以下、本発明の構成を図面に示す実施形態に基づいて詳細に説明する。
図1から図15に本発明のがいしにおいて生じる漏れ電流の推定装置および方法の第一の実施形態を示す。この漏れ電流の推定方法は、がいしの監視画像から放電により発光している部分の面積を求め、上記求めた発光面積と、予め求めておいた発光面積と漏れ電流値との相関関係に基づいて、がいしの表面を流れる漏れ電流値を推定するようにしている。
上記推定方法は、本発明の漏れ電流の推定装置として装置化される。本実施形態の漏れ電流の推定装置1は、がいしの監視画像を取得する撮像手段2と、撮像手段2より得られた監視画像から放電により発光している部分の面積を求める発光面積算定手段3と、発光面積算定手段3より求めた発光面積と、予め記録されている発光面積と漏れ電流値との相関関係とに基づいて、がいしの表面を流れる漏れ電流値を推定する推定手段4とを備えている。
発光面積算定手段3と推定手段4は、例えばパーソナルコンピュータなどの計算機(コンピュータ)5により構成される。このコンピュータ5は、中央処理演算装置(CPU)6、RAMやROMまたはハードディスクなどの記憶装置7、撮像手段2とのインターフェース8、キーボードやマウス等の入力装置9、ディスプレイやプリンタ等の出力装置10などがバス11により接続されて構成されている。がいしを撮影する撮像手段2は、例えば一定時間間隔ごとに監視画像を生成し、生成された監視画像は例えばコンピュータ5の記憶装置7に記録される。また、本実施形態における監視画像は、処理の簡単等のために、グレースケールのデジタル画像としている。監視画像を構成する各画素には、色情報として、例えば0(黒)〜255(白)までの256階調の明るさの値(輝度値)が割り当てられる。但し、監視画像は必ずしもグレースケール画像に限らず、カラー画像であっても良い。
ここで、汚損したがいし表面での放電発生のメカニズムは、例えば次のように考えられる。先ず、図15(A)に示すように、汚損物が付着している表面に、降雨などの湿潤によって無数の水滴が島状に形成される。図15中の符号12はがいしを示し、符号13は水滴を示し、符号14はがいしに電圧を印加する交流電源を示し、符号15は電極を示す。次に、湿潤が進むに従い、電解質を含む水滴が合体・成長し、一部に導電路が形成されると、局所的電界集中によって、部分放電(水滴端部でのコロナ放電や水滴間での火花放電など)が発生する。次に、部分放電の影響などで撥水性が低下し、表面の湿潤が進み、汚損皮膜が形成される。その結果、電極間にチャネルが形成され、図15(B)に示すように、漏れ電流が流れはじめる。図15中の符号16はコロナ放電や火花放電を示す。次に、漏れ電流のジュール熱により、部分的に水分の蒸発がおこり、表面に乾燥した部分(ドライバンド)が形成される。次に、図15(C)に示すように、ドライバンド両端を橋絡するアーク放電(局部アーク)が発生する。図15中の符号17はドライバンドを示し、符号18はアーク放電を示す。そして、ドライバンドの拡大に伴いアーク放電も成長し、最終的にアーク放電は消滅する。
上記のような様相の変化に伴い、がいし表面を流れる漏れ電流の波形も以下のように変化する。表面が一様に汚損皮膜で被われている、あるいは、一部に汚損皮膜による電極間にチャネルが形成された場合、汚損皮膜中を電流が流れる(汚損皮膜導電成分)。その場合、漏れ電流の大きさは、汚損皮膜の持つ抵抗(電解質濃度、皮膜の圧さなどに依存)で決定され、電流波形は印加電圧を反映した正弦波となる。また、水滴端部、ドライバンド端部での局所的な電界集中により、コロナ放電や火花放電が起こる。この微小放電により、パルス性の電流波形が観測される(コロナ・火花放電成分)。また、ドライバンド両端を橋絡した局部アークの発生に伴い、電圧ゼロ(ゼロクロス点)から遅れて急峻に立ち上がる電流が観測される(アーク放電成分)。また、アークの消滅に伴い、電流が急速に減少する波形が観測される。電流の大きさは、ドライバンド以外の残った汚損皮膜抵抗およびアークの抵抗で決定される。
一方、放電による発光の要素は主として2つある。1つは放電時にがいし表面の汚損物に含まれるナトリウム(Na)が炎色反応を起こすことによる発光であり、もう1つは放電時に空気中の窒素(N)がイオン化する際の発光である。ナトリウムの炎色反応による発光では、600nm程度(より正確には589nm程度)の波長の光が放出される。窒素がイオン化する際の発光では、紫外光(波長1nm〜400nm)が放出される。
従って、上記放電時のナトリウムの炎色反応に起因する発光と窒素がイオン化する際の発光の少なくとも一方又は双方の発光を画像にとらえ、この画像における発光面積と、上記放電時にがいし表面を流れた漏れ電流値とを計測し、発光面積と漏れ電流値との相関関係を予め求めておけば、以後は、放電時の発光を、先の撮影条件と同条件またはほぼ同じと見なせる条件の下で画像にとらえ、当該画像における発光面積を求めれば、上記予め求めた相関関係に基づいて、対応する漏れ電流値を推定することができる。
例えば本実施形態では、撮像手段2として1台の紫外線カメラを用いている。この紫外線カメラは、紫外光の波長(1nm〜400nm)に大きな感度を持たせた既存のまたは新規の紫外線検出用ビデオカメラを利用して良く、あるいは可視光および紫外光を検出可能なCCD等の撮像素子を備え、紫外光を除去するフィルタ処理を省略して可視光から紫外光までを撮影可能な既存のまたは新規のビデオカメラを利用して良い。紫外光の波長に大きな感度を持たせた紫外線カメラを用いれば、放電時に空気中の窒素がイオン化する際に放出される紫外光を感度良く撮影することができ、太陽光下などでも、がいし上で発生する放電光を背景に埋もれさせずに良好に撮影することができる。また、可視光および紫外光を撮影可能な紫外線カメラを用いれば、放電時のナトリウム(Na)の炎色反応による発光と、空気中の窒素(N)がイオン化する際の発光との双方をとらえることができる。放電は可視光(ナトリウム発光)と紫外光の成分を両方含んでいるが、可視光だけの発光面積だと十分な情報を得られない場合もあるので、紫外光と可視光の双方の情報を得られることが好ましく、この場合において一般的な紫外線カメラは特殊フィルターを使わない限り、可視光情報を取得できるので、紫外線カメラの使用が好ましい。
但し、撮像手段2は必ずしも紫外線カメラに限定されるものではない。例えば600nm近傍の一定波長に該当する光に対する感度を、他の波長の光に対する感度よりも高める手段を備えたビデオカメラを利用しても良い。この場合、放電時にナトリウム(Na)が炎色反応を起こす際に放出される光(波長600nm程度、より正確には589nm程度)を、太陽光下などでも背景に埋もれさせずに、感度良く撮影することができる。さらに、紫外光の波長(1nm〜400nm)および600nm近傍の一定波長に該当する光に対する感度を、他の波長の光に対する感度よりも高める手段を備えたビデオカメラを利用しても良い。この場合、放電時のナトリウム(Na)の炎色反応による発光と、空気中の窒素(N)がイオン化する際の発光との双方を、太陽光下などでも背景に埋もれさせずに良好に撮影することができる。
特定の波長に該当する光に対する感度を、他の波長の光に対する感度よりも、高める手段としては、例えばフィルタなどの光学デバイスを用いても良く、あるいは得られた原画像データに対して一定の画像処理を実行するソフトウェアまたはハードウェアを用いても良い。例えば、バンドパスフィルタなどを用いて、CCD等の撮像素子に入射する特定波長以外の波長に該当する光を遮断または減衰させて、特定の波長に該当する光に対する感度を高めるようにしても良い。あるいは撮像素子より得られた原画像データに対して、特定波長に該当する光を表す画素を強調したり、特定波長以外の波長に該当する光を除去または減衰させる画像処理を施すようにしても良い。
紫外線のような微弱光を検出するために、CCD等の撮像素子の感度を高める場合、感度向上に伴い熱雑音すなわちショットノイズの影響も増大する。そこで、本実施形態の発光面積算定手段3は、撮像手段2より得られた監視画像と、平常時すなわち非放電時のがいしの画像を示す予め用意された基準画像との2画像について、同じ座標位置における2画素の輝度値の差が予め設定された閾値以上となる画素数を算出し、算出された当該画素数を発光面積とするようにしている。
基準画像は、漏れ電流の推定開始以前に予め作成される。例えば本実施形態では、放電現象に伴う発光が無い、即ち非放電時におけるがいしを撮影した画像を複数用意し、これらの画像を平均化して、基準画像を作成する。この場合、基準画像の各画素の輝度値は、複数の原画像の同位置における画素の輝度値の平均値となる。時間により周囲の明るさが変化し、撮影条件の設定によってショットノイズレベルが変動するが、複数の画像を平均化して基準画像を得ることで、基準画像は、出現頻度の高いショットノイズを含んだ画像となる。
このように基準画像は出現頻度の高いショットノイズを含んだ画像であるので、監視画像について基準画像からの輝度値の変化分を評価することで、熱雑音すなわちショットノイズを効果的に除去することができ、放電現象に伴う発光部分を的確に抽出することができる。基準画像の一例を図2に示し、放電時の監視画像の一例を図3に示す。これらの監視画像と基準画像とを用いて、放電による発光部分を抽出した画像を図4に示す。尚、図2は無放電時の架空送電線を示し、図3はコロナ放電を起こしている架空送電線を示すが、放電による発光部分を抽出する処理についてはがいしの場合も同様である。
ここで、ショットノイズの影響を避けて放電による発光部分を抽出する他の方法として、放電の様子が撮影された監視画像において、着目画素の近傍(例えば着目画素を中心とした3×3画素内)に、発光を示す閾値(例えば256階調で100)以上の輝度値を持った画素がなければ、その画素はショットノイズと判定し、その画素を除外するという画像処理を施すことが考えられる。しかし、この画像処理の場合、CCDの感度を上げたことで大きなショットノイズも多く現れることから、ショットノイズの大きさを考慮する必要があり、目的の発光現象だけを取り出すことが難しい。例えば、ショットノイズの大きさを3×3画素以下として、図3に示す放電時の監視画像に対して、上記画像処理を施して、放電による発光部分を抽出した画像を図5に示す。さらに図5に示す画像に対して、ショットノイズの大きさを5×5画素以下に拡大して、上記画像処理をさらに施して、放電による発光部分を抽出した画像を図6に示す。図5および図6中の符号Aで示す円内の黒点がノイズを表す。図4に示した例では、発光部分だけを的確に取り出せているが、図5および図6の画像では、ノイズが除去しきれていない。このことからも、監視画像について基準画像からの輝度値の変化分を評価することの有効性が確認できる。
尚、基準画像は監視の時間帯や監視時の天候等に応じて複数用意しておき、状況に応じた最適な基準画像を適宜選択するようにしても良い。また、発光部分の抽出に基準画像を用いることは上記のように好ましい例ではあるが、必ずしもこの例に限定されず、例えば監視画像において、発光を示す予め定めた閾値(例えば256階調で100)以上の輝度値を持った画素数を算出し、算出された当該画素数を発光面積とするようにしても良い。さらに、当該画素数算出前の監視画像に対して、新規または既知のノイズ除去の画像処理を施すようにしても良い。
ここで、監視画像から放電による発光部分を抽出するための閾値は、放電による発光部分のみが的確に抽出できるように、撮影条件や撮影時の状況等に適合したものが、例えば解析者等の判断で設定される。尚、監視の時間帯や監視時の天候等に応じて複数の閾値を用意しておき、状況に応じて最適な閾値を適宜選択するようにしても良い。例えば本実施形態では、閾値を15に設定している。
放電時の発光面積と漏れ電流値との相関関係は、予め実験により求められる。この相関関係を求める実験には、例えば人工加速劣化試験装置である回転輪浸漬試験装置(Rotating Wheel Dip Test、RWDT)を利用できる。この回転輪浸漬試験装置は、例えば図7に示すように、がいしと同じ材質の試験体19としての棒状試料片を回転板20に取り付けて、回転軸21回りに回転板20を回転させて、水槽内に入れられた汚損液22への浸漬と、交流電源23による高電圧の印加を繰り返すことで、試験体19の表面の耐侵食性を短時間に評価するものである。
この回転輪浸漬試験装置において、漏れ電流計測回路24により、試験体19の表面を流れる漏れ電流を一定時間ごとに測定するとともに、撮像手段2により試験体19を撮影し一定時間ごとに画像を生成する。尚、撮像手段2は、漏れ電流推定時と撮影条件等を一致させるために、漏れ電流推定装置1に備えるものと同一または同じ型式のものが好ましい。
そして、撮影された画像中の放電による発光部分の面積と、当該撮影時刻と同時刻に計測された漏れ電流値とを、一方の軸が漏れ電流値を示し他方の軸が発光面積を示す直交座標上にプロットする。このようにプロットされたグラフの一例を図8に示す。上記プロットされたグラフから、放電時の発光面積と漏れ電流値との相関関係を示す回帰曲線を求める。尚、漏れ電流計測回路24から出力される漏れ電流値データおよび撮像手段2から出力される画像データをパーソナルコンピュータ等の計算機に取り込んで、上記漏れ電流と発光面積との関係を示すグラフを自動作成するようにしても良く、さらに回帰曲線を自動作成するようにしても良い。さらに上記計算機は、発光面積算定手段3と推定手段4を実現するコンピュータ5であっても良い。
ここで、部分放電の発光強度と部分放電の電荷量は対数比例関係にあることが指摘されている。そこで本実施形態では、放電光の発光面積と漏れ電流も同様に対数比例関係が成り立つものと仮定し、放電光の発光面積をSとし、漏れ電流値をIとし、次式が成立するものと仮定して、図8に示す実測データを用いた回帰分析により、同数式中のA,kを求める。求められた回帰曲線を第1回帰曲線と呼ぶ。図9中の破線で示し、符号Bで示す曲線が第1回帰曲線を示す。
<数1>
I=A*Sk
図9に示されるように、実測データは、第1回帰曲線の上側に位置するものが多い。これは、撮像手段2の死角となっている部分でも発光している可能性があるためと考えられる。つまり、計測された発光面積よりも、実際の発光面積は大きいと考えられる。一方、第1回帰曲線よりも下側にあるデータは、カメラの死角で発光している可能性が低いと考えられる。そこで、新たに、第1回帰曲線よりも下側にあるデータ(図9中のハッチングで示す領域に含まれるデータ)を用いた回帰分析により、次式で表される回帰曲線を求め、同数式中のA’,k’を求める。求められた回帰曲線を第2回帰曲線と呼ぶ。図9中の実線で示し、符号Cで示す曲線が第2回帰曲線を示す。第2回帰曲線は、撮像手段2から得られた発光面積の情報により推定した漏れ電流の下限を表すと考えることができる。
<数2>
I=A’*Sk’
次に、撮像手段2の死角部分での発光面積を考慮する。死角部分の発光面積が、観測された発光面積のα倍であったとすると、撮像手段2の死角部分を考慮した回帰曲線は、次式で表される。
<数3>
I=A’*((1+α)*S)k’
1+αを改めてβとすれば、次式となる。
<数4>
I=A’*(β*S)k’
数式4中のβ*Sは、観測された発光面積Sから推定される全体の発光面積を示すものと言える。例えば撮像手段2としての紫外線カメラの死角が棒状試料片19の全周囲の1/2なので、軸対象に一様に発光した場合、総発光面積は実測された発光面積の2倍となると考えられ、β=2となる。数式4で表される回帰曲線を第3回帰曲線と呼ぶ。図9中の一点鎖線で示し、符号Dで示す曲線が第3回帰曲線を示す。第3回帰曲線は、推定される漏れ電流の上限を表すと考えることができる。従って、漏れ電流の真値は、第2回帰曲線と第3回帰曲線との間の範囲内にあると考えられる。
尚、本実施形態では、放電光の発光面積Sと、漏れ電流値Iとの間に、数式1の関係が成立すると仮定したが、必ずしもこの例に限定されず、がいしの素材の特性やがいしの形状などの影響で数式1とは異なった関係となる場合も考えられるため、上記影響を考慮して数式1と異なる関係を仮定しても良く、あるいは近似により回帰関数を簡略化しても良い。例えば図10に示すようにほぼ線形の回帰曲線を求めるようにしても良い。尚、回帰曲線は直線となる場合も含む。
また、本実施形態では、撮像手段2の死角の影響を考慮して、漏れ電流の推定値の下限を表す第2回帰曲線と上限を表す第3回帰曲線とを導出したが、例えば撮像手段2を撮影対象であるがいしの周囲に複数設置するなどして死角のない画像を得る構成とした場合などには、実験データに基づいて第1回帰曲線のみを導出するようにしても良い。
本実施形態の漏れ電流の推定方法および推定装置1によれば、例えば図11および図12に示す処理により、がいしにおいて生じる漏れ電流を推定できる。先ず、前処理として、予め求められた放電光の発光面積と漏れ電流値との相関関係、予め作成された基準画像、予め設定された閾値が、漏れ電流の推定装置1に入力される(S1〜S3)。
例えば第1〜第3回帰曲線を表す発光面積Sと漏れ電流値Iとの関係式が入力装置9を介して記憶装置7に記録される(S1)。図1中の符号25は、記憶装置7に格納された発光面積Sと漏れ電流値Iとの相関関係データを示す。また、予め作成された基準画像が記憶装置7に読み込まれる(S2)。図1中の符号26は、記憶装置7に格納された基準画像データを示す。また、監視画像から放電による発光部分を抽出するための閾値が、入力装置9を介して記憶装置7に記録される(S3)。図1中の符号27は、記憶装置7に格納された閾値データを示す。
次に、撮像手段2によるがいしの撮影が開始され、一定時間間隔ごとにがいしの監視画像が撮像手段2により作成され、当該作成された監視画像が記憶装置7に記録される。図1中の符号28は、記憶装置7に格納された監視画像データ群を示す。記憶装置7に記録された監視画像は例えば1枚ずつ読み出されて(S4)、発光面積算定手段3により、読み出された監視画像について放電による発光部分の面積が算出される(S5)。
発光面積算定処理の一例を図12に示す。先ず、発光面積を表す変数Sに初期値0が設定される(S501)。また、垂直画素番号を表す変数yに初期値1が設定される(S502)。そして、垂直画素番号yが最大値y_maxに至るまで以下の処理が繰り返される(S503;Yes)。
水平画素番号を表す変数xに初期値1が設定される(S504)。そして、水平画素番号xが最大値x_maxに至るまで次の処理が繰り返される(S505;Yes)。即ち、監視画像の座標(x,y)の画素の輝度値と、基準画像の座標(x,y)の画素の輝度値との差の絶対値を求める(S506)。当該求められた輝度値の差分の絶対値が、ステップ3で設定された閾値以上であれば(S507;Yes)、発光面積Sに1を加算する(S508)。そして、水平画素番号xに1を加算して(S509)、S505の処理に戻る。一方、上記求められた輝度値の差分の絶対値が、ステップ3で設定された閾値未満の場合は、S508の処理は行わず、水平画素番号xに1を加算して(S509)、S505の処理に戻る。
水平画素番号xが最大値x_maxを超えると(S505;No)、垂直画素番号yに1を加算して(S510)、S503の処理に戻る。垂直画素番号yが最大値y_maxを超えると(S503;No)、当該監視画像についての発光面積算定処理は終了する。以上により、ステップ4で読み込まれた監視画像の全画素について、基準画像の対応する画素との輝度値の差分が求められ、当該差分が予め設定された閾値以上となる画素数が算出され、算出された当該画素数が発光面積Sとなる。
次に、ステップ1で入力された発光面積Sと漏れ電流値Iとの関係式と、ステップ5で求められた発光面積Sとに基づいて、漏れ電流値Iが推定される(図11のS6)。推定された漏れ電流値は、例えばコンピュータ5が備える出力装置10、例えばディスプレイに表示出力される。尚、推定された漏れ電流値がある一定値以上となる場合に、スピーカやディスプレイ等の出力装置10に警告音や警告メッセージ等を自動出力し、監視者等に注意を促すようにしても良い。記憶装置7に記録されたすべての監視画像について上記の処理が行われると(S7;No)、処理は終了する。
以上のように本発明によれば、漏れ電流を測定する専用のセンサを設置することなく、簡易な構成でがいしにおいて生じる漏れ電流を定量的に推定できる。画像処理技術を利用して監視対象であるがいしとは非接触に漏れ電流を推定することが可能であるから、漏れ電流を測定する専用のセンサを設置する手間やコストを削減できる。
そして、推定された漏れ電流値から、がいしの状態、例えばがいしの汚損の程度や劣化の程度などを判断でき、がいしの洗浄やがいし交換の要否を判断できる。また、がいし上で起きた放電を早期に発見することができることから、がいし損傷に起因する事故を未然に防ぐことができる。本発明によれば、現在稼働中のがいしの監視および健全性診断を容易に行うことができ、CBM(Condition Based Maintenance、状態に基づく管理)の実現に大きな貢献が期待できる。
さらに、本発明によれば、稼働中のがいしの監視に限らず、がいしに関する試験や実験、例えばがいし又はがいしと同じ材料(例えば高分子絶縁材料)を使った屋外課電暴露試験や人工加速劣化試験などにおいても、漏れ電流の推定を容易に行うことができ、漏れ電流の推定値と上記試験などで得られる他の測定結果との対応付けが可能になり、簡易かつ低コストに上記がいしに関する試験や実験を行える。従って、本発明に係る漏れ電流の推定方法および装置の監視対象は、既設のがいしに限定されず、がいしを模擬した試験体やがいしと同じ材質の試験体も含まれる。また、がいしを構成する絶縁材料は、シリコーンゴム等の高分子材料に限らず、セラミックス等であっても良い。
次に、図16から図19に本発明のがいしにおいて生じる漏れ電流の推定装置および方法の第二の実施形態を示す。
第一の実施形態では、紫外線カメラにより撮像された画像を監視画像として用いたが、紫外線カメラを用いる場合、撮影条件によっては画像の背景が問題となることがある。特に屋外での撮影の場合などに問題となる場合が多い。例えば、地上から送電線上のがいしを点検のために撮影した場合、がいしの発光部分は発光により白色に撮影される。このため、背景となる空や雲の色にがいしの発光部分が埋もれてしまい発光部分の視認が困難である場合がある。また、監視対象となるがいしは非常に数が多く、一つの監視画像に、多くのがいしが撮影される。このような場合には、監視画像において発光部分として捉えられる部分が、実際のどのがいしに当たるのかの見分けが難しい場合もある。
そこで、本実施形態では、放電に伴い流れる漏れ電流により熱が発生し、漏れ電流が発生する部分は熱によりがいしの温度が上昇することに着目し、赤外線カメラにより発熱しているがいしを選別した上で、監視画像により漏れ電流の推定を行うこととした。これにより、第一の実施形態に比べ、放電が生じているがいしなどの監視対象物の特定と迅速かつ効率的に漏れ電流の推定を行うことができ、がいしの監視作業をおこなうことができるようにしたものである。
漏れ電流の時間的変化が赤外線画像における発熱面積と監視画像における与える変化について検討した。図17に赤外線画像における発熱面積と漏れ電流値との関係を示す。図18に監視画像による発光面積と漏れ電流値との関係を示す。
図17に示されるように、赤外線画像の発熱面積の時間変化は、漏れ電流の時間変化に比べ緩やかであり、いったん発熱面積が大きくなると発熱面積の変化が少ないことがわかる。また、図18に示されるように、監視画像の発光面積の時間変化は、赤外線画像での時間変化に比べ、時々刻々と変化していることがわかる。このことは、図18に示すグラフの時間軸を短縮し、発光面積と漏れ電流の絶対値とで表した図19のグラフによってより明らかなものとなる。即ち、図19より、監視画像による発光面積の時間変化は、漏れ電流量の変動に伴って激しく変動していることが明確に読み取れる。しかし、図18及び図19に示すように、発光面積の時間変化は漏れ電流量の変動に伴って絶えず変動しているため、同一のがいしの監視画像のわずかな時間差の画像であっても、発光面積の画素数には大きな差が生じる可能性があることから、発光面積を見落としたり、画像認識が困難な場合がある。
これに対し、赤外線画像は、いったん発熱面積が大きくなると発熱面積の変化がゆるやかであって、温度が上昇すると、しばらく温度が高い状態が続くことがわかる。しかも、がいしの温度の上昇は、漏れ電流による発光部分の温度が上昇したことだけによるのではなく、例えば、実際の発光部分の周辺が熱伝導によって温度が上昇している等の漏れ電流の発生に直接起因しないその他の要因によるものも含まれると考えられる。即ち、温度が上昇している部分は、必ずしも漏れ電流が発生しているとは限らないこととなるので、発熱面積の変化は漏れ電流の変化を正確に反映しているものとはいえないこととなる。しかしながら、赤外線画像は画像上において発熱部分の画像認識が監視画像に比べ容易にできる。しかも、発熱部分は漏れ電流の存在だけを示すものではないが、漏れ電流が存在すれば通常は発熱部分に含まれることとなるので、赤外線画像は、無数にある監視対象のがいしのうち発熱部分を有する(漏れ電流が発生している可能性がある)がいしを選別することには、適していると言える。
そこで、本実施形態では、例えば、図16に示すように、監視画像を取得する撮像手段2と同じ光軸上に赤外線カメラ30を配置し、赤外線画像と監視画像を同時に撮影可能としている。尚、図中の符号31はビームスプリッタを、32は撮像レンズ、33はプリズムを示している。ここで、撮像手段2としては、発光面積の変動が比較的急激なので連続画像となるビデオカメラの画像が好ましいが、赤外線カメラとしては発熱面積の変動は比較的穏やかなので静止画像であっても支障が少なく、ビデオカメラでなくとも良い。紫外線カメラにより撮影された監視画像には、1〜400nmの紫外線画像のみを含む場合も、600nm近傍の一定波長に該当する光に対する感度を他の波長の光に対する感度よりも高める手段を備える撮像装置により撮像された可視光も、更にはこれらの双方を含むものである。
ところで、赤外線カメラで得られた赤外線画像によって漏れ電流の可能性があるがいしを検出してから、そのがいしからの監視画像を得ようとしても、多数のがいしが存在する場合には、実際のどのがいしであるのかの判断が難しいなどの問題がある。
そこで、赤外線画像と監視画像の撮影は、同じ光軸上で同時に撮像し、同期を取ることとしている。両画像の同期をとるには、例えば、NTP(Network Time Protocol)を利用することができる。また、画像に同時にタイムカウンタを記録しておいてもよい。また、両画像のフレームレート数は、必ずしも完全一致である必要はない。この場合、各画像フレームの対応関係を記憶手段等に記録しておけばよい。例えば、赤外線画像は、温度が時系列変化が監視画像に比べ少ないので、監視画像をビデオレートで撮影し、赤外線画像をそれよりも遅いフレームレートで撮影し、両画像の同期をとってもよい。
まず、発熱している部分の判断は、赤外線画像において、発熱部分を抽出するための閾値を予め設定し、閾値以上の値となった画素を、発熱部分と判断することが好ましい。閾値は任意に設定することが可能であり、相対的なものでも絶対的なものでも良く、また、閾値を設定する対象となる値も限られるものではない。例えば、外気温を基準にして、外気温+5度以上(相対的閾値)に設定したり、一定の温度例えば25度以上(絶対的閾値)に設定するようにしてもよい。また、例えば、平常時すなわち非放電時のがいしの画像を示す予め用意された基準画像とし、基準画像の同一画素に対して閾値を設定することもできる。
次に、発熱部分が抽出された赤外線画像と、同一光軸上で同時に撮影された対応する監視画像を抽出するようにしている。ここで、赤外線画像、並びに監視画像は、撮像されるとそれぞれメインメモリ上、または記録装置に記録される。赤外線画像のうち発熱部分とされた画素位置に対応する、監視画像の画素位置の輝度値が予め設定した閾値以上となった発光部分として抽出を行うこととしている。尚、発熱部分が抽出されたすべての赤外線画像について上記の処理を行う必要は必ずしもなく、例えば、発熱部分を抽出された赤外線画像から、監視画像上を抽出する際に一定の閾値を設けることも可能である。例えば、赤外線画像上で発熱部分が10画素以上検出された画像についてのみ、対応する監視画像を選別することも可能である。また、監視画像から発光面積を抽出する際に用いる閾値は必ずしも設ける必要はなく、赤外線画像のうち発熱部分とされた画素位置に対応する、監視画像の画素位置をすべて発光面積として抽出することもできる。尚、上述の発熱部分を検出したときの対応監視画像の選定並びに該監視画像からの発光面積算定ステップを実行する手段は、第一の実施形態と同様に、中央演算処理装置と前記装置などによって構成されるコンピュータと、このコンピュータに上述のステップを実行させるプログラム、更には機能させるプログラムによって構成されている。
ここで、CCDカメラの性能が全く同じで、同じピクセル(画素位置)で同じ対象が映っていれば、赤外線の画像から、がいしが漏れ電流により熱せられた部分がどの位置かを求め、その情報をもとに、対応する監視画像上での輝度値を求めその輝度値以上の画素を計数し、発光面積とする。CCDカメラの性能が同じでなければ、赤外線画像と監視画像の間で各ピクセルごとの対応関係を、格子状のパターンを使って調べ(キャリブレーションという)ておき、以下赤外線画像で得られた、放電により熱せられたと考えられる画素位置に対応する、監視画像の画素位置の輝度値を調べ、それ以上の輝度値を持つ画素を計数して発光面積を求めることとする。
以上のように、本実施形態においては、赤外線画像と監視画像を同一光軸上で同時に撮影し、赤外線画像により、発熱箇所を捉えられるがいしを選定し、そのときの対応する監視画像に対して発光面積を算出する処理を実施してから、がいしの漏れ電流を推定することにより、監視画像のみを用いる場合に比べてより迅速かつ効果的にがいしの漏れ電流を推定することができるようになる。尚、本実施形態では、赤外線画像と監視画像の取得を同期させ、対象の絞り込みと発光面積の算出を並列あるいは連続処理するようにしているが、場合によっては、赤外線カメラで発熱部分を見つけ、その後、同一の光軸上の紫外線カメラに切り替えて実施形態の方法を実施するようにしてもよい。
次に、図20から図22に本発明の第三の実施形態を示す。
実際のがいしの点検作業は、地上から送電線上のがいしを撮影したり、ヘリコプターから送電線上のがいしを撮影するなど、様々な状況での点検が考えられる。つまり、がいしと撮像手段2との間の撮影距離は、その撮影環境によって異なるものであり、実際の点検作業において撮影距離を一定に保つことは困難である。ここで、監視画像における発光面積とは、監視画像における撮像画像中の発光部分の画素数であるので、撮像手段とがいしとの距離によって発光面積は変動することとなる。即ち、漏れ電流量が同じであっても、撮影距離が近づけば発光面積が大きくなり、撮影距離が離れれば発光面積が小さく撮像されることとなる。これを発光面積の距離依存性とする。
この発光面積の距離依存性は、実際のがいしの点検作業等において、がいしの位置と撮像手段2との距離が一定している場合(幾種類かの距離が存在している場合も含まれる)には、予め各距離に応じた漏れ電流と発光面積との関係を実験によって求めておけば良いが、想定外の距離となる場合には校正が必要となる。
このような発光面積の距離依存性を解消するための従来手法としては、対象物にマーカなどを付して、キャリブレーション処理をおこなうことで対象物との撮影距離の計測を行うことが一般的である。しかしながら、送電線上のがいしに対してマーカをその都度つけることは容易ではなく、監視するすべてのがいしにマーカをつけることは困難であるので、マーカによるキャリブレーション処理を行うことは実用的ではない。
そこで、本発明は、監視画像上にある共通の対象物を基準物体として設定し、撮影距離の異同による監視画像上での発光面積の違いを基準物体の拡大、縮小率を用いて求めることにより、距離依存性の解消をするようにしている。発光面積の距離依存性の確認と非依存化の手法について、図22に示す実験装置を用いて、カメラ2と支柱38上の試験体(がいし)39との距離を変えて発光面積をとらえた。この結果、図20に示すように、予め任意に設定した撮影距離(以下、基準距離ともいう)での基準画像34に撮像された物体のうちから任意に選択した物体(以下、基準物体)37の基準画像34上の面積と、監視画像35に撮像された基準物体37の監視画像35上の面積との面積比率から、拡大又は縮小比を求める。次に、監視画像上の発光面積に求めた比率をかけることにより、異なる撮影距離であっても基準物体の画像上の面積比を利用して、撮影距離の補正を行うこととしている。これにより、あらかじめ基準距離を測定して定めておき、基準距離で撮影した基準物体の面積を予め求めておけば、基準物体が撮影された画像であれば、撮影距離が不明であっても、撮影距離に起因する距離依存性を解消することができ、正しい漏れ電流値の推定を行うことができる。
なお、具体的には、発光面積とは抽出された監視画像の画素数であるので、基準距離での基準物体が占める画素数と、撮影された監視画像上での基準物体が占める画素数との比率(拡大、または縮小率)を求めて、撮影された監視画像上の発光面積を占める画素数に、上記求めた比率をかける処理を行うことによって、発光面積を補正するものである。
ここで、相対比を求めるための基準距離は、測距計などで予め計測しておくものとする。尚、基準距離に特に制限はなく基準物体が監視画像上で一定の画素数を占めていればよい。尚、基準物体は監視対象物の直近に在るもの、例えばがいしを監視対象とする本実施形態ではがいしの腕の部分などであるが、これに限るものではなく、画像上で特定可能な部分であればよい。即ち、がいし自体を基準物体とすることも可能である。実際のがいしの点検作業においては、がいしの側にとりつけられた避雷装置等の面積が求めやすい形状の物体を基準物体とすることが考えられる。また、長方形部分の面積とは、撮影画像における基準物体の面積のことであるが、基準物体の面積の形状は、画素数が計測可能であればよいので、その形状は長方形に限られるものではない。
以上により、共通の対象物から撮影距離による画像上での面積の違いを拡大・縮小率の倍率として求めることで、図21に示すように、実際の撮影距離に依存せずに漏れ電流量の推定を行うことが可能となった。これにより、がいしの点検作業において、撮影距離の測定をすることなく点検作業を行うことができるので、がいしにマーカなどをとりつける必要がなくなり、より効果的に点検作業を行うことが可能となるものである。尚、上述の共通の対象物から撮影距離による画像上での面積の違いを拡大・縮小率の倍率として求めるステップを実行する手段は、第一の実施形態と同様に、中央演算処理装置と前記装置などによって構成されるコンピュータと、このコンピュータに上述のステップを実行させるプログラム、更には機能させるプログラムによって構成されている。
次に、図23から図27に基づいて印加電圧への依存性を排除した第四の実施形態を示す。
上述の漏れ電流と発光面積との相関関係には、印加電圧の大きさが影響を与える。このため、送電系統などにおいて大きく印加電圧が異なる場合には、各印加電圧毎に漏れ電流と発光面積の相関関係を求めておくことが必要となる。即ち、監視画像上における発光面積が同じであっても、印加電圧に差異があれば、実際の漏れ電流値は異なる(このことを印加電圧依存性とする)。この点について本発明者等が実験を、研究をした結果、印加電圧の実効値に漏れ電流値を乗じた値を指標(本明細書においては発光面積広がり指標と呼ぶ)とすれば、図25に示すよにう1つの会期曲線で示すことができ、印加電圧の大きさに拘わらず発光面積から漏れ電流量を推定できることを知見するに至った。ここで、発光面積広がり指標は、電圧値に電流値を乗じて求めたエネルギー量であり、単位はW(ワット)で表される。
印加電圧毎の漏れ電流と発光面積との関係をシリコーンゴム試料片を用いて実験により求めた。図23は、前記試料片に対して印加電圧を6kVを加えた場合のグラフを示し、漏れ電流と発光面積の関係を示す回帰曲線(以下、第1漏れ電流推定曲線ともいう。)が得られた。また、図24は、前記試料片に対して印加電圧を10kVを加えた場合のグラフを示している。二つのグラフの発光面積を比べると、印加電界を10kVを加えた場合のグラフの方が、6kVを加えた場合に比べ、漏れ電流の増加に比例して発光面積が大きくなることが見てとれる。これは、同じ漏れ電流値の場合、印加電圧が大きいと、消費可能なエネルギーが増えるため、発光しやすくなったからであると考えられる。
図26並びに図27の測定結果から、漏れ電流に印加電圧の実効値をかけた発光面積広がり指標と発光面積との関係を示す回帰曲線(以下、第2漏れ電流推定曲線ともいう。)を求めた。この結果のグラフを図25に示す。図25のグラフから、発光面積広がり指標と発光面積は、異なる印加電圧値であっても同一の回帰曲線に近傍することがわかる。尚、本実施形態においては、印加電圧を、それぞれ6kVと10kVにした場合の計測結果より第2漏れ電流推定曲線回帰曲線を求めたが、基準となる計測結果はこれに限られるものではなく、任意に設定した一の印加電圧値での漏れ電流値と発光面積の計測結果から、発光面積広がり指標を求めても、計測結果は、同様に同一の回帰曲線に近傍する。つまり、発光面積で発光面積広がり指標を推定すれば、印加電圧によらず統一的に扱えることがわかる。これにより、印加電圧がわかれば漏れ電流の推定が可能であることがわかる。
本実施形態は、かかる知見に基づくものであって、印加電圧の実行値に漏れ電流値を乗じた値である発光面積広がり指標と、発光面積との関係を表す第2漏れ電流推定曲線を予め求めて記憶装置に記憶しておいたうえで、監視画像上で捉えられた発光面積から、第2漏れ電流推定曲線を用いて、発光面積広がり指標を推定するものである。さらに、推定された発光面積広がり指標を印加電圧の実行値で割ることにより、漏れ電流値を推定することができるものである。これにより、印加電圧が異なっていても、1つの第2漏れ電流推定曲線を予め求めておけば、漏れ電流値の推定を行うことができる。即ち、印加電圧依存性を解消することができる。
上述した印加電圧依存性の解消により、印加電圧に依存せずに、漏れ電流の推定を行うことが可能となる。即ち、これまでの実施形態では、印加電圧が異なるごとに第1漏れ電流推定曲線を求めなければならなかったが、本実施形態では、印加電圧が異なっていても一の回帰曲線(第2漏れ電流推定曲線)を求めておくことで印加電圧量に依らないで漏れ電流量の推定が可能となるものである。尚、上述の印加電圧の距離依存性を解消するステップを実行する手段は、第一の実施形態と同様に、中央演算処理装置と前記装置などによって構成されるコンピュータと、このコンピュータに上述のステップを実行させるプログラム、更には機能させるプログラムによって構成されている。
以上の第2並び第3の各実施形態は、監視対象物の撮影条件あるいは監視対象物に課される条件などによって、それぞれ第1の実施形態と同時に必要に応じて実施されることが好ましい。さらに、第4の実施形態は、印加電圧が変わる場合などには、第1の実施形態の漏れ電流推定手段・推定ステップに代えて、実施されることが好ましい。また、場合にはよっては、これらを連続的に実施すること、例えば図30に示す処理により、がいしにおいて生じる漏れ電流を推定することが好ましい。先ず、前処理として各入力項目、閾値の設定を行う(S101)。入力項目としては、がいしにかかる印加電圧値、基準物体の撮影画像上の面積と基準距離、予め求められた放電光の発光面積と漏れ電流値との相関関係、予め求められた発光面積広がり指標と発光面積との相関関係、基準画像の読み込み、閾値としては、予め設定された赤外線画像に対する閾値、予め設定された監視画像に対する閾値が、漏れ電流の推定装置の記憶装置に入力される。
次に、撮像手段2によりがいしの撮影が開始され、がいしを撮影した監視画像と赤外線画像を取得し、記憶装置に記録する。記憶装置に記録された赤外線画像は1画像ごとに読み出され(S102)、発熱部分が認められれば(S103−Yes)、同時に撮影された監視画像が読み出す処理(S104)を行う。赤外線画像に発熱部分がなければ(S103−No)、次の赤外線画像が読み出される(S102)。監視画像が読み出されたら、基準物体の画像上の面積との相対比により、撮影距離依存性の解消処理(S105)を行う。さらに、発光面積算定手段3により、読み出された監視画像の放電による発光部分の面積が算出される(S106)。
ステップ106で求められた発光面積から、ステップ101で入力された発光面積と発光面積広がり指標との関係式に基づいて、発光面積広がり指標を推定し(S107)、推定された発光面積広がり指標を印加電圧の実効値で割り漏れ電流値を推定する(S108)処理を行う。記憶装置に記録されたすべての撮影画像について上記の処理が行われると(S109;No)、処理は終了する。
なお、上述の実施形態は本発明の好適な実施の一例ではあるがこれに限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々変形実施可能である。例えば上述の実施形態では、監視画像中の放電による発光面積から漏れ電流値を推定するようにしたが、上記漏れ電流はがいしの汚損によって生じ、漏れ電流値が大きいほど汚損の度合も大きいと考えられることから、発光面積と汚損度合との相関関係を予め定めておき、当該相関関係に基づいて、監視画像中の放電による発光面積から、がいし表面の汚損の程度を判断するようにしても良い。特に、がいし表面の汚損物に含まれるナトリウムが炎色反応を起こすことによる発光面積は、がいし表面の汚損範囲と密接な関係があると考えられることから、上記ナトリウムの炎色反応による発光面積を監視画像から求めることで、がいし表面の汚損の程度を精度良く推定することができる。
また、本発明者等の実験によると、がいしの材料が変わると、発光面積と漏れ電流との関係も変わり、更には材料によっては計測結果にばらつきが生ずることがある。このことから、どのように材料に対しても高い精度で漏れ電流を推定することかは場合によっては困難なこともある。しかし、画像を使うメリットとして非接触で遠隔から計測できることであるから、漏れ電流を大雑把にでも見積もれることは設備の保守・点検上において非常に重要でかつ有用なことである。
(実施例1)
図7に示す回転輪浸漬試験装置を用いて、試料片19上で発生したアーク放電の発光面積と、当該アーク放電による漏れ電流とを測定し、当該発光面積と漏れ電流との関係を求めた。漏れ電流は0.1msec(ミリ秒)ごとに計測し、撮像手段2としての紫外線カメラからの画像の取込みは33msec(ミリ秒)ごと(即ち1秒あたり30フレーム)とした。漏れ電流の測定値と、撮像手段2から得られた監視画像との対応をとるため、NTP(Network Time Protocol)を利用し、LAN経由で両方の計測システムの時刻同期を行い、漏れ電流データと監視画像データとのそれぞれにデータ作成時間を表すタイプスタンプを付け、漏れ電流データと監視画像データとの対応をとった。
発光面積の算出は図12に示す処理により行った。放電の様子を撮影した画像から放電による発光部分を抽出するための閾値は15に設定した。計測開始直前の10秒間の画像を取得し、その画像群の平均的な画像を作成して、基準画像とした。電源23の課電圧は、3kVから10kVの間で変化させた。
撮像手段2としての紫外線カメラで撮影した各課電電圧での監視画像を図13に示す。図13中の(A)は課電圧3kVの場合の放電光を示し、(B)は課電圧4kVの場合の放電光を示し、(C)は課電圧6kVの場合の放電光を示し、(D)は課電圧8kVの場合の放電光を示し、(E)は課電圧10kVの場合の放電光を示す。図13から、課電電圧が大きくなるにつれて、アーク放電が激しくなっていくことがわかる。
図8に、実際に計測された漏れ電流とアーク放電の発光面積との関係を示す。図8に示す実測データに基づいて、数式1が成立することを仮定して、相関関係を示す回帰曲線を求めた結果を図9に示す。この結果、本実験における第1回帰曲線は、次式となった。
<数5>
I=1.8545*S0.68224
また、本実験における第2回帰曲線は、次式となった。
<数6>
I=0.75795*S0.91518
紫外線カメラ2の死角は試料19の全周囲の1/2なので、軸対象に一様に発光した場合、総発光面積は実測された発光面積の2倍となると考えられる。そこで、本実験における第3回帰曲線は、次式となると考えられる。
<数7>
I=0.75795(2*S)0.91518
従って、本実験での漏れ電流の推定については、漏れ電流の下限は数式6で表され、漏れ電流の上限は数式7で表されると考えられる。
以上のように、アーク放電の発光面積と、当該アーク放電による漏れ電流との間には、正の相関があることが確認された。従って、この相関関係(例えば数式5〜数式7に示す回帰関数)を予め求めておけば、放電光の発光面積Sを計測することで、漏れ電流値Iを推定することができる。
ここで本発明では、予め求めておいた放電時の発光面積と漏れ電流値との相関関係に基づいて、計測された放電時の発光面積から、漏れ電流値を推定するようにしている。これに対して、放電時の光強度を表す輝度値と、漏れ電流値との相関関係を予め求めておいて、計測された放電時の光強度を表す輝度値から、漏れ電流値を推定することも考えられる。本実験で計測された漏れ電流と監視画像上の輝度値との関係を図14に示す。本実験では、漏れ電流が流れ、発光が観察されると、画像上の輝度値が漏れ電流によらず約255となっており、輝度値(発光強度)では漏れ電流値を推定できるだけの分解能がないことがわかる。この点からも、放電時の発光面積からその時の漏れ電流値を推定することの有効性が確認できる。
(実施例2)
図16に示すように第一の実施例の監視画像を得る紫外線カメラと同じ光軸上に配置された赤外線カメラによって、赤外線画像と監視画像を同時に撮像し、漏れ電流変化に対応する発光面積の変化並びに発熱面積の変化について検討した。
図18に監視画像による発光面積と漏れ電流の関係を示すグラフを示す。紫外線カメラより得られた監視画像と、平常時すなわち非放電時のがいしの画像を示す予め用意された基準画像との2画像について、同じ座標位置における2画素の輝度値の差が予め設定された閾値以上となる画素数を算出し、算出された当該画素数を発光面積とした。
また、図17〜図19に示したグラフにおける発熱面積、発光面積は、グラフの変化を明確に捉えられるようにするため、それぞれ1/80倍にした表示とした。また、漏れ電流値は0.1msec(ミリ秒)ごとに計測し、異波長同時計測カメラからの画像の取込みは33msec(ミリ秒)ごと(1秒あたり30フレーム)とした。また、漏れ電流の測定値と、異波長同時計測カメラから得られた監視画像との対応をとるため、NTP(Network Time Protocol)を利用し、LAN経由で両方の計測システムの時刻同期を行い、漏れ電流データと監視画像データとのそれぞれにデータ作成時間を表すタイプスタンプを付け、漏れ電流データと監視画像データとの対応をとった。
また、発熱面積の算出は、赤外線カメラより得た赤外線画像の発熱部分を判断する閾値として、外気温+5度以上になった領域の画素数を算出し、算出された画素を発熱面積として抽出するようにした。この結果、赤外線画像は、いったん発熱面積が大きくなると発熱面積の変化がゆるやかであって、温度が上昇すると、しばらく温度が高い状態が続くことがわかった。また、紫外線画像は監視画像による発光面積の時間変化は、漏れ電流量の変動に伴って激しく変動していることが明らかとなった。
(実施例4)
第一に、印加電圧値に対する漏れ電流値の依存性を図るため、以下の実験を行った。図26に、印加電圧を6kVを加えた場合の漏れ電流と発光面積の関係を示す。この結果、本実験における第1漏れ電流推定曲線は、次式となった。
<数8>
S=244.98*I
また、図27に、印加電圧を10kVを加えた場合の漏れ電流と発光面積の関係を示す。この結果、本実験における第1漏れ電流推定曲線は、次式となった。
<数9>
S=554.8*I
なお、発光面積と漏れ電流値との間には、それぞれ高い相関関係が認められた(図26に示す第1漏れ電流推定曲線では、相関係数=0.80、図27に示す第1漏れ電流推定曲線では、相関係数=0.91)ため、第1漏れ電流推定曲線を示す回帰曲線を一次式で表しているが、累乗回帰により求めることもできる。尚、本実施例における回帰曲線には回帰直線も含むものとする。
以上より、がいしに対する印加電圧が大きく異なる場合には、第1漏れ電流推定曲線が異なることがわかった。即ち、印加電圧依存性があるので、各印加電圧毎に漏れ電流と発光面積の相関関係を求めておかなければならないことがわかった。
第二に、この印加電圧依存性を解消するため、印加電圧の実効値に漏れ電流値を乗じた値を指標(発光面積広がり指標)として求める実験をおこなった。
発光面積広がり指標(P)は、印加電圧の実効値(V/√2)に電流値(I)とを乗じた値であり、次式により求められる。
<数10>
P=V/√2*I
本実験では、図26に示した実験の結果求めた漏れ電流値に、印加電圧の実効値(6kV/√2)を乗じて発光面積広がり指標を求め、また、図27に示した実験の結果求めた漏れ電流値に、印加電圧の実効値(10kV/√2)を乗じて発光面積広がり指標を求めた。その結果から、発光面積広がり指標と発光面積の関係を(第2漏れ電流推定曲線)を求めた。その結果、発光面積広がり指標と発光面積は、異なる印加電圧値であっても同一の回帰曲線に近傍することがわかった。尚、本実験における第2漏れ電流推定曲線は、次式となった。Sは発光面積、Pは発光面積広がり指標を表す。
<数11>
S=71.3*P
発光面積広がり指標と発光面積との間には、高い相関関係(相関係数=0.88)が認められた(図28)ため、第2漏れ電流推定曲線を示す回帰曲線を一次式で表しているが、累乗回帰により以下のような式で求めることもできる。尚、Aは係数、kは指数である。
<数12>
S=A*Pk
この結果、印加電圧が異なっていても第2漏れ電流推定曲線を求めることにより、印加電圧量に依らないで漏れ電流量の推定が可能であることが明らかとなった。