JP4871865B2 - 熱水を用いるコーヒー果実の処理方法 - Google Patents
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Description
現在、コーヒー果実の処理方法としては、コーヒー果実からその外皮及び果肉部分を取り除いてコーヒー生豆を単離するための精製工程(非水洗式又は水洗式)が知られている(例えば、非特許文献1参照)。
尚、得られたそのコーヒー生豆について焙煎処理(ロースト)を施したものがコーヒー焙煎豆である(焙煎工程)。コーヒー特有の味覚や香りの素となる成分(以下、コーヒー香味成分と称する)はこの焙煎工程において生成される。あとはそのコーヒー焙煎豆を粉砕し、熱湯等によりコーヒー香味成分を抽出したものがコーヒー飲料となる。
Michael Sivetz,M,S.and H.Elliott Foote,Ph.D"Coffee Processing Technology Vol1"1963 p48〜49
ここで、コーヒー果実からコーヒー生豆を得るための精製工程には、非水洗式と水洗式の二種類が知られているが、本発明は、これら非水洗式及び水洗式の両方の精製方法に適用することが可能である。すなわち、収穫したコーヒー果実を熱水処理した後、その熱水処理したコーヒー果実について非水洗式又は水洗式の精製工程を実施することができる。
また、コーヒー果実に対して熱水処理を施すことによって、コーヒー果実に付着していた棲み付き菌数を減少させることができる。従って、雑菌汚染を防止した上で、発酵処理を実施することが可能となる。さらに、熱水処理によりコーヒー果実の植物繊維が膨潤し、軟らかくなることで、微生物がコーヒー果実内に浸入し易くなる。また、コーヒー果肉内に含まれる糖分等も溶出し易くなり、微生物による発酵がより促進される。
ここで、酵母等に代表されるある種の微生物は、有機化合物(資化成分)を分解(発酵)してアルコール類、有機酸類、エステル類等(以下、発酵成分と称する)を産生する。前記熱水処理工程を施した後のコーヒー果実、つまり、前記コーヒー果実由来の資化成分(例えば、この場合の主たる資化成分は、コーヒー果肉(糖分やその他の栄養分を含む部分))の存在下において、前述した微生物(例えば、酵母など)による発酵を行うと、産生された発酵成分は、コーヒー果実の最も内側に存在するコーヒー生豆(種子)に水分と共に吸収される。
従って、上記発酵処理を施して得られたコーヒー生豆を焙煎すると、焙煎工程にて生成される従来のコーヒー香味成分に加えて、発酵により産生された発酵成分に由来する新たな香味成分を含むコーヒー焙煎豆を得ることができる。そして、そのコーヒー焙煎豆から抽出されたコーヒー飲料には新たな良質の香味が付与される。
微生物としては、例えば、ゲオトリクム スピーシーズ(Geotrichum sp.)SAM2421(国際寄託番号FERM BP−10300)(以下、SAM2421と称する)を使用することができる。SAM2421は、本発明者らによってコーヒー果実から分離された新規微生物である。この微生物は、独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センター(日本国茨城県つくば市東1丁目1番地1 中央第6)に、2005年3月22日付で受託された。SAM2421を使用することによって、コーヒー生豆に新たな香味成分(発酵成分)が付与される。このようにして得られたコーヒー生豆を原料として用いることにより、焙煎工程にて生成される従来のコーヒー香味とバランスのとれた(アルコール臭の抑えられた)華やかでリッチなエステリー香を有し、且つボディ感のある味わいを与えるコーヒー飲料を得ることができる。
また、微生物として、Lalvin L2323株もしくはCK S102株のワイン発酵用酵母を使用すれば、醸造香といった特徴ある香味をコーヒー生豆に付与することが可能であり、そのコーヒー生豆を原料として用いることにより、焙煎工程にて生成される従来のコーヒー香味に加えて、フルーティーな醸造香を有し、且つボディ感のある味わいを与えるコーヒー飲料を得ることができる。
上記微生物は、入手も容易で、尚且つ培養や保存等に関しても一般的な方法で対応することができるので扱い易い。
〔実施形態〕
(コーヒー果実)
本発明におけるコーヒー果実とはコーヒーノキの果実を意味し、その構造を概していえば、コーヒー生豆(種子)、果肉(糖分やその他の栄養分を含む部分)及び外皮からなるものである。より詳細には、最も内側にコーヒー生豆(種子)が存在し、その周りが順に、銀皮(シルバースキン)、内果皮(パーチメント)、果肉、外皮で覆われている。品種としては、アラビカ種、ロブスタ種、リベリカ種などが適用可能であり、また、産地についても、ブラジル産、エチオピア産、ベトナム産、グアテマラ産などが適用可能であるが、特に限定されるものではない。
熱水処理に使用可能な水としては、軟水、硬水、酸素水、炭酸水、バナジウム水、海洋深層水、イオン水、アルカリ水、酸性水などが挙げられるがこれらに限定されるものではない。
熱水処理の条件は、少なくともコーヒー果実表面に付着している棲み付き菌などの雑菌を殺菌・除去出来れば、特に制限されない。よって、熱水の温度としては、50℃〜100℃が好ましい。
例えば、大きな釜のようなものに収穫したコーヒー果実と熱水とを入れてコーヒー果実を洗浄することによって、本工程を実施できる(熱水温度や洗浄時間はコーヒー果実に付着している棲み付き菌などの雑菌を殺菌・除去し得る範囲で適宜設定する)。あるいは、コーヒー果実を並べて、その上から熱水を散布するような方法であっても良い。熱水処理したコーヒー果実は、その後の精製工程において果肉等を取り除き、コーヒー生豆を分離する。
コーヒー果実からコーヒー生豆を得るための精製工程には、非水洗式と水洗式の二種類が知られている。
非水洗式とは、コーヒー果実を収穫後、そのまま乾燥させたものを脱穀して外皮、果肉、内果皮、銀皮等を除去し、コーヒー生豆を単離する方法である。
水洗式とは、コーヒー果実を収穫後、水槽に沈めて不純物を除去し、果肉除去機で外皮及び果肉を除去してから、水中に沈めて粘着物を溶かして除去し、さらに、水洗した後に乾燥させたものを脱穀して内果皮、銀皮を除去してコーヒー生豆を単離する方法である。
非水洗式の精製工程は操作が容易であるが、主に気候が乾燥している地域で適用される。一方、水洗式の精製工程は、主に多雨の地域で適用される。尚、1粒のコーヒー果実からコーヒー生豆は1粒或いは2粒採取される。
本発明における発酵工程において微生物は、熱水処理されたコーヒー果実中の果肉を資化成分とするが、必要に応じて、他の資化成分を追加して発酵させても良い。
尚、上述した追加的な資化成分は、必要に応じて殺菌処理(熱水処理等)して使用する。
本発明において、発酵工程における発酵速度を増加させるために、コーヒー果実表面の少なくとも一部にコーヒー果肉を露出させる方法を用いても良い。
本発明で用いる微生物は上述したような資化成分を資化(発酵)することができる微生物であれば、特に限定されない。
酵母は、食品としての安全性の面から、食品での使用実績のあるワイン発酵用酵母やビール発酵用酵母といった醸造用酵母を好適に用いることができる。ワイン発酵用酵母としては、例えば、市販の乾燥酵母である、Lalvin L2323株(以下L2323と称する:セティカンパニー社)やCK S102株(以下S102と称する:Bio Springer社)などを用いることができる。通常は、L2323は赤ワイン醸造用、S102はロゼワイン醸造用に用いられる。このように酵母を用いた場合、醸造香といった特徴のある香味を添加することができる。
微生物が通常の環境下で正常に生育しているときに発生する突然変異を、自然突然変異という。自然突然変異の主な原因は、DNA複製時の誤りと、内在性の突然変異原物質(ヌクレオチドアナログ)であると考えられている(真木,「自然突然変異と修復機構」, 細胞工学 Vol.13 No.8, pp.663−672, 1994)。
2−1.放射線や突然変異原物質(mutagen)による処理
紫外線やX線などの放射線処理、あるいはアルキル化剤のような人工的な突然変異原物質処理によって、DNAに損傷が生じる。その損傷は、DNA複製の過程で突然変異に固定される。
PCR法は、試験管内でDNAを増幅するため、細胞内の突然変異抑制機構の一部が欠けており、高頻度に突然変異の誘発が可能である。また、遺伝子シャフリング法(Stemmer,”Rapid evolution of a protein in vitro by DNA shuffling”, Nature Vol.370, pp.389−391, Aug. 1994 )と組み合わせることで、有害突然変異の蓄積を避け、複数の有益突然変異を遺伝子に蓄積することができる。
ほとんどすべての生物では、突然変異抑制機構によって、自然突然変異の発生率が非常に低いレベルに保たれている。この突然変異抑制機構には、10種類以上の遺伝子が関与した複数の段階が存在する。これらの遺伝子の1つあるいは複数が破壊された個体は、高い頻度で突然変異を発生するので、ミューテーターと呼ばれている。また、これらの遺伝子は、ミューテーター遺伝子と呼ばれている(真木,「自然突然変異と修復機構」,細胞工学 Vol.13 No.8, pp.663−672, 1994; Horst et. al.,”Escherichia coli mutator genes”, Trends in Microbiology Vol.7 No.1, pp.29−36, Jan. 1999)。
1.微生物と資化成分との接触方法
本発明において、発酵工程において微生物と資化成分とを接触させる方法には、例えば以下の方法が挙げられる。
(a)直接法
直接法は、コーヒー果肉の存在下において微生物を資化成分に直接接触させる方法である。例えば、必要に応じてナイフ等で表面に傷を付けてコーヒー果肉を一部露出させたコーヒー果実に、上記微生物の懸濁液を噴霧あるいは散布して直接接触させて発酵させる。あるいは、比較的大量の水(例えば、コーヒー果実と等重量程度の量)に薄い濃度で上記微生物を懸濁させた懸濁液を用意しておき、発酵させるべきコーヒー果実をその懸濁液中に浸漬して引き上げることで接触させた後、発酵させても良い。
特に、一部果肉を露出させたコーヒー果実を用いて発酵させる場合、微生物が露出部分からコーヒー果実内に浸入し易くなり、しかも資化される糖分等が果肉中に高濃度で局在するので効率良く発酵が進む。しかも、すぐ近傍にコーヒー生豆が存在するので発酵により産生されたアルコール類やエステル類等の発酵成分が速やかにコーヒー生豆中に移行することができる。尚、乾燥させたコーヒー果実(もしくはコーヒー果肉)を使用する場合は、適度に水分を含ませた状態で発酵させても良い。
間接法は、発酵液を備える発酵槽を用意して、発酵液中にコーヒー果実と、上記微生物と、必要に応じて上記の追加的な資化成分とを添加し、発酵液中に溶出する資化成分に微生物を接触させる方法である。特に、必要に応じてナイフ等で表面に傷を付けてコーヒー果肉を一部露出させたコーヒー果実を使用する場合、コーヒー果肉が一部露出しているので発酵液中にコーヒー果肉中の糖分等が溶出し易くなっており、微生物による発酵が促進される。
微生物の発酵条件については、発酵がおこる条件であれば特に限定されず、必要に応じて発酵に適した条件(例えば、使用する微生物の種類やその菌量(初期菌数)、資化成分の種類や量(濃度)、温度、湿度、pH、酸素又は二酸化炭素濃度、発酵時間等)を適宜設定することができる。また他にも例えば、上記の資化成分以外にも、必要に応じてpH調整剤などの添加剤や窒素源や炭素源を補うための市販の栄養培地などを補助的に添加することもできる。
ここでは、コーヒー果実を用いて発酵を行う例を説明する。
本発明は、例えば、コーヒー生豆の精製工程中に発酵工程を行うことができる。
コーヒー果実を用いて、成分の溶出性に対する熱水処理の影響を検討した。
コーヒー果実(沖縄県産)1000gを5000ml容三角フラスコにとり、80℃に熱した水3000mlを添加し、約3分間静置した。その後、ザルに移して水を切り、熱水処理したコーヒー果実を得た。
両浸漬液について、果肉由来の成分である、クエン酸、リンゴ酸、アミノ態窒素および単糖類(グルコース)の浸漬液中の濃度を測定した。
熱水処理したコーヒー果実500gを2000ml容三角フラスコにとり、400mlの水(発酵液)を添加した。これに発酵微生物として、ゲオトリクム スピーシーズ(Geotrichum sp.)SAM2421(国際寄託番号:FERM BP−10300)(以下、SAM2421と称する)を添加し(発酵液1mL中にSAM2421が約1×106cells存在するように添加)、23℃にて72時間静置して培養した(試料2)。またコントロールとして、熱水処理をしないコーヒー果実を用いて同様に試験した(比較例2)。
この発酵液を観察した結果、試料2では、SAM2421以外の菌の繁殖は認められず、また、発酵液に良好な香味を呈した。
コーヒー豆の品質に悪影響を与える代表的な雑菌として酢酸産生菌があることから、上澄み液中の酢酸の濃度を液体クロマトグラフィーで分析して酢酸産生菌の増殖の有無を判断した(即ち、酢酸産生菌が増殖すると、酢酸産生量が増加して、酢酸濃度が高くなるとものと判断する)。
液体クロマトグラフィー分析の装置は、島津製作所のHPLC一式を用いた。カラムとしてはShim−pack SCR−102Hを用い、電気伝導度検出器 CDD−6Aで検出した。カラムオーブンの温度は40℃とし、p−トルエンスルホン酸を含むTrisバッファーで反応と溶出を行った。絶対検量線で定量した。液体クロマトグラフィーの結果を表2に示す。熱水処理した試料2における酢酸濃度は、比較例2よりも低かった(即ち、酢酸の産生量は少量)。実施例1の結果を合わせて考えると、微生物の繁殖に適した資化成分の溶出量が増えているにも関わらず、コーヒー果実を熱水処理することによって、雑菌の繁殖を抑え、意図的に添加した微生物(例えば、上記SAM2421等)の増殖を促すことに、本発明の技術が有効であることが判った。
次いで、コーヒー官能専門のパネラー5名によって、コーヒー焙煎豆の官能評価を行った。試料2及び比較例2の各コーヒー焙煎豆30gを粉砕せずにそのままの形状で専用の官能グラスに入れ、ガラスの蓋をした。官能時に蓋をずらし、エステリー香、酢酸臭を評価した。弱い(1点)、やや弱い(2点)、中程度(3点)、やや強い(4点)、強い(5点)の5段階で、0.5点きざみで評価した。5名の評価点の平均値で表した。結果を表3に示す。試料2の焙煎豆は比較例2に比べて、良好な香りであった。
植菌前のコーヒー果実に対して、熱水処理に代えて通常の水道水(23℃)で処理したものを比較例3とした。実施例として、処理に用いる熱水の温度を50℃(試料4)、65℃(試料5)、100℃(試料6)を変更した実験区を3通り用意した。
3日後の発酵ボトルの香りは、通常の水道水で洗浄したものは若干酸っぱい香りが強く、酢酸の産生量が多かったと考えられる。50℃(試料4)、65℃(試料5)、100℃(試料6)の実験区においては、エステリーでフルーティーな発酵香が強かった。
次に、コーヒー焙煎豆の評価を行った。発酵後のコーヒー果実をボトルから取り出し、55℃の乾燥器で48時間乾燥させた後、パルピングマシーンを用いて果肉や果皮を取り除き、コーヒー生豆約250gを得た。得られたコーヒー生豆のうち100gを家庭用全自動珈琲豆焙煎機(CRPA−100 トータス株式会社)で深煎りボタン操作により焙煎した。焙煎時間は約25分程度であった。次いで、コーヒー官能専門のパネラー5名によって、コーヒー焙煎豆の官能評価を行った。比較例3、及び試料4〜6の各コーヒー焙煎豆30gを粉砕せずにそのままの形状で専用の官能グラスに入れ、ガラスの蓋をした。官能時に蓋をずらし、エステリー香、酢酸臭の2種類を評価した。弱い(1点)、やや弱い(2点)、中程度(3点)、やや強い(4点)、強い(5点)の5段階で、0.5点きざみで評価した。5名の評価点の平均値で表した。結果を表5に示す。試料4〜6の焙煎豆は比較例3に比べて、良好な香りであった。
Claims (5)
- コーヒー果実からコーヒー生豆を単離する精製工程を包含するコーヒー果実の処理方法であって、
前記精製工程の前に、前記コーヒー果実を熱水で処理する熱水処理工程を有し、
前記熱水処理工程の後に、前記コーヒー果実と前記コーヒー果実に含まれる成分を資化できる微生物として、ゲオトリクム スピーシーズ(Geotrichum sp.)SAM2421(国際寄託番号FERM BP−10300)、またはLalvin L2323株もしくはCK S102株のワイン発酵用酵母を接触させる発酵処理工程を有するコーヒー果実の処理方法。 - 前記熱水の温度が50℃〜100℃である請求項1に記載のコーヒー果実の処理方法。
- 請求項1に記載のコーヒー果実の処理方法により得られたコーヒー生豆。
- 請求項3に記載のコーヒー生豆を焙煎処理したコーヒー焙煎豆。
- 請求項4に記載のコーヒー焙煎豆を原料として用いて得られたコーヒー飲料。
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