JP4884702B2 - 炭酸塩の製造方法 - Google Patents
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炭酸塩の結晶形としては、カラサイト、アラゴナイト、バテライトなどが挙げられるが、これらの中でも、アラゴナイトは針状であり、強度や弾性率に優れる点で、様々な用途に有用である。
しかし、特許文献1に記載の炭酸塩の製造方法では、得られる炭酸塩の長さが30〜60μmと大きいだけでなく、粒子サイズの分布幅が広く、所望の粒子サイズに制御した炭酸塩を得ることができないという問題がある。また、特許文献2に記載の炭酸塩の製造方法を用いても、長さが20〜30μmの大きな粒子しか得ることができない。
<1> Sr2+イオン、Ca2+イオン、Ba2+イオン、Zn2+イオン、及びPb2+イオンから選択される少なくとも1種の金属イオンを含む金属イオン源と炭酸源とを55℃以上の液中で加熱反応させてアスペクト比が1より大きい炭酸塩を製造することを特徴とする炭酸塩の製造方法である。該<1>に記載の炭酸塩の製造方法においては、前記金属イオン源と前記炭酸源とが、55℃以上の液中で加熱されて反応する。その結果、高結晶性で、凝集しにくく、アスペクト比が1より大きい炭酸塩が製造される。
<2> 針状及び棒状のいずれかの形状を有する炭酸塩を製造する前記<1>に記載の炭酸塩の製造方法である。該<2>に記載の炭酸塩の製造方法においては、前記針状及び前記棒状のいずれかの形状を有する炭酸塩が製造されるので、該炭酸塩を多目的、多用途に使用可能である。また、非複屈折光学樹脂材料への応用も可能である。
<3> 金属イオン源が、NO3 −、Cl−、及びOH−の少なくともいずれかを含む前記<1>から<2>のいずれかに記載の炭酸塩の製造方法である。
<4> 炭酸源が尿素である前記<1>から<3>のいずれかに記載の炭酸塩の製造方法である。該<4>に記載の炭酸塩の製造方法においては、前記尿素が加熱されて分解され、二酸化炭素が発生する。該二酸化炭素が前記液中においてCO3 2−イオンとなり、前記金属イオン源に含まれるアニオンと反応し、炭酸塩が製造される。
<5> 液中に水を含む前記<1>から<4>のいずれかに記載の炭酸塩の製造方法である。
<6> 液中に溶剤を含む前記<1>から<5>のいずれかに記載の炭酸塩の製造方法である。該<6>に記載の炭酸塩の製造方法においては、前記溶剤が含まれるので、得られる炭酸塩の溶解度の低下が可能である。
<7> 溶剤が、メタノール、エタノール、及びイソプロピルアルコールから選択される少なくとも1種である前記<6>に記載の炭酸塩の製造方法である。
<8> 加熱反応終了後の液のpHが8.20以上である前記<1>から<7>のいずれかに記載の炭酸塩の製造方法である。該<8>に記載の炭酸塩の製造方法においては、加熱反応終了後の液のpHが8.20以上であり、アルカリ領域にあるので、微細な炭酸塩が得られる。
<9> X線回折測定による回折パターンにおいて、(111)面の回折ピークの半値幅が0.8°未満である炭酸塩を製造する前記<1>から<8>のいずれかに記載の炭酸塩の製造方法である。該<9>に記載の炭酸塩の製造方法においては、前記(111)面の回折ピークの半値幅が0.8°未満であるので、結晶性に優れる。
本発明の炭酸塩の製造方法は、金属イオン源と炭酸源とを55℃以上の液中で加熱反応させてアスペクト比が1より大きい炭酸塩を製造する。
前記金属イオン源としては、金属イオンを含む限り、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、前記炭酸源と反応して、カラサイト、アラゴナイト、バテライト、及びアモルファスのいずれかの形態を有する炭酸塩を形成するものが好ましく、アラゴナイト型の結晶構造を有する炭酸塩を形成するものが特に好ましい。
前記アラゴナイト型の結晶構造は、CO3 2−ユニットで表され、該CO3 2−ユニットが積層されて針状及び棒状のいずれかの形状を有する炭酸塩を形成する。このため、該炭酸塩が、後述する延伸処理により、任意の一方向に延伸されると、その延伸方向に粒子の長軸方向が一致した状態で結晶が並ぶ。
また、表1にアラゴナイト型鉱物の屈折率を示す。表1に示すように、前記アラゴナイト型の結晶構造を有する炭酸塩は、複屈折率δが大きいため、配向複屈折性を有するポリマーへのドープに好適に使用することができる。
前記炭酸源としては、CO3 2−イオンを生ずるものである限り特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、例えば、尿素[(NH2)2CO]、炭酸アンモニウム[(NH4)2CO3]、炭酸ナトリウム[Na2CO3]、炭酸ガスなどが好適に挙げられる。これらの中でも、尿素[(NH2)2CO]が特に好ましい。
前記加熱反応を行う方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、図1に示すように、前記金属イオン源と前記炭酸源とを入れた容器を反応槽に投入し、保温する方法が挙げられる。また、前記加熱反応は以下の反応条件を充たして行うのが好ましい。
すなわち、前記加熱反応における反応温度は、55℃以上であることが必要であり、60〜95℃が好ましく、70〜90℃がより好ましい。該反応温度が55℃未満であると、結晶性が低く、また、針状及び棒状のいずれかの形状を有する炭酸塩が得られず、球状又は楕円状の炭酸塩が生成されることがある。
反応時間としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、15〜360minが好ましく、30〜240minがより好ましい。
なお、前記加熱反応は撹拌しながら行うのが好ましく、撹拌速度としては、500〜1500rpmであるのが好ましい。
まず、酸性領域では、前記尿素の加熱分解が下記式(1)のように行われ、前記金属イオン源がSr(NO3)2の場合には、下記式(1)が進行することとなる。
(NH2)2CO+3H2O→2NH4 ++OH−+CO2・・・・・式(1)
また、アルカリ性領域では、前記尿素の加水分解が下記式(2)のように行われる。
(NH2)2CO+2OH−→CO3 2−+2NH3・・・・・式(2)
そして、前記式(1)あるいは前記式(2)で示す加熱分解中に発生する炭酸イオン(CO3 2−)と、例えば電離したストロンチウムイオン(Sr2+)とが、下記式(3)のように反応し、前記炭酸塩としての炭酸ストロンチウム(SrCO3)が合成される。
Sr2++CO3 2−→SrCO3・・・・・式(3)
前記金属イオン源と前記炭酸源とを反応させる液中には、水を含むのが好ましい。したがって、前記金属イオン源と前記炭酸源とを反応させる液は水溶液又は懸濁液であるのが好ましい。
更に、合成される炭酸塩の結晶の溶解度を下げることを目的として、前記液中に溶剤を含むのが好ましい。
前記溶剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコールなどが好適に挙げられる。これらは1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
前記溶剤の添加量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、炭酸塩製造後の溶媒量の1〜80体積%が好ましく、10〜80体積%がより好ましい。
本発明の炭酸塩の製造方法により製造される炭酸塩は、アスペクト比が1より大きいことが必要であり、針状及び棒状のいずれかの形状を有しているのが好ましい。なお、前記アスペクト比は、前記炭酸塩の長さと直径との比を表し、その数値は大きいほど好ましい。
前記炭酸塩の平均粒子長さとしては、0.05〜30μmが好ましく、0.05〜5μmがより好ましい。該平均粒子長さが30μmを超えると、散乱の影響を大きく受けることがあり、光学用途への適応性が低下することがある。
また、〔平均粒子長さ±α〕の長さを有する炭酸塩の全炭酸塩における割合としては、60%以上が好ましく、70%以上がより好ましく、75%以上が更に好ましく、80%以上が特に好ましい。該割合が60%以上であると、粒子サイズの制御が高精度であると認められる。
ここで、前記αとしては、0.05〜2μmが好ましく、0.05〜1.0μmがより好ましく、0.05〜0.8μmが更に好ましく、0.05〜0.1μmが特に好ましい。
ここで、(111)面の回折ピークの半値幅は、回折ピークの高さをHとしたとき、2/Hの高さにおけるピークの広がり(幅)を表す。
本発明の炭酸塩の製造方法により製造される炭酸塩は、高結晶性で、凝集しにくく、アスペクト比が1より大きく、特に、針状及び棒状のいずれかの形状を有する場合には、成形品内部での配向が少なく、等方性を示し、プラスチックの強化材、摩擦材、断熱材、フィルター等として有用である。特に、延伸材料などの変形を施した複合材料においては、粒子が配向することによりその強度や光学特性を改良することが可能である。
前記延伸処理としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、一軸延伸が挙げられる。該一軸延伸の方法としては、必要に応じて加熱しながら、延伸機で所望の延伸倍率に延伸することが挙げられる。
−炭酸塩の製造−
図1に示すように、前記金属イオン源としての硝酸ストロンチウム[Sr(NO3)2]溶液と、前記炭酸源としての尿素[(NH2)2CO]水溶液とを容器内で混合して、濃度が共に0.33Mの混合溶液を調製した。次いで、得られた混合溶液の入った容器を反応槽に投入し、90℃に保温して90minにわたって加熱すると共に、前記容器内を撹拌した。そして、尿素の熱分解反応により、前記炭酸塩としての炭酸ストロンチウム結晶を製造した。ここで、前記撹拌速度は500rpmで行った。
更に、X線回折測定装置(理学電機社製、CN2013)を用いて、(111)面の回折ピークの半値幅を測定した。その結果を図3Aに示した。なお、市販品の炭酸ストロンチウム結晶(球状)(和光純薬社製、炭酸ストロンチウム)のX線回折装置による測定結果を図3Bに示す。図3A及び図3Bより、実施例1で得られた結晶が確かに炭酸ストロンチウム結晶であることが認められた。また、前記市販品及び実施例1の炭酸ストロンチウム結晶ともに、(111)面の回折ピークの半値幅は0.2°であった。
−炭酸塩の製造方法−
図1に示すように、前記金属イオン源としての0.025M水酸化ストロンチウム[Sr(OH)2]懸濁液と、前記炭酸源としての0.5M尿素[(NH2)2CO]水溶液と、を容器内で混合して混合溶液を調製した。このときのpHは12.60であった。次いで、得られた混合溶液の入った容器を反応槽に投入し、90℃に保温して120minにわたって加熱すると共に、前記容器内を撹拌した。そして、尿素の熱分解反応(加熱反応)により、前記炭酸塩としての炭酸ストロンチウム結晶を製造した。加熱反応終了後の室温(25℃)での液のpHを測定したところ、pHは11.50に低下していた。なお、前記撹拌速度は500rpmで行った。
得られた炭酸ストロンチウム結晶を濾過により取り出し、乾燥させた。乾燥後の炭酸ストロンチウム結晶を透過型電子顕微鏡(TEM)(日本電子製、JEM−1010)により観察した。このときのTEM写真を図4に、各種測定結果を表3に、それぞれ示す。
−炭酸塩の製造−
実施例1において、前記金属イオン源としての硝酸ストロンチウム溶液を、塩化カルシウム溶液に代えた以外は、実施例1と同様な方法により前記炭酸塩としての炭酸カルシウム結晶を製造した。得られた炭酸カルシウム結晶をSEM写真により観察した。各種測定結果を表3に示す。
−炭酸塩の製造−
実施例1において、得られる結晶の溶解度を低下させることを目的として、前記溶液中に前記溶剤としてのメタノールを添加した以外は、実施例1と同様な方法により、前記炭酸塩としての炭酸ストロンチウム結晶を製造した。得られた炭酸ストロンチウム結晶をSEM写真により観察した。各種測定結果を表3に示す。
−炭酸塩の製造−
0.005M硝酸ストロンチウム[Sr(NO3)2]溶液と、0.5M尿素[(NH2)2CO]水溶液と、を容器内で混合して混合溶液を調製した。このときのpHは7.53であった。次いで、得られた混合溶液の入った容器を反応槽に投入し、90℃に保温して120minにわたって加熱すると共に、前記容器内を撹拌した。そして、尿素の熱分解反応(加熱反応)により、炭酸ストロンチウム結晶を製造した。加熱反応終了後の室温(25℃)での液のpHを測定したところ、pHは8.18に上昇していた。なお、前記撹拌速度は500rpmで行った。
得られた炭酸ストロンチウム結晶を濾過により取り出し、乾燥させた。乾燥後の炭酸ストロンチウム結晶をSEMにより観察した。このときのSEM写真を図5に示す。該SEM写真より、平均粒子長さ8.5μm程度の針状の炭酸ストロンチウム結晶が得られたことが判った。また、平均粒子長さ±αの長さ(α=2.0μm)を有する結晶の全結晶における割合は68%、X線回折測定による回折パターンにおける(111)面の回折ピークの半値幅は0.8°であった。各種測定結果を表3に示す。
−炭酸塩の製造−
1M硝酸ストロンチウム[Sr(NO3)2]溶液300ml及び1M尿素[(NH2)2CO]水溶液300mlをダブルジェット法により、滴下速度10ml/min、モル滴下速度0.001mol/minの等モル滴下速度で、ウレアーゼ4.00gを溶解した水400mlの液中に滴下し、撹拌して、これらを反応温度25℃で反応させ、炭酸ストロンチウム結晶を製造した。なお、撹拌速度は500rpmで行った。
−炭酸塩の製造−
比較例1において、ウレアーゼ4.00gを溶解した水400mlに、更に分散剤としてゼラチン3質量%を添加した以外は、比較例1と同様な方法により、炭酸ストロンチウム結晶を製造した。得られた炭酸ストロンチウム結晶をSEMにより観察した。このときのSEM写真を図7に示す。該SEM写真より、ひょうたん型の炭酸ストロンチウム結晶が得られたことが判った。各種測定結果を表4に示す。
本発明の炭酸塩の製造方法により製造される炭酸塩は、結晶性が高く、凝集しにくく、アスペクト比が1より大きい(特に、針状、棒状などである)ため、成形品内部での配向が少なく、等方性を示し、プラスチックの強化材、摩擦材、断熱材、フィルターなどに好適に使用することができる。特に、延伸材料などの変形を施した複合材料においては、粒子が配向することによりその強度や光学特性を改良することが可能である。
また、本発明の炭酸塩の製造方法により製造される炭酸塩(結晶)を複屈折性を有する光学ポリマーに分散させ、延伸処理を施して前記光学ポリマーの結合鎖と前記炭酸塩とを略平行に配向させると、前記光学ポリマーの結合鎖の配向によって生ずる複屈折性を、前記炭酸塩の複屈折性で打ち消すことができる。このため、光学部品、特に、偏向特性が重要で高精度が要求される光学素子に好適に使用することができる。
Claims (7)
- Sr2+イオン及びCa2+イオンから選択される少なくとも1種の金属イオンと、NO 3 − 及びOH − の少なくともいずれかのイオンとを含む金属イオン源と、尿素とを、撹拌速度500rpm〜1,500rpmで攪拌しながら90℃の液中で加熱反応させる炭酸塩の製造方法であって、該炭酸塩のアスペクト比が1より大きく、該炭酸塩の平均粒子長さが0.05μm〜30μmであり、〔前記平均粒子長さ±α〕の長さを有する前記炭酸塩の全炭酸塩における割合が60%以上であり、前記αが0.05μm〜0.1μmであることを特徴とする炭酸塩の製造方法。
- 針状及び棒状のいずれかの形状を有する炭酸塩を製造する請求項1に記載の炭酸塩の製造方法。
- 金属イオン源が、Sr(NO 3 ) 2 及びSr(OH) 2 の少なくともいずれかを含む請求項1から2のいずれかに記載の炭酸塩の製造方法。
- 液中に水を含む請求項1から3のいずれかに記載の炭酸塩の製造方法。
- 加熱反応終了後の液のpHが8.20以上である請求項1から4のいずれかに記載の炭酸塩の製造方法。
- X線回折測定による回折パターンにおいて、(111)面の回折ピークの半値幅が0.8°未満である炭酸塩を製造する請求項1から5のいずれかに記載の炭酸塩の製造方法。
- 炭酸塩の平均粒子長さが0.05μm〜5μmである請求項1から6のいずれかに記載の炭酸塩の製造方法。
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