以下、本発明の実施の形態によるスクロール式流体機械としてスクロール式空気圧縮機を例に挙げ、添付図面を参照して詳細に説明する。
ここで、図1ないし図6は第1の実施の形態を示し、本実施の形態では、固定スクロールおよび旋回スクロールのラップ部の内周面に最接近面を設けた場合を例に挙げて述べる。
図1はスクロール式空気圧縮機の縦断面図を示し、この図1において、1はスクロール式空気圧縮機の固定スクロールで、該固定スクロール1は、筒状に形成されたケーシング(図示せず)の端部に取付けられている。また、固定スクロール1は、略円板状に形成され中心が後述する駆動軸9の軸線O1−O1と一致するように配設された鏡板2と、該鏡板2の表面2Aに立設された渦巻状のラップ部3と、鏡板2の外径側からラップ部3を取囲むように軸方向に突出した筒部4と、該筒部4から径方向外側に拡開したフランジ部5とによって大略構成されている。
ここで、図2は図1に示すスクロール式空気圧縮機の横断面図で、ラップ部3は、この図2に示す如く、内径側(半径方向の内側)が巻始め端となり、外径側(半径方向の外側)が巻終り端となる渦巻状に形成されている。また、ラップ部3の内周面3Aは、後述する平坦状の最接近面8を複数つなぎ合わせた多角形状に形成されている。一方、ラップ部3の外周面3Bは、凹凸のない凸湾曲状の平滑面として形成されている。そして、ラップ部3は、図6に示すように、例えばエンドミル等の切削工具を用いて渦巻状に切削加工される。
また、固定スクロール1には、図1に示すように、鏡板2の外径側に位置して後述の圧縮室15に空気を吸込む吸込口6が設けられ、鏡板2の中央には圧縮室15で圧縮した空気を吐出する吐出口7が設けられている。
8,8,…はラップ部3の内周面3A側に設けられた平坦状の複数の最接近面で、該各最接近面8は、ラップ部13の巻回方向(長さ方向)に間隔をもって配置され、軸方向に延びて形成されている。このとき、隣合う最接近部8間の角度αは、例えば5度程度(α=0.087[rad])に設定されている。このため、各最接近面8は、角度αの範囲に亘ってラップ部3の巻回方向に向けて直線状に延びている。
また、隣合う最接近面8の間は、旋回スクロール11のラップ部13から離間する方向(径方向外側)に凹陥した窪み部8Aを用いてつなぐ構成としている。これにより、ラップ部3の内周面3Aは横断面が多角形状に形成され、各窪み部8Aは、多角形状をなす内周面3Aの頂点(屈曲部位)にそれぞれ配置されている。そして、最接近面8の巻回方向の中間部位は、相手方のラップ部13の外周面13Bに対して接触または最接近するものである。なお、窪み部8Aは、エンドミル等による切削加工に伴って工具の半径と同程度の半径をもった曲面形状に形成されている。
9はケーシングに回転可能に設けられた駆動軸で、該駆動軸9は、回転中心となる軸線O1−O1を有している。また、駆動軸9は、固定スクロール1側の先端側が偏心して延びるクランク軸9Aとなり、該クランク軸9Aの中心線となる軸線O2−O2は、駆動軸9の軸線O1−O1に対して旋回半径εだけ偏心している。そして、駆動軸9のクランク軸9Aには、旋回軸受10を介して後述の旋回スクロール11が回転可能に取付けられている。
11は固定スクロール1と対向して駆動軸9に設けられた旋回スクロールで、該旋回スクロール11は、軸線O2−O2を中心にして円板状に形成された鏡板12と、該鏡板12の表面12Aから軸方向に立設された渦巻状のラップ部13とによって大略構成されている。
そして、旋回スクロール11は、ラップ部13が固定スクロール1のラップ部3に対し、例えば180度だけずらして重なり合うように配設されている。これにより、両者のラップ部3,13間には後述する複数の圧縮室15が画成される。そして、スクロール式空気圧縮機を運転すると、外周側の圧縮室15は、吸込口6から空気を吸込み、この空気を旋回スクロール11が旋回運動する間に内径側に移動しつつ順次圧縮し、最後に吐出口7から外部に圧縮空気を吐出する。
ここで、旋回スクロール11を構成するラップ部13は、鏡板12の表面12Aに軸方向(軸線O1−O1の方向)に立設されている。また、ラップ部13は、内径側が巻始め端となり、外径側が巻終り端となるn巻からなる渦巻状に形成されている。さらに、ラップ部13の内周面13Aは、後述する平坦状の最接近面14を複数つなぎ合わせた多角形状に形成されている。一方、ラップ部13の外周面13Bは、凹凸のない凸湾曲状の平滑面として形成されている。そして、ラップ部13は、図6に示すように、例えばエンドミル等の切削工具を用いて渦巻状に切削加工される。
14,14,…はラップ部13の内周面13A側に設けられた平坦状の複数の最接近面で、該各最接近面14は、図2、図3に示す如く、最接近部8とほぼ同様に、ラップ部13の巻回方向(長さ方向)に間隔をもって配置され、軸方向に延びて形成されている。このとき、隣合う最接近部14間の角度αは、例えば5度程度(α=0.087[rad])に設定されている。このため、各最接近面14は、角度αの範囲に亘ってラップ部13の巻回方向に向けて直線状に延びている。
また、隣合う最接近部14の間は、固定スクロール1のラップ部3から離間する方向(径方向外側)に凹陥した窪み部14Aを用いてつなぐ構成としている。これにより、ラップ部13の内周面13Aは横断面が多角形状に形成され、各窪み部14Aは、多角形状をなす内周面13Aの頂点(屈曲部位)にそれぞれ配置されている。そして、最接近面14は、相手方となる固定スクロール1のラップ部3の外周面3Bに接触または最接近するものである。
ここで、旋回スクロール11のラップ部13の内周面13Aに設けられた最接近面14の詳しい配置関係について説明する。
最接近面14は、ラップ部13の長さ方向となる巻回方向の間隔寸法Pが内径側で狭く、外径側で広くなるように形成している。ここで、各最接近部14の配置に関して詳しく述べると、旋回スクロール11には、図3に示す如く、ラップ部13のインボリュート(伸開線)を描くために、その中心点O2(軸線O2−O2の位置)を中心とした縮閉線半径aの縮閉線Cが求められる。なお、縮閉線半径aは、旋回半径εと旋回スクロール11のラップ部13の板厚寸法とによって定まる当該旋回スクロール11に固有の値で、インボリュート曲線では知られた事項である。
そして、前記縮閉線Cに接して延びる無数の接線のうち、任意の接線をL1とし、この接線L1から角度αずつずらした位置に設けた他の接線をL2,L3,…とすると、前記最接近面14は、隣合う各接線L1,L2,…の間に配置されている。
ここで、本実施の形態では、各接線L1,L2,…間の角度αは5度前後に設定されている。これにより、各最接近面14の巻回方向の間隔寸法Pは、ラップ部13の内径側となる1巻目で狭く、外径側となるn巻目で広くなっている。
このように、最接近面14の間隔寸法Pを、内径側で狭く(小さく)することにより、対面するラップ部3の曲率半径が小さく曲がりが急な部位に対しても、最接近面14をラップ部3の内周面3Aに所定の隙間をもって配置させることができる。
さらに、最接近面14は、対面する固定スクロール1側のラップ部3の外周面3Bに接近したときに、ラップ部3の外周面3Bとの間の隙間寸法S1が、下記数1に示すように、最接近面8が対面する旋回スクロール11側のラップ部13の外周面13Bに接近したときの最接近面8と外周面13Bとの間の隙間寸法S2よりも小さな値に設定されている。
このように、最接近面14とラップ部3との間の隙間寸法S1は、最接近面8とラップ部13との間の隙間寸法S2よりも小さくしているから、各ラップ部3,13間で接触が生じた場合には、最接近面8とラップ部13の外周面13Bとが接触するよりも前に、旋回スクロール11のラップ部13の内周面13Aに設けられた最接近面14を固定スクロール1のラップ部3の外周面3Bに接触させることができる。
そして、旋回スクロール11のラップ部13の最接近面14が固定スクロール1のラップ部3に先に接触すると、この接触部位を支点として旋回スクロール11に自転力の方向と同じ方向に回転させようとする力が作用する。これにより、旋回スクロール11は自転力の方向に押動されることになるから、例えば旋回スクロール11とケーシングとの間に設けられる自転防止機構(図示せず)等のがたつきを無くすことができる。
一方、固定スクロール1のラップ部3の内周面3Aに設けられた各最接近面8は、前述した最接近面14の配置関係等に関する条件と同様の条件となっているため、説明を省略するものとする。
なお、最接近面8,14は、ラップ部3,13の巻回方向の全長に設ける構成としたが、例えばラップ部3,13の巻回方向の全長のうち、最も内径側となる巻始め端から半巻き程度の部位を除いた内周面3A,13Aに形成してもよい。このラップ部3,13の内周面3A,13Aで巻始め端から半巻き程度の部位は、曲率半径が最も小さく、また熱による寸法変化も小さいことから、各最接近面8,14を設けなくても十分に圧縮室15を密閉できるためであり、この部位は平滑面として形成される。
本実施の形態によるスクロール式空気圧縮機は、上述したような構成を有するもので、次に、このスクロール式空気圧縮機の動作について説明する。
まず、電動モータ等の駆動源(図示せず)により駆動軸9を回転駆動すると、旋回スクロール11は、自転防止機構によって自転が防止された状態で、駆動軸9の軸線O1−O1を中心として旋回半径εの旋回運動を行ない、固定スクロール1のラップ部3と旋回スクロール11のラップ部13間に画成される圧縮室15は連続的に縮小する。これにより、固定スクロール1の吸込口6から吸込んだ空気は各圧縮室15で順次圧縮しつつ、固定スクロール1の吐出口7から圧縮空気として外部のタンク(図示せず)に向け吐出することができる。
また、旋回スクロール11が固定スクロール1に対して旋回運動するときには、最接近面8,14とラップ部13,3の外周面13B,3Bとが最接近するか、または両者が接触した状態となり、これらの最接近(接触)部位は各圧縮室15内に空気を閉込める閉込み位置となる。そして、最接近面8は、各圧縮室15の閉込み位置でラップ部3の外周面3Bとラップ部13の内周面13Aとの間の隙間を減少させる。また、最接近部14は、各圧縮室15の閉込み位置でラップ部13の外周面13Bとラップ部3の内周面3Aとの間の隙間を減少させる。これにより、最接近部8,14は各圧縮室15の密閉性を高めることができる。
然るに、本実施の形態では、各スクロール1,11のラップ部3,13の内周面3A,13Aには巻回方向に間隔をもって複数の最接近面8,14を設ける構成としている。このため、従来技術のように隣合う突起の間に径方向に窪んだ凹部が形成されることがないから、互いに対面するラップ部3,13の間隔を狭めることができ、ラップ部3,13の間に滞留する空気を減らして圧縮効率を高めることができる。
また、各スクロール1,11のラップ部3,13の内周面3A,13Aには複数の最接近面8,14を設ける構成としたから、ラップ部3,13の内周面3A,13Aの横断面を多角形状に形成することができる。このため、従来技術のように曲面からなるラップ部の周面に突起を設けた場合に比べて、ラップ部3,13の形状を簡略化することができる。この結果、例えばエンドミル等の工具を用いてラップ部3,13を切削加工するときでも、エンドミルを突起に沿って径方向に往復動させる必要がないのに加え、工具の方向転換回数を少なくすることができる。このため、一般に加工機には往復動作時のバックラッシュに伴って5μm程度の加工誤差が生じるのに対して、本実施の形態では、このようなバックラッシュの影響を受け難く、加工誤差を低減することができ、ばらつきの少ない高精度のラップ部3,13を加工することができる。
また、従来技術のように突起を設けた場合に比べて、エンドミル等の工具の移動距離が短くなると共に、工具の方向転換回数を低減することができるから、ラップ部3,13の加工時間を短縮することができ、生産性を向上することができる。さらに、多角形状の頂点座標を与えるだけで簡単に加工プログラムが組めると共に、頂点座標も容易に変更することができるから、例えば圧縮機の仕様等に合わせてラップ部3,13の形状を容易に変更することができる。
また、ラップ部3の最接近面8はその中間部分だけが相手方のラップ部13の外周面13Bに対して間欠的に線接触する。同様に、ラップ部13の最接近面14も、その中間部分だけが相手方のラップ部3の外周面3Bに対して間欠的に線接触する。これにより、ラップ部3,13の最接近面8,14は、何回も接触することなくラップ部3,13の外周面3B,13Bに馴染むことができる。このため、例えば突起を省いたスクロールのように、互いに対面するラップ部の内周面と外周面とが常に面接触する場合に比べて、ラップ部3,13が接触する面積を減らして動力損失を軽減することができると共に、損傷、騒音、かじり等の発生を防止でき、耐久性、信頼性を向上することができる。
さらに、各最接近面8,14の角度αを大きくすると、隣合う2つの最接近面8,14のなす角(窪み部8A,14Aの内角)がより鋭角になるため、耐かじり性が向上するが、窪み部8A,14Aの周囲に溜まる空気が増加して圧縮性能が低下する。一方、各最接近面8,14の角度αを小さくすると、隣合う2つの最接近面8,14のなす角がより鈍角になるため、耐かじり性が低下するが、圧縮性能が向上する。このため、例えば角度αを5度程度(α=0.087[rad])に設定することによって、このような相反するバランスを最適化することができ、耐かじり性と圧縮性能のバランスがとれた圧縮機を製造することができる。
一方、隣合う最接近面8,14は、5度程度の角度αの間隔をもって配設することにより、ラップ部3,13の巻回方向の間隔寸法Pが内径側で狭く、外径側で広くなるように形成している。これにより、ラップ部3,13の曲率半径が小さく曲がりが急な部位に対しても、巻回方向の間隔寸法Pが狭くなった最接近面8,14を相手方のラップ部13,3の外周面13B,3Bに沿うように接近して配置することができ、圧縮室15の密閉性を高めて、圧縮性能を向上することができる。
さらに、固定スクロール1のラップ部3の最接近面8と旋回スクロール11のラップ部13の外周面13Bとの間の隙間寸法S2と、旋回スクロール11のラップ部13の最接近面14と固定スクロール1のラップ部3の外周面3Bとの間の隙間寸法S1とは、数1に示すようにS1<S2の関係をもって設定している。これにより、各ラップ部3,13間で接触が生じた場合には、固定スクロール1のラップ部3の外周面3Bと旋回スクロール11のラップ部13の最接近面14とを先に接触させることができる。このため、接触部位を支点として旋回スクロール11を自転力の方向と同じ方向に回転させることができ、自転防止機構(図示せず)等のがたつきを防止して、圧縮性能を向上することができる。
なお、前記第1の実施の形態では、最接近面8,14は平坦状の平面によって形成した。しかし、本発明はこれに限らず、例えば図7中に一点鎖線で示すように、最接近面8′,14′を凹湾曲状の曲面(凹状曲面)を用いて形成してもよい。この場合、最接近面8′,14′は、その中間部位だけが相手方のラップ部13,3の外周面13B,3Bに接触するように、その曲率が各ラップ部3,13のインボリュート曲線の曲率よりも小さい値に設定する。これにより、最接近面8,14を平面によって形成した場合に比べて、耐かじり性が低下するが、ラップ部3,13間の間隔が狭くなり、圧縮性能が向上する。
一方、図7中に二点鎖線で示すように、最接近面8″,14″を凸湾曲状の曲面(凸状曲面)を用いて形成してもよい。この場合、最接近面8,14を平面によって形成した場合に比べて、圧縮性能が低下するが、耐かじり性が向上する。
また、前記第1の実施の形態では、固定スクロール1のラップ部3および旋回スクロール11のラップ部13のいずれにも最接近面8,14を設ける構成としたが、固定スクロールと旋回スクロールとのうちいずれか一方にのみ最接近面を設ける構成としてもよい。
さらに、前記第1の実施の形態では、ラップ部3,13の内径側から外径側に亘って隣合う最接近面8,14は等しい角度αの間隔をもって形成した。しかし、本発明はこれに限らず、ラップ部の内径側と外径側とで隣合う最接近面を異なる角度間隔をもって形成してもよい。
次に、図8は本発明による第2の実施の形態を示し、本実施の形態の特徴は、各スクロールのラップ部の内周面に軟質被膜を設ける構成としたことにある。なお、本実施の形態では、前記第1の実施の形態と同一の構成要素に同一の符号を付し、その説明を省略するものとする。
21は固定スクロール1のラップ部3の内周面3Aに設けられた軟質被膜で、該軟質被膜21は、摺動性が良好で耐熱性を有する樹脂材料(例えば、フッ素系樹脂等)または非樹脂材料(例えば、グラファイト、二硫化モリブデン、窒化硼素等)を用いて形成され、その膜厚は例えば60μm程度に設定されている。そして、軟質被膜21は、例えばディッピング、スプレー等の塗布手段を用いてラップ部3に塗布、固着される。これにより、軟質被膜21は、ラップ部3の内周面3Aに設けられた最接近面8を覆っている。
22は旋回スクロール11のラップ部13の内周面13Aに設けられた軟質被膜で、該軟質被膜22は、軟質被膜21とほぼ同様に、例えばフッ素系の樹脂材料またはモリブデン系等の非樹脂材料を用いて例えば60μm程度の膜厚をもって形成され、スプレー等の塗布手段を用いてラップ部13に塗布、固着されている。これにより、軟質被膜22は、ラップ部13の内周面13Aに設けられた最接近面14を覆っている。
そして、軟質被膜21,22は、例えばスクロール1,11や最接近面8,14の寸法誤差、組付誤差等によって最接近面8,14が相手方のラップ部13,3に接近し過ぎたとしても、最接近面8,14と相手方のラップ部13,3とが直接接触するのを防止する。
また、このような接触が生じたときでも、軟質被膜21,22は、相手方のラップ部13,3との接触によって容易に押し潰されたり、摩耗して変形でき、最接近面8,14の移動範囲に馴染むことができる。
かくして、このように構成される本実施の形態でも、第1の実施の形態とほぼ同様の作用効果を得ることができる。そして、特に本実施の形態では、ラップ部3,13の内周面3A,13Aには軟質被膜21,22を設ける構成としたから、例えば機械の寸法誤差、組付誤差等によって最接近面8,14が相手方のラップ部13,3に接近し過ぎた場合には、軟質部材21,22が相手方のラップ部13,3の外周面13B,3Bに接触する。この場合、軟質被膜21,22は、相手方のラップ部13,3との接触により容易に変形して馴染むことができるので、これらの間でかじり、損傷等が生じたり、動力損失、騒音等が増大するのを防止することができる。
そして、隣合う最接近面8,14間の角度αを大きくしても、ラップ部3,13間の最大ギャップを小さくすることができる。このため、角度αを例えば7.5度程度(α=0.13[rad])に設定して耐かじり性を向上させたときでも、圧縮性能を高い状態に保つことができる。この結果、耐かじり性および圧縮性能の両面を向上させることができる。
また、軟質被膜21,22は最接近面8,14とラップ部13,3との間に挟まれた部位だけが変形するから、圧縮室15の閉込み位置で各スクロール1,11のラップ部3,13間に形成される隙間の寸法を小さくすることができる。このため、圧縮室15の密閉性や圧縮効率を高めることができる。さらに、例えば機械の寸法誤差や組付誤差等によって最接近面8,14の移動範囲がばらつく場合でも、この最接近面8,14の移動範囲のばらつきを軟質被膜21,22によって吸収することができる。このため、スクロール1,11の加工、組立等を最低限の精度で行うことができるから、圧縮機を効率よく製造することができる。
なお、前記第2の実施の形態では、ラップ部3,13の内周面3A,13Aにだけ軟質被膜21,22を設ける構成とした。しかし、本発明はこれに限らず、例えばラップ部3,13の外周面3B,13Bにだけ軟質被膜を設ける構成としてもよい。また、ラップ部3の内周面3Aと外周面3Bとの両面に軟質被膜を設ける構成でもよく、ラップ部13の内周面13Aと外周面13Bとの両面に軟質被膜を設ける構成でもよく、ラップ部3,13の内周面3A,13Aと外周面3B,13Bとの全ての面に軟質被膜を設ける構成としてもよい。
次に、図9ないし図11は本発明による第3の実施の形態を示し、本実施の形態の特徴は、ラップ部の各最接近面を、鏡板から離れた軸方向の一部にのみ形成する構成としたことにある。なお、本実施の形態では、前記第1の実施の形態と同一の構成要素に同一の符号を付し、その説明を省略するものとする。
31はスクロール式空気圧縮機の固定スクロールで、該固定スクロール31は、図9に示す如く、第1の実施の形態とほぼ同様に、略円板状の鏡板32と、該鏡板32の表面に軸方向に立設された渦巻状のラップ部33と、フランジ部(図示せず)等とにより構成されている。
また、ラップ部33の外周面33Bは凹凸のない平滑な湾曲面として形成され、ラップ部33の内周面33Aには後述の最接近面41が設けられている。さらに、ラップ部33の歯先には、図10、図11に示す如く、断面コ字状の凹溝33Cが設けられ、該凹溝33Cには、渦巻状のチップシール34が取付けられている。そして、チップシール34は、後述する旋回スクロール37の鏡板38の表面に弾性的に摺接し、圧縮空気の漏洩を防止している。
35は固定スクロール31のラップ部33の内周面33Aに設けられた複数の最接近面で、該各最接近面35は、第1の実施の形態による最接近面8とほぼ同様に、ラップ部33の巻回方向に間隔をもって配置され、軸方向に延びて形成されている。なお、軸方向に延びるとは、軸方向に対して平行に延びる構成(傾斜角0°)に限らず、例えば軸方向に対して±10〜20°斜めに傾斜して延びる構成も含むものである。
また、最接近面35は、ラップ部33の歯先から歯元に向けて軸方向の途中位置まで延び、ラップ部33のうち鏡板32から離れた軸方向の歯先側にのみ形成されている。一方、ラップ部33の歯先側のうち隣合う最接近面35の間は窪み部35Aによってつながれている。そして、ラップ部33の内周面33Aのうち歯元側に位置する部分(最接近面35を除いた部分)は、凹凸のない平滑な湾曲面として形成されている。さらに、ラップ部33の内周面33Aのうち歯元側に位置する部分は、最接近面35のうち巻回方向の中間部位と連続して延びている。
36は固定スクロール31のラップ部33の歯元側に設けられた段差部で、該段差部36は、ラップ部33の歯先側よりも太幅に形成され、外周面33Bが相手方となる旋回スクロール37のラップ部39の内周面39Aに向けて突出している。そして、段差部36は、後述するラップ部39の最接近面41と同程度の長さ寸法をもって軸方向に延び、最接近面41と対向している。
37は固定スクロール31と対向して設けられた旋回スクロールで、該旋回スクロール37は、図9、図11に示す如く、第1の実施の形態とほぼ同様に、円板状の鏡板38と、該鏡板38の表面から軸方向に立設された渦巻状のラップ部39とによって大略構成されている。
ここで、ラップ部39の外周面39Bは凹凸のない平滑な湾曲面として形成され、ラップ部39の内周面39Aには後述の最接近面41が設けられている。さらに、ラップ部39の歯先には断面コ字状の凹溝39Cが設けられ、該凹溝39Cにはチップシール40が取付けられている。
41は旋回スクロール37のラップ部39の内周面39Aに設けられた複数の最接近面で、該各最接近面41は、第1の実施の形態による最接近面14とほぼ同様に、ラップ部39の巻回方向に間隔をもって配置され、軸方向に延びて形成されている。
また、最接近面41は、最接近面35とほぼ同様に、ラップ部39の歯先から歯元に向けて軸方向の途中位置まで延び、ラップ部39のうち鏡板38から離れた軸方向の歯先側にのみ形成されている。一方、ラップ部39の歯先側のうち隣合う最接近面41の間は窪み部41Aによってつながれている。そして、ラップ部39の内周面39Aのうち歯元側に位置する部分(最接近面41を除いた部分)は、凹凸のない平滑な湾曲面として形成されている。さらに、ラップ部39の内周面39Aのうち歯元側に位置する部分は、最接近面41のうち巻回方向の中間部位と連続して延びている。
42は旋回スクロール37のラップ部39の歯元側に設けられた段差部で、該段差部42は、ラップ部33の段差部36とほぼ同様にラップ部39の歯先側よりも太幅に形成され、外周面39Bが相手方となる固定スクロール31のラップ部33の内周面33Aに向けて突出している。そして、段差部42は、ラップ部39の最接近面35と同程度の長さ寸法をもって軸方向に延び、最接近面35と対向している。
かくして、このように構成される本実施の形態でも、第1の実施の形態とほぼ同様の作用効果を得ることができる。そして、特に本実施の形態では、ラップ部33,39のうち鏡板32,38から離れた軸方向の一部にのみ最接近面35,41を形成したから、最接近面35,41の軸方向長さ寸法を短くすることができ、最接近面35,41によって生じる異音を小さくすることができる。
また、最接近面35,41をラップ部33,39の軸方向に対して小さくすることができるから、固定スクロール31のラップ部33と旋回スクロール37のラップ部39との間の平均ラジアルギャップを小さくすることができ、圧縮効率を高めることができる。さらに、圧縮効率が高まると、ラップ部33,39内の温度を低減することができるから、チップシール34,40等の寿命を延長することができる。
特に、本実施の形態では、最接近面35,41をラップ部33,39の歯先部分にのみ形成したから、ラップ部33,39の熱倒れが顕著に生じる歯先部分にのみ最接近面35,41を配置することができる。この結果、熱倒れによるかじりを防ぎつつ、最接近面35,41を相手方のラップ部39,33に最接近または接触させることができ、圧縮効率をさらに高めることができる。
また、ラップ部33,39の歯元側には最接近面35,41を設けず、歯元側のラップ部33,39の内周面33A,39Aを、最接近面35,41の中間部位と同一曲面として形成したので、歯元側での寸法管理を容易に行うことができる。
なお、前記第3の実施の形態では、第1の実施の形態と同様に、ラップ部33,39の内周面33A,39Aに最接近面35,41を設けたスクロール31,37に対してラップ部33,39の歯先側にのみ最接近面35,41を設ける構成とした。しかし、本発明はこれに限らず、例えば第2の実施の形態と同様なスクロールに対してラップ部の歯先側にのみ最接近面を設ける構成としてもよい。
次に、図12は本発明による第4の実施の形態を示し、本実施の形態の特徴は、ラップ部の外径側にインボリュート曲線に従ったインボリュート曲面部を設ける構成としたことにある。なお、本実施の形態では、前記第1の実施の形態と同一の構成要素に同一の符号を付し、その説明を省略するものとする。
51はスクロール式空気圧縮機の固定スクロールで、該固定スクロール51は、第1の実施の形態とほぼ同様に、鏡板52、ラップ部53、筒部54、フランジ部(図示せず)等により構成されている。そして、ラップ部53は、内周面53Aと外周面53Bとを有する渦巻状に形成されている。
しかし、ラップ部53の内周面53Aには、軸方向の全長に亘って延びる複数の最接近面55および窪み部55Aが設けられると共に、ラップ部53の外径側(巻終り端側)には、最接近面55を形成せず、インボリュート曲線に従ったインボリュート曲面部53Cが設けられている。そして、インボリュート曲面部53Cは、例えばラップ部53の外径側端部から内径側に向けて略1巻分にわたる長さをもって延びると共に、ラップ部53のうち外径側の圧縮室15′,15″の周壁となる部位に配置されている。
56は固定スクロール51と対向して配置された旋回スクロールで、該旋回スクロール56は、第1の実施の形態とほぼ同様に、鏡板(図示せず)に立設された渦巻状のラップ部57を有し、該ラップ部57は、内周面57Aと外周面57Bとを有している。
また、ラップ部57の内周面57Aには、軸方向の全長に亘って延びる最接近面58および窪み部58Aが設けられると共に、ラップ部57の外径側(巻終り端側)には、固定スクロール51のラップ部53とほぼ同様に、その外径側に位置して最接近面58を形成せず、インボリュート曲線に従ったインボリュート曲面部57Cが設けられている。そして、インボリュート曲面部57Cは、例えばラップ部57の外径側端部から内径側に向けて略1巻半にわたる長さをもって延びると共に、ラップ部57のうち外径側の圧縮室15′,15″の周壁となる部位に配置されている。
このように、本実施の形態では、ラップ部53,57のうち外径側の圧縮室15′,15″に面した部位にはインボリュート曲面部53C,57Cを配設している。このため、圧縮機の運転時には、外径側の圧縮室15′,15″の位置で固定スクロール51のラップ部53と旋回スクロール56のラップ部57とを滑らかに連続的に摺接させることができる。
かくして、このように構成される本実施の形態でも、第1の実施の形態とほぼ同様の作用効果を得ることができる。そして、特に本実施の形態では、固定スクロール51のラップ部53のうち、外径側に位置する略1巻分の部位にインボリュート曲面部53Cを設け、旋回スクロール56のラップ部57には、外径側の略1巻半の部位にインボリュート曲面部57Cを設ける構成としたので、圧縮開始位置Sの位置における圧縮室15′のシール性や、これと隣接する圧縮室15″のシール性を良好に保持することができる。
従って、圧縮時の体積効率に対して影響が大きい外径側の圧縮室15′,15″で空気を安定的に圧縮でき、圧縮性能を高めることができると共に、内径側の最接近面55,58等によって発生した異音が吸込口6を通じて外部に漏れるのを防ぐことができ、騒音を低減することができる。
なお、前記第4の実施の形態では、第1の実施の形態と同様に、ラップ部53,57の外周面53B,57Bに最接近面55,58を設けたスクロール51,56に対してインボリュート曲面部53C,57Cを設ける構成とした。しかし、本発明はこれに限らず、例えば第2,第3の実施の形態と同様なスクロールのラップ部に対してインボリュート曲面部を設ける構成としてもよい。
また、前記各実施の形態では、ケーシングに固定された固定スクロール1,31,51に対して旋回スクロール11,37,56を旋回動作させるスクロール式空気圧縮機を例に挙げて説明したが、本発明はこれに限るものではなく、例えば特開平9−133087号公報に示すように、互いに対向して配置された2つのスクロールをそれぞれ回転駆動する全系回転式スクロール流体機械等に適用してもよい。
さらに、前記各実施の形態では、スクロール式流体機械としてスクロール式空気圧縮機に適用した場合を例に挙げて説明したが、本発明はこれに限らず、冷媒を圧縮する冷媒圧縮機等の他のスクロール式流体機械に適用してもよい。