JP4901372B2 - デフェリフェリクリシン高生産変異株、シデロフォア生産用の液体培地、シデロフォアの製造方法 - Google Patents

デフェリフェリクリシン高生産変異株、シデロフォア生産用の液体培地、シデロフォアの製造方法 Download PDF

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本発明は、アスペルギルス・オリゼのデフェリフェリクリシン高生産変異株、及びアスペルギルス属微生物を用いてシデロフォアを生産するのに適した液体培地、及びアスペルギルス属微生物を用いてシデロフォアを製造する方法に関する。
鉄イオンは一部の乳酸菌を除く、殆ど全ての生物にとって必須の原子である。鉄は、生体内ではFe(II)やFe(III)の形態で利用され、主に酸化還元に関与する酵素群の補欠因子として機能する。しかしながら、一般的に鉄は自然界において鉄鉱石として存在し、可溶化されたイオン状態としてはほとんど存在しない。さらに鉄鉱石から微生物の働きにより可溶化された鉄イオンも、すぐに不溶性の酸化物や水酸化物となるため、生物が利用できる鉄イオンはきわめて微量である。
細菌や放線菌、真核微生物はこのような微量な鉄イオンを効率的に獲得するために、シデロフォアと呼ばれる分子量1500以下の低分子の鉄イオンキレート物質を生産する。このシデロフォアに鉄イオンをキレートさせることにより、貴重な鉄イオンの不溶化を防ぎ、鉄イオンを優先的に利用することを図っている。また鉄イオンは生物にとって必須のイオンであるが、過剰に存在すると遊離のラジカルの発生を促し、逆に生体に危害を加える。シデロフォアは鉄イオンの獲得と同時に、このような鉄イオンの無害化にも大きく寄与している。シデロフォアは非キレート状態では無色であるが、鉄イオンをキレートすると、赤色を示し、可視光の吸収を示すことが知られている。
現在までに様々なシデロフォアが同定されているが、糸状菌が生産するシデロフォアはhydroxamates familyと呼ばれ、一般に構成アミノ酸誘導体としてN−ヒドロキシオルニチンを含む。研究用モデル糸状菌、工業用微生物、病原性糸状菌として幅広く研究が進められているアスペルギルス属糸状菌はhydroxamates familyの中でもフェリクローム類とフザリニン類と呼ばれるシデロフォアを生産する。前者は、N−ヒドロキシオルニチンのトリペプチドにグリシン、セリン、アラニンが環状ペプチドを形成している。一方、後者では一部のN−ヒドロキシオルニチンのN位が無水メバロン酸によってアシル化されている特徴を有する。糸状菌はこのような多種多様なシデロフォアを生産することにより、鉄イオンを優先的に獲得し、自然界での生存競争に活用しているものと考えられる。
ここで、清酒醸造では、アスペルギルス・オリゼを蒸米上に生育させて「麹」を作成し、清酒醸造の原料として利用している。この麹造りにおいてアスペルギルス・オリゼが大量のシデロフォア(主にデフェリフェリクリシン)を生産し、これが酒造用水の鉄イオンをキレートすることでフェリクリシンを形成し、清酒が着色することが知られている。従って、清酒醸造においては、シデロフォアであるフェリクローム類が、品質劣化の原因であり、できるだけフェリクローム類を生産しない菌株の育種が進められてきた。
一方、シデロフォアは、鉄をキレートする作用により医薬品として使用できる可能性があり、シデロフォアを高生産する方法の開発が求められている。
本発明は、デフェリフェリクリシンを高生産するアスペルギルス・オリゼ変異株を提供することを第1の課題とする。
また本発明は、アスペルギルス属微生物を用いてシデロフォアを効率よく生産することができる方法、及びこの方法に適した培地を提供することを第2の課題とする。
上記課題を解決するために本発明者らは研究を重ね、以下の知見を得た。
(i) アスペルギルス・オリゼO−1013株(FERM P−16528)にN−メチル−N’−ニトロ−N−ニトロソグアニジンによる変異処理を施すことにより得た変異株3129−7株は、デフェリフェリクリシン生産量が親株の3倍以上になっていた。
(ii) 一般に、真菌類の培養には炭素源としてグルコースを含む培地が使用されるが、アスペルギルス属微生物を培養してシデロフォアを生産するに当たり、炭素源としてグリセロールを含む培地を用いることにより生産量が向上する。
(iii) アスペルギルス属微生物を培養してシデロフォアを生産するに当たり、増粘多糖類を含む液体培地を用いることにより、生産量が向上する。
本発明は上記知見に基づき完成されたものであり、下記の変異株などを提供する。
項1. アスペルギルス・オリゼの変異処理により得られ、親株に比べてデフェリフェリクリシン生産量が3倍以上になったデフェリフェリクリシン高生産変異株。
項2. アスペルギルス・オリゼの変異処理により得られ、鉄を含まずグルコースを2%(w/v)含むツァペックドックス培地に胞子を10個/ml接種し30℃で7日間振盪培養した場合に、培養上清中に100ppm以上のデフェリフェリクリシンを生産する、デフェリフェリクリシン高生産変異株。
項3. アスペルギルス・オリゼ(Aspergillus oryzae)のデフェリフェリクリシン高生産変異株3129−7株(FERM P-20961)。
項4. グリセロールを含む、アスペルギルス属微生物の培養によりシデロフォアを生産するための液体培地。
項5. グリセロール濃度が3%(v/v)以下である項4に記載の培地。
項6. 増粘多糖類を含む項4又は5に記載の培地。
項7. 培地の粘度が3〜30mPa・sである項6に記載の培地。
項8. 増粘多糖類を含む、アスペルギルス属微生物の培養によりシデロフォアを生産するための液体培地。
項9. 粘度が3〜30mPa・sである項8に記載の培地。
項10. タンパク質分解物を含むものである項4〜9のいずれかに記載の培地。
項11. 穀類の醸造により得られるもろみまたは粕のプロテアーゼ分解物を含むものである項4〜9のいずれかに記載の培地。
項12. 項4〜11のいずれかに記載の培地を用いて、アスペルギルス属微生物を培養する工程と、培養物からシデロフォアを回収する工程とを含むシデロフォアの製造方法。
項13. アスペルギルス属微生物が、アスペルギルス・オリゼであり、シデロフォアがデフェリフェリクリシンである項12に記載の方法。
項14. アスペルギルス・オリゼが、アスペルギルス・オリゼのデフェリフェリクリシン高生産変異株3129−7株(FERM P-20961)である項13に記載の方法。
本発明によれば、アスペルギルス・オリゼにN−メチル−N’−ニトロ−N−ニトロソグアニジン処理を施すことにより、デフェリフェリクリシン生産量が親株の3倍以上になった変異株3129−7株が得られた。
また、アスペルギルス属微生物を鉄欠乏培地で培養してシデロフォアを生産させるに当たり、炭素源としてグリセロールを用いることにより、さらには液体培地中に増粘多糖類を加えることにより、シデロフォアの生産量が向上する。
以下、本発明を詳細に説明する。
(I)デフェリフェリクリシン高生産変異株
本発明の第1のデフェリフェリクリシン高生産変異株は、アスペルギルス・オリゼの変異処理により得られ、親株に比べてデフェリフェリクリシン生産量が3倍以上になった変異株である。
変異処理方法は、特に限定されない。代表的には、N−メチル−N’−ニトロ−N−ニトロソグアニジン、エチルメタンスルホン酸(EMS)、メチルメタンスルホン酸、4−ニトロソキノン、亜硝酸、ブロモウラシルのような変異誘発剤による処理、紫外線照射、放射線(X線など)照射のような物理的変異処理などが挙げられる。この他、細胞融合やゲノムシャッフリングなどの原因で、染色体上に変異を有するようになった変異株も本発明の第1の変異株に含まれる。
アスペルギルス・オリゼは、通常、菌体外にデフェリフェリクリシンを分泌生産する。従って、デフェリフェリクリシンの生産量は、液体培地を用いて同一条件で親株と変異株とをそれぞれ培養し、培養上清中のデフェリフェリクリシン濃度を比較する。デフェリフェリクリシン濃度は、例えば、鉄イオンをキレートさせた後に、フェリクリシンの特異的な吸収波長である430nmにおける吸光度を分光光度計で測定して、算出すればよい。デフェリフェリクリシン濃度測定時の培地の組成や培養条件は特に限定されないが、例えば、鉄を含まないツァペックドックス培地に2%(w/v)のグルコースを添加した培地を用いて30℃で7日間培養する条件が挙げられる。
本発明の第2のデフェリフェリクリシン高生産変異株は、アスペルギルス・オリゼの変異処理により得られ、鉄を含まずグルコースを2%(w/v)含むツァペックドックス培地に胞子を10個/ml接種し30℃で7日間振盪培養した場合に、培養上清中に100ppm以上のデフェリフェリクリシンを生産する変異株である。
変異の原因、及びデフェリフェリクリシン濃度の測定方法は、第1の変異株について述べたとおりである。鉄を含まずグルコースを2%(w/v)含むツァペックドックス培地の組成は実施例に記載している。
上記の第1及び第2の変異株の具体例として、アスペルギルス・オリゼ(Aspergillus oryzae)のデフェリフェリクリシン高生産変異株3129−7株(平成18年7月14日にFERM P-20961として独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センター(日本国茨城県つくば市東1-1-1 つくばセンター 中央第6)に寄託済み)が挙げられる。この株の取得方法、及び菌株の特徴は後述する。
(II)アスペルギルス属微生物の培養によりシデロフォアを生産するための液体培地
本発明のアスペルギルス属微生物の培養によりシデロフォアを生産するための第1の液体培地は、グリセロールを含む液体培地である。炭素源としてグリセロールを含むことにより、その他の汎用の低分子炭素源であるグルコースなどを含む培地に比べて、シデロフォアの生産量が高くなる。
液体培地中のグリセロール濃度は、3%(v/v)以下が好ましく、1〜2.5%(v/v)程度がより好ましい。上記グリセロール濃度であれば、シデロフォアの生産を十分に向上させることができる。また、上記グリセロール濃度の範囲であれば菌の代謝系に影響を与えず、シデロフォアを高生産することができる。
培地には炭素源として、グリセロールの他に、本発明の効果に影響を与えない範囲で、トウモロコシ、小麦、米、豆、馬鈴薯、甘藷、キャッサバなどに由来する各種デンプン、デキストリンなどの高分子炭素源;グルコース、シュクロース、フラクトース、マンニトール、ソルビトール、ガラクトース、マルトース、エリスリット、ラクトース、キシロース、イノシット、トレハロースなどの単糖やオリゴ糖(特に二糖類)のような低分子炭素源が含まれていてもよい。但し、グリセロール以外の低分子炭素源が含まれる場合は、それが先に資化されてグリセロール添加によるシデロフォア生産亢進の効果が阻害される可能性があるため、低分子炭素源はグリセロールだけであることが好ましい。
また、この液体培地は、さらに増粘多糖類を含むことが好ましい。本発明の液体培地では、グリセロールと増粘多糖類とを両方含むことにより、シデロフォアが一層大量に生産されるようになる。増粘多糖類の種類は特に限定されず、公知の増粘多糖類を用いることができる。このような公知の増粘多糖類として、カルボキシメチルセルロースナトリウム(CMC)、アルギン酸、キサンタンガム、アラビアガム、カラギナン、グアーガム、ペクチン、タマリンドシードガム、寒天などが挙げられる。これらは食品添加物としての使用が認められている物質であることから、食品や医薬品用途のシデロフォアの製造に好適である。増粘多糖類は1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて使用できる。
増粘多糖類の含有量は、液体培地の粘度が好ましくは3mPa・s以上、より好ましくは5mPa・s以上、さらにより好ましくは6mPa・s以上、さらにより好ましくは9mPa・s以上となる量であればよい。また、好ましくは30mPa・s以下、より好ましくは15mPa・s以下になる量であればよい。上記増粘多糖類濃度であれば、シデロフォアの生産を十分に向上させることができる。また、上記増粘多糖類濃度の範囲であれば容易に攪拌でき、またシデロフォア生産に必要な溶存酸素を十分に確保することができる。本発明において、培地の粘度は東機産業株式会社製 TVB-10粘度計を用いて測定した値である。例えば、CMCを使用する場合、培地中に0.15〜0.45(w/v)%程度含まれることが好ましい。
また、本発明のアスペルギルス属微生物の培養によりシデロフォアを生産するための第2の液体培地は、増粘多糖類を含む液体培地である。増粘多糖類の種類、及び含有量は、第1の液体培地について説明した通りである。本発明の第2の液体培地は、増粘多糖類を上記範囲で含むことにより、シデロフォアの生産量が高くなる。
第1及び第2の液体培地には、アスペルギルス属微生物の生育に必要なその他の成分が含まれていればよい。窒素源としては、硝酸塩、アンモニウム塩のような無機窒素化合物、アミノ酸、ペプチドのような有機窒素化合物などが含まれていれば良い。窒素源は1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
窒素源としては、有機窒素化合物を添加した時の方が微生物はよく生育し、結果としてシデロフォアの生産量が高くなるため、好ましい。但し、鉄はシデロフォアの生産を抑制することから、鉄含有量の少ない有機窒素化合物を使用することが望まれる。
本発明の第1及び第2の液体培地には、タンパク質の加水分解物(特にカザミノ酸)が0.05〜5%(w/v)程度含まれることが好ましく、0.5〜2.5%(w/v)程度含まれることがより好ましい。また、タンパク質の加水分解物(特にカザミノ酸)が、それに由来する培地の鉄含有量が1ppm以下となるように添加することが好ましい。上記添加量の範囲であれば、十分に微生物が生育するとともに、タンパク質加水分解物に含まれることがある鉄によりシデロフォアの生産が抑制され難く、その結果、シデロフォアを効率よく生産することができる。
本発明の第1及び第2の各液体培地には、窒素源として、穀類の醸造により得られるもろみまたは粕のプロテアーゼ分解物が含まれていても良い。
穀類の種類は、特に限定されず、米、麦、そば、あわなど、醸造に用いられる穀類を制限なく使用することができる。例えば、米を用いた醸造により得られるもろみ・粕としては、清酒もろみ・粕(普通もろみ・粕、液化もろみ・粕)、焼酎もろみ・粕、味醂もろみ・粕などが挙げられるが、一般に精白度が高い清酒、味醂のもろみ・粕が好ましい。この他、麦を用いた焼酎やビールの醸造のもろみ・粕を用いることもできる。
本発明において、もろみは、穀類、水に麹若しくは酵母、又はその両方を混合して発酵させたもの、発酵中のもの、及び仕込んだ直後のものをいう。また、粕は、もろみから液体部(例えば酒類)を搾ったあとに残る固形物をいう。
もろみまたは粕のプロテアーゼ分解物は、例えば、以下のようにして得ることができる。粕は、固体であるため、水やバッファーを添加して流動状にしたものにプロテアーゼを作用させればよい。また、もろみは液状または流動状であるため、そのままプロテアーゼを作用させればよい。プロテアーゼの作用温度、時間は、特に限定されず、そのプロテアーゼが活性を示す条件とすればよい。
プロテアーゼの種類は特に限定されず、公知のプロテアーゼを制限なく使用できる。また、プロテイナーゼ(エンドペプチダーゼ)を用いてタンパク質をペプチドにまで分解してもよく、ペプチダーゼ(エキソペプチダーゼ)を用いてタンパク質をアミノ酸にまで分解してもよい。培養する微生物が利用できる程度にタンパク質が分解されていればよい。
粕含有液、またはもろみにプロテアーゼを作用させて得られる産物をそのまま培地に添加しても良い。このプロテアーゼ分解物の中には、タンパク質がプロテアーゼにより分解されて生じたアミノ酸やペプチド、水溶性タンパク質の未分解物、少量のアルコールのような水溶性成分と、水不溶性タンパク質、穀類残渣、麹菌や酵母のような水不溶性成分とが含まれる。アルコールは少量しか含まれないため、生物の生育を実質的に阻害しない。
また、粕含有液、またはもろみにプロテアーゼを作用させて得られる産物を濾過または遠心分離して水不溶性成分を除去し、残った水溶性成分を添加しても良い。目的生産物を単離し易くするため、水不溶性成分を除去しておくことが好ましい。
粕、又はもろみのプロテアーゼ分解物をそのまま培地に添加する場合も、水不溶性成分を除去したものを培地に添加する場合も、さらに乾燥してから添加することができる。これにより、添加量を正確に制御することができる。
培地中のもろみまたは粕のプロテアーゼ分解物の含有量は、プロテアーゼ分解物の乾燥重量に換算して、0.05〜5w/v%程度であることが好ましく、0.2〜1.5w/v%程度であることがより好ましく、0.3〜0.7w/v%程度であることがさらにより好ましい。上記範囲であれば、生物の増殖を十分に促進するとともに、得られる培地中の上記プロテアーゼ分解物に由来する鉄含有量が多くなりすぎることがなく、その結果、シデロフォアを効率よく得ることができる。なお、プロテアーゼ分解物は、それに由来する培地の鉄含有量が1ppm以下となるように含まれることが好ましい。
本発明の第1及び第2の液体培地には、アスペルギルス属微生物の生育に必要な、又は生育を促進する、P,K,S,Mg,Zn,Cuのようなミネラルや、ビオチン、チアミンのようなビタミンなどが含まれていても良い。
培地のpHは、アスペルギルス属微生物が生育する範囲であればよく、3〜6程度であればよい。
本発明の第1及び第2の液体培地を用いれば、アスペルギルス属微生物のシデロフォアの分泌生産量が向上する。従って、本発明の本発明の第1及び第2の液体培地は、アスペルギルス属微生物によるシデロフォアの生産に好適に使用できる。本発明の液体培地は、特にフェリクローム生産に適しており、中でもアスペルギルス・オリゼによるデフェリフェリクリシンの生産に適している。
(III)シデロフォアの製造方法
本発明のシデロフォアの製造方法は、上記説明した本発明の液体培地を用いて、アスペルギルス属微生物を培養する工程と、培養物からシデロフォアを回収する工程とを含む方法である。アスペルギルス属微生物は、シデロフォアを生産する菌種であればよく、特に限定されないが、病原性を有さず、培養に使用し易い菌種として、アスペルギルス・オリゼ、アスペルギルス・アワモリ、アスペルギルス・カワチ、アスペルギルス・ニガー、アスペルギルス・ソヤ、アスペルギルス・ウサミなどが挙げられる。中でも、安全性や性質が良く知られている点でアスペルギルス・オリゼが好ましい。アスペルギルス・オリゼの生産する主なシデロフォアはデフェリフェリクリシンである。中でも、アスペルギルス・オリゼのデフェリフェリクリシン高生産変異株3129―7株(FERM P-20961)を用いることが好ましい。
培養方法は、回分、流加、連続などのいずれの方法であってもよい。培養温度、及び時間は菌種、菌株によって異なるが、概ね25〜35℃程度で3〜7日間程度培養すればよい。
実施例
以下、本発明を実施例を示してより詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
デフェリフェリクリシン(Dfcy)高生産変異株の取得
親株として、麹菌アスペルギルス・オリゼO−1013株(FERM P−16528)を用いた。アスペルギルス・オリゼO−1013株の胞子懸濁液(108個/ml)と飽和N−メチル−N’−ニトロ−N−ニトロソグアニジン(NTG)溶液を等量混合し、30℃で30分間反応させた。遠心分離後の胞子を水で2回洗浄しNTGを除去した後、変異処理した胞子群を回収した。変異処理した胞子をCz―dox,2%(w/v)Glucose,0.25%(v/v)TritonX―100, 2%(w/v) Agarプレートに塗布した後30℃で3日間培養した。
生育した株のDfcy生産量を後述する方法で測定し、Dfcy生産量が最も多い株として、3129−7株を選抜した。この株は、平成18年7月14日に産業技術総合研究所特許生物寄託センターにFERM P−20961として寄託済みである。
<培養方法>
親株、及び変異処理した各株を保存スラントからポテトデキストロースアガープレート(ニッスイ社製)に塗布し、胞子を形成させた。各株の胞子を回収し、鉄制限ツァペックドックス培地 (0.2%(w/v)NaNO,0.1%(w/v)KHPO,0.05%(w/v)KCl,0.05%(w/v)MgSO・7HO,pH6.0)に2%(w/v)グルコースを添加した液体培地40mlに、それぞれ10個/ml植菌し、30℃で7日間振盪培養した。
<Dfcy生産量の測定方法>
培養上清100μlに10μlの0.2Mクエン酸バッファー(pH4.0)、10μlの3000ppm FeCl溶液を添加し、デフェリフェリクリシン(Dfcy)に鉄をキレートしフェリクリシン(Fcy)とした。
これをHPLC(SHIMADZU社製;Prominence)を用い逆相クロマト分析に供し、Fcyに特異的な吸収波長である波長430nmを指標にFcyピークを同定した。そのピーク面積からFcyの定量を行った。定量したFcy量に、分子量比より0.93(744/800)を乗じてDfcy量を算出した。
親株、及び変異株の培養上清中のDfcy生産量を以下の表1に示す。
Figure 0004901372
また、この変異株3129−7株は、親株O−1013株に比べて、グルコースプレート上での胞子形成能が低下しており、かつ麹酸生産能が低下している。
デフェリフェリクリシンの生産
アスペルギルス・オリゼを実施例1と同じ条件で培養して、デフェリフェリクリシンを生産した。但し、培地としては、以下の4種類の液体培地を用いた。
培地1:
鉄制限ツァペックドックス培地に2.5%(w/v)グルコース(ナカライテスク社)を添加したもの
培地2:
鉄制限ツァペックドックス培地に2.5%(v/v)グリセロール(ナカライテスク社)を添加したもの
培地3:
鉄制限ツァペックドックス培地に2.5%(v/v)グリセロール(ナカライテスク社)、0.3%(w/v)CMC(ナカライテスク社)を添加したもの
培地4:
鉄制限ツァペックドックス培地に2.5%(v/v)グリセロール(ナカライテスク社)、0.3%(w/v)CMC(ナカライテスク社)、1.5%(w/v)カザミノ酸(Difco社)を添加したもの
培地5:
鉄制限ツァペックドックス培地に2.5%(v/v)グリセロール(ナカライテスク社)、0.3%(w/v)CMC(ナカライテスク社)、0.5%(w/v)液化粕プロテアーゼ分解物を添加したもの
培地3〜5の粘度を東機産業株式会社製 TVB-10粘度計を用いて測定したところ、9.0〜9.5mPa・sの範囲であった。
<液化粕分解物作成方法>
液化粕の凍結乾燥品10gに蒸留水50mlを加え均一にし、市販のプロテアーゼであるプロテアーゼSアマノ(アマノエンザイム社製)を0.2g加え50℃で3時間攪拌しながら反応させた。100℃で10分加熱し酵素を失活させた後遠心分離により不溶性の残渣を除去し、上清液を凍結乾燥し液化粕分解物の粉末を得た。
変異株3129−7株を培地1〜5を用いて培養した培養上清中のDfcy生産量を以下の表2に示す。
Figure 0004901372
表2から分かるように、炭素源として汎用されているグルコースを用いるより、グリセロールを用いる方がDfcy生産量は高かった。また、増粘剤としてCMCを添加することによりDfcy生産量は一層高くなった。
また、窒素源として、硝酸ナトリウムに加えて、カザミノ酸、又は液化粕プロテアーゼ分解物を添加することにより、Dfcy生産量は著しく高くなった。特に液化粕酵素分解物を添加すると、カザミノ酸添加の場合と比較してDfcyの生産量が1.5倍以上に増加した。
1.5%(w/v)カザミノ酸を添加した培地4中のカザミノ酸由来の鉄濃度を以下のようにして測定したところ、21ppbであった。また、0.5%(w/v)液化粕分解物を添加した培地5中の液化粕由来の鉄濃度を以下のようにして測定したところ、482ppbであった。いずれも1ppm以下の値であった。
<鉄濃度測定方法>
カザミノ酸、及び液化粕のプロテアーゼ分解物の、それぞれ0.1%(w/v)水溶液を調製し、原子吸光分析装置(Perkin Elmer社製、AAnalyst800)にてFe含量を測定したところ、それぞれ1.4ppb、及び96.4ppbであった。
このことから、カザミノ酸を1.5%(w/v)添加した培地4中のカザミノ酸由来の鉄濃度は21ppbであり、液化粕分解物を0.5%(w/v)添加した培地5中の液化粕分解物由来の鉄濃度は482ppbであることが計算された。
増粘多糖類の種類・濃度の検討
2.5%(v/v)グリセロール、1.5%(w/v)カザミノ酸、50ppmクロラムフェニコール、及び増粘多糖類からなる液体培地に、アスペルギルス・オリゼ3129−7株の胞子を106個/ml植菌して、30℃で7日間振盪培養した。
増粘多糖類は、CMC0.15%(w/v)、0.3%(w/v)、0.45%(w/v)、及びアルギン酸ナトリウム0.3%(w/v)、精製寒天末0.15%(w/v)とした。また、増粘多糖類を添加しないコントロール培地も使用した。
培養液中のDfcy濃度と、培地の粘度とを以下の表3に示す。
Figure 0004901372
表3から、添加する増粘剤の種類に関わらず、コントロールと比較して粘度の上昇によりDfcy生産性は向上した。これらのことから、増粘剤の添加により培地の粘度を上げることでDfcy生産性を向上させられることが分かる。

Claims (9)

  1. グリセロールを含む液体培地を用いて、アスペルギルス属微生物を培養する工程と、培養物からシデロフォアを回収する工程とを含むシデロフォアの製造方法
  2. 前記培地のグリセロール濃度が3%(v/v)以下である請求項1に記載の方法
  3. 前記培地が増粘多糖類を含む請求項1又は2に記載の方法
  4. 培地の粘度が3〜30mPa・sである請求項3に記載の方法
  5. 増粘多糖類を含む液体培地を用いて、アスペルギルス属微生物を培養する工程と、培養物からシデロフォアを回収する工程とを含むシデロフォアの製造方法
  6. 前記培地の粘度が3〜30mPa・sである請求項5に記載の方法
  7. 前記培地がタンパク質分解物を含むものである請求項1〜6のいずれかに記載の方法
  8. 前記培地が穀類の醸造により得られるもろみまたは粕のプロテアーゼ分解物を含むものである請求項1〜6のいずれかに記載の方法
  9. アスペルギルス属微生物が、アスペルギルス・オリゼであり、シデロフォアがデフェリフェリクリシンである請求項1〜8のいずれかに記載の方法。
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