以下、本発明を実施するための最良の形態について、詳細に説明する。本発明者は、上記課題を解決するために鋭意実験研究を行い、以下に示す知見を得た。本発明者は、溶融アルミニウムめっきにおいて、めっき浴中に局所的に発生する浴温変動又は成分変動により生成し、めっき浴底部に堆積するボトムドロスは、溶融亜鉛めっきにおけるボトムドロスとは異なり、めっき浴を構成する溶融アルミニウムよりも比重が大きいため、巻き上がりは発生しにくいが、スナウト内面のめっき浴と接触している部分に付着しやすく、このスナウト内面に付着したボトムドロスが剥離し、めっき浴中のポットロールに噛み込まれることが、鋼板表面に押し込み疵を発生させる主な原因であることを見出した。また、本発明者は、めっき浴の局所的な成分変動には、めっき浴中に溶出するFe量が大きく影響することを見出した。そして、本発明者の検討により、鋼板表面に固着しているFe粉に起因してめっき浴内に持ち込まれるFe量が多く、かつめっき浴に進入する鋼板の温度がめっき浴よりも高い場合に、特に、ボトムドロスの発生が多いことがわかった。
図1はボトムドロス発生のメカニズムを模式的に示す図である。図1に示すように、圧延工程において生じたFe粉2が固着した鋼板1をめっき浴3に浸漬すると、このFe粉2とめっき浴3中のアルミニウム金属間化合物成分とが反応し、Al−Fe−Si合金(例えば、Al5FeSi等)を形成する。その際、鋼板1の温度がめっき浴3の温度よりも低いと、鋼板1がめっき浴3に進入する部分、即ち、スナウト4内のめっき浴3の温度が他の部分よりも低くなり、スナウト4の内面を析出サイトとしてAl−Fe−Si金属間化合物がボトムドロス7として析出する。そして、前述したようにボトムドロス7は剥がれやすく、剥がれたボトムドロス7が鋼板1の表面に付着すると、ロール5において噛み込みが生じ、ボトムドロス7が鋼板1に押し込まれるため、表面に押し込み疵8が発生する。なお、めっき浴3の表面には、酸化により、溶融アルミニウムよりも比重が軽いAl−Si酸化物、即ち、トップドロス(浮遊ドロス)6が生成する。この、トップドロス6は比重が軽く沈降しにくいため、押し込み疵8の原因とはなりにくいが、めっき浴3から引き上げる際に鋼板1に付着するため、付着ドロス疵の発生を招く。
次に、本発明者は、めっき浴の温度及びめっき浴に浸漬する鋼板の温度についても検討し、以下に示す知見を得た。即ち、めっき浴の温度及び鋼ストリップの温度が共に高いと、めっき浴中で鋼板からFeが溶出し、めっき浴中のFe濃度が上昇してドロスが発生しやすくなる。また、このような条件では、めっき層と鋼板との間に形成される金属間化合物層が厚くなりやすいため、密着性が低下する。更に、めっき浴内に設置する機器の損傷が大きく、使用できる期間が短くなる。このため、溶融アルミニウムめっきにおいては、めっき浴の温度又は鋼ストリップの温度のいずれか一方を低く設定する必要がある。
しかしながら、めっき浴の温度を低くして、鋼板の温度を高く設定した場合、めっき浴内に設置する機器の損傷を防止できると共に、めっき層の厚さを低減してめっき層の密着性を向上させることはできるが、鋼板の温度が高いため、めっき浴浸漬時のFe溶出量が多く、めっき浴中のFe濃度が上昇してドロスが発生しやすい。そこで、従来の溶融めっき鋼板の製造方法においては、めっき浴の温度を高くし、鋼板の温度を低く設定している。その場合、鋼板に付着したFe粉に起因するドロスの発生はある程度抑制することができるが、めっき浴と鋼板との温度差が大きく、鋼板が進入する際のめっき浴温度の低下が大きいため、めっき浴中のFe濃度が過飽和となり、スナウト内のめっき浴でドロスが発生する。また、浴温度が高いため、めっき浴内に設置する機器の損傷も大きい。
これに対して、めっき浴の温度及びめっき浴に浸漬する鋼板の温度を低くすると、めっき浴と鋼板との温度差が小さくなり、鋼板を浸漬してもめっき浴の温度低下が少ないため、Fe量の過飽和に起因するボトムドロスの発生を抑制することができる。また、鋼板とめっき層との間に形成される金属間化合物層の厚さを低減することができるため、めっき層の密着性を良好にすることができ、更に、めっき浴内に設置する機器の損傷を防止することもできる。このため、溶融アルミニウムめっき鋼板を製造する際は、めっき浴の温度及び鋼ストリップの温度を共に低くすることが望ましい。しかしながら、この場合でも、ボトムドロスによる押し込み疵の生成を完全に防止することはできない。これは、めっき浴の温度が低いため、浴温度の変動によるFe−Al−Si金属間化合物の生成が敏感になるためである。この問題を解決するためには、めっき浴を650℃を超える温度にする必要がある。更に、Fe−Al−Si金属間化合物の生成には、鋼板から溶け出すFe分の量も敏感に影響するため、鋼板に固着したFe粉の量を規制すると共に、Feの溶解を促進するメタルポンプを使用して鋼板の幅方向に沿った流動を故意に発生させることは行わないことが望ましい。
ただし、めっき浴の温度が650℃を超えると、トップドロスが生じやすいことが知られており、上述した方法だけでは、鋼板へのトップドロスの付着が避けられない。そこで、後述するように、本発明者は、故意に鋼板幅方向の流動を発生させることなく、かつ簡便な設備で、ボトムドロスに起因する押し込み疵と、浮遊ドロスに起因する付着ドロス疵とを同時に防止できる方法を見出した。即ち、本発明者は、スナウト内のめっき浴の流動状況について詳細に観察した結果、スナウトの鋼板引上側に浴の湧き出し部分が存在することを見出した。図2はめっき浴の流動状況を模式的に示す平面図である。図2に示すめっき浴3の湧き出し部分9は、スナウト4内における鋼板引上側に、鋼板1がめっき浴3中に進入する際に生じる引き込み流と、それに伴うスナウト4内の反転流とが生じた結果、出現したものである。
更に、めっき浴3の比重はその温度に関係するため、めっき浴3の温度よりもスナウト4の内面の温度の方が低いと、スナウト中央部からスナウト内面側に向かう流れが生じ、この流れは、めっき浴3とスナウト4との温度差が大きくなる程、強くなる。そこで、本発明者は、上述した湧き出し部分9と、スナウト中央部からスナウト内面側に向かう流れとを制御し、めっき浴3内に図2に示すような流れを形成することにより、メタルポンプを使用してめっき浴3内に強制的な流れを形成しなくても、鋼板1に浮遊ドロスが付着することを防止し、これに起因する付着ドロス疵の発生を防止できることを見出した。
更に、本発明者は、スナウト4の内面に付着するボトムドロスの生成を防止するためには、スナウト4の内面のめっき浴と接する部分のうち、めっき浴3の表面と接する三重点の分を加熱する必要があることを見出した。この部分の温度が650℃以下の場合、スナウト4における加熱していない部分の温度が低くなり、ボトムドロスが発生しやすくなる。また、加熱部の温度が680℃を超えると、めっき浴3の表面酸化が激しくなり、トップドロスが多量に発生するため、付着ドロス疵が発生しやすくなる。
ここで、上述したスナウト4内におけるめっき浴3の流動と、めっき浴3の温度との関連を考えると、スナウト4内の鋼板引上側においては、めっき浴3の湧き出し部分が存在しているため、浴温度をスナウト内面(鋼板引上側内面4a)の温度よりも高く保ちながら加熱することが好ましい。一方、スナウト4内における鋼板引上側の反対側(加熱炉側)は、湧き出し部分がないため、鋼板引上側と同程度の流動量を得るには、めっき浴とスナウト内面(加熱路側内面4b)との温度差を、鋼板引上側におけるめっき浴とスナウト内面との温度差よりも大きくする必要がある。しかしながら、加熱炉側であれば、仮に、スナウト内面にボトムドロスが付着成長し、剥離したとしても、鋼板表面に落下することはなく、また、ボトムドロスは比重が大きいため、流動解析により、径が0.5mm以上であれば巻き上がらないことを確認している。このため、加熱炉側内面4bについては、その温度を650℃未満とし、積極的にめっき浴3とスナウト内面との温度差を大きくすることが有効である。即ち、本発明者は、スナウト4の鋼板引上側内面4aの温度は650℃を超え680℃以下の範囲内でめっき浴3の温度よりも低く保つと共に、加熱炉側内面4b温度は650℃未満に保つことが最も好ましいことを見出した。従って、本発明の溶融アルミニウムめっき鋼板の製造方法においては、スナウトの鋼板引上側のみ加熱し、加熱炉側は加熱しない。
これに対して、スナウト内面の温度がめっき浴の温度よりも高い場合は、めっき浴に上述したような流れは起きにくい。図3はスナウト内面の温度がめっき浴の温度よりも高い場合のめっき浴の流れの状態を模式的に示す平面図である。スナウト4の内面の温度がめっき浴3の温度よりも高い場合は、図3に示すように、スナウト4内におけるめっき浴3の比重が、中央部よりも外側の方が、即ち、鋼板1側よりもスナウト4側の方が小さくなるため、鋼板1に向かう流れが起きやすくなる。これにより、めっき浴3の表面に浮遊しているトップドロスが、スナウト4内面側には集まらず、鋼板1側に集まりやすくなるため、好ましくない。
また、めっき浴3の温度が650℃を超えていても、例えば650℃を超え660℃以下と比較的低めである場合は、スナウト4の鋼板引上側内面4aの温度をめっき浴3の温度よりも高くしなければならないことがある。この場合でも、スナウト4の加熱炉側内面4bの温度は、めっき浴3の温度よりも低くすることが望ましい。そして、スナウト4の鋼板引上側内面4aの温度を、めっき浴3の温度よりも高くかつ適正な温度範囲内(650℃を超え680℃以下)にすることにより、この鋼板引上側内面4aに付着するボトムドロスの発生を防止することができる。ただし、めっき浴3の温度が低いため、めっき浴3に進入する鋼板1の温度をめっき浴3の温度よりも低くすると、スナウト4内の浴温度が低下してボトムドロスの生成が増加する。そこで、めっき浴3に進入する鋼板1の温度は、めっき浴3の温度と同等又は最大で10℃程度高くすることが望ましい。そうした場合、スナウト4内におけるめっき浴3表面の鋼板引上側には、外側から内側に向かう流れ、即ち、スナウト4の内面側から鋼板1側に向かう流れが生じるが、この部分にはめっき浴湧き出し部分が存在しており、この浴湧き出し部分の流れにより鋼板1の幅方向に流れが広がるため、浮遊ドロスが鋼板1に近づくことを緩和できる。また、加熱炉側のめっき浴の表面の流れは、スナウト内面に向かうため、浮遊ドロスが鋼板に近づくことを抑制できる。
以上の知見をまとめると、スナウト4の鋼板引上側内面4aの温度は、加熱炉側内面4bの温度よりも常に高く保ち、更に加熱炉側内面4bの温度はめっき浴3の温度よりも常に低い方が好ましく、その温度差は5℃以上であることがより好ましい。これにより、めっき浴3の温度に関わらず、めっき浴3表面にスナウト4の加熱炉側内面4bに向かう流れが生じるため、鋼板1にトップドロスに起因する付着ドロス疵及びボトムドロスに起因する押し込み疵が発生することを防止できる。なお、スナウト4の鋼板引上側内面4aの温度も、上述した適性範囲内であれば、めっき浴3の温度よりも5℃以上低いことが好ましい。また、めっき浴3の温度が低い場合を除いて、鋼板1の温度をめっき浴3の温度と同等以下とすることにより、鋼板進入時のFeの溶出を抑制でき、これによりボトムドロスの発生を防止することができる。
次に、本発明者は、めっき浴に進入する前の鋼板に固着しているFe粉について解析を進めた。その結果、本発明者は、鋼板に固着しているFe粉がアルミニウム浴と反応して局所的な成分変動を起こし、ドロスが生成することを見出した。この鋼板に付着しているFe粉は、鋼板を冷間圧延する際に鋼板の表面から離脱し、圧延の潤滑油と混ざりながら鋼板表面に付着したものと考えられる。そして、鋼板表面に付着したFe粉の一部は、圧延中に圧延潤滑剤と一緒に圧延ロールの間を通過するため、鋼板表面に強固に付着していることがある。なお、従来の冷延鋼板用のゼンジマー式の連続溶融めっきラインにおいては、冷延後の鋼板を洗浄せずにそのまま酸化炉又は無酸化炉に投入し、その表面に付着した油分を燃焼除去しているが、その場合でも、Fe粉は燃焼除去されずに鋼板表面に残留する。
一般的な亜鉛めっき鋼板の製造ラインにおいては、700℃程度の焼鈍温度から亜鉛めっき浴温度の450℃程度までガスジェット冷却するため、この間に鋼板の収縮が起こり、表面に付着したFe粉が剥離しやすい。このため、亜鉛めっきの場合は、表面のFe粉量が少ない状態で鋼板をめっき浴に浸漬しているため、このFe粉がドロスに及ぼす影響についての検討はなされていなかった。一方、溶融アルミニウムめっき鋼板を製造する場合は、アルミニウムめっき浴の温度が高いため、めっき前の鋼板の温度も660℃程度と亜鉛めっきに比べて高く、冷却帯での鋼板の温度変化が小さい。その結果、鋼板の収縮率が小さくなり、表面に付着しているFe粉が剥離しにくくなるため、亜鉛めっき鋼板を製造する場合に比べて、めっき浴中に持ち込まれるFe粉の量が10倍程度多くなることがわかった。
従来、縦型の焼鈍炉を設けた連続溶融めっきラインでは、洗浄装置が設けられており、鋼板表面に付着しているスマット、油及びFe粉を洗浄して、ハースロールへのFe粉のビルドアップ防止を図っている。しかしながら、溶融めっきする直前の鋼板表面に残留しているFe粉は鋼板と結合力が強く、これらは連続溶融めっきライン投入前から既に鋼板に強く固着していたものと考えられる。このため、溶融アルミニウムめっき鋼板を製造する際には、焼鈍ラインに入る前のFe粉の量を、従来に比べて厳しく管理する必要があり、特に、横型のゼンジマー式の連続めっきラインを使用する場合には、更に厳しい管理が必要となる。
上述の如く、本発明者は、めっき浴の温度及び鋼板の温度を低く設定すると共に、鋼板からめっき浴内に持ち込まれるFe粉の量及びその溶解量を厳しく管理することにより、めっき浴に生じる局所的な成分変動を防止し、更に、スナウトの鋼板引上側内面におけるめっき浴面の三重点域を局所的に加熱すると共に、少なくとも加熱炉側内面の温度をめっき浴の温度よりも低く保つことにより、スナウト内のめっき浴にスナウト内面に向かう流れを起こすことにより、トップドロスによる付着ドロス疵及びボトムドロスによる押し込み疵を発生させることなく、めっき層の密着性が優れた溶融アルミニウムめっき鋼板を製造できることを見出し、本発明に至った。
以下、本発明の実施の形態に係る溶融アルミニウム鋼板の製造方法について説明する。図4は本実施形態の溶融アルミニウムめっき鋼板の製造方法における溶融アルミニウムめっき工程を模式的に示す図であり、図5(a)及び(b)は図4に示す溶融アルミニウムめっき工程のスナウト4及びめっき浴3を示す拡大図であり、図5(a)は側面図、図5(b)は正面図(鋼板引上側から見た図)である。図4に示すように、本実施形態の溶融アルミニウムめっき鋼板の製造方法においては、先ず、洗浄装置11により、冷間圧延された鋼板1の表面に付着したFe粉を除去する。このとき、鋼板1の表面に固着しているFe粉量を100mg/m2以下にすることが望ましい。これにより、鋼板1によりめっき浴3内に持ち込まれるFe粉の量を低減し、めっき浴3におけるFe濃度の増加分を0.8%以下に抑制することができ、ボトムドロスの発生を抑制することができる。
洗浄装置11において鋼板1を洗浄する方法としては、例えば、NaOH等のアルカリ水溶液を使用して電解洗浄すると共に、ブラシロールを使用して油分と共にFe粉を除去する方法等を適用することができる。また、鋼板表面に固着しているFe粉量を更に低減する方法としては、例えば、冷延工程において、潤滑油を循環使用する際にその中に含まれるFe粉量を監視し、フィルタリングを強化することにより、鋼板に付着するFe粉量を減らす方法、洗浄装置11で洗浄する際に、洗浄液を循環使用する際にその中に含まれるFe粉量を監視し、フィルタリングを強化することにより、Fe粉の再付着を防止する方法、及びアルカリ水溶液で電解洗浄する際に、陽極電解のみを行い、Fe粉と鋼板の付着力を弱めて、鋼板表面に付着しているFe粉を取り除く方法等が挙げられる。これらの方法によれば、加熱焼鈍炉投入前に、鋼板に固着しているFe粉量を確実に100mg/m2以下にすることができる。
ここで、めっき浴3に浸漬される鋼板1の表面に固着しているFe粉の量が100mg/m2を超えると、スナウト4の内面を適正な温度にしても、スナウト4内のめっき浴3の表面でボトムドロスとなる比重の重いAl−Fe−Si金属間化合物が生成することがある。その場合、生成したボトムドロスが沈降して鋼板1に付着する前に、横方向に洗い流す等の処置が必要となり、更に設備が複雑となる。これに対して、鋼板1の表面に固着しているFe粉の量を100mg/m2以下にすれば、このような処置は不要となる。
なお、鋼板1に固着しているFe粉の量は、以下の方法で測定することができる。先ず、通常のめっきラインで使用されている洗浄設備により冷延鋼板を洗浄した後、通板を一旦停止させて鋼板表面における所定の面積(例えば100cm2)の領域を、塩酸を含ませた脱脂綿でふき取り、この領域に付着しているFe粉を脱脂綿に移し取る。そして、この脱脂綿を酸で溶解して、溶液中のFe分を定量分析することにより、鋼板表面の単位面積(m2)あたりに付着しているFe粉量を算出する。このとき、塩酸を使用することで、アルカリ洗浄では除去できず、めっき浴3に浸漬させるまで鋼板に固着しているFe粉の量を評価することが可能となる。
本実施形態の溶融アルミニウムめっき鋼板の製造方法においては、上述した方法で測定し、算出したFe粉量が100mg/m2を超えているときには、洗浄装置11で使用しているNaOH水溶液のフィルターを強化して、NaOH水溶液中のFe粉量を減少させる等の対策を施すことが好ましい。また併せて、冷間圧延で使用している潤滑油中のFe粉量についても、フィルターを強化してFe粉量を減少させたり、電解洗浄に使用する陽極と陰極の比率を調整し、陽極電解の比率が増えるようにしたりすることがより好ましい。
次に、洗浄された鋼板1を無酸化炉12において、例えば500〜700℃に加熱し、表面に付着した圧延油等の汚れを燃焼又は気化させて除去する。次に、還元帯13及び冷却帯14がこの順に設けられた加熱炉により、鋼板1を焼鈍すると共に、無酸化炉12において表面に形成された酸化膜を還元除去する。その際の焼鈍条件としては、例えば、板温が700〜800℃程度、雰囲気の露点が−40℃程度である。このとき、例えば、冷却帯14及びスナウト4に夫々温度計15,16を設置して、鋼板1の表面温度を測定し、その結果に応じて、めっき浴3に浸漬される鋼板1の温度が640〜680℃の範囲内になるようにブロアーの出力を調節する。なお、めっき浴3に浸漬される鋼板1の温度が640℃未満の場合、Al−Fe−Si金属間化合物の析出点近くまでめっき浴3の温度を低下させてしまうため、ボトムドロスが発生しやすくなる。また、めっき浴3に浸漬される鋼板1の温度が680℃を超えると、めっき層と鋼板との間に形成される金属間化合物層が厚くなるため、めっき層の密着性が低下する。
その後、鋼板1を、例えばスナウト4内を不活性ガス雰囲気とすることにより空気に触れないようにして、アルミニウム又はアルミニウム合金融液からなるアルミニウムめっき浴3に浸漬し、その表面にアルミニウムめっき層を形成する。このとき、めっき浴3の温度(浴温)は650℃を超え680℃以下とする。めっき浴3の温度が650℃以下の場合、Al−Fe−Si金属間化合物の晶出点に近づいてドロスが発生しやすくなるだけでなく、ロールにAl−Fe−Si金属間化合物が捲きやすくなる。また、めっき浴3の表面に凝固膜が生成しやすくなるため、めっき浴3から引き上げる際に鋼板1にこの凝固膜が接触し、表面に擦り疵が発生しやすくなる。一方、めっき浴3の温度が680℃を超えると、鋼板1の表面に形成された金属間化合物層が粗大化し、めっき層の密着性が低下する。なお、めっき浴3の浴温制御は、例えばポット10の側壁にヒーターを設け、実測した浴温に応じてヒーターの出力を調節することにより行う。
更に、本実施形態の溶融アルミニウムめっき鋼板の製造方法においては、鋼板1及びめっき浴3の温度が上述した範囲内となるように調節すると共に、図5(a)及び(b)に示すように、スナウト4の下端部に設けられたスナウト袴4cの鋼板1の引上側外面における浴面直上域を、バーナー17により局所的に加熱する。図6は横軸にめっき浴(Al−10%Si)中のFe濃度をとり、縦軸に浴温をとって、ボトムドロス析出と浴温との関係を示すグラフ図である。なお、図6においては、ボトムドロスが発生する領域にハッチングをかけて示している。図6に示すように、前述した洗浄工程により、めっき浴3中のFe含有量の変動を抑制したとしても、浴温に変動があると、ボトムドロスが析出しやすくなる。
一方、従来の溶融アルミニウムめっき方法においては、スナウト袴4cの全面をヒーター等によって加熱していたが、スナウト4の内面のうち冷却帯14(加熱炉)側の内面(加熱炉側内面4b)は、その上方に鋼板1が配置されており、加熱炉で加熱された鋼板1からの輻射熱を受けるため、鋼板1が引き上げられる側の内面(鋼板引上側内面4a)よりも温度が高く、ボトムドロスが付着しにくい。また、仮にスナウト4の加熱炉側内面4bにボトムドロスが付着したとしても、この部分に付着したボトムドロスは剥がれても鋼板1には付着せず、ポット10の底部に沈降するため、製造される溶融アルミニウムめっき鋼板に表面疵は発生しない。なお、本実施形態の溶融アルミニウムめっき鋼板の製造方法において使用するスナウト4の形状は、通常のスナウトのように、鋼板引上側内面4aと加熱炉側内面4bとが平行になっているものでもよいが、図5(a)に示すように、スナウト袴4c部の加熱炉側内面4bが浴面に対して略垂直となっているものを使用することが好ましい。このようにスナウト袴4cの加熱炉側内面4bが浴面に対して略垂直となっていると、スナウト4内においてめっき浴3の表面の流速が増加し、加熱炉側内面4bにボトムドロスがより付着しにくくなる。
以上の理由から、本実施形態の溶融アルミニウムめっき鋼板の製造方法においては、付着したボトムドロスが剥がれたときに鋼板1の表面に付着する可能性があるスナウト4の鋼板引上側内面4aを重点的に加熱する。具体的には、スナウト袴4cの鋼板引上側外面におけるめっき浴面直上域を、例えば能力が300000kcal/時間程度のバーナー17により局所的に加熱する。この場合、めっき浴直上域とは、スナウト4の鋼板引上側外面においてめっき浴3と接している位置から上方に200mm以下の領域をいう。また、加熱すべき位置は、スナウト4の鋼板引上側内面4aにおけるめっき浴3と接している部分なので、この部分が所定の温度になるように、バーナー17の位置及び角度を調節する。そして、スナウト4の鋼板引上側外面をバーナー17よって局所的に加熱することによる熱供給、及びめっき浴3からスナウト4への熱伝達による熱供給によって、スナウト4の鋼板引上側内面におけるめっき浴3の表面と接する部分の温度を幅方向全体に亘って650℃を超え680℃以下に調整する。
一方、スナウト4は、バーナー17の炎が直接当たらない部分についても、バーナー17により加熱された部分から伝達される熱によって加熱される。その結果、スナウト4内のめっき浴3における温度変動を30℃以下に抑制することができるため、この部分でのボトムドロスの発生を抑制することができる。ただし、加熱されたスナウト4の鋼板引上側内面4aにおけるめっき浴3の表面と接する部分の温度が650℃未満であると、スナウト4の加熱していない面の温度が下がり、ボトムドロスが生成しやすくなる。一方、スナウト4の鋼板引上側内面4aにおけるめっき浴3の表面と接する部分の温度が680℃を超えると、めっき浴3の表面酸化が激しくなり、トップドロスの発生量が増加する。
また、バーナー17から出る酸化性ガスの炎がめっき浴3の表面に接触すると、めっき浴3の主成分であるAlが酸化し、トップドロスが多量に発生する虞がある。このため、バーナー17の炎がめっき浴3に接触しないように、その角度を調節することが望ましい。また、装置及びその配置等の都合で調節が困難な場合には、めっき浴3の表面を耐火布で覆うことによりトップドロス発生を抑制することができる。その場合、めっき浴3全体を耐火布で覆うと、浴面の温度が上昇してしまうため、バーナー17の炎が当たる部分のみ耐火布で覆うことが望ましい。
その後、必要に応じて、アルミニウムめっき層形成後の鋼板1に対して、スキンパスを施し、溶融アルミニウムめっき鋼板とする。
本実施形態の溶融アルミニウムめっき鋼板の製造方法においては、めっき浴3の温度及び鋼板1の温度を共に従来よりも低く設定しているため、めっき浴3と鋼板1との温度差に起因するドロスの析出を防止することができると共に、めっき層の厚さを低減することができるため、めっき層の密着性を良好にすることができる。更に、めっき浴3内に設置する機器が損傷を受けにくくなるため、これらの機器の寿命を長くすることができる。
また、加熱前に鋼板1の洗浄を行い、めっき浴3内に持ち込まれるFe粉の量を低減しているため、めっき浴3に生じる局所的な成分変動、及びめっき浴3におけるFe含有量の増加を防止することができる。これにより、このFe粉に起因するドロスの析出を抑制することができる。前述した図6には示していないが、鋼板1を浸漬する前のめっき浴3において、浴温度を650℃に保持したときのFeの飽和溶解度は約1.9%となる。本実施形態の溶融アルミニウムめっき鋼板の製造方法のように、鋼板1の表面に固着したFe粉の量を低減すれば、めっき浴3におけるFe濃度の変動を抑えることができる。具体的には、鋼板1の表面に固着したFe粉の量を100mg/m2以下にして、めっき浴3中におけるFe濃度の増加分を0.8%以下にすることができれば、めっき浴3のFe濃度を2.7%以下にすることができる。例えば、めっき浴3の温度を前述した適性温度の上限である680℃に設定した場合、図6に示すようにめっき浴3のFe飽和溶解度は2.8%程度となるため、スナウト4の鋼引上側内面4aの温度を適正範囲の上限である680℃とすることにより、この部分でのドロス発生を抑制することができる。
なお、鋼板1の表面に固着したFe粉の量は、鋼板1の冷延条件及び洗浄条件によっても変化する。そこで、本実施形態の溶融アルミニウムめっき鋼板の製造方法においては、鋼板1の表面に固着したFe粉のおよその値に基づき、例えば図6に示すFe飽和線の位置を参照して、ドロスが発生しないようにめっき浴3の温度を調整してもよく、また、めっき浴3の温度を一定にした場合は、鋼板1の冷延条件及び/又は洗浄条件を調整して、鋼板1の表面に固着したFe粉の量を調整することも可能である。
更に、本実施形態の溶融アルミニウムめっき鋼板の製造方法においては、スナウト袴4cの鋼板引上側外面におけるめっき浴面直上域を、バーナー17によって局所的に加熱し、スナウト4の鋼板引上側内面4aにおけるめっき浴3の表面と接する部分の温度を幅方向全体に亘って650℃を超え680℃以下としているため、めっき浴3の温度変動を防止してボトムドロスの析出を抑制することができると共に、この部分へのドロス付着を防止して溶融アルミニウムめっき鋼板における表面疵の発生を防止することができる。更にまた、本実施形態の溶融アルミニウムめっき鋼板の製造方法においては、バーナー17によりスナウト袴4cの一部を加熱しているため、特許文献2及び3に記載の技術のように、大規模な設備を使用しなくても、スナウト5内のめっき浴3を効率的に加熱することができる。その結果、本実施形態の溶融アルミニウムめっき鋼板の製造方法によれば、めっき層の密着性が優れ、ボトムドロス及びトップドロスに起因する表面疵が少ない溶融アルミニウムめっき鋼板を製造することができる。
なお、Al含有量が55質量%程度のZn−Alめっきであるガルバリウム鋼板を製造する際にも、溶融アルミニウムめっき鋼板の場合と同様のドロスが形成されるため、このガルバリウム鋼板の製造工程にも上述した本発明の技術を適用することが可能である。
以下、本発明の実施例及び本発明の範囲から外れる比較例を挙げて、本発明の効果について具体的に説明する。先ず、本発明の実施例として、図4に示す溶融めっきラインを使用して溶融アルミニウムめっき鋼板を作製した。その際、ディップタンク20、上下方向に複数のブラシロール23を備えた温水スクラバー21及び温水リンスタンク19がこの順に配置されている洗浄装置11を使用して、鋼板1の両面を洗浄した。また、本実施例においては、めっき浴の組成をAl:87.5質量%、Si:10質量%、Fe:2.5質量%とし、板厚が1.0mmで幅が1000mmの鋼板の両面に、めっき付着量を80〜120g/m2として溶融アルミニウムめっきを施した。また、本発明の比較例として、加熱前の洗浄及びスナウト袴4cの加熱を行わず、それ以外は前述の実施例と同じ条件及び方法で溶融アルミニウムめっき鋼板を作製した。更に、参考例として、スナウト袴4cをめっき浴3に浸漬する前に加熱し、一時的に加熱炉側内面の温度を上げ、その他の条件は前述した実施例と同様の条件で溶融アルミニウムめっき鋼板を作製した。なお、実施例、比較例及び参考例の溶融アルミニウムめっき鋼板を作製するにあたっては、メタルポンプによりめっき浴3の表面に横方向の流動を発生させることはしなかった。
そして、実施例、比較例及び参考例の各溶融めっき鋼板につて、ボトムドロスに起因する押し込み疵及びトップドロスに起因する付着ドロス疵の有無、めっき層の密着性、並びに浴中機器へのAl−Si−Fe金属間化合物付着の有無について評価した。
押し込み疵及び付着ドロス疵等の表面疵の有無は、目視により評価した。具体的には、目視により表面疵の有無を確認し、その疵発生率(%)(=表面疵(押し込み疵又は付着ドロス疵)があったコイル数/試験したコイル数×100)を求めた。そして、ボトムドロスについては、発生率が6%未満のものを「疵なし」、6%以上8%未満のものを「ほとんどなし」、8%以上10%未満のものを「わずかにあり」、10%以上のものを「疵あり」とし、「疵あり」は不合格で、それ以外のものは合格とした。一方、トップドロスについては、発生率が10%未満のものを「疵なし」、10%以上のものを「疵あり」とし、「疵なし」が合格で、「疵あり」を不合格とした。
また、めっき層の密着性評価は、JIS G 3314に規定されている「溶融アルミニウムめっき鋼板及び鋼帯の機械的性質の曲げ試験に準じて行った。具体的には、実施例及び比較例の各溶融アルミニウムめっき鋼板から、圧延方向と平行に、幅が75〜125mmで、長さを幅の2倍程度で適宜設定した試験片を採取し、圧延方向に直交する方向に曲げ角度180°で曲げたときに、その外側表面の幅方向両端部から夫々7mm以上内側の部分に、めっき層の剥離、素地の亀裂及び破断が発生するか否かで評価した。その結果、上述した曲げ試験により、めっき層の剥離、素地の亀裂又は破断が発生したものを×、これらのいずれも発生しなかったものを○とした。
更に、浴中機器へのAl−Si−Fe金属間化合物付着の有無については、めっき終了後に目視で確認した。以上の結果を、下記表1にまとめて示す。なお、下記表1には各溶融めっき鋼板の製造条件も併せて示す。また、下記表1においては、本発明の範囲から外れる条件は下線を付して示す。
上記表1に示すように、本発明の範囲内で作製した実施例No.1〜No.12の溶融アルミニウムめっき鋼板は、押し込み疵及び付着ドロス疵の発生が抑制されると共に、めっき層の密着性が良好であり、更に浴中機器へのAl−Si−Fe金属間化合物の付着もなかった。特に、鋼板表面に固着しているFe粉量を100mg/m2以下にした実施例No.1〜No.9の溶融アルミニウムめっき鋼板では、ドロスに起因する表面疵の発生がほとんど又は全くなかった。
これに対して、スナウト加熱を行わなかった比較例No.13の溶融アルミニウムめっき鋼板、鋼板の洗浄を実施しなかった比較例No.16、No.19、No.22の溶融アルミニウムめっき鋼板、並びにスナウト加熱及び鋼板洗浄の両方を行わなかったNo.20の溶融アルミニウムめっき鋼板は、ボトムドロスに起因する押し込み疵が発生した。また、浴温度が650℃以下であった比較例No.14の溶融アルミニウムめっき鋼板は、スナウトを加熱したにもかかわらずボトムドロスが生成し、押し込み疵の発生及び浴中機器への金属間化合物の付着が確認された。一方、浴温度が680℃を超えていた比較例No.27の溶融アルミニウムめっき鋼板は、表面疵は発生しなかったが、めっき層の密着性が低かった。
鋼板の温度が640℃未満であった比較例No.17、No.21の溶融アルミニウムめっき鋼板は、スナウトを加熱してもボトムドロスの発生量が多くなり、押し込み疵が発生した。一方、鋼板の温度が680℃を超えていた比較例No.24、No.26の溶融アルミニウムめっき鋼板は、表面疵は発生しなかったが、めっき層の密着性が低かった。また、スナウトを加熱しても、鋼板引上側内面の温度が650℃以下であった比較例No.15、No.18の溶融めっき鋼板は、スナウト内面にボトムドロスが多量に付着したため、表面に押し込み疵が発生した。一方、鋼板引上側内面の温度が680℃を超えるまで加熱した比較例No.23、No.25の溶融アルミニウムめっき鋼板は、めっき浴表面が酸化されてトップドロスが多量に生成したため、表面に付着ドロス疵が発生した。更に、参考例No.28の溶融アルミニウムめっき鋼板は、スナウト加熱及び鋼板洗浄を実施したにもかかわらず、押し込み疵及び付着ドロス疵が発生した。