(第1の実施形態)
以下、本発明にかかる機関バルブの制御装置及び制御システムをガソリン機関に適用した第1の実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
図1に、本実施形態にかかる機関バルブの制御システムの全体構成を示す。
図示されるように、クランク軸10の動力は、ベルト12、可変バルブタイミング機構20を介してカム軸14に伝達される。可変バルブタイミング機構20は、クランク軸10と機械的に連結される第1の回転体21と、カム軸14と機械的に連結される第2の回転体22とを備えている。そして、本実施形態では、第2の回転体22が複数の突起部22aを備えて且つ、第1の回転体21内に第2の回転体22が収納されている。そして、第2の回転体22の突起部22aと第1の回転体21の内壁とによって、クランク軸10に対するカム軸14の相対的な回転角度(回転位相差)を遅角させるための遅角室23と、同回転位相差を進角させるための進角室24とが区画形成されている。なお、可変バルブタイミング機構20は、更に、第1の回転体21と第2の回転体22とを、遅角室23の容積が最大となる回転位相差(最遅角位置)にて固定するロック機構25を備えている。
可変バルブタイミング機構20は、遅角室23及び進角室24との間のオイルの流出入によって油圧駆動される。このオイルの流出入は、オイルコントロールバルブ(OCV30)によって調節される。
OCV30は、図示しない油圧ポンプから供給経路31及び遅角経路32又は進角経路33を介して遅角室23又は進角室24へとオイルを供給する。また、OCV30は、遅角室23又は進角室24から遅角経路32又は進角経路33及び排出経路34を介して図示しないオイルパンへとオイルを流出させる。そして、上記遅角経路32又は進角経路33と供給経路31又は排出経路34との流路面積は、スプール35によって調節される。すなわち、スプール35は、スプリング36によって、図中、左側に押されており且つ、電磁ソレノイド37によって図中、右側に向かう力が付与される。このため、電磁ソレノイド37に操作信号を付与して且つ、この操作信号のデューティ(Duty)を調節することで、スプール35の変位量を操作することが可能となる。
上記OCV30の操作による上記回転位相差の制御は、電子制御装置(ECU40)によって行われる。ECU40は、マイクロコンピュータを主体として構成されている。そして、クランク軸10の回転角度を検出するクランク角センサ42の検出値や、カム軸14の回転角度を検出するカム角センサ44の検出値、吸入空気量を検出するエアフローメータ46の検出値等、内燃機関の各種運転状態の検出値を取り込み、これに基づき各種演算を行い、演算結果に基づきOCV30等の内燃機関の各種アクチュエータを操作する。
なお、ECU40は、上記各種演算に用いるデータを記憶保持すべく、常時記憶保持メモリ41等の各種メモリを備えている。ここで、常時記憶保持メモリ41とは、ECU40の起動スイッチの有無にかかわらず、データを常時保持するメモリである。この常時記憶保持メモリ41としては、例えばECU40の起動スイッチの状態にかかわらず常時給電状態とされるバックアップメモリや、給電の有無にかかわらずデータを保持するメモリ(EEPROM等)などがある。
以下、ECU40による回転位相差の制御について詳述する。
スプリング36がスプールを図中右側方向に押す力が、電磁ソレノイド37の磁界がスプール35を逆方向に変位させる力よりも大きいときには、スプール35が図中左側方向に変位する。そして、スプール35が図示される位置よりも左側に変位すると、油圧ポンプから供給経路31、遅角経路32を介して遅角室23にオイルが供給され、且つ進角室24から進角経路33及び排出経路34を介してオイルパンへオイルが排出される。これにより、第2の回転体22は、図中、時計周りの逆方向に回転する。
一方、電磁ソレノイド37の磁界がスプール35を右方向に変位させる力が、スプリング36がスプールを図中左側方向に押す力よりも大きいときには、スプール35が図中右側方向に変位する。そして、スプール35が図示される位置よりも右側に変位すると、油圧ポンプから供給経路31、進角経路33を介して進角室24にオイルが供給され、且つ遅角室23から遅角経路32及び排出経路34を介してオイルパンへオイルが排出される。これにより、第2の回転体22は、図中、時計周りに回転する。
ただし、図示されるように、スプール35が遅角経路32及び進角経路33を塞ぐ位置にあるときには、遅角室23及び進角室24との間のオイルの流出入が停止され、回転位相差が保持される。
ECU40では、OCV30の電磁ソレノイド37に通電することで、スプール35の開度を操作し、回転位相差を制御する。図2に、電磁ソレノイド37に対する操作信号のDutyと、クランク軸10に対するカム軸14の変位速度との関係を示す。
図示されるように、DutyがD0であるときに、変位速度がゼロとなる。換言すれば、DutyがD0であるときに、回転位相差が保持される。一方、DutyがD0よりも小さいときには、カム軸14が遅角側に変位するようになり、しかも、Dutyが小さいほど遅角側変位速度が大きくなる。これに対し、DutyがD0よりも大きいときには、カム軸14が進角側に変位するようになり、しかも、Dutyが大きいほど進角側変位速度が大きくなる。
このため、回転位相差を保持するためのDutyである「D0」を保持学習値として学習して且つ、保持学習値を基準として回転位相差を目標値にフィードバック制御することで、回転位相差を目標値に適切に制御することができる。しかし、この場合、回転位相差を保持するためのDutyが変化し得ることが問題となる。すなわち、例えばクランク軸10の回転速度が変動すると、回転位相差を保持するための値は変化し得る。
そこで、本実施形態では、回転位相差を保持するためのDutyが変化することが想定される条件下、保持学習値を規定値だけ変更する。以下、図3に基づき、これについて説明する。
図3は、本実施形態にかかる回転位相差の制御の処理手順である。この処理は、ECU40により、例えば所定周期で繰り返し実行される。
この一連の処理では、まずステップS10において、クランク軸10の回転速度や吸入空気量等の内燃機関の運転状態に基づき、クランク軸10に対するカム軸14の回転位相差の目標値である目標進角値VVTaを算出する。なお、この目標進角値VVTaは、進角側に行くほど大きい値として定義されている。
続くステップS12では、クランク角センサ42の検出値とカム角センサ44の検出値とに基づき、クランク軸10に対するカム軸14の実際の回転位相差である実進角値VVTrを算出する。
続くステップS14においては、実進角値VVTrに対する目標進角値VVTaの差の絶対値が所定値β未満であるか否かを判断する。この所定値βは、実進角値VVTrと目標進角値VVTaとの差に基づく比例制御を行う閾値を定めるものである。
ステップS14において肯定判断されると、比例制御を行うほどには上記差の絶対値が大きくないと判断して、ステップS16に移行する。ステップS16においては、実進角値VVTrに対する目標進角値VVTaの差の絶対値が所定値α未満であるか否かを判断する。この所定値αは、保持学習値を微修正するための積分制御を行う閾値を定めるものである。
ステップS16において否定判断されるときには、ステップS18において、目標進角値VVTaが実進角値VVTrより大きいか否かを、換言すれば目標進角値VVTaが実進角値VVTrよりも進角側にあるか否かを判断する。そして、進角側にあると判断されるときには、ステップS20において、保持学習値に所定値αを加算することで、実進角値VVTrが進角側に変位するように補正する。これに対し、遅角側にあると判断されるときには、ステップS22において、保持学習値から所定値βを減算することで、保持学習値を、実進角値VVTrが遅角側に変位するように補正する。
上記ステップS16において肯定判断されるときや、ステップS20,S22の処理が完了するときには、ステップS24に移行する。ステップS24では、OCV30を操作する際のDutyを保持学習値とする。そして、ステップS26では、ステップS24にて設定されたDutyの操作信号によりOCV30を操作する。
一方、上記ステップS14において否定判断されるときには、上記比例制御によって実進角値VVTrを目標進角値VVTaにフィードバック制御する。ここではまず、ステップS28において、目標進角値VVTaの変化量(の絶対値)が所定値γ未満か否かを判断する。ここで、変化量は、前回算出された目標進角値VVTa(n−1)と今回算出された目標進角値VVTa(n)とを用いて、「VVTa(n)−VVTa(n−1)」と算出される。また、所定値γは、保持学習値が変化することが想定される条件が成立するか否かを判断するための値である。すなわち、目標進角値VVTaは、ステップS10において内燃機関の運転状態に基づき算出されるものであるため、目標進角値VVTaの変化量が大きくなることは、クランク軸10の回転速度等の内燃機関の運転状態が大きく変化することを意味する。
そして、ステップS28において変化量の絶対値が所定値γ以上であるときには、保持学習値が変化することが想定される条件が成立したと判断し、ステップS30に移行する。ステップS30においては、変化量が正であるか否かを、換言すれば目標進角値VVTaが進角側に変化したか否かを判断する。そして、正であると判断される場合には、ステップS32において、保持学習値を規定値Kだけ増加補正する。これにより、保持学習値は、実進角値VVTrを進角側に変位させる方向に補正される。一方、変化量が負であると判断される場合には、ステップS34において、保持学習値を規定値Kだけ減少補正する。これにより、保持学習値は、実進角値VVTrを遅角側に変位させる方向に補正される。
上記規定値は、回転位相差を保持するためのDutyとして変動し得ると想定される範囲内の値として設定する。詳しくは、様々なオイルの温度において回転速度等の運転状態の変化による上記保持するためのDutyの変動量として想定される最大量程度の値に設定される。
ステップS32,34の処理が完了するときや、上記ステップS28において肯定判断されるときには、ステップS36に移行する。ステップS36においては、目標進角値VVTaが実進角値VVTrよりも小さいか否かを、換言すれば、目標進角値VVTaに対して実進角値VVTrが進角しているか否かを判断する。そして、進角していると判断されるときには、ステップS38において、実進角値VVTrに対する目標進角値VVTaの差Δに、比例ゲインK2を乗算することで、フィードバック補正量を算出する。これに対し、遅角していると判断されるときには、ステップS40において、実進角値VVTrに対する目標進角値VVTaの差Δに、比例ゲインK3を乗算することで、フィードバック補正量を算出する。なお、実進角値VVTrに対する目標進角値VVTaの差Δの符号に応じて各別の比例ゲインK2、K3を用いるのは、可変バルブタイミング機構20において回転位相差を進角側に制御するために要する力と遅角側に制御するために要する力とが異なることによる。このため、進角側及び遅角側の制御を同等に行うために、各別の比例ゲインK2、K3を設定した。
ステップS38、S40の処理が完了するときには、ステップS42に移行する。ステップS42では、保持学習値にフィードバック補正量を加算することでDutyを設定し、上記ステップS26に移行する。
なお、この図3に示す一連の処理において、保持学習値は、上記常時記憶保持メモリ41に記憶される。
上記態様にて目標進角値VVTaの変化量の絶対値が大きいときに実進角値VVTrとの差を抑制する側に保持学習値を規定値Kだけ変更することで、簡易な適合にて実進角値VVTrの応答性を高めることができる。図4に、目標進角値VVTaが変化するときの本実施形態の制御態様を示す。詳しくは、図4(a)に、回転位相差の推移を示し、図4(b)に、Dutyの推移を示す。
図4(a)に一点鎖線にて示される目標進角値VVTaが増加すると、これに伴い、Dutyが増加される。これは、保持学習値がKだけ増加されることと、フィードバック補正量が増大することに起因している。そして、実進角値VVTrが目標進角値VVTaに近似する時刻t2以降、比例制御が停止され、Dutyが保持学習値に設定される。そして、目標進角値VVTaと実進角値VVTrとの差に応じて保持学習値が補正されることで、保持学習値が新たに学習され更新される。
ここで、規定値Kは、上述したように、回転位相差を保持するためのDutyに想定される変動量の最大値程度に設定するために、この規定値Kの適合を簡易に行うことが可能である。しかもこれにより、回転位相差を保持するためのDutyが変化したとしても、この変化による実進角値VVTrの目標進角値VVTaへの追従遅れを好適に抑制することができる。
これに対し、例えば特開平11−63643号公報に見られるように、目標進角値VVTaを変化させるときにDutyを最大値又は最小値に固定する場合には、固定期間の適合に多大な工数を要することとなる。図5に上記公報の場合の制御態様を示す。なお、図5(a1)、図5(a2)は、先の図4(a)と対応しており、図5(b1)、図5(b2)は、先の図4(b)と対応している。
すなわち、図5(a1)及び図5(b1)に示されるように、固定期間が長いと、実進角値VVTrがオーバーシュートし、また、図5(a2)及び図5(b2)に示されるように、固定期間が短いと、制御の応答性が低下する。そして、適切な固定期間は、運転状態に応じて変化するため、各運転状態毎に適切な固定時間を適合する必要が生じる。
以上詳述した本実施形態によれば、以下の効果が得られるようになる。
(1)回転位相差を保持するためのDutyが変化することが想定される条件下、保持学習値を規定値Kだけ変更した。これにより、回転位相差を目標値に追従させるべく変位させる際、保持するためのDutyが実進角値VVTrと目標進角値VVTaとの差を増大する側に変化していたとしても、これを補償することが可能となる。このため、規定値Kを適合するという簡易な適合にて、回転位相差の制御性を高く維持することができる。
(2)実進角値VVTrと目標進角値VVTaとの差Δの絶対値が所定以上であって且つ目標進角値VVTaの変化量の絶対値が所定値γ以上であることを条件として、目標進角値VVTaの変化に追従する側に保持学習値を変更した。これにより、応答性の低下が特に顕著となりやすい状況下において、応答性の低下を好適に抑制することができる。
(3)規定値Kを、回転位相差を保持するためのDutyに想定される変動量の最大値程度に設定することで、保持学習値を過度に変化させることを好適に抑制することができ、ひいては実進角値VVTrを目標進角値VVTaへと制御するに際してオーバーシュート等が生じることを好適に回避することができる。
(第2の実施形態)
以下、第2の実施形態について、先の第1の実施形態との相違点を中心に図面を参照しつつ説明する。
図6に、本実施形態にかかる回転位相差の制御の処理手順を示す。この処理は、ECU40により、例えば所定周期で繰り返し実行される。なお、図6において、先の図3と同一の処理については、便宜上、同一のステップ番号を付している。
本実施形態では、先の図3に示したステップS28において、目標進角値VVTaの変化量の絶対値が所定値γ以上であると判断されると、ステップS32aやステップS34aにおいて、保持学習値を、変化量に応じて可変設定する。これは、目標進角値VVTaの変化量が内燃機関の運転状態の変化度合いによって定まることから、目標進角値VVTaの変化量によって、上記変化度合いを把握することができ、ひいては、回転位相差を保持するためのDutyの変動量を把握することができることによる。このため、例えば変化量の絶対値が大きいほどDutyの変動量が大きくなり得るとして、規定値Kを大きな値とする。なお、この規定値Kの最大値は、回転位相差を保持するためのDutyの変動量として想定される最大値程度とすることが望ましい。
以上説明した本実施形態によれば、先の第1の実施形態の上記(1)、(2)の効果に加えて、更に、以下の効果が得られるようになる。
(4)目標進角値VVTaの変化量に応じて規定値Kを可変設定することで、保持学習値の過度な変更を回避することができ、ひいては、回転位相差の制御性をいっそう向上させることができる。
(第3の実施形態)
以下、第3の実施形態について、先の第2の実施形態との相違点を中心に図面を参照しつつ説明する。
内燃機関の運転時には、基本的には、先の図6に示したステップS10において目標進角値VVTaが算出され、実進角値VVTrをこれに追従させるように制御した。しかし、実際には、目標進角値VVTaへの制御が常時なされているわけではなく、図7に示すように、実進角値VVTrが最遅角位置にて固定されることもある。
図7に、本実施形態にかかる実進角値VVTrの制御の処理手順を示す。この処理は、ECU40により、例えば所定周期で繰り返し実行される。
この一連の処理では、アイドル安定化制御がなされているとき(ステップS50:YES)と、イグニッションスイッチがオフに切り替えられたとき(ステップS52:YES)とに、ステップS54において、実進角値VVTrを最遅角位置に固定制御する。
ここで、イグニッションスイッチがオフに切り替えられたときには、OCV30を操作することで実進角値VVTrを最遅角位置まで制御し、ロック機構25により実進角値VVTrを固定する制御を、ECU40による後処理の1つとして実行する。この制御が完了するときには、OCV30に対するDuty制御を停止する。
また、アイドル安定化制御時には、内燃機関の出力を抑制すべく実進角値VVTrを最遅角位置まで制御すべく、OCV30を操作する。この処理が完了すると、OCV30に対するDuty制御を停止してもよいが、保持学習値よりも小さい所定のDutyの操作信号にてOCV30を操作してもよい。
上記態様にて実進角値VVTrを固定すると、実進角値VVTrを再度制御する際、保持学習値が変化するおそれがある。すなわち、例えば、イグニッションスイッチがオフとされても保持学習値は常時記憶保持メモリ41にて保持されるものの、内燃機関の再始動時には、オイルの温度が変化しているなどの理由により、保持学習値が、実進角値VVTrを保持するためのDutyとして適切な値とならないおそれがある。また、アイドル時にあっても、オイルの温度が変化するなどすると、保持学習値が変化し、アイドル安定化制御から通常運転へと切り替わり実進角値VVTrの制御が再開されるときには、保持学習値が適切な値とならないおそれがある。
そこで本実施形態では、こうした状況下、保持学習値を変更する。図8に、本実施形態にかかる回転位相差の制御の処理手順を示す。この処理は、ECU40により、例えば所定周期で繰り返し実行される。なお、図8において、先の図6と同一の処理については、便宜上、同一のステップ番号を付している。
この一連の処理では、先の図6に示したステップS10、S12の処理が完了すると、ステップS60において、機関停止時間T1が所定時間εよりも長かったか否かを判断する。ここで、機関停止時間T1は、イグニッションスイッチがオフとされてから再度オンとされるまでの時間であり、ECU40によって計時される。また、所定時間εは、上記OCV30のオイルの温度が変化する等により回転位相差を保持するための値が変化すると想定される時間を判断するための値である。なお、この処理では、再始動後、この図8に示す一連の処理が初めてなされるとき以外は否定判断される。
そして、所定時間ε以下であると判断されるときには、ステップS64において、常時記憶保持メモリ41に記憶されている保持学習値を保持する。これに対し、所定時間εよりも長いと判断されるときには、ステップS62において、保持学習値を、規定値Kだけ増加補正する。ここで、増加側に補正するのは、再始動時には先の図7に示した処理により実進角値VVTrが最遅角位置とされているため、実進角値VVTrの制御は、進角側への制御となることによる。
規定値Kは、機関停止時間T1に応じて可変設定される。これは、機関停止時間T1が長いほどオイルの温度変化量が大きくなることなどに起因して、回転位相差を保持するためのDutyの変動量も大きくなる可能性があるためである。このため、本実施形態では、機関停止時間T1が長いほど規定値Kを大きな値に設定する。なお、規定値Kの最大値は、回転位相差を保持するためのDutyの変動量として想定される最大値程度とすることが望ましい。
ステップS62、S64の処理が完了すると、先の図6に示したステップS14に移行する。そして、ステップS14において肯定判断されるときには、先の図6のステップS16〜S26の処理を行い、また、ステップS14において否定判断されるときには、先の図6のステップS36〜S42、S26の処理を行なう。
以上説明した本実施形態によれば、以下の効果が得られるようになる。
(5)機関停止時間T1が所定時間ε以上であるとき、保持学習値を規定値Kだけ進角側に変更することで、再始動後において、実進角値VVTrを進角側に制御する際にその応答遅れを抑制することができる。
(6)最遅角での固定期間(機関停止時間T1)に応じて、規定値Kを可変設定した。これにより、固定期間に基づき想定される保持学習値の変化を補償する適切な規定値Kを設定することができる。そして、想定される変化に見合った規定値Kとすることで、保持学習値を過度に変化させることを回避することができる。
(第4の実施形態)
以下、第4の実施形態について、先の第3の実施形態との相違点を中心に図面を参照しつつ説明する。
図9に、本実施形態にかかる回転位相差の制御の処理手順を示す。この処理は、ECU40により、例えば所定周期で繰り返し実行される。なお、図9において、先の図8と同一の処理については、便宜上、同一のステップ番号を付している。
この一連の処理では、先の図8のステップS60に代えて、ステップS60aにおいて、実進角値VVTrを最遅角位置にて固定制御した固定時間T2が所定時間φよりも長いか否かを判断する。ここで、固定時間T2は、先の図7に示した処理によりアイドル時に実進角値VVTrが最遅角位置に制御されてから固定制御が継続されている時間である。また、所定時間φは、上記OCV30のオイルの温度が変化する等により保持学習値が変化すると想定される時間を判断するための値である。なお、この処理は、アイドル安定化制御が終了し、図9の処理が開始されるときの初回の処理時以外には、否定判断される。
そして、所定時間φ以下であると判断されるときには、ステップS64aにおいて、常時記憶保持メモリ41に記憶されている保持学習値を保持する。これに対し、所定時間φよりも長いと判断されるときには、ステップS62aにおいて、保持学習値を、規定値Kだけ増加補正する。ここで、増加側に補正するのは、アイドル安定化制御時には先の図7に示した処理により実進角値VVTrが最遅角位置とされており、アイドル安定化制御が終了し実進角値VVTrの制御が開始されるときには、この制御が進角側への制御となることによる。
規定値Kは、時間T2に応じて可変設定される。これは、アイドル安定化制御の時間が長いほどオイルの温度変化量が大きくなることなどに起因して、回転位相差を保持するためのDutyの変動量も大きくなる可能性があるためである。このため、本実施形態では、時間T2が長いほど規定値Kを大きな値に設定する。なお、規定値Kの最大値は、回転位相差を保持するためのDutyの変動量として想定される最大値程度とすることが望ましい。
ステップS62a、S64aの処理が完了すると、先の図8に示した処理と同様、ステップS14以降の処理を行う。
以上説明した本実施形態によれば、先の第3の実施形態の上記(6)の効果に加えて、更に以下の効果が得られるようになる。
(7)アイドル安定化制御時における実進角値VVTrの最遅角位置での固定制御の時間T2が所定時間φ以上であるとき、保持学習値を規定値Kだけ進角側に変更することで、アイドル運転の終了後、実進角値VVTrを進角側に制御する際の応答遅れを抑制することができる。
(その他の実施形態)
なお、上記各実施形態は、以下のように変更して実施してもよい。
・上記第3や上記第4の実施形態において、規定値Kを固定期間に応じて可変設定しなくてもよい。この場合、規定値Kは、回転位相差を保持するためのDutyの変動量として想定される最大値程度とすることが望ましい。
・上記第1及び第2の実施形態において、目標進角値VVTaの変化量の絶対値が所定値γ以上であるときに保持学習値を規定値Kだけ変更したが、実進角値VVTrに対する目標進角値VVTaの差の絶対値が所定値β以上であるときに常に保持学習値を変更してもよい。なお、この際、所定値βの値については、上記第1及び第2の実施形態における値とは相違させ、回転位相差を保持するための値が変化すると想定されるか否かを判断する値とすることが望ましい。
・上記第1及び第2の実施形態において、実進角値VVTrよりも目標進角値VVTaの方が進角側にある場合、又は遅角側にある場合にのみ保持学習値を規定値Kだけ変更する処理を行なってもよい。この場合、通常、可変バルブタイミング機構20にあっては実進角値VVTrを進角させるときの方が遅角させるときよりも大きな力を要することに鑑みれば、実進角値VVTrよりも目標進角値VVTaの方が進角側にある場合にのみ保持学習値を規定値Kだけ変更してもよい。
・第3及び第4の実施形態の双方の制御を行うようにしてもよく、また、第1又は第2の実施形態の制御と、第3及び第4の実施形態の少なくとも一方の制御とを組み合わせてもよい。
・機関停止時やアイドル安定化制御時に最遅角位置近傍に回転位相差を固定するものに限らない。この場合であっても、機関停止後の再始動時やアイドル安定化制御の終了時等において、実進角値VVTrを目標進角値VVTaに制御するに際し、その変位の方向に保持学習値を規定値だけ変更することは有効である。
・回転位相差を保持するための操作信号が変化すると想定される条件を判断する手法としては、上記各実施形態で例示したものに限らない。例えば、クランク軸10の回転速度の変化量が所定以上であるときとしてもよく、また、オイルの温度と相関を有する内燃機関の冷却水の温度の変化が所定以上であるときとしてもよい。
・上記各実施形態及びその変形例では、規定値Kを、回転位相差を保持するためのDutyに想定される変動量内で設定したがこれに限らない。例えば第2の実施形態において、目標進角値VVTaへの実進角値VVTrの追従性を向上させるべく、上記変動量の最大値よりも大きな値の規定値Kを設定して、目標進角値VVTaと実進角値VVTrとの差を抑制する側に保持学習値を変更してもよい。これによれば、規定値Kによりフィードフォワード制御をすることができるため、フィードバック制御のゲインの設定をより適切に行うことができる。すなわち、フィードバック制御のみの場合、そのゲインを、応答性の向上と制御ハンチングの抑制という互いにトレードオフの関係にある2つの要求を満足させる値に適合しなければならないが、フィードフォワード制御を取り入れることで、フィードバックゲインを制御ハンチングの抑制を優先した値とすることができる。
・回転位相差調節手段を構成する可変バルブタイミング機構20やOCV30の構造は、図1に例示したものに限らない。例えば、第2の回転体22を収容する第1の回転体21がカム軸14と一体的に回転するものであってもよい。また、回転位相差調節手段のアクチュエータの操作信号は、Duty信号に限らず、例えば電流信号であってもよい。こうした場合であっても、可変バルブタイミング機構20による回転位相差を保持するための操作信号が変動する場合には、本発明の適用は有効である。また、回転位相差調節手段が油圧駆動式である場合、オイルの温度によってオイルの粘性が変化し、ひいては回転位相差を保持するための操作信号が変動するため、本発明の適用が特に有効である。