本発明は、給電用ローラならびに電解めっき被膜付きフィルムの製造装置および方法に関する。
フィルムを搬送しながら連続的にめっき被膜を形成する方法は、例えば特許文献1、および特許文献2に記載されている様に、フィルムの導電面または金属フィルムを陰極ローラに接触させ、その前または後に陽極が投入されためっき液を入れためっき槽を配し、このめっき液中にフィルムを搬送し、陰極−陽極間を通電することでめっき被膜を形成する方法が知られている。上記のようなめっき浴槽を多数配列してフィルム等をこれらに順次投入することにより、容易にフィルム上に厚膜化した所望厚みのめっき被膜を形成することが可能である。
近年、電子機器、電子部品、半導体パッケージ等で利用される様になってきたフレキシブル回路用基板として、ポリイミドフィルムあるいはポリエステルフィルムと銅箔とを合わせた形態の配線基板が注目されている。この基板としては、フィルムに接着剤を介して銅箔を貼り合わせたいわゆる”3層型”と呼ばれるものがまず発達した。ところが、3層型プリント回路用基板は、接着剤にエポキシ系樹脂あるいはアクリル系樹脂が用いられているため、それに含まれる不純物イオンにより電気特性が劣化するという欠点を有している。また、接着剤の耐熱温度が高々100℃〜150℃であるため、ベースフィルム材質としてポリイミドを使用したとしても、その高耐熱性(300℃以上)が十分に生かされない。そのため、高温実装を必要とするICチップのワイヤーボンディングなどにおいては、加熱温度を高められないなどの高スペック化の障害となっている。また、3層型プリント回路用基板では、銅箔の一般的な膜厚が18μmあるいは35μmであるため、80μmピッチ(銅配線40μm、ギャップ40μm)以下のパターンニングを行うには銅箔が厚すぎてエッチング率が著しく低下し、銅箔の表面側の回路幅と接着剤面側の回路幅が著しく異なり、あるいはエッチングで全体が著しく細り、目標とする回路パターンが得られないという欠点もある。
そこで、近年、上記のような3層型における問題点を解決するために、フィルム上に接着剤を介さないで各種蒸着法、例えば真空蒸着法、スパッタリング法あるいは各種イオンプレーティング法などのPVD法、金属を含む薬品を気化し蒸着させるいわゆるCVD法等で、まずフィルムに各種金属を蒸着した後に、または無電解めっき法で各種金属をめっきした後に、電解銅めっきすることにより得られる、いわゆる”2層型”の基板が提案されている。この2層型基板は、電解銅めっきで銅膜厚を自由に変化させることができ、例えば8μmの銅膜厚とすれば、60μmピッチの回路パターンが簡単に作成できるようになり、かつ、各種フィルムの耐熱温度をそのまま反映できるという特徴をもつ。
以上の様な状況から、めっき被膜つきフィルムの需要が高まりつつあるが、このようにフィルムにめっきを施す場合、フィルム導電面に給電するための陰極ローラは、ローラ表面を濡らしローラ表面とフィルム導電面との導電率を調整するための硫酸などの液と、めっき槽からフィルムに随伴し持ち込まれるめっき液にさらされる。銅のめっき被膜を形成する場合、このめっき液は硫酸を主体とし、塩酸を少量加えたものであることが多いので、陰極ローラは非常に腐食しやすく、特に表面を形成する部材の材料選択に注意が必要である。そこで、陰極ローラにはステンレススチールであるSUS316等のめっき液に耐性のある金属が好適に用いられてきた。
しかしながら、SUS316を用いた場合においても粒界腐食が発生する上、被めっきフィルムの導電面に給電するという機能上、材料が持つ電気抵抗が問題となる。つまり、電気抵抗が大きいと陰極ローラから被めっきフィルムの導電面に電流を流す際に電気エネルギー損失が大きくなりエネルギーコストが増大するばかりでなく、めっきするのに必要な電流を流すために必要な電圧が大きくなるため、大容量の電源が必要となる。また、電流が流れる際に発生する熱によって、フィルム接触範囲内で不均一に陰極ローラの腐食が助長され、その結果、陰極ローラの円筒度が悪化し、傷や、給電斑によるめっき斑といった欠点を発生させることがある。さらに、発熱によって陰極ローラ端部に設置されたロータリーコネクタ等の電気部品が故障する場合もあり問題となっている。
また、陰極ローラからフィルム導電面に給電する際、フィルム導電面と陰極ローラ表面とその間に介在する硫酸とめっき液によって好ましくないめっき回路が形成され、陰極ローラ表面にめっき金属が析出する場合がある。ローラ表面に析出しためっき金属とローラ表面材質が異なる場合、析出しためっき金属がはがれやすいため、SUS316製の陰極ローラを用いた場合では析出しためっき金属がフィルム導電面に移りやすく、異常突起粒状物や凹み状欠陥が発生しやすい。
これらの問題を防止するために、銅のめっき被膜を形成する場合には、ローラ材質を銅にすれば良いが、その場合、硫酸とめっき液による陰極ローラの腐食は避け難い。そこで従来は例えば特許文献2や特許文献3、および図6に示す構造のように、ローラ軸部とローラ胴部を着脱可能として、腐食の度にローラ胴部のみを交換しながら製造していた。図6において、いわゆるシェルとローラ胴部608は、溶接部610で溶接されておりそれぞれ着脱できないように接続されている。これらの構造の給電用ローラにおいて回転軸とローラ胴部の結合にはフランジ形の継ぎ手をボルトによってネジ止めする方式や、図6に示すように止めねじ609を用いて固定する方式が用いられるが、これらネジを用いた固定はめっき液による腐食が進むに連れ、回転軸とローラ胴部の間や、雄ネジと雌ネジの間に隙間を生じさせるため、ガタが発生し給電用ローラの回転精度を悪化させフィルム導電面に傷を付けたり、回転軸とローラ胴部の間の接触状態が不安定となり接触抵抗が増加し上記ステンレススチールをローラ材質に用いた場合同様に発熱し、傷や給電斑によるめっき斑といった欠点を発生させる問題がある。さらに特許文献3のように、ローラ胴部の内面に摺接する方法では、接触抵抗が大きくなるため、発熱量が大きくなり、上記同様好ましくない。また、一つの生産装置で用いられる陰極ローラは通常10本から20本、両面めっきの場合はその倍もあり、連続生産している場合では2〜4ヶ月に1回以上交換が必要となるが、特許文献2や図6の構造では切削加工や溶接加工などローラ胴部の製作に要する費用が大きいために、生産コスト増大の要因となっていた。
特開平7−22473 号公報
特開平8−193617 号公報
特開平6−267628 号公報
本発明の目的は、上記の問題を解決し、傷や異常突起粒状物、凹み状欠陥の少ないめっき被膜付きフィルムの製造を行うことができ、低コストで安定した生産を維持できる給電用ローラならびにめっき被膜付きフィルムの製造装置および製造方法を提供することにある。
上記目的を達成するために本発明によれば、導電面を有するフィルムを搬送しながら給電するための給電用ローラであって、回転軸と、表面が導電性物質で構成されたシェルと、前記回転軸および前記シェルを結合するボスと、を備え、前記シェルと前記ボスとの間が着脱自在に構成されており、前記ボスの外周部が前記シェルの内周部に対して付勢して前記シェルとの間の導通をとるバネ構造を備えている給電用ローラが提供される。
また、本発明の別の形態によれば、導電面を有するフィルムを搬送しながら給電するための給電用ローラであって、回転軸と、表面が導電性物質で構成されたシェルと、前記回転軸および前記シェルを結合するボスと、前記シェルの軸方向の少なくとも一端部に設けられたフランジカバーと、を備え、前記シェルと前記ボスとの間が着脱自在に構成されている給電用ローラが提供される。
また、本発明の好ましい形態によれば、前記フランジカバーと前記シェルとの間にシール機構を備えている給電用ローラが提供される。
また、本発明の好ましい形態によれば、前記ボスと前記フランジカバーとの間を直接固定する固定部材を備え、該固定部材は、前記フランジカバーの前記軸方向の端部側の端面よりも前記ボス側に全体が位置する給電用ローラが提供される。
また、本発明の好ましい形態によれば、前記回転軸は、前記軸方向の少なくとも一端部の側面部が抵抗率8×10−8Ωm以下の導電性物質で構成されており、前記側面部を覆う位置に、耐食性のスリーブを備えている給電用ローラが提供される。
また、本発明の好ましい形態によれば、前記ボスの外周部が前記シェルの内周部に対して付勢して前記シェルと前記ボスの間の導通をとるバネ構造を備えている給電用ローラが提供される。
また、本発明の好ましい形態によれば、前記ボスの外周部の前記バネ構造は、前記シェルの内周面の一部に沿った外周面を有し、前記シェルの半径方向外向きに付勢された複数のバネ部材を備えてなる給電用ローラが提供される。
また、本発明の好ましい形態によれば、前記回転軸および/または前記ボスの少なくとも表面部が、ロジウム、ニオブ、タンタル、金、イリジウム、白金、チタン、パラジウム、ルテニウム、銀のいずれか一種以上の金属を95質量%以上含む合金を有する給電用ローラが提供される。
また、本発明の好ましい形態によれば、前記シェルの前記ボスの外周部と接する部位は、抵抗率8×10−8Ωm以下の導電性物質で構成されている給電用ローラが提供される。
また、本発明の好ましい形態によれば、前記ボスの前記シェルの内周面と接する部位は抵抗率8×10−8Ωm以下の導電性物質で構成されている給電用ローラが提供される。
また、本発明の好ましい形態によれば、前記回転軸の給電端と前記シェル表面との間の電気抵抗値が0.37mΩ以下である給電用ローラが提供される。
また、本発明の好ましい形態によれば、前記ボスおよび前記回転軸のうち少なくとも前記ボスに接する部位から給電端までの部位が抵抗率8×10−8Ωm以下の導電性物質で構成されている給電用ローラが提供される。
また、本発明の別の形態によれば、フィルムを搬送しながら該フィルムにめっき被膜を形成するめっき被膜付きフィルムの製造装置である給電用ローラと、該給電用ローラの前記搬送の方向における上流および/または下流に配設されためっき槽と、ロール状に巻かれたフィルムを巻き出して前記めっき槽に供給するための巻き出し手段と、前記めっき槽において前記めっき被膜を成膜されたフィルムをロール状に巻き取るための巻き取り手段とを備えている電解めっき被膜付きフィルムの製造装置が提供される。
また、本発明の好ましい形態によれば、前記給電用ローラは、前記軸方向が重力方向に沿うように配置されているめっき被膜付きフィルムの製造装置が提供される。
また、本発明の好ましい形態によれば、導電面を有するフィルムの前記導電面に給電用ローラを接触させながら搬送し、めっき液を保持しためっき槽中を前記フィルムを搬送するとともに、前記めっき槽中に設けた陽極と前記給電用ローラとの間に電圧を印加することにより、前記フィルムの前記導電面にめっき被膜を形成する、電解めっき被膜付きフィルムの製造方法が提供される。
また、本発明の好ましい形態によれば、前記めっき被膜の成分の90質量%以上が、前記給電用ローラの前記シェルの表面部の前記導電性物質の90質量%以上を占める素材と同一の導電性物質となるようにめっき条件を設定する電解めっき被膜付きフィルムの製造方法が提供される。
また、本発明の好ましい形態によれば、前記給電用ローラを前記軸方向が重力方向に沿うように配置する電解めっき被膜付きフィルムの製造方法が提供される。
なお、本発明において「シェル」とは、フィルム導電面に直接または/およびめっき液等の液体を介して接触する円筒部材をいうものとし、「ボス」とは回転軸とシェルを結合し、通電時に回転軸とシェルの間の通電経路となり得る連結部材をいうものとする。
「フィルム」とは、紙、樹脂フィルム、金属箔などのような、幅に対して厚さが充分薄く、長さが充分長い、いわゆるウェブをいう。本発明の効果が特に顕著に得られるのは樹脂フィルムや紙のウェブである。樹脂フィルムの材質としては、ポリイミド樹脂、ポリエステル樹脂が好ましく用いられる。電子回路材料等で使用する銅つきフィルムを形成する場合には、汎用的なポリエステル樹脂が好ましく用いられ、回路IC等の実装でのハンダ耐熱性の関係でポリイミド樹脂が好ましく用いられる。より具体的に例示すると、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレン−2,6−ナフタレート、ポリエチレン−α,β−ビス(2−クロルフェノキシエタン−4,4’−ジカルボキシレート)などのポリエステル、ポリエーテルエーテルケトン、芳香族ポリアミド、ポリアリレート、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリエーテルイミド、ポリパラジン酸、ポリオキサジアゾールおよびこれらのハロゲン基あるいはメチル基置換体などが挙げられる。また、これらの共重合体や、他の有機重合体を含有するものであってもよい。これらの樹脂に公知の添加剤、例えば、滑剤、可塑剤などが添加されていてもよい。上記樹脂の中、下記化学式(1)〜(5)から選ばれる少なくとも一種の繰り返し単位を85モル%以上含むポリマーやこれを含む混合物を溶融押出して得られる未延伸フィルムを、二軸方向に延伸配向して機械特性を向上せしめたフィルムが特に好ましく使用される。
また、下記(6)〜(15)から選ばれる少なくとも一種の繰り返し単位を含むポリマーやこれを含む混合物からなり、湿式あるいは乾式製膜したフィルム、あるいは該フィルムを二軸延伸および/または熱処理せしめたフィルムも好ましく使用される。
フレキシブル回路用の場合、基材であるプラスチックフィルムの厚さは6〜125μm程度のものが多用され、中でも12〜50μmの厚さのものが好適に用いられる。
「導電面を有するフィルム」とは、上記のようなフィルムの片面または両面に、導電性を有する材料が最表層に配置されるように単層または多層の膜が成膜されたフィルムをいう。たとえば、ポリイミドフィルムの片面に、ニッケルクロム合金の薄膜を形成し、その上に銅の薄膜を形成した導電面を有するフィルムが好適に用いられる。
「給電用ローラ」とは、導電面を有するフィルムの導電面に接触し、フィルムを搬送または案内すると同時にフィルム導電面に電流を供給するためのローラをいう。
「ボスの外周部」とは、ボスがシェルの内周面と接する部位およびその近傍をいう。
「固定部材」とは、ボスとフランジカバーとの間を固定できるものであれば何でもよく、例えば、ボルトやネジ、ワンタッチ方式の留め具であってもよい。好ましくは、ボスとフランジカバーとの間を着脱可能に固定するものがよい。
「シール機構」とは、めっき液等の浸入を抑制するためのものをいうが、浸入を抑制できれば特に限定されず、Oリングやパッキン、オイルシールなどを用いてもよい。本発明かその好ましい形態においては、ボスとシェルの間や、ボスと回転軸の間などにおけるめっき液等の浸入を抑制するものが用いられることがある。
「バネ構造」とは、ボスの外周部がシェルの内周部に対して付勢するような構造をいうが、例えば、ボスの外周部としてスリーブにすり割りを設けものを用いたり、ボスの外周部に多数の板バネが円周方向に並んで設けられているものを用いてもよい。また、適宜、これらを組み合わせて用いてもよい。逆にボスの外周部に凸部を設けるような構造であってもよい。
「銅合金」とは、銅を含む合金の中で、含有する元素のうち銅の質量が最大の金属をいう。
給電用ローラ電気抵抗を測定する方法は、微小な抵抗を精度良く測定可能な四端子法を適用する。測定回路を図7に示す。まずシェル103の表面に縦横5cm、厚さ1mmの銅板701を接触させ、定電流電源702(例えば、菊水電子工業(株)製直流低電圧電流電源PAB18−3A)を用いてその銅板701と軸の給電端との間に一定の電流(I)を流す。次に電圧計703((株)アドバンテスト製デジタルマルチメーターTR6847)を用いて、シェル表面と軸の給電端の間の電位差(V)を測定する。給電用ローラ電気抵抗(R)は、R=V/Iにより求めることができる。
本発明によれば、シェルを脱着自在に構成されているため、シェルのみを自由に交換することが出来るので、安価に安定した生産を維持することができる。また、好ましい態様においては、そのような構成であっても、腐食によるガタが発生しにくいため、フィルム導電面の傷を減少させることが出来る。また、発熱を抑えられるため、給電用ローラの不均一な腐食が抑制できるので、傷や、給電斑によるめっき斑(成膜されためっき被膜の厚みに斑がある状態の欠点をいう)を抑制できる。加えて、発熱に伴うエネルギーのロスやロータリーコネクタなどの電気部品の故障を抑制することができる場合もある。
また、本発明の好ましい形態によれば、給電用ローラのシェル表面とめっき被膜の材質を同一とすることで、異常突起粒状物や凹み状欠陥の少ない電解めっき被膜付きフィルムの製造を行うことができる。
以下、本発明の最良の実施形態の例を図面を参照しながら詳細に説明する。本発明の給電用ローラをフレキシブル回路基板用の銅付きフィルムの製造におけるめっき用陰極ローラとして用いた銅めっき被膜付きフィルムの製造装置を使った銅めっき被膜付きフィルムの製造を例にとって説明する。以下の説明において、「陰極ローラ」とは、フィルム電解めっきにおいて、陰極の役割を成す給電用ローラをいう。
図2に本実施形態を銅めっき被膜付きフィルムの製造装置の一例の概略横断面図を示す。この装置は、長尺フィルムをロール状態から巻き出し、めっきし、巻き取る連続式の電気めっき装置である。主たる工程は、片面にスパッタリング等によりごく薄い銅被膜をあらかじめ形成したフィルム導電面18aをポリイミド製のベースフィルム18bの片面に形成した電解めっき前の導電面を有するフィルム18のロール状体である電解めっき前フィルムのロール状体201を巻き出す巻出し部220、導電面を有するフィルム18のフィルム導電面18aに酸洗、脱脂、水洗等の処理を施す前処理部221、電気めっき部222、めっき液を除去したり、洗い流したり、防錆処理、さらにこれを洗い流す処理、さらに、乾燥などを行う後処理部223、加工を終えたフィルムをロール状体に巻き取る巻き取り部224からなっており、巻出し部220にて電解めっき前フィルムのロール状体201を巻き出し、電気めっき部222において導電面を有するフィルム18のフィルム導電面18a上に銅めっき被膜を形成する加工を行い、巻き取り部224にて加工を終えたフィルムを巻き取ってめっき被膜付きフィルムのロール状体215を製造するものである。尚、電気めっき被処理部である導電面が清浄な場合は、前処理を省略しても構わないし、また、必要に応じて後処理工程を省略しても構わない。
図2において、電解めっき前フィルムのロール状体201から巻き出された電解めっき前の導電面を有するフィルム18は、ターンローラ203によってフィルム幅方向が重力方向と略平行になるように搬送され、速度調整ローラ部204を通して、アキュムレータ205を通り、フィルム導電面18aを清浄にするための酸洗及び脱脂処理を行う酸洗脱脂処理部206、水洗部207を経て、搬送ローラ14a,14bと陰極ローラ10a、およびめっき槽20aからなる電気めっき部222に入る。
図3は、図2の電気めっき部の一部拡大図である。陰極ローラ10aにフィルム導電面18aを接触させた後、硫酸による酸洗部19aを通り、めっき槽20aを通った後、もう一度硫酸による酸洗部19bを通り、次の陰極ローラ10bに接触させる。銅ボール21aを充填したケースを陽極17a、陰極ローラ10aを陰極として、整流器13aにより給電し、フィルム導電面18aにめっき被膜を形成する。以下、この繰り返しで、各陰極ローラを陰極とし、各ケースを陽極として、めっき被膜を形成する。
図3の一点鎖線内のユニットを1ユニットとして、この繰り返しとなるが、1ユニットで形成されるめっき膜厚を厚くしたい場合などは投入電流を大きくしめっき槽のフィルム搬送方向の長さを伸ばすため、図4に示すようにめっき槽20bの前後に陰極ローラ10c,10dを配したもの(一点鎖線内)を1ユニットとしてもよいし、両面めっきの場合は両面に導電面を形成したフィルムの両面に陰極ローラを配し、給電することでこれを成すことが出来る。電流条件は導電面を有するフィルム18に対して、0.2〜10A/dm2の電流密度となるようにして、フィルムにめっき被膜を形成する。その後、この繰り返しで、めっき被膜を順次形成させ、トータルでフィルムの導電面に1〜30μmの厚みのめっき被膜を形成する。
尚、めっき槽内のめっき液16a,16bは、導電面を有するフィルム18が通過する液シールローラ部15a,15bから流出するため、ポンプ22a,22bによって流出しためっき液16a,16bをめっき槽20a,20b内に戻している。また、フィルム表面と陰極ローラ10a,10b,10c,10dおよび搬送ローラ14a,14b,14c,14d,14e,14f,14g,14hの表面が乾燥するとめっき面の傷や非導電面の汚れの原因となるため、図示しないが陰極ローラ10a,10b,10c,10dおよび搬送ローラ14a,14b,14c,14d,14e,14f,14g,14hの上に設置された硫酸吹き付け装置によって常に濡れた状態を保っている。ユニットが複数ある場合は各ユニットについてこれらの工程が行われる。
図2に戻る。導電面を有するフィルム18は、電気めっき部222を通過することでフィルム導電面18aに銅めっき被膜が形成され、めっき液を除去するための水洗部208a、めっき膜を保護する防錆処理液の入った防錆処理部209、過剰な防錆処理液を除去する水洗部208bを経て、水分を除去する乾燥炉をもつ乾燥工程部210を通り、張力検出部211で張力を検出され、速度制御ローラ部212を経て巻き取り部224で巻き取られてめっき被膜付きフィルムのロール状体215となる。こうして所望のめっき被膜付きフィルムのロール状体215が得られるのである。
上記のように導電面を有するフィルム18をフィルム幅方向が重力方向と略平行になるように搬送すると、余分なめっき液などが常に流れ落ちる状態となるが、前記硫酸吹き付け装置によって液量を管理することにより導電面を有するフィルム18と陰極ローラ10a,10b,10c,10dおよび搬送ローラ14a,14b,14c,14d,14e,14f,14g,14hの表面の濡れ状態を最適に制御することができ、蛇行やスリップのない安定した搬送を維持できる。
さて、上記のような銅めっき被膜付きフィルムの製造装置において陰極ローラは、導電面を有するフィルム18等に随伴して持ち込まれる酸性のめっき液および導電率を調整しローラ表面やフィルム導電面を濡らすための硫酸によって腐食されるため、安定した生産を維持するには定期的な交換を要する。本実施形態においては、図1に示す構造の給電用ローラを陰極ローラとして使用することにより交換部品を最小限且つ低価格にすることが出来、さらには、回転軸とローラ胴部との結合部の腐食を原因とする傷やめっき斑の発生を抑えることが出来た。以下に本実施形態の給電用ローラ10の構造を詳細に説明する。
給電用ローラ10は、ローラの回転中心となる回転軸101、フィルム導電面に接触し搬送、給電するシェル103、回転軸101とシェル103を結合し、機械的に支持するとともに、給電時の通電経路となるボス102a,102b、および、めっき液や硫酸の給電用ローラ10内部への浸入を防ぐフランジカバー104a,104bを主要な構成要素としている。
回転軸101はラジアル軸受け11a,11bによって回転可能に支持され、片端または両端にスリップリングやロータリーコネクタ等の回転体に回転可能な導電部材12を設けられ、整流器13から通電される。回転可能な導電部材12は水銀を使用している場合が多く、通常、使用可能温度は約60℃以下であり熱に弱い性質を持っているため、発熱防止の観点から少なくとも軸の主通電経路には抵抗率8×10−8Ωm以下の金属を用いることが好ましい。本実施形態例では、安価で機械的強度も得やすくかつ抵抗率の低い銅(2×10−8Ωm)を用いている。適当な機械的強度等をもたせるため、抵抗率が上記の4倍にとどまる程度であれば、亜鉛などの金属を含む銅合金としてもよい。また、回転軸101の材質に銅や銅合金といっためっき液に腐食されやすい金属を用いているので、めっき液にさらされる部分には、ステンレススチールであるSUS316などの耐食性金属からなるスリーブ105a,105bを嵌着してある。
また、本実施形態においては、フィルム幅方向が重力方向と略平行になるように搬送されるので、給電用ローラ10は、めっき装置においては、図1に示すようにラジアル軸受け11a、11bに加え、ローラ重量を支え、回転抵抗を押さえるためのスラスト軸受け25を備えている。
シェル103は規格量産品の管を所定の長さに切断し、少ない加工で製作できる形状のものが好ましいので、単純な円筒体となっている。また、通電による発熱を低減するためには抵抗率8×10−8Ωm以下の金属を用いることが好ましいので、ここでは銅を用いた厚さ8mmの銅製中空パイプとしている。いうまでもなく、めっき被膜を構成する主成分が別の金属(たとえば、アルミニウム)である場合には、それとできるだけ近い組成の導電性物質を用いるのが好ましい。なお、シェル103は、ボス102a,102bとの間の接触抵抗を小さくするとか、ボス102a,102bによる機械的な把持力を高めるために、内周面に溝などが設けられていてもよい。
また、めっき被膜の成分の90質量%以上が、シェル103の表面の素材の90質量%以上を占める導電性物質と同一の導電性物質となるようにめっき条件を設定することが好ましい。これはフィルム導電面とシェル表面およびその間に介在するめっき液によって形成されるめっき回路によって、シェル表面にめっき被膜金属が析出することがあるためで、シェル表面とめっき被膜金属がほぼ同一であれば析出物とシェル表面の結合力が強く容易に剥がれないが、違う金属である場合は結合力が弱く析出物がシェル表面を離れやすくなるため、析出物がフィルム導電面に乗り移り異常突起粒状物を生じたり、乗り移った析出物が後で脱落することにより凹み状欠陥を生じたりし、表面品位を著しく低下させることになる。また、同一金属を用いることによってフィルム導電面とローラ表面との接触抵抗が下がるために電位差が減少し、析出を抑えることが出来る。この点もあり、本実施形態においては、電解めっきにより形成するめっき被膜は銅を99.95%以上含む銅膜なので、シェル103は全体を無垢の銅製の中空パイプとしたのである。
また、シェル103は上記のように着脱可能且つ単純な構成となっているため、雌ネジの加工や溶接といった加工性による材料選択の制約を受けづらく、容易にシェルまたはシェル最表層部分をめっき被膜成分である金属と同一金属で製作することが出来る。
ボス102a,102bは通電に伴う発熱を防止するため抵抗率8×10−8Ωm以下の金属からなることが好ましく、本実施形態例においては、銅を用いている。また、フランジカバー104a,104bは耐食性のある金属が好ましいので、前述のSUS316を用いている。 回転軸101とシェル103はボス102a,102bにより着脱自在に構成されるが、ボス102a,102bの外周部がシェル103の内周部に対して付勢してシェル103との間の導通をとるバネ構造となっているため、それぞれの部材同士の結合における接触面積や接触圧力および接触面の表面状態によっては大きな接触抵抗が発生し、通電時に発熱する恐れがある。よってこれらの部材同士の接触抵抗はできる限り小さい方が好ましい。そのため、接触部分の面積は着脱性を阻害しない程度にできるだけ大きい方が好ましい。また、ボス102a、102bの外周部には、バネ構造をとり、ボス102a,102bの外周部にあたるシェル支持部804がシェル内周部805に対して付勢することにより、シェル103を機械的に把持させ、めっき液などによりボス外径またはシェル内径が腐食した場合でも結合部に隙間が発生しにくくなる。このため、ガタが発生したり、通電が不安定になったりしにくいので好ましい。本実施形態においては、以下に説明するようなバネ構造を用いた結合部を備えている。結合部の詳細を図8に、ボス102aの詳細側面図を図5に示す。
図5に示すように、ボス102aの軸固定部801にはすり割り501が設けられている。このすり割り501は、軸固定部801の半径方向に割れ、軸方向に伸びているものである。
また、図8に示すように、ボス102aの軸固定部外周のテーパ部802とフランジカバー104aに設けられたフランジ側テーパ部803を合わせ、ボルト107a,107bによって押し込むとボス102aと回転軸101は固定される。
図1に示すように、ボス102a,102bとフランジカバー104a,104bは重力方向上下において同一の構造ではなく、重力方向上側に配されたフランジカバー104aは図8に示すように、ボルト107a,107bを留めるための穴からめっき液が浸入しないように重力方向下側からボルト107a,107bを締め付け、フランジカバー104aの外側に穴やボルト107a、107bがフランジカバーの軸方向の端部側の端面109に露出しない構造となっている。組立時にはシェル103を固定する前に回転軸101とボス102aの固定を行うためボルト用の穴がシェルの内側にあっても問題ない。これに対し重力方向下側にあるフランジカバー104bにある穴からはめっき液の浸入のおそれが小さいため、ボルト107c、107dを締め付けるための穴はフランジカバー104bの外側に露出していてもよい。回転軸101とボス102a,102bの位置関係は任意であるが、ボス102a,102bの位置を規制するために回転軸101に段などを設けてもよい。図5に示すように、ボス102aの外周部にあたるシェル支持部804はスリーブとなっており、ここに同様にすり割り502が設けられている。これにより、すり割り502で区分されたスリーブの各部がバネ部材としてシェル103と合わせて組み立てられたときにシェル支持部804の外周面がシェル103の内周面に対して半径方向外向きに付勢されるように作用する。図8に示すように、これをシェル内周部805に押し込むとシェル103を把持する。シェル103の把持力はボス102aのシェル支持部の外径および肉厚、シェル内径、すり割りの数や幅によって適宜調整するが、手作業で容易にシェル103を取り外せ、且つ、シェル103と回転軸101の接触抵抗が過大とならないように調整するのが好ましい。なお、シェル103の内周面に溝などが設けられている場合は、この溝の形に合わせてバネ部材となる部分の外周面の形状を合わせた方がよいが、接触面積を十分とれるときは、ボス外周部全体が形状が合わせられていなくてもよい。
このようにすることで着脱性を保ち、かつ接触抵抗を小さく抑えることができるが、発熱を許容値以下に抑えるためには回転軸101、シェル103、およびボス102a,102bを給電用ローラ10として組み立てたときの全体としての抵抗値が低いことが好ましい。給電用ローラ10において、回転軸101にスリップリングやロータリーコネクタなどの回転可能な導電部材12を取り付ける給電端とシェル表面との間の電気抵抗値(以下給電用ローラ電気抵抗という)は0.37mΩ以下であることが好ましく、より好ましくは0.09mΩ以下である。この抵抗値は接触抵抗および部材の体積抵抗を含有し、かつ実際の通電経路を考慮した場合の値であり、0.37mΩ以下であれば厚さ10μm以下の銅めっきを施す場合の実用的な使用条件である最大電流値180Aにおいて給電用ローラの最高温度が一般的な回転体に回転可能な導電部材12の許容温度である60℃を超えることがなく好適であり、0.09mΩ以下であれば厚さ10μmを超える銅めっきを施す場合の実用的な使用条件である最大電流値400Aにおいても給電用ローラは60℃を超えることがなく好適である。
この給電用ローラ電気抵抗を小さくするには、接触抵抗を小さくするだけでなく回転軸101の給電端からシェル103までの通電経路を構成する部材そのものが持つ体積抵抗も小さくしておくのが好ましく、少なくとも一つの通電経路を構成する部材には抵抗率8×10−8Ωm以下の金属を使用することが好ましい。本実施形態においては、上述の通り、回転軸101やボス102a,102bに銅を用いた。なお、フランジカバー内周および外周には溝108a,108b,108c,108dが設けられており、ここに耐食性のEPDMゴム製のOリング106a,106b,106c,106dを設けてあり、めっき液のローラ内部への浸入を低減できるシール機構を備えている。このように構成することにより、めっき液によるシェル内周部805、ボス102a,102bおよび回転軸101の表面の腐食を抑制することができる。また、給電用ローラ10の内部へのめっき液の浸入を防ぐことにより、めっき成分(フィルム導電面上に電解めっきによって形成する導電性物質)と同じ導電性物質で構成された回転軸101とボス102a,102bの境界部やシェル103とボス102a,102bの外周部の境界部において、めっき成分である銅などの析出が発生し、着脱が困難になるおそれを著しく低減でき、シェル103を長期間使用できるというメリットもある。
各部の固定やめっき液の浸入の抑制は上記のような構造によって達成可能であるが、ボス102a,102bとシェル103が脱着自在であればこれに限定されず、例えばめっき液の浸入防止にオイルシールなどを用いてもよい。
なお、ローラ内部へのめっき液の浸入を低減するために、耐食性のOリングを有するシール機構を備えていた場合であっても、長期間にわたって使用する間に、シール部分が徐々に腐食されることが考えられる。このような場合には、ローラ内部へめっき液などが若干浸入し、ローラ内部の回転軸101やボス102a,102bが徐々に腐食されて回転軸101、ボス102a,102bの外径が小さくなったりボス102a,102bの内径が大きくなったりして組立て性や通電機能が損なわれ、交換を余儀なくされることが考えられる。そこで、回転軸101および/またはボス102a,102bの材料としてロジウム、ニオブ、タンタル、金、イリジウム、白金、チタン、パラジウム、ルテニウム、銀のいずれか一種以上の金属を95質量%以上含む合金などの低抵抗でなおかつ耐食性を有する材料を用いることも好ましい。こうすることによって、たとえローラ内部へめっき液などが若干浸入したとしても、回転軸101やボス102a,102bは腐食されにくく、組立て性や通電機能が損なわれる確率は格段に減少する。また、回転軸101、ボス102a,102bの表面を、例えばめっき、蒸着、溶射等の手段によって、例えばロジウム、ニオブ、タンタル、金、イリジウム、白金、チタン、パラジウム、ルテニウム、銀などのような低抵抗でなおかつ耐食性を有する金属により被覆することも好ましい。
上記給電用ローラ10からフィルム導電面に給電する際は回転軸101の端部に設けたスリップリングやロータリーコネクタ等の回転可能な導電部材12を経由して給電するよう構成されている。これは、フィルム導電面への給電位置に近い場所からブラシなどによって給電すると、電流分布の斑が発生するほか、接触抵抗による発熱が給電面におよび、めっき液によるシェルの腐食を助長させてしまうからである。
このような給電用ローラを陰極ローラとしてめっき被膜付きフィルムの製造装置に用いてめっき被膜付きフィルムを生産することにより、陰極ローラの交換コストを抑え、低コストで安定した生産を維持でき、異常突起粒状物、凹み状欠陥の少ないめっき被膜付きフィルムの製造を行うことができる。
以上の給電用ローラを陰極ローラとして用いた銅めっき被膜付きフィルムの製造装置を用いてフレキシブル回路基板用銅めっき被膜付きフィルムの製造を行ったので、その一例を以下に示す。なお、以下に、銅めっき被膜付きフィルムの製造にあたって用いた各特性値の測定方法を示す。
(1)プラスチックフィルムの表面張力
JIS K6766−1977(ポリエチレン及びポリプロピレンの濡れ試験方法)に準じ、表面張力56×10−3N/m(56dyne/cm)以下はホルムアミド/エチレングリコールモノエチルエーテル混合溶液を、標準液として表面張力を求めた。また、表面張力57×10−3〜73×10−3N/m(57〜73dyne/cm)の範囲は、水(72.8×10−3N/m)/エチレングリコール(47.7×10−3N/m)の混合液を標準液として、表面張力を求めた。
(2)接触角
協和界面科学(株)製品FACE接触角計を用い、液滴法によって求めた。
(3)フィルム導電面の導電膜の膜厚
触針式表面粗さ計を用いて、評価した。尚、試料は導電膜未形成のフィルムに溶剤で除去可能なインクを一部分に塗布しておいて導電膜を形成し、ついで成膜後にインク塗布部分を除去して測定した。
(4)めっき膜の膜厚
めっき被膜の一部分をエッチング液により除去し、(株)キーエンス製のレーザ顕微鏡を用いて、その段差を測定して求めた。
[実施例1]
(1)導電面付きフィルムの製作
減圧装置の中で、ロール状に巻き取った銅被膜未形成のフィルムを巻き出しながら導電膜製膜処理し、その後フィルムを巻き取りロール状にする装置で、プラズマ処理、ニッケル−クロム層成膜、銅層成膜を行った。
厚さ25μm、幅520mm、長さ12500mのポリイミドフィルム”カプトン”1(米国デュポン社の登録商標)のロール状体を用意した。上記フィルムの片面に、2m/分の速度でアルゴンガスのグロー放電プラズマ処理を実施した。処理は高電圧を印加した棒状の電極に対して2cmの距離でフィルムを搬送し、かつ接地電極となっている電極対をもつ内部電極方式のプラズマ装置を使用した。アルゴンガス圧力は2.5Pa、1次出力電圧2kV、高周波電源周波数110kHzの条件でフィルムを2m/分の速度で処理し、グロー放電プラズマ層を形成した。なお、処理されたフィルムの表面張力は、70×10−3N/m(70dyne/cm)以上で、接触角は43度であった。
次いで、アルゴンガス圧2.6×10−2Paにて、クロム20質量%、ニッケル80質量%のターゲットを用いて30nmのニッケルクロム層をDCマグネトロンスパッタ法を適用して形成した。その後、純度99.99%の銅をターゲットとして用い、100nmの銅層をDCマグネトロンスパッタ法を適用して形成した。
上記フィルムは、スパッタ膜形成のための条件出しやリード部分を除いて、12000mの導電膜つきフィルムとして製造した。
(2)めっき被膜の形成
上記(1)で得られた導電膜つきフィルムのロール状体12000mを、3000mのロール状体に4分割して、4本の520mm×3000mの電解めっき前フィルムのロール状体となし、そのうち2本を次に示す銅めっき被膜付きフィルムの製造装置に通してめっき被膜を形成した。
銅めっき被膜付きフィルムの製造装置として、図2に示すに示す装置を用いて、陽極に純度99.99%の銅を用いて、上記電解めっき前フィルムのロール状体のスパッタ膜面側に銅のめっき被膜を8μmの厚さに形成した。図3の一点鎖線内のユニットを第1、第2ユニット、図4一点鎖線内のユニットを第3〜第10ユニットとしてめっき回路およびめっき装置を構成した。したがって、めっき成分は純度99.99%の銅である。
陰極ローラは、図1に示す構造とし、シェル103にJIS H3300(1997年版)(銅および銅合金継目無管)のC1220T配管用銅管呼び径80―Lタイプを570mmの長さに切断し、外径仕上げ(円筒度0.05mm以内)、および支持部の内径仕上げ(外径との同心度0.05mm以内)を行ったものを使用した。ここでいう円筒度と同心度はJIS B0021−1998(製品の幾何特性仕様(GPS)−幾何公差表示方式−形状,姿勢,位置及び振れの公差表示方式)で定義された円筒度と同心度をいう。また、回転軸101は黄銅(C2600)にSUS316製のスリーブ(105a,105b)を嵌着したものを使用し、フランジカバー104a,104bはSUS316で製作した。また、Oリング106a,106b,106c,106dはめっき液に対し耐食性のあるEPDM製のものを使用し、端部の回転可能な導電部材12には米国メルコタック社製“ロータリーコネクタ MODEL1250−CS”を使用した。銅の抵抗率は2×10−8Ωm、黄銅の抵抗率は6×10−8Ωmであり、この陰極ローラの図7の方法で測定した電気抵抗は0.04mΩであった。なお、非鉄金属材料の体積抵抗率及び導電率測定方法は、JIS H0505(1975年版)に記載されている通りである。
電解めっき前フィルムの前処理条件、めっき条件は、表1に示すとおりであった。なお、銅めっきは、ユニットが進むにつれて徐々に電流密度が上昇するように設定し、第1から第10ユニットに進むに連れて整流器の電流設定条件は20A〜450Aまで徐々に上昇させていった。
フィルム搬送張力はめっき槽入り口側で全幅あたり45N、めっき槽出口側で全幅あたり180Nになるよう設定し、搬送速度は1m/分とした。
このようにして導電面付きフィルムに銅めっきを施し、目視検査で、めっき銅表面を観察し、銅めっき膜の膜厚を測定したところ、表2に示すとおりめっき表面の傷や異常な突起、凹みが少なく表面品位に優れ、めっき斑の少ない銅めっき被膜付きフィルムを得ることができ、フレキシブル回路基板用途として100%の収率を達成できた。各項目の評価判定基準を表3に示す。傷、異常突起、凹み、めっき斑は520mm×100mmの範囲について評価した。
また、本実施例における電解めっき被膜付きフィルムの製造装置においては、陰極ローラとして20本の給電用ローラを用いたが、その交換費用であるシェル103の製作費用は比較例2に示す従来の陰極ローラの構成(回転軸:C2600,ローラ胴部:C1220)を用いた場合の交換費用であるローラ胴部608の製作費用に比べ、75%削減することが出来た。本実施例および比較例2においては3カ月に1回の陰極ローラの交換が必要であったため、年間の陰極ローラ交換コスト削減効果は非常に大きなものとなった。
一方、陰極ローラの経時的な腐食状況を把握するため、3ヶ月間銅めっき被膜付きフィルムの生産に使用した後の各ローラ構成部材の外観と寸法を確認したところ、ローラ内部へのめっき液の浸入跡が確認された。また、めっき液の浸入の影響によりボス102a,102bとも腐食し、外径が0.2mm、内径が0.1mm減肉していることを確認した。さらに回転軸101の黄銅部にも腐食が認められた。このためシェル103とボス1021,102bとのはめあいが甘く、また回転軸101とボス102a,102bの取り付け部も若干甘くなっており、組立て性がやや低下していた。
[実施例2]
陰極ローラの経時的な腐食状況を把握するため、実施例1の陰極ローラを用いて1週間銅めっき被膜付きフィルムの生産に使用した後、実施例1と同じ装置および同じ条件で銅めっき被膜付きフィルムを生産した。
生産した銅めっき被膜付きフィルムの表面を観察し、銅めっき膜の膜厚を測定したところ、実施例1と同じく、めっき表面の傷や異常な突起、凹みが少なく表面品位に優れ、めっき斑の少ない銅めっき被膜付きフィルムを得ることができ、フレキシブル回路基板用途として100%の収率を達成できた。
[比較例1]
陰極ローラとして図6に示す従来の給電用ローラを用いたことを除いて実施例1と同じ装置および同じ条件で銅めっき被膜付きフィルムを生産した。ローラ胴部608、軸601共に前述のSUS316を用いて製作し、止めねじ609は同じくステンレススチールであるSUS304製のものを用いた。SUS316の抵抗率は7.4×10―7Ωmであり、このときの陰極ローラ電気抵抗は1.86mΩであった。
各実施例、比較例において、生産した銅めっき被膜付きフィルムのめっき銅表面を観察し、銅めっき膜の膜厚を測定した結果を表2に示す。めっき表面に異常突起や凹みが多数見受けられ、フレキシブル回路基板に適用できる銅付きフィルムは全体の8%であった。また軸の温度が80℃以上にまで上昇し、ロータリーコネクター12が過熱し、破損した。
[比較例2]
ローラ胴部608に銅(C1220)、回転軸608に黄銅(C2600)を用いた以外は、比較例1と同じ条件で銅めっき被膜付きフィルムを生産した。
生産した銅めっき被膜付きフィルムのめっき銅表面を観察し、銅めっき膜の膜厚を測定した結果を表2に示す。めっき表面に異常突起や凹みは多少見受けられたが、フレキシブル回路基板に適用できる銅付きフィルムは全体の80%であった。
[比較例3]
陰極ローラの経時的な腐食状況を把握するため、比較例2の陰極ローラを用いて1週間銅めっき被膜付きフィルムの生産に使用した後、実施例1と同じ装置および同じ条件で銅めっき被膜付きフィルムを生産した。
生産した銅めっき被膜付きフィルムの表面を観察し、銅めっき膜の膜厚を測定したところ、傷や異常突起、凹みが発生しており、めっき斑も多くフレキシブル回路基板用途として使用できる銅めっき被膜付きフィルムを得ることは出来なかった。また、腐食によりローラ胴部608と回転軸601の間に隙間が空いており、ガタが発生していた。
このように本発明の給電ローラを陰極ローラとして用いることにより、安価な陰極ローラ交換コストで安定した生産を維持し、且つ、めっき斑が少なく表面品位の良好な銅めっき被膜付きフィルムを製造することが出来た。
[実施例3]
回転軸101、ボス102a,102bにチタン(95質量%以上)を使用し、その他は実施例1で用いたものと同一の構成とする場合は、抵抗値を大幅に上昇させることなく腐食が防止できるため、たとえローラ内部へ液が浸入したとしても腐食による組立て性の低下を防止することができ、およそ2年間ほどは、組立て性が低下することなく安定したフィルムの生産ができるものと考えられる。
本発明は、銅めっき被膜付きフィルムの製造に限らず、その他金属等の電解めっき装置、樹脂フィルム以外の基材を用いた電解めっき装置などにも応用することができるが、その応用範囲がこれらに限られるものではない。
本発明の一実施形態に係る給電用ローラの一実施態様を示す概略縦断面図である。
本発明の一実施形態に係る給電用ローラを用いためっき装置の一例の全体を示す概略横断面図である。
図2の一部を拡大した図で、めっき浴のユニットと給電方法の一例を示す概略図である。
図2の一部を拡大した図で、めっき浴のユニットと給電方法の別の一例を示す概略図である。
本発明の一実施態様に係る給電用ローラを構成するボスの、シェルの回転軸の方向から見た概略側面図である。
従来のめっき用陰極ローラの一例を示す概略縦断面図である。
給電用ローラ電気抵抗を測定する方法を示す概略図である。
本発明の一実施形態に係る給電用ローラの一実施態様における回転軸、ボスおよびシェルの結合部の詳細断面図である。
符号の説明
10:給電用ローラ
10a,10b,10c,10d:陰極ローラ
11a,11b:ラジアル軸受け
12:回転可能な導電部材
13:整流器
13a,13b,13c:整流器
14a,14b,14c,14d,14e,14f,14g,14h,14i,14j:搬送ローラ
15a,15b:液シールローラ部
16a,16b,16c:めっき液
17a,17b,17c,17d:陽極
18:導電面を有するフィルム
18a:フィルム導電面
18b:ベースフィルム
19a,19b,19c,19d:酸洗部
20a,20b,20c:めっき槽
21a,21b:銅ボール
22a,22b:ポンプ
25:スラスト軸受け
101:回転軸
102a,102b:ボス
103:シェル
104a,104b:フランジカバー
105a,105b:スリーブ
106a,106b,106c,106d:Oリング
107a,107b,107c,107d:ボルト
108a,108b,108c,108d:溝
109:フランジカバーの軸方向の端部側の端面
110:導電性物質で構成された回転軸の一端部の側面部
201:電解めっき前フィルムのロール状体
202:搬送ローラ
203:ターンローラ
204:速度調整ローラ部
205:アキュムレータ
206:酸洗脱脂処理部
207:水洗部
208a,208b:水洗部
209:防錆処理部
210:乾燥工程部
211:張力検出部
212:速度制御ローラ部
213:ターンローラ
214:搬送ローラ
215:めっき被膜付きフィルムのロール状体
220:巻出し部
221:前処理部
222:電気めっき部
223:後処理部
224:巻き取り部
501:すり割り
502:すり割り
601:回転軸
608:ローラ胴部
609:止めねじ
610:溶接部
701:銅板
702:定電流電源
703:電圧計
801:軸固定部
802:軸固定部外周のテーパ部
803:フランジ側テーパ部
804:シェル支持部
805:シェル内周部