JP5061455B2 - 水冷孔からの割れが抑制されたアルミニウムダイカスト用熱間工具鋼 - Google Patents
水冷孔からの割れが抑制されたアルミニウムダイカスト用熱間工具鋼 Download PDFInfo
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Description
このヒートチェックは、型開き後にキャビティ面に冷却水をかけたときに、キャビティ面の急速な冷却と加熱状態の内部との温度差によってキャビティ面に引張り応力が発生し、その繰返しによる熱疲労によってキャビティ面にクラックが発生する現象である。
このヒートチェックに対しては金型の硬さを高くすることが有利であるとされている。
この水冷の強化は、具体的には水冷孔をキャビティ面に近付けることによって行われている。
この場合、アルミニウム製品鋳造時に水冷孔表面に発生する熱応力が増大し、水冷孔から割れが発生する現象が問題となる。
このような水冷孔からの割れは、鋳造時に繰返し負荷される熱応力のみにより発生するのではなく、水冷孔表面に発生する錆に起因した応力腐食割れとの複合的な遅れ破壊現象であるとされている。
即ち、金型硬さを高くすればヒートチェックに対しては有利となるものの、水冷孔からの割れに対しては不利となり、また逆に金型硬さを低くすれば水冷孔からの割れに対しては有利となる一方で、ヒートチェックに対しては不利となり、耐ヒートチェック性は悪化してしまう。
一方現在のアルミニウムダイカスト金型として、JIS-SKD61に代表される5Cr系熱間工具鋼が主として使用されており、近年ではキャビティ面に発生するヒートチェックを抑制するために使用硬さが高くなって来ており、アルミニウムダイカスト製品の製造のハイサイクル化に伴って水冷孔から割れる危険性が増大している。
そこで水冷孔からの割れを抑制するためにその硬さをHRC45以下に低下させようとすると、600℃以上の高温での焼なましを行うことが必要である。
ところがこのような高温での焼なましを行うと耐食性が著しく低下してしまう。
この材料にはCrが5%程度含まれており、本来耐食性が良好な材料であるが、600℃以上の高温で焼なましを行うと、含有されているCrの殆どが高温焼戻しによってCr炭化物として析出してしまい、含有されているCrが耐食性の向上に寄与しなくなってしまう。
水冷孔からの割れの問題とキャビティ面におけるヒートチェックの問題の何れをも良好に解決するためには、水冷孔内で発生する錆を防止するとともに水冷孔の存在する金型内部の硬さを低くし、一方でヒートチェックが発生する金型のキャビティ面の硬さを高くすることが有効と考えられるが、そのような特性を満たす材料は未だ提供されていない。
このものは従来より用いられているJIS-SKD61で焼入,焼戻しにより高い硬さに調質した後、水冷孔表面を誘導加熱,バーナー加熱,レーザー加熱等で局部的に低い硬さに焼戻す点で本発明とは異なっている。
この特許文献1に開示のものでは、何れの方法でも局部的な加熱が必要で、バーナーが入る径にする必要があるなど、水冷孔の形状に制約がある問題がある。
一方でCr炭化物が析出しない程度まで焼戻し温度を低下させると、硬さが50HRC以上と非常に硬くなり、水冷孔からの割れが発生し易くなってしまう。
尤もC含有量を低減して500℃以下の低温で焼き戻して、目的とする硬さを得ることは可能であるが、この場合キャビティ面の硬さまで低下してしまい、耐ヒートチェック性が悪化してしまう問題を生ずる。
本発明において、添加したMoはアルミニウム溶湯からの熱によりキャビティ面が600〜650℃程度に加熱されることによって(アルミニウムダイカスト製品の鋳造のために金型が使用されているときに)炭化物を析出し、キャビティ面の硬さを部分的に硬くする働きをなす。
即ちキャビティ面が、金型使用中に時効硬化によって硬さが硬くなり、この効果によってキャビティ面におけるヒートチェックが良好に抑制される。
この場合、本発明では焼入処理後において500℃以下の低温で焼なましが行われるため、添加したCrは炭化物として析出せず、マトリックスに固溶した状態にあって鋼の耐食性向上に有効に働く。
即ちこのCrの耐食性向上の働きによって、水冷孔における錆の発生が抑制され、その錆に起因した応力腐食割れを伴う水冷孔からの割れが良好に抑制される。
本発明では、Mo炭化物の析出による2次硬化(時効硬化)により、金型のキャビティ面は耐ヒートチェック性が確保できるHRC45以上の硬さに硬化する。
C:0.1〜0.3%
Cは金型性能として重要な硬さ、耐摩耗性を確保するために必要な元素である。
通常の熱間工具鋼では0.4%程度のCが含有されているが、本発明では500℃以下の低温焼戻しでHRC45以下の硬さが得られるようにC含有量を通常の熱間工具鋼に比べて低減しており、その範囲は0.1〜0.3%である。
Siは製鋼時に脱酸元素として必要な元素である。
また、その含有量を高めることにより被削性及び焼戻し軟化抵抗性を向上させる。
但し添加量が多い場合は衝撃値靭性が低下することから、その添加範囲を0.1〜1.5%とする。
Mnは焼入性及び硬さの確保のために必要な成分であり、その添加量を0.3%以上とした。
また過剰に添加すると焼入性が高くなり過ぎ、焼入時に残留γが多量に生成して衝撃値が低下したり、焼なまししても硬さが低下しなくなることがあるためその上限を2%とした。
Crは焼入性を向上させるとともに水冷孔の耐食性を改善する元素である。
耐食性向上の効果を得るためには6%以上の添加が必要である。
しかし多量に添加すると焼戻し軟化抵抗を低下させ金型性能を低下させる。このためその上限は12%とした。
Pは衝撃値を低下させるため低減することが好ましい元素であり、不可避的に含有する場合0.05%以下に低減することが好ましい。
SはMnSを形成して衝撃値を低下させるため低減することが好ましい元素である。
不可避的に含有する場合は0.01%以下に低減することが好ましい。
Moは炭化物を形成して基地の強化や耐摩耗性を向上させるため、また焼入性確保のために必要である。
またMo炭化物はアルミニウム溶湯の温度である600℃付近で析出し、金型の硬さを増加させる。
本発明では、水冷孔からの割れを防止するため焼入れ焼戻し後の金型硬さはHRC45以下であるが、アルミニウムダイカスト中にキャビティ面は600℃付近まで温度上昇しHRC45以上の硬さが得られ、耐ヒートチェック性が改善する。
このような効果を得るためには1%以上の添加が必要である。
但し過剰に添加してもその効果は飽和し、経済的に不利となるため添加の上限を3%とする。
Vは焼戻し時に炭化物を形成して析出することにより基地の強化や耐摩耗性を向上させる元素である。
また、焼入加熱時には微細な炭化物の形成により、結晶粒の粗大化を抑制し、衝撃値の低下を抑制する効果を有する。
このような効果を得るためには0.5%以上の添加が必要である。
一方、過剰に添加すると凝固時に炭窒化物として粗大な晶出物を生成し、靭性を低下させるため上限を1.5%とした。
Alは製鋼時脱酸元素として作用するほか、鋼中のNと結び付き窒化物として微細分散し、焼入加熱時の結晶粒粗大化を抑制する元素である。
このような効果を得るために0.005%以上の添加が必要である。
しかしながら多量に添加してもその効果が飽和するため上限を0.025%とした。
Nは鋼中のAlやVと結合して窒化物を形成し、微細に分散することにより焼入加熱時の結晶粒粗大化を抑制し、衝撃値低下を防止するのに有効な元素である。
このような効果を得るためには0.005%以上の添加が必要である。
しかしながら多量に添加してもその効果が飽和するのでその上限を0.025%とした。
Oは酸化物系介在物を形成し、衝撃値を低下させる。衝撃値の低下を抑制するためにはO含有量を0.005%以下にする必要がある。
Niは焼入性を高めるとともに基地の強靭化に有効であり、必要に応じて添加できる。
但し過度に添加してもその効果が飽和するとともに経済的に不利となるため、それぞれ上限を2%と1%とする。
Coは固溶強化により強度を向上させる元素であり、必要に応じて添加することができる。
しかしながら過度に添加してもその効果が飽和し、経済的に不利になるためその上限を5%とした。
何れもTi(CN),Zr(CN),Nb(CN)及びこれらの複合炭窒化物を形成して微細に析出し、焼入加熱時の結晶粒粗大化を防止する元素であり、結晶粒を微細化して靭性を確保したい場合には必要に応じて添加することができる。
しかしながら過剰に添加すると凝固時に粗大な炭窒化物として晶出し、却って衝撃値を低下させるためその上限をそれぞれ0.2%とした。
また、これらが複合して添加される場合にはその合計が0.5%以下になることが好ましい。
表1に示した組成の鋼を150Kgの真空高周波誘導炉で溶解し、得られたインゴットを1200℃で60×60mmの断面の角棒に鍛造した。
これを500mm長さに切断した後、1030℃に加熱後に油焼入れした。
その後450℃×1hの条件での焼戻しを2回実施した材料で1/4H部(表面と中心部との丁度半分の部位)の硬さ測定,2mmUノッチ試験片によるT方向(角棒の幅方向)のシャルピー衝撃試験,1/4H部から10×10×10mmのブロックを切り出し、表面をエメリー紙で研磨後20℃の工業用水中に24hどぶ付けして錆の発生を確認する耐食性試験をそれぞれ実施した。
尚耐食性の評価は錆発生の無かったものを○とし、錆の発生したものと×として評価した。
結果が表2に示してある。
ここで耐遅れ破壊特性の評価は次のようにして行った。
即ち0.1Rの環状切欠き(ノッチ)を有する試験片の切欠部に工業用水を滴下し(錆を発生させるため)、曲げ応力と破壊時間の関係を調査した。
そして静曲げ応力(0h破断応力)と200hで破断する応力の比を比較することによって耐遅れ破壊特性を評価した。
結果が表3に示してある。
尚表3において耐遅れ破壊特性の目標値は0.7以上とした。
また450℃の低温焼戻しであるためCr炭化物は殆ど析出しておらず、何れのものも良好な耐食性を示している。
更に従来鋼Aを630℃の高温焼戻しした同じ硬さのものと比べて、低温焼戻しのために耐食性の高いものであり、耐ヒートチェック性においても優れている。
Claims (4)
- 質量%で
C :0.1〜0.3%
Si:0.1〜1.5%
Mn:0.3〜2%
Cr:6〜12%
P :≦0.05%
S :≦0.01%
Mo:1〜3%
V :0.5〜1.5%
s-Al:0.005〜0.025%
N :0.005〜0.025%
O :≦0.005%
残部Fe及び不可避的不純物からなる組成を有し、焼入後500℃以下の低温で焼戻して使用されることを特徴とする水冷孔からの割れが抑制されたアルミニウムダイカスト用熱間工具鋼。 - 請求項1において、質量%で
Ni:≦2%
Cu:≦1%
の1種又は2種を更に含有していることを特徴とする水冷孔からの割れが抑制されたアルミニウムダイカスト用熱間工具鋼。 - 請求項1,2の何れかにおいて、質量%で
Co:≦5%
を更に含有していることを特徴とする水冷孔からの割れが抑制されたアルミニウムダイカスト用熱間工具鋼。 - 請求項1〜3の何れかにおいて、質量%で
Ti:≦0.2%
Zr:≦0.2%
Nb:≦0.2%
の何れか1種又は2種以上を更に含有していることを特徴とする水冷孔からの割れが抑制されたアルミニウムダイカスト用熱間工具鋼。
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