複写機・プリンタ等の画像形成装置における定着装置は、未定着画像であるトナー画像を記録材に加熱定着する装置である。記録材の種類としては、転写材シート・エレクトロファックスシート・静電記録紙・OHPシート・印刷用紙・フォーマット紙等がある。
定着装置は、例えば、電子写真プロセス部、静電記録プロセス部、磁気記録プロセス部等の画像形成プロセス部を備える。定着装置は、記録材に形成担持されたトナー画像を記録材に永久固着画像として加熱定着させる。定着装置の種類としては、例えば、熱ローラ方式の定着装置又は電磁誘導加熱方式の定着装置がある。
電磁誘導加熱方式の定着装置として、磁束により円筒状の定着スリーブに電流を誘導し、ジュール熱によって定着スリーブを発熱させる定着装置が特許文献1に開示されている。定着スリーブは、金属の薄膜をゴムで薄く覆ったものでできており、スリーブ中にコイルを設置し、コイルに高周波電流を流すことで薄膜金属に熱を発生させる。電磁誘導加熱方式の定着装置では、定着時に記録紙上のトナーに接触するスリーブ自体が発熱するため、熱の伝わりが速く、熱源としてハロゲンランプを用いる熱ローラ方式の定着装置よりも速く加熱定着を行える。したがって、複写機等のウォーミングアップタイムをほぼゼロにするクイックスタートを達成できる。さらに、定着スリーブは小熱容量であるため、通常使用時において従来の定着ローラに比べて省エネルギーの効果もある。
しかし、電磁誘導加熱方式の定着装置は、励磁コイルから出る交番磁界のエネルギーを定着スリーブ全体の温度を上昇させるために用いるため、放熱損失が大きく熱効率が低いという課題があった。つまり、投入エネルギーに対する定着エネルギーの密度が低いため熱効率が低いという課題があった。そこで、定着に必要なエネルギーを高密度で得るために、励磁コイルを発熱体である定着スリーブに接近させること、又は、励磁コイルの交番磁界分布を定着ニップ部近傍に集中させることによって熱効率を高めた電磁誘導加熱方式の定着装置が開発された。
図2は、電磁誘導加熱方式の定着装置の概略図である。
図2によると、定着装置1は、円筒状の定着スリーブ(電磁誘導発熱性スリーブ)10、電磁誘導発熱層11、ホルダ12、磁性コア13a、13b、13c、励磁コイル14、サーモスイッチ15、サーミスタ16、加圧ローラ17を備える。また、Nは定着ニップ部、Pは記録材、tは未定着トナー画像である。
磁性コア13a、13b、13cと励磁コイル14は磁場を発生する。磁性コア13a、13b、13cは、高透磁率の部材であり、フェライトやパーマロイ等といったトランスのコアに用いられる材料が適している。特に、100kHz以上の高周波数電流が流れても渦電流損失が少ないフェライトが適している。
励磁コイル14は、束線を複数回巻くことによって形成される。束線は、絶縁被覆された銅製の細線を複数本束ねたものである。例えば、束線を10回巻いて励磁コイル14を形成する。絶縁被覆は、定着スリーブ10の発熱による熱伝導を考慮し、耐熱性を有する被覆であるのが望ましい。例えば、絶縁被膜としては、アミドイミドやポリイミド等の被覆が望ましい。励磁コイル14に対して外部から圧力を加えることによってその密集度を向上させてもよい。励磁コイル14の形状は、発熱層の曲面に沿う。
図3は、定着装置1と励磁回路18の接続関係を示す図である。
図3によると、励磁コイル14は、給電部14a、14bを介して励磁回路18に接続される。励磁回路18は、スイッチング電源を用いて20kHzから500kHzの高周波電流を発生する。励磁コイル14は、励磁回路18から供給される高周波電流を受け、交番磁界を発生する。
図4(a)は、励磁コイル14が発生する交番磁界の様子を模式的に表した図である。
Cは、交番磁界の一部である。磁性コア13a、13b、13cに導かれた交番磁界Cは、磁性コア13aと磁性コア13bの間および磁性コア13aと磁性コア13cの間に渦電流を発生させる。つまり、交番磁界Cは、定着スリーブ10の電磁誘導発熱層11に渦電流を発生させる。この渦電流と電磁誘導発熱層11の固有抵抗によって電磁誘導発熱層11にはジュール熱(渦電流損)が発生する。このジュール熱の発熱量Qは、電磁誘導発熱層11を通る磁束の密度によって決まる。
図4(b)は、電磁誘導発熱層11の発熱量Qの分布を表すグラフである。
グラフの縦軸は、定着スリーブ10の円周方向の位置を示す。この位置は、磁性コア13aの中心を0とした角度θで表される。グラフの横軸は、電磁誘導発熱層11における発熱量Qを示す。ここで、発熱域Hを、最大発熱量をQとした場合、発熱量がQ/e以上の領域と定義する。発熱域Hは、トナー画像を定着させるのに必要な発熱量が得られる領域である。
温度検知機能を備える温度調節部は、励磁回路18から励磁コイル14に供給される高周波電流を制御する。この制御によって、定着ニップ部Nの温度が所定の温度に保たれる。図2に示すサーミスタ16は、定着スリーブ10の温度を検知する温度センサである。温度調節部は、サーミスタ16が検知した定着スリーブ10の温度に基づいて、定着ニップ部Nの温度を制御する。定着スリーブ10が回転し、励磁回路18から励磁コイル14へ給電が行われると、定着スリーブ10に電磁誘導による発熱が生じ、定着ニップ部Nの温度が上昇するが、温度調節部は、定着ニップ部Nの温度を所定の温度に保つ。定着ニップ部Nの温度が所定の温度に保たれているときに、未定着トナー画像tが形成担持された記録材Pは、定着スリーブ10と加圧ローラ17との間の定着ニップ部Nに未定着トナー画像面が上向きになるように搬送される。記録材Pは、定着ニップ部Nにおいて未定着トナー画像面が定着スリーブ10の外面に密着した状態で定着スリーブ10と共に搬送される。記録材Pが搬送されていく過程で、定着スリーブ10に発生した電磁誘導発熱によって記録材P上の未定着トナー画像tが加熱定着される。次いで、記録材Pは、定着スリーブ10の外部に排出搬送される。その後、加熱定着されたトナー画像は冷却され、永久固着画像となる。
図5は、定着装置の異常時に機能する安全回路を説明するための図である。
図において、14は励磁コイル、15はサーモスイッチ(温度検知素子)、18は励磁回路、19はリレースイッチである。サーモスイッチ15と、+24VのDC電源と、リレースイッチ19は直列に接続されている。サーモスイッチ15は、定着スリーブ10の発熱域H(図4参照)の対向位置の温度が予め設定された温度以上(例えば、220℃以上)になるとリレースイッチ19をOFFにする。リレースイッチ19がOFFになると、励磁回路18への給電が遮断され、それによって、励磁コイル14への給電も停止する。一方、サーモスイッチ15は、定着スリーブ10の発熱域Hに対向した場所に定着スリーブ10とは非接触に設置される。例えば、サーモスイッチ15を定着スリーブ10から約2mm離れた場所に設置する。サーモスイッチ15と定着スリーブ10は被接触であるため、サーモスイッチ15が定着スリーブ10を傷つけることがない。したがって、定着スリーブ10の傷に起因して定着画像が劣化することを防ぐことができる。この安全回路によれば、定着ニップ部Nに記録紙が挟まった状態で定着装置が異常停止したにもかかわらず励磁コイル14に給電が行われ定着スリーブ10が異常に発熱すると、サーモスイッチ15が励磁回路18への給電を遮断する。つまり、励磁コイル14への給電が停止するため、定着ニップ部Nの発熱は止まり、記録紙が加熱され続けることはない。
尚、発熱量が多い発熱域Hには、温度検知素子として、サーモスイッチ15のほかに温度ヒューズを設置してもよい。また、低軟化物質を含有させていないトナーを使用した場合にはオイル塗布機構を設けてもよい。低軟化物質を含有させたトナーを使用した場合であっても、オイル塗布機構や冷却分離機構を設けてもよい。
次に、定着装置1に対する温度制御について説明する。
定着装置1上に配置されたサーミスタ16は、検出抵抗と基準電圧と直列接続している。サーミスタ16は、温度変化に対して電気抵抗の変化の大きい抵抗体である。この現象を利用し、温度を測定するセンサとして利用される。温度変化によって電気抵抗が変化するサーミスタは、電気抵抗の変化を電圧情報に変換し、電圧情報を画像形成装置の全体制御部であるCPUに送る。CPUは、受け取った電圧情報から定着装置1の温度変化を把握して、定着装置1へ供給する電力を制御する。例えば、CPUは、定着スリーブ10の温度が通常動作時の温度よりも異常に高いと判断すると、定着装置1へ供給する電力を抑える。これは、ソフトウェア制御によって行われる。さらに、定着装置1の保護を強化するために、温度ヒューズ等のハードウェアを用いた保護回路を設けてもよい。
特許文献2には、低熱伝導性基材と導電層を有する定着スリーブを備えた像加熱装置が開示されている。導電層は、低熱伝導性基材よりも外側に設けられた100℃〜250℃のキュリー点を有する磁性体からなる。キュリー点を有する磁性体は、Ni−Fe合金からなる磁性体であり、Niの含有量を変更することにより、任意にキュリー点を設定することができる。
特開平8−220912号公報
特開平7−114276号公報
本発明の各種の実施形態の構成、動作等を、図面を参照して説明する。
図1は、第1の実施例の全体構成を示す回路図である。
図1において、10は定着スリーブ、100はサーモスイッチ、101はリレーコイル、102はブリッジダイオード、103はフィルタ回路、104は励磁コイル、106はCPUを備える制御回路である。また、107はスイッチング素子、108は共振コンデンサ、109は逆導通ダイオード、110はカレントトランスである。また、112は電流検出回路、113はフィルタ回路、114は時間計測回路、117はスイッチング制御回路である。スイッチング制御回路117は、フリップフロップ1170、ON幅決定回路1172、OFF幅決定回路1174を備える。
画像形成装置の電源が投入されると、画像形成装置のDC電源回路(図示せず)が動作して24VのDC電圧118が画像形成装置に供給され、サーモスイッチ100を介してリレーコイル101に電流が流れる。リレーコイル101に電流が流れると、リレー接点がONになり、AC電源ラインからAC電圧が回路に供給される。ブリッジダイオード102は、AC電圧を全波整流して脈流化DC電圧とし、フィルタ回路103は、脈流化DC電圧を波形整形する。
画像形成装置が定着動作を開始すると、スイッチング制御回路117は、スイッチング素子107の制御を開始する。スイッチング制御回路117がスイッチング素子107をONにすると、フィルタ回路103、励磁コイル104、スイッチング素子107、カレントトランス110より構成される回路に電流が流れる。励磁コイル104に流れる電流は時間が経過するにつれて大きくなる。スイッチング素子107に過大電流が流れるとスイッチング素子107が破損する可能性があるため、電流検出回路112は、過電流保護回路を制御することによって、スイッチング素子107に過大電流が流れないようにする。一方、スイッチング制御回路117がスイッチング素子107をOFFにすると、フィルタ回路103、励磁コイル104、共振コンデンサ108より構成される共振回路が共振動作を開始する。
スイッチング制御回路117内のON幅決定回路1172は、予め定めた時間のON幅をもったパルス信号を出力し、OFF幅決定回路1174は、予め定めた時間のOFF幅をもったパルス信号を出力する。スイッチング制御回路117内のフリップフロップ(F/F)1170は、ON幅決定回路1172とOFF幅決定回路1174が出力するパルス信号によりトリガされ、スイッチング素子107をON・OFFするための信号を出力する。
カレントトランス110は、励磁コイル104に流れる電流を電圧に変換する。フィルタ113は、電流検出回路112を介して当該電圧を受け、当該電圧を波形整形して時間計測回路113に出力する。時間計測回路114は、波形整形された電圧から得られた温度情報と、制御回路106から入力した電圧に基づく温度情報とを比較し、その比較結果に基づきスイッチング素子212のON・OFFを制御する。そして、スイッチング素子212は、スイッチング素子107のON・OFFの切り替えを行う。スイッチング素子107がON・OFFすると、励磁コイル104に高周波電流が流れ、励磁コイル104は高周波電磁界を発生する。定着スリーブ10は、この高周波電磁界を受けることによって発熱する。
次に、定着装置の温度制御回路として2つの例を挙げて説明する。
(1)ON・OFF制御を用いたキュリー点検知方式の温度制御回路
所望の定着温度よりもマージンをもったキュリー点(100°C〜250°C)を有する磁性材を用いた定着スリーブ10を備えた定着装置における、ON・OFF制御によるキュリー点検知方式の温度制御を図6〜図8を参照して説明する。尚、キュリー点とは磁性体の自発磁化が0となる温度である。磁性体において、低温では同一方向に整列していた原子の磁気モーメントは、温度を上げると熱エネルギーの影響で方向が揺らぎ始める。そのため、全体の磁気モーメントが少しずつ減少する。さらに温度を上げると磁化の減少が急激に進行しある温度以上では磁気モーメントの方向が完全にバラバラになり、自発磁化が0となる。この温度をキュリー点とよぶ。
通常の印刷動作時には、定着スリーブ10の温度は、印刷温度調節時の目標温度になるように制御される。このような場合には定着スリーブ10は磁性を保っており、励磁コイル104から見た負荷インダクタンスは20μHから50μHである。
キュリー点を有する磁性材で定着スリーブ10を構成した場合、定着スリーブ10の温度が上昇してその温度がキュリー点に近づくと、定着スリーブ10の透磁率は低下する。そのため、励磁コイル104から見た負荷インダクタンスは小さくなり、励磁コイル104に流れる電流は図6(a)、(b)に示すように変化する。
図6は、定着スリーブ10の温度変化に伴い励磁コイル104に流れる電流の波形が変化する様子をグラフで表した図である。グラフの縦軸は電流軸(I)、横軸は時間軸(t)である。
図6(a)は、通紙時に励磁コイル104に流れる電流の波形を示し、図6(b)は、定着スリーブ10の温度が磁性材のキュリー点を超えた時に励磁コイル104に流れる電流の波形を示す。定着スリーブ10の温度が磁性材のキュリー点以上になると、整流回路に電力を回生する方向に流れる共振電流の周期が短くなる。キュリー点付近では、共振電流の周期は温度に依存するため、共振電流の周期から定着スリーブ10の温度を推定することができる。
図7は、励磁コイル104に流れる共振電流に基づいて温度制御を行う回路の一例である。
カレントトランス110に流れる電流は、電流検出回路(検出抵抗)112により電圧に変換され、フィルタ回路113によりノイズ成分が取り除かれる。次いで、フィルタ回路113の出力は、ダイオード201によって整流され、負方向電圧分が検波される。この電流は、励磁コイル104と共振コンデンサ108からなる共振回路から整流回路への回生期間の電流である。
図8(a)は、スイッチング素子107のゲート電圧の波形を表す。スイッチング素子107は、ゲート電圧が高いとONになり、ゲート電圧が0VでOFFになる。図8(b)は、電流検出回路112にて変換された電圧V1の波形を表す。これは、励磁コイルに流れる電流と逆の極性の電圧波形である。図8(c)は、電圧V1がダイオード201により整流された後の電圧V2の波形を表す。図8(d)は、電圧V2を所定の基準電圧202によって設定された閾値電圧Vsをコンパレータ203が比較することによって得られた、負方向電圧の時間幅を有する電圧V3のパルス波形を表す。また、コンデンサ206に定電流源205から電流を充電可能な構成をとり、電圧V3が0Vの時にコンデンサ206を充電し、電圧V3がハイレベルを出力している時にコンデンサ206を放電する。図8(e)のV4は、コンデンサ206の端子間電圧を表す。また、V5は、ダイオード207とコンデンサ208とから成るピークホールド回路により検出された端子間電圧V4のピーク値を示すDC電圧である。定着スリーブ10の温度がキュリー点に近づくと、定着スリーブ10の透磁率μが低下するため、励磁コイル104のインダクタンスが低下し、図8(b)に示すV1の波形の周期は、図6(b)に示す電流波形の周期と同様に短くなる。これに伴い電圧V5は低下する。次いで、電圧V5は、コンパレータ210によって、制御回路106に予め設定されている定着スリーブ設定温度に対応する電圧Vs2と比較される。
電圧V5が電圧Vs2を下回ると、定着スリーブ10の温度がキュリー点以上になったことになる。つまり、定着スリーブ10の温度が所定の定着スリーブ設定温度以上になったことになる。この場合、スイッチング素子212が作動してフリップフロップ1170の出力信号はGNDに落ち、スイッチング素子107(図1参照)のON・OFF動作が停止する。スイッチング素子107のON・OFF動作が停止すると、励磁コイル104への高周波電流の供給が停止し、その結果、定着スリーブ10の発熱が停止する。これに対して、電圧V5が電圧Vs2を超えると、定着スリーブ温度がキュリー点を下回ったことになる。つまり、定着スリーブの温度が所定の定着スリーブ設定温度を下回ったことになる。この場合、スイッチング素子212が停止し、フリップフロップ117のON・OFF信号がスイッチング素子107に伝わり、スイッチング素子107がON・OFFする。スイッチング素子107がON・OFFすると、励磁コイル104に高周波電流が供給され、励磁コイル104が発生する高周波電磁界によって定着スリーブ10が発熱する。
以上説明したように、電圧V5が、制御回路106に設定された所定の定着スリーブ設定温度に対応する電圧とほぼ等しくなるように制御することで、定着スリーブ10の温度制御を実現できる。
尚、本例では電圧共振回路を用いたが、電流共振回路を用いてもよい。
(2)PID制御を用いた温度制御
所望の定着温度よりもマージンをもったキュリー点を有する磁性材を用いた定着スリーブ10を備えた定着装置における、PID制御による温度制御を図9、図10を参照して説明する。定着スリーブ温度の検出は、前述のON・OFF制御を用いたキュリー点検知方式の温度制御回路と同様の回路で行う。図10は、図9における温度制御回路の回路図を示す。前述の例と同様に、電圧V5は、定着スリーブ10の温度がキュリー点に近づくにつれて低下する。電圧V5を出力させるまでの回路は、図7と同様であるため説明は省略する。
図9によると、時間計測回路114は、電圧値V5を制御回路106にフィードバックする。制御回路106は、電圧値V5をA/D変換し、電圧−温度変換テーブルを用いて電圧情報を温度情報に変換する。次いで、制御回路106は、当該温度と目標温度との差を検出し、次に出力すべき電力を算出する。これは、一般的にPID制御と呼ばれる手法である。PID制御では、目標温度と現在の温度の温度差に比例する比例項により決定されるパラメータと、これまでの誤差の積分値に比例する積分項により決定されるパラメータと、今回の変化量に比例する微分パラメータと、サンプリング間隔とから出力量を決定する。尚、本例では、PID制御の代わりにPI制御としてもよい。
A/Dコンバータのサンプリング周期を、PIDの演算サンプリング周期より短くし、サンプリングデータの平均をPID演算用のサンプリングデータとしてもよい。例えば、PIDの演算サンプリング周期を20msとする一方、A/Dコンバータのサンプリング周期を1msとする。次いで、A/Dコンバータがサンプリングした10個のサンプリングデータから最大値と最小値を除いた8つのサンプリングデータの平均をとり、その平均値をPID演算用のサンプリングデータとする。これにより、本体各部の動作や電源に重畳されたスパイク電圧等の影響を効果的に排除することができる。
制御回路106は、スイッチング素子107をONにする時間に対応する電圧値を演算し、スイッチング制御回路117内のON幅決定回路1172にON時間に対応する電圧値を指示する。スイッチング制御回路117は、指示されたON時間が経過すると、スイッチング素子107をOFFにする。OFF幅決定回路1174は、所定のOFF幅を出力する。フリップフロップ1170は、スイッチング素子107を交互にON・OFFするように構成されている。スイッチング素子107をON・OFFさせることにより励磁コイル104に高周波電流が流れ、励磁コイル104が発生する高周波電磁界により定着スリーブ10が発熱する。
以上説明したように、時間計測回路114が電圧値V5を制御回路106にフィードバックすることにより、定着スリーブ10の温度制御を実現できる。
尚、本例では電圧共振回路を用いたが、電流共振回路を用いてもよい。
次に、第2の実施例を、図面を用いて説明する。
図11は、第2の実施例の全体構成を示す回路図である。
第1の実施例と大きく異なる点は、キュリー点での励磁コイルの電圧波形を検出する電圧検出回路120を備え、当該電圧に基づき温度制御を行う点にある。
以下、第1の実施例で示したON・OFF制御によるキュリー点検知方式の温度制御回路を用いて説明する。
所望の定着温度よりもマージンをもったキュリー点を有する磁性材を用いて定着スリーブ10を構成した場合、定着スリーブ10の温度が上昇してその温度がキュリー点に近づくと、定着スリーブ10の透磁率は低下する。そのため、励磁コイル104の両端から見たインダクタンスは小さくなり、励磁コイル104の両端の共振電圧は図12に示すように変化する。
図12は、定着スリーブ10の温度変化に伴い励磁コイル104の両端の共振電圧の波形が変化する様子をグラフで表した図である。グラフの縦軸は電圧軸(V)、横軸は時間軸(t)である。
図12(a)は、通紙時の励磁コイル104の両端の電圧波形を示し、図12(b)は、定着スリーブ10の温度が磁性体のキュリー点を超えた時の励磁コイル104の両端の電圧波形を示す。定着スリーブ10の温度が磁性体のキュリー点以上になると、励磁コイルの両端の共振電圧の周期が短くなる。共振電圧の周期は温度に依存するため、共振電圧の周期から定着スリーブ10の温度を推定することができる。
図13は、励磁コイル104の両端の共振電圧に基づいて温度制御を行う回路の一例である。
図13によると、励磁コイル104の両端電圧は、電圧検出回路120内にあるトランス122により検出される。さらに、励磁コイル104の両端の電圧は、フィルタ回路113によりノイズ成分が取り除かれ、次いで、ダイオード201によって整流され、負方向電圧分が検波される。この電流は、励磁コイル104と共振コンデンサ108からなる共振回路から整流回路への回生期間の電流である。
図14(a)は、スイッチング素子107のゲート電圧の波形を表す。スイッチング素子107は、ゲート電圧が高いとONになり、ゲート電圧が0VでOFFになる。図14(b)は、電圧検出回路120が検出した電圧V1の波形を表す。これは、コイル電流と逆の極性で表される電圧波形となる。図14(c)は、電圧V1が整流ダイオード201により整流された後の電圧V2の波形を表す。図14(d)は、電圧V2を所定の基準電圧202によって設定された閾値電圧Vsと比較することによって得られた、負方向電圧の時間幅に応じた電圧V3のパルス波形を表す。また、コンデンサ206に定電流源205からの電流を充電可能な構成をとり、電圧V3が0Vの時にコンデンサ206を充電し、電圧V3がハイレベルを出力している時にコンデンサ206を放電する。図14(e)のV4は、コンデンサ206の端子間電圧を表す。また、V5は、ダイオード207とコンデンサ208より成るピークホールド回路により検出された端子間電圧V4のピーク値を示すDC電圧である。定着スリーブ10の温度がキュリー点に近づくと定着スリーブ10の透磁率μが低下するため、励磁コイル104のインダクタンスが低下し、図14(b)に示すV1の波形の周期は、図12(b)に示す励磁コイルの両端の電圧波形の周期と同様に短くなる。これに伴い電圧V5は低下する。次いで、電圧V5は、制御回路106に予め設定されている定着スリーブ設定温度に対応する電圧値Vs2と比較される。
電圧V5の電圧がVs2を下回ると、定着スリーブ10の温度がキュリー点以上になったことになる。つまり、定着スリーブ10の温度が所定の定着スリーブ設定温度以上になったことになる。この場合、スイッチング素子212が作動してフリップフロップ1170の出力信号はGNDに落ち、スイッチング素子107(図1参照)のON・OFF動作が停止する。スイッチング素子107のON、OFF動作が停止すると、励磁コイル104への高周波電流の供給が停止し、その結果、定着スリーブ10の発熱が停止する。これに対して、電圧V5が電圧Vs2を超えると、定着スリーブ温度がキュリー点を下回ったことになる。つまり、定着スリーブの温度が所定の定着スリープ設定温度を下回ったことになる。この場合、スイッチング素子212が停止し、フリップフロップ117のON・OFF信号がスイッチング素子107に伝わり、スイッチング素子107がON・OFFする。スイッチング素子212がON・OFFすると、励磁コイル104に高周波電流が供給され、励磁コイル104が発生する高周波電磁界によって定着スリーブ10が発熱する。
以上説明したように、電圧V5の電圧が、制御回路106に設定された所定の定着スリーブ設定温度に対応する電圧とほぼ等しい電圧となるように制御することで、定着スリーブ10の温度制御を実現できる。
尚、本例では電圧共振回路を用いたが、電流共振回路を用いてもよい。また、本例は、第1の実施例のON・OFF制御によるキュリー点検知方式の温度制御回路を用いたものであるが、PID制御による温度制御回路を用いてもよい。
次に、第3の実施例を、図面を用いて説明する。
図15、図17は、第3の実施例の構成を示す回路図である。
第3の実施例は、キュリー点での励磁コイルの電流波形を検出する方法が第1の実施例とは異なる。
図15、図17において、110はカレントトランス、300は電流検出回路、301はフィルタ回路、302は整流回路、303はピークホールド回路、304は整流回路、305はピークホールド回路、306はコンパレータである。
所望の定着温度よりもマージンをもったキュリー点を有する磁性体を用いて定着スリーブ10を構成した場合、定着スリーブ10の温度が上昇してその温度がキュリー点に近づくと、定着スリーブ10の透磁率が低下する。そのため、励磁コイル104から見た定着スリーブ10を含む回路の等価インダクタンスが小さくなり、励磁コイル104に流れる電流は図16(a)、(b)に示すように変化する。
図16(a)は、通紙時に励磁コイル104に流れる電流の波形を示し、図16(b)は、定着スリーブ10の温度が磁性材のキュリー点に近づいた時に励磁コイル104に流れる電流の波形を示す。定着スリーブ10の温度が磁性材のキュリー点に近づくと、GNDの0Vを中心に、正方向電流に比べ負方向電流が大きくなる。電流検出回路300は、この変化を検出し、検出した電流に基づく温度情報を制御回路106にフィードバックする。制御回路106は、その温度情報を所定の定着スリーブ設定温度に対応する温度情報と比較することによって、定着加熱装置に供給すべき電力を算出し、スイッチング制御回路117が出力する信号のON幅を決定する。すなわち、制御回路106は、所定の定着スリーブ温度になるようスイッチング素子107をON、OFFする。スイッチング素子107がON、OFFさせることにより励磁コイル104に高周波電流が流れ、励磁コイル104が発生する高周波電磁界により定着スリーブ10が発熱する。したがって、制御回路106がスイッチング素子107のON、OFFを制御することによって、定着スリープ10の温度制御を実現できる。
図17は、励磁コイル104の電流検出による温度制御回路の回路図を示す。以後の説明では、AC全波整流回路から共振回路へ流れる電流は正方向電流とする。また、回生方向の電流は負方向電流とする。電流検出回路300が共振回路に流れる電流を検出し電圧値に変換した後、フィルタ回路301はノイズを除去する。その後、整流回路302は負方向電流を検出し、ピークホールド回路303は、負方向電流のピーク値を検出する。一方、整流回路304は共振回路に流れる電流を整流し、正方向電流に相当する電圧を得て、ピークホールド回路305は正方向電流のピーク値を検出する。コンパレータ306は、正方向電流の値を抵抗で分圧した電圧値を基準電圧値とし、当該基準電圧値と負方向電流ピーク値を比較する。定着スリーブ10の温度がキュリー点に近づいて、基準電圧値と負方向電流ピーク値の差が所定値を超えたら、定着スリーブ10の温度がキュリー点に近づいたことになるため、共振電流波形から温度を推定できる。
本実施例では、一例として温度制御をデジタルPID制御により行う場合を例に挙げて説明する。
図15に示すピークホールド回路303・305は、温度情報に対応する電圧を制御回路106にフィードバックする。制御回路106は、当該電圧をA/D変換し、所定の電圧−温度変換テーブルを用いて電圧を温度に変換し、当該温度と目標温度の差を検出する。制御回路106は、この差に基づいて、次に出力すべき電力を算出する。計算の手法は一般的にPID制御と呼ばれる手法に基づいている。すなわち、目標温度と現在の温度の差に比例する比例項により決定されるパラメータと、これまでの誤差の積分値に比例する積分項により決定されるパラメータと、今回の変化量に比例する微分パラメータと、サンプリング間隔により出力すべき電力量を決定する。PID演算に拠らず、PI制御としてもよい。A/Dコンバータのサンプリング周期を、PIDの演算サンプリング周期より短くし、サンプリングデータの平均をPID演算用のサンプリングデータとしてもよい。例えば、PIDの演算サンプリング周期は20msとする一方、A/Dコンバータのサンプリング周期を1msとする。次いで、A/Dコンバータがサンプリングした10個回のサンプリングデータから最大値と最小値を除いた8つのサンプリングデータの平均をとり、その平均値をPID演算用のサンプリングデータとする。これにより、本体各部の動作や電源に重畳されたスパイク電圧等の影響を効果的に排除することができる。
制御回路106は、スイッチング制御回路117内のON幅決定回路1172にON時間に相当する電圧を指示する。スイッチング制御回路117は、指示されたON時間が経過すると、スイッチング素子107をOFFにする。OFF幅決定回路1174は、所定の時間のOFF幅を出力する。フリップフロップ1170は、スイッチング素子107を交互にON・OFFする。スイッチング素子107をON・OFFさせることにより励磁コイル104に高周波電流が流れ、励磁コイル104が発生する高周波電磁界により定着スリーブ10が発熱する。
以上説明したように、ピークホールド回路303・305が温度情報に対応する電圧値を制御回路106にフィードバックすることにより、定着スリーブ10の温度制御を実現できる。
尚、本例では電圧共振回路を用いたが、電流共振回路を用いてもよい。