以下、本発明に係る血液成分採取装置について実施の形態を挙げ、添付の図1〜図9を参照しながら説明する。
図1に示すように、本実施の形態に係る血液成分採取装置10は、装置本体12と、該装置本体12に装着される採血キット14とを有する。装置本体12は、箱形の機構本体部15と、該機構本体部15の背面左右から上方に延在する第1支柱16a及び第2支柱16bと、第1支柱16aの上端左側に設けられた重量計18と、第2支柱の上端部に設けられたモニタ20と、第1支柱16aの右側に設けられた複室バッグ126の有無を検出するバッグ検出センサ21と第2支柱16bの右側に設けられた除菌フィルター114の有無を検出するセンサ23a及び気泡除去用チャンバー112の有無及び抗凝固剤の滴下を検出するセンサ23bとを有する。モニタ20は血液成分採取装置10の入出力装置であり、大型のカラータッチパネル20aと、スピーカ20bとを有し、画像及び音声を用いた簡易な操作が可能である。スピーカ20bはステレオ式である。
機構本体部15は左側の制御機構部22と、右側の遠心分離機構部(分離手段)24とからなる。制御機構部22は、血液成分採取装置10の全体を統括的に制御する制御部26と、血液ポンプ28と、抗凝固剤ポンプ30と、濁度センサ32と、6つの気泡センサ34a、34b、34c、34d、34e、34fと、7つのクランプ36a、36b、36c、36d、36e、36f、36gと、ドナー圧力センサ38と、システム圧力センサ40とを有する。濁度センサ32及び各気泡センサ34a〜34fとしては、それぞれ、例えば、超音波センサ、光学式センサ、赤外線センサ等を用いることがきる。濁度センサ32と気泡センサ34dは一体的に構成されている。
遠心分離機構部24は採血キット14の遠心ボウル(遠心分離器)120が装着され、該遠心ボウル120内に導入された血液を遠心分離する機構部である。
遠心ボウル120の設定回転速度としては、例えば4200〜5800rpm程度に設定される。これにより、貯血空間内の血液は内層より血漿層(PPP層)、バフィーコート層(BC層)及び赤血球層(CRC層)に分離される。遠心ボウルの近傍には、血漿層とバフィーコート層との界面(以下、単に界面と呼ぶ。)の位置に応じて変化する透過率から該界面の位置を検出する光学式センサ(図示せず)が設けられている。
制御部26は、機構本体部15の内部に設けられている。制御機構部22における制御部26以外の機器は、採血キット14のチューブが装着可能なように上面、前面及び支柱に設けられている。
血液ポンプ28及び抗凝固剤ポンプ30は、チューブ側面にローラを押圧させながら連続的に転動させることにより内部の血液を押し出すローラポンプ式であり、血液に対して非接触の状態で駆動可能である。また、血液ポンプ28及び抗凝固剤ポンプ30は、制御部26の作用下に速度及び流体吐出方向が可変である。血液ポンプ28は、採血時には所定の正方向に回転することにより血液を引き込む吸引ポンプとして作用し、返血時には逆方向に回転することにより血液成分をチューブ104に送り出す吐出ポンプとして作用する。
濁度センサ32は、挟み込まれたチューブ内を通過する液体の濁度を検出するセンサである。気泡センサ34a〜34fは、挟み込まれたチューブ内を通過する液体の有無又は気泡を検出するセンサである。クランプ36a〜36gは、挟み込まれたチューブを両側から押圧して閉じ、又は開放して連通させ、開閉バルブとしての作用を奏する。これらのクランプ36a〜36gは、カセットハウジング42がはめ込み可能なように制御機構部22の上面における一区画に集中配置されている。カセットハウジング42は採血キット14のチューブの多くの部分を一体的に集約、配置するための樹脂製部材であり、該カセットハウジング42を制御機構部22の上面にはめ込むことにより所定のチューブが対応するクランプ36a〜36gによって開閉可能に配置される。
ドナー圧力センサ38は、採血キット14における採血経路系統(採血回路)14a(図3参照)の一部が差し込まれ、採血ラインの圧力を示すドナー圧力Pdを計測するセンサであり、採血時には採血圧力センサとして作用し、返血時には返血圧力センサとして作用する。
システム圧力センサ40は、処理経路系統14b(図3参照)の一部が差し込まれ、回路内の圧力を示すシステム圧力(回路内圧力)Psを計測するセンサである。なお、装置本体12にセットされた状態の採血キット14におけるチューブの配置は本発明の要旨ではないので、図1においてはチューブの一部を省略して図示している。
図2に示すように、制御部26は、出力用として血液ポンプドライバ76と、抗凝固剤ポンプドライバ78と、モータドライバ80と、クランプドライバ82とを有し、血液ポンプ28、抗凝固剤ポンプ30、モータ64及びクランプ36a〜36gを制御する。血液ポンプドライバ76は、血液ポンプ28の速度及び吐出方向を制御する。抗凝固剤ポンプドライバ78は、抗凝固剤ポンプ30の速度を制御する。モータドライバ80はモータ64の回転速度を制御する。クランプドライバ82は、クランプ36a〜36gを個別に開閉制御する。
また、制御部26は、各センサの入力制御を行う入力インターフェース84と、モニタ20の入出力を行うモニタインターフェース86とを有する。さらに、制御部26は、各機能部と協動して採血処理動作を制御するモード制御部88と、各センサの入力信号等に基づいて異常の監視を行う異常監視部90と、所定のプログラムやデータの記憶を行う記憶部92と、タイマ94と、外部機器とのデータ通信を行う通信部96とを有する。
モード制御部88には、採血工程における制御を行う吸引制御部88aと、返血工程における制御を行う吐出制御部88bとを有する。吸引制御部88a及び吐出制御部88bは、ドナー圧力Pdに基づいて血液ポンプ28の回転速度Nを制御する機能を含む。
制御部26内の機能の一部は、記憶部92に記録されたプログラムを図示しないCPUによって読み込み実行することにより実現される。
図3に示すように、採血キット14は、ドナーから血液を採取及び返還するための採血経路系統14aと、採取した血液を遠心分離又は循環等させる処理経路系統14bとを有する。
採血経路系統14aは、ドナーに穿刺する中空の採血針100と、一端が採血針100に接続されて他端が分岐継手102を介して処理経路系統14bに接続されたチューブ104と、該チューブ104の途中に設けられたチャンバー106と、抗凝固剤が入った抗凝固剤容器107(図1参照)に接続される抗凝固剤容器接続用針108と、一端が該抗凝固剤容器接続用針108に接続されたチューブ110と、該チューブ110の途中に設けられた気泡除去用チャンバー112及び除菌フィルター(異物除去用フィルター)114とを有する。チューブ104とチューブ110は、採血針100の近傍に設けられた分岐継手116により接続されている。
チューブ104(及び後述するチューブ140)は採血、返血に共用であり、採血ライン及び返血ラインとして作用する。
チャンバー106は、チューブ104を通過する血液中の気泡及びマイクロアグリゲートを除去する。チャンバー106の一端にはチューブ104から分岐した短いチューブ118が設けられている。該チューブ118の端部は通気性かつ菌不透過性のフィルター(図示せず)に接続されるとともに、ドナー圧力センサ38に挿入されており、ドナー圧力Pdを計測可能である。
抗凝固剤容器接続用針108に接続された抗凝固剤容器107には、ACD−A液のような抗凝固剤が蓄えられている。チューブ110の一部は抗凝固剤ポンプ30に装着されており、該抗凝固剤ポンプ30の作用下に抗凝固剤容器接続用針108から供給された抗凝固剤はチューブ110及び分岐継手116を介してチューブ104内の血液中に抗凝固剤が混入される。チューブ110の途中には気泡センサ34aが装着される。
チャンバー106と分岐継手102との間には、気泡センサ34b及びクランプ36aが装着される。クランプ36aは分岐継手102の近傍に装着されており、クランプ36aを開くことにより採血経路系統14aと処理経路系統14bは連通する。チューブ104には直列して2つの気泡センサ34e及び34fが装着されており、気泡や空気を確実に検知することができる。
処理経路系統14bは遠心ボウル120と、血漿採取バッグ122と、血小板採取バッグ124と、中間バッグ126aと、エアーバッグ126bと、バッグ128と、白血球除去フィルター130とを有する。
血漿採取バッグ122及び血小板採取バッグ124は、遠心分離等の処理により得られた血漿及び血小板を蓄えるバッグである。血漿採取バッグ122は重量計18(図1参照)のフック18aに懸架され、収納された血漿の重量を計測することができる。血小板採取バッグ124は、機構本体部15の前面に懸架される(図1参照)。
中間バッグ126aは、採取した血小板(濃厚血小板)を一時的に貯留するための容器である。エアーバッグ126bは、回路内の無菌空気を一時的に収納するための容器である。エアーバッグ126bと中間バッグ126aとは、回路的には分離した独立の容器であるが、物理的には一体的であって複室バッグ126を構成している。複室バッグ126はバッグ検出センサ21(図1参照)のフック21aに懸架される。
採血を行う際には、遠心ボウル120の貯血空間内等の空気はエアーバッグ126b内に移送され、収納される。返血工程の際には、エアーバッグ126b内に収納されている空気は、貯血空間内に戻され、所定の血液成分が、ドナーへ返還される。
バッグ128は血小板採取バッグ124に接続されたバッグであり、成分採血の終了後、血小板採取バッグ124内の空気を排出する際に用いられる。
血漿採取バッグ122、血小板採取バッグ124、中間バッグ126a、エアーバッグ126b及びバッグ128は、それぞれ樹脂製(例えば、軟質ポリ塩化ビニル)の可撓性を有するシート材を重ね、その周縁部を融着(熱融着、高周波融着、超音波融着等)または接着剤により接着等して袋状にしたものが使用される。
なお、血小板採取バッグ124に使用されるシート材としては、血小板保存性を向上するためにガス透過性に優れるものを用いることがより好ましい。このようなシート材としては、例えば、ポリオレフィンやDnDP可塑化ポリ塩化ビニル等を用いることができる。
白血球除去フィルター130は、中間バッグ126aから血小板採取バッグ124に血液成分を移送する際に、血液成分中の白血球を分離除去するフィルターである。図1から明らかなように、白血球除去フィルター130は、中間バッグ126aより低く、血小板採取バッグ124より高い位置に配置される。
次に、処理経路系統14bの各構成機器を接続するチューブについて説明する。処理経路系統14bの端部である分岐継手102と遠心ボウル120の導入口との間はチューブ140で接続されている。該チューブ140の一部は血液ポンプ28に装着される。したがって、血液ポンプ28を正転させることにより血液を採血経路系統14aから遠心ボウル120内に導入し、又は処理経路系統14b内で所定の循環動作を行うことができる。また、血液ポンプ28を逆転させることにより、所定の血液成分を採血経路系統14aに導出し、ドナーに返還することができる。
遠心ボウル120の排出口にはチューブ142が接続されており、該チューブ142は分岐継手144を介して三つ股に分岐してチューブ146、チューブ148及びチューブ150に接続されている。チューブ142は、濁度センサ32及び気泡センサ34dに直列的に接続されている。
チューブ146はエアーバッグ126bに接続されており、その途中はクランプ36eに装着されている。チューブ148の端部は通気性かつ菌不透過性のフィルター(図示せず)に接続されるとともに、システム圧力センサ40に挿入されており、システム圧力Psを計測可能である。
チューブ150の端部は血漿採取バッグ122に接続されており、その途中には分岐継手152が設けられ、チューブ154を介して中間バッグ126aに接続されている。チューブ154はクランプ36dに装着されている。分岐継手152と血漿採取バッグ122との間のチューブ150はクランプ36cに装着されている。
中間バッグ126aと血小板採取バッグ124との間はチューブ156により接続されており、その途中には白血球除去フィルター130が設けられている。 中間バッグ126aと血小板採取バッグ124との間のチューブ156は、気泡センサ34c及びクランプ36gに装着されている。白血球除去フィルター130の端部には、チューブ156から短く分岐したフィルター160が設けられている。フィルター160はベントフィルター及びキャップからなる。
気泡センサ34cとクランプ36gとの間のチューブ156には分岐継手162が設けられ、チューブ164を介して、血漿採取バッグ122に接続されている。チューブ164の途中には分岐継手166が設けられている。該分岐継手166と分岐継手102との間はチューブ168により接続されている。分岐継手162と分岐継手166との間のチューブ164はクランプ36fに装着されている。チューブ168における分岐継手102の近傍部には、クランプ36bが装着されている。
血小板採取バッグ124とバッグ128はチューブ158により接続されている。
このように構成される採血キット14は予め所定の滅菌処理がなされている。なお、採血キット14には、チューブが集中配置されたカセットハウジング42、及びチューブの一部とフィルター160とを保持するフィルターカセット170(図1参照)が設けられている。
次に、血液成分採取装置10により成分採血を行う手順について図4〜図7を参照しながら説明する。
先ず、図4のステップS1において所定の初期処理を行う。初期処理としては、チューブ110とチューブ104の採血針100からチャンバー106までを、抗凝固剤でプライミングし、その後、ドナーの血管に採血針100を穿刺する。この後、モニタ20のカラータッチパネル20aを操作して成分採血処理を開始する。これ以降の手順は主に制御部26の作用下に自動的に行われる。
ステップS2において第1の血漿採取工程を行う。この第1の血漿採取工程は、遠心ボウル120の貯血空間内に血液を導入して遠心分離することにより得られる血漿を血漿採取バッグ122内に採取する工程である。
ここで、血液(抗凝固剤添加血液)は、チューブ104を介して移送され、遠心ボウル120の導入口よりロータの貯血空間内に導入される。このとき、遠心ボウル120内の空気は、チューブ142及びチューブ146を介してエアーバッグ126b内に送り込まれる。
貯血空間内に所定量の血液が導入された状態で遠心ボウル120のロータの回転を開始する。ロータの回転数はステップS9まで一定に維持される。ロータの回転により、貯血空間内に導入された血液は、内側から血漿層、バフィーコート層、赤血球層の3層に分離される。なお、第2サイクル以降は、血液ポンプ28と同時にモータ64を駆動する。
ステップS3において、チューブ142に設けられた気泡センサ34dの信号を監視し、チューブ142を流れる流体が空気から血漿に変わったことを検出した後クランプ36eを閉じるとともにクランプ36cを開放する。貯血空間の容量を越える血液が貯血空間内に導入されると、遠心ボウル120の排出口から血漿が流出することから、このタイミングを気泡センサ34dにより検出してクランプ操作を行い、チューブ142及びチューブ150を介して血漿を血漿採取バッグ122内に導入、採取するように切り替える。血漿採取バッグ122に導入された血漿の重量は、重量計18により計測される。重量計18から得られる重量信号に基づき、血漿採取バッグ122内に所定量の血漿が採取されたことが確認された後ステップS4へ移る。
ステップS4において、定速血漿循環工程を行う。定速血漿循環工程は、血漿採取バッグ122内の血漿を貯血空間を含む循環回路で定速にて循環させる工程である。つまり、クランプ36aを閉じ、クランプ36bを開放するとともに抗凝固剤ポンプ30を停止する。これにより、採血を一時中断するとともに、血漿採取バッグ122内の血漿を循環させる経路が形成される。この循環回路は、血漿採取バッグ122からチューブ164、168及び140を介して貯血空間内に至り、遠心ボウル120の排出口から流出してきた血漿をチューブ142及び150を介して血漿採取バッグ122内に回収する経路である。この定速血漿循環工程を所定時間行った後、ステップS5へ移る。
ステップS5において、第2の血漿採取工程を行なう。第2の血漿採取工程では、第1の血漿採取工程と同様に血漿の採取及び遠心分離を行なう。これにより、貯血空間内の赤血球量が増加、すなわち、赤血球層の層厚が増大するのに伴い、界面も徐々に遠心ボウル120の回転軸に近づくので、光学式センサ62からの検出信号に基づいて界面が所定レベルに到達したことを確認した後、ステップS6へ移る。
ステップS6において加速血漿循環工程を行なう。加速血漿循環工程は、血漿採取バッグ122内の血漿を貯血空間内に加速させながら循環回路内で循環させる工程である。血漿の循環速度が所定速度に到達した後、ステップS7へ移る。
ステップS7において第3の血漿採取工程を行う。第3の血漿採取工程では、第1及び第2の血漿採取工程と同様に、血漿の採取を行なう。血漿採取バッグ122内に所定量の血漿が採取されたことが確認された後、ステップS8へ移る。
ステップS8において血小板採取工程を行なう。血小板採取工程は血漿採取バッグ122内の血漿を、貯血空間内で第1の加速度にて加速させながら循環させ、次いで、第1の加速度より大きい第2の加速度に変更し、該第2の加速度にて加速させながら循環させて、貯血空間内より血小板を流出させ、濃厚血小板を中間バッグ126a内に採取(貯留)する工程である。血小板採取工程において所定の操作を行った後、クランプ36eを開放し、この他のクランプ36a〜36d、36f及び36gを閉じた状態とし、血液ポンプ28を停止する。
ステップS9においてモータ64の回転数を制御してロータを減速及び停止させる。
ステップS10において返血工程を開始する。返血工程はロータの貯血空間内に残存する血液成分(主に、赤血球、白血球)をドナーに返血する工程である。つまり、クランプ36a及びクランプ36eを開放するとともに、血液ポンプ28を逆転する。これにより、ロータの貯血空間内に残存する血液成分は遠心ボウル120の導入口から排出され、チューブ104(採血針100)を介してドナーに返血(返還)される。返血工程の詳細については後述する。
この後、所定の終了条件に基づいて返血工程を終了する。
ステップS11において、所定のサイクル数を終了したか否かを確認し、未終了であるときにはステップS2へ戻り採血、返血等の処理を続行する。
なお、最終サイクル時には、ステップS5で濾過工程を開始する。濾過工程は、中間バッグ126a内に一時的に採取(貯留)した濃厚血小板を、白血球除去フィルター130に供給して、濃厚血小板の濾過、すなわち、濃厚血小板中の白血球の分離除去を行なう工程である。白血球が除去された濃厚血小板は血小板採取バッグ124に貯溜される。
次に、ステップS2、S5及びS7(図4参照)において行われる採血処理について図5を参照しながら説明する。なお、採血処理におけるドナー圧力Pdは負圧である。以下の採血処理におけるドナー圧力Pdの大小の比較は絶対値で判断するものとする。
先ず、ステップS101において、血液ポンプ28を回転させて採血を開始する。血液ポンプ28は所定の正方向に回転させる。血液ポンプ28の回転速度Nは引き込み量換算の初期値で20mL/minに設定する。
ステップS102において、採血の終了判断をする。すなわち、重量計18により血漿採取バッグ122に採取された血漿の重量を確認し、所定量が得られている場合には血液ポンプ28を停止させて採血を終了し、未だ所定量が得られていない場合にはステップS103へ移り、採血を継続する。
ステップS103において、その時点の血液ポンプ28の回転速度Nが予め設定した最高速度NM1に達しているか否かを確認する。N<NM1であるときには、ステップS104へ移り、N≧NM1であるときには、ステップS105へ移る。NM1は、例えば60mL/min程度に設定される。
ステップS104において、血液ポンプ28の回転速度Nを適度な幅ΔNだけステップ状(階段状)に増速するように指令値を変更する。つまり、N←N+ΔNと設定する。ΔNは、吸い込み量換算で2〜20mL/min程度で、より好ましくは3〜8mL/minに設定するとよい。
例えば、図6に示すように、20mL/minを初期値として5mL/minずつ吸い込み量を増加させるとよい。この場合、0mL/minから20mL/minまでの間隔、及びこれ以降に5mL/mim毎に増加させる間隔は1secに設定されている。
血液ポンプ28の回転速度Nの指令値は、細線200で示すようにステップ状に増加し、これに対応するドナー圧力Pdは指令値がステップ状に増加する毎に、当初の急な傾斜を示して一旦オーバシュートした後に次第に滑らかな傾斜となって最終値に収束する波形となる。
ステップS105において、ドナー圧力センサ38からドナー圧力Pdを取得し、記憶部に記憶する。記憶部には所定量の記憶領域が確保されており、前回に記憶したアドレスに隣接する次のアドレスに今回取得したドナー圧力Pdを記憶することにより、所定の離散時間毎のドナー圧力Pdが連続的に記憶される。ドナー圧力Pdの記憶は、ステップS108の作用下に100msec毎に行われる。
ステップS106において、所定のタイマの値を認識し、ステップS104におけるステップ状の増速時からの経過時間を確認する。該経過時間が上昇インターバルTで示される時間未満であるときにはステップS107へ移り、Tsec経過しているときにはステップS109へ移る。上昇インターバルTは、初期状態では1secに設定されている。
この上昇インターバルTの初期値は、十分に短い時間に設定するとよく、例えば、0.3〜5.0sec、より好ましくは0.5〜3.0secに設定するとよい。このように十分に短い時間に設定することにより、回転速度Nを迅速に加速させることができ、採血時間の短縮が図られる。
ステップS107においては、記憶した複数のドナー圧力Pdの値から、その傾きを求める。
ステップS108においては、所定のタイマの値を認識し、ステップS105におけるドナー圧力Pdの記憶時からの経過時間を確認する。該経過時間が100msec未満であるときにはステップS106へ戻り、100msec経過しているときにはステップS105へ戻り、ドナー圧力Pdの再計測を行う。
また、ステップS109においては、ステップS104におけるステップ状の増速時からTsec間に複数回計測したドナー圧力Pdが上昇し、平衡となっているか否かを確認する。該条件が成立しているときにはステップS102へ移り、非成立であるときにはステップS110へ移る。ドナー圧力Pdの平衡の判断は、ステップS107で繰り返して得られた複数のドナー圧力Pdの計測値のうち、直前の所定回数分がほぼ一定となっていることに基づいて判断される。
ステップS110において、ドナー圧力Pdが下降傾向を示しているか否かを確認する。ドナー圧力Pdが下降しているときにはステップS111へ移り、それ以外のときにはステップS105へ移る。
ここで、ドナー圧力Pdが下降傾向を示している場合には、血液ポンプ28の回転速度Nを上げているにも関わらず、静脈内の血流速度が血液ポンプ28の吸い上げ速度に追いかない状況が発生しつつあると考えられる。このような兆候がある状態で回転速度Nをさらに上昇させると、採血針100が静脈壁を吸引するように作用し、針穴に静脈壁が張り付き又は針先が突き刺さる懸念がある。
このような場合には、針穴が塞がってしまい、回転速度Nを上げたにも拘わらず血液の吸い上げ速度が却って遅くなるか、吸い上げることができなくなるので、ステップS111以降の所定の対応処理を行う。また、この時点までは、回転速度NをT=1secという短い時間毎に、且つ適度な幅ΔN毎に回転速度Nを上昇させているので、採血速度は巨視的には迅速で滑らかな上昇となっている。さらに、適度な幅ΔN毎に回転速度Nを上昇させ且つ各段階でドナー圧力Pdの平衡確認を行っていることから、採血針100の針先に静脈壁が張り付き又は突き刺さる以前にその兆候を検知して事前の対応が可能となる。
ステップS111において、血液ポンプ28の回転速度Nを幅ΔNだけステップ状に減速するように指令値を変更する。これにより、連続的(直線的)に減速するよりも早い圧力回復が期待できる。つまり、N←N−ΔNと設定する。基本的にこの際の減速幅は、前記のステップS104における増速の幅ΔNと等しく設定されるが、設計条件に応じてこれよりも大きく設定してもよい。
ステップS112において、ドナー圧力センサ38からドナー圧力Pdを取得し、記憶部に記憶する。
ステップS113において、ドナー圧力Pdが所定の閾値圧力Pds1(例えば、−30〜−100mmHg)以下まで低下したか否かを確認する。Pd<Pds1であるときにはステップS114へ移り、Pd≧Pds1であるときにはステップS115へ移る。
ステップS114において、所定のタイマの値を認識し、ステップS112におけるドナー圧力Pdの記憶時からの経過時間を確認する。該経過時間が30msec未満であるときにはステップS113へ戻り、30msec経過しているときにはステップS111へ戻り、回転速度Nの減速及びドナー圧力Pdの再計測を行う。
ステップS115において、回転速度Nの上下動回数を示すカウンタCをC←C+1としてインクリメントする。カウンタCは初期状態において0に設定されており、回転速度Nを上下動させた回数を示すことになる。すなわち、図7に示す時刻t1’ではC←1、時刻t2’ではC←2、時刻t3’ではC←3と設定される。
ステップS116において、カウンタCが3に等しいか否かを確認し、C<3であるときにはステップS105へ移り、C=3であるときにはステップS117へ移る。図7の例では時刻t3であるときにはステップS117へ移ることになる。
カウンタCが3に等しい場合には、そのドナーに関しては可能な採血速度が低く、それ以上同様の処理を繰り返しても速い採血は望めないことから、ステップS117以降の処理によって該ドナーに応じて緩やかな採血速度の上昇を試みる。なお、カウンタCの比較閾値は3に限らず、例えば1〜30回の範囲で設定可能である。
ステップS117では、それまで行った採血の平均採血速度Navを求める。
ステップS118において、回転速度NをN←Navと設定する。平均採血速度Nav程度までなら迅速に上昇させても特段の不都合はないためである。
ステップS119において、上昇インターバルTをT←10と設定して、ステップS101へ戻る。これにより、図7に示すように、これ以降の回転速度Nの上昇間隔が比較的長い10secとなり、迅速な採血に不向きであるドナーに対しても確実な採血が可能となる。
なお、図7に示すように、回転速度Nが平均採血速度Navに達するまでは、上昇インターバルTを1secとして、その後10secまでの任意の値にしてもよい。
なお、本実施の形態に係る血液成分採取装置10では採血速度が0まで下がった場合にはそのまま所定時間(例えば、0〜30sec、好ましくは3〜10sec)血流の回復を待つ。血流が回復した場合には、自動的に採血速度を上昇させ、回復しない場合には所定のエラー出力を出してオペレータに処置を要求する。
上述したように、図5に示す処理によれば、血液ポンプ28の回転速度Nを所定のステップ状に上昇させながら、その都度、ドナー圧力Pdが適正に上昇し且つ平衡となることを確認することにより、静脈内の血流速度が血液ポンプ28の吸い上げ速度に追いつくことが担保され、回転速度Nを上昇させることができる。これにより、ドナー毎及び穿刺する静脈毎に異なる適正な吸引速度に対応して回転速度Nを設定することができる。したがって、無理のない範囲でドナーを拘束する時間の短縮が図られる。また、事前のテスト的な採血や、実験式を求めるような複雑な演算手段が不要で、構造及び手順が簡便となる。
さらに、ドナー圧力Pdが上昇せず又は不平衡である状態が3回繰り返される場合には、その圧力上昇条件は該ドナーにとって適当ではないと判断されるため、上昇インターバルTを延ばしてドナーにとってより好適な採血の実現が図られる。
さらにまた、固定的な式に基づく処理ではなく、採血中のステップ状上昇を行う度にドナー圧力Pdを確認するので、例えば、採血中におけるドナーの体調の変動にも対応可能である。
次に、ステップS10(図4参照)において行われる返血処理について図8を参照しながら説明する。
先ず、ステップS201において、血液ポンプ28を回転させて返血を開始する。血液ポンプ28は採血時とは逆方向に回転させる。血液ポンプ28の回転速度Nは送り出し量換算の初期値で20mL/minに設定する。
ステップS202において、返血の終了判断をする。すなわち、気泡センサ34bにより空気の通過を検出した場合には血液ポンプ28をさらに所定数だけ回転させた後に停止させて返血を終了し、空気が検出されない場合にはステップS203へ移り、返血を継続する。
ステップS203において、その時点の血液ポンプ28の回転速度Nが予め設定した最高速度NM2に達しているか否かを確認する。N<NM2であるときには、ステップS204へ移り、N≧NM2であるときには、ステップS205へ移る。NM2は、ドナーへの採血針100の穿刺状態やドナーの体調に合わせてオペレータによって適宜調整され、例えば90mL/min程度に設定される。
ステップS204において、血液ポンプ28の回転速度Nを直線状に上昇するように指令値を変更する。ここで、直線状の上昇とは、厳密な意味での回転速度Nの連続的な加速に限らず、実質的にはステップ幅0.5sec以下の階段状の加速もを含む意味である。
回転速度Nの上昇の程度は、上昇傾斜Aによって設定されており、初期値としてA=5mL/min/secに設定されている。
ステップS205において、ドナー圧力センサ38からドナー圧力Pdを取得し、記憶部に記憶する。ドナー圧力Pdの記憶は、ステップS207の作用下に30msec毎に行われる。
ステップS206において、ドナー圧力Pdが所定の閾値圧力Pds2(例えば、180〜220mmHg)以上となったか否かを確認する。Pd≧Pds2であるときにはステップS208へ移り、Pd<Pds2であるときにはステップS207へ移る。
ステップS207においては、所定のタイマの値を認識し、ステップS205におけるドナー圧力Pdの記憶時からの経過時間を確認する。該経過時間が30msecを経過しているときにはステップS202へ戻り、30msec未満であるときにはステップS206へ戻る。
また、ステップS208においては、記憶した複数のドナー圧力Pdの値から、その傾きを求める。
ステップS209において、ドナー圧力Pdにステップ状の圧力上昇があるか否かを確認する。図9における時刻t4のように、ステップ状の圧力上昇が認められる場合にはステップS219へ移り、それ以外のときには、ステップS210へ移る。
ここで、ドナー圧力Pdが過度な上昇を示している場合には、静脈内に過分に血液成分が送り出されて該成分が圧縮気味に滞留し、その部分の圧力が上昇して針を押し戻すように作用し始める兆候と考えられる。このような兆候がある状態で回転速度Nをさらに上昇させると、針先が静脈から抜けて皮下注射の状態となり、血液成分が皮下に送り出されてしまい、内出血と同様の状態となる懸念がある。したがって、このような場合には、ステップS210以降の所定の対応処理を行う。また、この時点までは、回転速度Nを直線状に回転速度Nを上昇させているので、流量の急変動がないため針外れ等が防止できる。
なお、血液ポンプ28の加速を停止し、又はその回転自体を停止するための条件としては、設定された最高速度NM2に達する以前にドナー圧力Pdが所定圧力(例えば、220〜300mmHg)を超え、又はステップ状に上昇(例えば、20〜80mmHg/secの速度の上昇)したことを条件とすればよい。これにより、皮下注射の状態になることが防止できる。
ステップS210〜ステップS217は前記のステップS111〜S118と同様の処理である。
ステップS218において、上昇傾斜AをA←2.5と設定して、ステップS202へ戻る。これにより、これ以降の回転速度Nの上昇傾斜が比較的緩やかな2.5mL/secとなり、迅速な返血に不向きであるドナーに対しても確実な返血が可能となる。
一方、ステップS219以降では、ドナー圧力Pdがステップ状に上昇していることから、皮下注射の状態となっている疑念があるため確認を行い、所定の対応処理を行う。
この場合、先ずステップS219において、ステップS209からの移行時から所定の十分短い設定時間(例えば、0.5sec)が経過したか否かを確認し、経過時にはステップS220へ移り、未経過時には待機する。
ステップS220において、ドナー圧力センサ38からドナー圧力Pdを取得し、記憶部に記憶する。
ステップS221においては、血液ポンプ28を停止させ、ステップS222においては、所定のエラー出力をする。エラー出力としては、モニタ20におけるエラー表示やスピーカ20bからの音響・音声警報が上げられ、返血を中断する(ステップS223)。
この場合、ドナー圧力Pdのステップ状の上昇が検知されたステップS209の時点からの経過時間は十分に短く設定されているため、成分の返血による内出血は非常に少ない量に抑制される。
この後、ステップS224において、取得したドナー圧力Pdが所定の圧力(具体的には回転速度Nが0のときの圧力)まで低下しているか否かを確認し、低下しているときには皮下注射の状態ではないことからステップS202へ戻り返血を続行する。
図9の時刻t5のように、ドナー圧力Pdが所定の圧力まで低下していないときには、皮下注射の状態となっている可能性があり、ステップS220へ戻る。
上述したように、図8に示す処理によれば、血液ポンプ28の回転速度Nを直線状に上昇させることから、流量の急変動がないため針外れ等が防止できる。また、設定された最高速度NM2に達する以前にドナー圧力Pdが所定圧力を超えたことを確認したときには血液ポンプ28の加速を停止し、又は回転自体を停止することにより、皮下注射の状態になることが防止できる。また、ドナー毎及び穿刺する静脈毎によって異なる適正な吐出速度に対応して回転速度Nを設定することができる。したがって、無理のない範囲でドナーを拘束する時間の短縮が図られるとともに、複雑な演算手段が不要で、構造及び手順が簡便となる。
なお、回転速度Nの上昇は必ずしも直線状に限らず、多少の曲線状であってもよく、流量の急変動がない程度に連続的であればよい。
また、ドナー圧力Pdが過度な上昇傾向を示す状態が所定回数(例えば、1〜20回)繰り返される場合には、その圧力上昇条件は該ドナーにとって適当ではないと判断されるため、上昇傾斜Aを緩やかにしてドナーにとってより好適な採血の実現が図られる。
さらに、固定的な式に基づく処理ではなく、返血の直線状上昇の最中にリアルタイム的にドナー圧力Pdを確認するので、例えば、返血中におけるドナーの体調の変動にも対応可能である。
さらにまた、返血速度が0となった場合にも、そのまま所定時間返血圧力の回復を待ち、圧力が回復した場合には自動的に返血を継続することにより、エラーの発生や返血の途中の中止の頻度を低減することができる。
上記の説明では、採血の後に返血を行う片腕採取方式を例にしたが、採血と返血とを同時に行う両腕連続方式に対しても本発明が適用可能であることはもちろんである。両腕採取方式の場合、採血圧力センサと返血圧力センサ、及び吸引ポンプと吐出ポンプとをそれぞれ独立的に設けるとよい。
本発明に係る血液成分採取装置は、上述の実施の形態に限らず、本発明の要旨を逸脱することなく、種々の構成を採り得ることはもちろんである。