近年、電気設備や電子応用設備の利用が増加している。これに伴い、電磁波妨害(EMI:electromagnetic interference)も増加の一途を辿っている。
電磁波ノイズには、伝導ノイズと放射ノイズとがある。伝導ノイズは、例えば、ノイズフィルタなどを用いて除去している。他方、放射ノイズは、例えば、ノイズ発生源とその周囲空間との間に電磁波シールド部材を設置して、先の周囲空間に放出されるのを防止している。
電磁波シールド部材としては、例えば、金属からなる筐体、回路基板間に設置する金属板、及びケーブルに巻き付ける金属箔がある。これら電磁波シールド部材は、電子回路、電気回路、電源、及び配線などのノイズ発生源が発生したノイズがその周囲空間に放出されるのを十分に防止する。しかしながら、これら電磁波シールド部材は、遮光性であるか又は透明性が不十分であるため、陰極線管ディスプレイ及びプラズマディスプレイなどのディスプレイの表示面から放出された電磁波ノイズが周囲空間に放出されるのを防止するのには適していない。
そこで、電磁波遮蔽性と透明性とを両立させた光透過性電磁波シールド部材が提案されている。例えば、特許文献1には、透明基材とその上に設けられた透明な金属薄膜とを含んだ電磁波シールド部材が記載されている。特許文献2には、透明基材とその上に設けられた透明無機導電層とを含んだ電磁波シールド部材が記載されている。特許文献3には、良導電性繊維からなる電磁波シールド部材が記載されている。特許文献4には、金属繊維からなる金属マットを含んだ電磁波シールド部材が記載されている。特許文献5には、樹脂と導電性粉末との混合物を透明基材上に格子状又は縞状に印刷してなる電磁波シールド部材が記載されている。特許文献6には、樹脂と導電性粉末との混合物を透明基材上に網目状に印刷してなる電磁波シールド部材が記載されている。特許文献7には、透明基材上に金属箔を貼り付け、この金属箔をエッチングによりパターニングしてなる電磁波シールド部材が記載されている。
これら電磁波シールド部材のうち、特許文献1及び2に記載された電磁波シールド部材では、導電体層はパターニングされていない連続膜である。そのような電磁波シールド部材では、導電体層は高い透明性を有していることが望まれるため、導電体層を薄くすることが要求される。しかしながら、導電体層を薄くすると、電磁波遮蔽性が低下する。すなわち、電磁波遮蔽性と透明性とは二律背反の関係にある。それゆえ、導電体層を連続膜とした電磁波シールド部材で、電磁波規制により要求される1.5Ω/□以下の表面抵抗率(クラスB:家庭用)と高い透明性とを同時に実現することは難しい。
特許文献3乃至7に記載された電磁波シールド部材では、導電体は、連続膜を形成しておらず、メッシュである。このような構造は、高い電磁波遮蔽性と高い透明性とを同時に実現するうえで有利である。
これらの中でも、特許文献7に記載されているように導電体パターンをエッチングにより形成した電磁波シールド部材は、品質が安定しており、1.5Ω/□以下の表面抵抗率と高い透明性とを同時に達成する。そのため、エッチングにより導電体パターンを形成した電磁波シールド部材は、ユーザから高い信頼を得ており、透明電磁波シールド部材のシェアの大部分を占めている。
導電体パターンをエッチングにより形成する場合、通常、連続膜としての導電体層上にレジストを塗布又は貼り付け、次いで、レジスト層をパターン露光し、これを現像する。そして、これにより得られたレジストパターンをエッチングマスクとして利用する。
この方法では、導電体層の全面をレジスト層で被覆し、その一部のみをレジストパターンとして使用する。換言すれば、導電体層上に設けたレジスト層の残りは、パターニングに利用することなしに廃棄する。それゆえ、この方法によると、電磁波シールド部材の材料コストを低減することが難しい。また、この方法は露光を必要とするため、基材の搬送と停止とを交互に繰り返すステップ搬送方式を採用せざるを得ない。そのため、タクトタイムを短くするうえで不利であり、それゆえ、生産性の向上が難しい。このような理由から、エッチングにより導電体パターンを形成した電磁波シールド部材の製造コストを低減することは難しい。
特許文献8には、導電性金属箔上にフレキソ印刷によりレジストパターンを形成することが記載されている。しかしながら、フレキソ印刷法では、版にゴム等の樹脂を使用しているため、印刷時にニップ圧を加えた際に変形が起き易く、それゆえ、寸法精度及び形状精度の双方に優れた印刷パターンを形成することが難しい。また、ニップ圧を大きくすることができないので、版から透明基材へのレジストインキの転移が不十分となり易い。さらに、版から透明基材へとレジストインキを転移させる際に、ニップ圧によりインキが版の凸部と被印刷体との間から端に押し出され、その結果、レジストパターンの縁が盛り上がると共に、その線幅が設計値と比較してより大きくなることがある。また、例えば、透明基材の表面のうちレジストパターンを形成すべき領域の一部が突起を含んでいる場合、版から透明基材へとレジストインキを転移させる際に、この突起がレジストインキを突き抜けて版と直接に接触し、その結果、レジストパターンにピンホールを生じる可能性がある。
孔版印刷及びインクジェット印刷などのフレキソ印刷以外の印刷方式でも、導電体層上にレジストパターンを形成することは可能である。しかしながら、スクリーン印刷などの孔版印刷は、逐次枚葉方式であるためスループットが低く、版のうちパターン形成に実際に利用可能な部分が例えば1/2程度と小さい。そのため、孔版印刷により高い生産性を達成することは難しい。また、インクジェット印刷では、ノズルが吐出するインキ滴は微小であるため、エッチングマスクとして十分な厚さを有するレジストパターンを短時間で形成することは困難である。そして、インクジェット印刷でより微細なレジストパターンを形成するにはインキ滴を小さくする必要があり、それゆえ、この場合、スループットがさらに低下すると考えられる。
特許文献9には、導電性金属上にグラビアオフセット印刷により印刷インクレジストを形成することが記載されている。グラビアオフセット印刷によれば、フレキソ印刷、孔版印刷及びインクジェット印刷に関して上述した問題は生じないか又は生じ難い。しかしながら、グラビアオフセット印刷では、オフセットロールに使用するシリコーンゴムなどのゴムがインキの溶媒を吸収して膨潤することがある。オフセットロールのゴムが膨潤すると、レジストパターンの寸法精度が低下し、線幅が設計値よりも大きくなる。また、膨潤量が安定しないため、レジストパターンの寸法にばらつきを生じ易く、それゆえ、連続運転には不向きである。
また、グラビアオフセット印刷では、一般に、オフセットロール上でインキが広がらないように、粘度の高いインキを使用している。インキの粘度が高いと、印刷速度を高めたときに、インキの転移が不十分となることがある。そのため、グラビアオフセット印刷では、印刷速度を10m/分以上とすることは極めて困難である。
これらの点を考慮し、本発明者らは、導電体層上にダイレクトグラビア印刷によりレジストパターンを形成することを考えている。ダイレクトグラビア印刷によれば、フレキソ印刷、孔版印刷及びインクジェット印刷に関して上述した問題は生じないか又は生じ難い。また、ダイレクトグラビア印刷によると、オフセットロールを使用しないため、その膨潤に起因した問題を生じ得ない。そして、ダイレクトグラビア印刷によると、粘度が比較的小さなインキをしようできるため、例えば、数10m/分の印刷速度を達成することができる。
しかしながら、本発明者らは、本発明を発明するに際して、以下の事実を見出している。すなわち、導体層上にダイレクトグラビア印刷によりレジストパターンを形成した場合、パターンの微細化に伴って、インキの転移量が減少する。インキの転移量が少ないと、レジストパターンのエッチングマスクとしての機能が不十分となることがある。
特開平1−278800号公報
特開平5−323101号公報
特開平5−327274号公報
特開平5−269912号公報
特開昭62−57297号公報
特開平2−52499号公報
特許第3473310号公報
特開2004−111784号公報
特開2000−98911号公報
以下、本発明の態様について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、各図において、同様又は類似した機能を発揮する構成要素には同一の参照符号を付し、重複する説明は省略する。
図1は、本発明の一態様に係る方法で製造可能な光透過性電磁波シールド部材の一例を概略的に示す平面図である。図2は、図1に示す光透過性電磁波シールド部材のII−II線に沿った断面図である。
図1及び図2に示す光透過性電磁波シールド部材10は、光透過性を有している。この電磁波シールド部材10は、透明基材11と、導電体パターン12と、それらの間に介在した接着剤層13とを含んでいる。この電磁波シールド部材10は、例えば、陰極線管ディスプレイ、プラズマディスプレイ、液晶ディスプレイ、及びエレクトロルミネッセンスディスプレイなどのディスプレイの表示面に取り付けられ、この表示面が放出する電磁波ノイズを遮断するのに使用される。
透明基材11は、典型的には無色透明なプラスチックフィルムである。プラスチックフィルムの材料としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)などのポリエステル、並びに、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、及びエチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)などのポリオレフィンを使用することができる。
透明基材11は、可視光領域,例えば400nm乃至700nmの波長範囲,における透過率が70%以上であることが望ましい。また、電磁波シールド部材10の製造に後述するロール・ツー・ロール(roll to roll)方式を採用する場合を考慮すると、透明基材11には、或る程度のコシがあり且つロールへ巻き取るのに十分な柔軟性を示すことが望まれる。したがって、透明基材11の厚さd1は、10μm乃至250μmの範囲内とするのが好適である。
導電体パターン12は、電磁波を遮蔽するシールド層である。導電体パターン12は、例えば、連続膜としての導電体層をパターニングすることにより得られる。
図1では、導電体パターン12は正方格子形状を有しているが、導電体パターン12は、メッシュ状又は網状であれば他の形状を有していてもよい。例えば、導電体パターン12は、三角格子形状、六角格子形状、又は平行四辺形格子形状を有していてもよい。或いは、網目の配置が一様であれば、導電体パターン12には、形状が異なる2種以上の網目が設けられていてもよい。例えば、菱形の網目と二等辺三角形の網目との組み合わせが規則的に配置されていてもよい。
導電体パターン12は、高い電磁波遮蔽性及び高い光透過性を有していることが望ましい。これを考慮すると、導電体パターン12を形成しているラインの幅Wは10μm乃至20μmの範囲内とすることが望ましく、開口部の径、すなわち、ライン間隔Dは200μm乃至300μmの範囲内とすることが望ましい。また、導電体パターン12の厚さd2は、5μm乃至20μmの範囲内とすることが望ましい。
導電体パターン12は、導電性材料からなる。導電性材料としては、例えば、亜鉛、ストロンチウム、硫黄、カルシウム、炭素、インジウム、錫、アルミニウム、ニッケル、銀、金、及び銅などを用いることができる。加工性及び導電性の観点では、これらの材料のうち銅が望ましい。
導電体パターン12は、黒化処理した銅パターンであってもよい。そのような導電体パターン12によると、ブラックマトリクス効果が得られる。したがって、導電体パターン12を黒化処理した場合、黒化処理しない場合と比較して、より優れた表示品位を達成できる。
なお、黒化処理した銅パターンを導電体パターン12として使用した場合、その厚さは、例えば、表面抵抗率が1.5Ω/□以下となるように設定する。加工寸法安定性及び銅箔の入手の容易さの観点から、導電体パターン12の厚さは、10μm程度であることが好ましい。
導電体パターン12の表面は、平坦性が比較的高い。例えば、導電体パターン12の表面は、日本工業規格JIS B0601:2001「製品の幾何特性仕様(GPS)−表面性状:輪郭曲線方式−用語,定義及び表面性状パラメータ」で規定されている算術平均粗さRaが0.3μm以下であるか、同規格で規定されている最大高さ粗さRzが3.0μm以下であるか、又は、算術平均粗さRaが0.3μm以下であり且つ最大高さ粗さRzが3.0μm以下である。好ましくは、算術平均粗さRaは0.15μm以下であり、最大高さ粗さRzは1.0μm以下である。
後述するように、導電体パターン12は、導電体層上にレジストパターンを印刷し、このレジストパターンをマスクとして用いて導電体層をエッチングすることにより得られる。レジストパターンの印刷に先立ち、導電体層の表面にその平坦性を高める平坦化処理を施しておくと、版面から導電体層へとレジストインキを良好に転移させることができる。また、通常、導電体層をパターニングした後に、その表面の平坦性を低める処理は行わない。したがって、通常、導電体パターンの表面は、平坦性が比較的高い。
接着剤層13は、透明基材11と導電体パターン12とを貼り合わせている。接着剤層13の材料としては、例えば、エポキシ系、アクリル系、又はウレタン系の接着剤を用いることができる。この接着剤は、シート状であっても液状であっても構わない。また、例えば、透明基材11上に導電体層を形成して、これをパターニングする場合は、接着剤層13は省略することができる。
次に、この光透過性電磁波シールド部材10の製造方法について説明する。
図3乃至図6は、図1及び図2に示す光透過性電磁波シールド部材の製造方法の一例を概略的に示す断面図である。
この方法では、まず、図3に示すように、透明基材11と導電体層12aとの積層体10’を準備する。この積層体10’は、例えば、接着剤層13を介して透明基材11と導電体層12aとを貼り合わせることにより得られる。或いは、この積層体10’は、真空蒸着、スパッタリング及び無電解めっきなどの成膜法を用いて、透明基材11上に導電体層12aを形成することにより得てもよい。或いは、透明基材11上に、上記の方法により厚さが1μm以下の導電体層12aを形成し、その後、電気めっきにより導電体層12aを所望の厚さまで厚膜化してもよい。これらの方法のうち、簡便であり、低コストであることから、接着剤層13を介して貼り合わせる方法が好適である。
次いで、導電体層12aを平坦化処理に供する。平坦化処理は、例えば、化学研磨、機械研磨、電解研磨、電着、圧延、又はそれらの2以上の組み合わせを含んでいる。この平坦化処理は、導電体層12aの表面の算術平均粗さRaが0.3μm以下となるように行うか、導電体層12aの表面の最大高さ粗さRzが3.0μm以下となるように行うか、又は、導電体層12aの表面の算術平均粗さRaが0.3μm以下であり且つ最大高さ粗さRzが3.0μm以下となるように行う。好ましくは、算術平均粗さRaは0.15μm以下であり、最大高さ粗さRzは1.0μm以下である。なお、積層体10’の準備及び平坦化処理を行う代わりに、導電体層12aが予め平坦化処理されている積層体10’を準備してもよい。
次に、図4に示すように、導電体層12a上に、グラビア印刷によりレジストパターン14を形成して、積層体10”を得る。ここで利用するグラビア印刷は、圧胴から版面に荷重を与えながらそれらの間に被印刷物を挿入して版面から被印刷物上へとインキを転移させるダイレクトグラビア印刷である。レジストパターン14を形成するためのグラビア印刷については、後で詳述する。
レジストパターン14の材料としては、エッチングレジストを使用する。エッチングレジストとしては、例えば、東京応化社製のレジスト又はJSR社製の液状レジストを使用することができる。エッチングレジストとして、例えば、紫外線硬化樹脂及び/又は熱可塑性樹脂を使用してもよい。また、エッチングレジストは、例えば、アクリル系又はエポキシ系であってもよい。エッチングレジストは、溶媒に溶解又は分散させて、インキとして用いてもよい。このインキは、エッチングレジスト及び溶媒以外に、一般に使用されている添加剤をさらに含んでいてもよい。
レジストパターン14を形成するのに先立ち、インキの転移をさらに良好にするために、平坦化処理した導電体層12aの表面状態を改質してもよい。この表面処理としては、例えば、コロナ処理及びプライマー塗布を挙げることができる。
レジストパターン14を形成した後、これをマスクとして用いたエッチングにより、導電層12aをパターニングする。すなわち、導電層12aのうち、レジストパターン14で被覆されていない部分を除去する。これにより、図5に示す導電体パターン12を得る。なお、導電体パターン12のサイドエッチングを十分に生じさせれば、そのライン幅をレジストパターン14のライン幅と比較してより狭くすることができる。
導電体層12aのパターニングに使用するエッチング液としては、導電体層12aの材料として銅を用いた場合には、例えば、塩化第二鉄又は塩化第二銅を主要成分として含有した溶液を使用することができる。導電体層12aの材料として銅以外の金属を用いた場合には、各金属に対応したエッチング液を用いてエッチングを行うことができる。例えば、導電体層12aの材料としてニッケルを用いた場合には、メルテックス社製のメルストリップMN−955などの市販のニッケル剥離剤をエッチング液として使用することができる。
次に、導電体パターン12からレジストパターン14を剥離する。剥離液としては、レジストとしてアルカリ可溶型エッチングレジストを用いた場合には、例えば、水酸化ナトリウム水溶液等のアルカリ水溶液を用いることができる。その他のエッチングレジストを用いた場合には、例えば、溶剤可溶タイプの場合は、各々のエッチングレジストに対応した溶剤を用いて剥離することができる。
以上のようにして、図6に示す光透過性電磁波シールド部材10を得る。
次に、ダイレクトグラビア印刷によるレジストパターン14の形成方法について、さらに詳しく説明する。
図7は、図3乃至図6に示す方法で利用可能なダイレクトグラビア印刷機の一例を概略的に示す図である。
このダイレクトグラビア印刷機は、1つの印刷ユニットを含んだ輪転グラビア印刷機である。この印刷ユニットは、グラビア版シリンダ21と、インキパン22と、ドクターブレード23と、圧胴24と、乾燥炉25とを含んでいる。
グラビア版シリンダ21は、金属又は合金などの硬質材料からなり、円柱又は円筒形状を有している。シリンダ21の柱面は、レジストパターン14に対応した形状の凹部が設けられた版面である。シリンダ21は、図7において反時計回りに転動可能である。
グラビア版シリンダ21の直径は、例えば、100mm乃至300mmの範囲内にある。ダイレクトグラビア印刷が転写に遠心力を利用している点を考慮し、グラビア版シリンダ21は、印刷速度が例えば10乃至60m/分となるように回転させる。
シリンダ21の版面に設ける凹部の深さは、例えば、10μm乃至50μmの範囲内とする。凹部が浅い場合、レジストパターン14が薄くなり、エッチングマスクとしての性能が不十分となることがある。例えば、レジストパターン14に浮き及び/又は割れが発生し、その結果、導電体パターン12に欠落部を生じる可能性がある。
インキパン22は、レジストインキ14’を収容している。レジストインキ14’は、上述したレジストパターン14の材料である。インキパン22は、レジストインキ14’中にシリンダ21が部分的に浸るように設置されている。
圧胴24は、円柱状又は円筒状のコア24aと、その柱面を被覆した樹脂層24bとを含んでいる。圧胴24は、その柱面がシリンダ21の版面と向き合うように設置されている。圧胴24は、図7において時計回りに転動可能である。圧胴24は、上述した積層体10’を間に挟んで、シリンダ21の版面に荷重を与える。なお、積層体10’は、その導電体層12aがシリンダ21と向き合うように、シリンダ21と圧胴24との間に挿入する。
コア24aは、硬質材料からなる。この硬質材料としては、例えば、金属、合金、セラミックス、又は硬質樹脂を使用することができる。硬質樹脂としては、日本工業規格JIS K6253:2006「加硫ゴム及び熱可塑性ゴム−硬さの求め方」で規定されている国際ゴム硬さが例えば95以上であるものを使用し、典型的には99以上であるものを使用する。コア24aの硬さが小さい場合、十分な印圧を加えることができず、版面から導電体層12aへのレジストインキ14’の転移が不十分となることがある。
樹脂層24bは、先の国際ゴム硬さが70乃至90の範囲内にあり、厚さが2mm以下である。樹脂層24bの厚さは、例えば、0.1mm以上である。また、典型的には、樹脂層24bの厚さは、1.0mm以下である。樹脂層24bの硬さが小さい場合及び樹脂層24bが厚い場合、印刷パターンの形状精度が不十分となることがある。樹脂層24bの硬さが大きい場合及び樹脂層24bが薄い場合、版面から導電体層12aへのレジストインキ14’の転移が不十分となることがある。
乾燥炉25は、シリンダ21と圧胴24との間から送り出された積層体10”のレジストパターン14を乾燥させる。乾燥炉25は、例えば、赤外線乾燥方式と温風乾燥方式とを組み合わせた構成を採用している。このような構成によると、レジストパターン14を、効率よく及び均質に乾燥させることができる。
レジストパターン14の形成に上記のダイレクトグラビア印刷機を用いた場合、光透過性電磁波シールド部材10は、以下のロール・ツー・ロール方式により行うことができる。
すなわち、まず、ロール状に巻いた透明基材11を準備する。そして、このロールから透明基材11を繰り出し、これに上述した処理を順次施した後、これにより得られる積層体をロール状に巻き取る。
具体的には、ロールから繰り出した透明基材11上に、まず、導電体層12aを設ける。次いで、この導電体層12aに平坦化処理を施し、続いて、その上に図7のダイレクトグラビア印刷機を用いてレジストパターン14を形成する。その後、このレジストパターン14をエッチングマスクとして用いたエッチングにより、導電体層12aをパターニングする。次いで、これにより得られた導電体パターン12からレジストパターン14を除去する。さらに、このようにして得られた光透過性電磁波シールド部材10をロール状に巻き取る。この光透過性電磁波シールド部材10は、通常、適当な寸法に切断する。
このロール・ツー・ロール方式を採用すると、材料及び製品の保管や運搬が容易になる。また、ロール・ツー・ロール方式を採用した場合、高い歩留まりを達成できる。例えば、光透過性電磁波シールド部材10の製造にステップ搬送方式を採用し、最終製品の対角寸法を42インチとした場合、導電体パターン12に1mm程度の断線不良が1箇所でも発見されれば、通常、その断線不良を含んだ最終製品の全体を不良品として扱うこととなる。これに対し、ロール・ツー・ロール方式を採用した場合、切断前の光透過性電磁波シールド部材10の一部に不良があったとしても、その部分のみを切り取れば、残りの部分は最終製品に利用することができる。
この方法では、レジストパターン14を上述したダイレクトグラビア印刷により形成する。このダイレクトグラビア印刷によると、パターンの微細化に伴うインキ転移量の減少を抑制することができる。これについて、図8乃至図13を参照しながら説明する。
図8乃至図10は、比較例に係る光透過性電磁波シールド部材の製造方法においてレジストインキが版面から導電体層上に転移する様子を概略的に示す断面図である。図11乃至図13は、図3乃至図7を参照しながら説明した光透過性電磁波シールド部材の製造方法においてレジストインキが版面から導電体層上に転移する様子を概略的に示す断面図である。
図8乃至図10に示す方法では、導電体層12aに平坦化処理を施してない。そして、この方法では、通常のグラビア印刷と同様、圧胴24として、金属製のコアに、国際ゴム硬さが70乃至90であり且つ厚さが約10mmの樹脂層を巻き付けたものを使用している。
平坦化処理を施していない導電体層12aは、表面に比較的大きな凹凸が存在しているものの、微視的に見た表面積は必ずしも大きくはない。そして、圧胴24として、金属製のコアに国際ゴム硬さが70乃至90であり且つ厚さが約10mmの樹脂層を巻き付けてなるものを使用した場合、シリンダ21に押し当てられることにより樹脂層は大きく変形するため、圧胴24とシリンダ21との接触面積が大きくなる。その結果、印圧の実効値は、設計値,例えば0.6MPa,と比較して小さくなる。このため、この方法では、シリンダ21の版面から導電体層12aへのレジストインキ14’の転移が不十分となり易い。
また、導電体層12aへの平坦化処理を省略すると共に、圧胴24から樹脂層24bを省略した場合、印圧の実効値は、設計値とほぼ等しくなる。しかしながら、この場合、圧胴24とシリンダ21との接触部は線状となり、それゆえ、それらの接触面積は極めて小さくなる。すなわち、この構成を採用すると、版面の各部分が圧胴24からの荷重を受ける時間が極めて短くなる。その結果、シリンダ21の版面から導電体層12aへのレジストインキ14’の転移が不十分となる。また、シリンダ21及び圧胴24の接触面の双方が硬質であるため、機械の振動等を吸収させることがでず、それゆえ、レジストパターン14を高い形状精度で形成することは難しい。例えば、レジストパターン14の直線性が低下し、その結果、導電体パターン12の直線性が低下する。
これに対し、図11乃至図13に示す方法では、平坦化処理を施した導電体層12aを使用する。そして、圧胴24に図7を参照しながら説明した構造を採用する。平坦化処理を施すと、表面に存在していた比較的大きな凹凸は除かれ、微視的に見た表面積が大きくなる。図7を参照しながら説明した圧胴24を使用すると、印圧の実効値を設計値に近い値とすることができると共に、圧胴24とシリンダ21との接触面積を十分に大きくすることができる。したがって、この方法によると、パターンの微細化に伴うインキ転移量の減少を抑制することができる。
また、この方法では、圧胴24は樹脂層24bを含んでいるので、機械の振動等がレジストパターン14の形状精度に及ぼす影響は小さい。すなわち、この方法では、機械の振動等が導電体パターン12の形状精度に及ぼす影響は小さい。
また、図3乃至図7を参照しながら説明した方法によると、導電体パターン12にピンホール等の欠陥を生じ難い。これについて、図14及び図15を参照しながら説明する。
図14は、図3乃至図7を参照しながら説明した方法により形成されるレジストパターンの一例を概略的に示す断面図である。図15は、比較例に係る方法により形成されるレジストパターンの一例を概略的に示す断面図である。
導電体層12aに平坦化処理を施すことなしにレジストインキ14’を印刷した場合、導電体層12aの表面に存在している巨視的な凹凸に起因して、レジストパターン14にピンホール等を生じることがある。ピンホール等が存在しているレジストパターン14をマスクとして用いて導電体層12aをエッチングすると、これにより得られる導電体パターン12にもピンホール等の欠陥を生じることとなる。
これに対し、図3乃至図7を参照しながら説明した方法では、レジストパターン14の形成に先立ち、導電体層12aに平坦化処理を施す。そのため、導電体層12aの表面には巨視的な凹凸は殆ど存在しておらず、それゆえ、これに起因してレジストパターン14にピンホール等を生じることは殆どない。したがって、この方法によると、導電体パターン12にピンホール等の欠陥を生じ難い。
このように、図3乃至図7を参照しながら説明した方法よると、十分な厚さのレジストパターン14を高い形状精度で形成することができる。それゆえ、この方法によると、導電体パターン12を高い形状精度で形成することができる。
この光透過性電磁波シールド部材10は、例えば、ディスプレイの表示面と向き合うように設置する。導電体パターン12を高い形状精度で形成できれば、光透過性電磁波シールド部材10に起因した表示ムラは生じ難く、ヘイズ又は透明性などの所望の光学特性を達成することが容易であり、明るい画像を表示可能となる。
また、図3乃至図7を参照しながら説明した方法では、レジストパターン14は、印刷法により形成し、フォトリソグラフィは利用しない。そのため、この方法は、フォトリソグラフィを利用する方法と比較して、レジストの使用量を大幅に低減できる。
また、フォトリソグラフィを利用した場合にはステップ搬送方式を採用せざるを得ないのに対し、この方法では、ロール・ツー・ロール方式を採用することも可能である。したがって、この方法によると、フォトリソグラフィを利用した場合と比較して、より高い生産性を達成できる。
この製造方法には、様々な変形が可能である。
上述した方法では、透明基材11のロールを使用している。その代わりに、積層体10’のロールを準備して、導電体層12aを設ける工程を省略してもよい。或いは、導電体層12aが予め平坦化処理されている積層体10’のロールを準備して、導電体層12aを設ける工程と平坦化処理とを省略してもよい。
また、この方法では、コア24aと樹脂層24bとを含んだ圧胴24を使用し、シリンダ21と圧胴24との間に積層体10’を挿入する。その代わりに、圧胴24から樹脂層24bを省略し、シリンダ21と圧胴24との間に、積層体10’と樹脂層24bとを重ねて挿入してもよい。この場合、それらは、樹脂層24bが積層体10’と圧胴24との間に介在するように、シリンダ21と圧胴24との間に挿入する。或いは、グラビア印刷の際に積層体10’に加わる最大圧力が1乃至40MPaの範囲内となるように圧胴24から版面に荷重を与えてもよい。この場合、圧胴24の構造に特に制限はない。
また、光透過性電磁波シールド部材10に関して上述したのと同様の方法により、転写基材と導電体パターン12とそれらの間に介在した粘着剤層とを含んだ転写箔を作製し、これを用いて光透過性電磁波シールド部材10を製造してもよい。すなわち、この転写箔と別途準備した透明基材11とを、接着剤層13を介して導電体パターン12と透明基材11とが向き合うように貼り合わせ、転写基材と粘着剤層との積層体を導電体パターン12から剥離してもよい。なお、粘着剤層には、粘着力が比較的弱い転写用粘着剤を使用する。
以下に、本発明の実施例を記載する。
(例1)
本例では、以下に説明する方法により図1及び図2に示す光透過性電磁波シールド部材10を製造した。なお、本例では、ロール・ツー・ロール方式を採用した。
まず、図3に示す積層体10’を準備した。透明基材11として、厚さが125μmである無色透明のポリエチレンテレフタレートフィルムである東洋紡績社製のコスモシャイン(登録商標)を使用した。導電体層12aとしては、一方の主面を黒化処理した厚さが10μmである銅箔である三井金属鉱業社製のTQ−M2−VLPを使用した。接着剤層13の材料としては、東洋モートン社製のAEシリーズを使用した。
透明基材11と導電体層12aとは、導電体層12aの黒化処理された主面が透明基材11と向き合うように接着剤層13を介して貼り合わせた。また、導電体層12aの他方の主面は、化学研磨処理液である三菱ガス化学社製のCPE−800に3分間浸漬させることにより平坦化した。この平坦化処理後の導電体層12aは、算術平均粗さRaが0.2μmであり、最大高さ粗さRzが1.5μmであった。
次に、図7に示すダイレクトグラビア印刷機を用いて、導電体層12a上に図4に示すレジストパターン14を形成した。コア24aの材料としてはSUS304を使用し、樹脂層24bとしては厚さが0.5mmのエチレン−プロピレンターポリマー(EPT)ゴムシートを用いた。樹脂層24bの国際ゴム硬さは80であった。レジストインキ14’としては、東洋紡績社製のエッチングレジストであるERグレードを使用した。
設定印圧は5.0MPaとし、印刷速度は25m/分とした。圧胴24とシリンダ21との間に富士フイルム社製の感圧紙であるプレスケール(登録商標)を挟むことにより測定した実効印圧は、約5.0MPaであった。乾燥炉25には、赤外線乾燥方式と温風乾燥方式とを組み合わせた構成を採用し、加熱時間は30秒とした。
レジストパターン14の形状は、正方格子形状とした。このレジストパターン14のライン幅は20μmとし、ライン間隔は300μmとした。
続いて、このレジストパターン14をマスクとして用いて、導電体層12を40℃でエッチングした。エッチング液としては、比重が1.450であり、0.5mol/LのHClと25g/LのFeCl3とを含有した第二塩化鉄系エッチング液を使用した。これにより、図5に示す構造を得た。なお、導電体パターン12のライン幅は、上面側では10μmであり、底面側では14μmであった。
次に、これを、40℃の剥離液中に2分間浸漬させて、導電体パターン12からレジストパターン14を剥離した。剥離液としては、水酸化ナトリウムを50g/Lの濃度で含有した水酸化ナトリウム水溶液を使用した。以上のようにして、図1、図2及び図6に示す光透過性電磁波シールド部材10を得た。
(例2)
本例では、以下に説明する方法により図1及び図2に示す光透過性電磁波シールド部材10を製造した。なお、本例では、ロール・ツー・ロール方式を採用した。
まず、平坦化処理を以下の方法で行ったこと以外は例1で説明したのと同様の方法により、図3に示す積層体10’を準備した。すなわち、本例では、平坦化処理として5分間のバフ研磨を施した。この平坦化処理後の導電体層12aは、算術平均粗さRaが0.25μmであり、最大高さ粗さRzが1.8μmであった。
次に、版胴24から樹脂層24bを省略し、版胴24とシリンダ21との間に積層体10’と樹脂層24bとを重ねて挿入したこと以外は、例1で説明したのと同様の方法により図4に示すレジストパターン14を形成した。ここでは、樹脂層24bとして、厚さが0.5mmのイソブチレンイソプレンゴムシートを使用した。このゴムシートの国際ゴム硬さは85であった。また、圧胴24とシリンダ21との間に富士フイルム社製の感圧紙であるプレスケール(登録商標)を挟むことにより測定した実効印圧は、約5.0MPaであった。
続いて、例1で説明したのと同様の方法により、導電体層12aをエッチングして、図5に示す構造を得た。なお、導電体パターン12のライン幅は、上面側では10μmであり、底面側では14μmであった。
次に、例1で説明したのと同様の方法により、導電体パターン12からレジストパターン14を剥離した。以上のようにして、図1、図2及び図6に示す光透過性電磁波シールド部材10を得た。
例1及び例2に係る光透過性電磁波シールド部材10の導電体パターン12は、フォトリソグラフィを利用して形成可能な導電体パターンと同等のライン幅を有していた。また、これら光透過性電磁波シールド部材10の導電体パターン12を顕微鏡で観察したところ、断線やカケ等は殆ど発生しておらず、形状精度に優れていることを確認できた。
また、フォトリソグラフィを利用してレジストパターン14を形成する方法では、レジスト塗布工程、露光工程、及び現像工程の3工程が必要である。これに対し、例1及び例2に係る方法では、印刷工程のみでレジストパターン14を形成することができる。加えて、フォトリソグラフィを利用する方法ではステップ搬送方式を採用せざるを得ないのに対し、例1及び例2に係る方法ではロール・ツー・ロール方式を採用している。そのため、例1及び例2に係る方法によると、フォトリソグラフィを利用する方法と比較して、2倍以上の生産性を達成することができた。
10…光透過性電磁波シールド部材、10’…積層体、10”…積層体、11…透明基材、12…導電体パターン、12a…導電体層、13…接着剤層、14…レジストパターン、14’…レジストインキ、21…グラビア版シリンダ、22…インキパン、23…ドクターブレード、24…圧胴、25…乾燥炉、24a…コア、24b…樹脂層。