JP4921091B2 - 複合構造物の製造方法、不純物除去処理装置、成膜装置、及び、複合構造物 - Google Patents

複合構造物の製造方法、不純物除去処理装置、成膜装置、及び、複合構造物 Download PDF

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Description

本発明は、原料粉を基板に向けて噴射することにより基板上に原料粉を堆積させるエアロゾルデポジション法を用いた複合構造物の製造方法、並びに、そのような複合構造物の製造方法において用いられる不純物除去処理装置及び成膜装置に関する。また、本発明は、そのような複合構造物の製造方法を用いて製造される複合構造物に関する。
近年、微小電気機械システム(MEMS:micro electrical mechanical system)の分野においては、誘電体、圧電体、磁性体、焦電体、半導体のように、電圧を印加することにより所定の機能を発現する電子セラミックス等の機能性材料を含む素子を、成膜技術を用いて製造する研究が盛んに進められている。
例えば、インクジェットプリンタにおいて高精細且つ高画質な印字を可能とするためには、インクジェットヘッドのインクノズルを微細化すると共に高集積化する必要がある。そのため、各インクノズルを駆動する圧電アクチュエータについても、同様に、微細化及び高集積化することが求められる。そのような場合に、バルク材よりも薄い層を形成でき、且つ、微細なパターン形成が可能な成膜技術は有利である。
最近では、成膜技術の1つとして、セラミックスや金属等の成膜技術として知られるエアロゾルデポジション法(以下において、「AD法」という)が注目されている。AD法とは、原料の粉体(原料粉)をガス中に分散させ(エアロゾル化し)、それをノズルから基板に向けて噴射することにより、原料を基板上に堆積させる成膜方法である。ここで、エアロゾルとは、気体中に浮遊している固体や液体の微粒子のことをいう。なお、AD法は、噴射堆積法又はガスデポジション法とも呼ばれている。
関連する技術として、特許文献1には、脆性材料微粒子に内部歪を印加する工程を行った後に、この内部歪が付与された脆性材料微粒子を基材表面に高速で衝突させ、この衝突の衝撃によって脆性材料微粒子を変形または破砕し、この変形または破砕にて生じた活性な新生面を介して微粒子同士を再結合せしめることで、基材との境界部にその一部が基材表面に食い込む多結晶脆性材料からなるアンカー部を形成し、引き続いてこのアンカー部の上に多結晶脆性材料からなる構造物を形成する複合構造物の作製方法が開示されている。
特許文献1に開示されているように、AD法においては、アンカー部の存在により、基板とその上に形成された構造物とが強固に密着する。また、衝突の際に生じた活性な新生面において微粒子同士が結合するという成膜メカニズムは、メカノケミカル反応と呼ばれている。このようなAD法によれば、緻密で強固な膜を形成することができるため、種々の機能性膜が適用される機器の性能を向上させることが期待されている。
また、特許文献2には、脆性材料の微粒子に減圧雰囲気にてプラズマ照射またはマイクロ波照射等のエネルギー照射を行う工程と、次いでこのエネルギー照射を行った脆性材料の微粒子をガス中に分散させたエアロゾルを基材に向けてノズルより噴射して、上記エアロゾルを上記基板表面に衝突させ、この衝突の衝撃によって上記微粒子を破砕・変形させて接合させ、上記微粒子の構成材料からなる構造物を上記基材上に形成させる工程からなる複合構造物の作製方法が開示されている。
特許文献2においては、基板等に衝突した微粒子を強固に接合させるために、エアロゾル化する前の微粒子にプラズマ等のエネルギーを照射することにより、微粒子の表面に付着している物理吸着水や化学吸着水(微粒子表面の水酸基等と水素結合している水分子)や有機物を含む不純物を除去して、微粒子表面を活性化させている。また、その結果として、形成された構造物中に不純物が混在することを防止することもできる(第11頁)。さらに、特許文献2には、構造物形成速度を向上させるために、一旦不純物を除去した後の微粒子の表面に、水蒸気発生装置を用いて化学吸着水層を形成することも開示されている(第6、8頁)。
ところで、PZT(チタン酸ジルコン酸鉛)等の圧電体をAD法によって作製する場合に、圧電体はそのままの状態では十分な電気特性を示さないので、成膜後の圧電体を熱処理(ポストアニール)する必要がある。圧電体は、結晶粒径が大きいほど良好な圧電特性を示すので、熱処理によって結晶粒成長を促進させるためである。なお、結晶粒径と圧電性能との関係については、非特許文献1に記載されている。
特開2002−235181号公報(第2頁) 特開2005−36255号公報(第1、6、8、11頁) 菊地祥子、他2名、「サブミクロン結晶粒を有するPLZTセラミックスの光誘起歪特性」、日本セラミックス協会学術論文誌(日本セラミックス協会)、第112巻、10号(2004年)、p.572−576
しかしながら、AD法によって形成された膜(AD膜)を所定の温度(通常は、成膜温度より高い温度)で熱処理すると、アンカー部が存在するにもかかわらず、膜が基板から剥離してしまう場合がある。或いは、熱処理時に、膜の一部が膨張するヒロックという現象が生じることもある。
圧電体の電気特性を向上させるためにポストアニールは必須であるが、そのような現象が生じてしまうと、形成された膜を圧電体として利用することができなくなる。そのため、従来においては、AD膜を高温(例えば、1000℃)で熱処理することができず、例えば、PZTの結晶粒径を500nmより大きくすることができなかった。
そこで、上記の問題点に鑑み、本発明の第1の目的は、AD法によって基板上に形成された膜を熱処理する際に、膜の剥離やヒロックの発生を抑制できる複合構造物の製造方法を提供することである。また、本発明の第2の目的は、そのような複合構造物の製造方法において用いられる不純物除去処理装置及び成膜装置を提供することである。さらに、本発明の第3の目的は、そのような複合構造物の製造方法を用いて製造される複合構造物を提供することである。
上記課題を解決するため、本発明の1つの観点に係る複合構造物の製造方法は、PZT(チタン酸ジルコン酸鉛)で形成された原料粉をガスによって分散させることによりエアロゾル状態とする工程(a)と、工程(a)においてエアロゾル状態とされた原料粉を800℃以上でその融点より低い温度まで加熱して炭酸ガスを発生させることにより、原料粉に不純物として付着している又は含有されているカーボン又はカーボンを含有する化合物の量を、原料粉中のカーボンの量が重量で93ppm以下となるように低減する工程(b)と、エアロゾル状態の原料粉を基板に向けて吹き付けて原料粉を下層に衝突させることにより、衝突の際に原料粉が変形及び/又は破砕することによって新たに生じる活性面を有する粒子同士を結合させて原料粉を堆積させ、基板上に直接又は間接的に多結晶の構造物を形成する工程(c)と、工程(c)において基板上に形成された多結晶の構造物を少なくとも1000℃でアニール処理して、平均結晶粒径が400nmよりも大きく、相対密度が90%以上であり、波長500nm〜900nmの光に対して厚さ300μmのときに少なくとも20%の光透過率を有するPZT膜を得る工程(d)とを具備する。
本発明の1つの観点に係る不純物除去処理装置は、原料粉をガスによって分散させることによりエアロゾル状態とするエアロゾル生成手段と、エアロゾル生成手段によってエアロゾル状態とされた原料粉を加熱して炭酸ガスを発生させることにより、原料粉に不純物として付着している又は含有されているカーボン又はカーボンを含有する化合物の量を低減する処理手段であって、エアロゾル状態とされた原料粉が導入される処理室と、マイクロ波を出射するマイクロ波発振器と、モータによって駆動されることにより回転して、マイクロ波発振器から出射されたマイクロ波の反射方向を変化させながら該マイクロ波を処理室内の原料粉に照射する回転羽とを含む処理手段とを具備する。
本発明の1つの観点に係る成膜装置は、上記の不純物除去処理装置と、処理手段によって処理されたエアロゾル状態の原料粉を基板に向けて吹き付けることにより、基板上に原料粉を堆積させる噴射ノズルとを具備する。
本発明の1つの観点に係る複合構造物は、基板と、エアロゾルデポジション法を用いて、PZT(チタン酸ジルコン酸鉛)で形成された原料粉を基板に向けて吹き付けて原料粉を下層に衝突させることにより、衝突の際に原料粉が変形及び/又は破砕することによって新たに生じる活性面を有する粒子同士を結合させて原料粉を堆積させ、さらにアニール処理することによって、基板上に直接又は間接的に形成されたPZT膜であって、不純物として重量で93ppm以下のカーボンを含有し、平均結晶粒径が400nmより大きく、相対密度が90%以上であり、波長500nm〜900nmの光に対して厚さ300μmのときに少なくとも20%の光透過率を有するPZT膜とを具備する。
本発明によれば、加熱することによりガスを発生する不純物の含有量が所定の値以下である原料粉を用いてAD法により膜を形成するので、膜を加熱した際に膜の内部から発生するガスの量を低減することができる。そのため、膜の熱処理時に膜の剥離やヒロックが発生するのを抑制することができる。従って、緻密で高品質な膜を、高い歩留まりで製造することが可能となる。
以下、本発明を実施するための最良の形態について、図面を参照しながら詳しく説明する。なお、同一の構成要素には同一の参照番号を付して、説明を省略する。
図1は、本発明の第1の実施形態に係る複合構造物の製造方法が用いられる成膜装置の構成を示す模式図である。この成膜装置は、エアロゾル生成部と成膜部とを有している。図1に示すように、エアロゾル生成部は、エアロゾル生成室1と、振動台2と、巻き上げガスノズル3と、圧調整ガスノズル4とを含んでいる。成膜部は、成膜チャンバ7と、排気管8と、噴射ノズル9と、基板ステージ10とを含んでいる。さらに、成膜装置は、エアロゾル生成部と成膜部との間に配置されているエアロゾル搬送管5と、脱炭処理部6とを有している。エアロゾル搬送管5及び脱炭処理部6は、エアロゾル生成部と共に、不純物除去処理装置を構成する。
エアロゾル生成室1においては、エアロゾルの生成が行われる。また、エアロゾル生成室1は、内部に配置される原料粉20を攪拌するために、所定の周波数で振動する振動台2の上に設置されている。
巻き上げガスノズル3には、キャリアガスを供給するためのガスボンベが接続されている。巻き上げガスノズル3は、ガスボンベから供給されたガスをエアロゾル生成室1内に噴射することにより、サイクロン流を生成する。それにより、エアロゾル生成室1内に配置された原料粉20が巻き上げられて分散し、エアロゾル状態となる。
一方、圧調整ガスノズル4には、エアロゾル生成室1内のガス圧を調整するためのキャリアガスを供給するガスボンベが接続されている。圧調整ガスの流量を調節してエアロゾル生成室1内の圧力を制御することにより、エアロゾル生成室1内に発生する気流(巻き上げガス)の速度が制御される。
巻き上げガスノズル3及び圧調整ガスノズル4を介して供給されるキャリアガスとしては、例えば、酸素(O)とヘリウム(He)の混合ガスが用いられる。或いは、ヘリウムの替わりに、窒素(N)、アルゴン(Ar)、又は、乾燥空気等を用いても良い。
エアロゾル搬送管5は、エアロゾル生成室1内においてエアロゾル状態となった原料粉を、脱炭処理部6を介して、成膜チャンバ7に配置されているノズル9に搬送する。
脱炭処理部6は、エアロゾル状態となった原料粉に付着している又は含有されている不純物を低減するための処理手段である。本実施形態において除去対象とする不純物は、カーボン(C)又はカーボンを含有する化合物である。このような物質は、加熱することによりCOガスを発生するからである。また、カーボンを含有する化合物には、例えば、C2042、C2040、C2246、C2450等のアルキル化合物が含まれる。アルキル化合物は、飽和及び不飽和のいずれの場合も有り得る。また、1分子中に含まれる炭素数は特に限定されない。脱炭処理部の構成については、後で詳しく説明する。
成膜チャンバ7の内部は、排気管8に接続されている排気ポンプによって排気されており、それによって所定の真空度に保たれている。
噴射ノズル9は、所定の形状及び大きさの開口を有しており、エアロゾル生成室1からエアロゾル搬送管5を介して供給されたエアロゾルを、開口から基板30に向けて高速で噴射する。
基板30が固定されている基板ステージ10は、基板30とノズル9との相対位置及び相対速度を制御するための3次元的に移動可能なステージである。この相対速度を調節することにより、1往復あたりに形成される膜の厚さが制御される。
このような成膜装置において、原料粉20をエアロゾル生成室1に配置すると共に、基板30を基板ステージ10上にセットして所定の成膜温度に保つ。そして、成膜装置を駆動して噴射ノズル9からエアロゾルを噴射しながら、基板30を所定の速度で移動させる。それにより、図2に示すように、原料粉が基板30や基板上に先に堆積した構造物に衝突し、その衝突の際に原料粉が変形又は破砕することによって生じた活性な新生面において粒子同士が結合することにより、原料粉が基板上に堆積する。また、基板30の材料によっては(例えば、金属基板等の場合)、原料粉が基板に食い込むことによってアンカー部が形成される場合がある。その結果、基板30上に構造物(膜)40が作製される。
さらに、そのようにして作製された構造物40を、基板ごと、又は、基板から剥離して熱処理しても良い。それにより、構造物40中の結晶粒成長を促進させることができる。
次に、本発明の第1の実施形態に係る複合構造物の製造方法の特徴である脱炭処理について詳しく説明する。
セラミックス成形体の製造方法として一般的な固相焼結法においては、サブミクロンサイズのセラミックス原料粉が用いられる。このセラミックス原料粉は、製造過程における有機汚染を逃れ得ないが、固相焼結法において有機汚染はあまり問題にはならない。
その理由は次の通りである。固相焼結法においては、まず、原料粉を押し固めることにより成形体、即ち、圧粉体を作製する。その際には、通常、圧粉体の成形性を良くするために有機系のバインダが用いられる。図3の(a)は、そのような圧粉体を拡大して示している。図3の(a)に示すように、圧粉体の内部には、押し固められた原料粉の間に空孔が存在する。この空孔は、圧粉体の内部と外部とにおいて通じている開気孔となっている。
次に、そのような圧粉体を500℃〜800℃程度で熱処理する。それにより、圧粉体中に存在する有機物が熱分解して蒸発し、開気孔を通じて圧粉体の外部に逃れていく。これは、脱脂工程と呼ばれている。なお、一般的には、焼成工程における昇温過程が脱脂工程を兼ねている。
さらに、圧粉体をより高い温度で熱処理(焼成)する。それにより、図3の(b)に示すように、原料粉の焼結が進行していく。通常のPZTの場合には、800℃付近から焼結が始まり、1200℃付近で焼結が完了する。
このように、固相焼結法を用いる場合には、原料粉中の有機汚染成分やバインダ等の油脂成分のほとんどは、脱脂工程において二酸化炭素(CO)ガスとなって試料の外部に抜けていく。
一方、AD法においては、原料粉が下層に衝突することにより生じた新生面において粒子同士が結合するという、常温衝撃固化現象により膜が形成される。従って、膜の性質は非常に緻密であり、膜の内部から外部に通じる通気孔(開気孔)はほとんど存在しないと考えられる。そのため、例えば、800℃以上でAD膜を熱処理(ポストアニール)することにより、AD膜中に残存している有機物が燃焼してCO等のガスが発生しても、そのガスはAD膜の外部に抜け出ることはできないので、AD膜の内部に気孔(閉気孔)が形成されてしまう。そして、アニール温度の上昇に伴って気孔の体積が膨張して、AD膜にヒロック(試料の一部に生じる異常な体積膨張)が形成されてしまう。或いは、そのような気孔が基板と膜との界面に形成された場合には、膜が基板から剥がれてしまう。
ここで、図4の(a)は、AD法により基板上に形成された、厚さが約500μmのPZT膜の外観を示している。基板としては、酸化チタン(TiO)膜及び白金(Pt)膜が形成されたイットリア安定化ジルコニア(YSZ)基板(Pt/TiO/YSZ基板)が用いられた。また、AD法における原料粉としては、市販の一般的な固相焼結用のPZT原料粉を、例えば190℃で乾燥処理したものが用いられた。なお、この原料粉に対して、後述する脱炭処理(例えば、800℃で10分程度の熱処理)等は施されなかった。さらに、AD法による成膜を行う際に、基板温度を約600℃とした。
一方、図4の(b)は、図4の(a)に示すPZT膜(基板付き)を、空気中において、約1000℃で約3時間熱処理した後の様子を示している。図4の(b)に示すように、熱処理を施したことにより、PZT膜内にヒロックが形成されてしまった。このように、ヒロックは、AD法における特徴的な成膜メカニズムに由来する現象と言える。
そこで、本願発明者は、AD膜を熱処理したときに発生するガス成分を調べるために、固相焼結用PZT粉を用いて作製されたAD膜(図4の(a))についてガス分析(TPD−MS法)を行った。
ここで、乾燥処理後の固相焼結用PZT粉に含まれているカーボン量は、160ppmであった。このカーボン量は、高周波誘導加熱炉においてPZT粉を燃焼したときに発生したCOガスの量を、非分散赤外吸収法によって測定することにより得られた値に基づいて算出された。
分析は、次のように行われた。即ち、PZT膜試料をチャンバ内に設置されたPtボート上に置き、高純度ヘリウム(He)ガスを40cc/minで流しながら20℃/minで約1000℃まで昇温し、1000℃で約5分間保持した後で室温まで冷却して、その間に発生したガスを、質量分析装置を用いて連続的に測定した。質量分析装置としては、アネルバ株式会社製のAGS−7000型を用いた。なお、この分析は、基板を付けたままのAD膜に対して行われたが、Pt/TiO/YSZ基板は耐熱性が高いので、分析中の温度範囲においては、基板成分の影響はほとんどない。
図5に示す曲線(1)は、図4の(a)に示す試料に対するTPD−MS分析結果であり、試料から発生したCOガスの発生パターンを表している。ここで、図5の横軸は、TPD−MS分析中の温度変化を示している。また、縦軸(COガス発生パターンの強度)の単位は、任意の単位(a.u.)である。図5の(a)と(b)とは、縦軸のスケールが異なっているのみである。即ち、図5の(a)は、縦軸に示す強度を3000a.u.以下の範囲で示しており、図5の(b)は、縦軸に示す強度を60a.u.以下の範囲で示している。なお、曲線(2)については後述する。
図5の(b)に示すように、温度が800℃以上の領域においては、大量のCOガスが乾燥処理のみの原料粉を用いたPZT膜試料から発生している。また、図5の(a)に示すように、温度が900℃付近を超えた辺りから、大量のCOガスが数回に渡って発生している。これらのことより、ヒロックは、PZT膜の内部に発生したCOガスによって形成された気孔が体積膨張した結果であることがわかる。そして、内圧に耐え切れなくなった箇所からCOガスが順次噴出したと説明できる。
図4の(b)に示すように、ガス分析後のPZT膜試料には、大小複数のヒロックが形成されていた。先の分析結果を考慮すると、これらのヒロックは、膜の温度が800℃付近に至ったときから発生し始めたと言える。
このような結果を受けて、本願発明者は、COガスを発生する要因となる成分を明らかにするために、PZT膜を作製する際に用いられる原料粉の表面に付着している又は原料粉に含有されている物質を、GC−MS(ガス・クロマトグラフ質量)分析により調べることにした。ここで、GC−MSとは、ガス・クロマトグラフと質量分析計とを結合した装置であり、ガス・クロマトグラフによる混合物の分離能と、質量分析計の定性能とを併せ持つ分析装置である。即ち、ガス・クロマトグラフによって混合物試料を複数種類の物質に分離し、それらの物質を質量分析装置に直接導いて、物質の種類を同定する。この実験においては、日本電子株式会社製の質量分析計JMS−700Mstationが用いられた。
分析は、次のように行った。即ち、まず、特別な処理を施していない市販の原料粉(PZT粉)をヘキサンで洗い流し、そのヘキサンを濃縮してGC−MS装置にかけた。なお、原料粉に含まれるカーボン量を別途測定したところ、約150ppmであった。測定の方法及び使用された装置については、先に説明したものと同様である。
図6は、その分析結果を示している。図6に示すように、原料粉(サンプルA)の表面には、C2042、C2040、C2246、C2450等のアルキル化合物が付着していたことが明らかになった。ここで、このような不純物(アルキル化合物)が何故原料粉に付着したのかについては明らかではない。しかしながら、原料粉は800℃程度の温度で作製されるので、作製直後の原料粉には不純物はほとんど付着していないはずである。従って、原料粉を作製した後で、空気中に浮遊するオイルミストが原料粉に付着したり、原料粉を保管したり搬送する際に用いられるビニール製の容器から不純物が混入したものと考えられる。なお、図6には、C2040のピークが2つ示されているが、これは、二重結合の位置が異なる異性体や、分枝構造が異なる異性体が存在するためと考えられる。
次に、本願発明者は、原料粉から発生するCO量を、TPD−MS分析により測定した。試料としては、不純物(上記アルキル化合物)を低減するための処理、即ち、脱炭処理を施した原料粉(脱炭処理済みの原料粉)と、脱炭処理を施していない原料粉(乾燥処理のみの原料粉)とを用いた。乾燥処理のみの原料粉に含まれているカーボン量は、160ppmであった。一方、脱炭処理は、原料粉を約800℃で約10分間加熱することによって行い、それにより、原料粉に含まれているカーボン量を約60ppmに低減させた。なお、実際には、脱炭処理直後におけるカーボン量はもっと少ないが、分析するまでの間に有機物やCOガスが原料粉の表面に付着するため、数十ppm程度のカーボンは検出される。また、TPD−MS分析の方法及び使用された装置については、先に説明したものと同様である。
それにより、図7に示す結果が得られた。ここで、図7の横軸はTPD−MS分析中の温度変化を示しており、縦軸は強度(任意の単位:a.u.)を示している。図7に示すように、原料粉に対する脱炭処理の有無により、COガス発生パターンに大きな違いが現れた。即ち、乾燥処理のみ、即ち、脱炭処理なしの原料粉からは、330μL/gのCOガスが発生したのに対して、脱炭処理済みの原料粉から発生したCOガスは、170μL/gまで低減していた。この実験により、原料粉に含まれるカーボン量と、原料粉から発生するCOガスの量との間には相関があることが明らかとなった。ここで、原料粉に含まれるカーボン量とは、不純物がカーボン単体である場合には、カーボン単体の量のことであり、不純物がアルキル化合物である場合には、不純物に含有されるカーボンの量のことである。
さらに、本願発明者は、脱炭処理済みの原料粉についてGC−MS分析を行うことにより、原料粉に付着している又は含有されている不純物の種類を調べた。なお、原料粉に含まれるカーボン量を別途測定したところ、100ppm以下であった。図8の分析結果に示すように、脱炭処理済みの原料粉(サンプルB)からは、C2042及びC2246が僅かに検出されただけであり、それ以外のアルキル化合物はほとんど検出されなかった。これらの図6〜図8に示す結果より、原料粉に含まれ、加熱によりCOガスが発生する原因となる不純物は、主にアルキル化合物であり、そのような不純物は、原料粉に脱炭処理を施すことによって低減できることが明らかになった。
そこで、本願発明者は、脱炭処理済みの原料粉を用いてPZT膜を作製し、そのPZT膜についてTPD−MS分析を行った。
原料粉の脱炭処理としては、固相焼結用のPZT粉を約800℃で約10分間加熱することにより行い、それにより、PZT粉に含まれるカーボン量を約60ppmに低減させた。そのような原料粉を用いて、AD法により、厚さが約300μmのPZT膜をPt/TiO/YSZ基板上に作製した。このとき、基板温度を約600℃とした。
図9の(a)は、そのようにして作製されたAD膜の外観を示している。なお、TPD−MS分析の方法及び使用した装置については、先に説明したものと同様である。
図5の曲線(2)は、図9の(a)に示す試料に対するTPD−MS分析結果であり、試料から発生したCOガスの発生パターンを表している。図5の(b)に示すように、曲線(1)及び(2)は、共に、600℃付近まではほとんど同じ挙動を示している。しかしながら、図5の(a)の曲線(2)に示すように、温度が600℃を超えても、脱炭処理済みの原料粉を用いたPZT膜試料から発生したガスは、ごく僅かであった。
また、図9の(b)は、ガス分析後の試料の外観を示している。図9の(b)に示すように、脱炭処理された原料粉によって作製されたPZT膜試料を高温まで加熱しても、膜中にヒロックが発生したり、膜が基板から剥がれたりすることはなかった。
以上説明したように、原料粉に含まれる不純物、即ち、カーボン又はカーボンを含有する化合物(アルキル化合物)を予め十分に除去しておくことにより、AD膜をポストアニールした場合においても、ヒロックが発生しない良質な膜を作製することができる。ここで、AD法においては、バインダを添加する前の固相焼結用原料粉が用いられることが多いが、そのような原料粉は大量のアルキル化合物を含有していることが少なくない。従って、成膜を行う前に原料粉の素性を把握し、原料粉が多くの不純物を含有している場合には、脱炭処理を施すという工夫が必要となる。なお、1分子中に18個以上の炭素を含有するアルキル化合物は、長鎖アルキル化合物と呼ばれることもある。
図10は、アルキル化合物の含有量が異なるPZT原料粉により作製されたAD膜に対する熱処理実験の結果を示している。なお、図10において、各AD膜に含まれるアルキル化合物の量は、カーボン分析によって求められたカーボン含有量によって間接的に表されている。また、カーボン含有量は、高周波誘導加熱炉においてPZT原料粉を燃焼したときに発生したCOガスの量を非分散赤外吸収法によって測定し、その測定値に基づいて算出された。
図10において、アニール条件(1)〜(5)としては、アニール温度(℃)及びアニール時間(h)を示している。また、AD膜(a)〜(e)の数値は、AD膜中のカーボン含有量(ppm)を示している。さらに、表中の○印は、剥離及びヒロックのいずれも生じなかったことを示している。
図10に示すように、カーボン含有量(即ち、AD膜に取り込まれてしまったアルキル化合物の量)が多いほど、剥離及びヒロックが生じ易い傾向にある。また、AD膜(b)及び(c)に示すように、原料粉が同じである場合には、アニール温度が高くなるほどヒロックが生じ易くなることも判明した。さらに、アニール条件(3)〜(5)に示すように、カーボン含有量が増えるに従って、まずヒロックが生じ、さらにカーボン含有量が増えると剥離が生じることが判明した。
以上より、次の結果を得ることができた。即ち、AD膜中のカーボン含有量が約150ppm以下であれば、1000℃程度の高温アニール処理を施す場合においても、膜の剥離を防止することができる。また、AD膜中のカーボン含有量が約100ppm以下であれば、高温アニール処理を施す場合においても、膜の剥離及びヒロックの両方を防止することができる。
ここで、高温における熱処理(ポストアニール処理)による特性改善について説明する。成膜材料としてPZTを用いる場合には、アニール処理温度が950℃を超えると、擬立方晶(又は菱面体晶)の割合が減少して、正方晶の割合が増加することにより、誘電特性(圧電特性)が改善される。さらに、アニール処理温度が1000℃になると、正方晶の割合が50%を超えて優勢となり、図11に示すように強誘電性を示すようになる。図11において、横軸は電界の強さE(kV/cm)を表しており、縦軸は分極の強さP(μC/cm)を表している。なお、このときのPZT膜の平均グレインサイズは、約0.42μmである。
図12は、本発明の第1の実施形態に係る複合構造物の製造方法によって製造されたPZT膜(a)と従来法によって製造されたバルクのPZT膜(b)におけるX線回折結果を示す図である。図12において、横軸はX線の回折角2θ(°)を表しており、縦軸はX線の強度(任意の単位:a.u.)を表している。また、図12においては、アニール処理の温度をパラメータとして用いて、それぞれの温度においてアニール処理されたPZT膜のX線回折結果が示されている。それらのX線回折結果において、X線の強度に1つのピークが現れている場合には、擬立方晶(又は菱面体晶)が大きな割合を占めており、X線の強度に2つのピークが現れている場合には、正方晶が大きな割合を占めている。従って、本実施形態に係る製造方法によって製造されたPZT膜は、従来法によって製造されたPZT膜と比較して、より低い温度から正方晶が現れ易いことが分る。
ところで、AD法による成膜においては、成膜材料として、PZTの他に、PZTにランタンを添加したPLZT(ランタンドープチタン酸ジルコン酸鉛)を用いることもできる。ランタンをPZTに添加すると結晶構造が立方晶に近付いて誘電特性が低下するが、PLZT膜は透明であり、光学部材として使用することができる。本発明の第1の実施形態に係る製造方法によって製造したPZT膜も、アニール処理温度が1000℃を超えると透光性が高くなる。
図13は、本発明の第1の実施形態に係る複合構造物の製造方法によって製造されたPZT膜(a)と従来法によって製造されたPZT膜(b)における光透過率特性を示す図である。図13において、横軸は光の波長(nm)を表しており、縦軸は光の透過率(%)を表している。本発明の第1の実施形態に係る製造方法によって製造されたPZT膜は、1000℃においてアニール処理が施されており、従来法によって製造されたPZT膜は、1200℃においてアニール処理が施されている。それらのPZT膜の厚さは、共に、300μmである。図13に示すように、本実施形態に係る製造方法によって製造されたPZT膜は、広い波長範囲において、従来法によって製造されたPZT膜よりも優れた光透過率を有している。
図14は、本発明の第1の実施形態に係る複合構造物の製造方法によって製造されたPZT膜と従来法によって製造されたPZT膜の透明度を比較するための写真である。図14において、「FUJIFILM」と連続的に印字された下地上に、本実施形態に係る製造方法によって製造されたPZT膜が左側に、従来法によって製造されたPZT膜が右側に置かれている。それらのPZT膜の厚さは、共に、300μmである。図14に示すように、本実施形態に係る製造方法によって製造されたPZT膜は、従来法によって製造されたPZT膜よりも優れた透明度を有している。
以上述べたように、本実施形態によれば、AD法によって製造されたPZT膜に対して高温における熱処理を施すことが可能となり、その結果、正方晶の割合が高く、透明で、強誘電性を示すPZT膜を製造することができる。
次に、図1に示す脱炭処理部6の具体的な構成例について説明する。
図15は、図1に示す脱炭処理部6の第1の構成例を示す模式図である。
図15に示すように、処理室100の内壁には、例えば、電気式のヒータ101が設けられている。このような電気炉(処理室100及びヒータ101)の内部に、原料粉を適切な気体に分散させたエアロゾルを導入して加熱(仮焼き)する。キャリアガスとしては、大気、酸素(O)、アルゴン(Ar)、ヘリウム(He)、窒素(N)、水素(H)、水蒸気(HO)等の内から、原料粉の組成に応じて適切なものが、単独又は組み合わせて使用される。それにより、原料粉20に付着している又は含有されているカーボンや有機物汚染がキャリアガス中の酸素と反応して、一酸化炭素(CO)や、二酸化炭素(CO)や、水分(HO)として原料粉20から離脱する。
図15に示す脱炭処理部によれば、簡単な装置構成によって脱炭処理を行うことにより、カーボン単体又はアルキル化合物等の不純物をあまり含まない、即ち、AD法に適した原料粉を作製できる。また、大型の電気炉を用いることにより、そのような原料粉を一度に大量に作製して貯蔵することができる。なお、加熱を行う際には、原料粉20の温度が融点以上にならないように、ヒータ101の温度を制御することが必要である。
また、一般に、アルキル化合物は、1分子中に含まれる炭素数が少ないほど(例えば、炭素数が18未満の所謂短鎖又は中鎖アルキル化合物)原料粉から離脱し易く、炭素数が多いほど(所謂長鎖アルキル化合物)離脱し難い。従って、不純物の組成に応じて、温度制御を行っても良い。
図16は、図1に示す脱炭処理部6の第2の構成例を示す模式図である。
図16に示すように、処理室200は、断熱材201及び等温障壁202によって形成されている。また、この脱炭処理部6には、マイクロ波発振器203と、回転羽204と、モータ205とが設けられている。ここで、マイクロ波とは、1m〜1mm程度の波長を有する電磁波のことであり、UHF波(デシメータ波)、SHF波(センチ波)、EHF波(ミリ波)、及び、サブミリ波を含んでいる。また、等温障壁とは、加熱対象(本実施形態においては、原料粉)と同程度のマイクロ波吸収性を有する材料によって形成された炉材のことである。
回転羽204は、モータ205を駆動することにより回転するように取り付けられている。また、回転羽204は、マイクロ波を反射する材料(例えば、金属)によって形成されており、マイクロ波発振器203から出射したマイクロ波を処理室200の方向に反射する。その際に、回転羽204を回転させてマイクロ波の反射方向を常に変化させることにより、マイクロ波の照射領域が偏るのを防いでいる。
このような脱炭処理部において、マイクロ波発振器203及びモータ205を駆動し、原料粉を適切な気体に分散させたエアロゾルを、エアロゾル搬送管5を介して処理室200に導入する。なお、キャリアガスの組成については、第1の構成例において説明したものと同様である。それにより、マイクロ波を照射された等温障壁202が加熱されて、処理室200内の温度は均一に上昇する。また、エアロゾル状態となった原料粉20も、マイクロ波を照射されることによって直接加熱される。その結果、原料粉20に付着している又は含有されている炭素又は有機物汚染は、キャリアガス中の酸素と反応して、一酸化炭素(CO)や、二酸化炭素(CO)や、水分(HO)として原料粉20から離脱する。なお、加熱を行う際には、原料粉20の温度が融点以上にならないように、マイクロ波の強度を制御することが必要である。
本構成例においては、原料粉の組成に酸素欠損が生じるのを防ぐために、キャリアガスに酸素ガスが混合される。即ち、脱炭処理の雰囲気中に酸素が存在しない場合には、原料粉に付着している又は含有されているカーボン又はアルキル化合物が原料粉(例えば、PZT)の組成中の酸素と反応してしまうので、そのような反応を抑制する必要があるからである。
このように、図16に示す脱炭処理部によれば、均一に加熱された処理室200の内部において原料粉20にマイクロ波を照射するので、原料粉20を満遍なく効率的に加熱することができる。それにより、短時間に効率良く脱炭処理を施せるようになるので、脱炭処理中に原料粉の凝集等を生じさせることがなくなると共に、最終的に、不純物量が著しく低減された原料粉(エアロゾル)を得ることができる。
図17は、図1に示す脱炭処理部6の第3の構成例を示す模式図である。
図17に示すように、処理室300には、プラズマ発生器301が配置されている。ここで、プラズマとは、物質に高いエネルギーを与えることによって電離したイオンや電子等の荷電粒子の集合のことである。プラズマ中においては、物質はエネルギーが高くなり、活性化するので、他の物質と容易に反応するようになる。このようなプラズマの性質を利用したプラズマ洗浄は、電気部品製造や半導体製造等の技術分野においては一般的に用いられている。
この処理室300内に、酸素ガスをキャリアガスとするエアロゾルを導入し、プラズマ発生器301を動作させる。それにより、処理室300内においてプラズマが発生し、活性化された酸素イオンが生成される。原料粉20の表面に付着している又は原料粉20に含有されているカーボン又は有機物汚染は、このような酸素イオンと反応することにより、一酸化炭素(CO)や、二酸化炭素(CO)や、水分(HO)として原料粉20から離脱する。
図17に示す脱炭処理部によれば、高効率であることに加えて、非加熱で脱炭処理をすることができるので、原料粉の結晶構造等に影響を及ぼすおそれがないという利点がある。従って、不純物量が著しく低減された良質の原料粉を用いて構造物を形成することが可能となる。
図18は、図1に示す脱炭処理部6の第4の構成例を示す模式図である。この脱炭処理部は、UV(紫外線)洗浄により脱炭処理を行うことを特徴としている。なお、UV洗浄技術は、半導体製造等の技術分野において一般的に用いられている。
図18に示すように、処理室400には、紫外線ランプ401が配置されている。この処理室400内に、ヘリウムガス及び酸素ガスをキャリアガスとするエアロゾルを導入し、紫外線ランプ401を動作させることにより紫外線を照射する。この紫外線エネルギーにより、原料粉20の表面に付着している又は原料粉20に含有されている炭素又は有機物の結合が切断される。また、紫外線がキャリアガス中の酸素に吸収されることにより、オゾン(O)が生成され、さらに、励起状態の酸素原子が生成される。原料粉20表面の有機物汚染は、このような励起状態の酸素原子と反応することにより、一酸化炭素(CO)や、二酸化炭素(CO)や、水分(HO)として原料粉20から離脱する。
或いは、紫外線ランプ401の替わりに、真空紫外線(VUV)を発生する装置を用いても良い。真空紫外線とは、紫外線(一般的には10nm〜400nm程度の波長領域)の内でも波長が短い方である100nm〜200nm程度の光を指す。真空紫外線は、通常、半導体ウェハの洗浄や、有機膜の常温アニールや、樹脂材料の表面改質等の用途に用いられており、有機汚染物を効率良く光分解及び脱離させることができる。また、非加熱で処理することができることや、大気圧又は10−2Torr程度の真空の下で処理することができること等のメリットがある。真空紫外線発生装置としては、株式会社NTP製の縦型真空紫外光照射装置(MPA−1304−A)、汎用真空紫外光照射装置(MPA−2010−A)や、ウシオ電機株式会社製のエキシマVUV/O洗浄装置のように、様々な型や規模の装置が製造されており、脱炭処理部の構成に応じて市販の装置を選択することができる。
図18に示す脱炭処理部によれば、高効率であることに加えて、非加熱で脱炭処理をすることができるので、原料粉の結晶構造等に影響を及ぼすおそれがないという利点がある。従って、不純物量が著しく低減された良質の原料粉を用いて構造物を形成することが可能となる。
以上説明した脱炭処理部の第1〜第4の構成例に加えて、ヒータによる加熱、マイクロ波照射による加熱、プラズマ照射、紫外線照射、及び、真空紫外線照射の内から選択された複数の手段を組み合わせることにより脱炭処理を行っても良い。例えば、脱炭処理部の処理室内をヒータによって加熱すると共に、そこに導入されたエアロゾルに紫外線を照射する。それにより、紫外線照射を単独で行う場合よりも少ない紫外線エネルギーによって、原料粉の表面に付着している又は原料粉20に含有されている有機物汚染を離脱させることができる。また、加熱のみを行う場合よりも処理室内の温度を低く設定できるので、原料粉の組成が熱によって変化するおそれもなくなる。
また、本実施形態においては、一旦原料粉をガスによって分散させ、それによりエアロゾル状態となった原料粉に対して脱炭処理を施しているが、原料粉を分散させながら(エアロゾル化しながら)脱炭処理を施しても良い。例えば、図1に示すエアロゾル生成室1に紫外線ランプ等を配置することにより、それらの2つの処理を同時に行うことができる。
本発明の第1の実施形態によれば、脱炭処理により不純物量が低減された原料粉(エアロゾル)は、外部の雰囲気に晒されることなく直接噴射ノズル9(図1)に供給されるので、原料粉に新たに不純物が付着するおそれはない。従って、高温でのポストアニール処理に耐え得る高品質の構造物を、効率良く製造することが可能となる。
次に、本発明の第2の実施形態に係る複合構造物の製造方法について説明する。
先に説明した本発明の第1の実施形態においては、図1に示すエアロゾル生成室1において生成されたエアロゾルを、成膜チャンバ7に搬送する途中で、原料粉の脱炭処理を行っている。しかしながら、予め脱炭処理が施された原料粉に対して、エアロゾルを生成する処理を行っても良い。この場合には、成膜を行う際に、通常のAD成膜装置(例えば、図1に示す成膜装置において、脱炭処理部6を省略した装置)が用いられる。
原料粉に脱炭処理を施す方法としては、第1の実施形態において説明したのと同様に、ヒータを用いて原料粉を加熱する方法や、等温障壁が設けられた加熱炉内においてマイクロ波を照射して原料粉を加熱する方法や、原料粉に対してプラズマや紫外線や真空紫外線を照射することにより、プラズマ洗浄やUV洗浄やVUV洗浄を行う方法が挙げられる。
また、脱炭処理後には、窒素ガス等によって処理室内の大気をパージすることにより、原料粉表面の再汚染を抑制することが望ましい。さらに、その後で、窒素ガス等によって内部雰囲気が置換されたデシケータ内に原料粉を保管することが望ましい。
このように、本発明の第2の実施形態によれば、通常のAD成膜装置を使用でき、また、脱炭処理部において、一般的に市販されているヒータ、マイクロ波照射装置、プラズマ洗浄装置、UV洗浄装置、UVランプ、VUV照射装置等を利用できるので、高温でのポストアニール処理に耐え得る高品質な構造物を、低コストで製造することが可能となる。
ここで、本実施形態においては、脱炭処理が施された原料粉をエアロゾル状態とする前に、ミル(粉砕機)等を用いて解砕しても良い。その理由は、脱炭処理中に原料粉が凝集(ネッキング)してしまう場合があるからである。即ち、そのような凝集粒子を放置しておくと、凝集粒子が基板に衝突したときに、その運動エネルギーは粒子の解砕に消費されてしまい、メカノケミカル反応を生じさせる粒子の変形や破砕に至らしめることができなくなるからである。
本実施形態に係る複合構造物の製造方法の一実施例として、PZT膜を作製した。
まず、カーボン含有量が約160ppmであるPZT原料粉50gに対して、マイクロ波加熱炉内において、約800℃の大気中(或いは、酸素(O)を含む雰囲気中)で約5分間加熱することにより、脱炭処理を施した。それにより、PZT原料粉におけるカーボン含有量は約60ppmに低減していた。なお、このカーボンは、脱炭処理後に、大気中の二酸化炭素やアルキル化合物が原料粉に付着することにより生じたものと考えられる。さらに、原料粉をミルにかけることにより、脱炭処理中に凝集した原料粉を解砕した。
このように作製された原料粉を成膜装置のエアロゾル生成部に配置し、キャリアガスとして酸素(O)を導入することにより、原料粉をエアロゾル状態とした。そして、真空引きされた成膜チャンバにエアロゾルを搬送し、ノズルからYSZ(イットリア安定化ジルコニア)基板に向けてエアロゾルを噴射することにより成膜を行った。このとき、基板温度を約500℃とした。さらに、このようにして作製されたAD膜に対し、大気中において約1000℃で約3時間の熱処理を施した。
その結果得られた複合構造物においては、PZT膜を高温(800℃以上)で熱処理したにもかかわらず、PZT膜がYSZ基板から剥がれることはなく、ヒロックも一切生じていなかった。また、PZT膜の構造を観察したところ、平均結晶粒径は400nmより大きく、高温で熱処理することにより結晶成長が促進されたことが確認された。さらに、PZT膜の相対密度は90%以上であり、非常に緻密であった。加えて、PZT膜の電気特性を測定したところ、良好な値を示すことが確認された。
ここで、相対密度とは、文献及び理論値等に基づくPZTの密度(理論密度)と、測定対象であるPZT膜の密度の測定値との比のことであり、相対密度(%)=(密度の測定値/理論密度)×100によって表される。本願においては、緻密さを表す指標として相対密度を用いており、相対密度が高いほど、緻密さも高くなる。
また、本実施形態においては、アルキメデス法が適用された、アルファーミラージュ株式会社製の電子比重計SD−200Lを用いることにより、PZT膜の密度を測定した。アルキメデス法とは、水中質量法とも呼ばれており、物体の大気中における質量と水中における質量とを測定し、次式を用いて見かけ上の密度を算出する方法である。
(見かけ密度)
=(大気中での質量)÷{(大気中での質量)−(水中での質量)}
ここで、{(大気中での質量)−(水中での質量)}は浮力を表しており、物体の体積に相当する。
次に、本発明の第3の実施形態に係る複合構造物の製造方法について、図19を参照しながら説明する。第3の実施形態に係る複合構造物の製造方法は、第2の実施形態と同様に、予め脱炭処理が施された原料粉を用いてAD法による成膜を行うが、その脱炭処理方法に特徴を有している。
図19は、本実施形態において用いられる脱炭処理装置(不純物除去処理装置)の構成を示す模式図である。この脱炭処理装置は、図1に示すエアロゾル生成部1〜4に、脱炭処理部(処理手段)11を設けたものである。即ち、本実施形態においては、原料粉を一旦ガス中に分散させ、エアロゾル状態となった原料粉に対して脱炭処理を施す。脱炭処理部11としては、第1の実施形態において説明したものと同様に、ヒータ、マイクロ波発振器、プラズマ発生器、紫外線ランプ、又は、VUV照射装置等が用いられる。また、ヒータとそれ以外の装置とを組み合わせて用いても良い。
このように原料粉を分散させることにより、微小な原料粉の各々に熱やUV等を万遍なく照射できるようになるので、不純物を効率良く確実に除去することができる。それにより、最終的に原料粉に残留する不純物量を著しく低減することが可能となる。
なお、図19に示す脱炭処理装置を通常のAD成膜装置に接続することにより、脱炭処理された原料粉を直接成膜装置の噴射ノズルに導入しても良い。
以上説明したように、本発明の第1〜第3の実施形態によれば、熱処理時に、AD膜の剥離やヒロックの発生を抑制することができるので、製造歩留まりを高くすることができ、製造コストの低減を図ることが可能となる。また、AD膜を高温(例えば、800℃〜900℃、さらには、1000℃程度)でアニールできるようになるので、結晶粒成長を促進することにより、電気特性(圧電性能)を向上させることができる。
ここで、第1〜第3の実施形態において、脱炭処理としてヒータ又はマイクロ波照射により原料粉を加熱する場合には、酸素(O)雰囲気又は大気等の酸素を含有する雰囲気において行うことが望ましい。ヘリウム等の不活性ガスの雰囲気中においては、原料粉に付着している又は含有されているカーボンやアルキル化合物が、コーキングにより、低い温度で燃焼し難くなってしまうからである。そのため、酸素を含有しない雰囲気中であれば約600℃以上の温度で加熱することが望ましいが、酸素を含有する雰囲気中であれば、より低い温度(例えば、500℃〜600℃程度)で効率良く脱炭することができる。この点について、第1の実施形態においてはキャリアガスに酸素が混合されているので、より低温で脱炭処理をすることができ、或いは、同じ温度であればより効率良く脱炭処理をすることができる。
また、加熱による脱炭処理(ヒータ又はマイクロ波を用いる構成)を減圧下で行う場合においても、不活性ガス雰囲気の場合と同様に、高温で脱炭処理を行うことが望ましい。雰囲気中の酸素濃度が低いからである。
さらに、原料粉の組成に酸素が含まれる場合には、酸素欠損を防止するためにも、酸素を含有する雰囲気において脱炭処理を行うことが望ましい。
上記第1〜第3の実施形態においては、基板上に直接AD膜を形成しているが、基板の種類や、原料粉の種類や、作製されたAD膜の用途等に応じて、基板とAD膜との間に中間層を形成しても良い。例えば、図20に示すように、基板30とAD膜40との間に電極層50を設けても良いし、基板とAD膜との間の密着性を高めるための密着層を設けても良い。
以上の説明においては、AD膜を形成する無機材料としてPZTを用いたが、この他にも、PLZT(ランタンドープチタン酸ジルコン酸鉛)、TiBaO(チタン酸バリウム)、又は、Al(酸化アルミニウム)等の機能性材料を用いることができる。例えば、PLZT膜は光学部材に適用することができ、TiBaO膜はセラミックコンデンサに適用することができる。
本発明は、原料粉を基板に向けて噴射することにより基板上に原料粉を堆積させるエアロゾルデポジション法を用いた複合構造物の製造方法、そのような複合構造物の製造方法において用いられる不純物除去処理装置及び成膜装置等において利用することが可能である。
本発明の第1の実施形態に係る成膜装置の構成を示す模式図である。 図1に示す成膜装置において作製されている複合構造物を示す断面図である。 固相焼結法によりセラミックスを作製する場合における試料の構造を示す模式図である。 固相焼結用PZT原料粉(乾燥処理のみ)を用いて作製されたPZT膜の熱処理前後の様子を示す写真である。 図4及び図9に示すPZT膜試料から発生したCOガス量を比較して示す図である。 市販の原料粉に対するGC−MS分析結果を示す図である。 乾燥処理のみの原料粉及び脱炭処理済みの原料粉から発生するCOガス量を比較して示す図である。 脱炭処理済みの原料粉に対するGC−MS分析結果を示す図である。 脱炭処理済みのPZT原料粉を用いて作製されたPZT膜の熱処理前後の様子を示す写真である。 アルキル化合物の含有量が異なるPZT原料粉により作製されたAD膜を熱処理する実験の結果を示す図である。 本発明の第1の実施形態に係る複合構造物の製造方法によって製造されたPZT膜の誘電特性を示す図である。 本発明の第1の実施形態に係る複合構造物の製造方法によって製造されたPZT膜(a)と従来法によって製造されたPZT膜(b)とにおけるX線回折結果を示す図である。 本発明の第1の実施形態に係る複合構造物の製造方法によって製造されたPZT膜(a)と従来法によって製造されたPZT膜(b)とにおける光透過率特性を示す図である。 本発明の第1の実施形態に係る複合構造物の製造方法によって製造されたPZT膜と従来法によって製造されたPZT膜とにおける透明度を比較するための写真である。 図1に示す脱炭処理部の第1の構成例を示す模式図である。 図1に示す脱炭処理部の第2の構成例を示す模式図である。 図1に示す脱炭処理部の第3の構成例を示す模式図である。 図1に示す脱炭処理部の第4の構成例を示す模式図である。 本発明の第3の実施形態に係る複合構造物の製造方法において用いられる脱炭処理装置の構成を示す模式図である。 図1に示す成膜装置において作製される複合構造物の変形例を示す断面図である。
符号の説明
1 エアロゾル生成室
2 振動台
3 巻き上げガスノズル
4 圧調整ガスノズル
5 エアロゾル搬送管
6 脱炭処理部
7 成膜チャンバ
8 排気管
9 噴射ノズル
10 基板ステージ
11 脱炭処理部(不純物処理部)
20 原料粉
30 基板
40 構造物(膜)
100、200、300、400 処理室
101 ヒータ
201 断熱材
202 等温障壁
203 マイクロ波発振器
204 回転羽
205 モータ
301 プラズマ発生器
401 紫外線ランプ

Claims (14)

  1. PZT(チタン酸ジルコン酸鉛)で形成された原料粉をガスによって分散させることによりエアロゾル状態とする工程(a)と
    程(a)においてエアロゾル状態とされた原料粉を800℃以上でその融点より低い温度まで加熱して炭酸ガスを発生させることにより、原料粉に不純物として付着している又は含有されているカーボン又はカーボンを含有する化合物の量を、原料粉中のカーボンの量が重量で93ppm以下となるように低減する工程(b)と、
    エアロゾル状態の原料粉を基板に向けて吹き付けて原料粉を下層に衝突させることにより、衝突の際に原料粉が変形及び/又は破砕することによって新たに生じる活性面を有する粒子同士を結合させて原料粉を堆積させ、前記基板上に直接又は間接的に多結晶の構造物を形成する工程(c)と、
    工程(c)において前記基板上に形成された多結晶の構造物を少なくとも1000℃でアニール処理して、平均結晶粒径が400nmよりも大きく、相対密度が90%以上であり、波長500nm〜900nmの光に対して厚さ300μmのときに少なくとも20%の光透過率を有するPZT膜を得る工程(d)と、
    を具備する複合構造物の製造方法。
  2. PZT(チタン酸ジルコン酸鉛)で形成された原料粉を800℃以上でその融点より低い温度まで加熱して炭酸ガスを発生させることにより、原料粉に不純物として付着している又は含有されているカーボン又はカーボンを含有する化合物の量を、原料粉中のカーボンの量が重量で93ppm以下となるように低減する工程(a)と、
    工程(a)において処理された原料粉をガスによって分散させることによりエアロゾル状態とする工程(b)と、
    エアロゾル状態の原料粉を基板に向けて吹き付けて原料粉を下層に衝突させることにより、衝突の際に原料粉が変形及び/又は破砕することによって新たに生じる活性面を有する粒子同士を結合させて原料粉を堆積させ、前記基板上に直接又は間接的に多結晶の構造物を形成する工程(c)と、
    工程(c)において前記基板上に形成された多結晶の構造物を少なくとも1000℃でアニール処理して、平均結晶粒径が400nmよりも大きく、相対密度が90%以上であり、波長500nm〜900nmの光に対して厚さ300μmのときに少なくとも20%の光透過率を有するPZT膜を得る工程(d)と、
    を具備する複合構造物の製造方法。
  3. 前記カーボンを含有する化合物が、アルキル化合物を含む、請求項1又は2記載の複合構造物の製造方法。
  4. 前記アルキル化合物が、C2042と、C2040と、C2246と、C2450との内の少なくとも1つを含む、請求項記載の複合構造物の製造方法。
  5. 前記カーボンの量を低減する工程が、原料粉にマイクロ波を照射することを含む、請求項1〜4のいずれか1項記載の複合構造物の製造方法。
  6. 前記カーボンの量を低減する工程が、酸素を含有する雰囲気中において行われる、請求項1〜5のいずれか1項記載の複合構造物の製造方法。
  7. 前記カーボンの量を低減する工程が、原料粉に、プラズマと、紫外線と、真空紫外線との内の少なくとも1つを照射することを含む、請求項1〜のいずれか1項記載の複合構造物の製造方法。
  8. 前記カーボンの量を低減する工程が、原料粉を加熱しながら、原料粉にプラズマと紫外線と真空紫外線との内の少なくとも1つを照射することを含む、請求項1〜のいずれか1項記載の複合構造物の製造方法。
  9. 原料粉をガスによって分散させることによりエアロゾル状態とするエアロゾル生成手段と、
    前記エアロゾル生成手段によってエアロゾル状態とされた原料粉を加熱して炭酸ガスを発生させることにより、原料粉に不純物として付着している又は含有されているカーボン又はカーボンを含有する化合物の量を低減する処理手段であって、エアロゾル状態とされた原料粉が導入される処理室と、マイクロ波を出射するマイクロ波発振器と、モータによって駆動されることにより回転して、前記マイクロ波発振器から出射されたマイクロ波の反射方向を変化させながら該マイクロ波を前記処理室内の原料粉に照射する回転羽とを含む前記処理手段と、
    を具備する不純物除去処理装置。
  10. 前記カーボンを含有する化合物が、アルキル化合物を含む、請求項記載の不純物除去処理装置。
  11. 前記アルキル化合物が、C2042と、C2040と、C2246と、C2450との内の少なくとも1つを含む、請求項10記載の不純物除去処理装置。
  12. 請求項9〜11のいずれか1項記載の不純物除去処理装置と、
    前記処理手段によって処理されたエアロゾル状態の原料粉を基板に向けて吹き付けることにより、前記基板上に原料粉を堆積させる噴射ノズルと、
    を具備する成膜装置。
  13. 基板と、
    エアロゾルデポジション法を用いて、PZT(チタン酸ジルコン酸鉛)で形成された原料粉を前記基板に向けて吹き付けて原料粉を下層に衝突させることにより、衝突の際に原料粉が変形及び/又は破砕することによって新たに生じる活性面を有する粒子同士を結合させて原料粉を堆積させ、さらにアニール処理することによって、前記基板上に直接又は間接的に形成されたPZT膜であって、不純物として重量で93ppm以下のカーボンを含有し、平均結晶粒径が400nmより大きく、相対密度が90%以上であり、波長500nm〜900nmの光に対して厚さ300μmのときに少なくとも20%の光透過率を有する前記PZT膜と、
    を具備する複合構造物。
  14. 前記基板と前記多結晶の構造物との間に形成されている電極層をさらに具備する請求項13記載の複合構造物。
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