JP4893181B2 - 粉砕機・破砕機向け耐摩耗部材用鋳物およびその製造方法 - Google Patents
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高マンガン鋳鋼は、基地相が軟質なオーステナイト相で、高い加工硬化性を有し、さらに、衝撃が加わるとオーステナイト相がより硬質なマルテンサイト相に変態し、耐摩耗性が向上する特性を有する材料であり、特に靭性に優れた耐摩耗性材料として衝撃が加わる部材に多用されている。しかし、高マンガン鋳鋼は、耐力が低く、長期間使用すると部材の変形が大きくなるという問題がある。また、高マンガン鋳鋼の耐摩耗性は、高クロム鋳鉄の1/3程度であり、耐摩耗性の観点から、高マンガン鋳鋼製部材の寿命が短いことが大きな問題となっていた。
特許文献1に記載された高マンガン系鋳鋼は、C:0.50〜0.9%、Si:0.5〜0.7%、Mn:12〜14%、Cr:2.0〜2.5%、Mo:0.5〜2.0%、ミッシュメタル:0.005〜0.10%を含有する成形品(鋳造品)に水靭処理を施し耐摩耗性を高めたことに特徴がある。特許文献1に記載された高マンガン系鋳鋼を用いて製作された部材は、使用時の変形がなく、また使用時に割れや剥離が発生せず、機械への致命的な損傷を与えることがなく、耐久性が増加し、補修や交換の手間が省けるとしている。しかし、摩耗深さで定義される耐摩耗性は、比較例に比べてたかだか35〜45%向上したにすぎず、耐摩耗性の顕著な向上が得られていないという問題がある。
特許文献3に記載された技術は、C:2.5〜3.5%、Si:0.5〜1%、Mn:0.5〜1.5%、Cr:14〜17%、Mo:0.5〜3%、V:0.5〜2%を含有する溶湯を、主として金属粒で構成された鋳型に注湯し、凝固点から急冷する高クロム系耐摩耗白鋳鉄鋳物の製造方法である。特許文献3に記載された技術によれば、従来品に比べて耐摩耗性が向上するとしている。
本発明は、上記した従来技術の問題を有利に解決し、高クロム鋳鉄、高マンガン鋳鋼に比べて、格段に優れた耐摩耗性を有し、さらに、高クロム鋳鉄に比べて、高強度と高靭性を兼備し、クラッシャーなどの破砕機用耐摩耗部材に適用しても、部材の欠損、変形等の不具合の発生がない、耐摩耗部材用鋳物を提供することを目的とする。
(1)質量%で、C:1.6〜3%、Si:0.3〜2%、Mn:0.3〜2%、Cr:6〜15%、Mo:2〜8%、V:4〜8%、Nb:0.5〜4.0%を含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなる組成を有し、焼入れ焼戻処理を施されてなることを特徴とする粉砕機・破砕機向け耐摩耗部材用鋳物。
A群:Ti:0.5%以下、
B群:Ni:3%以下、
C群:Al:0.1%以下、REM:0.1%以下のうちから選ばれた1種または2種
D群:W:3%以下
のうちから選ばれた1群または2群以上を含有する組成を有することを特徴とする粉砕機・破砕機向け耐摩耗部材用鋳物。
(4)(1)ないし(3)のいずれかにおいて、硬さが500〜900HVであることを特徴とする粉砕機・破砕機向け耐摩耗部材用鋳物。
(6)(1)ないし(4)のいずれかに記載の粉砕機・破砕機向け耐摩耗部材用鋳物で構成されてなる粉砕ミル用タイヤ。
(7)質量%で、C:1.6〜3%、Si:0.3〜2%、Mn:0.3〜2%、Cr:6〜15%、Mo:2〜8%、V:4〜8%、Nb:0.5〜4.0%を含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなる組成を有する素材鋳物に、焼入れ加熱温度:950〜1150℃に加熱保持した後急冷する焼入れと、ついで焼戻温度:400〜600℃に再加熱保持したのち冷却する処理を1回以上行う焼戻と、からなる焼入れ焼戻し処理を施すことを特徴とする粉砕機・破砕機向け耐摩耗部材用鋳物の製造方法。
A群:Ti:0.5%以下、
B群:Ni:3%以下、
C群:Al:0.1%以下、REM:0.1%以下のうちから選ばれた1種または2種
D群:W:3%以下
のうちから選ばれた1群または2群以上を含有する組成を有することを特徴とする粉砕機・破砕機向け耐摩耗部材用鋳物の製造方法。
C:1.6〜3%
Cは、炭化物を形成し、耐摩耗性を向上させる作用を有する元素であり、このような効果は1.6%以上の含有で認められる。一方、3%を超えて含有すると、炭化物量が過多となり、強度と靭性が低下する。このため、Cは1.6〜3%の範囲に限定した。
Siは、脱酸剤として作用するとともに、溶湯の鋳造性を向上させる元素であり、このような効果は0.3%以上の含有で認められる。一方、2%を超えて含有しても、効果が飽和し、含有量に見合う効果が期待できなくなり、経済的に不利となる。このため、Siは0.3〜2%の範囲に限定した。なお、好ましくは0.4〜1.2%である。
Mnは、焼入れ性を向上させ、また、SをMnSとして固定し延性を向上させる元素であり、このような効果は0.3%以上の含有で認められる。一方、2%を超えて含有しても、効果が飽和し、含有量に見合う効果が期待できなくなり、経済的に不利となる。このため、Mnは0.3〜2%の範囲に限定した。なお、好ましくは0.4〜1.2%である。
Crは、面積性のある粗大で、硬質な共晶炭化物(M7C3等)を形成し、引掻き摩耗への抵抗力を増加させ、耐摩耗性を向上させる作用を有する元素であり、このような効果は6%以上の含有で認められるが、15%を超える含有は、効果が飽和し含有量に見合う効果が期待できなくなり、経済的に不利となるうえ、溶湯の鋳造性が低下する。このため、Crは6〜15%の範囲に限定した。なお、好ましくは6〜13%である。
Moは、共晶炭化物やMC炭化物に固溶され、それらの炭化物を強化するとともに、基地中に固溶し基地を強化する作用を合わせ有する重要な元素であり、このような効果は2%以上の含有で認められる。一方、8%を超えて含有すると、脆いM2C型あるいはM6C型炭化物が生成し、鋳物の脆化が顕著となる。このため、Moは2〜8%の範囲に限定した。なお、好ましくは2.5〜6%である。
Vは、極めて硬質なMC炭化物を形成し、鋳物の耐摩耗性を向上させる有効な元素で本発明における主要な元素の一つである。このような効果は、4%以上の含有で顕著になる。4%未満ではMC炭化物量が不足し、十分な耐摩耗性が確保できない。一方、8%を超える多量の含有は、溶湯の粘性を増加させ、鋳造性が低下する。このため、Vは4〜8%の範囲に限定した。なお、好ましくは4〜6%である。
Nbは、MC炭化物を粒状化するとともに、凝固組織をも微細化する作用を有し、また、MoとNbの共存で割れにくい炭化物を形成させる効果もあることから、鋳物の靭性と強度とを合わせ改善する作用を有する重要な元素である。このような効果は0.5%以上の含有で顕著となる。一方、4%を超える含有は、MC炭化物の粗大化を招き、鋳造性が低下する。このため、Nbは0.5〜4.0%の範囲に限定した。なお、好ましくは0.5〜2.0%である。
A群は、Ti:0.5%以下からなる群であり、B群はNi:3%以下からなる群であり、C群はAl:0.1%以下、REM:0.1%以下のうちの1種または2種からなる群であり、D群はW:3%以下からなる群である。本発明では、A群〜D群のうちから選ばれた1群または2群以上を必要に応じて選択し、該選択された群に含まれる1種または2種を含有できる。
本発明の耐摩耗部材用鋳物は、上記した組成と、好ましくは上記した組織を有し、ビッカース硬さHVで、500〜900HV(49〜67HRC相当)の硬さを有することが好ましい。硬さと耐摩耗性とは、相関があり、硬さが高いほど耐摩耗性は向上する。硬さが、500HV未満では、軟質すぎて、所望の耐摩耗性を確保できない。一方、靭性と硬さとはおおよそ負の相関を有し、硬さが高くなると靭性が低下する傾向となる。本発明になる鋳物では、硬さが900HVを超えると、靭性の低下が著しくなる。このようなことから、本発明の耐摩耗部材用鋳物の硬さは500〜900HVの範囲に調整することが好ましい。なお、優れた耐摩耗性と優れた靭性とを兼備させるという観点からは、硬さは550〜850HVの範囲に調整することがより好ましい。
上記した組成を有する溶湯を、高周波炉、低周波炉等の、公知の溶製方法で溶製し、ほぼ所望の寸法形状を有する砂型等の鋳型に注湯する公知の鋳造方法で、鋳物(鋳造まま)とする。さらに、必要に応じて切削等の加工を施し、素材鋳物とする。
得られた素材鋳物に、ついで焼入れ焼戻処理を施す。焼入れ焼戻処理は、焼入れと焼戻からなる。
なお、従来例は、市販の高マンガン鋳鋼製クラッシャーから採取した試験片を用いた。
(1)引張試験
各板状鋳物の肉厚中央部から採取した引張試験片(平行部φ10mm)を用いて、JIS Z 2241の規定に準拠して引張試験を実施し、引張強さTSを求めた。
各板状鋳物の肉厚中央部から採取したノッチなし試験片(10mm厚)を用いて、JIS Z 2242の規定に準拠して、試験温度:室温でシャルピー衝撃試験を実施し、吸収エネルギー(J)を求めた。なお、試験は、上記した試験温度で試験片3本について行い、3本の平均値をその鋳物の吸収エネルギー値(J)とした。
各板状鋳物の肉厚中央部から採取した硬さ測定用試験片について、ビッカース硬度計(荷重:490kN)を用いてビッカース硬さHVを8点測定し、得られた硬さを算術平均して、その鋳物の硬さ(平均)HVとした。
(4)摩耗試験
一部の鋳物について、図1に示す寸法形状のリブ付き板状鋳物(大きさ:肉厚35mm×300×300mm)を摩耗試験片として、図2に概要を示す砕石クラッシャーの歯(動歯)に固定し、通常の砕石処理を2週間行った。なお、摩耗試験片の砕石クラッシャーへの固定は、砕石クラッシャーの歯(高マンガン鋳鋼製)の摩耗面を凹加工し、該凹加工部に摩耗試験片を設置し、背面からボルトで固定することにより行った。また、砕石処理は、天然鉱石を粉砕する処理とした。
耐摩耗比=(試験鋳物の摩耗量(g))/(従来例の摩耗量(g))
で各鋳物の耐摩耗性を評価した。
また、一部の鋳物で実施した摩耗試験では、本発明例はいずれも従来例に比べて高い耐摩耗比を示し、耐摩耗性に優れた鋳物であり、さらにリブの変形や欠け落ちなど欠損の発生も認められなかった。これに対し、本発明の範囲を外れる比較例や比較例(鋳物No.13、No.14:高クロム鋳鉄)では、本発明例に比べて耐摩耗比が低く、またリブに欠け落ちの発生が認められた。なお、従来例(鋳物No.15:高マンガン鋳鋼)では、摩耗量が多く耐摩耗性が劣るうえ、リブに変形、えぐれの発生が認められた。
Claims (9)
- 質量%で、
C:1.6〜3%、 Si:0.3〜2%、
Mn:0.3〜2%、 Cr:6〜15%、
Mo:2〜8%、 V:4〜8%、
Nb:0.5〜4.0%
を含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなる組成を有し、焼入れ焼戻処理を施されてなることを特徴とする粉砕機・破砕機向け耐摩耗部材用鋳物。 - 前記組成に加えてさらに、質量%で、下記A群〜D群のうちから選ばれた1群または2群以上を含有する組成を有することを特徴とする請求項1に記載の粉砕機・破砕機向け耐摩耗部材用鋳物。
記
A群:Ti:0.5%以下、
B群:Ni:3%以下、
C群:Al:0.1%以下、REM:0.1%以下のうちから選ばれた1種または2種
D群:W:3%以下 - 前記不可避的不純物のうち、P、S、Nを、P:0.1%以下、S:0.1%以下、N:0.1%以下に調整することを特徴とする請求項1または2に記載の粉砕機・破砕機向け耐摩耗部材用鋳物。
- 硬さが500〜900HVであることを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の粉砕機・破砕機向け耐摩耗部材用鋳物。
- 請求項1ないし4のいずれかに記載の粉砕機・破砕機向け耐摩耗部材用鋳物で構成されてなるクラッシャー用歯。
- 請求項1ないし4のいずれかに記載の粉砕機・破砕機向け耐摩耗部材用鋳物で構成されてなる粉砕ミル用タイヤ。
- 質量%で、
C:1.6〜3%、 Si:0.3〜2%、
Mn:0.3〜2%、 Cr:6〜15%、
Mo:2〜8%、 V:4〜8%、
Nb:0.5〜4.0%
を含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなる組成を有する素材鋳物に、焼入れ加熱温度:950〜1150℃に加熱保持した後急冷する焼入れと、ついで焼戻温度:400〜600℃に再加熱保持したのち冷却する処理を1回以上行う焼戻と、からなる焼入れ焼戻し処理を施すことを特徴とする粉砕機・破砕機向け耐摩耗部材用鋳物の製造方法。 - 前記組成に加えてさらに、質量%で、下記A群〜D群のうちから選ばれた1群または2群以上を含有する組成を有することを特徴とする請求項7に記載の粉砕機・破砕機向け耐摩耗部材用鋳物の製造方法。
記
A群:Ti:0.5%以下、
B群:Ni:3%以下、
C群:Al:0.1%以下、REM:0.1%以下のうちから選ばれた1種または2種
D群:W:3%以下 - 前記不可避的不純物のうちP、S、Nを、質量%で、P:0.1%以下、S:0.1%以下、N:0.1%以下に調整することを特徴とする請求項7または8に記載の粉砕機・破砕機向け耐摩耗部材用鋳物の製造方法。
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