JP4858932B2 - 変異p53ライブラリー - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、可能な全ての一塩基変異を含有している網羅的変異p53 ライブラリーに関する。さらに、該網羅的変異p53 ライブラリーを使用して得られる核酸アレイ及びそれを用いた遺伝子解析技術、さらにはプロテオミックス技術に関する。本発明は、新規な一塩基変異を有する変異p53 、その遺伝子、該遺伝子を保有する形質転換された宿主細胞などにも関する。
【0002】
【従来の技術】
近年、特定のタンパク質をコードするDNA 塩基配列に対し、種々の欠損、挿入、あるいは置換を行い、当該タンパク質のアミノ酸配列を変えることによって、DNA やタンパク質の構造解析や機能解析を行うことが盛んになっている。更にこれらの研究により、タンパク質の機能改変を行って産業的に有用なタンパク質を生産する試みも多くなされつつある。
これまでの効率的に変異を形成する方法としては、特定のDNA 断片を化学的に処理して変異を導入する方法や、エラーを生じやすい条件でのPCRにより、ランダムに変異を導入する方法があるが、それらは(1)変異の導入効率が悪い、(2) 1つのDNA クローンに複数の変異が導入され易すい、(3) サイレント変異、フレームシフト変異またはナンセンス変異などの生物学的に有用性の低い変異が数多く得られる、(4)DNAの一次構造により変異の入りやすい部位と入りにくい部位があるなどの欠点があり、実際には網羅的に変異体を得ることは不可能であり、網羅的変異ライブラリーを構築するのに成功したとの報告はない。
【0003】
また、特定のcDNAだけを人為的に作成する技術としては、部位特異的変異導入法があるが、これまでDNA 塩基配列に種々の欠損、挿入、置換を行う場合には、合成オリゴヌクレオチドを用いた点突然変異導入法が多く用いられている。しかし、これまでの多くの方法は、変異を導入しようとする塩基配列のオリゴヌクレオチドを化学的に合成し、一本鎖DNA の相補的な部分に結合させた後に、DNA 鎖の合成と環状化を行って環状二本鎖変異cDNA を得る方法である。したがって、どの方法も一つの変異体を得るための変異導入効率の改良に視点が置かれ、変異導入数に関する効率性や、導入された変異がコードするタンパク質の機能解析を効率化することは考慮されていない。このため、DNA断片に網羅的に変異を導入するには不向きである。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
従来、変異cDNAによってコードされるタンパク質機能を解析するためには、哺乳動物細胞を用いる方法が一般的だが、細胞培養、遺伝子導入、機能アッセイ系に時間とコストがかかり、また手技も煩雑である。このため解析できる変異体数には限界がある。一方、酵母を用いて異種(例えばヒト)のcDNAの機能解析が可能になってきている。例えば、p53 を含むヒトがん抑制遺伝子の機能解析に酵母を用いることにより、比較的多くの変異体を解析することが可能となった。しかしながら、網羅的な変異ライブラリーを効率よく解析するためには未だ不十分であるのでその改良が必要である。
【0005】
がん抑制遺伝子やDNA修復遺伝子などの腫瘍関連遺伝子にミスセンス変異が見つかった場合、ときに、それが病的意義を有するか否かを評価するアッセイ方法が必要になる。ミスセンス変異の大部分は点変異(1塩基置換)であることから、遺伝子変異(特にミスセンス変異)を網羅的に評価する方法として、1塩基置換によって生じうるすべての1アミノ酸置換型変異(ミスセンス変異)を目的の遺伝子翻訳領域に構築し、それらを発現系により既知の遺伝子産物機能について評価する方法が考えられる。
そのような網羅的変異解析の結果をデータベース化することにより、検出された変異が既知のものであるか新しく報告されたものであるかを問わず、1アミノ酸置換型ミスセンス変異が機能に及ぼす影響について、データベースにアクセスすることにより確認することが可能になる。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明はこれらの諸問題を解決し、人為的に網羅的点変異ライブラリーを作成し、変異cDNAによってコードされるタンパク質の機能解析を効率的に行う方法の開発を目的とするものである。特に、これまで報告された変異の80%以上がミスセンス変異であるp53遺伝子について1塩基置換によって生じうるすべての1アミノ酸置換型変異(2314種類)の構築することは有用である。
本発明は、網羅的な点変異ライブラリー作製を、PCR-メガプライマー(PCR-megaprimer)法と増幅された産物をギャップリペアベクターを使用してDNA ライブラリー構築を行うことを特徴としているものである。
本発明の一つの態様では、p53発現ベクター上への部位特異的変異導入は、2314種類の特異的ミスマッチオリゴヌクレオチドを合成した後、PCR-megaprimer法で各変異を有するp53翻訳領域全長を合成することにより行った。目的の変異が正しく導入され、かつ、他の変異がないことを確認するためにp53 cDNAの翻訳領域全長をシークエンスした。オリゴヌクレオチドの合成からDNAシークエンシングに至るまでの全過程は原則として96ウェルマイクロプレート上で行った。
作成された各p53変異体の塩基配列特異的DNA結合(WAF1プロモーターを使用)による転写活性化能を、出芽酵母を用いたGFPリポーターアッセイで評価した。
【0007】
本発明で作製された網羅的変異p53 ライブラリー中の変異p53 塩基配列は、野生型p53 の第2コドンから最終コドン(第393 コドン)のそれぞれにおいて、1塩基置換に基づいて生じうる1アミノ酸変異を指定している変異p53 塩基配列であり、該1塩基置換が、野生型p53 の第2番目から第393 番目までのアミノ酸の中に一つのアミノ酸変異を生ぜしめるものである。そして、該網羅的変異p53 ライブラリーは、野生型p53 の第2コドンから最終コドンのまでの全ての種類の該1塩基置換を有する変異p53 塩基配列からなるという網羅的な特徴を有する集合体である。代表的には、2314種類の変異p53 塩基配列、すなわち、点変異を有するp53 cDNA塩基配列を含むものであり、点変異は、1塩基置換によってp53の第2コドンから最終コドン(第393 コドン)に生じうる全て(2314種類)の1アミノ酸置換を作成できるように、野生型塩基配列に導入されたものである(網羅的変異の導入)。従って、2314種類の変異p53は、塩基配列、アミノ酸配列ともに野生型p53と1塩基、1アミノ酸だけ異なる。また、2314種類の変異p53の塩基配列、アミノ酸配列は、互いに異なる。なお、第1コドンは翻訳開始コドンであり、変異導入により発現が不可能になり、生物学的意義が少ない。
【0008】
本発明の変異ライブラリー作製法は、ランダム変異導入法ではなく、部位特異的変異導入法を利用し、意図した変異を任意に作成可能であり、変異導入にPCR法を用いることにより、効率良く多くの変異cDNA断片を作成することが可能である。本発明の変異ライブラリー作製法では、変異導入のための合成オリゴヌクレオチドは、同一のPCR反応条件で複数の変異導入断片を作成することができるように設計されている(例えば、26merで、5'側から14番目の塩基に点変異が導入されている)。そして、変異導入のための合成オリゴヌクレオチドは、1回のPCR反応で多数(96種類)の変異導入断片を作成することができるように、96ウェル規格のプレート内に作成されて、意図した変異ライブラリー作製に付されることが可能である。本発明の変異ライブラリー作製法では、1回目のPCR反応で得られた変異断片を酵母内にクローン化するために可能なDNA断片にするために、メガプライマーPCR法(Sarkar, G. & Sommer, S.S., The "megaprimer" method of site-directed mutagenesis., Biotechniques, 8: 404-407, 1990)を用いている。本発明では、ギャップリペアベクターに変異cDNA断片を組込むことにより、効率的に組換えの確認並びに保証が実施でき、大量のライブラリー集合体を正確に作製できる。
【0009】
本発明のその他の目的、特徴、優秀性及びその有する観点は、以下の記載より当業者にとっては明白であろう。しかしながら、以下の記載及び具体的な実施例等の記載を含めた本件明細書の記載は本発明の好ましい態様を示すものであり、説明のためにのみ示されているものであることを理解されたい。本明細書に開示した本発明の意図及び範囲内で、種々の変化及び/又は改変(あるいは修飾)をなすことは、以下の記載及び本明細書のその他の部分からの知識により、当業者には容易に明らかであろう。本明細書で引用されている全ての特許文献及び参考文献は、説明の目的で引用されているもので、それらは本明細書の一部としてその内容はここに含めて解釈されるべきものである。
【0010】
【発明の実施の形態】
これまで、網羅的に変異を導入する方法は存在せず、さらにp53 遺伝子に網羅的に変異を導入して、網羅的変異p53 遺伝子ライブラリーを作成することに成功したとの報告はない。多くの変異体を人為的に得る方法としてランダム変異導入法があるが、それで網羅的変異体を作製することは不可能である。また、部位特異的変異導入法は数多く報告されているが、これまでの方法は多数の変異体作成には向かない。また、網羅的に変異を導入した実例はない。p53 遺伝子に関連して酵母を用いたヒトcDNAの機能解析の報告はあるが、網羅的な変異導入と組み合わせて実施された例はない。
ミスセンス変異の大部分は点変異(1塩基置換)であること及び遺伝子変異(特にミスセンス変異)を網羅的に評価するために、網羅的変異p53 遺伝子ライブラリーは、次のような構築基準に従いその変異p53 遺伝子ライブラリーを作成する:
1塩基置換によって生じうるすべての1アミノ酸置換型変異(ミスセンス変異)を目的の遺伝子翻訳領域に構築するようにする。
すなわち、塩基置換によって生ずる1アミノ酸置換を重複なく、網羅するライブラリーとする。
より具体的には、本発明の網羅的1塩基変異p53 遺伝子ライブラリーは、次のような構築基準によりそれを作成する:
(1) 野生型〔配列番号:2357〕と異なるアミノ酸をコードする1塩基変異である;
(2) 当該1アミノ酸置換に関して既にその報告がなされている場合(既知の場合)で且つ該アミノ酸をコードするコドンが複数存在する場合には、最も多くの報告がなされているコドンを選択する;及び
(3) 当該1アミノ酸置換に関して新規の場合(その報告が未だ一切なされていない場合)で且つ該アミノ酸をコードするコドンが複数存在する場合には、自然界において最も使用頻度の高いコドンを選択する。
p53 遺伝子〔配列番号:2356〕には、72番目のアミノ酸が ccc/Proの他にcgd/Arg といった遺伝子多型が存在することは知られており、該cgd/Arg 遺伝子多型についても同様に変異ライブラリーを構築して網羅的変異p53 遺伝子ライブラリーを作成することができる。本発明はこうした遺伝子多型p53 遺伝子に関する網羅的変異p53 遺伝子ライブラリーも包含する。
本明細書中、「ポリメラーゼ連鎖反応」又は「PCR 」とは、一般的に、米国特許第 4683195号明細書に記載されたような方法を指し、例えば、所望のヌクレオチド配列をインビトロで酵素的に増幅するための方法を指している。一般に、PCR 法は、鋳型核酸と優先的にハイブリダイズすることのできる2個のオリゴヌクレオチドプライマーを使用して、プライマー伸長合成を行うところのサイクルを繰り返し行うことを含むものである。典型的には、PCR 法で用いられるプライマーは、鋳型内部の増幅されるべきヌクレオチド配列に対して相補的なプライマーを使用することができ、例えば、該増幅されるべきヌクレオチド配列とその両端において相補的であるか、あるいは該増幅されるべきヌクレオチド配列に隣接しているものを好ましく使用され得る。
鋳型核酸(例えば、mRNAを鋳型にして合成されたcDNA) と該遺伝子に基づいてデザインされたプライマーとを、10×反応緩衝液 (Pfu DNA ポリメラーゼに添付されている) 、dNTPs ( デオキシヌクレオシド三リン酸dATP, dGTP, dCTP, dTTPの混合物)、Pfu DNA ポリメラーゼ及び脱イオン蒸留水と混合する。混合物を、例えば、GeneAmp 9700 PCR system, Perkin-Elmer/Cetus などの自動サーマルサイクラーを用いて一般的なPCR サイクル条件下にそのサイクルを繰り返すが、増幅のためのサイクル数は適宜目的に応じて適当な回数とすることができる。アニーリングの反応温度及び時間は適宜実験によって適当な値を選択できるし、変性反応及び伸長反応の時間も、予想されるPCR 産物の鎖長に応じて適当な値を選択できる。アニーリングの反応温度は、通常プライマーと鋳型DNA とのハイブリッドのTm値に応じて変えることが好ましい。
【0011】
網羅的変異p53 ライブラリーの製造は、(1) p53 塩基配列のうちの1塩基の点変異を指定する変異オリゴヌクレオチドプライマーを用意し、該プライマーと共通オリゴヌクレオチドプライマーとを組合わせて使用し且つ野生型p53 塩基配列を有する鋳型核酸を使用してポリメラーゼチェインリアクション(polymerase chain reaction: PCR)を行って、第1回のPCR 産物を製造し、次に(2) 共通オリゴヌクレオチドプライマーとを組合わせて該第1回のPCR 産物をプライマーとして使用し且つ野生型p53 塩基配列を有する鋳型核酸を使用してPCR を行い、該第2回のPCR を、2段階の条件下に行って、第2回のPCR 産物を製造し、(3) 該第2回のPCR 産物をギャップリペアベクターに組込んで、宿主細胞を形質転換し、所望の変異p53 塩基配列を保有する形質転換体を選択する。該変異オリゴヌクレオチドプライマーは、野生型p53 塩基配列からデザインしてほぼその中心部位に1塩基の点変異を指定するように作製される。PCR を行って変異誘発を起こさせるのに使用する変異合成オリゴヌクレオチドとしては、塩基数25〜29のオリゴヌクレオチドが好ましい。オリゴヌクレオチドの作製は、当該分野で知られた方法で行うことができ、例えば自動DNA 合成装置、例えば、model 381A DNA synthesizer, Applied Biosystemsなどを用い、フォスフォジエステル法、フォスフォトリエステル法、フォスフォアミダイト法などにより合成できる。
【0012】
一般に、合成オリゴ上の導入変異塩基部位はPCR時にミスマッチとなるため、導入変異部は合成オリゴヌクレオチドの3'側から可能な限り5'側に離れていた方が、PCRの成功のためには有利である。一方、合成変異オリゴヌクレオチドを使用して合成された1回目のPCR産物はメガプライマーとして2回目のPCRに使用されるが、この場合、合成オリゴの5'側がメガプライマーの3'側になる。このため変異部位はメガプライマーの3'側(すなわち、変異合成オリゴヌクレオチドの5'側)に近すぎない方が、2回目のPCR を成功せしめるために望ましい。
したがって、導入変異塩基部位は変異合成オリゴヌクレオチド配列の中心部位にあるのが望ましい。
第1回目のPCRに用いる共通合成オリゴヌクレオチドは、鋳型と相同な塩基配列を有し、かつ、各変異合成オリゴヌクレオチドと共通合成オリゴヌクレオチドと組み合わせたPCR反応がうまくいくことが必要であり、かつギャップリペアの際に、直線化ギャップリペアベクターの5'または3'端のどちらか一方と100bp以上の相同な配列を提供することが必要である。さらにまた、第2回目のPCRに用いる共通合成オリゴヌクレオチドは、鋳型と相同な塩基配列を有し、かつ、第1回目のPCR産物と組み合わせたPCR反応がうまくいくことが必要であり、かつギャップリペアの際に、直線化ギャップリペアベクターの5'または3'端のどちらか一方と100bp以上の相同な配列を提供することが必要である。
言い換えれば、変異導入されたPCR産物を組込むための直線化したギャップリペアベクターは、第2回目のPCR産物の5'または3'端と少なくとも100bp以上相同であることが必要である。
【0013】
該ギャップリペアベクターは、所定の変異導入されたPCR産物の組込みの成功を確認できるものが好ましい。該ギャップリペアベクターは、所定の変異導入されたPCR産物組込んだ場合、変異導入されたp53 を発現可能であるものであることが好ましい。かくして、変異p53 塩基配列は、該ギャップリペアベクター中で作動可能な状態で連結されていることが望ましい。代表的なギャップリペアベクターとしては、プラスミドpSS16 、プラスミドp53 Nco1及びプラスミドp53 Stu1由来のものが挙げられるがそれには限定されない。
宿主細胞としては、有利にp53 ポリペプチドあるいはその変異体が保持されていることを容易に確認できるものが好ましく、さらには、以下の検出可能なタンパク質をコードする核酸の保持を確認するのが容易なものが好ましい。該宿主細胞は、原核細胞、真核細胞のいずれであってもよく、大腸菌、酵母、動物細胞のいずれであってもよいが、好ましくは酵母を使用できる。変異p53 をコードする核酸は、ゲノム中に安定に取込まれるか、或いは自律複製プラスミド上に維持されてもよい。
【0014】
宿主細胞には、予めレーポータープラスミドを保有せしめてあるものを使用できる。レーポータープラスミドとしては、p53 ポリペプチドあるいはその変異体と特異的に相互作用するDNA 配列を持つものである。代表的には、プラスミド中に該DNA 配列は作動可能な状態で連結されている。該相互作用はp53 ポリペプチドあるいはその変異体が、そのDNA 配列上の結合部位へ直接的に結合する或いは間接的に結合することによって特徴づけられものであり、最も好適にはp53 ポリペプチドあるいはその変異体が、該結合部位のDNA に直接結合する。間接的に結合する場合とは、p53 ポリペプチドあるいはその変異体が、該結合部位に結合する別の実体(一般的には、ある種のタンパク質あるいは核酸)を介して影響を与える様式で働くものを指す。例えばp53 結合部位を持つものが利用可能である。p53 結合部位は、当該分野で知られたものを選択してそれを利用することができる。当該レーポータープラスミドにおいては、検出可能なタンパク質を発現するように作動可能な状態で連結されているように構成されたものが好ましい。本発明で使用される検出可能なタンパク質としては、いかなる所望のタンパク質であってよい。
【0015】
一つの好適な実施態様において、選択されるタンパク質は、標準のアッセイ法、例えば比色アッセイによって、容易に検出されるβガラクトシダーゼ或いはクロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼの様な酵素である。別の好適な実施態様においては、該検出可能なタンパク質は抗生物質に対する耐性を与える酵素であって、検出可能なタンパク質のレベルは、細胞が当該抗生物質の存在下に成育する能力によって測定される。更に別の好適な実施態様において、上記検出可能なタンパク質は、細胞の生存に必要な物質(例えば、アミノ酸、ビタミン、プリン或いはピリミジン)の生成、即ち、生合成に必須であり、検出可能なタンパク質のレベルは上記のトランスフェクトされた細胞が上記物質の非存在下に成育する能力によって測定される。より好適な実施態様においては、該検出可能なタンパク質は、螢光を発する物質であってよい。該螢光を発する物質としては、オワンクラゲ (Aequorea victorea)などの発光クラゲ由来の緑色螢光タンパク質(green fluorescent protein: GFP)、それを改変した変異体(GFPバリアント) 、例えば、EGFP (Enhanced-humanized GFP), rsGFP (red-shift GFP), 黄色螢光タンパク質 (yellow fluorescent protein: YFP), 緑色螢光タンパク質 (green fluorescent protein: GFP),藍色螢光タンパク質 (cyan fluorescent protein: CFP), 青色螢光タンパク質 (blue fluorescent protein: BFP), ウミシイタケ (Renilla reniformis) 由来のGFP などが挙げられる。
【0016】
本明細書で用いられている「作動可能な状態で連結されている」という用語は、p53 ポリペプチドあるいはその変異体に対する結合部位が、該変異体ポリペプチドなどによる当該DNA の転写調節を可能にする様に、上記検出可能なタンパク質をコードするDNA と近接して配置されていることを意味してよい、あるいはp53 ポリペプチドあるいはその変異体が安定的に保持されたり、任意に発現できるこうな形態でプロモーターなどのコントロール配列の下流に配置されていることを意味してよい。該p53 ポリペプチドあるいはその変異体とレーポータープラスミド中の該核酸の結合部位との相互作用は、p53 ポリペプチドあるいはその変異体遺伝子に依存して、上記検出可能なタンパク質をコードするDNA の転写を活性化或いは抑制する様に作用して転写を調節するものであることができる。
塩基配列の決定は、ダイデオキシ法、例えば M13ダイデオキシ法など、Maxam-Gilbert 法などを用いて行うことができるが、市販のシークエンシングキット、例えば Taqダイプライマーサイクルシークエンシングキット、Sequenase v 2.0 kit などを用いたり、自動塩基配列決定装置、例えば蛍光DNA シーケンサー装置などを用いて行うことが出来る。ダイデオキシ法に用いられるポリメラーゼとしては、例えば、DNA ポリメラーゼ Iのクレノー・フラグメント、AMV 逆転写酵素、Taq DNA ポリメラーゼ、T7 DNAポリメラーゼ、修飾 T7 DNA ポリメラーゼなどが挙げられる。
【0017】
本発明にしたがって得られた所定の変異を有する変異p53 塩基配列を有する核酸は、例えば、p-Direct (Clontech), pCR-Script TM SK(+) (Stratagene), pGEM-T (Promega), pAmp(TM: Gibco-BRL)などの市販のプラスミドベクターを用いてそれをクローニングすることもできる。本発明で得られる核酸は、一本鎖DNA 、二本鎖DNA 、RNA 、DNA:RNA ハイブリッドなどを包含してよい。
本発明で得られたDNA 断片を、下記で詳しく説明するような適当なベクター、例えば、プラスミドpEX 、pMAMneo 、pKG5、pET3a (Stratagene) などのベクターに組込み、下記で詳しく説明するような適当な宿主細胞、例えば、大腸菌、酵母、胚性幹細胞(ES細胞) 、CHO 細胞、COS 細胞などで発現させることができる。また、該DNA 断片は、そのままあるいは適当な制御配列を付加したDNA 断片として、または適当なベクターに組込み、そして動物などの細胞に導入することができる。所定の遺伝子を発現するトランスジェニック動物を作成することもできる。動物としては、哺乳動物が挙げられ、例えば、マウス、ラット、ウサギ、モルモット、ウシなどが挙げられる。好ましくは、マウスなどの動物の受精卵に該DNA 断片を導入して、トランスジェニック動物を作成することができる。その方法は当業者に知られた方法、例えば、米国特許明細書第4736866 号、同第4870009 号等に記載された方法に従い行うことができる。
【0018】
外来遺伝子を酵母、哺乳動物などの動物細胞などに導入する方法としては当該分野で知られた方法あるいはそれと実質的に同様な方法で行うことができ、例えばリチウム酢酸法(例えば、H. Ito et al., Agric. Biol. Chem., 47: 1691-1692 (1983); H. Ito et al., Agric. Biol. Chem., 48: 341-347 (1984)など)、リン酸カルシウム法(例えば、F. L. Graham et al., Virology, 52: 456, 1973など)、DEAE- デキストラン法(例えば、D. Warden et al., J. Gen. Virol., 3: 371, 1968など)、エレクトロポレーション法(例えば、E. Neumann et al., EMBO J, 1: 841, 1982 など)、マイクロインジェクション法、リボソーム法、ウイルス感染法、ファージ粒子法などが挙げられる。こうして所定の遺伝子をトランスフェクションされた酵母や動物細胞などの産生する遺伝子産物は、それを解析することもできる。解析には、例えば、モノクローナル抗体などの抗体を用いた免疫沈降実験あるいはウェスタンブロッティングなどを用いることができる。
所定の遺伝子を組込むプラスミドとしては遺伝子工学的に常用される宿主細胞(例えば、大腸菌、枯草菌等の原核細胞宿主、酵母、ES細胞、CHO 細胞、COS 細胞等の真核細胞宿主、Sf21等の昆虫細胞宿主)中で該DNA が発現できるプラスミドであればどのようなプラスミドでもよい。こうした配列内には、例えば選択した宿主細胞で発現するのに好適なコドンに修飾されていることができるし、制限酵素部位が設けられていることもできるし、目的とする遺伝子の発現を容易にするための制御配列、促進配列など、目的とする遺伝子を結合するのに役立つリンカー、アダプターなど、さらには抗生物質耐性などを制御したり、代謝を制御したりし、選別などに有用な配列等を含んでいることができる。
【0019】
好ましくは、適当なプロモーター、例えば大腸菌を宿主とするプラスミドでは、トリプトファンプロモーター(trp) 、ラクトースプロモーター(lac) 、トリプトファン・ラクトースプロモーター(tac) 、リポプロテインプロモーター(lpp) 、λファージ PL プロモーター等を、動物細胞を宿主とするプラスミドでは、SV40レートプロモーター、MMTV LTRプロモーター、RSV LTR プロモーター、CMV プロモーター、SRαプロモーター等を、酵母を宿主とするプラスミドでは、GAL1、GAL10 プロモーター等を使用し得る。さらにCYC1, HIS3, ADH1, PGK, PHO5, GAPDH, ADC1, TRP1, URA3, LEU2, EN0, TP1, AOX1等の制御系を使用することもできる。
所望ポリペプチドをコードするDNA のトランスクリプションを促進するためエンハンサーをベクターに挿入することができ、そうしたエンハンサーとしてはプロモーターに働いてトランスクリプションを促進する作用を持つ、通常おおよそ10〜100 bpの cis作用を持つエレメントのものが挙げられる。多くのエンハンサーが、グロビン、エラスターゼ、アルブミン、α- フェトプロテイン、インシュリンなどの哺乳動物遺伝子から知られている。代表的には、真核細胞感染性ウイルスから得られるエンハンサーが好適に使用でき、例えばレプリケーションオリジンのレート領域にあるSV40エンハンサー (100-270 bp), サイトメガロウイルスの初期プロモーターのエンハンサー, ポリオーマのレプリケーションオリジンのレート領域にあるエンハンサー, アデノウイルスのエンハンサーなどの例が挙げられる。また、必要に応じて、宿主にあったシグナル配列を付加することもでき、それらは当業者によく知られているものを使用できる。
【0020】
大腸菌を宿主とするプラスミドとしては、例えばpBR322, pUC18, pUC19, pUC118, pUC119, pSP64, pSP65, pTZ-18R/-18U, pTZ-19R/-19U, pGEM-3, pGEM-4, pGEM-3Z, pGEM-4Z, pGEM-5Zf(-), pBluescript KS TM (Stratagene) などが挙げられる。大腸菌での発現に適したプラスミドベクターとしては、pAS, pKK223 (Pharmacia), pMC1403, pMC931, pKC30, pRSET-B (Invitrogen) なども挙げられる。動物細胞を宿主とするプラスミドとしては、SV40ベクター、ポリオーマ・ウイルスベクター、ワクシニア・ウイルスベクター、レトロウイルスベクターなどが挙げられ、例えばpcD, pcD-SRα, CDM8, pCEV4, pME18S, pBC12BI, pSG5 (Stratagene) などが挙げられる。酵母を宿主とするプラスミドとしては、YIp 型ベクター、YEp 型ベクター、YRp 型ベクター、YCp 型ベクターなどが挙げられ、例えばpGPD-2などが挙げられる。宿主細胞としては、宿主細胞が大腸菌の場合、例えば大腸菌K12 株に由来するものが挙げられ、例えばNM533 XL1-Blue, C600, DH1, DH5, DH11S, DH12S, DH5α, DH10B, HB101, MC1061, JM109, STBL2, BL21(DE3)/pLysS などが挙げられる。宿主細胞が酵母の場合、例えば Saccharomyces cerevisiae, Schizosaccharomyces prombe, Pichia pastoris, Kluyveromyces 株, Candida, Trichoderma reesia, その他の酵母株などが挙げられる。宿主細胞が動物細胞の場合、例えばアフリカミドリザル線維芽細胞由来のCOS-7 細胞、COS-1 細胞、CV-1細胞、ヒト腎細胞由来 293細胞、ヒト表皮細胞由来A431細胞、ヒト結腸由来 205細胞、マウス線維芽細胞由来のCOP 細胞、MOP 細胞、WOP 細胞、チャイニーズ・ハムスター細胞由来のCHO 細胞、CHO DHFR- 細胞、ヒトHeLa細胞、マウス細胞由来C127細胞、マウス細胞由来NIH 3T3 細胞、マウスL 細胞、9BHK, HL-60, U937, HaK, Jurkat細胞、ヒトES細胞、マウスES細胞(例えば、EK細胞、ES-D3 細胞など) 、ハムスターES細胞、ブタES細胞、その他の形質転換されて得られたセルライン、通常の二倍体細胞、インビトロの一次培養組織から誘導された細胞株などが挙げられる。昆虫細胞としては、カイコ核多角体病ウイルス (Bombyx mori nuclear polyhedrosis virus) あるいはそれに由来するものをベクターとし、カイコ幼虫あるいはカイコ培養細胞、例えばBM-N細胞などを用いることが挙げられる。Agrobacterium tumefaciens などを利用して、植物細胞を宿主細胞として使用することも可能であり、それに適するベクターと共に、それらは当該分野で広く知られている。
【0021】
本発明の遺伝子工学的手法においては、当該分野で知られたあるいは汎用されている制限酵素、逆転写酵素、DNA 断片をクローン化するのに適した構造に修飾したりあるいは変換するための酵素であるDNA 修飾・分解酵素、DNA ポリメラーゼ、末端ヌクレオチジルトランスフェラーゼ、DNA リガーゼなどを用いることが出来る。制限酵素としては、例えば、R. J. Roberts, Nucleic Acids Res., 13: r165, 1985; S. Linn et al. ed. Nucleases, p. 109, Cold Spring Harbor Lab., Cold Spring Harbor, New York, 1982; R. J. Roberts, D. Macelis, Nucleic Acids Res., 19: Suppl. 2077, 1991などに記載のものが挙げられる。逆転写酵素としては、例えばマウスモロネイ白血病ウイルス (mouse Moloney leukemia virus; MMLV) 由来の逆転写酵素 (reverse transcriptase)、ニワトリ骨髄芽球症ウイルス (avian myeloblastosis virus; AMV)由来の逆転写酵素などが挙げられる。逆転写酵素は、RNase H 欠損体などは好ましく用いることができ、特にはRNase H 活性を欠いた修飾MMLV RT が好ましく使用でき、さらには熱安定性の高いものが好ましい。適した逆転写酵素としては、MMLV RT (Gibco-BRL) 、Superscript RT plus (Life Technologies) などが挙げられる。
【0022】
DNA ポリメラーゼとしては、例えば大腸菌DNA ポリメラーゼ、その誘導体であるクレノウ・フラグメント、大腸菌ファージT4 DNAポリメラーゼ、大腸菌ファージT7 DNAポリメラーゼ、耐熱菌DNA ポリメラーゼなどが挙げられる。末端ヌクレオチジルトランスフェラーゼとしては、例えばR. Wu et al. ed., "Methods in Enzymology", Vol. 100, p. 96, Academic Press, New York (1983) に記載の3'-OH 末端にデオキシヌクレオチド(dNMP)を付加するTdTaseなどが挙げられる。DNA 修飾・分解酵素としては、エキソヌクレアーゼ、エンドヌクレアーゼなどが挙げられ、例えばヘビ毒ホスホジエステラーゼ、脾臓ホスホジエステラーゼ、大腸菌DNA エキソヌクレアーゼ I、大腸菌DNA エキソヌクレアーゼIII 、大腸菌DNA エキソヌクレアーゼ VII、λエキソヌクレアーゼ、DNase I 、ヌクレアーゼS1、ミクロコッカス (Micrococcus) ヌクレアーゼなどが挙げられる。DNA リガーゼとしては、例えば大腸菌DNA リガーゼ、T4 DNAリガーゼなどが挙げられる。
DNA 遺伝子をクローニングしてDNA ライブラリーを構築するのに適したベクターとしては、プラスミド、λファージ、コスミド、P1ファージ、F因子、YAC などが挙げられ、好ましくはλファージ由来のベクターが挙げられ、例えばCharon 4A 、Charon 21A、λgt10、λgt11、λDASHII、λFIXII 、λEMBL3 、λZAPII TM (Stratagene) などが挙げられる。
【0023】
本発明のタンパク質をコードする核酸を含有する発現ベクターで形質転換された形質転換体は、必要に応じて適当な選択マーカーを用い、繰り返しクローニングを行うことにより、高い発現能を安定して有する細胞株を得ることができる。本発明の形質転換体は、本発明のタンパク質をコードする核酸が発現可能な条件下で培養し、目的物を生成、蓄積せしめることができる。該形質転換体は、当該分野で汎用されている培地中で培養することができる。例えば、大腸菌、枯草菌等の原核細胞宿主、酵母などを宿主としている形質転換体は、液体培地を好適に使用することができる。培地中には、該形質転換体の生育に必要な炭素源、窒素源、無機物その他が含有せしめられる。炭素源としては、たとえばグルコース、デキストリン、可溶性澱粉、ショ糖など、窒素源としては、たとえばアンモニウム塩類、硝酸塩類、コーンスチープ・リカー、ペプトン、カゼイン、肉エキス、麦芽エキス、大豆粕、バレイショ抽出液などの無機または有機物質、無機物としては,例えば、塩化カルシウム、リン酸二水素ナトリウム、塩化マグネシウム、炭酸カルシウムなどが挙げられる。また、酵母、ビタミン類、カザミノ酸、生長促進因子などを添加してもよい。また、必要によりプロモーターを効率よく働かせるために、例えば、3β−インドリル アクリル酸のような薬剤を加えることができる。培地のpHは約5〜8が望ましい。
【0024】
培養は、例えば大腸菌では通常約15〜45℃で約3〜75時間行い、必要により、通気や攪拌を加えることもできる。宿主が動物細胞である形質転換体を培養する際、培地としては、たとえば約5〜20%の胎児牛血清を含むMEM 培地、PRMI1640培地、DMEM培地などが用いられる。pHは約6〜8であるのが好ましい。培養は通常約30℃〜40℃で約15〜72時間行い、必要に応じて通気や攪拌を加える。
得られた細胞及び培養液はそれをそのまま使用することができる。
上記培養細胞から所望生産物を抽出するに際しては、培養後、公知の方法で菌体あるいは細胞を集め、これを適当な緩衝液に懸濁し、超音波、リゾチームおよび/または凍結融解などによって菌体あるいは細胞を破壊したのち、遠心分離やろ過により粗抽出液を得る方法などを適宜用いることができる。緩衝液の中には尿素や塩酸グアニジンなどの蛋白変性剤や、トリトン X-100(商品名)、ツウィーン-80 (商品名)などの界面活性剤を加えてあってもよい。培養液中に目的生成物が分泌される場合には、培養終了後、それ自体公知の方法で菌体あるいは細胞と上清とを分離し、上清を集める。このようにして得られた培養上清、あるいは抽出液中に含まれる目的生成物は、自体公知の分離・精製法を適切に組み合わせてその精製を行なうことができ、例えば硫酸アンモニウム沈殿法などの塩析、セファデックスなどによるゲルろ過法、例えばジエチルアミノエチル基あるいはカルボキシメチル基などを持つ担体などを用いたイオン交換クロマトグラフィー法、例えばブチル基、オクチル基、フェニル基など疎水性基を持つ担体などを用いた疎水性クロマトグラフィー法、色素ゲルクロマトグラフィー法、電気泳動法、透析、限外ろ過法、アフィニティ・クロマトグラフィー法、高速液体クロマトグラフィー法などにより精製して得ることができる。好ましくは、ポリアクリルアミドゲル電気泳動、モノクローナル抗体などの抗原と特異的に反応する抗体などを固定化したアフィニティー・クロマトグラフィーなどで処理し精製分離処理できる。例えば、ゼラチン−アガロース・アフィニティー・クロマトグラフィー、ヘパリン−アガロース・クロマトグラフィーなどが挙げられる。
【0025】
本明細書中の変異p53 は、遺伝子工学的に常用される融合産生方法を適用し、融合タンパク質として発現させることも可能である。こうした融合タンパク質はその融合部を利用してアフィニティクロマトグラフィーなどで精製することも可能である。こうした融合タンパク質としては、ヒスチジンタグに融合せしめられたもの、あるいはマルトース結合タンパク (MBP), グルタチオン-S- トランスフェラーゼ (GST)又はチオレドキシン (TRX)のアミノ酸配列に融合せしめられたものなどが挙げられる。同様に、ポリペプチドは、ヘテロジーニアスなエピトープのタグを付加され、該エピトープに特異的に結合する抗体を用いてのイムノアフィニティ・クロマトグラフィーによる精製をなし得るようにすることもできる。更に、上記したGFP などの螢光タンパク質との融合体として得ることもできる。こうした融合タンパク質の発現及び精製は、それに適した市販のキットを用いて行うことができ、キット製造業者あるいはキット販売業者により明らかにされているプロトコルに従って実施することもできる。
【0026】
本発明で網羅的変異p53 ライブラリーが構築されたことから、野生型p53 ライブラリーと網羅的変異p53 ライブラリーを使用して、網羅的p53 ライブラリー とすることが可能となり、該網羅的p53 ライブラリーの全部あるいはその一部を利用してプローブを作製したりすることが可能である。かくして、網羅的p53 ライブラリーを構成する遺伝子群の少なくとも45%以上(集合体の少なくとも45%以上)のものから得られた網羅的p53 プローブを基板に結合せしめてあるか、あるいは(2) 網羅的p53 ライブラリーを構成する遺伝子群の少なくとも45%以上のものから得られた網羅的p53 核酸を参照配列として使用することを特徴とする網羅的p53 核酸アレイ及びそれを使用した核酸サンプルの解析法が提供できる。特には、遺伝学、生化学および医療診断の分野で、p53 の変異を迅速に決定するための物質および方法が提供できる。使用する変異p53 ライブラリーは、網羅的p53 ライブラリーからできるだけ多く選んで使用するのが好ましいが、その一部でもよいことは勿論であり、例えば網羅的p53 ライブラリー集合体の少なくとも45%以上、場合によっては55%以上、さらには65%以上、好ましくは70%以上、ある場合には75%以上、より好ましくは80%以上、さらには85%以上、さらに好ましくは90%以上、もっと好ましくは95〜100 %が用いられる。当該p53 ライブラリーには、既知の変異p53 遺伝子を有するライブラリーを含めたp53 ライブラリーもそれを含めてここで使用できる。該網羅的p53 ライブラリー集合体とは、例えば、2314種類の変異p53 遺伝子ライブラリーと野生型p53 遺伝子ライブラリーとを少なくとも含んでいるライブラリー集合体が挙げられる。
【0027】
該核酸アレイ技術においては、使用する核酸は、増幅産物を好適に使用できる。増幅産物とは、増幅反応において産生された、増幅された核酸セグメント収集物をいう。該増幅とは、親の分子の塩基配列をコピーして、その結果多数の核酸分子へと増加させるような任意の手段(例えば、逆転写、ポリメラーゼ連鎖反応、およびリガーゼ連鎖反応によるもの)をいう。本明細書中核酸とは、ヌクレオチド単位から構成されるポリマーをいう。核酸は、天然に存在する核酸(例えば、デオキシリボ核酸("DNA") およびリボ核酸("RNA"))ならびに核酸アナログを含んでよい。核酸アナログは、天然に存在しない塩基を含むヌクレオチドのポリマーを含む。また、核酸アナログは、ヌクレオチドがホスホジエステル結合以外の結合を介して結合しているヌクレオチドポリマーを含んでよい。従って、ヌクレオチドアナログは、例えば、ホスホロチオエート、ホスホロジチオエート、ホスホロトリエステル、ホスホルアミデート、ボラノホスフェート、メチルホスホネート、キラル−メチルホスホネート、2-O-メチルリボヌクレオチド、ペプチド核酸(PNA) などが挙げられるがこれらには限定されない。このような核酸は、例えば、自動化DNA 合成機を用いて合成されることもできる。核酸セグメントとは、例えば、フラグメント化よって作製された大きな核酸のセグメントまたは増幅によって作製された大きな核酸のセグメントをいう。
【0028】
基板とは、複数の固有の領域に分割され得る固体支持体をいう。この固体支持体上では増幅産物が固定され得る。基板は、例えば、紙、ガラス、石英ガラス、アルミナ、サファイア、炭化窒素、窒化珪素、シリコンウエハなどの無機材料、ニトロセルロース、ポリマー材料(例えば、ポリプロピレン、ポリカーボネート、ナイロンなどのプラスチック)、ポリアクリルアミドなどのゲルが挙げられるが、これらに限定されない。基板は、適宜、共有結合、親和性結合、静電気的結合などを含む当業者に知られた手段を適用して核酸鎖が結合できるようにしてあるものでもよい。例えば、核酸鎖の末端領域あるいは基板の表面を、アミノ基、カルボキシル基、チォール基のような反応性の官能基で修飾したり、ビオチン、アビジンなどの特異的な親和性を有するペアーを構成するタンパク質で修飾したり、シランカップリング剤等の反応性官能基を有する分子で処理したり、負に帯電したアミノ酸あるいはアミノ酸重合体などでコートしておいてもよい。基板と官能基との間には、スベーサーを介することもできる。
該固有の領域とは、標的物が適用された基板のアドレス可能な位置をいう。
増幅産物を得るにはプライマーを利用できる。本明細書中プライマーとは、指定された鋳型核酸に対して特異的にハイブリダイズし、そして相補的な核酸の合成のための開始点を提供し得る核酸をいう。このような合成は、合成が誘発される条件下(すなわち、ヌクレオチド、相補的鋳型核酸、およびDNA ポリメラーゼといった重合化のための因子の存在下)に該核酸プライマーがおかれた場合に、生じる。プライマーは、代表的に、一本鎖であるが、二本鎖でもあり得る。プライマーは代表的に、デオキシリボ核酸であるが、広汎な種々の合成プライマーおよび天然に存在するプライマーも多くの場合その使用ができる。プライマーは、鋳型と相補的であり、この鋳型に対して、そのプライマーはハイブリダイズして合成開始のための部位として作用するように設計されているが、その鋳型の正確な配列を反映する必要はない。このような場合、そのテンプレートに対するそのプライマーの特異的なハイブリダイゼーションは、ハイブリダイゼーション条件のストリンジェンシーに依存する。プライマーは、例えば、色素原性部分、放射性部分または蛍光性部分を用いて標識されることができ、そして検出可能な部分として使用され得る。こうした増幅産物用プライマーは、一般的に少なくとも7ヌクレオチド長、そして好ましくは約10〜30ヌクレオチド長である。
【0029】
プローブとは、核酸に関して使用される場合、別の核酸の指定された配列に対して特異的にハイブリダイズし得る核酸をいう。プローブは、標的相補的核酸に対して特異的にハイブリダイズするが、その鋳型の正確な相補的配列を反映する必要はない。このような場合、その標的に対するそのプローブの特異的なハイブリダイゼーションは、そのハイブリダイゼーション条件のストリンジェンシーに依存する。プローブは、例えば、色素原性部分、放射性部分または蛍光性部分を用いて標識されることができ、そして検出可能な部分として使用され得る。通常、核酸アレイ技術ではハイブリダイゼーション操作を利用して解析がなされる。代表的にはハイブリダイゼーションにおいては、選択されたハイブリダイゼーション条件下で第一の核酸が核酸混合物中の第二の核酸に対してハイブリダイズし、その結果第二の核酸配列の検出およびその混合物中の第二の核酸と他の核酸との間の識別が可能である場合、第一の核酸は第二の核酸に対して「特異的にハイブリダイズ」するという。従って、例えば、完全に相補的なプローブは、高度にストリンジェントでないハイブリダイゼーション条件下でさえも標的配列に特異的にハイブリダイズするが、ミスマッチプローブ(すなわち、その配列が、その標的配列と完全に相補的でないプローブ)は、一般的に、識別可能な様式で、その標的配列とハイブリダイズするためには、よりストリンジェントな条件を必要とする。
【0030】
選択されたハイブリダイゼーション条件のストリンジェント度は、多くの因子(例えば、温度、イオン強度、pHを含む)に依存して変わる。核酸のハイブリダイゼーションついては、例えば、J. Sambrook, E. F. Fritsch & T. Maniatis, Molecular Cloning: A Laboratory Manual (2nd edition), Vol. 1 to 3, Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, New York (1989); Tijssen, Techniques in Biochemistry and Molecular Biology (Hybridization with Nucleic Probes, "Overview of principles of hybridization and the strategy of nucleic acid assays"), Elsevier Science Publishers B.V. (1993); Krika, Nonisotopic DNA Probe Techniques, Academic Press, CA (1992); Shena et al., Science, 270: 467-470 (1995)などに見い出すことができる。
一般的に、「ストリンジェントな条件」としては、規定されたイオン強度、pHにおける特定の配列についての熱融解点(Tm)より約5℃〜約10℃低く選択する。この場合、該Tmは標的に相補的なプローブの50%が標的配列にハイブリダイズして(ある規定されたイオン強度、pHおよび核酸濃度において)平衡状態となる温度である。ストリンジェント条件は、塩濃度が約1.0Mナトリウムイオン未満である条件であり、代表的には、約0.01〜1.0Mナトリウムイオン濃度(または別の塩)で、pH7.0 〜8.3 であり、そして温度は、短いプローブ(例えば、10〜50ヌクレオチド)については少なくとも約30℃であり、そして長いプローブ(例えば、50ヌクレオチドを超える)については、少なくとも約60℃である。また、ストリンジェント条件は脱安定化剤(例えば、ホルムアミド)を添加することによって達成されることもできる。選択的ハイブリダイゼーションまたは特異的なハイブリダイゼーションについては、陽性シグナルは、バックグラウンドの少なくとも2倍、好ましくはバックグラウンドハイブリダイゼーションの10倍である。例えば、5 ×SSPE (750 mM NaCl, 50 mM NaPO4, 5 mM EDTA, pH7.4) であり、そして25〜30℃の温度の条件が特異的なプローブハイブリダイゼーションとして選ぶことも可能である
【0031】
「中程度にストリンジェントなハイブリダイゼーション条件」としては、40%ホルムアミド、1M NaCl, 1% SDS の緩衝液中での37℃でのハイブリダイゼーション、および 1×SSC で45℃での洗浄が挙げられる。陽性ハイブリダイゼーションは、少なくともバックグラウンドの2倍である。当業者は、別のハイブリダイゼーションおよび洗浄条件を利用して、類似のストリンジェンシーの条件を提供することができるものであることはそれを容易に認識できよう。
解析には、検出が含めれてよく、この場合検出あるいは検出するとは、サンプル中における分析物の存在、非存在または量を決定することを指してよく、さらにサンプル中における分析物の量を定量することを含んでよい。
核酸アレイ技術では、標識された核酸又は検出可能な部分を有する核酸などを有利に利用できる。当該標識又は検出可能な部分としては、分光学的、光化学的、生化学的、免疫化学的または化学的な手段によって検出可能な成分が挙げられる。有用な標識としては、例えば、32P, 35S、蛍光色素、高電子密度試薬、酵素(例えば、ELISA において一般的に使用されるようなもの)、ビオチン−ストレプトアビジン、ジオキシゲニン、ハプテンおよび抗血清もしくはモノクローナル抗体が利用可能なタンパク質、標的に対して相補的な配列を有する核酸分子などが挙げられる。例えば、Cy5-dCTP, フルオレッセイン-dCTP なども有利に使用できる。
【0032】
標識としては、しばしば、測定可能なシグナル(例えば、放射性シグナル、色素原性シグナルまたは蛍光性シグナル)を生成し、これを使用して、サンプル中で結合された検出可能な部分の量を定量し得るものである。標識は、共有結合的にまたはイオン結合、ファンデルワールス結合または水素結合を介して、プライマーもしくはプローブ中に取り込まれるかまたはプライマーもしくはプローブに付着され得る(例えば、放射性核種の取り込み、またはストレプトアビジンによって認識されるビオチン化ヌクレオチドなど)。標識は、直接または間接的に検出可能であり得る。間接的な検出は、その標識に対する直接または間接的に検出可能な第二の部分の結合を含み得る。例えば、その標識は、結合パートナーのリガンド(例えば、ビオチン(これは、ストレプトアビジンについての結合パートナーである))または相補性配列(それに対してそのヌクレオチドが特異的にハイブリダイズし得る)についての結合パートナーであるヌクレオチド配列であり得る。その結合パートナーは、それ自身が直接検出可能であり得、例えば、抗体はそれ自身が蛍光分子を用いて標識され得る。その結合パートナーはまた、間接的に検出可能であり得、例えば、分岐DNA 分子の一部であり得る相補的なヌクレオチド配列を有する核酸であり、この核酸は次いで、他の標識された核酸分子とのハイブリダイゼーションを通して検出可能である。
【0033】
シグナルの定量は、例えば、シンチレーション計数、密度測定またはフローサイトメトリにより達成される。
核酸アレイ技術で使用されるサンプルは、代表的には、個体に由来するものである。個体は、一般的に生物の集団由来の個体で、ウイルス、単細胞生物(例えば、原核生物または真核生物)、動物などが挙げられる。動物集団としては、脊椎動物、哺乳動物、霊長類、およびヒトが挙げられる。
また、その集団は、細胞培養由来の細胞の集団であってもよく、例えば、転移性細胞または突然変異誘発に供せられた細胞などが挙げられる。
核酸アレイ技術は、分析される個体由来の核酸を含むサンプルを使用して行うことができる。ゲノムDNA のアッセイについては、実質的にいかなる生物学的サンプルも好適に使用できる。例えば、哺乳動物由来の好都合な組織サンプルは、全血、精液、唾液、涙液、尿、糞便、汗、頬(口腔)、皮膚、および毛髪を含む。正常細胞、疾患細胞、正常組織、腫瘍組織などいずれのものであることもできる。cDNAまたはmRNAのアッセイについては、組織サンプルは、標的核酸が発現される器官から得られなければならない。
【0034】
本発明の核酸アレイ技術では、標的サンプルからの核酸の増幅を含んでよい。核酸セグメントを増幅するためのいくつかの方法が当該分野で公知である。
好ましい方法は、ポリメラーゼ連鎖反応 (polymerase chain reaction: PCR) である。一般的には、PCR Technology: Principles and Applications for DNA Amplification (H.A.Erlich, Freeman Press, NY, NY,1992); PCR Protocols: A Guide to Methods and Applications (Innis et al. (Ed.), Academic Press, San Diego, CA, 1990); Mattila et al., Nucleic Acids Res., 19, 4967 (1991); Eckert et al., PCR Methods and Applications, 1, 17(1991); PCR (McPherson et al.(Ed.), IRL Press,Oxford); 及び米国特許第4,683,202号(Mullis)。増幅のためのプライマーは、標的サンプルにおける目的の領域に隣接されるように選択される。例えば、プライマーは、既知の変動の部位および両側のいくつかの塩基に隣接するように、またはエキソンに隣接するように、または全コード配列もしくは遺伝子に隣接するように設計され得る。
【0035】
他の適切な増幅方法は、リガーゼ連鎖反応(LCR)(WuおよびWallace, Genomics, 4, 560(1989), Landegren et al., Science, 241, 1077(1988))、転写増幅 (Kwoh et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 86, 1173 (1989))及び自己維持的配列複製(Guatelli et al., Proc. Nat. Acad. Sci. USA, 87, 1874(1990)を参照のこと)および核酸に基づく配列増幅(NASBA) を含む。後の2つの増幅方法は、等温転写に基づく等温反応を含み、これは増幅産物としてそれぞれ約30または100 対1の比で、一本鎖RNA(ssRNA)および二本鎖DNA (dsDNA) の両方を生成する。本発明の核酸アレイ技術では、個々のアドレス可能な位置にある固体基板上に、所定の増幅産物を固定化する工程が含まれる。こうした位置は、固有の領域といわれる。従って、該増幅産物を固定化することにより、固有の特徴を持つアレイが生まれる。通常の操作では、すべての個体由来のサンプルは、単一の基板上に配列せしめられる。さもなくば、すべての個体を収容するために同じ数だけの基板が必要となる場合もある。該アレイは、任意の所望の形をとることができるしかし、直交性に配置された行および列を持つアレイは、しばしばその操作並びに配置処理が容易となる。個体由来の増幅されたマーカーをいくつかの画分に分け、次いでサンプルを配置するためのいくつかの方法が知られている。
【0036】
典型的な場合、個体についての同一の増幅された遺伝的マーカーを含む産物のセットは、1つ以上の基板上に固定される。このように配置することにより、基板に検出プローブを適用した場合の処理を単純化することができる。アレイ上にスポットされる数は、基板および固有の領域作製技術の能力に依存する。
増幅産物を固体支持体上に固定するためには、いくつかの手法が利用可能である。核酸は、直接的に核酸を結合する基板(例えば、紙、ガラス、またはニトロセルロース)に結合され得る。あるいは、それらはリンカー(例えば、基板に結合したオリゴヌクレオチドリンカー、シリル化処理されたアクティブサイトなど)を通して結合され得る。
スポットする一つの方法としては、それぞれの反応領域アレイ(それは通常不活性な領域によって互いに分離されている)を有する基板が利用される。1つの実施態様においては、第1の核酸溶液は、適切に誘導体化された基板の第1の領域上にスポットされ、次に、第2の核酸サンプルが第2の領域上にスポットされ、第3の核酸サンプルが第3の領域上にスポットされるなど、それぞれがそこに位置する増幅産物を有する領域の数まで続くように処理されるものである。
【0037】
別の方法としては、増幅産物は、サンプルウェル形式のアレイ(例えば、96ウェルプレート)中で調製されるものである。ピンが、ウェルの中に浸漬され、核酸を含む液体を拾い上げ、次いでピンは核酸を結合する基板(例えば、紙、ガラス、またはニトロセルロース)に押しつけられる。従って、サンプル中の核酸はアレイ中に固定される。各々のウェルからの増幅産物は、基板上の異なる位置にスポットされる。
別の方法は、噴霧して行うものである。この方法では、例えば、液体サンプルを含む毛細管のアレイを使用する。毛細管が基板の表面に接触された場合、サンプルの一滴がそこに付着することになる。また別の噴霧法としては、インクジェット技術を利用するものである。このようなインクジェット技術は、プリンターで一般に使用されており、そこでは、微小なインク滴が、基板(例えば、紙)上の特定の位置に噴霧される。この技術に従えば、毛細管はノズル端から核酸サンプルを含むウェルにまで連結されており、この方法で非常に高密度に固定された核酸サンプルを配置したアレイを作製することが可能である。
【0038】
本明細書中では支持体に固定された特異的なヌクレオチド配列を検出するためには任意の方法であってよい。好ましい方法は、標的配列へプローブを特異的にハイブリダイズさせる工程、およびハイブリダイズさせたプローブを検出する工程を包含する。ハイブリダイズさせたプローブは、例えば、質量スペクトルによって直接的に検出され得るか、プローブまたはハイブリダイゼーションと関連する標識を検出することによって、間接的に検出されることができる。
直接的に検出するための方法は、質量スペクトルであり、ハイブリダイズさせたプローブは、基板から脱離され、その分子量に基づいて同定される(例えば、MALDI-TOF)。標識としては、特異的な配列を有する固定分子と関連してその検出を可能にするような標識であってよい。
【0039】
1つの標識に基づく検出システムは、配列に対して特異的なプローブをハイブリダイズさせることによって特異的な配列を検出する工程、およびハイブリダイズさせたプローブを検出する工程を包含する。ハイブリダイズさせたプローブは、例えば、質量スペクトルを通して直接的に、または標識の使用を通して間接的に検出されることができる。別の手法に従った標識に基づく検出法では、標識は、この配列を有する分子によって放出されるようなものである。例えば、固定された分子は、標識され、次いで、標的に対する特異的プローブをそこにハイブリダイズさせると、二本鎖分子が作製される。次いで、二本鎖DNA を切断するような特異的または非特異的エンドヌクレアーゼによる切断処理を当該基板に適用される。これにより、標識が放出される。
また、互いに区別することが可能で且つ異なる波長で蛍光を発するような蛍光標識がいくつか存在しているので、それを利用することもできる。
基板上で特定の配列を有する固定化された核酸を検出する1つの方法は、該配列を有する核酸と特異的にハイブリダイズする標識化核酸プローブと当該基板とを接触させることである。その固有の領域における当該標識の存在を検出することによって該配列の存在が検出される。
一般的に、2つの区別可能な標識を使用した場合、該標識は、2つの異なる波長で蛍光を発する蛍光標識であることができ、そうすると、両方の標識が存在する場合、両方の波長が検出されよう。各波長の光量比を測定することによって、各波長の光量比の関数として、ハイブリダイズしたプローブの量の比を決定し得る。
【0040】
核酸アレイにおけるハイブリダイゼーションアッセイは、選択されたハイブリダイゼーション条件下でアレイを標識化サンプルと接触させる工程、必要に応じて、このアレイを洗浄して、未反応分子を除去する工程、および標的分子とプローブとの間の反応の証拠について生物学的アレイを分析する工程を含み得る。これらの工程は、液体を取り扱う工程を含む。これらの工程は、このアレイにおける検出工程を現在使用可能な自動化液体取り扱いシステムを用いて自動化することもできる。液体の取り扱いは、ウェル中のサンプルの均一処理を可能にする。マイクロタイターロボットを利用した装置および液体取り扱い装置が、例えばTecan AGから市販されている。
当該アレイは、液体処理デバイスによって操作することもできる。該ロボット利用デバイスは、適切な反応条件(例えば、温度)を設定し、アレイに試薬を添加し、適切な時間、アレイをインキュベートし、未反応物質を除去し、アレイ基板を洗浄するなどして、検出アッセイを実施するようにプログラムすることができる。この特定の反応条件は、アッセイの目的、例えば、プローブのハイブリダイゼーションまたはオリゴヌクレオチドへの標識の付着に依存して選択することができる。所望に応じて、該アレイは、アレイリーダーでの使用に適したパッケージにすることもできる。
【0041】
アレイ上の検出可能な標識から生成されたシグナルを検出する工程では、アレイリーダーを使用することが必要となる。このアレイリーダーの性状は、標的分子に結合されている標識の型に依存して決められる。1つの実施態様においては、このアレイリーダーは、核酸アレイを固定するための本体を有するものである。第1波長を有する励起用光源からの励起用放射光は、アレイから次のような励起応答を介して通過していくが、この励起光により、基板上の核酸アレイの領域が励起され、励起放射が生じる。対応して、サンプル上の標識化物質は、励起波長とは異なる波長を有する放射光を発光する。次いで、光収集系が、サンプルからの励起光を収集し、検出器上に画像化する。検出器は、当該検出された放射量に比例してシグナルを生成する。このシグナルは集められ、発光が起こった複数の領域と関連する画像を提示する。
1つの実施態様では、異なる領域を位置付けしてスキャンするために、そして異なる位置のアレイについてそれぞれ問診することを可能にするように、多軸平行移動ステージ(multi-axis translation stage)を使用して、核酸アレイを移動させることができる。かくして、該核酸アレイの二次元画像を得ることができる。
【0042】
核酸アレイリーダーは、スキャニングプロセスを通じて、励起光の焦点面にサンプルを保つようにするため、自動焦点とすることもできる。さらに、温度コントローラーでもって、スキャンされている間、特定の温度でサンプルが維持されるようにすることもできる。多軸平行移動ステージ、温度コントローラー、自動焦点機構、ならびに画像およびデータ収集に関連した電子工学技法は、適切にプログラムされたデジタルコンピューターによって管理されることができる。
別の実施態様において、蛍光プローブは、CCD 画像システムと組み合わせて使用される。多くの市販のマイクロプレートリーダーでは、代表的には、光源は、アレイの上に配置され、そして光ダイオード検出器はアレイの下に配置される。本方法のために、この光源は、より高出力のランプまたはレーザーで置き換えることができる。1つの実施態様では、光ダイオード検出器は、このアレイを迅速に画像化し得るCCD カメラおよび画像工学技術と置き換えることができる。
光ファイバーを利用してCCD 検出器に光を導くこともできる。また、該レーザーは、核酸アレイの下に配置され、そして光は、核酸アレイの下部を形成している透過ウエハまたは基板を通して、その方向が決められてよい。別の実施態様では、該CCD アレイは、核酸アレイのウエハに組み込むこともできる。
【0043】
検出デバイスはラインスキャナーを含んでいてもよい。励起光学は、励起光をサンプルの行に対して焦点をあわせ、同時にサンプルのストリップをスキャニングまたは画像化する。アレイからの、表面に結合した蛍光標識は、光に応じてアレイから蛍光を発する。収集光学は、光検出器の線状アレイ上へ発光を画像化する。共焦点技術を使用することによって、実質的に、光の焦点面からの発光のみが画像化される。一旦ストリップがスキャンされると、一次元画像を提示するデータが、コンピューターのメモリに保存される。1つの実施態様によると、多軸平行移動ステージは、定常速度でデバイスを動かして、データを連続的に取り込みそして処理する。あるいは、検流型(galvometric) スキャナーまたは回転多面体鏡が使用されて、サンプルを横切る励起光をスキャンし得る。結果として、このサンプルの二次元画像が得られる。
別の実施態様において、収集光学系は、分光器に発光を指示し、該分光器は、光検出器の二次元アレイ上に発光スペクトルを画像化する。分光器を用いることによって、このアレイのスペクトル的に完全に分解された画像が得られる。
アレイの読み込み時間は、蛍光の光学的性状(例えば、蛍光量子収率など)ならびに検出器の感度に依存する。CCD 検出器を用いてアレイ画像を読むに十分なシグナル対ノイズ比は、フルオレセインについては、Arイオンレーザーまたはランプからの励起光を用いて得られることができる。レーザー出力を増加させることによって、そしてその発光がCCD 検出器の最大感度により緊密に一致するような螢光色素Cy3 又はCy5 に変更することによって、5秒未満で各アレイを読むことが容易に可能である。
データは、プログラム可能なデジタルコンピューターの使用で、最も容易に分析される。コンピュータープログラムは、一般的に、コードを保存する読み込み可能なメディアを含むものである。特定のコードは、各固有の領域についての位置、および個体の同一性、およびその各固有の領域におけるマーカーなどについて記憶して置くことに充てられる。また、このプログラムはそのメモリにおいて、このマーカーの参照配列を含んでいることができる。このコンピューターはまた、特定のシグナルの検出を特定のプローブと相関させ、そしてハイブリダイゼーションの存在を特定の遺伝子構造の存在と相関させるコードを含み得る。このコンピューターは、プローブと、特定の特徴におけるセグメントとの間のハイブリダイゼーション反応からのハイブリダイゼーションデータをインプットとして受け取るコードを含んでいてよい。このコンピューターはまた、ある遺伝子の単一コピーまたは二重コピーの存在とのハイブリダイゼーションの存在または程度に関するコードを含んでいてよい。該コンピュータープログラムは、インプットとしてプログラマーからの指示を受け取るコードを含んでいてよい。
【0044】
コンピューターは、データを提示するため別のフォーマットに変換することもできる。データ分析は、例えば、回収したデータから基板位置の関数として蛍光強度を決定する工程、孤立したデータ(予め決定された静止分布から逸脱したデータ)を除去する工程、および残存するデータからの標的の相対結合親和性を計算する工程を含んでいてよい。生成されるデータは、標的とプローブとの間での結合親和性の違いや光の放射性状の違いによりそれぞれ変化する各領域毎の色の変化の画像として表示されることができる。あるいは、このデータは、各サンプルおよび試験された各マーカーについての遺伝型を示すリストとして提示することもできる。
【0045】
検出工程が標識されたプローブ適用アレイにおける核酸とのハイブリダイゼーションを含む場合であって、素早く実行するためのCCD 画像化システムと連動された場合には、本システムの1つの適用形態は、このハイブリダイゼーションのオンまたはオフの割合を試験することによってアッセイの結果を得るようなものである。この方法の1つの形態では、各アドレスで結合する量は、標的がアレイと接触された後のいくつかの時点で決定される。全ハイブリダイゼーションの量は、各時点で結合する量に基づいて、結合の速度論の関数として決定され得る。従って、到達する平衡を待つことは必要ではない。それぞれ異なる核酸毎に、温度、サンプル攪拌の程度、洗浄条件(例えば、pH、溶媒特性、温度)などがどの様にハイブリダイゼーションの割合の影響を与えるかは、容易に決定することが可能で、その割合およびシグナル対ノイズ比についての条件を最大とするように決定することもできる。アレイ上で実施されるハイブリダイゼーションアッセイの結果は、一般的に、プログラム可能なデジタルコンピューターによって分析される。このようなコンピューターは、そのメモリに、全ての増幅産物の同一性(個体および全ての増幅反応で増幅されたセグメントの同一性を含む)を保存し得る。それゆえ、行において個体および列において増幅反応を有する(または、その逆)直交アレイが各使用について好ましいが、増幅産物は、任意の配列(ランダムを含む)に置くことができる。
【0046】
本発明では、1塩基置換に基づいた1アミノ酸置換の変異を有する変異p53 タンパク質の集合体が提供されており、当該変異p53 タンパク質は上記したように標識を有する融合タンパク質として発現させたり、標識タンパク質として発現させるなどして、p53 タンパク質の網羅的な変異を有するタンパク質セットを与えることから、プロテオミックス (proteomics) 技術に利用できると期待される。
本発明の網羅的p53 ライブラリー(網羅的p53 発現ライブラリー) を利用して、組換え融合タンパク質を in situ 発現誘導可能な系を構築し、プロテインチップ(プロテイン)アレイを構成することもできる。また、発現させた組換え変異p53 タンパク質セットを利用し、当該タンパク質あるいはその酵素消化物などのペプチドフラグメントのデータ、2次元ポリアクリルアミドゲル電気泳動 (2-DE) などの電気泳動パターンデータなどを収集することも可能である。データ収集には、質量分析技術を有効に利用でき、例えばエレクロスプレーイオン化法 (electrospray ionization: ESI) 、マトリックス支援レーザー脱離イオン化法 (matrix-assisted laser desorption/ionization: MALDI) を利用したものが挙げられる。こうした分析装置としては、例えばMALDI-TOF 分析計、ESI-3 連四重極分析計、ESI-イオントラップ分析計などが挙げられる。代表的には、ゲルで分離することにより、所定タンパク質及びそのフラグメントの分離・移動特性などのデータが得られ、質量分析機でゲルで分離したタンパク質を酵素消化したペプチドなどから、消化酵素と連動した分解特性、フラグメント情報などのデータが得られる。こうして得られたデータは、データベース化され、蓄積され、それに適当なアルゴリズムが適用され、コンピューター解析システムと連動せしめられて使用される。当該タンパク質解析は、ロボットシステムを使用することができる。該ロボットシステムは、例えばゲルからあらかじめ決められたスポットを切り出す特殊化された装置、コンピューター制御のタンパク質消化モジュール、ゲルあるいは転写後の膜から染色されたタンパク質を検出する画像解析システム、取り出された消化された断片を質量分析に付与する装置、それぞれの段階で各データを取得、蓄積、解析処置し、任意の目的に合致するように最適な処理を遂行するプログラムを備えたコンピューターを含んでいる。
本発明で網羅的変異p53 ライブラリー構築に使用した変異合成オリゴヌクレオチドプライマー及び共通オリゴヌクレオチドプライマーは、所定のp53 塩基配列を増幅するのに好適に使用できる他、TaqManケミストリのプローブとしても有用である。TaqManプローブはその両端部に二種類の螢光色素(一方はレポーター(reporter)色素、他方は消光(quencher)色素)でラベルされたオリゴヌクレオチドで、ターゲット領域と特異的にアニールする。TaqManプローブが分解していない状態では、励起光によりレポーター色素から発せられた螢光は、物理的に近い距離にある消光色素に吸収され、結果的に消光色素の螢光のみが観察されるが、該TaqManプローブを反応液に加えてPCR を行うと、TaqManプローブ、プライマーの順にターゲット配列とアニールするが、Taq DNA ポリメラーゼによる反応が進行するにしたがい、Taq DNA ポリメラーゼの有する5'→3'エキソヌクレアーゼ活性により、TaqManプローブは5'末端から加水分解され、レポーター色素と消光色素の間の距離が離れることとなり、抑制されていたレポーター色素の螢光強度が増加し、定量的なPCR データを得ることができる。これをRT-PCRなどを使用しmRNA発現量の定量、変異部位の検出などに使用可能である。
【0047】
本発明の技術を利用することにより、網羅的変異p53 ライブラリーやそれに基づいた核酸アレイなどが提供され、それらは
1) 変異p53の機能回復を起こしうる薬剤候補(小分子など)があった場合、その薬剤候補が、どの変異p53に対して有効か、または無効かを判定するのに有用であり、
2) 遺伝子診断に関連して、腫瘍などからは、多種類のp53遺伝子変異がみつかるが、転写、翻訳されてできる変異p53タンパク質の個々について、機能へ及ぼす影響を診断することを可能にし、しかも、機能に及ぼす影響についての情報をそれに追加することができる。
さらに、3) 野生型p53によって転写活性化される下流遺伝子は多数報告されており、一方、腫瘍において見出される変異p53は、癌になるためにいわば必要な変異であるわけであるが、該変異によってタンパク質が失う転写活性化機能は、p53の下流遺伝子のうち複数ではあるが全てに対してではないと考えられる。つまり、下流遺伝子が仮に20個であるとして、変異によって転写活性化されない遺伝子はそのうち、例えば13個で、残りの7個はその変異p53 により転写されることがありうることから、腫瘍において見つかる変異の下流遺伝子に対する転写活性化能のスペクトルを調べると、おそらくがん抑制により重要な遺伝子が浮かび上がってくると考えられる。このように、本発明により、p53遺伝子の下流遺伝子であることの検索手段としても有用である。
【0048】
また、4) これまで一部の変異p53は野生型p53が転写活性化できない遺伝子の転写活性化をおこなうことが知られていることから、p53は変異によって機能を失うだけではなく、新たに野生型にはない機能(この機能はおそらく、「がん」に有利な機能)を獲得しうると考えられ、したがって、個々の変異p53によって、機能を獲得するかしないかを調べ、さらに機能を獲得する場合にも、その獲得する機能がそれぞれ異なる可能性があることから、これらのことを解明するのに有用である。加えて、5) 酵母ライブラリー2300余のクローンの機能から変異p53タンパク質の構造を推定するだけではなく、X線構造解析やNMR解析によって既に解析されている野生型p53タンパク質構造を微修正するのにも使用できる(protein modelingに役立つ)。そして、現在のコンピューターによるタンパク質構造解析(in silico protein modeling)技術を適用し、多くの変異の生物学的機能解析データを収集し、変異によるタンパク質機能への影響をなどを推定するのに利用可能である。
【0049】
明細書及び図面において、用語は、IUPAC-IUB Commission on Biochemical Nomenclatureによるか、あるいは当該分野において慣用的に使用される用語の意味に基づくものである。
A:アラニン、C:システイン、D:アスパラギン酸、E:グルタミン酸、
F:フェニルアラニン、G:グリシン、H:ヒスチジン、I:イソロイシン、
K:リジン、L:ロイシン、M:メチオニン、N:アスパラギン、P:プロリン、
Q:グルタミン、R:アルギニン、S:セリン、T:スレオニン、V:バリン、
W:トリプトファン、Y:チロシン
ADH1プロモーター: 出芽酵母ADH1(alcohol dehydrogenase I) 遺伝子の転写調節領域を含む遺伝子断片。本プロモーターにより、ブドウ糖添加培地で下流に接続した遺伝子の転写を、本プロモーターにより常時活性化することができる。
AmpR/ori: AmpRは大腸菌のアンピシリン耐性遺伝子でβラクタマーゼをコードいている領域。ori は DNAの複製オリジンであり、AmpR/oriは、これら遺伝子がセットで、例えばプラスミドpBluescriptTMなどから切り出されて利用されているものである。プラスミドを大腸菌で少量または大量調製するときにプラスミド上に必要な配列である。酵母・大腸菌シャトルベクターに利用されて有用な領域である。
CEN/ARS: CENは出芽酵母染色体DNA のセントロメア配列であり、ARS はautonomous replication sequence である。これらをセットで保有したプラスミドは酵母1細胞あたり1コピー安定に複製される。
LEU2: ロイシン生合成遺伝子領域で、レポーター遺伝子として利用できる。
【0050】
【実施例】
以下に実施例を掲げ、本発明を具体的に説明するが、この実施例は単に本発明の説明のため、その具体的な態様の参考のために提供されているものである。これらの例示は本発明の特定の具体的な態様を説明するためのものであるが、本願で開示する発明の範囲を限定したり、あるいは制限することを表すものではない。本発明では、本明細書の思想に基づく様々な実施形態が可能であることは理解されるべきである。
全ての実施例は、他に詳細に記載するもの以外は、標準的な技術を用いて実施したもの、又は実施することのできるものであり、これは当業者にとり周知で慣用的なものである。
以下の実施例における通常慣用される分子生物学的技術としては、標準的な実験マニュアル、例えば J. Sambrook, E. F. Fritsch & T. Maniatis, Molecular Cloning: A Laboratory Manual (2nd edition), Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, New York (1989); D. M. Glover et al. (ed.), "DNA Cloning", 2nd ed., Vol. 1 to 4, (The Practical Approach Series), IRL Press, Oxford University Press (1995); R. Saiki et al., Science, 230: 1350, 1985; R. Saiki et al., Science, 239: 487, 1988; H. A. Erlich (ed.), PCR Technology, Stockton Press, 1989 ; ; M. A. Innis et al. (ed.), "PCR Protocols: a guide to methods and applications", Academic Press, New York (1990)); M. J. McPherson, P. Quirke and G. R. Taylor (ed.), PCR: a practical approach, IRL Press, Oxford (1991); M. A. Frohman et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 85, 8998-9002 (1988) などに記載の方法に準じて行っているし、また市販の試薬あるいはキットを用いている場合はそれらに添付の指示書(protocols) や添付の薬品等を使用している(それらの中にある記載はそれを参照することにより本明細書の開示に含められる) 。
【0051】
実施例1
1)1塩基置換を有するp53 cDNAライブラリーの構築
1-1) PCR のための鋳型DNA
1塩基置換を有するp53 cDNAライブラリーの構築のために使用する鋳型DNA としては、p53の翻訳領域内に設計したプライマーとともにPCR を行ったときに容易に増幅可能なプライマーをその配列内に設計可能なことが必須で、その長さは各々少なくとも300bp 以上が望ましいあるいは必須で、また、ATG の上流に該 ATGより下流の配列の翻訳領域をRNA に転写するためのプロモーター配列が、該 ATGより下流の翻訳領域をRNA に転写することが可能であるように存在していることが求められる。また終止コドンTGAより下流の配列は、転写されるRNAの末端部分を決定しうる配列であることが望ましい。こうした点を考慮して鋳型DNA を選択した。
部位特異的変異導入のためのPCR反応に用いた鋳型DNA配列を、図1の太実線に示す。鋳型はp53 cDNAの翻訳領域(図1の太実線のうちの翻訳開始コドンATGから翻訳停止コドンTGAまで:野生型p53 cDNA配列 (open reading frame: ORF)を〔配列番号:2356〕に示す)と、その5'側および3'側にプラスミドpLS76由来の配列を含むDNA断片であり、制限酵素XhoIとEagIでプラスミドpLS76 (Ishioka, C., et al., Nature Genetics, 5: 124-129, 1993)を切断し、アガロースゲル電気泳動で短い方のDNA断片を切り出し、ファルマシアのGFXキット等で精製して作成する。最終的に0.1 ng/ml濃度になるようにTE緩衝液で調整する。特に、当該鋳型DNA は、プロモーター部位を含有しており、有利にそれを使用できる。
【0052】
1-2) 変異合成オリゴヌクレオチド
部位特異的変異導入のための2314種類の1塩基置換を有する合成オリゴヌクレオチド(変異合成オリゴヌクレオチド)は、96ウェルプレート26枚に同じ濃度に希釈・分注されて保存されている〔プレート番号:#1、#2、#5-#28) 。
各96ウェルプレートに分注されている変異合成オリゴヌクレオチドは、原則として互いにp53 cDNA上の隣接した位置にあるように置いてある。各変異合成オリゴヌクレオチドは#1と#2以外は、原則的に26塩基からなり、5'側から14塩基目に、目的の点変異が導入されている。これらの鋳型上での位置を図2(小さい黒い矢印)に示す。
部位特異的変異導入のための作成した2314種類の1塩基置換を有する合成オリゴヌクレオチド(変異合成オリゴヌクレオチド)の配列 (5'→3') とそれを使用して得られる変異酵母クローン名(変異合成オリゴヌクレオチド名と同一)を下記〔一塩基変異p53 クローン及び変異誘導用合成オリゴヌクレオチドリスト〕に示す。
【0053】
1-3) PCR のための共通合成オリゴヌクレオチド
上記鋳型DNAと相同な配列で上記(1-1) の変異合成オリゴヌクレオチドと共にPCR反応に用いる合成オリゴヌクレオチド(共通合成オリゴヌクレオチド:LS5, LS6, LS8, LS9, OHK-8, OHK-9, OHK-10, OHK-13) の配列を下に示す。
【0054】
LS5: 5'-cgggatccatggaggagccgcagtca-3' 〔配列番号:2346〕
LS6: 5'-gcgaagcttcagtctgagtcaggccctt-3' 〔配列番号:2347〕
LS8: 5'-cgggacaaagcaaatggaag-3' 〔配列番号:2348〕
OHK-8: 5'-gtttcctcgtcattgttctcgttcc-3' 〔配列番号:2349〕
OHK-9: 5'-atgctgaggaggggccagaccatcg-3' 〔配列番号:2350〕
OHK-10: 5'-gaaaccactggatggagaatatttcacc-3' 〔配列番号:2351〕
OHK-13: 5'-tcaactccaagctgatcccccctcg-3' 〔配列番号:2352〕
また、これら共通合成オリゴヌクレオチドの鋳型上の位置を、図2または図3(太い黒い矢印)に示す。
【0055】
1-4) 第1回目のPCR反応の条件
上記のプレートのうち、(1)#1, #2, #5-#11 の変異合成オリゴヌクレオチドは共通合成オリゴヌクレオチドLS6 と、また、(2)#12-#16の変異合成オリゴヌクレオチドは共通合成オリゴヌクレオチドLS5と、(3)#17-#25は共通合成オリゴヌクレオチド OHK-8またはOHK-13と、(4)#26-#28は共通合成オリゴヌクレオチドLS8 との組合せで、下記の反応条件でPCR反応を行う。反応は96ウェルプレートで行う。
【0056】
【表1】
Figure 0004858932
PCRは、Pfu ポリメラーゼ(Stratagene, La Jolla, CA, USA) を使用し、市販のサーマル・サイクラー(ABI 9700 (ABI)) を用いて行った。
1回目のPCR産物を図3(点模様の線)に示す。PCR産物の一部(2 ml)をアガロースゲルで電気泳動で確認後、残りの産物を市販のPCR産物精製用96ウェルプレート(ミリポア) にて精製した。
【0057】
1-5) 第2回目のPCR反応の条件
96ウェルプレート内に精製・保存された第1回目のPCR産物をメガプライマーとし、上記共通合成オリゴヌクレオチドと組合せて第2回目のPCR反応を行う。(1) プレート#1, #2, #5-#11の変異合成オリゴヌクレオチド由来の第1回目PCR産物は共通合成オリゴヌクレオチド LS5と、また、(2) #12-#16 の変異合成オリゴヌクレオチド由来のPCR産物は共通合成オリゴヌクレオチド LS6と、(3) #17-#25の変異合成オリゴヌクレオチド由来のPCR産物は共通合成オリゴヌクレオチド OHK-9と、(4)#26-#28の変異合成オリゴヌクレオチド由来のPCR産物は共通合成オリゴヌクレオチドOHK-10との組合せで、下記の反応条件でPCR反応を行う他、その他は上記第1回目PCRと同様である。反応は96ウェルプレートで行う。
【0058】
【表2】
Figure 0004858932
第2回目のPCR反応条件は、サイクル反応を2段階にしている。これにより、メガプライマーが大きなPCR産物であり、共通合成オリゴヌクレオチドと比べてTm値が大きく異なっても、確実なPCR反応が実施できている。つまり、増幅されるDNA量の不足、全く増幅されない、及び非特異的増幅の出現などを巧妙に防止している。第2回目のPCR産物を図4(点模様の線)に示す。PCR産物の一部(2μl)をアガロースゲルで電気泳動で確認後、残りは4℃にて保存した。
【0059】
1-6)ギャップリペアベクターの調製
第2回目のPCR産物のうち、(1) プレート#1, #2, #5-#16由来のものに対しては、プラスミドpSS16 (Ishioka, C., et al., Nature Genetics, 5: 124-129, 1993)の制限酵素Hind III/StuI消化により直線化したギャップリペアベクターを、(2) プレート#17-#25 由来のものに対しては、プラスミドp53Nco1のBamHI (またはNcoI)消化により直線化したギャップリペアベクターを、(3) プレート#26-#28 由来のものに対してはプラスミドp53Stu1のHindIII消化により直線化したギャップリペアベクターを使用した。図5に各プラスミド構造の概略図を示す。なお、p53Nco1は、NcoI部位を2個所有するプラスミドpLSC53AをNcoIで消化し、リガーゼでセルフ・ライゲーションして作製した(本工程により、pLSC53Aのp53 cDNA配列のうちN末端側の一部(p53 cDNAの約40%)が除去される)。また、p53Stu1 は、pLSC53AをBamHIとStuIでの消化により、p53 cDNAのN末端側の大部分(p53 cDNAの約87%)を切り出し、これをプラスミドpLSXのクローニング部位上のBamHIとSmaI間に挿入して作製した。pLSXは、プラスミドpLS76 からp53 cDNAを除去し、BamHI, SmaI, HindIIIからなるクローニング部位を挿入して作製し、pLSC53A は、pLSXのクローニング部位BamHIとHindIII 間にPCR で作成したp53 cDNAを挿入して作製した(p53 cDNA 両端に制限酵素部位BamHI とHindIII を保持している点でpLS76 とは異なる) 。
【0060】
1-7) 酵母の形質転換とDNA相同組み換えによる変異p53 cDNAの発現ベクター
への組み換えと、酵母での変異p53タンパク質の発現
リチウム酢酸法による形質転換:
出芽酵母ハプロイド株YPH499 (Stratagene, La Jolla, CA, USA)を、p53レポタープラスミドであるpAS03G (Shimada, A., et al., Cancer Res., 59: 2781-2786, 1999)で形質転換し、SC-trp培地(トリプトファン欠損合成培地)で維持する。
次に、この株に2回目のPCR産物とギャップリペアベクターをリチウム酢酸法により導入し、SC-trp-leu培地(ロイシン及びトリプトファン欠損合成培地)で培養すると、酵母細胞内で第2回目のPCR産物とギャップリペアベクターの相同DNA部分間で組み換え(DNA相同組み換え)が起こりp53を発現しうる環状プラスミドを生じたクローンだけが選択される(図6〜8)。
リチウム酢酸法による形質転換は、例えば酵母細胞を一晩培養したものを10 ml のSDAcas液体培地(1%のカザミノ酸及び20μg/mlのアデニンを含んだSD液体培地(0.67% の酵母窒素源 (yeast nitrogen base, Difco), 2% のグルコース))中でA600 0.2程度まで希釈し、次いで、30℃でA600 0.6-1.0になるまで生育し、次に遠心してペレットとし、1 mlの酢酸リチウム溶液(0.1MのLiOAc, 10mM のTris-HCl, 1 mMのEDTA Na2, pH7.5)に懸濁する。遠心後、細胞を50μl のLiOAc 溶液に再懸濁し、このLiOAc 処理細胞を、50μgの直線化したギャップリペアベクターと共に変異を導入したPCR産物を含む1.5ml 溶液に加え、次いで、40% のポリエチレングリコール3350-4000 を含むLiOAc 溶液(300μ1)を添加した。この混合物を撹拌下に30℃で30分間、次いで42℃で15分間インキュベートした。こうして得られた細胞を採集し、70-100μl の滅菌水に再懸濁し、次いで、SC-trp-leu培地(ロイシン及びトリプトファン欠損合成培地)で培養する。
【0061】
1-8) DNAシークエンシングによる変異導入の確認
図6〜8にDNA相同組み換えによって酵母細胞内に作成されたp53発現ベクターを示す。密な点模様の線はPCR由来の変異含有p53 cDNA部分であり、横向きの矢印で示したシークエンス用プライマー(合成オリゴヌクレオチド)で各クローンについて目的の変異が導入されていることと、他の変異が導入されていないことを確認した。
【0062】
シークエンス用プライマーの塩基配列:
OHK-4: 5'-ggaagagaatctccgcaaga-3' 〔配列番号:2353〕
OHK-6: 5'-cgctgctcagatagcgatggt-3' 〔配列番号:2354〕
OHK-7: 5'-cggctcatagggcaccacca-3' 〔配列番号:2355〕
シークエンシングは、ジデオキシチェインターミネーション法に従い、Tag DNA ポリメラーゼあるいは修飾T7 DNAポリメラーゼ及び蛍光標識あるいは放射性標識されたプライマーを用いて行った。例えば、DTCSキット(ベックマンコールター), BigDyeTM Terminator Cycle Sequenceing FS Ready Reaction Kit (Applied Biosystems Japan)などの反応試薬で反応後、CEQ2000 (ベックマンコールター), ABI PRISMTM 3700 DNA Analyzer (Applied Biosystems Japan), ABI PRISMTM 377 DNA Sequencer (Applied Biosystems Japan) などを使用して解析される。
【0063】
1-9) 変異p53タンパク質の機能解析
(機能アッセイによる転写活性化能の評価)
変異p53酵母クローンは、酵母細胞内に1アミノ酸置換を伴うp53を発現する。各酵母クローンはp53レポータープラスミド pAS03G を保持しているため、発現したp53タンパク質が野生型p53同様の塩基配列特異的転写活性化機能を保持している場合は、酵母クローンはpAS03GのGFPマーカー遺伝子からGFPを発現するので、GFP の螢光を観察することにより、転写活性化能を検知できる。
すなわち、p53レポータープラスミド pAS03G は、p53 結合部位 (p53 responsive element: p53RE)をGFPマーカー遺伝子のプロモーター領域(WAF1プロモーターを使用)に含んでおり(p53の下流遺伝子のうちの一つであるp21/WAF1遺伝子のプロモーターをマーカー遺伝子GFPの5'側に挿入されてい有するもので、p21/WAF1遺伝子はこれまでにp53の下流遺伝子であることが報告されている遺伝子の中で最初に報告され、かつ確実にp53の下流遺伝子であることが認められている)、発現したp53タンパク質の塩基配列特異的転写活性化機能に障害がある場合は、酵母クローンはGFPを発現しない、または野生型の場合と比較して弱くGFPを発現する。
-80℃に保存された変異p53酵母クローンを室温で解凍後、96ウェル型レプリケーターを用いて96ウェル対応の角形シャーレに作成した寒天培地上に、各クローンを接種し、培養することにより、1枚の寒天培地で96変異クローンの機能解析が可能である。
機能解析の結果は、下記〔一塩基変異p53 クローン及び変異誘導用合成オリゴヌクレオチドリスト〕に示してある。該リスト中、0: GFPの読みが野生型の30% 未満、1: GFPの読みが野生型の30〜70% 、2: GFPの読みが野生型の 71 〜100%であることを示す。
栄養要求性マーカーであるHIS3、URA3やADE2遺伝子を、利用して機能アッセイを行うこともできる。
【0064】
1-10) 変異p53酵母クローンのライブラリーの保存
各変異p53酵母クローンは、20%グリセリン含有SC-trp-leu液体培地に懸濁し、96ウェルプレート内に入れ(96ウェル内の位置は変異合成オリゴヌクレオチドの場合と同じ)、-80℃で保存されている。
以下の〔一塩基変異p53 クローン及び変異誘導用合成オリゴヌクレオチドリスト〕に、それらを保存してあるプレート番号並びにプレート内での位置、変異酵母クローン名(変異合成オリゴヌクレオチド名と同一)、野生型p53 の中の変異対象のコドン、目的変異コドン、変異合成オリゴヌクレオチド配列 (5'→3') 、既に報告されている変異の数、転写活性能を測定した結果及び配列表の配列番号をその順に記載する。なお、野生型p53のアミノ酸配列(アミノ末端からカルボキシ末端の順序)を〔配列番号:2357〕に示すと共に、一文字表記で示したアミノ酸配列は:
MEEPQSDPSVEPPLSQETFSDLWKLLPENNVLSPLPSQAMDDLMLSPDDIEQWFTEDPGPDEAPRMPEAAPRVAPAPAAPTPAAPAPAPSWPLSSSVPSQKTYQGSYGFRLGFLHSGTAKSVTCTYSPALNKMFCQLAKTCPVQLWVDSTPPPGTRVRAMAIYKQSQHMTEVVRRCPHHERCSDSDGLAPPQHLIRVEGNLRVEYLDDRNTFRHSVVVPYEPPEVGSDCTTIHYNYMCNSSCMGGMNRRPILTIITLEDSSGNLLGRNSFEVRVCACPGRDRRTEEENLRKKGEPHHELPPGSTKRALPNNTSSSPQPKKKPLDGEYFTLQIRGRERFEMFRELNEALELKDAQAGKEPGGSRAHSSHLKSKKGQSTSRHKKLMFKTEGPDSD*
(ここで、*はストップコドンを示す)である。
【0065】
〔一塩基変異p53 クローン及び変異誘導用合成オリゴヌクレオチドリスト〕
▲1▼:プレート番号(酵母クローン、オリゴ共通)
▲2▼:96ウェルプレート内での横位置 ▲3▼:96ウェルプレート内での縦位置
▲4▼:変異酵母クローン名(オリゴ名と共通)
例えば、R175H は、コドン175 のアルギニン:Rがヒスチジン:Hに置換していることを表してある。アミノ酸表記は一文字表記である。
▲5▼:野生型コドン ▲6▼:変異コドン
▲7▼:変異合成オリゴヌクレオチド配列 (5'→3')
(一塩基変異部位を大文字で示す)
▲8▼:報告変異数 ▲9▼:転写活性化能
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【0090】
上記の内、プレート#1と#2に示された変異合成オリゴヌクレオチドで括弧を付してその塩基配列が示されているものは、26mer よりも短い22mer のものから、それよりはるかに長い70merの長さのオリゴヌクレオチドが示されているが、こうした合成オリゴヌクレオチドを使用しても所望のPCR 産物は得られないという結果を得ている。例えば、プレート#1のなかのD228Y, C229Y及びC229W 用の変異合成オリゴヌクレオチド〔配列番号:1345〕, 〔配列番号:1355〕及び〔配列番号:1358〕の塩基長は、それぞれ30, 34, 36であったが、1回目のPCR は不成功であった。また、22〜24mer の長さの変異合成オリゴヌクレオチドを使用して所望のPCR 産物を得ている例は、GCに富んだものであることに留意する必要がある。したがって、変異合成オリゴヌクレオチドとしては、26mer 程度であって、そのほぼ中心位置に一塩基変異部位を持つものが好ましいことが認められる。
【0091】
本発明に従い、網羅的なミスセンス変異作製によるp53 変異の機能を評価した結果、(1)転写活性化ドメインとC末端側の機能調節ドメインはミスセンス変異による感受性(転写活性化能への影響)が極めて低く、逆にDNA結合ドメインと4量体形成ドメインは感受性が高かった、(2)DNA結合ドメインの中で、特に高度に保存されているアミノ酸残基は感受性が高かった、(3)転写機能を傷害する変異、変異報告頻度、系統解析に基づくアミノ酸残基の保存性の3者には相関が認められた、(5) Li-Fraumeni 症候群に報告されているミスセンス変異はすべてp53 転写活性化能を失っていることを確認できた、及び(6)未報告の温度感受性変異を多数見いだした。
かくして、本発明に基づけば、複数のp53下流遺伝子のプロモーターに関してのリポーターアッセイ、野生型p53と変異p53の共発現によるドミナントネガティブ変異の同定、発現変異p53タンパク質の抗原性変化などについて解析し、個々のミスセンス変異に対応したデータベースを構築することが可能である。
そして、網羅的変異の機能解析をさらに発展させることにより、がんの個別化による治療法選択、発癌に関する分子疫学的研究やタンパク質構造解析研究等に役立つ。
【0092】
【発明の効果】
本発明により、網羅的p53 1塩基置換変異cDNAライブラリーを効率的に作成することができる。また、当該作成された網羅的p531塩基置換変異cDNAライブラリーは機能解析情報付きであり、ゲノミックス技術、プロテオミックス技術に利用することができて有用である。本発明では、網羅的p53 1塩基置換変異cDNAライブラリーを使用して核酸アレイを構成することができ、効率的な遺伝子解析技術、診断薬や治療薬の開発に役立つと期待される。
本発明は、前述の説明及び実施例に特に記載した以外も、実行できることは明らかである。上述の教示に鑑みて、本発明の多くの改変及び変形が可能であり、従ってそれらも本件添付の請求の範囲の範囲内のものである。
【0093】
【配列表】
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【図面の簡単な説明】
【図1】 野生型p53 cDNAを保持する典型的なプラスミドであるpLS76 の特徴的な構造部分並びに制限酵素XhoIとEagI切断部位を示す。翻訳開始コドンATGから翻訳停止コドンTGAまでの野生型p53 cDNAのORF を含み、その5'側および3'側にプラスミドpLS76由来の配列を含むDNA断片で、部位特異的変異導入のためのPCR反応に用いた鋳型DNA配列を黒い太実線に示す。
【図2】 p53 に部位特異的変異導入するため用いた鋳型DNA 配列並びに各変異合成オリゴヌクレオチド及び共通合成オリゴヌクレオチドとの間の配置関係を模式的に示す。中央の黒太実線は、p53 cDNAの翻訳領域(ATGからTGAまで)と、その両端のプラスミドpLS76由来の配列を示す。小さい黒矢印は変異合成オリゴヌクレオチドプレート名(各プレートはそれぞれ96種類の変異合成オリゴヌクレオチドを含む) とそれらのp53 cDNA上でのおおよその位置を示す。太い黒矢印は共通合成オリゴヌクレオチドを示す。
【図3】 鋳型p53 DNA 配列並びに第1回目のPCR により得られた各PCR 産物及び共通合成オリゴヌクレオチドとの間の配置関係を模式的に示す。黒太実線は、p53 cDNAの翻訳領域(ATGからTGAまで)と、その両端のプラスミドpLS76由来の配列を示す。細い点模様の線は、第1回目のPCR 産物を示す。太い黒矢印は共通合成オリゴヌクレオチドを示す。
【図4】 鋳型p53 DNA 配列並びに第2回目のPCR により得られた各PCR 産物との間の配置関係を模式的に示す。黒太実線は、p53 cDNAの翻訳領域(ATGからTGAまで)と、その両端のプラスミドpLS76由来の配列を示す。細い点模様の線は、第2回目のPCR 産物を示す。
【図5】 変異導入されたPCR産物を組込むのに使用するギャップリペアベクターの特徴的な構造並びに制限酵素切断部位の概略図を示す。ギャップリペアベクターとして、プラスミドpSS16 、プラスミドp53Nco1及びプラスミドp53Stu1 由来のものが示してある。
【図6】 変異導入されたPCR産物及びそれを組込むのに使用するギャップリペアベクター(プラスミドpSS16由来)との関係を模式的に示す。横向きの矢印はシークエンシングに使用した合成オリゴヌクレオチドの位置を示す。点模様の太線は、変異導入されたDNA 配列部分を示す。
【図7】 変異導入されたPCR産物及びそれを組込むのに使用するギャップリペアベクター(プラスミドp53Nco1由来)との関係を模式的に示す。横向きの矢印はシークエンシングに使用した合成オリゴヌクレオチドの位置を示す。点模様の太線は、変異導入されたDNA 配列部分を示す。
【図8】 変異導入されたPCR産物及びそれを組込むのに使用するギャップリペアベクター(プラスミドp53Stu1由来)との関係を模式的に示す。横向きの矢印はシークエンシングに使用した合成オリゴヌクレオチドの位置を示す。点模様の太線は、変異導入されたDNA 配列部分を示す。

Claims (10)

  1. 網羅的変異p53 遺伝子ライブラリーは、複数の変異p53 遺伝子クローンから構成されるライブラリーで、
    (A) 一つの変異p53 遺伝子クローンは一つの変異p53 塩基配列を保持するものであり、
    (1) 該一つの変異p53 塩基配列は、配列番号:2356の野生型p53 塩基配列あるいはその遺伝子多型のうちの1塩基について塩基置換の変異を含有するものであり且つ
    (2) 該野生型p53 塩基配列あるいはその遺伝子多型の第2コドンから最終コドン(第393 コドン)までのものから選ばれたコドンの1塩基置換に基づいて生じうる1アミノ酸変異を指定しているもので、
    (B) 該網羅的変異p53 遺伝子ライブラリーは、
    次なる網羅的特徴:
    列番号:2356の野生型p53 塩基配列あるいはその遺伝子多型のうちの第2コドンから最終コドン(第393 コドン)までの各コドンに対応する各1アミノ酸変異に対し、それぞれ少なくとも一つの対応する1塩基置換を有する変異p53 塩基配列を保持する変異p53 遺伝子クローンのすべての種類の変異セットを含んでい
    を満足するもので、
    且つ、
    なる構築基準:
    (i) 1塩基置換によって生じうるすべての1アミノ酸置換型変異(ミスセンス変異)を配列番号:2356の野生型p53 塩基配列のうちの第2コドンから最終コドン(第393 コドン)までの遺伝子翻訳領域に構築するようにする、及び
    (ii) 配列番号:2356の野生型p53 塩基配列のうちの第2コドンから最終コドン(第393 コドン)までの遺伝子翻訳領域において、塩基置換によって生ずる1アミノ酸置換を、当該1アミノ酸置換に関して該アミノ酸をコードするコドンが複数存在することなく、網羅するライブラリーとす
    から成る群から選ばれたものの少なくとも一つを満足する
    ものであることを特徴とする網羅的変異p53 遺伝子ライブラリー。
  2. 野生型p53 の第2コドンから最終コドンまでの塩基配列に点変異を有するものである請求項1記載の網羅的変異p53 遺伝子ライブラリー。
  3. 点変異を有するp53 塩基配列であって、2314種類の変異p53 塩基配列からなる集合体で、該2314種類の変異p53は塩基配列とアミノ酸配列がともに野生型p53とそれぞれ1塩基と1アミノ酸だけ異なるものであることを特徴とする請求項1又は2記載の網羅的変異p53 遺伝子ライブラリー。
  4. 配列番号 1〜2345から成る群から選ばれた変異合成オリゴヌクレオチドに対応する1塩基置換の点変異を、それぞれ配列番号:2356の野生型p53 塩基配列のうちに有する変異p53 塩基配列について1塩基置換によって生じるすべての1アミノ酸置換型変異を示す塩基配列を網羅的に含有することを特徴とする請求項1〜3のいずれか一記載の網羅的変異p53 遺伝子ライブラリー。
  5. 該変異p53 遺伝子ライブラリーが、〔一塩基変異p53 クローン及び変異誘導用合成オリゴヌクレオチドリスト〕中の変異酵母クローン名に示されたクローン中に保持された変異p53 塩基配列であり、当該変異p53 塩基配列が上記変異酵母クローン名に示されたクローンのすべての数を網羅的に含有している集合体であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一記載の網羅的変異p53 遺伝子ライブラリー。
  6. (1) 配列番号:2356の野生型p53 塩基配列の第2コドンから最終コドンまでのコドンの1塩基の点変異を指定する変異合成オリゴヌクレオチドを用意し、該変異合成オリゴヌクレオチドをプライマーとし、該プライマーと共通オリゴヌクレオチドプライマーとを組合わせて使用し且つ野生型p53 塩基配列を有する鋳型核酸を使用してポリメラーゼ連鎖反応(polymerase chain reaction: PCR)を行って、第1回目のPCR 産物を製造し、次に(2) 共通オリゴヌクレオチドプライマーと組合わせて該第1回目のPCR 産物をプライマーとし野生型p53 塩基配列を有する鋳型核酸を使用してPCR を行い且つ該第2回目のPCR を2段階の条件下に行って第2回目のPCR 産物を製造し、(3) 該第2回目のPCR 産物をギャップリペアベクターに組込んで、宿主細胞を形質転換し、所望の変異p53 塩基配列を保有する形質転換体を選択し、
    次なる構築基準:
    (i) 1塩基置換によって生じうるすべての1アミノ酸置換型変異(ミスセンス変異)を配列番号:2356の野生型p53 塩基配列のうちの第2コドンから最終コドン(第393 コドン)までの遺伝子翻訳領域に構築するようにする、及び
    (ii) 配列番号:2356の野生型p53 塩基配列のうちの第2コドンから最終コドン(第393 コドン)までの遺伝子翻訳領域において、塩基置換によって生ずる1アミノ酸置換を、当該1アミノ酸置換に関して該アミノ酸をコードするコドンが複数存在することなく、網羅するライブラリーとす
    から成る群から選ばれたものの少なくとも一つを満足するように、請求項1記載の網羅的変異p53 遺伝子ライブラリーを構築することを特徴とする網羅的変異p53 遺伝子ライブラリーの製造法。
  7. 変異合成オリゴヌクレオチドが、塩基数が少なくとも25〜29であり且つほぼその中心部位に1塩基の点変異を指定するものであり、網羅的変異p53 遺伝子ライブラリーは、複数の上記変異p53 遺伝子クローンから構成されるライブラリーで、
    次なる網羅的特徴:
    列番号:2356の野生型p53 塩基配列あるいはその遺伝子多型のうちの第2コドンから最終コドン(第393 コドン)までの各コドンに対応する各1アミノ酸変異に対し、それぞれ少なくとも一つの対応する1塩基置換を有する変異p53 塩基配列を保持する変異p53 遺伝子クローンのすべての種類の変異セットを含んでい
    を満足するものであることを特徴とする請求項6記載の網羅的変異p53 遺伝子ライブラリーの製造法。
  8. 網羅的変異p53 遺伝子ライブラリーが、点変異を有するp53 塩基配列であって、2314種類の変異p53 塩基配列からなる集合体で、該2314種類の変異p53は塩基配列とアミノ酸配列がともに野生型p53とそれぞれ1塩基と1アミノ酸だけ異なるものであることを特徴とする請求項6又は7のいずれか一記載の網羅的変異p53 遺伝子ライブラリーの製造法。
  9. 網羅的変異p53 遺伝子ライブラリーが、配列番号 1〜2345から成る群から選ばれた変異合成オリゴヌクレオチドに対応する1塩基置換の点変異を、それぞれ配列番号:2356の野生型p53 塩基配列のうちに有する変異p53 塩基配列について1塩基置換によって生じるすべての1アミノ酸置換型変異を示す塩基配列を網羅的に含有することを特徴とする請求項6〜のいずれか一記載の網羅的変異p53 遺伝子ライブラリーの製造法。
  10. 該変異p53 ライブラリーが、〔一塩基変異p53 クローン及び変異誘導用合成オリゴヌクレオチドリスト〕中の変異酵母クローン名に示されたクローン中に保持された変異p53 塩基配列であり、当該変異p53 塩基配列が上記変異酵母クローン名に示されたクローンのすべての数を網羅的に含有している集合体であることを特徴とする請求項6〜のいずれか一記載の網羅的変異p53 遺伝子ライブラリーの製造法。
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