JP4907170B2 - ヒートシール性積層体 - Google Patents

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Description

本願発明は、新規なエチレン系重合体のシーラント層を有するヒートシール性
積層体に関し、透明性や衝撃強度及び低温ヒートシール性とヒートシール強度などのヒートシール特性に優れ、押出ラミネーションにおけるネックインやドーダウンなどの成形性が良好な、包装材を得るに好適な積層体に係るものである。
包装材料などに重用される積層体においては、ヒートシールされて袋体を形成するために、基材にシーラント材を積層した積層材料が汎用されている。
そして従来より、基材に積層されるシーラント材としては、経済性やヒートシール性などからして、高圧重合法による低密度ポリエチレン(以下、「LDPE」と称す。)、チーグラー触媒又はメタロセン触媒による重合で得られる直鎖状低密度ポリエチレン(以下、「LLDPE」と称す。)、或いはこれらの混合物が一般的に用いられている。
しかし、LDPEは、透明性や成形加工性に優れるものの、機械的強度が低く、低温ヒートシール性やヒートシール強度などのヒートシール特性或いはホットタック性が劣るという問題を有している。このLDPEの低温ヒートシールを改良する樹脂としてエチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)などが用いられているが、このEVAにおいてもヒートシール強度やホットタック性などはそれほど改良されなく、かつ高温で成形されるラミネーション加工時に異臭が発生するという問題を有している。
一方、LLDPEはヒートシール強度や機械的強度などが優れるものの、成形加工性が不足し問題となっている。LLDPEの成形性を改良するためにLDPEを配合することが提案されているが、LDPEを配合すると機械的強度の低下を招くものとなる。他のポリオレフィン系組成物や共重合体などにおけるシーラント材においても、透明性や成形加工性が良好で、機械的強度も高く、低温ヒートシール性やヒートシール強度などのヒートシール特性及びホットタック性に優れた材料は未だ得られていない。
本願発明は、ヒートシール用積層体における従来の技術事情を鑑み、透明性や成形時のネックイン及びドローダウン(延展性)などの成形加工性が良好で、機械的強度も高く、低温ヒートシール性やヒートシール強度などのヒートシール特性及びホットタック性に優れた、さらに、突刺強度や夾雑物ヒートシール性なども向上された、ヒートシール性積層体を開発することを、発明が解決すべき課題とするものである。
ところで、本願の出願人においては、エチレン系重合体の成形加工性と機械強度を共に充分にバランス良く向上させ、さらに、各種のいずれの成形方法にも適した優れた成形加工性をも得ることを目指し、エチレン系重合体の主要な特徴である優れた機械物性や透明性などの光学特性及び耐熱性を確保するために、重合触媒としてシングルサイト触媒としてのメタロセン触媒を使用することが好ましいと考え、また、機械物性を損なわずに成形加工性を向上させるには、エチレン系重合体のポリマー主鎖における長鎖及び短鎖の分岐の構造や分岐個数が関連すると認識して、かかる新規なエチレン系重合体としての基本的な要件を見い出すに至り、成形加工性においては、溶融流動特性が剪断応力下での溶融樹脂圧に関わる押出し性に関与し、伸長変形時の溶融弾性が成形安定性に関与することからして、エチレン重合体の特性として流動の活性化エネルギーと伸長粘度を規定すれば、機械物性を損なわずに成形加工性をさらに向上させることができる、新たな発明を創作することができて、先の発明としての特願2004−181918号を出願したところである。
また、予期し得ぬことであるが、ポリマー主鎖における必要な長短鎖の分岐の構造や分岐個数は、特定のメタロセン触媒を二種組み合わせ、より好ましくは非共役ポリエンの存在下に長鎖分岐の生成を伴う錯体及び実質上長鎖分岐の生成を伴わない錯体を使用して、重合反応を行えば容易に調整可能なことまでも知見することができ、さらに、二種のメタロセン触媒の非共役ポリエンに対する反応性の差異及び生成重合体間のメルトフローレートの相関規定までも採用して利用することまで実現することができた。
本願の発明者は、かかる先願発明における、エチレン系重合体の改良の成果を踏まえて、先願発明における新規なエチレン系重合体を、ヒートシール用積層体のシーラント材(ヒートシール層材料)として採用すれば、前記の発明の課題を解決して、各性能に優れたヒートシール性積層体を実現できることを見い出すことができた。
かくして、本願発明のヒートシール性積層体は、望ましくは、二種(又は三種以上の複数)の錯体を有すメタロセン触媒により、炭素数1〜20の短鎖分岐(SCB)と炭素数20を超える長鎖分岐(LCB)をエチレン系重合体の高分子主鎖に導入し、その様な重合体として必要な密度とメルトフローレートも規定される。
なお、優れた成形加工性とは、高い押出し特性と高い成形安定性とを兼ね備えることであり、換言すれば、高剪断応力下で粘度が低く、伸長変形を受ける際に溶融弾性が高くなることであり、このような観点から成形加工性を向上するために、エチレン系重合体の特性としての流動の活性化エネルギーと伸長粘度及びそれらの相関を具体的に規定される。
以上において、本願発明の創作に至る経緯と、発明の構成の特徴について、総括的に記述したので、ここで本願発明の構成の全体を記載すると、本願の発明は次の発明単位群からなるものである。[1]に記載の発明が基本発明であり、それら以外の発明は、基本発明に付随的な要件を加え、或いは実施態様化するものである。
[1] 基材となる第I層と、シーラント層となる第II層とを少なくとも有する積層体であって、第II層が下記a)乃至d)の条件を満たし、炭素数1〜20の短鎖分岐と炭素数20を超える長鎖分岐が高分子主鎖に導入されたエチレン系重合体からなることを特徴とするヒートシール性積層体。
a)JIS K−7112に基づいて測定された密度が、0.880〜0.970g/cmである。
b)JIS K−7210の表1−条件7に基づき、温度190℃において加重21.18Nの条件で測定されたメルトフローレート(MFR)が、0.01〜100g/10分である。
c)流動の活性化エネルギーEa[KJ/mol]と、下記の式(1)により算出される活性化エネルギーEa[KJ/mol]との差ΔEa[KJ/mol]が、1.5〜12.5である。
Figure 0004907170

ここで、SCBは主鎖の炭素原子1,000あたりの炭素数1〜20の短鎖分岐数[個数/1,000C]を表し、Bは炭素数1〜20の短鎖分岐の長さ(炭素数)を表す。
d)伸長粘度λmaxとΔEaとが下記の式(2)を満たす。
λmax≧1.2exp(0.0721×ΔEa) 式(2)
[2]エチレン系重合体が、炭素数1〜20の短鎖分岐と炭素数20を超える長鎖分岐の、高分子主鎖への導入を、二種又は複数種のメタロセン触媒により各々の触媒に応じて行われたことを特徴とする、[1]におけるヒートシール性積層体。
[3]エチレン系重合体が非共役ポリエンの共存下において重合され、非共役ポリエンの濃度を制御することにより長鎖分岐成分の分岐構造が制御されたことを特徴とする、[2]におけるヒートシール性積層体。
[4]エチレン系重合体が、エチレン重合体又はエチレンと3〜20の炭素原子を有するα−オレフィンとの共重合体であり、或いはそれらに非共役ポリエンが共重合された共重合体であることを特徴とする、[1]〜[3]のいずれかにおけるヒートシール性積層体。
[5]基材となる第I層に、シーラント層となる第II層を押出ラミネーションによりラミネートしたことを特徴とする、[1]〜[4]におけるヒートシール性積層体。
本願発明のシーラント材においては、エチレン系重合体のポリマー主鎖における長鎖分岐と短鎖分岐の構造が制御されて、引張強度や衝撃強度などの優れた機械的強度及び高い流動特性と溶融弾性による卓越した成形加工性を発現し、ヒートシール層として、透明性や成形時のネックイン及びドローダウン(延展性)などの積層成形加工性が良好で、機械的強度も高く、低温ヒートシール性やヒートシール強度などのヒートシール特性及びホットタック性に優れた、さらに、突刺強度や夾雑物ヒートシール性なども向上された、ヒートシール性積層体を実現し得た。
以上において、本願発明をその構成要件と特徴について概述したので、以下においては、本願発明を実施するための最良の形態として、本願発明の各要件を具体的に詳細に説明する。
1.シーラント材としてのエチレン系重合体
本願発明に係るエチレン系重合体は、優れた機械物性と成形加工性とを共に充分にバランス良く向上させるためにエチレンと炭素数3〜20のα−オレフィンとを、望ましくは二種の錯体を有すメタロセン触媒により、炭素数1〜20の短鎖分岐(SCB)と炭素数20を超える長鎖分岐(LCB)をエチレン系重合体(A)の高分子主鎖に導入し、併せて、その様な重合体として必要な密度とメルトフローレートも規定する。
エチレン系重合体の密度は、重合条件の調整、或いはエチレンと共重合させる炭素数3〜20のα−オレフィンの種類及び量を変えることにより調整可能である。また、本発明に係るエチレン系重合体のMFRは、重合の際に通常一般の連鎖移動剤や水素を使用することにより調整可能である。
a)JIS K−7112に基づいて測定された密度が、0.880〜0.970g/cmであり、好ましくは0.890〜0.965g/cm、より好ましくは0.895〜0.960g/cmの範囲で選択される。密度が、0.880未満では機械的強度が低下する惧れが生じる。また、密度が、0.970g/cmを超えるものは、工業的に生産が難しい。
b)JIS K−7210の表1−条件7に基づき、温度190℃において加重21.18Nの条件で測定されたメルトフローレート(MFR)が、0.01〜100g/10分、好ましくは0.1〜80g/10分、より好ましくは0.5〜50g/10分の範囲である。MFRが0.01g/10分未満では、成形加工性が悪く、100g/10分を超える場合には機械的強度が低下する惧れが生じる。
さらに、エチレン系重合体においては、c)流動の活性化エネルギーEa[KJ/mol]と、下記の式(1)により算出される活性化エネルギーEa[KJ/mol]との差ΔEa[KJ/mol]が、1.5〜12.5の範囲であり、
Figure 0004907170

ここで、SCBは主鎖の炭素原子1,000あたりの炭素数1〜20の短鎖分岐数[個数/1,000C]を表し、Bは炭素数1〜20の短鎖分岐の長さ(炭素数)を表す。
d)伸長粘度λmaxとΔEaとが、
λmax≧1.2exp(0.0721×ΔEa) 式(2)
を満足し、炭素数1〜20の短鎖分岐と炭素数20を超える長鎖分岐が高分子主鎖に導入されたエチレン系重合体である。
2.活性化エネルギー及び伸長粘度の規定
成形加工性においては、溶融流動特性が剪断応力下での溶融樹脂圧に関わる押出し性に関与し、伸長変形時の溶融弾性が成形安定性に関与することから鑑みて、シーラント材用のエチレン系重合体の特性において、流動の活性化エネルギーと伸長粘度を下記のように実験式として規定して、機械物性を損なわずに成形加工性をさらに向上させることができる。
(1)活性化エネルギー
流動の活性化エネルギーEa[KJ/mol]と、下記の式(1)により算出される活性化エネルギーEa[KJ/mol]との差ΔEa[KJ/mol]が、1.5〜12.5である。
Figure 0004907170

ここで、SCBは主鎖の炭素原子1,000あたりの炭素数1〜20の短鎖分岐数[個数/1,000C]を表し、Bは炭素数1〜20の短鎖分岐の長さ(炭素数)を表す。
ここで、活性化エネルギーの実施可能要件を説明すると、流動の活性化エネルギーにおいて、(i)理論的な根拠としては、流動の活性化エネルギーは、例えば「高分子学会 高分子実験学編集委員会編 高分子実験学 第9巻 力学的性質I 共立出版株式会社発行(1985年) 第25〜第28頁」に記載されており、粘弾性周波数依存性を測定し、時間−温度重ね合わせの原理によるシフトファクターaから流動の活性化エネルギーを求めることができる。
(ii)流動の活性化エネルギーの測定法としては、ある基準温度で測定した貯蔵弾性率(縦軸)と角速度(横軸)との関係のグラフを固定しておき、別の測定温度で測定したデータを横軸に平行に移動させると、基準温度のデータと重ね合わせることができ、シフトファクターaは、Arrhenius式に従い、各測定温度のデータを基準温度のデータと重ね合わせるようにシフトさせる量Log(a)を、その測定温度(絶対温度)の逆数1/T に対してプロットして得られる直線の勾配より、流動の活性化エネルギーを求めることができる。
(iii)具体的な測定においては、試験に供する樹脂を180℃で直径25mm、厚み1mmの円形にプレス成形したものをサンプルとし、動的粘弾性特性の測定装置は、Paar Physica社製UDS−200型回転式レオメータ及び25mmφパラレルプレートを用い、窒素雰囲気下において以下の条件で温度(140℃,170℃,190℃,210℃及び230℃)における動的粘弾性を測定した。
・歪み量:10% ・測定周波数範囲:6.22×10−3〜6.22×10 rad/s(210℃及び230℃は、6.22×10−2〜6.22×10rad/s)
190℃を基準温度として、5つの温度条件の貯蔵弾性率G’及び損失弾性率 G”を、時間−温度重ね合わせの原理に従って重ね合わせ、シフトファクターaを求めた。このシフトファクターを絶対温度の逆数に対してプロットし、その傾きから流動の活性化エネルギーEaを計算した。
活性化エネルギーにおいて、(i)数式の理論的な根拠としては、前記の式(1)により算出される活性化エネルギーEa[KJ/mol]は、本願発明のエチレン重合体が長鎖分岐を有しないと仮定した場合の流動の活性化エネルギーであり、「J.F.Vega et al,Macromolecules vol.31 No.11 3639−3647(1998)に記載された理論に基づき求めた近似式である。
(ii)活性化エネルギーの測定は、具体的には、本願発明の重合体を日本電子(株)製JNM−GSX400型NMR装置及びC10型プローブを用い、以下の条件で13C−NMRスペクトルを測定し、「Eric T.Hsieh & James C.Randall,Macromolecules vol.15,353−360(1982)」及び「Eric T.Hsieh & James C.Randall,Macromolecules vol.15,1402−1406(1982)」に基づき、SBC[個数/1,000C]及びB(炭素数)を求め、式(1)にSCB及びBを代入して活性化エネルギーEa求めた。
・パルス幅:8.0μs(フリップ角:40°) ・パルス繰り返し時間:5秒 ・積算回数:5,000回以上 ・溶媒及び内部標準:1,2,4−トリクロロベンゼン/ベンゼン−d6 /ヘキサメチルジシロキサン(混合比:30/10/1) ・測定温度:120℃ ・試料濃度:0.3g/ml
さらに、本願発明の数値規定ΔEaの実施化要件について説明すると、数値規定ΔEaは、長鎖分岐の濃度を表す規定である。例えば、「R.N.Shroff & H.Mavridis ,Macromolecules vol.32 8454(1999)」 に示されるように、流動の活性化エネルギーEaが長鎖分岐の濃度に関して一次関数で表されることは良く知られている。ただし、Eaは短鎖分岐の影響も受けるため、Eaを長鎖分岐の濃度のみのパラメータとするには、短鎖分岐の影響を排除しなければならない。
そこで、本願発明においては、同種かつ同数の長鎖分岐をもたないものの活性化エネルギーEaとの差ΔEaをもって長鎖分岐の濃度を表す規定とした。すなわち、上記で求めた流動の活性化エネルギーEa[KJ/mol]と、式(1)により算出される活性化エネルギーEa[KJ/mol]との差を流動の活性化エネルギー差ΔEa[KJ/mol]とし、ΔEaは、長鎖分岐がない場合は0であるが、長鎖分岐の濃度が高くなるに従い大きな値を示す。
一方、単に長鎖分岐の濃度を高くすれば、それに伴って溶融流動特性は良くなるものの、同時に機械強度を損ねる惧れがある。他方、長鎖分岐を全くあるいは殆ど持たないものの流動特性は悪い。したがって、ΔEaは適度な範囲であることが望ましく、具体的には、1.5KJ/mol以上12.5KJ/mol以下であることが望ましい。ΔEaの下限は好ましくは1.6KJ/mol、より好ましくは1.7KJ/molである。ΔEaの上限は好ましくは11.5KJ/mol、より好ましくは11.0KJ/molである。この範囲を外れると成形性と機械的物性のバランスが悪くなり不都合である。
流動の活性化エネルギー差ΔEaを上記範囲とするためには、後述する本願発明の製造方法を採用することにより達成することができ、すなわち上記範囲内の調整は、触媒の種類と使用割合、非共役ポリエンの使用量及び重合条件を適宜変更することにより可能である。したがって本発明においては、ΔEaが0より大きいとき、炭素数20を超える長鎖分岐が高分子主鎖に導入されているものとする。
(2)伸長粘度
本願発明に係るエチレン系重合体においては、伸長粘度λmaxとΔEaとが下記の式(2)を満たす。
λmax≧1.2exp(0.0721×ΔEa) 式(2)
ここで伸長粘度λmaxの実施化要件を説明すると、伸長粘度λmaxは、以下のようにして求めることができる。
「尾崎邦宏 村井朝 別所信夫 金鳳植 日本レオロジー学会誌 4巻 166(1976)」の記載の方法に基づき、動的粘弾性測定結果から次式(3)に示される粘度成長関数η+ γ→0(t)を求める。
η+ γ→0(t)=t×{G”(ω)+1.12×G”(ω/2)−0.02G’(ω)} 式(3)
ただしω=1/tとする
ここで、G’(ω)は各速度ωの関数としての貯蔵弾性率、G”(ω)は各速度ωの関数としての損失弾性率、G”(ω/2)はω/2の関数としての損失弾性率、tは時間である。
一方、非定常一軸伸長粘度曲線η(t)において、歪の大きさが2.5以上で伸長粘度が最大となる点における時間をtmaxとし、下記式(4)により伸長粘度パラメータλを求める。λについての概念図を図2に示した。
λ=η(tmax)/3η+ γ→0(tmax) 式(4)
歪速度(設定値:1.0,0.3,0.1s−1)におけるλ値を求め、その中の最大値を伸長粘度λmaxとする。
本願発明のエチレン系重合体は、伸長粘度λmaxとΔEaとが式(2)を満たすことが必要である。式(2)を満たさないと成形性と機械的物性のバランスが悪くなり好ましくない。式(2)を満たすためには、後述する本願発明の製造方法を採用することにより達成することができ、式(2)の範囲内の調整は、触媒の種類と使用割合、非共役ポリエンの使用量及び重合条件を適宜変更することにより可能である。
本願発明の伸長粘度λmaxは、伸長粘度における歪硬化、すなわち溶融状態を保つ特定の温度で一定の歪み速度にて粘度を測定して得られる規定である。λmaxの値が大きいと弾性発現である歪硬化が強く、λmaxの値が小さいと歪硬化が弱いことを示す。成形方法及び成形条件により最適なλmaxの値は異なるが、ΔEaとの関係が式(5)を満たすことが望ましく、より望ましくは式(6)を満たすことであり、さらに望ましくは式(7)を満たすことである。
100≧λmax≧1.2exp(0.0721×ΔEa) 式(5)
100≧λmax≧1.2exp(0.0963×ΔEa) 式(6)
50≧λmax≧1.2exp(0.0963×ΔEa) 式(7)
λmaxが上記式の下限よりも小さい場合は、LCBの濃度に見合った溶融弾性が得られていないため、成形安定性が低くかつ機械強度が劣る。一方、λmaxが100を超える場合は、成形品に過剰な残留応力や異方性が生じ、耐衝撃性能や耐ストレスクラック性などの長期性能に問題が生ずる場合が多くなる
なお、本願発明に用いるエチレン系重合体における、その他の特性値としては、DSRは1.3〜2.5であることが好ましく、1.5〜2.3であることがより好ましい。上記範囲であれば成形加工性が十分であるので好ましい。
FRは6〜10であることが好ましく、7〜9であることがより好ましい。上記範囲であれば成形加工性が十分であるので好ましい。
MEは1.5〜5であることが好ましく、1.6〜4であることがより好ましい。上記範囲であれば成形加工性が十分であるので好ましい。
Mw/Mnは2.0以上であることが好ましく、2.2〜10であることがより好ましい。上記範囲であれば成形加工性が十分であるので好ましい。
3.メタロセン触媒
(1)基本的な要件
本願発明のエチレン系重合体を得るために用いる触媒について具体的に説明するが、本願発明は以下に例示する遷移金属化合物に何ら限定されるものではない。
本願発明のエチレン系重合体において、機械物性を損なわずに成形加工性を向上させるには、エチレン系重合体のポリマー主鎖における長短鎖の分岐の構造や分岐個数が関連し、ポリマー主鎖における必要な長短鎖の分岐の構造や分岐個数の実現は、特定のメタロセン触媒を二種又は複数種組み合わせ、より好ましくは非共役ポリエンの存在下に長鎖分岐の生成を伴う錯体及び実質上長鎖分岐の生成を伴わない錯体を使用して、重合反応を行えばよく、二種の錯体を有すメタロセン触媒により、炭素数1〜20の短鎖分岐(SCB)と炭素数20を超える長鎖分岐(LCB)をエチレン系重合体の高分子主鎖に導入する。
(1)錯体A及びB
本願発明の二種の錯体を有すメタロセン触媒において採用される一方の錯体Aは、中心遷移金属に配位子が2つ以上配位した構造のもので、(i)助触媒の共存下、水素及び非共役ポリエンが存在しない条件で重合を行った場合に得られる重合体のメルトフローレートMFR−Aが好ましくは2g/10分以下、さらに好ましくは0.4g/10分以下となる遷移金属化合物であればよい。
他方の錯体Bは、中心遷移金属に配位子が2つ以上配位した構造のもので、(ii)上記の(i)と同条件で重合を行った場合に得られる重合体のメルトフローレートMFR−Bが好ましくはMFR−Aの10倍以上となる遷移金属化合物であればよい。
そして、(iii)錯体A及び助触媒の存在下、水素が存在せず、非共役ポリエンがエチレンに対し0.01mol%存在した条件で重合を行った場合に得られる重合体のMFRを「MFR−A+」とし、前記錯体Aの代わりに錯体Bを使用して同条件で重合を行った場合に得られる重合体のMFRを「MFR−B+」とすると、好ましくは下記式(9)、さらに好ましくは下記式(10)を満たすことが必要である。
{(MFR−A+)/(MFR−A)}/{(MFR−B+)/(MFR−B)}<0.8 式(9)
{(MFR−A+)/(MFR−A)}/{(MFR−B+)/(MFR−B)}<0.3 式(10)
さらに、本願発明の錯体Aは長鎖分岐を有する重合体を与える遷移金属化合物が好適であり、また、本願発明の錯体Bは長鎖分岐を有しない重合体を与える遷移金属化合物が好適である。本願発明にいう長鎖分岐とは、炭素数20を越える分岐とし、該分岐部分の分子量は重量分子量として1,100以上とした。
錯体Aに由来する重合体成分[A]と錯体Bに由来する重合体成分[B]の量比は、好ましくは[A]/[B]=10/90〜90/10、さらに好ましくは20/80〜80/20である。重合体成分[A]と重合体成分[B]の比率は、錯体A及び助触媒、並びに錯体B及び助触媒からなる触媒でそれぞれ重合したときの重合活性から計算することができる。
上記範囲を外れるとエチレン重合体の成形加工性と機械物性のバランスが損なわれ好ましくない。
一般的な長鎖分岐の導入方法としては、重合時のβ水素脱離によるマクロモノマーの生成と再挿入を起こしやすい錯体を用いる方法があり、触媒の錯体の例としては、架橋インデンを配位子とした錯体が挙げられる。しかし、このような錯体(特に加工性改良に有効と考えられる長鎖分岐構造を生成する錯体)を単独に用いた場合、得られるポリマーのMFRは、ポリマー構造からして必然的に低下し、実用範囲を大きく下回るものとなってしまう。その対策として、分子量を低くするために連鎖移動剤(水素)を重合時に用いる方法がとられるが、必要とされる長鎖分岐成分の分子量も低下するため加工性改良の効果が薄れてしまい、長鎖分岐ポリマーを生成する錯体を単独で使用することは好ましくない。
本願発明においては、加工性改良に有効な長鎖分岐構造を維持しながら、実用的なMFRの重合体を得るために、低いMFRの長鎖分岐ポリマーを生成する特定の錯体と、比較的MFRの高いポリマーを生成する特定の錯体とを組み合わせ、特定条件で重合を行うことにより、高分子量成分(低MFR成分)に優先的に長鎖分岐を導入することにより、バランスの良いエチレン重合体が得られる。このような新しい知見はメタロセン触媒分野において画期的なものといえる。
なお、本願発明においては、特定の錯体を別々に用いて2種類の重合体を製造し、その2種類の重合体を混合することでも本願発明の目的を達成できるが、特定の2種類の遷移金属化合物を一触媒として使用し、その触媒によりエチレン系重合体を製造することにより、重合結果として物性が大きく異なる2種類の重合体を均一に混合することが可能となり、均質性の優れたものを製造できる。
さらに、本願発明者らは発明の目的達成のため、上記の錯体を2種類(3種以上の複数でもよい)用いた触媒に対し、重合時に非共役ポリエンを共存させる検討を行い、その結果ごく少量の非共役ポリエンを共存させることにより、加工性の指標となる物性値が大幅に改善されることも新たに発見した。このことは用いた錯体の非共役ポリエンに対する反応性の差が大きく関与しており、上記の2種類の錯体の組み合わせを選択する際に、非共役ポリエンに対する反応性を考慮した「所定条件を満たす錯体を、所定条件で組み合わせる」ことでより効果が増し、また、このような組み合わせの触媒を用いた場合、非共役ポリエン濃度により、エチレン重合体の特性も制御できることがわかった。
(2)錯体Aの例示
本願発明に用いる錯体Aは、重合反応に用いた場合、LCBの生成を伴う錯体であり、このような遷移金属化合物の例示としては、錯体Aが下記の一般式(1)で表される遷移金属化合物である。
ML x-n 一般式(1)
[式中、Mは周期律表4族の遷移金属を表し、LはMに配位する配位子であり、ジメチルシクロペンタジエニル基、トリメチルシクロペンタジエニル基、下記の化合物[1]で示されるベンゾインデニル基又は置換ベンゾインデニル基、下記の化合物[2]で示されるジベンゾインデニル基又は置換ジベンゾインデニルを表し、複数のLは互いに同一でも異なっていてもよい。Rは炭化水素基、アルコキシル基、ハロゲン原子、水素原子を表す。xは遷移金属Mの原子価であり、nは2≦n≦xである。]
Figure 0004907170

化合物[1]

Figure 0004907170

化合物[2]
ここで置換基R〜R15 は炭素数1〜30の炭化水素基、炭素数1〜30の炭化水素置換基を有するトリアルキル珪素基又は水素原子である。炭化水素基の具体例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基などのアルキル基;ビニル基、アリル基などのアルケニル基;フェニル基、ジメチルフェニル基、ジエチルフェニル基、ジプロピルフェニル基、ジブチルフェニル基、トリメチルフェニル基、トリエチルフェニル基、トリプロピルフェニル基、トリブチルフェニル基、ビフェニル基、ナフチル基、アントリル基などのアリール基;トリチル基、フェネチル基、ベンズヒドリル基、フェニルプロピル基、フェニルブチル基、ネオフィル基などのアリールアルキル基、スチリル基などのアリールアルケニル基が挙げられる。これらは分岐があってもよい。
さらに、2つのシクロペンタジエニル骨格の有する配位子が、炭化水素基、シリレン基、置換シリレン基で架橋された、エチレンビス(インデニル)基、エチレンビス(4,5,6,7−テトラヒドロインデニル)基、ジメチルシリレンビス(インデニル)基なども有効である。
これら錯体Aの具体例を一部例示すると、(1,3−MeCpd)ZrCl、(1,3−MeCpd)ZrBr、(1,3−MeCpd)ZrMe、(1,3−MeCpd)Zr(OEt)、(1,3−MeCpd)ZrBz、(1,2,4−MeCpd)ZrCl、(1,2,4−MeCpd)ZrBr、(1,2,4−MeCpd)ZrMe、(1,2,4−MeCpd)Zr(OEt)、(1,2,4−MeCpd)ZrBz、(BzIND)ZrCl、(BzIND)ZrBr、(BzIND)ZrMe、(BzIND)Zr(OEt)、(BzIND)ZrBz、(DBI)ZrCl、(DBI)ZrBr、(DBI)ZrMe、(DBI)Zr(OEt)、(DBI)ZrBz、Et(IND)ZrCl、Et(IND)2ZrBr、Et(IND)ZrMe、Et(IND)Zr(OEt)、Et(IND)ZrBz、Et(4,5,6,7−H−IND)ZrCl、Et(4,5,6,7−H−IND)ZrBr、Et(4,5,6,7−H−IND)ZrMe、Et(4,5,6,7−H−IND)Zr(OEt)、Et(4,5,6,7−H−IND)ZrBz、MeSi(IND)ZrCl、MeSi(IND)ZrBr、MeSi(IND)ZrMe、MeSi(IND)Zr(OEt)、MeSi(IND)ZrBz、(1,3−MeCpd)ZrH、(1,2,4−MeCpd)ZrH、(BzIND)ZrH、(DBI)ZrH、(1,3−MeCpd)(IND)ZrH、(1,2,4−MeCpd)(IND)ZrH、(BzIND)(IND)ZrH、(DBI)(IND)ZrHなどが挙げられる。
ここで、Cpdはシクロぺンタジエニル基を、Bzはベンジル基を、INDはインデニル基を、BzINDはベンゾインデニル基を、DBIはジベンゾインデニル基を表す。
(3)錯体Bの例示
本願発明に用いる錯体Bは、重合に用いた場合、実質的にLCBの生成を伴わない錯体であり、錯体Bが下記の一般式(2)で表される遷移金属化合物である。このような遷移金属化合物の配位子としては上記の錯体Aで用いられる配位子以外のシクロペンタジエニル基、置換シクロペンタジエニル基、インデニル基、置換インデニル基が挙げられ、置換基の数に制限はなく、炭素数1〜30の炭化水素基又は炭素数1〜30の炭化水素置換基を有するトリアルキル珪素基であり、それぞれ同一でも異なってもよい。
ML x-n 一般式(2)
[式中、Mは周期律表4族の遷移金属を表し、LはMに配位する配位子であり、シクロペンタジエニル基、置換シクロペンタジエニル基、インデニル基、置換インデニル基を表し、複数個結合している場合は異なっていてもよい。Rは炭化水素基、アルコキシル基、ハロゲン原子、水素原子を表す。xは遷移金属Mの原子価であり、nは2≦n≦xである。]炭化水素基の具体例としては、前述した錯体Aの場合と同一である。
錯体Bの具体例の一部を例示すると、(Cpd)ZrCl、(Cpd)ZrBr、(Cpd)ZrMe、(Cpd)Zr(OEt)、(Cpd)ZrBz、(MeCpd)ZrCl、(MeCpd)ZrBr、(MeCpd)ZrMe、(MeCpd)Zr(OEt)、(MeCpd)ZrBz、(PrCpd)ZrCl、(PrCpd)ZrBr、(PrCpd)ZrMe、(PrCpd)Zr(OEt)、(PrCpd)ZrBz、(BuCpd)ZrCl、(BuCpd)ZrBr、(BuCpd)ZrMe、(BuCpd)Zr(OEt)、(BuCpd)ZrBz、(MePrCpd)ZrCl、(MePrCpd)ZrBr、(MePrCpd)ZrMe、(MePrCpd)Zr(OEt)、(MePrCpd)ZrBz、(MeBuCpd)ZrCl、(MeBuCpd)ZrBr、(MeBuCpd)ZrMe、(MeBuCpd)Zr(OEt)、(MeBuCpd)ZrBz、(IND)ZrCl、(IND)ZrBr、(IND)ZrMe、(IND)Zr(OEt)、(IND)ZrBz、(MeIND)ZrCl、(MeIND)ZrBr、(MeIND)ZrMe、(MeIND)Zr(OEt)、(MeIND)ZrBz、(4,5,6,7−H−IND)ZrCl、(4,5,6,7−H−IND)ZrBr、(4,5,6,7−H−IND)ZrMe、(4,5,6,7−H−IND)Zr(OEt)、(4,5,6,7−H−IND)ZrBz、(IND)(MeCpd)ZrCl、(IND)(MeCpd)ZrBr、(Cpd)ZrH、(MeCpd)ZrH、(PrCpd)ZrH、(BuCpd)ZrH、(MePrCpd)ZrH、(MeBuCpd)ZrH、(IND)ZrH、(MeIND)ZrH、(4,5,6,7−H−IND)ZrH、(Cpd)(IND)ZrH、(MeCpd)(IND)ZrH、(PrCpd)(IND)ZrH、(BuCpd)(IND)ZrH、(MePrCpd)(IND)ZrH、(MeBuCpd)(IND)ZrH、(MeIND)(IND)ZrH、(4,5,6,7−H−IND)(IND)ZrH、(IND)(BzIND)ZrH、(IND)(DBI)ZrH、(IND)(MeCpd)ZrHなどが挙げられる。
(4)錯体Aと錯体Bの組み合わせの例示
本願発明では2種の遷移金属化合物(錯体Aと錯体B)を所定の条件を満たす組み合わせで触媒として用いる。具体的な組み合わせを以下に例示する。
(1,3−MeCpd)ZrClと(IND)ZrCl、 (1,3−MeCpd)ZrMeと(IND)ZrMe、(1,2,4−MeCpd)ZrClと(IND)ZrCl、(BzIND)ZrClと(IND)ZrCl、(BzIND)ZrMeと(IND)ZrMe、(DBI)ZrClと(BuCpd)ZrCl、(DBI)ZrMeと(IND)ZrMe、Et(IND)ZrClと(BuCpd)ZrCl、Et(IND)ZrMeと(IND)ZrMe、Et(4,5,6,7−H−IND)ZrClと(BuCpd)ZrCl、Et(4,5,6,7−H−IND)ZrMeと(IND)ZrMe、MeSi(IND)ZrClと(BuCpd)ZrCl、MeSi(IND)ZrMeと(IND)ZrMe、(1,3−MeCpd)ZrHと(IND)ZrH、(1,2,4−MeCpd)ZrHと(IND)ZrH、(BzIND)ZrHと(IND)ZrH、(DBI)ZrHと(IND)ZrH、(BzIND)(IND)ZrHと(IND)ZrH、(DBI)(IND)ZrHと(MePrCpd)ZrHなどの組み合わせが挙げられる。
(5)錯体の合成法
以上の錯体の例示の中で、配位子を3つ有する遷移金属化合物を示したが、これらの殆どは、これまで知られていない新規な化合物である。以下に化合物の合成方法について2つの例を[合成方法1]及び[合成方法2]として示す。ただし、これらの遷移金属化合物の合成法はこれらの方法に限るものではない。
[合成方法1]
下記の化合物a)、b)及びc)を相互に接触させることにより製造する。
a) L
b) L
c) LiR
ここで、L、L及びLはそれぞれシクロペンタジエニル基、置換シクロペンタジエニル基、インデニル基、置換インデニル基、ベンゾインデニル基、置換ベンゾインデニル基を表す。置換基は炭素数1〜30の炭化水素基又は炭素数1〜30の炭化水素を置換基として有する有機ケイ素基であり、それぞれ同一でも異なってもよい。また、これらのうち、同一のシクロペンタジエニル環に結合した置換基はそれぞれ互いに結合して環状炭化水素基(多環式構造を含む)を形成してもよい。Mは周期律表4族の遷移金属を表し、好ましくはジルコニウムである。Xはフッ素、塩素、臭素、ヨウ素を表し、2つのXは同一でも異なってもよい。好ましくは塩素か臭素であり、特に好ましくは塩素である。Rはエチル基、プロピル基、ブチル基、ヘキシル基などのアルキル基を表す。これらは分岐があってもよい。好ましくはn−ブチル基である。
化合物a)、b)及びc)を接触させる場合は、通常は窒素又はアルゴンなどの不活性雰囲気中、一般にベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼンなどの芳香族炭化水素、ヘプタン、ヘキサン、デカン、ドデカン、シクロヘキサンなどの脂肪族又は脂環族炭化水素などの液状不活性炭化水素、或いはジエチルエーテル、テトラヒドロフランなどの含酸素炭化水素溶媒の存在下に、撹拌下又は非撹拌下で行われる。接触順序には特に制限は無いが、具体的には以下の順序で行うことが望ましい。
化合物a)とc)を接触させた後、b)を接触させる。接触に際しては、各成分を一度に添加してもよいし、一定時間をかけて添加してもよいし、分割して添加してもよい。また各成分の接触を複数回行ってもよい。
化合物a)とc)の接触は通常−100〜0℃、好ましくは−80〜−40℃の温度にて、好ましくは5分〜24時間、さらに好ましくは30分〜3時間行うことが望ましい。その後、好ましくは−30℃〜30℃、さらに好ましくは0℃〜10℃付近まで昇温した後、生じたLiClなどのハロゲン化アルカリ金属を濾過によって除く。さらに化合物b)を接触させた後、好ましくは0℃〜150℃、さらに好ましくは20℃〜80℃の温度にて、好ましくは5分〜3日、さらに好ましくは1時間〜24時間撹拌する。反応溶液中の溶媒を除いた後、ペンタンやヘキサンなどの脂肪族炭化水素で洗浄後、本願発明の新規な遷移金属化合物を得ることができる。
化合物a)、b)、c)を接触させ加熱撹拌した後、ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼンなどの芳香族炭化水素、ヘプタン、ヘキサン、デカン、ドデカン、シクロヘキサンなどの脂肪族或いは脂環族炭化水素などの液状不活性炭化水素溶液から濾過することによりLiClを反応溶液から除くこともできる。また、反応溶液から溶媒を除いた後、テトラヒドロフランなどの含酸素炭化水素溶媒で洗浄してLiClを除くこともできる。
化合物a)〜c)の使用割合は、化合物a)1モルに対して化合物b)を好ましくは1〜50モル、さらに好ましくは2〜8モルの割合で、化合物c)を通常2モルの割合で用いることができる。
[合成方法2]
下記の化合物d)とe)を相互に接触させることにより製造することができる。
d) IndZrH
e) L−H
ここで、Lはシクロペンタジエニル基、置換シクロペンタジエニル基、インデニル基、置換インデニル基、ベンゾインデニル基、置換ベンゾインデニル基を表す。置換基は炭素数1〜30の炭化水素基又は炭素数1〜30の炭化水素を置換基として有する有機ケイ素基であり、それぞれ同一でも異なってもよい。また、これらのうち、同一のシクロペンタジエニル環に結合した置換基はそれぞれ互いに結合して環状炭化水素基(多環式構造を含む)を形成してもよい。
化合物d)とe)を接触させる場合は、通常は窒素又はアルゴンなどの不活性雰囲気中、一般にベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼンなどの芳香族炭化水素、ヘプタン、ヘキサン、デカン、ドデカン、シクロヘキサンなどの脂肪族又は脂環族炭化水素などの液状不活性炭化水素、或いはジエチルエーテル、テトラヒドロフランなどの含酸素炭化水素溶媒の存在下に、撹拌下又は非撹拌下で行われる。
化合物d)とe)の接触は通常−80〜150℃、好ましくは0〜50℃の温度にて、好ましくは1分〜3時間、さらに好ましくは10分〜1時間行うことが望ましい。その後、好ましくは0℃〜150℃、さらに好ましくは20℃〜110℃付近まで昇温し、好ましくは5分〜3日、さらに好ましくは1時間〜24時間撹拌する。反応溶液中の溶媒を除いた後、ペンタンやヘキサンなどの脂肪族炭化水素で洗浄後、新規な遷移金属化合物を得ることができる。
化合物d)とe)の使用割合は、化合物d)1モルに対して化合物e)を好ましくは1〜50モル、さらに好ましくは2〜8モルの割合で用いることができる。
なお、化合物d)のIndZrHは前記の合成方法1により得ることができる。
さらに、本願発明においては、配位子を3つ有する遷移金属にアルキルアルミが結合した下記の化合物が使用されるが、これらもまた、これまで殆ど知られていない新規な化合物である。
−H−M
ここでLはシクロペンタジエニル骨格を有する配位子で、シクロペンタジエニル基、置換シクロペンタジエニル基、インデニル基、置換インデニル基、ベンゾインデニル基、置換ベンゾインデニル基を表す。Mは周期律表4族の遷移金属を表し、好ましくはジルコニウムである。Mは周期律表13族の化合物で、好ましくはアルミニウムかホウ素である。Rはメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ヘキシル基などのアルキル基を表す。これらは分岐があってもよい。好ましくはi−ブチル基である。
以下に上記化合物の合成方法の例を[合成方法3]として示すが、合成方法はこれに限るものではない。
[合成方法3]
下記化合物 f)、g)、h)を相互に接触させることにより製造する。
f) IndZrH
g) L−H
h) AlR
ここで、Lはシクロペンタジエニル基、置換シクロペンタジエニル基、インデニル基、置換インデニル基、ベンゾインデニル基、置換ベンゾインデニル基を表す。置換基は炭素数1〜30の炭化水素基又は炭素数1〜30の炭化水素を置換基として有する有機ケイ素基であり、それぞれ同一でも異なってもよい。また、これらのうち、同一のシクロペンタジエニル環に結合した置換基はそれぞれ互いに結合して環状炭化水素基(多環式構造を含む)を形成してもよい。Rはメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ヘキシル基などのアルキル基を表し、これらは分岐があってもよい。好ましくはi−ブチル基である。
化合物f)、g)、h)を接触させる場合は、通常は、窒素又はアルゴンなどの不活性雰囲気中、一般にベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼンなどの芳香族炭化水素、ヘプタン、ヘキサン、デカン、ドデカン、シクロヘキサンなどの脂肪族又は脂環族炭化水素などの液状不活性炭化水素、或いはジエチルエーテル、テトラヒドロフランなどの含酸素炭化水素溶媒の存在下に、撹拌下又は非撹拌下で行われる。
化合物f)、g)、h)の接触は通常−80〜150℃、好ましくは10〜100℃の温度にて、好ましくは1分〜48時間、さらに好ましくは10分〜6時間行うことが望ましい。反応溶液中の溶媒を除いた後(必要な場合は減圧して濃縮する)、ペンタンやヘキサンなどの脂肪族炭化水素で洗浄することにより、新規な遷移金属化合物を得ることができる。
化合物f)、g)、h)の使用割合は、化合物f)1モルに対して化合物g)を好ましくは0〜50モル、さらに好ましくは0〜8モル、h)を1〜3モルの割合で用いることができる。
なお、化合物f)のIndZrHは、前述の合成方法により得ることができる。
(6)メタロセン触媒の他の成分
本願発明のエチレン系重合体は、上記のように2種類の遷移金属化合物を、次に示す有機アルミニウムオキシ化合物、或いは遷移金属化合物と反応してイオン対を形成する化合物、又はこれらの混合物との組み合わせで、オレフィン重合用触媒として重合反応に用いる。
有機アルミニウムオキシ化合物は、分子中にAl−O−Al結合を有し、その結合数は通常1〜100、好ましくは1〜50個の範囲にある。このような有機アルミニウムオキシ化合物は、通常有機アルミニウム化合物と水とを反応させて得られる生成物である。有機アルミニウムと水との反応は、通常は不活性炭化水素中で行われる。不活性炭化水素としてはペンタン、ヘキサン、ヘプタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、ベンゼン、トルエン、キシレンなどの脂肪族炭化水素、脂環族炭化水素及び芳香族炭化水素が使用できるが、脂肪族炭化水素又は芳香族炭化水素を使用することが好ましい。
有機アルミニウムオキシ化合物の調製に用いる有機アルミニウム化合物は、下記の一般式で表される化合物がいずれも使用可能であるが、好ましくはトリアルキルアルミニウムが使用される。
AlX3−t
式中、Rは炭素数1〜18、好ましくは1〜12のアルキル基、アルケニル基、アリール基、アラルキル基などの炭化水素基、Xは水素原子又はハロゲン原子を示し、tは1≦t≦3の整数を示す。
トリアルキルアルミニウムのアルキル基は、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、オクチル基、デシル基、ドデシル基などのいずれでも差し支えないが、メチル基であることが特に好ましい。
上記有機アルミニウム化合物は、2種以上混合して使用することもできる。水と有機アルミニウム化合物との反応比(水/Alモル比)は、0.25/1〜1.2/1、特に、0.5/1〜1/1であることが好ましく、反応温度は通常−70〜100℃、好ましくは−20〜20℃の範囲にある。反応時間は通常5分〜24時間、好ましくは10分〜5時間の範囲で選ばれる。反応に要する水として、単なる水のみならず、硫酸銅水和物、硫酸アルミニウム水和物などに含まれる結晶水や反応系中に水が生成しうる成分も利用することもできる。
なお、上記した有機アルミニウムオキシ化合物のうち、アルキルアルミニウムと水とを反応させて得られるものは、通常アルミノキサンと呼ばれ、特にメチルアルミノキサンは、有機アルミニウムオキシ化合物として好適である。
有機アルミニウムオキシ化合物として、上記した各有機アルミニウムオキシ化合物の2種以上を組み合わせて使用することもでき、また有機アルミニウムオキシ化合物を不活性炭化水素溶媒に溶液又は分散させた溶液としたものを用いてもよい。
遷移金属化合物と反応してイオン対を形成する化合物の具体例を摘記すると、ボラン化合物やボレート化合物が挙げられる。
ボラン化合物をより具体的に表すと、トリフェニルボラン、トリ(o−トリル)ボラン、トリ(p−トリル)ボラン、トリ(m−トリル)ボラン、トリ(o−フルオロフェニル)ボラン、トリス(p−フルオロフェニル)ボラン、トリス(m−フルオロフェニル)ボラン、トリス(2,5−ジフルオロフェニル)ボラン、トリス(3,5−ジフルオロフェニル)ボラン、トリス(4−トリフルオロメチルフェニル)ボラン、トリス(3,5−ジトリフルオロメチルフェニル)ボラン、トリス(2,6−ジトリフルオロメチルフェニル)ボラン、トリス(ペンタフルオロフェニル)ボラン、トリス(パーフルオロナフチル)ボラン、トリス(パーフルオロビフェニル)ボラン、トリス(パーフルオロアントリル)ボラン、トリス(パーフルオロビナフチル)ボランが挙げられる。
これらの中でも、トリス(3,5−ジトリフルオロメチルフェニル)ボラン、トリス(2,6−ジトリフルオロメチルフェニル)ボラン、トリス(ペンタフルオロフェニル)ボラン、トリス(パーフルオロナフチル)ボラン、トリス(パーフルオロビフェニル)ボラン、トリス(パーフルオロアントリル)ボラン、トリス(パーフルオロビナフチル)ボランがより好ましく、さらに好ましくはトリス(2,6−ジトリフルオロメチルフェニル)ボラン、トリス(ペンタフルオロフェニル)ボラン、トリス(パーフルオロナフチル)ボラン、トリス(パーフルオロビフェニル)ボランが例示される。
ボレート化合物を具体的に表すと第1の例は、次の一般式で示される化合物である。
[L−H][BR
式中、Lは中性ルイス塩基、Hは水素原子、[L−H]はアンモニウム、アニリニウム、ホスフォニウムなどのブレンステッド酸である。アンモニウムとしては、トリメチルアンモニウム、トリエチルアンモニウム、トリプロピルアンモニウム、トリ(n−ブチル)アンモニウムなどのトリアルキル置換アンモニウム、ジ(n−プロピル)アンモニウム、ジシクロヘキシルアンモニウムなどのジアルキルアンモニウムが例示できる。
アニリウムとしては、N,N−ジメチルアニリニウム、N,N−ジエチルアニリニウム、N,N−2,4,6−ペンタメチルアニリニウムなどのN,N−ジアルキルアニリニウムが例示できる。また、ホスフォニウムとしてはトリフェニルホスフォニウム、トリブチルホスホニウム、トリ(メチルフェニル)ホスフォニウム、トリ(ジメチルフェニル)ホスフォニウムなどのトリアリールホスフォニウム、トリアルキルホスフォニウムが挙げられる。
Rは6〜20、好ましくは6〜16の炭素原子を含む、同じか又は異なる芳香族又は置換芳香族炭化水素基で、架橋基によって互いに連結されていてもよく、置換芳香族炭化水素基の置換基としてはメチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基などに代表されるアルキル基やフッ素、塩素、臭素、ヨウ素などのハロゲンが好ましい。
上記の一般式で表される化合物の具体例としては、トリブチルアンモニウムテトラ(ペンタフルオロフェニル)ボレート、トリブチルアンモニウムテトラ(2,6−ジトリフルオロメチルフェニル)ボレート、トリブチルアンモニウムテトラ(3,5−ジトリフルオロメチルフェニル)ボレート、トリブチルアンモニウムテトラ(2,6−ジフルオロフェニル)ボレート、トリブチルアンモニウムテトラ(パーフルオロナフチル)ボレート、ジメチルアニリニウムテトラ(ペンタフルオロフェニル)ボレート、ジメチルアニリニウムテトラ(2,6−ジトリフルオロメチルフェニル)ボレート、ジメチルアニリニウムテトラ(3,5−ジトリフルオロメチルフェニル)ボレート、ジメチルアニリニウムテトラ(2,6−ジフルオロフェニル)ボレート、ジメチルアニリニウムテトラ(パーフルオロナフチル)ボレート、トリフェニルホスホニウムテトラ(ペンタフルオロフェニル)ボレート、トリフェニルホスホニウムテトラ(2,6−ジトリフルオロメチルフェニル)ボレート、トリフェニルホスホニウムテトラ(3,5−ジトリフルオロメチルフェニル)ボレート、トリフェニルホスホニウムテトラ(2,6−ジフルオロフェニル)ボレート、トリフェニルホスホニウムテトラ(パーフルオロナフチル)ボレート、トリメチルアンモニウムテトラ(2,6−ジトリフルオロメチルフェニル)ボレート、トリエチルアンモニウムテトラ(ペンタフルオロフェニル)ボレートなどを例示することができる。
これらの中でも、トリブチルアンモニウムテトラ(ペンタフルオロフェニル)ボレート、トリブチルアンモニウムテトラ(2,6−ジトリフルオロメチルフェニル)ボレート、トリブチルアンモニウムテトラ(3,5−ジトリフルオロメチルフェニル)ボレート、トリブチルアンモニウムテトラ(パーフルオロナフチル)ボレート、ジメチルアニリニウムテトラ(ペンタフルオロフェニル)ボレート、ジメチルアニリニウムテトラ(2,6−ジトリフルオロメチルフェニル)ボレートなどがより好ましい。
ボレート化合物の第2の例は、次の一般式で表される。
[L´][BR
式中、L´はカルボカチオン、メチルカチオン、エチルカチオン、プロピルカチオン、イソプロピルカチオン、ブチルカチオン、イソブチルカチオン、t−ブチルカチオン、ペンチルカチオン、トロピニウムカチオン、ベンジルカチオン、トリチルカチオン、ナトリウムカチオン、プロトンなどが挙げられる。Rは段落0051の一般式におけるRの定義と同じである。
上記の化合物の具体例としては、トリチルテトラフェニルボレート、トリチルテトラ(o−トリル)ボレート、トリチルテトラ(p−トリル)ボレート、トリチルテトラ(m−トリル)ボレート、トリチルテトラ(o−フルオロフェニル)ボレート、トリチルテトラ(p−フルオロフェニル)ボレート、トリチルテトラ(m−フルオロフェニル)ボレート、トリチルテトラ(3,5−ジフルオロフェニル)ボレート、トリチルテトラ(ペンタフルオロフェニル)ボレート、トリチルテトラ(2,6−ジトリフルオロメチルフェニル)ボレート、トリチルテトラ(3,5−ジトリフルオロメチルフェニル)ボレート、トリチルテトラ(パーフルオロナフチル)ボレート、トロピニウムテトラフェニルボレート、トロピニウムテトラ(o−トリル)ボレート、トロピニウムテトラ(p−トリル)ボレート、トロピニウムテトラ(m−トリル)ボレート、トロピニウムテトラ(o−フルオロフェニル)ボレート、トロピニウムテトラ(p−フルオロフェニル)ボレート、トロピニウムテトラ(m−フルオロフェニル)ボレート、トロピニウムテトラ(3,5−ジフルオロフェニル)ボレート、トロピニウムテトラ(ペンタフルオロフェニル)ボレート、トロピニウムテトラ(2,6−ジトリフルオロメチルフェニル)ボレート、トロピニウムテトラ(3,5−ジトリフルオロメチルフェニル)ボレート、トロピニウムテトラ(パーフルオロナフチル)ボレートなどを例示することができる。
これらの中でもトリチルテトラ(ペンタフルオロフェニル)ボレート、トリチルテトラ(2,6−ジトリフルオロメチルフェニル)ボレート、トリチルテトラ(3,5−ジトリフルオロメチルフェニル)ボレート、トリチルテトラ(パーフルオロナフチル)ボレート、トロピニウムテトラ(ペンタフルオロフェニル)ボレート、トロピニウムテトラ(2,6−ジトリフルオロメチルフェニル)ボレート、トロピニウムテトラ(3,5−ジトリフルオロメチルフェニル)ボレート、トロピニウムテトラ(パーフルオロナフチル)ボレートが好ましい。
本願発明で用いる2種以上の遷移金属化合物と、有機アルミニウムオキシ化合物、或いはこれらの遷移金属化合物と反応してイオン対を形成する化合物、又はこれらの混合物からなるオレフィン重合用触媒は、担体に担持させて固体触媒として使用することができる。
担体としては、無機物担体、粒子状ポリマー担体又はこれらの混合物が使用される。無機物担体は、金属、金属酸化物、金属塩化物、金属炭酸塩、炭素物質、又はこれらの混合物が使用可能である。
無機物担体に用いることができる好適な金属としては、例えば鉄、アルミニウム、ニッケルなどが挙げられる。また、金属酸化物としては周期律表1〜8族の元素の単独酸化物又は複合酸化物が挙げられ、例えばSiO、Al、MgO、CaO、B、TiO、ZrO、Fe、Al・MgO、Al・CaO、Al・SiO、Al・MgO・CaO、Al・MgO・SiO、Al・CuO、Al・Fe、Al・NiO、SiO・MgOなどの天然又は合成の各種単独ないしは複合酸化物を例示することができる。ここで上記の式は分子式ではなく、組成のみを表すものであって、本願発明において用いられる複合酸化物の構造及び成分比率は特に限定されるものではない。また、本願発明において用いる金属酸化物は、少量の水分を吸収していても差し支えなく、少量の不純物を含有していても差し支えない。金属塩化物としては、例えばアルカリ金属、アルカリ土類金属の塩化物が好ましく、具体的には塩化マグネシウム、塩化カルシウムなどが好適である。金属炭酸塩としてはアルカリ金属、アルカリ土類金属の炭酸塩が好ましく、具体的には、炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸バリウムなどが挙げられる。炭素質物としては例えばカーボンブラック、活性炭などが挙げられる。
以上の無機物担体はいずれも本願発明に好適に用いることができるが、特に金属酸化物、シリカ、アルミナなどの使用が好ましい。
これら無機物担体は通常200〜800℃、好ましくは400〜600℃で空気中又は窒素、アルゴンなどの不活性ガス中で焼成して、表面水酸基の量を0.8〜1.5mmol/gに調節して用いるのが好ましい。
これら無機物担体の性状としては特に制限はないが、通常は平均粒径は好ましくは5〜200μm、さらに好ましくは10〜150μm、比表面積は好ましくは150〜1,000m/g、さらに好ましくは200〜500m/g、細孔容積は好ましくは0.3〜2.5cm/g、さらに好ましくは0.5〜2.0cm/g、見掛比重は好ましくは0.20〜0.50g/cm、さらに好ましくは0.25〜0.45g/cmを有す無機物担体を用いるのが好ましい。
上記した無機物担体はそのまま用いることもできるが、予備処理としてこれらの担体をトリメチルアルミニウム、トリエチルアルミニウム、トリイソブチルアルミニウム、トリプロピルアルミニウム、トリブチルアルミニウム、トリヘキシルアルミニウム、トリオクチルアルミニウム、トリデシルアルミニウム、ジイソブチルアルミニウムハイドライドなどの有機アルミニウム化合物やAl−O−Al結合を含む有機アルミニウムオキシ化合物に接触させた後に、用いることができる。
本願発明で用いる2種以上の遷移金属化合物と、有機アルミニウムオキシ化合物、遷移金属化合物と反応してイオン対を形成する化合物又はこれらの混合物と担体からオレフィン類重合用触媒を得る際の各成分の接触方法は、特に限定されず、例えば、以下の方法が任意に採用可能である。
(I)2種類の遷移金属化合物を混合し、次に助触媒と接触させ、その後担体と接触させる。
(II)1種類の遷移金属化合物と助触媒を接触させ、次に他の遷移金属化合物と接触させ、その後担体と接触させる。
(III)1種類の遷移金属化合物と助触媒を接触させ、次に担体と接触させ、その後他の遷移金属化合物を接触させる。
(IV)2種の遷移金属化合物と担体を接触させ、その後助触媒を接触させる。
(V)助触媒と担体を接触させ、その後2種の遷移金属化合物と接触させる。
これらの接触方法の中で(I)、(II)、(III)、(V)が好ましい。いずれの接触方法においても、通常は窒素又はアルゴンなどの不活性雰囲気中、一般にベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼンなどの芳香族炭化水素、ヘプタン、ヘキサン、デカン、ドデカン、シクロヘキサンなどの脂肪族或いは脂環族炭化水素などの液状不活性炭化水素の存在下に、撹拌下又は非撹拌下に各成分を接触させる方法が採用される。この接触は、通常−100℃〜200℃、好ましくは−50℃〜100℃の温度にて、好ましくは10分〜50時間、さらに好ましくは1時間〜24時間行うことが望ましい。
また、遷移金属化合物、有機アルミニウムオキシ化合物、遷移金属化合物と反応してイオン対を形成する化合物と担体の接触に際しては、ある種の成分が可溶ないしは難溶な芳香族炭化水素溶媒と、ある種の成分が不溶ないしは難溶な脂肪族又は脂環族炭化水素溶媒とがいずれも使用可能である。
各成分同士の接触反応を段階的に行う場合にあっては、前段で用いた溶媒などを除去することなく、これをそのまま後段の接触反応の溶媒に用いてもよい。また、可溶性溶媒を使用した前段の接触反応後、ある種の成分が不溶もしくは難溶な液状不活性炭化水素を添加して、所望生成物を固形物として回収した後に、或いは一旦可溶性溶媒の一部又は全部を、濃縮乾燥などの手段により除去して所望生成物を固形物として取り出した後に、この所望生成物の後段の接触反応を、上記した不活性炭化水素溶媒のいずれかを使用して実施することもできる。本願発明では各成分の接触反応を複数回行うことを妨げない。
本願発明で用いる2種以上の遷移金属化合物と有機アルミニウムオキシ化合物、遷移金属化合物と反応してイオン対を形成する化合物及び担体の使用割合は、特に限定されないが、以下の範囲が好ましい。
有機アルミニウムオキシ化合物を用いる場合、遷移金属化合物中の遷移金属(M)に対する有機アルミニウムオキシ化合物のアルミニウムの原子比(Al/M)は、通常1〜100,000、好ましくは5〜1,000、さらに好ましくは50〜200の範囲が望ましく、遷移金属化合物と反応してイオン対を形成する化合物を用いる場合、遷移金属化合物の遷移金属に対する、ホウ素の原子比(B/M)は、通常0.01〜100モル、好ましくは0.1〜50モル、さらに好ましくは0.2〜10モルの範囲で選択することが望ましい。
担体の使用量は、遷移金属化合物中の遷移金属0.0001〜5ミリモル当たり、好ましくは0.001〜0.5ミリモル当たり、さらに好ましくは0.01〜0.1ミリモル当たり1gである。
遷移金属化合物、有機アルミニウムオキシ化合物、遷移金属化合物と反応してイオン対を形成する化合物と担体を前記接触方法(I)〜(V)のいずれかで相互に接触させ、しかる後、溶媒を除去することで、オレフィン類重合用触媒を固体触媒として得ることができる。溶媒の除去は、常圧下又は減圧下、好ましくは0〜200℃、さらに好ましくは20〜150℃で、好ましくは1分〜50時間、さらに好ましくは10分〜10時間で行うことが望ましい。
なお、オレフィン類重合用触媒は、以下の方法によっても得ることができる。
(VI)遷移金属化合物と担体を接触させて溶媒を除去し、これを固体触媒成分とし、重合条件下で有機アルミニウムオキシ化合物、遷移金属化合物と反応してイオン対を形成する化合物と接触させる。
(VII)有機アルミニウムオキシ化合物、遷移金属化合物と反応してイオン対を形成する化合物と担体を接触させて溶媒を除去し、これを固体触媒成分とし、重合条件下で遷移金属化合物と接触させる。
これらの接触方法の場合も成分比、接触条件及び溶媒除去条件は前記と同様の条件が使用できる。
本願発明で用いる2種以上の遷移金属化合物は、層状珪酸塩に担持することで触媒とすることもできる。
層状珪酸塩とは、イオン結合などによって構成される面が互いに弱い結合力で平行に積み重なった結晶構造をとる珪酸塩化合物である。
大部分の層状珪酸塩は、天然には主に粘土鉱物の主成分として産出するが、これら、層状珪酸塩は特に天然産のものに限らず、人工合成物であってもよい。これらの中では、モンモリロナイト、ザウコナイト、バイデライト、ノントロナイト、サポナイト、ヘクトライト、スチーブンサイト、ベントナイト、テニオライトなどのスメクタイト族、バーミキュライト族、雲母族が好ましい。
一般に、天然品は、非イオン交換性(非膨潤性)であることが多く、その場合は好ましいイオン交換性(ないし膨潤性)を有するものとするために、イオン交換性(ないし膨潤性)を付与するための処理を行うことが好ましい。そのような処理のうちで特に好ましいものとしては次のような化学処理が挙げられる。ここで化学処理とは、表面に付着している不純物を除去する表面処理及び層状珪酸塩の結晶構造と化学組成に影響を与える処理のいずれをも用いることができる。具体的には、(イ)塩酸、硫酸などを用いて行う酸処理、(ロ)NaOH、KOH、NHなどを用いて行うアルカリ処理、(ハ)周期律表第2族から第7族から選ばれた少なくとも1種の原子を含む陽イオンとハロゲン原子又は無機酸由来の陰イオンからなる群より選ばれた少なくとも1種の陰イオンからなる塩類を用いた塩類処理、(ニ)アルコール、炭化水素化合物、ホルムアミド、アニリンなどの有機物処理が挙げられる。これらの処理は単独で行ってもよいし、2つ以上の処理を組み合わせてもよい。
層状珪酸塩は、全ての工程の前後又は中間のいずれの時点においても、粉砕、造粒、分粒、分別などによって粒子性状を制御することができる。
層状珪酸塩はそのまま用いることもできるが、これらの層状珪酸塩をトリメチルアルミニウム、トリエチルアルミニウム、トリイソブチルアルミニウム、トリプロピルアルミニウム、トリブチルアルミニウム、トリヘキシルアルミニウム、トリオクチルアルミニウム、トリデシルアルミニウム、ジイソブチルアルミニウムハイドライドなどの有機アルミニウム化合物やAl−O−Al結合を含む有機アルミニウムオキシ化合物と組み合わせて用いることができる。
本願発明で用いる2種以上の遷移金属化合物を層状珪酸塩に担持するには、遷移金属化合物と層状珪酸塩を相互に接触させる、あるいは遷移金属化合物、有機アルミニウム化合物、層状珪酸塩を相互に接触させてもよい。各成分の接触方法は、特に限定されず、例えば、以下の方法が任意に採用可能である。
(VIII)2種の遷移金属化合物と有機アルミニウム化合物を接触させた後、担体(層状珪酸塩)と接触させる。
(IX)2種の遷移金属化合物と担体を接触させた後、有機アルミニウム化合物と接触させる。
(X)1種類の遷移金属化合物と担体を接触させ、次に担体と有機アルミニウムを接触させ、その後他の遷移金属化合物を接触させる。
(XI)有機アルミニウムオキシ化合物と担体を接触させた後、2種の遷移金属化合物とを接触させる。
これらの接触方法の中で、特に(VIII)と(XI)が好ましい。いずれの接触方法においても、通常は窒素又はアルゴンなどの不活性雰囲気中、一般にベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼンなどの芳香族炭化水素、ヘプタン、ヘキサン、デカン、ドデカン、シクロヘキサンなどの脂肪族或いは脂環族炭化水素などの液状不活性炭化水素の存在下に、撹拌下又は非撹拌下に各成分を接触させる方法が採用される。
遷移金属化合物と、有機アルミニウム化合物、担体の使用割合は、特に限定されないが、以下の範囲が好ましい。遷移金属化合物の担持量は、層状珪酸塩1gあたり、0.0001〜5ミリモル、好ましくは0.001〜0.5ミリモル、さらに好ましくは0.01〜0.1ミリモルである。有機アルミニウム化合物を用いる場合のAl担持量は、0.01〜100モル、好ましくは0.1〜50モル、さらに好ましくは0.2〜10モルの範囲であることが望ましい。
担持及び溶媒除去の方法は、前記の無機物担体と同様の条件が使用できる。このようにして得られるオレフィン類重合用触媒は、粒子形状の調整などのために必要に応じてモノマーの予備重合を行った後に使用しても差し支えない。
4.非共役ポリエン共存下での重合
本願発明のエチレン系重合体を得る際に、前記した特定の二種のメタロセン触媒の使用下において、少量のα,ω−非共役ジエンなどの非共役ポリエンの共存下、エチレンの単独重合又は他のオレフィンとの共重合を行うことにより、機械強度を損なわずに加工性の優れたポリエチレン組成物を生成させることができる。
ここでいうオレフィン類には、α−オレフィン類、環状オレフィン類、スチレン類似体及び極性基含有オレフィン類が包含される。
本願発明では、非共役ポリエン共存下での重合で、非共役ポリエン濃度を制御することで長鎖分岐成分の構造制御をする方法を見出し、ポリエチレン組成物の加工性を大幅に向上させることに成功した。使用可能な非共役ポリエンは炭素数5〜24であり、好ましくは末端二重結合を2つ以上有する炭素数6〜18の非共役ジエン、非共役トリエンである。好ましい具体的には、1,4−ペンタジエン、1,5−ヘキサジエン、1,6−ヘプタジエン、1,7−オクタジエン、1,8−ノナジエン、1,9−デカジエン、1,13−テトラデカジエン、3−メチル−1,4−ペンタジエン、1,5,9−デカトリエン、1,2,4−トリビニルシクロヘキサンなどが例示され、さらに好ましくは、1,7−オクタジエンが挙げられる。
本願発明における非共役ポリエンの使用量は、重合系内のエチレンに対し0〜1mol%で、好ましくは0〜0.5mol%、さらに好ましくは0.0001〜0.05mol%の範囲である。非共役ポリエンの使用量が1mol%を超えるとエチレン重合体の成形加工性と機械物性のバランスが損なわれ好ましくない。
なお、図1に本願発明の錯体A及びBを使用して重合されるポリマーのMFRの差異と、ポリエンを共存させたときの反応性の差異を示す概念がグラフ図として図示されている。ポリエンを共存させないときに10倍以上のMFRの差が有り、ポリエンを共存させると錯体AによるMFRの低下度合いが錯体Bによるものよりも大きいことが示されている。
5.共重合モノマー
本願発明のエチレン系重合体においては、α−オレフィン類、環状オレフィン類、スチレン類似体及び極性基含有オレフィン類と共重合することができる。
α−オレフィン類には、炭素数3〜20、好ましくは3〜8のものが包含され、具体的には、プロピレン、1−ブテン、1−ヘキセン、4−メチル−1−ペンテン、1−オクテン、ビニルシクロヘキサンなどが例示される。2種類以上のα−オレフィンを共重合させることも可能であり、α−オレフィンの量は全モノマーの40モル%以下、好ましくは30モル%以下、さらに好ましくは20モル%以下の範囲で選ばれる。
環状オレフィンとしては、炭素数3〜24、好ましくは3〜18のものが本願発明で使用可能であり、これには例えば、シクロプロペン、シクロブテン、シクロペンテン、シクロヘキセン、3−メチルシクロヘキセン、シクロオクテン、シクロデセン、シクロドデセン、テトラシクロデセン、オクタシクロデセン、ジシクロペンタジエン、ノルボルネン、5−メチル−2−ノルボルネン、5−エチル−2−ノルボルネン、5−イソブチル−2−ノルボルネン、5,6−ジメチル−2−ノルボルネン、5,5,6−トリメチル−2−ノルボルネン、エチリデンノルボルネンなどが包含される。環状オレフィンの量は共重合体の50モル%以下、通常は1〜50モル%、好ましくは2〜50モル%の範囲にある。
本願発明で使用可能なスチレン類似体は、スチレン及びスチレン誘導体であって、その誘導体としては、t−ブチルスチレン、α−メチルスチレン、p−メチルスチレン、ジビニルベンゼン、1,1−ジフェニルエチレン、N,N−ジメチル−p−アミノエチルスチレン、N,N−ジエチル−p−アミノエチルスチレンなどを例示することができる。
6.重合方法
本願発明のエチレン系重合体を得るための重合反応は、前記したメタロセン触媒の存在下に、スラリー重合、溶液重合、又は気相重合にて行うことができる。スラリー重合又は気相重合が好ましく、実質的に酸素と水分を断った状態で、イソブタン、ヘキサン、ヘプタンなどの脂肪族炭化水素、ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサンなどの脂環族炭化水素などから選ばれる不活性炭化水素溶媒の存在下又は不存在下で、オレフィンを重合させる。この時の重合条件は、温度は好ましくは20〜200℃、さらに好ましくは50〜100℃、圧力は好ましくは常圧〜7MPa、さらに好ましくは常圧〜3MPaの範囲にあり、重合時間としては好ましくは5分〜10時間、さらに好ましくは5分〜5時間が採用される。
生成重合体の分子量は、重合温度、触媒のモル比などの重合条件を変えることによってもある程度調節可能であるが、重合反応系に水素を添加することでより効果的に分子量調節を行うことができる。
また、重合系中に、水分除去を目的とした成分、いわゆるスカベンジャーを加えても何ら支障なく重合を実施することができる。なお、かかるスカベンジャーとしては、トリメチルアルミニウム、トリエチルアルミニウム、トリイソブチルアルミニウムなどの有機アルミニウム化合物、有機アルミニウムオキシ化合物、分岐アルキルを含有する変性有機アルミニウム化合物、ジエチル亜鉛、ジブチル亜鉛などの有機亜鉛化合物、ジエチルマグネシウム、ジブチルマグネシウム、エチルブチルマグネシウムなどの有機マグネシウム化合物、エチルマグネシウムクロリド、ブチルマグネシウムクロリドなどのグリニヤ化合物などが使用される。これらのなかでは、トリエチルアルミニウム、トリイソブチルアルミニウム、エチルブチルマグネシウムが好ましく、トリエチルアルミニウムが特に好ましい。
水素濃度、モノマーとコモノマー濃度、非共役ジエン濃度、重合圧力、重合温度などの重合条件が互いに異なる2段階以上の多段階重合方式にも、支障なく適用することができる。
7.添加剤
第II層のシーラント層を構成するエチレン系樹脂層には、有機或いは無機フィラー、粘着付与剤、酸化防止剤、防曇剤、有機或いは無機系顔料、分散剤、核剤、発泡剤、難燃剤、架橋剤、紫外線防止剤、(不)飽和脂肪酸アミド、(不)飽和高級脂肪酸の金属塩の滑剤などの公知の添加剤を本願発明の特性を本質的に阻害しない範囲で添加することができる。これらの添加剤の中でも、無機フィラー、粘着付与剤、滑剤は作業性をより向上させるために好適に用いられる。
無機フィラーとしては、軽質及び重質炭酸カルシウム、タルク、シリカ、ゼオライト、炭酸マグネシウム、長石などが挙げられる。
粘着付与剤としては、ポリブテン、ヒマシ油誘導体、ソルビタン脂肪酸エステル、ロジン及びロジン誘導体、石油樹脂及びそれらの水添物などのタッキファイヤー、ゴムが挙げられる。これら粘着付与剤は0.5〜20重量部の範囲で配合することができる。
滑剤としては、オレイン酸アミド、ステアリン酸アミド、エルカ酸アミドなどの脂肪酸アミド、ステアリン酸モノグリセライド、ステアリン酸ジグリセライド、オレイン酸モノグリセライド、オレイン酸ジグリセライドなどの脂肪酸グリセリンエステル化合物及びそれらのポリエチレングリコール付加物などが挙げられる。
顔料としてはカーボンブラック、チタン白などの他、市販の各種着色剤マスターバッチが好適に用いられる。
これらの添加剤は単独或いは混合組成物として使用されるが、添加量としては通常0.01〜0.5重量%、好ましくは0.05〜0.3重量%である。添加量が0.01重量%未満ではフィルムの改質効果が充分ではなく、0.5重量%を越える場合にはフィルム表面への浮き出し量が多く、フィルムがべたつき、その結果、作業性が著しく低下するなどの問題が起こるため好ましくない。
8.基材層
本願発明の第I層の基材層としては、上質紙、クラフト紙、薄葉紙、ケント紙などの紙材、アルミニウム箔などの金属箔、セロファン、織布、不織布、延伸ナイロン、無延伸ナイロン、特殊ナイロン(MXD6など)、K−ナイロン(ポリフッ化ビニリデンコート)などのナイロン系基材、延伸PET、無延伸PET、K−PET、アルミニウム蒸着PET(VMPET)などのPET(ポリエチレンテレフタレート)系基材、延伸PP(OPP)、無延伸PP(CPP)、アルミニウム蒸着PP、K−PP、共押出フィルムPPなどのポリプロピレン系基材、LDPEフィルム、LLDPEフィルム、EVAフィルム、延伸LDPEフィルム、延伸HDPEフィルム、ポリスチレン系フィルムなどの合成樹脂フィルム系基材などが挙げられ、これらは印刷されたものでも差し支えない。また必要に応じて、コロナ処理、フレーム処理、プラズマ処理、紫外線処理、アンカーコート処理などの各種前処理がなされていても良い。
9.積層構成
本願発明の積層体とは、前記基材となる第I層と、第II層とを少なくとも有するもので、その第II層をシーラント層として積層体の表面層に位置させることが好適である。第III層と第I層とは隣接するように配置しても良く、場合により、第I層と第II層の間、或いは第I層の外側にさらに、LDPE、LLDPE、EVA、エチレン酢酸ビニル共重合体ケン化物(EVOH)、これらの酸又は酸無水物グラフト共重合体などの樹脂層、或いは、上記の各種基材層が積層されていてもよい。
例えば、紙/PEラミ/Al/II層、紙/PEラミ/Al/PEラミ/II層、紙/酸変性PE/EVOH/II層、K−PP/PEラミ/Al/II層、K−ナイロン/酸変性PE/EVOH/II層、延伸HDPE/酸変性PE/EVOH/II層、不織布/酸変性PE/EVOH/II層などが挙げられる(なお、PEラミ:ポリエチレン系樹脂のラミネート層、Al:アルミニウム箔、酸変性PE:無水マレイン酸変性ポリエチレンを示す)。
10.積層方法
本願発明の積層体を製造する方法としては、押出ラミネーション成形、ドライラミネーションなどが挙げられる。好ましくは、第I層に第II層を押出ラミネーション成形によって積層する方法、第I層の基材に、LDPEやLLDPEなどの樹脂を押出ラミネーション成形にて積層した後に、第II層を押出ラミネーション成形にて積層する方法、或いはそれらの際に第II層と第I層の間に接着剤及び/又はエチレン系重合体を介在させる方法などである。
以下に実施例および比較例に基づいて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。実施例および比較例における試験法は以下のとおりである。
[重合体の物性測定]
各実施例及び各比較例で得られた重合体の物性測定は、以下に説明する方法で行った。試験に供する樹脂は、酸化防止剤としてB−225(チバ・スペシャルティー・ケミカルズ社製酸化防止剤イルガノックス(登録商標))を0.1重量部添加し、150℃で10分間ロール練りしたものを用いた。
1)メルトフローレートMFR及びDSR
MFRは、JIS K−7210の表1−条件7に従い、温度190℃、荷重21.18Nの条件で測定した。
また、このときダイから押出されたストランドの直径Dを測定し、オリフィスの直径Doとの比D/Doを求め、DSRとした。
2)密度
JIS K−7112に従い測定した。
3)フローレシオFR
FRは、メルトフローレートのMFR10/MFRから計算により求めた値である。ここでMFRは、JIS K−7210−1999に従い、温度190℃、荷重21.18Nの条件で測定した値であり、MFR10 は、JIS K−7210−1999に従い、温度190℃、荷重98.06Nの条件で測定した値である。
4)メモリーエフェクトME
JIS K−7210で使用されるメルトインデクサーを用いて、次のようにして測定した。シリンダー温度240℃の条件下で、装置にサンプルを充填後、ピストンのみを載せ、6分後に3g/分の一定速度で溶融したサンプルを押し出し、1分間経過した時点でオリフィスから出たサンプルをオリフィス直下の出口でカットし、次にエチルアルコールを入れたメスシリンダーをオリフィスの真下に液面がオリフィス下面から20mmの距離となるように置き、真直ぐな押出物を採取して、その直径を0.01mm単位で測定する。その値をオリフィスの内径2.095mmで割り、MEの値とする。
5)GPCによる分子量及び分子量分布測定
ウォーターズ社製AllianceGPC2000型を使用し、下記の条件で測定を行い、分子量及び分子量分布を求めた。
カラム:ShowdexHT−G及び同HT−806M×2本 溶媒:1,2,4−トリクロロベンゼン 温度:140℃ 流量:1.0ml/分 カラムの較正:昭和電工製単分散ポリスチレン(S−7300 S−3900 S−1950 S−1460 S−1010 S−565 S−152 S−66.0 S−28.5 S−5.05 の各0.2mg/ml溶液)
n−エイコサン及びn−テトラコンタンの測定を行い、溶出時間と分子量の対数値を4次式で近似した。なお、ポリスチレンとポリエチレンの分子量の換算には次式を用いた。
PE=0.468×MPS
6)主鎖1,000Cあたりの短鎖分岐数(SCB)
日本電子(株)製JNM−GSX400型NMR装置及びC10型プローブを用い、以下の条件で 13C−NMRスペクトルを測定した。
パルス幅:8.0μs(フリップ角=40°) パルス繰り返し時間:5秒
積算回数:5,000回以上 溶媒及び内部標準:1,2,4−トリクロロベンゼン/ベンゼン−d/ヘキサメチルジシロキサン(混合比:30/10/1) 測定温度:120℃ 試料濃度:0.3g/ml
得られたスペクトルの解析は、例えば、エチレン/1−ブテン共重合体については「Eric T.Hsieh & James C.Randall,Macromolecules vol.15,353−360(1982)」、エチレン/1−ヘキセン共重合体については、「Eric T.Hsieh & James C.Randall,Macromolecules vol.15,1402−1406(1982)」の文献に従って行い、SCB及びBを求めた。
7)流動の活性化エネルギーEa
段落0019に記載した方法による。なお、炭素数20を超える長鎖分岐の存在は、ΔEaの値で確認した。
8)伸張粘度λmax
試験に供する樹脂を190℃で熱プレスして150mm×70mm×2mmのシートを作成し、このシートから7mm×70mm×2mmに打ち抜いたものをサンプルとした。レオメトリック社製RME型一軸伸長粘度測定装置を用いて140℃・歪速度(設定値:1.0,0.3,0.1s−1)における非定常一軸伸長粘度曲線を測定した。次に、流動の活性化エネルギーと同様の条件で測定した140℃における動的粘弾性測定データから、段落0024に記載した式(3)と(5)及び計算方法を使用して、λmaxを算出した。
[押出しラミネート成形の評価]
本願発明のエチレン系重合体の良好な成形加工性を実証するため、90mmφ
押出機を備えたダイス幅1,100mmのラミネート成形機を用いて、以下の条
件で実施例1、実施例2、比較例1、比較例2で得られた重合体の押出しラミネ
ート成形を実施した。
なお、ネックインは、ラミネート厚み20μm、ライン速度100、150及
び200m/分の時のTダイ幅と製膜幅の差であり、ドローダウンは、押出機の
回転数30rpm一定で安定して成形が可能な速度の最高値である。
エアギャップ:120mm 成形時樹脂温度:290℃ ライン速度:表中
に記載 ラミネート厚み:20μm Tダイ幅:800mm
[積層体評価法]
低温ヒートシール性:ヒートシール試験器(テスター産業(株)製)を使用し、
シールバー幅5mm・圧力2kg/cm2でシール温度を5℃刻みで1秒間シール後、放冷した。シール部を15mm幅に短冊状に切り出し、引張試験機にて300mm/minでシール部を剥離し、その際の荷重が30Nとなる温度を内挿により求めた。この温度が低い方が低温ヒートシール性に優れたものである。
ヒートシール強度:前述のヒートシーラーを用い、圧力2kg/cm2・シール温度150℃・シール時間3秒でヒートシールした後、放冷した。シール部を15mm幅に短冊状に切り出し、引張試験機にて300mm/minでシール部を剥離し、強度を求めた。
ホットタック強度:THELLER製ホットタックテスター(Model Ht Hot Tack Tester)を使用し、ASTM F1921−98に準拠してシール温度105℃・シール時間1秒・シール圧0.414MPa・ピーリング速度200cm/分の条件でシール後、187msと375msの強度を測定した。
[重合用触媒の調製]
錯体調製及び触媒調製に用いたトルエンやヘキサンは脱気後にモキュラーシーブ3Aで脱水したものを用いた。メチルアルミノキサンMAOは、アルベマール社20wt%トルエン溶液品(Al濃度が約2.9mol/L)を用いた。固体触媒の担体として用いたシリカは、表面積290m、細孔容積1ml/g、平均粒径45μmで、650℃で7時間焼成したものを用いた。ベンゾインデンは4,5−ベンゾインデンと6,7−ベンゾインデンの混合物であり、「Bulletin de la Societe Chimique de Frace(1967)3 987−992」に基づき合成されたものを用いた。
[遷移金属錯体の合成]
(トリスインデニルジルコニウムハイドライド(錯体1)の調製)
窒素雰囲気下、100mlナス型フラスコにビスインデニルジルコニウムジクロライド(IndZrCl)の1mmol(0.39g)をトルエン30mlに懸濁し、寒剤(ドライアイス−エタノール)で−78℃に冷却し、n−ブチルリチウム(n−BuLi)を2mmol加える。この混合溶液を寒剤から出して温度をゆっくり上げ、0℃付近でインデンを4mmol加える。さらに室温まで温度を上げ30分反応する。反応後析出したリチウムクロライド(LiCl)を濾別する。濾液をさらに50℃で12時間反応させ析出した沈殿をn−ヘキサンで洗浄し、錯体1を収率64%で得た。
(トリスベンゾインデニルジルコニウムハイドライド(錯体2)の調製)
窒素雰囲気下、50mlナス型フラスコにトリスインデニルジルコニウムハイドライドの0.31mmol(0.14g)をヘキサン5mlに懸濁し、ベンゾインデン(BenzInd)1.2mmol加え、50℃で2時間反応させた。溶媒を除いた後、析出した固体をn−ヘキサンで洗浄することにより、錯体2を収率83%で得た。
[固体触媒の調製]
(固体触媒Iの調製)
錯体1の46mg(0.1mmol)と錯体2の59mg(0.1mmol)を100mlナスフラスコに入れ、これにトルエン20mlとメチルアルミノキサントルエン溶液を14ml(Alで40mmol)加えた後、予め300mlの磁気誘導撹拌機を備えたフラスコに10gのシリカを入れて脱気しておいたものに、上記混合液を添加した。その後減圧下で溶媒を除去することで流動性の良い固体触媒を得た。
(固体触媒IIの調製)
錯体1の46mg(0.1mmol)と錯体2の118mg(0.2mmol)を用いた以外は固体触媒I同様に調製した。
(固体触媒IIIの調製)
特開2000−154196号公報(実施例8)に基づき、以下のように調製した。
50mlフラスコにトルエン5.7ml、ジルコニウムテトラn−ブトキシドのn−ブタノール(1:1)混合物1.4g(3mmol)、インデン2.1g(18mmol)、1−メチル−3−プロピルシクロペンタジエン1.1g(9mmol)を入れ、90℃に加熱し、この溶液にトリイソブチルアルミニウムのトルエン溶液(1.2mol/L)21mlを2時間かけて滴下することで遷移金属錯体溶液を調製した。この溶液(0.09mol/L)4.4mlとメチルアルミノキサンのトルエン溶液14mlとトルエン20mlを混合した溶液を、予め300mlの磁気誘導撹拌機を備えたフラスコに10gのシリカを入れて脱気しておいたものに添加した。その後減圧下で溶媒を除去することで流動性の良い固体触媒を得た。
〔実施例1〕
[重合反応]
表1に示す所定の温度、コモノマー/エチレンモル比、水素/エチレンモル比、窒素濃度30mol%のガス組成、圧力0.8MPaで準備された気相連続重合装置(内容積100L、流動床直径10cm)に固体触媒を間欠的に供給しながらガス組成と温度を一定にして重合を行った。コモノマーには1,7−オクタジエンを1−ヘキセンに対して2ml/Lの割合で混合したものを用いた。得られた重合体の物性を表1に記載した。
[ラミネート加工]
得られた重合体を単軸押出機(50mmφ L/D=24)を用いて170℃で混練押出しを行いペレット化した。厚さが15μm、片面にコロナ処理の施された2軸延伸ポリアミドフィルムを基材(第I層)とし、このフィルムのコロナ処理面に、イソシアネート系アンカーコート剤(大日精化工業製、3600A/B、配合比7:3)とオゾン処理を併用して、得られた重合体を第II層として樹脂温度290℃・厚さ20μmで押出ラミネートし積層体を得た。得られた積層体のラミネート成形性を表1に記載した。成形性は、ネックインとドローダウン共に良好であり、モーター負荷も小さく良好であった。
[積層体評価]
得られた積層体につき段落0071に従い評価を行った。結果を表1に記載した。低温ヒートシール性とヒートシール強度及びホットタック強度ともに優れることを確認した。
〔実施例2〕
[重合反応]
表1に記載の固体触媒と重合条件に変更した以外は実施例1と同じく重合を行った。得られた重合体の物性を表1に記載した。
[ラミネート加工]
得られた重合体を実施例1と同様にペレット化したのち、押出ラミネート成形を行い積層体を得た。得られた積層体のラミネート成形性を表1に記載した。成形性は、ネックインとドローダウン共に良好であり、モーター負荷も小さく良好であった。
[積層体評価]
得られた積層体につき実施例1と同様に評価を行った。結果を表1に記載した。
低温ヒートシール性とヒートシール強度及びホットタック強度ともに優れることを確認した。
〔比較例1〕
[重合反応]
特開2000−154196号公報の実施例8と同様に行ない重合体を得た。得られた重合体の物性を表1に記載した。
[ラミネート加工]
得られた重合体を実施例1と同様にペレット化したのち押出ラミネート成形を行ったが、成形性が極めて悪く積層体を得ることはできなかった。また、モーター負荷も高く、この重合体は押出ラミネート成形には適していないといえる。
[積層体評価]
積層体を得られなかったため実施できなかった
〔比較例2〕
比較例1で得られた重合体70重量部に対し、高圧法低密度ポリエチレン(MFR5g/10分 密度0.918g/cm)を30重量部を加え50mmφの単軸押出機(L/D=24)を用いて170℃で溶融混練しペレット化した。得られた組成物の物性を表1に記載した。
[ラミネート加工]
得られた組成物を実施例1と同様に押出ラミネート成形を行い積層体を得た。
得られた積層体のラミネート成形性を表1に記載した。成形性は、ネックインとドローダウン共に良好であるが、モーター負荷がやや高かった。
[積層体評価]
得られた積層体につき実施例1と同様に評価を行った。結果を表1に記載した。
低温ヒートシール性は実施例1,2並で良好であったが、ヒートシール強度やホットタック強度は弱く劣ることを確認した。高圧法低密度ポリエチレンの添加の影響と考えられる。
Figure 0004907170
(a)1,7−オクタジエン/エチレンフィードモル比[ppm]
(b)水素/エチレン重合系内モル比×10,000
(c)重合系内モル比
[実施例と比較例との対照による考察]
実施例1,2は本願請求項1の発明の構成要件を満たすものであるが、成形性は、ネックインとドローダウン共に良好であり、モーター負荷も小さかった。積層体評価は、低温ヒートシール性とヒートシール強度及びホットタック強度ともに優れている。
比較例1、2は従来品の材料を使用したので、比較例1では押出ラミネートが不能で、比較例2では、本願請求項1の発明の構成要件を満たしていないので、
成形性は、ネックインとドローダウン共に良好であるとしても、モーター負荷がやや高く、低温ヒートシール性は実施例並で良好であるとしても、ヒートシール強度やホットタック強度は弱く劣っていた。
以上の結果からして、各比較例にみられる従来技術に対して、本願発明のエチレン系重合体シーラントの卓越性が明らかであり、本願発明の構成の有意性と合理性が立証されている。
本願発明の錯体A及びBを使用して重合されるポリマーのMFRの差異と、ポリエンを共存させたときの両錯体の反応性の差異の概念を示すグラフ図である。 本願発明の伸長粘度規定λmaxを求めるための、非定常一軸伸張粘度曲線を表すグラフ図である。

Claims (3)

  1. 基材となる第I層と、シーラント層となる第II層とを少なくとも有する積層体であって、第II層が下記a)乃至d)の条件を満たし、炭素数1〜20の短鎖分岐と炭素数20を超える長鎖分岐が高分子主鎖に導入されたエチレン系重合体からなり、炭素数1〜20の短鎖分岐と炭素数20を超える長鎖分岐の、高分子主鎖への導入を、非共役ポリエンに対する反応性が異なる、二種又は複数種のメタロセン触媒により各々の触媒に応じて行われ、エチレン系重合体が非共役ポリエンの共存下において重合され、非共役ポリエンの濃度を制御することにより長鎖分岐成分の分岐構造が制御されたことを特徴とするヒートシール性積層体。
    a)JIS K−7112に基づいて測定された密度が、0.880〜0.970g/cmである。
    b)JIS K−7210の表1−条件7に基づき、温度190℃において加重21.1
    8Nの条件で測定されたメルトフローレート(MFR)が、0.01〜100g/10分である。
    c)流動の活性化エネルギーEa[KJ/mol]と、下記の式(1)により算出される活性化エネルギーEa[KJ/mol]との差ΔEa[KJ/mol]が、1.5〜12.5である。
    Figure 0004907170
    ここで、SCBは主鎖の炭素原子1,000あたりの炭素数1〜20の短鎖分岐数[個数/1,000C]を表し、Bは炭素数1〜20の短鎖分岐の長さ(炭素数)を表す。
    d)伸長粘度λmaxとΔEaとが下記の式(2)を満たす。
    λmax≧1.2exp(0.0721×ΔEa) 式(2)
  2. エチレン系重合体が、エチレン重合体又はエチレンと3〜20の炭素原子を有するα−オレフィンとの共重合体であり、それらに非共役ポリエンが共重合された共重合体であることを特徴とする、請求項1に記載されたヒートシール性積層体。
  3. 基材となる第I層に、シーラント層となる第II層を押出ラミネーションによりラミネートしたことを特徴とする、請求項1又は請求項2に記載されたヒートシール性積層体。
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