JP4911836B2 - 温度ヒューズ用可溶性合金および温度ヒューズ用線材および温度ヒューズ - Google Patents

温度ヒューズ用可溶性合金および温度ヒューズ用線材および温度ヒューズ Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は過度の温度上昇による電気機器の熱破損を防止する温度ヒューズ、およびこの温度ヒューズの温度ヒューズ素子を形成する温度ヒューズ用線材、およびこの温度ヒューズ用線材を形成する温度ヒューズ用可溶性合金に関する。
【0002】
【従来の技術】
温度ヒューズは、テレビやビデオあるいはトランスや二次電池といった電気機器の電気回路に組み込まれている。そして、これらの電気機器が過度の温度上昇により熱破損することを防止している。例えば、二次電池において、何らかの事情により正極と負極とが短絡すると、急激な放電が起こる。そしてこの放電により電池は発熱する。発熱により電池が過度に昇温すると、電池が熱破損するおそれがある。このとき、電池に組み込まれている温度ヒューズは、周囲温度が動作温度に到達したことを検知し、溶断する。そして、この溶断により正極と負極との短絡を断ち、電池の温度を下降させる。
【0003】
ところで、温度ヒューズを構成する部材のうち、実際に溶断するのは可溶性合金製の温度ヒューズ素子である。したがって、温度ヒューズの動作温度と温度ヒューズ素子を形成する可溶性合金の溶融温度とは、ほぼ一致する。近年においては、特に動作温度が100℃以下の温度ヒューズの需要が高まっている。従来から、動作温度が100℃以下の温度ヒューズには、溶融温度が100℃以下であるウッドメタル(Sn−Bi−Pb−Cd)、セルロー(Sn−Bi−Pb−Cd−In)、ニュートン合金(Bi−Pb−Sn)などの可溶性合金が使用されていた。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上記列挙した可溶性合金は、いずれも鉛を含有している。そして近年、廃棄された電気機器の温度ヒューズから自然環境中に鉛が溶出することが問題となっている。このため、工業材料として可能な限り鉛を使用しないことが世界的な趨勢となっている。また、鉛の代替材料の検討が、業界において重要な課題の一つとなっている。
【0005】
そこで、鉛を含まない温度ヒューズ用可溶性合金について鋭意研究を重ねた結果、本発明者は、鉛を含まなくてもほぼ100℃以下の温度において溶融する可溶性合金を得ることができるとの知見を得た。
【0006】
本発明の温度ヒューズ用可溶性合金および温度ヒューズ用線材および温度ヒューズは、上記知見に基づいてなされたものである。したがって、本発明は、溶融温度がほぼ100℃以下で、かつ鉛を含有しない温度ヒューズ用可溶性合金、およびこの可溶性合金からなる温度ヒューズ用線材(以下、適宜「線材」と称す。)、およびこの線材からなる温度ヒューズ素子を有する温度ヒューズを提供することを目的とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決するため、本発明の温度ヒューズ用可溶性合金は、34質量%以上42質量%以下のビスマスと1質量%以上20質量%以下のスズとを含み、残部がインジウムと不可避不純物とからなることを特徴とする。
【0008】
【0009】
本発明の温度ヒューズ用可溶性合金は鉛を含有しない。このため、この可溶性合金を用いた温度ヒューズが廃棄されても、自然環境に与える影響は極めて小さい。また、上記組成範囲を有する本発明の温度ヒューズ用可溶性合金は、従来の鉛を含有した可溶性合金と同様に、100℃以下の溶融温度を有する
【0010】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の温度ヒューズ用可溶性合金および温度ヒューズ用線材および温度ヒューズの実施の形態について説明する。
【0011】
〈温度ヒューズ用可溶性合金〉
第一に、本発明の温度ヒューズ用可溶性合金について説明する。本発明の可溶性合金は、不可避不純物を除外すれば、ビスマス(Bi)とスズ(Sn)とインジウム(In)とから形成されている。
【0012】
(1)まず、可溶性合金にBiとSnとInとを含有させた理由について説明する。Biを可溶性合金に含有させた理由は、Biは、他の金属と比較して、合金の溶融温度を低下させる効果が著しく大きいからである。またSnを可溶性合金に含有させた理由は、Snを含有させると可溶性合金の濡れ性が向上するからである。またInを可溶性合金に含有させた理由は、InもBi同様に、合金の溶融温度を低下させる効果が大きいからである。
【0013】
(2)次に、可溶性合金の固相化温度および液相化温度と、可溶性合金の溶融温度との関係について説明する。温度ヒューズが昇温され溶断する過程において、温度ヒューズ素子を形成する可溶性合金は固相→固液共存相→液相と相変化する。ここで固相と固液共存相との境界温度が、可溶性合金の固相化温度である。また固液共存相と液相との境界温度が、可溶性合金の液相化温度である。
【0014】
温度ヒューズ素子の溶断温度、つまり可溶性合金の溶融温度は、固相化温度と液相化温度との間にある。ただし、これらの温度間の相状態である固液共存相において、固相に対する液相の割合がより高い方が、温度ヒューズ素子は溶断しやすい。このため、溶融温度は、固相化温度と液相化温度との間において、液相化温度寄りに存在する傾向が高い。したがって、例えば可溶性合金の固相化温度が70℃であり液相化温度が100℃であれば、この可溶性合金の溶融温度は70℃から100℃の間において100℃近傍にある場合が多い。
【0015】
図1にBi−Sn−In合金の液相面図を示す。図において、wt%とは質量(mass)%を意味する。また図中に、100℃の等温線と75℃の等温線とを、それぞれ実線で示す。ちなみに等温線で囲まれた領域は、その等温線の温度よりも低い液相化温度を有する領域である。また、図において右上がり斜線部分の上から横縞を重ね描いた平行四辺形状の範囲が、本発明の可溶性合金の組成範囲である。図に示すように、この組成範囲のほとんどの部分は、100℃の等温線内、さらには75℃の等温線内の領域に入っている。すなわち本発明の可溶性合金の液相化温度、つまり溶融温度は、ほぼ75℃以下である。
【0016】
(3)次に、本発明の可溶性合金における、Biの含有割合を34質量%以上42質量%以下とし、Snの含有割合を1質量%以上20質量%以下とし、残部をInと不可避不純物とした組成範囲(図中、右上がり斜線部分の上から横縞を重ね描いた部分)について、このように組成範囲を限定した理由を説明する。
【0017】
【0018】
まず、Biの含有割合を34質量%以上に限定した理由について説明する。図に示すように、Bi含有割合が34質量%未満の領域であっても、その分In含有割合を高くすれば、液相化温度は100℃以下となる。しかしながら、Biは延性が低い一方、硬度が高いという性質を有する。またBiとは対称的に、Inは延性が高い一方、硬度が低いという性質を有する。このためBi含有割合を34質量%未満とすると、Biの硬度が高いという性質が合金に発現しにくくなる。その一方、Inの延性が高いという性質が合金に過度に発現する。したがって、可溶性合金が過度に柔らかくなり、例えば可溶性合金を線材に加工する際の作業性が低下する。またInは、BiおよびSnと比較して高価である。このためBiの含有割合を低くしInの含有割合を高くすると、可溶性合金の製造コストが高くなる。Bi含有割合を34質量%以上に限定したのは以上の理由からである。
【0019】
次に、Biの含有割合を42質量%以下に限定した理由について説明する。Biの含有割合が42質量%を超えると、図に示すように、液相化温度が75℃を超える部分が広くなる。Bi含有割合を42質量%以下に限定したのは以上の理由からである。
【0020】
次に、Snの含有割合を1質量%以上に限定した理由について説明する。図に示すように、Snを全く含有しない領域であっても、液相化温度が100℃以下の領域は存在する。しかしながら、Snを含有させると、この液相化温度が100℃以下の領域が、線状から面状になる。すなわち液相化温度が100℃以下の領域がより広くなる。このことは、同一の液相化温度を有する可溶性合金を、種々の組成により作製できることを意味する。このため、同一の動作温度でありながら機械的特性のみ異なるバリエーションに富んだ温度ヒューズを提供することができる。また、Snの含有割合が1質量%未満だと可溶性合金の濡れ性が低下する。つまり、Snの有する濡れ性向上効果が可溶性合金に充分に発現しない。可溶性合金の濡れ性が低いと、この可溶性合金から形成される温度ヒューズ素子を温度ヒューズに組み込む際、具体的には温度ヒューズ素子の両端をリード線と接合する際、接合が困難で作業性が低下する。Snの含有割合を1質量%以上に限定したのは以上の理由からである。
【0021】
次に、Snの含有割合を20質量%以下に限定した理由について説明する。SnはBiおよびInと比較して、可溶性合金の溶融温度を下げる効果が小さい。したがって、Snの含有割合が高いと可溶性合金の溶融温度が高くなる。具体的には、図に示すように、Snの含有割合が20質量%を超える場合、液相化温度が75℃を超える部分が広くなる。Snの含有割合を20質量%以下に限定したのは以上の理由からである。
【0022】
なお、残部をInとしたのは、上述したように、InはBi同様に可溶性合金の溶融温度を低下させる効果が大きいからである。また、Biとは対称的に硬度が低く延性に富む性質を有するため、特にBiと組み合わせて含有させると、可溶性合金の機械的特性を操作しやすいからである。
【0023】
このように、3質量%以上42質量%以下のビスマスと1質量%以上20質量%以下のスズとを含むとともに残部がインジウムと不可避不純物とからなる組成範囲に限定することにより、特に液相化温度が75℃以下、つまり溶融温度が75℃以下の可溶性合金を作製することができる。
【0024】
【0025】
【0026】
【0027】
【0028】
【0029】
【0030】
【0031】
【0032】
(5)以上、本発明の温度ヒューズ用可溶性合金の組成について説明した。本発明の温度ヒューズ用可溶性合金によると、上記組成範囲内において、Bi、Sn、Inの含有割合を調整することにより、合金の溶融温度を自在にコントロールすることができる。そして100℃以下さらには75℃以下の任意の動作温度に対応する温度ヒューズ用線材および温度ヒューズを提供することができる。
【0033】
ここで、好ましくは可溶性合金の組成を、上記組成範囲内において、図中一点鎖線で示す三本の二元系共融線近傍あるいは、これら三本の二元系共融線が集まる三元系共融点近傍の組成とする構成がよい。
【0034】
上述したように、可溶性合金の溶融温度は固相化温度と液相化温度との間のいずれかに存在する。言い換えると、溶融温度は、固相化温度と液相化温度との間に、一定のばらつきを持って存在する。したがって、例えば、同じ組成の可溶性合金を用いて複数の温度ヒューズを作製しても、これらの温度ヒューズの動作温度はばらつくことになる。温度ヒューズの動作温度、つまり可溶性合金の溶融温度のばらつきは、固相化温度と液相化温度との間隔(以下、「△T」と称す。)が小さい程、より小さくなる。
【0035】
本構成の可溶性合金の組成は、二元系共融線近傍および三元系共融点近傍に設定されている。そして、二元系共融線近傍および三元系共融点近傍においては、固相化温度と液相化温度とが近接している。このため、本構成の可溶性合金の△Tは極めて小さい。したがって、本構成の可溶性合金は溶融温度のばらつきが極めて小さい。よって、本構成の可溶性合金を温度ヒューズに用いると、動作温度のばらつきが極めて小さく高精度の温度ヒューズを提供することができる。
【0036】
〈温度ヒューズ用線材〉
第二に、本発明の温度ヒューズ用線材について説明する。本発明の温度ヒューズ用線材は、上記組成範囲を有する温度ヒューズ用可溶性合金により形成されている。本発明の線材は、従来から線材の製造に用いられてきた種々の方法により製造することができる。その一例として引抜き法について説明する。
【0037】
(1)引抜き法は、線材を形成する可溶性合金の原料を溶融炉に配合する原料配合工程、配合した原料を溶融させ合金を調製し型に流し込みビレットを作るビレット作製工程、ビレットから粗線材を作製する粗線材作製工程、粗線材を細線化し線材を作製する細線化工程からなる。
【0038】
まず、原料配合工程では、線材の原料であるBi、Sn、Inの地金を所望の組成となるように秤量、配合し溶融炉に投入する。次に、ビレット作製工程では、配合原料を300〜320℃の温度下で溶融させBi−Sn−In合金を調製する。そしてこの溶融状態の調製合金を型に流し込み、柱状のビレットを作製する。次に、粗線材作製工程では、型からビレットを取り出し、押出し成形機により押し出し成形することで線径の大きい粗線材を作製する。最後に、細線化工程では、この粗線材を引抜き成形機にかけ、成形機の型に設けられたダイス隙間から引き抜くことにより粗線材の線径の小径化、つまり細線化を行う。この細線化は、具体的には粗線材を直列に並んだ複数のダイス隙間に通すことにより行う。ダイス隙間は下流側ほど小径に設定されている。このため、粗線材は複数のダイス隙間を通る間に徐々に細線化される。したがって、粗線材を通過させるダイス隙間の数を増減することで、線材の線径を調整することができる。
【0039】
(2)引抜き法では、押し出し成形工程の後に、引抜き成形を行う細線化工程が設定されている。この引き抜き法のように、引抜き成形を行う工程を持つ製造方法の利点は、他の製造方法、例えば押し出し成形工程のみを有する製造方法と比較して、より線径の細い線材を作製できる点である。ここで、可溶性合金、すなわち粗線材中のBi含有割合が高いと、引抜き成形を行う工程において、脆性により粗線材が切れるおそれがある。この点、本発明の温度ヒューズ用線材は、Bi含有割合が適切で適度の延性を有する。したがって、引抜き成形を行う工程を有する製造方法により作製することができる。このため、本発明の温度ヒューズ用線材は、線径の細線化が容易である。したがって、本発明の線材は、例えばボビンなどに巻回して収納する場合でも巻回数を多くすることができ、収納性に優れている。
【0040】
また、本発明の温度ヒューズ用線材の溶断温度は、100℃以下さらには75℃以下である。近年、この温度域で溶断する線材を用いた温度ヒューズは、携帯電話、ビデオカメラ、ノート型パソコンなどの機器の二次電池用として需要が高まっている。これらの機器は利用の便から小型化の一途をたどっている。そして機器の小型化のため、二次電池の小型化が急務となっている。ここで二次電池を小型化するためには、その部品である温度ヒューズを小型化すればよい。このため温度ヒューズに用いる線材もより細い方が好ましく、具体的には断面積が0.3mm以下である方が好ましい。この点、本発明の温度ヒューズ用線材は細線化が容易である。このため、特別な成形装置などを用いることなく、線材の断面積を0.3mm以下にすることができる。
【0041】
なお、本発明の線材の断面形状は特に限定するものではない。すなわち断面が真円状のものは勿論、楕円状あるいは多角形状など従来から用いられている様々の形状とすることができる。
【0042】
〈温度ヒューズ〉
第三に、本発明の温度ヒューズについて説明する。図2に本発明の温度ヒューズの一例として筒型温度ヒューズの断面図を示す。
【0043】
(1)まず、温度ヒューズ1の構成について説明する。温度ヒューズ1は、温度ヒューズ素子10とリード線13とフラックス11とセラミックケース12とからなる。温度ヒューズ素子10は、長手方向両端にこぶのある棒状、すなわちダンベル状を呈している。この温度ヒューズ素子10は本発明の可溶性合金からなる。リード線13は、温度ヒューズ素子10の長手方向両端に接合されている。リード線13は銅製である。フラックス11は、ヒューズ素子10の表面を覆って配置されている。フラックス11は、松脂を主成分とし、これに活性剤やチキソ剤などを添加したものである。このフラックス11は、活性の高い温度ヒューズ素子10の表面に酸化膜が形成されるのを抑制する役割を有する。またフラックス11は、温度ヒューズ素子10が溶断したとき溶断面を包み込み、再び溶断面同士がつながるのを防止する役割を有する。セラミックケース12は円筒状を呈しており、上記温度ヒューズ素子10、リード線13、フラックス11を密閉収納して設置されている。セラミックケース12は、これらの部材を保護する役割を有する。またセラミックケース12は、温度ヒューズ素子10が溶断し、可溶性合金が液化した際、この液状の可溶性合金が電気回路に漏出するのを防止する役割を有する。
【0044】
次に、温度ヒューズ1の動作について説明する。何らかの事情により、温度ヒューズ1の周辺温度が上昇し温度ヒューズ1の動作温度に達すると、温度ヒューズ素子10は溶断する。そして溶断した温度ヒューズ素子10の溶断面をフラックス11が覆う。これにより温度ヒューズ10両端に接合されたリード線13間の電気的導通を遮断する。
【0045】
(2)次に、温度ヒューズ1の製造方法について説明する。温度ヒューズ1は、従来からヒューズの製造に用いられている種々の方法により製造することができる。例えば、まず上記温度ヒューズ用線材を切断し温度ヒューズ素子10を作製する。次に、作製した温度ヒューズ素子10の両端をレーザにより半溶融状態とし、この両端にリード線13を接合する。それから、温度ヒューズ素子10の表面にフラックス11を塗布する。そして最後に、この温度ヒューズ素子10とリード線13とフラックス11との接合体を、セラミックケース12内に封入、収納する。以上のような方法により製造することができる。
【0046】
本発明の温度ヒューズに組み込まれる温度ヒューズ素子は、適度な延性および硬度を持っている。このため機械的な衝撃などにより断線するおそれが小さい。また、この温度ヒューズ素子は濡れ性が高い。したがってリード線との接合性が良好で、機械的な衝撃などによりリード線から分離するおそれが小さい。このため本発明の温度ヒューズは機械的衝撃に対する信頼性が高い。
【0047】
(3)なお、本発明の温度ヒューズの形状は、図に示す筒型ヒューズの他、従来から用いられている様々の形状に具現化することができる。例えば温度ヒューズ素子とリード線とフラックスとの接合体を、二枚の絶縁板で挟持したカード型温度ヒューズとして具現化してもよい。
【0048】
〈その他〉
以上、本発明の温度ヒューズ用可溶性合金、温度ヒューズ用線材、温度ヒューズの実施形態について説明した。しかしながら、実施形態は上記形態に限定されるものではない。当業者が行いうる種々の変形的形態あるいは改良的形態で実施してもよい。
【0049】
【実施例】
上記実施形態に基づいて、所定の組成を有する可溶性合金からなるインゴットを作製した。そしてこのインゴットから粉末サンプルと線材サンプルを採取した。これら二つのサンプルのうち、粉末サンプルにより可溶性合金の溶融温度特性を測定した。また線材サンプルにより、可溶性合金からなる線材の溶断温度特性を測定した。
【0050】
〈サンプルの作製方法〉
(1)参考例1−1、参考例1−2
参考例1−1および参考例1−2のサンプルは、33質量%のBi、16質量%のSn、51質量%のInという組成を有する可溶性合金からなる。これらのサンプルは以下の方法により作製した。まず、純度99.99%のBi、純度99.99%のSn、純度99.99%のInを所定量秤量し、溶融炉に投入した。次に、投入したBi、Sn、Inを300℃の温度下で溶融攪拌し合金の調製を行った。そして調製後の合金を型に流し込み放冷および脱型することでインゴットを作製した。
【0051】
このようにして作製したインゴットから質量1gの粉末サンプルを採取した。そして、このサンプルを参考例1−1とした。また同様に、インゴットから断面積0.12mmの線材サンプルを作製した。なお線材サンプルの作製方法は、前述した引抜き法により行った。そして、このサンプルを参考例1−2とした。なお、調整後の合金を型に流し込む際、化学分析にて合金組成の確認を行った。
【0052】
(2)実施例2−1、実施例2−2
実施例2−1および実施例2−2のサンプルは、40質量%のBi、15質量%のSn、45質量%のInという組成を有する可溶性合金からなる。実施例2−1および実施例2−2のサンプルも、参考例1−1および参考例1−2のサンプルと同様の方法により作製した。
【0053】
実施例2−1のサンプルの質量は、参考例1−1のサンプルの質量と同量とした。また、実施例2−2のサンプルの断面積は、参考例1−2のサンプルの断面積と同面積とした。なお、実施例2−1および実施例2−2のサンプルも、参考例1−1および参考例1−2のサンプルと同様に化学分析にて合金組成の確認を行った。
【0054】
(3)実施例3−1、実施例3−2
実施例3−1および実施例3−2のサンプルは、34質量%のBi、2質量%のSn、64質量%のInという組成を有する可溶性合金からなる。実施例3−1および実施例3−2のサンプルも参考例1−1および参考例1−2のサンプルと同様の方法により作製した。
【0055】
実施例3−1のサンプルの質量は、参考例1−1のサンプルの質量と同量とした。また、実施例3−2のサンプルの断面積は、参考例1−2のサンプルの断面積と同面積とした。なお、実施例3−1および実施例3−2のサンプルも、参考例1−1および参考例1−2のサンプルと同様に化学分析にて合金組成の確認を行った。
【0056】
(4)参考例4−1
参考例4−1のサンプルは、61質量%のBi、21質量%のSn、18質量%のInという組成を有する可溶性合金からなる。参考例4−1のサンプルも参考例1−1のサンプルと同様の方法により作製した。
【0057】
参考例4−1のサンプルの質量は、参考例1−1のサンプルの質量と同量とした。なお、参考例4−1のサンプルも、参考例1のサンプルと同様に化学分析にて合金組成の確認を行った。
【0058】
(5)参考例5−1、参考例5−2
参考例5−1および参考例5−2のサンプルは、61質量%のBi、23質量%のSn、16質量%のInという組成を有する可溶性合金からなる。参考例5−1および参考例5−2のサンプルも参考例1−1および参考例1−2のサンプルと同様の方法により作製した。
【0059】
参考例5−1のサンプルの質量は、参考例1−1のサンプルの質量と同量とした。また、参考例5−2のサンプルの断面積は、参考例1−2のサンプルの断面積と同面積とした。なお、参考例5−1および参考例5−2のサンプルも、参考例1−1および参考例1−2のサンプルと同様に化学分析にて合金組成の確認を行った。
【0060】
(6)参考例6−1
参考例6−1のサンプルは、60質量%のBi、8質量%のSn、32質量%のInという組成を有する可溶性合金からなる。参考例6−1のサンプルも参考例1−1のサンプルと同様の方法により作製した。
【0061】
参考例6−1のサンプルの質量は、参考例1−1のサンプルの質量と同量とした。なお、参考例6−1のサンプルも、参考例1−1のサンプルと同様に化学分析にて合金組成の確認を行った。
【0062】
〈測定方法〉
(1)可溶性合金の溶融温度特性の測定
測定に用いたサンプルは、実施例2−1、3−1、参考例1−1、4−1、5−1、6−1の粉末サンプルである。測定は、これらのサンプルを、加熱炉にて徐々に加熱し、熱分析計(以下、「TA」と称す。)、示差走査熱量計(以下、「DSC」と称す。)を用いて溶融温度特性を調べることにより行った。また加熱炉の昇温パターンは、測定前の温度を40℃、昇温速度を毎分10℃、最終保持温度を150℃とした。
【0063】
(2)線材の溶断温度特性の測定
測定に用いたサンプルは、実施例2−2、3−2、参考例1−2、5−2の線材サンプルである。測定は、電流を流すことによりこれらのサンプルを加熱し、サンプルが完全に溶断したときの温度を測定することにより行った。なお溶断温度のばらつきを調べるため、サンプルは複数本作製した。そして測定も複数回行った。
【0064】
〈測定結果〉
(1)可溶性合金の溶融温度特性の測定結果
参考例1−1のサンプルを昇温したときの、TAによる測定結果を図3に示す。図中、測定曲線において昇温してもサンプルの温度が上昇しない部分、すなわち測定曲線の傾きが平らになっている部分は、サンプルを形成する可溶性合金が、固相から固液共存相に、または固液共存相から液相に相変化している部分である。したがって、このときの温度が固相化温度または液相化温度に相当する。図から、温度が約60℃のとき測定曲線の傾きが平らになっているのが判る。
【0065】
また、DSCによる測定結果を図4に示す。図中、測定曲線は下方に突出するピークを示している。このピーク開始点は、サンプルを形成する可溶性合金が、固相から固液共存相に相変化する点に相当する。したがって、このときの温度が固相化温度に相当する。図から、温度が約60℃のときに測定曲線にピーク開始点があることが判る。
【0066】
これらのことから、参考例1−1のサンプルを形成する可溶性合金は、約60℃で、固相から固液共存相を経て液相へと相変化することが判る。すなわち、参考例1−1においては約60℃が固相化温度であるとともに液相化温度であり、△Tは約0℃であることが判る。
【0067】
同様に実施例2−1のサンプルを昇温したときの、TAによる測定結果を図5に示す。図から、温度が約64℃のとき測定曲線の傾きが平らになっているのが判る。また、DSCによる測定結果を図6に示す。図から、温度が約61℃のときに測定曲線にピーク開始点があることが判る。すなわち、実施例2−1においては約61℃が固相化温度、約64℃が液相化温度であり、△Tは約3℃であることが判る。
【0068】
同様に実施例3−1のサンプルを昇温したときの、TAによる測定結果を図7に示す。図から、温度が約72℃のとき測定曲線の傾きが平らになっているのが判る。また、DSCによる測定結果を図8に示す。図から、温度が約71℃のときに測定曲線にピーク開始点があることが判る。すなわち、実施例3−1においては約71℃が固相化温度、約72℃が液相化温度であり、△Tは約1℃であることが判る。
【0069】
同様に参考例4−1のサンプルを昇温したときの、TAによる測定結果を図9に示す。図から、温度が約79℃および約91℃のとき測定曲線の傾きが平らになっているのが判る。また、DSCによる測定結果を図10に示す。図から、温度が約79℃のときに測定曲線にピーク開始点があることが判る。すなわち、参考例4−1においては約79℃が固相化温度、約91℃が液相化温度であり、△Tは約12℃であることが判る。
【0070】
同様に参考例5−1のサンプルを昇温したときの、TAによる測定結果を図11に示す。図から、温度が約79℃および約95℃のとき測定曲線の傾きが平らになっているのが判る。また、DSCによる測定結果を図12に示す。図から、温度が約79℃のときに測定曲線にピーク開始点があることが判る。すなわち、参考例5−1においては約79℃が固相化温度、約95℃が液相化温度であり、△Tは約16℃であることが判る。
【0071】
同様に参考例6−1のサンプルを昇温したときの、TAによる測定結果を図13に示す。図から、温度が約80℃および約95℃のとき測定曲線の傾きが平らになっているのが判る。また、DSCによる測定結果を図14に示す。図から、温度が約80℃のときに測定曲線にピーク開始点があることが判る。すなわち、参考例6−1においては約80℃が固相化温度、約95℃が液相化温度であり、△Tは約15℃であることが判る。
【0072】
以上の測定結果から各サンプルの組成、固相化温度、液相化温度、△Tをまとめて表1に示す。
【0073】
【表1】
Figure 0004911836
【0074】
表1から、実施例2−1、3−1、参考例1−1の液相化温度は、いずれも75℃以下であることが判る。またこれらのサンプルの△Tは、いずれも3℃以内と極めて小さいことが判る。
【0075】
また表1から、参考例4−1、5−1、6−1の液相化温度は、いずれも75℃を超え、かつ100℃以下であることが判る。またこれらのサンプルの△Tは、いずれも20℃以内と小さいことが判る。
【0076】
(2)線材の溶断温度特性の測定結果
実施例2−2、3−2、参考例1−2、5−2の各サンプルに電流を流し、各サンプルが完全に溶断したときの温度を溶断温度とした。溶断温度の測定は、上述したように各サンプルにつき複数回行った。そして、各サンプルごとに溶断温度の平均値を算出した。各サンプルの組成、溶断温度をまとめて表2に示す。
【0077】
【表2】
Figure 0004911836
【0078】
表2から、実施例2−2、3−2、参考例1−2の溶断温度は、いずれも75℃以下であることが判る。また、溶断温度のばらつきは、いずれも±3℃以下と極めて小さいことが判る。
【0079】
また表2から、参考例5−2の溶断温度は95℃であり、75を超え、かつ100℃以下であることが判る。また、溶断温度のばらつきは、±5℃以下と小さいことが判る。
【0080】
【発明の効果】
本発明によると、鉛を含有せずかつ100℃以下の溶融温度を有する温度ヒューズ用可溶性合金、およびこの可溶性合金から形成された温度ヒューズ用線材、およびこの線材から形成された温度ヒューズ素子を有する温度ヒューズを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 Bi−Sn−In合金の液相面図である。
【図2】 温度ヒューズの断面図である。
【図3】 参考例1−1のTAによる測定結果を示すグラフである。
【図4】 参考例1−1のDSCによる測定結果を示すグラフである。
【図5】 実施例2−1のTAによる測定結果を示すグラフである。
【図6】 実施例2−1のDSCによる測定結果を示すグラフである。
【図7】 実施例3−1のTAによる測定結果を示すグラフである。
【図8】 実施例3−1のDSCによる測定結果を示すグラフである。
【図9】 参考例4−1のTAによる測定結果を示すグラフである。
【図10】 参考例4−1のDSCによる測定結果を示すグラフである。
【図11】 参考例5−1のTAによる測定結果を示すグラフである。
【図12】 参考例5−1のDSCによる測定結果を示すグラフである。
【図13】 参考例6−1のTAによる測定結果を示すグラフである。
【図14】 参考例6−1のDSCによる測定結果を示すグラフである。
【符号の説明】
1:温度ヒューズ、10:ヒューズ素子、11:フラックス、12:セラミックケース、13:リード線。

Claims (3)

  1. 電気回路に組み込まれる温度ヒューズに用いられ、34質量%以上42質量%以下のビスマスと1質量%以上20質量%以下のスズとを含み、残部がインジウムと不可避不純物とからなる温度ヒューズ用可溶性合金。
  2. 電気回路に組み込まれる温度ヒューズに用いられ、請求項1に記載の温度ヒューズ用可溶性合金により形成された温度ヒューズ用線材。
  3. 請求項2に記載の温度ヒューズ用線材により形成された温度ヒューズ素子を有し、電気回路に組み込まれる温度ヒューズ。
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