JP4885019B2 - 表面プラズモン増強蛍光センサ - Google Patents

表面プラズモン増強蛍光センサ Download PDF

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Description

本発明は、蛍光法により試料中の特定物質を検出する蛍光センサ、特に詳細には表面プラズモン増強を利用した蛍光センサに関するものである。
従来、バイオ測定等において、高感度かつ容易な測定法として蛍光法が広く用いられている。この蛍光法は、特定波長の光により励起されて蛍光を発する検出対象物質を含むと考えられる試料に上記特定波長の励起光を照射し、そのとき蛍光を検出することによって検出対象物質の存在を確認する方法である。また、検出対象物質が蛍光体ではない場合、蛍光体で標識されて検出対象物質と特異的に結合する物質を試料に接触させ、その後上記と同様にして蛍光を検出することにより、この結合すなわち検出対象物質の存在を確認することも広くなされている。
図2は、上記の標識された物質を用いる蛍光法を実施するセンサの一例を概略図示するものである。本例の蛍光センサは一例として試料1に含まれる抗原2を検出するためのものであり、基板3には抗原2と特異的に結合する1次抗体4が塗布されている。そしてこの基板3上に設けられた試料保持部5の中において試料1が流され、次いで同様に蛍光体10で標識されて抗原2と特異的に結合する2次抗体6が流される。その後、基板3の表面部分に向けて光源7から励起光8が照射され、また光検出器9により蛍光検出がなされる。このとき、光検出器9によって所定の蛍光が検出されたなら、上記2次抗体6と抗原2との結合、すなわち試料中における抗原2の存在を確認できることになる。
なお以上の例では、蛍光検出によって実際に存在が確認されるのは2次抗体6であるが、この2次抗体6は抗原2と結合しなければ流されてしまって基板3上に存在し得ないものであるから、この2次抗体6の存在を確認することにより、間接的に検出対象物質である抗原2の存在が確認されることとなる。
とりわけここ数年は、冷却CCDの発達など光検出器の高性能化が進んでいることもあって、以上述べた蛍光法はバイオ研究には欠かせない手段となっており、さらにバイオ以外の分野においても広範に利用されている。特に可視領域では、例えばFITC(蛍光波長:525nm、量子収率:0.6)や、Cy5(蛍光波長:680nm、量子収率:0.3)のように、実用の目安となる0.2を超える高い量子収率を持つ蛍光色素が開発されており、蛍光法の応用分野がさらに拡大することが期待されている。
しかしながら、図2に示したような従来の蛍光センサでは、基板と試料との界面における励起光の反射/散乱光や、検出対象物質以外の不純物/浮遊物M等による散乱光がノイズとなるため、せっかく光検出器を高性能化しても蛍光検出におけるS/Nは向上しないのが実情であった。
これに対する解決法として、従来、エバネッセント波を用いる蛍光法が提案されている。この方法を実施する蛍光センサの一例を図3に概略的に示す。なおこの図3において、図2中の要素と同等の要素には同番号を付し、それらについての説明は特に必要のない限り省略する(以下、同様)。
この蛍光センサにおいては、前述の基板3に代わるものとしてプリズム(誘電体ブロック)13が用いられ、その上には金属膜20が形成されている。そして光源7からの励起光8が、このプリズム13と金属膜20との界面で全反射する条件で、プリズム13を通して照射される。この構成においては、励起光8が上記界面で全反射するとき該界面近傍に染み出すエバネッセント波11により2次抗体6が励起される。そして蛍光検出は、試料1に対してプリズム13と反対側(図中では上方)に配された光検出器9によってなされる。
この蛍光センサにおいて、励起光8は図中の下方に全反射するので、上方からの蛍光を検出するに当たり、励起光検出成分が蛍光検出信号に対するバック・グラウンドとなってしまうことがない。またエバネッセント波11は上記界面から数百nmの領域にしか到達しないので、試料中の不純物/浮遊物Mからの散乱を殆ど無くすことができる。そのため、このエバネッセント蛍光法は、従来の蛍光法と比べて(光)ノイズを大幅に低減でき、検出対象物質を1分子単位で蛍光測定できる方法として注目されている。
なお図3に示したものは、エバネッセント蛍光法による蛍光センサの中でも、特に高感度化を図った表面プラズモン増強蛍光センサである。この表面プラズモン増強蛍光センサにおいては金属膜20が形成されていることにより、励起光8が照射されたとき該金属膜20中に表面プラズモンが生じ、その電界増幅作用によって蛍光が増幅されるようになる。あるシミュレーションによると、その場合の蛍光強度は1000倍程度まで増幅されることが判っている。この種の表面プラズモン増強蛍光センサについては、例えば特許文献1や特許文献2に詳しい記載がなされている。
なお、上記の表面プラズモン増強蛍光センサにおいては、非特許文献1に示されているように、試料中の蛍光体と金属膜とが接近し過ぎていると、蛍光体内で励起されたエネルギーが蛍光を発生させる前に金属膜へ遷移してしまい、蛍光が生じないという現象(いわゆる金属消光)が起こり得る。この金属消光に対処するために上記非特許文献1には、金属膜の上にSAM(自己組織化膜)を形成し、それにより試料中の蛍光体と金属膜とを該SAMの厚さ以上離間させることが提案されている。なお図3でも、このSAMに番号21を付けて示してある。
特許第3562912号公報 特開平10−78390号公報 W.Knoll他、Analytical Chemistry(Anal.Chem.)75(2003) p.2610
上に説明した表面プラズモン増強蛍光センサは、表面プラズモンによる電界増幅作用によって蛍光が増幅され、検出対象物質の存在を示す蛍光を高S/Nで検出可能となっているが、金属膜の存在による新たな問題も認められる。すなわち、非常に薄く形成されるこの種の金属膜は、厚さや組成、表面粗さ等に個体差、面内のばらつきが生じやすくなっており、そのため、この個体差に起因して蛍光検出量が変動し、それが定量的な測定値の精度低下を招いている。
本発明は上記の事情に鑑みてなされたものであり、金属膜の個体差に拘わらず、検出対象物質を精度良く定量分析することができる表面プラズモン増強蛍光センサを提供することを目的とする。
本発明による表面プラズモン増強蛍光センサは、検出対象以外の蛍光の他に、基準蛍光発生用の蛍光体が発した基準蛍光を検出するようにし、その基準蛍光に基づいて検出対象の蛍光強度を規格化するようにしたものであり、より具体的には、
所定波長λ1の励起光を発する光源と、
前記励起光を透過させる材料から形成された誘電体ブロックと、
この誘電体ブロックの一表面に形成された金属膜と、
この金属膜の近傍位置に試料を保持する試料保持部と、
前記励起光を、前記誘電体ブロックと金属膜との界面に向けて、全反射条件を満たすように誘電体ブロックを通して入射させる入射光学系と、
前記界面に前記励起光が入射したとき、該界面から染み出すエバネッセント波に励起されて、前記試料中に含まれる物質が発した波長λ2の蛍光を検出する測定用蛍光検出手段とを備えてなる表面プラズモン増強蛍光センサにおいて、
前記励起光によって励起される位置に配された、前記物質とは異なる蛍光体と、
前記蛍光体が発した波長λ3(λ3≠λ2)の基準蛍光を検出する基準蛍光検出手段と、
この基準蛍光検出手段が検出した基準蛍光の強度に基づいて、前記測定用蛍光検出手段が検出した蛍光強度を規格化する演算手段とを備えたことを特徴とするものである。
なお上記蛍光体は、誘電体ブロックと金属膜との界面に入射する前の励起光によって励起される位置に配設されてもよいし、あるいは、この界面から出射した励起光のエバネッセント波によって励起される位置に配設されてもよい。
また、上記構成の本発明による表面プラズモン増強蛍光センサにおいては、
前記測定用蛍光検出手段および基準蛍光検出手段として共通の光検出手段が用いられた上で、
波長λ2の蛍光を通過させる一方波長λ3の基準蛍光は遮断する第1のフィルタと、
波長λ2の蛍光を遮断する一方波長λ3の基準蛍光は通過させる第2のフィルタと、
前記第1のフィルタおよび第2のフィルタのうちの一方のみを選択的に前記共通の光検出手段の前段に配置可能なフィルタ切替手段とが設けられていることが望ましい。
あるいは、前記測定用蛍光検出手段および基準蛍光検出手段として互いに別個の光検出手段が用いられた上で、
波長λ2の蛍光は前記測定用蛍光検出手段に向けて、波長λ3の基準蛍光は前記基準蛍光検出手段に向けて各々進行させる光学素子が設けられてもよい。
一方、波長λ3の基準蛍光を得るためには例えば、金属膜の表面に、試料中の特定物質と結合する物質が固定され、この物質に前記蛍光体が固定されている構成を採用することができる。そのように試料中の特定物質と結合する物質としては、例えば試料中の抗原と結合する抗体が挙げられる。
あるいは、波長λ3の基準蛍光を得る上で、前記誘電体ブロックの一部に前記蛍光体が固定されている構成も好適に採用することができる。
また、前記金属膜の表面に、疎水性材料からなる不撓性膜などの膜が形成され、この膜に前記蛍光体が固定されている構成も好適に採用することができる。
さらには、波長λ3の基準蛍光を発する蛍光体は、例えば液体状の試料中に混合させておくようにしてもよい。
また、本発明の表面プラズモン増強蛍光センサにおいては、前記蛍光体の多光子吸収によって発光した蛍光を基準蛍光として用いてもよい。
本発明の表面プラズモン増強蛍光センサにおいては、励起光に励起された蛍光体が発した基準蛍光を検出し、この基準蛍光の強度に基づいて、測定用蛍光検出手段が検出した蛍光強度を規格化するように構成されているので、金属膜に厚さや組成、表面粗さ等の個体差・面内ばらつきが有ったとしても、規格化された蛍光強度はその個体差をキャンセルして、試料中に含まれる測定対象物質の量を高精度で示すものとなる。
このように、金属膜の個体差を許容して測定対象物質を定量的に検出できれば、誘電体ブロックおよび金属膜の部分を安価な使い捨ての形態として、家庭用の簡易分析装置などを構成することも容易となる。
また、特に金属膜の表面に疎水性材料からなる不撓性膜が形成され、この不撓性膜に前記蛍光体が固定されている場合は、試料液中の蛍光体が金属膜に対して、金属消光が起きる程度まで近接してしまうことが防止される。そこでこの場合は前述のような金属消光を招くことがなくなり、表面プラズモンによる電場増幅作用を確実に得て、極めて高い感度で蛍光を検出可能となる。
また、特に不撓性膜が疎水性材料から形成されていれば、試料液中に存在する金属イオンや溶存酸素のような消光の原因となる分子が該不撓性膜の内部にまで入り込むことが無く、よってそれらの分子が励起光の励起エネルギーを奪ってしまうことが防止される。そこでこの場合は、極めて高い励起エネルギーが確保され、極めて高い感度で蛍光を検出可能となる。
なお、上記の「不撓性」とは、センサを普通に使用しているうちに膜厚が変わってしまうほどに変形することが無い程度の剛性を備えていることを意味するものとする。
また、本発明の表面プラズモン増強蛍光センサにおいて、基準となる蛍光体が増強場にある場合は、多光子吸収により生じたアップコンバージョン蛍光を基準蛍光として検出できるものとなる。そこでこの表面プラズモン増強蛍光センサによれば、本来の検出対象蛍光との波長差が大きい基準蛍光を検出することになり、双方の蛍光を明確に区別して精度良く検出可能となる。
以下、図面を参照して本発明の実施形態を詳細に説明する。
図1は、本発明の第1の実施形態による表面プラズモン増強蛍光センサ(以下、単に蛍光センサという)を示す概略側面図である。図示されている通りこの蛍光センサは、例えば波長λ1=635nmの励起光8を発する半導体レーザ等の光源7と、上記励起光8を透過させる材料からなり、この励起光8が上端面から入射する位置に配されたロッド状の誘電体ブロック22と、この誘電体ブロック22の一表面22aに形成された金属膜20と、この金属膜20の上に形成されたポリマーからなる不撓性膜31と、不撓性膜31に液体状試料1が接するように該試料1を保持する透明部材製の試料保持部5と、この試料保持部5内に誘電体ブロック22を保持するチャック23とを有している。
またこの蛍光センサは、試料保持部5の下方位置において金属膜20と向い合う状態に配された光検出器9と、この光検出器9と試料保持部5との間に配置された集光レンズ24と、保持部材25に保持された第1フィルタ26および第2フィルタ27と、上記保持部材25を図中左右方向に移動させるアクチュエータ28と、光検出器9の出力を受ける演算回路29とを備えている。
なお本実施形態では光源7が、励起光8を、誘電体ブロック22と金属膜20との界面に向けて、全反射条件を満たすように誘電体ブロック22を通して入射可能に配置されている。つまりこの光源7自体が、誘電体ブロック22に対して励起光8を上述のように入射させる入射光学系を構成している。しかしこのような構成に限らず、励起光8を上述のように入射させるレンズやミラーなどからなる入射光学系を、光源7とは別途設けても構わない。
誘電体ブロック22は一例として、日本ゼオン株式会社製 ZEONEX(登録商標) 330R(屈折率1.50)からなるものである。一方金属膜20は、誘電体ブロック22の一表面22a上に金をスパッタして形成されたものであり、膜厚は50nmとされている。また不撓性膜31は、金属膜20の上に屈折率1.59のポリスチレン系ポリマーをスピンコートして形成されたものであり、膜厚は20nmとされている。
なお、誘電体ブロック22は上記材料の他、公知の樹脂や光学ガラスを用いて適宜形成することができる。コストの点からは、光学ガラスよりも樹脂の方がより好ましいと言える。樹脂から形成する場合は、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリカーボネイト(PC)、シクロオレフィンを含む非晶性ポリオレフィン(APO)等の樹脂を好適に用いることができる。
この蛍光センサが検出対象としているのは、一例としてCRP抗原2(分子量11万 Da)であり、それと特異的に結合する1次抗体(モノクロナール抗体)4が上記不撓性膜31の上に固定されている。この1次抗体4は、例えば末端をカルボキシル基化したPEGを介して、アミンカップリング法により、上記ポリマーからなる不撓性膜31に固定される。またこの1次抗体4には、前記波長λ1=670nmの励起光8により励起されてピーク波長λ3=780nmの蛍光(基準蛍光)F3を発する蛍光色素32が固定されている。なおより具体的にこの蛍光色素32としては、Cy7が適用されている。
蛍光検出を行う際には、試料1の中に2次抗体6が混合される。この2次抗体6としては、例えばローダミンB等の蛍光体10で標識化したモノクロナール抗体(1次抗体4とはエピトープ <epitope;抗原決定基>が異なる)が用いられる。蛍光体10は、波長λ1=670nmの励起光8により励起されてピーク波長λ2=720nmの蛍光F2を発するものである(Alexa700)。
上記アミンカップリング法は一例として下記(1)〜(3)のステップからなるものである。なおこれは、30μl(マイクロ・リットル)のキュベット/セルを用いた場合の例である。
(1)リンカー先端(末端)の-COOH基を活性化
0.1M(モル)のNHSと0.4MのEDCとを等体積混合した溶液を30μl加え、30分間室温静置。なお、
NHS:N-hydrooxysuccinimide
EDC:1-ethyl-3-(3-dimethylaminopropyl)carbodiimide
である。
(2)1次抗体4の固定化
PBSバッファ(pH7.4)で5回洗浄後、1次抗体溶液(500μg/ml)を30μl加え、30〜60分間室温静置
(3)未反応の -COOH基をブロッキング
PBSバッフア(pH7.4)で5回洗浄後、1Mのエタノールアミン(pH8.5)を30μl加え、20分間室温静置。さらにPBSバッフア(pH7.4)で5回洗浄。
なお光源7としては上記半導体レーザに限らず、その他の公知の光源を適宜選択使用可能である。また光検出器9も上述のものに限らず、CCD、PD(フォトダイオード)、光電子増倍管、c-MOS等の公知のものを適宜選択使用可能である。また励起波長を変えれば、ローダミンB以外の色素を標識として用いることもできる。
光検出器9としては、前述したピーク波長λ2=720nmの蛍光F2も、またピーク波長λ3=780nmの基準蛍光F3も検出可能である、例えば富士フイルム株式会社製 LAS-1000 plus(商品名)が用いられている。つまりこの光検出器9は、測定用蛍光検出手段と基準蛍光検出手段とを兼ねるものである。
保持部材25に保持された第1フィルタ26は、720±10nmの波長域の蛍光F2を通過させる一方、780±10nmの波長域の基準蛍光F3は遮断する通過特性のものである。それと反対に第2フィルタ27は、基準蛍光F3を通過させる一方、蛍光F2は遮断する通過特性のものである。
以下、この蛍光センサの作用を、一例として試料1に含まれるCRP抗原2を定量分析する場合について説明する。まず試料保持部5の中において液体状の試料1が流され、次いで同様に蛍光体10で標識されてCRP抗原2と特異的に結合する2次抗体6が流される。なお、このように試料1を流すことはしないで、試料保持部5の中に液体状の試料1を貯えた状態で蛍光検出を行ってもよいし、さらには、図1の試料保持部5は省いた上で、別の槽において誘電体ブロック22の不撓性膜31の部分を液体状試料1、2次抗体6に順次接触させ、その後図1に示す蛍光検出系に該誘電体ブロック22をセットして測定を行うようにしてもよい。
蛍光検出するに当たっては、まずアクチュエータ28が駆動されて、第2フィルタ27が集光レンズ24と向い合う位置に配される。次に誘電体ブロック22に向けて光源7から波長λ1=670nmの励起光8が照射されると、その励起光8の一部は誘電体ブロック22と金属膜20との界面に全反射条件を満たして入射し、該界面から同波長のエバネッセント波が染み出すようになる。そこで、1次抗体4に結合している蛍光色素32がこのエバネッセント波に励起されて、ピーク波長λ3780nm の基準蛍光F3を発するようになる。
なお、不撓性膜31の近傍に2次抗体6が存在していると、その標識である蛍光体10も上記エバネッセント波に励起されてピーク波長λ2=720nmの蛍光F2を発することになるが、第2フィルタ27が上述のように配置されていることにより、光検出器9は基準蛍光F3のみを検出する。光検出器9からは基準蛍光F3の強度を示す基準信号P3が出力され、該信号P3は演算回路29の内部メモリに一旦記憶される。
次にアクチュエータ28が駆動されて、第1フィルタ26が集光レンズ24と向い合う位置に配される。このとき、もし1次抗体4にCRP抗原2が結合していれば、さらに該抗原2に2次抗体6が結合し、その2次抗体6の標識である蛍光体10が上記エバネッセント波によって励起されることとなる。こうして励起された蛍光体10はピーク波長λ2=720nmの蛍光F2を発し、その蛍光F2が光検出器9によって検出される。なお、このとき、蛍光色素32から発せられたピーク波長λ3=780nmの基準蛍光F3は第1フィルタ26によって遮断されるので、光検出器9によって検出されることはない。
光検出器9からは上記蛍光F2の強度を示す信号P2が出力され、この信号P2も演算回路29に入力される。演算回路29はこの信号P2と、先に記憶した基準信号P3からP=P2/P3なる演算を行い、演算後の信号Pを規格化蛍光強度信号として出力する。
先に述べたように、金属膜20には厚さや組成、表面粗さ等の個体差が生じることがあり、そうであると、その個体差に応じて蛍光強度信号P2が変動してしまう。蛍光強度信号P2は本来、励起された蛍光体10の量つまりは1次抗体4に結合しているCRP抗原2の量に対応した値を示すものであって、それによりCRP抗原2を定量分析することが可能となるが、金属膜20の個体差に応じて蛍光強度信号P2が変動すると、定量分析の精度が損なわれてしまう。しかし本実施形態では、P=P2/P3なる規格化演算を行っているので、その結果得られた規格化蛍光強度信号Pは金属膜20の個体差をキャンセルして、CRP抗原2の量を正確に示すものとなり得る。
上述のように、金属膜20の個体差をある程度許容して高精度で定量分析できれば、誘電体ブロック22および金属膜20の部分を安価な使い捨ての形態として、家庭用の簡易分析装置などを構成することも容易となる。
なお上記エバネッセント波は、誘電体ブロック22と金属膜20との界面から数百nm程度の領域にしか到達しない。そこで、試料1中の不純物/浮遊物からの散乱を略皆無とすることができる。それに加えてこの蛍光センサにおいて、誘電体ブロック22中の不純物等で散乱した光(これは通常の伝搬光である)は金属膜20で遮断され、光検出器9に到達することがない。以上によりこの蛍光センサにおいては、光ノイズを殆ど皆無までに低減することができ、極めて高S/Nの蛍光検出が可能となる。
さらに本実施形態の蛍光センサにおいては、金属膜20の上に膜厚が20nmの不撓性膜31が設けられているので、試料1中の蛍光体10が金属膜20に対して、金属消光が起きる程度まで近接してしまうことが防止される。そこでこの蛍光センサによれば、上述のような金属消光を招くことがなくなり、表面プラズモンによる電場増幅作用を確実に得て、極めて高い感度で蛍光を検出可能となる。
そして上記不撓性膜31は疎水性材料であるポリスチレン系ポリマーから形成されているので、液体状の試料1中に存在する金属イオンや溶存酸素のような消光の原因となる分子が該不撓性膜31の内部に入り込むことが無く、よってそれらの分子が励起光8の励起エネルギーを奪ってしまうことが防止される。そこでこの蛍光センサによれば、極めて高い励起エネルギーが確保され、極めて高い感度で蛍光を検出可能となる。
なお、この蛍光センサにおいて、CRP抗原2と結合しないで不撓性膜31の表面から離れている2次抗体6は、そこまでエバネッセント波が届かないので蛍光を発することがない。そこで、試料1中でそのような2次抗体6が浮遊していても測定上問題が無いので、測定毎に洗浄つまりB/F分離(バウンド/フリー分離)を行う必要もない。
次に図4を参照して、本発明の第2の実施形態について説明する。本実施形態の蛍光センサは図1に示したものと比べると、基準信号P3を発する蛍光体が配設された位置が異なるものである。すなわち本実施形態においては、誘電体ブロック22の金属膜20が固定される表面22aに近い部分が、蛍光体40から形成されている。
この構成においては、蛍光体40が波長λ1の励起光8により励起されて、波長λ3の基準蛍光F3を発する。この基準蛍光F3は、金属膜20および不撓性膜31を透過して光検出器9によって検出され、第1実施形態におけるのと同様の規格化に利用される。なお、上述のように誘電体ブロック22の一部に形成される蛍光体40は、例えば2色成型等の方法によって形成することができる。
次に図5を参照して、本発明の第3の実施形態について説明する。本実施形態の蛍光センサは図1に示したものと比べると、基準信号P3を発する蛍光体が配設された位置が異なるものである。すなわち本実施形態においては、金属膜20の上に形成された不撓性膜31a自体が蛍光体から形成されている。
この構成においては、波長λ1の励起光8が誘電体ブロック22と金属膜20との界面に向けて照射されると、該界面から同波長のエバネッセント波が染み出すようになる。そこで、蛍光体からなる不撓性膜31aがこのエバネッセント波によりに励起されて、波長λ3の基準蛍光F3を発する。この基準蛍光F3は光検出器9によって検出され、第1実施形態におけるのと同様の規格化に利用される。
本実施形態においては、第1の実施形態と同様に例えば励起光波長λ1を670nmとし、2次抗体6をローダミンB等で標識化してそこからピーク波長λ2=720nmの蛍光F2を発生させる一方、不撓性膜31aからピーク波長λ3=780nmの基準蛍光F3を発生させることができる。
次に図6を参照して、本発明の第4の実施形態について説明する。本実施形態の蛍光センサは図1に示したものと比べると、光源7に出力可変回路41が接続されて、該光源7の出力がE1,E2の2通りに変えられるようになっている点が基本的に異なる。また光源7としては、波長λ1=785nmの励起光8を発するものが用いられている。一方、1次抗体4を標識化する蛍光体32には、例えばFITC が適用されている。
この蛍光センサにおいて、規格化データを得るに当たっては、光源7の励起光出力がE1よりも高いE2に設定される。それにより蛍光体32が2光子吸収を起こし、波長785/2=393nmの励起光で励起された場合と同様に励起されて、波長λ3=520nmの基準蛍光F3を発する。一方、通常の蛍光検出に際しては光源7の励起光出力がE1に設定される。この低い出力E1に設定されたとき、2次抗体6に結合している蛍光色素(IRDye800CW)10は波長λ1=785nmの励起光8で励起されて、ピーク波長λ2=790nmの蛍光F2を発する。このように波長λ2とλ3の値が大きく離れていれば、第1フィルタ26および第2フィルタ27として通過特性がさほど急峻ではないものを適用しても、蛍光F2と基準蛍光λ3とを明確に区別して検出可能となる。
このように2光子励起によって基準蛍光F3を発生させる場合の規格化蛍光強度信号Pは、例えば蛍光F2、基準蛍光F3の強度を示す信号をそれぞれP2、P3とすると、P=P2/(P30.25として求められる。
なお、2光子吸収を起こす必要がある蛍光体32は、1次抗体4に固定されて金属膜20と非常に近い位置に存在すると、金属消光のために蛍光を発しない可能性もある。そこで不撓性膜31は、この蛍光体32を金属膜20から十分に離間させるために、10〜20nm程度の厚さを有するSiO2やポリマーなどの膜とすることが望ましい。
また、以上説明した構成とは逆に、2次抗体6に結合させる蛍光色素10としてFITCを適用する一方、1次抗体4を標識化する蛍光体32としてIRDye800CWを適用すれば、表面プラズモンによる電場増幅作用が2次抗体6の位置で非常に大きくなることを利用して、励起光出力E1、E2の切り替えをしなくても、蛍光色素10のみで2光子励起が起きるようにすることができる。すなわち上記電場増幅作用について詳しく説明すると、一例として金属膜20として厚さ50nmの金膜を用い、その表面に厚さ1nmのSAM(自己組織化膜)を形成した場合、金属膜表面から大略35nm以上離れた位置から2次抗体6が存在するようになるが、本発明者のシミュレーションによると、表面プラズモンにより増幅される電場はその2次抗体6が存在する位置近辺で最大となる。
次に図7を参照して、本発明の第5の実施形態について説明する。本実施形態の蛍光センサは図1に示したものと比べると、試料保持部5の下方に配設された蛍光検出系が異なるものである。すなわち本実施形態においては、試料保持部5の下方に回折格子50が配置されるとともに、その側方に集光レンズ53を介して2つの光検出器51,52が設けられている。
回折格子50は、波長λ2の蛍光F2と波長λ3の基準蛍光F3とを互いに異なる回折角で反射回折させる。そして、それにより互いに異なる方向に進行する蛍光F2と基準蛍光F3はそれぞれ集光レンズ53で集光された上で、蛍光F2の波長域に感度を有する光検出器(測定用蛍光検出手段)51と、基準蛍光F3の波長域に感度を有する光検出器(基準蛍光検出手段)52とによって受光される。このような構成においては、蛍光F2の検出と基準蛍光F3の検出とを同時に行うことができるので、蛍光検出の作業能率を高める上で有利である。
なおこのような蛍光検出系は、基準蛍光F3を発生させる構成として図4〜6に示したような構成を用いる場合にも、同様に適用可能である。
なお、以上説明した各実施形態においては、基準蛍光F3を発生させる蛍光体が装置の一部に固定されているが、そのような蛍光体は固定する他に、液体状試料の中に混合させて使用することも可能である。
本発明の第1実施形態による表面プラズモン増強蛍光センサを示す概略側面図 従来の蛍光センサの一例を示す概略側面図 従来の蛍光センサの別の例を示す概略側面図 本発明の第2実施形態による表面プラズモン増強蛍光センサを示す概略側面図 本発明の第3実施形態による表面プラズモン増強蛍光センサを示す概略側面図 本発明の第4実施形態による表面プラズモン増強蛍光センサを示す概略側面図 本発明の第5実施形態による表面プラズモン増強蛍光センサを示す概略側面図
符号の説明
1 試料
2 抗原
4 1次抗体
6 2次抗体
7 光源
8 励起光
9 光検出器
10 蛍光体
20 金属膜
22 誘電体ブロック
24 集光レンズ
26 第1フィルタ
27 第2フィルタ
28 アクチュエータ
29 演算回路
31、31a 不撓性膜
32 蛍光色素
40 蛍光体
41 光源の出力可変回路
50 回折格子
51 光検出器(測定用蛍光検出手段)
52 光検出器(基準蛍光検出手段)
53 集光レンズ

Claims (4)

  1. 所定波長λ1の励起光を発する光源と、
    前記励起光を透過させる材料から形成された誘電体ブロックと、
    この誘電体ブロックの一表面に形成された金属膜と、
    この金属膜の近傍位置に試料を保持する試料保持部と、
    前記励起光を、前記誘電体ブロックと金属膜との界面に向けて、全反射条件を満たすように誘電体ブロックを通して入射させる入射光学系と、
    前記界面に前記励起光が入射したとき、該界面から染み出すエバネッセント波に励起されて、前記試料中に含まれる物質が発した波長λ2の蛍光を検出する測定用蛍光検出手段とを備えてなる表面プラズモン増強蛍光センサにおいて、
    前記励起光によって励起される位置に配された、前記物質とは異なる蛍光体と、
    前記蛍光体が発した波長λ3(λ3≠λ2)の基準蛍光を検出する基準蛍光検出手段と、
    この基準蛍光検出手段が検出した基準蛍光の強度に基づいて、前記測定用蛍光検出手段が検出した蛍光強度を規格化する演算手段とを備え
    前記金属膜の表面に疎水性材料からなる不撓性膜が形成され、この膜の上に前記蛍光体が固定されていることを特徴とする表面プラズモン増強蛍光センサ。
  2. 前記測定用蛍光検出手段および基準蛍光検出手段として共通の光検出手段が用いられた上で、
    波長λ2の蛍光を通過させる一方波長λ3の基準蛍光は遮断する第1のフィルタと、
    波長λ2の蛍光を遮断する一方波長λ3の基準蛍光は通過させる第2のフィルタと、
    前記第1のフィルタおよび第2のフィルタのうちの一方のみを選択的に前記共通の光検出手段の前段に配置可能なフィルタ切替手段とが設けられたことを特徴とする請求項1記載の表面プラズモン増強蛍光センサ。
  3. 前記測定用蛍光検出手段および基準蛍光検出手段として互いに別個の光検出手段が用いられた上で、
    波長λ2の蛍光は前記測定用蛍光検出手段に向けて、波長λ3の基準蛍光は前記基準蛍光検出手段に向けて各々進行させる光学素子が設けられたことを特徴とする請求項1記載の表面プラズモン増強蛍光センサ。
  4. 前記蛍光体が多光子吸収によって発光した蛍光を基準蛍光として用いる構成を有することを特徴とする請求項1からいずれか1項記載の表面プラズモン増強蛍光センサ。
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