JP4909327B2 - 磁気抵抗膜ならびに磁気抵抗膜を用いた磁気記録用磁気ヘッド、磁気センサ及び磁気メモリー - Google Patents

磁気抵抗膜ならびに磁気抵抗膜を用いた磁気記録用磁気ヘッド、磁気センサ及び磁気メモリー Download PDF

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Description

本発明は、磁気抵抗膜に関するものであり、特に、フッ化物からなる絶縁マトリックスに分散した磁性グラニュール合金と、不可避的不純物とからなり、室温で高い磁気抵抗比と電気抵抗率を有する金属―絶縁体ナノグラニュラー磁気抵抗膜に関する。さらに詳しく述べるならば、本発明は、磁気抵抗膜の耐熱性を高めるために、フッ化物構成元素をMg、Al、Ca、Sr、Ba及びGdから選択される1種以上とSiとの組合わせに特定した磁気抵抗膜に関する。さらにまた、本発明は、磁気抵抗膜を用いた磁気ヘッド、磁気センサ及び磁気メモリに関するものである。
磁気抵抗効果(MR)材料は磁気センサや磁気記録読出し用磁気ヘッド、磁気メモリーなどの磁気デバイス用薄膜材料が広く使用されている。磁気抵抗効果(MR)とは、材料に作用する磁界の大きさや方向の変化によって、材料の電気抵抗率が変化する現象であり、MRが発現する原理の違いによって幾つかの材料系に分類される。主な材料系は、異方的磁気抵抗効果(AMR)を利用するパーマロイなど、巨大磁気抵抗効果(GMR)を利用した金属多層膜、磁性金属と薄い絶縁体との積層構造を有しスピン依存トンネル効果に起因する磁気抵抗効果(TMR)を示す強磁性トンネル接合素子(MTJ)、及びナノメーターサイズ(nm)の微細な磁性金属グラニュールが分散した構造を有するナノグラニュラー材料である。上記材料系のなかで、磁性金属と絶縁体セラミックスからなる金属―絶縁体ナノグラニュラー材料は、作製が容易であり、特性の再現性に優れ、大きな電気抵抗率を有し,かつ省電力特性に優れている。このナノグラニュラー材料に関しては、非特許文献1:日本金属学会報「まてりあ」Vol.37(1998)、No.9, p745-748、「グラニュラー系トンネル型巨大磁気抵抗−高次のスピン依存トンネル効果―」において本発明者らが解説している。
金属―絶縁体ナノグラニュラー材料の特長は、非特許文献1の第745頁「1.はじめに」おいて解説されているとおりであるが、これを敷衍すると次のようになる。(1)粒径が数ナノメーター程度の微細な磁性金属グラニュールと、それを取り囲む薄い絶縁体の粒界相からなるナノグラニュラー構造を有している。(2)それぞれのグラニュールは、絶縁体粒界相を挟んでほぼ均一に分散しており、薄い絶縁体相はトンネルバリアの役割を果たす。(3)電気伝導は、磁性金属グラニュール間の薄い絶縁体粒界相からなるトンネルバリアを、量子力学的なトンネル効果によって伝導電子がトンネルすることによって生じる。(4)伝導電子のコンダクタンスは、粒界相を挟んで隣り合う磁性金属グラニュールの磁化の向きによって変化するため、外部磁界の作用によりグラニュールの磁化の向きが変化することによって、材料の電気抵抗率が変化する。この電気抵抗率の変化は、MTJにおけるTMRと同様であるが、金属−絶縁体ナノグラニュラー材料では、微細なグラニュールによる帯電効果の影響が指摘されている。
非特許文献1は、Co−Al−O系及びCo−Y−O系ナノグラニュラー磁気抵抗膜を解説したものあるが、その後開発されたナノグラニュラー磁気抵抗膜を、本出願人の特許文献を引用して説明する。
特許文献1:特開2001−94175号公報においては、ナノグラニュラー磁気抵抗膜はナノサイズの磁性微粒子(グラニュール,例えばFe、Co、FeCo、FeNi、FePd、FePt、CoPt、FeAlSi、Fe、フェライト,ホイスラー合金等)と、それを取り囲む絶縁性フッ化物の薄い粒界相からなっている。このナノグラニュラー磁気抵抗膜のMRは、絶縁性粒界相を通過するトンネル電流が、粒界相を挟んで隣り合う磁性グラニュールの磁化の向きによって変化するスピン依存トンネル伝導によって発現する。
フッ化物は、大きな生成熱を有し化学的にも極めて安定であるため、スパッタ法や電子線蒸着法等を用い、磁性体と同時蒸着することによって、容易にナノグラニュラー構造膜が得られる。一方、TMRでは、MR比は用いる磁性体の分極率が大きいほど大きな値を示すことが知られている。Fe−Pd、Fe−Co、Co−Pt合金あるいはホイスラー合金は、大きな分極率を有することが計算によって求められている(V.I.Anisimovet al,Phys.Met.Metall.68(1989)53)ので、特許文献1では、分極率の大きな磁性体を用いることによって、大きなMR比を有する磁気抵抗膜が実現できる。
特許文献1の磁性薄膜は、単層の厚い膜でも十分磁気抵抗効果を示すが、他の絶縁物(例えばAlN、SiO、BN、ZrO、Al、MgF等)、非磁性物質(例えばCr、Cu、Ag等)あるいは強磁性物質(例えばFe、Co、FeCo、FeNi等)からなる層と交互に積層してもよい。積層する中間層の物質や膜厚の組み合わせによって、膜応力の軽減、柱状構造の発達の抑制、磁性層間の静磁結合による軟磁性の改善と、それにもとづく磁気抵抗の磁場感度の向上などの様々な効果が現われる。同様な特性の改善が、成膜中の基板加熱や熱処理を施す事により行なわれる。具体的には、磁界中あるいは無磁界中において、100℃以上800℃以下の温度で基板を加熱するかまたは熱処理することにより、内部応力の緩和と相分離の促進が生じ、特性が改善される。
特許文献2:特開2002−344042号公報で提案された磁気抵抗膜は、組成が一般式(Fel−a−bCoNi100−w−x−y−zで表わされ,かつ、特性が、室温で13.3%以上15.8%以下の磁気抵抗効果を示し,かつ,0.7×10μΩcm以上1.0×10μΩcm以下の電気比抵抗を有し、保磁力が30Oe以下であるものである。なお、上記一般式において、LはRu、Rh、Pd、Os、Ir、Ptのうちから選択される1種または2種以上の元素であり,MはBe、Mg、Al、Si、V、Cr、Mn、Sr、Zr、Nb、Mo、Ba、Hf、Ta、W及び希土類元素から選択される1種または2種の元素であり,かつ組成比a、b、w、x、y、zは原子比率で,0≦a≦0.7、0.1<b≦0.5、0≦w≦50、10≦x≦40、0≦y≦50、23≦z≦45、30≦x+y+z≦70である。前記一般式において、y=0の場合は磁性金属ーフッ化物系材料となる。さらにM元素としてSiが選択された場合,これと組合わされる元素はSm又はSrが実施例として示されているが、その他の元素の組合せは示されていない。
特許文献3;特開2003−258333号公報で提案された磁気抵抗膜は、組成が一般式(Fe1−a−bCoNi100−x−y−zで表わされ、特性は、5%以上の磁気抵抗比を有し、−50〜+120℃の温度範囲における磁気抵抗比の温度係数が±500ppm/℃以内であり、さらに、構造は、絶縁体マトリックスにナノメーターサイズの磁性グラニュールが分散したナノグラニュラー構造である(特許文献3図2参照)。なお、上記一般式において、MはBe、Mg、Al、Si、Ca、Ti、V、Cr、Sr、Zr、Nb、Mo、Ba、Hf、Ta、W、希土類元素のうちから選択される1種または2種以上の元素であり,かつ組成比a、b、x、y、zは原子比率で、0≦a≦1、0≦b≦0.5、10≦x≦30、0≦y≦50、2≦z≦50、30≦x+y+z≦60である。この磁気抵抗膜では、y=0の場合は、磁性金属‐フッ化物系となり、M元素としてSiが選択された場合、これと組み合わされる元素はSmあるいはSr、W、Scである二つの組成が実施例として示されているが、その他の元素の組み合わせは実施例には示されていない。
特許文献3によると、車載用各種センサの磁界センサに用いられている従来のAMR材料やGMR材料は、磁気抵抗(MR)比の温度係数が±3000ppm/℃程度であったものを、−50〜+120℃の範囲において±500ppm/℃程度に改良している。
特許文献3において特定されている−50〜+120℃の範囲は磁気抵抗膜を使用するセンサなどの作動温度であり、この範囲内では安定した検出感度が確保されている。しかしながら、磁気センサなどを製造する段階では磁気抵抗膜が一時的に300℃以下の温度にさらされることがある。例えば、微細加工工程において配線や電極のパターニングに使用されるレジストのキュア温度(80〜250℃)、デバイス実装時に例えばMRヘッドをスライダーに取り付ける際のリフロー、特に鉛フリーはんだのリフロー温度(200〜300℃)、自動車エンジン周りなどの高温使用環境(250〜300℃)などである。本発明は上記の事情を鑑みてなされたもので,加熱に対してナノグラニュラー構造が安定であり、電気伝導特性、特に電気抵抗率の変化が少ない、金属−絶縁体ナノグラニュラー材料を提供することを目的とする。
本発明は、上記の事情を鑑みて鋭意努力した結果であり,磁気抵抗膜は一般式FeaCobNicSixyzで表わされ、MはMg、Al、Ca、Sr、Ba、Gdのうちから選択される元素からなる、ナノグラニュラー構造を有する薄膜材料である。かかる、一般式で表される組成は特許文献2、3と、絶縁相がフッ化物系である点及び、Fe、Co、Niを含有する点では共通しており、また、本発明の磁気抵抗膜の特性である、室温でのMR比5%以上であり、また電気抵抗率1×104μΩcm以上である点も特許文献1〜3と共通している。但し、本発明は、Siと、M元素、即ちMg、Al、Ca、Sr、Ba及び/又はGdとの同時添加により、段落番号0010で説明した温度下のMR比及び電気抵抗率の耐熱性を高めることを特徴とするものである。
本発明の特徴とするところは次の通りである。第1発明は、フッ化物からなる絶縁マトリックスに分散したnmサイズの磁性グラニュール合金と、不可避的不純物とからなり、室温で5%以上の磁気抵抗比を示し、且つ1×104μΩ(オーム)cm以上の高電気抵抗率を有する磁気抵抗膜において、前記磁気抵抗膜は、不可避的不純物を除いて、組成が一般式FeaCobNicSixyzで表わされ、MはMg、Al、Ca、Sr、Ba、Gdのうちから選択される1種又は2種以上の元素であり、かつ組成比a、b、c、x、y、zは原子比率で、0≦a≦60、0≦b≦60、0≦c≦60、20≦a+b+c≦60、0<x<10、9≦y≦40、15≦z≦50、30≦y+z≦70である組成からなるとともに、加熱後の磁気抵抗比及び電気抵抗率の変化が小さいことを特徴とする磁気抵抗膜に関する。
第2発明は、磁気抵抗膜は、不可避的不純物を除いて、組成が、一般式FeaCobSixyzで表わされ、MはMg、Al、Ca、Sr、Ba、Gdのうちから選択される元素であり、かつ組成比a、b、x、y、zは原子比率で、0≦a≦60、0≦b≦60、20≦a+b≦60、0<x<10、9≦y≦40、15≦z≦50、30≦y+z≦70である組成からなることを特徴とする磁気抵抗膜に関する。
第3発明は、 前記一般式において0<x<5であることを特徴とする第1発明又は第2発明記載の磁気抵抗膜に関する。
第1発明においては、室温から320℃以下の温度への加熱後の磁気抵抗(MR)比の値の変化が加熱前の値の±10%以下である。
第1発明においては、室温から320℃以下の加熱後の電気抵抗率の値の変化が加熱前の値の±10%以下である。
第4発明は、磁性グラニュール合金が、Fe-Co-Si、Fe-Ni-Si、Co-Ni-SiまたはFe-Co-Ni-Si系合金である第1から第3発明までのいずれか1項に記載の磁気抵抗膜に関する。
第5発明は、第1から第4発明までのいずれか1項記載の磁気抵抗膜を用いた磁気記録用ヘッドに関する。
第6発明は、第1から第4発明までのいずれか1項記載の磁気抵抗膜を用いた磁気センサに関する。
第7発明は、第1から第4発明までのいずれか1項記載の磁気抵抗膜を用いた磁気メモリーに関する。以下、本発明を詳しく説明する。
本発明(第1発明)の磁気抵抗膜の不可避的不純物を除く組成を表す一般式FeaCobNicSixyz(但し、a+b+c+x+y+z=100)において、Fe、Co、Niの合計含有量原子比率a+b+cが20未満であると、これらの金属からなるグラニュールの体積が小さくなりその磁性が失われる。また、原子比率が60を超えると、これらの金属からなるグラニュールの粒径が大きくなって部分的に接触することにより、電気抵抗率が減少しトンネル伝導が起らなくなってMR比が減少するので、20≦a+b+c≦60の範囲に限定した。好ましくは30≦a+b+c≦45である。上記一般式において磁性グラニsュール金属がFe、Co又はFe−Co合金からなるものが第2発明である。
フッ素(F)の含有量原子比率zが15未満であると粒界相を形成する十分な体積の絶縁体がないため、電流は部分的につがった金属粒子を自由に流れ、トンネル伝導が起こらない。一方フッ素の含有量原子比率が50を超えると、磁性を発現するための十分な体積のグラニュールが形成されずに、膜が磁性を失うので、15≦z≦50とする。好ましくは20≦z≦49である。
珪素(Si)とFの化合物(SiF)は生成熱が大きいので、膜中の余剰なFと優先的に結合し安定化するとともに、1原子のSiが4原子のFと結合するために、フッ素に起因する欠陥の防止に効果的である。これによって、トンネルバリア内の、特にグラニュールとの界面付近の余剰フッ素が減少し、加熱による特性劣化を抑制する(第1〜5発明)。
さらに、余剰なFが全てSi結合してなお余ったSiは、磁性金属グラニュールと合金化し、合金化によってグラニュールの磁気異方性を低減する。ここでグラニュールの磁気異方性とは、ナノメーターサイズのグラニュール各1個の結晶磁気異方性である。磁性グラニュールの磁気異方性が低減することによって、外部磁界の変化によるグラニュールの磁化回転が起りやすくなり、その結果、外部磁界のより小さな変化によってもグラニュールの磁化が回転し、弱磁界で大きなTMRが発現する。上記合金化により、Fe-Co-Si、Fe-Ni-Si、Co-Ni-SiまたはFe-Co-Ni-Si合金などが生成され、TMRの発現磁界を低磁界化する(第6発明)。なお、グラニュール中のSiを直接分析するには非常に特殊な方法による必要がある。但し、上記のように磁界とTMRの関係を調べると簡単な方法で間接的にSiの含有を確かめることができる。第1発明及び第6発明の効果をもたらすためには、Siの含有量原子比率は0<x<10であることが必要である。好ましい含有量原子比率は0<x<5である(第3発明)。さらに上記したSiとM元素の効果をもたらすためには30≦y+z≦70であることが必要である。好ましくは、45≦y+z≦70である。
Mはマグネシウム(Mg)、アルミニウム(Al)、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)、バリウム(Ba)、ガドリニウム(Gd)のうちから選択される1種又は2種以上の元素であり、フッ化物を生成して絶縁粒界相を形成する。なおこれらの元素のフッ化物はMgF、AlF、CaF、SrF、BaF、GdFである。M元素の含有量原子比率が10未満であると、十分な体積の絶縁体がないためトンネルバリアが形成されず、トンネル伝導が起らない。また、40を超えると膜の磁性が失われ、MRが現れない。したがって、M含有量原子比率は9≦y≦40であり、好ましくは10≦y≦30である。好ましいM元素はAlである。上記したM元素は、M元素とSi両方のフッ化物の化学量論組成をあわせた量よりも若干Fが不足するように添加することが好ましい。上記したF不足量は原子比率で3以下が好ましい。
上記した組成の残部は不可避的不純物であり、これらは主としてスパッタターゲットの不純物が微少量、例えば0.05mass%以下混入するものである。
本発明の磁気抵抗膜は、室温で5%以上の磁気抵抗比を示し、且つ1×10μΩcm以上の電気抵抗率を有するとともに、これらの特性の耐熱性が高いことも特徴としている。膜の電気比抵抗が1×10μΩcm未満の場合では、電流は部分的につながった金属粒子を自由に流れ、トンネル伝導は起こらないために、MRは生じない。
本発明の磁気抵抗膜の耐熱性は、金属−絶縁体ナノグラニュラー材料の構造に関連している。
TMRは,磁性金属グラニュールの粒径や分散状態、絶縁粒界相のトンネルバリアの構造などの違いによって、大きく異なる。特に、トンネルする伝導電子が通過するトンネルバリアの構造、さらにはグラニュールとトンネルバリアの接合界面の状態の微妙な変化が、TMRや電気抵抗率などの電気伝導特性に影響を及ぼす。また、最近のMTJの実験においても指摘されており、TMRの原理・理論からも裏付けられていることであるが、トンネルバリア内の原子数個程度の不純物や界面での原子の配置や移動など、原子レベルでの構造変化によりトンネル確率や伝導電子の散乱状態が変化する。これらのナノグラニュラー構造は,準安定相であると考えられ、エネルギー状態の変化、例えば加熱により200℃程度の温度でも原子の拡散が生じ、X線回折程度の低分解能の構造解析では変化が捉えられない程のトンネルバリア内や界面付近の僅かの原子移動が起こっている。加熱温度がこの200℃程度を超えて300℃〜400℃に上昇すると、TMRや特に電気抵抗率が大きく変動する。本発明において、磁気抵抗膜に同時添加されているSiとM元素はフッ化物相の欠陥を少なくして、300〜400℃の温度範囲における耐熱性を高めていると考えられる。
また、使用される磁気センサなどの仕様から許容される特性(MR比及び/または電気抵抗率)の変化は、一般に、±10%以下であると考えられる。この特性変化は最高320℃の加熱においても十分に保証される(第4発明及び第5発明)。なお、特許文献2,3では、熱処理や作製時の基板加熱によってMR比がある程度の高温域までのほぼ一定であることが確認されているが、これは、加熱による安定化の効果であり、本発明の膜中の元素の組み合わせおよび量などの膜組成によって得られる耐熱性とは直接は関係していない。
本発明の磁性膜はスパッタ法によって作製されるが、例えばRFスパッタ成膜装置を用い、純Fe、純Co、純Ni、あるいはFe、Co、Niのいずれかを含む合金円板上に、金属Si、並びにSi及びM元素のフッ化物のチップを均等に配置した複合ターゲットを用いて行なうか、あるいはSiを含む金属ターゲットとフッ化物ターゲットを同時にスパッタして行うと、nmサイズの超常磁性を示す磁性グラニュールがフッ化物からなる絶縁相中に分散したナノグラニュラー構造膜が得られ、TMRを示す。さらに、フッ化物と結合しないSiやM元素はスパッタ成膜中にFeなどに合金化される。
ナノグラニュラー構造ではないが、磁気抵抗膜を使用した磁気ヘッド、磁気メモリー、磁気センサは、特開平3−29106、特開2002−314164、2003−151109、2007−214333号公報などで提案されている。製造工程において加熱段階がある、磁気記録用ヘッド(第7発明)、磁気センサ(第8発明)及び磁気メモリー(第9発明)に本発明の磁気ヘッドを使用することができる。さらに、車載用磁気センサは、製造中よりも遥かに長時間高温にさらされるが、かかる用途にも本発明の磁気抵抗膜を使用することができる。
<作用>
金属―絶縁体ナノグラニュラー材料の絶縁体にフッ化物を用いた場合は、絶縁粒界相を形成するフッ化物が化学量論組成よりもF量が過剰になり、この余剰Fが不純物あるいは欠陥となる。ナノグラニュラー構造においては、絶縁体粒界相の熱的安定性が、グラニュラー構造自体の熱的安定性を決定する大きな要因であると考えられる。粒界相を構成する絶縁体に不純物や欠陥が多く存在すると、加熱によって容易にそれらが動き、特性の劣化を引き起こす。特に、グラニュールとトンネルバリアの界面には、グラニュールを構成する磁性金属原子とトンネルバリアを構成する原子の混在する領域が存在し、欠陥や不純物を含みやすい。理想的には、トンネルバリアを構成する絶縁体セラミックスが、完全な化学量論比組成の化合物を構成する場合において不純物や欠陥の密度が少ないと考えられるが、現実には作製時のターゲットの仕込み組成のずれや作製条件の変化により、化学量論組成からのずれが生じる。
本発明の金属‐絶縁体ナノグラニュラー材料においては、絶縁相を形成するために十分なFを使用した上で、Fに起因する不純物や欠陥の影響を抑制するために、少量のSiと M元素を同時添加する。一方、Fに対して余ったSiやM元素は磁性グラニュール中に合金化され、グラニュールの磁気異方性を低下させるととともに、別の欠陥となる弊害をもたらさない。なお、特許文献2,3では、Ti,VなどもM元素として列挙されているが、これらは本発明において選択されたM元素のような作用がない。
本発明を具体的に図を用いてさらに詳しく説明する。
〔実施例1〕薄膜の作製と評価
コンベンショナルタイプのRFスパッタ装置あるいはRFマグネトロンスパッタ装置を用い、直径70〜100mmの純Fe、純Co、純NiあるいはFe、Co、Niのいずれか2種以上を含む合金円板上にSiチップをのせたターゲット、もしくはSiとM元素の合金ターゲットと、フッ化物ターゲットを同時にスパッタすることにより、薄膜を作製した。スパッタ成膜に際しては、純Arガスを用いた。膜厚のコントロールは成膜時間を加減することによって行い、約0.5〜1μmになるように調節した。基板には、約0.5mm厚のコーニング社製#7059ガラス、もしくは同じく0.5mm厚で表面を熱酸化したSiウエハを用いた。尚、基板は間接水冷あるいは100〜400℃の任意の温度に加熱した。成膜時のスパッタ圧力は1〜60mTorrで、スパッタ電力は50〜200Wである。
前記のようにして作製した薄膜試料は、直流4端子法を基本とする電気抵抗率の測定装置を用いて、電気比抵抗率と0〜10kOeの磁界中でのMR比を測定した。また磁化曲線は、試料振動型磁化測定装置(VSM)で測定し、膜組成はラザフォード後方散乱法(RBS)あるいはエネルギー分散型分光分析法(EDS)によって決定した。また、膜の構造は、Cu−Kα線を用いたX線回折法によって決定した。さらに、成膜後に任意の温度で加熱し、加熱前後の電気抵抗率及びMR比を測定し、比較した。それぞれの薄膜試料の組成を表1に、諸特性を表2に示す。
Figure 0004909327
Figure 0004909327
表1に示した薄膜試料は請求項に記載した範囲の組成である。表には、比較例としてSi含まない膜(比較材料(1))、及びSiを含み特許文献2,3にて開示されているM元素であるSrを含む膜(比較材料(2))も示してある。表2に示す通り、これらのサンプルのMR比はいずれも5%以上で、電気比抵抗はいずれも1×10μΩcm以上であり、トンネル伝導に起因したMRを示すことがわかる。比較材料(1)及び(2)は320℃の加熱によってMR比、電気抵抗率共に大きく変化している。
図1には試料番号10のX線回折図形を示す。2θが25°付近には主にAlFからなるフッ化物相からのピーク、また2θが45°付近には膜中の磁性金属グラニュール(鉄,コバルト)に対応するピークが、nmサイズであることに対応してブロードなパターンになって観察される。以上のことから、この膜が微細なナノグラニュールと絶縁体であるフッ化物相の2相からなるナノグラニュラー構造を有していることがわかる。なお、図1中にはAl量に比してSi量が少ないために、SiF4などのSiとFからなる化合物のピークは観察されない。
さらに、図2には、試料番号4の加熱温度と加熱後の電気抵抗率の関係を示す。図には、比較材料(1)のデータも合わせて示した。比較材料の電気抵抗率は、280℃以下で大きく減少するのに対し、資料番号10の電気抵抗率は320℃以下の温度においてほとんど変化していないのがわかる。
図3には、Fe-Co-Si-Mg-Fからなる薄膜試料において、膜中のSi以外の組成比率を一定としSi量を変えた場合の、Si量とMR比の関係を示す。この結果、MR比は、Si量が4at%付近で最大となってそれ以上で減少し、10at%以上では5%以下の値になり、本発明の効果は得られない。また、図4には、Siを含まない比較材料(1)とSiを含む資料番号10の0〜±2kOeの弱磁界範囲の外部磁界とMR比の関係を示す。2kOe以下の弱磁界範囲においては、Siを含む薄膜試料の方が大きなMR比を示し、TMRの発現磁界が低磁界化していることがわかる。なお、それぞれの薄膜試料のMR比の最大値(10kOe)は表2に示す通りである。
以上説明したように、本発明による磁気抵抗膜は、各種デバイス製造の際や使用の際に避けられない温度上昇に対して安定しているために、デバイスの実用性能を安定化することができる
試料番号10のX線回折図形を示す。 試料番号10の加熱温度と加熱後の電気抵抗率の関係を示すグラフである。 Fe-Co-Si-Mg-F膜中のSi以外の組成比率を一定としSi量を変えた場合の、Si量とMR比の関係を示すグラフである。 比較材料(1)と資料番号10の0〜±2kOeの弱磁界範囲の外部磁界とMR比の関係を示すグラフである。

Claims (7)

  1. フッ化物からなる絶縁マトリックスに分散したnmサイズの磁性グラニュール合金と、不可避的不純物とからなり、室温で5%以上の磁気抵抗比を示し、且つ1×104μΩcm以上の電気抵抗率を有する磁気抵抗膜において、前記磁気抵抗膜は、不可避的不純物を除いて、組成が一般式FeaCobNicSixyzで表わされ、MはMg、Al、Ca、Sr、Ba及びGdのうちから選択される1種又は2種以上の元素であり、かつ組成比a、b、c、y、zは原子比率で、0≦a≦60、0≦b≦60、0≦c≦60、20≦a+b+c≦60、0<x<10、9≦y≦40、15≦z≦50、30≦y+z≦70で表わされるとともに、室温から320℃以下の温度への加熱後の磁気抵抗(MR)比の値の変化が加熱前の値の±10%以下であり、かつ室温から320℃以下の加熱後の電気抵抗率の値の変化が加熱前の値の±10%以下であること特徴とする磁気抵抗膜。
  2. 前記磁気抵抗膜は、不可避的不純物を除いて、組成が一般式FeaCobSixyzで表わされ、MはMg、Al、Ca、Sr、Ba及びGdのうちから選択される1種又は2種以上の元素であり、かつ組成比a、b、x、y、zは原子比率で、0≦a≦60、0≦b≦60、20≦a+b≦60、0<x<10、9≦y≦40、15≦z≦50、30≦y+z≦70で表わされることを特徴とする請求項1記載の磁気抵抗膜。
  3. 前記一般式において0<x<5であることを特徴とする請求項1又は2記載の磁気抵抗膜。
  4. 前記磁性グラニュール合金が、Fe-Co-Si、Fe-Ni-Si、Co-Ni-SiまたはFe-Co-Ni-Si系合金である請求項1から請求項3までのいずれか1項に記載の磁気抵抗膜。
  5. 請求項1から請求項4までのいずれか1項記載の磁気抵抗膜を用いた磁気記録用ヘッド。
  6. 請求項1から請求項4までのいずれか1項記載の磁気抵抗膜を用いた磁気センサ。
  7. 請求項1から請求項4までのいずれか1項記載の磁気抵抗膜を用いた磁気メモリー。
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