JP4840846B2 - リン回収材及びその製造方法並びにリン回収材を用いた肥料 - Google Patents

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Description

本発明は有機性廃棄物である籾殻並びに天然素材である珪藻土にアルカリもしくは中性のカルシウム化合物を含浸または混合し、加熱処理することによって得られるリン回収材及びその製造方法並びにその肥料効果に関するものである。
近年、日本のみならず、湖沼及び河川並びにそれらが流出する近海において、富栄養化に伴うCODの増加が世界的に問題となっている。日本においてもこのような湖沼及び河川の汚染の問題が深刻化し、その問題を解決するための改善技術の開発が求められている。
前述の問題は、一原因と考えられるリン酸イオンを回収することによって、富栄養化及びCODの増加の阻止を目指すことが可能である。
この目的に適合する回収材は、人体及び環境に優しい天然素材の籾殻及び珪藻土を原料とし、エネルギーを外部からできるだけ加えずに製造されることが望まれる。すなわち、その合成プロセスも環境に配慮することが必要である。
また、本発明における回収材の回収性能は、他の共存イオンが存在している溶液中においてもリン酸イオンのみを選択的にかつ迅速に回収可能とすることが要求され、さらに一度回収したリン酸イオンを資源として有効利用することも必要である。これによって、湖沼及び河川だけでなく、化学・医薬・農薬などの工場から排出される廃液を浄化することが必要である。
従来、原水中に含有するリン酸イオンの除去剤として、鉄イオン含有水溶液でイオン交換及び又は担持させた鉄イオン処理材からなるリン酸イオン除去剤(例えば、特許文献1参照)が、また円筒形のカラムに高炉スラグを充填し、それを用いてリン酸イオンを吸着又は脱着させる技術(例えば特許文献2参照)が開示されている。
しかし、これらは効率が悪く、十分なリン酸イオンの除去ができていない、またはリン資源の再利用が難しいと考えられる。
一方、木質チップにカルシウムを担持することによって製造した陰イオン吸着材(例えば非特許文献1参照)は、フッ素及び硝酸イオンに対して高い吸着能を示すものの、リンを回収することはできていない。
特開平10−192845号公報 特開2002−326085号公報 第39回 日本水環境学会年会講演集 p596
本発明は、リンを含む河川・湖沼並びに排水中におけるリン酸イオンを選択的に回収可能であり、さらに一度回収したリンの資源化のみならず、リン回収材の主成分であるケイ酸成分の溶出濃度を増大させることによりケイ酸肥料としての有効利用をも可能にすることを課題とする。
本発明は、リンと親和性の高いカルシウムに着目し、有機性廃棄物である籾殻の有効利用、リンの資源化及びケイ酸成分の土壌還元を念頭に置き、新規な回収材の開発を目指した。本発明は、籾殻を原料とし、種々の方法でカルシウムを含浸させ、炭化処理することでカルシウムが籾殻に担持されたリン回収材の製造を行い、この回収材を用いることによりリン酸イオンを選択的に回収可能であるという知見を得た。また、この製造方法は、有機成分が10 w%以下の珪藻土にも応用可能であるという知見も得た。
本発明は、この知見に基づき、
1)籾殻を原料として製造し、任意の重量比で籾殻にカルシウムを担持した炭化物からなることを特徴とするリン回収材、2)籾殻の外部表面にカルシウムを担持した炭化物からなることを特徴とする1記載のリン回収材、3)籾殻の外部表面のみならず内部表面にカルシウムを担持した炭化物からなることを特徴とする1,3のいずれかに記載のリン回収材、4)カルシウムと籾殻の比を任意に変えることによって、リン酸イオンの吸着容量を増大させることができることを特徴とする1〜3のいずれかに記載のリン回収材、5)籾殻の外部表面のみならず内部表面にカルシウムを担持することによって、リンの回収安定性を向上させる事を特徴とする1,3のいずれかに記載のリン回収材、6)天然素材であり、有機成分が10 w%以下の珪藻土を原料として製造し、任意の重量比で珪藻土にカルシウムを担持させる事を特徴とするリン回収材、を提供する。
本発明は、また
6)水酸化カルシウムの粉末を水に分散させた懸濁液に籾殻を含浸させ、乳棒等で外力をかけながら数時間静置した後、650〜800℃で所定時間、炭化させて製造することを特徴とする1〜2記載の回収材の製造方法、7)水酸化カルシウムの懸濁溶液を酸で溶解し、pHを6〜7に調節することによって得られた溶液に、籾殻を数時間含浸後、炭化することによって得られる1,3のいずれかに記載の回収材の製造方法、8)珪藻土と水酸化カルシウム粉末を混合後、600〜750℃で所定時間、炭化することを特徴とする7記載のリン回収材の製造方法、を提供する。
本発明は、さらに
8〜10のいずれかに記載の製造方法により、1〜7のいずれかに記載のリン回収材中における、ケイ酸溶出能力の飛躍的な向上という特徴を備えた請求項1〜7のいずれかに記載のリン回収材の肥料効果、を提供する。
本発明の回収材は、人体及び環境に優しい天然素材を出発物質とし、エネルギーを外部からできるだけ加えずに製造が可能であった。すなわち、その製造プロセスも環境に配慮したものである。本発明における回収材の回収性能は、他の共存イオンが存在している溶液中においてもリン酸イオンのみを選択的に回収可能であり、さらに一度回収したリンを土壌に肥料として還元した際にはケイ酸肥料としての効果も発揮することが可能である。この発明により、湖沼及び河川の浄化のみならず、籾殻を適正処理し、減量化することによって、いわゆる籾殻焼きを減らすことが可能となり、良好な大気環境維持にも貢献可能である。
本発明の籾殻を原料とし、カルシウムを担持した回収材及び珪藻土を原料とし、カルシウムを担持した回収材の具体的な製造方法について述べる。
(種々のカルシウム添加方法による回収材の製造方法)
(1)カルシウム懸濁含浸法
籾殻と水酸化カルシウムを所定の重量比になるように計量した後、イオン交換水が数十ml入ったビーカーに、量り取った水酸化カルシウムを入れ攪拌した。攪拌は、大気中の炭酸イオンをできるだけ取り込まないように蓋をして行った。このようにして得られた、水酸化カルシウムの懸濁液を、乳鉢中で籾殻に乳棒で圧力をかけながら混合することによって、籾殻内部に懸濁液をしみこませる。このとき、籾殻を粉砕しないように注意し、約1〜6時間含浸した。
含浸後の籾殻をフタ付きのるつぼに入れ、所定の温度で60分間加熱した後、室温まで冷却して得られた回収材をMECa(OH)2/籾殻の重量比 [炭化温度]と表記する。(表記例ME1/10[650] 特別な場合を除き、以下表記例に従い記述する。)
(2)カルシウム中和含浸法
籾殻と水酸化カルシウムを所定の重量比になるように計量した後、量り取った水酸化カルシウムをイオン交換水30 ml入ったビーカーに入れ攪拌する。この懸濁液に硝酸を添加し、溶液が透明になるように調整した。この時のpHは2〜4である。この溶液に水酸化ナトリウムを添加し、pHを6〜7に調整した。このようにして得られたカルシウム溶液を、乳鉢中で籾殻に乳棒で圧力をかけながら混合し(籾殻を粉砕しないように注意する)、溶液を籾殻内部に約1〜3時間含浸させた。含浸後の籾殻をフタ付きのるつぼに入れ、所定の温度で60分間加熱した後、室温まで冷却して得られた回収材をMN重量比Ca(OH)2/籾殻[炭化温度]と表記する。(表記例MN1/10[650] 特別な場合を除き、以下表記例に従い記述する。)
(3)水酸化カルシウム混合法
前述した(1)、(2)の製造方法が有機成分を含む珪藻土にも応用可能であるかを確かめるために、-42+65 meshに粉砕篩い分けしてある珪藻土と水酸化カルシウムの粉末を所定の重量比で混合し、フタ付きのるつぼに入れ、温度600〜750℃で60 分間炭化した後、室温まで冷却し得られた回収材をKM[炭化温度]と表記する。炭化時間が60分以外の場合のみ、炭化温度の次に時間を表記する(表記例KM[炭化温度]3h)。
なお、籾殻及び珪藻土を原料としたリン回収材の製造に際し、原料素材の有機成分含有量、含浸時間、イオン交換水の量、炭化温度、加熱時間は任意に選択し、設定できるものであり、上記に述べた数値に限定されるものではない。
(吸着材の特性評価)
調製した回収材の特性評価を行うための解析を行った。その詳細を以下に述べる。
(形状観察及び元素分析)
製造した回収材の形状観察及び元素分析を電子プローブマイクロアナライザー(EPMA:日本電子製JXA-8200)を用い、加速電圧20kV、照射電流2.0×10-8Aの条件で行った。
(カルシウムを担持した回収材の可溶性ケイ酸の溶出及び定量)
可溶性ケイ酸の溶出及び定量は、第二改訂 詳解肥料分析法 P139〜141(越野 正義 編著、株式会社養賢堂)に従い行った。回収材1 gを0.5 Mの塩酸溶液を用い30℃で1時間振とうすることによりケイ酸を溶出させた。溶出した可溶性ケイ酸の濃度は、分光光度計(日立製作所 Spectrophotometer U-2000)を用いて定量した。
(1)製造した回収材によるリン酸イオンの回収(吸着)試験
製造した吸着材を用いて、リン回収試験を回分式で行った。その詳細を以下に述べる。
リン酸二水素カリウム(関東化学株式会社製、試薬特級)を所定量秤量し、ミリQ水で溶解させた後、所定濃度にメスアップし、リン酸溶液を調整した。
調整したリン酸イオン溶液500 mlに、製造した回収材0.5 gを投入し、マグネティックスターラーを用いて攪拌した。所定時間ごとに溶液を1 ml採取し、ミリQ水で10倍希釈することにより、全量を10 mlとした。
(2)リンの定量
(1)で得られた試料溶液中のリン濃度は、分光光度計を用いて定量した。
(3)リン回収後の回収材のリン溶出試験
本発明で製造した回収材がリンを回収した後、肥料としての利用可能性を調べるために、クエン酸可溶性リン酸(ク溶性リン)を定量した。
ク溶性試験を行った回収材は、300 mg/lのリン酸溶液3 lから、本発明で製造したMN1/10[650]を3 gを投入し、70時間リン回収を行ったものをろ過、風乾したのもを使用した。溶出試験及び溶出したリンの定量は、第二改訂 詳解肥料分析法(越野 正義 編著、株式会社養賢堂)ク溶性リンの溶出方法(P101〜102)に従い溶出を行った。以下に手順を記述する。吸着材1 gをクエン酸溶液で30℃、1時間振とう処理した溶出液を作成した。この溶出液をバナドモリブデン酸アンモニウム法(詳解肥料分析法P108〜111)によるリン酸の測定方法に従い、分光光度計を用いて定量した。
(4)リン酸イオンの選択的回収
塩化物イオン、硝酸イオン、硫酸イオンが共存している溶液からのリン酸イオンの選択的回収挙動を調べた。その方法を以下に示す。
リン酸二水素カリウム(関東化学株式会社製、試薬特級)、塩化ナトリウム(ナカライテスク株式会社製、試薬特級)、硝酸カリウム(ナカライテスク株式会社製、試薬特級)、硫酸ナトリウム(無水)(和光純薬工業株式会社製、試薬特級)を所定量秤量し、ミリQ水で溶解させた後、それぞれのアニオン濃度が50 mg/lの濃度になるように調整した。このアニオン共存溶液500 mlに、製造した回収材0.5 gを投入し、マグネティックスターラーを用いて攪拌した。所定時間ごとに溶液を1 ml採取し、ミリQ水で10倍希釈することにより、全量を10 mlとした。得られた分析試料をイオンクロマトグラフィー(日本ダイオネクス(株)製、イオンクロマトグラフィー DX-100)及び分光光度計を用い定量した。
(結果及び考察)
(表面形状観察及び元素分析)
異なる製造処理を行った回収材表面の画像及びカルシウムの担持状態を観察した結果及びこれら結果と比較するためにカルシウムを担持せず、籾殻を650℃で1時間、炭化処理して得られた試料(特別な場合を除き、以降MC[650]を使用する。)を図1〜4に示す。
回収材の表面はすべての試料に共通して凹凸があり、製造処理の違いによる大きな差は見られなかった。元素分析は画像観察した範囲のカルシウムについて行った。MC[650](図1b)とME1/10[650](図2b)を比較すると、MC[650]では、ほとんどカルシウムは検出されていなかったが、ME1/10[650]では、籾殻表面に縞状または斑模様にカルシウムが白く観測されていた(図2b)。このことから、籾殻を水酸化カルシウム懸濁液に含浸後、炭化処理することによって、吸着材表面にカルシウムを担持したことが理解できる。
ME1/10[650]と同じカルシウムと籾殻の比で製造したMN1/10[650](図3b, d)の表面にはほとんどカルシウムが観測されていなかった。しかしながら、籾殻の割れた内部の画像(図3a)や画像(図3c)の破断面にカルシウムが検出された。この結果は、カルシウム懸濁溶液を溶解後、中和処理した水酸化カルシウム溶液が籾殻内部まで含浸したことによって、外表面ではなく内部表面にカルシウムが担持されたことを意味している。
一方、MN2/5 [650](図4a, b)の分析結果では、写真上部の籾殻破断面にカルシウムが白く観測されていたが(図4b)、写真中央部(図4a)の籾殻外表面にもカルシウムが観測されていた(図4b)。つまり、この試料では含浸したカルシウム量が多いため、籾殻内部で飽和したカルシウムが籾殻外部までしみ出すことによって、内部表面だけでなく外部表面にも担持することが可能となったと考えられる。
(種々の製造方法によって製造された回収材のリン回収特性)
未処理の籾殻及びMC[650]を用いて、リン酸イオン濃度50 mg/lの溶液500 mlからリン回収試験を行った結果を図5に示す。
リン酸イオンはどちらの回収材を用いても回収することはできなかった。これらの試料の比表面積は、籾殻では2.3 m2/gであったものが、炭化処理した試料MC[650]では約100倍の211 m2/gに増加していた。しかしながら、この比表面積の増加が、リン回収の能力に直接結びついてはいなかった。つまり、リン酸イオンというイオン体を回収するためには、単に回収材の表面積を増加させるだけでは、回収が困難であることが理解できる。
懸濁したカルシウム溶液に含浸処理したME1/10[650] 及びME2/5[650]を用い、リン酸イオン濃度50 mg/lの溶液500 mlからのリン回収試験結果を図6に示す。
それぞれの回収材が回収時間の経過と共にリンを回収していた。360分後のリン酸イオンの濃度はME1/10[650]で31 mg/l、ME2/5[650]で5.0 mg/lまで減少していた。ME2/5[650]の1380分後のリン酸イオン濃度は約4.6 mg/lであったことから、回収時間360分付近で回収量がほぼ飽和に達していると考えられた。一方、ME1/10[650]では、360分で吸着飽和に達したと考えられたが、1320分後のリン酸濃度は再び上昇していた。つまり、一度回収されたリンが再び溶出したことが理解できる。
先に述べたように、籾殻及びMC[650]によるリン回収試験では、まったくリン酸イオンを回収することができなかったが、カルシウムを担持したことによって、リン回収能力の発現が認められた。ME1/10[650]と比較してME2/5[650]のリン回収速度と吸着容量が大きい理由は、カルシウムと籾殻の比、つまりカルシウム添加量に依存していると考えられ、さらに回収時間が長時間に及ぶ場合では回収安定性にも寄与していることが明らかとなった。
中和含浸法によって製造したMN1/10[650]を用いたリン回収試験結果について前述のME1/10[650] による結果と比較して図7に示す。
それぞれの回収材が時間経過と共にリンを回収し、回収時間120分まで、ほぼ同様の回収挙動を示していた。ME1/10[650]は回収時間180〜360分においても、ほぼ直線的にリン酸イオン濃度が減少しているのに対し、MN1/10[650]は緩やかな減少曲線を示した。その後もMN1/10[650]はリンを回収し続け、約24時間後の回収量は、初濃度の70〜80%のリン酸イオンを回収し、ME1/10[650]と比較して約2倍の吸着容量であった。また、ME1/10[650]で見られたリンの再溶出もMN1/10[650]では見られず、回収安定性も向上していた。
回収時間180〜360分においてMN1/10[650]がME1/10[650]と比較して緩やかな減少挙動である理由は、外部表面に担持されているカルシウムの割合がME1/10[650]と比較して少ないため、回収速度の低下を引き起こしていると考えられる。しかしながら、約24時間後のMN1/10[650]のリン回収量はME1/10[650]の2倍となり、回収材の外部表面のみならず内部表面のカルシウムが有効にリン酸イオンの回収に用いられたことによると考えられる。つまり、MN1/10[650]の製造過程で、水酸化カルシウムの懸濁溶液を中和処理し、懸濁物質を溶解させ、その溶液を籾殻内部まで含浸させたことによる効果であると考えることができる。
(リン酸イオン選択的回収能力)
共存アニオン中のリン酸イオンの選択的回収試験結果を図8に示す。ここでは、例としてMN1/10[650]を用いた試験結果を示す。
共存アニオンであるCl-、NO3 -、SO4 2-については、回収前後における濃度変化がほとんどない結果が得られた。一方、リン酸イオンについては、回収時間24時間で、初期濃度の約85 %を回収していたことから、リン酸イオンのみを選択的に回収可能であることが理解できる。
上記の共存アニオンを含む場合のリン酸イオンの吸着挙動とリン酸イオン単独の溶液における吸着挙動を比較した結果を図9に示す。
リン酸イオンの濃度は、どちらの溶液についても回収時間と共に減少していた。回収時間0〜240分までの回収挙動については、両者にほとんど違いは見られなかったが、共存アニオンを含む溶液における回収時間1140分のリン酸イオンの濃度は8.5 mg/lまで減少しており、リン酸イオン単独の溶液における1740分後の濃度11.9 mg/lよりも回収量が上回っていた。
これらの結果から、MN1/10[650]は、共存アニオンが存在する溶液中においても、リン酸イオンを選択的に回収し、さらに長時間の回収では共存アニオンの存在に左右されず、リン酸イオン単独の場合よりも回収量が上回る性能をもつことが確認された。
(カルシウムの担持を珪藻土へ応用した回収材によるリン回収試験結果)
珪藻土を担体とし、カルシウムを担持した例としてKM3/7[600]を用い、リン回収試験を行った結果を図10に示す。比較のために珪藻土を650℃で3時間炭化処理し、得られた試料(特別な場合を除き、以下KC[600]3hを使用する)を用いた結果も示す。リン回収試験は、製造した回収材0.5gを50 mg/lのリン酸イオン溶液500 mlに分散させ、回分式で行った。KC[600]3hを用いたリン回収試験では、回収時間が経過してもリン酸イオンは全く回収されていなかった。
一方、カルシウムを担持したKM3/7[600]では、回収材投入から約5分でリン全量の約98%を回収していた。これらの結果は、珪藻土のような有機成分が10 w%以下の素材についても、本発明で提案している製造方法が適用可能であること及びカルシウムの担持が有効的に働くことによって、リンを迅速に回収できることを示している。つまり、本発明で提案している製造方法は、有機成分を含む素材であれば、ほぼすべての物質に応用可能であることを示唆している。
(ケイ酸溶出試験結果)
籾殻を担体とし、カルシウム担持の処理方法が異なる回収材のケイ酸溶出試験結果について例として表1に示した。
はじめに、籾殻にカルシウムを含浸させる処理方法の違いがケイ酸溶出特性に及ぼす効果について述べる。比較のために、未処理の籾殻及び籾殻を650℃で1時間、炭化処理したMC[650]のケイ酸溶出試験結果についても記述する。
未処理の籾殻及びMC[650]のケイ酸溶出濃度は、それぞれ0.7、1.1 mg/lであった。
懸濁含浸法により製造したME1/10[650]のケイ酸溶出濃度は、9.0 mg/lとなり、籾殻及びMC[650]と比較してケイ酸の溶出濃度が約9倍増加していた。同製造方法で、炭化温度を変化させて製造したME1/10[730] 及びME1/10[800]では、それぞれ51、71 mg/lの溶出濃度を示し、炭化温度の上昇に伴ってケイ酸の溶出が促進される結果が得られた。
中和含浸法により製造したMN1/10[650]及びMN1/20[650] では、ME1/10[650]と比較して約3倍の25〜26 mg/lの溶出濃度であったことから、カルシウムを籾殻内部まで含浸することによって、ケイ酸の溶出が促進されたと考えられる。次に、これらの回収材と同様の製造方法であるが、カルシウムと籾殻の比を大きくすることによるケイ酸溶出の効果を述べる。前述したようにMN1/10[650]のケイ酸溶出試験結果は25 mg/l であったが、カルシウムと籾殻の比を2:5で製造したME2/5[650]では、200 mg/lとケイ酸の溶出が飛躍的に促進されていた。
珪藻土を担体とし、カルシウム担持した回収材のケイ酸溶出試験結果の例を表2に示した。比較のために珪藻土を600℃で1時間、炭化処理した試料KC[600](特別な場合を除き、以下KC[600]を使用する)のケイ酸溶出試験結果についても記述する。
KC[600]のケイ酸溶出濃度は、3.9 mg/lであったが、水酸化カルシウム粉末を混合し、炭化処理したKM3/7[600]では80 mg/lとなり、ケイ酸の溶出濃度が増加していた。
一方、同一のカルシウムと珪藻土の比で炭化処理を750℃に上昇させて製造したKM3/7[750]では、ケイ酸溶出濃度が14 mg/lとなり、KM3/7[600]と比較して大きく減少していた。750℃では珪藻土中のケイ酸成分の一部がガラス化し、溶出しにくい状態になっていると考えられることから、ケイ酸の溶出濃度が低下したと理解できる。
以上の結果から、籾殻への水酸化カルシウム溶液の含浸処理方法を変化させること、炭化温度を変化させること及び籾殻とカルシウムの比を変化させることによって、ケイ酸肥料として求められる性能(例えば、即効性、緩行性、遅効性等)に応じた材料設計が可能になり、ケイ酸肥料としての効果を増大させることができる。さらに、珪藻土を担体として用いた場合においても、本発明で提案した製造方法により、適切な温度範囲においてカルシウム担持をするによって、ケイ酸溶出を促進させることが可能であった。
(リン回収後の回収材のリン溶出試験結果)
例として、MN1/10[650]を用いたリン回収試験及びリン溶出試験の結果を表3に示す。MN1/10[650]は回収材投入から70時間で、回収材1g当たり75 mgのリン酸を回収していた。この試料をクエン酸溶液250 mlで溶出したところ、回収したリン酸を全量溶出していたことから、本発明で製造した回収材のリン回収後におけるリン肥料としての効果も示すことができた。
本発明の回収材は、人体及び環境に優しい天然素材の籾殻及び珪藻土を原料とし、エネルギーを外部からできるだけ加えずに、比較的低温で製造することが可能である。
すなわち、その合成プロセスも環境に配慮したものである。また、本発明における回収材の回収性能は、他の共存イオンが存在している溶液中においてもリン酸イオンのみを選択的にかつ迅速に回収することが可能であり、さらに一度回収したリンの資源化のみならず、リン回収材の主成分であるケイ酸成分の溶出濃度を増大させることによりケイ酸肥料としての有効利用をも可能にした。
本発明で提案している製造方法は、有機成分が10 w%以下の珪藻土にも応用可能であることから、有機成分を含む素材であれば、ほぼすべての物質に応用可能であることを示唆している。
本発明は、湖沼及び河川だけでなく、化学・医薬・農薬などの種々の業種における汚染の問題解決に有効であり、産業の振興に貢献できる。さらには、有機性廃棄物の適正処理と減量化の問題に対しても有効性を見いだすことができ、良好な大気環境の維持はもとより、健康で安心な暮らしの提供にも貢献できる。
籾殻を650℃で1時間、炭化処理して得られたMC[650]の表面画像を示す図である。 図1aの画像範囲におけるカルシウム分析結果を示す図である。 カルシウム懸濁含浸法により製造したME1/10[650]の表面画像を示す図である。 図2aの画像範囲におけるカルシウム分析結果を示す図である。 カルシウム中和含浸法により製造したMN1/10[650] の表面画像を示す図である。 図3aの画像範囲におけるカルシウム分析結果を示す図である。 カルシウム中和含浸法により製造したMN1/10[650] の表面画像を示す図である。 図3cの画像範囲におけるカルシウム分析結果を示す図である。 カルシウム中和含浸法により製造したMN2/5[650]の表面画像を示す図である。 図4aの画像範囲におけるカルシウム分析結果を示す図である。 未処理の籾殻と籾殻を650℃で1時間、炭化処理して得られたMC[650]を用いたリン回収試験において、回収時間に対するリン酸イオンの回収量の変化を示す図である。 カルシウム懸濁含浸法により製造したME1/10[650]とME2/5[650] を用いたリン回収試験において、カルシウム担持量がリン酸イオンの回収に及ぼす効果を示す図である。 製造方法の異なるME1/10[650]とMN1/10[650] を用い、リン回収挙動を比較した図である。 塩化物イオン、硝酸イオン、硫酸イオンが共存している溶液からのリン酸イオンの選択的回収能力を示す図である。 塩化物イオン、硝酸イオン、硫酸イオンが共存している溶液とリン酸イオン単独の溶液のリン回収挙動を比較した図である。 KM[650]3hとKM3/7[600]を用いたリン回収試験において、カルシウムを担持することによるリン回収効果を示す図である。

Claims (9)

  1. 水酸化カルシウムを懸濁させた水溶液に酸を添加して、水酸化カルシウムを溶解させた後、pHを6〜7に調節することによって得られた溶液に籾殻を入れ、攪拌混合して該籾殻に水酸化カルシウムを含浸させ、さらに該籾殻を加熱炭化することによって得たカルシウムを担持した炭化籾殻からなるリン回収材。
  2. 籾殻の外部表面又は外部表面と内部表面にカルシウムを担持した炭化籾殻からなることを特徴とする請求項1に記載のリン回収材。
  3. リン酸イオン、硝酸イオン、硫酸イオン、塩化物イオンを含有する溶液中において、リン酸イオンの選択的回収能力を備えていることを特徴とする請求項1又は2記載のリン回収材。
  4. カルシウムと籾殻の比を変えることにより、リン酸イオンの吸着量を変化させることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載のリン回収材。
  5. 請求項1〜4のいずれか一項に記載のリン回収材を、リン回収後にリン肥料及び又はケイ酸肥料として使用することを特徴とするリン回収材を用いた肥料。
  6. リン回収前のカルシウムを担持した炭化籾殻をケイ酸肥料として使用することを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載のリン回収材を用いた肥料。
  7. 水酸化カルシウムを懸濁させた水溶液に酸を添加して、水酸化カルシウムを溶解させる工程、前記工程により得られた溶液のpHを6〜7に調節する工程、前記pHを調整した溶液に籾殻を入れ、攪拌混合して該籾殻に水酸化カルシウムを含浸させる工程、さらに該籾殻を加熱炭化してカルシウムを担持した炭化籾殻を得る工程からなることを特徴とする炭化籾殻からなるリン回収材の製造方法。
  8. 水酸化カルシウムを懸濁させた水溶液に硝酸を添加することを特徴とする請求項7記載のリン回収材の製造方法。
  9. 籾殻を600〜750℃で、1〜3時間加熱し、炭化させることを特徴とする請求項7又は8記載のリン回収材の製造方法。
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