図1は、本発明が好適に適用される車両用自動変速機(以下、自動変速機と表す)10の構成を説明する骨子図であり、図2は、その自動変速機10において複数の変速段を成立させる際の係合要素の作動を説明する作動表である。この自動変速機10は、車体に取り付けられる非回転部材としてのトランスミッションケース(以下、ケースと表す)26内において、ダブルピニオン型の第1遊星歯車装置12を主体として構成されている第1変速部14と、シングルピニオン型の第2遊星歯車装置16およびダブルピニオン型の第3遊星歯車装置18を主体として構成されている第2変速部20とを共通の軸心上に有し、入力軸22の回転を変速して出力軸24から出力する。入力軸22は入力回転部材に相当するものであり、本実施例では走行用の動力源であるエンジン30によって回転駆動されるトルクコンバータ32のタービン軸である。出力軸24は出力回転部材に相当するものであり、例えば図示しない差動歯車装置(終減速機)や一対の車軸等を順次介して左右の駆動輪を回転駆動する。なお、この自動変速機10はその軸心に対して略対称的に構成されており、図1の骨子図においてはその軸心の下半分が省略されている。
上記第1遊星歯車装置12は、サンギヤS1、互いに噛み合う複数対のピニオンギヤP1、そのピニオンギヤP1を自転および公転可能に支持するキャリヤCA1、ピニオンギヤP1を介してサンギヤS1と噛み合うリングギヤR1を備え、サンギヤS1、キャリアCA1、およびリングギヤR1によって3つの回転要素が構成されている。キャリヤCA1は入力軸22に連結されて回転駆動され、サンギヤS1は回転不能にケース26に一体的に固定されている。リングギヤR1は中間出力部材として機能し、入力軸22に対して減速回転させられて、回転を第2変速部20へ伝達する。本実施例では、入力軸22の回転をそのままの速度で第2変速部20へ伝達する経路が、予め定められた一定の変速比(=1.0)で回転を伝達する第1中間出力経路PA1であり、その第1中間出力経路PA1には、入力軸22から第1遊星歯車装置12を経ることなく第2変速部20へ回転を伝達する直結経路PA1aと、入力軸22から第1遊星歯車装置12のキャリヤCA1を経て第2変速部20へ回転を伝達する間接経路PA1bとがある。また、入力軸22からキャリヤCA1、そのキャリヤCA1に配設されたピニオンギヤP1、およびリングギヤR1を経て第2変速部20へ伝達する経路が、第1中間出力経路PA1よりも大きい変速比(>1.0)で入力軸22の回転を変速(減速)して伝達する第2中間出力経路PA2である。
前記第2遊星歯車装置16は、サンギヤS2、ピニオンギヤP2、そのピニオンギヤP2を自転および公転可能に支持するキャリヤCA2、ピニオンギヤP2を介してサンギヤS2と噛み合うリングギヤR2を備えている。また、前記第3遊星歯車装置18は、サンギヤS3、互いに噛み合う複数対のピニオンギヤP2およびP3、そのピニオンギヤP2およびP3を自転および公転可能に支持するキャリヤCA3、ピニオンギヤP2およびP3を介してサンギヤS3と噛み合うリングギヤR3を備えている。
上記第2遊星歯車装置16および第3遊星歯車装置18では、一部が互いに連結されることによって4つの回転要素RM1〜RM4が構成されている。具体的には、第2遊星歯車装置16のサンギヤS2によって第1回転要素RM1が構成され、第2遊星歯車装置16のキャリヤCA2および第3遊星歯車装置のキャリヤCA3が互いに一体的に連結されて第2回転要素RM2が構成され、第2遊星歯車装置16のリングギヤR2および第3遊星歯車装置18のリングギヤR3が互いに一体的に連結されて第3回転要素RM3が構成され、第3遊星歯車装置18のサンギヤS3によって第4回転要素RM4が構成されている。この第2遊星歯車装置16および第3遊星歯車装置18は、キャリアCA2およびCA3が共通の部材にて構成されているとともに、リングギヤR2およびR3が共通の部材にて構成されており、且つ第2遊星歯車装置16のピニオンギヤP2が第3遊星歯車装置18の第2ピニオンギヤを兼ねているラビニヨ型の遊星歯車列とされている。
前記自動変速機10は、ギヤ比の異なる複数のギヤ段を成立させるための係合要素としてクラッチC1、クラッチC2、クラッチC3、クラッチC4(以下、特に区別しない場合には単にクラッチCという)、ブレーキB1、ブレーキB2(以下、特に区別しない場合には単にブレーキBという)を備えており、上記第1回転要素RM1(サンギヤS2)は、第1ブレーキB1を介してケース26に選択的に連結されて回転停止され、第3クラッチC3を介して中間出力部材である第1遊星歯車装置12のリングギヤR1(すなわち第2中間出力経路PA2)に選択的に連結され、さらに第4クラッチC4を介して第1遊星歯車装置12のキャリヤCA1(すなわち第1中間出力経路PA1の間接経路PA1b)に選択的に連結されている。第2回転要素RM2(キャリヤCA2およびCA3)は、第2ブレーキB2を介してケース26に選択的に連結されて回転停止させられるとともに、第2クラッチC2を介して入力軸22(すなわち第1中間出力経路PA1の直結経路PA1a)に選択的に連結されている。第3回転要素RM3(リングギヤR2およびR3)は、出力軸24に一体的に連結されて回転を出力するようになっている。第4回転要素RM4(サンギヤS3)は、第1クラッチC1を介してリングギヤR1に選択的に連結されている。なお、第2回転要素RM2とケース26との間には、第2回転要素RM2の正回転(入力軸22と同じ回転方向)を許容しつつ逆回転を阻止する一方向クラッチF1が第2ブレーキB2と並列に設けられている。
また、前記自動変速機10のケース26には、入力軸回転速度センサ84、中間回転速度センサ82、および、出力軸回転速度センサ86がそれぞれ設けられており、それぞれ、自動変速機10の入力軸22の回転速度NIN、自動変速機10内の回転要素の1つである前記第2遊星歯車装置16のサンギヤS2の回転速度NS2、および自動変速機10の出力軸24の回転速度NOUTを計測するようになっている。
図2の作動表は、前記自動変速機10において各変速段(ギヤ段)を成立させる際のクラッチC1〜C4、ブレーキB1、B2の作動状態を説明する図表であり、「○」は係合状態を、「(○)」はエンジンブレーキ時のみ係合状態を、空欄は解放状態をそれぞれ表している。第1変速段「1st」を成立させるブレーキB2には並列に一方向クラッチF1が設けられているため、発進時(加速時)には必ずしもブレーキB2を係合させる必要は無い。また、各変速段の変速比は、第1遊星歯車装置12、第2遊星歯車装置16、および第3遊星歯車装置18の各ギヤ比ρ1、ρ2、ρ3によって適宜定められる。
図3は、前記第1変速部14および第2変速部20の各回転要素の回転速度を直線で表すことができる共線図であり、下の横線が回転速度「0」を示し、上の横線が回転速度「1.0」すなわち入力軸22と同じ回転速度を示している。また、第1変速部14の各縦線は、左側から順番にサンギヤS1、リングギヤR1、キャリヤCA1を表しており、それ等の間隔は第1遊星歯車装置12のギヤ比ρ1(=サンギヤS1の歯数/リングギヤR1の歯数)に応じて定められる。第2変速部20の4本の縦線は、左側から右端へ向かって順番に第1回転要素RM1(サンギヤS2)、第2回転要素RM2(キャリヤCA2およびキャリヤCA3)、第3回転要素RM3(リングギヤR2およびリングギヤR3)、第4回転要素RM4(サンギヤS3)を表しており、それ等の間隔は第2遊星歯車装置16のギヤ比ρ2および第3遊星歯車装置18のギヤ比ρ3に応じて定められる。
前述した図2及び図3に示すように、第1クラッチC1および第2ブレーキB2が係合させられて、第4回転要素RM4が第1変速部14を介して入力軸22に対して減速回転させられるとともに、第2回転要素RM2が回転停止させられると、出力軸24に連結された第3回転要素RM3は「1st」で示す回転速度で回転させられ、最も大きい変速比(=入力軸22の回転速度/出力軸24の回転速度)の第1変速段「1st」が成立させられる。
また、第1クラッチC1および第1ブレーキB1が係合させられて、第4回転要素RM4が第1変速部14を介して入力軸22に対して減速回転させられるとともに、第1回転要素RM1が回転停止させられると、第3回転要素RM3は「2nd」で示す回転速度で回転させられ、第1変速段「1st」よりも変速比が小さい第2変速段「2nd」が成立させられる。
また、第1クラッチC1および第3クラッチC3が係合させられて、第4回転要素RM4および第1回転要素RM1が第1変速部14を介して入力軸22に対して減速回転させられて第2変速部20が一体回転させられると、第3回転要素RM3は「3rd」で示す回転速度で回転させられ、第2変速段「2nd」よりも変速比が小さい第3変速段「3rd」が成立させられる。
また、第1クラッチC1および第4クラッチC4が係合させられて、第4回転要素RM4が第1変速部14を介して入力軸22に対して減速回転させられるとともに、第1回転要素RM1が入力軸22と一体回転させられると、第3回転要素RM3は「4th」で示す回転速度で回転させられ、第3変速段「3rd」よりも変速比が小さい第4変速段「4th」が成立させられる。
また、第1クラッチC1および第2クラッチC2が係合させられて、第4回転要素RM4が第1変速部14を介して入力軸22に対して減速回転させられるとともに、第2回転要素RM2が入力軸22と一体回転させられると、第3回転要素RM3は「5th」で示す回転速度で回転させられ、第4変速段「4th」よりも変速比が小さい第5変速段「5th」が成立させられる。
また、第2クラッチC2および第4クラッチC4が係合させられて、第2変速部20が入力軸22と一体回転させられると、第3回転要素RM3は「6th」で示す回転速度すなわち入力軸22と同じ回転速度で回転させられ、第5変速段「5th」よりも変速比が小さい第6変速段「6th」が成立させられる。この第6変速段「6th」の変速比は1である。
また、第2クラッチC2および第3クラッチC3が係合させられて、第1回転要素RM1が第1変速部14を介して入力軸22に対して減速回転させられるとともに、第2回転要素RM2が入力軸22と一体回転させられると、第3回転要素RM3は「7th」で示す回転速度で回転させられ、第6変速段「6th」よりも変速比が小さい第7変速段「7th」が成立させられる。
また、第2クラッチC2および第1ブレーキB1が係合させられて、第2回転要素RM2が入力軸22と一体回転させられるとともに、第1回転要素RM1が回転停止させられると、第3回転要素RM3は「8th」で示す回転速度で回転させられ、第7変速段「7th」よりも変速比が小さい第8変速段「8th」が成立させられる。
また、第3クラッチC3および第2ブレーキB2が係合させられると、第1回転要素RM1が第1変速部14を介して減速回転させられるとともに、第2回転要素RM2が回転停止させられて、第3回転要素RM3は「Rev1」で示す回転速度で逆回転させられ、逆回転方向で変速比が最も大きい第1後進変速段「Rev1」が成立させられる。また、第4クラッチC4および第2ブレーキB2が係合させられると、第1回転要素RM1が入力軸22と一体回転させられるとともに、第2回転要素RM2が回転停止させられ、第3回転要素RM3は「Rev2」で示す回転速度で逆回転させられ、第1後進変速段「Rev1」よりも変速比が小さい第2後進変速段「Rev2」が成立させられる。第1後進変速段「Rev1」、第2後進変速段「Rev2」は、それぞれ逆回転方向の第1変速段、第2変速段に相当する。
このように本実施例の自動変速機10は、複数の係合要素すなわちクラッチC1〜C4、ブレーキB1、B2を選択的に係合させることによりギヤ比の異なる複数のギヤ段を成立させるものであり、変速比が異なる2つの中間出力経路PA1、PA2を有する第1変速部14および2組の遊星歯車装置16、18を有する第2変速部20により、4つのクラッチC1〜C4および2つのブレーキB1、B2の係合切換えで前進8速の変速ギヤ段が達成されるため、小型に構成され、車両への搭載性が向上する。また、図2の作動表から明らかなように、クラッチC1〜C4およびブレーキB1、B2の何れか2つを掴み替える所謂クラッチツウクラッチにより各変速段の変速を行うことができる。また、上記クラッチC1〜C4、およびブレーキB1、B2(以下、特に区別しない場合は単にクラッチC、ブレーキBと表す)は、多板式のクラッチやブレーキなど油圧アクチュエータによって係合制御される油圧式摩擦係合装置である。
図4は、図1の自動変速機10などを制御するために車両に設けられた制御系統の要部を説明するブロック線図である。この図4に示す電子制御装置90は、CPU、RAM、ROM、入出力インターフェース等を備えた所謂マイクロコンピュータを含んで構成されており、RAMの一時記憶機能を利用しつつ予めROMに記憶されたプログラムに従って信号処理を行うことにより、前記エンジン30の出力制御や自動変速機10の変速制御等を実行するようになっており、必要に応じてエンジン制御用や変速制御用等に分けて構成される。
図4において、アクセルペダル50の操作量Accがアクセル操作量センサ52により検出されるとともに、そのアクセル操作量Accを表す信号が電子制御装置90に供給されるようになっている。このアクセルペダル50は、運転者の出力要求量に応じて大きく踏み込み操作されるものであることからアクセル操作部材に相当し、アクセル操作量Accは出力要求量に相当する。また、常用ブレーキであるフットブレーキのブレーキペダル54の操作の踏込量θSCを表す信号が電子制御装置90に供給されるようになっている。このブレーキペダル54は、運転者の減速要求量に応じて大きく踏み込み操作されるものであることからブレーキ操作部材に相当し、その踏込量θSCはブレーキ操作量に相当する。
また、エンジン30の回転速度NEを検出するためのエンジン回転速度センサ58、エンジン30の吸入空気量Qを検出するための吸入空気量センサ60、吸入空気の温度TAを検出するための吸入空気温度センサ62、エンジン30の電子スロットル弁の全閉状態(アイドル状態)およびその開度θTHを検出するためのアイドルスイッチ付スロットル弁開度センサ64、車速V(出力軸24の回転速度NOUTに対応)を検出するための車速センサ66、エンジン30の冷却水温TWを検出するための冷却水温センサ68、ブレーキペダル54の操作の有無乃至は踏込量θSCを検出するためのブレーキセンサ70、シフトレバー72のレバーポジション(操作位置)PSHを検出するためのレバーポジションセンサ74、タービン回転速度NT(=入力軸22の回転速度NIN)を検出するためのタービン回転速度センサ76、油圧制御回路98内の作動油の温度であるAT油温TOILを検出するためのAT油温センサ78、車両の加速度(減速度)Gを検出するための加速度センサ80などが設けられており、それらのセンサやスイッチなどから、エンジン回転速度NE、吸入空気量Q、吸入空気温度TA、スロットル弁開度θTH、車速V、エンジン冷却水温TW、ブレーキ操作の有無乃至は踏込量θSC、シフトレバー72のレバーポジションPSH、タービン回転速度NT、AT油温TOIL、車両の加速度(減速度)Gなどを表す信号が電子制御装置90に供給されるようになっている。
さらに、自動変速機10の入力軸22の回転速度NINを検出するための入力軸回転速度センサ84、自動変速機10内の回転要素の1つである前記第2遊星歯車装置16のサンギヤS2の回転速度NS2を検出するための中間回転速度センサ82、および自動変速機10の出力軸24の回転速度NOUTを検出するための出力軸回転速度センサ86から、それぞれ、入力軸回転速度NIN、サンギヤS2の回転速度NS2、出力軸回転速度NOUTを表す信号が電子制御装置90に供給されるようになっている。
上記シフトレバー72は例えば運転席の近傍に配設され、図5に示すように、5つのレバーポジション「P」、「R」、「N」、「D」、または「S」へ手動操作されるようになっている。「P」ポジションは自動変速機10内の動力伝達経路を解放し且つメカニカルパーキング機構によって機械的に出力軸24の回転を阻止(ロック)するための駐車位置であり、「R」ポジションは自動変速機10の出力軸24の回転方向を逆回転とするための後進走行位置であり、「N」ポジションは自動変速機10内の動力伝達経路を解放するための動力伝達遮断位置であり、「D」ポジションは自動変速機10の第1速乃至第8速の変速を許容する変速範囲(Dレンジ)で自動変速制御を実行させる前進走行位置であり、「S」ポジションは変速可能な高速側の変速段が異なる複数の変速レンジ或いは異なる複数の変速段を切り換えることにより手動変速が可能な前進走行位置である。この「S」ポジションにおいては、シフトレバー72の操作毎に変速範囲或いは変速段をアップ側にシフトさせるための「+」ポジション、シフトレバー72の操作毎に変速範囲或いは変速段をダウン側にシフトさせるための「−」ポジションが備えられている。前記レバーポジションセンサ74はシフトレバー72がどのレバーポジション(操作位置)PSHに位置しているかを検出する。
また、前記油圧制御回路98には、例えば上記シフトレバー72にケーブルやリンクなどを介して連結されたマニュアルバルブが備えられ、シフトレバー72の操作に伴ってそのマニュアルバルブが機械的に作動させられることにより油圧制御回路98内の油圧回路が切り換えられる。例えば、「D」ポジションおよび「S」ポジションでは前進油圧PDが出力されて前進用回路が機械的に成立させられ、前進変速段である第1変速段「1st」〜第8変速段「8th」で変速しながら前進走行することが可能となる。電子制御装置90は、シフトレバー72が「D」ポジションへ操作された場合は、そのことをレバーポジションセンサ74の信号から判断して自動変速モードを成立させ、第1変速段「1st」〜第8変速段「8th」の総ての前進変速段を用いて変速制御を行う。
上記電子制御装置90は、例えば図6に示すような車速Vおよびアクセル操作量Accをパラメータとして予め記憶された関係(マップ、変速線図)から実際の車速Vおよびアクセル操作量Accに基づいて変速判断を行い、その判断した変速段が得られるように変速制御を行う変速制御手段100(図8参照)を機能的に備えており、例えば車速Vが低くなったりアクセル操作量Accが大きくなったりするに従って変速比が大きい低速側の変速段が成立させられる。この変速制御においては、その変速判断された変速段が成立させられるように変速用の油圧制御回路98内のリニアソレノイドバルブSL1〜SL6の励磁、非励磁や電流制御が実行されてクラッチCやブレーキBの係合、解放状態が切り換えられるとともに変速過程の過渡油圧などが制御される。すなわち、前記リニアソレノイドバルブSL1〜SL6の励磁、非励磁をそれぞれ制御することによりクラッチCおよびブレーキBの係合、解放状態を切り換えて第1変速段「1st」〜第8変速段「8th」の何れかの前進変速段を成立させる。なお、スロットル弁開度θTHや吸入空気量Q、路面勾配などに基づいて変速制御を行うなど、種々の態様が可能である。
上記図6の変速線図において、実線はアップシフトが判断されるための変速線(アップシフト線)であり、破線はダウンシフトが判断されるための変速線(ダウンシフト線)である。また、この図6の変速線図における変速線は、実際のアクセル操作量Acc(%)を示す横線上において実際の車速Vが線を横切ったか否かすなわち変速線上の変速を実行すべき値(変速点車速)VSを越えたか否かを判断するためのものであり、上記値VSすなわち変速点車速の連なりとして予め記憶されていることにもなる。なお、図6の変速線図は自動変速機10で変速が実行される第1変速段乃至第8変速段のうちで第1変速段乃至第6変速段における変速線が例示されている。
図7は、油圧制御回路98のうちリニアソレノイドバルブSL1〜SL6に関する部分を示す回路図で、クラッチC1〜C4、およびブレーキB1、B2の各油圧アクチュエータ(油圧シリンダ)34、36、38、40、42、44には、油圧供給装置46から出力されたライン油圧PLがそれぞれリニアソレノイドバルブSL1〜SL6により調圧されて供給されるようになっている。油圧供給装置46は、前記エンジン30によって回転駆動される機械式のオイルポンプ48(図1参照)や、ライン油圧PLを調圧するレギュレータバルブ等を備えており、エンジン負荷等に応じてライン油圧PLを制御するようになっている。リニアソレノイドバルブSL1〜SL6は、基本的には何れも同じ構成で、電子制御装置90(図4参照)により独立に励磁、非励磁され、各油圧アクチュエータ34〜44の油圧が独立に調圧制御されるようになっている。そして、自動変速機10の変速制御においては、例えば変速に関与するクラッチCやブレーキBの解放と係合とが同時に制御される所謂クラッチツウクラッチ変速が実行される。例えば、図2の係合作動表に示すように5速→4速のダウンシフトでは、クラッチC2が解放されると共にクラッチC4が係合され、変速ショックを抑制するようにクラッチC2の解放過渡油圧とクラッチC4の係合過渡油圧とが適切に制御される。
図8は、前記電子制御装置90の制御機能の要部、すなわち、2要素解放2要素係合変速に際しての制御作動を説明する機能ブロック線図である。図8において、変速制御手段100は、変速判定手段102および変速実行手段104を備えており、変速判定手段102は、例えば図6に示すように予め記憶された変速線図から実際の車速Vおよびアクセル操作量Accに基づいて変速判断を実行し、変速実行手段104は、変速判定手段102により判断された変速を実行させるための変速出力を油圧制御回路98に対して行うことにより、自動変速機10のギヤ段を自動的に切り換える。例えば、自動変速機10の変速段が第3変速段とされているときの惰性走行時において、変速制御手段100は実際の車速がアクセル操作量Accが零における第3速段から第2速段へのダウンシフトを実行すべき変速点車速V3-2 を超えたと判断したときには、クラッチC3を解放開始させ、その係合トルクがある程度維持されているときにブレーキB1の係合とを完了させる指令を油圧制御回路98に出力する。
また、前記変速制御手段100は、2要素解放2要素係合変速実行手段108を含んでいる。この2要素解放2要素係合変速実行手段108は、前記変速判定手段102が判定した変速が、例えばとび変速のような自動変速機10を構成する2つの係合要素の解放と2つの係合要素の係合を必要とする2要素解放2要素係合変速(2重掴み替え変速)であった場合に、前記変速実行手段104に代えて実行されるものである。2要素解放2要素係合変速実行手段108は、前記2要素解放2要素係合変速を行うための変速出力を油圧制御回路98に対して行うことにより、自動変速機10のギヤ段を切り換え、変速判定手段102により判断された変速を実行させる。
本実施例の自動変速機10においては、図2の係合表を参照すると、前記2要素解放2要素係合変速に該当する変速は、たとえば次のものが該当する。すなわち、クラッチC2およびブレーキB1を解放し、クラッチC4およびクラッチC1を係合する第8速段から第4速段へのとび変速、クラッチC2およびブレーキB1を解放し、クラッチC3およびクラッチC1を係合する第8速段から第3速段へのとび変速、クラッチC2およびクラッチC3を解放し、クラッチC4およびクラッチC1を係合する第7速段から第4速段へのとび変速、クラッチC2およびクラッチC3を解放し、ブレーキB1およびクラッチC1を係合する第7速段から第2速段へのとび変速、クラッチC2およびクラッチC4を解放し、クラッチC3およびクラッチC1を係合する第6速段から第3速段へのとび変速、クラッチC2およびクラッチC4と解放し、ブレーキB1およびクラッチC1を係合する第6速段から第2速段へのとび変速である。前記変速判定手段102が判断した変速がこれらの2要素解放2要素係合変速のいずれかに該当する場合には、自動変速機10の変速の実行は、変速実行手段104に代えて2要素解放2要素係合変速実行手段108によってなされるのである。
2要素解放2要素係合変速実行手段108は、第1係合要素係合手段112、第2係合要素係合手段114、第1解放要素解放手段116、第2解放要素解放手段118、変速進行度算出手段124、すべり量算出手段120、状態判定手段122、解放・係合要素決定手段110、および、アクセルオフ時変速制御手段126からなる。なお、本明細書においては、解放要素とは、自動変速機に設けられた係合要素であって、変速において解放されるものを意味するものとして用いられる。
解放・係合要素決定手段110は、2要素解放2要素係合変速が実行される場合において、解放される2つの解放要素のうち、いずれか一方を第1解放要素に、他方を第2解放要素に決定し、また、係合される2つの係合要素のうち、いずれか一方を第1係合要素に、他方を第2係合要素に決定する。このとき、第1解放要素と第2解放要素の決定においては、例えば、次のように決定される。すなわち、本実施例において2要素解放2要素係合変速となる変速は上述の通りであるが、このとき、解放要素となるのは、クラッチC3、クラッチC4またはブレーキB1のいずれか1つと、クラッチC2の2つである。このとき、クラッチC3、クラッチC4またはブレーキB1が第1解放要素とされれば、内部イナーシャが少なくなり、その結果変速ショックを緩和することができる。そのため、変速ショックを緩和するとの目的のもとでは、クラッチC3、クラッチC4またはブレーキB1が第1解放要素とされ、他方のクラッチC2が第2解放要素とされる。また、第1係合要素と第2係合要素の決定においては、例えば、次のように決定される。すなわち、係合要素となるのは、クラッチC3、クラッチC4またはブレーキB1のいずれか1つと、クラッチC1の2つである。このとき、クラッチC3、クラッチC4またはブレーキB1が第1係合要素とされれば、内部イナーシャが少なくなり、その結果変速ショックを緩和することができる。そのため、変速ショックを緩和するとの目的のもとでは、解放要素の場合と同様に、クラッチC3、クラッチC4またはブレーキB1が第1係合要素とされ、他方のクラッチC1が第2係合要素とされる。
すべり量算出手段120は、変速実行中に、自動変速機10に設けられたセンサ等から得られた自動変速機10の状態に関する値をもとに、各解放要素および係合要素のすべり量を算出し、各要素における係合状態を判定する。具体的には、まず、すべり量算出手段120は、自動変速機10に設けられた入力軸回転速度センサ84によって前記入力軸22の回転速度NINを、出力軸回転速度センサ86によって前記出力軸24の回転速度NOUTを、中間回転速度センサ82によって前記第2遊星歯車装置16のサンギヤS2の回転速度NS2をそれぞれ検出し、それらNIN、NOUT、NS2の値を用いて、前記第1遊星歯車装置12のリングギヤR1の回転速度NR1、前記第2遊星歯車装置16のキャリアCA2(前記第3遊星歯車装置18のキャリアCA3と共通の部材である)の回転速度NCA2、および前記第3遊星歯車装置18のサンギヤS3の回転速度NS3の回転速度を算出する。ここで、リングギヤR1の回転速度NR1、キャリアCA2の回転速度NCA2、および、サンギヤS3の回転速度NS3は、前記自動変速機10の入力軸回転速度NIN、出力軸回転速度NOUT、および、サンギヤS2の回転速度NS2を用いて、次式(1)〜(3)の様に表される。
NR1=c1×NIN ・・・(1)
NCA2=c2×NOUT+c3×NS2 ・・・(2)
NS3=c4×NOUT−c5×NS2 ・・・(3)
ここで、c1〜c5は、自動変速機10を構成する第1遊星歯車装置12、第2遊星歯車装置16および第3遊星歯車装置18に備えられる各サンギヤS1〜S3、ピニオンギヤP1〜P3、およびリングギヤR1〜R3の歯数などによって定まる定数である。
つづいて、すべり量算出手段120は、算出されたリングギヤR1の回転速度NR1、キャリアCA2の回転速度NCA2、および、サンギヤS3の回転速度NS3から、自動変速機10の各係合要素である、クラッチC1、クラッチC2、クラッチC3、クラッチC4、およびブレーキB1のすべり量であるNslpC1、NslpC2、NslpC3、NslpB1をそれぞれ算出する。これらは、次式(4)〜(8)の式により算出される。
NslpC1=NS3−NR1 ・・・(4)
NslpC2=NCA2−NIN ・・・(5)
NslpC3=NS2−NR1 ・・・(6)
NslpC4=NS2−NIN ・・・(7)
NslpB1=NS2 ・・・(8)
状態判定手段122は、前記すべり量算出手段120により算出された、自動変速機10の各係合要素であるクラッチC1、クラッチC2、クラッチC3、クラッチC4、およびブレーキB1のすべり量NslpC1、NslpC2、NslpC3、NslpB1をもとに、これらの各係合要素が係合状態にあるか否かを判定する。具体的には、例えば、各係合要素ごとにすべり量のしきい値を予め設けておき、すべり量算出手段120によって求められた実際のすべり量が前記しきい値を超えていれば、その係合要素は係合状態にない、すなわち、半係合状態もしくは解放状態にあると判断する。
変速進行度算出手段124は、前記変速出力以後に実行される一連の変速作動において、予め定められた度合だけ進行したか、すなわち、所定の進行度に達したかを算出する。具体的には、例えば、トルクコンバータ32のタービンの回転速度NTが、変速指令時、すなわち変速開始直前に測定されたNTbから、変速完了時、すなわち同期直後のトルクコンバータ32のタービンの回転速度の予測値であるNTaと前記NTbとの差(NTa−NTb)の一定割合(たとえば60%)だけ増加した値(NTb+(NTa−NTb)×0.6)を上回ったか否かによって、変速が所定の度合いだけ進行したかを判断する。
第1解放要素解放手段116、および第2解放要素解放手段118は、前記解放・係合要素決定手段110によって決定された第1解放要素、および第2解放要素のそれぞれについて、後述する図9のフローチャートおよび図10のタイムチャートに示す順序およびタイミングによって係合状態を解除すべく、前記油圧制御回路98に供給される油圧を指示する。
第1係合要素係合手段112、および第2係合要素係合手段114は、前記解放・係合要素決定手段110によって決定された第1係合要素、および第2係合要素のそれぞれについて、後述する図9のフローチャートおよび図10のタイムチャートに示す順序およびタイミングによって係合状態を実行すべく、前記油圧制御回路98に供給される油圧を指示する。
アクセルオフ時変速制御手段126は、変速実行中において、アクセル操作量センサ52によって検出されるアクセル操作量Accにより、運転者によるアクセル操作がオフにされた場合に実行されるものであって、前記第1解放要素解放手段116、前記第2解放要素解放手段118、前記第1係合要素係合手段112、および前記第2係合要素係合手段114の実行順序等を後述する図11に示すフローチャートに示すように変更する。これは、変速実行中に運転者によるアクセル操作がオフにされると、自動変速機10の各係合要素の係合状態が正しく判定できないためである。
次に、前記電子制御装置70の制御作動の要部、すなわち2要素解放2要素係合変速の変速実行中の作動を、図9のフローチャートを参照しつつ具体的に説明する。この図9のフローチャートは、前記2要素解放2要素係合変速実行手段108に対応するものであり、上述のように、前記変速判定手段102により、実行使用とする変速が2要素解放2要素係合変速である判定された場合に、本フローチャートが実行される。また、図10は、図9のフローチャートに従って電子制御装置70が作動した場合における、自動変速機10の各係合要素に供給される油圧の時間変化を表したタイムチャートである。なお、図10において、縦軸は油圧の変化を表すものであるが、便宜上同一の軸に記載したものであって、各係合要素の油圧ごと相対的なの大きさを示すものではない。
まず、前記解放・係合要素決定手段110に対応する図9のステップ(以下「ステップ」を省略する。)SA1においては、2要素解放2要素係合変速において、何れの解放要素を第1解放要素とし、また、何れの係合要素を第1係合要素とするかが決定される。このとき、上述のように、例えば変速ショックを緩和する目的のもとでは、クラッチC3、クラッチC4、ブレーキB1のいずれかであって解放するものが第1解放要素、クラッチC2が第2解放要素、クラッチC3、クラッチC4、ブレーキB1のいずれかであって係合するものが第1係合要素、クラッチC1が第2係合要素と決定される。たとえば、第8速段から第4速段への変速がおこなわれる場合には、第1解放要素がブレーキB1、第2解放要素がクラッチC2、第1係合要素がクラッチC4、第2係合要素がクラッチC1となる。以下、この第8速段から第4速段への変速の場合を例にとって説明する。
続く第2解放要素解放手段118に対応するSA2においては、第2解放要素であるクラッチC2の解放が開始される。すなわち、クラッチC2の係合圧PC2が所定の圧力まで低下させられる(図10の時刻t1〜t2)。このとき、第1解放要素であるブレーキB1の係合圧PB1についても、後述するS4において解放される際に、可及的速やかに解放できるよう、あわせて予め定められた所定圧PB1’まで低下させられる。この所定圧とは、例えば、第1解放要素がすべることがないように求められた圧力であって、次の式(9)のように表される。
PB1’=k1×PC2+α1 ・・・(9)
ここで、PC2は前記クラッチC2の係合圧であり、k1は予め実験的に定められた係数、α1は補正のために設けられる補正項である。なお、第1解放要素がブレーキB1以外のクラッチC3、クラッチC4の場合であっても、同様にして、クラッチC2が所定の圧力まで低下させられる場合に、それらの係合圧PC3、PC4が次式(10)、(11)の様に表される所定圧PC3’、PC4’まで低下させられる。
PC3’=k2×PC2+α2 ・・・(10)
PC4’=k3×PC2+α3 ・・・(11)
すべり量算出手段120および状態判定手段122に対応するSA3においては、SA2によって第2解放要素であるクラッチC2がすべり出したか否かが判断される。すなわち、入力軸回転速度センサ84、中間回転速度センサ82および出力軸回転速度センサ86によって検出された入力軸22の回転速度NIN、第2遊星歯車装置16のサンギヤS2の回転速度NS2および出力軸24の回転速度NOUTと、上述の式(1)〜(3)とにもとづいて、第1遊星歯車装置12のリングギヤR1の回転速度NR1、第2遊星歯車装置16のキャリアCA2の回転速度NCA2、第3遊星歯車装置18のサンギヤS3の回転速度NS3が算出され、これらの値と上述の式(5)とからクラッチC2のすべり量NslpC2が算出される。そして、算出されたクラッチC2のすべり量NslpC2が予め定められたしきい値を超えているか否かが判定される。その結果、クラッチC2のすべり量NslpC2が前記しきい値を超えている場合にはクラッチC2はすべり出しているとして、本判断が肯定され、続くSA4に進む。一方、しきい値を超えていない場合には、まだ係合状態が続いているとして本判断は否定され、本ステップを繰り返し実行することにより、本判断が肯定されるのを待機する。図10のタイムチャートにおいては、時刻t2までの間はSA3の判断が否定され、本ステップが繰り返し実行され、時刻t2において、SA3の判断が肯定され、続くSA4が実行される。
第1解放要素解放手段116に対応するSA4においては、第1解放要素であるブレーキB1が解放される。すなわち、ブレーキB1の係合圧PB1の値が、先に実行されたSA2においてPB1’とされていたが、その値から徐々に低い値に下げられる。
すべり量算出手段120および状態判定手段122に対応するSA5においては、SA4によって第1解放要素であるブレーキB1の解放が終了したかが判断される。すなわち、上述のSA3と同様に、入力軸回転速度センサ84、中間回転速度センサ82および出力軸回転速度センサ86によって検出された入力軸22の回転速度NIN、第2遊星歯車装置16のサンギヤS2の回転速度NS2および出力軸24の回転速度NOUTと、上述の式(1)〜(3)とにもとづいて、第1遊星歯車装置12のリングギヤR1の回転速度NR1、第2遊星歯車装置16のキャリアCA2の回転速度NCA2、第3遊星歯車装置18のサンギヤS3の回転速度NS3が算出され、これらの値と上述の式(8)とからブレーキB1のすべり量NslpB1が算出される。そして、算出されたブレーキB1のすべり量NslpB1が,予め定められたしきい値を超えているか否かが判定される。その結果、ブレーキB1のすべり量NslpB1が前記しきい値を超えている場合にはブレーキB1は完全に解放状態にあるとして、本判断が肯定され、続くSA6に進む。一方、しきい値を超えていない場合には、まだ半係合状態が続いているとして本判断は否定され、本ステップを繰り返し実行することにより、本判断が肯定されるのを待機する。図10のタイムチャートにおいては、時刻t2からt3までの間はSA5の判断が否定され、本ステップが繰り返し実行され、時刻t3において、SA5の判断が肯定され、続くSA6が実行される。
第1係合要素係合手段112に対応するSA6においては、第1係合要素であるクラッチC4が係合される。すなわち、クラッチC4の係合圧PC4の値が、徐々に上昇させられて、クラッチC4が係合状態とされる。
すべり量算出手段120および状態判定手段122に対応するSA7においては、SA6によって第1係合要素であるクラッチC4の係合が終了したかが判断される。すなわち、上述のSA3と同様に、入力軸回転速度センサ84、中間回転速度センサ82および出力軸回転速度センサ86によって検出された入力軸22の回転速度NIN、第2遊星歯車装置16のサンギヤS2の回転速度NS2および出力軸24の回転速度NOUTと、上述の式(1)〜(3)とにもとづいて、第1遊星歯車装置12のリングギヤR1の回転速度NR1、第2遊星歯車装置16のキャリアCA2の回転速度NCA2、第3遊星歯車装置18のサンギヤS3の回転速度NS3が算出され、これらの値と上述の式(7)とからクラッチC4のすべり量NslpC4が算出される。そして、算出されたクラッチC4のすべり量NslpC4が,予め定められたしきい値を下回っているか否かが判定される。その結果、クラッチC4のすべり量NslpC4が前記しきい値を下回っている場合にはクラッチC4は係合状態にあるとして、本判断が肯定され、続くSA8に進む。一方、しきい値を超えていない場合には、まだ完全に係合状態となっていない、すなわち、解放状態もしくは半係合状態にあるとして本判断は否定され、本ステップを繰り返し実行することにより、本判断が肯定されるのを待機する。図10のタイムチャートにおいては、時刻t3からt4までの間はSA7の判断が否定され、本ステップが繰り返し実行され、時刻t4において、SA7の判断が肯定され、続くSA8が実行される。
変速進行度検出手段124に対応するSA8においては、一連の変速作動において、予め定められた度合だけ進行したか、すなわち、所定の進行度に達したかが判断される。具体的には、例えば、トルクコンバータ32のタービンの回転速度NTが、変速指令時、すなわち変速開始直前に測定されたNTbから、変速完了時、すなわち同期直後のトルクコンバータ32のタービンの回転速度の予測値であるNTaと前記NTbとの差(NTa−NTb)の一定割合(たとえば6 0%)だけ増加した値である判断値NTd(=NTb+(NTa−NTb)×0.6)を上回ったか否かによって、変速が所定の度合いだけ進行したかを判断する。そして、上記判断が肯定された場合、すなわちタービン回転速度NTが判断値NTdを上回った場合には、続くSA9およびSA10が実行される。一方、上記判断が否定された場合、すなわち、タービン回転速度NTが判断値NTdを下回った場合には、本ステップが繰り返し実行されることにより、本ステップが肯定されるのが待機される。図10のタイムチャートにおいては、時刻t4からt5までの間はSA8の判断が否定され、本ステップが繰り返し実行され、時刻t5においてSA8の判断が肯定され、続くSA9が実行される。
第2解放要素解放手段118に対応するSA9においては、SA8の判断が肯定されたことを受けて、SA2において半係合状態とされた第2解放要素であるクラッチC2が完全に解放状態とされる。また、第2係合要素係合手段114に対応するSA10は、SA8の判断が肯定されたことを受けて、第2係合要素であるクラッチC1の係合を実行する。SA9における第2解放要素であるクラッチC2の解放および、SA10における第2係合要素であるクラッチC1の係合は、例えば本実施例の自動変速機10における第6速段から第4速段への変速時においても行われるクラッチC2からクラッチC1への掴み替えである、いわゆるクラッチツウクラッチ制御と同様の手順およびタイミングによって行うことが可能である。
図11に示すフローチャートは、前記2要素解放2要素係合変速実行手段108のうち、アクセルオフ時変速制御手段126に対応するものである。図11に示すフローチャートは、図9に示すフローチャートの実行中、例えば、SA1の実行後からSA9の実行後までにおいて、所定の周期ごとに割り込みにより繰り返し実行される。
SB1においては、変速中において、運転者によりアクセルペダル50から足が離されるなど、アクセルオフ操作が行われたか否かがアクセル操作量センサ52からの信号Accに基づいて判断される。そして、本判断が肯定された場合、すなわちアクセルオフ操作があったと判断された場合には、続くSB2以降のアクセルオフ時変速制御が実行される。一方、本判断が肯定された場合は、図9のフローチャートに戻ってその続きが実行される。
SB2においては、図9のフローチャートの何れを実行しているときに、本フローチャートの割り込みが行われたかが判断され、次に何れのステップが実行されるかが選択される。すなわち、一連の変速作動において、何れの時点でアクセルオフが判断されたかによって、前記一連の変速作動がどの程度実行されていたかが異なるため、これに応じて、本フローチャートが実行されるためである。具体的には、図9のSA2実行後からSA3実行後までに本フローチャートによる割り込みが行われた場合にはSB3以降が実行され、SA4の実行中からSA5の実行中までに本フローチャートによる割り込みが行われた場合にはSB4以降が実行され、以下同様に、SA5の実行直後であればSB6以降が、SA6の実行中からSA8の実行後までであればSB7以降が、SA9実行中からSA9実行後までであればSB8以降が実行される。
SB3においては、第1解放要素であるブレーキB1の解放が実行される。具体的にはブレーキB1の係合圧であるPB1が徐々に低下させられる。そして、SB4において、所定値を下回ったことが判断され、かつSB5において、前記所定値を下回った状態が所定時間経過したことが判断される。ここで、前記所定値および所定時間とは、ブレーキB1が解放状態であると推定するのに十分なブレーキB1の係合圧PB1および経過時間であり、予め実験的に得られた数値である。これらの判断が肯定されることにより、ブレーキB1が解放状態であると推定される。一方、これらの判断のいずれかが否定された場合は、否定されたステップを繰り返すことにより、判断が肯定、すなわち、ブレーキB1の係合圧PC4が前記所定値を下回り、所定時間の経過が待機される。
SB6においては、第1係合要素であるクラッチC4の係合が実行される。具体的にはクラッチC4の係合圧であるPC4が徐々に増加させられ、所定の係合状態の圧力とされる。
SB7およびSB8においては、それぞれ、第2解放要素であるクラッチC2の解放と第2係合要素であるクラッチC1の係合が行われる。これらの操作は、本制御の実行中には運転者によりアクセルオフ操作がされていることから、各要素の係合状態が正しく判定できないため、各要素の係合状態に基づいて制御することはできず、たとえば、自動変速機10の入力軸22の回転速度NINに基づいて制御を行えばよい。
なお、以上の実施例においては、第8速段から第4速段への変速を例として、第1解放要素をブレーキB1、第2解放要素をクラッチC2、第1係合要素をクラッチC4、第2係合要素をクラッチC1として説明したが、上記の2要素解放2要素係合変速に該当する変速であれば、他の変速段間の変速であっても、本制御は同様に適用することができる。
以上の実施例によれば、第1の変速段(たとえば第8速段)から第2の変速段(例えば第4速段)への変速時に、第2の解放要素であるクラッチC2を半係合に保持しつつ、第1の解放要素であるブレーキB1を解放するとともに、第1の係合要素であるクラッチC4の係合を開始し、第1の解放要素であるブレーキB1の解放とともに第2の係合要素であるクラッチC1を係合する変速が行われ、かつ、第1の解放要素であるブレーキB1と第1の係合要素クラッチC4の掴み替えの際に、変速の進行状態に基づいて、第1の解放要素であるブレーキB1および第1の係合要素であるクラッチC4の係合・解放状態が検出されるので、第1の解放要素であるブレーキB1または第1の係合要素であるクラッチC4のトルク伝達容量を維持したまま、変速進行状態に応じて変速ができるため、変速中に他の変速段への多重変速が発生した場合でも、適切に変速制御ができるようになる。
また、上述の実施例によれば、自動変速機10内に設けられた回転要素であるサンギヤS2の回転速度NS2は、たとえば中間回転速度82センサなどにより容易に計測されることができるので、これに基づいて検出される変速の進行状態を容易に得ることができる。
また、上述の実施例によれば、第2の係合要素であるクラッチC1の係合は、変速の進行状態が所定の割合を超えている場合に開始されるので、第2の係合要素であるクラッチC1の係合時のショックを低減することができる。
また、上述の実施例によれば、第1の解放要素であるブレーキB1の係合圧PB1は、第2の解放要素であるクラッチC2の係合圧PC2に基づいて決定されるので、第2の解放要素であるクラッチC2を半係合した際に第1の解放要素であるブレーキB1が滑ることを防止できる。
また、上述の実施例によれば、第1の係合要素であるクラッチC4の係合圧PC4の増加は、第1の解放要素であるブレーキB1の係合圧PB1の低下の確認後にされ、また、第2の解放要素クラッチC2および第2の係合要素であるクラッチC1の係合制御は自動変速機10の入力軸回転数NINに基づいてされることから、各係合要素および解放要素の係合・解放状態を把握できない場合であっても、変速を行うことができる。
以上、本発明の実施例を図面に基づいて詳細に説明したが、本発明はその他の態様においても適用される。
例えば、前記解放・係合要素決定手段110においては、変速ショックを緩和する目的から、第1解放要素としてはクラッチC3、クラッチC4、もしくはブレーキB1のうち解放される1の要素が、第2解放要素がクラッチC2が決定され、また、第1係合要素として、クラッチC3、クラッチC4、もしくはブレーキB1のうち係合される1の要素が、第2係合要素がクラッチC1が決定されていたが、これに限られない。たとえば、運転者のアクセルペダル50の踏み増し意図が判断できる場合、すなわち、さらなるダウンシフトを必要とする場合等においては、その後に行われる多重変速を制御することが容易になることから、第1係合要素がクラッチC1と決定されることができる。また、同様に運転者のアクセルペダル50の踏み戻し意図が判断できる場合、すなわち、さらなるアップシフトを必要とする場合などにおいては、その後の多重変速を制御することが容易となることから、第1解放要素がクラッチC2と決定されることができる。すなわち、制御の目的に合わせて、解放される2つの係合要素の何れを第1解放要素と決定するか、また、係合される2つの係合要素の何れを第1係合要素と決定するかは適宜変更し得るのである。
また、前記変速進行度算出手段124においては、トルクコンバータ32のタービンの回転速度NTが、変速指令時、すなわち変速開始直前に測定されたNTbから、変速完了時、すなわち同期直後のトルクコンバータ32のタービンの回転速度の予測値であるNTaと前記NTbとの差(NTa−NTb)の一定割合(たとえば60%)だけ増加した値(NTb+(NTa−NTb)×0.6)を上回ったか否かによって、変速が所定の度合いだけ進行したかを判断するとされたが、これにかぎられない。たとえば、トルクコンバータ32のタービンの回転数NTが、変速完了後の変速段において予測されるタービン回転数NTを一定回転数だけ下回った回数に達した場合には変速が所定の度合いだけ進んだとすることも可能であり、また、変速中のタービン回転数の変化率から予測される変速完了時刻から所定の時間だけ前の時刻になった場合に、変速が所定の度合いだけ進んだとすることも可能である。
また、上述の実施例においては、アクセルオフ時変速制御手段126が設けられたが、2要素解放2要素係合変速実行手段108は必ずしもこれを必要とせず、アクセルオフ時変速制御手段126を含まない態様であっても実行可能である。この場合、図11に示したフローチャートによる割り込みの実行が行われないのみで、図9に示したフローチャートの実行の手順にはなんら変わりはない。
また、上述の実施例においては、図9の第2解放要素解放手段118に対応するSA9において第2解放要素であるクラッチC2の解放が実行され、続く第2係合要素係合手段114に対応するSA10において第2係合要素であるクラッチC1の係合が実行されたが、これに限られず、例えば、第2係合要素であるクラッチC1の係合が実行された後に第2解放要素であるクラッチC2の解放が実行されてもよく、また、これらが略同時に行われることも可能である。
また、上述の実施例においては、第1係合要素係合手段112(SA6)は、第1解放要素であるブレーキB1が完全に解放状態とされたこと(SA5)を条件として実行されたが、これに限られず、例えば、前記第1解放要素であるブレーキB1が完全に解放状態とされたことに加え、第1係合要素であるクラッチC4が予め半係合状態とされたことを条件としてもよい。このようにすれば、第1係合要素であるクラッチC4を係合する際に、タイアップや急係合による変速ショックをなくすことができる。
その他、いちいち例示はしないが、本発明はその趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更が加えられて実施されるものである。