JP4876312B2 - エトキシエトキシスチレン用重合禁止剤及びそれを用いた蒸留方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、医農薬、機能性高分子等の原料として有用なエトキシエトキシスチレンの重合禁止剤及びそれを用いた蒸留方法に関するものである。例えば、パラ−(1−エトキシエトキシ)スチレン(以下、PEESと略記する)は、超LSI用途等に使用されるレジスト原料として極めて有用であることが知られている(特開昭59−199705号公報、特開平3−277608号公報、特開平6−266112号公報)。
【0002】
【従来の技術】
PEESに代表されるエトキシエトキシスチレンは、一般に光や熱及び酸分の存在などによって分解や重合することが知られている。
【0003】
例えばPEESを製造する際に、製品を分離回収するための蒸留操作時に起こる製品重合がしばしば問題となる。すなわち、蒸留時にかかる熱によりPEESが重合し、ポリマー状物質を形成して製品収率が著しく低下するという問題がある。更に、生成する高粘性のポリマー状物質は、蒸留釜内及び蒸留塔内において種々のトラブルを引き起こし、蒸留装置及び操作等に多大な負荷をかけることになる。
【0004】
また、製品保存時においても、常温で長期間保存すると、製品が一部重合して製品品質が低下する問題を有している。
【0005】
従って、このような重合問題を回避するためには、重合禁止剤の存在下に種々の操作を行う方法が好ましい。
【0006】
例えば、PEESと類似骨格を有するパラ−第三級−ブトキシスチレン(以下、PTBSと略記する)及びメタ−第三級−ブトキシスチレンの如き化合物の重合禁止剤としては、フェノ−ル類、ニトロソフェノ−ル類及びニトロフェノ−ル類が知られている。PTBSの製造方法において、重合禁止剤としてp−t−ブチルカテコールの存在下に蒸留を行う方法(特公平4−71896号公報、特開平2−160739号公報)が開示されているが、この重合禁止剤は、エトキシエトキシスチレンに適用した場合、低温、短時間の蒸留条件下においてはある程度の重合抑制効果は認められるものの、工業化レベルの高温、長時間蒸留では、十分な重合抑制効果が維持できず、製品収率が低下するという問題に加え、高粘性ポリマー状物質の生成により蒸留塔及び配管が閉塞したり、分解物が主留分に混入し低品質の製品しか得られない等の問題がある。
【0007】
また、ニトロソフェノ−ル類及びニトロフェノ−ル類で代表されるニトロソ化合物やニトロ化合物も、前記p−t−ブチルカテコールと同様に重合抑制効果を有しているものの、工業化レベルの高温、長時間蒸留条件下ではPEESの重合を起こし易く、製品収率の低下を招く問題がある。
【0008】
このように、従来の重合禁止剤は、多くの問題点を有し、エトキシエトキシスチレンの重合禁止剤として満足できるものではない。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、上記の課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、従来の問題点を解決し、エトキシエトキシスチレンの重合禁止能に優れたエトキシエトキシスチレン用重合禁止剤及びそれを用いた蒸留方法を提供することにある。
【0010】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは従来の問題点を解決すべく鋭意検討した結果、エトキシエトキシスチレン用重合禁止剤として、ハイドロキノン系化合物、特に嵩高い構造を有したハイドロキノン系化合物が極めて高い重合禁止能を有することを見出した。例えば、蒸留時の重合抑制剤としてのみならず、エトキシエトキシスチレンの保存安定剤としてもすぐれていることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0011】
すなわち、本発明は、エトキシエトキシスチレンの重合防止方法において、重合禁止剤が、ハイドロキノン系化合物であることを特徴とするエトキシエトキシスチレン用重合禁止剤及びそれを用いた蒸留方法である。
【0012】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0013】
本発明において対象となるエトキシエトキシスチレンとは、下記一般式(1)
【0014】
【化2】
【0015】
で表される構造を有したものであり、例えば、パラ−(1−エトキシエトキシ)スチレン、メタ−(1−エトキシエトキシ)スチレン等が挙げられる。
【0016】
本発明の重合禁止剤はハイドロキノン系化合物からなっており、構造式中にハイドロキノン骨格を含有するものを言い、殊に、ハイドロキノンが種々の置換基により置換された構造の化合物である。この重合禁止剤は、特にエトキシエトキシスチレンの蒸留、保存、輸送等において優れた重合抑制効果がある。
【0017】
これらの化合物をさらに具体的に示せば、2−t−ブチルハイドロキノン、2,5−ジ−t−ブチルハイドロキノン、2,5−ジ−t−アミルハイドロキノン、2,3−ジメチルハイドロキノン、2,3−ジシアノハイドロキノン、2,5−ビス(1,1,3,3−テトラメチルブチル)ハイドロキノン、2,3,5−トリメチルハイドロキノンなどの第一級、第二級、第三級のアルキル基により置換された化合物などが挙げられる。これらは1種単独で用いても構わないが、任意の2以上を併用しても差し支えない。
【0018】
これらのうち、重合禁止能力及び入手の容易さを考慮すると、第三級アルキル基により置換された化合物、さらに第三級アルキル基が2以上置換した化合物が好ましく、例えば、2,5−ジ−t−ブチルハイドロキノン、2,5−ジ−t−アミルハイドロキノンが挙げられる。
【0019】
本発明の蒸留方法においては、公知の蒸留装置、方法を用いることができ、蒸留の際には、エトキシエトキシスチレンと重合禁止剤とを同時にあるいは別々に容器に加えればよく、その順序は適宜決めればよい。さらに、これらを一度の全量加えてもよいが、少量ずつ加えることもできる。
【0020】
重合禁止剤の添加量としては、エトキシエトキシスチレンに対し、1ppm〜20重量%、好ましくは、100ppm〜10重量%の範囲が選ばれる。添加量が1ppm未満では重合禁止効果が十分に発揮されないことがあり、また、20重量%を越えると添加量の割には効果の向上が見られず、むしろ経済的に不利となることがある。
【0021】
本発明の方法においては、200℃以下の条件下であれば十分な重合禁止能が発現する。特に、150℃以下の条件下であれば、極めて高い重合禁止能を発現する。
【0022】
また、エトキシエトキシスチレンを蒸留する場合、通常、減圧下で実施され、圧力としては0.1〜200mmHgの範囲が選ばれる。さらに、蒸留においては、気流同伴を伴わない無気条件又は、窒素あるいは空気等の気流同伴を行う有気条件下のいずれで蒸留を実施しても良い。
【0023】
本発明の重合禁止剤をエトキシエトキシスチレンと共存させておけば、エトキシエトキシスチレンを長期に保存したり、輸送する際にもその重合を抑制することができ有用である。保存や輸送時における重合禁止剤の添加量、温度、時間等は重合禁止剤やエトキシエトキシスチレンの種類などにより変わるため一概には言えないが、通常用いられる範囲内で適宜行えばよい。
【0024】
【発明の効果】
以上の説明から明らかなように、本発明の方法によれば、エトキシエトキシスチレンの重合を十分に抑制し、高い回収率の蒸留や、長期安定保存を可能とする。
【0025】
【実施例】
以下に、本発明の方法を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれら実施例のみに限定されるものではない。
【0026】
実施例1
1000mlフラスコに、PEES 800gと重合禁止剤として2,5−ジ−t−ブチルハイドロキノン40gを添加した。次にこのフラスコに還流コンデンサーを取り付けて、130℃、2mmHgの条件で還流比を調整しながら30時間かけて、PEESを蒸留回収した。なお、この際、液中にキャピラリーを通じて窒素を導入した。蒸留終了後にフラスコ内の残差を液体クロマトグラフィーで分析し、ポリマーの収率を求めた。PEESの回収率を含め、その結果を表1に示す。
【0027】
【表1】
【0028】
実施例2〜7
実施例1で使用した2,5−ジ−t−ブチルハイドロキノンに代えて、表1に示した重合禁止剤を所定量用いた以外は、実施例1に準じてPEESを蒸留回収した。結果を表1にまとめて示す。
【0029】
比較例1
実施例1の重合禁止剤を使用しなかった以外は、実施例1に準じてPEESを蒸留回収した。結果を表1にまとめて示す。
【0030】
比較例2〜5
実施例1〜7で使用したハイドロキノン系化合物に代えて、表1に示した重合禁止剤を所定量用いた以外は、実施例1に準じてPEESを蒸留回収した。結果を表1にまとめて示す。
【0031】
表1より明らかなように、実施例では比較例に比べ、PEESの安定性に優れ、ポリマーの生成量が少なくなっていることが分かる。特に、実施例1及び実施例2で用いた重合禁止剤の効果は格段に優れていることが分かる。
【0032】
実施例8
30mlのサンプル瓶に、PEES10gと重合禁止剤として2,5−ジ−t−ブチルハイドロキノンをPEESに対して200ppm添加した。次に気相部を窒素で置換した後に蓋をして、40℃に設定したインキュベーター中で保存した。6ヶ月後にサンプル瓶中のPEESを液体クロマトグラフィーで分析し、ポリマーの収率を求めた。その結果を表2に示す。
【0033】
【表2】
【0034】
実施例9〜15
実施例8で使用した2,5−ジ−t−ブチルハイドロキノンに代えて、表2に示した重合禁止剤を所定量用いた以外は、実施例8に準じて保存安定性試験を実施した。結果を表2にまとめて示す。
【0035】
比較例6
実施例8〜15の重合禁止剤を使用しなかった以外は、実施例8に準じて保存安定性試験を実施した。結果を表1にまとめて示す。
【0036】
比較例7〜12
実施例8〜15で使用したハイドロキノン系化合物に代えて、表2に示した重合禁止剤を所定量用いた以外は、実施例8に準じて保存安定性試験を実施した。結果を表1にまとめて示す。
【0037】
表2より明らかなように、実施例では比較例に比べ、PEESの安定性に優れ、樹脂化した量も格段に少なくなっていることが分かる。
Claims (3)
- ハイドロキノン系化合物が、2,5−ジ−t−ブチルハイドロキノン及び/又は2,5−ジ−t−アミルハイドロキノンであることを特徴とする請求項1に記載の重合禁止剤。
- エトキシエトキシスチレンを蒸留するに際して、請求項1又は請求項2に記載のハイドロキノン系化合物を共存させることを特徴とするエトキシエトキシスチレンの蒸留方法。
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