しかしながら、特許文献1に開示されているように、長尺状の不織布を弛ませた状態で熱を作用させて乾燥又は硬化させると、繊維が伸長又は収縮して、部分的に隆起し、水膨れ状の皺が多数散在する不織布になってしまうという問題があった。
そのため、本発明者らは不織布の幅方向両端を固定した状態で熱を作用させ、乾燥又は硬化することを試みたところ、不織布の自重によって弛んでしまうことから、全体的に大きく波打ってしまい、特に固定箇所付近では激しく皺が寄ってしまうという結果となった。
そこで、長尺状の不織布に対して生産方向に張力を作用させながら熱を作用させて乾燥又は硬化することを考えた。この方法によれば、皺が発生したり、波打ったりすることなく、不織布を製造することができたが、熱処理前における静電紡糸不織布は生産方向の強度と幅方向の強度との差が小さい、等方性の強度をもつ静電紡糸不織布であったものが、張力を作用させることによって、生産方向の強度が幅方向の強度よりも強くなってしまい、異方性の強度をもつ不織布になってしまうという現象が生じた。このように異方性の強度をもつ不織布を積層板等の電気部材やスピーカー等の基材として用いた場合に、強度だけではなく、電気物性にも異方性を生じ、その異方性が使用上の障害になる場合があった。
本発明はこのような問題を解決するためになされたもので、皺などを発生させることなく熱処理を実施でき、しかも繊維ウエブの生産方向と幅方向との強度比を維持した静電紡糸不織布を製造することのできる方法、及びその製造装置を提供することを目的とする。
本発明の請求項1にかかる発明は、「(1)静電紡糸法により紡糸した繊維を含む繊維ウエブを、60℃以下の雰囲気温度下、一対の固形材料により挟んで固定する工程、(2)繊維ウエブを固定した状態で加熱し、不織布とする工程、(3)不織布を固定した状態のまま冷却する工程、及び(4)一対の固形材料による固定を解除し、不織布を取り出す工程、を備えていることを特徴とする、静電紡糸不織布の製造方法。」である。
本発明の請求項2にかかる発明は、「繊維ウエブが溶媒を含み、一対の固形材料が、繊維ウエブの溶媒を除去できる第1固形材料と、第1固形材料と同じ又は異なる第2固形材料とからなり、前記第1固形材料により溶媒を除去できる状態で、繊維ウエブを挟んで固定することを特徴とする、請求項1記載の静電紡糸不織布の製造方法。」である。
本発明の請求項3にかかる発明は、「第1固形材料が、繊維ウエブと当接時に繊維ウエブと外気とを繋ぐ多孔質部分を有するものであり、前記多孔質部分が繊維ウエブと当接した状態で繊維ウエブを固定することを特徴とする、請求項2記載の静電紡糸不織布の製造方法。」である。
本発明の請求項4にかかる発明は、「(1)静電紡糸法により紡糸した繊維を含む繊維ウエブを、一対の固形材料により挟んで固定できる固定手段、(2)繊維ウエブを固定した状態で加熱し、不織布にできる加熱手段、(3)不織布を固定した状態のまま冷却できる冷却手段、及び(4)一対の固形材料による固定を解除し、不織布を取り出すことのできる取出手段、を備えていることを特徴とする、静電紡糸不織布の製造装置。」である。
本発明の請求項5にかかる発明は、「一対の固形材料が、繊維ウエブの溶媒を除去できる第1固形材料と、第1固形材料と同じ又は異なる第2固形材料とからなり、前記第1固形材料により溶媒を除去できる状態で、繊維ウエブを挟んで固定できる固定手段であることを特徴とする、請求項4記載の静電紡糸不織布の製造装置。」である。
本発明の請求項6にかかる発明は、「第1固形材料が、繊維ウエブと当接時に繊維ウエブと外気とを繋ぐ多孔質部分を有するものであり、前記多孔質部分が繊維ウエブと当接した状態で繊維ウエブを固定できる固定手段であることを特徴とする、請求項5記載の静電紡糸不織布の製造装置。」である。
本発明の請求項7にかかる発明は、「固定手段作動箇所における雰囲気温度を、60℃以下とすることのできる低温化手段を更に備えていることを特徴とする、請求項4〜請求項6のいずれかに記載の静電紡糸不織布の製造装置。」である。
本発明の請求項8にかかる発明は、「固定手段の前に、溶媒を含む紡糸原液を静電紡糸法により紡糸した繊維を直接捕集して繊維ウエブを形成できる繊維ウエブ形成手段を更に備えていることを特徴とする、請求項4〜請求項7のいずれかに記載の静電紡糸不織布の製造装置。」である。
本発明の請求項1にかかる発明は、60℃以下の雰囲気温度下、つまり繊維ウエブに皺が入っていない状態で固定し、その固定状態のまま、加熱し、冷却しており、繊維は動くことができないため、皺がなく、しかも繊維ウエブの生産方向と幅方向との強度比を維持した静電紡糸不織布を製造することができる。
本発明の請求項2にかかる発明は、繊維ウエブの溶媒を除去できる第1固形材料で、溶媒を除去できる状態で繊維ウエブを挟んで固定しているため、皺を発生させず、また、繊維ウエブの生産方向と幅方向との強度比を変化させることなく、加熱により繊維ウエブの溶媒を除去して不織布を製造することができる。
本発明の請求項3にかかる発明は、第1固形材料が多孔質部分を有するため、繊維ウエブにおける溶媒量が多くても、確実に溶媒を除去することができる。また、連続して溶媒を除去することができる。
本発明の請求項4にかかる発明は、室温下、つまり繊維ウエブに皺が入っていない状態で固定し、その固定状態のまま、加熱し、冷却でき、繊維は動くことができないため、皺がなく、しかも繊維ウエブの生産方向と幅方向との強度比を維持した静電紡糸不織布を製造できる装置である。
本発明の請求項5にかかる発明は、繊維ウエブの溶媒を除去できる第1固形材料で、溶媒を除去できる状態で繊維ウエブを挟んで固定できるため、皺を発生させず、また、繊維ウエブの生産方向と幅方向との強度比を維持したまま、加熱により繊維ウエブの溶媒を除去して不織布を製造できる装置である。
本発明の請求項6にかかる発明は、第1固形材料が多孔質部分を有するため、繊維ウエブにおける溶媒量が多くても、確実に溶媒を除去して不織布を製造できる装置である。また、連続して溶媒を除去することができる装置である。
本発明の請求項7にかかる発明は、固定手段作動箇所における雰囲気温度を60℃以下にすることができるため、高温状況下においても、確実に皺がなく、しかも繊維ウエブの生産方向と幅方向との強度比を維持した静電紡糸不織布を製造できる装置である。
本発明の請求項8にかかる発明は、静電紡糸法により紡糸した繊維を直接捕集して繊維ウエブを形成できる繊維ウエブ形成手段を備えているため、皺がなく、しかも繊維ウエブの生産方向と幅方向との強度比を維持した静電紡糸不織布を連続して製造できる装置である。
本発明の静電紡糸不織布の製造方法においては、まず、静電紡糸法により紡糸した繊維を含む繊維ウエブを、60℃以下の雰囲気温度下、一対の固形材料により挟んで固定する工程を実施する。この静電紡糸法により紡糸した繊維を含む繊維ウエブは、静電紡糸法により紡糸した繊維を含むものであれば良く、静電紡糸法により紡糸した繊維以外の繊維を含んでいても良いが、静電紡糸法により紡糸した繊維のみから構成された繊維ウエブは熱処理によって皺が入ったり、生産方向と幅方向との強度比が変化しやすいが、本発明方法によれば、皺が入ることなく、繊維ウエブの生産方向と幅方向との強度比を維持した静電紡糸不織布を製造することができる。
この静電紡糸法による繊維の紡糸は従来から公知であり、ノズル等の紡糸原液供給部から紡糸空間へ供給した紡糸原液に対して電界を作用させることにより、紡糸原液を延伸し、繊維化する方法である。静電紡糸法によれば、平均繊維径が1μm以下の連続繊維を紡糸することができる。
なお、静電紡糸法により紡糸した繊維のみから構成された繊維ウエブは、特開2006−112023号公報に開示の方法により製造するのが好ましい。つまり、ノズル等の紡糸原液供給部を捕集体の幅方向に直線的に移動(特には長円状に移動)させながら、紡糸原液を供給し、繊維化して直接捕集体上に繊維を捕集するのが好ましい。このように直線的に移動させると、紡糸原液供給部の移動速度を一定にできるため、繊維分散ムラの小さい繊維ウエブを製造しやすいためである。
紡糸原液は繊維の素となる材料を溶媒に溶解させたものであっても、繊維の素となる材料が溶融したものであっても良い。溶媒に溶解させた紡糸原液であっても、本発明によれば、皺が入ることなく溶媒を除去し、繊維ウエブの生産方向と幅方向との強度比を維持した静電紡糸不織布を製造することができる。この繊維の素となる材料は静電紡糸不織布の使用用途等によって異なり、特に限定するものではないが、例えば、ポリエチレングリコール、部分けん化ポリビニルアルコール、完全けん化ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリアクリロニトリル、ポリスチレン、ポリアミド、ポリイミド、ポリエチレンやポリプロピレンなどのポリオレフィンなどの有機材料、或いは石英ガラスなどの無機材料を挙げることができる。なお、無機材料の場合、金属アルコキシドを加水分解した曳糸性のゾル溶液を紡糸原液として使用することができる。また、繊維の素となる材料は1種類の材料から構成されている必要はなく、2種類以上の材料から構成されていても良い。
なお、紡糸原液の溶媒は繊維の素となる材料によって異なり、特に限定するものではないが、例えば、水、アセトン、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、トルエン、ベンゼン、シクロヘキサン、シクロヘキサノン、テトラヒドロフラン、ジメチルスルホキシド、1,4−ジオキサン、四塩化炭素、塩化メチレン、クロロホルム、ピリジン、トリクロロエタン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン、エチレンカーボネート、ジエチルカーボネート、プロピレンカーボネート、アセトニトリルなどを挙げることができる。これら例示以外の溶媒も使用可能であり、例示以外の溶媒も含めて、2種以上の溶媒を用いた混合溶媒も使用することができる。
静電紡糸法により紡糸した繊維を捕集する捕集体は、静電紡糸法により紡糸された繊維を捕集できるものであれば良く、特に限定するものではないが、例えば、金属製や炭素などの導電性材料、又は有機高分子などの非導電性材料からなる、不織布、織物、編物、ネット、平板、ドラム、或いはベルトを使用できる。場合によっては水や有機溶媒などの液体を捕集体として使用できる。特には、繊維捕集面にシリコーン系樹脂又はフッ素系樹脂を有しており、繊維の剥離性に優れた捕集体を使用するのが好ましい。
なお、静電紡糸法により紡糸した繊維以外にはセルロース系繊維などの再生繊維、ポリアミド系繊維、ポリビニルアルコール系繊維、ポリ塩化ビニリデン系繊維、ポリ塩化ビニル系繊維、ポリエステル系繊維、ポリアクリロニトリル系繊維、ポリエチレン系繊維、ポリプロピレン系繊維、ポリウレタン系繊維などの合成繊維、ガラス繊維などの無機繊維、綿、麻、羊毛、絹などの天然繊維を混合することができる。このように静電紡糸法により紡糸した繊維以外の繊維を含む繊維ウエブは、例えば、静電紡糸法により繊維を形成する際に、前述のような繊維を吹き付けるなどして供給し、混合して繊維ウエブを形成する方法、静電紡糸法により形成した繊維と前述のような繊維とを混合し、湿式法により繊維ウエブを形成する方法、などを挙げることができる。
このような繊維ウエブを、60℃以下の雰囲気温度下、一対の固形材料により挟んで固定する。このように、繊維ウエブに皺が入っていない60℃以下の雰囲気温度下において繊維ウエブを固定するため、繊維ウエブ構成繊維の自由度がなくなり、繊維は動くことができないため、後工程で加熱しても、繊維ウエブに皺が入ることなく、また、繊維ウエブの生産方向と幅方向との強度比を維持した静電紡糸不織布を製造することができる。つまり、繊維ウエブの生産方向と幅方向との強度差が小さい場合には、生産方向と幅方向との強度差が小さい静電紡糸不織布を製造することができ、繊維ウエブの生産方向と幅方向との強度差が大きい場合には、生産方向と幅方向との強度差が大きい静電紡糸不織布を製造することができる。
この60℃以下の雰囲気温度下というのは、実験的に繊維ウエブに皺が入らないことを確認した温度であり、雰囲気温度が低ければ低い程、繊維ウエブに皺が入りにくいため、雰囲気温度は50℃以下であるのが好ましく、40℃以下であるのが好ましい。実際には、室温下で固定するのが現実的である。なお、雰囲気温度の下限は特に限定するものではないが、−20℃以上であるのが現実的である。なお、この雰囲気は製造上、空気雰囲気であるのが好ましいが、空気雰囲気である必要はない。
この繊維ウエブを固定する一対の固形材料は、繊維ウエブを挟んで固定できるものである限り、特に限定するものではないが、例えば、繊維ウエブが溶媒(例えば、紡糸原液の残留溶媒)を含み、その溶媒を除去する場合について説明する。
一対の固形材料は、繊維ウエブの溶媒を除去できる第1固形材料と、第1固形材料と同じ又は異なる第2固形材料からなることができる。この場合には、第1固形材料により溶媒を除去できる状態で、繊維ウエブを挟んで固定する。このような一対の固形材料で、溶媒を除去できる状態で繊維ウエブを挟んで固定しているため、皺を発生させることなく、また、繊維ウエブの生産方向と幅方向との強度比を維持した静電紡糸不織布を、加熱により繊維ウエブの溶媒を除去して製造することができる。
前述の第1固形材料は繊維ウエブを加熱した際に、繊維ウエブ中の溶媒を除去できるものであれば良く、特に限定するものではないが、例えば、溶媒を吸収できる材料を含む第1固形材料、繊維ウエブと当接した時に、繊維ウエブと外気とを繋ぐ多孔質部分を有する第1固形材料を使用することができる。特に後者の繊維ウエブと当接した時に、繊維ウエブと外気とを繋ぐ多孔質部分を有する第1固形材料であると、溶媒が多い場合であっても、確実に除去でき、また、連続して溶媒を除去することができるため好適である。
この好適である多孔質部分を有する第1固形材料について説明すると、第1固形材料は繊維ウエブと当接時に繊維ウエブと外気とを繋ぐ多孔質部分を有するものであり、溶媒が多孔質部分を通じて蒸発できるため、溶媒を除去できる。具体的には、第1固形材料は全体が多孔質であることができるし、一部のみが多孔質であることもできる。一部が多孔質である場合には、第1固形材料の少なくとも片表面に多孔質部分が存在する。前者の全体が多孔質である場合には、第1固形材料が繊維ウエブと当接時に、第1固形材料の繊維ウエブとの当接部以外の部分が繊維ウエブと外気とを繋ぐ多孔質部分であり、後者の一部が多孔質である場合には、第1固形材料の多孔質部分を繊維ウエブと当接させるため、第1固形材料の外気に露出している多孔質部分を通じて繊維ウエブと繋がっている。なお、第1固形材料の多孔質部分は溶媒が蒸発できるように、連通孔である。このように、本発明における「繊維ウエブと外気とを繋ぐ多孔質部分」とは、繊維ウエブに含まれる溶媒が外気中へ蒸発できる経路を有する多孔質部分をいう。
このような全体が多孔質である第1固形材料として、例えば、微多孔膜、織物、不織布、編物、ネット、多孔質ガラスやセラミック、スポンジなどを挙げることができ、一部のみが多孔質である第1固形材料として、例えば、前記のような多孔質材料を少なくとも片面に有するフィルム、スチールベルト、ゴムベルトなどを挙げることができる。
本発明の第1固形材料は繊維ウエブ構成繊維が移動して皺が発生したり、繊維ウエブの生産方向と幅方向との強度比を維持した静電紡糸不織布を製造できるように固定するものであるため、第1固形材料の多孔質部分は溶媒が通過し、蒸発できることに加えて、繊維ウエブと当接する面における多孔質部分は、繊維ウエブ構成繊維を固定できる緻密性を有する。この緻密性は、静電紡糸法により紡糸した繊維の太さ、繊維ウエブの厚さ、繊維ウエブを構成する材料等によって異なるため、特に限定するものではない。実際には、本発明の製造方法を実施し、皺がなく、しかも生産方向と幅方向との強度比の維持率(=(静電紡糸不織布の強度比/繊維ウエブの強度比)×100)が83%〜120%の静電紡糸不織布を製造できる緻密性の第1固形材料を、実験から確定することができる。なお、強度比は幅方向の強度(Sw)の生産方向(Sl)の強度に対する比(Sl/Sw)である。本発明者らの実験によれば、例えば、繊維ウエブの平均繊維径が50nm〜1000nmで、厚さが5μm〜100μmで、繊維ウエブ構成材料が有機高分子の場合には、最大孔径1.5mm以下の孔からなる第1固形材料を使用することができ、最大孔径0.5mm以下の孔からなる第1固形材料を使用するのがより好ましい。なお、この最大孔径は、第1固形材料がメッシュや織布などのように比較的均一な孔を有する場合には、ルーペや顕微鏡などの光学的な方法、又は電子顕微鏡などでその表面の任意の孔を観察し、孔の面積を同一の面積の円の直径に換算した値であり、第1固形材料が不織布や微孔膜などのように不均一な孔を有する場合には、ポロメータ[Porometer、コールター(Coulter)社製]を用いて、バブルポイント法により測定した値をいう。
なお、多孔質部分を有する第1固形材料は溶媒が蒸発できる通り道を形成しているとともに、繊維ウエブ構成繊維の自由度がなくなるように、加熱下において固定する作用も奏する必要があるため、多孔質部分を有する第1固形材料は挟んで固定した時の温度から後述の加熱温度まで昇温させた時の、繊維ウエブとの当接面における熱膨張率が5%以下であるのが好ましく、3%以下であるのがより好ましい。この「熱膨張率」は次の方法により得られる値をいう。
1.第1固形材料を正方形にカット(大きさ:50mm角〜100mm角)して試料を作製する。
2.挟んで固定した時の温度(Tf)における、前記試料の対向しない2辺の長さ(Lf1、Lf2)をそれぞれ測定する。
3.前記試料を実際の加熱温度(Th)で加熱し、この温度における試料の対向しない2辺の長さ(Lh1、Lh2)をそれぞれ測定する。
4.これらの結果から、次の式により各辺における熱膨張率(CTE)を算出し、大きい方の値を熱膨張率とする。
(CTE)={(Lhn)−(Lfn)}/(Lfn)
また、多孔質部分を有するか有しないかにかかわらず、第1固形材料は後工程において溶媒を除去するための熱に晒されるため、加熱温度よりも高い軟化温度或いは分解温度をもつ材料から構成されているのが好ましい。この「軟化温度」はJISK7206に定義されるビカット軟化温度をいい、「分解温度」はJIS K 7120-1987(プラスチックの熱重量測定方法)に定義される開始温度T1をいう。
このような第1固形材料に加えて、第2固形材料を使用することによって、繊維ウエブを挟んで固定し、繊維の自由度をなくす。この第2固形材料は第1固形材料と同じものを使用することができるし、異なるものを使用することもできる。第2固形材料は板やロール等から構成することもできる。しかしながら、第2固形材料を通じても溶媒を除去できるように、第2固形材料も溶媒を吸収できる材料を含むもの、又は繊維ウエブと当接した時に、繊維ウエブと外気とを繋ぐ多孔質部分を有するものを使用するのが好ましく、これらの中でも第1固形材料と同様の最大孔径、熱膨張率、及び/又は熱挙動(軟化温度或いは分解温度)をもつ、繊維ウエブと外気とを繋ぐ多孔質部分を有するものを使用するのがより好ましい。
前述のような第1固形材料と第2固形材料とで、少なくとも第1固形材料により溶媒を除去できる状態で、繊維ウエブを挟んで固定する。つまり、第1固形材料が溶媒を吸収できる材料を含んでいる場合には、単に第1固形材料と第2固形材料とで繊維ウエブを挟んで固定すれば良いし、第1固形材料が多孔質部分を有する場合には、多孔質部分が繊維ウエブと当接するように繊維ウエブと接触させ、繊維ウエブを固定することによって、繊維ウエブ中の溶媒が多孔質部分を通じて外気中へ蒸発できるようにする。このように、「溶媒を除去できる状態」とは、第1固形材料による溶媒除去能を発揮できる状態をいう。なお、固定する場合には、繊維ウエブを挟んで固定する。繊維の自由度がなくなり、確実に繊維の伸長、収縮、或いは再配向を抑制できるように、全面的に固定するのが好ましい。また、固定する場合には、繊維ウエブ構成繊維の自由度をなくすために、ある程度の圧力で挟むのが好ましい。より具体的には98Pa以上であるのが好ましい。他方で、静電紡糸法により紡糸した繊維の加熱によって生じる伸長力又は収縮力は非常に小さいため、繊維ウエブと1対の固形材料との密着性が保たれていれば良いため、圧力の上限は100kPa程度である。
以上は、繊維ウエブの溶媒を除去する場合に使用できる一対の固形材料についての説明であったが、繊維ウエブ構成繊維を架橋させるなど、溶媒等の揮散除去を伴わない場合には、一対の固形材料は繊維ウエブを挟んで固定できるものであれば良く、多孔質部分を有する必要もない。なお、この場合であっても一対の固形材料は熱に晒されるため、加熱温度よりも高い軟化温度或いは分解温度をもつ材料から構成されているのが好ましい。また、繊維ウエブの溶媒を除去する場合と同様に、全面的、98〜100kPa程度の圧力で固定するのが好ましい。
次いで、繊維ウエブを固定した状態で加熱し、不織布とする工程を実施する。この加熱により、例えば、繊維ウエブが溶媒を含む場合には溶媒を除去して不織布とし、繊維ウエブ構成繊維を架橋させる場合には架橋させて不織布とする。この工程においては、繊維ウエブを固定した状態で加熱しているため、繊維ウエブ構成繊維の伸長又は収縮が生じず、皺が発生することがない。また、繊維配向の変化も生じないため、繊維ウエブの生産方向と幅方向との強度比を維持した静電紡糸不織布を製造することができる。
この加熱は繊維ウエブを所望状態とすることのできる温度(例えば、繊維ウエブ中の溶媒を除去することのできる温度、或いは繊維ウエブ構成繊維を架橋させることのできる温度)である限り特に限定されるものではないが、十分に所望状態となる温度であるのが好ましい。例えば、繊維ウエブの溶媒を除去する場合には、溶媒の沸点近傍以上の温度に加熱し、溶媒除去速度を早めたい場合には、溶媒の沸点よりも高い温度に加熱するのが好ましい。
また、加熱手段も特に限定されるものではなく、例えば、赤外線などの輻射熱を利用した乾燥機、熱風乾燥機、熱風貫通式乾燥機、加熱ロールと接触させる方法、熱風ドラム式熱処理装置、熱風バンド方式熱処理装置などを挙げることができる。
次いで、不織布を固定した状態のまま冷却する工程を実施する。前工程で繊維ウエブを加熱し、所望状態(例えば、繊維ウエブ中の溶媒の除去、繊維ウエブ構成繊維の架橋など)の不織布とした後、まだ不織布が暖かい状態で第1固形材料と第2固形材料による固定を解除すると、残留する熱によって不織布構成繊維が伸長又は収縮してしまい、皺が発生し、また、生産方向と幅方向との強度比が変化するため、本工程を実施し、繊維の伸長又は収縮を抑え、皺の発生及び強度比の変化を防止している。
この冷却は、一対の固形材料による固定を解除した場合に繊維が伸長又は収縮し、皺が発生しない温度まで冷却する。この温度は実験的に確認することができるが、一般的に不織布が60℃以下の温度となるまで冷却すれば、固定を解除しても繊維が伸長又は収縮せず、皺が発生しない。好ましくは、40℃以下まで冷却し、より好ましくは、30℃以下まで冷却する。また、冷却手段も特に限定されるものではなく、例えば、固定した不織布と液体冷媒、気体冷媒、或いは冷却固体(例えば、冷却ロール)とを接触させる方法を挙げることができる。
そして、一対の固形材料による固定を解除し、不織布を取り出して、静電紡糸不織布を製造することができる。このように、冷却後に不織布を取り出しているため、皺が発生することはない。なお、解除方法は一対の固形材料による固定を解除できれば良く、特に限定するものではない。また、不織布の取り出し方法も不織布を取り出すことができれば良く、特に限定するものではない。
本発明の静電紡糸不織布の製造装置について、製造装置の概念的断面図である図1をもとに説明する。
図1における1は、溶媒を含む紡糸原液を静電紡糸法により紡糸した繊維を直接捕集して繊維ウエブを形成できる繊維ウエブ形成手段であり、長円状に循環移動するノズル1aから紡糸原液を吐出し、紡糸原液に対して電界を作用させ、繊維化するとともに捕集体1b方向へ牽引し、極細化した繊維を直接集積して繊維ウエブを形成できるものである。このような繊維ウエブ形成手段1を備えているため、幅が広く、長尺状の静電紡糸不織布を連続して製造することができる。
このように形成された繊維ウエブは捕集体1bによって搬送され、3本の送入ガイドロール3a、3b、3cへと供給される。この3本の送入ガイドロールのうち、最初の送入ガイドロール3aには多孔質部分を含む(好ましくは全体が多孔質部である)第1固形材料シート2aが循環して供給され、2番目の送入ガイドロール3bにも多孔質部分を含む(好ましくは全体が多孔質部である)第2固形材料シート2bが循環して供給される。したがって、繊維ウエブが最初の送入ガイドロール3aに供給された時に、繊維ウエブの片面が第1固形材料シート2aの多孔質部分と当接し、繊維ウエブの残留溶媒は第1固形材料シート2aの多孔質部分を通じて蒸発可能な状態にある。その後、繊維ウエブと第1固形材料シート2aとが2番目の送入ガイドロール3bに供給された時に、繊維ウエブの第1固形材料シート2aとの当接面の反対面が第2固形材料シート2bと当接し、つまり、第1固形材料シート2aと第2固形材料シート2bによって繊維ウエブ全面が挟まれて固定される。このように、図1においては、第1固形材料シート2a、第2固形材料シート2b、最初の送入ガイドロール3a、及び2番目の送入ガイドロール3bが固定手段を構成する。なお、図1の製造装置においては、最初の送入ガイドロール3aと2番目の送入ガイドロール3bが室温下に設置されているため、60℃以下の雰囲気温度下の繊維ウエブに皺が入らない状況下で繊維ウエブを固定することができる。しかしながら、固定手段作動箇所(つまり、第1固形材料シート2a、第2固形材料シート2b、最初の送入ガイドロール3a、及び2番目の送入ガイドロール3b)の雰囲気を60℃以下とすることができるように、気体冷媒を吹き付けたり、最初の送入ガイドロール3a及び/又は2番目の送入ガイドロール3b自体を水冷又は空冷するなどの低温化手段を採用し、確実に皺が発生しないようにするのが好ましい。
このように、最初の送入ガイドロール3aと2番目の送入ガイドロール3bの作用により、第1固形材料シート2aと第2固形材料シート2bによって挟まれ、固定された繊維ウエブは3番目の送入ガイドロール3cによって、固定された状態のまま、処理ロール4へと供給される。この処理ロール4の上方には繊維ウエブを加熱するためのヒーター5(加熱手段)が設置されているため、繊維ウエブを固定した状態のまま加熱することができる。この加熱によって、繊維に残留する溶媒は第1固形材料シート2aの多孔質部分を通じて蒸発し、除去される。この処理ロール4は内部充実のロールであっても良いし、内部に気体を吸引できる吸引機構を有するものであっても良い。特に、第2固形材料シート2bが多孔質である場合には、吸引機構を有する処理ロール4であると、第2固形材料シート2bを介しても効率的に溶媒を蒸発・除去できるため好適である。なお、図1の製造装置においては、固定された繊維ウエブが処理ロール4に供給される地点よりも上流側に、処理ロール4を冷却するための第1冷却ノズル6が設置されており、処理ロール表面を60℃以下とすることができるため、繊維ウエブの第2固形材料シート2bによる密着固定が不十分であったとしても、処理ロール4と当接時に繊維が伸長又は収縮することがなく、皺を発生させることがない。
次いで、加熱して形成した不織布は固定された状態のまま、処理ロール表面に沿って搬送されるが、その途中に、第2冷却ノズル7(冷却手段)が設置されているため、不織布は固定されたまま冷却される。
その後、固定された不織布は送出ロール8a、8b、8cへと供給される。この3本の送出ガイドロールのうち、2番目の送出ガイドロール8bにおいて、第2固形材料シート2bが不織布の固定を解除し、前述の送入ガイドロール3bへと循環供給される。また、3番目の送出ガイドロール8cにおいて、第1固形材料シート2aが不織布の固定を解除し、前述の送入ガイドロール3aへと循環供給される。このように、3番目の送出ガイドロール8cにおいて、第1固形材料シート2a及び第2固形材料シート2bによる不織布の固定を完全に解除し、図示しない駆動ロール等によって、不織布を取り出し、巻き取って、本発明の静電紡糸不織布を製造することができる。このように、図1においては、2番目の送出ガイドロール8b、3番目の送出ガイドロール8c、及び駆動ロール等が取出手段を構成する。なお、最初の送出ガイドロール8a、及び2番目の送出ガイドロール8bの一部においては、未だ不織布を第1固形材料シート2a及び第2固形材料シート2bで固定した状態にあるため、これら送出ガイドロール8a、8bを水冷又は空冷するのが好ましい。
この図1に示すような製造装置によれば、繊維ウエブに皺が入っていない状態で繊維ウエブを固定し、その状態で加熱処理をして繊維ウエブの溶媒を除去し、冷却した後に固定を解除して不織布を取り出しているため、確実に皺がなく、しかも繊維ウエブの生産方向と幅方向との強度比を維持した静電紡糸不織布を製造することができる。
なお、図示していないが、第1固形材料シート2a及び第2固形材料シート2bもヒーター5による熱処理を受けるため、ヒーター5による熱処理後で、第1固形材料シート2aの場合には、最初の送入ガイドロール3aに到達する前、第2固形材料シート2bの場合には、2番目の送入ガイドロール3bに到達する前に、第1固形材料シート2a及び/又は第2固形材料シート2bを冷却できる冷却手段を設けるのが好ましい。
また、図1においては、繊維ウエブを固定した状態で熱処理できる領域に、処理ロール4を使用しているが、処理ロールである必要はなく、コンベアであっても良く、また、平板上を固定した繊維ウエブを滑らすようにすることもできる。なお、繊維ウエブの固定を送入ガイドロール3a、3b、3cを用いて行っているが、繊維ウエブを60℃以下の雰囲気温度下で固定でき、繊維ウエブを固定した状態で処理ロール4へ供給できる限り、送入ガイドロールである必要はない。また、図1においては、第1固形材料シート2a及び第2固形材料シート2bをエンドレスベルトとしているが、エンドレスベルトである必要はない。例えば、第1固形材料シート2a及び/又は第2固形材料シート2bを巻き出し、送入ガイドロール3a、3b、3cに供給するとともに、送出ガイドロール8a、8b、8cを通過後に、巻き取ることもできる。更に、図1は連続して静電紡糸不織布を製造できる装置であるが、一定面積をもつ繊維ウエブをそれぞれ固定した後に加熱し、冷却する、バッチ式の装置であっても良い。
図1の製造装置について、溶媒を含む紡糸原液を静電紡糸法により紡糸した繊維を直接捕集した繊維ウエブについて説明したが、繊維構成材料が溶融した紡糸原液であっても良いし、静電紡糸法により紡糸した繊維を含む繊維ウエブを供給できる装置であっても良い。また、上述の説明においては、繊維ウエブの溶媒を除去する場合について説明したが、全く同じ装置によって繊維ウエブを加熱し、繊維ウエブ構成繊維を架橋することもできる。前述の通り、繊維ウエブ構成繊維を加熱により架橋する場合、一対の固形材料は繊維ウエブを挟んで固定できれば良く、多孔質部分を有する必要はない。
このような本発明の製造方法及び製造装置により製造した静電紡糸不織布は、皺がなく、しかも繊維ウエブの生産方向と幅方向との強度比を維持したものである。例えば、生産方向と幅方向との強度比の維持率(=(静電紡糸不織布の強度比/繊維ウエブの強度比)×100)が83%〜120%の静電紡糸不織布である。例えば、本発明の製造方法によって製造できる生産方向と幅方向の強度差の小さい静電紡糸不織布は、積層板等の電気部材用基材、スピーカー等の基材、光学フィルムの基材などの用途に好適に使用できる。
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、これらは本発明の範囲を限定するものではない。なお、「引張り強さ」はインストロン型引張り試験機を用い、幅15mmに切断した試料を、チャック間距離50mm、引張り速度50mm/minの条件下で測定した値である。
(1)紡糸原液の調製;
重量平均分子量50万のポリアクリロニトリルを、N,N−ジメチルホルムアミド(沸点:153℃)に濃度10.5mass%となるように溶解させた紡糸原液(粘度:1200mP・s)を用意した。
(2)繊維ウエブ製造装置の準備;
図2〜図4に示すような繊維ウエブ製造装置を用意した。つまり、17本のノズル群121〜1217(それぞれ内径が0.4mmのステンレススチール製針状ノズル)をピッチ50mmで、チェーン状支持体16cにそれぞれ固定し、この支持体16cを第1スプロケット16aと第2スプロケット16bとの間に橋渡し、ノズル群121〜1217を長円状(長径:500mm、短径:100mm)に配置した。更に、第1スプロケット16aに駆動モーター16を取り付けた。
次いで、ポリエチレン製容器11にマイクロポンプ13(マイクロポンプ社製;マイクロポンプFC−513 ポンプヘッド:188 1rpm=0.017mLタイプ;コントローラ部=株式会社中央理化製)を接続するとともに、パーフルオロアルコキシ樹脂製チューブ11aを接続し、このチューブ11aをノズル121にロータリージョイントを介して接続した。次いで、このノズル121と隣接するノズル122とを前記と同様のチューブで接続し、紡糸原液がノズル121を介してノズル122へ供給できるようにした。同様に、ノズル122とノズル123、ノズル123とノズル124と順番にチューブで接続して、ノズル1217まで紡糸原液を供給することができるようにした。
次いで、ガラスクロスにポリテトラフルオロエチレン及び導電性粒子を含浸し、焼成したベルト状捕集体15(幅:800mm)をアースして、前記ノズル群121〜1217の直下に設置した。次いで、マイクロポンプ13のギアポンプヘッドに高電圧電源14を接続するとともに、前記ノズル群121〜1217の先端が、上方から下方に向かってベルト状捕集体15の方向に向いており、しかもノズル群121〜1217のエンドレス軌道の長径方向がベルト状捕集体15の幅方向(移動方向に対する直交方向)と一致するように、ノズル群121〜1217を配置した。なお、ノズル群121〜1217のノズルの先端とベルト状捕集体15の捕集表面との距離は40mmとした。
次に、前記ノズル群121〜1217及びベルト状捕集体15を塩化ビニル製直方体紡糸容器18(幅:1200mm、高さ:2000mm、奥行き:2400mm)の中央部に配置した。なお、直方体紡糸容器18の内側には、上壁面から800mm下方側の位置に整流板19aを上壁面と平行に配置した。また、ベルト状捕集体15の移動方向端部に、ベルト状捕集体15に従動して繊維ウエブを巻き取ることができるように、紙管17(直径:80mm、長さ:800mm)を設置した。
そして、直方体紡糸容器18の上壁面に温湿度調整機能を備えた送風機19(PAU−1400HDR、(株)アピステ)を接続するとともに、直方体紡糸容器18の下壁面に排気ファン20を接続した。
(実施例1)
前記紡糸原液を前記容器11に入れ、前記マイクロポンプ13を用いて紡糸原液を、ノズル121を介してノズル群121〜1217へ供給し、ノズル群121〜1217を180mm/sec.の一定速度で移動させながら、各ノズルから紡糸原液を吐出(1本あたりの吐出量:1g/時間)し、また、前記ベルト状捕集体15を一定速度(表面速度:6cm/分)で移動させながら、前記高電圧電源14から紡糸原液に+7kVの電圧を印加して、吐出した紡糸原液に電界を作用させて繊維化し、前記ベルト状捕集体15上に集積させて、平均繊維径0.3μmの連続繊維からなる繊維ウエブ(目付:5g/m2)を製造し、紙管17で巻き取った。なお、繊維ウエブを製造する際には、送風機19から温度26℃、相対湿度23%の調湿エアを5m3/分で供給するとともに、排気口から出てくる気体を排気ファン20で排気した。
次いで、生産方向に40cm、幅方向に20cmの大きさに繊維ウエブを切断した後、表面をクロームめっきしたスチールロール(直径:20cm、長さ:40cm、第2固形材料に相当)の表面に密着させた。次いで、この切断した繊維ウエブを完全に覆うように、全芳香族ポリアミド繊維からなるアラミド不織布(目付:16g/m2、厚さ:27μm、最大孔径:4μm(バブルポイント法)、熱膨張率:0.5%以下、分解温度:300℃以上、第1固形材料に相当)を繊維ウエブ上に密着させた後(圧力:約0.6kPa)、前記アラミド不織布の4辺を耐熱テープでスチールロールに固定した。なお、この作業は空気雰囲気の室温下(25℃)で行なった。
次いで、繊維ウエブをスチールロールとアラミド不織布とで固定した状態のまま、温度150℃に設定したオーブンに入れ、30分間熱処理して不織布とした後、オーブンから取り出し、不織布を固定した状態のまま、室温下に放置して、不織布が室温となるまで十分に冷却した。
その後、アラミド不織布を取り除くとともに、スチールロールから静電紡糸不織布を引き剥がした。この静電紡糸不織布に皺は全く観察されなかった。また、静電紡糸不織布の生産方向における引張り強さ及び幅方向(生産方向に直交する方向)における引張り強さを測定したところ、表1に示すように、強度比維持率が100%であった。また、生産方向と幅方向の強度差の小さい、等方性を有するものであった。また、参考として、熱処理をする前の繊維ウエブの生産方向及び幅方向の引張り強さも併せて表1に示す。
(3)加熱装置の準備;
繊維ウエブ形成手段を備えていないこと以外は、図1に類似の加熱装置を用意した。つまり、送入ガイドロール3a、3b、3c、処理ロール4、送出ガイドロール8a、8b、8cの間を循環移動する第1固形材料シート2aとして、全芳香族ポリアミド繊維からなるアラミド不織布(幅:30cm、最大孔径:4μm(バブルポイント法)、熱膨張率:0.5%以下、分解温度:300℃以上)をシリコーン製耐熱粘着テープでエンドレスベルト状としたものを使用し、送入ガイドロール3b、3c、処理ロール4、送出ガイドロール8a、8bの間を循環移動する第2固形材料シート2bとして、第1固形材料シート2aと同じエンドレスベルト状アラミド不織布を使用し、繊維ウエブ、第1固形材料シート2a及び第2固形材料シート2bを処理ロール4へ搬送するとともに、繊維ウエブを固定できる送入ガイドロール3a、3b、3cとして、表面をクロームめっきしたスチールロール(直径:7.5cm、長さ:40cm)を使用し、固定された繊維ウエブをヒーター5へ供給する処理ロール4として、表面をクロームめっきしたスチールロール(直径:30cm、長さ:40cm)を使用し、固定された繊維ウエブが処理ロール4に供給される地点よりも上流側に、処理ロール4を冷却するための第1冷却ノズル6を設置し、繊維ウエブを加熱するヒーター5として、セラミック製断熱ボードによって処理ロール4の上側半分領域を覆う(処理ロール4との間隙:1mm)とともに、遠赤外線照射装置を処理ロール4に対向し、20cm離間して設置したものを使用し、熱処理した不織布を冷却できる第2冷却ノズル7を、前記ヒーター5の断熱ボードの出口に隣接して設置し、冷却された不織布を処理ロール4から送出できる送出ガイドロール8a、8b、8cとして、表面をクロームめっきしたスチールロール(直径:7.5cm、長さ:40cm)を設置し、更に、前記第1固形材料シート2aであるアラミド不織布が繊維ウエブと接触した際に、第1固形材料シート2aのもつ熱によって繊維ウエブに皺が発生するのを確実に防止するために、3番目の送出ガイドロール8cよりも下流側に第1固形材料シート2aを冷却できる冷却ノズルを設置し、同様に、2番目の送出ガイドロール8bよりも下流側に第2固形材料シート2bを冷却できる冷却ノズルを設置した加熱装置を用意した。
(実施例2)
実施例1と全く同様にして、平均繊維径0.3μmの連続繊維からなる繊維ウエブ(目付:5g/m2)を製造し、紙管17で巻き取った。
次いで、紙管17に巻回された繊維ウエブを巻き出し、送入ガイドロール3a、3b、3cへ供給(速度:2cm/分)するとともに、最初の送入ガイドロール3aへ供給されたエンドレスベルト状アラミド不織布(第1固形材料シート2a)と、2番目の送入ガイドロール3bへ供給されたエンドレスベルト状アラミド不織布とで、前記繊維ウエブを空気雰囲気の室温下で全面的に挟んで固定(圧力:0.5kPa)し、その状態のまま、スチールロール(処理ロール4)へ供給した。なお、スチールロール(処理ロール4)へ供給された繊維ウエブが急激な熱を受けないように、第1冷却ノズル6から温度5℃の空気をスチールロールに吹き付け、スチールロール4を冷却した。
この供給された繊維ウエブを、固定した状態のまま、スチールロール(処理ロール4)の表面に沿わせた状態でヒーター5へ搬送(速度:2cm/分)し、ヒーター5によって加熱処理を約20分間実施し、繊維ウエブの残留溶媒を蒸発除去し、不織布を形成した。なお、ヒーター5は遠赤外線照射装置により、断熱ボード内の雰囲気温度を160℃に維持した。
更に、スチールロール(処理ロール4)の表面に沿わせ、固定した状態のまま不織布を第2冷却ノズル7へ供給し、第2冷却ノズル7から温度5℃の空気を固定された不織布に対して吹き付け、不織布を冷却した。
そして、スチールロール(処理ロール4)から固定した不織布を送出ロール8a、8b、8cへ搬送するとともに、2番目の送出ロール8bでエンドレスベルト状アラミド不織布(第2固形材料シート2b)による固定を解除し、3番目の送出ロール8cでエンドレスベルト状アラミド不織布(第1固形材料シート2a)の固定を解除して、静電紡糸不織布を取り出した。なお、第1固形材料シート2aに対して、3番目の送出ガイドロール8cよりも下流側に位置する冷却ノズルから、温度5℃の空気を吹き付け、第2固形材料シート2bに対して、2番目の送出ガイドロール8bよりも下流側に位置する冷却ノズルから、温度5℃の空気を吹き付け、それぞれ冷却した。
このようにして製造した静電紡糸不織布に皺は全く観察されなかった。また、静電紡糸不織布の生産方向における引張り強さ及び幅方向(生産方向に直交する方向)における引張り強さを測定したところ、表2に示すように、強度比維持率が105%であった。また、生産方向と幅方向の強度差の小さい、等方性を有するものであった。なお、参考として、熱処理をする前の繊維ウエブの生産方向及び幅方向の引張り強さも併せて表2に示す。
(実施例3)
重合度1000の完全けん化型ポリビニルアルコール(以後、「PVA」と表記する、和光純薬工業(株)製)を、イオン交換水(沸点:100℃)に濃度15mass%となるように溶解させた紡糸原液(粘度:600mP・s)を用意した。
この紡糸原液を用い、ノズル1本あたりの吐出量を0.5g/時間としたこと、ノズルの先端とベルト状捕集体15の捕集表面との距離を10cmとしたこと、ベルト状捕集体15の表面速度を3cm/分としたこと、及び印加電圧を+18KVとしたこと以外は、実施例1と同様にして、繊維ウエブを製造した。
次いで、この繊維ウエブを、遠赤外線照射装置によって断熱ボード内の雰囲気温度を120℃に維持したヒーター5によって熱処理したこと以外は、実施例2と同様に熱処理を実施して、静電紡糸不織布を製造した。この静電紡糸不織布に皺及び収縮は全く観察されなかった。また、静電紡糸不織布の生産方向における引張り強さは1.75N/15mm幅)で、幅方向(生産方向に直交する方向)における引張り強さは1.61N/15mm幅であり、強度差が小さく、等方性を有するものであった。なお、強度比維持率は103%であった。この静電紡糸不織布を水に浸漬すると溶解し、不織布形態を留めないものであった。
そこで、この静電紡糸不織布の耐水性を向上させるために、前記静電紡糸不織布を、遠赤外線照射装置によって断熱ボード内の雰囲気温度を190℃に維持したヒーター5によって熱処理したこと以外は、実施例2と同様に熱処理を実施して、再加熱静電紡糸不織布を製造した。この再加熱静電紡糸不織布を水に10分間浸漬しても、その不織布形状を維持できるものであった。なお、この再加熱静電紡糸不織布にも皺及び収縮は全く観察されず、また、生産方向における引張り強さは1.80N/15mm幅)で、幅方向(生産方向に直交する方向)における引張り強さは1.64N/15mm幅であり、強度差が小さく、等方性を有するものであった。なお、強度比維持率(静電紡糸不織布に対する)は104%であった。
(実施例4、比較例1)
第1固形材料シート2aに対して、3番目の送出ガイドロール8cよりも下流側に位置する冷却ノズルから、温度5℃の空気を吹き付けず、第2固形材料シート2bに対して、2番目の送出ガイドロール8bよりも下流側に位置する冷却ノズルから、温度5℃の空気を吹き付けず、そのまま第1固形材料シート2a及び第2固形材料シート2bを循環させたこと以外は、実施例2と同様にして静電紡糸不織布を製造した。
前記のように冷却ノズルによって第1固形材料シート2a及び第2固形材料シート2bを冷却していないため、第1固形材料シート2a及び第2固形材料シート2bの温度が徐々に上昇したが、送入ガイドロール3a、3bへ供給される直前における、第1固形材料シート2a及び第2固形材料シート2bの温度が60℃に達しても、皺を発生させることなく、静電紡糸不織布を製造することができた(実施例4)。
しかしながら、更に静電紡糸不織布の製造を続け、送入ガイドロール3a、3bへ供給される直前における、第1固形材料シート2a及び第2固形材料シート2bの温度が約80℃に達すると、繊維ウエブが送入ガイドロール3aに到達する前で既に皺が入った。更には、送出ガイドロール8b、8cから送出された時点において、第1固形材料シート2a及び第2固形材料シート2bの温度が80℃よりも高いため、第1固形材料シート2a及び第2固形材料シート2bから不織布が開放された時点で、生産方向に皺が入り、皺のない静電紡糸不織布を製造することが不可能であった(比較例1)。
(比較例2)
エンドレスベルト状アラミド不織布(第1固形材料シート2a)とエンドレスベルト状アラミド不織布(第2固形材料シート2b)によって繊維ウエブを挟んで固定しなかったこと以外は、実施例2と同様にして熱処理を実施し、ポリアクリロニトリル静電紡糸不織布を製造しようと試みた。しかしながら、スチールロール(処理ロール4)に繊維ウエブが当接した際、当接している時、及びスチールロール(処理ロール4)から引き剥がされた時のいずれの箇所においても皺及び幅引きが発生してしまった。
そこで、送入ガイドロール3a、3b、3cと送出ガイドロール8a、8b、8cとの間に周速差を設け、延伸することを試みた。この時の延伸倍率を1.1倍以上とした時に皺を発生させることなく、静電紡糸不織布を製造することができた。しかしながら、延伸倍率が1.1の時の静電紡糸不織布の生産方向における引張り強さは2.5N/15mm幅で、幅方向(生産方向に直交する方向)における引張り強さは1.8N/15mm幅で、強度比維持率が125%となり、繊維ウエブの強度比を維持できなかった。