JP4913649B2 - 5価の砒素含有液の製法 - Google Patents

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Description

本発明は、砒素含有物質の砒素を水中に浸出させた液など、3価の砒素イオンを含有し、かつ鉄含有量の少ない水溶液を対象として、その3価の砒素を5価の砒素に酸化させる技術に関する。
非鉄製錬においては、各種製錬中間物が発生し、また様々な形態の製錬原料となり得るものが存在する。これらの製錬中間物や製錬原料には有価金属が含まれているが、一方で砒素などの環境上好ましくない元素が含まれている。砒素の処理法としては、溶液中の砒素を、亜砒酸と鉄、カルシウムなどと組み合わせて砒素化合物中に固定する手法が提唱されている(特許文献1)。
沈殿物として回収された砒素化合物は保管または廃棄されるが、その化合物は砒素の溶出が少ないものであることが重要である。砒素の溶出が少ない砒素化合物として結晶性の良い鉄砒素化合物であるスコロダイト(FeAsO4・2H2O)が知られている。ところが、スコロダイト結晶をろ過性が良好な嵩の低い形態で生成させることは容易ではなく、工業的にスコロダイト結晶を合成する砒素処理のプロセスは実現されていなかった。
発明者らは種々研究を進めることにより新たな砒素固定方法を開発し、特願2006−126896、特願2006−321575、特願2006−311063、特願2006−332857などに開示した。これらの技術によると、砒素が溶出しにくいスコロダイト型の結晶性鉄砒素化合物を嵩の低い形で合成することが可能になった。特に特願2006−321575の手法は低いpH域でスコロダイト型鉄砒素化合物を合成するものであり、廃棄や保管に適した極めて安定な結晶性の鉄砒素化合物を再現性良く合成するための技術として工業的メリットが大きいと考えられる。
特開昭54−160590号公報 特許第3254501号公報 日本鉱業会誌/92、1066、1976年12月、p.809−814 日本鉱業会誌/104、1206、1988年8月、p.549−553
上記のようなスコロダイト型鉄砒素化合物の合成反応は基本的に、5価の砒素イオンと2価の鉄イオンを含む水溶液に酸素ガス等の酸化剤を添加して結晶性の良い鉄砒素化合物を生成させるものである(以下、この反応を「鉄砒素反応」ということがある)。したがって、この鉄砒素反応に供するための被処理液中には、砒素が5価のイオンとして存在している必要がある。本発明者らは上記の特願2006−126896の中で、砒化銅、硫化砒素等の砒素含有物質に対し、アルカリ浸出・酸化工程、アルカリ土類金属置換工程、洗浄工程、硫酸溶解工程、を施すことにより砒素含有溶液(砒素液)を得る手法を開示した。この場合、強アルカリ性の状態を経ることによって、液中の砒素はほとんど5価になっていると考えられる。
しかしながら、アルカリが入った水を用いた場合、一部のエレメンタル・サルファー(元素性の硫黄)の酸化反応が下記(1)式のように進んでしまう。
S+3(O)+H2O → H2SO4 …(1)
また、アルカリが存在するがゆえに下記(2)式のような中和反応が起こる。
2SO4+2NaOH → Na2SO4+2H2O …(2)
したがって、特願2006−126896に開示した砒素液の作成方法では硫黄の資源化が困難になる。また、砒素液を得るための工程が複雑化し、工業的な実用化にはさらなる改善が望まれる。
そこで発明者らは、アルカリを添加せずに、水だけ、つまり酸性側だけで砒素の浸出反応を進行させる手法(以下、これを「水浸出」ということがある)を検討し、特願2006−339154、特願2006−339156に開示した。これらの方法によると、H2SO4の生成が最小限に抑制される。また、H2SO4が生成してもNaOHによって消費されないので、(1)式の反応が進みにくくなる。つまり硫黄が浸出されないようになる。さらに、砒素液を得るための工程が大幅に簡素化される。このように、アルカリを添加せずに行う砒素の水浸出は工業的メリットが大きい。
ところが、上記の水浸出の手法によると、得られた砒素液中の砒素は3価の砒素イオンを主体とするものになる。このままでは、特願2006−321575などに開示した低pH域での鉄砒素反応に供することは難しい。
3価の砒素イオンを5価にする手法としては、オゾンや過酸化水素を使うものがある(非特許文献1、2)。しかし、この方法では高価なオゾンや過酸化水素を使うことになり、経済的でない。
本発明は、工業的メリットの大きい上記「水浸出」の技術と上記「低pH域での鉄砒素反応」の技術を組み合わせることを可能にする技術として、経済的に5価の砒素含有液を製造する方法を提供しようというものである。
上記目的は、3価の砒素が溶解しており、鉄含有量が1g/L以下である水溶液中に、二酸化鉛(PbO2)を酸化剤として添加し、硫酸によってpHを2以下に維持した状態で砒素の酸化反応を進行させて5価の砒素を得るとともに二酸化鉛由来のPbをPbSO 4 として不溶化させ、前記PbSO 4 を分離回収する、5価の砒素含有液の製法によって達成される。液中に存在させる酸化剤の量は、砒素の酸化反応を進行させる前の液中に存在する3価の砒素に対し、1当量以上を確保する。ここで、3価の砒素1モルに対し、上記酸化剤2モルを1当量とする。
本発明によれば、鉄含有量が少ない3価の砒素含有液から、比較的簡便な手法によって5価の砒素含有液を得ることができる。この手法を利用すれば、砒素含有物質から砒素を水浸出させて得られた3価の砒素含有液を、特願2006−321575などに開示した低pH域でのスコロダイト型鉄砒素化合物の合成法に供することが可能になる。したがって本発明は、産業界で発生する砒素含有物質から砒素を抽出して、砒素を極めて溶出しにくい形で固定化するという、一連の砒素処理プロセスの実用化に寄与するものである。
図1に、本発明の5価の砒素含有液の製法を利用したプロセスの代表的なフローを示す。図1中、「砒素酸化反応」は3価の砒素を5価の砒素に酸化させる工程であり、ここが本発明に相当する。その前工程である「砒素の水浸出」には特願2006−339154、特願2006−339156に開示した手法が好適に採用できる。また、後工程の「鉄砒素反応」には特願2006−321575などで開示した手法が好適に採用できる。以下、各工程について簡単に説明する。このうち、前工程の「砒素の水浸出」と後工程の「鉄砒素反応」については上記各先願に開示した内容を簡単に例示するが、これらに限定されるものではない。
《砒素の水浸出》
スコロダイト型鉄砒素化合物を合成するための原料液として、砒素液(砒素が溶解している液)を用意する。砒素液は製錬工程などで発生する砒素含有物質から砒素を浸出させる手法を利用して作成することができる。その方法として、例えば本出願人が特願2006−339154、特願2006−339156などに開示した手法が好適に採用できる。例えば、As23やCuSの組成式で表される硫化物を主体とした砒素含有物質を使用する場合には、その硫化物が水中に懸濁しているスラリーに酸素ガスを添加するとともに撹拌しながら砒素の浸出反応を進行させ、反応後、スラリーを固液分離して后液を回収することによって砒素液(砒素が溶解している液)が得られる。浸出反応を進行させる際には、スラリー液面に接する気相部における酸素分圧を0.6MPa以下とする。大気開放のオープン系でも実施可能である。前記浸出反応に供するスラリーを構成する水は、水酸化アルカリを添加していない水が使用できるが、水酸化アルカリが多少存在していても砒素の高い浸出率を実現する上で差し支えない。具体的には、水酸化アルカリ濃度が0〜1mol/Lに制限された水に砒素含有硫化物を混合してスラリーとすればよい。砒素の浸出反応は60℃以上で行うことが望ましく、100℃以下であればオープンタンク系でも実施できる。反応後のスラリーの酸化還元電位(ORP、Ag/AgCl電極)が200mV以上となるようにすることが望ましい。
また、砒素含有物質が硫化物ではなく銅砒素化合物である場合は、銅砒素化合物含有物質が水中に懸濁しているスラリーに酸素ガス等の酸化剤を添加して撹拌し、単体硫黄存在下またはS2-イオン存在下で砒素の浸出反応を進行させ、反応後、スラリーを固液分離して后液を回収することによって砒素液が得られる。S2-イオン供給物質としては元素性の硫黄(エレメンタル・サルファーという)や硫化亜鉛(ZnS)を使用することができる。このような砒素の浸出反応は銅の硫化を伴うものである。硫黄の供給量は、銅砒素化合物含有物質中の銅の量に対して1当量以上とすることが望ましい。
《砒素酸化反応》
このようにして得られた砒素液は通常、3価の砒素を主体とするものである。スコロダイト型鉄砒素化合物の合成に使うためには、これを5価の砒素に変える必要がある。そのためには酸化剤が必要であるが、単に酸素ガス(O2)を吹き込んでも下記(3)式のような酸化反応はほとんど進行しない。ちなみに100℃でオートクレーブを用いて0.3MPa酸素加圧させて砒素の酸化が起こるか実験してみた。しかし反応は進行しなった。
As23+O2+3H2O → 2H3ASO4 …(3)
一方、砒素の酸化にはオゾン(O3)が有効であることがわかっているが、工業的な湿式プロセスにおいてオゾンを利用することは経済的に困難である。過酸化水素(H22)も砒素の酸化に有効であるが、経済的な観点から利用は敬遠される。
種々検討の結果、本発明では二酸化鉛(PbO2)を酸化剤として使用する。ただし、単純に3価の砒素含有液に、二酸化鉛を添加しても、砒素の酸化反応は見かけ上ほとんど進まない。そこで、酸として硫酸を一緒に存在させ、例えば以下の(5)式のような砒素の酸化反応を進行させる
As23+2PbO2+H2O+2H2SO4 → 2H3AsO4+2PbSO4 …(5
本発明では、上記水浸出によって得られた后液のように、鉄の含有量が1g/L以下と少ない液を対象として処理を行う。これより鉄含有量が多いと鉄砒素反応が生じ易くなる。この段階で鉄砒素化合物が生じてしまうと、液中への砒素の歩留が低下し、また固形分を別工程で再利用することが難しくなるので好ましくない。
5)式のような砒素酸化反応が進行すると、酸が消費されるので液のpHは上昇する。本発明では、液のpHを2以下に維持した状態で砒素酸化反応を進行させる。この工程で得られた5価の砒素含有液を後述の鉄砒素反応に供することを前提にすると、その鉄砒素反応はできるだけ低いpHで反応を進行させることが重要であるので、この砒素酸化反応の工程で低いpHの砒素液を得ておくことが極めて有利である。鉄砒素反応の開始時にpHが2を超えていると、非晶質で含水率の高い鉄砒素化合物の生成が生じやすく、コンパクトなスコロダイト型結晶として砒素を固定化することが難しくなる。したがってここでは、砒素の酸化反応時にpHが2を超えて上昇しないように留意する。そのために必要に応じて酸を追加投入する。酸化反応中のpHは1.5未満に維持することがより好ましい。
後述の鉄砒素反応を生産性良く実施するためには、砒素濃度の高い砒素液を用意することが有利である。5価の砒素は25℃で262g/L程度の大きい溶解度を有するが、3価の砒素は25℃で20g/L程度の溶解度しか持たない。上述の水浸出は例えば60℃以上といった温度で実施することが好適であるため、得られた3価の砒素を含有する液は、常温において3価の砒素の析出を伴っている場合がある。したがって、砒素酸化反応を進行させる際には砒素を完全に溶解させるために、液を加温することが有効である。ただし、(5)式の砒素酸化反応の進行に伴った酸化熱が生じるので、液温は上昇する。また、反応中に硫酸を補給(追加投入)すると、その稀釈熱によっても液温が上昇する。このため、初めから液温を100℃に近い高温に上げておくと、酸化反応によって液温が上昇した際には沸騰する恐れもあるので、注意が必要である。常温から反応を開始させても構わない。反応中の液温は50℃以上であることが好ましく、70℃以上であることがより好ましい。厳密な温度管理が可能な設備を用いて、90℃以上沸点未満の温度にコントロールすることが一層効果的である。
酸の添加量は、3価の砒素の全量が5価に変化するまで砒素酸化反応を進行させるに足る酸のトータル量が確保でき、かつ、最終的にpHが2以下好ましくは1.5未満となるように調整する。具体的には、酸化反応を進行させる前の液中に存在する3価の砒素に対し、1当量以上の酸の量が確保できれば良く、1.5当量以上とすることがより好ましい。ここで、3価の砒素1モルに対し、1価の酸の場合は4モルを1当量とし、また2価の酸の場合は2モルを1当量とする。反応開始前に必要な酸を全量投入しても構わないが、反応の進行に伴って不足分を追加投入する方法を採ることもできる。酸化剤に二酸化鉛を使用する場合は、硫酸を用いると前記(5)式のようにPbをPbSO4として不溶化させることができるので好ましい。PbSO4は種々の用途に利用できる。
酸化剤である二酸化鉛は、粉末状のものを添加することが望ましい。そのトータル量は、酸化反応を進行させる前の液中に存在する3価の砒素に対し、1当量以上を確保すれば良く、1.5当量以上とすることがより好ましい。ここで、3価の砒素1モルに対し、酸化剤2モルを1当量とする。酸化剤は、反応開始前に必要量を全て投入しても良いし、反応途中に不足分を追加投入するようにしても構わない。いずれにしても反応中、液の撹拌を継続することが望ましい。
反応終了時期は、酸化還元電位あるいはpHの挙動をモニターすることによって判断できる。酸化還元電位はAg/AgCl電極基準で400mV以上に上昇する。一般的には1〜2時間程度で反応が終了するように温度等をコントロールすればよい。
化剤として二酸化鉛を使用し、酸として硫酸を使用した場合には、鉛は前述のようにPbSO4となって沈殿し、これを回収することで資源化が可能である。極少量溶解するPbSO4については、必要に応じて、例えば炭酸ストロンチウム(SrCO3)によって沈殿除去することができる。
砒素の酸化反応が終了した後、未溶解成分(PbSO4など)は、固液分離される。固液分離には、フィルタープレス、遠心分離、デカンター、ベルトフィルターなど一般的なろ過手段が適用できる。ろ過性、脱水性、洗浄性等を勘案して機器および条件が決定される。ここで、固液分離時の液温が高い方が一般には良好なろ過性を得る上で有利となるが、70℃以上といった高温の液をろ過する場合には、ろ過機器の材質選定に制約が生じる場合があるので注意を要する。例えばフィルタープレスのろ板材に通常のポリプロピレンを用いると70℃までの耐熱性しか得られない。
反応後の液中に存在する砒素は大部分が5価になっている。ほとんど全量を5価にすることも可能である。液中に3価の砒素がどの程度残留しているかを測定する手段としては、ヨウ素(I2)を用いた酸化還元滴定が採用できる。5価の砒素の含有量は、砒素のトータル含有量から、上記滴定によって求めた3価の砒素の含有量を減じることによって求まる。ヨウ素による酸化還元滴定は比較的簡便であり、また、前述の水浸出の工程を経ている場合などは不純物の含有量が基本的に少ないので、測定精度も良好であることが期待される。この酸化還元滴定に関しては非特許文献1、2の記載を参考にすることができる。
《鉄砒素反応》
砒素液からスコロダイト結晶を主体とする鉄砒素化合物を合成する方法としては例えば本出願人が特願2006−321575に開示した手法が好適に採用できる。すなわち、5価の砒素イオンと2価の鉄イオンを含む水溶液に酸化剤を添加して液を撹拌しながら鉄砒素化合物の沈殿析出反応(本明細書ではこれを「鉄砒素反応」と呼んでいる)を進行させ、液のpHが0〜1.2の範囲で結晶の析出を終了させることによって砒素が極めて溶出し難く、かつ嵩の低いコンパクトな鉄砒素化合物が得られる。その際、析出反応開始前の液の砒素濃度は15g/L(リットル)以上であることが望ましい。砒素液中の砒素濃度が25g/L以上である場合には、液のpHが−(マイナス)0.45〜1.2の範囲で前記反応を終了させると良い。反応前の砒素液のpH(反応前pH)は0を超え〜2.0以下の範囲とすることが望ましい。2価の鉄イオン源としては例えば硫酸塩が使用できる。砒素液中にはナトリウム、カリウム、銅、亜鉛、マンガン、マグネシウムの1種以上が合計1〜150g/Lの濃度で含まれていて構わない。なお、液が高温の状態でpHを測定することは必ずしも容易ではないため、高温液(例えば60℃超え)のpHは、その液からサンプリングした液の温度が60℃以下に降温した後に測定したpH値を採用することができる。このようにして鉄砒素化合物の結晶を生成させた後に、固液分離を行って結晶性鉄砒素化合物を固形分として回収する。この固形分はスコロダイト型鉄砒素化合物を主体とするものであり、廃棄、堆積、保管に適している。
《比較例1》
ここでは砒素含有物質を水浸出した後、固液分離することによって得られる不純物の少ない3価の砒素液を模擬して、工業薬品(中国より輸入)の亜砒酸を溶解させた液を被処理液として用いた。この工業薬品の亜砒酸は、ICPによって分析した砒素品位は73%であったので、砒素の純度は96.4%である。これを用いて、まず以下のように加温によって砒素を溶解させた。純水を600mL計量した。そして砒素濃度が60g/Lになるように上記の亜砒酸を49.315g計量し、上記純水中に添加した。このスラリーをPTFE製の傾斜3枚羽根パドルを用いて500回転/分で撹拌しながら、90℃に加温した。そして90℃に保持した状態で30分間撹拌し続けた。亜砒酸を添加した時点での液の体積は約625mLであったが、熱膨張と蒸発によって体積変化が生じているので、液の体積が600mLになるように調整した。その後、直ちに加圧ろ過器にて固液分離した。1μmのPTFEメンブランフィルターを用い、0.4MPaの加圧にて行った。
固液分離した60℃の液(后液)についてpHとORP(酸化還元電位:Ag/AgCl電極基準)を測定した。また、ICP発光分光分析装置を用いて后液の組成分析を行った。
〔ICP分析〕
被測定液を塩酸酸性の液にして、これをホールピペットで2mL採取して、それを100mLのメスフラスコに入れ、試薬特級の塩酸(33%の品位)を8mL添加した後、100mLに希釈して測定する。ICPの分析感度を超えた場合は、更に10から200倍に希釈してICP分析を実施する。
温度が60℃と若干高い状態であるが、ピペットで多少冷却されていると判断されたので、そのまま実施した。結果を表1中に示す。60℃まで冷却した液の分析値において、砒素濃度は仕込濃度60g/Lに対し54.5g/Lであるから、加温によって亜砒酸は大部分が溶解し、少量が未溶解のまま残ったことがわかる。
次に、上記后液を室温(20℃)に1日放置して20℃まで冷却した。そうすると、液を保存していた容器の内壁に透明な結晶が析出しているのが観察された。その結晶は採取せず、そのまま溶液を分取して上記と同様の方法でICPにより組成分析を行った。結果を表1中に示す。20℃まで冷却した液の分析値において、砒素濃度は16.6g/Lと減少していることから、加温により溶解した砒素の大部分が亜砒酸として析出したことになる。
また、20℃まで冷却した液について、以下のようにヨウ素滴定を行って3価の砒素の濃度を調べた。
〔ヨウ素滴定〕
液を2mLホールピペットで採取し、これをコニカルビーカーに入れ、純水を20mL追加する。フェノールフタレイン1gにエタノール90mLと水10mLを加えたフェノールフタレイン指示薬を作成し、これを2滴加える。液が無色であるので、ピンク色になるまで200g/Lの苛性ソーダ溶液を加える。水1+硫酸3の溶液を1〜2滴加えて 液を無色にする。試薬特級の炭酸水素ナトリウム(NaHCO3)2gを加えて、よく撹拌する。でんぷん1gに水200mLを加えたでんぷん溶液を2mL加える。0.1Nのヨウ素溶液で青色(紫色)になるまで滴定し、その滴定量から、3価の砒素の量を計算する。
20℃まで冷却した液の分析結果を表中に示す。砒素のトータル濃度16.64g/Lに対し、3価の砒素濃度16.64g/Lであるから、液中の砒素イオンは全て3価であることがわかる。また、3価の砒素濃度が高い液では、冷却によって砒素(亜砒酸)の析出が生じやすいことがわかる。
《比較例2》
3価の砒素を含有する液に酸素と酸(ここでは硫酸)を添加することによって砒素の酸化を試みた。この場合に想定される砒素の酸化反応は下記のようなものである。
As3++(O)+2H+ → As5++H2O …(6)
純水600mLと亜砒酸(比較例1で使用したもの)49.315gをビーカー中で撹拌混合したところへ、試薬の硫酸47.09gを添加した。すなわち、この液中には亜砒酸によって供給された3価の砒素が存在しており、上記硫酸の添加量は、液中に存在する3価の砒素1モル当たりに対し、2モルに相当するから、1当量分である。このスラリーをPTFE製の傾斜3枚羽根パドルを用いて500回転/分で撹拌しながら加温し、90℃になった時点で純度99%の酸素ガスを300mL/分の供給速度で吹き吹込んだ。そして、90℃を保持しながら撹拌および酸素ガスの吹き込みを1時間継続した。液の体積は熱膨張と蒸発によって変化しているので、液の体積が600mLになるように調整した。その後、直ちに加圧ろ過器にて固液分離した。1μmのPTFEメンブランフィルターを用い、0.4MPaの加圧にて行った。固液分離によって得られた液(后液)は、温度が60℃になるまで放冷した後、比較例1と同様にpH、ORPの測定およびICP組成分析に供した。次に、この后液を室温(20℃)に1日放置して20℃まで冷却し、比較例1と同様にICP分析およびヨウ素滴定に供した。結果を表1中に示す。
この例では60℃において砒素は全て溶解している。ただし、20℃まで冷却した液には比較例1と同様の結晶の析出が観察された。液中に溶解している砒素は、大部分が3価のままであった。したがって、上記(6)式のような砒素の酸化反応はほとんど進行しなかったことになる。
《比較例3》
比較例2と同様の操作を実施した。ただし銅イオン(Cu2+)が10g/Lの濃度で含有されるように硫酸銅5水和物(CuSO4・5H2O)を添加した。その他の条件は比較例2と同様である。結果を表1中に示す。
この例でも60℃において砒素は全て溶解している。ただし、20℃まで冷却した液には比較例1と同様の結晶の析出が観察された。液中に溶解している砒素は、大部分が3価のままであった。したがって、やはり上記(6)式のような砒素の酸化反応はほとんど進行しなかったことになる。
《比較例4》
比較例2と同様の操作を実施した。ただし硫酸は添加せず、代わりに元素性の硫黄粉末(試薬)を2当量分(15.38g)添加した。この場合に想定される砒素の酸化反応は下記のようなものである。
As3++S+2O2+2H+ → As5++H2SO4 …(7)
As23+S+4H2O+2.5O2 → H3AsO4+H2SO4 …(8)
結果を表1中に示す。
この例でも60℃において砒素は全て溶解している。ただし、20℃まで冷却した液には比較例1と同様の結晶の析出が比較的少量ではあるが観察された。液中に溶解している砒素は、大部分が3価のままであった。したがって、上記(7)式や(8)式のような砒素の酸化反応はほとんど進行しなかったことになる。
《比較例5》
比較例2と同様の操作を実施した。ただし硫酸は添加せず、試薬の二酸化マンガンを 1当量分(41.78g)添加した。また、酸素ガスの吹き込みも行わなかった(空気の巻き込みはある)。その他の条件は比較例2と同様である。この場合に想定される砒素の酸化反応は下記のようなものである。
3As23+6MnO2+3H2O → 2H3AsO4+2Mn3(AsO42 …(9)
結果を表1中に示す。
この例でも60℃において砒素は全て溶解している。ただし、20℃まで冷却した液には比較例1と同様の結晶の析出が少量ではあるが観察された。液中に溶解している砒素は、大部分が3価のままであった。したがって、上記(9)式のような砒素の酸化反応はほとんど進行しなかったことになる。
《比較例6》
比較例2と同様の操作を実施した。ただし硫酸は添加せず、代わりに純度65%の硝酸(試薬)を0.5当量分(46.57g=60×0.6÷74.922×63÷0.65×2×0.5)添加した。この場合に想定される砒素の酸化反応は前掲の(6)式と同じである。ただし、硝酸は酸化反応によって再生可能と考えられ、触媒の働きをすると想定される。詳細な反応式は以下のようなものになる。
As3++(O)+2H+ → As5++H2O …(6)
As3++HNO3+2H+ → As5++HNO2+H2O …(6−2)
HNO2+(O) → HNO3 …(6−3)
結果を表1中に示す。
この例でも60℃において砒素は全て溶解している。ORPが非常に高く酸化反応が進行したように見受けられた。しかし、20℃まで冷却した液には比較例1と同様の結晶の析出が観察された。液中に溶解している砒素は、大半が3価のままであった。したがって、上記(6)式や(6−2)式、(6−3)式のような砒素の酸化反応はほとんど進行しなかったことになる。この例のように、砒素の酸化反応の進行は、液のORPの上昇によって適切に判定できるとは限らないことがわかる。
参考例1》
比較例2と同様の操作を実施した。ただし硫酸1当量分(47.09g)の添加に加えて、試薬の二酸化マンガンを1当量分(41.78g)添加した。また、酸素ガスの吹き込みも行わなかった(空気の巻き込みはある)。その他の条件は比較例2と同様である。この場合に想定される砒素の酸化反応は下記のようなものである。
As3++MnO2+4H+ → As5++Mn2++2H2O …(10)
As23+2MnO2+H2O+2H2SO4 → 2H3AsO4+2MnSO4 …(4)
結果を表1中に示す。
この例でも60℃において砒素は全て溶解している。液中に溶解している砒素のうち、3価の砒素は少量であり、大部分が5価に酸化されたことになる。すなわち、上記(10)式や(4)式のような砒素の酸化反応が進行したものと考えられる。5価の砒素が大部分であるため、20℃まで冷却した液に析出は見られない。反応後の液においてORPはかなり高くなっており、また、pHは2以下に維持することができた。なお、反応時間をより長くすれば、さらに5価の砒素の存在量を増やすことができると推察される。
参考例2》
参考例1と同様の操作を実施した。ただし試薬の二酸化マンガンの添加量を1.5当量分(62.67g)とした。また、反応時間を60分から120分に長くした。その他の条件は実施例1と同様である。結果を表1中に示す。
この例でも60℃において砒素は全て溶解している。液中に溶解している砒素のうち、3価の砒素は僅かであり、ほとんど全量が5価に酸化されたことになる。すなわち、上記(10)式や(4)式のような砒素の酸化反応が十分に進行したものと考えられる。5価の砒素がほとんどであるため、20℃まで冷却した液に析出は見られない。反応後の液においてORPはかなり高くなっており、また、pHは2以下に維持することができた。
参考例3》
参考例1と同様の操作を実施した。ただし試薬の二酸化マンガンの添加量を1.5当量分(62.67g)にするとともに、硫酸の添加量も1.5当量分(70.63g)とした。反応時間は参考例2と同じく120分とした。その他の条件は参考例1と同様である。結果を表1中に示す。
この例でも60℃において砒素は全て溶解している。液中に溶解している砒素のうち、3価の砒素は僅かであり、ほとんど全量が5価に酸化されたことになる。すなわち、上記(10)式や(4)式のような砒素の酸化反応が十分に進行したものと考えられる。5価の砒素がほとんどであるため、20℃まで冷却した液に析出は見られない。反応後の液においてORPはかなり高くなっており、また、pHは2以下に維持することができた。
《実施例4》
参考例1と同様の操作を実施した。ただし二酸化マンガンの代わりに試薬の二酸化鉛を1当量分(114.94g)添加した。また、反応時間を60分から120分に長くした。その他の条件は参考例1と同様である。この場合に想定される砒素の酸化反応は下記のようなものである((5)式は前掲のもの)。
As23+2PbO2+H2O+2H2SO4 → 2H3AsO4+2PbSO4 …(5)
結果を表1中に示す。
この例でも60℃において砒素は全て溶解している。液中に溶解している砒素のうち、3価の砒素は僅かであり、ほとんど全量が5価に酸化されたことになる。すなわち、上記(5)式のような砒素の酸化反応が十分に進行したものと考えられる。5価の砒素がほとんどであるため、20℃まで冷却した液に析出は見られない。反応後の液においてORPはかなり高くなっており、また、pHは2以下に維持することができた。鉛は液中にはほとんど存在せず、非常に好ましい。
《実施例5》
実施例4と同様の操作を実施した。ただし試薬の二酸化鉛の添加量を1.5当量分(172.41g)とした。その他の条件は実施例4と同様である。結果を表1中に示す。
この例でも60℃において砒素は全て溶解している。液中に溶解している砒素のうち、3価の砒素は僅かであり、ほとんど全量が5価に酸化されたことになる。すなわち、上記(5)式のような砒素の酸化反応が十分に進行したものと考えられる。5価の砒素がほとんどであるため、20℃まで冷却した液に析出は見られない。反応後の液においてORPはかなり高くなっており、また、pHは2以下に維持することができた。なお、実施例4と比較して3価の砒素の残留量が多くなっているが、これは実験上の誤差と考えられる。溶存の鉛が若干多いことから、ビーカーなどに付着した洗剤などのCOD成分のために酸化剤がそれらとの反応に一部消費された可能性が指摘される。
《実施例6》
実施例4と同様の操作を実施した。ただし試薬の二酸化鉛の添加量を1.5当量分(172.41g)にするとともに、硫酸の添加量も1.5当量分(70.63g)とした。その他の条件は実施例4と同様である。結果を表1中に示す。
この例でも60℃において砒素は全て溶解している。液中に溶解している砒素のうち、3価の砒素は僅かであり、ほとんど全量が5価に酸化されたことになる。すなわち、上記(5)式のような砒素の酸化反応が十分に進行したものと考えられる。5価の砒素がほとんどであるため、20℃まで冷却した液に析出は見られない。反応後の液においてORPは非常に高くなっており、また、pHは2以下に維持することができた。鉛は液中にはほとんど存在せず、非常に好ましい。
Figure 0004913649
本発明の5価の砒素含有液の製法を利用したプロセスの代表的なフローを示した図。

Claims (1)

  1. 3価の砒素が溶解しており、鉄含有量が1g/L以下である水溶液中に、3価の砒素に対し1当量以上の二酸化鉛(PbO2)を酸化剤として添加し硫酸によってpHを2以下に維持した状態で砒素の酸化反応を進行させて5価の砒素を得るとともに二酸化鉛由来のPbをPbSO 4 として不溶化させ、前記PbSO 4 を分離回収する、5価の砒素含有液の製法。
    ただし、砒素の酸化反応を進行させる前の液中に存在する3価の砒素1モルに対し、酸化剤2モルを1当量とする。
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