JP4889328B2 - キク品種識別方法 - Google Patents

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Description

本発明は、キク品種の識別方法及びキク品種識別マーカーに関する。
日本における平成16年産の切り花類の作付面積は18,250haであり、そのうち輪ギクの栽培面積は3,284haで約18%を占めている。中でも白系輪ギクは輪ギク全体の半分以上を占める。
白系輪ギクについては、その需要が業務用(特に葬儀用)にほぼ特化しているため、主力となる品種はごく限られているのが現状である。近年では花色が純白で生育特性が優れている白系輪ギク品種「神馬」が多く生産されている。さらに、最近になって、鹿児島県と日本原子力研究開発機構とが、「神馬」に炭素イオンビームを照射し人為的に突然変異を誘発することにより、白系輪ギクの新品種「新神(あらじん)」を育成した。新品種「新神」は、原品種「神馬」と比較して、9〜12月開花の栽培条件下において側枝(わき芽)の発生が半分から1/3に減少し、葉の枚数及び花弁数が増加し、葉の節間が短くなるという有利な特性を有する。特に原品種「神馬」の場合、側枝の発生が多く、摘蕾作業が全労働時間の1/4を占めており生産者にとって大きな負担となっているため、新品種「新神」により摘蕾作業に要する労働時間が大幅に削減されることが期待されている。
新品種「新神」については、品種登録出願済であり(品種登録出願第15821号)、平成17年12月現在、13県22団体について品種の利用許諾を行っている。平成18年の春からは鹿児島県外へも種苗の供給が開始される予定である。すでに鹿児島県では「新神」の生産・出荷が始まっており、県内では急速に「新神」の普及が始まっている。
一方で、キクは栄養繁殖性の植物であるため一つの個体から多くのクローン個体を増やすことが可能であり、またキク生産現場において、一旦入手経路が不確実な品種が混入した場合、それがどのキク品種であるかを断定することは困難であることから、キクの優良品種の盗難や育成権者の許諾無しの栽培を防止・規制することが非常に困難な現状がある。このため優良なキク品種を高い精度で同定できる品種識別法の開発が望まれており、新品種「新神」についても、高精度に品種識別できる技術の開発が求められている。
現在、新品種「新神」を原品種「神馬」及び他の白系輪ギク品種と識別する方法としては、側枝数、花弁数、節間の伸長等の品種特性(品種登録出願時に記載した特性など)に基づいて、目視によって識別する方法がある。しかしながら、キクは栽培条件によって植物個体間の生育量が大きく変動するため、キク生産現場等で目視によって品種識別を行うことは困難である。
特定の植物品種を他品種と識別するための目視以外の方法としては、RFLP(Restriction Fragment Length Polymorphism;制限酵素断片長多型)分析、RAPD(Random Amplified Polymorphic DNA;ランダム増幅多型DNA)分析、AFLP(Amplified Fragment Length Polymorphism;増幅断片長多型)分析、CAPS(Cleaved Amplified Polymorphic Sequence;増幅切断多型配列)分析等の手法が検討されており、いくつかの作物ではそれらの手法を用いた品種識別法が実用化されている。しかしキクでは、他の作物と比較してゲノムサイズが非常に大きく、かつ倍数性が高い(6倍体)ため、上記のような手法でDNA多型を検出しようとしても、多型検出感度が極端に悪くなるかあるいは検出不能になる可能性が高いと考えられ、実用上かなりの困難を伴う。さらに、イオンビーム照射による突然変異によって育成された「新神」の場合には、原品種「神馬」との間で大部分の遺伝的情報が同一であると考えられるため、それらのDNAを塩基配列レベルで分析して「新神」を識別することも非常に困難である。実際、イオンビーム照射により育成した各種キク品種について、DNA分析に基づく有効な品種識別法はこれまで報告されていない。
別の植物品種識別法として、植物のゲノム中に多数存在する反復配列の1つである転移因子レトロトランスポゾンを利用する方法が知られている。転移因子とは、染色体上のある部位から別の部位へ転移可能な、定まった構造をもつDNA単位である。その転移因子の1種であるレトロトランスポゾンは、そのゲノム中の配列が転写されると、さらに逆転写されて元の配列のコピーDNA断片を生成し、それがゲノム中に挿入されることにより新たなゲノム中の部位にコピーされる。こうして一旦コピー(挿入)されたレトロトランスポゾン配列は安定的に遺伝するため、通常、植物ゲノム中に多数散在しており、そのため優れた遺伝的マーカーとなりうる。イネやサツマイモでも、このレトロトランスポゾンを品種識別マーカーとして使用できることが報告されている(非特許文献1及び2)。サツマイモでは、レトロトランスポゾンに隣接する領域に設計したプライマーによるPCR増幅に基づいてゲノム中の特定部位にレトロトランスポゾンが存在するか否かを判定することにより品種識別する方法も報告されている(特許文献1)。しかしキクではほとんどゲノム解析が進んでおらず、レトロトランスポゾンについても部分配列が報告されているに過ぎない(非特許文献3、及びDDBJ/GenBank/EMBLデータベース・アクセッション番号AB033265)。
特開2006−42808号公報 Fukuchi,A. F.,kikuchi and H.Hirochika、Jpn.J.Genet、(1993) 65、p.195〜204 大江夏子、田原誠、山下裕樹、丸谷優、蔵之内利和 著、「育種学研究」(2004) 6、p.169〜177 Ohtsubo,H., Kumekawa,N., Ohtsubo,E.、Genes Genet. Syst、(1999) 74、p.83〜91
本発明は、白系輪ギク品種「新神」又はその由来系統に属するキクを検出可能なキク品種識別方法を提供することを目的とする。
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を行った結果、植物ゲノム中に比較的高頻度に存在しかつ散在する反復配列の1つ転移因子レトロトランスポゾン配列に着目し、キクレトロトランスポゾンの塩基配列内にプライマーを設計して、それを用いたプライマーセットにより核酸増幅を行ったところ、白系輪ギク品種「新神」又はその由来系統に属するキク個体とそれ以外の白系輪ギク個体との間で、異なる核酸増幅産物生成パターンを得られることを見出し、本発明を完成させた。
すなわち、本発明は以下を包含する。
[1] キクレトロトランスポゾン配列内に設計されたプライマーを含むプライマーセットを用いてキク由来のゲノムDNAを核酸増幅し、得られる増幅産物のパターンに基づいて白系輪ギク品種を識別することを特徴とする、キク品種の識別方法。
[2] 前記プライマーセットが、以下の(a)〜(c)のうちの少なくとも1つである、上記[1]に記載の方法。
(a)配列番号1で示す塩基配列を含むオリゴヌクレオチドプライマー及び配列番号2で示す塩基配列を含むオリゴヌクレオチドプライマーの組み合わせであるプライマーセット
(b)配列番号3で示す塩基配列を含むオリゴヌクレオチドプライマー及び配列番号5で示す塩基配列を含むオリゴヌクレオチドプライマーの組み合わせであるプライマーセット
(c)配列番号4で示す塩基配列を含むオリゴヌクレオチドプライマー及び配列番号5で示す塩基配列を含むオリゴヌクレオチドプライマーの組み合わせであるプライマーセット
[3] 白系輪ギク品種の識別が、「新神」又は「新神」由来系統に属するか否かの識別である、上記[1]又は[2]に記載の方法。
[4] 以下の(a)〜(c)のいずれかである、プライマーセット。
(a)配列番号1で示す塩基配列を含むオリゴヌクレオチドプライマー及び配列番号2で示す塩基配列を含むオリゴヌクレオチドプライマーの組み合わせであるプライマーセット
(b)配列番号3で示す塩基配列を含むオリゴヌクレオチドプライマー及び配列番号5で示す塩基配列を含むオリゴヌクレオチドプライマーの組み合わせであるプライマーセット
(c)配列番号4で示す塩基配列を含むオリゴヌクレオチドプライマー及び配列番号5で示す塩基配列を含むオリゴヌクレオチドプライマーの組み合わせであるプライマーセット
[5] 上記[4]に記載のプライマーセットを少なくとも1つ含む、キク品種識別用キット。
本発明の方法を用いれば、白系輪ギク品種を、例えば葉などの一部の植物組織を試料として識別することが可能である。また、本発明のプライマーセット及びそれを含むキットを用いれば、核酸増幅産物の生成パターンに基づく白系輪ギク品種間の相違を、電気泳動ゲル上のバンドを目視観察することによって簡便かつ明瞭に識別することができる。
以下、本発明をより詳細に説明する。
本発明のキク品種識別方法においては、キク由来のゲノムDNAを鋳型とし、キクレトロトランスポゾン配列内に設計されたプライマーを含むプライマーセットを用いて核酸増幅して、それにより得られた増幅産物のパターンに基づいて白系輪ギク品種を識別する。本方法によれば、供試キクが「新神」又はその由来系統に属するか否かを明瞭に識別することができる。
本発明の品種識別方法に供するキクは、栽培菊(Chrysanthemum morifolium)に属する任意のキクであってよいが、好適には白系輪ギク又は白系輪ギクの可能性が高いと判断されるキクである。輪ギクとは、通常、大輪の花を咲かすために側枝から伸びた芽や蕾をかき取り、頂点の蕾一輪を咲かせたキクである。本発明においては、輪ギクのうち、花弁が白色又は白系色(ごく薄いクリーム色、黄色又は緑がかった白色など)のキクを白系輪ギクと呼ぶ。白系輪ギクの間で「新神」又はその由来系統を同定することは特に難しいため、本発明の方法を適用する対象として白系輪ギクは特に好ましい。
本発明では、まず、本識別法に供するキクから、ゲノムDNAを抽出することが好ましい。ゲノムDNAは、キク個体より採取した任意の組織(例えば、葉、茎、花弁、萼片、根、カルスなど)から、植物分子生物学の分野で慣用されている手法に従って抽出し、必要に応じて精製し、供試試料として調製すればよい。キクからのゲノムDNAの抽出には、市販の植物ゲノムDNA抽出キット(例えば、Plant Genomic DNA Extraction Mini(VIOGENE社製))を用いることもできる。
本発明において核酸増幅に用いる「キクレトロトランスポゾン配列内に設計されたプライマーを含むプライマーセット」とは、核酸増幅反応の際にキクレトロトランスポゾン配列内の所定の位置に特異的にアニーリングするように、そのキクレトロトランスポゾン配列の部分配列若しくはその変異配列(又はそれらの相補配列)を含むように作製したオリゴヌクレオチドプライマーを、少なくとも1つ(好ましくはフォワードプライマーとリバースプライマーの2つを)含むプライマーの組み合わせを意味する。ここで用いるキクレトロトランスポゾン配列は、キク・ジプシー型レトロトランスポゾンCMRE1(Chrysanthemum morifolium gypsy-type retrotransposon CMRE1)と名付けられているものである(非特許文献3、及びDDBJ/GenBank/EMBLデータベース・アクセッション番号 AB033265)。このような本発明のプライマーは、より具体的には、後述の実施例1に記載した「神馬」由来のレトロトランスポゾン部分配列を含むDNA増幅断片の塩基配列(配列番号6)に基づいて、例えば、フォワードプライマーを配列番号6の塩基番号700〜1920の領域内に、リバースプライマーを配列番号6の塩基番号2460〜2536の領域内に設計することが好ましい。さらに、本発明のプライマーとしては、配列番号6で示す塩基配列上の塩基番号731〜750(後述のCmRT-F2プライマーの位置に対応)を含む前後60塩基程度の領域内、又は塩基番号1878〜1897(後述のCmRT-F3プライマーの位置に対応)を含む前後60塩基程度の領域内にフォワードプライマーを設計し、またその塩基番号2498〜2517(後述のCmRT-R1プライマーの位置に対応)を含む前後60塩基程度の領域内にリバースプライマーを設計して、用いることができる。本発明のプライマーセットを構成する各プライマーは、好ましくは15〜30bp、より好ましくは18〜25bpの塩基長を有する。さらに、本発明の各プライマーは、上記キクレトロトランスポゾン配列の部分配列若しくはその変異配列(又はそれらの相補配列)からなるオリゴヌクレオチドにさらに修飾が施されていてもよい。例えば本発明に係るプライマーは、その5'末端又は3'末端に当該プライマーの検出や増幅を容易にするための標識物質(例えば、蛍光分子、色素分子、放射性同位元素、ジゴキシゲニンやビオチン等の有機化合物など)又は付加配列(LAMP法で用いるループプライマー部分等)を有していてもよい。本発明に係るプライマーは、5'末端でリン酸化又はアミン化されていてもよい。本発明に係るプライマーは、ホスホロチオエート結合やホスホロアミデート結合などを含む任意の誘導体オリゴヌクレオチドを含むものであってもよいし、ペプチド核酸結合を含むペプチド-核酸(PNA)を含んでいてもよい。本発明に係るプライマーは、天然塩基のみを含んでもよいし、修飾塩基を含んでもよい。修飾塩基としては、デオキシイノシン、デオキシウラシル、S化塩基などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。本発明に係るプライマーのオリゴヌクレオチドは、DNAであってもRNAであってもよく、RNAである場合には、その塩基配列はDNA配列における「T(チミン)」を「U(ウラシル)」に読み替えるものとする。
本発明において特に好適に使用できるプライマーセットの例としては、以下の(a)〜(c)が挙げられる。
(a)配列番号1で示す塩基配列を含むオリゴヌクレオチドプライマー及び配列番号2で示す塩基配列を含むオリゴヌクレオチドプライマーの組み合わせであるプライマーセット、
(b)配列番号3で示す塩基配列を含むオリゴヌクレオチドプライマー及び配列番号5で示す塩基配列を含むオリゴヌクレオチドプライマーの組み合わせであるプライマーセット、
(c)配列番号4で示す塩基配列を含むオリゴヌクレオチドプライマー及び配列番号5で示す塩基配列を含むオリゴヌクレオチドプライマーの組み合わせであるプライマーセット
表1に、これらのプライマーセットを構成する各プライマーの詳細について示す。
Figure 0004889328
上記プライマーセットを用いたキク由来のゲノムDNAの核酸増幅は、公知の核酸増幅法に従って行えばよく、例えばPCR(ポリメラーゼ連鎖反応)法、LAMP(Loop-Mediated Isothermal Amplification)法、ICAN(Isothermal and Chimeric primer-initiated Amplification of Nucleic acids)法、SDA(Strand Displacement Amplification)法などを利用することができる。本発明に係る核酸増幅反応でプライマーセットを2つ以上用いる場合、1つの反応液中で複数のプライマーセットを用いて反応させることもできるが、プライマーセット毎に別個の反応液を用いて反応させることがより好ましい。核酸増幅を行う際の反応液組成やサイクリング条件は、当業者であれば、使用する核酸増幅法、プライマーのTm値、サーマルサイクラーの仕様などに合わせて適宜定めることができる。PCR法を用いて核酸増幅を行う場合の具体的な反応条件の例を、後述の実施例に記載している。
本発明の方法では、そのような核酸増幅の結果として得られる増幅産物のパターンに基づいて、白系輪ギク品種を識別することができる。本発明において「増幅産物のパターン」とは、核酸増幅反応を終了した後の反応液中に含まれる各核酸断片の分子量サイズ若しくは塩基長、塩基配列、又は存在量(相対量若しくは絶対量)を意味する。「増幅産物のパターン」の典型的な具体例は、核酸増幅反応を終了した後の反応液を電気泳動して得たバンドパターン及びその各バンドの相対的な濃さである。白系輪ギク品種では、そのような本発明に係る増幅産物のパターンとして、多くの品種間で共通した結果が得られる一方、特定の白系輪ギク品種(主として「新神」及び「新神」由来系統)において明らかな部分的相違が示されうる。従って、本発明の方法を用いれば、特定の白系輪ギク品種(例えば、「新神」及び「新神」由来系統の白系輪ギク)を特異的に検出することができ、さらに、そのような特定の白系輪ギク品種(例えば「新神」及び「新神」由来系統の白系輪ギク)と、それ以外の白系輪ギク品種とを相互に識別することができる。
ここで、「新神」とは、品種登録出願第15821号にて品種登録出願されている、原品種「神馬」の変異体から得られたわき芽の発生が少ない白系秋輪ギク品種を言う。「新神」は、鹿児島県農業試験場から入手することができる。一方、「新神」由来系統とは、「新神」を原品種として作製した新たな白系輪ギク系統を意味する。「新神」由来系統には、具体的には、「新神」の培養体から再生させた個体、「新神」の培養体にイオンビームを照射して得た変異品種、「新神」の枝変わり品種、「新神」を他品種のキクと交雑させて得た品種などが含まれる。これに対し、本発明の方法により「新神」と識別される他の白系輪ギク品種としては、「神馬」、「今神」(品種登録出願第15822号)、「精雲」、「フローラル優香」(品種登録番号第11157号)などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
なお、本発明におけるキクの「品種」には、品種登録又は品種登録出願が為されたキク品種だけでなく、品種登録又は品種登録出願がされていないキク品種、さらに、あるキク品種を原品種として作製した新たなキク系統であって原品種との間で示される特性の相違が比較的少ない系統や均一な品種としてまだ確立されていない系統も、包含するものとする。
本発明に係る白系輪ギク品種の識別方法について、具体的な態様を挙げてさらに説明する。例えば、表1に示したプライマーCmRT-F1とZmPBS-R1のプライマーセットを用いてゲノムDNAのPCR増幅を行い、その増幅産物を電気泳動すると、いずれの白系輪ギク品種も図1のようなほぼ同様のバンドパターンを示す一方、2600bpのバンドに関しては、「新神」又は「新神」由来系統に属するキクではごく薄く検出されるのに対し、それ以外の白系輪ギク品種のキクでは最も濃いバンドとして検出される。従ってこの態様では、例えば、電気泳動写真に示される2600bpのバンドの他のバンドに対する相対的濃さの相違に基づき、「新神」又は「新神」由来系統を、他の白系輪ギク品種との間で識別することができる。
本発明の方法の別の態様では、表1に示したプライマーCmRT-F2とCmRT-R1のプライマーセットを用いてゲノムDNAのPCR増幅を行い、その増幅産物を電気泳動すると、いずれの白系輪ギク品種も図2のように1560bpのバンドを共通して示す一方、1790bpのバンドに関しては、「新神」又は「新神」由来系統に属するキクでは極めて微量にしか検出されないのに対し、それ以外の白系輪ギク品種のキクでは明瞭な増幅断片のバンドとして検出される。従ってこの態様では、例えば、電気泳動写真に示される1790bpのバンドの相対的濃さにおける相違に基づき、「新神」又は「新神」由来系統を、他の白系輪ギク品種との間で識別することができる。
本発明の方法のさらに別の態様では、表1に示したプライマーCmRT-F3とCmRT-R1のプライマーセットを用いてゲノムDNAのPCR増幅を行い、その増幅産物を電気泳動すると、いずれの白系輪ギク品種も図3及び4のように410bpのバンドを共通して示す一方、640bpのバンドに関しては、「新神」又は「新神」由来系統に属するキクではほとんど検出されないのに対し、それ以外の白系輪ギク品種のキクでは明瞭な増幅断片のバンドとして検出される。従ってこの態様では、例えば、電気泳動写真に示される640bpのバンドの有無に基づき、「新神」又は「新神」由来系統を、他の白系輪ギク品種との間で識別することができる。
本発明の方法によって白系輪ギク品種で検出される上記の増幅産物のパターンは、試料として用いるキクが実験室等で無菌保存されている系統の植物体であっても、圃場等の野外で栽培された植物体であっても、相違しない。従って本発明の方法は、栽培個体及び流通個体についても、供試キクが「新神」又は「新神」由来系統であるか、そうでないかを識別する上で、有効に利用することができる。
本発明は、上述したプライマーセット、特に上記の(a)〜(c)のプライマーセットにも関する。本発明に係るプライマーセットは、それぞれ、白系輪ギク品種の識別用、特に「新神」又は「新神」由来系統の検出用に、有用である。
さらに本発明は、本発明に係るプライマーセットを少なくとも1つ含む、キク品種識別用キットにも関する。本発明に係るこのキク品種識別用キットは、さらにDNAポリメラーゼ、dNTPs、及び核酸増幅反応バッファーなどの核酸増幅用試薬、並びにゲノムDNA抽出用試薬などを含んでもよい。本発明に係るこのキク品種識別用キットは、「新神」又は「新神」由来系統のキクの検出用として特に有用である。
以下、実施例及び図面を参照して本発明をさらに説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例によって限定されるものではない。
[実施例1] キク品種の識別試験(1)
1.供試品種
供試品種には、白系秋輪ギク品種「神馬」、その「神馬」に炭素イオンビームを照射する方法により作出した白系輪ギク品種「新神」(品種登録出願第15821号)及び「今神」(品種登録出願第15822号)を用いた。
2.DNA抽出
上記供試品種の各キク個体(無菌保存系統)より採取した生葉0.1gから、植物ゲノムDNA抽出キットPlant Genomic DNA Extraction Mini(VIOGENE社製)を用いて、PCRの鋳型として用いるゲノムDNAを抽出した。そのいずれの抽出試料についても、RNaseによりRNAの分解を行った。抽出したゲノムDNAは,20ng/μlの濃度になるように滅菌水に溶解し、4℃で保存した。
3.核酸増幅及び増幅産物の検出
上記で調製したゲノムDNA試料を鋳型として、以下の通りPCR法により核酸増幅を行った。
このPCRには、フォワードプライマーCmRT-F1(5'-CCATTAAGAACCGTTACCCA-3';配列番号1)とリバースプライマーZmPBS-R1(5'-ATATCACAATCCACCCCTC-3';配列番号2)を組み合わせたプライマーセットを用いた。フォワードプライマーCmRT-F1は、既報のキクレトロトランスポゾン部分配列に基づいて設計した。レトロトランスポゾンのPBS(primer bind site)配列は生物種間で高度に保存されていると考えられているため、リバースプライマーZmPBS-R1は、既報のトウモロコシのPBS配列(DDBJ/GenBank/EMBLデータベース・アクセッション番号AY271959)に基づいて設計した。
PCRの反応液は、ExTaqポリメラーゼ1U、このポリメラーゼに添付の反応バッファーを反応液の1/10倍量(5μl)、dNTP溶液2.5mM(タカラバイオ社製)、上記の各プライマー0.1μM、上記で調製した鋳型DNA 20ng、及び滅菌水を加えて合計50μlになるように調整した。
PCR反応は、サーマルサイクラー(GeneAmp(R) PCR System 9700,Applied Biosystems社製)を用いて、94℃2分間の熱変性、94℃30秒間・56℃30秒間・72℃2.5分間を30サイクル、72℃3分間の最終伸長反応のサイクリング条件で行った。得られたPCR産物は、2%アガロースゲル上で100V、40分間かけて電気泳動し、臭化エチジウムで染色した後、紫外線の照射下でDNA断片を検出した。
この結果を図1に示す。図中、1のレーンは「神馬」、2のレーンは「新神」、3のレーンは「今神」である。「新神」については、レーン番号の上にアスタリスク(*)を付記した。
図1に示されるように、およそ2600bpの位置に、「新神」と、「神馬」及び「今神」との間で明らかに濃さに差があるバンドが検出された。この2600bpのバンドに相当する核酸増幅産物は、「神馬」及び「今神」ではメインのバンドとして増幅されたのに対して、「新神」では増幅量が明らかに少なく、バックグラウンドレベルでしか増幅されなかった。従って、上記プライマーCmRT-F1とZmPBS-R1とを用いてキクゲノムDNAをPCR増幅し、その増幅産物を電気泳動すれば、その結果現れる2600bpバンドが「神馬」又は「今神」と比較して同程度の濃さであるかそれより大幅に薄いかを判定することにより、そのキクが「新神」であるか、「神馬」及び「今神」などの他の白系輪ギクであるかを目視で識別できることが示された。
4.増幅断片の塩基配列決定
図1で大幅な増幅量の差が認められた2600bpのバンドに相当する、「神馬」のゲノムDNAから増幅されたDNA断片を、TOPO TA Cloning kit(Invitrogen社製)を使ってプラスミドベクターpCR2.1-TOPO中に挿入した。当該DNA断片を挿入したプラスミドは、大腸菌(E.coli)を用いて常法によりクローニングした。クローニングしたプラスミドDNAは、QIAprep Spin Miniprep Kit(QIAGEN社製)を用いて精製した。精製したプラスミドDNAは、BigDye Terminator ver.3.1を用いてDNAシークエンス反応に供し、塩基配列決定を行った。この結果、増幅量に差が見られた増幅断片は、2536bpの塩基配列(配列番号6)を有することが判明した。この塩基配列は、キクレトロトランスポゾンの部分配列を含んでいた。
[実施例2] キク品種の識別試験(2)
1.供試品種
供試品種には、実施例1で用いた「神馬」、「新神」、「今神」に加えて、白系夏輪ギク品種である「フローラル優香」(品種登録番号第11157号)及び「精雲」を用いた。
2.DNA抽出
「神馬」、「新神」、「今神」、「フローラル優香」、及び「精雲」の各品種について、無菌保存系統のキク個体からゲノムDNAを抽出するための生葉を採取した。さらに「神馬」、「新神」、「今神」については、圃場で栽培したキク個体(圃場栽培個体)からゲノムDNAを抽出するための生葉を採取した。
採取した生葉を用い、各品種について、実施例1と同様の手順でゲノムDNAを抽出し、試料として調製した。
3.核酸増幅及び増幅産物の検出
次に、上記のように調製したゲノムDNA試料を鋳型として用いて、PCR増幅を行った。このPCRには、フォワードプライマーCmRT-F2(5'-CGATAACTGAAGATCCATGA-3';配列番号3)とリバースプライマーCmRT-R1(5'-CCAACGAACTTTAACTAGTG-3';配列番号5)を組み合わせたプライマーセットを用いた。これらのプライマーは、実施例1で配列決定された、キクレトロトランスポゾンの部分配列を含むキクゲノムDNA増幅断片2536bpの塩基配列に基づいて設計した。
PCR反応液の調製、PCR反応、及びPCR産物の検出は、実施例1と同様にして行った。
結果を図2に示す。図中、1のレーンは「神馬」(無菌保存系統)、2のレーンは「神馬」(圃場栽培個体)、3のレーンは「神馬」(無菌保存系統)、4のレーンは「今神」(無菌保存系統)、5のレーンは「今神」(圃場栽培個体)、6のレーンは「新神」(無菌保存系統)、7のレーンは「新神」(圃場栽培個体)、8のレーンは「精雲」(無菌保存系統)、9のレーンは「フローラル優香」(無菌保存系統)、である。「新神」については、レーン番号の上にアスタリスク(*)を付記した。
図2に示されるように、これらの白系輪ギク個体では、共通して1560bpのバンド(但し「フローラル優香」では1650bpのバンド)が増幅された。一方、「神馬」、「今神」、「新神」、「精雲」、「フローラル優香」で認められた1790bpのバンドおよびは、「新神」では極めて微量にしか増幅されなかった。従って、上記プライマーCmRT-F2とCmRT-R1とを用いてキクゲノムDNAをPCR増幅し、その増幅産物を電気泳動すれば、その結果1790bpのバンドが明瞭に現れるか否かを判定することにより、そのキクが「新神」であるか、「神馬」、「今神」、「精雲」、及び「フローラル優香」などの他の白系輪ギクであるかを目視で識別できることが示された。
また、図2に示されるように、本識別方法では、各品種の無菌保存系統と圃場栽培個体の間で、増幅産物の生成パターンに差は見られなかった。このことから、本識別方法が、保存系統だけでなく実際に農場で栽培されたキク個体の品種識別にも十分に適用できることが示された。すなわち、農場で栽培されているキク個体及び流通しているキク個体から葉等の組織の一部を採取しDNAを抽出し、本発明の方法を適用することにより、キク品種識別が可能であると言える。
[実施例3] キク品種の識別試験(3)
供試品種及びDNA抽出については、実施例2と同様である。実施例2の方法に従って調製した各キク個体由来のゲノムDNA試料を鋳型として用いて、PCR増幅を行った。このPCRには、フォワードプライマーCmRT-F3(5'-CCTGAGATAGTTTTAGAGAC-3';配列番号4)とリバースプライマーCmRT-R1(5'-CCAACGAACTTTAACTAGTG-3';配列番号5)を組み合わせたプライマーセットを用いた。これらのプライマーは、実施例1で配列決定された、キクレトロトランスポゾンの部分配列を含むキクゲノムDNA増幅断片2536bpの塩基配列に基づいて設計した。
PCR反応液の調製は実施例1と同様にして行った。PCR反応は、サーマルサイクラー(GeneAmp(R) PCR System 9700,Applied Biosystems社製)を用いて、94℃2分間の熱変性,94℃30秒間・56℃30秒間・72℃1分間を30サイクル,72℃2分間の最終伸長反応のサイクリング条件で行った。PCR産物の検出は、実施例1と同様にして行った。
この結果を図3に示す。図中の各レーンは、実施例2の図2と同じ試料に対応している。「新神」については、レーン番号の上にアスタリスク(*)を付記した。
図3に示されるように、これらの白系輪ギク個体では、共通して410bpのバンド(但し「フローラル優香」では500bpのバンド)が増幅された。一方、「神馬」、「今神」、「新神」、「精雲」、「フローラル優香」で認められた640bpのバンドは、「新神」ではほとんど増幅されなかった。従って、上記プライマーCmRT-F3とCmRT-R1とを用いてキクゲノムDNAをPCR増幅し、その増幅産物を電気泳動すれば、その結果640bpのバンドが明瞭に現れるか否かを判定することにより、そのキクが「新神」であるか、「神馬」、「今神」、「精雲」、及び「フローラル優香」などの他の白系輪ギクであるかを目視で識別できることが示された。
また、図3に示されるように、本識別方法では、各品種の無菌保存系統と圃場栽培個体の間で、増幅産物の生成パターンに差は見られなかった。このことから、本識別方法も、保存系統だけでなく実際に農場で栽培されたキク個体の品種識別にも十分に適用できることが示された。すなわち、農場で栽培されているキク個体及び流通しているキク個体から葉等の組織の一部を採取しDNAを抽出し、本発明の方法を適用することにより、キク品種識別が可能であると言える。
[実施例4] キク品種の識別試験(4)
白系秋輪ギク品種「神馬」及び「新神」のキク個体から葉を採取し、その葉をそれぞれ用いて葉片培養を行い、培地置床1週間後に炭素イオンビームを照射した。形成された不定芽から個体を再生し、優良個体を選抜した。
こうして作製した選抜系統の個体のうち、「新神」由来の4個体(圃場栽培個体)、そして「神馬」由来の1個体(圃場栽培個体)について、プライマーCmRT-F3及びCmRT-R1を用いて、実施例3と同様にして品種識別試験を行った。さらに「神馬」の無菌保存系統の2個体、及び「新神」の無菌保存系統の1個体についても、実施例3と同様にして品種識別試験を行った。これらの品種識別試験の結果を図4に示す。
図中、1のレーンは「神馬」(無菌保存系統)、2のレーンは「神馬」(無菌保存系統)、3のレーンは「新神」(無菌保存系統)、4〜7のレーンは「新神」の培養体からの選抜系統(圃場栽培個体)、8のレーンは「神馬」の培養体からの選抜系統(圃場栽培個体)である。「新神」については、レーン番号の上にアスタリスク(*、**)を付記した。
図4に示されるように、葉片培養及び炭素イオンビーム照射を経て再分化した個体においても、白系輪ギク品種に共通した410bpのバンドが増幅されることが示された。さらに、「神馬」から葉片培養及び炭素イオンビーム照射を経て再分化した個体においては「神馬」と同様に640bpのバンドが明瞭に増幅されたのに対して、「新神」から葉片培養及び炭素イオンビーム照射を経て再分化した個体においては「新神」と同様に640bpのバンドはほとんど増幅されなかった。すなわち、上記品種の個体とその培養体からの選抜系統との間で、増幅産物の生成パターンに差は見られなかった。このことから、本識別方法により、「新神」だけでなく「新神」由来のさらなる突然変異品種(人為的に作製した突然変異品種のほか、枝変わり品種などの自然突然変異品種も含む)に属するキク個体も識別することができることが示された。
本発明のキク品種識別方法は、白系輪ギク品種のうち「新神」又は「新神」由来系統に属するキク個体を特異的に検出するために利用できる。
図1は、プライマーCmRT-F1及びZmPBS-R1を用いて増幅したPCR産物の電気泳動の結果を示す写真である。Mは分子量マーカー、1のレーンは「神馬」、2のレーンは「新神」(*を付記した)、3のレーンは「今神」である。 図2は、プライマーCmRT-F2及びCmRT-R1を用いて増幅したPCR産物の電気泳動の結果を示す写真である。Mは分子量マーカー、1のレーンは「神馬」(無菌保存系統)、2のレーンは「神馬」(圃場栽培個体)、3のレーンは「神馬」(無菌保存系統)、4のレーンは「今神」(無菌保存系統)、5のレーンは「今神」(圃場栽培個体)、6のレーンは「新神」(無菌保存系統)(*を付記した)、7のレーンは「新神」(圃場栽培個体)(*を付記した)、8のレーンは「精雲」(無菌保存系統)、9のレーンは「フローラル優香」(無菌保存系統)、である。 図3は、プライマーCmRT-F3及びCmRT-R1を用いて増幅したPCR産物の電気泳動の結果を示す写真である。Mは分子量マーカー、1のレーンは「神馬」(無菌保存系統)、2のレーンは「神馬」(圃場栽培個体)、3のレーンは「神馬」(無菌保存系統)、4のレーンは「今神」(無菌保存系統)、5のレーンは「今神」(圃場栽培個体)、6のレーンは「新神」(無菌保存系統)(*を付記した)、7のレーンは「新神」(圃場栽培個体)(*を付記した)、8のレーンは「精雲」(無菌保存系統)、9のレーンは「フローラル優香」(無菌保存系統)である。 図4は、プライマーCmRT-F3及びCmRT-R1を用いて増幅したPCR産物の電気泳動の結果を示す写真である。Mは分子量マーカー、1のレーンは「神馬」(無菌保存系統)、2のレーンは「神馬」(無菌保存系統)、3のレーンは「新神」(無菌保存系統)(*を付記した)、4〜7のレーンは「新神」の培養体からの選抜系統(圃場栽培個体)(**を付記した)、8のレーンは「神馬」の培養体からの選抜系統(圃場栽培個体)である。
配列番号1〜5の配列は、プライマーを示す。

Claims (4)

  1. キクレトロトランスポゾン配列内に設計されたプライマーを含むプライマーセットを用いてキク由来のゲノムDNAを核酸増幅し、得られる増幅産物のパターンに基づいて白系輪ギク品種を識別することを特徴とする、キク品種の識別方法であって、前記プライマーセットが、以下の(a)〜(c):
    (a)配列番号1で示す塩基配列からなるオリゴヌクレオチドプライマー及び配列番号2で示す塩基配列からなるオリゴヌクレオチドプライマーの組み合わせであるプライマーセット
    (b)配列番号3で示す塩基配列からなるオリゴヌクレオチドプライマー及び配列番号5で示す塩基配列からなるオリゴヌクレオチドプライマーの組み合わせであるプライマーセット
    (c)配列番号4で示す塩基配列からなるオリゴヌクレオチドプライマー及び配列番号5で示す塩基配列からなるオリゴヌクレオチドプライマーの組み合わせであるプライマーセット
    のうちの少なくとも1つである、方法。
  2. 白系輪ギク品種の識別が、「新神」又は「新神」由来系統に属するか否かの識別である、請求項1に記載の方法。
  3. 以下の(a)〜(c)のいずれかである、キク品種識別用プライマーセット。
    (a)配列番号1で示す塩基配列からなるオリゴヌクレオチドプライマー及び配列番号2で示す塩基配列からなるオリゴヌクレオチドプライマーの組み合わせであるプライマーセット
    (b)配列番号3で示す塩基配列からなるオリゴヌクレオチドプライマー及び配列番号5で示す塩基配列からなるオリゴヌクレオチドプライマーの組み合わせであるプライマーセット
    (c)配列番号4で示す塩基配列からなるオリゴヌクレオチドプライマー及び配列番号5で示す塩基配列からなるオリゴヌクレオチドプライマーの組み合わせであるプライマーセット
  4. 請求項3に記載のプライマーセットを少なくとも1つ含む、キク品種識別用キット。
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