JP4934924B2 - 強誘電体アクチュエータ素子およびその製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、強誘電体の圧電特性を利用して微小な変位を精度良く発生させるための強誘電体アクチュエータ素子およびその製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
従来、強誘電体の圧電特性を利用した微小な変位を精度良く実現するアクチュエータ素子には次のようなものがある。たとえば、図13(a)に示すような、強誘電体膜の一方の面に強誘電体膜30と同じ程度の膜厚を持つ導電体からなる振動板膜31を、他方の面に振動板膜よりは遥かに膜厚が小さい導電体膜32を固着させたユニモルフ構造としたものである。このとき強誘電体膜の分極軸が図中の矢印にあるように振動板膜31側に向いているとき、ここで、このようなユニモルフ構造のアクチュエータ素子の動作について説明する。振動板膜31と導電体膜32の間に電圧を印加すると、強誘電体膜の圧電特性により強誘電体膜の面内に伸縮変位が発生する。このとき、印加する電場強度に対する発生する伸縮率をd31定数と呼ぶ。たとえば、d31が−100×10-12(クーロン毎ニュートン)、印加する電場強度が107(ボルト毎メートル)だとすると、強誘電体膜は膜厚と垂直な面内において、およそ1メートルあたり1ミリメートルの割合で伸縮変位を起こそうとする。しかし、このとき振動板膜が強誘電体膜に固着されているので、強誘電体膜は面内でまっすぐ伸縮運動することができず、アクチュエータ素子には曲げ応力が発生するのである。発生する曲げ応力の方向は印加する電圧の極性によって変えることができ、たとえば、図13(b)のように振動体側がプラスになるように電圧を印加すると強誘電体膜の面内が延びるように変位するので、曲げ応力は振動板膜31側に発生する。逆に図13(c)のように導電体膜32側がプラスになるように電圧を印加すると曲げ応力は強誘電体膜30側に発生するのである。これは電場の方向に従い、強誘電体膜の結晶が歪む方向が変わるからである。つまり、ユニモルフ型アクチュエータ素子では強誘電体に掛ける電圧の極性を変えることで歪む方向を変えることができる。
【0003】
また、図14(a)のような2層の強誘電体が図中の矢印のように互いに分極が反対になるような方向で中間層を介して張り合わされたバイモルフ構造のアクチュエータも従来より提案されている。バイモルフ型アクチュエータでは、中間層が共通電極となるようにし、両側の強誘電体の外側に設けられた個別電極にそれぞれ電圧を印加することで、各強誘電体の変位に差を設けてどちらの側にも曲げ応力を発生させることができる。たとえば、図14(b)において下側の強誘電体36のみにプラスの電圧を掛けると曲げ応力は下側に発生し、図14(c)のように上側の強誘電体35のみにプラスの電圧を掛けると曲げ応力は上側に発生するのである。なお37〜39は電極である。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、ユニモルフ型アクチュエータ素子では次のような問題がある。すなわち、歪む方向を変えるために分極軸と逆方向に電場を発生させると、分極は電場の強さに従って緩和されていき、ついには分極方向が反転すると言う問題がある。分極の緩和・反転が起こると、強誘電体の圧電特性の劣化となり、所望する特性を得られないことになる。つまり、分極の緩和・反転を起こさないためには、逆方向への電圧印加はさける方が望ましく、これにより、ユニモルフ構造のアクチュエータ素子ではこれを自由な方向へ歪ませることに制限がある。
【0005】
一方、バイモルフ側アクチュエータ素子では、電圧はどちらの強誘電体においても分極の順方向に電圧を印加しているので分極の緩和・反転が起こる心配がない。よって、自由に歪む方向を変えることができるのである。しかし、バイモルフ型では次のような問題がある。すなわち、自由な方向に歪ませるためには、2つの強誘電体に対し、個別の電圧を印加する必要があり、電源が少なくとも2つ必要であるか、もしくはスイッチ素子などを利用して個別の強誘電体へ印加する電圧を分ける必要がある。これは、素子を高精度に制御する上で2つ以上の電源を同時に制御する必要があり、高度な制御を必要とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本願発明は、特に、所定の電圧より低電圧条件の下では第二の強誘電体の圧電特性であるd31定数は第一の強誘電体のd31定数よりも低い値を示し、高電圧条件の下では第二の強誘電体のd31定数が第一の強誘電体特性のd31定数より高い値を示し、前記所定の電圧条件下では、第一および第二の強誘電体のd31定数が同じ値となるものであり、第一および第二の強誘電体に単一の電源より同位相の同電圧を印加しても、d31定数の比がこれら強誘電体に印加する電圧の値により変化するので、たとえば、所定の電圧より低い電圧の場合は、第二の強誘電体のd31定数が第一の強誘電体のd31定数より低いので、第一の強誘電体側へ曲げ応力が発生し、所定の電圧より高い電圧の場合は、逆に第二の強誘電体側へ曲げ応力が発生するという作用を有する。
【0007】
また、特に第一の強誘電体は結晶構造の大部分が正方相体であるチタン酸ジルコン酸鉛で、上記第二の強誘電体は結晶構造が正方相体と菱面相体が混在するチタン酸ジルコン酸鉛であるもので、第一の強誘電体が正方相体であるチタン酸ジルコン酸鉛であることにより、d31定数は電圧に対して依存性を持たない圧電特性とすることができる、一方第二の強誘電体が正方相体と菱面相体の混合であるチタン酸ジルコン酸鉛であることにより、d31定数は電圧に対して依存性を持つようになり、所定の電圧以下では第一の強誘電体のd31定数より低い値となり、所定の電圧以上では第一の強誘電体のd31定数より高い値となる、請求項1に記載の強誘電体アクチュエータ素子を実現できるという作用を有する。
【0008】
また、中間層は導電体であるもので中間層が導体であることにより、中間層を共通電極として利用できるという作用を有する。
【0009】
また、結晶構造の大部分が正方相体である第一の強誘電体と、正方相体と菱面相体が混在する第二の強誘電体を有し、中間層の両面に上記第一および第二の強誘電体が、それぞれの自発分極の主なる方向が反対になるように張り合わされていることを特徴とする強誘電体アクチュエータの製造方法であって、前記第一の強誘電体としてチタン酸ジルコン酸鉛は酸化マグネシウム単結晶板上にスパッタ法により形成してなり、第二の強誘電体としてチタン酸ジルコン酸鉛はシリコン基板上にスパッタ法で形成してなるもので、酸化マグネシウム単結晶板の上にスパッタ法により形成したチタン酸ジルコン酸鉛は、そのほとんどが正方相体である結晶構造となり、シリコン基板の上にスパッタ法により形成したチタン酸ジルコン酸鉛は正方相体と菱面相体が混在した結晶構造となるのである。さらに、酸化マグネシウム単結晶板とシリコン基板は、それぞれリン酸溶液によるウエットエッチングや、6弗化硫黄ガス、2弗化キセノンガスなどを用いたドライエッチングにより容易に除去できるので、酸化マグネシウム単結晶板とシリコン基板に形成したそれぞれのチタン酸ジルコン酸鉛を張り合わせた後、これら基板部を除去すれば容易にバイモルフ強誘電体アクチュエータ素子を得ることができるという作用を有する。
【0010】
【発明の実施の形態】
(実施の形態1)
次に図を用いて、本発明の強誘電体アクチュエータ素子について詳しく説明する。図1(a)は本発明による強誘電体アクチュエータ素子の断面拡大図である。図において、1はその結晶構造のほとんどが正方相体であるチタン酸ジルコン酸鉛からなる第一の強誘電体であり、一方の面には白金からなる第一の電極2が設けられており、一方の面は金からなる第二の電極3が設けられている。また、4はその結晶構造が正方相体と菱面相体が混在したチタン酸ジルコン酸鉛からなる第二の強誘電体であり、一方の面に白金からなる第三の電極5、もう一方の面に金よりなる第四の電極6が設けられている。さらに、第二の電極3と第四の電極6は樹脂よりなる接着層7によって張り合わせた構造となっている。また、第二の電極と第四の電極および第一の電極と第三の電極はそれぞれ外部において短絡された構造である。ここで、第一の強誘電体の分極軸は図中の矢印で示したように、第二の電極3側に実質的に向いており、一方、第二の強誘電体の分極軸は図中の矢印に示すように第四の電極6側に実質的に向いている。ここで、分極軸が実質的に向いていると表現したのは、実際には各強誘電体の結晶の中には分極軸が他方を向いている場合も存在するからであるが、このような分極は全体から見ればわずかであり、実質的には一様に同方向を向いている。
【0011】
ここでこの強誘電体アクチュエータ素子の結晶構造について図を用いてさらに詳しく述べる。図2および図3は正方相体であるチタン酸ジルコン酸鉛と菱面相体であるチタン酸ジルコン酸鉛の結晶構造を示したものであるが、図1における第一の強誘電体1は正方相体であるチタン酸ジルコン酸鉛であり、その結晶構造は、図2に示すように鉛11が正方相体(酸素は図示せず)をなし、内部に位置するチタンあるいはジルコン12が中心よりわずかに<001>面側(図面では上側)へずれた位置にある。すなわち、電荷を持ったチタンあるいはジルコン12によって結晶内部では分極が生じている。<001>面側とはつまり第一の強誘電体1における第二の電極3側であり、本発明においてはこのような状態を分極が第二の電極3側へ向いていると呼んでいる。このような結晶構造を持つ第一の強誘電体において、これに印加する電圧とd31特性との関係を図4に示したが、電圧の値を変えてもd31定数はほぼ変わらないことを実験で確認している。
【0012】
一方、第二の強誘電体の結晶構造は、上記のような正方相体と図3で示すような菱面相体が混在した結晶であり、菱面相体では、分極は<111>面へ向かって生じていると考えられている。つまり、第二の強誘電体において、正方晶体の結晶は第四の電極側である<001>面へ分極が生じており、菱面晶体の結晶は第四の電極側とは少しずれた方向である<111>面へ向かって生じている。また、チタン酸ジルコン酸鉛は結晶構造が正方相体と菱面相体の境界上にあるとき最も高い圧電特性を示すと言われているが、その理由はまだ明らかにされていない。推測によると、菱面相体の結晶では<111>方向へ分極が生じているため、電荷を持ったチタンあるいはジルコンの可動距離が正方晶体における<001>面に生じている場合よりも長い。このことにより、チタンあるいはジルコンは結晶の中を大きく動くこととなり、よってd31定数は正方相体のチタン酸ジルコン酸鉛よりも大きくなると考えられている。さらに、印加する電圧はこの<111>方向とは少しずれた方向であるため、チタンあるいはジルコンは結晶の中を本来の可動方向<111>とはずれた方向に動こうとするので、ねじれが発生する。このことにより印加する電圧とd31定数の関係は、電圧の値が大きくなるに従って、d31定数の値も大きくなると考えられる。この関係は実験で確認したので図5に示す。さらに実験によると、電圧値約10Vを境に第一の強誘電体のd31定数を超えることがわかった。
【0013】
次に本発明の、それぞれのd31定数が印加電圧に対する依存性が異なる強誘電体を張り合わせてなる強誘電体アクチュエータの動作について説明する。図1(b)および図1(c)に示すように第一の電極と第三の電極間は外部の配線によって短絡されており、また、第二の電極と第四の電極は張り合わせる際に短絡されている。電圧を印加する際に、境界電圧値10V以上の電圧では、第二の強誘電体のd31定数の方が大きいので、図1(b)に示すように第二の強誘電体側に曲げ応力が働き、境界電圧値10V以下の電圧では、第二の強誘電体のd31定数の方が小さいので、図1(c)に示すように第一の強誘電体側へ曲げ応力が働くのである。なお、印加電圧が境界電圧値にある場合は、第一の強誘電体1と第二の強誘電体4のd31定数は同じ値を示すので曲げ応力は発生せず、アクチュエータ素子には延びが生ずるのみである。
【0014】
次に本発明のバイモルフ型強誘電体アクチュエータ素子の製造方法について説明する。図6から図12は本発明のアクチュエータ素子の製造方法を示すための各工程における断面図である。
【0015】
まず図6および図8に示すように、酸化マグネシウム基板21とシリコン基板22にそれぞれ、白金23および26とチタン酸ジルコン酸鉛24および27をスパッタ法により形成する。この時、白金およびチタン酸ジルコン酸鉛を形成する条件としては、特に差を設ける必要がなく、同条件で形成すればよい。こうすることで、酸化マグネシウム単結晶板21上に形成したチタン酸ジルコン酸鉛24はその大部分が正方相体の結晶構造となり、シリコン基板22上に形成したチタン酸ジルコン酸鉛27は正方相体と菱面相体が混在した結晶構造となる。この理由はまだ明らかにされていないが、形成する基板の熱膨張係数が関与しているらしいと言われている。
【0016】
次に図7および図9に示すように、それぞれの基板に金25および28をスパッタ法や蒸着など通常の手段で形成し、さらに図10に示すように、樹脂層29によって張り合わせる。本発明のようにこのように金を形成しておくことで、金25および28は第二および第四の電極として作用するだけでなく、樹脂の密着性を向上する効果ももたらす。
【0017】
次に、図11にあるように酸化マグネシウム単結晶板をリン酸溶液により除去する。リン酸溶液は白金を浸食しないので、酸化マグネシウム単結晶板のみを除去することが可能である。さらに図12にあるようにシリコン基板を六弗化硫黄ガスによるプラズマエッチングにより除去する。ただし、六弗化硫黄ガスによるプラズマエッチングでは白金を侵してしまう可能性もあるので、その場合は弗化キセノンをエッチングガスとして使用すると、白金との選択性が増し、シリコン基板のみを除去できるのである。
【0018】
以上、本発明の製造方法により、印加電圧に対するd31定数の依存性が違う2種類の強誘電体を張り合わせてなるバイモルフ型のアクチュエータ素子を得ることができる。
【0019】
【発明の効果】
上記のような方法によって、印加電圧に対するd31定数の依存性が違う2種類の強誘電体を張り合わせて得られるバイモルフ型のアクチュエータ素子は、単一の電源のみでアクチュエータ素子を自由な方向へ歪みを発生させることができるようになる。また、それぞれの強誘電体において分極の緩和・反転が起こる方向には電圧を印加しないので、圧電特性が劣化する心配がないのである。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明の一実施の形態における強誘電体アクチュエータの構造と変位の様子を説明する断面図
【図2】 同要部である正方相の結晶構造を示す模式図
【図3】 同要部である菱面相の結晶構造を示す模式図
【図4】 同印加電圧とd31定数の関係を示す図
【図5】 同印加電圧とd31定数の関係を示す図
【図6】 同製造工程を示す断面図
【図7】 同断面図
【図8】 同断面図
【図9】 同断面図
【図10】 同断面図
【図11】 同断面図
【図12】 同断面図
【図13】 従来の強誘電体アクチュエータの構造と変位の様子を説明する断面図
【図14】 同断面図
【符号の説明】
1 第一の強誘電体
2 第一の電極
3 第二の電極
4 第二の強誘電体
5 第三の電極
6 第四の電極
7 接着層
Claims (4)
- 結晶構造の大部分が正方相体であるチタン酸ジルコン酸鉛で形成された第一の強誘電体と、結晶構造が正方相体と菱面相体が混在するチタン酸ジルコン酸鉛で形成された第二の強誘電体とを有し、中間層の両面に上記第一および第二の強誘電体が、それぞれの自発分極の主なる方向が反対になるように張り合わされているバイモルフ型強誘電体アクチュエータ素子であって、所定の電圧より低電圧条件の下では第二の強誘電体の圧電特性であるd31定数は第一の強誘電体のd31定数よりも低い値を示し、高電圧条件の下では第一の強誘電体のd31定数より第二の強誘電体特性のd31定数が高い値を示し、前記所定の電圧条件下では、第一および第二の強誘電体のd31定数が同じ値となる強誘電体アクチュエータ素子。
- 中間層は、導電体である請求項1記載の強誘電体アクチュエータ素子。
- 酸化マグネシウム単結晶板上にスパッタ法により結晶構造の大部分を正方相体とするチタン酸ジルコン酸鉛からなる第一の強誘電体を形成する工程と、シリコン基板上に上記第一の強誘電体の形成条件と同条件で正方相体と菱面相体を混在させた結晶構造のチタン酸ジルコン酸鉛からなる第二の強誘電体を形成する工程と、上記第一および第二の強誘電体がそれぞれの自発分極の主なる方向が反対になるように中間層の両面に張り合わせる工程と、を少なくとも有した強誘電体アクチュエータ素子の製造方法。
- 酸化マグネシウム単結晶板をリン酸溶液により除去する工程と、シリコン基板を弗化キセノンガスによるプラズマエッチングにより除去する工程と、を更に設けた請求項3に記載の強誘電体アクチュエータ素子の製造方法。
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