JP4947117B2 - 高純度1,6−デカンジカルボン酸、その製造方法及びその用途 - Google Patents

高純度1,6−デカンジカルボン酸、その製造方法及びその用途 Download PDF

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本発明は、電解コンデンサ用電解液の駆動用電解液に関し、導電性を損なうこと無く、火花電圧(使用耐電圧)を高め、かつ、広い温度範囲においてコンデンサ特性に優れた中高圧用のコンデンサ用電解液に関する。
特に、該コンデンサに用いられる高純度1,6−デカンジカルボン酸およびその製造方法に関する。
本発明の電解コンデンサ用電解液および電解コンデンサは、エアコン、冷蔵庫、電子レンジ、洗濯機、照明機器、エレベーター、ロボット、NC工作機、電車、さらには太陽光発電、ハイブリッド車、電気自動車などに使用することができる。
従来、中高圧用アルミ電解コンデンサの駆動用電解液としては、火花電圧が比較的高く得られることから、エチレングリコールからなる溶媒に硼酸または硼酸アンモニウムを溶質として溶解した電解液が用いられてきた。しかしながら、このような電解液については、導電性が低く、更にエチレングリコールと硼酸のエステル化により多量の水が生成するため、この水分が電極であるアルミニウム酸化皮膜と反応して劣化させたり、100℃以上の高温下では水の蒸発が起こり内圧が上昇するという問題を発生し、高温での使用に適さなかった。
このような問題を解決するために、アジピン酸、セバシン酸およびアゼライン酸などの直鎖状の有機ジカルボン酸またはこれらの塩が用いられてきた。しかしながら、直鎖状の有機ジカルボン酸は溶解度が低いために、低温において結晶が析出しやすく、コンデンサの低温特性を劣化させるという問題を発生し、低温での使用に適さなかった。また、直鎖状の第1級のカルボン酸を有するアゼライン酸等は、高温でエチレングリコールと反応しやすく、比電導度の低下が大きいという問題点も有していた。
また、1,6−デカンジカルボン酸またはその塩を溶質として用いる例が公開されている(特許文献1を参照)。この第1級カルボン酸および第2級カルボン酸の両方を分子内に有する非対称な構造を持つ1,6−デカンジカルボン酸またはその塩を含有する電解液では、火花電圧および電導度が高く、しかも、溶解度が高いので低温における結晶析出の問題も解消された。しかしながら、火花電圧は420〜440Vであり、中高圧用のコンデンサ用電解液に求められる火花電圧としては十分ではない。
更に、ピバル酸またはその塩を溶質として用いる例が公開されている(特許文献2および3を参照)。さらに、このピバル酸のような第3級モノカルボン酸と2,9−ジメチルセバシン酸のような第2級ジカルボン酸とを組み合わせた電解液が、火花電圧および電導度が高く、しかも化成性が良好であることが提案されている(特許文献4および5を参照)。
特公昭60−13293号公報 特開昭61−116815号公報 特開昭62−241322号公報 特開平06−275472号公報 特開平06−302475号公報
しかしながら、近年、スイッチング電源を使用した電子機器が一般家庭で汎用されるようになり、アルミ電解コンデンサの安全性に対する要求が高まっている。このアルミ電解コンデンサの安全性を向上させるためには、電解コンデンサ用電解液の火花電圧をさらに向上させることが切望されており、現状の電解コンデンサの耐電圧特性は必ずしも満足なものではないのが現状である。
アゼライン酸や1,6−デカンジカルボン酸などの第1級カルボン酸を有する電解液は、第1級カルボン酸が高温でエチレングリコールとエステル反応しやすく、高温での比電導度の低下が大きい。また、第3級モノカルボン酸を用いた電解液は、比電導度の低下が小さいものの、化成性が悪く、エージングに長時間を要したり、アルミ酸化皮膜が破損した際の修復性が悪いために、コンデンサの信頼性を落とす欠点がある。
そこで、本発明者らは、前記課題を解決するために鋭意検討した結果、特定量の第1級カルボン酸と第2級カルボン酸の両方を分子内に有する非対称な構造を持つ1,6−デカンジカルボン酸を精製し、該1,6−デカンジカルボン酸またはその塩を電解質として含むような電解液とすることにより、火花電圧および電導度が高く、しかも化成性に優れた中高圧用のコンデンサ用電解液が得られることを見出し、本発明に至った。
また、本発明者らは、検討を重ねる中で、得られるコンデンサ電解液において、火花電圧の低下や低温での導電性劣化がみられることがあり、その特性にばらつきがあることを見出し、その原因解明に努めた。その結果、市販の1,6−デカンジカルボン酸はシクロヘキサノンの酸化などの反応により得られることから、その副生成物(不純物)として、1,6−デカンジカルボン酸またはその塩中に、構造異性体である1,10−デカンジカルボン酸またはその塩が5〜8重量% 程度含有されていることがあり、この不純物の含有量をできるだけ低減することにより、特性のばらつきがなく、高い火花電圧を有し、低温での導電性劣化のない中高圧用のコンデンサ用電解液が得られることを見出した。
すなわち、本発明は、1,10−デカンジカルボン酸の含有量を重量%以下に制御した高純度1,6−デカンジカルボン酸に関する。さらには、これらを用いた電解コンデンサ用電解液および該電解コンデンサに関する。
即ち、本発明において、1,6−デカンジカルボン酸および/またはその塩中に含まれる不純物である1,10−ジカルボン酸および/またはその塩を重量%以下である1,6−デカンジカルボン酸および/またはその塩を電解質として用いた場合、高い火花電圧を有し、低温特性に優れた中高圧用の電解コンデンサを提供することができる。
本発明によれば、火花電圧および電導度が高く、化成性に優れたコンデンサ用電解液を提供することができる
本発明の電解液は、アルミ電解コンデンサの構成部材として使用される。アルミ電解コンデンサを構成する電解液以外の構成部材については特に限定されず、従来使用されている種々の構成部材を使用できる。
本発明において、ピバル酸および/またはその塩を1〜20重量%、かつ、1,6−デカンジカルボン酸および/またはその塩を1〜15重量%含有させることにより、火花電圧、電導度が高く、しかも化成性に優れた電解コンデンサ用電解液が得られる。
本発明において、ピバル酸および/またはその塩の使用量が過度に少ないと導電性を損なうことなく、耐電圧を高くすることはできず、また、ピバル酸および/またはその塩を過度に使用したり、単独で使用した場合には、比電導度の低下は小さいものの、化成性が悪く、アルミ酸化皮膜が破損した際の修復性が悪いために、コンデンサの信頼性が損なわれることとなる。したがって、その含有量は電解液の重量に対して1〜20重量%の範囲が好ましく、更に好ましくは、3〜15重量%の範囲とすると耐電圧が向上するのでよい。
また、1,6−デカンジカルボン酸および/またはその塩の使用量が過度に少ないと良好な化成性を有する電解コンデンサが得られない。一方、過度に使用した場合には、火花電圧や高温での導電性劣化という問題が生じ、耐電圧を高めるようなコンデンサ性能が得られない。一方、1,6−デカンジカルボン酸および/またはその塩を単独で使用した場合には、火花電圧がやや低く、高温での導電性が劣化することとなり、耐電圧を高めるようなコンデンサ性能が得られない。したがって、その含有量は電解液の重量に対して1〜15重量%の範囲が好ましく、更に好ましくは、3〜10重量%の範囲とすると耐電圧が向上するのでよい。
一方、本発明において、1,6−デカンジカルボン酸および/またはその塩中には、その製造方法に由来する1,10−デカンジカルボン酸および/またはその塩が不純物として含有されている。1,10−デカンジカルボン酸は、その融点が130℃(但し、1,6−デカンジカルボン酸の融点は65℃)と比較的高いので不純物として多量含まれている場合には、低温において析出しやすく、低温でのコンデンサ特性を低下させ、また、電解液中のエチレングリコールとエステル交換を起こしやすく、高温での導電性劣化おこすなどコンデンサ特性を著しく劣化させることとなる。
したがって、1,6−デカンジカルボン酸および/またはその塩中の不純物である1,10−デカンジカルボン酸および/またはその塩の含有量は、1,6−デカンジカルボン酸および/またはその塩の重量に対して1重量%以下の範囲が、コンデンサ特性が向上するのでよい。
市販の1,6−デカンジカルボン酸および/またはその塩中に不純物として含まれる1,10−デカンジカルボン酸および/またはその塩を精製工程において完全に除去することは難しく、通常晶析法により精製したような場合には、1,6−デカンジカルボン酸および/またはその塩中に1,10−デカンジカルボン酸および/またはその塩が5〜8重量%程度含有されている。
本発明においてこの不純物を低減する方法としては、以下のような精製方法を行うことが好ましい。

例えば、1,6−デカンジカルボン酸中の不純物として含有される1,10−デカンジカルボン酸をエステル化した後、蒸留により1,6−デカンジカルボン酸エステルを分離し、そのまま加水分解することにより、再びカルボン酸にする方法(以下、蒸留法)が好ましい。蒸留条件は、還流比率0.01〜100が好ましい。更に好ましくは0.1〜30である。理論段数は2〜90段が好ましく、更に好ましくは5〜50段である。蒸留は減圧蒸留でも常圧蒸留でも特に限定されないが、好ましくは0.1〜200mmHg、特に好ましくは0.5〜30mmHgで蒸留する。エステルの種類は特に限定されないが、メチルエステル、エチルエステル、直鎖または分枝のプロピルエステル、直鎖または分枝のブチルエステルなどが挙げられる。
蒸留法は、1,6−デカンジカルボン酸中に通常不純物として含有されている低分子量(低沸点)のカルボン酸である酪酸やヘキサン酸なども同時に除去できる利点がある。
前記したように本発明において、異なった特性を持つ2種類のピバル酸および/またはその塩と、1,6−デカンジカルボン酸および/またはその塩とを併用することにより、両者の問題点を克服し、コンデンサ特性に優れ、良好な化成性を有するコンデンサ用電解液が得られるので好ましいが、特に、使用されるピバル酸および/またはその塩と1,6−デカンジカルボン酸および/またはその塩との重量比は、25対75〜90対10の範囲が好ましい。さらに、ピバル酸および/またはその塩と、1,6−デカンジカルボン酸および/またはその塩との合計の使用量は、電解液の重量に対して2〜30重量%の範囲が好ましく、更に好ましくは、6〜25重量%の範囲とすると耐電圧が向上するのでよい。第3級モノカルボン酸であるピバル酸および/またはその塩と、第1級カルボン酸および第2級カルボン酸の両方を分子内に含有する1,6−デカンジカルボン酸および/またはその塩とを特定の重量比で混合することにより、特に優れた火花電圧および高い電導度を示し、化成性に優れた中高圧のコンデンサ用電解液が得られるので好ましい。
本発明では、カルボン酸の塩類を用いることができる。その塩類は、例えば、アンモニウム塩、メチルアミン塩、ジメチルアミン塩、トリメチルアミン塩、エチルアミン塩、ジエチルアミン塩、トリエチルアミン塩、四級アンモニウム塩などにより構成される。この時、本発明の電解液のpHは5〜7が好ましく、特に6付近になるようにカルボン酸とその塩との比率を調整することが好ましい。
本発明において、電解液として用いられる有機溶媒として、ジニトリル類のうち少なくとも1種以上を含有させることにより、さらに火花電圧を高くすることができる。ジニトリル類のメチレン鎖は1〜12であることが好ましく、直鎖状、分枝状のいずれであっても良い。ジニトリル類の具体例として、例えば、直鎖状のジニトリルとして、スクシノニトリル、グルタロニトリル、アジポニトリル、1,5−ジシアノペンタン、1,6−ジシアノヘキサン、1,7−ジシアノヘプタン、1,8−ジシアノオクタン、1,9−ジシアノノナン、1,10−ジシアノデカン、1,12−ジシアノドデカンなどが挙げられる。また、分枝状のジニトリルとして、テトラメチルスクシノニトリル、2−メチルグルタロニトリル、2,4−ジメチルグルタロニトリル、2,2,4,4−テトラメチルグルタロニトリル、1,4−ジシアノペンタン、2,5−ジメチル−2,5−ヘキサンジカルボニトリル、2,6−ジシアノヘプタン、2,7−ジシアノオクタン、2,8−ジシアノノナン、1,6−ジシアノデカンなどが挙げられるが、これら上記化合物に何ら限定されるものではない。これらのジニトリル類の含有量は、0.1重量%〜50重量%、好ましくは1重量%〜40重量%、更に好ましくは1重量%〜20重量%混合することにより、火花電圧が向上する。
本発明で使用される有機溶媒としては、多価アルコール類やモノアルコール類などのアルコール類、ラクトン類、ジメチルスルホキシド等のスルホキシド類が好適に挙げられる。多価アルコール類としては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、2,3−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオール、ピナコール、2−メチル−2,4−ペンタンジオール、2−エチル−1,3−ヘキサンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、グリセリン、1,2,4−ブタントリオール、トリメチロールエタン、マンニトール、ソルビトール、ズリシトール、ポリビニルアルコールなどの1種または2種以上を使用することができる。
また、モノアルコール類としては、2−メトキシエタノール、2−エトキシエタノール、2−プロポキシエタノール、2−イソプロポキシエタノール、2−ブトキシエタノール、3−メチル−3−メトキシ−1−ブタノール、3−メトキシ−1−ブタノール、1−メトキシ−2−プロパノール、1−エトキシ−2−プロパノール、1−メトキシ−2−ブタノールなどの1種または2種以上を使用することができる。
更に、ラクトン類としては、γ−ブチロラクトン、δ−バレロラクトン、ε−カプロラクトンなどの1種または2種以上を使用することができる。
本発明では、コンデンサを長期間保存した際に発生する陽極酸化皮膜の水和劣化を抑制し、コンデンサの漏れ電流の上昇を抑制できる酸性アルキル燐酸エステル類、燐酸、亜燐酸のうち1種以上を添加しても良い。酸性アルキル燐酸エステル類、燐酸、亜燐酸の添加量は、0.02〜4重量%が好ましい。
本発明では、コンデンサ内部に発生した水素ガスによる内部圧力の上昇を抑制するo−ニトロフェノール、m−ニトロフェノール、p−ニトロフェノール、m−ニトロアセトフェノンなどの芳香族ニトロ化合物のうち1種以上を添加しても良い。芳香族ニトロ化合物の添加量は、0.02〜6重量%が好ましい。
本発明で使用される電解液としては、カルボン酸および/またはこれらの塩類は2〜30重量%、好ましくは5〜20重量%、有機溶媒は70〜98重量%、好ましくは80〜95重量%に溶解して電解液にする。この時、電解液は水を含有していても良い。水を含有する場合は、通常5重量%以下、好ましくは3重量%以下とするのがよい。
次に、実施例および比較例を挙げて、本発明を具体的に説明する。
表1および表2は、本発明の実施例および比較例における電解コンデンサ用電解液の組成、アルミ箔を用いて10mA/cmの電流密度で定電流で化成した際の火花電圧(V)、電圧400Vまでの到達時間(分)および20℃における比電導度(mS/cm)を示したものである。更に、105℃で720時間保持後の電解液の電導度低下率(%)を示したものである。
実施例1〜8
「高純度1,6−デカンジカルボン酸の製法」
従来の1,6−デカンジカルボン酸を一般的な方法によりメチルエステル化した後、還流比1、理論段数20段で精密蒸留することにより1,6−デカンジカルボン酸メチルエステル(沸点:156℃/10mmHg)と1,10−デカンジカルボン酸メチルエステル(沸点:165℃/10mmHg)とを分離した。その後、1,6−デカンジカルボン酸メチルエステルを一般的な方法により加水分解することにより、高純度1,6−デカンジカルボン酸を得た。この時、高純度1,6−デカンジカルボン酸中に含まれる1,10−デカンジカルボン酸量は、0.1重量%であった。
この高純度1,6−デカンジカルボン酸を用いて表1記載の組成の電解液を作製して火花特性等を測定した。
比較例1〜5
表2記載の組成の電解液を作製して実施例1と同様に火花特性等を測定した。
なお、比較例1〜5で原料として使用した1,6−デカンジカルボン酸中には、1,10−デカンジカルボン酸が6重量%含有されていた。
表1および表2から明らかなように、実施例では比較例に比べて高電導度が維持されたまま、火花電圧、電導度、化成性は向上し、電導度低下率は小さくなっている。
Figure 0004947117
Figure 0004947117
なお、本発明は記載の実施例に限定されず、発明の趣旨から容易に類推可能な様々な組み合わせが可能である。特に、上記実施例の溶媒の組み合わせは限定されるものではない。

Claims (5)

  1. 1,10−デカンジカルボン酸の含有量を1重量%以下に制御することを特徴とする電解コンデンサ用電解液に用いる高純度1,6−デカンジカルボン酸。
  2. 前記1,6−デカンジカルボン酸が、シクロヘキサノンの酸化反応で得られることを特徴とする請求項1に記載の電解コンデンサ用電解液に用いる高純度1,6−デカンジカルボン酸。
  3. 請求項1または2に記載の高純度1,6−デカンジカルボン酸および/またはその塩を電解コンデンサ用電解液の電解質として用いることを特徴とする該用途。
  4. 請求項1または2に記載の高純度1,6−デカンジカルボン酸および/またはその塩を少なくとも1種含有する電解コンデンサ用電解液。
  5. 請求項4に記載の電解液を用いた電解コンデンサ。
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