JP4901795B2 - フライアッシュの溶融スラグへの溶解方法 - Google Patents
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Description
一方、高炉から排出される高炉溶融スラグ(以下、単に溶融スラグともいう)は、1400℃以上の顕熱を有するにも関わらず、多くは水砕法によって冷却され、その顕熱の有効利用が課題であった。
これらの課題に対し、高温の高炉溶融スラグにフライアッシュを溶解することで、顕熱の有効活用とフライアッシュの利材化を図る方法が提案されている。
また、特許文献2においても、同様の吹き込み方法を用い、フライアッシュに酸化鉄含有ダストを混合してフライアッシュの融点を低下させることで、フライアッシュを高炉溶融スラグに安定的に溶解させる方法が開示されている。
なお、本発明者らも、これらの方法を用いれば、溶融スラグに5質量%程度のフライアッシュを溶解させることが可能であることを確認している。
近年、フライアッシュの発生量が一層増大しているが、フライアッシュの吹き込み速度を高速で行う必要性から、高炉から排出される溶融スラグのうち、一旦鍋型容器に受けて搬送した後に水砕処理が行われる溶融スラグを対象とし、これにフライアッシュを溶解する方式を選定した場合、溶融スラグ量とのバランス上、フライアッシュを溶融する前の溶融スラグ量に対するフライアッシュの溶解割合(溶解量)を10質量%以上に確保する必要が生じた。
しかし、溶融スラグを一旦鍋型容器に移す場合、溶融スラグの温度を1440℃以下まで低下することが前提となる。このため、より低温の溶融スラグに10質量%以上の多量のフライアッシュを溶解する必要が生じることから、吹き込み条件の厳選が必要であった。
しかし、この方式でも、高炉溶融スラグへのフライアッシュの溶解量は、最大で10質量%程度、安定的には5質量%程度に留まることが判明している。従って、更に多量のフライアッシュを安定的に溶解させるためには、炭素の燃焼に伴う熱量の確保や吹き込み条件の厳密な制御が必要であった。
温度1380℃以上1440℃以下の前記高炉溶融スラグに、前記フライアッシュ中の炭素成分を完全燃焼させるために必要な酸素量に対して供給する酸素の割合を示す酸素比が0.8未満となる吹き込み速度で、前記フライアッシュの吹き込みを開始した後、該フライアッシュの溶解割合が5質量%以上15質量%以下の範囲に到達した時点で、該フライアッシュの吹き込み速度を低下させる。
温度1370℃以上1380℃未満の前記高炉溶融スラグに、前記フライアッシュ中の炭素成分を完全燃焼させるために必要な酸素量に対して供給する酸素の割合を示す酸素比が0.8以上となる吹き込み速度で、前記フライアッシュの吹き込みを開始した後、該フライアッシュの溶解割合が5質量%以上15質量%以下の範囲に到達した時点で、該フライアッシュの吹き込み速度を上昇させる。
T1=(82.4−C1)/0.055 ・・・(1)
第1、第2の発明に係るフライアッシュの溶融スラグへの溶解方法において、式(2)に基づき、吹き込み開始前の前記高炉溶融スラグの温度T2(℃)から、該高炉溶融スラグを水砕するために必要な炭素濃度C2(質量%)を求め、該炭素濃度C2(質量%)以上の炭素を有する前記フライアッシュ、又は該炭素濃度C2(質量%)以上に調整した前記フライアッシュを、前記高炉溶融スラグに吹き込むことが好ましい。
C2=−0.055×T2+82.4 ・・・(2)
また、高炉溶融スラグへは、フライアッシュのみ(場合によっては、全鉄量が11質量%以下となる程度の酸化鉄含有ダスト類を混入させたフライアッシュ)を使用するので、フライアッシュ以外の余分な粉体量が少なく、限られた熱裕度内でフライアッシュの溶解割合を増やすことができ、経済的である。
そして、高炉溶融スラグへのフライアッシュの溶解割合を10質量%以上とすることで、高炉溶融スラグの融点を低下させることができ、安定した水砕が可能となる。
更に、予め規定した吹き込み速度でフライアッシュの吹き込みを開始した後、フライアッシュの溶解割合が5質量%以上15質量%以下の範囲に到達した時点で、フライアッシュの吹き込み速度を変えるので、従来よりも少ない酸素量で、フライアッシュを溶解させた高炉溶融スラグの温度を、水砕可能な境界温度以上に確保しながら、その境界温度に近づけることができ、多量のフライアッシュを、安定かつ経済的に溶解できる。
また、フライアッシュの溶解割合が5質量%以上15質量%以下の範囲に到達した時点で、その吹き込み速度を低下させるので、高炉溶融スラグの温度を上昇させ、水砕可能な境界温度以上に確保でき、酸素の総使用量を低減できる。
また、フライアッシュの溶解割合が5質量%以上15質量%以下の範囲に到達した時点で、その吹き込み速度を上昇させるので、高炉溶融スラグの温度を、水砕可能な境界温度に近づけながら、その境界温度以上に確保でき、酸素の総使用量を低減できる。
請求項4記載のフライアッシュの溶融スラグへの溶解方法は、高炉溶融スラグの温度から、この高炉溶融スラグに吹き込むのに適した炭素濃度を有するフライアッシュ、又はこの炭素濃度に調整したフライアッシュを選定できるので、安定した水砕が可能となる。
請求項5記載のフライアッシュの溶融スラグへの溶解方法は、鍋型容器の形状を規定することで、放熱による高炉溶融スラグの温度低下を最小限に抑えることができ、安定した水砕が可能となる。
ここで、図1(A)、(B)はそれぞれ本発明の一実施の形態に係るフライアッシュの溶融スラグへの溶解方法によるフライアッシュの吹き込み速度の変化を示した説明図、図2は同フライアッシュの溶融スラグへの溶解方法の説明図、図3は各種吹き込み条件における熱収支の計算結果を示した説明図、図4はフライアッシュの溶解割合とフライアッシュの吹き込み停止時の高炉溶融スラグの温度とその水砕可否の結果を示す説明図、図5は投入した熱補償代と実際に熱補償された実績との関係を示す説明図、図6は高炉溶融スラグの温度と放熱による高炉溶融スラグの温度降下速度との関係を示す説明図、図7はフライアッシュの炭素濃度が高炉溶融スラグの温度挙動に及ぼす影響を示した説明図、図8は初期の高炉溶融スラグの温度と高炉溶融スラグが水砕可能な温度を確保するのに必要なフライアッシュの炭素濃度との関係を示す説明図、図9(A)〜(C)はそれぞれ鍋型容器の平面図、正面図、側面図、図10(A)〜(C)はそれぞれ放熱を最小限に抑える鍋型容器の形状を検討した結果の説明図である。
鍋型容器に貯留する溶融スラグ量が30トン未満の場合、溶融スラグ表面からの放熱の影響が大きくなり、溶融スラグの温度確保が困難となる。一方、溶融スラグ量が100トンを超える場合、水砕処理に長時間を要し、鍋型容器内の温度勾配が大きく変動するため好ましくない。
従って、鍋型容器に30トン以上100トン以下の溶融高炉スラグを貯留できる容器を使用するが、下限を40トン、上限を90トン、更には80トンとすることが好ましい。
また、溶融スラグ14中に浸漬する吹き込みランス12は、二重管構造となっており、その外管の噴出孔10、11からはキャリアガス(搬送気体)に空気を使用してフライアッシュを、内管の噴出孔10、11からは酸素を、それぞれ溶融スラグ14中に吹き込む構造となっている。なお、この空気と酸素が酸素含有気体を構成している。
ここで、キャリアガスの供給速度(流量)は、例えば2〜5Nm3/分程度、フライアッシュの吹き込み速度は、例えば100〜400kg/分程度、酸素の供給速度(流量)は、キャリアガスである空気中の酸素も含めて例えば5〜25Nm3/分程度である。
ここで、フライアッシュの溶解量を10質量%以上とすることで、高炉溶融スラグの融点を低下させることができ、安定した水砕が可能となる。
一方、フライアッシュを溶融スラグに添加するにあたり、酸化鉄含有ダストを併用すると、溶融スラグの固相率の温度依存度を低下させることはできるが、酸化鉄ダストの溶融に熱が必要であるため、フライアッシュの溶融量に限界(20質量%程度)がある。一方、酸化鉄含有ダストを用いない場合、溶融スラグの固相率の温度依存性は大きいが、前記したように、固相率の温度依存性が高くても、水砕を安定に実施できる。このため、フライアッシュの溶解量の上限を30質量%程度とすることができる。
以上のことから、フライアッシュ量は、フライアッシュを溶融する前の溶融スラグ量の10質量%以上30質量%以下としたが、下限を13質量%、更には15質量%とし、上限を27質量%、更には25質量%とすることが好ましい。
また、フライアッシュには、全鉄量(T−Fe量)が11質量%以下のものを使用する。
フライアッシュはまれではあるが、全鉄量が5〜11質量%のものがあり、通常1質量%以上2質量%以下であり、高いもので2質量%を超え5質量%未満程度であるので、上限を5質量%、更には3質量%とすることが好ましい。このため、フライアッシュの全鉄量が11質量%以下となる範囲内で、酸化鉄含有ダストを事前に混合したフライアッシュを使用することもできるが、フライアッシュを溶融スラグにより多量に溶解するには、酸化鉄含有ダストの添加量を低減(下限を、0.5質量%、更には1質量%)又は添加しない(0質量%)ことが好ましい。
このとき、鍋型容器13の縁から流下させる溶融スラグの流れを安定させるためには、溶融スラグ14の温度を一定の温度以上に確保する必要がある。
そこで、本発明者らは、フライアッシュの各種吹き込み条件において、高炉溶融スラグへのフライアッシュの溶解試験を実施し、最終的に水砕処理を安定に実施できる条件を探索した。
これに対し、No.2とNo.3のように、5質量%程度のフライアッシュを吹き込む場合には、フライアッシュ自体が冷材となることから、これに見合う溶融スラグの温度低下が予想されるが、これにも関わらず、溶融スラグの温度は、この熱バランスからの予想より高く維持されており、フライアッシュが溶融スラグに溶融する際に発熱作用があることが見出された。このような発熱作用を活用すれば、フライアッシュ中の炭素成分を燃焼させる酸素なし、又は10Nm3/分以下の比較的少ない酸素の吹き込み速度で、フライアッシュを5質量%程度まで溶解できることが見出された。
そこで、No.4とNo.5に示すように、酸素を20Nm3/分以上吹き込む多量インジェクションを行い、フライアッシュ中の炭素成分の燃焼を促進させ、これを熱源とする方式を試みた。
その結果、酸素の吹き込み速度の増大と共に、溶融スラグの温度低下は抑制され、最終的には酸素22Nm3/分で、フライアッシュの溶解割合を20質量%まで上昇できることを確認できた。
しかし、No.6では、酸化鉄含有ダストが吹き込まれた分だけ、溶融スラグの温度が低下することから、同一条件下では、フライアッシュ単体の吹き込みの方が、酸化鉄含有ダストを混合した場合よりも、フライアッシュの溶解割合を増大できる結果となった。
一方、表1のNo.4とNo.5のように、酸素を20Nm3/分以上吹き込む条件でも、図3に示すように、粉体の溶解量の増加と共に、溶融スラグの温度が低下する。このため、No.5のように、フライアッシュを20質量%溶解させた場合、溶融スラグの温度が約100℃低下して1300℃レベルとなったが、それにも関わらず安定的に水砕を実施できることが判明した。
フライアッシュの溶解割合が少ない段階では、比較的高温域まで、溶融スラグの水砕が不安定な状況であるが、フライアッシュの溶解割合が10質量%を超えると、溶融スラグの温度が1300℃レベルの低温域でも、安定した水砕が確保できることが分かった。
これは、フライアッシュの溶解によって溶融スラグの融点が低下するためと推定された。
この液相化温度とは、固液共存相と液相との境界温度、即ち冷却過程においては、固相が晶出し始める温度を意味しており、表2に示す溶銑スラグ(溶融スラグ)及びフライアッシュの組成を用い、溶銑スラグに一定割合のフライアッシュが溶解した場合の組成を求めることで、熱力学計算により算出した温度(理論液相線温度)である。なお、表2には、溶銑スラグとフライアッシュの代表化学成分をそれぞれ示している。
従って、溶融スラグの水砕可否は、溶融スラグの温度が、(液相線温度)+30℃の境界温度で判断できることが見出された。
また、酸素を多量に吹き込むことでフライアッシュ中の炭素成分の燃焼を促進し、またフライアッシュを10質量%以上溶解できれば、溶融スラグの温度が低下してもそれ以上に溶融スラグの液相化温度が低下するため、溶融スラグの温度が十分に余裕を持った状態で、水砕処理を行うことが可能となることも見出された。
これらの検討を行う前提として、鍋型容器に、以上の検討に用いた50トン以上の溶融スラグを貯留できる溶銑鍋(鍋型容器)を使用し、この溶銑鍋に溶融スラグを受滓した。また、フライアッシュの吹き込み開始時の溶融スラグの温度は、これまでの実験実績から1370〜1400℃とした。なお、フライアッシュの吹き込み条件として、フライアッシュ単体の最大吹き込み速度を400kg/分とし、酸素の吹き込み速度の上限を25Nm3/分とした。これ以上の量では、鍋からのスプラッシュ飛散や鍋の揺動が著しくなるからである。
図5は、溶融スラグ中でフライアッシュが燃焼して発生した熱量(投入した熱補償代)の溶融スラグへの着熱効率(実際の熱補償代実績)を示した結果であるが、溶融スラグ内の燃焼で発生した熱量の60%程度が、溶融スラグに着熱すると推定された。
また、図6は放熱による溶融スラグの温度低下挙動を定量化した結果であるが、溶融スラグの温度低下と共に、溶融スラグの温度降下速度が緩慢になる傾向にあることが分かった。なお、図6は、相関係数rが0.84であり、溶融スラグの温度低下と温度降下速度との間に、強い相関があることが明らかである。
この条件1は、フライアッシュの吹き込み速度を200kg/分で一定としており、その結果、フライアッシュが吹き込まれた溶融スラグの温度は、フライアッシュが25質量%溶解するまで、(TLL)+30℃より高く、安定した水砕に必要な温度に対して余裕のある状態であった。
その結果、フライアッシュの溶解に用いた酸素の総使用量は、条件1が1670Nm3であったのに対し、条件2では1400Nm3となり、酸素の総使用量を節減できることが分かった。
また、条件2のように、フライアッシュの吹き込み初期に、溶融スラグの温度を積極的に低下させるためには、フライアッシュの吹き込み速度を上昇させ、酸素比を0.8未満(好ましくは、0.7以下)とすることが好適であることも分かった。
ここで、フライアッシュの吹き込み開始前の高炉溶融スラグの温度を1380℃以上に規定したのは、温度が1380℃の場合、(TLL)+30℃に対してやや余裕があるためであり、フライアッシュの吹き込み速度を途中で低下させ、フライアッシュが溶解された溶融スラグの温度変化曲線の形状を下に凸とすることにより、酸素の総使用量を節減できることによる。
この場合、フライアッシュの吹き込み初期のフライアッシュの吹き込み速度を、前記した条件1、2と同程度まで上昇させることができず、酸素比を0.8以上(好ましくは、0.85以上)として溶融スラグの温度を確保する必要がある。
この条件3は、フライアッシュの吹き込み速度を190kg/分で一定としており、その結果、フライアッシュの吹き込み初期の溶融スラグの温度が(TLL)+30℃に近接しているが、フライアッシュの溶解割合が7質量%を超えた点より、溶融スラグの温度が(TLL)+30℃に対して余裕のある状態となった。
以上の結果から、フライアッシュの吹き込み開始前の高炉溶融スラグの温度が1380℃未満の場合、酸素比が0.8以上となる吹き込み速度V2(例えば、100kg/分以上250kg/分未満)で、フライアッシュの吹き込みを開始した後、フライアッシュの溶解割合が5質量%以上15質量%以下の範囲内の所定値(ここでは、8質量%)に到達した時点で、フライアッシュの吹き込み速度を、吹き込み速度V2よりも上昇させることを規定した(例えば、250kg/分以上400kg/分以下)。
このように、本実施の形態においては、温度1370℃以上の高炉溶融スラグに、高炉溶融スラグの温度に応じて決定される吹き込み速度で、フライアッシュの吹き込みを開始した後、フライアッシュの溶解割合が5質量%以上15質量%以下の範囲内の所定値に到達した時点で、フライアッシュの吹き込み速度を変えている。なお、フライアッシュの吹き込み速度を変える箇所を、フライアッシュの溶解割合が5質量%以上15質量%以下(好ましくは、下限を7質量%、上限を13質量%)の範囲内としたのは、この範囲内であれば、フライアッシュが溶解された溶融スラグの温度変化曲線を、(TLL)+30℃の曲線に近づけることができるためである。
図7から明らかなように、含有炭素濃度が3.5質量%まで低下すると、溶融スラグの温度がフライアッシュの溶解割合10質量%程度で(TLL)+30℃以下となるため、フライアッシュの溶解割合10質量%以上を確保するには、4質量%以上の炭素濃度が必要であると推定された。
図8から明らかなように、溶融スラグの温度が低いほど、高い炭素含有率が必要となることが分かった。
以上の結果から、式(1)に基づき、使用するフライアッシュ中に含まれる炭素濃度C1(質量%)から、スラグ初期温度T1(℃)を求め、求めたスラグ初期温度T1(℃)以上の温度を有する高炉溶融スラグに、使用するフライアッシュを吹き込むことが好ましい。
T1=(82.4−C1)/0.055 ・・・(1)
ここで、スラグ初期温度T1(℃)とは、上記した炭素濃度C1のフライアッシュを使用する場合に、このフライアッシュを溶解させた溶融スラグが、安定に水砕できるために必要な、フライアッシュを溶解する前の溶融スラグの温度を意味する。
C2=−0.055×T2+82.4 ・・・(2)
なお、上記方法で使用するフライアッシュとしては、選別したフライアッシュや、分級操作による改質を行ったフライアッシュを使用でき、更には炭材そのものを事前に混合したフライアッシュを使用する方法や、炭素成分を多量に含むフライアッシュを事前に混合したフライアッシュを使用する方法などが考えられる。
図9(A)〜(C)に示すように、鍋型容器13は、平断面形状が幅広楕円形状(卵型形状)となった偏平閉曲線で構成されており、しかも上端部から下端部へかけてその内幅が縮小している。なお、偏平閉曲線には、一部に直線が含まれたもの、例えば、長方形の各角部を曲線とした形状等がある。
この形状において、放熱影響を最小とするためには、比表面積を最小とする必要があり、そのための鍋型容器の内側の最大深さD、上端部の長手(幅広)方向の最大内幅(長径)L1、及び上端部の短手(幅狭)方向の最大内幅(短径)L2について算出した。なお、この算出に際しては、鍋型容器の容積を約25m3とし、比表面積が2.61m2/m3以下となる条件を適正範囲とした。ここで、比表面積とは、鍋型容器の容積1m3あたりの表面積を意味し、この比表面積が小さいほど、放熱が少ないことを意味している。
なお、長片側の最大内幅L1と短片側の最大内幅L2との比(L2/L1)は、例えば、0.4以上0.6以下の範囲内とすることが好ましい。
以上のことから、本発明のフライアッシュの溶融スラグへの溶解方法を使用することにより、従来よりも多量の10質量%以上のフライアッシュを安定かつ経済的に溶解できる。
高炉にて、鍋型容器に高炉溶融スラグ(以下、単に溶融スラグともいう)を受け、これを吹き込み装置まで搬送し、このときの溶融スラグの温度が1400℃程度であることを確認して、フライアッシュとパージ用窒素を吹き出しつつ、吹き込みランスの先端位置を液面から1400mmの深さ位置まで浸漬させた。
そして、窒素を酸素に切り替え、フライアッシュの吹き込みを各種条件で行い、スプラッシュや鍋型容器の揺動などの異常がないことを確認した後、フライアッシュの吹き込み量を調整した。フライアッシュの吹き込み完了後は、溶融スラグの温度を確認した後、鍋型容器を水砕装置まで移送し、鍋型容器を傾動させて溶融スラグを流下させながら水砕を試み、安定した水砕が実施できるか否かを比較評価した。この各種の吹き込み条件での吹き込み量に対する溶融スラグの温度レベル、及びその溶融スラグの水砕可否などを比較検討した結果を、表4と表5にそれぞれ示す。なお、前記した(TLL)+30℃は、以下限界温度ともいう。この限界温度は、例えば、図1(A)に示す点線である。
そこで、比較例3では、比較例1、2のように、フライアッシュの吹き込み速度を100kg/分に維持した状態で、酸素の供給速度を15Nm3/分まで上昇させ、フライアッシュ中の炭素成分の燃焼量を増加させることで、溶融スラグの温度確保を図った。その結果、フライアッシュを20質量%まで溶解させた段階で、溶融スラグの温度が1250℃まで低下したが、フライアッシュが溶解したことにより、限界温度が1230℃程度となり、安定した水砕を行うことができた。しかし、酸素の総使用量が1875Nm3となり、かなり大量に使用する必要があって経済的ではなかった。
一方、実施例1では、初期の溶融スラグの温度が1400℃(1380℃以上)の比較例5において、酸素比が0.42(0.8未満)となる吹き込み速度でフライアッシュの吹き込みを開始した後、溶融スラグの温度が限界温度に近づくフライアッシュの溶解割合が10質量%(5質量%以上15質量%以下の範囲内)に達した段階で、フライアッシュの吹き込み速度を400kg/分から190kg/分まで低下させ、溶融スラグの温度確保を図った。
その結果、フライアッシュの溶融スラグへの溶解割合は25質量%まで可能となり、水砕できることも確認でき、しかも酸素の総使用量についても、比較例4より低減できることを確認できた。
そこで、実施例2では、酸素比が0.88(0.8以上)となる吹き込み速度でフライアッシュの吹き込みを開始した後、溶融スラグの温度に余裕の生じ始めるフライアッシュの溶解割合が8質量%(5質量%以上15質量%以下の範囲内)から、フライアッシュの吹き込み速度を190kg/分から300kg/分まで上昇させ、比較例6と同様にフライアッシュの溶解割合を20質量%にした。その結果、溶融スラグの温度は限界温度を確保でき、水砕も可能であり、しかも酸素の使用量も、比較例6に対し大幅に節減することが可能であった。
そこで、比較例8では、フライアッシュの吹き込み速度と酸素の供給速度の双方を速くし、炭素の燃焼熱の確保を試みたが、多量吹き込みによるスプラッシュが激しく、吹き込みを中断した。
また、実施例4は、溶融スラグの温度が1440℃と高い場合であり、前記した式(2)を使用し、溶融スラグを水砕するために必要な炭素濃度C2を求め、算出した3質量%の炭素濃度を有するフライアッシュを、吹き込みに用いた例であるが、酸素比を0.79にして吹き込むことで、20質量%の溶解を達成できた。
なお、実施例3、4はいずれも、初期の溶融スラグの温度が1380℃以上であったため、酸素比が0.8未満となる吹き込み速度でフライアッシュの吹き込みを開始した後、溶融スラグの温度が限界温度に近づくフライアッシュの溶解割合が、それぞれ6質量%、9質量%(5質量%以上15質量%以下の範囲内)に達した段階で、フライアッシュの吹き込み速度を400kg/分から、それぞれ330kg/分、300kg/分まで低下させている。
また、比較例9は、25トンの鍋型容器を用いた事例であるが、鍋型容器に貯留される溶融スラグ量が30トン未満であるため、放熱影響が大きく、フライアッシュを20質量%溶解することはできたが、溶融スラグの温度が下がり過ぎて水砕できなかった。
一方、実施例6では、鍋型容器に貯留される溶融スラグを30トンとして、同様の吹き込みを行った事例であるが、鍋型容器の大型化により放熱影響を緩和でき、20質量%の溶解割合と水砕を達成できた。なお、実施例6は、初期の溶融スラグの温度が1380℃未満であったため、酸素比が0.8以上となる吹き込み速度でフライアッシュの吹き込みを開始した後、溶融スラグの温度が限界温度に近づくフライアッシュの溶解割合が10質量%(5質量%以上15質量%以下の範囲内)に達した段階で、フライアッシュの吹き込み速度を200kg/分から400kg/分まで上昇させている。
また、前記実施の形態においては、フライアッシュの溶解割合が5質量%以上15質量%以下の範囲内の1つの所定値に到達した時点で、フライアッシュの吹き込み速度を1回だけ変えた場合について説明した。しかし、酸素の使用量を更に低減するため、前記した範囲内に2又は3以上の複数の所定値を設定し、この所定値ごとにフライアッシュの吹き込み速度を変えてもよい。
Claims (5)
- 先端部に噴出孔を備えたランスを、貯留量30トン以上100トン以下の鍋型容器に貯留した高炉溶融スラグ内に浸漬させ、該ランスにより、全鉄量が11質量%以下のフライアッシュを酸素含有気体を用いて前記高炉溶融スラグ内に吹き込み、該フライアッシュを溶融する前の前記高炉溶融スラグに対して前記フライアッシュを10質量%以上溶解する方法であって、
温度1380℃以上1440℃以下の前記高炉溶融スラグに、前記フライアッシュ中の炭素成分を完全燃焼させるために必要な酸素量に対して供給する酸素の割合を示す酸素比が0.8未満となる吹き込み速度で、前記フライアッシュの吹き込みを開始した後、該フライアッシュの溶解割合が5質量%以上15質量%以下の範囲に到達した時点で、該フライアッシュの吹き込み速度を低下させることを特徴とするフライアッシュの溶融スラグへの溶解方法。 - 先端部に噴出孔を備えたランスを、貯留量30トン以上100トン以下の鍋型容器に貯留した高炉溶融スラグ内に浸漬させ、該ランスにより、全鉄量が11質量%以下のフライアッシュを酸素含有気体を用いて前記高炉溶融スラグ内に吹き込み、該フライアッシュを溶融する前の前記高炉溶融スラグに対して前記フライアッシュを10質量%以上溶解する方法であって、
温度1370℃以上1380℃未満の前記高炉溶融スラグに、前記フライアッシュ中の炭素成分を完全燃焼させるために必要な酸素量に対して供給する酸素の割合を示す酸素比が0.8以上となる吹き込み速度で、前記フライアッシュの吹き込みを開始した後、該フライアッシュの溶解割合が5質量%以上15質量%以下の範囲に到達した時点で、該フライアッシュの吹き込み速度を上昇させることを特徴とするフライアッシュの溶融スラグへの溶解方法。 - 請求項1又は2記載のフライアッシュの溶融スラグへの溶解方法において、式(1)に基づき、前記フライアッシュ中に含まれる炭素濃度C1(質量%)から、スラグ初期温度T1(℃)を求め、該スラグ初期温度T1(℃)以上の温度を有する前記高炉溶融スラグに、前記フライアッシュを吹き込むことを特徴とするフライアッシュの溶融スラグへの溶解方法。
T1=(82.4−C1)/0.055 ・・・(1) - 請求項1又は2記載のフライアッシュの溶融スラグへの溶解方法において、式(2)に基づき、吹き込み開始前の前記高炉溶融スラグの温度T2(℃)から、該高炉溶融スラグを水砕するために必要な炭素濃度C2(質量%)を求め、該炭素濃度C2(質量%)以上の炭素を有する前記フライアッシュ、又は該炭素濃度C2(質量%)以上に調整した前記フライアッシュを、前記高炉溶融スラグに吹き込むことを特徴とするフライアッシュの溶融スラグへの溶解方法。
C2=−0.055×T2+82.4 ・・・(2) - 請求項1〜4のいずれか1項に記載のフライアッシュの溶融スラグへの溶解方法において、前記鍋型容器は、平断面形状が偏平閉曲線となっており、しかも上端部から下端部へかけてその内幅が縮小しており、その内側の最大深さが2.8m以上3.2m以下の範囲内、上端部の長手方向の最大内幅が5.9m以上6.8m以下の範囲内、及び該上端部の短手方向の最大内幅が2.8m以上3.4m以下の範囲内であることを特徴とするフライアッシュの溶融スラグへの溶解方法。
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