モータを負荷としても用いることが可能である。この場合、同期モータと比較して力率が低くなるので、スナバトランジスタ131の通電時間が全体として長くなる。但し、スナバトランジスタの通電時間は、上述の如く、多くの要素周期Tinvに亘ってオン状態に制御されるだけであって、制御回路CNTの負担を増加させることにはならない。