しかしながら、上記特許文献1または2に記載されたような混層防止法は、上下塗膜層間の境界の乱れ(いわゆる混層)を防止して、塗膜表面の平滑性や光輝感を向上させることには有効であったが、塗料中の物質が液体状の塗料の中を移動する現象を抑制する効果は無い。
すなわち、ウェット状態の塗料を積層し乾燥させる場合には、塗料の塗布・乾燥の工程で上下塗膜層間に境界の乱れ(いわゆる混層)が起こらなかったとしても、塗料中の成分は塗料の流動性がある間は、塗料の中を拡散し、場合によっては境界層を越えて移動していくものである。この現象により以下のような問題が実際に発生した。
メタリック意匠でかつ表面に耐傷付性や高鮮映性といった機能を付与させるために、次のような多層被覆金属板を設計した。化成処理を施した亜鉛めっき金属板上に、耐食性や塗膜密着性を保持するためのプライマー層、意匠性を示すメタリック層、機能付与を目的とするトップクリアー層を積層した。メタリック層及びトップクリアー層をウエット状態で多層被覆したところ、乾燥開始前から塗布後外観にむらが生じ始め、オーブンにて焼き付け乾燥を行った後には、さらに激しいむらが発生した。
本発明は、上記のような構成の塗膜を有する塗装金属板を、むらのない美麗な外観で提供することを目的とする。
本発明者らは、むらの発生するメカニズムを調査し、メタリック着色層に含まれるメタリック顔料(フレーク状のコーティングアルミ材料)の一部が同層中を移動し、隣接するトップクリア層との界面に局在化することが原因であることを見出した。そのうえで、この現象を抑制する方法を鋭意検討し、メタリック意匠の多層被覆金属板およびその製造方法に関する本発明を完成するに至った。
本発明のメタリック意匠の多層被覆金属板は、金属板の少なくとも一方の面に、ウエット状態(未乾燥状態)で形成した3つの塗料層を同時に乾燥させて形成した3層の塗膜を有し、表層塗膜が熱硬化型クリア塗膜、表層から2層目の塗膜が表層塗膜と異なる樹脂を主成分とする熱硬化型クリア塗膜、表層から3層目の塗膜が2層目の塗膜と同一組成の塗膜にメタリック顔料及び場合によって少なくとも1種の着色顔料を含有する着色塗膜であることを特徴とする、メタリック意匠の多層被覆金属板である。
ここで、表層の熱硬化型クリア塗膜がレギュラーポリエステル樹脂系クリア塗膜あるいはアクリル樹脂系クリア塗膜、表層から2層目の塗膜が高分子ポリエステル樹脂系クリア塗膜、表層から3層目の塗膜が2層目の塗膜と同一の高分子ポリエステル樹脂系クリア塗膜中にメタリック顔料及び場合によって少なくとも1種の着色顔料を含有する着色塗膜であることが望ましい。「レギュラーポリエステル樹脂」とは、一般には数平均分子量が10,000未満のポリエステル樹脂のことであるが、本発明においては、数平均分子量が5,000未満のポリエステル樹脂をいうものとする。また、本発明において「高分子ポリエステル樹脂」とは、数平均分子量が10,000以上のポリエステル樹脂を指すものである。
また、本発明の多層被覆金属板の製造方法は、金属板の少なくとも一方の面に、表層用として熱硬化型クリア塗料を、表層から2層目用として表層用塗料と異なる熱硬化型クリア塗料を、表層から3層目用として2層目と同一の塗料にメタリック顔料及び場合によって少なくとも1種の着色顔料を含有する着色塗料を、ウエット状態で3層目から順次にまたは同時に被覆する多層被覆工程と、これらの3層を同時に乾燥させる乾燥工程とを含むことを特徴とする、多層被覆金属板の製造方法である。
ここで、表層用の熱硬化型クリア塗料がレギュラーポリエステル樹脂系クリア塗料あるいはアクリル樹脂系クリア塗料、表層から2層目用の塗料が高分子ポリエステル樹脂系クリア塗料、表層から3層目用の塗料が2層目と同一の高分子ポリエステル樹脂系クリア塗料中にメタリック顔料及び場合によって少なくとも1種の着色顔料を含有する着色塗料であることが望ましい。
さらに、前記多層被覆工程では、3層の塗料が同時に塗布されることが望ましい。
なお、ウエット状態で順次被覆する方式とは、いわゆるウエットオンウエット方式のことであり、ウエット状態で同時に被覆する方式とは、いわゆる多層同時被覆方式のことである。
むらの発生する機構について考察する。例えば、トップクリア層の樹脂がレギュラーポリエステル樹脂あるいはアクリル樹脂で、メタリック着色塗料の樹脂が高分子ポリエステル樹脂のとき、メタリック着色層中のメタリック顔料(フレーク状のコーティングアルミ材料)がトップクリア層に接すると、メタリック顔料が両層の界面に吸着する。両層の界面がメタリック顔料にとってエネルギー的に安定であるためであると思われる。通常、トップクリア層とメタリック着色層との境界が乱れない(いわゆる混層が生じない)ためには、両層の表面張力の関係がトップクリア層<メタリック着色層であることが必要である。しかしこの条件を満たしていても、メタリック顔料の界面への吸着は発生する。これは、トップクリア層内に存在する樹脂とメタリック顔料表面とのなじみ性が良いと、メタリック顔料がトップクリア層(正確にはトップクリア層中の樹脂)に触れたとたんに離れられなくなり、両層界面に吸着するものである。メタリック顔料の表面は、レギュラーポリエステル樹脂あるいはアクリル樹脂とのなじみが良いが、メタリック顔料が両層の界面を通過してトップクリア層に完全に移動するだけの駆動力は無いものと推察される。表面張力関係がトップクリア層<メタリック着色層の関係にあるかぎり、マクロ的には界面に乱れは生じない。塗料内流動によりメタリック顔料は次々に界面付近に移動し、界面に吸着するとそれ以上移動しなくなる。このようにして、メタリック顔料は両層界面に濃縮されていく。メタリック顔料は扁平状であり、扁平面が界面に沿って吸着するので、その部分の光輝感は著しく上昇する。ただし、メタリック顔料の界面への吸着量は部分的に差が出てくるため、むらとなって見える。吸着量の部分的な差が生じる理由については、塗装面の部分によって微妙に膜厚が異なるため、塗料内の流動の程度が部分的に異なることに起因するものと考えている。
以上のように、むらは下層中のメタリック顔料が上層に接触することが原因であるので、むらを抑制するには、メタリック着色層とトップクリア層との間にバッファ層としてクリア層をもう1層挿入すればよい。このバッファ層を構成する樹脂がメタリック着色層と同一であれば、メタリック顔料の吸着は起こらない。
すなわち、3層の塗膜を有するメタリック意匠の多層被覆金属板であって、表層塗膜が熱硬化型クリア塗膜、表層から2層目の塗膜が表層塗膜と異なる樹脂を主成分とする熱硬化型クリア塗膜、表層から3層目の塗膜が2層目の塗膜と同一組成の塗膜にメタリック顔料及び場合によって少なくとも1種の着色顔料を含有する着色塗膜であれば、それはむらのない美麗なメタリック意匠の多層被覆金属板であるといえる。
ここで、表層の熱硬化型クリア塗膜がレギュラーポリエステル樹脂系クリア塗膜あるいはアクリル樹脂系クリア塗膜、表層から2層目の塗膜が高分子ポリエステル樹脂系クリア塗膜、表層から3層目の塗膜が2層目の塗膜と同一の高分子ポリエステル樹脂系クリア塗膜中にメタリック顔料及び場合によって少なくとも1種の着色顔料を含有する着色塗膜であるならば、確実に美麗なメタリック外観を得ることができるので望ましい。
また、表層用として熱硬化型クリア塗料を、表層から2層目用として表層用塗料と異なる熱硬化型クリア塗料を、表層から3層目用として2層目と同一の塗料にメタリック顔料及び場合によって少なくとも1種の着色顔料を含有する着色塗料を、ウエット状態で3層目から順次にまたは同時に被覆し、これらの3層を同時に乾燥させることで、むらのない美麗なメタリック意匠の多層被覆金属板を得ることができる。
ここで、表層用の熱硬化型クリア塗料がレギュラーポリエステル樹脂系クリア塗料あるいはアクリル樹脂系クリア塗料、表層から2層目用の塗料が高分子ポリエステル樹脂系クリア塗料、表層から3層目用の塗料が2層目と同一の高分子ポリエステル樹脂系クリア塗料中にメタリック顔料及び場合によって少なくとも1種の着色顔料を含有する着色塗料であることにより、確実に美麗なメタリック外観を得ることができるので望ましい。
表層のクリア塗料と表層から2層目のクリア塗料で樹脂が異なり、かつ表層から3層目の塗料の樹脂が2層目と同一の樹脂系であることは、例えば以下の方法によって確認することができる。
ウエットオンウエット方式または多層同時被覆方式で塗布した3層の塗料を同時乾燥して3層の塗膜を形成した多層被覆金属板を断面方向にミクロトームにより切断し、その塗膜の断面部分について、走査電子顕微鏡にて、加速電圧1kV以下の低加速電圧による反射電子像を観察する。各層の顔料を除いた樹脂部分を比較観察することにより、樹脂の種類が異なる場合はもちろん、樹脂系が同一の場合でも分子量の違いまでが区別することができる。
2層目と3層目は樹脂が同じなので、上記の反射電子象の観察による分析で、それらを区別すること及びそれらの界面を検出することはできない。しかし、3層目の塗膜に着色顔料が入っている場合には、2層目と3層目は分析的にも見た目にも区別される。また、3層目に着色顔料が入っていなかったとしても、メタリック顔料が全く存在しない領域が3層目の上層部分に存在するので、マクロ的に見てその上層部分を2層目として判断することができる。
また、多層皮膜が、それぞれの層ごとに塗料の塗布と乾燥を繰り返す逐次塗装で形成したものか、それともウエット状態の3層の塗膜を同時乾燥して形成したものかは、隣り合う層の界面をミクロ観察することにより容易に判定できる。多層皮膜における界面の平均粗さRa(JIS B 0601)が0.3μm以上であれば、その多層皮膜は同時乾燥で形成したものである。界面のRaは、例えば上述の反射電子像観察で測定することができる。
また各層の塗料樹脂系の種類の確認は、例えば、多層被覆金属板を樹脂に埋め込み後研磨し、断面方向から各層を顕微FT−IRで分析することにより可能である。
上記の多層被覆工程では、3層が同時に被覆(多層同時被覆)されることが好ましい。多層同時被覆方式によれば、ウエットオンウエット方式と異なり、一度に多層の皮膜を被覆することができ、より生産性を向上させることができる。また、多層同時被覆方式によれば、必要に応じて1層あたりの膜厚を薄くすることができるため、経済的であるうえに、トータル膜厚が薄くなることで加工性が向上するメリットもある。
本発明によれば、メタリック着色層の上層に機能付与を目的とするトップクリアー層を有しかつ加工性に優れる多層被覆金属板を、むらのない美麗な外観でかつ高い生産性を以て提供することができる。
添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
図1は本発明の実施形態の例である。この例の多層被覆金属板は、化成処理層10及び、必要に応じてプライマー層11を施した金属板9上に、ウェット状態で形成した3つの塗料層を同時に乾燥させて形成した3層の塗膜を有している。着色メタリック層12とトップクリア層14との間に、層12の塗料と同じ樹脂を使用する塗料により形成したバッファ層13が存在するため、着色メタリック層12中のメタリック顔料15がトップクリア層14の樹脂と接触することが回避され、メタリック顔料15が両層の界面に吸着することなく、着色メタリック層12中でランダムな方向を向いている。このため、表層方向から見たときに塗面上の部位によって外観に差が無く、全体的に均一な外観が得られる。すなわち図1の多層被覆金属板では「むら」が発生しない。
一方、図2は従来の実施形態の例である。図2の多層被覆金属板では、着色メタリック層12とトップクリア層14が隣り合っているため、着色メタリック層12中のメタリック顔料15の一部がトップクリア層14の樹脂と接触し、エネルギー的に安定な両層の界面に吸着している。界面に吸着したメタリック顔料16は、界面に沿って同一方向に並び、メタリック顔料の扁平面が表層方向に揃って向き、表層方向から見たときに強い金属調の外観となる。この程度が塗面上の部位によって異なるため、むらとなって見える。
次に、本発明の多層被覆金属板を製造する方法の好適な実施形態として、多層同時被覆方式による多層被覆金属板の製造方法について説明するが、本発明は、この場合に限られず、例えば、ウエットオンウエット方式により多層被覆金属板を製造する場合にも適用することができる。ただし、本実施形態のように多層同時被覆方式による方が、ウエットオンウエット方式と異なり、一度に多層の皮膜を被覆することができ、より生産性を向上させることができる。
本実施形態に係る多層被覆金属板の製造方法は、金属板の少なくとも一方の面に、表層用として熱硬化型クリア塗料を、表層から2層目用として表層用塗料と異なる熱硬化型クリア塗料を、表層から3層目用として2層目と同一の塗料にメタリック顔料及び場合によって少なくとも1種の着色顔料を含有する着色塗料を、ウエット状態で同時に被覆する多層被覆工程と、これらの塗料を同時に乾燥させる乾燥工程とを含む。
上記のように、本実施形態に係る多層被覆工程は、3層の塗料をウエット状態で同時に被覆する方法、すなわち、多層同時被覆法により実施される。かかる多層同時被覆を実施するための装置としては、多層カーテンコータ、例えば、図3に示すようなスライドホッパー型カーテンコータを使用することができる(例えば、特許文献1を参照)。
ここで、図3に基づいて、本実施形態に係る多層被覆金属板の製造に使用するスライドホッパー型多層カーテンコータの構成および動作について説明する。なお、図3は、本実施形態に係る多層被覆金属板の製造方法に使用されるスライドホッパー型多層カーテンコータの概略的な構成を示す斜視図である。
図3に示したように、多層カーテンコータのスライドホッパー1には、スライド傾斜面2が形成されており、このスライド傾斜面2には、3列のスリット状のノズル3が設けられている。各ノズル3には、それぞれに塗料樹脂を供給する塗料供給部4が接続されており、各塗料供給部4は、供給管およびポンプ(何れも図示せず)を介して塗料タンク(図示せず)に接続され、塗料が各塗料供給部4に供給されるようになっている。スライド傾斜面2の唇部2Aの両端部に接するように、塗膜をガイドするカーテンガイド5が設けられ、唇部2Aの下方には、余剰の塗料を収容する塗料パン6が設けられている。塗料は、スライドホッパー1のそれぞれの塗料供給部4からスリット状ノズル3を通じて、スライド傾斜面2に、幅方向に均一に供給され、各塗膜がスライド傾斜面2上で積層される。複数の層に積層された塗膜は、スライド傾斜面2上を下方に流動し、スライド傾斜面2の先端部(唇部2A)で塗料パン6に落下する際にカーテンガイド5により拡げられ、塗料カーテン7として幅方向に均一な塗膜の形態で流れる。この塗膜に所定の速度で移動する金属板、例えば鋼帯8を通板させることにより、鋼帯8上に複数層の塗膜を同時に形成することができる。鋼帯8は、コイル状の鋼帯でも、切り板でも可能である。
スライドホッパー1のスライド傾斜面2に設けられるスリット状ノズルの数は特に限定されるものではなく、4個以上でも差し支えない。その場合は3個のスリットのみを使用し、残りのスリットは使用しなくてもよいし、また、1層分の塗料として同一塗料を隣接する2個のスリットを同時に使用して積層してもよい。
本法では、塗装を金属板と非接触で行うため、ロールコータで生じるようなローピングが発生することがない。
本実施形態において形成する表層から3層目の塗膜は、2層目の塗膜と同一組成の塗膜にメタリック顔料及び場合によって少なくとも1種の着色顔料を含有する熱硬化型の着色塗膜である。この層の樹脂は、高分子ポリエステル樹脂であることが望ましい。これは、高分子ポリエステル樹脂は加工性に優れ、塗装金属板を成型したときに亀裂や剥離が発生しにくいことに加え、耐薬品性等の他の性能とのバランスも良好であることによる。また、下層に高分子ポリエステル樹脂塗料層を設けることにより、上層に高硬度の塗膜を積層した場合でも比較的加工性を良好に維持することができる。3層目の塗膜を構成する高分子ポリエステル樹脂は、市販されている一般的なものでよいが、良好な加工性を確保するためには、ガラス転移温度(Tg)が5℃〜50℃でかつ数平均分子量が8000以上であることが望ましい。Tgが5℃未満では、塗膜の硬度が低すぎて加工による塗膜剥離が発生しやすくなる可能性がある。また、Tgが50℃超あるいは数平均分子量が8000未満では、塗膜の加工性が低下し、本発明の多層被覆金属板を特にプレコート金属板として使用する場合に、その加工に耐えられない可能性がある。3層目の塗膜を形成する高分子ポリエステル樹脂塗料としては、例えば、東洋紡(株)の「バイロン」シリーズが挙げられる。
3層目の塗膜は、メタリック顔料及び、場合によって少なくとも1種の着色顔料を含有する。少なくとも1種の着色顔料としては、一般的な塗料に使用される任意のものが使用できるが、メタリック感が隠蔽されるほどの着色を行うことは避けるべきである。メタリック顔料は、フレーク状のアルミ片であり、各種の製品が存在するが、一般的に自動車や家電製品等用の塗装金属板に使用されるものは、樹脂を被覆したもの(コーティングアルミ)である。例えば、昭和アルミパウダー(株)社製の「EA」「EB」「EC」「ED」「ER」シリーズ等が挙げられる。樹脂被覆のないアルミを使用すると耐酸性あるいは耐アルカリ性に劣り、薬品による塗膜の変色が激しく使用に耐えない。この塗膜層の膜厚は、所定のメタリック感が発現でき、かつ加工性を担保できる膜厚であれば任意であるが、乾燥膜厚にして概ね1μmから60μm程度が好ましい。より好ましい膜厚は5μmから30μmであり、最も好ましくは5μmから20μmである。膜厚が薄すぎるとメタリック感が失われ、厚すぎると加工性の低下やワキの発生が起こる。ワキとは、ウェット塗膜を加熱乾燥する時に、揮発する溶剤の気泡が乾燥後の塗膜中に残留する塗装欠陥のことであり、一度に乾燥する膜厚が厚い場合や、乾燥速度が速い場合などに発生しやすい。
表層から2層目の塗膜は、熱硬化型クリア塗膜であって、着色顔料以外の組成が3層目のメタリック着色層と同一である。このような層を設置することにより、メタリック顔料がトップクリア層の樹脂と接触しメタリック顔料が両層の界面に吸着することを回避できるため、むらの防止に効果がある。この層の膜厚は、3層がウェット状態で積層されてからオーブンで加熱乾燥されるまでの間に、下層のメタリック顔料が中層のクリア層(すなわち本層)中を通過・拡散して上層の樹脂に接触するに至らないだけの膜厚であれば任意であるが、乾燥膜厚にして概ね1μmから15μm程度が好ましい。より好ましい膜厚は1μmから10μmであり、最も好ましくは1μmから5μmである。膜厚が薄すぎると上述のバッファ効果が十分でないためにむらが発生し、厚すぎると加工性の低下やワキの発生が起こる。
表層の塗膜は熱硬化型クリア塗膜であり、高硬度を確保すると同時に各種の機能付与を目的とするものである。例えば、付与する機能としては、高鮮映性、耐傷付き性、耐汚染性、親水性、撥水性等が挙げられる。塗料を構成する樹脂種類としては任意のもので構わないが、高硬度を発現しやすいレギュラーポリエステル樹脂系あるいはアクリル樹脂系が望ましく、これらの樹脂塗料に各種の機能性添加剤を添加した塗料を表層に積層し、硬化させる。
表層の塗膜を構成するレギュラーポリエステル樹脂及びアクリル樹脂は、市販されている一般的なものでよいが、高硬度とプレコート金属板としての加工性を両立させるためには、ガラス転移温度(Tg)が30℃〜100℃であることが望ましい。Tgが30℃未満では、十分な硬度が確保できない可能性が高い。レギュラーポリエステル樹脂の数平均分子量が5,000以上の場合も同様である。また、Tgが100℃超では、いかに着色メタリック層に加工性の良好な樹脂を使用しても、軽度な加工で塗膜に亀裂が生じ、プレコート金属板としての加工性に耐えられない。アクリル樹脂については、分子量を問わず、広範囲のものを使用可能であり、下記の実施例では数平均分子量が17,000のものを使用した。
表層の膜厚は、要求される機能が発現できる膜厚であれば任意であるが、乾燥膜厚にして概ね0.3μmから15μm程度が好ましい。より好ましい膜厚は0.5μmから10μmであり、最も好ましくは5μm程度である。膜厚が薄すぎると十分な硬度が得られず、厚すぎると加工性の低下やワキの発生が起こる。この層の塗料に使用する溶剤には、可能な限り、沸点の低い溶剤を添加しないことが望ましい。特に沸点が120℃以下の溶剤、例えばブチルアルコールやプロピルアルコール等を添加すると、ウェット塗料表面からの溶剤揮発が激しくなり、塗料表面の温度が低下し塗料中に温度差が生ずることで対流が発生し、この対流が下層塗料内にも影響を及ぼし、メタリック顔料の塗料内拡散のドライビングフォースとなり、むらの発生を助長する方向に働く。
なお、以上の3層の塗料には、主樹脂、炭化水素系の溶剤とともに、硬化剤が含有されていることが必須である。このような硬化剤としては、例えば、アミノ樹脂またはブロック化ポリイソシアネートなどを使用することができる。
アミノ樹脂硬化剤としては、例えば、メラミン樹脂、尿素樹脂、ベンゾグアナミン樹脂、スピログアナミン樹脂等を挙げることができるが、メラミン樹脂が好ましく、さらに、メチルエーテル化メラミン樹脂、または、メチルエーテル化メラミン樹脂とブチルエーテル化メラミン樹脂との混合物であることが特に好ましい。上記メチルエーテル化メラミン樹脂と混合して使用するブチルエーテル化メラミン樹脂は、メラミンとホルムアルデヒドとの付加反応生成物(単量体又は多量体)であるメチロール化メラミン樹脂中のメチロール基の一部または全部をn−ブチルアルコールまたはイソブチルアルコールでエーテル化したものである。
上記メチルエーテル化メラミン樹脂としては、例えば、サイメル303、同325、同327、同350、同730、同736、同738(いずれも三井サイテック社製)、メラン522、同523(いずれも日立化成社製)、ニカラックMS001、同MX650(いずれも三和ケミカル社製)、スミマールM−55(住友化学社製)、レジミン740、同747(いずれもモンサント社製)などを挙げることができる。
また、上記ブチルエーテル化メラミン樹脂としては、例えば、ユーバン20SE、同28SE(いずれも三井化学社製)、スーパーベッカミンJ−820−60、同L−117−60、同L−109−65、同G−821−60、同47−508−60、同L−118−60(いずれも大日本インキ化学工業社製)などを挙げることができる。
上記アミノ樹脂の添加量は、主樹脂100質量部に対して、0.5〜50質量部であることが好ましい。0.5質量部未満の場合には、硬化性が不充分で、塗膜の耐食性、耐溶剤性を満足しないため、好ましくない。一方、50質量部を超える場合には、硬化剤どうしの反応が起こり、充分な成形加工性を発揮できないため、好ましくない。アミノ樹脂のより好ましい添加量は、主樹脂100質量部に対して、10〜30質量部であり、最も好ましくは15〜25質量部である。
メチルエーテル化メラミン樹脂又はこの樹脂と前記アミノ樹脂との混合物を使用する場合には、硬化触媒を併用して、硬化反応を促進させることが好ましい。
このような硬化触媒としては、強酸、強酸の中和物などがあり、例えば、p−トルエンスルホン酸、ドデシルベンゼンスルホン酸、ジノニルナフタレンスルホン酸、ジノニルナフタレンジスルホン酸等の強酸であるスルホン酸化合物、これらのスルホン酸化合物のアミン中和物等を挙げることができる。これらのうち、塗料の安定性、反応促進効果、得られる塗膜の物性等の面から、p−トルエンスルホン酸のアミン中和物と、ドデシルベンゼンスルホン酸のアミン中和物とのうちのいずれか一方又は双方を用いることが好ましい。
硬化触媒の使用量は、主成分である樹脂(レギュラーポリエステル樹脂、高分子ポリエステル樹脂、あるいはアクリル樹脂)と硬化剤の合計100質量部に対して、酸化合物の量に換算した値として、0.1〜3.0質量部であることが好ましい。
上記ブロック化ポリイソシアネートとしては、ポリイソシアネートの遊離イソシアネート基を、フェノール、クレゾール、芳香族第二アミン、第三級アルコール、ラクタム、オキシム等のブロック剤で、ブロック化させた化合物が好ましい。特に、非黄変性のヘキサメチレンジイソシアネートおよびその誘導体、トリレンジイソシアネートおよびその誘導体、4、4’−ジフェニルメタンジイソシアネートおよびその誘導体、キシリレンジイソシアネートおよびその誘導体、イソホロンジイソシアネートおよびその誘導体、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネートおよびその誘導体等のブロック化ポリイソシアネートが好ましい。
さらに、スミジュール(住友バイエルウレタン社登録商標)、デスモジュール(住友バイエルウレタン社登録商標)、コロネート(日本ポリウレタン社登録商標)等の市販のイソシアネート化合物も使用できる。
硬化剤として用いるイソシアネート化合物は、イソシアネート化合物のイソシアネート基と主成分である樹脂(レギュラーポリエステル樹脂、高分子ポリエステル樹脂、あるいはアクリル樹脂)の水酸基との比(NCO/OH)が0.75〜1.25(質量比)の割合で配合するのがよい。好ましくは0.85〜1.15である。(NCO/OH)の配合比が0.75より小さい場合には、塗膜の硬化が不充分であり、期待される塗膜の硬度および強度が得られにくいため、好ましくない。一方、(NCO/OH)の配合比が1.25より大きい場合には、過剰のイソシアネート基どうし、またはウレタン結合との副反応が生じて、塗膜の加工性が低下する傾向にあるため、好ましくない。
上記3層の皮膜中には、必要に応じて、ブロック剤を添加してもよい。このようなブロック剤としては特に限定はされないが、例えば、トリエチルアミン、2−(ジメチルアミノ)エタノール、デシルアミンなどが挙げられる。
また、必要に応じて皮膜中にワックス等を添加させることが可能である。特に表層のクリア層への添加が効果的である。このようなワックスとしては、一般に公知のワックス、例えば、ポリ四フッ化エチレンや、ポリフッ化ビニリデン等のフッ素系、天然パラフィン、合成パラフィン等の炭化水素系、ステアリン酸アマイド、オレイン酸アマイド等の脂肪酸アマイド系、脂肪酸の低級アルコール、硬化ひまし油等のエステル系、アセチルアルコール、ステアリルアルコール等のアルコール系、ポリエチレンワックス、ポリプロピレンワックス等のポリオレフィンワックス等を挙げることができる。このうち、エステル系のワックスは、他のものに比べて、皮膜の動摩擦係数がより大きく低下するため、特に好適である。ワックスの添加量は、特に限定はされないが、結合剤となる樹脂(レギュラーポリエステル樹脂、高分子ポリエステル樹脂、あるいはアクリル樹脂)及び硬化剤の合計100質量部に対して、0.5〜15質量部、好ましくは1.0〜10質量部が適当である。0.5質量部未満であると、皮膜の動摩擦係数が0.15超になることがあり、一方、15質量部超であると、塗装時にはじきと呼ばれる塗装欠陥が生じることがあるため、好ましくない。
さらに、皮膜中に必要に応じて、沈殿防止剤や分散剤等の一般に公知の添加剤を添加しても良い。
メタリック着色層の皮膜中には、必要に応じて、着色顔料、体質顔料、無機防錆顔料などを併用して添加することができる。着色顔料としては、酸化チタン(TiO2)、酸化亜鉛(ZnO)、酸化ジルコニウム(ZrO2)、炭酸カルシウム(CaCO3)、硫酸バリウム(BaSO4)、酸化アルミニウム(Al2O3)、カオリンクレー、カーボンブラック、酸化鉄(Fe2O3、Fe3O4)等の無機顔料や、有機顔料等の一般に公知の着色顔料を挙げることができる。体質顔料も一般に公知のものを使用することができる。無機防錆顔料としては、ストロンチウムクロメート、カルシウムクロメート等の一般に公知のクロム系防錆顔料や、ノンクロメート系防錆顔料として、リン酸亜鉛、亜リン酸亜鉛、リン酸アルミニウム、亜リン酸アルミニウム、モリブデン酸、カルシウムシリケート、アルミニウム粉末、亜鉛粉末の他、亜リン酸カリウム、亜リン酸カルシウム、リン酸亜鉛カルシウム、リン酸亜鉛アルミニウム、トリポリリン酸アルミニウム、モリブデン酸亜鉛、リンモリブデン酸亜鉛、リンモリブデン酸アルミニウム、モリブデン酸カルシウム、ハイドロカルマイト等の防錆顔料が代表的なものとして挙げられ、これらは一種または二種以上の混合物として用いられる。ノンクロメート防錆顔料を使用すると、環境負荷が小さくなるため、特に好ましい。
上記無機防錆顔料は、樹脂(レギュラーポリエステル樹脂、高分子ポリエステル樹脂、あるいはアクリル樹脂)及び硬化剤の合計100質量部に対して、5〜80質量部、好ましくは10〜60質量部添加する。5質量部未満では、防錆性が不充分となりやすく、一方、80質量部を超えると、塗料の安定性が悪くなる傾向にあるため、好ましくない。なお、無機防錆顔料の代わりに有機系防錆剤を使用すること、あるいは無機防錆顔料と有機系防錆剤を併用することも可能である。
上述の3層を、ウエット状態で3層目から順次にまたは同時に被覆し、次いで同時に加熱乾燥させる。ここで、加熱は、例えば、熱風オーブン、遠赤外線オーブン、近赤外線オーブン、直火型オーブン、誘導加熱型オーブン等の一般に公知のオーブン内で焼き付けることにより、行うことができる。
上述の3層のさらに下層に、主に防錆性や塗装密着性を目的とするプライマー層を設けても良い。プライマー層の塗料は、主樹脂としてレギュラーポリエステル系あるいは高分子ポリエステル系樹脂、炭化水素系の溶剤、及び硬化剤からなるものである。主樹脂のレギュラーポリエステル系あるいは高分子ポリエステル系樹脂は、プライマー層の上に位置する3層用の材料として先に説明したものと同じでよい。硬化剤としては、例えば、アミノ樹脂またはブロック化ポリイソシアネートなどを使用することができる。
プライマー層の塗料のアミノ樹脂硬化剤としては、例えば、メラミン樹脂、尿素樹脂、ベンゾグアナミン樹脂、スピログアナミン樹脂等を挙げることができるが、メラミン樹脂が好ましく、さらに、メチルエーテル化メラミン樹脂、または、メチルエーテル化メラミン樹脂とブチルエーテル化メラミン樹脂との混合物であることが特に好ましい。上記メチルエーテル化メラミン樹脂と混合して使用するブチルエーテル化メラミン樹脂は、メラミンとホルムアルデヒドとの付加反応生成物(単量体又は多量体)であるメチロール化メラミン樹脂中のメチロール基の一部または全部をn−ブチルアルコールまたはイソブチルアルコールでエーテル化したものである。
上記メチルエーテル化メラミン樹脂としては、例えば、サイメル303、同325、同327、同350、同730、同736、同738(いずれも三井サイテック社製)、メラン522、同523(いずれも日立化成社製)、ニカラックMS001、同MX650(いずれも三和ケミカル社製)、スミマールM−55(住友化学社製)、レジミン740、同747(いずれもモンサント社製)などを挙げることができる。
上記ブチルエーテル化メラミン樹脂としては、例えば、ユーバン20SE、同28SE(いずれも三井化学社製)、スーパーベッカミンJ−820−60、同L−117−60、同L−109−65、同G−821−60、同47−508−60、同L−118−60(いずれも大日本インキ化学工業社製)などを挙げることができる。
上記アミノ樹脂の添加量は、主樹脂100質量部に対して、0.5〜50質量部であることが好ましい。0.5質量部未満の場合には、硬化性が不充分で、塗膜の耐食性、耐溶剤性を満足しないため、好ましくない。一方、50質量部を超える場合には、硬化剤どうしの反応が起こり、充分な成形加工性を発揮できないため、好ましくない。アミノ樹脂のより好ましい添加量は、主樹脂100質量部に対して、10〜30質量部であり、最も好ましくは15〜25質量部である。
メチルエーテル化メラミン樹脂又はこの樹脂と前記他のアミノ樹脂との混合物を使用する場合には、硬化触媒を併用して、硬化反応を促進させることが好ましい。
このような硬化触媒としては、強酸、強酸の中和物などがあり、例えば、p−トルエンスルホン酸、ドデシルベンゼンスルホン酸、ジノニルナフタレンスルホン酸、ジノニルナフタレンジスルホン酸等の強酸であるスルホン酸化合物、これらのスルホン酸化合物のアミン中和物等を挙げることができる。これらのうち、塗料の安定性、反応促進効果、得られる塗膜の物性等の面から、p−トルエンスルホン酸のアミン中和物と、ドデシルベンゼンスルホン酸のアミン中和物とのうちのいずれか一方又は双方を用いることが好ましい。
硬化触媒の使用量は、主成分であるポリエステル樹脂と硬化剤の合計100質量部に対して、酸化合物の量に換算した値として、0.1〜3.0質量部であることが好ましい。
上記ブロック化ポリイソシアネートとしては、ポリイソシアネートの遊離イソシアネート基を、フェノール、クレゾール、芳香族第二アミン、第三級アルコール、ラクタム、オキシム等のブロック剤で、ブロック化させた化合物が好ましい。特に、非黄変性のヘキサメチレンジイソシアネートおよびその誘導体、トリレンジイソシアネートおよびその誘導体、4、4’−ジフェニルメタンジイソシアネートおよびその誘導体、キシリレンジイソシアネートおよびその誘導体、イソホロンジイソシアネートおよびその誘導体、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネートおよびその誘導体等のブロック化ポリイソシアネートが好ましい。
さらに、スミジュール(住友バイエルウレタン社登録商標)、デスモジューズ(住友バイエルウレタン社登録商標)、コロネート(日本ポリウレタン社登録商標)等の市販のイソシアネート化合物も使用できる。
硬化剤として用いるイソシアネート化合物は、イソシアネート化合物のイソシアネート基と主樹脂の水酸基との比(NCO/OH)が0.75〜1.25(質量比)の割合で配合するのがよい。好ましくは0.85〜1.15である。(NCO/OH)の配合比が0.75より小さい場合には、塗膜の硬化が不充分であり、期待される塗膜の硬度および強度が得られにくいため、好ましくない。一方、(NCO/OH)の配合比が1.25より大きい場合には、過剰のイソシアネート基どうし、またはウレタン結合との副反応が生じて、塗膜の加工性が低下する傾向にあるため、好ましくない。
プライマー層の皮膜中には、必要に応じて、着色顔料、体質顔料、無機防錆顔料などを併用して添加することができる。着色顔料としては、酸化チタン(TiO2)、酸化亜鉛(ZnO)、酸化ジルコニウム(ZrO2)、炭酸カルシウム(CaCO3)、硫酸バリウム(BaSO4)、酸化アルミニウム(Al2O3)、カオリンクレー、カーボンブラック、酸化鉄(Fe2O3、Fe3O4)等の無機顔料や、有機顔料等の一般に公知の着色顔料を挙げることができる。体質顔料も一般に公知のものを使用することができる。無機防錆顔料としては、ストロンチウムクロメート、カルシウムクロメート等の一般に公知のクロム系防錆顔料や、ノンクロメート系防錆顔料として、リン酸亜鉛、亜リン酸亜鉛、リン酸アルミニウム、亜リン酸アルミニウム、モリブデン酸、カルシウムシリケート、アルミニウム粉末、亜鉛粉末の他、亜リン酸カリウム、亜リン酸カルシウム、リン酸亜鉛カルシウム、リン酸亜鉛アルミニウム、トリポリリン酸アルミニウム、モリブデン酸亜鉛、リンモリブデン酸亜鉛、リンモリブデン酸アルミニウム、モリブデン酸カルシウム、ハイドロカルマイト等の防錆顔料が代表的なものとして挙げられ、これらは1種または2種以上の混合物として用いられる。ノンクロメート防錆顔料を使用すると、環境負荷が小さくなるため、特に好ましい。
上記無機防錆顔料は、樹脂(及び硬化剤)100質量部に対して、5〜80質量部、好ましくは10〜60質量部添加する。5質量部未満では、防錆性が不充分となりやすく、一方、80質量部を超えると、塗料の安定性が悪くなる傾向にあるため、好ましくない。なお、無機防錆顔料の代わりに有機系防錆剤を使用すること、あるいは無機防錆顔料と有機系防錆剤を併用することも可能である。
有機防錆剤の例としては、金属材の表面を不動態化し、電位を均一にする作用のある導電性ポリアニリン、皮膜と金属材との密着性を強固にする作用のある2−ベンゾチアゾチオコハク酸や、ジフェニルチオカルバゾン、N、N−ジフェニルエチレンジアミン、S−ジフェニルカルバジド、フェノシアゾリン等が代表的なものとして挙げられる。これら有機防錆剤の添加量は、有機樹脂(及び硬化剤)100質量部に対して、0質量部超40質量部以下、好ましくは2質量部以上30質量部以下である。
また、プライマー塗料中には、必要に応じて、沈殿防止剤や分散剤等の一般に公知の添加剤を添加しても良い。
本実施形態に係る多層被覆金属板の基板として用いる金属板は、一般に公知の金属板、例えば、ステンレス鋼板、鋼板、アルミ板、アルミ合金板等であることができる。このうち、金属板が、亜鉛めっき鋼板、アルミめっき鋼板、亜鉛系合金めっき鋼板、錫系合金めっき鋼板のいずれかである場合には、加工部端面の耐食性により効果的であるため、特に好適である。
上記亜鉛めっき鋼板としては、溶融亜鉛めっき鋼板(例えば、新日本製鐵社製「シルバージンク」)や電気亜鉛めっき鋼板(例えば、新日本製鐵社製「ジンコート」)等が挙げられる。また、上記アルミめっき鋼板としては、溶融アルミめっき鋼板(例えば、新日本製鐵社製「アルシート」)等が挙げられる。また、亜鉛系合金めっき鋼板としては、合金化溶融亜鉛めっき鋼板(例えば、新日本製鐵社製「スーパーアロイ」)、5%アルミニウム−亜鉛合金めっき鋼板(例えば、新日本製鐵社製「スーパージンク」)、55%アルミニウム−亜鉛合金めっき鋼板(例えば、新日本製鐵社製「ガルバリウム」)、アルミニウム−マグネシウム−亜鉛合金めっき鋼板(例えば、新日本製鐵社製「スーパーダイマ」や日新製鋼社製「ZAM」)等が挙げられる。錫系合金めっき鋼板としては、亜鉛−錫合金めっき鋼板(例えば、新日本製鐵社製「エココートT」)等が挙げられる。
なお、本実施形態に係る多層被覆金属板には、皮膜層を被覆する前に密着性を上げるために、金属板上に化成処理を施すことが好ましい。化成処理は、一般に公知のもの、例えば、塗布クロメート処理、電解クロメート処理、リン酸処理、ジルコニア系処理を使用することができる。また、近年、6価クロムを含有しないノンクロメート処理も開発されているが、これらのノンクロメート前処理を用いると、環境への負荷が低減されるためより好ましい。化成処理液の塗布方法としては、浸漬塗布、ロールコータ塗装、リンガーロール塗装、刷毛塗り、スプレー塗装、等の一般に公知の塗布方法を用いることができる。さらに、塗布した後は、必要に応じて、強制乾燥や焼付をおこなっても良い。
実施例を用いて本発明をより具体的に説明するが、本発明は、下記実施例にのみ限定されるものではない。
実施例及び比較例に使用した金属板は以下の通りである。
GI:溶融亜鉛めっき鋼板(Zn付着量:片面60g/m2、板厚0.6mm)
EG:電気亜鉛めっき鋼板(Zn付着量:片面20g/m2、板厚0.6mm)
SD:Al−Mg−Zn合金めっき鋼板(複合めっき鋼板(新日本製鐵社製「スーパーダイマ」)、めっき付着量:片面60g/m2、板厚0.8mm)
実施例及び比較例での化成処理は、以下のように行った。
(a)非クロメート処理
日本パーカライジング社製処理剤CT−E300Nを原板表面にバーコートにて塗布し、熱風オーブンで到達板温(PMT)120℃で乾燥させた。付着量は100mg/m2とした。
(b)クロメート処理
日本パーカライジング社製処理剤ZM−1300を原板表面にバーコートにて塗布し、熱風オーブンでPMT120℃で乾燥させた。付着量は30mg/m2とした。
実施例及び比較例でのプライマーは、以下の条件にて塗装した。
(a)非クロメートプライマー
日本ファインコーティングス社製プライマー塗料FLC600(ノンクロメート)を、化成処理を施した原板表面にバーコートにて塗布し、熱風オーブンでPMT215℃で乾燥させた。付着膜厚は5μmとした。
(b)クロメートプライマー
日本ファインコーティングス社製プライマー塗料FLC690を、化成処理を施した原板表面にバーコートにて塗布し、熱風オーブンでPMT215℃で乾燥させた。付着膜厚は5μmとした。
各実施例と比較例で使用した金属板(原板)と、それらに施した化成処理、プライマー塗装の条件を、表1に要約して示す。
実施例及び比較例に使用した塗料(プライマーを除く)は以下の通りである。
塗料1:樹脂系A、メタリックA
塗料2:樹脂系A、メタリックA、黒色顔料(カーボンブラック)
塗料3:樹脂系A、メタリックB
塗料4:樹脂系B、メタリックA
塗料5:樹脂系A
塗料6:樹脂系B
塗料7:樹脂系C
塗料8:樹脂系D
塗料1〜4は、メタリック顔料を添加した塗料である。このうち塗料2は、さらに着色顔料で着色した着色メタリック塗料である。
塗料5〜8は、顔料を添加していないクリア塗料である。
次に、これらの塗料を構成するバインダー及び顔料について説明する。
樹脂系Aは、樹脂Tg5℃、数平均分子量15000の高分子ポリエステル樹脂を主樹脂とし、硬化剤としてメチルエーテル化メラミン樹脂、硬化触媒としてトリエチルアミンブロックのドデシルベンゼンスルホン酸を添加した高加工型塗料である。
樹脂系Bは、樹脂Tg25℃、数平均分子量12000の高分子ポリエステル樹脂を主樹脂とし、硬化剤としてメチルエーテル化メラミン樹脂及びブチルエーテル化メラミン樹脂、硬化触媒としてトリエチルアミンブロックのドデシルベンゼンスルホン酸を添加した中加工型塗料である。
樹脂系Cは、樹脂Tg45℃、数平均分子量4000のレギュラーポリエステル樹脂を主樹脂とし、硬化剤としてブチルエーテル化メラミン樹脂を添加した高硬度型塗料である。
樹脂系Dは、樹脂Tg70℃、数平均分子量17000のアクリル樹脂を主樹脂とし、硬化剤としてメチルエーテル化メラミン樹脂及びブチルエーテル化メラミン樹脂、硬化触媒としてトリエチルアミンブロックのドデシルベンゼンスルホン酸をを添加した高硬度型塗料である。
メタリックAは、平均粒径20μmのノンリーフィングタイプの樹脂コーティングアルミである。
メタリックBは、平均粒径20μmのノンリーフィングタイプの樹脂コーティングアルミであり、コーティング樹脂が耐薬品性向上タイプのものである。
実施例1〜21、及び比較例1〜18については、以上の塗料1〜8を、スライドホッパー型カーテンコータを用いて、表2に示す構成で同時塗布し、熱風併用型の高周波誘導加熱オーブンにて、PMT230℃、焼き付け時間45秒にて加熱・乾燥させた。
実施例22及び比較例19については、各層塗料をそれぞれ単層で順次カーテン塗布することによりウェットオンウェット塗布し、熱風併用型の高周波誘導加熱オーブンにて、PMT230℃、焼き付け時間45秒にて加熱・乾燥させた。
以上の方法にて作製した実施例及び比較例のサンプルについて、以下のような評価を行った。
(1)むらの発生有無
目視にて、塗膜の外観にむらの発生があるかどうかを確認した。
(2)硬度
JIS G 3312の13−2−3に従い、鉛筆硬度を測定した。
(3)加工性
JIS G 3312の13−2−2に準じ、T曲げ加工試験を行った。各サンプルと同一厚さの鋼板を挟んでT曲げを行い、その際に挟む鋼板の枚数を0から順次増やし、目視で亀裂が無く、かつセロハン(登録商標)テープによるテーピングで塗膜の剥離が発生しない限界の加工度(枚数T)により評価した。
(4)ワキ
目視により、ワキの有無を判定した。
これらの評価の結果を表3に示す。
実施例1〜21は、いずれも本発明の条件を満たしているので、むらのない美麗なメタリック外観を有しており、かつ表層に高硬度のクリア樹脂が存在することによる硬度の向上も顕著である。
これらのうち、実施例3は、メタリック着色層の膜厚が薄いため、メタリック感が若干少ない外観となっている。逆に実施例4及び5は、メタリック着色層の膜厚が厚く、同時塗装のトータル膜厚が厚いため、ワキの発生が見られる。メタリック着色層の膜厚だけでなく、中上層の膜厚が厚い場合でもトータル膜厚が厚くなると、実施例8及び12のようにワキの発生が見られる。実施例4、5、8、12のように、むらのない美麗なメタリック外観が得られるものの、膜厚が厚いために、程度の差はあれワキが発生する場合は、塗膜乾燥時の昇温スピードを遅くするなどの措置を講じることにより、むらがなく、かつワキのない多層被覆金属板を得ることが可能である。
実施例9及び10では、表層クリアの膜厚が薄いので硬度が低下する傾向が見られる。逆に、実施例11及び12では、表層クリアの膜厚が厚いので硬度が上昇しているが、加工性は低下傾向にある。
実施例13では、メタリック着色層に着色した塗料2を使用しているが、非着色の塗料1を使用した実施例1と変わることのないパフォーマンスを示している。
実施例14では、メタリック顔料を変更した塗料3を使用しているが、これも実施例1と変わることのないパフォーマンスを示している。
実施例15及び17では、中下層に塗料6を、実施例16及び17では、表層に塗料8を使用しているため、それぞれ比較的硬度が増す一方、加工性が低下する傾向が見られる。
一方、比較例1〜5は、プライマーより上の層については、メタリック着色層単層の塗膜構成となっている。単層構成ゆえに、むらの発生は見られないが、高硬度の表層皮膜が存在しないために硬度が不足しており、また、他の機能を付与することもできない。
比較例6〜10は、バッファ層の無い構成になっている。加工性、硬度、ワキについては、それぞれ対応する実施例1、13、14、15、及び16と同一のパフォーマンスを示しているが、むらが発生してしまっている。
比較例11〜14については、3層同時塗装ではあるが、メタリック顔料が樹脂系Cあるいは樹脂系Dと接触しないという条件を満たしておらず、いずれもむらが発生している。
実施例18〜21及び比較例15〜18を、実施例1及び比較例6と比較すると、本発明は原板の種類、化成処理の種類、プライマー層の有無、プライマー塗料の種類に影響されないことがわかる。
実施例22及び比較例19は、ウェットオンウェットによる塗布の例である。この場合も発生する現象はスライドホッパー型カーテンコーターによる多層同時塗布の場合と同様であり、バッファ層の存在でむらの解消ができている。ただし、各層を単層でカーテン塗布する場合の膜厚には限界があり、単層での膜厚を10μm未満にすることができないため、トータル膜厚が厚くならざるをえない。よって、塗料コストが上がるだけでなく、加工性の低下、ワキの発生なども起こっている。
以上説明したように、多層同時被覆またはウエットオンウエットで形成した3層の塗膜を有する本発明のメタリック意匠の多層被覆金属板においては、メタリック着色層と機能性付与のためのトップクリア層との間に適切なバッファ層が介在している構成とすることで、むらのない美麗なメタリック外観を発現することができる。
以上、本発明の実施形態、実施例について説明したが、本発明はそれらに限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範囲内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。