以下、本発明を図面に基づいて具体的に説明する。
図1は、本発明による蛍光読取り装置の一例の概略図である。
本発明のディスク状バイオチップ1は、モーター3により回転駆動駆動されるステージ21上に保持されている。バイオチップ1の上方に位置する読み取りヘッド11はX方向駆動モーター4によりX方向に連続的に駆動される。レーザー光源4から発生したレーザー光10は読み取りヘッド11からバイオチップ1に照射され、バイオチップ1から発生された蛍光は読み取りヘッド11を介して光電子増倍管16で受光される。レーザー光源4は、マーカーとして使用される蛍光物質の励起に適した波長のレーザー光を発生する。
バイオチップ1の読み取りに際し、読み取りヘッド1は制御用コンピュータ8の制御下にX方向駆動モーター14によってX軸レール22に沿ってX方向に連続移動され、バイオチップ1を保持するステージ21は同様に制御用コンピュータ8の制御下にY方向に回転する。
以下、本発明のディスク状バイオチップについて詳細に説明する。
本発明のディスク状バイオチップは、ディスク状の固相支持体に、細胞が固定されている。その細胞は、以下aおよびbを含有する組成物によって前記固相支持体に固定されている。a)正に荷電した物質と負に荷電した物質との複合体;およびb)塩。
複合体と塩との混合溶液(組成物)を、固相支持体上にスポッティングし、スポットを自然乾燥させることによって生体分子(例えば、DNA)を固定することができる。そして、その生体分子(DNA)が固定された固相支持体の生体分子に細胞を含む培地等を滴下し、その後、所定条件でインキュベートすることにより、トランスフェクトさせることができる。
以下、使用材料について順次説明する。
(組成物)
本発明に使用される、生体分子のような物質を固相支持体に固定するための組成物は、固定されるべき物質と、その物質とは反対の電荷を有する物質との複合体、および塩(例えば、培地中に含まれる塩類)を含む。
これらの複合体と塩との混合による予想外の効果で、固定されるべき物質が、固相支持体に簡便に固定されることが見いだされた。このような固定による効果は、固定後の物質の拡散が徐放であること、および固定後の物質が細胞親和性を保つか改善されていることなどが挙げられる。ここで、固定を目的とする物質は、正に荷電した物質および負に荷電した物質のいずれでも、あるいはその両方でもよい。
1つの好ましい実施形態において、正に荷電した物質および負に荷電した物質の少なくとも一方は、細胞親和性を有する。ある物質の細胞親和性は、その物質と細胞とを混合したときに、その物質が存在しないときに比べて、その細胞の生存が維持されるか否かを評価することによって判断することができる。そのような細胞の生存の維持は、細胞の種々のパラメータを測定することによって具体的に判断することができる。好ましくは、細胞親和性を有する物質は、その細胞の生存を改善することが有利であり得る。
好ましい実施形態において、正に荷電した物質および負に荷電した物質の両方が細胞親和性を有することが有利である。このような場合、両方の物質が複合体を形成したときにも細胞親和性を喪失しないことが好ましいがそれに限定されない。
好ましい実施形態において、正に荷電した物質および負に荷電した物質の少なくとも一方は、生体分子であり得る。ここで、この生体分子が固定の目的の対象であってもよいし、そうでなくてもよい。
本発明の好ましい実施形態において使用され得るそのような生体分子としては、DNA(例えば、ゲノムDNA、cDNAなど)、RNA(例えば、mRNAなど)、ポリペプチド、脂質、糖、有機低分子(例えば、コンビナトリアルケミストリのライブラリーメンバー)、およびこれらの複合体(例えば、糖タンパク質、糖脂質、核酸ペプチド、リポタンパク質などが含まれるがそれらに限定されない)が挙げられるがそれらに限定されない。
1つの特定の実施形態では、本発明において固定されるべき生体分子は、DNAのような遺伝子コード分子であり得る。本発明において達成された固定方法を用いることによって、DNAがトランスフェクトのような遺伝子導入のための処置がされるときに、処置の完了に必要な時間(例えば、約15分から約30分程度)、継続して徐放が起こることによって、そのような分子の導入が効率よく行われるという効果が達成された。このような徐放効果は、従来の固定方法では達成されなかったか、十分ではなかったことから、このような効果は、本発明の特筆すべき効果として挙げることができる。また、組成物は、固定された後に、細胞に対する親和性が保持されるかあるいは改善され、特に、トランスフェクションのような遺伝子の導入において従来の固定方法よりも効率よくかつ細胞に対するダメージなしにそのような導入が行われることが見いだされた。
本発明の好ましい実施形態において、固定されるべき負に荷電した物質は、DNA、RNA、PNA、ポリペプチド及びその複合体のような生体分子でもよく、アニオン性ポリマー、アニオン性脂質のように生体分子でなくてもよい。
本発明の好ましい実施形態において、固定されるべき正に荷電した物質は、生体分子でもよく、生体分子でなくてもよく、例えば、カチオン性ポリマー、カチオン性脂質ポリLリシンなど合成ポリペプチドもしくはそれらの誘導体などであり得る。好ましい実施形態において、正に荷電した物質としては、例えば、ポリイミンポリマー、ポリLリシン、合成ポリペプチドもしくはそれらの誘導体などのトランスフェクション試薬などが挙げられるがそれらに限定されない。
固相上のトランスフェクションを目的とした特定の実施形態において、固定されるべき物質として負に荷電したDNAが選択され、その複合体パートナーとしてはポリイミンポリマーのような正に荷電した物質が選択されることが好ましい。この場合、塩としては、細胞に親和性のある塩(例えば、培地に用いられる塩類、緩衝液中で用いられる塩類など)が挙げられるがそれらに限定されない。好ましくは、トランスフェクションを目的とする場合は、培地または緩衝液中に含まれる塩類すべての組み合わせを用いることが有利であり得る。このような塩類の組み合わせは、通常細胞にとって好ましい組み合わせであるからである。そのような培地の例示としては、例えば、ダルベッコMEM、HAM12培地、αMEM培地、RPM1640(例えば、ニチレイから市販)が挙げられるがそれらに限定されない。そのような培地に含まれる塩類としては、例えば、塩化カルシウム、塩化カリウム、リン酸一カリウム、リン酸二カリウム、塩化マグネシウム、塩化ナトリウム、リン酸一ナトリウム、リン酸二ナトリウムなどが挙げられるがそれらに限定されない。そのような塩の濃度は、当業者が適宜選択して調整することができるが、好ましくは、細胞の浸透圧とほぼ等しいことが有利であり得る。
好ましい実施形態では、固定される生体分子は、細胞に導入され、その細胞内で生物学的活性(例えば、薬効、酵素、シグナル伝達、遺伝子発現など)を発揮することが有利であり得る。
遺伝子発現が目的とされる場合には、生体分子はその遺伝子をコードする配列を含むDNAであり得る。シグナル伝達が目的とされる場合には、生体分子はシグナル伝達刺激因子(例えば、サイトカイン、特定のリガンドなど)などであり得る。薬効が目的とされる場合は、生体分子は薬効を有する化学物質であり得る。
そのような薬効を有する化学物質としては、例えば、中枢神経系用薬;末梢神経用剤;感覚器官用薬;循環器官用薬;呼吸器官用薬;消化器官用薬;ホルモン剤;泌尿生殖器官および肛門用薬;外皮用薬;歯科口腔用剤;その他の個々の器官系用薬;ビタミン剤;滋養強壮薬;血液および体液用薬;人工透析用薬;その他の代謝性医薬品(例えば、臓疾患用剤、解毒剤、習慣性中毒用剤、痛風治療剤、酵素製剤、糖尿病用剤、他に分類されない代謝性薬など);細胞賦活用剤;腫瘍用薬;放射性医薬品;アレルギー用薬;抗生物質製剤;化学療法剤;生物学的製剤;調剤用薬;診断用薬;体外診断用医薬品;分類されない治療を主目的としない薬剤;ならびに麻薬などが挙げられるがそれらに限定されない。
医薬としての使用を目的とする場合は、組成物において含まれる複合体および塩は、薬学的に受容可能であることが好ましい。
(固相支持体)
本発明に使用される固相支持体は、ガラス、シリカ、シリコン、セラミック、二酸化珪素、プラスチック、金属、天然ポリマーおよび合成ポリマーからなる群より選択される材料を含むがそれに限定されない。
固相支持体は、コーティングされていてもよい。コーティングは、ポリ−L−リジン、シラン、APS、MAS、疎水性フッ素樹脂、金属など、通常固相支持体において使用することが企図される物質を利用して行うことができる。好ましい実施形態では、細胞培養において利用されるコーティング剤(例えば、ポリ−L−リジン、シラン、APS、MAS、疎水性フッ素樹脂、金属)などを使用することができる。
このような固定による効果により、本発明のチップは、固体支持体上に固定された物質の徐放性を有し、および/または固定された物質が細胞親和性を保つかまたは改善されていることなどが達成される。従って、本発明のチップは、細胞などの生体またはその一部を用いたアッセイなどに用いられるマイクロタイタープレート、アレイ(チップ)、ウェルなどの形態として提供され、固定されるべき物質(活性成分、発現遺伝子をコードするDNAなど)が徐放されることおよび/または細胞親和性が保持されることが所望されるアッセイなどにおいて有用である。
あるいは、ある有効成分が徐放されることが好ましい場合において、医薬送達媒体として使用され得る。そのような場合は、複合体を構成する物質、塩および固相支持体は、生体適合性であり、好ましくは薬学的に受容可能であることが所望される。
上記構成の複合体(組成物)を提供する工程は、生体分子を破壊しない条件下で行われる。このような生体分子を破壊しない条件は、当業者であれば、提供されるおのおのの複合体パートナーの種類、複合体形成の他の条件(例えば、pH、温度など)を考慮することによって適切に選択することができ、あるいは、予備的に適切な条件を試験することによって容易に選択することができる。そのような適切な条件の選択または試験は、当業者の技術常識の範囲内であり、当業者は過度な実験をすることなく決定することができる。
上記構成の固相支持体に組成物を付着するには、どのような工程を用いてもよく、手動(ピペッティングなど)でも、自動(例えば、インクジェットプリンターなどのプリンター技術)でもよい。好ましくは、インクジェットプリンターのプリントピンを用いて付着させることができる。
本発明の好ましい実施形態において、混合物(組成物)を固相支持体に付着した後、その混合物中の溶媒を低減または除去する工程をさらに包含することが有利であり得る。そのような溶媒低減または除去は、自然乾燥、凍結乾燥、乾燥剤を用いた感想などが挙げられるがそれらに限定されない。
該固定が達成された後に引き続いて上述の工程(例えば、トランスフェクションなどの遺伝子導入、シグナル伝達測定、薬剤送達など)が行われてもよく、あるいは、固定した後一定期間保存された後に上述の工程が行われてもよい。保存される場合は、本発明の方法によって固定された後に、徐放が開始しないような処置(徐放に使用される溶媒とは異なる保存溶媒に浸すか、あるいは、乾燥させるなど)を行うことが好ましい。
固相上のトランスフェクションを目的とした特定の実施形態において、固定されるべき物質として負に荷電したDNAが選択され、その複合体パートナーとしてはポリイミンポリマーのような正に荷電した物質が選択されることが好ましい。この場合、塩としては、細胞に親和性のある塩(例えば、培地に用いられる塩類、緩衝液中で用いられる塩類など)が挙げられるがそれらに限定されない。
本発明のディスク状バイオチップおよび読取り装置は、ヒト用途でも使用され得るが、その他の宿主(例えば、哺乳動物など)を対象として使用されてもよい。
(アクチン作用物質)
本明細書において「アクチン作用物質」とは、細胞内のアクチンに対して直接的または間接的に相互作用して、アクチンの形態または状態を変化させる機能を有する物質をいう。そのような物質としては、例えば、細胞外マトリクスタンパク質(例えば、フィブロネクチン、ビトロネクチン、ラミニンなど)が挙げられるがそれらに限定されない。そのようなアクチン作用物質には、以下のようなアッセイによって同定される物質が含まれる。本明細書において、アクチンへの相互作用の評価は、アクチン染色試薬(Molecular Probes, Texas Red−X phalloidin)などによりアクチンを可視化した後、顕鏡し、アクチン凝集や細胞伸展を観察することによってアクチンの凝集、再構成および/または細胞伸展速度の向上という現象が確認されることによって判定される。これらの判定は、定量的または定性的に行われ得る。本発明において用いられるアクチン作用物質が生体に由来する場合、その由来は何でもよく、例えば、ヒト、マウス、ウシなどの哺乳動物種があげられる。
本明細書において「細胞外マトリクスタンパク質」とは「細胞外マトリクス」のうちタンパク質であるものをいう。本明細書において「細胞外マトリクス」(ECM)とは「細胞外基質」とも呼ばれ、当該分野において通常用いられる意味と同様の意味で用いられ、上皮細胞、非上皮細胞を問わず体細胞(somatic cell)の間に存在する物質をいう。細胞外マトリクスは、組織の支持だけでなく、すべての体細胞の生存に必要な内部環境の構成に関与する。細胞外マトリクスは一般に、結合組織細胞から産生されるが、一部は上皮細胞または内皮細胞のような基底膜を保有する細胞自身からも分泌される。細胞外マトリクスは一般に、線維成分とその間を満たす基質とに大別され、線維成分としては膠原線維および弾性線維がある。基質の基本構成成分はグリコサミノグリカン(酸性ムコ多糖)であり、その大部分は非コラーゲン性タンパクと結合してプロテオグリカン(酸性ムコ多糖−タンパク複合体)の高分子を形成する。このほかに、基底膜のラミニン、弾性線維周囲のミクロフィブリル(microfibril)線維、細胞表面のフィブロネクチンなどの糖タンパクも基質に含まれる。特殊に分化した組織でも基本構造は同一で、例えば硝子軟骨では軟骨芽細胞によって特徴的に大量のプロテオグリカンを含む軟骨基質が産生され、骨では骨芽細胞によって石灰沈着が起こる骨基質が産生される。従って、本発明において用いられる細胞外マトリクスとしては、例えば、コラーゲン、エラスチン、プロテオグリカン、グリコサミノグリカン、フィブロネクチン、ビトロネクチン、ラミニン、弾性繊維、膠原繊維などが挙げられるがそれに限定されない。本発明において用いられる場合、細胞外マトリクスタンパク質としては、例えば、フィブロネクチン、ビトロネクチン、ラミニンなどが挙げられるがそれらに限定されない。
本発明おいて使用される細胞外マトリクスタンパク質としては、例えば、フィブロネクチンおよびその改変体(例えば、プロネクチンF、プロネクチンL、プロネクチンPlusなど)、ラミニン、ビトロネクチンからなる群より選択される少なくとも1つのタンパク質またはその改変体もしくはフラグメントが挙げられるがそれらに限定されない。そのようなフラグメントは、ある一定の分子量を有する(例えば、少なくとも10kDa)ことが好ましい。そのようなフラグメントは、そのような好ましい分子量を有していれば、細胞外マトリクスタンパク質のわずか3アミノ酸(例えば、RGD配列)、好ましくは少なくとも5アミノ酸(IKVAV)を有していれば、アクチンへの相互作用が保持される限り、その他の配列を任意に変更したものであっても使用することができる。
本明細書において「Fn1ドメイン」とは、通常、フィブロネクチンのアミノ酸配列のN末端から約29kDaまでの部分の配列(例えば、配列番号11のアミノ酸21位〜241)をいう。別の実施形態では、このドメインは、フィブロネクチンのアミノ酸配列のN末端から約72kDa間での部分の配列(例えば、配列番号11のアミノ酸21位〜577位)を含み得る。本発明において有用なアクチン作用物質の一例としては、このようなFn1ドメインを含むポリペプチドまたはその改変体が挙げられるがそれらに限定されない。
本明細書において「フィブロネクチン」は、当該分野において使用される意味と同じ意味で用いられ、従来接着因子の一つとして分類されるタンパク質であり、細胞接着機能に注目されて研究が進められている。
本明細書では、フィブロネクチンをコードする遺伝子は、
(a)配列番号1に記載の塩基配列またはそのフラグメント配列を有するポリヌクレオチド;
(b)配列番号2または11に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチドまたはそのフラグメントをコードするポリヌクレオチド;
(c)配列番号2または11に記載のアミノ酸配列において、1以上のアミノ酸が、置換、付加および欠失からなる群より選択される少なくとも1つの変異を有する改変体ポリペプチドであって、生物学的活性を有する改変体ポリペプチドをコードする、ポリヌクレオチド;
(d)配列番号1に記載の塩基配列のスプライス変異体または対立遺伝子変異体である、ポリヌクレオチド;
(e)配列番号2または11に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチドの種相同体をコードする、ポリヌクレオチド;
(f)(a)〜(e)のいずれか1つのポリヌクレオチドにストリンジェント条件下でハイブリダイズし、かつ生物学的活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド;または
(g)(a)〜(e)のいずれか1つのポリヌクレオチドまたはその相補配列に対する同一性が少なくとも70%である塩基配列からなり、かつ、生物学的活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、を含む。ここで、生物学的活性としては、細胞接着活性、ヘパリン結合活性、コラーゲン結合活性、および本発明によって初めて発見されたアクチン作用活性があるがそれらに限定されない。好ましくは、そのような生物学的活性は、アクチン作用活性である。
本明細書において「フィブロネクチン」または「フィブロネクチンポリペプチド」は、
(a)少なくとも配列番号2または11に記載のアミノ酸配列を有するタンパク質分子またはその改変体;
(b)配列番号2または11に記載のアミノ酸配列において、1以上のアミノ酸が置換、付加および欠失からなる群より選択される少なくとも1つの変異を有し、かつ、生物学的活性を有する、ポリペプチド;
(c)配列番号1に記載の塩基配列のスプライス変異体または対立遺伝子変異体によってコードされる、ポリペプチド;
(d)配列番号2または11に記載のアミノ酸配列の種相同体である、ポリペプチド;または
(e)(a)〜(d)のいずれか1つのポリペプチドに対する同一性が少なくとも70%であるアミノ酸配列を有し、かつ、生物学的活性を有する、ポリペプチド、を含む。
本明細書において「ビトロネクチン」は、当該分野において使用される意味と同じ意味で用いられ、従来接着因子の一つとして分類されるタンパク質であり、細胞接着機能に注目されて研究が進められている。
本明細書では、ビトロネクチンをコードする遺伝子は、
(a)配列番号3に記載の塩基配列またはそのフラグメント配列を有するポリヌクレオチド;
(b)配列番号4に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチドまたはそのフラグメントをコードするポリヌクレオチド;
(c)配列番号4に記載のアミノ酸配列において、1以上のアミノ酸が、置換、付加および欠失からなる群より選択される少なくとも1つの変異を有する改変体ポリペプチドであって、生物学的活性を有する改変体ポリペプチドをコードする、ポリヌクレオチド;
(d)配列番号3に記載の塩基配列のスプライス変異体または対立遺伝子変異体である、ポリヌクレオチド;
(e)配列番号4に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチドの種相同体をコードする、ポリヌクレオチド;
(f)(a)〜(e)のいずれか1つのポリヌクレオチドにストリンジェント条件下でハイブリダイズし、かつ生物学的活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド;または
(g)(a)〜(e)のいずれか1つのポリヌクレオチドまたはその相補配列に対する同一性が少なくとも70%である塩基配列からなり、かつ、生物学的活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、を含む。ここで、生物学的活性としては、細胞接着活性、ヘパリン結合活性、コラーゲン結合活性、補体活性化活性および本発明によって初めて発見されたアクチン作用活性があるがそれらに限定されない。好ましくは、そのような生物学的活性は、アクチン作用活性である。
本明細書において「ビトロネクチン」または「ビトロネクチンポリペプチド」は、
(a)少なくとも配列番号4に記載のアミノ酸配列を有するタンパク質分子またはその改変体;
(b)配列番号4に記載のアミノ酸配列において、1以上のアミノ酸が置換、付加および欠失からなる群より選択される少なくとも1つの変異を有し、かつ、生物学的活性を有する、ポリペプチド;
(c)配列番号3に記載の塩基配列のスプライス変異体または対立遺伝子変異体によってコードされる、ポリペプチド;
(d)配列番号4に記載のアミノ酸配列の種相同体である、ポリペプチド;または
(e)(a)〜(d)のいずれか1つのポリペプチドに対する同一性が少なくとも70%であるアミノ酸配列を有し、かつ、生物学的活性を有する、ポリペプチド、を含む。
本明細書において「ラミニン」は、当該分野において使用される意味と同じ意味で用いられ、従来接着因子の一つとして分類されるタンパク質であり、細胞接着機能に注目されて研究が進められている。
本明細書では、ラミニンをコードする遺伝子は、
(a)配列番号5、7および9に記載の塩基配列またはそのフラグメント配列を有するポリヌクレオチド;
(b)配列番号6、8および10に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチドまたはそのフラグメントをコードするポリヌクレオチド;
(c)配列番号6、8および10に記載のアミノ酸配列において、1以上のアミノ酸が、置換、付加および欠失からなる群より選択される少なくとも1つの変異を有する改変体ポリペプチドであって、生物学的活性を有する改変体ポリペプチドをコードする、ポリヌクレオチド;
(d)配列番号5、7および9に記載の塩基配列のスプライス変異体または対立遺伝子変異体である、ポリヌクレオチド;
(e)配列番号6、8および10に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチドの種相同体をコードする、ポリヌクレオチド;
(f)(a)〜(e)のいずれか1つのポリヌクレオチドにストリンジェント条件下でハイブリダイズし、かつ生物学的活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド;または
(g)(a)〜(e)のいずれか1つのポリヌクレオチドまたはその相補配列に対する同一性が少なくとも70%である塩基配列からなり、かつ、生物学的活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、を含む。ここで、生物学的活性としては、細胞接着活性、ヘパリン結合活性、コラーゲン結合活性、補体活性化活性および本発明によって初めて発見されたアクチン作用活性があるがそれらに限定されない。好ましくは、そのような生物学的活性は、アクチン作用活性である。
本明細書において「ラミニン」または「ラミニンポリペプチド」は、
(a)少なくとも配列番号6、8および10に記載のアミノ酸配列を有するタンパク質分子またはその改変体;
(b)配列番号6、8および10に記載のアミノ酸配列において、1以上のアミノ酸が置換、付加および欠失からなる群より選択される少なくとも1つの変異を有し、かつ、生物学的活性を有する、ポリペプチド;
(c)配列番号5、7および9に記載の塩基配列のスプライス変異体または対立遺伝子変異体によってコードされる、ポリペプチド;
(d)配列番号6、8および10に記載のアミノ酸配列の種相同体である、ポリペプチド;または
(e)(a)〜(d)のいずれか1つのポリペプチドに対する同一性が少なくとも70%であるアミノ酸配列を有し、かつ、生物学的活性を有する、ポリペプチド、を含む。
本明細書において「細胞接着分子」(Cell adhesion molecule)または「接着分子」とは、互換可能に使用され、2つ以上の細胞の互いの接近(細胞接着)または基質と細胞との間の接着を媒介する分子をいう。一般には、細胞と細胞の接着(細胞間接着)に関する分子(cell−cell adhesion molecule)と,細胞と細胞外マトリックスとの接着(細胞−基質接着)に関与する分子(cell−substrate adhesion molecule)に分けられる。本発明の組織片では、いずれの分子も有用であり、有効に使用することができる。従って、本明細書において細胞接着分子は、細胞−基質接着の際の基質側のタンパク質を包含するが、本明細書では、細胞側のタンパク質(例えば、インテグリンなど)も包含され、タンパク質以外の分子であっても、細胞接着を媒介する限り、本明細書における細胞接着分子または細胞接着分子の概念に入る。
細胞間接着に関しては、カドヘリン、免疫グロブリンスーパーファミリーに属する多くの分子(NCAM、L1、ICAM、ファシクリンII、IIIなど)、セレクチンなどが知られており、それぞれ独特な分子反応により細胞膜を結合させることも知られている。
他方、細胞−基質接着のために働く主要な細胞接着分子はインテグリンで,細胞外マトリックスに含まれる種々のタンパク質を認識し結合する。これらの細胞接着分子はすべて細胞膜表面にあり,一種のレセプター(細胞接着受容体)とみなすこともできる。従って、細胞膜にあるこのようなレセプターもまた本発明の組織片において使用することができる。そのようなレセプターとしては、例えば、αインテグリン、βインテグリン、CD44,シンデカンおよびアグリカンなどが挙げられるがそれに限定されない。細胞接着に関する技術は、上述のもののほかの知見も周知であり、例えば、細胞外マトリックス −臨床への応用− メディカルレビュー社に記載されている。
ある分子が細胞接着分子であるかどうかは、生化学的定量(SDS−PAG法、標識コラーゲン法)、免疫学的定量(酵素抗体法、蛍光抗体法、免疫組織学的検討)PDR法、ハイブリダイゼイション法などのようなアッセイにおいて陽性となることを決定することにより判定することができる。このような細胞接着分子としては、コラーゲン、インテグリン、フィブロネクチン、ラミニン、ビトロネクチン、フィブリノゲン、免疫グロブリンスーパーファミリー(例えば、CD2、CD4、CD8、ICM1、ICAM2、VCAM1)、セレクチン、カドヘリンなどが挙げられるがそれに限定されない。このような細胞接着分子の多くは、細胞への接着と同時に細胞間相互作用による細胞活性化の補助シグナルを細胞内に伝達する。そのような補助シグナルを細胞内に伝達することができるかどうかは、生化学的定量(SDS−PAG法、標識コラーゲン法)、免疫学的定量(酵素抗体法、蛍光抗体法、免疫組織学的検討)PDR法、ハイブリダイゼイション法というアッセイにおいて陽性となることを決定することにより判定することができる。
細胞接着分子としては、例えば、カドヘリン、免疫グロブリンスーパーファミリー分子(CD 2、LFA−3、ICAM−1、CD2、CD4、CD8、ICM1、ICAM2、VCAM1など);インテグリンファミリー分子(LFA−1、Mac−1、gpIIbIIIa、p150、95、VLA1、VLA2、VLA3、VLA4、VLA5、VLA6など);セレクチンファミリー分子(L−セレクチン,E−セレクチン,P−セレクチンなど)などが挙げられるがそれらに限定されない。本発明が開示される前は、このような物質がトランスフェクション効率を上昇させることは知られていなかった。
(一般技術)
本明細書において用いられる分子生物学的手法、生化学的手法、微生物学的手法は、当該分野において周知であり慣用されるものであり、例えば、Sambrook J.et al.(1989).Molecular Cloning: A Laboratory Manual,Cold Spring Harborおよびその3rd Ed.(2001);Ausubel,F.M.(1987).Current Protocols in Molecular Biology,Greene Pub.Associates and Wiley−Interscience;Ausubel,F.M.(1989).Short Protocols in Molecular Biology: A Compendium of Methods from Current Protocols in Molecular Biology,Greene Pub.Associates and Wiley−Interscience;Innis,M.A.(1990).PCR Protocols: A Guide to Methods and Applications,Academic Press;Ausubel,F.M.(1992).Short Protocols in Molecular Biology: A Compendium of Methods from Current Protocols in Molecular Biology,Greene Pub.Associates;Ausubel,F.M.(1995).Short Protocols in Molecular Biology: A Compendium of Methods from Current Protocols in Molecular Biology,Greene Pub.Associates;Innis,M.A.et al.(1995).PCR Strategies,Academic Press;Ausubel,F.M.(1999).Short Protocols in Molecular Biology: A Compendium of Methods from Current Protocols in Molecular Biology,Wiley,and annual updates;Sninsky,J.J.et al.(1999).PCR Applications: Protocols for Functional Genomics,Academic Press、別冊実験医学「遺伝子導入&発現解析実験法」羊土社、1997などに記載されており、これらは本明細書において関連する部分(全部であり得る)が参考として援用される。
人工的に合成した遺伝子を作製するためのDNA合成技術および核酸化学については、例えば、Gait,M.J.(1985).Oligonucleotide Synthesis:A Practical Approach,IRLPress;Gait,M.J.(1990).Oligonucleotide Synthesis:A Practical Approach,IRL Press;Eckstein,F.(1991).Oligonucleotides and Analogues:A Practical Approac,IRL Press;Adams,R.L.et al.(1992).The Biochemistry of the Nucleic Acids,Chapman&Hall;Shabarova,Z.et al.(1994).Advanced Organic Chemistry of Nucleic Acids,Weinheim;Blackburn,G.M.et al.(1996).Nucleic Acids in Chemistry and Biology,Oxford University Press;Hermanson,G.T.(I996).Bioconjugate Techniques,Academic Pressなどに記載されており、これらは本明細書において関連する部分が参考として援用される。
本明細書において使用される用語「生体分子」とは、生体に関連する分子をいう。本明細書において「生体」とは、生物学的な有機体をいい、動物、植物、菌類、ウイルスなどを含むがそれらに限定されない。従って、本明細書では生体分子は、生体から抽出される分子を包含するが、それに限定されず、生体に影響を与え得る分子であれば生体分子の定義に入る。したがって、コンビナトリアルケミストリで合成された分子、医薬品として利用され得る低分子(たとえば、低分子リガンドなど)もまた生体への効果が意図され得るかぎり、生体分子の定義に入る。そのような生体分子には、タンパク質、ポリペプチド、オリゴペプチド、ペプチド、ポリヌクレオチド、オリゴヌクレオチド、ヌクレオチド、核酸(例えば、cDNA、ゲノムDNAのようなDNA、mRNAのようなRNAを含む)、ポリサッカライド、オリゴサッカライド、脂質、低分子(例えば、ホルモン、リガンド、情報伝達物質、有機低分子など)、これらの複合分子(糖脂質、糖タンパク質、リポタンパク質など)などが包含されるがそれらに限定されない。生体分子にはまた、細胞への導入が企図される限り、細胞自体、組織の一部も包含され得る。好ましくは、生体分子は、核酸(DNAまたはRNA)またはタンパク質を含む。別の好ましい実施形態では、生体分子は、核酸(例えば、ゲノムDNAまたはcDNA、あるいはPCRなどによって合成されたDNA)である。他の好ましい実施形態では、生体分子はタンパク質であり得る。
本明細書において使用される用語「タンパク質」、「ポリペプチド」、「オリゴペプチド」および「ペプチド」は、本明細書において同じ意味で使用され、任意の長さのアミノ酸のポリマーをいう。このポリマーは、直鎖であっても分岐していてもよく、環状であってもよい。アミノ酸は、天然のものであっても非天然のものであってもよく、改変されたアミノ酸であってもよい。この用語はまた、複数のポリペプチド鎖の複合体へとアセンブルされたものを包含し得る。この用語はまた、天然または人工的に改変されたアミノ酸ポリマーも包含する。そのような改変としては、例えば、ジスルフィド結合形成、グリコシル化、脂質化、アセチル化、リン酸化または任意の他の操作もしくは改変(例えば、標識成分との結合体化)。この定義にはまた、例えば、アミノ酸の1または2以上のアナログを含むポリペプチド(例えば、非天然のアミノ酸などを含む)、ペプチド様化合物(例えば、ペプトイド)および当該分野において公知の他の改変が包含される。フィブロネクチンのような細胞外マトリクスタンパク質の遺伝子産物は、通常ポリペプチド形態をとる。
本明細書において使用される用語「ポリヌクレオチド」、「オリゴヌクレオチド」および「核酸」は、本明細書において同じ意味で使用され、任意の長さのヌクレオチドのポリマーをいう。この用語はまた、「誘導体オリゴヌクレオチド」または「誘導体ポリヌクレオチド」を含む。「誘導体オリゴヌクレオチド」または「誘導体ポリヌクレオチド」とは、ヌクレオチドの誘導体を含むか、またはヌクレオチド間の結合が通常とは異なるオリゴヌクレオチドまたはポリヌクレオチドをいい、互換的に使用される。そのようなオリゴヌクレオチドとして具体的には、例えば、2’−O−メチル−リボヌクレオチド、オリゴヌクレオチド中のリン酸ジエステル結合がホスホロチオエート結合に変換された誘導体オリゴヌクレオチド、オリゴヌクレオチド中のリン酸ジエステル結合がN3’−P5’ホスホロアミデート結合に変換された誘導体オリゴヌクレオチド、オリゴヌクレオチド中のリボースとリン酸ジエステル結合とがペプチド核酸結合に変換された誘導体オリゴヌクレオチド、オリゴヌクレオチド中のウラシルがC−5プロピニルウラシルで置換された誘導体オリゴヌクレオチド、オリゴヌクレオチド中のウラシルがC−5チアゾールウラシルで置換された誘導体オリゴヌクレオチド、オリゴヌクレオチド中のシトシンがC−5プロピニルシトシンで置換された誘導体オリゴヌクレオチド、オリゴヌクレオチド中のシトシンがフェノキサジン修飾シトシン(phenoxazine−modified cytosine)で置換された誘導体オリゴヌクレオチド、DNA中のリボースが2’−O−プロピルリボースで置換された誘導体オリゴヌクレオチドおよびオリゴヌクレオチド中のリボースが2’−メトキシエトキシリボースで置換された誘導体オリゴヌクレオチドなどが例示される。他にそうではないと示されなければ、特定の核酸配列はまた、明示的に示された配列と同様に、その保存的に改変された改変体(例えば、縮重コドン置換体)および相補配列を包含することが企図される。具体的には、縮重コドン置換体は、1またはそれ以上の選択された(または、すべての)コドンの3番目の位置が混合塩基および/またはデオキシイノシン残基で置換された配列を作成することにより達成され得る(Batzerら、Nucleic Acid Res.19:5081(1991);Ohtsukaら、J.Biol.Chem.260:2605−2608(1985);Rossoliniら、Mol.Cell.Probes 8:91−98(1994))。フィブロネクチンのような細胞外マトリクスタンパク質などの遺伝子は、通常、このポリヌクレオチド形態をとる。また、トランスフェクションの対象となる分子もこのポリヌクレオチドである。
用語「核酸分子」もまた、本明細書において、核酸、オリゴヌクレオチド、およびポリヌクレオチドと互換可能に使用され、cDNA、mRNA、ゲノムDNAなどを含む。本明細書では、核酸および核酸分子は、用語「遺伝子」の概念に含まれ得る。ある遺伝子配列をコードする核酸分子はまた、「スプライス変異体(改変体)」を包含する。同様に、核酸によりコードされた特定のタンパク質は、その核酸のスプライス改変体によりコードされる任意のタンパク質を包含する。その名が示唆するように「スプライス変異体」は、遺伝子のオルタナティブスプライシングの産物である。転写後、最初の核酸転写物は、異なる(別の)核酸スプライス産物が異なるポリペプチドをコードするようにスプライスされ得る。スプライス変異体の産生機構は変化するが、エキソンのオルタナティブスプライシングを含む。読み過し転写により同じ核酸に由来する別のポリペプチドもまた、この定義に包含される。スプライシング反応の任意の産物(組換え形態のスプライス産物を含む)がこの定義に含まれる。したがって、本明細書では、たとえば、アクチン作用物質として有用な細胞外マトリクスタンパク質には、そのスプライス変異体もまた包含され得る。
本明細書において、「遺伝子」とは、遺伝形質を規定する因子をいう。通常染色体上に一定の順序に配列している。タンパク質の一次構造を規定するものを構造遺伝子といい、その発現を左右するものを調節遺伝子(たとえば、プロモーター)という。本明細書では、遺伝子は、特に言及しない限り、構造遺伝子および調節遺伝子を包含する。したがって、フィブロネクチン遺伝子というときは、通常、フィブロネクチンの構造遺伝子およびフィブロネクチンのプロモーターの両方を包含する。本明細書では、「遺伝子」は、「ポリヌクレオチド」、「オリゴヌクレオチド」および「核酸」ならびに/または「タンパク質」「ポリペプチド」、「オリゴペプチド」および「ペプチド」を指すことがある。本明細書においてはまた、「遺伝子産物」は、遺伝子によって発現された「ポリヌクレオチド」、「オリゴヌクレオチド」および「核酸」ならびに/または「タンパク質」「ポリペプチド」、「オリゴペプチド」および「ペプチド」を包含する。当業者であれば、遺伝子産物が何たるかはその状況に応じて理解することができる。
本明細書において配列(例えば、核酸配列、アミノ酸配列など)の「相同性」とは、2以上の遺伝子配列の、互いに対する同一性の程度をいう。従って、ある2つの遺伝子の相同性が高いほど、それらの配列の同一性または類似性は高い。2種類の遺伝子が相同性を有するか否かは、配列の直接の比較、または核酸の場合ストリンジェントな条件下でのハイブリダイゼーション法によって調べられ得る。2つの遺伝子配列を直接比較する場合、その遺伝子配列間でDNA配列が、代表的には少なくとも50%同一である場合、好ましくは少なくとも70%同一である場合、より好ましくは少なくとも80%、90%、95%、96%、97%、98%または99%同一である場合、それらの遺伝子は相同性を有する。本明細書において、配列(例えば、核酸配列、アミノ酸配列など)の「類似性」とは、上記相同性において、保存的置換をポジティブ(同一)とみなした場合の、2以上の遺伝子配列の、互いに対する同一性の程度をいう。従って、保存的置換がある場合は、その保存的置換の存在に応じて同一性と類似性とは異なる。また、保存的置換がない場合は、同一性と類似性とは同じ数値を示す。
本明細書では、アミノ酸配列および塩基配列の類似性、同一性および相同性の比較は、配列分析用ツールであるFASTAにおいてデフォルトパラメータを用いて算出される。
本明細書において、「アミノ酸」は、本発明の目的を満たす限り、天然のものでも非天然のものでもよい。「誘導体アミノ酸」または「アミノ酸アナログ」とは、天然に存在するアミノ酸とは異なるがもとのアミノ酸と同様の機能を有するものをいう。そのような誘導体アミノ酸およびアミノ酸アナログは、当該分野において周知である。用語「天然のアミノ酸」とは、天然のアミノ酸のL−異性体を意味する。天然のアミノ酸は、グリシン、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、セリン、メチオニン、トレオニン、フェニルアラニン、チロシン、トリプトファン、システイン、プロリン、ヒスチジン、アスパラギン酸、アスパラギン、グルタミン酸、グルタミン、γ−カルボキシグルタミン酸、アルギニン、オルニチン、およびリジンである。特に示されない限り、本明細書でいう全てのアミノ酸はL体であるが、D体のアミノ酸を用いた形態もまた本発明の範囲内にある。用語「非天然アミノ酸」とは、タンパク質中で通常は天然に見出されないアミノ酸を意味する。非天然アミノ酸の例として、ノルロイシン、パラ−ニトロフェニルアラニン、ホモフェニルアラニン、パラ−フルオロフェニルアラニン、3−アミノ−2−ベンジルプロピオン酸、ホモアルギニンのD体またはL体およびD−フェニルアラニンが挙げられる。「アミノ酸アナログ」とは、アミノ酸ではないが、アミノ酸の物性および/または機能に類似する分子をいう。アミノ酸アナログとしては、例えば、エチオニン、カナバニン、2−メチルグルタミンなどが挙げられる。アミノ酸模倣物とは、アミノ酸の一般的な化学構造とは異なる構造を有するが、天然に存在するアミノ酸と同様な様式で機能する化合物をいう。
アミノ酸は、その一般に公知の3文字記号か、またはIUPAC−IUB Biochemical Nomenclature Commissionにより推奨される1文字記号のいずれかにより、本明細書中で言及され得る。ヌクレオチドも同様に、一般に認知された1文字コードにより言及され得る。
本明細書において、「対応する」アミノ酸とは、あるタンパク質分子またはポリペプチド分子において、比較の基準となるタンパク質またはポリペプチドにおける所定のアミノ酸と同様の作用を有するか、または有することが予測されるアミノ酸をいい、特に酵素分子にあっては、活性部位中の同様の位置に存在し触媒活性に同様の寄与をするアミノ酸をいう。例えば、本発明において使用されるFn1ドメインであれば、そのドメインを含む分子(フィブロネクチン)に対応するオルソログにおける同様の部分(ドメイン)であり得る。
本明細書において「ヌクレオチド」は、天然のものでも非天然のものでもよい。「誘導体ヌクレオチド」または「ヌクレオチドアナログ」とは、天然に存在するヌクレオチドとは異なるがもとのヌクレオチドと同様の機能を有するものをいう。そのような誘導体ヌクレオチドおよびヌクレオチドアナログは、当該分野において周知である。そのような誘導体ヌクレオチドおよびヌクレオチドアナログの例としては、ホスホロチオエート、ホスホルアミデート、メチルホスホネート、キラルメチルホスホネート、2−O−メチルリボヌクレオチド、ペプチド−核酸(PNA)が含まれるが、これらに限定されない。
本明細書において、「フラグメント」とは、全長のポリペプチドまたはポリヌクレオチド(長さがn)に対して、1〜n−1までの配列長さを有するポリペプチドまたはポリヌクレオチドをいう。フラグメントの長さは、その目的に応じて、適宜変更することができ、例えば、その長さの下限としては、ポリペプチドの場合、3、4、5、6、7、8、9、10、15,20、25、30、40、50およびそれ以上のアミノ酸が挙げられ、ここの具体的に列挙していない整数で表される長さ(例えば、11など)もまた、下限として適切であり得る。また、ポリヌクレオチドの場合、5、6、7、8、9、10、15,20、25、30、40、50、75、100およびそれ以上のヌクレオチドが挙げられ、ここの具体的に列挙していない整数で表される長さ(例えば、11など)もまた、下限として適切であり得る。本明細書において、ポリペプチドおよびポリヌクレオチドの長さは、上述のようにそれぞれアミノ酸または核酸の個数で表すことができるが、上述の個数は絶対的なものではなく、同じ機能を有する限り、上限または加減としての上述の個数は、その個数の上下数個(または例えば上下10%)のものも含むことが意図される。そのような意図を表現するために、本明細書では、個数の前に「約」を付けて表現することがある。しかし、本明細書では、「約」のあるなしはその数値の解釈に影響を与えないことが理解されるべきである。本発明では、フラグメントは、ある一定の大きさ(例えば、5kDa)以上の大きさを有することが好ましい。理論に束縛されないが、アクチン作用物質として機能するためにはある程度の大きさが必要であるようであるからである。
本明細書において、「ストリンジェントな条件でハイブリダイズするポリヌクレオチド」とは、当該分野で慣用される周知の条件をいう。本発明のポリヌクレオチド中から選択されたポリヌクレオチドをプローブとして、コロニー・ハイブリダイゼーション法、プラーク・ハイブリダイゼーション法あるいはサザンブロットハイブリダイゼーション法等を用いることにより、そのようなポリヌクレオチドを得ることができる。具体的には、コロニーあるいはプラーク由来のDNAを固定化したフィルターを用いて、0.7〜1.0MのNaCl存在下、65℃でハイブリダイゼーションを行った後、0.1〜2倍濃度のSSC(saline−sodium citrate)溶液(1倍濃度のSSC溶液の組成は、150mM 塩化ナトリウム、15mM クエン酸ナトリウムである)を用い、65℃条件下でフィルターを洗浄することにより同定できるポリヌクレオチドを意味する。ハイブリダイゼーションは、Molecular Cloning 2nd ed.,Current Protocols in Molecular Biology,Supplement 1〜38、DNA Cloning 1:Core Techniques,A Practical Approach,Second Edition,Oxford University Press(1995)等の実験書に記載されている方法に準じて行うことができる。ここで、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズする配列からは、好ましくは、A配列のみまたはT配列のみを含む配列が除外される。「ハイブリダイズ可能なポリヌクレオチド」とは、上記ハイブリダイズ条件下で別のポリヌクレオチドにハイブリダイズすることができるポリヌクレオチドをいう。ハイブリダイズ可能なポリヌクレオチドとして具体的には、本発明で具体的に示されるアミノ酸配列を有するポリペプチドをコードするDNAの塩基配列と少なくとも60%以上の相同性を有するポリヌクレオチド、好ましくは80%以上の相同性を有するポリヌクレオチド、さらに好ましくは95%以上の相同性を有するポリヌクレオチドを挙げることができる。
本明細書において物質の細胞への「導入」とは、その物質が、細胞膜の内部へ進入することをいう。内部に導入されたかどうかは、例えば、その物質そのものを標識(例えば、蛍光標識、化学発光標識、燐光、放射能などを利用する)しその標識を検出することによるか、あるいは、その物質に起因する細胞内の変化(例えば、遺伝子発現、シグナル伝達、細胞内レセプターへの結合による事象、代謝変化など)を物理学的(例えば、目視)、化学的(分泌物の測定)、生化学的、生物学的に測定することによって判定することができる。従って、そのような「導入」には、単なるタンパク質などの物質の細胞内への移入の他、通常遺伝子操作とも呼ばれる、トランスフェクション、形質転換、形質導入などの操作も包含される。
本明細書において「標的物質」とは、細胞内への導入が企図される物質をいう。本発明が企図する標的物質は、通常の条件下では、細胞内に導入されない物質をいう。従って、拡散または疎水性相互作用によって通常の条件下で細胞に導入されることができるような物質は、本発明の重要な局面では対象外となる。通常の条件下で細胞内に導入されない標的物質としては、例えば、タンパク質(ポリペプチド)、RNA、DNA、糖(特に多糖)、およびそれらの複合分子(例えば、糖タンパク質、PNAなど)、ウィルスベクター、他の化合物が挙げられるがそれらに限定されない。
本明細書において「デバイス」とは、装置の一部または全部を構成することができる部分をいい、支持体(好ましくは固相支持体)およびその支持体に担持されるべき標的物質などから構成される。そのようなデバイスとしては、チップ、アレイ、マイクロタイタープレート、細胞培養プレート、シャーレ、フィルム、ビーズなどが挙げられるがそれらに限定されない。
(遺伝子の改変)
本発明において使用されるアクチン作用物質は遺伝子産物の形態をとることが多いが、そのような遺伝子産物は、上述のようにその改変体であってもよいことが理解される。従って、本発明は、以下のような遺伝子改変の技術で生産された物質も使用することができる。
あるタンパク質分子において、配列に含まれるあるアミノ酸は、相互作用結合能力の明らかな低下または消失なしに、例えば、カチオン性領域または基質分子の結合部位のようなタンパク質構造において他のアミノ酸に置換され得る。あるタンパク質の生物学的機能を規定するのは、タンパク質の相互作用能力および性質である。従って、特定のアミノ酸の置換がアミノ酸配列において、またはそのDNAコード配列のレベルにおいて行われ得、置換後もなお、もとの性質を維持するタンパク質が生じ得る。従って、生物学的有用性の明らかな損失なしに、種々の改変が、本明細書において開示されたペプチドまたはこのペプチドをコードする対応するDNAにおいて行われ得る。
上記のような改変を設計する際に、アミノ酸の疎水性指数が考慮され得る。タンパク質における相互作用的な生物学的機能を与える際の疎水性アミノ酸指数の重要性は、一般に当該分野で認められている(Kyte.JおよびDoolittle,R.F.J.Mol.Biol.157(1):105−132,1982)。アミノ酸の疎水的性質は、生成したタンパク質の二次構造に寄与し、次いでそのタンパク質と他の分子(例えば、酵素、基質、レセプター、DNA、抗体、抗原など)との相互作用を規定する。各アミノ酸は、それらの疎水性および電荷の性質に基づく疎水性指数を割り当てられる。それらは:イソロイシン(+4.5);バリン(+4.2);ロイシン(+3.8);フェニルアラニン(+2.8);システイン/シスチン(+2.5);メチオニン(+1.9);アラニン(+1.8);グリシン(−0.4);スレオニン(−0.7);セリン(−0.8);トリプトファン(−0.9);チロシン(−1.3);プロリン(−1.6);ヒスチジン(−3.2);グルタミン酸(−3.5);グルタミン(−3.5);アスパラギン酸(−3.5);アスパラギン(−3.5);リジン(−3.9);およびアルギニン(−4.5))である。
あるアミノ酸を、同様の疎水性指数を有する他のアミノ酸により置換して、そして依然として同様の生物学的機能を有するタンパク質(例えば、酵素活性において等価なタンパク質)を生じさせ得ることが当該分野で周知である。このようなアミノ酸置換において、疎水性指数が±2以内であることが好ましく、±1以内であることがより好ましく、および±0.5以内であることがさらにより好ましい。疎水性に基づくこのようなアミノ酸の置換は効率的であることが当該分野において理解される。米国特許第4,554,101号に記載されるように、以下の親水性指数がアミノ酸残基に割り当てられている:アルギニン(+3.0);リジン(+3.0);アスパラギン酸(+3.0±1);グルタミン酸(+3.0±1);セリン(+0.3);アスパラギン(+0.2);グルタミン(+0.2);グリシン(0);スレオニン(−0.4);プロリン(−0.5±1);アラニン(−0.5);ヒスチジン(−0.5);システイン(−1.0);メチオニン(−1.3);バリン(−1.5);ロイシン(−1.8);イソロイシン(−1.8);チロシン(−2.3);フェニルアラニン(−2.5);およびトリプトファン(−3.4)。アミノ酸が同様の親水性指数を有しかつ依然として生物学的等価体を与え得る別のものに置換され得ることが理解される。このようなアミノ酸置換において、親水性指数が±2以内であることが好ましく、±1以内であることがより好ましく、および±0.5以内であることがさらにより好ましい。
本発明において、「保存的置換」とは、アミノ酸置換において、元のアミノ酸と置換されるアミノ酸との親水性指数または/および疎水性指数が上記のように類似している置換をいう。保存的置換の例としては、例えば、親水性指数または疎水性指数が、±2以内のもの同士、好ましくは±1以内のもの同士、より好ましくは±0.5以内のもの同士のものが挙げられるがそれらに限定されない。従って、保存的置換の例は、当業者に周知であり、例えば、次の各グループ内での置換:アルギニンおよびリジン;グルタミン酸およびアスパラギン酸;セリンおよびスレオニン;グルタミンおよびアスパラギン;ならびにバリン、ロイシン、およびイソロイシン、などが挙げられるがこれらに限定されない。
本明細書において、「改変体」とは、もとのポリペプチドまたはポリヌクレオチドなどの物質に対して、一部が変更されているものをいう。そのような改変体としては、置換改変体、付加改変体、欠失改変体、短縮(truncated)改変体、対立遺伝子変異体などが挙げられる。対立遺伝子(allele)とは、同一遺伝子座に属し、互いに区別される遺伝的改変体のことをいう。従って、「対立遺伝子変異体」とは、ある遺伝子に対して、対立遺伝子の関係にある改変体をいう。そのような対立遺伝子変異体は、通常その対応する対立遺伝子と同一または非常に類似性の高い配列を有し、通常はほぼ同一の生物学的活性を有するが、まれに異なる生物学的活性を有することもある。「種相同体またはホモログ(homolog)」とは、ある種の中で、ある遺伝子とアミノ酸レベルまたはヌクレオチドレベルで、相同性(好ましくは、60%以上の相同性、より好ましくは、80%以上、85%以上、90%以上、95%以上の相同性)を有するものをいう。そのような種相同体を取得する方法は、本明細書の記載から明らかである。「オルソログ(ortholog)」とは、オルソロガス遺伝子(orthologous gene)ともいい、二つの遺伝子がある共通祖先からの種分化に由来する遺伝子をいう。例えば、多重遺伝子構造をもつヘモグロビン遺伝子ファミリーを例にとると、ヒトおよびマウスのαヘモグロビン遺伝子はオルソログであるが,ヒトのαヘモグロビン遺伝子およびβヘモグロビン遺伝子はパラログ(遺伝子重複で生じた遺伝子)である。オルソログは、分子系統樹の推定に有用である。オルソログは、通常別の種においてもとの種と同様の機能を果たしていることがあり得ることから、本発明のオルソログもまた、本発明において有用であり得る。
「保存的(に改変された)改変体」は、アミノ酸配列および核酸配列の両方に適用される。特定の核酸配列に関して、保存的に改変された改変体とは、同一のまたは本質的に同一のアミノ酸配列をコードする核酸をいい、核酸がアミノ酸配列をコードしない場合には、本質的に同一な配列をいう。遺伝コードの縮重のため、多数の機能的に同一な核酸が任意の所定のタンパク質をコードする。例えば、コドンGCA、GCC、GCG、およびGCUはすべて、アミノ酸アラニンをコードする。したがって、アラニンがコドンにより特定される全ての位置で、そのコドンは、コードされたポリペプチドを変更することなく、記載された対応するコドンの任意のものに変更され得る。このような核酸の変動は、保存的に改変された変異の1つの種である「サイレント改変(変異)」である。ポリペプチドをコードする本明細書中のすべての核酸配列はまた、その核酸の可能なすべてのサイレント変異を記載する。当該分野において、核酸中の各コドン(通常メチオニンのための唯一のコドンであるAUG、および通常トリプトファンのための唯一のコドンであるTGGを除く)が、機能的に同一な分子を産生するために改変され得ることが理解される。したがって、ポリペプチドをコードする核酸の各サイレント変異は、記載された各配列において暗黙に含まれる。好ましくは、そのような改変は、ポリペプチドの高次構造に多大な影響を与えるアミノ酸であるシステインの置換を回避するようになされ得る。このような塩基配列の改変法としては、制限酵素などによる切断、DNAポリメラーゼ、Klenowフラグメント、DNAリガーゼなどによる処理等による連結等の処理、合成オリゴヌクレオチドなどを用いた部位特異的塩基置換法(特定部位指向突然変異法;Mark Zoller and Michael Smith,Methods in Enzymology,100,468−500(1983))が挙げられるが、この他にも通常分子生物学の分野で用いられる方法によって改変を行うこともできる。
本明細書中において、機能的に等価なポリペプチドを作製するために、アミノ酸の置換のほかに、アミノ酸の付加、欠失、または修飾もまた行うことができる。アミノ酸の置換とは、もとのペプチドを1つ以上、例えば、1〜10個、好ましくは1〜5個、より好ましくは1〜3個のアミノ酸で置換することをいう。アミノ酸の付加とは、もとのペプチド鎖に1つ以上、例えば、1〜10個、好ましくは1〜5個、より好ましくは1〜3個のアミノ酸を付加することをいう。アミノ酸の欠失とは、もとのペプチドから1つ以上、例えば、1〜10個、好ましくは1〜5個、より好ましくは1〜3個のアミノ酸を欠失させることをいう。アミノ酸修飾は、アミド化、カルボキシル化、硫酸化、ハロゲン化、アルキル化、グリコシル化、リン酸化、水酸化、アシル化(例えば、アセチル化)などを含むが、これらに限定されない。置換、または付加されるアミノ酸は、天然のアミノ酸であってもよく、非天然のアミノ酸、またはアミノ酸アナログでもよい。天然のアミノ酸が好ましい。
本明細書において使用される用語「ペプチドアナログ」または「ペプチド誘導体」とは、ペプチドとは異なる化合物であるが、ペプチドと少なくとも1つの化学的機能または生物学的機能が等価であるものをいう。したがって、ペプチドアナログには、もとのペプチドに対して、1つ以上のアミノ酸アナログまたはアミノ酸誘導体が付加または置換されているものが含まれる。ペプチドアナログは、その機能が、もとのペプチドの機能(例えば、pKa値が類似していること、官能基が類似していること、他の分子との結合様式が類似していること、水溶性が類似していることなど)と実質的に同様であるように、このような付加または置換がされている。そのようなペプチドアナログは、当該分野において周知の技術を用いて作製することができる。したがって、ペプチドアナログは、アミノ酸アナログを含むポリマーであり得る。
同様に、「ポリヌクレオチドアナログ」、「核酸アナログ」は、ポリヌクレオチドまたは核酸とは異なる化合物であるが、ポリヌクレオチドまたは核酸と少なくとも1つの化学的機能または生物学的機能が等価であるものをいう。したがって、ポリヌクレオチドアナログまたは核酸アナログには、もとのペプチドに対して、1つ以上のヌクレオチドアナログまたはヌクレオチド誘導体が付加または置換されているものが含まれる。
本明細書において使用される核酸分子は、発現されるポリペプチドが天然型のポリペプチドと実質的に同一の活性を有する限り、上述のようにその核酸の配列の一部が欠失または他の塩基により置換されていてもよく、あるいは他の核酸配列が一部挿入されていてもよい。あるいは、5’末端および/または3’末端に他の核酸が結合していてもよい。また、ポリペプチドをコードする遺伝子をストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、そのポリペプチドと実質的に同一の機能を有するポリペプチドをコードする核酸分子でもよい。このような遺伝子は、当該分野において公知であり、本発明において利用することができる。
このような核酸は、周知のPCR法により得ることができ、化学的に合成することもできる。これらの方法に、例えば、部位特異的変位誘発法、ハイブリダイゼーション法などを組み合わせてもよい。
本明細書において、ポリペプチドまたはポリヌクレオチドの「置換、付加または欠失」とは、もとのポリペプチドまたはポリヌクレオチドに対して、それぞれアミノ酸もしくはその代替物、またはヌクレオチドもしくはその代替物が、置き換わること、付け加わることまたは取り除かれることをいう。このような置換、付加または欠失の技術は、当該分野において周知であり、そのような技術の例としては、部位特異的変異誘発技術などが挙げられる。置換、付加または欠失は、1つ以上であれば任意の数でよく、そのような数は、その置換、付加または欠失を有する改変体において目的とする機能(例えば、ホルモン、サイトカインの情報伝達機能など)が保持される限り、多くすることができる。例えば、そのような数は、1または数個であり得、そして好ましくは、全体の長さの20%以内、10%以内、または100個以下、50個以下、25個以下などであり得る。
本明細書において「単離された」生物学的因子(例えば、核酸またはタンパク質など)とは、その生物学的因子が天然に存在する生物体の細胞内の他の生物学的因子(例えば、核酸である場合、核酸以外の因子および目的とする核酸以外の核酸配列を含む核酸;タンパク質である場合、タンパク質以外の因子および目的とするタンパク質以外のアミノ酸配列を含むタンパク質など)から実質的に分離または精製されたものをいう。「単離された」核酸およびタンパク質には、標準的な精製方法によって精製された核酸およびタンパク質が含まれる。したがって、単離された核酸およびタンパク質は、化学的に合成した核酸およびタンパク質を包含する。
本明細書において「精製された」生物学的因子(例えば、核酸またはタンパク質など)とは、その生物学的因子に天然に随伴する因子の少なくとも一部が除去されたものをいう。したがって、通常、精製された生物学的因子におけるその生物学的因子の純度は、その生物学的因子が通常存在する状態よりも高い(すなわち濃縮されている)。
本明細書中で使用される用語「精製された」および「単離された」は、好ましくは少なくとも75重量%、より好ましくは少なくとも85重量%、よりさらに好ましくは少なくとも95重量%、そして最も好ましくは少なくとも98重量%の、同型の生物学的因子が存在することを意味する。
(遺伝子操作)
本明細書において遺伝子操作について言及する場合、「ベクター」または「組み換えベクター」とは、目的のポリヌクレオチド配列を目的の細胞へと移入させることができるベクターをいう。そのようなベクターとしては、原核細胞、酵母、動物細胞、植物細胞、昆虫細胞、動物個体および植物個体などの宿主細胞において自立複製が可能、または染色体中への組込みが可能で、本発明のポリヌクレオチドの転写に適した位置にプロモーターを含有しているものが例示される。ベクターのうち、クローニングに適したベクターを「クローニングベクター」という。そのようなクローニングベクターは通常、制限酵素部位を複数含むマルチプルクローニング部位を含む。そのような制限酵素部位およびマルチプルクローニング部位は、当該分野において周知であり、当業者は、目的に合わせて適宜選択して使用することができる。そのような技術は、本明細書に記載される文献(例えば、Sambrookら、前出)に記載されている。
本明細書において「発現ベクター」とは、構造遺伝子およびその発現を調節するプロモーターに加えて種々の調節エレメントが宿主の細胞中で作動し得る状態で連結されている核酸配列をいう。調節エレメントは、好ましくは、ターミネーター、薬剤耐性遺伝子のような選択マーカーおよび、エンハンサーを含み得る。生物(例えば、動物)の発現ベクターのタイプおよび使用される調節エレメントの種類が、宿主細胞に応じて変わり得ることは、当業者に周知の事項である。
原核細胞に対する組換えベクターとしては、pcDNA3(+)、pBluescript−SK(+/−)、pGEM−T、pEF−BOS、pEGFP、pHAT、pUC18、pFT−DESTTM42GATEWAY(Invitrogen)などが例示される。
動物細胞に対する組換えベクターとしては、pcDNAI/Amp、pcDNAI、pCDM8(いずれもフナコシより市販)、pAGE107[特開平3−229(Invitrogen)、pAGE103[J.Biochem.,101,1307(1987)]、pAMo、pAMoA[J.Biol.Chem.,268,22782−22787(1993)]、マウス幹細胞ウイルス(Murine Stem Cell Virus)(MSCV)に基づいたレトロウイルス型発現ベクター、pEF−BOS、pEGFPなどが例示される。
植物細胞に対する組換えベクターとしては、pPCVICEn4HPT、pCGN1548、pCGN1549、pBI221、pBI121などが挙げられるがそれらに限定されない。
本明細書において「ターミネーター」とは、通常遺伝子のタンパク質をコードする領域の下流に位置し、DNAがmRNAに転写される際の転写の終結、ポリA配列の付加に関与する配列をいう。ターミネーターは、mRNAの安定性に関与して遺伝子の発現量に影響を及ぼすことが知られている。
本明細書において「プロモーター」とは、遺伝子の転写の開始部位を決定し、またその頻度を直接的に調節するDNA上の領域をいい、通常RNAポリメラーゼが結合して転写を始める塩基配列である。したがって、本明細書においてある遺伝子のプロモーターの働きを有する部分を「プロモーター部分」という。プロモーターの領域は、通常、推定タンパク質コード領域の第1エキソンの上流約2kbp以内の領域であることが多いので、DNA解析用ソフトウエアを用いてゲノム塩基配列中のタンパク質コード領域を予測すれば、プロモータ領域を推定することはできる。推定プロモーター領域は、構造遺伝子ごとに変動するが、通常構造遺伝子の上流にあるが、これらに限定されず、構造遺伝子の下流にもあり得る。好ましくは、推定プロモーター領域は、第一エキソン翻訳開始点から上流約2kbp以内に存在する。
本明細書において「エンハンサー」とは、目的遺伝子の発現効率を高めるために用いられる配列をいう。そのようなエンハンサーは当該分野において周知である。エンハンサーは複数個用いられ得るが1個用いられてもよいし、用いなくともよい。
本明細書において「サイレンサー」とは、遺伝子発現を抑制し静止する機能を有する配列をいう。本発明では、サイレンサーとしてはその機能を有する限り、どのようなものを用いてもよく、サイレンサーを用いなくてもよい。
本明細書において「作動可能に連結された(る)」とは、所望の配列の発現(作動)がある転写翻訳調節配列(例えば、プロモーター、エンハンサー、サイレンサーなど)または翻訳調節配列の制御下に配置されることをいう。プロモーターが遺伝子に作動可能に連結されるためには、通常、その遺伝子のすぐ上流にプロモーターが配置されるが、必ずしも隣接して配置される必要はない。
本明細書において、核酸分子を細胞に導入する技術は、どのような技術でもよく、例えば、形質転換、形質導入、トランスフェクションなどが挙げられる。 そのような核酸分子の導入技術は、当該分野において周知であり、かつ、慣用されるものであり、例えば、Ausubel F.A.ら編(1988)、Current Protocols in Molecular Biology、Wiley、New York、NY;Sambrook Jら(1987)Molecular Cloning:A Laboratory Manual,2nd Ed.およびその第三版,Cold Spring Harbor Laboratory Press,Cold Spring Harbor,NY、別冊実験医学「遺伝子導入&発現解析実験法」羊土社、1997などに記載される。遺伝子の導入は、ノーザンブロット、ウェスタンブロット分析のような本明細書に記載される方法または他の周知慣用技術を用いて確認することができる。
また、ベクターの導入方法としては、細胞にDNAを導入する上述のような方法であればいずれも用いることができ、例えば、トランスフェクション、形質導入、形質転換など(例えば、リン酸カルシウム法、リポソーム法、DEAEデキストラン法、エレクトロポレーション法、パーティクルガン(遺伝子銃)を用いる方法など)、リポフェクション法、スフェロプラスト法[Proc.Natl.Acad.Sci.USA,84,1929(1978)]、酢酸リチウム法[J.Bacteriol.,153,163(1983)]、Proc.Natl.Acad.Sci.USA,75,1929(1978)記載の方法が挙げられる。
本明細書において「遺伝子導入試薬」とは、遺伝子導入方法において、導入効率を促進するために用いられる試薬をいう。そのような遺伝子導入試薬としては、例えば、カチオン性高分子、カチオン性脂質、ポリアミン系試薬、ポリイミン系試薬、リン酸カルシウムなどが挙げられるがそれらに限定されない。トランスフェクションの際に利用される試薬の具体例としては、種々なソースから市販されている試薬が挙げられ、例えば、Effectene Transfection Reagent(cat.no.301425,Qiagen,CA),TransFastTM Transfection Reagent(E2431,Promega,WI),TfxTM-20 Reagent(E2391,Promega,WI),SuperFect Transfection Reagent(301305,Qiagen,CA),PolyFect Transfection Reagent(301105,Qiagen,CA),LipofectAMINE 2000 Reagent(11668-019,Invitrogen corporation,CA),JetPEI(×4)conc.(101-30,Polyplus-transfection,France)およびExGen 500(R0511,Fermentas Inc.,MD)などが挙げられるがそれらに限定されない。
本明細書「指示書」とは、本発明の標的物質導入方法などを、ユーザー(研究者、実験補助者、または治療においては医師、患者など投与を行う人など)に対して記載したものである。この指示書は、本発明の組成物などを例えば、使用する方法を指示する文言が記載されている。この指示書は、本発明が実施される国の監督官庁が規定した様式に従って作成され、その監督官庁により承認を受けた旨が明記される。指示書は、医薬の場合通常いわゆる添付文書(package insert)の形態をとり、または実験用試薬の形態の場合マニュアルの形態をとり、通常は紙媒体で提供されるが、それに限定されず、例えば、電子媒体(例えば、インターネットで提供されるホームページ、電子メール)のような形態でも提供され得る。
「形質転換体」とは、形質転換によって作製された細胞などの生命体の全部または一部(組織など)をいう。形質転換体としては、原核生物、酵母、動物、植物、昆虫などの細胞などの生命体の全部または一部(組織など)が例示される。形質転換体は、その対象に依存して、形質転換細胞、形質転換組織、形質転換宿主などともいわれる。本発明において用いられる細胞は、形質転換体であってもよい。
本発明において遺伝子操作などにおいて原核生物細胞が使用される場合、原核生物細胞としては、Escherichia属、Serratia属、Bacillus属、Brevibacterium属、Corynebacterium属、Microbacterium属、Pseudomonas属などに属する原核生物細胞、例えば、Escherichia coli XL1−Blue、Escherichia coli XL2−Blue、Escherichia coli DH1が例示される。あるいは、本発明では、天然物から分離した細胞も使用することができる。
本明細書において遺伝子操作などにおいて使用され得る動物細胞としては、マウス・ミエローマ細胞、ラット・ミエローマ細胞、マウス・ハイブリドーマ細胞、チャイニーズ・ハムスターの細胞であるCHO細胞、BHK細胞、アフリカミドリザル腎臓細胞、ヒト白血病細胞、HBT5637(特開昭63−299)、ヒト結腸癌細胞株などを挙げることができる。マウス・ミエローマ細胞としては、ps20、NSOなど、ラット・ミエローマ細胞としてはYB2/0など、ヒト胎児腎臓細胞としてはHEK293(ATCC:CRL−1573)など、ヒト白血病細胞としてはBALL−1など、アフリカミドリザル腎臓細胞としてはCOS−1、COS−7、ヒト結腸癌細胞株としてはHCT−15、ヒト神経芽細胞腫SK−N−SH、SK−N−SH−5Y、マウス神経芽細胞腫Neuro2Aなどが例示される。あるいは、本発明では、初代培養細胞も使用することができる。
本明細書において遺伝子操作などにおいて使用され得る植物細胞としては、カルスまたはその一部および懸濁培養細胞、ナス科、イネ科、アブラナ科、バラ科、マメ科、ウリ科、シソ科、ユリ科、アカザ科、セリ科などの植物の細胞が挙げられるがそれらに限定されない。
本明細書において遺伝子発現(たとえば、mRNA発現、ポリペプチド発現)の「検出」または「定量」は、例えば、mRNAの測定および免疫学的測定方法を含む適切な方法を用いて達成され得る。分子生物学的測定方法としては、例えば、ノーザンブロット法、ドットブロット法またはPCR法などが例示される。免疫学的測定方法としては、例えば、方法としては、マイクロタイタープレートを用いるELISA法、RIA法、蛍光抗体法、ウェスタンブロット法、免疫組織染色法などが例示される。また、定量方法としては、ELISA法またはRIA法などが例示される。アレイ(例えば、DNAアレイ、プロテインアレイ)を用いた遺伝子解析方法によっても行われ得る。DNAアレイについては、(秀潤社編、細胞工学別冊「DNAマイクロアレイと最新PCR法」)に広く概説されている。プロテインアレイについては、Nat Genet.2002 Dec;32 Suppl:526−32に詳述されている。遺伝子発現の分析法としては、上述に加えて、RT−PCR、RACE法、SSCP法、免疫沈降法、two−hybridシステム、インビトロ翻訳などが挙げられるがそれらに限定されない。そのようなさらなる分析方法は、例えば、ゲノム解析実験法・中村祐輔ラボ・マニュアル、編集・中村祐輔 羊土社(2002)などに記載されており、本明細書においてそれらの記載はすべて参考として援用される。
本明細書において遺伝子、ポリヌクレオチド、ポリペプチドなど遺伝子産物の「発現」とは、その遺伝子などがインビボで一定の作用を受けて、別の形態になることをいう。好ましくは、遺伝子、ポリヌクレオチドなどが、転写および翻訳されて、ポリペプチドの形態になることをいうが、転写されてmRNAが作製されることもまた発現の一形態であり得る。より好ましくは、そのようなポリペプチドの形態は、翻訳後プロセシングを受けたものであり得る。
「発現量」とは、目的の細胞などにおいて、ポリペプチドまたはmRNAが発現される量をいう。そのような発現量としては、本発明の抗体を用いてELISA法、RIA法、蛍光抗体法、ウェスタンブロット法、免疫組織染色法などの免疫学的測定方法を含む任意の適切な方法により評価される本発明ポリペプチドのタンパク質レベルでの発現量、またはノーザンブロット法、ドットブロット法、PCR法などの分子生物学的測定方法を含む任意の適切な方法により評価される本発明のポリペプチドのmRNAレベルでの発現量が挙げられる。「発現量の変化」とは、上記免疫学的測定方法または分子生物学的測定方法を含む任意の適切な方法により評価される本発明のポリペプチドのタンパク質レベルまたはmRNAレベルでの発現量が増加あるいは減少することを意味する。
従って、本明細書において遺伝子、ポリヌクレオチド、ポリペプチドなどの「発現」または「発現量」の「減少」とは、本発明の因子を作用させたときに、作用させないときよりも、発現の量が有意に減少することをいう。好ましくは、発現の減少は、ポリペプチドの発現量の減少を含む。本明細書において遺伝子、ポリヌクレオチド、ポリペプチドなどの「発現」または「発現量」の「増加」とは、細胞内に遺伝子発現に関連する因子(例えば、発現されるべき遺伝子またはそれを調節する因子)を導入したときに、作用させないときよりも、発現の量が有意に増加することをいう。好ましくは、発現の増加は、ポリペプチドの発現量の増加を含む。本明細書において遺伝子の「発現」の「誘導」とは、ある細胞にある因子を作用させてその遺伝子の発現量を増加させることをいう。したがって、発現の誘導は、まったくその遺伝子の発現が見られなかった場合にその遺伝子が発現するようにすること、およびすでにその遺伝子の発現が見られていた場合にその遺伝子の発現が増大することを包含する。
本明細書において、遺伝子が「特異的に発現する」とは、その遺伝子が、植物の特定の部位または時期において他の部位または時期とは異なる(好ましくは高い)レベルで発現されることをいう。特異的に発現するとは、ある部位(特異的部位)にのみ発現してもよく、それ以外の部位においても発現していてもよい。好ましくは特異的に発現するとは、ある部位においてのみ発現することをいう。
本明細書において「生物学的活性」とは、ある因子(例えば、ポリペプチドまたはタンパク質)が、生体内において有し得る活性のことをいい、種々の機能(例えば、転写促進活性)を発揮する活性が包含される。例えば、アクチン作用物質がアクチンと相互作用する場合、その生物学的活性は、アクチンの形態変化(例えば、細胞伸展速度の上昇など)または他の生物学的変化(例えば、アクチンフラメントの再構成など)などを包含する。このような生物学的活性は、アクチン染色試薬(Molecular Probes、Texas Red‐X phalloidin)などによりアクチンを可視化した後、顕鏡し、アクチン凝集や細胞伸展を観察すること)によって測定することができる。別の好ましい実施形態では、そのような生物学的活性は、細胞接着活性、ヘパリン結合活性、コラーゲン結合活性などであり得る。細胞接着活性は、細胞播種後に細胞の固相への接着速度を測定し、接着活性として取り扱うことによって測定することができる。ヘパリン結合活性は、ヘパリン固定化カラム等のアフィニティークロマトグラフィーを行い、これに結合するものとして確認できるものによって測定することができる。コラーゲン結合活性は、コラーゲン固定化カラム等のアフィニティークロマトグラフィーを行い、これに結合するものとして確認できるものによって測定することができる。例えば、ある因子が酵素である場合、その生物学的活性は、その酵素活性を包含する。別の例では、ある因子がリガンドである場合、そのリガンドが対応するレセプターへの結合を包含する。そのような生物学的活性は、当該分野において周知の技術によって測定することができる(Molecular Cloning、Current Protocols(本明細書において引用)などを参照)。
(ポリペプチドの製造方法)
本発明において使用されるポリペプチドは、そのポリペプチドをコードするDNAを組み込んだ組換え体ベクターを保有する微生物、動物細胞などに由来する形質転換体を、通常の培養方法に従って培養し、このポリペプチドを生成蓄積させ、その培養物よりその本発明のポリペプチドを採取することにより、製造することができる。
形質転換体を培地に培養する方法は、宿主の培養に用いられる通常の方法に従って行うことができる。大腸菌等の原核生物あるいは酵母等の真核生物を宿主として得られた形質転換体を培養する培地としては、本発明の生物が資化し得る炭素源(例えば、グルコース、フラクトース、スクロース、これらを含有する糖蜜、デンプンあるいはデンプン加水分解物等の炭水化物、酢酸、プロピオン酸等の有機酸、エタノール、プロパノール等のアルコール類など)、窒素源(例えば、アンモニア、塩化アンモニウム、硫酸アンモニウム、酢酸アンモニウム、リン酸アンモニウム等の各種無機酸または有機酸のアンモニウム塩、その他含窒素物質、ならびに、ペプトン、肉エキス、酵母エキス、コーンスチープリカー、カゼイン加水分解物、大豆粕および大豆粕加水分解物、各種発酵菌体およびその消化物等など)、無機塩類(例えば、リン酸第一カリウム、リン酸第二カリウム、リン酸マグネシウム、硫酸マグネシウム、塩化ナトリウム、硫酸第一鉄、硫酸マンガン、硫酸銅、炭酸カルシウム等など)等を含有し、形質転換体の培養を効率的に行える培地であれば天然培地、合成培地(例えば、RPMI1640培地[The Journal of the American Medical Association,199,519(1967)]、EagleのMEM培地[Science,122,501(1952)]、DMEM培地[Virology,8,396(1959)]、199培地[Proceedings of the Society for the Biological Medicine,73,1(1950)]またはこれら培地にウシ胎児血清等を添加した培地等)のいずれを用いてもよい。培養は、振盪培養または深部通気攪拌培養等の好気的条件下で行うことが好ましいがそれに限定されない。培養温度は15〜40℃がよく、培養時間は、通常5時間〜7日間である。培養中pHは、3.0〜9.0に保持する。pHの調整は、無機あるいは有機の酸、アルカリ溶液、尿素、炭酸カルシウム、アンモニア等を用いて行う。また培養中必要に応じて、アンピシリンまたはテトラサイクリン等の抗生物質を培地に添加してもよい。
本発明において使用されるポリペプチドをコードする核酸配列で形質転換された形質転換体の培養物から、そのポリペプチドを単離または精製するためには、当該分野で周知慣用の通常のポリペプチド(例えば、酵素)の単離または精製法を用いることができる。例えば、本発明のポリペプチドが本発明のポリペプチド製造用形質転換体の細胞外に本発明のポリペプチドが分泌される場合には、その培養物を遠心分離等の手法により処理し、可溶性画分を取得する。その可溶性画分から、溶媒抽出法、硫安等による塩析法脱塩法、有機溶媒による沈澱法、ジエチルアミノエチル(DEAE)−Sepharose(Pharmacia)、DIAION HPA−75(三菱化成)等樹脂を用いた陰イオン交換クロマトグラフィー法、S−Sepharose FF(Pharmacia)等の樹脂を用いた陽イオン交換クロマトグラフィー法、Butyl−Sepharose、Phenyl−Sepharose等の樹脂を用いた疎水性クロマトグラフィー法、分子篩を用いたゲルろ過法、アフィニティークロマトグラフィー法、クロマトフォーカシング法、等電点電気泳動等の電気泳動法等の手法を用い、精製標品を得ることができる。
本発明において使用されるポリペプチドが形質転換体の細胞内に溶解状態で蓄積する場合には、培養物を遠心分離することにより、培養物中の細胞を集め、その細胞を洗浄した後に、超音波破砕機、フレンチプレス、マントンガウリンホモジナイザー、ダイノミル等により細胞を破砕し、無細胞抽出液を得る。その無細胞抽出液を遠心分離することにより得られた上清から、溶媒抽出法、硫安等による塩析法脱塩法、有機溶媒による沈澱法、ジエチルアミノエチル(DEAE)−Sepharose、DIAION HPA−75等樹脂を用いた陰イオン交換クロマトグラフィー法、S−Sepharose FF等の樹脂を用いた陽イオン交換クロマトグラフィー法、Butyl−Sepharose、Phenyl−Sepharose等の樹脂を用いた疎水性クロマトグラフィー法、分子篩を用いたゲルろ過法、アフィニティークロマトグラフィー法、クロマトフォーカシング法、等電点電気泳動等の電気泳動法等の手法を用いることによって、精製標品を得ることができる。
本発明において使用されるポリペプチドが細胞内に不溶体を形成して発現した場合は、同様に細胞を回収後破砕し、遠心分離を行うことにより得られた沈澱画分より、通常の方法により本発明のポリペプチドを回収後、そのポリペプチドの不溶体をポリペプチド変性剤で可溶化する。この可溶化液を、ポリペプチド変性剤を含まないあるいはポリペプチド変性剤の濃度がポリペプチドが変性しない程度に希薄な溶液に希釈、あるいは透析し、本発明のポリペプチドを正常な立体構造に構成させた後、上記と同様の単離精製法により精製標品を得ることができる。
また、通常のタンパク質の精製方法[例えば、J.Evan.Sadlerら:Methods in Enzymology,83,458]に準じて精製できる。また、本発明において使用されるポリペプチドが他のタンパク質との融合タンパク質として生産しても使用され得る場合、融合したタンパク質に親和性をもつ物質を用いたアフィニティークロマトグラフィーを利用して精製することもできる[山川彰夫,実験医学(Experimental Medicine),13,469−474(1995)]。あるいは、Loweらの方法[Proc.Natl.Acad.Sci.,USA,86,8227−8231(1989)、GenesDevelop.,4,1288(1990)]に記載の方法に準じて、そのようなポリペプチドをプロテインAとの融合タンパク質として生産し、イムノグロブリンGを用いるアフィニティークロマトグラフィーにより精製することができる。また、本発明において使用されるポリペプチドをFLAGペプチドとの融合タンパク質として生産し、抗FLAG抗体を用いるアフィニティークロマトグラフィーにより精製することができる[Proc.Natl.Acad.Sci.,USA,86,8227(1989)、Genes Develop.,4,1288(1990)]。
さらに、本発明のポリペプチド自身に対する抗体を用いたアフィニティークロマトグラフィーで精製することもできる。本発明のポリペプチドは、公知の方法[J.Biomolecular NMR,6,129−134、Science,242,1162−1164、J.Biochem.,110,166−168(1991)]に準じて、in vitro転写・翻訳系を用いてを生産することができる。
上記で取得されたポリペプチドのアミノ酸情報を基に、Fmoc法(フルオレニルメチルオキシカルボニル法)、tBoc法(t−ブチルオキシカルボニル法)等の化学合成法によっても本発明のポリペプチドを製造することができる。また、Advanced ChemTech、Applied Biosystems、Pharmacia Biotech、Protein Technology Instrument、Synthecell−Vega、PerSeptive、島津製作所等のペプチド合成機を利用し化学合成することもできる。
(アドレス)
基板、チップのようなものの固相表面または膜には、上述のように任意の数の標的物質(例えば、抗体のようなタンパク質、細胞など)が配置され得るが、通常、基板1つあたり、108個の生体分子または細胞まで、他の実施形態において107個の生体分子または細胞まで、106個の生体分子または細胞まで、105個の生体分子または細胞まで、104個の生体分子または細胞まで、103個の生体分子または細胞まで、または102個の生体分子または細胞までの生体分子が配置され得るが、108個の生体分子を超える標的物質を含む組成物または細胞が配置されていてもよい。これらの場合において、チップまたは基板の大きさはより小さくても大きくてもよい。
特に、標的物質を含む組成物または細胞のスポットの大きさは、単一の生体分子または細胞のサイズと同じ小さくあり得る(これは、1−2nmの桁であり得るが、それ以上の大きさであり得、たとえば数μm〜数十μmであってもよい。)。最小限の基板の面積は、いくつかの場合において基板上の生体分子の数によって決定される。本発明では、細胞への導入が企図される標的物質を含む組成物または細胞は、通常、0.01mm〜10mmのスポット状に共有結合あるいは物理的相互作用によって配列固定されている。
基板、チップなどの上には、生体分子または細胞の「スポット」が配置され得る。本明細書において「スポット」とは、標的物質を含む組成物または細胞の一定の集合をいう。本明細書において「スポッティング」とは、ある標的物質を含む組成物または細胞のスポットをある基板またはプレートに作製することをいう。スポッティングはどのような方法でも行うことができ、例えば、ピペッティングなどによって達成され得、あるいは自動装置で行うこともでき、そのような方法は当該分野において周知である。
本明細書において使用される用語「アドレス」とは、基板上のユニークな位置をいい、他のユニークな位置から弁別可能であり得るものをいう。アドレスは、そのアドレスを伴うスポットとの関連づけに適切であり、そしてすべての各々のアドレスにおける存在物が他のアドレスにおける存在物から識別され得る(例えば、光学的)、任意の形状を採り得る。アドレスを定める形は、例えば、円状、楕円状、正方形、長方形であり得るか、または不規則な形であり得る。したがって、「アドレス」は、抽象的な概念を示し、「スポット」は具体的な概念を示すために使用され得るが、両者を区別する必要がない場合、本明細書においては、「アドレス」と「スポット」とは互換的に使用され得る。
各々のアドレスを定めるサイズは、とりわけ、その基板の大きさ、特定の基板上のアドレスの数、標的物質を含む組成物の量および/または利用可能な試薬、微粒子のサイズおよびその基板、チップなどが使用される任意の方法のために必要な解像度の程度に依存する。大きさは、例えば、1−2nmから数cmの範囲であり得るが、その基板、チップなどの適用に一致した任意の大きさが可能である。
アドレスを定める空間配置および形状は、その基板、チップなどが使用される特定の適用に適合するように設計される。アドレスは、密に配置され得、広汎に分散され得るか、または特定の型の分析物に適切な所望のパターンへとサブグループ化され得る。
このようなアドレス配置は、ゲノム機能研究プロトコール(実験医学別冊 ポストゲノム時代の実験講座1)、ゲノム医科学とこれからのゲノム医療(実験医学増刊)などに広く概説される方法を用いることができる。
得られるデータは膨大であることから、クローンとスポットとの対応の管理、データ解析などを行うためのデータ解析ソフトウェアが重要である。そのようなソフトウェアとしては、各種検出システムに付属のソフトウェアが利用可能である(Ermolaeva Oら(1998)Nat.Genet.20:19−23)。また、データベースのフォーマットとしては、例えば、Affymetrixが提唱しているGATC(genetic analysis technology consortium)と呼ばれる形式が挙げられる。
微細加工については、例えば、Campbell,S.A.(1996).The Science andEngineering of Microelectronic Fabrication,Oxford University Press;Zaut,P.V.(1996).Micromicroarray Fabrication:a Practical Guide to Semiconductor Processing,Semiconductor Services;Madou,M.J.(1997).Fundamentals of Microfabrication,CRC1 5 Press;Rai−Choudhury,P.(1997).Handbook of Microlithography,Micromachining,& Microfabrication:Microlithographyなどに記載されており、これらは本明細書において関連する部分が参考として援用される。
(細胞)
本明細書において使用される「細胞」は、当該分野において用いられる最も広義の意味と同様に定義され、多細胞生物の組織の構成単位であって、外界を隔離する膜構造に包まれ、内部に自己再生能を備え、遺伝情報およびその発現機構を有する生命体をいう。本明細書において使用される細胞は、天然に存在する細胞であっても、人工的に改変された細胞(例えば、融合細胞、遺伝子改変細胞)であってもよい。細胞の供給源としては、例えば、単一の細胞培養物であり得、あるいは、正常に成長したトランスジェニック動物の胚、血液、または体組織、または正常に成長した細胞株由来の細胞のような細胞混合物が挙げられるがそれらに限定されない。
本発明で用いられる細胞は、どの生物由来の細胞(たとえば、任意の種類の単細胞生物(例えば、細菌、酵母)または多細胞生物(例えば、動物(たとえば、脊椎動物、無脊椎動物)、植物(たとえば、単子葉植物、双子葉植物など)など))でもよい。例えば、脊椎動物(たとえば、メクラウナギ類、ヤツメウナギ類、軟骨魚類、硬骨魚類、両生類、爬虫類、鳥類、哺乳動物など)由来の細胞が用いられ、より詳細には、哺乳動物(例えば、単孔類、有袋類、貧歯類、皮翼類、翼手類、食肉類、食虫類、長鼻類、奇蹄類、偶蹄類、管歯類、有鱗類、海牛類、クジラ目、霊長類、齧歯類、ウサギ目など)由来の細胞が用いられる。1つの実施形態では、霊長類(たとえば、チンパンジー、ニホンザル、ヒト)由来の細胞、特にヒト由来の細胞が用いられるがそれに限定されない。
本明細書において「幹細胞」とは、自己複製能を有し、多分化能(すなわち多能性)(「pluripotency」)を有する細胞をいう。幹細胞は通常、組織が傷害を受けたときにその組織を再生することができる。本明細書では幹細胞は、胚性幹(ES)細胞または組織幹細胞(組織性幹細胞、組織特異的幹細胞または体性幹細胞ともいう)であり得るがそれらに限定されない。また、上述の能力を有している限り、人工的に作製した細胞(たとえば、本明細書において記載される融合細胞、再プログラム化された細胞など)もまた、幹細胞であり得る。胚性幹細胞とは初期胚に由来する多能性幹細胞をいう。胚性幹細胞は、1981年に初めて樹立され、1989年以降ノックアウトマウス作製にも応用されている。1998年にはヒト胚性幹細胞が樹立されており、再生医学にも利用されつつある。組織幹細胞は、胚性幹細胞とは異なり、分化の方向が限定されている細胞であり、組織中の特定の位置に存在し、未分化な細胞内構造をしている。従って、組織幹細胞は多能性のレベルが低い。組織幹細胞は、核/細胞質比が高く、細胞内小器官が乏しい。組織幹細胞は、概して、多分化能を有し、細胞周期が遅く、個体の一生以上に増殖能を維持する。本明細書において使用される場合は、幹細胞は胚性幹細胞であっても、組織幹細胞であってもよい。
由来する部位により分類すると、組織幹細胞は、例えば、皮膚系、消化器系、骨髄系、神経系などに分けられる。皮膚系の組織幹細胞としては、表皮幹細胞、毛嚢幹細胞などが挙げられる。消化器系の組織幹細胞としては、膵(共通)幹細胞、肝幹細胞などが挙げられる。骨髄系の組織幹細胞としては、造血幹細胞、間葉系幹細胞などが挙げられる。神経系の組織幹細胞としては、神経幹細胞、網膜幹細胞などが挙げられる。
本明細書において「体細胞」とは、卵子、精子などの生殖細胞以外の細胞であり、そのDNAを次世代に直接引き渡さない全ての細胞をいう。体細胞は通常、多能性が限定されているかまたは消失している。本明細書において使用される体細胞は、天然に存在するものであってもよく、遺伝子改変されたものであってもよい。
細胞は、由来により、外胚葉、中胚葉および内胚葉に由来する幹細胞に分類され得る。外胚葉由来の細胞は、主に脳に存在し、神経幹細胞などが含まれる。中胚葉由来の細胞は、主に骨髄に存在し、血管幹細胞、造血幹細胞および間葉系幹細胞などが含まれる。内胚葉由来の細胞は主に臓器に存在し、肝幹細胞、膵幹細胞などが含まれる。本明細書では、体細胞はどのような胚葉由来でもよい。好ましくは、体細胞は、リンパ球、脾臓細胞または精巣由来の細胞が使用され得る。
本明細書において「単離された」とは、通常の環境において天然に付随する物質が少なくとも低減されていること、好ましくは実質的に含まないをいう。従って、単離された細胞とは、天然の環境において付随する他の物質(たとえば、他の細胞、タンパク質、核酸など)を実質的に含まない細胞をいう。核酸またはポリペプチドについていう場合、「単離された」とは、たとえば、組換えDNA技術により作製された場合には細胞物質または培養培地を実質的に含まず、化学合成された場合には前駆体化学物質またはその他の化学物質を実質的に含まない、核酸またはポリペプチドを指す。単離された核酸は、好ましくは、その核酸が由来する生物において天然に該核酸に隣接している(flanking)配列(即ち、該核酸の5’末端および3’末端に位置する配列)を含まない。
本明細書において、「樹立された」または「確立された」細胞とは、特定の性質(例えば、多分化能)を維持し、かつ、細胞が培養条件下で安定に増殖し続けるようになった状態をいう。したがって、樹立された幹細胞は、多分化能を維持する。
本明細書において「分化(した)細胞」とは、機能および形態が特殊化した細胞(例えば、筋細胞、神経細胞など)をいい、幹細胞とは異なり、多能性はないか、またはほとんどない。分化した細胞としては、例えば、表皮細胞、膵実質細胞、膵管細胞、肝細胞、血液細胞、心筋細胞、骨格筋細胞、骨芽細胞、骨格筋芽細胞、神経細胞、血管内皮細胞、色素細胞、平滑筋細胞、脂肪細胞、骨細胞、軟骨細胞などが挙げられる。
本明細書において引用された、科学文献、特許、特許出願などの参考文献は、その全体が、各々具体的に記載されたのと同じ程度に本明細書において参考として援用される。
以上、本発明を、理解の容易のために好ましい実施形態を示して説明してきた。以下に、実施例に基づいて本発明を説明するが、上述の説明および以下の実施例は、例示の目的のみに提供され、本発明を限定する目的で提供したのではない。従って、本発明の範囲は、本明細書に具体的に記載された実施形態にも実施例にも限定されず、特許請求の範囲によってのみ限定される。
以下に実施例を示して本発明をさらに詳しく説明するが、この発明は以下の例に限定されるものではない。以下の実施例において用いられる試薬、支持体などは、例外を除き、Sigma(St.Louis,USA、和光純薬(大阪、日本)、松浪硝子(岸和田、日本)などから市販されるものを用いた。
(実施例1)
本発明のディスク状バイオチップの一例として、図2および図3に示すように、直径4〜12cm程度の円形のガラス板で形成され、その表面には蛍光物質により標識されたDNAが導入された細胞が直径が0.2〜0.8μmの微小なスポット2として同心円形状又は螺旋形状に10,000〜100,000種配列されている。
(実施例2:アクチン作用物質混合物の調製)
アクチン作用物質の候補として、種々の細胞外マトリクスタンパク質およびその改変体もしくはそのフラグメントを準備した。この実施例において調製したものは以下のとおりである。フィブロネクチンなどは、市販のものを用い、フラグメントおよび改変体は、遺伝子操作して改変したものを用いた。
1)フィブロネクチン(配列番号11);
2)フィブロネクチン29kDaフラグメント;
3)フィブロネクチン43kDaフラグメント;
4)フィブロネクチン72kDaフラグメント;
5)フィブロネクチン改変体(配列番号11のうち、152位のアラニンをロイシンに変化させたもの);
6)プロネクチンF(三洋化成、京都、日本);
7)プロネクチンL(三洋化成);
8)プロネクチンPlus(三洋化成);
9)ラミニン(配列番号6);
10)RGDペプチド(トリペプチド);
11)RGDを含んだ30kDaペプチド;
12)ラミニンの5アミノ酸IKVAV;
13)ゼラチン。
DNAとしてトランスフェクションのためのプラスミドを調製した。プラスミドとして、pEGFP−N1およびpDsRed2−N1(ともにBD Biosciences,Clontech、CA、USA)を用いた。これらのプラスミドでは、遺伝子発現はサイトメガロウイルス(CMV)の制御下にある。プラスミドDNAを、E.coli(XL1 blue、Stratgene,TX,USA)中で増幅し増幅したプラスミドDNAを複合体パートナーの一方として用いた。DNAは、DNaseもRNaseも含まない蒸留水中に溶解した。
使用したトランスフェクション試薬は以下の通りである:Effectene Transfection Reagent(cat.no.301425,Qiagen,CA),TransFastTM Transfection Reagent(E2431,Promega,WI),TfxTM-20 Reagent(E2391,Promega,WI),SuperFect Transfection Reagent(301305,Qiagen,CA),PolyFect Transfection Reagent(301105,Qiagen,CA),LipofectAMINE 2000 Reagent(11668-019,Invitrogen corporation,CA),JetPEI(×4)conc.(101-30,Polyplus-transfection,France)およびExGen 500(R0511,Fermentas Inc.,MD)。トランスフェクション試薬は、上記DNAおよびアクチン作用物質にあらかじめ加えるかあるいはDNAと複合体を先に生成してから使用した。
このようにして調製した溶液を以下のトランスフェクション効率の改善試験に用いた。
(実施例3:固相におけるトランスフェクション効率の改善)
本実施例では、固相におけるトランスフェクション効率の改善を観察した。そのプロトコルを以下に示す。固相としては実施例1において製作したディスク状のものを用いた。
(プロトコル)
DNAの最終濃度は、1μg/μLに調整した。アクチン作用物質は、ddH2O中で10μg/μLのストックとして保存した。全ての希釈をPBS、ddH2OまたはダルベッコMEM培地を用いて行った。希釈系列として、例えば、0.2μg/μL、0.27μg/μL、0.4μg/μL、0.53μg/μL、0.6μg/μL、0.8μg/μL、1.0μg/μL、1.07μg/μL、1.33μg/μL、などを調製した。
トランスフェクション試薬は、それぞれの製造業者が提供する指示書に従って、使用した。
プラスミドDNA:グリセロールストックから100mLのL−amp中で一晩増殖させ、Qiaprep MiniprepまたはQiagen Plasmid Purification Maxiを用いて製造業者が提供する標準プロトコールによって精製した。
本実施例では、以下の5種類の細胞を利用して、効果を確認した:ヒト間葉系幹細胞(hMSCs、PT-2501、Cambrex BioScience Walkersville,Inc.,MD)、ヒト胚性腎細胞 (HEK293、RCB1637、RIKEN Cell Bank,JPN)、NIH3T3-3細胞 (RCB0150,RIKEN Cell Bank,JPN)、HeLa細胞(RCB0007、RIKEN Cell Bank,JPN)およびHepG2(RCB1648、RIKEN Cell Bank,JPN)。これらは、L−glutおよびpen/strepを含むDMEM/10%IFS中で培養した。
(希釈およびDNAのスポット)
トランスフェクション試薬とDNAとを混合してDNA−トランスフェクション試薬複合体を形成させる。複合体形成にはある程度の時間が必要であることから、上記混合物を、ディスクプリンタ(ディスク状チップを装着できる回転ステージとX方向とZ方向に移動可能な微量液体噴出器(GENOMIC SOLUTIONS, Cartesian MicroSysTM 4100)を組み合わせ、作製された装置)を用いてディスク状の固相支持体(例えば、ポリ−L−リジンスライド)にスポットした。本実施例では、固相支持体として、ポリ−L−リジンディスク状チップのほか、APSディスク状チップ、MASディスク状チップ、コーティングなしのディスク状チップを用いた。これらは、松浪硝子(岸和田、日本)において入手可能である。
複合体形成およびスポット固定のために、真空乾燥機中で一晩ディスク状チップを乾燥させた。乾燥時間の範囲は、2時間から1週間とした。
アクチン作用物質は、上記複合体形成時に使用してもよいが、本実施例では、スポッティングの直前に使用する形態も試験した。
(混合液の調製および固相支持体への適用)
エッペンドルフチューブに、300μLのDNA濃縮緩衝液(EC緩衝液)+16μLのエンハンサーを混合した。これをボルテックスによって混合し、5分間インキュベートした。50μLのトランスフェクション試薬(Effecteneなど)を加え、そしてピペッティングによって混合した。トランスフェクション試薬を適用するために、スライドのスポットのまわりにワックス環状バリヤーを引いた。スポットのワックスで囲まれた領域に366μLの混合物を加え、室温で10から20分間インキュベートした。これにより、支持体への主導による固定が達成された。
(細胞の分配)
次に、細胞を添加するプロトコルを示す。トランスフェクトのために細胞を分配した。この分配は、通常、フード内で試薬を減圧吸引して行った。スライドを皿に置き、そしてトランスフェクションのために細胞を含む溶液を加えた。細胞の分配は、以下のとおりである。
細胞の濃度が25mL中107細胞になるように、増殖中の細胞を分配した。四角の100×100×15mmのペトリ皿または半径100mm×15mmの円形ディッシュ中で、ディスク状チップ上に細胞をプレーティングした。約40時間、トランスフェクションを進行させた。これは、約2細胞周期にあたる。免疫蛍光のためにディスク状チップを処理した。
(遺伝子導入の評価)
遺伝子導入の評価は、例えば、免疫蛍光、蛍光顕微鏡検査、レーザー走査、 放射性標識および感受性フィルムまたはエマルジョンを用いた検出によって達成した。
可視化されるべき発現されたタンパク質が蛍光タンパク質であるなら、それらを蛍光顕微鏡検査で見てそして写真を撮ることができる。大きな発現アレイに関しては、ディスク状チップをデータ保存のためにレーザーディスク状スキャナーで走査し得る。発現されたタンパク質を蛍光抗体が検出し得るなら、免疫蛍光のプロトコールが引き続いて行うことができる。検出が放射能に基づくなら、スライドを上記で示したように付着し得、そしてフィルムまたはエマルジョンを用いたオートラジオグラフィーによって放射能を検出することができる。
ディスク状であることから、従来のアレイに比べて、移動距離を節約して遺伝子導入を評価することが可能になった。
(レーザー走査および蛍光強度定量)
トランスフェクション効率を定量するために、本発明者らは、ディスク状チップスキャナ(倒立型蛍光顕微鏡(OLYMPUS IX-81)に蛍光イメージ取得用CCDカメラ(HAMAMATSU Photonics, ORCA-ER)及びディスク状チップを装着可能なステージを装着し、製作した装置)を使用した。総蛍光強度(任意の単位)を測定した後、表面積あたりの蛍光強度を計算した。
(共焦点顕走査顕微鏡による切片観察)
使用した細胞を、組織培養ディッシュに最終濃度1×105細胞/ウェルで播種し、適切な培地を用いて(ヒト間葉系細胞の場合ヒト間葉系細胞基本培地(MSCGM、BulletKit PT−3001、Cambrex BioScience Walkersville,Inc.、MD,USA)を用いた)培養した。細胞層を4%パラホルムアルデヒド溶液で固定した後、染色試薬であるSYTOおよびTexas Red−Xファロイジン(Molecular Probes Inc.,OR,USA)を細胞層に添加して、核およびFアクチンを観察した。遺伝子産物によって発色するサンプルまたは染色されたサンプルを共焦点レーザー顕微鏡(LSM510、Carl Zeiss Co.,Lrd、ピンホールサイズ=Ch1=123μm, Ch2=108 μm;画像間隔=0.4)を用いて、切片像を得た。切片像は、ディスク状の像を観察することができることから、観察効率が格段に上がる。
このような効果は、従来のトランスフェクション系では決して達成されなかったことであり、事実上すべての細胞についてトランスフェクション効率を上昇させることができ、実用に耐え得るトランスフェクションをすべての細胞に提供する系が史上初めて提供されたことになる。また、固相条件を採用したことによって、相互夾雑も顕著に減少した。従って、固相支持体を使用する場合本発明は、集積化ディスク状細胞チップを製造するために適切な方法であることが実証された。
(実施例4:バイオアレイへの応用)
次に、上述の効果が大規模ディスクを用いた場合でも実証されるかどうかを確認するために規模拡大して実験を行った。
(実験プロトコル)
(細胞供給源、培養培地、および培養条件)
この実施例では、5種類の異なる細胞株を使用した:ヒト間葉系幹細胞(hMSC、PT−2501、Cambrex BioScience Walkersville,Inc.,MD)、ヒト胚性腎細胞HEK293(RCB1637、RIKEN Cell Bank,JPN)、NIH3T3−3(RCB0150、RIKEN Cell Bank,JPN)、HeLa(RCB0007、RIKEN Cell Bank,JPN)、およびHepG2(RCB1648、RIKEN Cell Bank,JPN)。ヒトMSC細胞の場合、この細胞を、市販のヒト間葉細胞基底培地(MSCGM BulletKit PT−3001,Cambrex BioScience Walkersville,Inc.,MD)中で維持した。HEK293細胞、NIH3T3−3細胞、HeLa細胞およびHepG2細胞の場合、これらの細胞を、10% ウシ胎仔血清(FBS、29−167−54、Lot No.2025F、Dainippon Pharmaceutical CO.,LTD.,JPN)を有するダルベッコ改変イーグル培地(DMEM、L−グルタミンおよびピルビン酸ナトリウムを有する高グルコース(4.5g/L);14246−25、Nakalai Tesque,JPN)中で維持した。全ての細胞株を、37℃、5% CO2に制御されたインキュベーター中で培養した。hMSCを含む実験において、本発明者らは、表現型の変化を回避するために、5継代未満のhMSCを使用した。
(プラスミドおよびトランスフェクション試薬)
トランスフェクションの効率を評価するために、pEGFP−N1ベクターおよびpDsRed2−N1ベクター(カタログ番号6085−1、6973−1、BD Biosciences Clontech,CA)を使用した。共に遺伝子発現は、サイトメガロウイルス(CMV)プロモーターの制御下であった。トランスフェクトされた細胞は、それぞれ、連続的にEGFPまたはDsRed2を発現した。プラスミドDNAを、Escherichia coli、XL1−blue株(200249,Stratagene,TX)を使用して増幅し、そしてEndoFree Plasmid Kit(EndoFree Plasmid Maxi Kit 12362、QIAGEN、CA)によって精製した。全ての場合において、プラスミドDNAを、DNaseおよびRNaseを含まない水に溶解した。トランスフェクション試薬は以下のようにして得た:Effectene Transfection Reagent(カタログ番号301425、Qiagen、CA)、TransFastTM Transfection Reagent(E2431、Promega、WI)、TfxTM−20 Reagent(E2391、Promega、WI)、SuperFect Transfection Reagent(301305、Qiagen、CA)、PolyFect Transfection Reagent(301105、Qiagen、CA)、LipofectAMINE 2000 Reagent(11668−019、Invitrogen corporation、CA)、JetPEI(×4)conc.(101−30、Polyplus−transfection、France)、およびExGen 500(R0511、Fermentas Inc.,MD)。
(固相系トランスフェクションアレイ(SPTA)生成)
「リバーストランスフェクション」につてのプロトコルの詳細は、ウェブサイト http://staffa.wi.mit.edu/sabatini_public/reverse_transfection.htm の「Reverse Transfection Homepage」に記載されていた。本発明者らの固相系トランスフェクション(SPTA方法)において、疎水性フッ素樹脂コーティングによって分離した48平方パターン(3mm×3mm)を有する3つの型のスライドガラス(シラン処理したスライドガラス;APSスライド、およびポリ−L−リジンでコーティングしたスライドガラス;PLLスライド、およびMASでコーティングしたスライド;Matsunami Glass Ind.,LTD.,JPN)を研究した。
(プラスミドDNAプリンティング溶液の調製)
SPTAを生成するための2つの異なる方法を開発した。その主な違いは、プラスミドDNAプリンティング溶液の調製にある。
(方法A)
Effectene Transfection Reagentを使用する場合、プリンティング溶液は、プラスミドDNAおよび細胞接着分子(4mg/mLの濃度で超純水に溶解したウシ血漿フィブロネクチン(カタログ番号16042−41、Nakalai Tesque、JPN))を含んだ。
上記の溶液を、ディスクプリンタ(ディスク状チップを装着できる回転ステージとX方向とZ方向に移動可能な微量液体噴出器(GENOMICSOLUTIONS, Cartesian MicroSysTM 4100)を組み合わせ、作製された装置)を用いてか、または手動で0.5〜10μLチップを用いて、スライドの表面に適用した。このプリントしたスライドガラスを安全キャビネットの内側で室温にて15分間かけて乾燥させた。トランスフェクションの前に、総Effectene試薬を、DNAプリントしたディスク状チップ上に静かに注ぎ、そして室温にて15分間インキュベートした。過剰のEffectene溶液を、吸引アスピレーターを用いてスライドガラスから除去し、そして安全キャビネットの内側で室温にて15分間かけて乾燥させた。得られたDNAプリントしたディスク状チップを、100mm培養ディッシュの底に置き、そして約25mLの細胞懸濁液(2〜4×104細胞/mL)を、このディッシュに静かに注いだ。次いで、このディッシュを37℃、5% CO2のインキュベーターに移し、2〜3日間インキュベートした。
(方法B)
他のトランスフェクション試薬(TransFastTM、TfxTM−20、SuperFect、PolyFect、LipofectAMINE 2000、JetPEI(×4)conc.またはExGen)の場合、プラスミドDNA、フィブロネクチン、およびトランスフェクション試薬を、製造業業者が配布する指示書に示される比率に従って1.5mLのマイクロチューブ中で均一に混合し、そしてチップ上にプリンティングする前に室温にて15分間インキュベートした。プリンティング溶液を、上述のディスク用機器または0.5〜10μLチップを用いてディスク状チップの表面上に適用した。このプリントしたディスク状チップを、安全キャビネットの内側で室温にて10分間かけて完全に乾燥させた。プリントしたディスク状チップを100mm培養ディッシュの底に置き、そして約3mLの細胞懸濁液(2〜4×104細胞/mL)を添加し、安全キャビネットの内側で室温にて15分間にわたってインキュベートした。インキュベーション後、新鮮な培地をこのディッシュに静かに注いだ。次いで、このディッシュを37℃、5% CO2のインキュベーターに移し、2〜3日間インキュベートした。インキュベーション後、本発明者らは、蛍光顕微鏡(IX−71、Olympus PROMARKETING,INC.,JPN)を用いて、増強された蛍光タンパク質(EFP、EGFP、およびDsRed2)の発現に基づいてトランスフェクト体を観察した。位相差画像を同じ顕微鏡を用いて撮った。両プロトコルにおいて、細胞をパラホルムアルデヒド(PFA)固定方法(PBS中の4% PFA、処理時間は、室温にて10分間)を用いることによって固定した。
(レーザー走査および蛍光強度定量)
トランスフェクション効率を定量するために、本発明者らは、実施例3で使用した上述のスキャナを使用した。総蛍光強度(任意の単位)を測定した後、表面積あたりの蛍光強度を計算した。
(効率)
種々の細胞をこの実施例において用いた。これらの細胞は、通常使用される培養条件で培養した。これらの細胞はディスク状チップに付着することから、細胞は、効率よく取り込まれ、そしてディスク状チップ上に与えられた位置でプリントされたDNAに対応する遺伝子を発現した。通常のトランスフェクション方法(例えば、カチオン性脂質またはカチオン性高分子媒介トランスフェクション)と比較すると、本発明の方法を用いた場合のトランスフェクション効率は、いずれも顕著に高かった。特に、トランスフェクトすることが困難とされていたHepG2、hMSCなどのような組織幹細胞でも、効率よくトランスフェクトされることが見出されたことは、特に重要である。hMSCの場合には、従来方法の約40倍以上の効率上昇が見られた。また、高密度アレイに必要な高い集積度も達成された(すなわち、ディスク状チップ上で隣接するスポット同士の間の夾雑が顕著に減っていた)。これは、EGFPおよびDs−REDの円状パターンのディスク状チップを生成することによって確認した。ヒトMSCをこのディスク状チップにおいて培養し、実質的にすべての空間解像度が示されるように対応する蛍光タンパク質を発現させた。その結果、ほとんど夾雑していないことが明らかになった。プリント混合物の個々の成分の役割に関するこの研究に基づいて、種々の細胞に関して、トランスフェクション効率の最適化を行うことができる。
(フィブロネクチンによる局所的トランスフェクションにおける効率化)
本発明者らの上述してきたデータを総合すると、フィブロネクチンなどの接着因子または細胞外マトリクスタンパク質と称されていたタンパク質は、細胞接着活性以外の活性を有することが明らかになった。そのような活性としては、種々の細胞によって異なるが、これらの活性は、トランスフェクション効率の上昇に関与していることがわかる。なぜなら、フィブロネクチンの有無で接着の様子を調べた結果によると、接着の状態自体は差異が見られなかったからである。従って、このような局所的トランスフェクションによる効率化によって、細胞がディスク状チップ上に固定化され、しかもその中に遺伝子などの生体分子を導入し分析することができることが明らかになった。
(実施例5:ヒト間葉系幹細胞の固相系トランスフェクションディスク状チップ)
多様な種類の細胞に分化するヒト間葉系幹細胞(hMSC)の能力は、組織再生および組織復活を標的化する研究にとって特に興味深いものになっている。特に、これらの細胞の形質転換についての遺伝子解析は、hMSCの多能性を制御する因子を解明する上で、関心が高まっている。hMSCの研究は、所望の遺伝物質を用いたトランスフェクションが不可能な点にある。しかもディスク状チップとして用いることができれば、その分析効率は格段に上がる。
これを達成するために、従来の方法としては、ウイルスベクターまたはエレクトロポレーションのいずれかの技術などが挙げられる。本発明者らが開発した複合体−塩という系を用いることにより、種々の細胞株(hMSCを含む)に対して高いトランスフェクション効率ならびに密集したディスク状チップ中での空間的な局在の獲得を可能にする固相系トランスフェクションが達成された。
固相系トランスフェクションにより、インビボ遺伝子送達のために使用され得る「トランスフェクションパッチ」の技術的な達成ならびにhMSCにおける高スループットの遺伝子機能研究のためのトランスフェクションディスク状チップが可能になることが判明した。
哺乳動物細胞をトランスフェクトするための多数の標準的な方法が存在するが、遺伝物質のhMSCへの導入については、HEK293、HeLaなどの細胞株を比較して不便かつ困難であることが知られている。従来使用されるウイルスベクター送達またはエレクトロポレーションのいずれも重要であるが、潜在的な毒性(ウイルス方法)、ゲノムスケールでの高スループット分析を受けにくいこと、およびインビボ研究に対して制限された適用性(エレクトロポレーションに関して)のような不便さが存在する。従って、ディスク状細胞チップなどは全く持って実現可能性が無いと考えられてきた。
固相支持体に簡便に固定することができ、かつ徐放性および細胞親和性を保持した固相支持体固定系が開発されたことにより、これらの欠点のほとんど克服することができた。
マイクロプリンティング技術を使用する本発明者らの技術を用いて、選択された遺伝物質、トランスフェクション試薬および適切な細胞接着分子、ならびに塩を含む混合物を、ディスク状チップの固体支持体上に固定化し得た。混合物を固定化した支持体の上での細胞培養は、その培養細胞に対する、混合物中の遺伝子の取り込みを可能にした。その結果、支持体−接着細胞における、空間的に分離したDNAの取り込みを可能にした。
本実施例の結果、いくつかの重要な効果が達成された:高いトランスフェクション効率(その結果、統計学的に有意な細胞集団が研究され得る)、異なるDNA分子を支持する領域間の低い相互夾雑(その結果、個々の遺伝子の効果が、別々に研究され得る)、トランスフェクト細胞の長期生存、高スループットの互換性のある形式および簡便な検出方法。本発明のディスク状細胞チップは、これらの基準を全て満たすことは、さらなる研究のための適切な基盤となることになる。
これらの目的の達成を明確に確立するために、上述のように本発明者らは、5種類の異なる細胞株(HEK293、HeLa、NIH3T3、HepG2およびhMSC)を、本発明者らの方法論(固相系でのトランスフェクション)および従来の液相系トランスフェクションの両方を用いて一連のトランスフェクション条件下で研究した。ディスク状細胞チップの場合、相互夾雑を評価するために、本発明者らは、一定間隔をあけたパターンで固体支持体上にプリントした赤色蛍光タンパク質(RFP)および緑色蛍光タンパク質(GFP)を使用し、一方、従来の液相系トランスフェクションを含む実験の場合(ここで、本来、トランスフェクト細胞の自発的な空間的分離は達成され得ない)、本発明者らは、GFPを使用した。いくつかのトランスフェクション試薬を評価した:4つの液体トランスフェクション試薬(Effectene、TransFastTM、TfxTM−20、LopofectAMINE 2000)、2つのポリアミン(SuperFect、PolyFect)、ならびに2つの型のポリイミン(JetPEI(×4)およびExGen 500)。
トランスフェクション効率:トランスフェクション効率を、単位面積あたりの総蛍光強度として決定した。使用した細胞株に従って、最適な液相の結果を、異なるトランスフェクション試薬を用いて得た。次いで、これらの効率的なトランスフェクション試薬を、固相系プロトコルの最適化に使用した。いくつかの傾向が観察された:容易にトランスフェクト可能な細胞株(例えば、HEK293、HeLa、NIH3T3)の場合、固相系プロトコルで観察されたトランスフェクション効率は、標準的な液相系プロトコルと比較してわずかに優れていたが、本質的に類似したレベルで達成されている。
しかし、細胞をトランスフェクトするのが困難な場合(例えば、hMSCおよびHepG2)においてSPTA方法論に最適化した条件を用いることによって、本発明者らは、細胞の特徴を維持しながら、トランスフェクション効率が40倍まで増加したことを観察した。最良条件は、ポリエチレンイミン(PEI)トランスフェクション試薬の使用を含んだ。予想したように、高いトランスフェクション効率を実現するための重要な因子は、ポリマー内の窒素原子(N)の数とプラスミドDNA内のリン酸残基(P)の数との間の電荷バランス(N/P比率)、ならびにDNA濃度である。一般的に、N/P比率および濃度における増大は、トランスフェクション効率の増大を生じる。並行して、本発明者らは、hMSCの溶液トランスフェクション実験における高いDNAおよび高いN/P比率の場合に、細胞生存率の有意な低下を観察した。これら2つの拮抗因子に起因して、hMSCの液相系トランスフェクションの効率は、かなり悪い非常に低い細胞生存率(N/P比率>10で観察された)であった。しかし、ディスク状細胞チップ製造プロトコルは、細胞生存率にも細胞形態にも有意に影響を与えることなく、非常に高い(固体支持体に固定された)N/P比率およびDNA濃度を許容し(おそらく、細胞膜に対する固体支持体の安定化効果に起因する)、従って、このことがおそらく、トランスフェクション効率の劇的な改善の原因となっている。SPTAの場合、10のN/P比率が最適であることが見出され、細胞毒性を最小化しながら十分なトランスフェクションレベルを提供する。SPTAプロトコルにおいて観察されたトランスフェクション効率の増大に関するさらなる理由は、高い局所的なDNA濃度/トランスフェクション試薬濃度(これは、液相系トランスフェクション実験において使用される場合は細胞死を生成する)の達成である。
ディスク状チップ上での高いトランスフェクション効率の達成のための重要な点は、使用されるガラスコーティングである。PLLが、トランスフェクション効率および相互夾雑の両方に関して、よりよい結果を提供することを見出した。フィブロネクチンコーティングしない場合、少数のトランスフェクト体を観察した(他のすべての実験条件は一定に保った)。完全に確立したわけではないが、フィブロネクチンの役割はおそらく、細胞接着プロセスを加速し(データは示していない)、ゆえに、表面を離れたDNA拡散が可能になる時間を制限するということである。
低い相互夾雑:上述のプロトコルで観察された、より高いトランスフェクション効率のほかに、本技術の重要な利点は、別個に分離されたディスク状細胞チップの実現であり、その各位置では、選択した遺伝子が発現する。本発明者らは、フィブロネクチンでコーティングしたディスク状チップ表面上に、JetPEIおよびフィブロネクチンと混合した2つの異なるレポーター遺伝子(RFPおよびGFP)をプリントした。得られたトランスフェクションチップを適切な細胞培養に提供した。最良であると見出された実験条件下において、発現されたGFPおよびRFPは、それぞれのcDNAがスポットされた領域に局在した。相互夾雑はほとんど観察されなかった。しかし、フィブロネクチンまたはPLLの非存在下において、相互夾雑は重要であり、そしてトランスフェクション効率は、有意に低かった。このことは、接着した細胞の割合と、支持体表面から離れて拡散するプラスミドDNAとの相対的な割合が、高いトランスフェクション効率および高い相互夾雑の両方に対して重要な因子であるという仮説を立証する。
相互夾雑のさらなる原因は、固体支持体上のトランスフェクション細胞の移動性であり得る。本発明者らは、数個の支持体上での細胞接着速度(図16C)およびプラスミドDNAの拡散速度の両方を測定した。その結果は、最適条件下においてDNA拡散はほとんど生じないが、高い相互夾雑条件下において、表面からのプラスミドDNAの涸渇は、細胞接着が完了する時間までに相当な量であることを示した。
この確立された技術は、経済的な高スループットの遺伝子機能スクリーニングの状況において特に重要である。実際に、必要とされるトランスフェクション試薬およびDNAの量が少量であること、ならびに全プロセス(プラスミドの単離から検出まで)を自動化が可能であることは、上記の方法の有用性を増大する。
結論として、本発明者らは、アクチン作用物を用いた系で、hMSCトランスフェクションディスク状チップを好首尾に実現した。このことは、多能性幹細胞の分化を制御する遺伝子機構の解明など、固相系トランスフェクションを利用した種々の研究における高スループット研究を可能にすることになる。固相系トランスフェクションの詳細な機構ならびに高スループットのリアルタイム遺伝子発現モニタリングに対するこの技術の使用に関する方法論は種々の目的に応用可能であることが明らかになった。
以上のように、本発明の好ましい実施形態を用いて本発明を例示してきたが、本発明は、特許請求の範囲によってのみその範囲が解釈されるべきであることが理解される。本明細書において引用した特許、特許出願および文献は、その内容自体が具体的に本明細書に記載されているのと同様にその内容が本明細書に対する参考として援用されるべきであることが理解される。