JP4867164B2 - 軽度うつ病もしくはうつ状態の改善または予防剤 - Google Patents

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Description

本発明は、軽度うつ病もしくはうつ状態の改善または予防剤に関する。
近年、ストレスに伴う心身の症状を自覚している生活者は増加する傾向にあり、それに伴いうつ病およびうつ状態の患者も増加する傾向にある。これらうつ病およびうつ状態などの症状には、精神症状(抑うつ・憂うつ・不安・イライラ・喜びを感じないなどの感情面、頭がぼうっとする・考えがまとまらないなどの思考面、およびおっくう・何をする気にもならない・めんどうなどの意欲面など)および身体症状(不眠などの睡眠障害、嘔吐・胃部不快感・食欲不振・体重減少などの消化器系障害、勃起障害・性欲減衰などの生殖器系障害、首や肩のこり・関節痛・筋肉痛・頭痛などの一般的な身体症状など)があり、日常生活に大きな支障を来たす疾病である。このような症状は、精神的な疲労や疲労の累積によっても惹き起こされると考えられている。
従来、うつ病およびうつ状態の治療用薬物として合成医薬品や生薬などの天然物が知られている。
合成医薬品としては、モノアミン酸化酵素(MAO)阻害剤、三環系抗うつ薬、四環系抗うつ薬、選択的セロトニン再取り込み阻害剤、セロトニン-ノルアドレナリン再取り込み阻害剤、可逆性MAO-A阻害剤などがあるが、近年多く用いられている薬剤はモノアミン再取り込み阻害作用を主作用とするものである。
しかし、これらの薬剤は優れた効果を有する一方、さまざまな副作用も伴うので、軽度から中等度のうつ病やうつ病の初期症状であるうつ状態に対しては使われていない(非特許文献1、2)。
近年、疲労感にも脳内モノアミン作動性神経系の機能変化が大きく関与していることが解明されており、症状も軽度のうつ病もしくはうつ状態における症状と類似している。これらより、疲労感はモノアミン作動性神経系を正常化することによっても改善されると考えられる。
これらより、モノアミン再取り込み阻害剤は、軽度のうつ病もしくはうつ状態の改善または予防剤、疲労感の改善または予防剤、イライラ感の改善または予防剤、不安感の改善または予防剤、抑うつ感もしくは抑うつ気分の改善または予防剤などとして効果を有する可能性が考えられている。
その様な中、うつ病に有効で副作用が比較的発生しにくい天然物が使われることもある。その代表的な生薬として、セイヨウオトギリソウ(Hypericum perforatum L.)が良く知られている。セイヨウオトギリソウは過去に西洋文化圏の中で医療用の植物として伝統的に使用されていたという多くの事例があり、近年軽度ないし中等度のうつ病を適用症として用いられている。
また、うつ病に有効なその他の天然物としては、ムイラプアマを用いる技術(特許文献1)、エゾウコギを用いる技術(特許文献2)などが知られている。
ジフシ(地膚子)は、アカザ科(Chenopodiaceae)のホウキギ Kochiascoparia Schrad. あるいは近縁の果実を乾燥させることにより得られる生薬である。ジフシは古来より、解毒、利尿、淋病、小便不利、水種、脚気、湿瘡、掻痒に対して用いられており、地膚子湯としても処方されている(非特許文献3)。
ジフシはトンブリまたはドンブリなどとも称され、いろいろな地域で多食されていることから安全性は高いものと考えられる。
しかし、ジフシの軽度うつ病もしくはうつ症状,および疲労感に対する作用は報告されていない。ここで、イライラは体内カルシウムが不足するために発現するという俗説があるが、医学的には根拠が無いことであり、また、ジフシは栄養素としてカルシウムを含有することが知られているものの含有量は100gあたりに換算して数十mgと少なく、通常の食生活では何らかの薬効を生じる量のカルシウムを摂取することは困難である。
特開2000−119187 特開2002−284695 三浦 貞則:SNRIの登場とその歴史的背景、臨床精神薬理、3(4) 311-318、2000 田島 治:SNRIの相互作用と副作用、臨床精神薬理、3(4) 353-361、2000 難波恒雄 著、和漢薬百科図鑑、I、26-4〜5、224-225、1993
本発明の目的は、軽度うつ病およびうつ状態に対して効果的な改善あるいは予防作用を有し、あるいは疲労感の改善作用を有し、長期間服用しても安全な薬剤を提供することにある。
本発明者らは上記課題を解決するために検討した結果、生薬のジフシが、モノアミン再取り込み阻害作用、特に、強いノルアドレナリンおよびドパミン再取り込み阻害作用を有することを見出し、この知見に基づき本発明を完成した。
すなわち、本発明は
(1)ジフシを配合したことを特徴とする、モノアミン再取り込み阻害剤。
(2)ジフシを配合したことを特徴とする、軽度のうつ病もしくはうつ状態の改善または予防剤。
(3)ジフシを配合したことを特徴とする、疲労感の改善または予防剤。
(4)ジフシを配合したことを特徴とする、イライラ感の改善または予防剤。
(5)ジフシを配合したことを特徴とする、不安感の改善または予防剤。
(6)ジフシを配合したことを特徴とする、抑うつ感もしくは憂うつ感の改善または予防剤。
である。
本発明で配合するジフシは、アカザ科(Chenopodiaceae)のホウキギ(Kochiascoparia Schrad.)あるいは近縁の果実を乾燥させることにより得られる生薬であり、生薬末の他、エキスを使用することもできる。エキスは、水、低級脂肪族アルコール(メタノール、エタノール、イソプロピルアルコールなど)、低級脂肪族ケトン(アセトンなど)、あるいはこれらを含む溶媒により当業者が通常行う抽出処理により容易に製造することができる。製造したエキスは、加熱処理、凍結乾燥あるいは減圧乾燥等の処理により、濃縮エキスや乾燥エキスにすることができる。
ジフシの生薬末またはエキスは、そのままでも使用することができるが、必要ならば発明の効果を損なわない質的および量的範囲で、任意の担体(水溶性ビタミン、脂溶性ビタミン、ビタミン誘導体、ミネラル、生薬、生薬のエキス)などと混合することができる。
本発明の組成物は、通常使用される任意成分を含有する錠剤、顆粒剤、散剤、カプセル剤、液剤などの剤形の他、お茶、飲料、加工食品(クッキー、ビスケット、ゼリーなど)などの食品の形態で経口により投与することができる。特に、本発明で配合するジフシは安全性が高く、継続して服用するのに適しているので、服用する際の抵抗感を低減することができる食品の形態が好ましい。
任意成分としては、例えば、賦形剤、結合剤、被覆剤、滑沢剤、糖衣剤、崩壊剤、増量剤、矯味矯臭剤、乳化・可溶化・分散剤、安定剤、pH調製剤、等張剤などがあげられる。これらを常法に従って処理することにより、本発明の製剤を製造することができる。
本発明の製剤を使用する場合のジフシの投与量は、年齢、性別、体重などによって異なるが、通常、原生薬換算で成人1日あたり約50mg〜500g、好ましくは500mg〜50gである。
本発明で用いるジフシは、モノアミン再取り込み阻害活性、レセルピン誘発低体温抑制作用、ガラス玉覆い隠し行動抑制作用を示した。
以下、実施例および試験例により本発明を具体的に説明する。
中華人民共和国浙江省を産地とするアカザ科(Chenopodiaceae)のホウキギ(Kochiascoparia Schrad.)の果実よりなる、ジフシ乾燥物100質量部に対し、50%エタノール溶液1000質量部を加えて抽出した後、エタノールを留去した。さらに、減圧濃縮を行うことにより、エキスを得た。
上記抽出処理により得たエキスは、エキス収率13.15%、乾燥減量35.5%、原生薬対比2.7であった。
試験例1
実施例1で得られたジフシエキスについて、下記の試験法によりモノアミン再取り込み阻害活性を評価する試験を行った。
粗シナプトソームの調製:
7〜10週齢の雄性Crj:CD (SD) IGSラット(日本チャールス・リバー株式会社)の脳を摘出した後、氷冷条件下にて、前頭皮質、視床下部および線条体を素早く分割した。氷冷条件下にて各脳部位より血管を除去した後、それぞれ0.32mol/Lスクロースにてホモジナイズし、1000×g、4℃条件下の遠心分離により粗核画分を分離した。得られた上清より、20000×g、4℃条件下の遠心分離により粗シナプトソームを調製した(用時調整)。
緩衝液の調整:
ドパミン再取り込み阻害反応試験に用いる緩衝液は、118mmol/LのNaCl、4.7mmol/LのKCl、1.2mmol/LのMgSO4、1.2mmol/LのKH2PO4、25.0mmol/LのNaHCO3、1.27mmol/LのCaCl2、11.0mmol/Lのグルコース、0.1mmol/Lのパージリン、1.14mmol/Lのアスコルビン酸、0.067mmol/LのEDTA2Naをモノアミン再取り込み阻害反応試験時に最終反応濃度となるように調製した。ノルアドレナリン再取り込み阻害反応試験に用いる緩衝液は、119mmol/LのNaCl、4.8mmol/LのKCl、1.2mmol/LのMgSO4、2.0mmol/LのCaCl2、10.0mmol/Lのグルコース、0.1mmol/Lのパージリン、5.68mmol/Lのアスコルビン酸、25mmol/LのTrisをモノアミン再取り込み阻害反応試験時に最終反応濃度となるように調製した。緩衝液は氷冷条件下にて、95%酸素および5%二酸化炭素混合ガスを通気した(用時調製)。
粗シナプトソーム標本の調製:
粗シナプトソーム標本は、前頭皮質、視床下部および線条体より調製された粗シナプトソームを、モノアミン再取り込み阻害反応試験時に湿組織重量換算として400〜800倍になるように緩衝液にて希釈し、調製した(用時調製)。
取り込み測定用[3H]標識モノアミン溶液の調製:
[3H]ノルアドレナリン、[3H]ドパミン溶液は、モノアミン再取り込み阻害反応試験時に5nmol/Lの濃度になるように緩衝液にて希釈し、調製した(用時調製)。
エキス溶液の調製:
エキスは、実施例1にて製造したジフシエキスを用い、乾燥原生薬重量換算として初回25g/Lの濃度になるように25%DMSO溶液に溶解した。その後、モノアミン再取り込み阻害反応試験時に0.25 v/v%のDMSO、10mg/L、30mg/L、100mg/Lの最終濃度になるように希釈した。
モノアミン再取り込み阻害反応試験:
マイクロチューブに50μLのエキス溶液および350μLの粗シナプトソーム標本を添加し、混和した後に、25℃、15分間の前反応処置を行った。その後、100μLの[3H]標識モノアミン溶液を添加し、25℃、2時間の反応処置を行った。総取り込み量を算出するために、エキス溶液を添加せず、緩衝液を添加したマイクロチューブを用意した。非特異的取り込み量を算出するために、エキスあるいは緩衝液を添加せず、ノルアドレナリン再取り込み阻害反応時には最終濃度1μmol/Lに成るようにデシプラミン塩酸塩を、ドパミン再取り込み阻害反応時には最終濃度10μmol/Lに成るようにドパミン塩酸塩を添加したマイクロチューブを用意した。さらに、ノルアドレナリン再取り込み阻害反応試験では、エキスおよびデシプラミンの両溶液を添加したマイクロチューブを用意した。各濃度3点測定にて反応試験を行うために、同内容のマイクロチューブを3本用意した。
3H]標識モノアミン取り込み量の測定:
上記の反応後、速やかに0.3v/v%ポリエチレンイミンに湿潤したガラス濾紙を用いて、吸引ろ過した。濾紙は0.9w/v% NaClよりなる生理食塩水1mLを用いて、2回洗浄し、45〜50℃にて60分以上乾燥した。濾紙上の[3H]標識モノアミンの放射活性は常法の液体シンチレーションおよびシンチレーションカウンターを用いて測定した。
モノアミン再取り込み阻害率の算出:
総取り込み量から非特異的取り込み量を差し引き、特異的取り込み量とした。エキスのモノアミン再取り込み阻害率は、エキス添加による特異的取り込み量の減少率を阻害率とした。試験結果を表1に示した。
Figure 0004867164
試験例1に示したようにジフシは強いモノアミン再取り込み阻害作用を示した。
試験例2
実施例1で得られたジフシエキスについて、下記の試験法により抗うつ効果あるいは抗不安効果および抗イライラ効果を評価する試験を実施した。
使用動物:
試験時に6〜9週齢の雄性Crj : CD-1 (ICR) マウス(日本チャールス・リバー株式会社)を用いた。動物は、入手日を含めて少なくとも5日以上、飼料、水分自由摂取条件下にて、飼育した。飼育条件は室温 23±3℃、湿度 50±20 %、照明時間 12時間、換気回数 10回以上/時間、8〜12匹/ケージとした。
レセルピン溶液の調製:
レセルピン溶液は、日本薬局方レセルピン注射液(アポプロン注1mg、第一製薬株式会社)を用い、日本薬局方注射用水(光製薬株式会社)にて、2.5mg/10mLの濃度になるように希釈して、調製した(用時調製)。
エキス溶液の調製:
エキス溶液は、実施例1にて製造したジフシエキスを用い、乾燥原生薬重量換算として初回3.2g/10mLの濃度になるように1w/v%POE(60)硬化ヒマシ油(ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油-60)水溶液に懸濁した。その後、0.4g/10mL、0.8g/10mLおよび1.6g/10mLの濃度になるように希釈し、調製した。
レセルピン誘発低体温抑制試験(抗うつ効果の評価)
レセルピンはノルアドレナリン作動性神経系の機能を低下させることにより低体温を誘発し、この低体温はノルアドレナリン再取り込み阻害作用を有する抗うつ薬によって抑制されることが広く知られている(Willner P.:Animal models of depression: an overview、Pharmacol.Ther.、45(3)、425-455、1990)
マウスを小型ケージ(175mm×275mm×H 130mm)に2匹/ケージづつ入れた。レセルピン溶液は、午後3〜7時にマウス体重1kgあたり10mLの容量になるように腹腔内投与した。翌日、エキス溶液を体温測定の1および4時間前の2回、マウス体重1kgあたり10mLの容量になるように経口投与した。体温は最終エキス投与の1間後に測定した。体温測定は、電子体温計(測定精度±0.05℃)を用い、直腸温度(測定部位:肛門より1.5cm)を測定することにより数値を得た。正常群にはそれぞれの溶媒のみを投与した。0g/kg投与(ジフシ未投与)群にはレセルピン溶液および溶媒を投与した。1群あたりの例数(匹数)は10例とし、試験結果は平均値(標準誤差)で表示した。有意差検定はStudentのt-検定を用い、危険率5%未満(P<0.05)にて有意とした。試験結果を表2に示した。なお、表中「*」は、対0g/kg投与群p<0.05を示す。
Figure 0004867164
試験例2に示すように、ジフシはレセルピン誘発低体温を有意に抑制した。
試験例3
ガラス玉覆い隠し行動試験(抗不安効果および抗イライラ効果の評価)
ガラス玉覆い隠し行動試験は不安感やイライラ感を改善する代表的な薬物であるジアゼパムやフルボキサミンの薬理作用を評価することが可能である試験方法として広く知られている(Chaki S et al,the Journal of Pharmacology and Experimental Therapeutics,304,2,818-828,2003)。
小型ケージ(175mm x 275mm x 130mm)に予め木製床敷きを厚さ約5cmになるまで入れ、その上面に透明ガラス玉(直径16mm)を24個、均等に配置した。エキスは午前9〜15時にマウス体重1kgあたり10mlの容量になるように経口投与した。投与1時間後、ガラス玉を配置してある小型ケージ内に動物を静かに入れ、30分間、自由に行動させた。30分後、動物をケージより静かに取り出した。
抗不安作用の評価は、床敷き内に深さ10mm(ガラス玉の2/3)以上、動物の行動により覆い隠されていたガラス玉の数を測定し、正常群の覆い隠したガラス玉と比較して有意減少している時、抗不安作用が認められるとした。1群あたりの例数(匹数)は14〜20例とし、試験結果は平均値(標準誤差)で表示した。有意差検定はStudentのt-検定を用い、危険率5%未満(P<0.05)にて有意とした。結果を表3に示した。なお、表中「*」はP<0.05 対未投与群、「**」はP<0.01 対未投与群を示す。
Figure 0004867164
試験例3に示したように、ジフシは不安感およびイライラ感の改善あるいは予防について有効であることが明らかとなった。
本発明で用いるジフシは優れたモノアミン再取り込み阻害活性を示したことから、軽度のうつ病もしくはうつ状態の改善または予防、疲労感の改善などの効果を有する医薬品、機能性食品などとして有用である。

Claims (6)

  1. ジフシのエタノール溶液による抽出物を配合したことを特徴とする、ノルアドレナリン又はドパミン再取り込み阻害剤。
  2. ジフシのエタノール溶液による抽出物を配合したことを特徴とする、軽度のうつ病もしくはうつ状態の改善または予防剤。
  3. ジフシのエタノール溶液による抽出物を配合したことを特徴とする、疲労感の改善または予防剤。
  4. ジフシのエタノール溶液による抽出物を配合したことを特徴とする、イライラ感の改善または予防剤。
  5. ジフシのエタノール溶液による抽出物を配合したことを特徴とする、不安感の改善または予防剤。
  6. ジフシのエタノール溶液による抽出物を配合したことを特徴とする、抑うつ感または憂うつ感の改善あるいは予防用組成物。
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