先ず、本発明の第1の実施例について図1〜図7に基づいて説明する。図1は、本発明を適用する内燃機関の概略構成を示す図である。図1に示す内燃機関1は、多気筒の圧縮着火式内燃機関(ディーゼルエンジン)である。
内燃機関1は、各気筒2内へ直接燃料を噴射するための燃料噴射弁3を備えている。内燃機関1には、吸気通路4と排気通路5が接続されている。吸気通路4の上流端近傍にはエアクリーナボックス6が設けられている。エアクリーナボックス6より下流の吸気通路4には、本発明に係る測定手段としてのエアフローメータ7が取り付けられている。エアフローメータ7の出力信号はECU8に入力されるようになっている。
内燃機関1には、スタータモータ9が取り付けられている。スタータモータ9は、バッテリ10からの電力が通電された時に、クランクシャフト11の一端に固定されたフライホイール12と係合するとともに該フライホイール12を介してクランクシャフト11を回転駆動(クランキング)するように構成されている。
尚、バッテリ10からスタータモータ9に対する通電と非通電の切り換えは、ECU8によって制御されるようになっている。具体的には、ECU8は、スタータスイッチ13からオン信号を入力した時にバッテリ10からスタータモータ9へ通電させ、スタータスイッチ13からオン信号を入力していない時(スタータスイッチ13がオフの時)にはバッテリ10からスタータモータ9への通電を停止する。
内燃機関1には、クランクポジションセンサ14と水温センサ15が取り付けられ、それらクランクポジションセンサ14及び水温センサ15の出力信号がECU8へ入力されるようになっている。
このように構成された内燃機関1では、ECU8が上記したエアフローメータ7の出力信号、バッテリ10の電圧、クランクポジションセンサ14の出力信号、水温センサ15の出力信号等に基づいてスタータモータ9や燃料噴射弁3を制御する。
例えば、ECU8は、内燃機関1の始動時に、バッテリ10からスタータモータ9へ電力を供給させるとともに、燃料噴射弁3から適量の燃料を噴射させるべく始動時燃料噴射制御を実行する。
ここで、図2に基づいて始動時燃料噴射制御について述べる。図2は、クランキング開始からアイドル運転までの期間における機関回転数と燃料噴射量と排気中のHC濃度とを同一時間軸上に示した図である。
図2において、スタータモータ9によるクランキングが開始されると、ECU8は気筒判別を行った後に燃料噴射弁3からの燃料噴射を開始する。その際、ECU8は、冷却水温度に応じて燃料噴射量を増量補正(始動時増量補正)する。詳細には、ECU8は、冷却水温度が低くなるほど燃料噴射量が多くなるとともに、冷却水温度が高くなるほど燃料噴射量が少なくなるように始動時増量補正を行う。
クランキングが開始されてから内燃機関1の何れかの気筒2で燃料が着火(初爆)するまでの期間(図2中のクランキング期間)では、機関回転数がスタータモータ9の回転数に依存する。また、燃料噴射弁3から噴射された燃料が未燃のまま排出されるため、排気中のHC濃度が高くなる。特に、冷却水温度が低い時には、燃料噴射量の増量に伴って排気中のHC濃度も高くなる。
内燃機関1の何れかの気筒2において初爆が発生すると、機関回転数が上昇する。その際、ECU8は、クランクポジションセンサ14の出力信号に基づいて機関回転数の上昇(初爆の発生)を検知し、燃料噴射量の増量補正量を減少させる。
一方、初爆の発生により機関回転数が上昇すると、各気筒2の吸入空気量が増加するとともに圧縮端温度が高まるため、初爆が発生した気筒以外の気筒2においても燃料が着火及び燃焼するようになる(図2中の連爆期間)。
連爆期間中における燃料噴射量の増量補正量は、機関回転数が高くなるほど少なくされる。また、連爆期間中のHC濃度は、内燃機関1の一部の気筒2において燃料が着火及び燃焼するとともに燃料噴射量の増量補正量が減少されるため、初爆発生前のクランキング期間より低下する。
連爆期間の後に内燃機関1の全ての気筒2において燃料が着火及び燃焼可能な状態(完爆)になると、機関回転数が急激に上昇する所謂吹き上がりが発生する。その際、ECU8は、機関回転数が所定の完爆判定回転数以上になったことを条件に内燃機関1が完爆したと判定する。
ECU8は、内燃機関1の完爆を判定すると、始動時増量補正を終了してアイドルスピード制御(ISC)を開始する。アイドルスピード制御では、ECU8は、機関回転数が所望の目標アイドル回転数に収束するように燃料噴射量をフィードバック制御する。
内燃機関1の完爆判定により始動時増量補正が終了されてアイドルスピード制御が開始されると、完爆直後の吹き上がりによって機関回転数が一時的に上昇するため、それに伴って燃料噴射量も一時的に少なくされるが、機関回転数が目標アイドル回転数に収束した後は略一定量に安定する。
また、完爆後のHC濃度は、上記した機関回転数の吹き上がりによって一時的に増加するが、機関回転数がアイドル回転数に収束した後は内燃機関1の暖機が進むにつれて徐々に低下するようになる。
ところで、クランキング開始からアイドル開始までの期間(以下、始動期間と記す)では燃料噴射弁3から噴射された燃料のうち比較的多量の燃料が未燃のまま排出されることになるので、始動時増量補正が過多になると排気エミッションの悪化(白煙の排出量増加)や燃費の悪化を招くことになる。逆に、前記した始動期間における始動時増量補正が過少になると内燃機関1が完爆し難くなるため、始動期間の長期化や始動不良に陥る可能性がある。始動期間が長期化すると、未燃燃料の排出量が却って増加してしまう虞がある。
依って、燃料噴射開始から初爆発生までの期間における燃料噴射量は、内燃機関1の始動性を損なわない範囲で可能な限り少なくすることが好ましい。内燃機関1の始動性を損なわないようにするためには、各気筒2において燃料が着火及び燃焼した際に発生する燃焼圧力が内燃機関1のフリクション(以下、エンジンフリクションと記す)に打ち勝って機関回転数を上昇させる必要がある。
これに対し、従来の始動時増量補正では、冷却水温度をエンジンフリクションの大きさと相関するパラメータに見立てて補正量を決定しているが、冷却水温度とエンジンフリクションの大きさとは必ずしも相関しない場合がある。
エンジンフリクションの大きさは、主として潤滑油の温度や内燃機関自体の温度(例えば、筒内温度、シリンダ壁面の温度、各種ベアリングの温度等)によって変化する。
内燃機関1が長期間放置された後に始動される場合のように冷却水温度、潤滑油の温度、及び内燃機関自体の温度が外気温度と略同等になっている場合には、エンジンフリクションの大きさと冷却水温度との相関が高くなる。
しかしながら、内燃機関1の運転停止後において冷却水温度、潤滑油の温度、及び内燃機関自体の温度が外気温度と略同等の温度まで下がる前に再始動される場合には、冷却水温度が潤滑油の温度や内燃機関自体の温度と必ずしも同等にならないため、エンジンフリクションの大きさと冷却水温度との相関が低くなる。
また、エンジンフリクションの大きさは、潤滑油の種類、潤滑油の劣化度合い、内燃機関各部のクリアランスの経時変化等によっても変化するため、内燃機関1の設計時に想定された潤滑油とは異なる種類の潤滑油が使用された場合、潤滑油が著しく劣化した場合、或いは内燃機関各部のクリアランスが変化した場合等には、たとえ始動時における冷却水温度が潤滑油や内燃機関自体の温度と同等であっても、エンジンフリクションの大きさと冷却水温度との相関が低くなる。
そこで、本実施例における始動時増量補正では、ECU8は、冷却水温度により定まるエンジンフリクションの大きさと実際のエンジンフリクションの大きさとの誤差に基づいて、始動時増量補正量を補正するようにした。
実際のエンジンフリクションの大きさは、スタータモータ9の出力が一定であれば上記したクランキング期間における機関回転数(クランキング回転数)に相関する。すなわち、スタータモータ9の出力が一定であれば、エンジンフリクションが大きくなるほどクランキング回転数が低くなるとともに、エンジンフリクションが小さくなるほどクランキング回転数が高くなる。
但し、スタータモータ9の出力は必ずしも一定とはならないため、スタータモータ9の出力に起因したクランキング回転数の変化分を考慮する必要がある。スタータモータ9の出力はバッテリ10が放電可能な電圧に相関するため、スタータモータ9の出力に起因したクランキング回転数の変化分はバッテリ電圧をパラメータとして特定することができる。
スタータモータ9の出力に起因したクランキング回転数の変化分が特定されると、その変化分を実際のクランキング回転数から差し引くことにより、実際のエンジンフリクションの大きさと相関する値を求めることができる。
本実施例では、クランキング回転数とバッテリ電圧と実際のエンジンフリクションの大きさ(以下、実エンジンフリクションFrと記す)との関係を示すマップを予め実験的に求めておくようにした。
図3は、クランキング回転数とバッテリ電圧と実エンジンフリクションFrの関係を示すマップの一例である。図3において、実エンジンフリクションFrは、バッテリ10の
電圧が高く且つクランキング回転数が低くなるほど大きくなるとともに、バッテリ10の電圧が低く且つクランキング回転数が高くなるほど小さくなっている。
更に、本実施例では、図4に示すように、冷却水温度とエンジンフリクションとの大きさ(以下、基準エンジンフリクションFbと記す)との関係も予めマップ化しておくものとする。
図4における冷却水温度と基準エンジンフリクションFbとの関係は、冷却水温度と潤滑油の温度と内燃機関自体の温度の全てが外気温度と同等であり、且つ、潤滑油が劣化しておらず、且つ、内燃機関各部のクリアランスが正常値である条件下で実験的に求められたものである。
上記した図3及び図4のマップに基づいて実エンジンフリクションFr及び基準エンジンフリクションFbが求められると、ECU8は、実エンジンフリクションFrと基準エンジンフリクションFbとを比較する。
実エンジンフリクションFrが基準エンジンフリクションFbより大きい場合には、ECU8は、冷却水温度に基づいて定められる始動時増量補正量(以下、基本補正量と記す)を増量補正して始動時増量補正量を決定する。一方、実エンジンフリクションFrが基準エンジンフリクションFbより小さい場合には、ECU8は、基本補正量を減量補正して始動時増量補正量を決定する。
このようにして始動時増量補正量が定められると、冷却水温度が潤滑油の温度や内燃機関自体の温度と異なる場合、潤滑油の種類が内燃機関1の設計時に想定されたものと異なる場合、潤滑油が著しく劣化している場合、或いは内燃機関各部のクリアランスが経時変化している場合等であっても、内燃機関1の始動時における燃料噴射量がエンジンフリクションの大きさに適応した量となる。
その結果、内燃機関1が必要最小限の燃料によって始動可能となるため、始動性の低下を抑えつつ排気エミッションや燃費を向上させることが可能となる。
また、初爆発生後におけるエンジンフリクションは、燃焼(爆発)が生起された気筒の順序や各気筒で発生する熱量等によって不規則に減少するが、その際の減少度合いは初爆後(連爆期間)における機関回転数の上昇率に表れる。すなわち、エンジンフリクションの減少度合いが低くなるほど連爆期間における機関回転数の上昇率が低くなるとともに、エンジンフリクションの減少度合いが高くなるほど連爆期間における機関回転数の上昇率が高くなる。
そこで、本実施例の始動時燃料噴射制御では、ECU8は、内燃機関1の連爆期間において機関回転数の上昇率を算出し、算出された上昇率が低くなるほど連爆期間における燃料噴射量が増加するとともに、算出された上昇率が高くなるほど連爆期間における燃料噴射量が減少するように、始動時増量補正量を補正するようにした。
連爆期間における機関回転数の上昇率としては、ある気筒の膨張行程上死点近傍における機関回転数と該気筒の膨張行程後半における機関回転数との差(以下、実機関回転差と記す)等を用いることができる。
ECU8は、前記した実機関回転差が所定の基準機関回転差より大きい場合は、エンジンフリクションの減少度合いが高いとみなして始動時増量補正量を減量補正する。一方、前記した実機関回転差が基準機関回転差より小さい場合は、ECU8は、エンジンフリク
ションの減少度合いが低いとみなして始動時増量補正量を増量補正する。
その際の補正量は、実機関回転差と基準機関回転差との差が大きくなるほど多くされる。尚、上記した基準機関回転差は、前記した気筒において噴射燃料が適正に着火した場合の機関回転差に相当する値である。
このように連爆期間中の始動時増量補正量が決定されれば、初爆から完爆までの期間における燃料噴射量がエンジンフリクションの変化(減少度合い)に適応した量となるため、当該期間において燃料噴射量が過多或いは過少となることが防止される。
その結果、連爆期間の長期化(始動性の低下)、連爆期間における排気エミッションの悪化、及び連爆期間における燃費の悪化を抑制することが可能となる。
ところで、エンジンフリクションが大きい時に上記した完爆判定回転数が比較的低く設定されていると、内燃機関1が完爆したと判定された後(すなわち、始動時増量補正が終了した後)に内燃機関1がストールする可能性がある。逆に、エンジンフリクションが小さい時に上記した完爆判定回転数が比較的高く設定されていると、完爆直後の吹き上がりによって機関回転数が過剰に上昇して白煙等の排出量が増加する可能性がある。
これに対し、内燃機関1の始動開始時における冷却水温度に応じて完爆判定回転数を変更する方法も考えられるが、前述したように冷却水温度と実際のエンジンフリクションとの相関が低くなる場合があるため好適な方法とは言い難い。
そこで、本実施例では、ECU8は、冷却水温度に基づいて定められる完爆判定回転数(以下、基本回転数と記す)を前記した実エンジンフリクションFr又は機関回転差に基づいて補正することにより、完爆判定回転数を決定するようにした。具体的には、ECU8は、実エンジンフリクションFrが大きいほど若しくは機関回転差が小さいほど完爆判定回転数を高くするとともに、実エンジンフリクションFrが小さいほど若しくは機関回転差が大きいほど完爆判定回転数を低くする。
このように実エンジンフリクションFr又は機関回転差に基づいて完爆判定回転数が変更されれば、冷却水温度と実際のエンジンフリクションとの相関が低くなるような場合であっても完爆判定回転数が実際のエンジンフリクションに見合った機関回転数となるため、完爆判定後における内燃機関1のストールや完爆直後の過剰な吹き上がりによる白煙の排出量増加などを抑制することができる。
以下、本実施例における始動時燃料噴射制御について図5〜図7に基づいて説明する。図5は、上記したクランキング期間における始動時増量補正量を決定するためのルーチンであり、スタータスイッチ13がオフからオンへ切り換えられたこと(スタータスイッチ13からECU8へオン信号が入力されたこと)をトリガにしてECU8が実行するルーチンである。
図5のルーチンにおいて、ECU8は先ずS101において冷却水温度(水温センサ15の出力信号)とバッテリ10の電圧を入力する。
S102では、ECU8は、クランクポジションセンサ14の出力信号に基づいてクランキング回転数を演算する。
S103では、ECU8は、前記冷却水温度と前述した図4のマップとに基づいて基準エンジンフリクションFbを算出するとともに、前記バッテリ電圧と前記クランキング回
転数と前述した図3のマップとに基づいて実エンジンフリクションFrを演算する。
S104では、ECU8は、前記冷却水温度に基づいて始動時増量補正の基本補正量を演算する。
S105では、ECU8は、前記実エンジンフリクションFrが前記基準エンジンフリクションFbより大きいか否かを判別する。前記S105において肯定判定された場合(Fr>Fb)は、ECU8は、S106へ進む。
S106では、ECU8は、前記基本補正量に所定量αを加算して始動時増量補正量を決定する。前記所定量αは、実エンジンフリクションFrと基準エンジンフリクションFbとの差に基づいて決定される量であり、例えば、実エンジンフリクションFrと基準エンジンフリクションFbの差が大きくなるほど多くされる。
このように始動時増量補正量が決定されると、エンジンフリクションの大きさに対して始動時の燃料噴射量が過少になることが抑制されるため、初爆を早期に発生させ易くなるとともに初爆による機関回転数の上昇率を高めることができる。その結果、クランキング期間の長期化が抑制されるとともに、初爆が発生した気筒以外の気筒2においても燃料が着火及び燃焼(連爆)し易くなる。
前記S105において否定判定された場合(Fr≦Fb)は、ECU8は、S107へ進む。S107では、ECU8は、実エンジンフリクションFrが基準エンジンフリクションFbより小さいか否かを判別する。
前記S107において肯定判定された場合(Fr<Fb)は、ECU8は、S108へ進む。S108では、ECU8は、前記基本補正量から所定量βを減算して始動時増量補正量を決定する。前記所定量βは、実エンジンフリクションFrと基準エンジンフリクションFbとの差に基づいて決定される量であり、例えば、実エンジンフリクションFrと基準エンジンフリクションFbの差が大きくなるほど多くされる。
このように始動時増量補正量が決定されると、エンジンフリクションの大きさに対して始動時の燃料噴射量が過多になることが抑制されるため、初爆発生時期の遅延や初爆による機関回転数の上昇率低下を抑えつつクランキング期間における未燃燃料成分の排出量増加を抑制することができる。
前記S107において否定判定された場合(Fr=Fb)は、ECU8は、S109へ進む。S109では、ECU8は、冷却水温度とエンジンフリクションの大きさとの相関が十分に高いとみなして、前記基本補正量を始動時増量補正量とする。
ECU8が前述した図5のルーチンに従ってクランキング期間中の始動時増量補正量を決定すると、クランキング期間における燃料噴射量がエンジンフリクションの大きさに適した量となる。依って、初爆発生時期の遅延や初爆による機関回転数の上昇率低下を招くことなく、クランキング期間中に排出される未燃燃料量を最小限に抑えることが可能となる。
次に、図6は、上記した連爆期間における始動時増量補正量を決定するためのルーチンであり、スタータスイッチ13がオフからオンへ切り換えられたことをトリガにしてECU8が実行するルーチンである。
図6のルーチンにおいて、ECU8は先ずS201において冷却水温度(水温センサ1
5の出力信号)を入力する。
S202では、ECU8は、クランクポジションセンサ14の出力信号に基づいて機関回転数Neを算出する。
S203では、ECU8は、前記S202で算出された機関回転数Neがクランキング回転数Ne1より高く且つ完爆判定回転数Ne2より低いか否かを判別する。
ここで、クランキング回転数Ne1としては、前述した図5のルーチンで算出されたクランキング回転数を用いることができる。一方、完爆判定回転数Ne2は、ECU8が図7のルーチンを実行することにより求められる。
図7のルーチンは、完爆判定回転数Ne2を決定するためのルーチンであり、スタータスイッチ13がオフからオンへ切り換えられたことをトリガにしてECU8が実行するルーチンである。
図7のルーチンにおいて、ECU8は、先ず301において前述した図5のルーチンで算出された基準エンジンフリクションFbと実エンジンフリクションFrを読み込むとともに、前記基準エンジンフリクションFbの算出に用いられた冷却水温度を読み込む。
S302では、ECU8は、前記冷却水温度に基づいて基本回転数を演算する。その際、基本回転数は、冷却水温度が低くなるほど高く設定されるとともに冷却水温度が高くなるほど低く設定される。
S303では、ECU8は、前記実エンジンフリクションFrが前記基準エンジンフリクションFbより大きいか否かを判別する。前記S303において肯定判定された場合(Fr>Fb)は、ECU8は、S304へ進む。
S304では、ECU8は、前記基本回転数に所定量Aを加算して完爆判定回転数を決定する。前記所定量Aは、実エンジンフリクションFrと基準エンジンフリクションFbとの差に基づいて決定される量であり、例えば、実エンジンフリクションFrと基準エンジンフリクションFbの差が大きくなるほど多くされる。
このように完爆判定回転数が決定されると、エンジンフリクションの大きさに対して完爆判定回転数が過剰に低く設定されることがなくなるため、完爆判定後における内燃機関1のストールを防止することができる。
前記S303において否定判定された場合(Fr≦Fb)は、ECU8は、S305へ進む。S305では、ECU8は、実エンジンフリクションFrが基準エンジンフリクションFbより小さいか否かを判別する。
前記S305において肯定判定された場合(Fr<Fb)は、ECU8は、S306へ進む。S306では、ECU8は、前記基本回転数から所定量Bを減算して完爆判定回転数を決定する。前記所定量Bは、実エンジンフリクションFrと基準エンジンフリクションFbとの差に基づいて決定される量であり、例えば、実エンジンフリクションFrと基準エンジンフリクションFbの差が大きくなるほど多くされる。
このように完爆判定回転数が決定されると、エンジンフリクションの大きさに対して完爆判定回転数が過剰に高く設定されることがなくなるため、完爆判定後の吹き上がりにおいて機関回転数が過剰に上昇することを防止することが可能になるとともに過剰な吹き上
がりによる白煙の排出量増加を抑制することが可能となる。
前記S305において否定判定された場合(Fr=Fb)は、ECU8は、S307へ進む。S307では、ECU8は、冷却水温度とエンジンフリクションの大きさとの相関が十分に高いとみなして、前記基本回転数を完爆判定回転数とする。
尚、このようにして決定された完爆判定回転数は、連爆期間中における機関回転数の上昇率に基づいて更に補正されるようにしてもよい。例えば、連爆期間中における機関回転数の上昇率が過剰に低ければ前記した完爆判定回転数を高く補正し、連爆期間中における機関回転数の上昇率が過剰に高ければ前記した完爆判定回転数を低く補正するようにしてもよい。
ここで図6のルーチンに戻り、ECU8は、S203において否定判定した場合(Ne≦Ne1、又はNe≧Ne2)は、S212へ進む。S212では、ECU8は、前記機関回転数Neが完爆判定回転数Ne2以上であるか否かを判別する。
前記S212において肯定判定された場合(Ne≧Ne2)は、ECU8は、本ルーチンの実行を終了する。一方、前記S212において否定判定された場合(Ne≦Ne1)は、ECU8は、内燃機関1で初爆が発生していない(すなわち、内燃機関1がクランキング期間にある)とみなして、前述したS201以降の処理を再度実行する。
前記S203において肯定判定された場合(Ne1<Ne<Ne2)は、ECU8は、内燃機関1が連爆期間にあるとみなしてS204へ進む。S204では、ECU8は、前記冷却水温度と前記機関回転数Neに基づいて始動時増量補正量の基準値(基本補正量)を演算する。その際、基本補正量は、冷却水温度が低く且つ機関回転数Neが低くなるほど多くされるとともに、冷却水温度が高く且つ機関回転数Neが高くなるほど少なくされる。
S205では、ECU8は、実機関回転差△Nerを演算する。例えば、ECU8は、特定の気筒2の膨張行程初期における機関回転数と膨張行程後半における機関回転数との差を実機関回転差△Nerとして用いる。
S206では、ECU8は、基準機関回転差△Nebを演算する。例えば、特定の気筒2において噴射燃料が適正に燃焼した場合の機関回転差を予め実験的に求めておくようにしてもよい。尚、機関回転差は特定の気筒2に対する燃料噴射量に応じて変化するため、燃料噴射量をパラメータとする機関回転差のマップを予め実験的に求めておくようにしてもよい。
S207では、ECU8は、前記実機関回転差△Nerが前記基準機関回転差△Nebより小さいか否かを判別する。前記S207において肯定判定された場合(△Ner<△Neb)は、ECU8は、S208へ進む。
S208では、ECU8は、前記S204で算出された基本補正量に所定量γを加算して始動時増量補正量を決定する。前記した所定量γは、実機関回転差△Nerと基準機関回転差△Nebとの差に基づいて決定される量であり、例えば、実機関回転差△Nerと基準機関回転差△Nebの差が大きくなるほど多くされる。
このように連爆期間における始動時増量補正量が決定されると、連爆期間における燃料噴射量がエンジンフリクションの減少度合いに対して過少となることが防止されるため、連爆期間中の機関回転数を適正に上昇させることが可能となる。その結果、連爆期間の長
期が抑制されるとともに、内燃機関1が早期に完爆するようになる。
前記S207において否定判定された場合(△Ner≧△Neb)は、ECU8は、S209へ進み、前記実機関回転差△Nerが前記基準機関回転差△Nebより大きいか否かを判別する。
前記S209において肯定判定された場合(△Ner>△Neb)は、ECU8は、S210へ進む。S210では、ECU8は、前記S204で算出された基本補正量から所定量δを減算して始動時増量補正量を決定する。前記した所定量δは、実機関回転差△Nerと基準機関回転差△Nebとの差に基づいて決定される量であり、例えば、実機関回転差△Nerと基準機関回転差△Nebの差が大きくなるほど多くされる。
このように連爆期間における始動時増量補正量が決定されると、連爆期間における始動時増量補正量がエンジンフリクションの減少度合いに対して過多となることが防止されるため、連爆期間中における未燃燃料の排出量を最小限に抑えることが可能になるとともに燃費を向上させることが可能になる。
前記S209において否定判定された場合(△Ner=△Neb)は、ECU8は、S211へ進み、前記S204で算出された基本補正量を始動時増量補正量とする。
ECU8が前述した図6のルーチンに従って連爆期間中の始動時増量補正量を決定すると、連爆期間中の燃料噴射量がエンジンフリクションの減少度合いに適した量となるため、連爆期間中の機関回転数が必要最小限の燃料噴射量によって好適に上昇するようになる。依って、未燃燃料の排出量増加や燃費の悪化を抑制しつつ内燃機関1を早期に完爆させることが可能になる。
以上述べた実施例によれば、内燃機関1の始動時において冷却水温度とエンジンフリクションの大きさとの相関が低くなっても、燃料噴射量をエンジンフリクションの大きさに適した量とすることができるため、内燃機関1の始動性を損なうことなく排気エミションの悪化や燃費の悪化が抑制されるようになる。更に、完爆判定回転数がエンジンフリクションの大きさに基づいて設定されるため、完爆判定後における内燃機関1のストールや過剰な吹き上がりを抑制することも可能となる。
次に、本発明の第2の実施例について図8に基づいて説明する。ここでは、前述した第1の実施例と異なる構成について説明し、同様の構成については説明を省略する。
前述した第1の実施例では、実際のエンジンフリクションの大きさに基づいて始動時増量補正量を決定する例について述べたが、本実施例では実際のエンジンフリクションの大きさに加え、吸入空気量も考慮して始動時増量補正量を決定する例について述べる。
内燃機関1の吸気通路4にはエアクリーナボックス6が設けられているが、該内燃機関1の使用期間が長くなるとエアクリーナボックス6内のエアクリーナが目詰まりを起こす可能性がある。エアクリーナが目詰まりすると該エアクリーナの吸気抵抗が増加するため、内燃機関の吸入空気量が減少し易くなる。
上記したような要因により始動時の吸入空気量が減少すると、内燃機関1へ供給される燃料(燃料噴射量)が過多となるため、白煙等の排出量が増加する場合がある。これに対し、始動時の吸入空気量が適正量より少ない場合には始動時増量補正量を減量補正する方法が考えられるが、その際にエンジンフリクションが大きいと始動性が低下する虞がある
。
そこで、本実施例では、ECU8は、始動時の吸入空気量が適正量より少ない場合には、実エンジンフリクションFrが基準エンジンフリクションFbより小さいことを条件に始動時増量補正量を減量補正するようにした。
その際の減量補正量は、実エンジンフリクションFrと基準エンジンフリクションFbとの差が大きくなるほど(基準エンジンフリクションFbに対して実エンジンフリクションFrが小さくなるほど)且つ吸入空気量が適正量より少なくなるほど多くするようにしてもよい。
このような方法によれば、内燃機関1の始動性を確保しつつ白煙等の排出量増加を抑制することができる。
一方、エアクリーナの目詰まり等によって吸入空気量が少なくなっている時は、筒内に吸入される空気量が減少するため、圧縮端温度が低下する。圧縮端温度が低下すると燃料が着火し難くなるとともに燃料の燃焼圧力が動力(クランクシャフトの回転力)に変換され難くなるため、機関回転数が上昇し難くなる。特に、内燃機関のフリクションが大きい時に圧縮端温度が低くなると、初爆が発生しにくくなるとともに初爆による機関回転数の上昇率が低くなるため、始動性が低下する。
そこで、本実施例では、ECU8は、始動時の吸入空気量が適正量より少ない場合に、実エンジンフリクションFrが基準エンジンフリクションFbより大きければ、始動時増量補正量を増量補正するようにした。
その際の増量補正量は、実エンジンフリクションFrと基準エンジンフリクションFbとの差が大きくなるほど(基準エンジンフリクションFbに対して実エンジンフリクションFrが大きくなるほど)且つ吸入空気量が適正量より少なくなるほど多くするようにしてもよい。
前記した適正量は、エアクリーナが目詰まりを起こしていない時の吸入空気量(以下、基準吸入空気量と記す)であり、予め実験的に求められているものとする。但し、内燃機関1の吸入空気量は機関回転数によって変化するため、機関回転数と基準吸入空気量との関係を予めマップ化しておくことが好ましい。
以下、クランキング期間における始動時増量補正量の決定方法について図8に沿って説明する。図8は、クランキング期間における始動時増量補正量を決定するためのルーチンであり、スタータスイッチ13がオフからオンへ切り換えられたことをトリガにしてECU8が実行するルーチンである。
図8のルーチンにおいて、ECU8は先ずS401において冷却水温度(水温センサ15の出力信号)とバッテリ10の電圧と吸入空気量Ga(エアフローメータ7の出力信号)を入力する。
S402では、ECU8は、前記吸入空気量Gaが最低吸入空気量Ga0以上であるか否かを判別する。最低吸入空気量Ga0は、内燃機関1が始動可能な最低限の吸入空気量である。
前記S402において否定判定された場合(Ga<Ga0)は、ECU8は、内燃機関1が始動不可能であると判定してS417へ進む。S417では、ECU8は、車室内等
に設けられた警告灯を点灯させるとともに燃料噴射を停止させる。ECU8は、前記S417の処理を実行後に本ルーチンの実行を終了する。
前記S402において肯定判定された場合(Ga≧Ga0)は、ECU8は、S403へ進む。S403〜S406の処理は、前述した図5のルーチンにおけるS102〜S105と同様であるため、説明を省略する。
S406において肯定判定された場合(Fr>Fb)は、ECU8は、S407へ進み、実エンジンフリクションFrと基準エンジンフリクションFbとの差△F(=Fr−Fb)をパラメータとする関数f(△F)に基づいて所定量αを演算する。
前記した関数f(△F)は、前記差△Fが大きくなるほど大きな値になるとともに前記差△Fが小さくなるほど小さな値となるように設定されている。すなわち、前記S406における所定量αの決定方法は、前述した図5のS106における所定量αの決定方法に準ずる。
S408では、ECU8は、前記S401で入力された吸入空気量Gaが基準吸入空気量Gabより少ないか否かを判別する。前記S408において肯定判定された場合(Ga<Gab)には、ECU8は、S409へ進む。
S409では、ECU8は、吸入空気量Gaと基準吸入空気量Gabとの差△Ga(=Gab−Ga)に基づいて前記所定量αを補正する。具体的には、ECU8は、前記差△Gaをパラメータとする関数g(△Ga)の解を前記S407で算出された所定量αに加算して、新たな所定量α(=α+g(△Ga))を算出する。尚、前記した関数g(△Ga)は、前記差△Gaが大きくなるほど大きな値になるとともに前記差△Gaが小さくなるほど小さな値となるように設定されている。
S410では、ECU8は、前記S409において算出された所定量αをS405で算出された基本補正量に加算して始動時増量補正量を決定する。
このように始動時増量補正量が決定されると、実エンジンフリクションFrが基準エンジンフリクションFbより大きい場合には、吸入空気量Gaが少なくなるほど燃料噴射量が増量されることになる。燃料噴射量が増量されると、それに伴って燃料の燃焼圧力も増加するため、機関回転数が上昇し易くなる。その結果、吸入空気量の減少に起因した始動性の低下が抑制される。
尚、前記したS408において否定判定された場合(Ga≧Gab)は、ECU8は、前記S409をスキップしてS410へ進む。すなわち、前記S408で否定判定された場合は、ECU8は、前記S407で算出された所定量αを用いて基本補正量を補正する。このようにして決定される始動時増量補正量は、前述した図5のルーチンにおけるS106で決定される始動時増量補正量と同量となる。
また、前記S406で否定判定された場合は、ECU8は、S411へ進む。S411では、ECU8は、実エンジンフリクションFrが基準エンジンフリクションFbより小さいか否かを判別する。
前記S411において肯定判定された場合(Fr<Fb)は、ECU8は、S412へ進む。S412では、ECU8は、実エンジンフリクションFrと基準エンジンフリクションFbとの差△F(=Fb−Fr)をパラメータとする関数h(△F)に基づいて所定量βを演算する。
前記した関数h(△F)は、前記差△Fが大きくなるほど大きな値になるとともに前記差△Fが小さくなるほど小さな値となるように設定されている。すなわち、前記S412における所定量βの決定方法は、前述した図5のS107における所定量βの決定方法に準ずる。
S413では、ECU8は、前記S401で入力された吸入空気量Gaが基準吸入空気量Gabより少ないか否かを判別する。前記S413において肯定判定された場合(Ga<Gab)には、ECU8は、S414へ進む。
S414では、ECU8は、吸入空気量Gaと基準吸入空気量Gabとの差△Ga(=Gab−Ga)に基づいて前記所定量βを補正する。具体的には、ECU8は、前記差△Gaをパラメータとする関数i(△Ga)の解を前記S412で算出された所定量βに加算して、新たな所定量β(=β+i(△Ga))を算出する。尚、前記した関数i(△Ga)は、前記差△Gaが大きくなるほど大きな値になるとともに前記差△Gaが小さくなるほど小さな値となるように設定されている。
S415では、ECU8は、前記S414において算出された所定量βをS405で算出された基本補正量から減算して始動時増量補正量を決定する。
このように始動時増量補正量が決定されると、実エンジンフリクションFrが基準エンジンフリクションFbより小さい場合には、吸入空気量Gaが少なくなるほど燃料噴射量が減量されることになる。
この場合、吸入空気量に対して燃料噴射量が過多とならないため、白煙等の排出量を低減することができる。また、燃料噴射量の減量に伴って燃料の燃焼圧力も減少するが、実エンジンフリクションFrが小さいため、機関回転数の上昇率が低下し難い。その結果、始動性を損なうことなく排気エミッションを向上させることが可能となる。
尚、前記したS413において否定判定された場合(Ga≧Gab)は、ECU8は、前記S414をスキップしてS415へ進む。すなわち、前記S413で否定判定された場合は、ECU8は、前記S412で算出された所定量βを用いて基本補正量を補正する。このようにして決定される始動時増量補正量は、前述した図5のルーチンにおけるS108で決定される始動時増量補正量と同量となる。
前記S411で否定判定された場合(Fr=Fb)は、ECU8は、S416へ進む。S416の処理は、前述した図5のルーチンにおけるS109と同様であるため、説明を省略する。
ECU8が上記した図8のルーチンに基づいて始動時増量補正量を決定すると、クランキング期間における燃料噴射量が実エンジンフリクションFrと吸入空気量Gaとに適した量となるため、始動性を損なうことなく排気エミッションや燃費を向上させることが可能となる。
尚、本実施例では、クランキング期間中の始動時増量補正量を決定する際に吸入空気量を考慮する例について述べたが、連爆期間中の始動時増量補正量を決定する際にも吸入空気量を考慮するようにしてもよい。
例えば、ECU8は、連爆期間中の吸入空気量が適正量より少ない場合には、実機関回転差△Nerが基準機関回転差△Nebより大きいことを条件に始動時増量補正量を減量
補正すればよい。一方、連爆期間中の吸入空気量が適正量より少ない場合に、実機関回転差△Nerが基準機関回転差△Nebより小さければ、始動時増量補正量を増量補正してもよい。
このように連爆期間中の始動時増量補正量が機関回転数の上昇率と吸入空気量に基づいて決定されれば、連爆期間中の燃料噴射量を必要最小限に抑えることができるため、排気エミッション及び燃費を向上させることが可能になる。
尚、前述した実施例1〜2では、本発明に係る内燃機関1として圧縮着火式の内燃機関を例に挙げたが、火花点火式の内燃機関(ガソリンエンジン)であってもよい。