自動車の回転軸のジョイント部分を保護するためのカバーは、一般にブーツとよばれており、たとえば、ディファレンシャルギヤの回転力を車輪に伝達する駆動軸のジョイント部分(ディファレンシャルギヤ側の回転軸と車輪取り付け側の回転軸とのジョイント部分)や、ハンドルの回転力を車輪操舵軸に伝達するためのジョイント部分など、多数の箇所に用いられている。1台の自動車におけるブーツの取り付け箇所は、30数箇所にも達する。
このブーツの一般的な外観形状は、その側面が図9に示すような蛇腹状をなし、その断面は円形で内部が空洞となっている。そして、このブーツ1は、その大径側端部の外周面1aと小径側端部の外周面1bに、この図9では図示しないブーツ固定用の締め付けバンド(以下では、ブーツ固定バンドという。)が環装され、このブーツ固定バンドを締め付けることによって、回転軸などに固定される。
このブーツ1は、回転軸とともに回転するものであり、特に、車軸部分に用いられるものは、車軸とともに高速回転するので、車軸に対して確実に固定されることが必要となっている。
このため、ブーツ固定バンドは、取り付け作業が簡単であることは勿論のこと、強固な締め付けを可能とする締め付け性能や、過酷な使用条件下で長期間の使用に耐え得る耐久性などに高い信頼性が要求される。このような高い信頼性の要求に対し、種々の改良が施され、実用化されてきている。
その一例として、たとえば、特許文献1(特開平10−26107号公報)に示されたブーツ固定バンド(以下、従来のブーツ固定バンドという。)がある。図10は、この従来のブーツ固定バンドを示すものである。このブーツ固定バンド2は、細長い金属部材を曲げて環状部分21が形成されるとともに、その帯状の細長い金属部材の両端部分が合掌するが如く所定長さだけ重ね合わせられることでバンド本体突出部22が形成されるバンド本体部20と、このバンド本体部20のバンド本体突出部22に固定され、図9で示したブーツ1を締め付ける際に、テコの原理による締め付け力を与える弧状のテコ板23と、このテコ板23をバンド本体部20に重ね合わせた状態としたときにテコ板23の先端部23aを2つの突片部24a、24bによって固定するテコ板固定部材24とからなる。
バンド本体部20、テコ板23、テコ板固定部材24は、それぞれステンレス材でなり、その板厚はバンド本体部20とテコ板固定部材24が0.3mm〜0.8mm、テコ板23はその約2倍の厚みを有している。
なお、テコ板23は、その先端部23aがバンド本体突出部22の先端部22aよりも外方に突出し、その後端部23bが、バンド本体部20における環状部分21の外周面21aに当接するように、バンド本体突出部22の先端部22a付近(点線の円で示す部分であり、以下、これを溶接部分22cという。)に、電気抵抗を用いたスポット溶接によって固定される。
このとき、テコ板23のバンド本体突出部22に対する固定位置関係は、テコ板23の弧状外周部の長手方向における中央部付近にバンド本体突出部22の溶接部分22cが位置し、かつ、テコ板23の後端部23bがバンド本体部20における環状部分21の外周面21aに当接するような位置に設定される。
そして、このように位置決めされたのち、テコ板23は、バンド本体突出部22にスポット溶接される。このスポット溶接された溶接部分22cは、バンド本体突出部22を構成する2枚の板(帯状の細長い金属部材の両端部分が合掌するが如く重ね合わせられた2枚の板)とテコ板23の合計3枚の板が張り合わされた状態となる。
このように、テコ板23とバンド本体突出部22が溶接部分22cで固定されることによって、テコ板23の先端部23aは、その先端部23aがバンド本体突出部22の先端部22aよりもさらに外方に突出し、その後端部23bはバンド本体部20における環状部分21の外周面21aに当接する位置となる。また、このとき、テコ板23の後端部23bとバンド本体突出部22の根元22bとの間隔は最適な間隔に設定される必要がある。
このような構成のブーツ固定バンド2は、テコ板23の後端部23bを支点にして、バンド本体部20における環状部分21の外周面21aにテコ板23の板面(弧の内周面)が接するまで、矢印Y1方向にテコ板23を倒すことで、当該バンド本体部20の環状部分21の径が小さくなるように変形し、それによって、ブーツ1に対して締め付け力を与える。
なお、このブーツ固定バンド2は、ブーツ1の両端側に1個ずつ設けられる。すなわち、ブーツ1の大径側端部の外周面1a用と小径側端部の外周面1b用のブーツ固定バンド2がそれぞれ用意される。それぞれのブーツ固定バンド2は、バンド本体部20の環状部分21の径などの寸法が異なるだけで、全体的な形状やその構成部品などは同じであるので、以下では、両者を区別して説明する必要のある場合を除き、同じものとして説明する。
一方、テコ板固定部材24もバンド本体部20にスポット溶接などによって固定される。このテコ板固定部材24は、テコ板23が矢印Y1方向に倒され、バンド本体部20における環状部分21の外周面21aに沿う状態となったところで、テコ板固定部材24の2つの突片部24a,24bをそれぞれ内側に折り曲げて、テコ板23をバンド本体部20の環状部分21に固定させるものである。
このような構成のブーツ固定バンド2をブーツ1の締め付けに用いる際は、まず、上述したブーツ固定バンド2のテコ板23を起こした状態(テコ板23とバンド本体部20の環状部分21とのなす角度が90度に近い状態)とする。なお、このように起こした状態とせず、テコ板23がバンド本体部20から直線状に延びている状態のままとしても良い。その後、バンド本体部20の環状部分21を、図9で示すブーツ1の大径側端部の外周面1aと小径側端部の外周面1bにそれぞれ環装するが、ここでは、ブーツ1の大径側端部を締め付ける場合を例にとって説明する。
今、ブーツ固定バンド2におけるバンド本体部20の環状部分21がブーツ1の大径側端部の外周面1aに環装された状態となっているものとし、その状態でのブーツ固定バンド2の動作について、図11の(A)(B)を参照しながら説明する。なお、図11の(A)(B)は、ブーツ固定バンド2の一部であって、締め付け動作を説明するに必要な部分のみを取り出して示すものであり、ブーツ1の図示も省略されている。
図11の(A)において、テコ板23をその後端部23bを支点として、その先端23aを矢印Y1方向に倒して行く。なお、この後端部23bは、バンド本体部20における環状部分21の外周面21aに当接した状態となっている。
これによって、テコ板23の後端部23bは、バンド本体部20の環状部分21に対して、押圧力を与えた状態で矢印Y2方向に移動する。このとき、バンド本体突出部22は、テコ板23の矢印Y1方向への折り曲げに伴ってテコ板23の先端部23a方向への引っ張り力が加わり、さらに、テコ板23の後端部23bによる環状部分21の外周面21aに対する押圧力によって、環状部分21とバンド本体突出部22は、図11の(B)のように変形して行く。これによって、バンド本体部20は、その環状部分21の径が小さくなり、ブーツ1の大径側端部の外周面1a全体に締め付け力を与える。
このようなテコ板23の締め付け動作は、テコ板23の先端部23aがバンド本体部20における環状部分21の外周面21aに当接するまで行われる。テコ板23の先端部23a付近が環状部分21の外周面21aに当接した状態となったら、テコ板固定部材24の突片部24a,24b(図10参照)をそれぞれ内側に折り曲げてテコ板23を抱え込む状態とする。この結果、テコ板23は、バンド本体部20の環状部分21に沿うように固定される。
このような従来から用いられているブーツ固定バンド2は、締め付け作業が容易で、確実な締め付け状態が得られ、かつ、締め付け後の最終的な状態において、出っ張りが少ない形状となるので、特に車軸などの高速回転部分に用いられるに適したものとなる。また、特許文献2(特開平11−218282号公報)に示される、テコ板部分を有しない締め付けバンドも同様な理由で採用されている。このように、細長い金属部材を曲げて環状部分が形成され、この環状部分の径を小さくして、締め付け対象部材となるブーツ1などに対して締め付け力を与える締め付けバンドは、様々な分野で使用されている。
以下、本発明の実施の形態について説明する。なお、まず、第1の実施の形態について、図1から図4を参照しながら説明する。
図1は、本発明の締め付けバンドとしてのブーツ固定バンド2Aの実施の形態を示す図である。この実施の形態のブーツ固定バンド2Aの形状や構成部品は、図10で説明した従来のブーツ固定バンド2と同じであり、同一部分には同一符号を付し、その説明を省略または簡略化する。
本実施の形態のブーツ固定バンド2Aが従来のものと異なるのは、金属部材の環状部分21の内外周(この実施の形態では、バンド本体突出部22、テコ板23、テコ板固定部材24の各板面の表面および裏面の両面とする)の中央部に凹凸が形成されるような細かい模様25(図2参照)を形成したことにある。なお、図2は、図1におけるバンド本体部20の環状部分21のA−A’線断面図である。
なお、この模様25は、環状部分21のみならず、バンド本体部20全体、テコ板23、テコ板固定部材24のそれぞれ板面に凹部を設けることによって形成されるもので、図2に示すように、その凹部の深さ(凸部と凹部の高さ方向の差)W1は、それぞれの構成部品の板面から2μm〜50μmの範囲で設定される。なお、凹部の深さW1は、板厚W2の10分の1以下にするのが好ましい。また、用途によっては、50μm以上としても良い。ちなみに、従来からのこの種のブーツ固定バンド2は、図10で示すように、その表面は鏡面仕上げとなっていて、その表面の粗さ、すなわち、表面の凹凸は0.5μm以下であるのが一般的であるので、それに比べると、この実施の形態で形成される模様25の深さは板面から2μm〜50μm であるので、凹凸の度合いは4倍〜100倍にもなり、板面がざらざらした手触りとなる。
模様25は、図2に示すように、板面の内外周であって幅方向の中央部に形成される。この実施の形態では、模様の幅M1は、5mmで、ブーツ固定バンド2Aの幅M2は、7mmとされ、模様の端とブーツ固定バンド2Aの端部との距離M3は、両側とも1mmとされている。この距離M3は、0.5〜2mmの範囲が中央模様の形成しやすさや模様の領域を十分確保できるという面で、好ましい。また、模様の幅M1の幅M2に対する割合は、同じような観点から、50〜95%が好ましく、60〜90%がさらに好ましい。なお、ブーツ固定バンド2Aの各部、たとえば、図2に示すように、還状部分21の両端部の角部には、ヤスリなどでこすって曲面または直線状のスロープとした面取り部21bが施されている。この面取り部21bは、すべての端部に施されているが、一部のみに施すようにしても良い。
このそれぞれの構成部品の板面の内外周に形成される模様25の種類は、特に所定のものに限られるものではなく、たとえば、規則的な格子模様等の直線状の凹部を網目状に設けたものとしたり、軸線方向に平行な複数の直線状の凹部としたり、また、不規則な曲線的な模様であってもよい。さらには、多数の円形状や角状の凹点が規則性を持って、またはランダムに形成される模様であってもよいが、いずれの場合も、図2に示すように、模様25が凹部によって描かれるもので、凸となる部分の厚さは、バンド本体部20、テコ板23、テコ板固定部材24のもともとの板厚W2と同じ厚さとなっている。
また、この模様25は、細かい模様とすることが必要であり、特に、スポット溶接を採用する場合はスポット径(直径2.0mm程度)において、被溶接部材同士が多点接触状態(理想的には数十点での接触状態)となるように、凹部が形成されるのが望ましい。なお、このような模様25の形成の仕方については後に説明する。
このように、ブーツ固定バンド2Aでは、金属部分の内外周に、たとえば、図1に示すような模様25を形成することによって、バンド本体突出部22にテコ板23をスポット溶接する場合、その溶接部分22cは、図3に示すように、多点接触状態となる。これは、バンド本体部20の環状部分21にテコ板固定部材24をスポット溶接する場合も同様である。
このような多点接触の状態でスポット溶接を行うと、それぞれの接触点で溶接が行われ、溶接の信頼性が格段に向上し、溶接による不良品の製造度合いを大幅に減少させることができる。すなわち、このような多点接触とすることによって、電極10a,10b間に流す電流を少なくすることができ、それによって、溶接時に発生するナゲット層11は、従来の1点での接触の場合と異なり、1点に集中的に生じることがなくなり、各点において均等に生じるので、ナゲット層11が板厚方向に深く入り込むことがない。
これによって、このブーツ固定バンド2Aの構成部品のような0.3mm〜0.8mmといった薄板にスポット溶接しても、それぞれの板材に熱劣化が生じにくく、穴が開くなどといった不具合を防止でき、溶接の信頼性を高めることができる。
また、ブーツ固定バンド2Aの環状部分21の内外周に、図1に示すような模様25を形成することによって、テコ板23の位置決め精度に余裕を持たせることができる。すなわち、前述したように、テコ板23の後端部23bからバンド本体突出部22の先端部22aの上端までの距離L1(図11参照)は、適切な距離とする必要があるが、本実施の形態のように、ブーツ固定バンド2Aの各構成部品に、図1に示すような模様25を形成することによって、テコ板23の後端部23bとバンド本体突出部22の先端部22aの上端までの距離L1は、それほど厳密な精度は要求されない。この距離L1にそれほど厳密な精度が要求されないということは、テコ板23のバンド本体突出部22に対する溶接位置の位置決めも厳密に行う必要がないということである。
このように、模様25を設けることによって、テコ板23のバンド本体突出部22に対する溶接位置の位置決めも厳密に行う必要がなくなるのは、次に示す理由によるものである。
すなわち、ブーツ固定バンド2A(この場合、特にバンド本体部20)の環状部分21の内外周に模様25が形成されることによって、その表面積が大きくなり、表面積が大きいと、伸びる量も大きく、伸びたときに元に戻る量も大きくなる。つまり、降伏点に到達するまでの間は、表面積が広いほど、上死点と下死点との間の幅が広くなる。これは、降伏点に達するまでの間では、耐力の幅が広くなる、つまり、耐力が向上するということであり、それによって、伸び縮み可能な範囲が広がることから、テコ板23の後端部23bの位置の誤差を吸収できるからである。
これによって、テコ板23をバンド本体突出部22に溶接する際の溶接位置の位置決めにそれほどの高精度さが要求されなくなる。これは、テコ板23の後端部23bからバンド本体突出部22の上端までの距離L1の許容範囲が広がることであり、たとえ、この距離L1が多少ずれても、そのずれはバンド本体部20の耐力の幅の広さで吸収されるということである。
このように、テコ板23をバンド本体突出部22に溶接する際の溶接位置の位置決めにそれほどの高精度さが要求されなくなることによって、作業性の大幅な向上が図れ、1つの種類を大量に生産する場合は勿論、多種少量生産の場合にも有利なものとなる。また、締め付けバンドとしての不良品も減少すると共に、伸び縮みの範囲が広がることで、その締め付けバンドを取り付けた際の締め付け不良も減少する。
さらに、バンド本体部20の耐力が向上し、伸び縮みの範囲が広がることで、より多くの締め付け量が得られ、それによって、ブーツ1の径の大きさに対して、ブーツ固定バンド2Aの適合範囲を広くできる利点もある。すなわち、環装すべき部分の径の大きさが多少異なる複数種類のブーツに対しても1種類のブーツ固定バンド2Aで対応できる。
また、ブーツ固定バンド2Aは、環状部分21の内外周を含めた板面に、図1に示すような模様25を形成することによって、生産管理上においても優れたものとなる。この模様25は様々な種類を用いることができ、ブーツ1の種類ごとにブーツ固定バンド2Aの模様を決めておけば、そのブーツ固定バンド2Aは、どの自動車メーカのブーツ用であるのか、どの車種に用いるものであるのか、また、1台の自動車用のブーツであっても、どの箇所のブーツ用であるのかが、外観から一目でわかり、生産管理や在庫管理がし易くなる。
また、ブーツ固定バンド2A自体を軽量化することができる利点もある。つまり、この実施の形態のブーツ固定バンド2Aで形成される模様25は、元々の厚さの板厚に対して凹溝を形成することで実現されるので、その分だけ軽量化される。さらに、その模様25が滑り止めの役目も果たし、テコ板23を倒す際に適度なざらざら感によって滑りにくくなるので倒し加工がし易くなる。
また、この実施の形態では、バンド本体部20の環状部分21の内外周に模様25が形成されているので、ブーツ1に対して締め付けしたあと、バンド本体部20における環状部分21の裏面(ブーツ1の外周面1aまたは1bに接触する部分)の模様25が滑り止めの役目も果たし、それによって、過酷な使用条件下における長期間の使用によっても締め付けが緩みにくいという利点もある。
また、この実施の形態では、バンド本体部20の環状部分21の内外周の中央部に模様25が形成されているので、すなわち、板面の両端部には模様が付されていないので、模様の出っ張りが締め付け対象を傷つけたり、模様部分から締め付けバンドが切れるという危険性を回避できる。さらには、板面の両端部には模様が付されていないので、錆が発生しにくくなる。
なお、上述した模様25は、そのブーツ固定バンド2Aを用いるブーツ1の材質やそのブーツ1を自動車のどの箇所に使用するかによって、模様25の溝の深さや模様25の細かさを設定することが望ましい。これは、模様25の溝の深さや細かさによって、摩擦抵抗やスポット溶接時における電気抵抗が違ってくるためであり、ブーツ1の材質やそのブーツ1の使用条件によって、最適な模様25の溝の深さや模様25の細かさを設定することが望ましい。
具体的には、プラスチック系材料の中でも比較的硬めの材料で生成されるブーツ1に対しては、目の細かく比較的浅い溝(2μm〜10μm)で模様25が形成されたブーツ固定バンド2Aとすることで良好な結果が得られる。また、プラスチック系であってもウレタン系の比較的軟らかい材料で生成されるブーツ1に対しては、目の細かさが比較的粗く比較的深い溝(5μm〜20μm)の模様25が形成されたブーツ固定バンド2Aを用いることで良好な結果が得られる。これらプラスチック系の材料でなるブーツ1は、自動車の室内や露出度の少ない部分で、しかも、低速回転のジョイント部分に使用されることが多いため、比較的ゆるい締め付け状態で用いられる。
一方、これらプラスチック系の材質でなるブーツ1に対し、ゴム系の材質でなるブーツ1は、外部に露出し、かつ、高速回転する車軸などの過酷な使用条件下で用いられることが多く、このようなブーツ1に使用されるブーツ固定バンド2Aは、より高い品質が要求される。このようなブーツ1に用いられるブーツ固定バンド2Aは、その模様25としては、たとえば綾目模様で、深い溝(8μm〜25μm)の模様とすることで良好な結果が得られる。
なお、より高荷重の締め付けを必要とする場合は、柾目(ヘアーライン)の模様25で、その溝の深さはバンド本体部20の板厚の2%〜6%とすると好結果が得られることがわかった。
また、この実施の形態のブーツ固定バンド2Aは、テコ板23を倒して、テコ板固定部材24によって固定された状態では、出っ張りが殆ど生じることなく、全体的に見れば、バンド本体部20の環状部分21と同様の円を描く形状となるのも特徴の1つである。特に、このブーツ固定バンド2Aが、自動車の車軸のジョイント部分に用いるブーツ1の締め付け用として用いられる場合には、ブーツ1は車軸とともに高速回転するので、空気抵抗をできるだけ減らすことのできるように、ブーツ固定バンド2Aに出っ張りが少ないことが要求される。
このように、この実施の形態で説明したブーツ固定バンド2Aは、従来のこの種のブーツ固定バンド2に比べて製造効率を大幅に改善させる(約30%)ことができ、かつ、ブーツ1に対する締め付け安定性を2倍以上向上させることが可能となり、それによって、過酷な使用条件下での耐久性を大幅に向上させることができる。
また、このブーツ固定バンド2Aは、スポット溶接の不良が大きく減少し、従来は全数検査を行っていた検査を抜き取り検査での対応とすることができる。また、軽量化も達成されているため、数10箇所に利用される自動車に使用した場合に、自動車の総重量の軽減にも寄与することとなる。
ところで、このような模様25は、ブーツ固定バンド2Aを構成するそれぞれの構成部品、すなわち、バンド本体部20、テコ板23、テコ板固定部材24として形成する前に付加する方法と、形成した後に付加する方法がある。生産効率を考慮すると、これらの部品を作る前の板材の段階で形成されるようにするのが好ましい。なお、中央部に精度良く模様を形成する場合は、各部材を形成した後に、模様を付加するのが好ましい。
次に、本発明の第2の実施の形態について、図4を参照しながら説明する。第2の実施の形態は、第1の実施の形態の一部変更例であり、異なる部分を主にして説明する。
図4に示すように、この第2の実施の形態では、テコ板23を倒しやすい形状のテコ板23Aとしたり、テコ板固定部材24を長くしたテコ板固定部材24Aとし、図11の(B)で示されるブーツ1と接触しない非接触部分Sを無くすようにしている。この図4に示すテコ板23Aは、その上端に板厚方向に突出した指のすべり止めとなる突起部41を設けている。また、テコ板固定部材24Aは、図11の(B)に示される非接触部分Sを覆うように配置される長い舌片状の長舌片状部42を有すると共に、テコ板23Aを押さえつける際にその押しつけを容易にするための内側に突出した打出しダボ43,43が突片部24a,24bにそれぞれ設けられている。なお、この突片部24a,24bは、対向する対称位置に設置されるのではなく、周方向にずれるように配置され、折り曲げた時には、互いが重ならない位置に設置されている。
また、バンド本体部20に形成される模様25は、次のように形成されている。すなわち、バンド本体突出部22は、幅方向に平行となる線が複数引かれたあや目模様の模様25とされ、環状部分21は、直線が斜めに交差するひし形網目状(各網目はひし形)の模様25とされている。また、テコ板23Aとテコ板固定部材24Aの模様25は、ひし形網目状の模様25とされている。なお、各板面に形成される模様25は、図1に示す実施の形態のように1種類としたり、この図4に示すように2種類とするのではなく、1つの締め付けバンドにおいて3種類以上としても良い。この場合、各部材毎に異なる模様25とするのが好ましいが、1部材中に2種類以上の模様25を形成するようにしても良い。
次に、本発明の第3の実施の形態について、図5と図6を参照しながら説明する。この第3の実施の形態は、第1の実施の形態とは、異なり、締め付けた後、溶接で固定するのではなく、引っ掛けと、かしめで固定するものである。なお、第1の実施の形態と同一部分、同一部材には、同一の符号を付し、その説明を省略または簡略化する。
本実施の形態のブーツ固定バンド2Bは、特許文献2に示されるような、テコ板を有しないブーツ固定バンドであり、係合部26,27と、締め付け部28を有する。ブーツ固定バンド2Bの両先端の係合部26,27が重なり合うことで、1つの輪を形成している。一端となる係合部26には、長穴26aと、2つの丸穴26b,26cが形成されている。他端の係合部27には、長穴26aに入る長い突起27aと、2つの丸穴26b,26cにそれぞれ入る半球状の突起27b,27cが形成されている。長い突起27aは、環状部分21の長さ方向に長くされ、長穴26aに挿入された後、長穴26aから抜けでないようにかしめ加工がなされる。
締め付け部28は、ペンチなどで挟まれることで、その両側のスロープ部28aが引っ張られ、ブーツ固定バンド2Bの径を小さくする部分である。ブーツ固定バンド2Bの径を小さくなる結果、ブーツ固定バンド2Bが締まることとなる。なお、係合部27の先端には、空間Sをカバーすることとなる、細幅のカバー部27dが設けられ、一方、締め付け部28の係合部26とは反対位置に、カバー部27dの最も細幅となる先端部27eを幅方向の両側から挟み込み、位置保持させる係合保持部26dが設けられている。
環状部分21の内外周(この実施の形態では、係合部26,27と締め付け部28の表面および裏面の両面とする)の中央部に凹凸が形成されるような細かい模様25が形成されている。この模様25は、図6に示すように、幅方向の両端の平面部から、凸部が突出し、凹部がその凸部の間に形成されるという凹凸から形成されている。この実施の形態では、両端の平面部から、凸部の先端までの高さW3は、50μmとされ、平面部の板厚は、0.5mmとされている。なお、図6は、図5におけるバンド本体部20の環状部分21のB−B’線断面図である。
このブーツ固定バンド2Bは、バンド本体部20の母材を、バンド本体部用の幅に切断し、その後、板面の表裏であって、その両端部を除いた中央部に、その板面が凹凸面となるような模様25を帯状に形成し、その後、バンド本体部20をリング状に曲げ加工したものである。
なお、バンド本体部20の母材を、バンド本体部用の幅に切断した後、すぐに、バンド本体部20の長さに切断してから模様25を付加しても良いが、この実施の形態では、模様25を付加した後、バンド本体部20の長さに切断している。また、この実施の形態では、曲げ加工を行う前に、係合部26,27と締め付け部28を形成しているが、曲げ加工を行った後に、係合部26,27と締め付け部28を形成しても良い。
次に、参考例について、図7と図8を参照しながら説明する。この参考例の締め付けバンド2Cは、ブーツ固定バンドではなく、自動車の他の部品、たとえばエンジン付近の油用ホースを固定するものである。なお、第1の実施の形態と同一部分、同一部材には同一の符号を付し、その説明を省略または簡略化する。
この締めつけバンド2Cは、バンド本体部20の両端に係合部51,51(一方の係合部51は、他方の係合部51に隠れて図7では見えない)を有し、バンド本体部20の中央部分に係合部52を有している。係合部52は、ねじ55の先端部56を跨ぎ、その後、図7の環状部分21の奥(紙面の向こう側)に配置される同じような環状部分21につながっている。この係合部51,52に被係合部材53,54が係合し、ねじ55を回転させることによって被係合部材53,54の間隔が広がったり狭くなったりするように構成されている。
被係合部材53の略中央には、貫通孔が設けられ、その貫通孔を囲む部分にねじが切られている。ねじ55の先端部56を除く外周には、ねじ部57が設けられ、被係合部材53の貫通孔とねじ係合している。被係合部材53には、その貫通孔の両隣に、係合部51,51の先端が挿通される貫通穴が設けられている。被係合部材54の略中央にも、貫通孔が設けられ、その貫通孔にねじ55の先端部56が挿通されている。被係合部材54の貫通孔の内径は、先端部56の直径よりわずかに大きく、ねじ部57の直径より小さくされている。このため、被係合部材53は、係合部52とねじ部57との間に挟まれる形に構成されている。
ねじ55をドライバなどで回転させると、上述したように、被係合部材53,54の間隔が広がったり狭くなったりする。被係合部材53,54の間隔が広くなると、環状部分21の輪が小さくなり、締め付けがされることとなる。逆に、被係合部材53,54の間隔が狭くなると、環状部分21の輪が大きくなり締め付けが緩くなる。
環状部分21の断面には、図7(B)に示すように、等間隔に配置される4つの凸部61(逆に言えば4つの凹部62)からなる模様25が形成されている。すなわち、環状部分21(この実施の形態では環状部分21から両端の被係合部51,52に至る全長に渡る部分)の内外周に、軸線方向(=長さ方向)に平行に伸びる凸部61が形成されている。
図8は、図7に示す模様25の変形例を示す。図8(A)は、等間隔に配置される凹凸部63によって模様25を形成する場合を示し、図8(B)は、全周に、連続した凹凸部64が形成された模様25を示している。図8(C)は、軸線を中心とした同心状の円65を軸線方向に沿って並列的に凹部として設けて模様25を形成した場合を示している。なお、軸線とは環状部分21の断面中心が長さ方向に伸びた線を指す。円65を凹部とせず、凸部としても良い。
図8(D)は、環状部分21の軸線に沿ってらせん状に伸びる直線状の凹部66を模様25としたものである。この凹部66を凸部としても良い。また、らせん状に伸びる直線状の凹部66または凸部を複数平行させても良く、また平行ではなくそれらが途中で交叉するようにしても良い。また、図7(B)、図8(A)、図8(B)の断面で示される模様25を、図8(D)に示すように、軸線方向にらせん状に伸ばすことで、らせん状の模様25を形成しても良い。
上述した各実施の形態は、本発明の好適な実施例であるが、本発明は上述の各実施の形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々変更実施可能となるものである。たとえば、締め付けバンドとしては、第4の実施の形態のようにブーツ固定バンド以外のものとしても良い。すなわち、本発明は、細長い金属部材を曲げて形成した環状部分を有し、その環状部分の径を小さくして、締め付け対象部材に対して締め付け力を与える締め付けバンド全般に適用することができる。たとえば、水道管部分やガス管部分部分の締め付け、工作機械におけるジョイント部分のカバー部材の締め付け等にも適用することができる。
また、板材の一方の面のみに模様25を形成したり、断面円形部材の断面で見て、1ヶ所のみに模様25を形成しても良い。このような部材であっても、まったく模様25のないものに比べれば、耐力が向上して伸び縮みの範囲が広がるという効果を有するものとなる。特に、環状部分21の内周部に模様25がくるように構成すると、ざらざら部分がブーツ1に接触することとなり、滑り止めの機能も働くこととなる。
上述の各実施の形態では、環状部分21のみならず、その他の部分、部材にも模様25を形成しているが、本発明は、少なくとも環状部分21の内外周に模様25が存在すれば良い。この内外周とは、断面円形の場合、模様が2カ所の時は180度離れ、3カ所の時は、等間隔で120度離れているものを含むものとする。このように、内外周とは、締め付け対象部材を締め付けたとき、模様25が、外側半分と内側半分にそれぞれ配置される可能性のあるとき、「模様が内外周に形成されている」とする。
また、断面円形の金属部材としては、断面楕円のものや断面が円形と角形を合わせたもの等も含まれる。さらに、模様25としては、金属部材の軸線方向に互いに平行となるように形成された複数の直線状の模様と、その直線と交差するように設けられた複数の同心上の円形模様や螺旋状の模様との組み合わせとしても良い。