JP2004204263A - 冷間加工性と浸炭時の粗大粒防止特性に優れた肌焼用鋼材とその製造方法 - Google Patents

冷間加工性と浸炭時の粗大粒防止特性に優れた肌焼用鋼材とその製造方法 Download PDF

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Abstract

【課題】冷間加工性を向上させ、かつ浸炭時の粗大粒の発生を防止することができる肌焼用鋼材及びその製造方法を提供することを課題とする。
【解決手段】質量%で、C:0.1〜0.4%、Si:0.01〜1.3%、Mn:0.3〜1.8%、S:0.001〜0.15%、Al:0.02〜0.1%、N:0.006〜0.025%を含有し、さらに、Cr、Mo、Ni、V、Tiの1種または2種以上を含有し、またはさらにNb:0.005〜0.05%を含有し、P、O含有量を制限し、残部が鉄および不可避的不純物からなり、熱間圧延後の組織のマトリックス中に直径0.1μm以下のTiの析出物を5個/μm2以上を有し、硬さがHVでH+30以下であり(Hは式で規定)、JISG0558で規定する脱炭深さ:DM−T0.2mm以下であることを特徴とする肌焼用鋼材。
【選択図】 図2

Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、冷間加工性に優れ、かつ浸炭時の粗大粒防止特性に優れた肌焼用鋼材及びその製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
歯車、シャフト、CVJ部品は、通常、例えばJIS G 4052、JISG 4104、JIS G 4105、JIS G 4106などに規定されている中炭素の機械構造用合金鋼を使用し、冷間鍛造(転造も含む)−切削により所定の形状に加工された後、浸炭焼入れを行う工程で製造されている。冷間鍛造は、製品の表面肌、寸法精度が良く、熱間鍛造に比べて製造コストが低く、歩留まりも良好であるため、従来は熱間鍛造で製造されていた部品を、冷間鍛造へ切り替える傾向が強くなっており、冷鍛−浸炭工程で製造される浸炭部品の対象は近年顕著に増加している。ここで、熱間鍛造から冷間鍛造への切り替えに際しては、鋼材の冷間変形抵抗の低減と限界圧縮率の向上が重要な課題である。これは、前者は、鍛造工具の寿命を確保するためであり、後者は冷間鍛造時の鋼材の割れを防止するためである。
【0003】
肌焼鋼は浸炭加熱時に一部のオーステナイト結晶粒が粗大化する現象を起こしやすい。このような粗大粒が発生した部品では、浸炭焼入れ後に熱処理歪みを発生し、例えば、歯車やCVJ部品ではこの浸炭歪みが大きければ騒音や振動の原因となる。
【0004】
従来は、浸炭処理におけるオーステナイト結晶粒の粗大化を防止するために、熱間圧延後の鋼材中のAlNの存在形態や、Nb(CN)、Ti(CN)等の微細析出物の析出量等を制御して、NbC、TiC析出物をピン止め粒子として活用する手段を採用しているものがある(例えば、特許文献1〜3)。
【0005】
これらの鋼材の製造方法としては、圧延加熱温度を1200℃以上の高温にして、析出物を一旦溶体化し、熱間圧延後に析出物の析出温度域を徐冷することにより、熱間圧延後の鋼材にAlN、Nb(CN)、Ti(CN)等の析出物を多量微細分散させている。しかしながら、これらの方法でも浸炭時の粗大粒の防止が必ずしも十分でない場合があり、さらに、圧延加熱温度を1200℃以上の高温にすると、圧延ままで硬くなり、冷間加工性が不十分となり、また、全脱炭が顕著になるといった問題点を有している。
【0006】
また、圧延ままの状態でも焼ならし処理と同じような微細組織とし、しかも浸炭処理時にオーステナイト結晶粒の粗大化を防止できる肌焼鋼を低温加熱圧延で製造する方法が種々提案されている(例えば、特許文献4)。
【0007】
【特許文献1】
特開昭57−89425号公報
【特許文献2】
特開平8−199303号公報
【特許文献3】
特開平9−59745号公報
【特許文献4】
特開昭58−113318号公報
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、冷間加工性を向上させ、かつ浸炭時の粗大粒の発生を防止することができる肌焼用鋼材及びその製造方法を提供することを課題とするものである。
【0009】
【課題を解決しようとする手段】
本発明者は、肌焼鋼の冷間加工性の向上及び浸炭時の粗大粒防止特性の向上を図るべく鋭意研究を進めた。その結果、従来のように圧延加熱温度を1200℃以上の高温として、全脱炭が顕著になると、その後の浸炭時に脱炭部から粗大粒が発生するため、粗大粒防止特性が不十分となることを見出した。さらに、従来のように圧延加熱温度を1200℃以上の高温として、析出物を一旦溶体化しなくても、鋳造後、A3点温度以下に冷却することなくHCRで分塊圧延した鋼片を低温加熱すると共に、圧延の全過程において一定の温度以上に維持する条件で熱間圧延すれば、全脱炭の低減をすることができ、これにより粗大粒の生成を防止でき、かつ、析出強化量の低減による軟質化により冷間加工性が向上できることを見出して、本発明を完成した。
【0010】
本発明の要旨は、次のとおりである。
【0011】
(1) 質量%で、
C:0.1〜0.4%、
Si:0.01〜1.3%、
Mn:0.3〜1.8%、
S:0.001〜0.15%、
Al:0.02〜0.1%、
N:0.006〜0.025%
を含有し、さらに、
Cr:0.4〜1.8%、
Mo:0.02〜1.0%、
Ni:0.1〜3.5%、
V:0.5%以下、
Ti:0.1%以下
の1種または2種以上を含有し、
P:0.025%以下、
O:0.0025%以下
に制限し、残部が鉄及び不可避的不純物からなり、熱間圧延後のAlNの析出量が0.02%以上であり、マトリックス中に直径0.1μm以下のAlNの析出物を5個/μm2以上を有し、硬さ指数Hを下記で定義すると、HVでH+30以下であり、JIS G 0558で規定する脱炭深さ:DM−T0.2mm以下であることを特徴とする冷間加工性と浸炭時の粗大粒防止特性に優れた肌焼用鋼材。
H=273.5C%+39.1Si+54.7Mn%+30.4Cr%+136.7Mo%+18.2Ni%
【0012】
(2) 質量%で、
C:0.1〜0.4%、
Si:0.01〜1.3%、
Mn:0.3〜1.8%、
S:0.001〜0.15%、
Al:0.02〜0.1%、
Nb:0.005〜0.05%、
N:0.006〜0.025%
を含有し、さらに、
Cr:0.4〜1.8%、
Mo:0.02〜1.0%、
Ni:0.1〜3.5%、
V:0.5%以下、
Ti:0.1%以下
の1種または2種以上を含有し、
P:0.025%以下、
O:0.0025%以下
に制限し、残部が鉄及び不可避的不純物からなり、熱間圧延後のAlNの析出量が0.02%以上であり、マトリックス中に直径0.1μm以下のAlN、Nb(CN)の析出物を5個/μm2以上を有し、硬さ指数Hを下記で定義すると、硬さがHVでH+30以下であり、JIS G 0558で規定する脱炭深さ:DM−T0.2mm以下であることを特徴とする冷間加工性と浸炭時の粗大粒防止特性に優れた肌焼用鋼材。
H=273.5C%+39.1Si+54.7Mn%+30.4Cr%+136.7Mo%+18.2Ni%
【0013】
(3) 質量%で、
C:0.1〜0.4%、
Si:0.01〜1.3%、
Mn:0.3〜1.8%、
S:0.001〜0.15%、
Al:0.02〜0.1%、
N:0.006〜0.025%
を含有し、さらに、
Cr:0.4〜1.8%、
Mo:0.02〜1.0%、
Ni:0.1〜3.5%、
V:0.5%以下、
Ti:0.1%以下
の1種または2種以上を含有し、
P:0.025%以下、
O:0.0025%以下
に制限し、残部が鉄及び不可避的不純物からなる鋼を、鋳造後A3点温度以下に冷却することなく分塊圧延を行う工程により製造され、かつAlNの析出量が0.005%以下である鋼片を用い、加熱温度を900〜1070℃、粗圧延から仕上げ圧延前までの圧延温度を800℃以上、仕上げ温度を800〜970℃、熱間圧延に引き続いて800〜500℃の温度範囲を1℃/秒以下の冷却速度で徐冷する条件により線材または棒鋼に熱間圧延し、熱間圧延後のAlNの析出量が0.02%以上とし、マトリックス中に直径0.1μm以下のAlNの析出物を5個/μm2以上とし、硬さ指数Hを下記で定義すると、硬さがHVでH+30以下とし、JIS G 0558で規定する脱炭深さ:DM−T0.2mm以下とすることを特徴とする冷間加工性と浸炭時の粗大粒防止特性に優れた肌焼用鋼材の製造方法。
H=273.5C%+39.1Si+54.7Mn%+30.4Cr%+136.7Mo%+18.2Ni%
【0014】
(4) 質量%で、
C:0.1〜0.4%、
Si:0.01〜1.3%、
Mn:0.3〜1.8%、
S:0.001〜0.15%、
Al:0.02〜0.1%、
Nb:0.005〜0.05%、
N:0.006〜0.025%
を含有し、さらに、
Cr:0.4〜1.8%、
Mo:0.02〜1.0%、
Ni:0.1〜3.5%、
V:0.5%以下、
Ti:0.1%以下
の1種または2種以上を含有し、
P:0.025%以下、
O:0.0025%以下
に制限し、残部が鉄及び不可避的不純物からなる鋼を、鋳造後A3点温度以下に冷却することなく分塊圧延を行う工程により製造され、かつAlNの析出量が0.005%以下である鋼片を用い、加熱温度を900〜1070℃、粗圧延から仕上げ圧延前までの圧延温度を800℃以上、仕上げ温度を800〜970℃、熱間圧延に引き続いて800〜500℃の温度範囲を1℃/秒以下の冷却速度で徐冷する条件により線材または棒鋼に熱間圧延し、熱間圧延後のAlN、Nb(CN)の析出物を5個/μm2以上とし、硬さ指数Hを下記で定義すると、硬さがHVでH+30以下とし、JIS G 0558で規定する脱炭深さ:DM−T0.2mm以下とすることを特徴とする冷間加工性と浸炭時の粗大粒防止特性に優れた肌焼鋼材の製造方法。
【0015】
【発明の実施の形態】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0016】
本発明では、HCR(Hot Charge Rolling)により鋼を鋳造後A3点温度以下に冷却することなく分塊圧延を行って製造した鋼片を用い、棒鋼線材圧延に際して低温加熱圧延すると、AlN、Nb(CN)の微細析出物がそのまま析出した状態で保持される。析出強化量は、高温で固溶体から析出された析出強化量よりも低減する。また、全脱炭量も低減し、JIS G 0558で規定する脱炭深さ:DM−T0.2mm以下とすることができる。これによって粗大粒の発生を防止できるとともに軟質化により冷間加工性が向上できる。
【0017】
まず、成分の限定理由について説明する。
【0018】
Cは鋼に必要な強度を与えるのに有効な元素であるが、0.1%未満では必要な引張強さを確保することができず、0.4%を超えると硬くなって冷間加工性が劣化するとともに、浸炭後の芯部靭性が劣化するので、0.1〜0.4%の範囲内にする必要がある。
【0019】
Siは鋼の脱酸に有効な元素であるとともに、鋼に必要な強度、焼入れ性を与え、焼戻し軟化抵抗を向上するのに有効な元素であるが、0.01%未満ではその効果は不十分である。一方、1.3%を超えると、硬さの上昇を招き冷間鍛造性が劣化する。以上の理由から、その含有量を0.01〜1.3%の範囲内にする必要がある。好適範囲は0.02〜0.6%である。特に冷間加工性を重視する場合の好適範囲は、0.02〜0.3%である。
【0020】
Mnは鋼の脱酸に有効な元素であるとともに、鋼に必要な強度、焼入れ性を与えるのに有効な元素であるが、0.3%未満では効果は不十分であり、1.8%を超えるとその効果は飽和するのみならず、硬さの上昇を招き冷間鍛造性が劣化するので、0.3〜1.8%の範囲内にする必要がある。好適範囲は0.6〜1.0%である。
【0021】
Sは鋼中でMnSを形成し、これによる被削性の向上を目的として添加するが、0.001%未満ではその効果は不十分である。一方、0.15%を超えるとその効果は飽和し、むしろ粒界偏析を起こし粒界脆化を招く。以上の理由から、Sの含有量を0.001〜0.15%の範囲内にする必要がある。好適範囲は0.005〜0.04%である。
【0022】
Alは脱酸剤としての効果を有するとともに、鋼中にAlNとして析出し、その後の浸炭処理においてオーステナイト結晶粒の粗大化を抑制する効果がある。Alが0.02%未満では、その効果が不十分であるが、0.1%を超えるとAlNが圧延加熱時に溶体化しないで残存し、NbやTiの析出物の析出サイトとなり、これらの析出物の微細分散を阻害し、結晶粒の粗大化を助長する。以上の理由から、その含有量を0.02〜0.1%の範囲内にする必要がある。好適範囲は0.025〜0.06%である。
【0023】
また、NはAlNを析出させるために必要な元素であり、そのためには0.006%以上が必要である。一方、0.025%を超えると、析出するAlNの凝集がその核発生よりも優先するので、粗大なAlNが析出してしまい、かえってオーステナイト結晶粒の粗大化抑制効果が低下する。また、鋼の清浄度を害し、ブローホール発生の原因ともなる。したがって、Nは0.006〜0.025%とした。
【0024】
Nbは浸炭加熱の際に鋼中のC、Nと結びついてNb(CN)を形成し、結晶粒の粗大化抑制に有効な元素である。0.005%未満ではその効果は不十分である。一方、0.05%を超えると、素材の硬さが硬くなって冷間鍛造性が劣化するとともに、棒鋼・線材圧延加熱時の溶体化が困難になる。以上の理由から、その含有量を0.005〜0.05%の範囲内にする必要がある。好適範囲は、0.005〜0.03%である。
【0025】
次に、本発明では、Cr、Mo、Ni、V、Tiの1種または2種以上を選択成分として含有する。
【0026】
即ち、Cr、Mo、Niは鋼に強度、焼入れ性を与えるのに有効な元素であるが、それぞれ、0.4%未満、0.02%未満、0.1%未満ではその効果は不十分であり、一方、添加量が多すぎると鋼の硬さの上昇を招き冷間鍛造性が劣化するので、それぞれの上限を1.8%、1.0%、3.5%とした。したがって、Cr:0.4〜1.8%、Mo:0.02〜1.0%、Ni:0.1〜3.5%とした。
【0027】
また、V、Tiは、鋼に強度を与えるとともに鋼中のC、Nと結びついてV(CN)、Ti(CN)を形成し、結晶粒の粗大化抑制に有効な元素であるが、それぞれ0.5%、0.1%を超えると、鋼が硬くなって冷間鍛造性を劣化させるので、V:0.5%、Ti:0.1%以下とした。
【0028】
Pは冷間鍛造時の変形抵抗を高め、靭性を劣化させる元素であるため、冷間鍛造性が劣化する。また、焼入れ、焼戻し後の部品の結晶粒界を脆化させることによって、疲労強度を劣化させるのでできるだけ低減することが望ましい。したがってその含有量を0.025%以下(0%を含む)に制限する必要がある。好適範囲は0.015%以下である。
【0029】
また、Oは鋼中でAl23のような酸化物系介在物を形成する。酸化物系介在物が鋼中に多量に存在すると、Alの析出物、Nbの析出物の析出サイトとなり、熱間加工時にAlの析出物、Nbの析出物が粗大に析出し、浸炭時に結晶粒の粗大化を抑制できなくなる。そのため、O量はできるだけ低減することが望ましい。特に、O含有量が0.0025%を超えると粗大粒発生温度が950℃以下になり、実用的には粗大粒の発生が懸念される。以上の理由から、その含有量を0.0025%以下(0%を含む)に制限する必要がある。好適範囲は0.002%以下である。
【0030】
次に本発明では、熱間圧延後のAlNの析出量が0.02%以上であり、マトリックス中に直径0.1μm以下のAlNの析出物を5個/μm2以上を有するが、このように限定した理由を以下に述べる。
【0031】
図1は、970℃で1時間の再加熱を行った際の結晶粒の粗大化率(結晶粒度No.4以下の粗大結晶粒の占める面積率)とAlN析出量との関係を示す図である。
【0032】
図1に示すように、AlN析出量が0.02%以上となると結晶粒の粗大化が抑制できる。したがって、本発明ではAlN析出量を0.02%以上とした。
【0033】
また、結晶粒の粗大化を抑制するためには、結晶粒界をピン止めする粒子を多量、微細に分散させることが有効であり、粒子の直径が小さいほど、また量が多いほどピン止め粒子の数が増加するため好ましい。
【0034】
図2は、1μm2面積中の直径0.1μm以下のAlN析出物個数と粗大粒発生温度との関係を示す図である。なお、図2では圧下率50%の据え込みを行った後、各温度で5時間浸炭でシュミレーションを行った結果を示している。図2から明らかなように、直径0.1μm以下のAlNの微細析出物をその合計で5個/μm2以上分散させると実用上の浸炭加熱温度970℃以上の温度域において結晶粒の粗大化が生じず、優れた結晶粒粗大化防止特性が得られる。したがって、本発明では、マトリックス中に直径0.1μm以下のAlN析出物を5個/μm2以上分散させることとした。なお、好適範囲は10個/μm2以上である。
【0035】
次に本発明では、熱間加工材の硬さHVを下記式で定義する硬さ指数HでH+30以下の範囲に制限するが、このように限定した理由を以下に述べる。
【0036】
H=273.5C%+39.1Si%+54.7Mn%+30.4Cr%+136.7Mo%+18.2Ni%
本発明の請求項1または2では、浸炭時の粗大粒を防止するために、AlN析出物を浸炭時に微細分散させることを特徴としている。本発明では、鋳造後A3点温度以下に冷却することなく分塊圧延を行って製造した鋼片を用いることを特徴としているが、分塊圧延後の鋼片中には、AlNの大部分は固溶状態にある。この鋼片を棒鋼線材圧延に際して低温加熱圧延すると、加熱過程で、オーステナイト中でAlNが微細析出物する。この棒鋼線材圧延の加熱時にAlNの一部が固溶し、析出物がオストワルド成長する。析出物がオストワルド成長すると浸炭時の粗大粒防止特性は劣化する。また、棒鋼線材圧延の加熱時にAlNやNb(CN)が一部固溶すると、棒鋼線材圧延後の冷却過程で、オーステナイトからフェライト変態時に、Nbの炭窒化物等が相界面析出し、これによる析出硬化により硬さが増加する。逆に言うと、棒鋼線材圧延材の硬さは、棒鋼線材圧延の加熱時に固溶するAl、Nbの炭窒化物の量の程度を反映しており、棒鋼線材圧延材の硬さが硬いほど、棒鋼線材圧延の加熱時に固溶するAl、Nbの炭窒化物の量が多く、析出物のオストワルド成長が顕著になり、その後の浸炭時の粗大粒防止特性は劣化する。上記の理由から合金元素(Al、Nbを除く)に応じて棒鋼線材圧延材の硬さの上限値を制限することにより、棒鋼線材圧延時の冷却過程でのAl、Nbによる析出硬化を小さくすることができ、これにより、浸炭時のAl、Nbの析出物の微細分散が可能になり、浸炭時の粗大粒の防止が可能になる。さらに、鋼材の硬さの上限値を制限することにより、圧延ままでの冷間加工性は向上する。以上の技術思想から、Al、Nbを除く成分系によって決まる硬さ指数を導入し、熱間加工材の硬さの上限値を規定した。硬さ指数Hは、熱間加工材の硬さに及ぼす合金成分の影響を定式化した指数であり、単位はHVである。硬さ指数HにはAl、Nbは含まれていない。つまり、繰り返しになるが、本願発明の規定を満たす鋼材においては、棒鋼線材圧延による冷却過程でのAl、Nbによる析出硬化量が実質的に小さいことを意味している。また、硬さ指数Hを定義した前提条件として、熱間加工材にベイナイト組織が実質的に含まれないことを前提としている。
【0037】
熱間加工材の硬さがHVでH+30を超えると熱間加工材の硬さが硬くなり冷間加工性が劣化するので、熱間加工材の硬さをHVでH+30以下の範囲に制限した。好適範囲は、H−25〜H+25の範囲である。
【0038】
なお、本発明で規定する硬さ(HV)は、熱間加工材の表面脱炭層を除く最表層の硬さである。
【0039】
次に本発明では、粗大粒防止の目的で、脱炭深さの上限を規定している。本要件は、本発明の技術の最も重要な特徴である。表1に脱炭深さと浸炭粗大粒発生温度の関係を示す。粗大粒発生温度は、圧下率50%の据え込みを行った後、各温度で5時間浸炭シミュレーションを行って求めた。本発明者らは、脱炭深さが、DM−T0.2mmを超えると、浸炭時に粗大粒が発生しやすくなることを初めて知見した。これは、浸炭加熱の昇温時に表層の脱炭部から混粒が生じ、これが粗大粒成長のきっかけになるためである。以上の理由から、脱炭深さ:DM−T0.2mm以下に制限する。このような脱炭深さは後述する低温加熱圧延を行うことによって達成できる。
【0040】
【表1】
Figure 2004204263
次に熱間圧延条件について説明する。
【0041】
本発明成分からなる鋼を、転炉、電気炉等の通常の方法によって溶製し、成分調整を行い、鋳造後、A3点以下に冷却することなく、HCR分塊圧延工程を経て、AlNの析出量が0.005%以下である鋼片を用い、線材または棒鋼に低温加熱圧延して圧延素材とする。
【0042】
加熱温度は900〜1070℃のAr3点直上の温度として、熱間圧延途中の温度を800℃以上に維持したまま粗圧延−仕上げ圧延前までの圧延を行い、仕上げ温度を800〜970℃の熱間圧延を行う。熱間圧延に引き続いて800〜500℃の温度範囲を1℃/秒以下の冷却速度で徐冷する条件で線材または棒鋼に熱間圧延し、熱間圧延後のAlNの析出量が0.02%以上で、マトリックス中に直径0.1μm以下のAlNの析出物、または、AlNとNb(CN)の析出物を5個/μm2以上とする。
【0043】
鋳造後にA3点温度以下に冷却することなしに分塊圧延することによって製造した鋼片を棒鋼線材圧延に際しての加熱過程で、オーステナイト中でAlNが微細析出物する。加熱温度を900〜1070℃のAr3点直上の温度とするのは、上記の微細なAlN析出物をマトリックスに固溶させないようにするためであり、900℃未満では圧延温度がフェライト域圧延となるので好ましくなく、また1070℃を超えると析出物がマトリックスに固溶するので好ましくない。微細AlN析出物をそのままの状態で保持することにより、浸炭時に粗大粒の発生を抑制することができるようにするため、加熱温度を900〜1070℃とした。
【0044】
次に、粗圧延圧延から仕上げ圧延前までの圧延温度を800℃以上、仕上げ温度を800〜970℃とするのは次の理由による。熱間圧延途中の表面温度を800℃未満、また仕上げ温度が800℃未満では、圧延材のフェライト脱炭が進行するために、結果的に全脱炭も顕著になり、浸炭時に粗大粒が発生しやすくなる。上記の条件において、圧延材のフェライト脱炭が進行するのは、この温度域では、表層で未再結晶域圧延となり、フェライト変態が促進されること、あるいは圧延中に一部で歪み誘起変態が起こっていることが原因と考えられる。一方、仕上げ温度が970℃を超えると、圧延材の硬さが硬くなって冷間鍛造性が劣化する。以上の理由から、粗圧延圧延から仕上げ圧延前までの圧延温度を800℃以上、仕上げ温度を800〜970℃とする。好適温度は、粗圧延圧延から仕上げ圧延前までの圧延温度を850℃以上、仕上げ温度を850〜960℃である。
【0045】
次に、熱間圧延に引き続いて800〜500℃の温度範囲を1℃/秒以下の冷却速度で徐冷するのは次の理由による。冷却速度が1℃/秒を超えると、ベイナイトの組織分率が大きくなり、浸炭時に粗大粒が発生しやすくなる。さらに、ベイナイトの組織分率が大きくなると、圧延材の硬さが上昇し冷間鍛造性が劣化する。そのため、冷却速度1℃/秒以下に制限する。好適範囲は0.7℃/秒以下である。なお、冷却速度を小さくする方法としては、圧延ラインの後方に保温カバーまたは熱源付き保温カバーを設置し、これにより、徐冷を行う方法が挙げられる。
【0046】
本発明では、鋳片のサイズ、凝固時の冷却速度については特に限定するものではなく、本発明の要件を満足すればいずれの条件でも良い。また、本発明鋼は、圧延ままの棒鋼を冷間鍛造で部品に成形する工程だけでなく、冷間鍛造の前に焼鈍工程や温・熱間鍛造を経由する場合、温・熱間鍛造工程で部品に成形される場合、切削工程で部品に成形される場合にも適用できる。
【0047】
【実施例】
以下に、本発明の効果を実施例により、さらに具体的に示す。
【0048】
表2に示す組成を有する転炉溶製鋼を連続鋳造し、鋳造後、鋼をA3点温度以下に冷却することなく分塊圧延を行い、162mm角の鋼片(圧延素材)とした(分塊圧延条件I)。比較鋼S、Tについては、連続鋳造後、鋼を一旦常温まで冷却した後、再度A3点以上に加熱して分塊圧延を行い、162mm角の鋼片(圧延素材)とした(分塊圧延条件II)。
【0049】
【表2】
Figure 2004204263
【0050】
続いて、熱間圧延により、直径32mmの棒鋼を製造した。熱間圧延条件を表3に示す。熱間圧延後の冷却速度は冷却床に設置した徐冷カバーを用いて調整した。
【0051】
熱間圧延後の棒鋼のAlの析出物、Nbの析出物の分散状態を調べるために、棒鋼のマトリックス中に存在する析出物を抽出レプリカ法によって採取し、透過型電子顕微鏡で観察した。観察方法は30000倍で20視野程度観察し、1視野中の直径0.1μm以下のAlの析出物、Nbの析出物、AlとNbの複合組成からなる析出物、V、Ti添加鋼についてはこれらの析出物の数を数え、1平方μm当たりの数に換算した。
【0052】
圧延後の棒鋼のビッカース硬さを測定した。また、ミクロ観察、全脱炭深さの調査も行った。さらに、圧延ままの棒鋼から、据え込み試験片を作成し、冷間加工性の指標として、冷間変形抵抗と限界圧縮率を求めた。冷間変形抵抗は相当歪み1.0における変形抵抗で代表させた。
【0053】
次に、圧延ままの棒鋼から据え込み試験片を作成し、圧下率50%の据え込みを行った後、浸炭シミュレーションを行った。浸炭シミュレーションの条件は、910℃〜1010℃に5時間加熱−水冷である。その後、切断面に研磨−腐食を行い、旧オーステナイト粒径を観察して粗大粒発生温度(結晶粒粗大化温度)を求めた。浸炭処理は通常930〜950℃の温度域で行われるため、粗大粒発生温度が950℃以下のものは、結晶粒粗大化特性に劣ると判定した。なお、旧オーステナイト粒度の測定はJIS G 0551に準じて行い、400倍で10視野程度観察し、粒度番号5番以下の粗粒が1つでも存在すれば粗大粒発生と判定した。
【0054】
さらに、直径30mmの棒鋼を削り出し、直径22mmへ引き抜きを行った後、940℃×4時間の条件で浸炭焼入れを行い、γ粒度を測定した。
【0055】
これらの調査結果を熱間圧延条件とあわせて表3に示す。
【0056】
比較例25、26、27は鋼水準A、S、Tを従来の製造条件で製造した鋼材の特性であるが、本発明例の冷間変形抵抗は、各々同一成分系(Cr系、Mo系)の1、2、9、10、11と比較すると、各々比較例25、26、27に比較して顕著に小さく、また限界据え込み率も優れている。また、本発明例の結晶粒粗大化温度は970℃以上であり、通常の上限の浸炭条件である950℃では、粗大粒の発生を防止できることが明らかである。比較例25、26、27に比較して顕著に優れている。
【0057】
次に、表3において、比較例16はAlの含有量が本願規定の範囲を下回った場合であり、比較例17はNの含有量が本願規定の範囲を下回った場合であり、比較例18はOの含有量が本願規定の範囲を上回った場合であり、いずれも粗大粒防止特性は劣っている。
【0058】
比較例19、20は鋼片の製造方法が本願発明と異なり、鋳造後、鋼をA3点温度以下に一旦冷却した後分塊圧延を行う方法で製造した場合であり、いずれも粗大粒防止特性は劣っている。
【0059】
比較例21は熱間圧延前の加熱温度が本願規定の範囲を上回った場合であり、析出物個数は本願発明の範囲を下回り、圧延後の硬さは本願規定の範囲を上回り冷間加工性も劣り、全脱炭深さも本願発明の範囲を上回り、粗大粒防止特性は劣っている。
【0060】
比較例22は熱間圧延の仕上げ温度が本願規定の範囲を上回った場合であり、本発明例2に比較して冷間加工性は劣る。比較例23は粗圧延から仕上げ圧延前までの圧延温度が本願規定の範囲を下回り、さらに仕上げ温度が本願規定の範囲を下回った場合であり、全脱炭深さは本願発明の範囲を上回り、粗大粒防止特性は劣っている。比較例24は熱間圧延後の冷却速度が本願規定の範囲を上回った場合であり、粗大粒防止特性が劣るとともに、冷間加工性も劣る。
【0061】
【表3】
Figure 2004204263
【0062】
【発明の効果】
本発明の冷間加工性と低浸炭歪み特性に優れた肌焼鋼とその製造方法を用いれば、冷間鍛造時には冷間加工性に優れ、同時に冷間鍛造工程で製造しても、浸炭時に粗大粒の発生を安定的に抑制することができ、これにより、歪みや曲がりの発生を防止することができる。そのため、これまで、粗大粒の問題から冷鍛化が困難であった部品の冷鍛化が可能になり、さらに冷鍛後の焼鈍を省略することも可能になり、本発明による産業上の効果は極めて顕著なるものがある。
【図面の簡単な説明】
【図1】970℃で1時間の再加熱を行った際の結晶粒の粗大化率(結晶粒度No.4以下の粗大結晶粒の占める面積率)とAlN析出量との関係を示す図である。
【図2】1μm2面積中の直径0.1μm以下のAlN析出物個数と粗大粒発生温度との関係を示す図である。

Claims (4)

  1. 質量%で、
    C:0.1〜0.4%、
    Si:0.01〜1.3%、
    Mn:0.3〜1.8%、
    S:0.001〜0.15%、
    Al:0.02〜0.1%、
    N:0.006〜0.025%
    を含有し、さらに、
    Cr:0.4〜1.8%、
    Mo:0.02〜1.0%、
    Ni:0.1〜3.5%、
    V:0.5%以下、
    Ti:0.1%以下
    の1種または2種以上を含有し、
    P:0.025%以下、
    O:0.0025%以下
    に制限し、残部が鉄及び不可避的不純物からなり、熱間圧延後のAlNの析出量が0.02%以上であり、マトリックス中に直径0.1μm以下のAlNの析出物を5個/μm2以上を有し、硬さ指数Hを下記で定義すると、HVでH+30以下であり、JIS G 0558で規定する脱炭深さ:DM−T0.2mm以下であることを特徴とする冷間加工性と浸炭時の粗大粒防止特性に優れた肌焼用鋼材。
    H=273.5C%+39.1Si+54.7Mn%+30.4Cr%+136.7Mo%+18.2Ni%
  2. 質量%で、
    C:0.1〜0.4%、
    Si:0.01〜1.3%、
    Mn:0.3〜1.8%、
    S:0.001〜0.15%、
    Al:0.02〜0.1%、
    Nb:0.005〜0.05%、
    N:0.006〜0.025%
    を含有し、さらに、
    Cr:0.4〜1.8%、
    Mo:0.02〜1.0%、
    Ni:0.1〜3.5%、
    V:0.5%以下、
    Ti:0.1%以下
    の1種または2種以上を含有し、
    P:0.025%以下、
    O:0.0025%以下
    に制限し、残部が鉄及び不可避的不純物からなり、熱間圧延後のAlNの析出量が0.02%以上であり、マトリックス中に直径0.1μm以下のAlN、Nb(CN)の析出物を5個/μm2以上を有し、硬さ指数Hを下記で定義すると、硬さがHVでH+30以下であり、JIS G 0558で規定する脱炭深さ:DM−T0.2mm以下であることを特徴とする冷間加工性と浸炭時の粗大粒防止特性に優れた肌焼用鋼材。
    H=273.5C%+39.1Si+54.7Mn%+30.4Cr%+136.7Mo%+18.2Ni%
  3. 質量%で、
    C:0.1〜0.4%、
    Si:0.01〜1.3%、
    Mn:0.3〜1.8%、
    S:0.001〜0.15%、
    Al:0.02〜0.1%、
    N:0.006〜0.025%
    を含有し、さらに、
    Cr:0.4〜1.8%、
    Mo:0.02〜1.0%、
    Ni:0.1〜3.5%、
    V:0.5%以下、
    Ti:0.1%以下
    の1種または2種以上を含有し、
    P:0.025%以下、
    O:0.0025%以下
    に制限し、残部が鉄及び不可避的不純物からなる鋼を、鋳造後A3点温度以下に冷却することなく分塊圧延を行う工程により製造され、かつAlNの析出量が0.005%以下である鋼片を用い、加熱温度を900〜1070℃、粗圧延から仕上げ圧延前までの圧延温度を800℃以上、仕上げ温度を800〜970℃、熱間圧延に引き続いて800〜500℃の温度範囲を1℃/秒以下の冷却速度で徐冷する条件により線材または棒鋼に熱間圧延し、熱間圧延後のAlNの析出量が0.02%以上とし、マトリックス中に直径0.1μm以下のAlNの析出物を5個/μm2以上とし、硬さ指数Hを下記で定義すると、硬さがHVでH+30以下とし、JIS G 0558で規定する脱炭深さ:DM−T0.2mm以下とすることを特徴とする冷間加工性と浸炭時の粗大粒防止特性に優れた肌焼用鋼材の製造方法。
    H=273.5C%+39.1Si+54.7Mn%+30.4Cr%+136.7Mo%+18.2Ni%
  4. 質量%で、
    C:0.1〜0.4%、
    Si:0.01〜1.3%、
    Mn:0.3〜1.8%、
    S:0.001〜0.15%、
    Al:0.02〜0.1%、
    Nb:0.005〜0.05%、
    N:0.006〜0.025%
    を含有し、さらに、
    Cr:0.4〜1.8%、
    Mo:0.02〜1.0%、
    Ni:0.1〜3.5%、
    V:0.5%以下、
    Ti:0.1%以下
    の1種または2種以上を含有し、
    P:0.025%以下、
    O:0.0025%以下
    に制限し、残部が鉄及び不可避的不純物からなる鋼を、鋳造後A3点温度以下に冷却することなく分塊圧延を行う工程により製造され、かつAlNの析出量が0.005%以下である鋼片を用い、加熱温度を900〜1070℃、粗圧延から仕上げ圧延前までの圧延温度を800℃以上、仕上げ温度を800〜970℃、熱間圧延に引き続いて800〜500℃の温度範囲を1℃/秒以下の冷却速度で徐冷する条件により線材または棒鋼に熱間圧延し、熱間圧延後のAlN、Nb(CN)の析出物を5個/μm2以上とし、硬さ指数Hを下記で定義すると、硬さがHVでH+30以下とし、JIS G 0558で規定する脱炭深さ:DM−T0.2mm以下とすることを特徴とする冷間加工性と浸炭時の粗大粒防止特性に優れた肌焼鋼材の製造方法。
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