JP4912655B2 - 歯科用組成物 - Google Patents

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Description

本発明は歯科用組成物に関する。詳しくは、歯科用セメント、歯科用ボンディング材などの歯科用接着性組成物に関する。
齲蝕は口腔内に存在する齲蝕病原菌が産生する酸によって歯が脱灰を受ける病気であり、治療は感染部位の切削、歯科材料の充填・修復により行われる。これら治療には、接着性レジンセメント、ボンディング材、あるいはグラスアイオノマーセメント等の接着材により行われる。
歯牙に対する接着は、その一時的な接着強度のみならず、口腔内環境における耐久性も重要視される。たとえば、口腔内環境において接着効果の減少による歯質−接着材界面に間隙が生じる、微小漏洩を併発した場合には、この間隙より刺激性物質や細菌等が侵入し、さらに修復部分での齲蝕再発生の確率が高くなり、治療は失敗に終わる。
一方、上述した従来からの歯科用接着材に加え、非特許文献1などにはリン酸テトラカルシウムおよびリン酸二カルシウムのリン酸カルシウムを主成分とし、生体硬組織と同様のハイドロキシアパタイトに転化する接着材の使用が提示されている。しかしながら、特に齲蝕などに対する治療おいては、その初期接着強度の面などから適用範囲が狭いことが懸念される。
さらに従来より生体親和性あるいは機械的強度の向上などを目的に種々のリン酸カルシウムを添加した歯科用あるいは生体用接着材組成物が提示されているが、歯科用接着材とこれら無機化合物を同時に併用することは、接着性能の著しい低下が懸念される。
特許文献1などにはリン酸カルシウム系粉末、ポリメタアクリレート粉末、メタアクリレート系モノマーからなる組成物が提示されており、特に物性等において硬化体得ることが可能となるが、歯牙ないしは硬組織に対しての接着を行った際には、接着強度が小さく、微小漏洩の原因となりかねない。
このため、優れた接着効果を持ち、同時に微小漏洩を発生させない歯科用組成物が望まれている。
Journal of Hard Tissue Biology;4(1):1−7 特開2001−231848号公報
本発明は、優れた接着効果を有し、同時に微小漏洩を発生させないような歯科用組成物を提供することを目的としている。
本発明の歯科用組成物は、
(A)分子内に少なくとも1つの酸性基と重合性基とを有する化合物、
(B)分子内に1つの重合性基を有し、酸性基を有しない化合物、
(C)ポリ((メタ)アクリレート)粒子からなる充填材、
(D)リン酸テトラカルシウム(TTCP)とリン酸二カルシウム(DCP)とを含有するカルシウム含有材、
および
(E)重合開始剤からなり、
上記(A)成分が、(A)成分と(B)成分との合計100重量部中に16〜70重量部の量で含有されており、(B)成分が(A)成分と(B)成分との合計100重量部中に84〜30重量部の量で含有されており、(C)成分が、(A)成分と(B)成分との合計100重量部に対し0.2〜297重量部の範囲内の量で含有されており、さらに(D)成分が、(A)成分と(B)成分との合計100重量部に対して0.2〜297重量部の範囲内の量で含有されていることを特徴としている。
本発明の歯科用組成物によれば、齲歯治療において優れた接着効果を有し、かつ微小漏洩も生じにくい。
以下、本発明の歯科用組成物について詳述する。以下、特別の表記がない限り「部」および「%」は重量基準を示す。
本発明の歯科用組成物は、リン酸カルシウム化合物を含有することを特徴とする重合性歯科用接着材組成物を適用することによって、すなわち、リン酸カルシウム化合物を重合性歯科用接着材組成物の充填材として使用することにより、リン酸カルシウム化合物を生体の硬組織と同じハイドロキシアパタイトに転化させて生体の部分とし、被着体である歯質、硬組織と強固な接着を得られるばかりでなく、歯科用コンポジットレジン、歯科用硬質レジン、陶材あるいは金銀パラジウム合金をはじめとする歯科用金属等の補綴物との間にも強固な接着強度を発現させて、微小漏洩を防止することができる。
本発明の歯科用組成物に配合される(A)成分は、分子内に少なくとも1つの酸性基と重合性基とを有する重合性化合物である。この(A)成分中にある重合性基としては、ラジカル重合性基が好ましく用いられ、ビニル基、シアン化ビニル基、アクリロイル基、メタアクリロイル基、アクリルアミド基、メタアクリルアミド基などを挙げることができる。また、酸性基としては、カルボキシル基、リン酸基、チオリン酸基、スルホン酸基、スルフィン酸基などを例示することができる。あるいはカルボキシル基の酸無水基のように、実用条件において容易に分解して前記酸性基になるなど、実質上酸性基として機能するものも、酸性基と看做す。
本発明において、(A)成分の具体的な例であるカルボキシル基を有する重合性化合物の例としては、
(メタ)アクリル酸(以下、アクリル酸とメタアクリル酸の総称として(メタ)アクリル酸と記載する。)、マレイン酸等のα−不飽和カルボン酸;
4-ビニル安息香酸等のビニル芳香環化合物;
11-(メタ)アクリロイルオキシ-1,1-ウンデカンジカルボン酸(以下、アクリロイルとメタアクリロイルの総称として(メタ)アクリロイルと記載する。)等の(メタ)アクリロイルオキシ基とカルボン酸基の間に直鎖炭化水素基が存在するカルボン酸化合物;
6-(メタ)アクリロイルオキシエチルナフタレン-1,2,6-トリカルボン酸等の(メタ)
アクリロイルオキシアルキルナフタレン(ポリ)カルボン酸;
4-(メタ)アクリロイルオキシメチルトリメリット酸、4-(メタ)アクリロイルオキシエチルトリメリット酸、4-(メタ)アクリロイルオキシブチルトリメリット酸等といった(メタ)アクリロイルオキシアルキルトリメリット酸;
4-[2-ヒドロキシ-3-(メタ)アクリロイルオキシ]ブチルトリメリット酸等のさらに
水酸基を含有する化合物;
2,3-ビス(3,4-ジカルボキシベンゾイルオキシ)プロピル(メタ)アクリレ−ト(以下、アクリレートとメタアクリレートの総称として(メタ)アクリレートと記載する。)等
のカルボキシベンゾイルオキシを有する化合物;
N,O-ジ(メタ)アクリロイルオキシチロシン、O-(メタ)アクリロイルオキシチロシン、N-(メタ)アクリロイルオキシチロシン、N-(メタ)アクリロイルオキシフェニルアラニン、O-(メタ)アクリロイルオキシフェニルアラニン、N,O-ジ(メタ)アクリロイルオキシフェニルアラニン等のN-および/またはO-位置換のモノまたはジ(メタ)アクリロイルオキシアミノ酸;
N-(メタ)アクリロイル-4-アミノ安息香酸、N-(メタ)アクリロイル-5-アミノ安息香酸、2-または3-または4-(メタ)アクリロイルオキシ安息香酸、4-または5-(メタ)アクリロイルアミノサリチル酸等の官能性置換基を有する安息香酸の(メタ)アクリロイル化合物;
2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートとピロメリット酸二無水物の付加生成物、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレ−トと無水マレイン酸または3,3',4,4'-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物または3,3',4,4'-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物の付加反応物等のヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートと不飽和ポリカルボン酸無水物の付加反応物;
2-(3,4-ジカルボキシベンゾイルオキシ)-1,3-ジ(メタ)アクリロイルオキシプロパ
ン、N-フェニルグリシンまたはN-トリルグリシンとグリシジル(メタ)アクリレ−トとの付加物、4-[(2-ヒドロキシ-3-(メタ)アクリロイルオキシプロピル)アミノ]フタル
酸、3-または4-[N-メチル-N-(2-ヒドロキシ-3-(メタ)アクリロイルオキシプロピル)アミノ]フタル酸などのポリカルボキシベンゾイルオキシと(メタ)アクリロイルオキシを有する化合物などを挙げることができる。これらのうち、11-(メタ)アクリロイルオ
キシ-1,1-ウンデカンジカルボン酸および4-(メタ)アクリロイルオキシエチルトリメリ
ット酸が好ましく用いられる。
少なくとも1個の水酸基がリン原子に結合している基および水中で容易に該基に変換し得る官能基として、例えばリン酸エステル基で水酸基を1個または2個を有する基を好ましく例示することができる。このような基を有する重合性単量体としては、例えば2-(メタ)アクリロイルオキシエチルアシドホスフェート、2-および/または3-(メタ)アクリ
ロイルオキシプロピルアシドホスフェート、4-(メタ)アクリロイルオキシブチルアシドホスフェート、6-(メタ)アクリロイルオキシヘキシルアシドホスフェート、8-(メタ)アクリロイルオキシオクチルアシドホスフェート、10-(メタ)アクリロイルオキシデシ
ルアシドホスフェート、12-(メタ)アクリロイルオキシドデシルアシドホスフェート等
の(メタ)アクリロイルオキシアルキルアシドホスフェート;
ビス[2-(メタ)アクリロイルオキシエチル]アシドホスフェート、ビス[2-または3-(メタ)アクリロイルオキシプロピル]アシドホスフェート等の2つ以上の(メタ)アクリロイルオキシアルキル基を有するアシドホスフェート;
2-(メタ)アクリロイルオキシエチルフェニルアシドホスフェート、2-(メタ)アクリロイルオキシエチル-p-メトキシフェニルアシドホスフェート等の(メタ)アクリロイルオキシアルキル基とフェニレン基などの芳香環やさらには酸素原子などのヘテロ原子を介して有するアシドホスフェートなどを挙げることができる。これらの化合物におけるリン酸基を、チオリン酸基に置き換えた化合物も例示することができる。これらのうち、2-(メタ)アクリロイルオキシエチルアシドホスフェートを好ましく使用することができる。
スルホン酸基あるいはスルホン酸基に容易に水中で変換し得る官能基を有する重合性単量体として、例えば2-スルホエチル(メタ)アクリレート、2-または1-スルホ-1-または2-プロピル(メタ)アクリレート、1-または3-スルホ-2-ブチル(メタ)アクリレート等のスルホアルキル(メタ)アクリレート;
3-ブロモ-2-スルホ-2-プロピル(メタ)アクリレート、3-メトキシ-1-スルホ-2-プロピル(メタ)アクリレート等の前記のアルキル部にハロゲンや酸素などのヘテロ原子を含む原子団を有する化合物;
1,1-ジメチル-2-スルホエチル(メタ)アクリルアミド、2-メチル-2-(メタ)アクリルアミドプロパンスルホン酸等の前記アクリレートに換えてアクリルアミドである化合物など;
さらには4-スチレンスルホン酸、4-(プロプ-1-エン-2-イル)ベンゼンスルホン酸などのビニルアリールスルホン酸などを挙げることができる。これらのうち、4-スチレンスルホン酸を好ましく使用することができる。これら化合物は単独であるいは2種以上組み合わせて使用することができる。
本発明の歯科用組成物における(A)成分の使用量は、この(A)成分と後述する(B)との合計量100重量部のうち、16〜70重量部、好ましくは18〜50重量部、さらに好ましくは20〜40重量部の範囲内にある。このような量で分子内に酸性基と重合性基を有する重合性単量体(A)を使用することにより、本発明の歯科用組成物は、被着体である歯質に代表される硬組織に対して良好な接着性を示すようになる。
本発明の歯科用組成物に含有される(B)成分は、分子内に1つの重合性基を有し、酸性基を有しない化合物である。このような(B)成分として使用できる合物の例としては、メチル(メタ)アクリレ−ト、エチル(メタ)アクリレ−ト、n−プロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレ−トなどのアルキル(メタ)アクリレ−ト類;
2-ハイドロキシエチル(メタ)アクリレート、3-ハイドロキシプロピル(メタ)アクリレートなどのハイドロキシアルキル(メタ)アクリレート類;
2-(2-メトキシエトキシ)エチル(メタ)アクリレート、2-(2-(2-(2-メトキシエトキシ)エトキシ)エトキシ)エチル(メタ)アクリレートなどのポリアルキレングリコールアルキルエーテルの(メタ)アクリレート類 (R1-(-O-R2-)n-O-COCH(R3)=CH2 (R1:アルキ
ル基、R2:アルキレン基、R3:水素又はメチル原子団);
アセトアセトキシエチル(メタ)アクリレート;
シクロブチル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレートなどのシクロアルキル(メタ)アクリレート類;
(テトラハイドロフラン-2-イル)(メタ)アクリレートなどのヘテロ原子を含む環状
アルキル(メタ)アクリレート類;
パーフルオロオクチル(メタ)アクリレートおよびヘキサフルオロイソプロピル(メタ)アクリレートなどの(メタ)アクリル酸のフルオロアルキルエステル;
3-(トリメトキシシリル)プロピル(メタ)アクリレートなどの(メタ)アクリロキシアルキル基を有するシラン化合物などを挙げることができる。これらの単量体は単独であるいは2種以上併用して重合に用いられる。
また、歯質など硬組織に対する高い接着力を得るために、歯質などとの接着界面へのモノマーの拡散に低分子量モノマー、例えば分子量が300以下の低分子量モノマーを使用することが好ましく、このような低分子量モノマーとしては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、エチレングリコールモノメチルエーテル(メタ)アクリレートを挙げることができる。本発明においては、重合性単量体である(B)成分としてこのような低分子量モノマーも使用することもできる。
特に本発明では分子内に1つの重合性基を有し、酸性基を有しない化合物(B)として、人体への刺激性が比較的低いメタアクリレートが特に好ましく使用される。
また、本発明で使用する(B)成分としては、酸性基を有する上記(A)成分を室温で溶解可能な化合物であることが好ましい。
本発明における(B)成分は、上述の酸性基を有する重合性単量体である(A)成分とこの(B)成分との合計量100重量部中に、84〜30重量部の範囲内の量、好ましくは
82〜50重量部の範囲内の量、特に好ましくは80〜60重量部の範囲内の量で含有される。本発明で使用される(B)成分は、本発明の歯科用組成物の有する優れた特性を発現させるための基礎となるモノマーであり、上記範囲内で使用することによって本発明の歯科用組成物の物性に関する基礎的特性が確立する。
また、(A)成分と(B)成分の合計量は、本発明の組成物100重量部中に、好ましくは0.14〜99.1重量部、より好ましくは0.16〜98.9重量部、さらに好ましくは0.17〜98.4重量部の範囲内にある。前記数値範囲の下限を下回ると操作性が著しく低下し、前期数値範囲の上限を上回ると所望の接着性能を発揮することができにくくなる。
本発明の組成物に配合される(C)成分は、ポリ((メタ)アクリレート)粒子からなる充填材である。このポリマー粒子を形成するモノマーとしては、例えばメチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレートなどのアルキル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレートなどのシクロアルキル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレートなど芳香族(メタ)アクリレートなどのような(メタ)アクリレート系モノマーを挙げることができる。また、本発明の(メタ)アクリレート重合体は、必要に応じて少量の架橋性モノマーを共重合させることができる。架橋性モノマーとして、例えばエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ブタジエンなどの多官能モノマーを挙げることができる。
本発明で充填剤(C)として好適に使用されるポリ((メタ)アクリレート)粒子の重量平均分子量は、5万〜30万の範囲内にあることが好ましい。
また、本発明において、これらの充填材(C)は、単独であるいは組み合わせて、あるいは上記モノマーの共重合体を使用することができる。
本発明において、歯科用組成物の皮膜厚さを低減しおよび修復効果を向上させるためには、上記充填材(C)の粒子の平均粒子径は、0.001〜30μmの範囲内にあること
が好ましく、さらに、0.01〜25μmの範囲内にあることが特に好ましい。
本発明の歯科用組成物におけるポリ((メタ)アクリレート)粒子からなる充填材(C)は、本発明の歯科用組成物を形成する前記(A)および(B)の合計量100重量部に対して、0.2〜297重量部、好ましくは0.3〜248重量部の範囲内の量で使用することができる。
本発明の歯科用組成物における(D)成分は、リン酸テトラカルシウム(Ca4(PO4
2O)(以下、TTCPと表記する)とリン酸二カルシウム(CaHPO4)(以下、DCPと表記する)とを含有するカルシウム含有材である。このようにTTCPとDCPとを併用することにより、歯科用組成物を適用後、両者が口腔内の水分とともに歯牙硬組織と同様のハイドロキシアパタイトに転化し、これにより、より強固な接着を得ることができる。因みに、DCPは、別名、リン酸ジカルシウム、リン酸水素カルシウム、リン酸水素二カルシウム、第二リン酸カルシウム、又は、リン酸一水素カルシウムとも言うが、いずれも同一のCaHPO4である。なお、これらは、好ましくは無水物であり、組成重量
比率もそれを前提にして計算されたものではある。
TTCPとDCPの配合モル比(TTCP/DCP)は、通常は0.33〜3.5、好ましく2.3〜3の範囲、特に好ましくは2.7である。この範囲を逸脱すると、ハイドロキアパタイトへの転化が充分に行われず、目的を達成しないばかりか、ハイドロキシアパタイトへの転化に関与しなかった分子が(A)成分である重合性単量体中の酸性基と反
応することにより、歯牙との接着を著しく低下させ、さらには組成物の硬化体の機械的物性を低下させる原因となる。
本発明において、カルシウム含有材である(D)成分の形態としては、特に限定されるものではないが、例えば、充填材のような粒子形状であることが好ましく、この場合に粒径は好ましくは0.001〜30μm、より好ましくは0.01〜25μm、さらに好ましくは0.5〜20μmの範囲内にある。前記数値範囲の下限を下回ると硬化時間が極端に小さくなり操作が困難となりやすく、上限を上回ると接着性能が低下することがある。
本発明で、カルシウム含有材である(D)成分として使用するTTCPの粒径は通常は0.5〜30μm、より好ましくは1〜25μm、さらに好ましくは10〜20μmの範囲にあり、また、DCPの粒径は通常は0.001〜30μm、より好ましくは0.05〜20μm、さらに好ましくは0.1〜15μmの範囲内にある。前記数値範囲の下限を下回ると硬化時間が極端に短くなり操作が困難となり、上限を上回ると硬化時間が長くなり操作性が劣るとともに接着性能が低下しやすい。
さらに、TTCPとDCPとの存在形態についても特に限定されるものではなく、両者が実質上、上記重量範囲にて混合された成形された粒子であっても良いし、全体の重量比は実質上、上記範囲にてTTCPの粒子とDCPの粒子とを混合させる等、重量比が異なる粒子を混在させても良い。
カルシウム含有材である(D)成分の合計の使用量、すなわちTTCPとDCPとの合計の使用量は、上記(A)成分および(B)成分の合計量100重量部に対して、0.2〜297重量部、好ましくは0.3〜248重量部の範囲内にある。
さらに、カルシウム含有材である(D)成分は、充填材(C)成分とカルシウム含有材である(D)成分との合計量100重量部に対して通常は1〜99重量部、好ましくは2〜98重量部、さらに好ましくは5〜95重量部の範囲内の量で使用される。この範囲より下回る1重量部未満においては、適用後のハイドロキシアパタイトの転化による接着性能向上の効果が観察されず、この範囲を上回る99重量部を超えた範囲では、適用後にハイドロキシアパタイトへの転化より前に(A)成分である酸性基を有する重合性単量体の酸性基と反応することにより、この場合も接着性能が低下する可能性があるためである。
本発明の歯科用組成物における(E)成分は重合開始剤である。重合開始剤(E)としては、有機ホウ素化合物、有機過酸化物、無機化酸化物を挙げることができる。
有機ホウ素化合物としては、トリエチルホウ素、トリ(n−プロピル)ホウ素、トリイソプロピルホウ素、トリ(n−ブチル)ホウ素、トリ(s−ブチル)ホウ素、トリイソブチルホウ素、トリペンチルホウ素、トリヘキシルホウ素、トリオクチルホウ素、トリデシルホウ素、トリドデシルホウ素、トリシクロペンチルホウ素、トリシクロヘキシルホウ素、ブチルジシクロヘキシルボランなどのトリアルキルホウ素;
ブトキシジブチルホウ素などのアルコキシアルキルホウ素;
ジイソアミルボラン、9−ボラビシクロ[3.3.1]ノナンなどのジアルキルボラン;
テトラフェニルホウ素ナトリウム、テトラフェニルホウ素トリエタノールアミン塩、テトラフェニルホウ素ジメチル-p-トルイジン塩、テトラフェニルホウ素ジメチルアミノ安
息香酸エチルなどのアリールボレート化合物;
部分酸化トリブチルホウ素などの部分酸化トリアルキルホウ素などを挙げることができる。
有機過酸化物としては、例えばジアセチルパーオキサイド、ジプロピルパーオキサイド、ジブチルパーオキサイド、ジカプロルパーオキサイド、ジラウリルパーオキサイド、ベ
ンゾイルパーオキサイド、p,p’−ジクロルベンゾイルパーオキサイド、p,p’−ジメトキシベンゾイルパーオキサイド、p,p’−ジメチルベンゾイルパーオキサイドおよびp,p’−ジニトロジベンゾイルパーオキサイドなどを挙げることができる。
無機過酸化物としては、例えば過硫酸アンモニウム、過硫酸カリウム、塩素酸カリウム、臭素酸カリウムおよび過リン酸カリウムなどを挙げることができる。酸化還元性金属化合物としては、例えば銅、鉄、コバルトなど遷移金属の硝酸塩、塩化塩、アセチルアセト塩などを挙げることができる。
これらの中では、トリブチルホウ素あるいは部分酸化トリブチルホウ素を用いることが好ましく、さらに最も好ましい有機ホウ素化合物は部分酸化トリブチルホウ素である。
これらは単独であるいは2種以上組み合わせで使用することができる。
本発明の組成物における重合開始剤である(E)成分は、本発明の歯科用組成物を形成する前記(A)成分および(B)成分の合計量100重量部に対して、通常は0.5〜10重量部、好ましくは、1〜10重量部の範囲内の量で使用することができる。
さらに本発明の歯科用組成物において硬化剤の助剤として本発明の目的を損なわない限り、光重合開始剤(H)を配合されていても良い。
光重合開始剤としては、可視光線を照射することによって重合性モノマーの重合を開始しうるものが好ましく使用され、例えばベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテルなどのベンゾイン類;
ベンジル、4,4'−ジクロロベンジル、ジアセチル、α−シクロヘキサンジオン、d,l−
カンファキノン(CQ)、カンファキノン‐10‐スルホン酸、カンファキノン‐10‐カルボン酸などのα−ジケトン類;
ベンゾフェノン、ベンゾイル安息香酸メチル、ヒドロキシベンゾフェノンなどのジフェニルモノケトン類;
2,4‐ジエチルチオキサントン、2-イソプロピルチオキサントンなどのチオキサントン
類;
2,4,6‐トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイドなどのアシルホスフィ
ンオキサイド類などの光増感剤を挙げることができる。
これらの中ではd,l‐カンファキノン、カンファキノン‐10‐カルボン酸、2、4、6‐トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイドが特に好ましい。これら光重合開始剤は単独であるいは組み合わせて使用することができる。
本発明で光重合開始剤を使用する場合、光重合開始剤は、有機ホウ素化合物(G)の使用量を100重量部に対して、0.1〜10重量部の範囲内の量、好ましくは0.2〜5重量部の範囲内の量で使用される。
加えて、上記光重合開始剤の重合開始効果を向上するため、有機ホウ素化合物の触媒効果に悪影響を及ぼさない還元性化合物の併用も可能である。例えば、N,N‐ジメチルアニ
リン、N,N‐ジメチル‐p‐トルイジン、N,N‐ジエチル‐p‐トルイジン、N,N‐ジエタノ
ール‐p‐トルイジン、N,N‐ジメチル‐p‐t-ブチルアニリン、N,N‐ジメチルアニシジン、N,N‐ジメチル‐p‐クロルアニリン、N,N‐ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレー
ト、N,N‐ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N‐ジメチルアミノ安息香酸およびそのアルキルエステルおよびそれらの塩、N,N‐ジエチルアミノ安息香酸およびその
アルキルエステルおよびそれらの塩、N,N‐ジメチルアミノベンズアルデヒド、N-フェニ
ルグリシンおよびその塩、N-トリルグリシンおよびその塩、N,N‐(3‐(メタ)アクリロイルオキシ‐2-ヒドロキシプロピル)フェニルグリシンおよびその塩などの有機還元性化
合物を挙げることができる。
上記還元性化合物の配合量は、通常は使用される光重合開始剤量の0.5〜3.0倍の範囲内にある。
本発明の歯科用組成物には、所望により、(F)多官能(メタ)アクリレートを使用することができる。
かかる多官能(メタ)アクリレートの例としては、グリセロールジ(メタ)アクリレート;
トリメチロールプロパンなどのブタントリオールのジ(メタ)アクリレート;
メソ−エリスリトールなどのブタンテトラオールのジ(メタ)アクリレートまたはトリ(メタ)アクリレート;
ペンタントリオールのジ(メタ)アクリレート;
テトラメチロールメタンなどのペンタンテトラオールのジ(メタ)アクリレートまたはトリ(メタ)アクリレート;
キシリトール及びその異性体の水酸基を1〜2個有する多官能(メタ)アクリレート;
ヘキサントリオールのジ(メタ)アクリレート;
ヘキサンテトラオールのジ(メタ)アクリレートまたはトリ(メタ)アクリレート;
ヘキサンペンタオールの水酸基を1〜2個有する多官能(メタ)アクリレート;
ヘキサンヘキサオールの水酸基を1〜2個有する多官能(メタ)アクリレート;
あるいは下記化学式(1)
Figure 0004912655
〔式(1)中、R1は少なくとも1個の芳香族環を有しかつ分子中に酸素原子または硫黄
原子を有していてもよい2価の芳香族あるいはシクロアルキル残基、好ましくは下記化学式(2)
Figure 0004912655
から選択されるいずれかを示し、R2およびR3は互いに独立して水素原子またはメチル基を示し、nおよびmは正の整数を示す〕で示される多官能(メタ)アクリレートなどを挙げることができる。これら多官能(メタ)アクリレートは、官能基の数が2〜3個のものが好ましく用いられ、2官能のものがより好ましい。官能基数が多い場合には、添加量によって組成物の硬化体の架橋度が高くなり、組成物の硬化体の柔軟性を損なわれ、歯質や歯科用金属への接着性を低下させる傾向がある。
本発明の歯科用組成物において、多官能(メタ)アクリレート化合物である(F)成分は、(A)成分、(B)成分および(F)成分の合計100部中に、1〜30部の範囲内の量で含有させることができ、好ましくは1〜20部の範囲内の量で、最も好ましくは2〜9部の範囲内の量で含有させることができる。多官能(メタ)アクリレート化合物(F)が少ない場合には、硬化速度の促進効果が小さく、(F)成分である多官能(メタ)アクリレート化合物が多い場合には、硬化時間が短くなりすぎて治療を適切に施す余裕がなくなったり、組成物硬化体の吸水性が高くなり、金属や歯質あるいは骨等の硬組織への接着耐久性が低下する傾向がある。また、組成物硬化体の架橋度が高くなり、組成物硬化体の柔軟性を損なう傾向がある。
なお、多官能(メタ)アクリレート化合物である(F)成分は通常、酸性基を有しない単量体(F1)が好適に用いられるものであるが、酸性基を有する単量体(F2)が含まれていても良く、その場合、(A)成分、(B)成分、および(F2)成分の合計を100重量部として(A)成分および(F2)成分の合計は好ましくは16〜70重量部、より好ましくは18〜50重量部、さらに好ましくは20〜40重量部の範囲内の量で配合される。
本発明の歯科用組成物には所望により無機フィラーあるいは有機無機複合化フィラー(G)を添加することができる。
無機充填材の例としては、ジルコニウム酸化物、ビスマス酸化物、チタン酸化物、酸化
亜鉛および酸化アルミニウム粒子などの金属酸化物粉末、炭酸カルシウム、炭酸ビスマス、リン酸ジルコニウムおよび硫酸バリウムなどの金属塩粉末、シリカガラス、アルミニウム含有ガラス、バリウム含有ガラス、ストロンチウム含有ガラスおよびジルコニウムシリケートガラスなどのガラスフィラー、銀徐放性を有するフィラー、フッ素徐放性を有するフィラーなどを挙げることができる。これら無機充填材は単独であるいは組み合わせて使用することができる。
また、無機充填材と樹脂間に強固な結合を得るには、シラン処理、ポリマーコートなどの表面処理を施した無機充填材を使用することが好ましい。
さらに無機有機複合フィラーなどを挙げることができる。無機有機複合フィラーとしてはTMPTフィラー(トリメチロールプロパンメタアクリレートとシリカフィラーを混和、重合させた後に粉砕したもの)などが使用できる。
これらの無機充填材および無機有機複合充填材は、単独であるいは組み合わせて使用することができる。
本発明において、歯科用組成物の皮膜厚さを低減しおよび修復効果を向上させるためには、上述の通り、これら粒子の平均粒子径は、0.001〜30μmの範囲内にあること
が好ましく、さらに、0.01〜25μmの範囲内にあることが特に好ましい。
本発明の歯科用組成物において、フィラー(G)の使用量は、(A)成分、(B)成分、(C)成分、(D)成分および(F)成分(但し、(F)は0の場合もある)の合計100重
量%を基準に好ましくは15〜85重量%、より好ましくは20〜80重量%、更に好ましくは25〜75重量%の範囲内の量で使用される。
本発明の歯科用組成物には所望により(H)色素および/または顔料を添加しても良い。かかる色素および/または顔料としては、フロキシンBK、アシッドレッド、ファストアシッドマゼンダ、フロキシンB、ファストグリーンFCF、ローダミンB、塩基性フクシン、酸性フクシン、エオシン、エチスロシン、サフラニン、ローズベンガル、ベーメル、ゲンチアナ紫、銅クロロフィルソーダ、ラッカイン酸、フルオレセインナトリウム、コチニールおよびシソシン、タルク、チタンホワイトなどを挙げることができる。これらの色素および/または顔料は単独であるいは2種以上組み合わせて使用することができる。
本発明の歯科用組成物には所望により(I)水中においてフッ化物イオンを放出する化合物を添加しても良い。フッ化物イオンの徐放出性化合物である(I)成分としては、可溶性の有効フッ素イオンを組成物中に放出するものであれば、いずれのものも使用しうるものであり、例えば、フルオロリン酸二ナトリウム、フッ化スズ、フッ化ナトリウム、フッ化カリウム、フッ化ケイ素ナトリウム、フルオロアルミノシリケ−トガラス、フッ化アンモニウム等を使用することができるが、中でもフッ化ナトリウム、フッ化カルシウム、モノフルオロリン酸ナトリウム、フッ化第一スズの使用が好ましい。その配合量は、本発明の歯科用組成物の使用量と適用頻度、ならびに耐酸性や再石灰化の有効性と人体への影響を考慮して適宜設定される。フッ化物イオンの徐放出性化合物である(I)成分を配合することにより、硬組織の耐酸性の向上効果を期待できる。本発明において、このような(I)成分は、組成物中のフッ素イオン濃度として好ましくは0.0001〜5重量%、より好ましくは0.001〜2重量%、特に0.01〜1重量%の範囲が好ましい。この範囲以下である0.0001重量%未満では、所望の歯質の耐酸性効果や再石灰化効果が充分に表れず、5重量%を超えると、生体への為害性が懸念される。
なお、本発明の組成物においては、1つの成分にして、2種類以上のカテゴリーの性質を兼ね備えている化合物(例えば、成分(A)、成分(B)と、成分(F))が含まれる場合もありえる。
この様な場合の各成分の組成比率の計算方法の考え方については以下の仮定のモデルケースにて詳細を説明する。例えば、カテゴリーC(x)とC(y)の性質を有するもの(それぞれ、S(x)、S(y)とする)よりなる系を仮定し、その場合においては、(x)の性質を有し、か
つ、 (y)の性質を有するC(xy)という性質を持つものであるS(xy)も含まれるとする。この場合、S(xy)の総重量W(xy)は、1/2にしたものをそれぞれS(x)の総重量W(x)、S(y)の総
重量W(y)に数え入れ、各カテゴリー毎の重量比率R(x)やR(y)を計算することとする。
即ち、
R(x)={W(x)+W(xy)/2}/{W(x)+W(y)+W(xy)}×100
R(y)={W(y)+W(xy)/2}/{W(x)+W(y)+W(xy)}×100
として、計算するものである。このような2重従属性C(xy)が有る場合以外にも3重以上の
従属性を有する場合も同様に計算(W(xyz)/3)できる。つまり、n重従属性の重量分はn
で除してそれぞれ配分する。
なお、このように2種類以上のカテゴリーの性質を兼ね備えているものが存在する場合
は、計算上、重量比率の全合計(R(x)+R(y))が1(100重量%)を超えない。また、合計(R(x)+R(y))は、100重量部を越えないように各成分の重量部は前記各数値範
囲より選択されるものである。
本発明の歯科用組成物は、上述のように、
(A)分子内に少なくとも1つの酸性基と重合性基を有する化合物、
(B)分子内に1つの重合性基を有し、酸性基を有しない化合物、
(C)ポリ((メタ)アクリレート)粒子からなる充填材、
(D)リン酸テトラカルシウム(TTCP)とリン酸二カルシウム(DCP)とを含有するカルシウム含有材、
および
(E)重合開始剤からなり、これらの各成分の葉尾具お良は、上記(A)成分については、(A)成分と(B)成分との合計100重量部中に16〜70重量部の量で含有されており、(B)成分については(A)成分と(B)成分との合計100重量部中に84〜30重量部の量で含有されており、(C)成分については(A)成分と(B)成分との合計100重量部に対し0.2〜297重量部の範囲内の量で含有されており、さらに(D)成分いついては、(A)成分と(B)成分との合計100重量部に対して0.2〜297重量部の範囲内の量で含有されて本発明の歯科用組成物が構成されている。
ここで、構成されるとは、はじめから、この組成にて全て混合されていることに限定されるものではなく、必要に応じて、各成分を適宜分封して保存されていて、使用時に混合されることも含まれる。即ち、使用時に、前記重量部の比率にて混合して用いられる歯科用接着剤組成物も本発明に含まれる。
なお、歯科用接着剤組成物の具体的な保存形態としては、以下のような形態を例示することができる。
(1)酸性基を含有する重合性単量体(A)、酸性基を含有しない重合性単量体(B)と重合開始剤(E)が、互いに隔離されて包装されている保存形態。
(2)カルシウム含有(D)が、酸性基を有する重合性単量体(A)、重合性単量体(B)と重合開始剤(E)のいずれからも隔離された状態で包装されている保存形態。
(3)酸性基を有する重合性単量体(A)、重合性単量体(B)とポリ((メタ)アクリレート)からなる充填材(C)とが、互いに隔離されて包装されている保存形態。
および、
(4)ポリ((メタ)アクリレート)からなる充填材(C)とカルシウム含有材(D)が予め混合されている保存形態。
本発明の歯科用組成物を上記のような保存形態とするその理由は、次の通りである。
酸性基含有重合性単量体(A)、重合性単量体(B)と重合開始剤(E)とを、共存させて保管しておくと、保存中に重合反応が進行してしまい、実用に供することが不可能となるおそれがあるので、これらは個別に包装して保存することが好ましい。また、カルシウム含有材(D)は、他の素材に比較して比重の重い粒子形状であることが多いので、これらの成分を、それより低比重の液性であることが多い酸性基含有重合性単量体(A)、重合性単量体(B)、あるいは重合開始剤(E)と共存させておくと、保管中に沈殿、分離して粒子の凝集等が発生して好ましくない。酸性基含有重合性単量体(A)、重合性単量体(B)とポリ((メタ)アクリレート)からなる充填材(C)は、重合性基を有する化合物成分が共存すると、膨潤、融着を引き起こしやすくなり、これらの流動性を実質上喪失するおそれがある。またポリ((メタ)アクリレート)からなる充填材(C)とカルシウム充填材(D)は、いずれも非液性的な乾燥した粉末乃至は粒子状形態を好適にとることができるので、予め均一に混合しておくことにより、均質な粉材として利用可能であり、実用に供する際に、念入りに混ぜる作業を省略することができるので好ましい。
なお、カルシウム含有材(D)であるリン酸テトラカルシウム(TTCP)とリン酸二カルシウム(DCP)とは、水が存在すると、ハイドロキシアパタイトへの転化反応が進行するが、乾燥状態乃至は非水性溶媒系においては、ハイドロキシアパタイトへ転化する反応が実質上進行しないので、係る状態ならば、両者を混合して保持することができる。
本発明の歯科用組成物の使用の形態としては、上記(1)〜(4)で例示した保管状態から、各成分を混合皿に取り出し、使用時に混合して筆などを用いて患部に使用する方法などを挙げることができる。
〔実施例〕
以下、本発明を実施例によりさらに詳述するが、本発明は実施例により何ら限定されるものではない。
(略号の説明)
以下の実施例などで表記に略号の意味は次の通りである。
TTCP:リン酸テトラカルシウム(Ca4(PO42O)
DCP:リン酸二カルシウム(CaHPO4
MMA:メチルメタアクリレート
4−META:4−メタアクリロキシエチルトリメリット酸無水物
PMMA:ポリメチルメタアクリレート
(カルシウム含有材の調製)
TTCPおよびDCPをそれぞれ遊星ボールミルを用いて粉砕し、#280篩で分級した。分級したTTCP 36.7g(0.1mol)、DCP 13.6g(0.1mol)を再度遊星ボールミルを用いてよく混合し、カルシウム含有材を得た。得られたカルシウム充填材の平均粒径をレーザー回折・散乱式粒度分布計(LA−910、堀場製作所(株)製)で測定したところ、平均粒径1μm、最大粒径10μmであった。
(象牙質接着強度の測定)
ウシ下額前歯を注水下#180エメリーペーパーで研磨し平坦な接着用象牙質面を削りだし、水洗、乾燥した後、前記の面を粘着テープでマスキングして直径4.8mmの円形の接着面積を規定した。混合皿に所定組成のモノマー液を約0.09gとり、スーパーボンドキャタリスト(部分酸化トリブチルホウ素:(E)成分に相当、サンメディカル(株)製)約0.007g(モノマー液100部に対して7.8部)を滴下し、筆を用いてよく混合し、充分量を筆に含ませた後、下記に示す粉末を筆に付着させ、接着用筆で混合し、接着歯面に塗布、続いて、PMMA製接着ロッドを圧接して植立した。1時間経過後に接着したサンプルを37℃の蒸留水中浸漬し、24時間経過した後、クロスヘッドスピー
ド2mm/minで引張接着強さを評価した。これにより、接着材の基本特性を評価すること
ができる。
(辺縁封鎖性の評価)
ウシ下顎前歯を注水下#180エメリーペーパーで研磨し、平坦な象牙質表面を削りだし、歯科用エアタービンを用いて注水下、直径約3mm、深さ2mmの窩洞を形成した。窩洞表面を象牙質表面処理材グリーン(クエン酸と塩化第二鉄を主成分とする象牙質用の歯科用表面処理剤、サンメディカル(株)製)で10秒間処理し、水洗、乾燥させた。混合皿に所定組成からなるモノマー液((A)成分および(B)成分に相当)を約0.09gとり、スーパーボンドキャタリスト(部分酸化トリブチルホウ素:(E)成分に相当、サンメディカル(株)製)約0.007g(モノマー液100重量部に対して7.8重量部)を滴下し、後述する粉末0.08gと接着用筆で混合し、窩洞内部に充填し、充填した表面をセロハン(登録商標)で被覆した後に37℃、飽和湿度で一晩放置した。放置後、充填面を#600エメリーペーパーで注水下研磨し、平滑な表面をした後に、0.3%塩基性フクシン水溶液中に充填した歯牙を3分間浸漬した。フクシン水溶液から取り出した歯牙を蒸留水で洗浄した後に、充填面をさらに#100エメリーペーパーで注水下研磨し、研磨表面から歯質への方向にフクシンが浸入しているかをマイクロスコープにより観察した。さらに窩洞の切削方向に対し平行に充填歯牙を割断し、窩洞表面より歯質内部方向へフクシンが浸入しているかを同様にマイクロスコープを用いて観察した。ともにフクシンの浸入がないものを○、フクシンの浸入があったものを×と評価した。
上述の象牙質接着試験および辺縁封鎖性試験において、モノマー液としてMMA 80g、4−META 20gからなる混合物を使用し、充填材として上記カルシウム含有材3g、PMMA(スーパーボンド粉材クリア、サンメディカル(株)製)97gを遊星ボールミルを用いて混合したものを使用した。
結果を表1に示す。
上述の象牙質接着試験および辺縁封鎖性試験において、モノマー液としてMA 80g、4−META 20gからなる混合物を使用し、充填材として上記カルシウム充填材30g、PMMA(スーパーボンド粉材クリア、サンメディカル(株)製)70gを遊星ボールミルを用いて混合したものを使用した。
結果を表1に示す。
上述の象牙質接着試験および辺縁封鎖性試験において、モノマー液としてMMA 70g、4−META 30gからなる混合物を使用し、に充填材として上記カルシウム充填材3g、PMMA(スーパーボンド粉材クリア、サンメディカル(株)製)97gを遊星ボールミルを用いて混合したものを使用した。
結果を表1に示す。
上述の象牙質接着試験および辺縁封鎖性試験において、モノマー液としてMMA 70g、4−META 30gからなる混合物を使用し、充填材として上記カルシウム充填材30g、PMMA(スーパーボンド粉材クリア、サンメディカル(株)製)70gを遊星ボールミルを用いて混合したものを使用した。
結果を表1に示す。
〔比較例1〕
上述の象牙質接着試験および辺縁封鎖性試験において、モノマー液としてMMAを、充填材として上記カルシウム充填材3g、PMMA(スーパーボンド粉材クリア、サンメディカル(株)製)97gを遊星ボールミルを用いて混合したものを使用した。結果を表1に示す。酸性モノマーを含有していないために接着しないものと考えられた。
〔比較例2〕
上述の象牙質接着試験および辺縁封鎖性試験において、モノマー液としてMMA 95g、4−META 5gからなる混合物を使用し、充填材として上記カルシウム充填材3g、PMMA(スーパーボンド粉材クリア、サンメディカル(株)製)97gを遊星ボールミルを用いて混合したものを使用した。
結果を表1に示す。酸性モノマーが歯質に拡散する前にCPCと反応してしまうために低濃度では接着強度が低いと考えられた。
Figure 0004912655

Claims (8)

  1. (A)分子内に少なくとも1つの酸性基と重合性基を有する化合物、
    (B)分子内に1つの重合性基を有し、酸性基を有しない化合物、
    (C)ポリ((メタ)アクリレート)粒子からなる充填材、
    (D)リン酸テトラカルシウム(TTCP)とリン酸二カルシウム(DCP)とを含有するカルシウム含有材、
    および
    (E)重合開始剤からなり、
    上記(A)成分が、4−(メタ)アクリロキシエチルトリメリット酸および/またはその酸無水物であり、かつ、(A)成分と(B)成分との合計100重量部中に2040重量部の量で含有されており、(B)成分が、メチルメタクリレートであり、かつ、(A)成分と(B)成分との合計100重量部中に6080重量部の量で含有されており、(C)成分が、(A)成分と(B)成分との合計100重量部に対し0.2〜297重量部の範囲内の量で含有されており、さらに(D)成分が、(A)成分と(B)成分との合計100重量部に対して0.2〜297重量部の範囲内の量で含有されていることを特徴とする歯科用組成物。
  2. リン酸テトラカルシウム(TTCP)とリン酸二カルシウム(DCP)とを配合モル比(TTCP/DCP)0.33〜3.5の範囲内にあることを特徴とする請求項1に記載の歯科用組成物。
  3. 上記歯科用組成物が、さらに(F)多官能(メタ)アクリレート化合物を含むことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の歯科組成物。
  4. 上記歯科用組成物が、さらに(G)無機フィラーあるいは無機有機複合化フィラーを含むことを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の歯科用組成物。
  5. 上記歯科用組成物が、さらに(H)色素および/または顔料を含むことを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載の歯科用組成物。
  6. 上記歯科用組成物が、さらに(I)水中においてフッ化物イオンを放出する化合物を含むことを特徴とする請求項1乃至請求項5いずれか1項に記載の歯科用組成物。
  7. 上記重合開始剤(E)が、トリアルキルホウ素化合物であることを特徴とする請求項1乃至請求項のいずれか1項に記載の歯科用組成物。
  8. 上記重合開始剤(E)が、トリブチルホウ素および/またはその部分酸化物であることを特徴とする請求項1乃至請求項のいずれか1項に記載の歯科用組成物。
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